●新入生への試練
たくさんの花が蕾をつけ、次々と開いてゆく。
アルダワ魔法学園にも新しい花が咲く季節だ。
年中開いている購買部だけでは間に合わないから、いつもは静まり返っている大会議場の一室を今だけ特別に開放することで、まるでバザールのようにして商人たちが競い合って店を広げている。
「お嬢ちゃん可愛いねぇ、真珠羊のウールスカートはどうだい? 煌びやかでつやつやで、極上の触り心地だよ」
「うちの入道雲綿のブラウスは、夏はひんやり、冬はしっとりしているよ」
うず高く積み上げられた反物はどっしりとモザイク煉瓦めいていて、棚に並ぶ糸巻きはグラデーションを織りなして、まるで輝きを秘めた宝石棚みたいだ。ああ、宝石箱ならちゃんとあるじゃないか。宝石や貝で作られたボタンが、綺麗に形を揃えてびっしりと並んでいる。
「あ、あの……、わたし、普通ので、いいので……」
声を掛けられた新入生のモニーは困っていた。
魔法学園に明確な制服は無い。だが、自主的に魔法学園服をオーダーメイドで作れることになっている。
モニーは魔法学園に憧れていたから、学園服を作ろうと思って来たのだ。
しかしサイズを測ったまでは良かったものの、オーダーメイドなど初めてだから、好きに作っていいと言われても、何をどうすればいいのかわからないのだ。
おまけに、ここには最高レベルの蒸気文明と魔法文明が導入されている。
見たことも聞いたこともないような素敵な布地に囲まれて、どれもこれも、選べない。
――どうしよう、どうしよう……!
●グリモアベースにて
「ちょっとしたお仕事だよ」
グリモア猟兵のフルム・サーブル(森林の妖精さん・f03354)が集まった猟兵達に声を掛ける。
「アルダワ魔法学園で、新入生を歓迎して欲しいんだ。パーティーの時間に遅れちゃっている子がいるんだ」
モニーという名前の、ケットシーの女の子だ。ジョブはシンフォニア相当で、歳はUDCアースでいえば小学生といったところだろう。
「君たちには、転校生として学園服オーダーメイドの臨時仕立て屋さん部屋に突入してもらうよ」
やや物騒な物言いだが、間違ってはいない。
モニーがもたついているのをうまくフォローして、ついでに自分達の学園服も作ってしまおうというのが今回の任務の取っ掛かりだ。
「猟兵には贅潤な予算が使える人が多いだろうけど……モニー君はそうもいかなくてね。見知らぬ転校生にいきなり無条件で高額なおごりをされてもドン引きしてしまうだろうから、さり気なく一緒に選べるような流れを作ると良いと思うよ」
たとえ凝りに凝った服を作っても、地下迷宮の冒険でボロボロになってしまうのが学園生活のお約束だ。
そういった面も考えて、今回は王道かつ無難な物を選ぶといいかもしれない。
「学園服を作ったら、モニー君の迷宮デビューを手伝って欲しいんだ。転校生である君たちは『付き添い』という形で、モニー君に経験を積ませてくれないかい?」
最初に向かうフロアは、シンプルな壁だらけの区画だ。石壁、木壁、土壁……さまざまな壁をどうやって破るのか手本を見せたり、モニーに挑戦させてみるといいだろう。
攻撃は苦手だとしても、やらなければならない場面に出くわすことだってあるのだ。
「ダンジョンを抜けた先には、災魔であるふだつきマウスの群れがいるよ」
区画を壁だらけにした犯人は、このいたずらネズミだ。
ケットシーを嫌っているため、モニーが狙われることがあるかもしれない。
ただし、モニーも魔法学園のいち生徒だ。これからの自信をつけさせるためにも、万全のガード態勢にしてしまうよりは、後衛としての動きを練習させるぐらいのつもりで挑むのが良さそうだ。
「危険はとても少ない迷宮だから、気軽に挑んでくれていいからね」
本来なら生徒たちでも余裕の迷宮だ。戦闘に自信のない猟兵の訓練のつもりでも良いし、どれだけモニーが満足できるかに注力してしまっていい。
フルムはそう言うと、グリモアを桜の花の形に変えて猟兵達を送り出すのだった。
みづかぜ
みなさんこんにちは、みづかぜです。初めましての方は初めまして。オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。
微力ではありますが全力で猟兵の皆様の冒険をお手伝いする所存でございますので、宜しくお願い致します。
第1章は【日常】です。学園服に明確な決まりはないのですが、せっかくなので魔法学園っぽい服を作るプレイングを書いて頂けると嬉しいです。
『材料』『デザイン(ブレザーとかローブとか)』を指定していただいて、服を完成させましょう。
拘りのポイントさえ指定すれば仕立て屋さんがいい感じに作ってくれます。
オープニングで例に挙げた生地や材料の設定は架空のもので、魔法学園パワーで大体のものは何とかなると思います。ただし、実在の商品名やあまりにヤバそうな設定はマスタリングします。
お任せの場合みづかぜのセンスで勝手に設定しちゃいます。
アイテム発行はありませんが、フレーバーとして思い出に残れば……といったシナリオです。
第2章は【冒険】で、第3章は【集団戦】です。
猟兵なら楽勝のダンジョンですが、転校生(猟兵)だけで突破してしまうとモニーの学園生活がスタートからつまづいてしまうことになるので、ある程度モニーにも花を持たせてあげてください。
それでは、皆さまのプレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『オーダーメイド学園服を作ろう』
|
POW : 採寸や材料選びに勤しむ
SPD : 自分で縫製するなどして、お手伝いをする
WIZ : 自由にして良いの部分のデザインを練る
|
月守・御剣
「よう、迷ってるのか?俺も服とかあんまり良くわかんなくてさ、良かったら一緒に選ばないか?」
「学園だとやっぱダンジョン攻略する事になるから、長く使えるように丈夫な素材が良いんだよな?」
蜘蛛の糸って確かかなり頑丈だったよな?上着として丁度良いかもなー。
あくまでモニーが自分で選べるように、さりげなく誘導しつつ、自分の上着も作っておく。黒い陣羽織風にしようかな。
一緒に選んでくれた記念だ、素材の分は俺が持つよ。気になるなら今度なんか奢ってくれ、珍しい飴とか大歓迎だぜ?
オレンジ味の飴を口に放り込みながらいくつかのフルーツ味の飴を選べるように差し出して、迷ってるようなら全部ほいっと握らせてニカッと笑おう。
鈴木・志乃
この歳で学生服はなあ……
ローブにしよローブ
【POW】
【コミュ力】【礼儀作法】
丈夫な生地の方がいいと思うよー?
迷宮に行ったら汚れるし破けちゃうからねー
(モニーの横であれやこれや見ている【第六感】【見切り】)
すみません、これ火炎耐性はどんなもんですか?
ナイフですぐ切れちゃいますか?
(わざとモニーに聞こえるように問う
生地を軽く引っ張って伸縮性を確かめ
洗濯できるか等実用的な質問を繰り返し)
これなら動きやすそう!
黒色ありますか?
(宵闇色のローブ。薄くて軽くて、でも温かい。雲鴉の糸が使われている。アドリブ歓迎)
(飾り気はまるでない、が)
これでよし
(胸に下げたアメジストと琥珀色の目が輝く【誘惑】)
鳶沢・成美
よくわからないなら『予算を提示してお任せ』でだいたいどうにかなると思う今日この頃
「相手はその道のプロだし予算オーバーさえ気をつければ
一着目は丸投げでもいいんじゃないでしょうかね」
「それで使っていれば色々拘りも見えてきますよ」
:仕立て:
「僕の分は、そうだな今回は学ラン風で行こうかな」
(学ランの写真を見せて)全体的にはこんな感じで
後マントも欲しいな内側にポーションを止められるストラップをつけてもらって……
「わりと後ろがかりだからこれでいいでしょ」
材料は学ランは一般に流通してる羊毛でガッツリ詰めた織の生地
マントはちょっと奮発して魔法耐性があるやつがいいかな
立ち尽くすモニーの元にやってきたのは、転校生たちだ。
あくまでさり気なく、各々が自由に洋装屋の出張区画を見て回り始める。
「よう、迷ってるのか? 俺も服とかあんまり良くわかんなくてさ、良かったら一緒に選ばないか?」
月守・御剣(肉体派FPSプレイヤー・f13518)が、震える子猫――モニーへと声を掛けた。
ある程度近い年齢の頼もしそうな学生が現れたことで、幾分か緊張がほぐれ安心したモニーもおずおずと言葉を紡ぐ。
「うん……先に来てた大きなお人形のひとは、オーロラのドレスを作ってて……でも、わたしはそういうのじゃなくって。……あ。わたし、モニーっていいます」
真新しい名札を指さしてから、ぺこり。簡素なワンピースの裾から伸びたふかふか尻尾が揺れた。
「月守・御剣だ。好きに呼んでくれ。学園だとやっぱダンジョン攻略する事になるから、長く使えるように丈夫な素材が良いんだよな?」
御剣が素材系の布地屋に目配せをすると、恰幅の良い主人も商売人の目線で助言を行う。
「ベースは丈夫なものを選ばれるお客様が多いですな。ただ、育ち盛りだとすぐに着られなくなりますから、直すよりも新しいのを作られる方も多くて……」
「丈夫な生地の方がいいかなー。迷宮に行ったら汚れるし破けちゃうからねー」
快活に、流れるように、鈴木・志乃(ブラック・f12101)が助け舟を出した。
志乃は成人を迎えてからの学生服にはやや抵抗があり、ローブを作るつもりで隣の魔法加工の布屋と対面している。
「すみません、これ火炎耐性はどんなもんですか? ナイフですぐ切れちゃいますか?」
「当店の商品は、一部の飾り生地を除けば難燃性ですのよ。特に水の精霊の加護のあるものにはこちらのタグを付けてございます。ご参考くださいまし。ナイフは……そうですねぇ、ものにもよりますかしら?」
星空のような仄暗いローブに身を包んだ布屋は、志乃にあれこれと目的に応じた布を勧めている。
「これとか、伸びるから動きやすそうですね。洗濯ってどうしたらいいですか?」
「ええ、此方もお勧めですわ。剣を振られる方にもご好評をいただいておりますの。洗濯も、簡単な汚れは水で洗えますし余程の呪いでなければ普通の魔法クリーニングで問題ございません」
「これなら動きやすそう! 黒色ありますか?」
志乃が選んだ宵闇色の黄昏を閉じ込めた生地と雲鴉の羽根で作った糸を布屋に差し示すと、軽く着衣の上から採寸して採った数字や、事細かな指定を書いた羊皮紙を布屋から受け取る。
「あとは端の仕立て職人の元へこの布をお持ちくださいませ。刺繍や紐はその途中にある小物屋で選べますわ」
青銅の裁ち鋏で裁断した布をいくつか紙に包み、志乃が布屋から生地を受け取る。
「なるほど、こういう感じなんですね。行ってきます」
志乃の簡素なローブのオーダーは驚くほどスムーズに進んでゆく。一連の流れを見ていたモニーと御剣も、『そう難しくはなさそうだ』という安心感が強まっていた。
「蜘蛛の糸って確かかなり頑丈だったよな?」
「種類にもよりますが、大型迷宮蜘蛛のはそりゃあ強力ですな。防具としても優秀です」
御剣と布地屋も交渉を再開する。
「上着として丁度良いかもなー」
「ええ、ええ。スパイダーシルクも各種取り揃えておりますから、是非どうぞ。厚みでいうとこの辺りが上着向きでしょうか……」
陣羽織風の上着を作りたいと希望する御剣に対して、布地屋の主人はデザインの詳細を聞き取って熱心にメモを取っている。
「ローブか……いいな……」
モニーも暗い布なら色々な小物が映える利点を見出し、イメージを固めつつあった。
「大地の芽吹きの力や光の精霊の加護が、今の時期の流行りですわ。どれに致しましょうか?」
志乃を送り出した加工布屋も、次なる顧客であるモニーへとターゲットを移す。
「ひ、ひえ……」
「よくわからないなら『予算を提示してお任せ』でどう?」
続いて現れた鳶沢・成美(人間の探索者・f03142)が、緊張するモニーへ優しく語りかけた。
「相手はその道のプロだし、予算オーバーさえ気をつければ、一着目は丸投げでもいいんじゃないでしょうかね」
「丸投げ……選べなくてもいいのですか」
「実際に使っていれば色々拘りも見えてきますよ」
新しい切り口で語られる成美の意見は、選ばねばならない重圧からモニーを解放しつつあった。
「あの、わたし……ローブがいいかなって。暗い色で魔法使いらしいのと、それと、冷え冷えにならないようなのと、迷宮の冒険に使えるできるだけ強いのがいいです。予算は……お父さんとお母さんから、金貨3枚分はいいよって、もらいました」
きちんと希望を言えたモニーは、どこか満足気だった。
「かしこまりましたわ。お嬢さんはケットシーですので、布地が少なくて済みますの。ご予算の範囲でしたらこのオブシディアンフェルトに春の女神の加護がお付けできますわね」
「あっこれ素敵――、はい、はい!」
モニーが決められるようになったのを確認し、成美は別の商人に交渉を持ちかける。
「僕の分は、そうだな今回は学ラン風で行こうかな」
UDCアースの『学ラン』の画像を商人に見せ、各部の形状や材質を説明してゆく。それに合うようなマントも交渉し、内側にポーション用のストラップも付けられないか希望を述べた。
「わりと後ろ係だからこれでいいでしょ」
後衛向けの装備で、学ランは冬服らしい冥界羊のウール織物を。マントはちょっと奮発してアンチマジック加工の聖骸布を選ぶ成美だった。
「それでは皆様ご照覧!」
仕立て屋は使い魔のブラウニーを召喚し、蒸気ミシンで一気に学生たちの衣裳を縫製する。
蒸気ミシンの動作は針の残像が見えない程高速で、魔法のように(実際魔法なのだが)あれよあれよと布が繋ぎ合わされ、組み立てられて服になる。同時にどんどん発生する糸くずをブラウニーたちが掃除してゆく。
「すごい、すごい……」
モニーと『転校生』たちの学園服は、こうして魔法学園で完成したのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『破壊者の迷宮』
|
POW : 力で破壊する。
SPD : 技術で破壊する。
WIZ : 魔法で破壊する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
学園服を作り終えた新入生・転校生たちも、元々持っていて新しく作る必要のなかった転校生たちも、新入生歓迎用に選び抜かれた簡単な迷宮の元へと集合していた。
『真っ直ぐ進むだけです。奥にネズミがいます!』
立て看板にはポップな丸文字でそう書かれている。
「まっすぐって……?」
新品の風合いに艶めく闇色のローブの裾をはためかせた新入生・モニーが、立て看板と入口を交互に見やり、首を傾げた。
入り口らしき場所は編まれた藁で塞がれていて、堂々と「×」のマークがペンキで塗られている。
つまり、普通に考えれば通行止めなのだ。
「壊せってことだろうね」
転校生の誰かが言った。地下迷宮では、そのまま通れるように見えるところだけが道ではない。
そんな教訓を教えるためなのか何なのかはわからないが、とにかく挑戦してみるしかないのだろう。
「わたしのにゃんこ殺法がどこまで通用するかしら……音波攻撃のほうがいいのかな……?」
この後には木の壁、土の壁、石の壁が控えている。
転校生たちとモニーは、果たしてどうやってこの迷宮を突破するのか――
もし、できれば、『みんなで』強力して突破できれば、きっと新入生としての良い第一歩になるだろう。
鳶沢・成美
そういえばモニーさんに自己紹介してなかった気がする
「そういえば名前を言ってませんでしたね、鳶沢成美です。よろしく」
入り口が塞がっていて、その後は色々な壁が控えている……ここはこう考えよう、練習の的に困らないと
「だんだん硬度が上がる感じ、これは技の威力が確認できるいい場所ですね」
「どうですモニーさんちょっと試してみませんか?」
僕も【火雷神道真】の準備をしておいて、モニーさんが疲れたりしても困るし
壁が固いところは一緒に壊したりしましょう
「僕も手伝いましょう」
アドリブ・絡み・可l
月守・御剣
アドリブ共闘オッケーだ。
「ん、壁をぶっ壊して進めば良いのか。……モニーは攻撃は何が出来るんだ?」
にゃんこ殺法の字面から何が出来るのかがわからねぇ……とりあえず壁に対して通じそうな気だけはまるでしないんだが、これも思考力の鍛錬か。
「よし、とりあえず音波攻撃で壁に振動を与えて脆くしておいてくれ。んで、俺が斬りつけるからにゃんこ殺法の何か打撃系の攻撃を頼む」
まあ考えた所で力押しは力押しだな。
紅華牡丹で『斬った』場所なら壊せるだろ。トドメは任せたぜー?
「そういえばきちんと名前を言ってませんでしたね、鳶沢成美です。よろしく」
共にオーダーメイドの区画を過ごした成美が、ふたたびモニーへと声をかける。
「はい、よろしくおねがいします!」
モニーもそれに応える。新入生としての出だしは順調だ。
「壁をぶっ壊して進めば良いのか。……モニーは攻撃は何が出来るんだ?」
御剣が水を向けると、モニーも独り言から他人へ分かる形へと言い方を変える。
「えっと、攻撃は……声の範囲攻撃ができます。あとは、一対一で爪を使った格闘技がちょっとだけできます。こっちはあまり得意じゃないです」
「……とりあえず壁に対して通じそうな気だけはまるでしないんだが」
御剣が思った通り、圧倒的に相性が悪かった。
「入り口が塞がっていて、その後は色々な壁が控えている……ここはこう考えよう、練習の的に困らない」
成美がポジティブな提案で助け舟を出した。
「どうですモニーさん。ちょっと試してみませんか?」
「うーん、やってみます。え、えーい!」
基本的な正拳突きの姿勢でモニーが入口の『×』の下方を殴りつけると、猫の爪は音もなく衝撃を受け流す藁の壁に刺さった。
「んぐぐ……やはりわたしではこのぐらいしか……」
それ以上は藁を切れそうにない爪をしまって、モニーは壁から手を離す。
「僕も手伝いましょう」
成美は火雷神道真(ライジーン)により雷の礫を創り出すと、編まれた藁へと次々にぶつけてゆく。
「おおー、だんだん燃えて……」
横殴りの落雷のごとく命中すると、感電のぱちぱちという音を出してゆっくり藁が燃え始めた。
怨霊の祟りを思わせる藁火が、線香のような匂いを立てる。
「こういう術式があると、便利になりますよ」
「わあ……わたしも、精霊術の授業をがんばって受けます!」
ひとりでに藁が燃え人間が通れるサイズの穴が開いて、床が靴底を痛めない熱さまで冷めるまで、式神の良さをモニーへ語る成美だった。
次なる部屋には、木で出来た壁に相変わらずの『×』が描かれている。雑に釘打ちを行ったバリケードに似ていた。
「よし、とりあえず音波攻撃で壁に振動を与えて脆くしておいてくれ。んで、俺が斬りつけるからにゃんこ殺法の何か打撃系の攻撃を頼む」
御剣が派手な柄のみの斬馬刀を構え、モニーへと提案を行う。
「わかりました! ――にゃーん♪」
発声練習のような声が木の板を震わせて釘を緩めると、やや離れていたところにいたはずの御剣が壁の際へと現れ、居合いで斬り付ける。
「華閃刃、咲く刃華(ハナ)あれば散る血華(ハナ)あり」
カタカタと震える木の板を不可視の刃が裂いた。
「とぉーっ!」
そこへモニーがダッシュで間合いを詰めて、脆くなった板を殴りつける。
斬られた板を押し出す様にして落とすと、開いた穴から次の部屋が見えた。
「やったー! これでクリアー……あっ」
ケットシーなら通れるサイズではあったが、人間にはまだまだ小さい。
結局は皆で障子戸を破りまくるようにして板を落とし、骨組みを斬って進む転校生たちであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鈴乃音・司
壁を破壊すればいいのかにゃ?
27歳の転校生、つーにゃんに任せるにゃ♪
まず、土の壁をパンチして【動物召喚】を使うにゃ。
戦っている対象にしか発動しないから、土の壁と戦ったにゃん。
出てきたのはモグラくんにゃん♪ よろしくにゃん♪
(モグラが壁を掘る様子を見て)このままだとパーティーが終わるにゃ……。
だから、モニーちゃんに協力をお願いするにゃん!
「突然だけど、お願いがあるにゃん! モニーちゃんは身体強化系や回復系の歌を唄えないかにゃ?
つーにゃんたちを助けてにゃ!」
モニーちゃんの唄が回復系なら【動物召喚】を連発して動物の数を増やして、強化系ならモグラくんの隣でつーにゃんもパンチで壁の破壊に専念するにゃ♪
木の壁で遮られた区画を抜けた一行の前に現れたのは、粘土を練り上げて作られたような土壁であった。ご丁寧に、『×』のマークも赤い塗料で主張をしている。
「壁を破壊すればいいのかにゃ? 27歳の転校生、つーにゃんに任せるにゃ♪」
ぴこっと猫耳を立ててさっと前に出たのは鈴乃音・司(バーチャル猫耳アイドル・f14615)。
晴れやかでカラフルなアイドル衣装と小物に身を包んだ彼女が一体どうするのかと思いきや――壁をパンチ! パンチ!
「にゃっ!?」
このギャップにはモニーもびっくり。
「戦っている対象にしか発動しないから、土の壁と戦ったにゃん」
「にゃるほどー。詠唱のようなものなんですね」
にゃんにゃんとした会話をはさみつつ、動物召喚(アニマルサモン)によって出てきたのは、ずんぐりむっくりとして大きな爪をもつモグラだった。
「モグラくんにゃん♪ よろしくにゃん♪」
司のお願いを聞き届けるように、鋭い爪を立ててモグラは土壁の中へと入り込んでゆく。掘られた土が壁の中からもりもりとあふれ出していく様子が、順調に掘り進んでいることを示していた。
だが、小さなモグラでの開けた穴では、皆が通るにはまだまだ小さい。
「突然だけど、お願いがあるにゃん! モニーちゃんは身体強化系や回復系の歌を唄えないかにゃ? つーにゃんたちを助けてにゃ!」
「はい、回復は得意です! ――フレ、フレ、みんにゃ~♪」
大きく息を吸い込んで発せられた『疲労を癒す唄』が迷宮に響くと、司も体力を気にすることなく、動物召喚によるモグラを増やしてゆく。
「モグラのみんな、がんばるにゃん♪」
最初に開いた小さなモグラ穴を、他のモグラがどんどん拡げてゆく。
がむしゃらな打撃であれば生き埋めも危惧されたが、穴掘りのプロフェッショナルによる丁寧な手作業は、とても安全に通路を開通させたのであった。
「お疲れ様にゃん♪」
「モグラさん、ありがとう」
モニーも穴掘りに貢献出来て、満足気にしていた。
そして最後に残るのは、今までで一番硬い関門となる石の壁だ。
新入生もここまでずっと何かしらの貢献ができたのだから、次ぐらいは強い転校生の独壇場となっても問題ないだろう。
大成功
🔵🔵🔵
鳶沢・成美
後は石壁か、こういう力業系わりと苦手なんですが
「まあ、覚えたての術のテストにはちょうどいいかな」
石の壁の弱点(割れやすそうなポイント)を”第六感”で判別
そして”2回攻撃”の”全力魔法”で【氷塊撃】使用
「たかが氷でもこれだけの質量ならどうにでもなるでしょう」
「一撃じゃ無理でも壊れるまで打ち込めばいいんですよ」
アドリブ・絡み・可
今までの壁は前座だったのかと言わんばかりに、ひときわ硬い壁で進路が塞がれている。
石を積み上げてその隙間をセメント材で塞いだ石壁は、城壁と言っても過言ではないだろう。
「こういうのって、張りぼてだったり……冷たい!」
「力業系わりと苦手なんですが……まあ、覚えたての術のテストにはちょうどいいかな」
ためしに触ってみて本物の石壁であることを確認し、目を丸くしているモニーに代わって、成美が前へと出る。
「割れやすそうなところは……」
見た目からして複雑に組み合っている石は、その奥でどのように広がるサイズなのかも定かではない。
成美が感覚を研ぎ澄ませて壁全体を見やると、石の大小が極端な比率で組み合わされた箇所が気にかかる。
「――そこだ!」
氷塊撃(ヒョウカイゲキ)による単純で重い氷の塊が二つ、次々に飛来した。
「たかが氷でもこれだけの質量ならどうにでもなるでしょう」
成美の言う通り、氷塊がぶつかった石にはヒビが入り、その周辺に塗り込められたセメントも細かく砕かれている。
一方で、氷の塊は術によって生成されたものであり、割れて消滅したところで問題にはならない。
小細工無しの堅牢なるもの同士のぶつかり合いは、物量戦である。
「一撃じゃ無理でも壊れるまで打ち込めばいいんですよ」
言葉通り、全力魔法による氷の隕石群が大災害のように石壁を襲う。
地響きによって床面近くに空いた横穴が広がるように壁は崩落し、やがて、自壊した。
「すごい……これが、強い魔法……!」
モニーも目を輝かせてその光景を見守っていた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『ふだつきマウス』
|
POW : カンバンストライク
単純で重い【看板】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 『ここは通行止めだよ!』
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【行き止まりの標識】を作った場合のみ極めて精巧になる。
WIZ : 仲間がピンチだ!
自身が戦闘で瀕死になると【ふだつきマウス1匹】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
「お前ら何をしてるッチュ!」
「団長、壁が、――壁が破られたでチュー!」
ふだつきマウスの群れは混乱していた。
「バカな、ウォール・ウッド、ウォール・マッド、ウォール・ロックの三重の守りがあったはずチュー」
「全部やられたでチュ! 学生が侵入してくるチュー!」
「中央区は絶対安全だという話ではなかったのかねッチュ!?」
「お願いでチュ、子供がいるんでチュ……奥へ逃がして下さいチュー」
集団の統率は、壁が崩壊したせいでどうやらバラバラになっているらしい。
だが、どことなく人間臭いやり取りは同情を誘う。このような感情のある敵を相手に、新入生がきちんと戦えるか気になった転校生がモニーを見ると……。
「ネズミは、全部――駆逐してやるっ!」
めちゃくちゃやる気だった。
ネロ・バロック
たまたまアルダワに来てみれば面白そうなことやってるじゃんか
ぶっ壊す・ぶっ倒すのは得意だ、俺も手伝うぜ
【POW行動】
「その意気だぜ、嬢ちゃんよ」
(この嬢ちゃんは後方支援が得意、ってところか)
「俺が突っ込むからよ、後方支援頼むぜ」
羅刹旋風は隙きがでけェからな
ネズ公共のうち漏らしの攻撃
武器をぶん回しながら鼠の群れに突撃する
【捨て身攻撃】【生命力吸収】を活用だ
隙の分はモニーに埋めてもらうつもりだぜ
他の猟兵もいれば一緒に大暴れするぜ
心情的には子供がいるでチュ…と言われたら手を出しにくいな…
見なかったことにして他を叩く
ボスっぽいやつがいたらトドメはモニーに譲ってもいいが
攻撃が苦手ならそのままやる
月守・御剣
イ、イェーガー……。
まあやる気無いよりは良いか。
とは言え、モニーが突っ込み過ぎてやられないように気を配ろう。
我等を阻む壁はない!行くぞ者共、奴らの心臓を捧げよ!……まあ敵だしな。
全体的な動きを見て、基本的に味方が危なそうな場所を手伝うようにしよう、ってモニーじゃねーか。
まあ、横に並んで戦うとしようか。
「看板の威力じゃねーよなそれ!?」
看板ストライクは動きを見切って素直に回避だ。
「悪いがたった今通れるようになった!」
そもそも通行止めってどう言う事だよとは思うけど、通行止めの標識を立てられたらあっさり叩き切っておくよ。
鈴乃音・司
モニーちゃん、やる気みたいにゃん♪
だったら、つーにゃんはさっきの歌のお返しで【サウンド・オブ・パワー】でモニーちゃんや皆の戦闘力を増強するにゃ!
もしつーにゃんが唄おうとしたときに悪い鼠さんが襲ってきても、ジャンプにスライディングで避けるにゃん!
アイドルはどんなハプニングにも対応して唄うものにゃん!
フレフレー、モニーちゃん♪ フレフレー、みんにゃー♪
悪い鼠さんを懲らしめるにゃー♪
鳶沢・成美
これでモニーさんの迷宮体験もおしまいですね
「最後まで気を抜かずにいきましょう」
相手の数が多いなら数を減らさないといけませんね
モニーさんも範囲攻撃ができるんでしたね活躍のチャンスです
「自分の出来ないことは仲間に頼る、仲間の出来ないことは自分が頑張る、パーティ組んでるんですから」
僕もちょっとやっときますか
【火雷神道真】使用
●猟兵と書いてイェーガーと読むので何の問題もない
「その意気だぜ、嬢ちゃんよ」
や(殺)る気を見せるモニーを、視察がてらアルダワ魔法学園を訪れていたネロ・バロック(羅刹の黒騎士・f02187)が褒めて後押しをする。
「我等を阻む壁はない! 行くぞ者共、奴らの心臓を捧げよ!」
機運を掴んだ御剣がすかさず当意即妙な号令を下した。
「ぶっ壊す・ぶっ倒すのは得意だ、俺も手伝うぜ」
ゆらり、無骨な黒の鉄塊剣を携えたネロが前へと出て、武器を振り回して羅刹旋風を起こす。
モニーが後方支援型であることを見て取っての判断であった。
「俺が突っ込むからよ、後方支援頼むぜ」
言うや否や、抗戦の意を示すふだつきマウスたちのもとへ向かう。
「われらの平穏を守るでチュ! 鬼め、喰らうでチュ!」
見た目通りの看板とは思えないほどの質量の武器を持った鼠の群れがネロへと押し寄せる。ネロが良心の呵責に眉を顰めたと同時に周辺の床が抉れる程の轟音と土煙が起こるが、一緒に鼠の呻くような鳴き声も聞こえた。
「最後まで気を抜かずにいきましょう」
成美の火雷神道真(ライジーン)が、鼠の前衛隊を捉えていた。
哀れ、看板はそのまま頽れたふだつきマウス達それぞれの墓標となった。
「やられっぱなしにはならないチュー!」
先遣隊を潰されてもなお、数にものを言わせた鼠の進軍は止まらない。巣の奥からは、瀕死の仲間を助けようと後詰めの援軍まで現れた。
「フレフレー、モニーちゃん♪ フレフレー、みんにゃー♪」
司の歌声が学園生徒たちに届くように、サウンド・オブ・パワーが広がり響く。朗らかなエールが、皆の力を高めていった。
猫の鳴き声を思わせる高音に反応した鼠達は、明らかに不快感を示した。
「猫のせいで、われらはこんな所まで逃げ込んだチュ!」
「滅ぼされてたまるかッチュー!」
大原則として存在する、学生達に悪戯を繰り返した罪のことは棚に上げるらしい。ネロや御剣のようなさきがけに相対していた鼠の一部が、司へと矛先を向ける
「アイドルはどんなハプニングにも対応して唄うものにゃん!」
振り回される看板を飛び越え、鼠の間を滑る司の姿はステージショーの殺陣のように華麗だ。
「ちょっとこちらに来すぎですね」
抜けてきた鼠を、成美が雷のつぶてで押し戻してゆく。百を超える光弾が規則正しく降りしきるさまは、ステージを彩るレーザーのようでもあった。
「モニー、ちょっと前出過ぎだな」
御剣がふと接近する味方の気配に振り向くと、合いの手のように音波攻撃による支援を行っていたはずの新入生が敵の群れの突出に誘われて後衛とよべる範囲を出ている。
「あっ、わたし、いつの間に……」
「まあ、横に並んで戦うとしようか」
最前線で暴れるネロは、司の支援で普段より更に荒々しい暴れ鬼と化している。守りを捨ててはいるものの鼠から生命力を奪い、敵の数を自分の有利へと変えていた。
「道を通れるようにする。一緒に少しずつ押していこう」
「行かせないチュー!」
「看板の威力じゃねーよなそれ!?」
御剣は大振りな看板――ほとんど鎚だが――の軌道を見切りつつ、めり込んだ看板から手を離さない鼠を蹴り進む。
そして紅華牡丹(クレナイボタン)で小隊の纏め役とおぼしき体格の鼠を斬り捨てる。
残る弱い鼠は逃げ惑い、やがて成美の術によって雷の礫に撃たれていった。
「自分の出来ないことは仲間に頼る、仲間の出来ないことは自分が頑張る、パーティ組んでるんですから」
「はい、頑張ります!」
幸運にも生き残ってしまった成美の討ち漏らしをモニーが叩き、引っ掻いて確実に息の根を止める。
他の生物はともかくとして、鼠退治だけは慣れている。初陣には格好の的だった。
「悪い鼠さんを懲らしめるにゃー♪」
調子が良いのは司の歌の支援のおかげでもある。共感は緊張を解して、力を漲らせていた。
「いいぜぇ! どうやらそろそろ打ち止めだ」
避けきれなかった幾分かの殴打を喰らいながら、ネロが巣の奥にある煉瓦造りの物見櫓を指し示した。大量の『×』が書かれた看板は、余程こっちに来てほしくないんだろうなぁという意思を感じさせる。
劣勢に恐れをなし、この区画ではないどこかへ逃げ去ってしまった仲間たちに恨み言を呟いている、他よりちょっとリッチな風合いの看板を持ったふだつきマウスがそこにいた。
「おのれー! われわれを追いやった学園が憎いでチュー!」
通行止めをあっさり切り捨てられ、仲間をほとんど失ったふだつきマウスが最後の抵抗にかかる。
「災魔は、やっつけます!」
格好こそ一対一だが、モニーは司の支援で能力を増強されている。
他に残った鼠は転校生たちの警戒によって奇襲が不可能な状況になっていた。
「失った民のためにも、道連れにするチュー!」
ふだつきマウスは看板に書かれた『×』文字から発する魔法で催眠術をかけるが……モニーのローブに宿っている加護がその制止を封じる。
止まらないモニーは、ふだつきマウスに飛び掛かって羽交い絞めにし、看板を手放させる。
「これが、私の――『恩返し』だっ!!」
困っているところを助けてもらったこと、迷宮踏破の方法の一部分を教えてもらったこと、一緒に戦ってもらったこと。
転校生たちに言いたいたくさんの『ありがとう』を乗せて、ふだつきマウスのボスへとモニーのあびせ蹴りが刺さった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵