獣人世界大戦⑰〜善に饗ぐ
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狂気艦隊を率いたクロックワーク・ヴィクトリア最高司令官『プロフェッサー・モリアーティ』が凍結海を越え、イガルカ方面へ。
ポーシュボス・フェノメノンを使って「地上を歩む」能力を与えられた狂気艦隊は、シベリアの大地を蹂躙していく。
物言わず歩む艦隊とは別に――戦場某所。
『嗚呼、嗚呼、私ノ姿はスっカり変ワっテしマっタ』
『誰、誰、誰』
『会イたイ』
『記憶モ、正気モ、最早定かデはナい……』
かつての獣人たちを浸食し、心を苗床としているポーシュボスの重なる声は『音楽』のようだ。
「逃げ延びてくる幼女総統『ギガンティック』を捕獲すべく、総員の出撃。
ポーシュボス・フェノメノンよ、戦場に存在する善の心を存分に喰らうがいい。苗床など――そら、直ぐに訪れる」
ポーシュボスが蔓延る狂気艦隊旗艦に立つモリアーティが示した先には猟兵の姿があった。
「船旅の供としていたこの『音楽』も聴き飽きた。第六の猟兵諸君、新たな声を奏でてはくれまいか?」
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「獣人世界大戦もとうとう第三戦線へと至りましたね。もう少しです、頑張っていきましょう」
お疲れ様です。最初にそう挨拶したグラース・アムレット(ルーイヒ・ファルベ・f30082)が猟兵たちを迎え、言葉を続けた。
「今から皆さんに赴いて頂く場所はイガルカから北に向いた戦場です。凍結海を越えてきた狂気艦隊が進軍中なので、その対処をお願いしたいのです」
狂気艦隊を率いるはクロックワーク・ヴィクトリア最高司令官『プロフェッサー・モリアーティ』。
「戦場には錨に邪神細胞を受肉させた狂気艦隊旗艦「ネルソン」、ポーシュボスを使役するプロフェッサーと強敵が揃っていますが、今回はポーシュボス・フェノメノンを対処しながらプロフェッサーを討つ作戦を行っていきましょう。
皆さんは、アポカリプスヘルに現れたポーシュボス・フェノメノンを覚えていますか?」
初めて見る猟兵さんもいるのではないかしら、とグラースは言った。
「生命の「善の心」に寄生し、少しでも善の心を持つ生物を新たな「ポーシュボス」に変えてしまう能力を持ったフィールド・オブ・ナインとされる1体でした」
ポーシュボス
現象。
寄生されずに戦うには「純粋な悪の存在」である必要があった。
「プロフェッサーは善の心を全く持たない『邪悪ナる者』らしいですね。
彼の黄金機械である身体におさめられているのは
現象と言われる存在です。ポーシュボスを使役し、艦隊の機銃を無数に持たせていることでしょう」
モリアーティはポーシュボス・フェノメノンを戦場に放ち、猟兵たちをポーシュボス化させてくる。
猟兵がひとかけらでも「善の心」を持っているのであれば、ポーシュボスに寄生されることだろう。
「そうなれば正気を手放さずに戦うしかありません。もしかしたらポーシュボス・フェノメノンを払う力を持った戦い方もあるかもしれませんね。
または、善の心を手放し、善の心を全く持たない『邪悪ナる者』になって戦えばポーシュボス化は免れることでしょう」
その方法が採れるのか、またはどうやって採るのかは猟兵次第といえるだろう。
戦法は戦場に踏み込む猟兵が選ぶことだ。
「皆さんの健闘を祈ります。――またあとで会いましょう」
グラースはそう言って、猟兵たちを狂気艦隊へと送り出した。
ねこあじ
プロフェッサーのツノ、あれ鹿なん???
となっています。ねこあじです。
「⑰狂気計画~👿ポーシュボス・フェノメノン」のシナリオとなります。
よろしくお願いします。
プレイングボーナスは、
「善の心を全く持たない『邪悪ナる者』になる」
「ポーシュボス化してでも正気を手放さず戦う」
となっています。
もちろん、ポーシュボス化対策などのやりたいことがあれば「ボーナス無しで戦うぜ!」 でも構いません。
戦争シナリオなので採用・不採用と出るかもしれません。ご了承ください。
第1章 ボス戦
『プロフェッサー・モリアーティ』
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POW : 狂気砲弾
【ポーシュボス・フェノメノン】を宿した【艦隊の砲弾や機銃弾】を射出する。[艦隊の砲弾や機銃弾]は合計レベル回まで、加速・減速・軌道変更する。
SPD : プロフェッサーズ・クエスチョン
対象への質問と共に、【自身の肉体】から【ポーシュボス・フェノメノン】を召喚する。満足な答えを得るまで、ポーシュボス・フェノメノンは対象を【ポーシュボス化】で攻撃する。
WIZ : 『小惑星の力学』
戦場全体に【流星の如く降るポーシュボス・フェノメノン】を発生させる。レベル分後まで、敵は【ポーシュボス化】の攻撃を、味方は【ポーシュボス化している部位】の回復を受け続ける。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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ベアトリーチェ・ヴィオラ
私、冒し尽くすより染め上げる方が好きなのだけど。さぁお先にどうぞプロフェッサー。アナタが数年をかけて育てた狂気、私に見せて御覧なさい。
彼の放つポーシュポスが侵蝕し切る前に狂気を〈カウンターハック〉して黒き〈祝福〉へと反転させるわ。その力を使ってUC発動、私の血液すべてを代償に黒き肉食植物のモンスター達が跋扈する迷宮を顕現させるわね。
アナタの狂気は実に強大で興味深かった……お礼を言わせてプロフェッサー、お陰で新しい迷宮のアイディアを思いついたの。ぜひ、アナタにとびっきりの迷宮を堪能して欲しいわ。さぁ、
黒なる力をその身に焼き付けなさい!
(WIZ/アドリブ負傷等々歓迎)
UDCアースの邪神の守護を受けて凍結海を越えて来たクロックワーク・ヴィクトリアの狂気艦隊。艦隊旗艦「ネルソン」の錨に受肉した邪神。
プロフェッサー・モリアーティが在るこの戦場は、狂気という狂気に侵されていた。
物陰からきろりと動く金の眼球。闇の蠢きは微かな呼気すらも響かせている。
『コこハどコ』
『私ノ子はドこ』
『プろ、ッさー……きョうノ論ぶンを読ンで……』
数多の触手、ポーシュボスが這いずり物を呟く。
歌うような悲鳴を、謳うような問いかけを、詠うように善の意を示して。
ひと時として同じモノはない。展開している目まぐるしい狂気をベアトリーチェ・ヴィオラ(ヴァイオレット・メイズ・f42297)は存分に堪能する。
「ごきげんよう、プロフェッサー・モリアーティ」
「ごきげんよう、レディ。狂宴にまみれた我が艦隊へようこそ。居心地の方は如何かな?」
揶揄るモリアーティの声に、ベアトリーチェの唇は赤く妖艶なる弧を描いた。あちらこちらにポーシュボスが咲き蠢いていて飽きは来ない。
「狂気に相応しき箱庭かと。さぞかし丹精こめて冒し尽くしてきたのでしょうね」
――私、冒し尽くすより染め上げる方が好きなのだけど。
とベアトリーチェは言葉を続けた。
「けれども此れがすべてではないでしょう? 咲かせるには土壌が、種が、芽吹きが必要ですもの」
「如何にも。一手でも抜けば事象は成り立たない」
ポーシュボスの触手ひとつを見ても、一層、二層と螺旋の如き深淵が垣間見える。
「まさしく
現象。――さぁお先にどうぞプロフェッサー。アナタが数年をかけて育てた狂気、私に見せて御覧なさい」
今、この場に至ったパスを。
ベアトリーチェの言葉に口端を上げたモリアーティが「では、我が『小惑星の力学』を披露しよう」と呟いた。
モリアーティの声はパイプオルガンのような黄金機械内を渡り、次の瞬間、戦場内に蠢く数多のポーシュボス触手が裂き開いた。
内部から刹那に黄金の光が閃く様はまるで爆砕したかのよう。粒や塵となったポーシュボス・フェノメノンが流星のように降り始めた。
「これが芽吹くためのポーシュボス・フェノメノン――」
モリアーティの
美しき国。
かつて神秘反転聖樹クリフォトに座したベアトリーチェは規範たる善を持たなかった。
「
絶望せよ。
呪詛せよ」
ベアトリーチェの力ある言葉が戦場に渡る。
常夜菫アコナイトの黒い光に照らされたポーシュボス・フェノメノンは、その存在値を書き換えられていく。
善の簒奪から
黒なる祝福を宿すものへと。
「
現象の書き換えか。だが、ただ飛沫し蔓延する名もなきこの果ては
現象を咲かせることができるのだろうか?」
成れない存在は憐れだな、とモリアーティが言った。
くすりと妖しげに微笑むベアトリーチェ。
「
束縛せよ。我らが
黒なるクリフォトよ!」
流々仕上げを御覧じろと言わんばかりに『反転神秘・狂華庭園』が発動し、一弾指と展開されていく。
ベアトリーチェの血液すべてを捧げた神秘反転聖樹・クリフォトの力。
顕現するは黒き肉食植物のモンスターたちが跋扈する迷宮であった。ポーシュボスを喰らい、染めて、反転樹の糧とするモンスターたち。
新たなる宴をベアトリーチェは一瞥した。
「アナタの狂気は実に強大で興味深かった……お礼を言わせてプロフェッサー、お陰で新しい迷宮のアイディアを思いついたの」
弧を描く紅。目深に被ったフードの奥は見えないが、彼女の声は愉しそうだ。
「ぜひ、アナタにとびっきりの迷宮を堪能して欲しいわ」
モリアーティを送り出す階層は奥深く。ベアトリーチェは狂華庭園を厚く厚く彩っていった。
「さぁ、
黒なる力をその身に焼き付けなさい!」
敵の声が存在が遠ざかってゆく。ポーシュボスと肉食植物の触手が鍔迫り合い、果てに侵食叶うのは
黒なる力だ。
『新シい箱庭』
『プろフぇッさ、ドこ……?』
モリアーティの使役から切り離されたポーシュボスたちが狂華庭園に呑み込まれていく。
プロフェッサー・モリアーティが再度箱庭を築くのは、幾時の彼方。
大成功
🔵🔵🔵
鵜飼・章
新たな声を奏でてくれないか
が、きみの質問でいいのかな
ならご期待に添えるかもしれない
図鑑から馬と鹿を召喚後
UCを使い精神攻撃
僕は善人ではないと思うけれど
特別悪ぶっているつもりもないよ
人より多少人を殺すのが得意で
その事に特に思うところもなくて
それが世間では不道徳とされている
だからきみの事も理由なく適当に殺すね
人と虫を区別するのは
蟻を踏まずに一生を終えるぐらい難しい
難しいけれど
暇潰ししかやる事がないんだ
きみも随分退屈しているようだから
更に酷い退屈を味わうといい
人にした事は
自分に跳ね返ってくるらしい
馬鹿に馬鹿を蹴らせてみたけど
面白くないな
気をつけて
時々きみみたいなのが出るから
僕なんかが猟兵にされるんだ
エドワルダ・ウッドストック
アドリブ連携歓迎
まあ、モリアーティ。
ポーシュボスに取り込んだ人々の懊悩を音楽と表現するのですわね。
ならば貴方の断末魔でロックンロールしてやりますわっ!
楽に往生できると思わないことですわね!
穏やかクールな表情から、一瞬で殺意MAXのブッコロモードに切り替えて殴り込みますわ。
犠牲となった獣人たちへの想いは、この一時は頭からすっ飛ばして只管にプロフェッサー殺すのマーダー的根性で立ち塞がるポーシュボスを蹴ったり殴ったりして突破しますわ。
何かこう目が真っ赤で口から覇気が湯気立つ理性蒸発な雰囲気で、狂気砲弾を放つ動作をライフル射撃で妨害して、マウントポジションからナイフでめった刺しにして差し上げましょう。
プロフェッサー・モリアーティを送り込んだ狂華庭園は内部から浸食されていく。
彼の周囲に流星の如く振り続けるポスボーシュ・フェノメノンが猟兵の創った迷宮を踏破していったのだ。
「モンスターが蔓延する、美しく、狂おしい舞台装置だった。時は新調され、再び過去の譜面に上書きされてゆく――」
モリアーティの使役で戦場はポーシュボスの蠢きに再び満たされていく。
『コこハどコ』
『コこハ、しベりア?』
『プろフぇッさー、オ話、しテ……』
重ねられるポーシュボスの声を一瞥し、モリアーティは告げる。
「さて、第六の猟兵諸君。新たなものを奏でてはくれまいか?」
彼の黄金機械の身体はまさしくアンティーカ。ポーシュボスを
現象として至らせるべく、戦場に声と力を渡らせた。
「それが、きみの
質問でいいのかな。――なら、期待に添えられるかもしれないな」
そう言った鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は自身の図鑑から馬と鹿の獣を召喚する。魔力で構築された獣たちは神秘的な雰囲気を纏っていた。
一方、モリアーティの言葉に「まあ」と驚きの声を上げるエドワルダ・ウッドストック(金雀枝の黒太子・f39970)。
「貴方はポーシュボスに取り込んだ人々の懊悩を音楽と表現するのですわね」
ぱちっと瞬かせたエドワルダの目はモリアーティと似た琥珀色。一種穏やかな無垢らしきものを宿していた瞳は、けれども次第に苛烈なるものを含ませていた。
「ならば貴方の断末魔でロックンロールしてやりますわっ! 楽に往生できると思わないことですわね!」
エドワルダのクールな面影は一瞬にして消えた。彼女が跳べばポーシュボスが強く波打ち、戦場内の機銃や砲口が一斉に向けられる。
しかしポーシュボス触手が次手を取る前に攻撃手段の一つが阻害される――エドワルダのライフルが機銃を破壊し、ポーシュボスが抱える砲弾をナイフで真っ二つにした。
シカ獣人らしく戦場を飛び交う脚力は素晴らしいものだ。
「銃音は耳を劈くものだから、邪魔されたらやだなぁと思ってたんだ。……今なら僕のオカリナもよく響くかな」
のんびりと言った章が黒いオカリナを吹けば、始まる拙い演奏。
虚無の笛の音が戦場に渡り始めると、ポーシュボスがのたうち回るような動きをしたのちにピタリと停止する。
黒金の枝のようになったポーシュボスを足場にエドワルダがナイフを振るいながら跳んでいった。凄味のある殺気を纏った彼女の目は爛と開かれ、宿す竜の炉心故かその瞳は赫灼の如くだ。
この獣人戦線において犠牲となってきた同胞への想いは、今のエドワルダにはない。だが行動の根源は、生まれてきた意味は、すべて同胞たちのためだ。生まれながらに魂に刻まれたもの。
そこに善悪の境などない。
殴り、蹴り、ポーシュボスとなってしまった誰かの善の心を骸の海に還していくエドワルダ。
『ドこニ行けバいイの?』
『アなタを助ケたイ……』
縋るように触手を伸ばしてくるポーシュボスを叩き払い退けるのは章が召喚した馬と鹿。馬力や鹿角のぶん回しがポーシュボスを潰し、蠢く触手を千切っていく。
ポーシュボスの意味をなさない悲鳴が獰猛な獣の蹂躙とオカリナの音色にかき消されていく。
「成程。第六の猟兵とやらは善の心を容易く捨てられるらしい」
モリアーティの言葉に、応とも否ともとらない曖昧な、凪のような視線を章は向けた。
「僕は善人ではないと思うけれど、特別悪ぶっているつもりもないよ」
人より多少人を殺すのが得意で。
その事に特に思うところもなくて。
「それが世間では不道徳とされている。けれど世間は世間、僕は僕。だからきみの事も理由なく適当に殺すね」
霞を喰らって生きてるような章の言葉は軽くて、重くて、やはり軽い。
ポーシュボスの気配がひとつ消えても、ただ過去の数が還るだけの話である。ポーシュボスやモリアーティが、未来に向けた時の命を持ち生きていれば自然数にも足されようが、生憎と彼らはその条件を満たさない。マイナスにもならない。章にとっては0であるのだろう。
足すのは今を生きるものたちだ。
だが、そこに章は自身を加えていない様子。
「人と虫を区別するのは蟻を踏まずに一生を終えるぐらい難しい。――難しいけれど、暇潰ししかやる事がないんだ」
あらゆるものに対して超越する精神性を思考という枠におさめて、ようやく、無難に時を過ごしている。
自身がこうなのだから、モリアーティもそうなのだろう。
常ならば思考の枠が潰す対象を選ぶものの、戦場ではそうする必要もない。
「きみも随分と退屈しているようだからね。更に酷い退屈を味わうといい」
章が奏でる無神論に馬と鹿の蹄が鳴る――鋭い跳躍から放つ獣の蹴り飛ばしは、モリアーティの機体を歪に打ち鳴らした。
「人にした事は自分に跳ね返ってくるらしい……。馬鹿に馬鹿を蹴らせてみたけど……面白くないな」
やらなきゃよかった。栓無きこととして章が扱う。
「気をつけて。時々きみみたいなのが出るから僕なんかが猟兵にされるんだ――……?」
淡々と告げる章の声は最後、何かの風を感じ取り気が逸れたものとなった。
瞬間。
シンバル並みの大きい一打音が戦場に響き渡った。耳を劈くどころではない、虚空をびりびりと震わせる一撃。
エドワルダが飛び込む加速を利用し銃床でモリアーティを突いたのだ。
「跳ね返すだけ? 甘い甘い、甘いですわっ! やるなら倍返しですわ! 断末魔は、この――」
エドワルダのコンバットナイフが閃く。斬線は、彼女が乗り上げたモリアーティのパイプを切り開いた。
「何を"ヲヲ――"する"ウウウ――"!」
モリアーティの声が管から漏れ響く。
「ナイフで掻き斬り鳴らしてこそロックですわ!!! とくとご賞味遊ばせ!」
「ロックな鹿……そうだ、参考にしよう」
エドワルダのメッタ刺しに刺激を受けて、章がオカリナをロックに吹き鳴らす。
すると召喚した方の鹿がモリアーティの上で踊り出したではないか。
鹿たちの間断なき一撃に、割れた声を上げるモリアーティ。
「鹿に
饗ぐ――鹿たちは馬乗りになっているから、言葉としては成立する」
すごい。構図が完璧???
美しい言葉の成り立ちを目撃した章は、満足そうに笑みを浮かべるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鐘射寺・大殺
貴様がモリアーティか!
英国最高の頭脳をもつ学者と聞いておる。
そして一切の良心を持たぬ男だともな!
さて、邪悪になれと申したか。
我輩が知る中で最大の邪悪は…もちろんガチデビルよ!
モリアーティよ、長旅で退屈と申したか?そうか!
我輩が刺激的な音楽をプレゼントしてくれるわ。
光栄に思え!!
X-DEATHを構え、デスメタルの猟奇的かつ冒涜的な楽曲を奏でる。
《降霊》を応用して《楽器演奏》で己自身に強い暗示をかけ、
ガチデビルの如き「ガチワル悪魔」へと変じるのだ!
狂気砲弾に対抗し、ギターとデスシャウト唱法による
《衝撃波》《音響弾》をぶつけて反撃だ!
グワハハハ!それが貴様の狂気とやらか?
ヌルい、ヌルすぎるわぁっ!!
狂い咲いた饗宴のなか、一時はプロフェッサー・モリアーティの声が響き渡っていた。
「第六の猟兵諸君。戦場を彩りあげるに我が声を響かせるとは――」
いやはや。血も涙もない。
ある意味褒め言葉ともなりそうなことをモリアーティが呟く。
ポーシュボス・フェノメノンをばら撒き、狂気艦隊内は再びポーシュボスに満たされた。
『私ノ仔は……』
『今日ハ楽しイぴクにッく』
『プろフぇッさー、遊ボう?』
触手が花開くように裂けてポーシュボスの声が漏れ響く。
「遊び相手は直ぐに訪れるだろう。そら――」
乞うポーシュボスの声に答えたモリアーティが示したそのさきに、赤マントをなびかせる猟兵の姿があった。
鐘射寺・大殺(砕魂の魔王・f36145)だ。
「貴様がモリアーティか! 英国最高の頭脳をもつ学者と聞いておる。――そして一切の良心を持たぬ男だともな!」
指差しながら大音声で告げる大殺に「魔王様、行儀が悪いですぞ!」と川村クリムゾンが囁いた。
「このような時にまでやかましいぞ、川村。――さて、モリアーティよ。長旅で退屈と申したか?」
「嗚呼、素晴らしきは猟兵のその把握能力。わざわざ飛び込んでくるとは。魔王よ、その通り。遥々と彼方、クロックワーク・ヴィクトリアから旅してきた我々を慰めてくれるのか」
モリアーティの応えに「そうか!」と大殺は快闊な声を返し、チェシャ猫のようにニィと笑んだ。
悪魔的にかっこいいデザインの殺害ギター・
X-DEATHを一瞬掲げるように構えた大殺は、一回転。赤いマントが華々しく翻った。
そして殺人的意匠のピックでその弦を掻き鳴らせば、起こるは稲妻の如き音駆け。
「ならば、我輩が刺激的な音楽をプレゼントしてくれよう。光栄に思え!!」
ギャギャッとした耳を劈くリズムから蠢くような高速の単音リフ。大殺が演奏するのは形式に囚われない、自由で猟奇的かつ冒涜的な楽曲はデスメタルの奏でだ。
自身の心赴くままに、魂を高鳴らせるビートは真なるワル化を加速させ、大殺が描く邪悪なるものを呼ぶ――それは。
(「我輩が知る中で最大の邪悪は……もちろんガチデビルよ!」)
「鞭打つような音楽形態。成程、これは進化というものだ」
モリアーティは頷いた。
大殺の演奏にノッているのか、ポーシュボスたちもポーシュボスなりの激しい蠢きを見せ、戦場にぞろぞろとした低音域も発生した。
「決まったリズムを持たぬ演奏に、喝を入れるのも一興か」
と、ドラム役を担わんとモリアーティが杖を突き鳴らせば、ポーシュボスから機銃弾と砲弾が放たれる。
その瞬間、カッ! と大殺の口が大きく開いた。何でも砕き噛みそうな鋭いデビル歯が見える。
「グワハハハハハハァァ!!!」
放たれるは乱したリフと鯨波の如き哄笑。虚空を震わせ劈くそれは衝撃波と音響弾のように、周囲のポーシュボスを波打たせ、機銃弾と砲弾を押し返し暴発させた。軌道変更を無に帰す範囲攻撃だ。
「究極のワルとは何か教えてやろう!」
ポーシュボス・フェノメノンがポーシュボスに降り注ぐ――モリアーティが使役するフェノメノンに、善良な心を捨てガチデビルの如き「ガチワル悪魔」となった大殺の演奏が介入する。
「よいか! 皆の者! ロックだ! デスヴォイスを唱和せよ! 邪悪を喰らうならば今が反撃の時!!!」
『ヴぉヴぉヴぉヴぉ!』
『Empty vessels make the most noise!! Moriarty!』
次々とリフを変えていく大殺の演奏にノッていくポーシュボスたち。
モリアーティが支配していた場はあっという間にデスメタルの波に吞まれた。
「グワハハハ! モリアーティ、これが貴様の狂気とやらか? ヌルい、ヌルすぎるわぁっ!!」
『邪悪ナる者』がモリアーティとポーシュボスに狂気を問う。それに応えるはポーシュボス。
「……最近の若者とやらは……」
若干遠い目になっていなくもないモリアーティ。
何かの宗教のように、戦場は熱狂的かつ大殺の統べる狂気に満ちてモリアーティの精神を削っていく。
「いやこれはもう我々お堅い爺共もノらねばなりませぬぞ
……!!!」
そう言って川村クリムゾンがモリアーティを誘うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
茜谷・ひびき
邪神擬きを宿すにはお誂え向きの性格してんな
そういう奴を殺すのが俺の仕事だ
……いや、仕事っていうのは言い訳
本音を教えてやる
あんたみたいな奴を叩き潰すの、正直楽しいぜ
だからこれは正義の為の戦いじゃない
やりたいままにやらせてもらう
輸血パックから血を飲んで気合いを入れる
今日は徹底的に化物らしく戦ってやるよ
胸に宿すは怪物への怒りと暴力への愉悦だけ
それをUCとして炎に変えて敵へと向かおう
迫る攻撃は野生の勘でも察知するが
喰らっても激痛耐性で耐えて炎の噴出口にしてやる
敵に近付く程、その存在を感知する程怒りは燃える
とにかく前進し勢いのまま接近
射程範囲まで来れば怪力を乗せた思うままの暴力を
……忘れられねぇな、これ
邪神の力を借り凍結海を越えてきた、クロックワーク・ヴィクトリアの狂気艦隊――イガルカへ向かう艦隊の戦場にて蠢くポーシュボス。
ぞろぞろと這い蠢く触手の音。
『アぁァあア……ぷロふェっサー、おハ、おハなシしテ……』
『私ノ仔はドこ?』
『帰リたイ』
黒き触手が開閉すると誰かの善の声が漏れ出てくる。戦場に拡がるポーシュボスの存在を見た茜谷・ひびき(火々喰らい・f08050)は漆黒の瞳に焔を滾らせた。
「邪神擬きを宿すにはお誂え向きの性格してんな――そういう奴を殺すのが俺の仕事だ」
「ああ、新たな一音がやってきた。きみが熱く奏でるは正義ナる拳か? それとも邪悪ナる拳かな?」
揶揄るモリアーティの声に、思わず舌打ちするひびき。「行儀が悪いよ!」と言う後輩の声が脳裏を掠めた気がした。
(「……いや、仕事っていうのは言い訳だな」)
無差別に人を殺める邪神もいれば、人を利用する邪神もいる。
モリアーティは彼以外の存在を利用する類の性質なのだろう。ポーシュボスの重なる悲鳴にすら悦を生じ、搾取し、破棄する。淡々と自身の理想や欲の赴くままに。
「本音を教えてやる。あんたみたいな奴を叩き潰すの、正直楽しいぜ?」
供給用輸血パックを飲む――ひびきの視線はモリアーティから外れない――パックを握りつぶしながら、一気に飲み干した。
常ならば美味しく感じてしまうのが嫌だな、と思う。
だが今日は素直に美味いとその味を讃じた。
ひとつ、自身の楔が外れる音がした。
「……今日は徹底的に化物らしく戦ってやるよ」
思い出せと願わなくとも、ひびきの身体に刻まれた傷跡が苛烈に疼く。
これは忘れてはいけないものだ。
怒りは常にひびきの中にあり、時々、その身を喰らっていく。抑えるか、抑えないかはその時の状況次第。新たな邪悪を喰らえば心身が塗り替えられていくような――そんな年月を過ごしてきた。
「善に
饗ぐか、悪に
饗ぐか、我々に魅せてみるといい」
モリアーティが杖を突き鳴らせば、ざざざとポーシュボスが波打つ。機銃がひびきへと向けられ、砲身がわりとなったポーシュボスが砲弾を吐き出す。
ポーシュボス蠢く地を駆けるひびき。
機銃弾や砲弾が彼の軌道を追い放たれるも、着弾はどれもひびきの後方に。衝撃波がひびきの身体を裂き、ともにポーシュボス・フェノメノンが戦場に蔓延していった。
「ポーシュボスたちよ、壁となれ!」
モリアーティの使役に応え寄せては返すポーシュボスの波がひびきの足を掬おうとするも、ひびきはそれを踏み潰す。
延焼する地獄の炎はポーシュボス内部を駆け抜けて、火炎放射のように多方で噴出した。
ポーシュボスの触手壁を殴り貫けば、一瞬にしてそこは炎の壁となり瓦解する。
『ヒぎィぃィ……っ!』
『邪悪ナる者ハ、僕たチを救ウ?』
ポーシュボスの声に、否を叩きつけるひびき。引き千切ったポーシュボスが灰燼に帰す。
誰かの善が骸の海へと還る瞬間であったが、そこに情けは差し込まれない。ひびきの駆けはただ一方向に――モリアーティへと向けられていた。
強大な邪悪ナる者の力が近付くほどに感じ取れる己の怒りは赫灼としていて……他が視えぬ程だ。
海の如きポーシュボス・フェノメノンを越えての接敵。間合いに入る手前で、ひびきの脚力は瞬発力を宿した。
弾丸のような加速と軌道がモリアーティを捉える。
「これは正義の為の戦いじゃない」
俺が――胸に宿す怪物への怒りが――暴力への愉悦が――やりたいままに振るうための戦い。
怪物と化した誰かの善の心を破壊し還す。
すべては一打、誰かの善を愉しんだ怪物に叩き込むためだけに。
その時、ひびきから発せられたのは獣のような咆哮だった。
苛烈な怒りを宿した一撃は楽器のようなモリアーティの黄金機体を強く打ち鳴らす。
「……!
……!!」
モリアーティが何かを言うも、耳を劈く金管の音色と、轟と炎の吹き荒む音が駆け巡るひびきには届かない。
突撃した一打から、着地と昇雷の如く突き上げる一打。
一拍遅れて翔ける焔光の残滓が拳の軌道を明かすも、それは数多。刹那に彼岸に咲く花が残光として生まれた。
(「……忘れられねぇな、これ」)
何がと問われれば、怒りと暴力に付随し湧き起こる感情がと応う。
地獄の炎渦巻くなかに起きた鯨波は、幻聴か、それともひびきから漏れたものか――発生した僅かな隙に一弾指ともいえる翻しを敵は行った。
「くっ!」
杖を振るったモリアーティを追ってポーシュボスの複数の触手が盾となり、敵は千鳥足のような後退で彼我の距離を作るのだった。
大成功
🔵🔵🔵
木元・祭莉
行こう、アンちゃん(f16565)!
プロフェッサー、なんかキモいね?
半分異形じゃん。あ、邪神だから邪心持ち?
ん、善の心を手放すゾ。
邪悪ナる者になる、かー。邪悪……(ちらっ)
ヨシ、向こうが使役獣(?)使ってくるなら、コッチもそんなカンジで。
うさみん☆に合わせて、いっけーたまこ!
いけ……アレ?
もー、行けって……いたあっ。(嘴突き)
血が出たじゃん!
あーあ、嫌だったんだけど。奥の手だ!
ゆべこ発動!
うっ、来るなギャー!(←詠唱)
おいらから ぜんのこころは きえた
あとはおそいかかってくるてきを
ちぎってはなげ(グラップル)
ちぎってはなげ(カウンター衝撃波)
(たまこも同じく暴れ回り)
(正気のままで)
(誰か止め
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と
苦しむ声が、音楽?
その感性は相容れない
…そうね、聴かせてあげる
【Shall we Dance?】
うさみん☆は人形だから良し悪しは持たない
逃げ足や早業も取り入れステップ&ダンス
戦場を踊り魅せつつモリアーティに攻撃を仕掛けてね
遅延する寄生には抗わずのまま
歌を歌おう
わたしが知ってる音楽を
まつりんが、おかあさんが歌う、明るく、楽しく、どこまでも優しいメロディを(稀に外すのはご愛嬌
…聴こえる?貴方の音思い出した?ポーシュボス
まつりんが元気にここに居る
それがわたしが正気(わたし)で在る存在理由
今迄に培った戦闘知識、第六感を駆使しモリアーティに突撃
怪力込めてその胸を殴りつける
『プろフぇッさー、大丈ブ?』
『……守ル。誰を? 私ノ仔? ぷロふェっサ?』
呻くような声を上げながらポーシュボスが重なり合ってゆく。うぞうぞと蠢く黒き触手の中心に立つプロフェッサー・モリアーティは、持つ杖に僅かに身を預けていた。
「まさかここまで邪悪ナる者となる猟兵がいようとは。未来に咲くのは悪の華の方が多いようだ」
ポーシュボスたちよ、どう思うかね?
モリアーティの問いにポーシュボス化した誰かの善は応える。
『邪悪ナる者ハ、ぽーシゅボすヲ滅ぼス』
『イいコと?』
『キっト、良いコと……』
そう話すポーシュボスとモリアーティ。
閉じられたフェノメノンの中で、その時、一際明るい声が渡った。
「あー! いたー! あれがプロフェッサー?」
アンちゃんコッチコッチー! と木元・祭莉(これはきっとぷち反抗期・f16554)の声は、昏い戦場に差す陽射しの如く眩しい。
「プロフェッサー、なんかキモいね? 半分異形じゃん」
モリアーティのパイプ楽器のような黄金機械の身体と半身を蠢かせるポーシュボスの身体を見た祭莉の感想。あ、と彼はふと思いつく。
「邪神だから邪心持ち? 邪神だからポーシュボスを使役できる?」
モリアーティとポーシュボスを観察しながら、祭莉はふむふむ呟いた。
その遥か後方で「コケコケ」とたまこが鳴いているが、祭莉は決してそちらの方を向かないし、狼耳も動かさない。
『新シい仔』
『私ノ仔?』
『アぁァぁアあ!! 俺がコろシた仔
……!!』
ポーシュボスたちが囁く声は穏やかなもの、悲鳴をあげるものと様々だ。
「猟兵の客人たちよ。我がポーシュボス・フェノメノンに新しい刺激をありがとう。どうだね、好い歌だとは思わないかね?」
モリアーティの言葉に、むっと眉を顰めるのは木元・杏(ほんのり漏れ出る食欲系殺気・f16565)だった。
「苦しむ声が、音楽? その感性は相容れない」
「ならば、きみたちの声を響かせてはくれまいか? 絶望でも、嘆きでも、怒りでも。何でも構わんよ」
向き合う杏とモリアーティの間にピリっとしたものが走り、金の瞳が据わる。
「……そうね、聴かせてあげる。――まつりん」
「ん! 行こっか、アンちゃん!」
杏は抱いていたうさみみメイド・うさみん☆を手放す――ふわっと一瞬浮いたうさみん☆はうさ耳を揺らし、黒き触手の海へと飛び込んだ。
蠢くポーシュボス触手の上を刹那に駆けて、うねりを利用しての跳躍は大きく。虚空で舞いひらり一回転、否、結果として三回転したうさみん☆が発生する遠心力に乗せた回し蹴りを放つ。
踊ってひらり、くるり。
うさみん☆が誘うように、Shall we Dance? と舞えば、戦場に蠢くポーシュボスとモリアーティの動きは遅くなる。
敵陣の様子をやはり観察していた祭莉は決意する。
「ん、善の心を手放すゾ。おいらは今から邪悪ナる者になる、ゾー。邪悪……」
「コケ」
祭莉がチラッと目を向ければ、たまこも祭莉の方を見ていた。
「……」
「…………ゴッ゛」
たまこの低い声。何やら凶悪な気配を感じ取った祭莉は、ヨシ、と頷いた。
「向こうが使役獣(?)使ってくるなら、コッチもそんなカンジで……! うさみん☆とともに戦場を駆けるんだ~! いっけーたまこ!」
ビシィッと黒き海の方を指差すも、たまこは微動だにしない。じいいっと祭莉の方を見ている。
…………。
「……いけ……」
「……ゴゲッ゛」
「もー、たまこ、行けって……」
「――コケケェェェ
!!!!」
「――っっいったあっ
!?!?」
翼を広げ跳躍したたまこが行く場所はもちろん祭莉のところだ。具体的にいえば巣のようなふわふわ頭を狙っての嘴突き。
ゴッ! と祭莉の頭を抉ったたまこの嘴は血が付着していた。行動もだが絵面も凶悪である。
べたっとした頭に手を遣って流血具合を確認する祭莉。
「もおぉぉ! 血が出たじゃん! あーあ、嫌だったんだけど~~~。奥の手使っちゃお~~~!」
いじけた祭莉が胸元を搔き毟り、究極の哀情を表現する。
彼の知覚は、あっちにもこっちにも飛び掛かってくるニワトリの姿が。
「うっ、来るなーギャー
!!!!」
祭莉が悲鳴を上げてニワトリから逃れようとして黒き触手の海へと飛び込んだ。そして当然、祭莉を追いかけていくたまこ。
双子の兄の惨劇じみた様子や悲鳴は最早聞きなれてしまっているのだろうか。杏は、祭莉と、そしてたまこを見てひとつ頷いた。
必死に逃げる祭莉にはポーシュボスの群れもニワトリの群れに見えてしまっている。
「たまこじゃないなら……! なんとかなる!!」
ニワトリをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。たまにやけに強いニワトリ(たまこ)の突撃を喰らっては吹っ飛ばされている。
「……まつりん、元気。良かった」
……なんだか善の心を失っているような気もするが。
だが、布石は打っておこう。
杏は自身が知る歌を歌う。
(「これはおかあさんが歌ってくれる歌」)
時々、祭莉も歌う歌。
幼い頃から聴き続けてきたメロディ。歌詞は思考せずとも声として発される。
(「まつりんが、おかあさんが歌う、明るく、楽しく、どこまでも優しいメロディ――」)
稀に音階が外れてしまうのはご愛敬だ。
ポーシュボス・フェノメノンが蔓延する戦場で、善の心を持ったまま在れば、少しずつポーシュボス化していく――。
杏の黒髪がメドゥーサのように揺れ始めた。
「……聴コえる? 貴方ノ音、思い出しタ? ぽーシュぼス……」
これは、きっと誰もが触れたことがある、優しさ。
メロディや詞は違えども、きっと世界中で作られてきた優しさ。誰かに与える穏やかな歌。
(「まつりんが元気にここに居る」)
戦場を舞う祭莉とうさみん☆を追うように、杏もまたポーシュボス蠢く場に飛び込んだ。
(「それがわたしが
正気で在る存在理由」)
血を分けた兄と妹。
兄の命は――人狼の、彼の命と、はたしてどこまで一緒に歩んでいけるだろうか?
いつまでも一緒に居られたらと思う。きっと一人は寂しい。
祭莉がポーシュボスの阻害を切り開き、行動が遅い黒い彼らを飛び越えて。
「モリアーティ……響カせる……っ」
モリアーティの懐へ入った杏が思いっきり力を込めた一打を放つ。
金管楽器の黄金機体がへこみ、シンバルのように高らかな音を奏でた。
邪神の気配が蔓延する狂気艦隊内にて。
パイプからモリアーティの唸り声が響き渡り、骸の海へと還っていく大量のフェノメノンが吐き出されるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
箒星・仄々
モリアーティさんの邪悪さにぞっとします
けれど決して負ける気はしません
私たちの心には善なるものが輝いているのですから
モリアーティさんの野望を止めましょう
そう心には光と闇が
善を成したい心と悪の心が共にあります
もちろん私にも
ポーシュボスさんの寄生を止める術はないかもしれません
けれど
竪琴奏でて旋律に耳を傾ければ
自分の心に残っている善なるものにきっと気が付きます
そう、全てを奪われたわけではないのです
それを標とすれば
正気を保つことができるでしょう
同時に旋律から生まれる魔力は
降り注ぐポーシュボスさんやモリアーティさんへ
矢となって放たれ
宙を赤青緑に彩っています
旋律が響き渡るにつれて
心の光は輝きを増していき
やがて闇を駆逐して
ポーシュボスさんを追い出すことも
きっとできるはずです
魔力の矢にも
その輝きが宿り
善なる光で悪の闇を
ポーシュボスさんとモリアーティさんを
文字通り蹴散らし
海へと導きます
終幕
演奏を続けて鎮魂の調べとします
安らかにお休みくださいね
モリアーティから放たれるポーシュボス・フェノメノン。
アポカリプスヘルの戦いから、世界は違えどこの獣人戦線においても善の心を取り込み増幅しているらしき『彼ら』の姿に箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は心を痛めた。
『……ヲ、守る……ソれガ誰カの願イ』
『私? アなタ? 思い出セなイ』
『……守ル。誰を? 大切ナ人。ぷロふェっサ?』
これは、今までの冒険を通し仄々が触れて来た誰かの善の心と同等のもの。
家族を守ってきた獣人や、故郷のために戦った獣人。一人のために、皆のために、戦って来た心には善が根底にあったはずだ。
「彼らの悲痛な声を音楽と捉える……誰かの善の心を奏でとして……その邪悪さにぞっとします」
プロフェッサー・モリアーティが立つ場所――ポーシュボス蠢く、まるで黒い海原のような戦場に降り立った仄々が呟く。
けれど、と仄々は取り出した懐中時計をぎゅっと握りしめる。
ボタンを押せば時計が展開していく――耳慣れた駆動音、拡がるそれはねこのうた。仄々は現れた蒸気機関式竪琴を構えた。
「決して負ける気はしません」
悲哀なるポーシュボスの声海に『ポロロン』と流麗な琴の音が渡った。
「おや。ポーシュボスの歌に曲でも添えてくれるのか」
仄々に気付いたモリアーティが言う。黄金の機体を通し彼が声奏でればポーシュボスの蠢きは活発化した。
「ならば悲劇の一曲を。この世界に相応しい終焉の音色を――絶望の声を聴かせて欲しい」
モリアーティの小惑星の力学が披露される。戦場に流星の如く降り注ぐポーシュボス・フェノメノン。
昏い悲しみが、絶望が圧を伴い戦場に蔓延していく。
鏑矢のような悲鳴が虚空に響き渡り、仄々はそれを癒すようにカッツエンリートを奏で始める。まずはアース系世界にある国の民謡音楽を。
『サよナら』
『還ッてキて、私ノ仔』
『……マま』
誰かの善が海に還ることをゆるされず、ここに在る。ならば、選び取ろう。
「私たちの心には善なるものが輝いているのですから。共にモリアーティさんの野望を止めましょう」
そう。ポーシュボスに取り込まれた者は自我を失おうとも善の心を忘れてはいないのだ。
(「心には光と闇が、善を成したい心と悪の心が共にあります」)
もちろん仄々にだってある。生きていれば持つ、心。
この戦場に立てばポーシュボス・フェノメノンが善の心を喰らおうと浸食してくる。仄々の艶やかな黒い毛並みがざわりと波立った。まるで一本一本が意思を持ったかのように。
英国に伝わる曲を奏でながら……連ねる弦音を通して仄々は、重なる悲痛な黒い海へ訴えかける。
旋律は優しく。
音色は流麗に、指運は謳いあげるように。
竪琴の旋律とともに放つものは薫風の矢だ。仄々がよく知る旅風は緑の色を持ち、まるで草原を駆けるように黒き海を彩っていく。
(「自分の心に残っている善なるものに気が付いてください――」)
祈りを込めた水の矢がポーシュボスを貫き、かき分け、モリアーティを穿った。
「皆さんは全テを奪ワれタわけではないのです」
次々と何処かの国の曲を奏でていく仄々。ポーシュボスに喰われるせいか声が少し震えた。
一部のポーシュボスは聴き入るように動きを止めたり、戦慄いたり。
『アあ……知ッてル。知っテる』
『マまノうタ』
『友達ノうタ』
「思イ出シてください。あなたがたの善の心を」
竪琴の演奏は黒い触手の海を波立たせ、そして翻した。
戦旗の如き音楽――仄々に迫っていたポーシュボスの触手先がモリアーティへと向けられたのだ。
『プろフぇッさー、夜ガくル』
『オやスみノ時間……』
『死、死、死、シぃー……』
子守唄ように寝かしつける声が重なってゆく――しかしそれはモリアーティの望むものではなかった。
「……善の心とは、煩わしいものだな。我が望む世界には不要な物だ」
寄せてくるポーシュボスを潰す勢いの
現象を吐き出していくモリアーティ。
だがそれもやがて彼を弱らせる一手となるのは確実。
誰かの善の心、優しさを輝かせる焔の矢が加わり、戦場を緑と青、赤い光で彩っていく。
光が混ざり合ったオーロラ色の矢群で狂気を調伏しながら仄々は竪琴を奏で続ける。
ポーシュボスの瞳や裂けた口に映る焔の矢色は、生前育ててきた善が開花したみたいに輝いた。
「闇を駆逐しましょう――還る時は安らかで在れるように」
そうして還るあなたの美しい善の心が骸の海に響き渡りますように、と。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
そうでっすかー。
聞き飽きちゃいましたかー。
でしたらええ。お聞かせするのでっす!
藍ちゃんくんの歌を!
おじさまが聞いたこともないような皆様の声も!
歌うのでっす。
心を込めて歌うのでっす。
ポーシュボス化してしまった皆々様の心に届けと歌うのでっす!
その嘆き、その悲しみは侵食されても尚遺る皆様の心!
記憶も正気も定かでなかろうと、この歌は問答無用で癒やすのでっす!
藍ちゃんくん自身もポーシュボス化していくでっしょうがー。
それがどうしたというのでっすかー?
ポーシュボス化しようとも謳い続けるのでっす!
藍ちゃんくんでっすよー!
この歌もこの在り方も、理屈も条理も超越したものなれば!
癒やされた藍ちゃんくん達の心をポーシュボスは何度でもと喰らおうとするでっしょうがー。
させないのでっす!
この歌は皆々様を傷つけず、その原因のみを吹き飛ばす歌!
ポーシュボス・フェノメノン!
ただそれだけを祓う歌!
フェメノンを宿している以上、どれだけ複雑に動こうとも砲弾は迎撃されるのでっす!
身体をフェノメノンとしているおじさまも言わずもがな!
「ポーシュボスたちよ。『邪悪ナる者』でなければ、お前たちを完璧に扱うことは出来ないだろう。お前たちは本能赴くままに他者の善の心を喰らうことを良しとするのか?」
重ねられていく猟兵たちの攻撃に、モリアーティの使役を徐々に外れながら本当の善の心を思い出してきたポーシュボスたち。
だが今一度モリアーティが声を渡らせれば、善の心を内包するポーシュボスたちが戸惑い呻く。
『ウう……僕タちハ』
『コれ以上、誰カを襲イたク無い……』
『思イ出しテ……想い出シて』
「自身で選び取る未来だ。幼女総統を捉え、『国へ帰ろう』ではないか」
ポーシュボスの意志を操り、言葉巧みに選べない選択肢を在るものとして掲示する。しかしモリアーティは真意を定かにはしない。
「然しポーシュボスも減少した。新たな善の贄が必要。猟兵の一人でも与えれば――」
「ならば! 藍ちゃんくんの歌もいっかがでしょーか?」
モリアーティの言葉に燦然と応えたのは戦場を訪れた新たな猟兵、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)だった。
「聞けばおじさまは長い航海に、聞き飽きちゃいましたとのことー。でしたらええ、ええ! お聞かせするのでっす!」
“I”mpactの弦音を響かせて始まる『
藍音Cryね』。
アコースティックギターの優しく温かみある音色に乗せるは藍の歌声。
幾千幾万と紡ぎ続けてきた音色と言葉の旋律が、ポーシュボス蠢く戦場に響き渡っていく。
(「心を込めて歌うのでっす。ポーシュボス化してしまった皆々様の心に届けと、藍ちゃんくんは歌い続けるのでっす!」)
「皆々様の心に響く、新しい詞を、懐かしきメロディを!
これは皆々様の心が在るからこそ! 皆々様が大事に、育ててきた善きものが遺っているからこそ!
藍ちゃんくんはこの歌を歌えるのでっす!」
和気藍々としたオーラを振り撒いて、戦場にスペシャルエフェクトを顕現させていく藍。
(「その嘆き、その悲しみは侵食されても尚遺る皆様の心がここにあるからこそ!」)
藍は歌うことが出来るのだ。
ポーシュボス・フェノメノンが浸食し、喰らい成長してもなお内包している善の心。
それは誰かが育ててきた感情で。
それは誰かが見つけた優しい色彩で。
記憶も正気も定かでない、この黒い触手の海で『あなた』を見つけるのは困難だ。
「デも、皆様は今も優しさを分かち合っているノでっす!」
一曲、一曲の間奏で零す藍の『言ノ葉』はポーシュボスに向けたもの。
『プろフぇッさー、撃チたクなイ……よォぉォ』
『ボく達ハ。私たチは』
モリアーティに使役され機銃弾や砲弾を放つポーシュボスたちの悲鳴。生前に経験した、善の心が悲鳴をあげている。
「その言葉ヲ、その感情ヲ、尚遺す皆様だからこそ、今モ、善を隣の誰かに与えることができるのでっすよー!」
ここは誰かの優しき時の残映に満ちている。
善の心が在ったから、なお苦しく、なおつらい経験があった。
謳いあげる藍にもポーシュボス・フェノメノンは浸食してくる――藍の優しい心がぎしりと軋んだ。理性や自我が溶けそうで、残るのは誰かを癒したいという気持ち。
身体から生えた触手が、隣の触手と繋がる。
僕は私は我はポーシュボス。善の心を喰らう
現象。
「イいエ、いいエ! 藍ちゃンくンは藍ちゃんくんでっすよー! この歌もこの在り方も、理屈も条理も超越したものなれば!」
繋がった触手――自身の
触手をぐいっと引いて、藍は呼ぶ。
「マルコくん、サミーンちゃん!」
ポーシュボス化した善の心を持つ者の名を。
ポーシュボス化して失ってしまった笑顔を、思い出して貰えるように藍は笑った。
彼らに触れたからこそ、拾い上げることが出来た名前を呼んで。
藍音Cryねは皆を傷つけず、その原因のみを吹き飛ばす歌だ。
誰かの手を繋ぎ、誰かのために寄り添う歌。
ぎゅっと一瞬だけ力のこもった触手が藍の手から離れ、骸の海へと還るのか消えていく。
彼らと藍の間に在る、狂った
現象の消失――。
(「これは、ポーシュボス・フェノメノン! ただそれだけを祓う歌!」)
藍の歌に狂気の檻が少しずつ瓦解していく。
触手に連なり繋がった狂気と悲鳴と善の心――藍からナる
現象は、モリアーティが放つ
現象にも繋がっている。
『帰リたイ還りタい』
ポーシュボスたちから剥がれていく狂気。
刹那に正気の色を宿して、モリアーティを彩る黒く蠢く海は薄まっていく。
大成功
🔵🔵🔵
鵯村・若葉
狂気戦艦……やはり戦艦とは思いたくありません。
センスの欠片もない。
前より悪化していませんか?
ポーシュボス・フェノメノン……興味深い現象です。
まるで選別だ。
悪を取り込まないのは悪を恐れているのか?
相手は早々に仕掛けてくるでしょう。
どうせこの広範囲、避けようがありません。受けて立ちます。
――これは傑作だ。
我が身にもまだ善の心があると、
現象は云うのですね。
自分もまだまだ穢れが足りないと、こんな場で示されるとは。
しかしここで現象に吞まれるなどあってはなりません。
嗚呼、我が神よ、我が神よ。
この現象もそれを従える者も屠り、あなたさまの糧に――故に、どうか。慈悲を。
(狂信による『狂気耐性』、真の姿の解放)
加護を得れば現象に巻き込まれつつも動きやすくはなるでしょう。
致命的な攻撃は避け、軽い攻撃は受けます。
そこから流れた血を使い、相手の気を引きます。
教授、司令官でもあるあなたなら理解しているはず。
これは罠――しかし一瞬でも気をとられたのがあなたがたの落ち度。
その首を、落とせ(『呪詛』『切断』)
錨に受肉させたUDC怪物。
ポーシュボス・フェノメノンによって大地を進軍していく狂気艦隊は、最早海上の覇者とは程遠い姿になっていた。
ポーシュボスに覆われた戦場では這い蠢く触手の音が聞こえてきて、ある意味『生物』の気配ばかりだ。
本来ならば在るべきものが在るべき場所におさまっているような、整然とした規則・規律で動くであろう艦内の静かな空気は微塵もない。
(「狂気戦艦……このようなものは、やはり戦艦とは思いたくありません」)
「センスの欠片もない――」
鵯村・若葉(無価値の肖像・f42715)は今日も今日とて、淡々と。
だがふと零した呟きは忌々しげな色が含まれていた。
つい先日までUDCアースの邪神を潜ませ海上を進んでいた狂気艦隊の様子は、今回すっかり様変わりしている。
「以前より悪化していませんか?」
若葉の言葉に「そうかね?」と応えるのはプロフェッサー・モリアーティ。猟兵たちと戦ってきた彼の姿は損傷しつつも今だ顕在だ。
「今の状況が悪化と言うのならば、それは世界に善なる者が存在しているからだとは思わないかね? ポーシュボスは放置していても善良なる者を喰らい拡がっていくのだから」
「……問題点のすり替えは感心しませんが、ポーシュボス・フェノメノン……それ自体は興味深い現象だと思います。まるで選別のようだ」
善良ナる心を取り込み、邪悪ナる心にはされるがまま。
(「悪を取り込まないのは悪を恐れているのか?」)
視線は外さぬままに若葉は新たな視点を、ポーシュボスの影響を受けずに使役しているモリアーティに向けた。
「ならばその選別とやらを受けてみるといい。ポーシュボスたちよ、先程お前たちが受けたモノを返してきなさい」
質問は既にされている。モリアーティは自身の黄金の機体からポーシュボス・フェノメノンを放った。
現象は容易く戦場に顕現し、蔓延し、若葉をポーシュボスに変えようとする。これはモリアーティがここに在る限り、
現象として戦場を彩るモノ。
自身を捕らえようとする触手が迫ってきて若葉はナイフを振り抜いた。
『ヒぎィっ』
ポーシュボスの露わになった切断面が悲鳴を上げ、一瞬金に輝きすぐに昏くなる。
ざわざわと水面の波紋のように広がっていく挙動。
『ヒどイ』
『痛イ……?』
無数のポーシュボスが絡まり合い、蠢き、囁く。
『君モ私もポーシュボスニなル』
『皆、違ウぅ善のォ心』
『皆、一緒ニなル、善を喰ラう』
警戒しても切り払っても、若葉がここに存在するだけで、善の心があればポーシュボスとなる――。
「この広範囲、いえ、現象。避けようがありマせンね……」
呼吸を止めても浸食してくるポーシュボス・フェノメノンは若葉の中から新たに生えようとしていた。透き通るような肌の色――見えている部分に墨が滴下したような色が滲み、蠢こうとしている。
「――これは傑作だ。我が身にもまだ善の心があると、
現象は云うのですね。まだまだ穢れが足りないと、こんな場で示されるとは――」
は、と若葉が吐いた呼気は戸惑いや覚悟といったものではなく、冷笑じみたものだった。
『アなタの善ハ何?』
『語ッてヨぉォぉォ……』
新しい
善の心を見つけ、意識繋がる周囲のポーシュボスたちが囁き声を重ねれば、次第にそれは合唱となっていった。
寄って集って行う洗脳と同じようなもの。これは穢剣を振り続けてもキリがないだろう。
何より、ポーシュボス・フェノメノンに呑まれるなどあってはならないことだ。コレが選別をしているというのなら、なおさら。
若葉には至るべきところがあるのだから。
「嗚呼、我が神よ、我が神よ」
かつて視た神へ呼びかけた。語りかけた。皆が褒めてくれるこの声はすべて神のために在るものだ。否、この身も魂も、すべてはかの神のためのものだ。
――応えてくれるだろうか?
――自分を視てくれるだろうか?
認めて貰えるように何もかもを捧げてみせよう。
自分はそのために生きている。
「この
現象もそれを従える者も屠り、あなたさまの糧に――故に、どうか。慈悲を」
そう謳えば視える。己の手と繋がる靄のような黒い糸が。
視認すれば若葉の魂は歓喜に震えた。
みてくださっている。わがおこないを。
黒き触手を踏み潰しながら穢剣を振るえば、損壊したポーシュボスたちが黒い靄を残滓としながら虚空に漂った。
一閃、また一閃と、ポーシュボスの海を、フェノメノン蔓延する宙を切り裂いてゆけば、現世に燻っている若葉自身の魂が晴れていくかのような錯覚。
モリアーティが目を眇めた。
「目の眩んだ狂信者め――この世のすべては自身のため、利用するためにあるものだ」
モリアーティが地に杖を突けばポーシュボスたちが一斉に動く。若葉を物理的に喰らうべく、触手を開いて襲撃してきた。
致命的な部分へ迫るポーシュボスを攻撃し、だが一部のポーシュボスには自身の肉を喰らわせる。
すべてを神に捧げいつ傀儡となっても良いと思っているこの肉体はまだ人の身だ。肌が裂ければ血が流れる。
「教授、司令官でもあるあなたなら理解しているはずですが」
若葉は静かに問うた。
「これは罠だ、と?」
「ええ」
両者は淡々と言葉を交わす。
若葉から流れるのは人ならざる者にとって甘美な血だ。
「お口に合うと良いのですが――きっと、最後のお食事でしょうから」
穏やかに、けれども無情に若葉は告げた。
既にポーシュボスの群れはモリアーティの使役から外れ、若葉の血を吸収したポーシュボスを喰らい始めている。共食いの
現象が戦場に蔓延していた。
モリアーティへ現象が向けられるのも何ら不思議ではない。
「……ぐっ……」
ぐるりとひっくり返った触手は、今まで使役を続けてきたモリアーティを絞めあげ、その黄金機械の身体は拉げていく。
硬質な身体を破壊していく触手。人では到底無理な力だ。
これは誰かだった善の心が既に人ならざるモノになっているあかし。
すなわち骸の海へと還るべきモノであるあかし。
「これは一瞬でも気をとられた『あなたがた』の落ち度ですよ」
発露させた若葉の狂信仰心からなる怪異酩酊は強い。
モリアーティとポーシュボスの位置を、明らかに降す呪言を披露する。
「最上位に在る我が神への糧となれることを誉れとなさい」
現象――若葉は戦場に蔓延するモノへと語り掛けた。
「その首を、落とせ」
黄金の管を潰され、身の内からポーシュボス・フェノメノンに喰われていたモリアーティの断末魔は無い。
大きく拉げた音が響き、鯨波のような轟きを起こし溢れ出したポーシュボスが一気に鎮まり昇華していった。
常に音の在った艦隊が静まり返ったその瞬間。
猟兵たちの耳を打った静寂は、無音の勝鬨そのものであった。
大成功
🔵🔵🔵