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潰えた夢とは知らぬまま

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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 全てをこの手に。その身も、声も、心さえも。

●貪り喰らうは…
 木々の葉が重なり合い光の差さない暗い森があった。人里近くに位置するその森は足を踏み入れたが最後、二度と帰ることは叶わない人喰いの魔境。
 かつては領地拡大を目論む多くの武者を阻んだ、砦のような静かな森だった。しかしいつしかこの世ならざるものが住み着き、立ち入った人を喰らう魔の巣窟と化した。
 ――初めは狩りのために森へ入った狩猟者。
 ――次に帰らぬ狩猟者を探した家族。
 ――そして、異変に気付いた里の調査部隊。
 誰も戻らなかった。住み着いた其れらは森から出てくることはなかったが、入り込んだ者を逃さず喰らい尽くしたいのだ。以来、里人は森に近寄らない。
 それでも犠牲者は減らない。森に近づかないのは里人だけだ。里外の放浪者などは何も知らず森へ迷い込む。
「エモノ、オイシイエモノ」
「キャキャッ」
「キャキャッ」
 骸となった男の周りを雑鬼が取り囲み、耳障りな高い声で笑う。貪り喰らう醜い姿は到底見れたものではない。
「相も変わらずよく喰う」
 唐突に森へひとつの影が降り立つ。雑鬼たちは動きを止め、声の主へと顔を上げた。
「時は満ちた。雑鬼ども、行くがいい」
 指し示すは森の外。人里の方角。歓喜の声が上がった。それは狩りの許可だ。迷い込んだ獲物ではなく、こちらから獲物の元へと行くことの。雑鬼は聞く者に不快感を与える声で、喜々として森の出口を目指した。

●グリモアベースにて
 グリモアベースの一角でおにぎりを黙々と頬張る男が一人。表情の乏しい顔では美味いのか不味いのかも読み取れない。その男が、集まった猟兵たちの姿に気付いた。
「……悪いな。腹が減ってたもんで」
 慌てることなく米を呑みこんだ花棺・真尋(MADDEST TRIGGER・f04022)は開口一番、呼びかけに応じてくれた猟兵に詫びを入れた。
「オブリビオンの動きがあったのはサムライエンパイアだ。拠点らしき城を見つけたんだが、そこへ辿り着くにはある森を通らなければならない」
 その森こそ真尋が予知で見た場所だった。
「魑魅魍魎どもが住み着いていたんだが、どうも統率が取れてるんでおかしいと思ったらバックに親玉がいやがった」
 察しのいい者はすぐに気づいたことだろう。城の主であるオブリビオンがその親玉だと。そうとわかれば手っ取り早く城を攻め落とし、オブリビオンを撃破してしまいたいところなのだがそうもいかない。
「森を通らなければいけないのはもちろんだが、その前に住み着いた奴らをどうにかしなけりゃ周辺の人里に被害が出る。なまじ統率が取れてるだけに森を出て暴れられると厄介だ」
 大した強さを持たない雑鬼も、数だけは立派だ。甚大な被害は免れられないだろう。
「幸い、転移は奴らが森を出る前だ。……本当は俺自身が行きたいところなんだが、まあ予知しちまったもんはしょうがねぇ。あんたらに任せる」
 常に戦いへ身を投じている彼としては、こうして任せる他何もできないことにもどかしさを感じた。だからこそ確実にオブリビオンを仕留めてほしいと情報を伝える。
「森は昼間でも光があまり差さず暗い。光源はあった方が確実だろう。ただし相手からも姿を捉えられやすくなってる。奇襲には気を付けろ。既に人を喰らった畜生どもだ。容赦はいらん」
 派手に暴れてこい、と真尋は猟兵たちを送り出した。


滑武示侍郎
 はじめまして。滑武 示侍郎(なめたけ・しめじろう)と申します。第一作目でございます。
 今回の目的は森に蔓延る魑魅魍魎、醜い人喰いの雑鬼が人里を襲うのを阻止することです。殲滅が目的ではないのですべて倒さなくても大丈夫ですが、人里へ逃してしまえば犠牲は必ず出ます。
 逆に、ある程度数を減らし劣勢の状況となれば雑鬼たちは撤退していきます。拠点となる城へ向かうはずなので案内をさせることができます。

 森の中でのみの戦闘です。人里には行きませんし、猟兵以外の人は周りにいないので存分にドンパチやってください。

 ※些細な癖や特徴的な色、外見などこだわりがございましたらプレイングでも結構ですが、ステータスページ書いていただけるとなるべく反映したいと考えています。
 それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『魑魅魍魎の森』

POW   :    危機的状況での食いしばり、体力を問われるモノ等

SPD   :    連続戦闘や森への迅速な侵入、他速度を問われる行動

WIZ   :    多数の敵を避ける、罠を仕掛けて防備を厚くする等

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

レイン・フォレスト
人を喰らうバケモノ、か……
僕のご先祖様も似たようなもののような気もするけど、
まあ、僕には関係ないし
何よりも罪の無い人が苦しめられてるのは可哀相だしね

「暗視」を使って灯りナシで森の中へ
「忍び足」も使ってなるべく音を立てないように
雑鬼を見つけたらダガーを持ち、【シーブズ・ギャンビット】でサクッと始末するよ
敵が複数の時は上着を脱いでスピードアップ
「先制攻撃」や「二回攻撃」で上手く立ち回りたいね

雑鬼達が逃げていくようなら、その方向もしっかり確認しておこう
そっちに親玉がいるのかもしれないしね


遠呂智・景明
「さて、やることは稲刈りと変わんねぇな」

【錬成カミヤドリ】によって19本の己の分身たる【大蛇切 景明】を生み出しその1本に火の精霊を纏わせ光源とする。ほかの18本は周囲の【地形を利用】し木々に潜ませておく。

「さあ、寄ってこい雑魚ども。獲物はここぞ」
敵が寄ってくれば隠していた刀達を総動員し、近づく敵を斬り捨てる。

「はっはー、入れ食いじゃねぇか!!」
自分の近くに来れば【殺気】を込め森の奥の拠点へ追い散らすように【2回攻撃】による連撃を放ち、確実に数を減らしていく。

「さあ、案内してもらおうじゃねぇか。テメェらの親玉のとこまでよ」


御剣・刀也
こきん、こきん、と肩を慣らし
「本丸を頂く前の肩慣らしだ。派手に暴れさせてもらおうか」

敵のボスの元へ行く為に派手に暴れる
雑鬼を倒しつつ
「しょせん雑鬼か。何匹倒してもつまらん」
と、油断することなく周囲を警戒しつつ、詰まらなさそうに鬼を屠っていく
「お前らに俺の心持ちを語ったところで無駄だろうな」
と、早くボス来てくれないかな。などと思いつつ、雑鬼を斬り捨てて前へ突き進む
 


戦場外院・晶
【POW】でございます
生憎と、ぶつかるしか出来ない性分
探索や追跡などは他の方にお任せ致します……ただ殺すのみ

【忍び足】で静かに森を歩きましょう、隠れることはいたしません
獲物に見えることを祈ります

「いらっしゃいまし……っ」

私、【手をつなぐ】事がとても得意なのです
例え小さい小鬼でも、飛びかかってくる最中でも、正確に掴みとってご覧に入れます

「……灰燼拳」

掴む、【グラップル】で動きを封じて……必殺の拳で一撃

更に来るなら次もその次も、同じことを致します

【祈り】ましょう、この心が動じぬ事を
断固として事を成す事を

眼前から敵が全て消え去るまで、私は必ずそうします

「……終わりですか? 急いで本元に参りましょう」


鬼灯・こころ
灯りは持たず暗視で対応する。
狩りの許可が出てすぐにでも獲物を狩りたいなんて状況、魑魅魍魎どももさぞかし血気に逸ってることだろう。
僕がひとりで姿を見せれば、景気づけに、と思うんじゃないだろうか。

「……こんなに魅力的な獲物がここにいるんだぜ。無視なんてつれないことするなよ」

……襲ってきたらどっちがほんとの猟犬か教えてあげる。
攻撃を受けて追い込まれてる風を装いながら、耐えて油断を誘うよ。拷問具に捉えて反撃に転ずる。

「……僕を追いかけるのは楽しかった? じゃ、今度は君たちの命で僕を楽しませてくれよ」

敵を弱らせ、流血させ、生命力を『収奪する者』で奪って僕の防御力を高めながら一匹一匹駆除していこう。


御倉・ウカノ
人を喰らった外道どもだ、容赦はいらないねえ。さくっとしばき倒して親玉のところまで連れて行ってもらおうじゃないか。

ずいぶんと深い森のようだね。明かりが必要になるだろう。光源になるもの、となると『フォックスファイア』の出番かね。3つ統合した物を3つ、周りに浮かべておこうか。暗い森の中で明かりをつければ目立っちまうだろうが…相手から来るのであれば好都合だ。近づいてきたやつは斬り倒して、様子見してきたやつは『フォックスファイア』をぶつけて脅かして、やつらの根城まで案内してもらおうじゃないか。

「さあ、かかってきな畜生ども!あたしがきっちり地獄にあんないしてやるよ!」


大虚・空
なるほど
魑魅魍魎が跋扈していると

そいつは面倒だな
一般人に被害が出る前に駆逐するとしようか

……戦闘場所は森の中か
自分はある程度慣れているが一応光源は持っていくか
ヘッドライトを付けていくとするかな
これなら手も空いて奇襲対策がしやすくなるし

とりあえずはさっさと森に侵入するとするか
その後は【SPD】を活かして奇襲をかけられる前に奇襲をかけてやろう

各相手に軽く一撃ずつ入れていくとしようか

一撃入れたら一旦離脱して
少し時間を置いて再攻撃だな

なに、自分ひとりだけならまだしも
仲間もいることだし

無理な戦闘はせずにいこう
殲滅してしまうと敵拠点もわからないことだし

……少なくとも一人は生かしておいてやらないとな


八幡・茜
ふふふ、私はきっと美味しいのだけれど、簡単に食べられてあげる訳にはいかないわね!
集団での隠密行動は難しいわ。斥候が数体、その後ろに本体とかそんな感じかしらね。なら明かりなどは持って行かず斥候を見つけること集中するわ!
音に注意しながら森を移動、集団が近づいてくる音が聞こえたら木の陰で待ち伏せ。先頭を静かに倒せるように派手な技は使わず、なぎなたで斬るわね。
遭遇戦、または本体との戦闘になったら倒せそうな敵からフォックスファイアで確実に屠っていくわ。
死体を踏みつけて、皆殺しにしてあげる。と笑顔を向けて戦意を削れるように脅していくわね。
ちょっと罪悪感があるけれど、私に踏んでもらえるなんて幸せものよね!


シキ・ジルモント
判定:SPD
※アドリブ歓迎

火を使わない照明(懐中電灯等)を持ち込む
必要なら使うが今回は目立ちたくない、使用は極力控える
「奇襲か…そうだな、やられる前にやってみるか」

森という場の『地形の利用』を意識
速さを活かして森を駆け回り草木の陰に身を隠しつつ、一撃離脱を繰り返して敵を混乱させたい
移動時は狼に変身、攻撃時は人に戻る
舗装されていない地面なら四つ足の方が走りやすいし、背丈が低い方が身を隠すのに好都合だ

ユーベルコードを使い、敵を離れた場所から攻撃
倒せるのがベストだが、外しても攻撃されていると焦らせる事ができれば狙い通りだ
接近される前に『逃げ足』でその場を離れ、再び別の場所からユーベルコードで狙撃する


四十八願・狐倶利
狐倶利は森の中に突入する前にとある策を思いつき、他の猟兵達にとある提案を行った。
「戦地は暗い森の中や。灯りがあればそこに人がおると思うて雑鬼達も襲うてくるやろ。せやからわいが何個か狐火を作って、遠隔操作で先行させようと思うんよ。その数メートル後ろをあんさん達が身を隠して追えばええ。狐火が雑鬼を照らしたら殲滅したらええし、奇襲されても灯りの下には誰もおらん。なかなかにお得な話やろ?」
狐倶利は作戦にのってきた猟兵たちを連れ、作戦を決行した。
「準備はええか?ほないくで、フォックスファイア」



森と里の境目に降り立った猟兵たちは、一瞬にして異常さを感じ取った。吹き付ける風が重くおぞましい。
「ひとつ、提案をよろしいか?」
 突入を前に四十八願 狐倶利が猟兵たちを呼び止めた。
「戦地は暗い森の中や。灯りがあればそこに人がおると思うて雑鬼たちも襲うてくるやろ。せやからわいが何個か狐火を作って、遠隔操作で先行させようと思うんよ」
 スッと差し出した掌に狐火が灯る。次いで彼の周囲にも同様の狐火が現れた。それらはゆっくりと狐倶利が立てた人差し指の周りを浮遊する。
「これの数メートル後ろをあんさんたちが身を隠して追えばええ。狐火が雑鬼を照らしたら殲滅するとええし、奇襲されても灯りの下には誰もおらん。なかなかにお得な話やろ?」
 確かに警戒をすべきは奇襲だが、逆にこちらから奇襲ができれば戦況は大いに変わる。狐倶利の作戦ならば、有利な環境を整えられるだろう。しかし集まったのは皆、腕に自信のある猛者たちだ。自らを囮にと考える者が多い。どうするべきかとそれぞれ顔を見合わせた。
「集団での隠密行動は難しいわ。それは相手も同じ。斥候が数体、その後ろに本隊とかそんな感じかしらね。姿を見せて戦うのは本隊を見つけてからの方がいいのでは?」
 結論の出ない沈黙に八幡 茜が助け船を出す。それは誰もが見落としていた盲点だった。雑鬼たちは統率が取れていると事前に知らされていた。ならば斥候くらいの頭があっても不思議ではない。
「私が狐倶利さんの狐火と先行するわ。私耳がいいの。音で斥候見つけることに集中するわ! 大丈夫! おねーさんに任せなさい!」
 自身の耳とトントンと叩き、茜は笑みを浮かべた。歳上もいる前でいつものように『おねーさん』と言ったが、気分的なものだからこの際気にする必要はない。
「奇襲か…そうだな、やられる前にやってみるか」
 シキ・ジルモントは自身が持ってきた懐中電灯をそっとしまいながら二人の言葉に頷く。必要であるならば、と持ってきた照明道具だったができれば使用を控えたかった。使わなくていい状況になるのならありがたい。
 誰も異論はなかった。視線が狐倶利に集まる。
「準備はええか? ほないくで、フォックスファイア」
 指先を浮遊していた狐火が、声に応じて指し示す先の森へと飛んでいく。そのすぐ後ろを茜と狐倶利が他の猟兵を伴う形で作戦は決行された。

 深い森を魑魅魍魎の群れが動く。その様子はさながら百鬼夜行の如く。先頭を走る小さな集団が、里を目指す道を決めていた。その内の周囲を見渡していた一匹がほのかに光る灯りを見つけた。狐倶利の狐火だ。
 しかしそんなものを知る由もない雑鬼は、獲物だと疑わず進路を変更する。軽い雑鬼の足音を木陰に潜んでいた茜は逃さなかった。
「ふふふ、私はきっと美味しいのだけれど、簡単に食べられてあげるわけにはいかないわね!」
 味わえなくて残念ね、と笑う茜の振るった薙刀が狐火へ向かう雑鬼を斬り払った。突然絶命した仲間に、何事かと慌てだす。そうしている間にも茜の刃が一匹、また一匹と雑鬼を屠った。茜と共に先行してきた狐倶利は、うまい具合に雑鬼が狐火を捉えられぬよう操っていた。
 斥候が意味をなさなくなったところで、先ほどよりも多くの足音が聞こえてくる。
「来たわ。本隊よ!」
 茜のフォックスファイアが彼女の周囲に出現する。足元で息絶えた雑鬼の頭を踏みつけて茜はまるでヒールのように笑った。
「皆殺しにしてあげる」

茜の合図に、背後で複数の光が灯る。
 一つは遠呂智 景明の錬成ヤドリガミによって生み出された、己の分身たる十九振りの『大蛇切 景明』。その内の一振りである。刀身を火の精霊が纏い燃え盛っていた。
「さて、やることは稲狩りと変わんねぇな」
 雑鬼相手など取るに足らぬ他愛のない戦いだ。煌々と燃える炎を纏う分身の傍で、景明は口端を吊り上げた。
「さあ、寄ってこい雑魚ども。獲物はここぞ」
 炎に照らされたシルエット。それはまさしく雑鬼が求める獲物の姿。狐倶利の狐火を目指していた雑鬼の一部が、景明に襲い掛かる――はずだった。
 景明を引き裂くべく伸ばされた腕は、直前で斬り落とされた。景明は指先一つ動かしていない。なのに、雑鬼は景明に触れることすら叶わずその命を散らした。
「はっはー、入れ食いじゃねぇか!!」
 生み出したのは十九振り。光源となったのはたった一振り。残った十八振りは彼の周囲の木々に隠れていた。予測不能の方向から襲い来る刀を運よく避けたとしても、その爪が景明の肌に立てられることはない。最後に待ち受けるのは景明の手に握られた本体の一閃だ。
もう一つは御倉 ウカノのフォックスファイア。狐倶利や茜とは異なり、三つの火が統合され大きくなったものがそれぞれ三つ。ウカノの足元も含めはっきりと照らしていた。
「人を喰らった外道どもだ、容赦はいらねぇ。さくっとしばき倒して親玉のところまで連れて行ってもらおうじゃないか」
 その言葉の通り一片の迷いもなく大太刀が振られた。大雑把に見える太刀筋は規則性がなく、まるで酔っ払いの動きのようだ。しかしその切っ先は確実に雑鬼を捉えている。『酔剣』とウカノはこの剣術を称した。酒を愛し、常に酒と共に生きる彼女だからこそ辿り着いた道だ。
「さあ、かかってきな畜生ども! あたしがきっちり地獄にあんないしてやるよ!」
 腰に吊るした酒壺がたぷん、と音を鳴らす。
 灯った光は火のみにあらず。大虚 空の額でヘッドライトが光っていた。その光は残像を描きながら、森の中を駆け巡る。
「なるほど。魑魅魍魎が跋扈していると。確かに聞いた通りだ。一般人に被害が出る前に駆逐するとしようか」
 無数の雑鬼の姿を認め、空は目を細めた。彼が描いた光の残像の後には、傷を負った雑鬼の姿がある。致命傷とはまでいかないものもあるが、空に無理をするつもりはない。ヒット&アウェイ。それは仲間への信頼度の表れでもあった。
 その信頼に応えるように空が攻撃した雑鬼を、彼が離脱したと同時に撃ち抜く弾丸が一発。シキが撃った弾だ。シキと空の即席コンビネーションが見事にハマった。シキも空と同様一撃見舞えば、その場を離脱し身を隠す。一時として同じ場所に留まらない彼の姿を、ようやく捉え襲い掛かるもその攻撃は空を切った。シキは狼に変身し雑鬼を躱していたのだ。シキを探す雑鬼の背を、空のダガーが斬りつける。空を探し振り返る雑鬼を、素早く移動し安全を確保したシキが人の姿へと戻り、両手で狙いを定め引き金を引いた。命中を確認して、息を吐くと再び狼に変身し移動する。躍動する二匹の獣が数多の雑鬼を翻弄してみせた。
 
 光源は最早十分だった。そうなれば、光源を持たない猟兵たちが待ち侘びたとばかりに武器を構える。
「本丸を頂く前の肩慣らしだ。派手に暴れさせてもらおうか」
 こきん、こきん、と肩を鳴らし御剣 刀也が獅子哮を抜いた。不屈の獅子のように煌く刀は、刀也の望むままあらゆる敵を両断する剛剣。代々受け継いだ鉄兜や鉄鎧ごと斬り伏せる剣術はまさに豪快そのもの。赤子の手をひねるかのように、刀也は雑鬼を蹴散らす。
「しょせん雑鬼か。何匹倒してもつまらん」
 歯ごたえのない相手に物足りなさが募る。不満を表情に出しながら雑鬼を屠っていく姿は、一見隙だらけに映るが刀也の意識は常に雑鬼の動きを警戒していた。
「お前らに俺の心持ちを語ったところで無駄だろうな」
 ため息を吐きたい気分になるところ、それだけは理性で押しとどめる。仲間の士気にも関わってくるためだ。しかしこうもつまらない戦いばかりでは飽きてくるのも事実。刀也の興味は既にこの先待ち受けているであろう、城の主へと向いていた。
 刀也の剣撃を掻い潜る雑鬼の姿を認めたのは、少し離れた場所で向かってくる雑鬼を待っていた戦場外院 晶だった。
「生憎と、ぶつかるしか出来ない性分ゆえ……ただ殺すのみ」
 物腰柔らかな声音を見事に裏切る胸の前で鳴らす拳。その外見から侮った雑鬼は。ようやく獲物だと襲い掛かる。
「いらっしゃいまし……っ」
 手をつなぐ事がとても得意だと口にした晶は、飛びかかってくる雑鬼を片手で掴み取った。それは強制的な手つなぎだ。
「……灰燼拳」
 ほぼゼロ距離で放たれた超高速かつ大威力の一撃は雑鬼の肉片一つ残すことなく掻き消した。まさに灰燼に帰す攻撃だ。
祈りが力になる。晶は祈った。眼前から敵が消え去るまで断固として事を成す、と。その心が動じぬように。

 光の先に待つのは獲物でなく死だった。暗闇に逃げ込む雑鬼を待つのは、暗視を携え潜んでいた二人の猟兵。
「……こんなに魅力的な獲物がここにいるんだぜ。無視なんてつれないことするなよ」
 駆け抜けようとした雑鬼が、鬼灯 こころの声に反応し彼女が光を持たないとわかると襲い掛かってきた。こころは小さく口角を上げる。
 ――さあ、どっちがほんとの猟犬か教えてあげる。
 わざと攻撃を受け雑鬼の油断を誘うこころの策略に、雑鬼はまんまと嵌まった。この獲物ならば狩れると思った瞬間、小さなその体躯は拷問具に捕らえられる。
「……僕を追いかけるのは楽しかった? じゃ、今度は君たちの命で僕を楽しませてくれよ」
与えられる拷問の痛みに雑鬼の悲鳴が響き渡る。夥しい量の血液を流し、やがて悲鳴は聞こえなくなった。雑鬼の苦痛、生命力、血液がすべてこころへと還元され、その身を強靭なものへと変えていく。
「人を喰らうバケモノ、か……僕のご先祖様も似たようなものの気もするけど、まあ、僕には関係ないし。何より罪のない人が苦しめられてるのは可哀相だしね」
 空白の記憶に感情は伴わない。レイン・フォレストが戦うのは今この瞬間の心に従ったからだ。こころとは対照的に静寂に身を落としていたレインは、雑鬼が目前に来た時を狙いダガーで素早く始末する。次第に数の増える相手に、上着を脱ぎ去り攻撃のスピードを上げた。次々と繰り出されるダガーが雑鬼を逃すことなく仕留める。一撃が必殺のものでなくても、間を置かない追撃が命を狩り取った。

 森の中の戦場は僅かな時間にして、猟兵たちの狩猟の場へと変化していた。
「テッタイ。テッタイ。……オカシラ、オカシラ、タスケテ」
 数匹生き残った雑鬼が身を翻す。その行き先は里の方角ではなく、奴らがやってきた方向。情けない言葉を吐きながら猟兵から逃げていった。
「……終わりですか? 急いで本元へ参りましょう」
「さあ、案内してもらおうじゃねぇか。テメェらの親玉のとこまでよ」
 晶が雑鬼の動きを確認し、展開して戦っていた仲間に声をかける。武器を納めた景明が雑鬼の逃げる先へ、本命であるオブリビオンの拠点を見据えた。
 この先は更に激しい戦いが待っている。しかし猟兵たちは雑鬼を追い、迷うことなく駆けだした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『怨霊女武者』

POW   :    局流薙刀術
【薙刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    局流早射ち
レベル分の1秒で【矢】を発射できる。
WIZ   :    落武者呼び
【鎧武者】の霊を召喚する。これは【槍】や【弓】で攻撃する能力を持つ。
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


その身を奪えど、心は手に入らなかった。何故。何を望む。如何様にすれば。

●戦禍に翻弄された女たち
 最早逃げ場はどこにも無かった。燃え盛る炎が眼前に迫る。攻め込まれた居城は、抵抗虚しく戦火に包まれた。
 この城に戦える者は残っていない。勇敢な戦士はその命を戦場で散らした。我が身可愛さに、忠誠を捨てた外道は早々に逃げ出した。
 最初から負け戦だったのだ。数の上で勝てるはずもなく。それでも城の主は籠城戦を選び、無謀な戦いへ挑んだ。その主も知らぬ間に城を抜け、逃げ落ちたと言うではないか。
 共に戦うことも許されなかった。彼女ら女武者に与えられたのは、女子供の守護。しかしそれも、こんな状況になってしまえば、使命を果たすことすらも叶わない。
 なんという理不尽な結末。信じた者には裏切られ、ただ恐怖に震えながら命を刈り取られる瞬間を待つしかできないだなんて。
「どうして.......」
 望んだのはこんな未来ではなかったのに。
 ーー嗚呼、妬ましい。生ける全てが。憎らしい。この悲劇の裏でのうのうと平和を謳歌する者たちが。
 嘆きの怨嗟は燃え盛る炎に飲まれ、骸の海に沈もうとも消えることは無かった。

●森の奥の白き城
 人里とは逆の方向に森を抜けると、そこには目を瞠るような美しい白き城があった。雑鬼は迷いなく城へと逃げ込み、天守閣を目指す。
 上階へと駆け上がり、主がいる広間へと文字通り雪崩込んだ。
「オカシラ! オカシラ!」
「バケモノ」
「バケモノガキタ!」
「コロサレル!」
 口々に言い募る雑鬼たち。どの口が化け物と言うのか。それについて言及する者は残念ながらこの場にはいなかった。
 雑鬼に、反応したのは下座に控えていた女武者の一人だった。脇に置いていた薙刀を手に、雑鬼の前へと歩み寄る。その姿はやはり徒人ではない。彼女らもまた、オブリビオンだ。惨たらしい死がその左半身を異形へと変貌させた。彼女以外の武者たちも同様に、身体の一部が歪んている。
「それで? 命惜しくなり逃げてきたと? 貴様らがネズミを連れ込んだと知らずに」
 雑鬼を追ってきた猟兵たちが既に城を見つけた。もしも逃げてこなければ、彼らがこの拠点を見つけるまでにもっと時間が必要だった。仮にそうなっていれば、猟兵たちは危機的状況に陥ることとなっていただろう。雑鬼たちは自らが犯した失態にようやく気付いた。だが弁明をしようと口を開く間もなく、薙刀が一閃にして小さき者の命を散らす。
「恥を知れ、畜生ども」
 嫌悪を滲ませた声音で吐き捨てる。醜い姿と浅はかな考えが、彼女には受け入れ難いものだった。
「雑鬼を如何様にしようと構わんが、我が城をあまり汚してくれるなよ」
 それまで静かに成り行きを見ていた城の主が、静かな声で告げた。弾かれるように振り向いた女武者は、流れるようにその膝を折る 。
「申し訳ございません! お頭様の宝になんてことを……」
 その手中に収めたもの全てが宝だ。この城とて例外ではない。
「よい。それよりもネズミを排除しろ。目障りだ」
 どんな罰も受ける覚悟だった彼女に対し、告げられたのは簡潔な命令。
「はい。必ずや」
 胸の奥底には今も遠き日の怨嗟が燻る。全ては過去の自身を満たすため。そして、巡り会えた我が身を捧げるに値する主のために。

「城に踏み入れたが最後、生きて帰れると思うな」
 憎悪渦巻く澱んだ瞳が猟兵たちを睨めつける。その数はかつて非業の死を遂げた女と同じだけ。雑鬼とは格の違う敵が、拠点を制圧せんとする彼らの前に立ち塞がった。
御倉・ウカノ
お前たちの世界に対する怒りは理解しよう。だがそれを今生きるものたちで解消しようとするのはいただけないねえ。その妄執、あたしの剣で晴らしてやるよ。

敵はあたしらのことを手ぐすね引いて待ってるだろうね。あたしにゃ強行突破位しか案はないけど、何か提案があったら、それに従っておこうかね。それはそれとして、敵と相対したら無理にでも近づいて、直接ぶった斬るしかないんだが、相手はそれを許しちゃくれないだろうね。あまり使いたくはなかったが、『巫覡載霊の舞』で相手の遠距離攻撃を軽減しつつ削らせてもらおう。それを嫌がって近づいてきたら刀でぶった切るだけさね。

「お前さん達にゃ、ここいらで成仏してもらうよ」


大虚・空
……あれが敵の拠点か
なかなか立派な城じゃないか
攻め落としがいがあるな……

さて
親玉まであと少し
どんな敵でも切り払っていこうか

【SPD】
敵の人数も多いことだし
囲まれないように注意しなきゃな

基本的には常に動き回って相手に狙い撃ちにされないように心がける
自身に意識が向いてない相手を主に攻撃する

できそうなら武器破壊もしくは武器の奪取も狙ってみる
(これで攻撃を受けるリスクがある場合は行わない)

敵が鎧武者の霊を召喚してきた場合は迅速に撃破を試みる
敵に数の優位を取られないように確実の敵の数を減らしていこう

自身は確実に敵戦力を削っていこう
攻撃力を削いでいくだけでも結構な助けになるはずさ



雑鬼が女武者に斬り払われた頃、猟兵たちは森を抜けて城へと到着した。
「……あれが敵の拠点か。なかなか立派な城じゃないか」
 手でひさしを作った空は、白亜の城を見上げて目を細めた。先ほどまで戦っていた低俗な雑鬼とはおよそ結びつかない拠点である。しかし、これはこれで。
「攻め落としがいがあるな……」
 もちろん油断をするつもりはないが、これほど立派な城であれば攻略するのは腕が鳴る。その筋道が立っているのならばなおさら。空は城から目を離さぬまま、指に繋がる糸の感覚を確かめる。
「敵はあたしらのことを手ぐすね引いてまってるだろうね。あたしにゃ強行突破位しか案はないけど、何か提案はあるかい?」
 鞘に納めた大太刀の柄に手をかけいつでも抜ける状態で、ウカノはちらりと仲間を見渡す。先の戦いで斥候の存在を見落としていたこともあり、そこには慎重な姿勢が伺えた。
「ここまで来たら条件はお互い一緒じゃないだろうか。向こうも自分たちの襲撃は予想外のはずだ」
 ウカノの問いに空が答える。空には森で逃げていく雑鬼たちの姿を思い返すと、命惜しさに主へ助けを求めたように見えた。だとすれば、この短時間で罠など仕掛けられるとは思えない。
「なるほど。じゃあ正面から堂々、城攻めと行こうかね」
 冷静な分析と判断を下した空の言葉を受け、ウカノは意気揚々と城の扉を蹴破った。駆けていく背中を、小さな体躯で追いかける。

 突入して直ぐに、それは現れた。
 こちらを睨めつける澱んだ瞳と、尋常ではない殺気に猟兵たちが立ち止まる。眼前に並ぶのは異形と化した女武者の集団。雑鬼とは比にならない強さだと、張り詰めた空気が教えてくる。猟兵たちは一斉に武器を構えた。
(さて、親玉まであと少し。どんな敵も切り払っていこうか)
 小さく息を吐き、空は姿勢を低くする。両手の糸の感覚は先ほど確かめた。油断はない。いつでも飛び出せる。
「汚らわしいネズミめが、お頭様の城へ踏み入れるなど言語道断。ここで始末してくれる」
 嫌悪感顕わに女武者は矢を番えた。かに思えた次の瞬間、放たれた矢が雨の如く襲いかかってくる。
「……っ!」
 間一髪、戦闘態勢へと入っていた猟兵たちは矢を回避する。微かに矢が肌を掠っていったがこの程度は怪我に入らない。
(無理にでも近づいて直接ぶった斬ろうと思ったけど、許しちゃくれないみたいだね。……仕方がない)
 再び女武者へと向き直ったウカノは、第二撃に備えながら手にしていた大太刀を鞘に戻す。目にも止まらぬ早射ちも相手が少数であればそこまで脅威ではない。しかしこの数は厄介だ。こちらから迂闊に近づくことも出来ない。
「あんまり使いたくはなかったが……」
 出し惜しみをしている場合ではない。ウカノは胸の前でひとつ、柏手を打った。乾いた音が室内に響き渡り、どこからか清廉な空気が流れてくる。それは清浄なる神の御霊を宿したウカノの周囲から発せられていた。まさしく神の息吹のように。
 悪しき魂を宿した女武者にとっては忌むべき存在だ。本能的に相性の悪さを感じ取った女武者たちがすぐさま矢を放った。
 ウカノの口元が小さく笑みを描く。ひらりと袖を翻したその手に一振りの薙刀が握られていた。流れるような動きで横へ振り払った。薙刀から放たれた衝撃破が襲い来る矢を薙ぎ払う。
「何っ!?」
 完全にとまではいかないものの、軽々と避けられる程度には矢の数を減らしたウカノの一撃に、女武者たちの間で動揺が走った。まぐれではともう一度放つが、結果は同じだ。いくら繰り返せど、最初の一撃のように猟兵を苦戦させることはもう不可能だった。
 そして、敵がウカノに集中した瞬間を見逃さない者が一人。
「隙だらけだ」
 狙い撃ちを避け小さな身体と俊敏性を活かしながら動き回っていた空は、自身に敵の意識が向いていないと確信したと同時にダガーで弓の弦を切る。身軽に着地した空は、その場でくるりと反転し再び床を蹴った。弦が切れてバランスを崩した女武者が、体勢を立て直す前に首を掻っ切る。短い悲鳴を上げて崩れ落ちる女武者に目もくれず、空は室内を駆け巡った。
「お前さんたちにゃ、ここいらで成仏してもらうよ」
 巫覡載霊の舞を終え、本来の姿へと戻ったウカノは流れ落ちた汗を拭いながら言い放つ。乱れた呼吸を努めて整え、押し寄せる疲労感を誤魔化すように笑った。巫覡載霊の舞は強力だが、代償として己の寿命を削る。神の御霊を降ろしているのだから、器となる身体に負担が当然のことだろう。それでも必要とあらば、ウカノにこの力を使うことへの躊躇はなかった。

「おのれ……! おのれ!!」
 無惨に散っていく同胞の前に激昂した女武者が、鎧武者の霊を召喚する。ただでさえ多い数をさらに増やし、徹底的に猟兵を潰しにかかったのだ。
「まずいな」
 その様子を見た空が小さく呟く。これ以上数の優位を取られるわけにはいかない。
「沈め 壊劫の果てまで」
 最初に放ったのはスローイングダガー。女武者の肩へと深く刺さり、呻き声が上がる。
 次に指先を器用に操り、肩へ刺さったダガーを支店に女武者を鋼糸で拘束した。
 そして最後に旅を共にしてきた相棒、壊世が女武者をその腕に抱き鋼糸ごと締め上げる。
「《破砕の檻(アンヘルダスト)》」
「……っ、…、……!」
声を出せぬほどの痛みが女武者を襲った。空の一族より譲り受けしパーツを組み上げた、花嫁の如く美しい人形の抱擁により、召喚された鎧武者は実態を保てず消えていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

遠呂智・景明
「同情はするがよ」
かつて刀の時代に幾度も女武者とは立ち会った。決して望んで戦場に立っていたものばかりではなかった。それに対し思うところがない訳では無い。
だが。
「操られて、今を生きる奴らの生活脅かしていい理由にはならねぇよ」

【大蛇切 景明】を抜き放つと【風林火陰山雷 火の如く】を発動。
【殺気】を込め敵を威圧しつつ斬りかかる。

「来いよ、テメェらの憎悪の炎。受け止めた上で俺が焼き付くしてやる」
敵の攻撃へのカウンター狙い。
【見切り】【残像】【フェイント】を使い敵の攻撃を見切ったうえで斬撃を放つ。

「地獄の炎よりゃ優しいだろうよ。とっとと眠りな」



「憎らしや。嗚呼、憎らしや……」
 女武者の口から呪詛のように繰り返される言葉が、一人また一人と重なり室内を陰気で満たした。彼女たちが呪うのは、生あるもの全てだ。
「同情はするがよ」
 女武者の呪詛に遠呂智 景明は小さく呟いた。
 かつて人の身を得る前は、戦場こそが彼の居場所だった。そこで幾度も女武者とは立ち会っている。彼女らの血に濡れたことだってあった。戦うための技術を培っていたとはいえ、戦場にいた女武者たちは決して望んでその場に立っていた者ばかりではないことを景明は覚えている。自身を振るう主の手が僅かに躊躇いを含んだことも。だからこそ、思うところがない訳ではない。
 けれども。
「操られて、今を生きる奴らの生活脅かしていい理由にはならねぇよ」
 景明の低い声は僅かに怒気を帯びていた。本来であれば、彼女たちはそういう人々を護るために戦場に立っていたはずなのだと彼は良く知っているのだ。
 抜き放たれた『大蛇切 景明』が景明の想いに反応するように鋭く煌く。
「侵略すること火の如く。燃え盛る炎の如き一撃を見せてやるよ」
 炎が景明を包み込む。煌々と燃え盛る火焔を纏った姿はまさに戦場に咲く紅蓮の花。
「《風林火陰山雷 火の如く(フウリンカインザンライ・ヒノゴトク)≫」
 床を蹴った景明が一瞬にして女武者の間合いに滑り込む。圧倒されるほどの殺気に威圧され、女武者はその一撃をまともに受けた。
「ぎゃああああああああああ!!」
 放たれた斬撃が触れた者を焼き斬る。責め苦のように燃える身体を抱きしめて女武者は悲鳴を上げた。
「嫌だ。憎い。……どうして。怖い。……殺したい」
「来いよ、テメェらの憎悪の炎。受け止めた上で俺が焼き尽くしてやる」
 零れる言葉に嘆きが垣間見えた。柄を握る手に力が入り、景明は女武者を見据える。その悲しみ、憎しみがどれほどであっても命ある限り満たされることはないだろう。景明が与えてやれるのは終焉だ。
 最期に見た炎が眼前に迫っている。危険だ。あの火は消さなければ。
 女武者は景明の炎を消そうと薙刀を手に襲い掛かってくるが、景明の目に単調に映る攻撃ではその身を捉えることが叶わない。
 一人、また一人と炎が女武者を包む。
「地獄の炎よりゃ優しいだろうよ。とっとと眠りな」
 微かに軋む身体に気付かないふりをして、景明は刀を振るった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
判定:SPD
アドリブ歓迎

弓矢の早射ちか、少々厄介だな
しかし弓矢や薙刀なら、懐に入り込む事で脅威を減らせるかもしれない

ユーベルコードで敵の頭部を狙撃、隙を作って前へ走る
矢が来るなら敵の体勢から矢の軌道を予測し、回避方向が読まれないよう『フェイント』をかけて躱して接近
壁や障害物は『地形の利用』を考え弾除けとして使う
接近したら近距離からの射撃、『零距離射撃』で攻撃する
さあ、これは躱せるか?

敵は多数だ、極端な突出と包囲に注意する
危なければ一度離れて体勢を立て直す
敵から離れている間、味方が苦戦していたら『援護射撃』で援護しよう

何か恨みや悔いでもあるのかもしれないが
こちらもやるべき事がある、通してもらうぞ



女武者の群れは猟兵の立ち回りによりその数を少しずつ減らしていた。それでもまだ、制圧するには至らない。ウカノが早射ちの矢の雨をほぼ無効化し、空が鎧武者の霊による敵の増加を防いだ。
(単体であってもあの早射ちは少々厄介だな)
 遠距離からの攻撃を常套手段するシキ・ジルモントにとって、狙いを定めながらも敵の攻撃を警戒するのは集中力を削るものだった。森の戦闘でもやったように、ヒット&アウェイを繰り返す。
「ちっ……」
 両手で構えたシロガネが狙いを定める前に、矢が飛来してきた。思わず舌打ちをして横に転がりながら避けたシキは素早く体勢を立て直す。僅かな間止まった呼吸。その一瞬の内に放たれた弾丸は、女武者の頭を撃ち抜いた。
(弓矢や薙刀相手に遠距離はむしろこの状況だと不利か。だったら懐に入り込む事で脅威を減らせるかもしれない)
 戦況を瞬時に読み取ったシキは、それまでとは異なり隙を見て前衛へと走り出した。戦法を変えたシキを女武者も警戒して弓を引く。その体勢を矢が放たれるまでの時間で観察し、瞬間的に矢の軌道を予測したシキはあえてフェイントをかけて攻撃を躱す。
 次々と躱される矢に早射ちのみでは厳しいと判断したのか、他の猟兵たちから離れている女武者が複数でシキを狙った。フェイントを入れようとも多方向から来る矢は避けられまい。そう考えた女武者であったが、シキはこの状況も既に見越していた。
 素早く横に転がり身を潜ませたのは広間を支える柱。人ひとりが隠れるのは十分な太さをしている柱は矢避けに最適だった。敵が呆気に取られている内に、シキはその目前まで接近している。
「さあ、これは躱せるか?」
 声がしたのは足元。視線を落とせば、滑り込んできたシキがその銃口を鎧にあてていた。
 零距離射撃に逃げ場はない。鎧ごと肉を貫く鈍い音が銃声と共に耳に届いた。
「うぐっ……あ……」
 崩れ落ちる身体の下から抜け出したシキは、上からその頭を撃ち抜く。先ほどの一発だけでは致命傷に至らないことをわかっていた。
「何か恨みや悔いでもあるのかもしれないが」
 言葉を切り、背後から迫った薙刀を躱す。再び懐へ潜り込んだシキが超至近距離から引き金を引いた。今度は脳幹を一発で撃ち抜く。返り血で濡れた手を拭うと、周囲に敵が集まっている事に気付きすぐさま後退した。前衛に出ても包囲されては危険の方が大きい。退がったシキと女武者の間に、獄炎と純白の人形が躍り出る。
「こちらもやるべき事がある。通してもらうぞ」
 炎と人形が去った後、開けた視界の先にいた女武者の頭をシキの弾丸が撃ち抜いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

サンディ・ノックス
自分達は無念に死んだ、幸せな他者が妬ましい
…理解はできるよ
だからこそ終わらせてやりたいと思うほどにはね

誇り高き戦士だなと感じた
怨みに囚われても気質は変わらないのかな

それなら汚い手に逆上しそう
多数相手にはただの自殺行為だけど数が減りつつあるし
逆上させて視野を狭め
俺への攻撃以外考えさせないようにする

「魂喰らい」使用
君の技を頂戴するよ、紛い物に勝てるかな?
等と言って煽る

技のぶつけ合いで勝てるとは思っていない
「2回行動」で手数を増やし
消耗は抑えられるだけ抑えるように
「生命力吸収」
「フェイント」からの「カウンター」
「だまし討ち」して「敵を盾にする」
など手段を選ばず攻撃

他猟兵の攻撃が綺麗に通れば痛快だね



 飛来した矢を漆黒の剣が斬り落とす。刀身から柄、鞘に至るまで全てが黒い両刃の剣を握るのは、少し遅れての合流となったサンディ・ノックスだ。常では人との争い事を好まぬ穏やかな少年の面影は、オブリビオンを前にしてなりを潜めていた。
「自分たちは無念に死んだ、幸せな他者が妬ましい。…理解はできるよ」
 そう、理解はできる。
サンディは消えぬ憎悪に身を焦がす女武者へ憐みの目を向けた。
「だからこそ終わらせてやりたいと思うほどにね」
 彼女たちの怨嗟は、たとえどれほどの人を手にかけようとも消えることはない。穿たれた空白が満たされはしないのだ。与えてやれる救いは、皮肉にも死のみだ。
 かつての誇り高き戦士とて、オブリビオンとなればただの殺戮者も同然。その事実に当の本人たちだけが気づかない。
(だけど、怨みに囚われても気質は変わらないのかな)
 短時間の観察ではあるが、培った技術を駆使して戦う姿は、サンディの目に生前の姿を垣間見せた。それならばこちらが汚い手を使えば逆上してきてもおかしくはない。
 ひとつ、作戦が浮かんだ。多数相手であれば自殺行為だが、数が減りつつある今ならば有効であろう手段。
ふと先ほどまで封じ込まれていた鎧武者の召喚に、妨害をすり抜けた女武者が成功する。そのタイミングが、サンディの作戦実行にはもってこいのチャンスだった。鎧武者により突き出された槍を黒剣がはじく。
刹那、サンディの背後に出現した鎧武者の槍が前方の甲冑を貫き勢いそのまま、奥にいた女武者へと刺さった。
「な、に……」
「あははっ、――どう?自分の力に焼かれる気持ちは!」
 一瞬の間に何が起きたか理解する間もなく、槍に貫かれた女武者は絶命する。黒剣が槍を弾いた瞬間、サンディの《魂喰らい(ソウル・イーター)》が発動していた。彼に傷をつけられなかった敵のユーベルコードは、暗夜の剣に喰われたのだ。
「貴様、汚い手をっ!」
 残った女武者たちがようやく自分たちの力を奪い使われたのだと理解した。激昂顕わに放たれた矢は再び黒剣に弾かれる。
「君の技を頂戴するよ、紛い物に勝てるかな?」
 逆上する女武者の神経をさらに逆撫でるように煽ったサンディは、目にも止まらぬ速さで剣を振るい眼前の敵を斬り捨てる。弓を持たぬサンディにとって、早射ちの能力はそのまま敵を斬るスピードへとなった。
「どこまで我らを愚弄するつもりだ!!」
 憎悪がサンディへと集中する。これこそ彼の作戦だった。あえて逆上させ、攻撃を自分へ集中させることで仲間から意識を反らす。そうすればおのずと隙は生まれてくるのだ。
 技のぶつけあいで勝てるとは思っていない。だからこそ消耗を抑える手も考えてある。手段を選ぶつもりはない。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
判定:SPD
アドリブ歓迎

かなり数は減ったがそれでも退くつもりは無い、か
敵は最後まで戦うつもりのようだ、こちらも油断せず残った女武者を掃討する
敵同士の連携を断つように攻める

共闘する敵を分断し、確実に数を減らす事を意識して行動
味方を狙う女武者をユーベルコードで妨害・弱体化させ一人ずつ倒していく

ユーベルコードが命中し攻撃の手が緩んだら立て直す前に追撃
反撃されにくく、周囲に敵が少ない今ならしっかり狙いを付けられる
頭部等の急所を狙って『2回攻撃』、接近されたら無理に離れず『零距離射撃』に切り替える

女武者を倒し切っても気は抜かず装備を確認
まだ大きな仕事が残っているからな
この城の主に、お目通り願うとしようか



 女武者の敵視はサンディに集まっていた。そうなるように仕向けたのだから、彼の作戦は成功とみていい。ガンナーであるシキにとっては戦いやすい環境となった。
「かなり数は減ったがそれでも退くつもりは無い、か」
 生前叶わなかった最後まで戦い抜くことに、彼女たちは執着していた。それはここまでの戦闘でシキもなんとなく察している。だからこそこちらも油断はできない。
「大人しくしていてもらおうか」
 女武者と対峙するサンディの陰から引き金を引く。弓を構えようとしていた女武者の手に一発、脚にもう一発、そして最後の一発が頭部を掠めた。
「《サプレッション・バインド》」
 痛みに顔を歪めた女武者が矢を放とうとするも、脅威となるはずの早射ちはシキによって封じられていた。脚を撃たれたことで体勢を崩した女武者が、立て直して再び矢をつがえる前にシキの銃口は彼女の急所を捉える。
 殆ど間を開けず連続して放たれた弾丸は、寸分違わず狙い通りの軌道を描いて命中した。反撃されにくく、周囲に敵がいない状況。かつ、敵の狙いがほぼ自身に向かっていない今、しっかりと狙いをつけられたシキが撃ち抜けないものはなかった。

 猟兵たちの連携が数の有利を上回り、敵を圧倒していく。数多の女武者も残るはただ一人。
「なぜ…私たちは、この時の為に…。戦う為に……」
 震える声で呟いた女武者が信じられないと、現実から逃げるように首を振る。戦うために培った力は猟兵の前に無力であった。お頭と仰いだ城の主に報いることも出来ない。憎悪と嘆きで研いだ刃が、彼らに届くことはなかった。
「悪いが、ここまでだ」
 シキが急所を撃ち抜く。やるべきことがあるのだ。いつまでも女武者の相手をしているわけにはいかない。
 ゆっくりと倒れる女武者の胸中は不思議と凪いでいた。いつも騒々しい怨嗟が今はない。いつ以来かも思い出せない静寂が、胸を満たしていく。そこでようやく理解した。
 あの日、迫る炎を前に恐れた死は、あまりにも理不尽でとても悲しかった。血反吐を吐く思いで鍛錬を重ねた意味すら、燃やされて消える気がして辛かった。恐れたのは意味のない死。本当はこうして主のために戦い抜き、戦場で散ることが出来たなら本望だったのだ。無意味に消費される命でなければ、それでよかったのだ。こんな終わりを求めていた――。
 
 最後の一人を倒しきっても、シキの気は張ったままだった。まだ大きな仕事が残っている。装備の確認をし弾丸の予備が十分に残っていることを確かめたシキは、上階へ続く階段を見つめた。
「この城の主に、お目通り願うとしようか」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『美形な山賊頭領』

POW   :    行けっ!
【従わせた部下の山賊達】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    死ねっ!
【両手の鉄爪】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    皆殺しだっ!
【我を忘れる程の怒りに満ちた状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●欲したものは
 初めてその姿を見た時、目が離せなかった。長く細い髪と、口元に微笑みをたたえた美しき少女。小鳥の囀りのような可愛らしい声が耳に残った。一目見て手に入れたいと思ったのだ。
 だから、欲望のまま彼女を攫った。
 欲しいと思ったものはどんなことをしても手に入れてきた彼にとっては、なんてことはない当たり前の行動。持って生まれた整った容姿とカリスマ性に、悪事をなそうとも彼の周りには人が集まった。いつしか山賊の頭領として世を騒がせた男は、一人の女に執着を示したのである。
 けれども、少女の心は男へ靡かなかった。
 ――この身はいくらでも好きなようにするといいでしょう。ですが、忘れぬよう。我が心は貴方のものにはなりません。この心はとうに殿へと捧げました。
 芯の強く凛とした少女は、武家の姫だった。気丈な態度で真っ直ぐ男を見つめ返して告げた言葉は、それまで全てを思うがままにしてきた男へ衝撃を与えた。
 最も欲しいと思ったものが手に入らない。その事実は男の終着をより深めた。様々な手を使い姫の関心を引こうとしたが、どれも徒労に終わった。さすがの男も策が尽きて頭を抱えた時、部下の放った一言が彼の暴走の引き金を引く。
 ――王になればよいのでは。貴方が頂に座すれば、姫とて頭へ振り向かずにはいられまいでしょう。
 男の瞳に暗い炎が灯った。吊りあがった口端が、美しい顔に不気味な弧を描く。

 ならば王となろう。地上をおさめ、天すらいだき、あまねく世を統べる王に――。

 男の暴走は止まらない。人の身に余る力を手に入れようとも。従える者が異形と化した女になろうとも。どれほどの時間が流れようとも。全ては姫を手に入れるため。
 長い長い、夢を漂う。
●決戦
 階段を駆け上がる。
 女武者の亡霊たちを倒した猟兵たちは、ついに城の主の元へと辿り着いた。

 白亜の城の最上階。上座に胡坐をかいて座した男が、膝に頬杖をつき目を閉じている。
 次第に近づいてくる煩わしい足音を聞きながら、男はゆっくりと瞼を開いた。
 ざんばらな梅幸茶色の髪と同じ色の瞳が、同時に現れた猟兵たちの姿を写す。その顔のなんと美しいことか。徒人であれば思わず息を呑むほどの美貌だった。
 されども、彼の前に立つのは徒人に非ず。その命を狩りに来た猟兵だ。
「ぞろぞろとうっとおしい。……我が城を土足で荒した所業、その命をもってして贖う覚悟はあるのだろうな」
 凍った冷たい瞳が猟兵を睥睨する。男から放たれるのは紛れもない殺気だ。
 男の傍にはいつの間にか配下の山賊の姿があった。
「この道を阻むものは、何人も排除する」
大虚・空
……なかなかかっこいいやつじゃないか 見た目は
だが、どこか暗い眼をしているな
あれは、絶望の末に暴走をした感じに見える

……ここは、疾く撃破して夢を覚ませてやることにしようかね

【SPD】
基本スタイル:敵の攻撃力、機動力、思考力を削ぐ
頭領の一挙手一投足に注意、観察をしつつ部下の山賊を撃破していく

素早い動きによる惑乱や、挑発等による視線誘導をしつつ
状況を自分たちに有利になるように場を整えることを試みる

頭領が自身の撃破に専念し始める、もしくは
怒りで我を忘れるような状態に陥った場合は
山賊を盾にしたり緩急をつけた移動により回避に専念

他者に攻撃ターゲットが移った際に
隙を見て破砕の檻を叩き込む



 放たれた殺気を小さな身に受けながらも、臆すことなく空は男――山賊の頭領を見据えた。
「……なかなかカッコいいやつじゃないか。見た目は」
 全身を眺めた後出てきたのはそんな感想だった。整った顔立ちだ。万人が同じような感想を抱いただろう。
 しかし空にはその眼が引っかかった。
「どこか暗い眼をしているな」
 天に授けられたと言ってもいい容姿の中で、凍えた瞳だけが異質だった。そこに見えるのは執着と、狂気。空の眼には、男が絶望の末に暴走をした姿のように映った。
「……ここは、疾く撃破して夢を覚まさせてやることにしようかね」
 暴走の果てに得るものなどない。ましてや相手はオブリビオン。既に歴史から退場した過去の存在だ。この先描く未来に明るいものなどありはしない。光あふれる明日を紡ぐのは、いつだって今を生きる者たちだ。
 空は低い姿勢からダガーを手に走り出す。狙いは周囲の部下である山賊たちだ。頭領の一挙手一投足見逃さないよう警戒は怠らず、数の上での不利をなくそうとした。部下の山賊ひとりひとりに大した力はない。各個撃破は思っていたよりも、そう手がかかるものではなかった。
 素早い動きと攻撃した際にわざと見せた挑発的な笑みが、空の思惑通り山賊たちを惑乱させる。順調な作戦に手応えを感じながら、ちらりと頭領の様子を盗み見た。視界の端に映った頭領は、空に背を向け攻撃対象から外しているようだった。
(ここだ…!)
 待ち望んだ絶好機。逃すはずもなく。
「沈め 壊劫の果てまで」
 手にしたダガーを頭領の背に向け投擲する。気配に気付いた頭領が振り返り、籠手で防いだが問題はない。ダガーは籠手に突き刺さっている。次いで放った鋼糸が頭領の身体を拘束し、仕上げに壊世がその身を締め上げる――はずだった。
 それはあまりにも一瞬で、空は驚愕を顕わにした。捕らえたはずの頭領が間近に迫る。見開かれた碧玉の様な瞳には、鋭利な爪を伸ばす姿が映った。
「……っ!?」
 咄嗟に身を引き回避を試みるも、時すでに遅し。爪は空の左肩に食い込み、そのまま片手で彼を持ち上げる。頭領は回転を利用して小さな身体を壁に投げつけた。全て瞬き一つの間の出来事である。
「…かはッ……!」
 受け身を取ることなく背中からまともに叩きつけられ息が詰まった。膝をつき左肩を抑えながら空は顔を上げる。呼吸は荒く肩が大きく上下していた。血を流す左肩はドクドクと脈を打ち熱を持っている。
「なん、で…」
 タイミングは完璧だった。けれども相手はその更に上をいっていたのだ。頭領は既に空に興味を失い、攻撃対象を移している。
 壊世が頭領に触れる直前、拘束していたはずの鋼糸があの爪によって切られた。結果、壊世を潜り抜け奴は空の目前へと現れた。間一髪、たまたま近くにいた山賊を盾として間に入れたことで、軽傷とはいかなかったが致命傷を避けることはできた。一緒に飛ばされ、手前で絶命した山賊を見やる。空を襲った爪の内、一本は彼の心臓を狙っていた。この山賊を盾にするのが間に合わなければ、命はなかったかもしれない。
 肩越しに傍らの壊世に振り返る。目立った傷や損傷はなく、ほっと息を吐いた。そのパーツひとつひとつが大事なものだ。失っていないことに少しだけ安堵した。
 しかし、この状態では先ほどまでのように動くことは難しい。予備の糸は持っているが、この身体でどこまでやれるか。至らない口惜しさに、空は唇を噛んだ。

失敗 🔴​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
◆SPD
城を得て配下を従えて、王にでもなったつもりか
…こちらの話を聞くような相手でもなさそうだ、力づくで潰させてもらう

油断は出来そうに無い、真の姿を解放する
(月光を纏うように全身が淡く光る。犬歯が大きく伸びて尖り、夜の狼のように瞳が輝く)

距離を取って戦いながら爪の攻撃の範囲と軌道を観察して『見切る』
接近してきたらそのまま『おびき寄せ』、引きつけて回避と反撃を試みる

まず爪の攻撃をユーベルコードの効果も併せて回避
回避方向は上、爪の攻撃を飛び越えるように『ジャンプ』で頭上を取る
回避はするがタダでは逃げず、そのまま空中で反撃の体制をとる
『カウンター』で回避の困難な真上から敵を狙い撃つ(『スナイパー』)



 涼しい表情のまま振り向いた頭領にシキは身構える。空と頭領による一瞬の攻防を見ていた。これまでの敵とは格が違うのだと、理解するのにそう時間は要さない。
 だからと言って引き下がるような理由にはならない。
「城を得て、配下を従えて、王にでもなったつもりか」
 小さく呟かれたその言葉は的を射ていた。
 まさしくその男は、王になろうとしている。それもただの王ではない。天と地、さらには星さえも統べる覇王だ。
「然り。我こそがあまねく世の王となる器である。…だが、我が往く道に貴様らは邪魔だ」
 シキの小さな呟きを拾った頭領が、表情を変えず言い放つ。長い爪が指すのはシキたち猟兵。
 もはや頭領は猟兵を排除すべき存在としか認識していない。
「なるほど。……こちらの話を聞くような相手でもなさそうだ」
 見据えているのは覇道のみ。それ以外は道端の石ころ同然なのだろう。
 思えば相見えた瞬間から、オブリビオンである彼と猟兵であるシキたちの運命は決まっていた。どちらかが倒れるまで城に静寂は戻らない。
 ならば――。
「力づくで潰させてもらおう」
 油断できる相手ではない、と姿勢を低くしたシキの姿が変化する。真の姿が解放されたのだ。犬歯は大きく伸びて鋭く尖り、青い瞳が輝いた。それはまるで夜闇に紛れても光る狼の眼のように。全身には月光の如き淡い光が纏い揺らめく。
 狼の特徴を強調するこの姿を好まないシキは、仕事以外で滅多に変身しない。しかし、光を帯びた幻想的なその姿は、見る者に神々しささえ感じさせた。
 床を蹴る。タイミングはほぼ同時だった。瞬刻の戦いが始まる。
 襲い来る鋭利な爪のスピードは体感すると思った以上に速い。
(だが、対応できない速さではない…!)
 真の姿を解放したのは間違いではなかったようだ。
 意図的に距離を取り攻撃範囲と軌道を注意深く観察する。瞬刻を駆けるシキの瞳が残像を残し、室内に光の軌跡を描いていた。
 小さなかすり傷は与えどもなかなか捉えることの出来ないシキへ、頭領は少しずつ苛立ちを募らせる。
「ちょこまかと……死ねっ!」
 語気を荒げる頭領の、速度を増した鉄爪がシキに迫る。
 銀色の頭の上、同色の耳がピンと立った。人狼となって得た鋭い直感が、刹那の間にシキの神経へと信号を送る。
(その攻撃は…)
「見切った!」
 上へ跳躍したシキは、自分がいた場所の空を切った爪に手をつき反動で頭領の身体を飛び越える。さらに空中で器用に身を反転させ、回避が困難な頭上から構えたシロガネのトリガーを引いた。
 目を見開いて反応した頭領であったが、少しばかり遅れる。放たれた銃弾が頭領のむき出しになった右腕を撃ち抜いた。
「ぐっ…!」
 危なげなく着地したシキは、右腕を押さえ動きを止めた頭領へシロガネの照準を合わせる。
「どこまでも、邪魔なネズミどもが」
 照準を合わせたその先で、梅幸茶色の瞳が苛烈に煌いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

レイラ・ツェレンスカヤ
うふふ、うふふふ!
まあ無様!
なんて無様で可愛らしい男なのかしら!
レイラ、アナタが気に入ったのだわ!
だから、レイラと鎖の魔法で遊びましょ!

まずは鬼ごっこなのだわ!
レイラの右手から逃げてごらんなさい!
あら、レイラの狙いは三下ではなくて頭領なのだわ
この手が触れたら、次のゲーム!

今度は我慢対決かしら!
痛く、痛く痛く痛くなりましょ!
手下にレイラを攻撃させても、アナタも一緒に痛くなるだけなのだわ。
それにレイラ、痛いのは怖くないんだもの!
けれど手下にレイラを攻撃させないのなら、自傷で【恐怖を与える】のだわ!
うふふ、怖がれば怖がるほど痛くなるのだわ
アナタはどこまで耐えられるかしら!



「うふふ」
 無意識に吊り上がる口端と零れる声。愉悦を孕んだそれは次第に大きくなる。
 頭領の耳へ声が届く頃には、レイラがすぐ傍で男へと手を伸ばしていた。
「うふふふ! まあ無様! なんて無様で可愛らしい男なのかしら!」
 届かぬものに焦がれ、誤った道と気づかずに邁進する姿のなんと滑稽なことか。哀れな男はレイラの心を大いにくすぐった。
「レイラ、アナタが気に入ったのだわ! だから、レイラと鎖の魔法で遊びましょ!」
 少女の言葉に呼応するように、伸ばされた手の周囲を鎖が揺れていた。近づく掌にぞくりと肌が泡立つ。
「…っ! 行けっ!」
 寸でのところで手を避けた頭領は、距離を取り複数の部下へ指示を飛ばす。
数で対抗してきた敵にレイラは笑みを深めた。
「ええ、いいわ! まずは鬼ごっこなのだわ!」
 レイラを狙う部下の数は、彼女と頭領との間の壁だ。簡単には捕まえられない。
「レイラの右手から逃げられるものならば逃げてごらんなさい!」
 可愛らしい少女の外見とは不釣り合いな言動に、頭領は眉根を寄せる。戦場を遊ぶように駆ける姿は異質だった。
 それもそのはずだ。彼女にとってこれは命がけとはいえゲームである。
「あら、レイラの狙いは三下ではなくて頭領なのだわ。邪魔をしないでちょうだい」
 頭領へ近づかせまいと阻む部下をレイラはひらりと躱す。
「小娘風情、さっさと捻り潰せ!」
 どれほど離れようと詰まってくる距離は、頭領に焦燥を抱かせた。なりふり構わず数で抑え込もうと命令を下す。
 しかし、その一手は少しばかり遅かった。
「つかまえた」
 右腕に触れられた感触は爆破の衝撃で消し飛んだ。それとほぼ同時に部下がようやくレイラを囲む。喜色を浮かべた表情が部下の雪崩に消えた刹那、頭領の全身を痛みが襲った。
「ぐっ……」
 決して耐え切れないほどの痛みではないが、絶え間なく襲うそれは明らかに外傷の痛みだった。けれども頭領を攻撃している者はいない。
「ふふ、うふふふ! ゲームをするかしら! 先に気を失った方が負けなのだわ!」
 再び耳に届いた少女の声にハッとする。
「退けっ!」
 まさかと思いながらも部下を退かせると、不可解な痛みは少し治まった。
 そして気づく。腕へ纏わりつく冷たい金属の感触に。レイラに触れられた部分に絡まった鎖はそのまま、ゆっくりと立ち上がった少女まで伸びていた。
「今度は我慢対決かしら! 痛く、痛く痛く痛くなりましょ!」
 満たされ始める欲求に金色の瞳が輝いた。《волшебство・цепь(クサリノマホウ)》により鎖で繋がれた二人は痛覚が共有される。その痛覚は恐怖を感じることによって増幅されるのだ。
 レイラ自身も無事では済まない技だが、彼女にとって痛みは退屈から解放してくれるスパイスに過ぎない。
 傷つけることで、傷つくのならば攻撃しなければいい。鎖に繋がれた相手のそんな考えもレイラに通用しなかった。
「無駄よ。レイラ、痛いのは怖くないんだもの!」
 痛みを与えてくれないのなら、自ら痛みを生むだけ。
 笑顔で自傷をする少女に、頭領は底知れない恐ろしさを感じた。一瞬の恐怖もまたじわりじわりと痛みを増幅させていく。
「怖がれば怖がるほど痛くなるのだわ! アナタはどこまで耐えられるかしら!」
 恍惚とした表情のレイラが紡ぐ言葉には、男の理解の範疇を超えた狂気が潜んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 絶え間無く生まれてくる痛み。じくじくと疼くそれは鎖の先の少女も同じものを感じているはずだった。
 喜色を浮かべる、己よりも小さき生き物に目を細める。
 男の中にも消えぬ炎があった。少女とは違う色の狂気。胸を焦がす熱情は、どれほどの痛みを前にしても絶えることはない。
――手に入れると決めた。どんな手を使っても。あの姫だけは、譲れない。
 それが全てを思うままにしてきた頭領のプライド故なのか。はたまた別の理由なのか。
 どちらにせよ、障害は踏み倒していくだけだ。辿った道に幾人の血が流れようと、些事に過ぎない。
「我は、頂へ至る……」
 撃たれた上に爆破された右腕はもはや使い物にならないだろう。だらりと下がったその爪先を真紅の雫が滴り落ちる。
 どこが痛いのかすら曖昧になったこの状況はかえってよかった。どう動こうと痛いのだから、動きを気にする必要がない。
 この道の先はまだ、見えている。
ニア・スクニロトマ
野望を持つのは結構だけど、オブリビオンに身を落として建てたお城じゃ張子の虎だよ!
そうだ、あんたのために一句詠んであげよう。
野望の城
ひっくり返せば
ボヤの赤
野望とボヤ、シロとアカが対になって…って、解説してる時間がない!

今のあたいは原始怪獣ジュギラス、燃えさかる原始のエネルギーを宿した驚異の怪獣だ!(着ぐるみだけど)
アルダワとスペースシップの技術力をつぎ込んだこの着ぐるみは簡単に敗れはしない!
ってことで、さっそく着火!あたいの全身から炎を広げて、この城を燃やしてやる!
さあ、燃える炎のなかで決着をつけよう!あたいの燃える爪とあんたの爪と、どっちが鋭いか比べようじゃないか!



 目的を達成するまでには、何事も困難が待ち受ける。頭領の前に立ちはだかったのは、緑鮮やかな一匹の怪獣――ではなく、その着ぐるみを身につけたニア・スクニロトマであった。
 小柄な体格と幼い容姿はドワーフゆえのもの。着ぐるみを着ていることも相まってことさら幼げな印象を与えるが、こう見えて立派な大人である。
 彼女はSFXをこよなく愛した。爆発、極太ビーム、ワイヤー、ミニチュア、ストップモーションetc…。特に心惹かれたのは現実にはいない怪獣と、その怪獣による破壊を映像の中で生み出すこと。
 尽きることのない愛は、やがて独自に作り続けた怪獣着ぐるみの性能を、驚くべき領域まで引き上げた。まさに夢と努力と愛の結晶だ。その結晶を纏いて、彼女は戦場に立つ。
「野望を持つのは結構だけど、オブリビオンに身を落として建てたお城じゃ張子の虎だよ!」
 戦力を削がれつつある頭領へ、ニアは声高に叫んだ。
「オブリビオン…? 訳の分からんことを言う。……ほう、見かけだおしと言うか。我が城を。我が力を……!」
 オブリビオンという言葉に眉根を寄せた頭領だったが、続いた一言にドロリと濁った瞳をニアへと向ける。
「ああ、言うとも。あんたの作り上げたものは無意味だね」
 一から星間戦争にも耐えうる着ぐるみを創造した彼女だからこそ言える言葉だった。
 ニア・スクニロトマには夢がある。いつか自分の開発した着ぐるみを使い、己の考える最高の怪獣映画を作ること。その道はまだ途上であった。
 いずれ夢が叶う時、ニアの歩んだ後には彼女に救われた多くの命が咲いている事だろう。
 逆に頭領は、理想に近づけば近づくほど屍を積み重ねる。彼一人の欲を満たすだけの力ならば、そこへどうして他者が意味を見出せると言うのか。
 頭領の左手がゆっくりと上がる。ニアを潰せ、と静かに命じた。
「そうだ、あんたのために一句詠んであげよう」

野望の城
 ひっくり返せば
     ボヤの赤

「野望とボヤ、シロとアカが対になって…って、解説してる時間がない!」
 せっかく詠んだ一句をわかりやすく解説しようとしたニアだが、命令を受けた山賊の部下が次々と迫りそれどころではなくなった。攻撃回数を重視したのだろう。数が多い。あっという間に囲まれ、悠長にお喋りしているわけにはいかなかった。
 周囲の状況を確認しながら、優先順位を即座に判別し敵を薙ぎ払っていく。さすがに無傷とはいかないが、多少の傷は問題なかった。背後の敵は尻尾ではたき落とす。多機能の着ぐるみだ。尻尾だって自由に動かせても不思議ではない。
 そして、この戦闘はニアにとってちょうどいいウォームアップとなる。動力炉は十分に温まった。
「今のあたいは原子怪獣ジュギラス!」
 着ぐるみである。
「燃えさかる原子のエネルギーを宿した驚異の怪獣だ!」
 何度も言うが、着ぐるみである。
 しかしただの着ぐるみではないのは前述のとおり。心血を注ぎ、アルダワとスペースシップに技術力をつぎ込んだ、ニアの鎧であり武器だ。
「《赤熱原子怪獣ジュギラス(バーニングジュギラス)》」
 着ぐるみが熱せられた鉄のように赤く光る。
「説明しよう! ジュギラスの体内の原始エネルギー炉が極限まで高まったとき、その全身は赤熱して輝くのだ!」
 なんだか脳内でとても盛り上がってワクワクするナレーションとして、再生されたような気がするが、気のせいであろう。
 次の瞬間、全身から放たれた炎は広がることなく発生源であるニアへと降り注いだ。そしてその炎は勢いを増し大きく燃え盛る。
 真紅の焔が、頭領の力の象徴である白亜の城を浸食していった。
「さあ、燃える炎のなかで決着をつけようか! 戦闘のクライマックスにはぴったりだろう? あたいの燃える爪とあんたの爪と、どっちが鋭いか比べようじゃないか!」
「皆殺しだ。慈悲など、ない」
 ゆらりと揺れる景色の向こう側で、頭領の瞳孔が開いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

テラ・ウィンディア(サポート)
「我が武を以て挑ませて貰うぞ!」



一人称
おれ

二人称
あんた(敵でも尊敬できる人
お前(敵
貴様(激怒した時

エルフの女の子だが突撃志向で戦闘を好む

基本戦術
【戦闘知識】で敵の動きや陣形等の捕捉と把握
闘いながら敵の性質や心の在り方の把握に努める

その後は敵陣に突撃して暴れまわる

【空中戦】を好んで空間全てを利用した闘い方を好む

敵の攻撃に対しては
【見切り・第六感・残像】を駆使して回避

ユベコで主に使うのは
グラビティブラスト(敵が多数の時
【一斉放射】で破壊力増強
メテオブラスト(敵が単体の時
【踏み付け】で破壊力増強

基本フォローが目的なんだろうが
おれはやっぱり之が一番得意だからな

全霊を以て暴れまわるぞーーーー!!!


ミク・シィナ(サポート)
『さて、今宵も茶会を開きましょうか♪』
 ダンピールのバーバリアン×剣豪、21歳の女です。
 普段の口調は「フレンドリー(私、~くん、~ちゃん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)」、時々「少しフレンドリー(私、あなた、~さん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!




「だったらこっちも容赦はいらないよな!」
「私たちも、あなたにかける慈悲はございませんよ」
 二つの漆黒が熱風に煽られて揺れる。
 爪と爪による鍔迫り合いをしていた頭領は、嫌な気配を感じすぐさま距離を取った。追撃しようとしたニアは僅かの差で配下の山賊に阻まれる。
 視線を巡らせようとした頭領は、本能的に床を蹴った。瞬目の内に彼がいた場所が激しい音と共に崩れる。
 ポタリ、と血が城を汚す。視界を塞いだ煙が晴れた先には、奇しくも同じ漆黒の髪と瞳をもつ女性が二人立っていた。
一人は頭の高い位置で長い髪を束ねたエルフの少女、テラ・ウィンディア。束ねた髪に星の宝冠『レガリア』が輝く。覇者の証とされるその髪飾りはウィンディア家に残された宝の一つだ。小柄な身には重力の魔力を帯びた黒翼衣『オーディール』を纏う。黒と赤を基調としたワンピース型のローブは、翼衣の名の如く羽のように軽い。幼くも強い意志を宿した勝気な瞳が、頭領の姿を映していた。
 隣に並ぶもう一人は、緩いウェーブのかかった髪を腰辺りまで流した柔和な女性、ミク・シィナ。銀薔薇を模した装飾のヘアバンドが、黒髪との綺麗なコントラストを見せる。目を引くのは夜の闇よりも深い漆黒のゴシックドレスだ。所作も相まって良家の生まれのようにも見えるが、真相はわからない。口元に湛えた穏やかな笑みがミステリアスさを助長させた。
「次から次へと湧いてくる…」
 忌々し気に頭領が呟いた。一刻も早く己の城に入ったネズミを駆除してしまいたいのに、減らすどころか増えていくばかり。更には決して浅くはない手傷まで追わされた。
 圧倒するはずだった。今までだって愚かにも入り込んできたネズミはいたが、そのどれも蹴散らしてきた。だと言うのに、何故ここまで苦戦を強いられているのか。
「あら、先ほどまでの余裕はどちらに?」
 クスリ、と笑みを零したミクの声音は穏和なものだ。けれどもそれは頭領の神経を逆なでする煽りには十分である。
「…黙れ。貴様のような女と交わす言葉などない!」
 間合いの最短距離を寸瞬で詰めた鋭利な爪がミクを狙う。間一髪、体を反転して回避したが、完全に避けきれなかった爪が露出している腕を掠った。
「…っ!」
 赤い線と共に腕に走った痛みに、ミクは声を出すことなく僅かに顔を歪めるだけで耐えた。
 尚も追撃をかけようとする頭領は、視界の隅に炎だけではない紅い光を捉える。咄嗟に動きを止めた男の眼前を、槍が横切った。紅い炎を宿す古龍の牙から作られた槍だ。
「おれを忘れてもらっちゃ困るぜ!」
 頭領がミクに狙いを定めた隙を狙って投擲した紅龍槍『廣利王』は、結果としてミクを助けることにはなったが、一撃を与えるには至らない。
 けれどもミクが距離を取り、体勢を立て直すには十分な時間を稼いだ。
「感謝しますよ、テラさん。…」
 ミクの右手がそっと右目を覆う。同時に左目の瞼が閉じられた。

――《漆黒の瞳(シッコクノヒトミ)》

 左目が開く。深く暗い黒色の瞳が頭領を捉えた。
「ぐぁ、が…」
 唐突に頭領が呻きを上げる。それはミクの瞳の攻撃だった。彼女の眼から放たれる見えない眼力が、頭領の身体を圧迫し軋ませていたのだ。
「今です! テラさん!」
「はいよ! 我が武を以て挑ませて貰うぞ!」
 ミクの声にテラが勢いよく跳躍する。その背に重力操作能力を高める光輪型超能力補助装置、光輪『三叉路の女神』が展開された。
「星よ…世界よ…流星の力を我が身に宿せ…!今こそ我が身、一筋の流星とならん…《メテオ・ブラスト》…」
 空中でくるりと弧を描いた身体が、『オーディール』と『三叉路の女神』の効果を受け超重力を伴って降下する。
「…受けろぉ!!!」
 まさに流星の如し。降下のスピードと増加した重力によって威力を強めた踵落としの一撃が頭領の右肩に入る。
「が、ぁあ…っ」
 強力な攻撃に城の方が耐えきれず、床が沈む。だが、頭領はそれでも倒れなかった。さらに重力をかけようとしたテラの足を、男の左手が掴む。
「…ぁぁああああああ!!」
「……っ!」
 力任せに投げ飛ばされた少女は、なんとか宙で体勢を戻し着地する。しかし投げ飛ばされる際に、鋭利な爪はテラの脚の皮膚を裂いた。
 なんて男だ。テラの攻撃は無事な左手を無力化させるために、左肩を狙ったはずだった。けれどもミクの眼力に縛られながら、避けきれないと判断した男は、無理矢理軌道の下に右肩を入れてきた。使い物にならないのならば、これ以上壊れようと関係ないと判断したのだろう。
 脂汗を滲ませながら肩で呼吸する頭領に、二人は息を呑む。
 何という執念だ。これほどまでに掻き立てるものがあの男の中には存在する。
 頭領の右腕には未だ鎖が繋がったまま。つまり攻撃の痛みは、味方へも向かっている。放たれた火に包まれた城もそう長くは保つまい。
 猟兵たちとしても、あまり時間をかけてはいられない状況になってきた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

テラ・ウィンディア
真の姿発動

ああ、尊敬するよ

そうまでして…尚倒れぬそいつは…きっと凄い事なんだ

だけど…そいつはもう…叶わぬ夢だ

ああ、認めたくないよな

解るよ

おれも…倒したかった猛者が居た(黒騎士アンヘルを思い出す
勝ちたかった人がいた

何故手に入らなかったかを理解する必要はない

だが…「もう何処にも居ない者」を手に入れる事は誰にも出来ないよ

だから…その満たされない渇望を…終わらせてやる

【属性攻撃】
剣太刀に炎付与

【早業】で斬撃を繰返
引き続き【戦闘知識】での解析から【見切り】

そして今迄(己達含む)の攻防と彼や彼の仲間達の「斬撃」全てを把握し

過去に捉われた哀れな男
過去の刃で送ってやる!

消えざる過去の痛み発動!

斬斬斬斬斬!!



 皮膚の裂けた脚に布の端切れを巻き付けたテラは、大きく息を吐き出しながら立ち上がった。背後で燃えた城の一部が崩れ落ちる。
 楽に倒せるとは思っていなかった。しかし手負いの敵を計り違えたのも事実だ。
 「ああ……尊敬するよ」
 呟きと共に『錆鞘之太刀』を抜く。鍔と鞘が錆び付いているそれを、テラはスルリと抜き放った。無銘の太刀が炎を纏う。やがて勢いを増した焔が少女の全身を包んだ。
 揺れる陽炎の中、テラの真の姿が顕現する。黒を基調としていた衣は一転、白き着物へと変わった。袖の長い巫女装束の様な白い衣装は、纏い揺れる炎に照らされ薄紅色に色づく。そこに浮かび上がるのは邪気払いの意味を持つ菊の紋様。肩や胸、腰、額にはそれぞれ真紅と金の鎧が輝いた。胸元を覆うそれは加護を授ける紅炎の古龍を模しているのだろう。溌剌とした少女は神々しい風格へと変貌した。
 熱風が頭領と猟兵たちの頬を撫でる。漆黒の双眸はボロボロの男を見つめた。
 そうまでして尚、倒れることのない男。直向きともとれるその姿勢をテラは素直に凄いと感じた。
「だけど…そいつはもう…叶わぬ夢だ」
 剣太刀を握る手に力が入る。頭領は叶わぬ夢、と小さく繰り返した。
「ああ、認めたくないよな。解るよ。……おれも…おれにも、倒したかった猛者がいた。勝ちたかった人がいた」
 今も脳裏に消えない黒騎士の姿がある。己の力を過信し挑んだ相手は、まるで赤子の手をひねるかのように小さな身体を地へと沈めた。あの時受けた痛みと、振り返らぬ背中に感じた屈辱は消えることなく心へ居座り続けている。
「だが…『もう何処にも居ない者』を手に入れることはできないよ」
 テラの一言に頭領は大きく目を瞠った。脳内で警鐘が鳴り始める。
 少女の声に耳を傾けてはいけない。放たれた言葉を理解してはいけない、と。
「だから、その満たされない渇望を……終わらせよう」
 言い終わるや否や距離を詰めたテラが早業の斬撃を繰り出す。ハッと我に返った頭領も、その刃が身を裂く前に回避し応戦した。
 お互いに決定打に欠く攻撃の応酬は続く。しかしそれはテラの計略だった。
 今迄の戦闘における斬撃とこの攻防は全て把握した。十分だ、とテラが剣太刀を握り直す。
「過去に捉われた哀れな男。過去の刃で送ってやる!」
 過去が力になる。それは何もオブリビオンだけではない。過去を経て強くなるのは、生きている者の特権だ。かつて辛酸を嘗めた技が、今は痛みの記憶と共にテラの戦う術となっている。
「これは我が悔恨…我が無念…そしておれが知る恐るべき刃だ…とくと味わえ…!《悔恨「消えざる過去の痛み」(キエザルカコノヤイバ)》」
 虚空から無数の斬撃が頭領へ襲いかかった。
 ――斬斬斬斬斬!!
「なっ!?…っ、ぁ、ぁあ…!」
 どこからいつ現れるか不規則な攻撃に、頭領も回避が追いつかない。持ち前の反射神経でいくつかは防げているが、襲い来る攻撃は空間に刻まれた斬撃だ。無数の刃が頭領の全身に裂傷を走らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

富井・亮平
『猟兵戦隊イェーガーレンジャーッ! ただいま参上ッ!』
 ヒーローマスクのマジックナイト×ガジェッティア、19歳の男です。
 普段の口調は「ヒーロー的(私、お前、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?)」、時々「亮平くん(ボク、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



「猟兵戦隊イェーガーレンジャーッ! イェーガーレッド! ただいま参上ッ!」
 高らかな口上と共に赤いマントを翻し、ヒーローが現れた。胸元に大きく『TW』と記したヒーローは名を富井 亮平と言う。本体は頭部のマスクだ。
 悪の秘密結社オブリビオンと戦い続けることを誓った、という設定やありもしない過去などでっちあげているが、本人はいたって真面目に頑張っている。そしてその頑張りは確かに多くの命を救ってきた。魔法学園出身の少年、亮平と出会った後、彼の協力もあって日々平和へと邁進していた。ヒーローマスクはマスクだけでは戦えない。亮平少年は一蓮托生の相棒である。ちなみに戦隊と名乗っているが、構成員はレッドの彼一人だけだ。
「いかに城を築こうとも、歪んだ存在の上に積み上げたものは全て砂上の楼閣に過ぎんッ! このイェーガーレッドが完膚なきまでに解体してくれるッ!」
 ビシリ、と音が聞こえてきそうな勢いで頭領を指差した亮平が言い放つ。
「黙れ黙れ黙れ! 崩れはしない。城など最早どうでもいい。貴様らを殺した後にいくらでも作り直せる。さっさと散れ!」
 正気を失い激昂する男の顔には、すでに余裕がなくなっていた。目を瞠るほどの美貌も、今は血に濡れている。
 大きく距離を取った亮平は手にしていたエレメンタルロッドを両手で握りしめた。青い水晶を取り付けた金のロッドが淡く発光する。
「はあァァァッ! 究極ゥゥゥッ!! トォリニティィィ・エェンハンスッッッ!!!」
 少年の周囲に様々なエレメントの魔力が浮かび上がる。
 『炎の魔力』、『水の魔力』、『風の魔力』、『雷の魔力』、『氷の魔力』、『地の魔力』、『光の魔力』、『闇の魔力』、そして『無の魔力』の十種。
 それぞれが少年の身体へ宿っていく。危険を感じた頭領は事が起こる前に始末しようと、急所へ鉄爪を伸ばした。しかし、僅かな差で亮平のユーベルコードが発動する。
「《トリニティ×トリニティ・エンハンス(アルティメット・トリニティ・エンハンス)》」
 十種の魔力を宿し超強化された肉体は、無傷とはいかないが間一髪のところで致命傷を避けた。仕留め損ねたとわかった瞬間逃げようとした男を、亮平は逃さない。
「うぉおおおおおおおッ!!」
 片腕が使えないことで攻撃を仕掛けた後、隙だらけの頭領の胴体へ拳を叩きこんだ。
「かはっ…!」
 細身の体躯がふっ飛ばされ壁にぶつかる。詰まった呼吸に頭領は咳込んだ。
 超強化された身体から渾身の力を込めて繰り出されたその拳は、まさに正義の鉄拳である。
「正義は、屈しない…ッ!」
 ヒーローらしくキメながらも、亮平は荒い息を吐き出す。強く握りしめた拳が震えていた。
 大いなる力には、大いなる代償が伴う。亮平の強力な力に伴う代償は、全身を駆け巡った毒だった。それでも死に至るような毒ではない。宿した魔力のひとつ、『無の魔力』は強化のためではなく、この力による反動を少しでも軽減するためのものである。戦いの中でどんな強敵を前にしても、倒れぬヒーローであり続けようと彼らが身につけた技だ。
 だが、その攻撃を受けた頭領はふらつきながらも立ち上がる。未だ戦いは終わらない。

成功 🔵​🔵​🔴​


 こんな痛みを感じたのはどれほど前だろうか。満身創痍と言えるくらい追い込まれた男が、地に伏すことはなかった。

 ――叶わぬ夢。もう何処にも居ない者。

 少女に言われた言葉がリフレインする。何度打ち消そうとも、声が消えなかった。
 そんなはずはない。この道の先が夢の成就だ。王となることで、姫は手に入る。

 ――オブリビオン。

 目の前にいる者たちが己に向けて発した一言。大して気にもかけていなかったそれが、今は妙に引っかかる。
 オブリビオンとは、骸の海に沈んだ過去でなかったか。
 
 ――王になればよろしい。

 浮かんだ思考を掻き消すように、いつかの部下の声が響く。その声に身を委ねるのはひどく楽に感じた。
「我は、王に……」
サンディ・ノックス
王の器ねえ…どのあたりが?
女武者の無念を汲んだあたりなら納得できるけど違うんだろ?
力はともかく器は違うと思うなあ

(王を目指す動機を知った場合)
俺は、振り向いてもらうための努力は王になることより簡単だったと思えないな
だから王になっても無駄だと思うよ

真の姿発現、赤い竜人のような姿に変化

攻撃回避に活かすため同業者が攻撃する様子を観察して敵の癖を【見切】る
翼による飛行で加速、または【ダッシュ】で接敵
命中率を重視したUC、解放・宵で斬りつける
【怪力】で攻撃の威力は底上げ
敵の攻撃は【フェイント】も駆使してできる限り回避

部下をけしかけられても動じず盾に使えるものができたと笑い
言葉の通り朔で絡め取って盾にする



 幽鬼のように俯いた頭領へ、サンディは目を細める。これまでの配下の心酔ぶりと言動から、男を見定めようと観察していた。
「王の器…ねぇ」
 紡がれた言葉に頭領が顔を上げる。少年は小さく嘆息して『暗夜の剣』を抜いた。
「お前のどのあたりが? 階下にいた女武者。彼女たちの無念を汲んだところなら納得できるけど、今のお前を見る限りそんなものがあるようには見えないな」
 王の在り方は様々だ。配下や民と共にある王。民衆を導く王。全てを背負う王。
後の世に語り継がれる良き王には、王の器というものをあったのだろう。もちろん悪しき王がいなかったわけではない。だが、それらの王には器がなかったまでだ。
 今、目の前にいる男が王に相応しいかと言われれば首を傾げる。配下に慕われている様子だけならば、きっとサンディの印象は違っただろう。
「……否」
 唸るように否定する低い声がこぼれる。サンディへ冷たく鋭い視線が刺さった。しかし少年は表情を変えない。
「だから、王になっても無駄じゃない?」
「否っ!!」
 頭領の叫びに呼応し、部下の山賊がサンディに襲いかかった。
 床に向かっていた切っ先が迫る山賊を前にゆっくりと持ち上がる。同時にセピアの鎧を纏った黒騎士が顕現した。背中からは身体を覆えるほどの大きな翼。その下から竜の如き尾が揺らめき、両側頭部には天を突くように角が伸びる。
 右手に握る暗夜の剣は、瞬きの間にその姿を身の丈ほどの長剣に変え、眼前の敵を薙ぎ払った。
 真の姿を発現したサンディが侮蔑の視線を頭領へ送る。黒騎士の足元に転がる部下へ頭領が心を向けることはない。
「やっぱり、お前に王の器なんてない」
  今はっきりした。この男にとって部下は目的のために利用する駒でしかない。女武者も結果として無念を晴らす形となったが、嘆きを聞き届けたわけではない。ただ都合が良かったから手元に置いていただけだ。
  どこまで傲慢で身勝手なのだろうか。 ここにいるのは王などではない。過去に執着した哀れな男だ。
「貴様が何と言おうと、我は王だ。王でなければならいのだ…!」
  数が減ろうとも構うことなく頭領は再び部下へ命令を下す。
「盾になるものが増えたな」
 口元だけで笑みを描いて床を蹴る。正面から襲い来る部下へと向かって暗夜の剣を振るった。
 薙ぎ払い斬り捨て進むサンディが不意に、左手で『朔』を取り出す。漆黒のフックが横にいた部下を捕らえ引き寄せた。
 次の瞬間、サンディの前へと連れてこられた部下の身体を、唐突に現れた鉄爪が貫く。主人に殺された哀れな部下の肩越しにサンディと頭領の視線が交わった。
 それは刹那の時。
 逆手の長い爪がサンディの命を抉り取ろうと伸ばされる。しかし、その攻撃は既に他の猟兵との戦闘で見たものだ。爪は一撃で心臓を狙ってくる。分かっていれば対処はそう難しいものでない。しかも負傷した身体は速度が落ちている。攻撃を見切ったサンディは剣を振り上げ攻撃を弾いた。
 好機は逃さない。
「さぁ、宴の時間だよ。――《解放・宵(カイホウ・ショウ)》」
ユーベルコードにより命中率を上げて突き出された切っ先が頭領の左脇腹を抉った。
「っ…嘗めるなぁ!!」
 痛みに躊躇うことなく、弾かれた爪を振り下ろされた。鎧を掠めたところで、サンディはなんとか後方へ退避する。
「……その執念だけは認めるよ」
 一瞬だったというのに男は鎧を砕いた。その力にひやりとしたものを感じながらも、サンディは笑みを浮かべる。
 根本が間違っていなければ、きっといい男になっただろうに。山賊の頭領な時点でいい男と言っていいのかは定かでないけれども。
 

 
 頭領は既に立っているのがやっとなほどだった。膝をつかないのは、折れていないからだ。気力だけで立ち続ける男に恐ろしさを感じながら、同時に称賛もしていた。
「殺す…殺し尽し、我が全てを統べる…!」
 それが力の証明になると、信じて疑わなかった。それこそが王の証だと。
「鎧だけではなく肉体もろとも砕いてやろう」
 楽に死ねると思うな。
 そう言ってサンディへ向けたはずの追撃が、届くことはなかった。
「がっ…」
「次は、逃がしませんよ」
 軋む身体に覚えがあった。
 まさかと視線を巡らせば、果たして《漆黒の瞳》を発動したミクと目が合う。歯を軋ませた頭領は、部下をけしかけた。
「あの女を潰せ!」
「そうはさせるか!」
「ブラック! ええと…ホワイト! 私も加勢する!」
 多勢に囲まれたミクの前に、テラと亮平が割って入る。亮平が口にしたブラックとホワイトは、それぞれミクとテラを差していた。テラを呼ぶ際に迷ったのは、見たままならばレッドで己と被るし、髪色ではミクと被ってしまうためだろう。結局は衣装の白を取ったようだ。
「ありがとうございます。お二人とも」
 ミクは力強い助っ人に感謝し、目の前の敵を見返した。
 簡単には仕留められない状況へ変化したことに、頭領は大きく舌を打つ。しかし、対象が変わったことによりミクの瞳からは逃れた。ならば標的を戻すだけ。

「あたいを忘れてもらっちゃ困るよ」
 不意に頭上から聞こえた声に天上を仰ぐ。そこにいたのは緑の怪獣、元いニアだ。振りかぶっているのは、この城に火をつけた燃える爪。
 こちらも鉄爪をもって応戦するが、重力の力を加えたニアの爪に耐え切れず鉄爪は砕ける。
「っ!?」
「あたいの爪の方が鋭かったね」
 にんまりと笑ったニアへ、頭に血が上るのがわかった。
 爪はなくともまだ拳がある。しかし、足元へ着地した彼女に振りかざした左腕が降ろされる前に、その肩を銃弾が貫いた。間髪入れず腕を数発撃ち抜かれる。
 弾の軌道は背後から。振り返った先には構えた銃口から煙を立ち昇らせたシキの姿。
「潰させてもらう、と言ったからな。あんたの道も、命も」
 銀糸の背年は淡々と言い放つ。
 両腕が使えなくなった。
「ならば脚を使うまで!」
 右脚を軸に繰り出した蹴りを、先ほどの隙で十分に距離を取ったニアには届かない。さらに踏み込もうとした頭領は、突如その動きを止める。
「くっ…」
 金縛りにでもあったかのように、動作の途中で止まった身体はよく見ると細い糸が絡まりついていた。糸を辿った先にいるのはもちろん、空だ。
「これなら、この身体でも、役に立つ…!」
 深手を負いながら、どこかで一矢報いることが出来ないかと機会を伺っていた。
「おのれ、おのれ…おのれ……!」
 頭領が呪詛を吐く。最早動かせるのは口だけだった。
 そんな男の頭上に影が差す。見上げた先は翼で飛行するサンディ。まるで処刑を待つ囚人のような既視感を覚えた。
「これで、最期だ!!」
 袈裟に振り下ろされた黒剣が頭領の身体を切り裂いた。力を失った身体がゆっくりと傾く。
「うふふ」
 耳に入ってきた笑い声。一度は恐れを抱いたそれを聞いても、鎖が解けた今痛みは感じない。
「ああ、痛かったわ。うふふ…我慢対決はレイラの勝ちね」
 笑みを深めた少女は、やはり不気味だった。

 
 倒れた身体にもう起き上がる力は残っていない。サンディに斬られた瞬間、全てを思い出した。己の命がすでに朽ちていたことを。
 嗚呼、いつからだ。いつからこの身は、『過去』になっていた。
 もうずっと遠い記憶だ。配下が人ならざるモノへと変化し、オブリビオンとなったことさえ忘れてしまうほどに、遠く長い時間を歩んできた。ありもしない道をたどりながら。
 あの少女の心を手に入れるために。
 奪うつもりが、奪われていたのは己の方だった。少女はもういない。たとえこのまま王になったところで、何も手に入らず終わるだけだった。
 この夢は、とうに潰えていた。それを己だけが知らぬまま。
「ひめ……」
 微かにこぼれた呟きを最後に、哀れな山賊の頭領は白亜の城と共に燃え尽きた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年10月19日


挿絵イラスト