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獣人世界大戦⑯〜総統閣下は逃亡したようです

作者：聖山　葵

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「やあ、同胞。獣人戦線の世界ではまだ獣人世界大戦が続いているんだけどね」
　そうヴォルフガング・ケーニヒバウム（オオカミの戦闘猟兵・f39969）が前置きしたということは、今回もこれに関連した話なのだろう。
「実は猟兵との戦いで形勢不利を悟った幼女総統『ギガンティック』がウラル山脈を越えたシベリア内陸部へ逃走しようとしているようなんだ」
　何とも微妙そうな表情をしてヴォルフガングが明かしたのは彼もオオカミ、つまりゾルダートグラードの支配域の出身だからなのだろう。
「まぁ、個人的な感傷はこの際どうでもいいとして……彼女の手勢にもはや『はじまりの猟兵』を狙う余力はなさそうだからね、放置しても戦争の趨勢に影響はないかもしれないとは思う、それでもね」
　相手は世界を侵略する超大国のうち一つの国の総統なのだ。獣人戦線の世界のことを鑑みればこの機会に討ち取っておくべきかもしれない。
「現在、ギガンティックは山岳・河川・市街地などなどあらゆる地形を踏み壊しながらとにもかくにも一直線に逃走を続けようとしている」
　追撃を仕掛けるなら、身長数百メートルに達する彼女の巨大な歩幅に対応する必要がある。
「できれば周辺地域の破壊も極力抑えられるようにしてもらえるとありがたいね。あちらさんはそのあたり頓着ないようだけど」
　そこに暮らしている人々からしたらたまったものではない。
「周辺地域に住んでいる人たちの為にもね」
　よろしく頼むよとウォルフガングは君たちを送り出すのだった。

第1章 ボス戦 『幼女総統「ギガンティック」』

POW   :    幼女キーック！！！！ 単純で重い【幼女キック】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。 SPD   :    超超巨大ビィーム！！！！ 【超超巨大砲『シュリヒトゲヴェーア』】から、レベル×5mの直線上に【超超巨大ビーム】を放出する。【魔力】を消費し続ければ、放出を持続可能。 WIZ   :    斯様な結末、吾輩は断じて認めない！！！！ 全身に【終焉を巻き戻す「エンドテイカーの魔力」】を帯び、戦場内全ての敵の行動を【巻き戻されてゆく時間の流れ】で妨害可能になる。成功するとダメージと移動阻止。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「さて、追撃ですねぇ」
　眺める夢ヶ枝・るこる（豊饒の使徒・夢・f10980）の視線の先にその姿があったのは、幼女総統「ギガンティック」の大きさからすれば無理もないことではあった、ただ。
「随分大きい相手なんだよ」
「結構な大きさです」
「確かに大きいでぇす。この世界だと、食料とか住処とかが大変そうでぇす」
　あちらが巨体であればこちらは数か。鞠丘・麻陽（豊饒の使徒・陽・f13598）と鞠丘・月麻（豊饒の使徒・月・f13599）そしてリュニエ・グラトネリーア（豊饒の使徒・饗・f36929）が口々に大きいと言いここまでで四名。
「凄い相手ではあるけれど、やれることをやるだけよ」
　三人が言及する圧倒的な巨大さに一切同様の色は見せず華表・愛彩（豊饒の使徒・華・f39249）は言い放ち。
「偶にしか前線に出ない割に、会うのは凄い相手が多いねぇ」
　一方でギガンティックの巨体を眺めポツリ漏らす甘露島・てこの（豊饒の使徒・甘・f24503）もここまでの五人同様に【豊饒の使徒】が一人。
「荒事に出るは久方ぶりに御座いますね」
「普段、最前線はるこるさんに任せっぱなしですものね」
　そうして何人かが標的の存在に意識を持っていかれている中、豊雛院・叶葉（豊饒の使徒・叶・f05905）の言葉に同意するよう頷くのは、艶守・娃羽（豊饒の使徒・娃・f22781）。
「参りましょう」
　とるこるが促し。
「ええ。大変そうですが、やってみますね」
「やってみるんだよ」
「それじゃ、やってみようかぁ」
「出来る限りは致しましょうや」
　いくつもの声が応じるのに混じり、絢潟・瑶暖（豊饒の使徒・瑶・f36018）も口を開く。
「久しぶりの実戦の機会、頑張ってみますの」
　戦いは久しぶりだというのは瑶暖だけではない、だがいきなり猟兵が九人である。
「きゅ、九人？！」
　幼女総統「ギガンティック」が形勢不利を悟ったのは猟兵らとの戦いを経てなのだ。自身に撤退を決断させた者たちがまとまった数で現れればギガンティックが表情を引きつらせても何ら不思議はない。
「大いなる豊饒の女神様、貴女の使徒に神域の導をお授け下さい」
　最初にまず愛彩が祈りをささげ、召喚した豊を仲間たちへと宿らせ。
「こんなところかしら。るこるさん、移動と防御はお願いするわ」
「お願いしますわね」
「お願いするでぇす」
　愛彩らからの要請にるこるがわかりましたと応じる。
「人手も多いですし、ここは私が『移動』と『守り』を担当しますねぇ。大いなる豊饒の女神の象徴せし欠片、その衣を纏いて典礼を捧げましょう」
　浮遊する16枚の札FLSを用いて祭器の数々を召喚すれば、祈りを捧げて祭器の衣を纏った姿へと変わると形成された防御結界は【豊饒の使徒】の全員を包み空へ持ち上げ。
「了解なんだよ」
　るこるの宣言に応じたのは、麻陽。
「『守り』と『移動』は夢ヶ枝様が対応して下さいます故、最小限で宜しゅう御座いますね」
　実際にるこるが自分たちを運び始める様子を目の当たりにし、なればと叶葉は美と豊饒の女神の聖句が書かれた霊符を取り出し、これをもって防御結界を強化する。
「神祇の祓可寿可寿を平けく康らけく聞食て　願う所感応納受なし給へと」
　その上で祈りを捧げれば、空から光の矢を降らせ。
「撃って来た？！　うぐ、現れた時点でわかってはいたが吾輩を逃がすつもりなど毛頭ないか」
　巨体からなる歩幅の広さによってかなりの速度で逃げているギガンティックだったが、流石に光速には叶わない。自身を追い越した光の矢によっていっそう拙い事態になりつつあるとは悟り。
「総統さんの逃走経路、割り出せました。このまましばらく進むとやや右手前方に市街地があります」
　コンピュータが組込まれた片眼鏡型のバイザーX-E越しにそんなギガンティックを見つめる月麻は仲間たちへ告げた。
「だったら、こうなんだよ！　大いなる豊饒の女神、《楽園の地》より紅鏡へと、その火矢をお与え下さい」
　麻陽の召喚した640にもなる騎槍が右側に偏るように集まりつつ炎を噴出しながら突っ込んでいったのはこの直後。
「大いなる豊饒の女神様、貴女の使徒を輝ける雷玉の裡へとお導き下さい」
　瑶暖も祈りをささげることで全身を雷結界の球で包み、浮遊しつつその表面から雷撃の槍を射出する。
「ま、またか！」
　慌ててギガンティックはまず騎槍群を躱す為に進路を逸らし。
「ぐわぁぁああ？！」
　にもかかわらず自動で標的を追跡する騎槍はギガンティックへと命中した。
「ごふっ」
　追い打ちをかけるように雷撃の槍がたたらを踏んだギガンティックへ突き刺さり。
「加勢しまぁす」
　更にリュニエは銀色の宝玉アサルトオーブをライフルに変えると銃弾を放つ。
「ぐっ……ええい、これではらちが明かん！」
　追加で銃撃までされ、流石に逃げているだけでは一方的に狙われるだけだと思ったのであろう。ここに来てようやくギガンティックは反撃に出んとするも。
「大いなる豊饒の女神、《楽園の地》より水鏡へと、その宝珠をお与え下さい」
　月麻は月を象る超硬度の珠を創造して空に浮かべる。珠はただ神域を映し出しながら【豊饒の使徒】の面々に力を与え。
「万が一の備えは必要ですわね」
　浮遊状態にある20枚の札力盾の札を操作、エネルギーの盾を展開し瑶暖が防御結界を堅牢にすれば。
「ここは私も御協力させて頂きますわ」
　娃羽が『豊乳女神』の加護による魅力を引き出す圧倒的なオーラアバンダンスオーラを防御結界に重ねるように積層させて守りを固めると、その視線をギガンティックの足元へとやる。
「大いなる豊饒の女神の使徒の名の元に、女神の加護を受けし人形達よ、その力を携え此処に集いなさい」
　召喚されるは、多数の埴輪兵らによる兵団だ。しかも120を超す師団規模ともなれば流石にギガンテックも無視を決め込むわけにはいかなかった。
「何だというのだ、この数は？！　ええい！」
　腕を振るって埴輪兵の一部を薙ぎ払い、百数十単位の埴輪兵を蹴り飛ばす。安易にユーベルコードを用いて時間を巻き戻してこないのはこれ以上に致命的な事態に備えての温存か、ただ。
「もう一手追加しておこうかぁ。大いなる豊饒の女神様、貴女の僕に解放されし肉体をお与え下さい」
　使うのであればこの時点で使っておくべきだったのだろう。てこのが宝玉型祭器を召喚した直後に【豊饒の使徒】の面々は巨大化し。
「かっ、斯様な……斯様な結末、吾輩は断じて認めない！！！！」
　ただでさえ多い追手が体格差を縮めてきたのを見てとうとうギガンテックは全身へエンドテイカーの魔力を帯びるに至るが。
「な」
「『エンドテイカー能力』も『魔女の能力』だから『無敵化』の対象なんだよねぇ」
　指定種族への無敵能力を付与するユーベルコードを前にして相性が悪かったと言わざるを得ない。そして、一瞬でも唖然として足を止めてしまえばそれは致命的な隙となる。
「大いなる豊饒の女神様、貴女の使徒を石巌の司へとお迎え下さい」
　リュニエの祈りに応える形で地面から無数に伸びた大地の腕らがギガンテックに掴みかかり。
「うぐっ、足が……ならば！　 超超巨大ビィーム！！！！」
「そう来ますよねぇ」
　移動を封じられた形のギガンティックは【豊饒の使徒】の面々へ抱えたシュリヒトゲヴェーア地味なライフルから放つビームで応戦しようとするも、るこるは浮遊する涙滴型の水晶FPSを用い発射のタイミングを見通していた。
「仮に当たったとしても貫けたかはわかりませんわね」
　防御結界は数名がかりで強化されている上、術者の方もユーベルコードによって強化されているのだ。
「ぐぬぬ」
　それでも足を封じられたギガンティックからすれば他に方策も存在しなかった、だから。
「直接の効果がなかろうとっ！」
　守りを固めている相手への馬鹿正直な攻撃ではなく、別の存在にギガンティックは狙いを定めた。そう、自身へ付きまとい未だに全滅させられぬ埴輪兵の兵団と自身の足を掴む大地の腕らへと。
「まともに戦う必要などないのだ！　掴まれた足が自由になれば――」
　キックも可能であるし、走って逃げることも可能であろう、ただし。
「好機ですぅ、一気に叩きますねぇ」
　それを行う間に【豊饒の使徒】の面々が何もしなければの話だ。
「なっ、待」
「逃がさない様叩くんだよ」
「でしたら、私は腕を振り払われることも考え『脚部』を狙って足止めを狙っておきますの」
　るこるの声で顔をひきつらせたギガンティックが振り返れば、『両肩』と『腰の両側』に着用された砲台カルテットフォートを自身へ向けている麻陽と雷撃の槍をもうこの時点で自身の足目掛けて射出している瑶暖が居た。
「協力致しましょう」
「畳みかけますね」
　もちろんその二人で攻撃が終わる筈もない。銃声や砲声と共に襲い掛かる時空切断の嵐と光の矢や雷撃の槍、そして炎を吹いて飛ぶ騎槍にいくつもの銃弾。【豊饒の使徒】の面々から集中攻撃を受けたギガンティックはたまらず地面と言うには広い範囲に倒れ込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「どうやら今が好機のようですね」
　箒に腰かけ空をゆく火土金水・明（夜闇のウィザード・f01561）の肩に使い魔のクロの姿はない。流石に危険すぎると置いてきた理由幼女総統「ギガンティック」は今、先に交戦した猟兵たちとの戦いの結果地に伏している。
「では、いきましょうか」
　巨大すぎる敵を前に、魔法の箒を掴まぬ方の手にはただ一振りの銀の剣。一見すれば無謀にも見える突撃だがギガンティックも起き上がってすらいない。阻む者がないなら刃はギガンティックの身体に届いてもおかしくはないと思われる。
「本当に大きいですね」
　景色は飛ぶように流れいつしか眼下に広がるのは地面ではなく倒れ込んだギガンティックの身体。いよいよ斬り込むのか箒は高度を下げ始め。
「まだだ、まだっ！」
　ギガンティックの拳が地面を叩いた。反動で顔を上げ上半身を起こしかける幼女総統は地面を叩いたばかりの手をつくと首を巡らせ。
「やはりあれで終わりではなかったか！　ならば！」
　明の姿を見つけると地についた手を強く押し自分の身体をひっくり返す。これだけの巨体であれば、何かの挙動に巻き込むだけで簡単に人は潰せる。
「ぬっ」
　ギガンティックは自分の身体の質量に物を言わせ跳ね飛ばすなり押しつぶすなりを狙ったのであろうが。自分の身体にぶつかったはずの箒に跨った明は掻き消え。
「残念ですが、それは残像です」
　変則的なぶちかましを避けた形の明はいつの間にか剣を七色に輝く不思議な杖へと持ち替えていた。
「しま」
「全ての属性を収束して、今、放つ！」
　炎、水、土に氷、雷や光、闇そして毒。様々な属性を持つ765本にも及ぶ魔法の矢が豪雨の如くギガンティックの身体へ降り注ぐ。巨体が故に魔法の矢の数が700を超えても刺さりどころに困ることはなく、また外すことも難しい。
「斯様な結末、吾輩は断じて認めない！！！！」
　最終的にギガンティックが頼らんとしたのは、終焉を巻き戻す「エンドテイカーの魔力」だ。満身創痍の身、他に回避の手段がなかったとも言える。
「これは……」
　だが、それもあって魔法の矢は時間の逆光と共に明の方へと戻ってゆき、明の跨る箒の動きも止められ。
「貰ったぞ！」
　動けぬ明へギガンティックは緩慢にシュリヒトゲヴェーア地味なライフルを持ち上げ、銃口を向ける。
「これで終わりだ！」
　砲撃相当の銃撃が明に向けて放たれ。
「移動を阻害すれば先ほどの様に残像を身代わりに躱すこともできまい！」
　ギガンティックは勝利を確信する。
「きゃあ」
　事実シュリヒトゲヴェーア地味なライフルの弾は明へと命中し。
「勝った、吾輩の」
　勝利だとギガンティックが続ける前に。
「全ての属性を収束して、今、放つ！」
　身を護るオーラで直撃を防いでいた明がカウンターの形で再び魔法の矢を放っていたのだ。勝利を確信していたギガンティックに再びエンドテイカーの魔力を纏う猶予はなく。
「ばかな、吾輩が……斯様なこ」
　起き上がりかけた巨体は崩れ落ち倒れ込むと再び起き上がることはもうなかったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2024年05月26日