Fino alla fine
ノエル・レッドラム
「兄ちゃん兄ちゃん、一体なんの気の回しよう? 明日槍でも降っちゃう? もしかして兄貴深刻な整備不良――?」
なんか突然、グレイさんから良いところのお食事券をもらったっぽいノエル。
……って感じでお好きに書いて貰いたい私です。
バレンタインにかこつけて(一見美味しい)お仕事任せて、最後にグレイさんだけ美味しいところ掠っていく感じでも。
一緒に出かけて、あれれ、あらら?みたいな感じでも。
性癖ごりごりに組織が滅んでも。
お食事している間に組織が滅んでても。
この後一仕事(お掃除)あるからね、でも。
バチバチに秋月さん節で、ノエルを書いて貰えれば満足ですので……。
兄ちゃんのログイン率もお任せします。
延々会話してても楽しいのでOK。
文字数も余らせなくてもOKです。
しかし★1分の思い切った短文でも、お洒落かもしれません(※難題)
NGなしで全力で脱力した状態でお任せです。
期限だけ、厳しかったらゴメンナサイな気持ちで委ねます……。
なお、ノベルに登場する画像は、スーツ姿を指定しております。ご参考までに。
以上、ご都合よろしければ、よろしくお願い申し上げます。
001
オペラの名を持つホテルは、街いちばんの絶景を誇るホテルであった。この街の全てを見渡すことに執心した男は嘗ては議員であり――だが、それだけであった。商いの才があったのか、町一番の高さを持つホテルを建て、その最上階にコンサートホールを造り喝采の夜に死した。そうして贅を凝らしたコンサートホールは相続人によってレストランに生まれかわった。
全ては街の支配者を気取った男が死んでからのことであり、ただ――そう、ことのつまり『縁起が悪い』んじゃないかとノエル・レッドラム(polvere di stelle・f31365)は思った。
「兄ちゃん兄ちゃん、一体なんの気の回しよう? 明日槍でも降っちゃう?」
ノエルは正面の席に座る相手へと声をかけた。撫でつけた髪に見覚えの無い眼鏡をかけた男は、ウエイターに二言三言声をかけた先で、こちらを向いた。
「んー? ノエルはメイン、魚が良かった?」
「昨日海だったし、魚はやめとくべ。そうじゃなくて、もしかして兄貴深刻な整備不良?」
兄貴――ノエルをこのホテルに呼び出した兄、グレイ・レッドラムは目をぱちくり、とさせた後に笑った。
「まさか、にーちゃんは今日も絶好調だよ」
「やっぱメンテミスったべ」
「大丈夫、とっておきのスーツも用意してきたんだから」
全部、とグレイは笑う。これが普通にディナーに来ているだけなら、別に問題も無かっただろう。今日は二月一四日。どこぞの聖人が踏ん張った日。
「ノエルとのバレンタインディナーの為にね」
バレンタインデーにあった。
002
「ワインはどうする? 肉なら赤だけど、シャンパンでも良いよ」
「わーお、大盤振る舞いで俺ちびっちゃいそう。
――で、兄ちゃん。何の仕事よう?」
ゆるり、と顔を上げる。今度は灰の瞳が瞬くことは無く――ただ無駄に長い足を組んだグレイがゆるり、と首を傾ぐ。
「可愛い弟とディナーをしたかったんだよ。せっかくのバレンタインなんだからね」
ここはドルチェも有名だからね、とグレイは笑ってみせた。
「うちは福利厚生もちゃんとしてるから」
「福利厚生の前に仕事しろ兄ちゃん。それに、本物なら、家でピザでも作るべ」
「まぁね」
ふ、とそれは楽しげに笑った兄は、耳の良いウエイター達には聞こえない符号で告げる。
「オシゴトだよ、ノエル。夕食つきのね。だから好きに食べよ。シャンパンにする? それともジュースなら……」
「アルコールお願いしマース。んで、何掃除すんべ」
放っておけばオレンジジュースでも頼みだしそうな兄に先手を打っておく。人の目とは違うそれが楽しそうに弧を描いた。
「俺達は仕事の後片付けをするんだ」
「んーこの店でそのまま片付けするんのけ? 人も多いじゃねぇの? まさかここ全部け?」
クリーナーを使う理由は、依頼人が望む『元通り』を作る為だ。死体が一つ二つ出るだけなら、何も今じゃなくて良い。それならば考えられることはひとつ。
「掃除すんの」
す、と冷えた目でノエルは告げた。ころころと表情を変えていた青年はなりを潜め、瞳の青の奥が鋭さを残したまま肩越しに賑わう店を見た。この場に掃除屋まで呼ばれている理由があるとすれば――この店が丸ごと、仕事場になるということだ。
「流石はノエル。ターゲットは一人だけなんだけど、角が立つという話になったみたいでね。木を隠すなら森の中ってことで、此処がまるっとね」
「まるっと」
「そう、まるっと」
くるり、とフォークで形を作って見せた兄がにっこりと笑う。
「片付けちゃおうって」
「……」
それは一般的に言えば大量殺人と言われるものだった。バレンタインだ。理由も世間は勝手に作り上げる。わーお、バイオレンス。なんて言ってみた先でノエルはゆるりと顔を上げた。
「兄ちゃん兄ちゃん。ってことは、俺ら死体袋増やすために呼ばれたけ?」
まるっと全部。ターゲットを隠す為に派手な仕事をするつもりなら、ディナーに来ているノエル達も無事では済まないだろう。
「それとも、何かあるけ?」
003
汚れる前の現場に掃除屋がいる理由はそう多くは無い。他に仕事があるか、仕事そのものが違うか、だ。笑うような声と共に、ノエル、と子羊のステーキが一切れ差し出された。
「俺達の仕事は、掃除とちょっとした見学だよ。先に仕事をする彼か彼女かがちゃんと仕事をするようにね」
「それ仕事しないやつだべ」
フォークごと食らいつけば、楽しげに笑う声が耳に届く。口から零れ落ちる話は何処までも血に濡れているというのに、ウエイターも周りの客も気にする様子は無い。賑わう店の特権か。んで、と促した先でグレイはゆるりと口の端を上げた。
「他に優先することが起きちゃったみたいでね。処分が上手くいかなかったから」
暗殺者の裏切りなんていうのは、珍しくも無い。向こうに信条があった場合にしろ、ミスマッチにしろノエルの仕事じゃぁよく聞く話だ。
「ついでに見て来て欲しいってね」
当初のお仕事から随分と話が変わったと思うが――実際、やることにそう変わりも無い。最後には兄は話しただろうが。じとり、と見た先、ディナーが楽しいからね、と笑ったグレイにノエルは軽く肩を竦めた。
「揉めた暗殺者ならなんでここ来るべ。なんか、来る理由でも……」
「そう、どうしても来ないといけない理由があるんだ。さて、質問です。ノエルくん。俺もお前も楽しくお喋りしているけど、どうして誰もこんな話を不思議がらないと思う?」
ここは嘗て、街の全てを支配せんとした男が作り上げたコンサートホールであり、絢爛豪華な内装はレストランとなった今も代わりはしない。アンティークな壁紙も、座り心地の良い椅子も、無駄に太い柱も装飾品達も。
「ここに、何かあるじゃんよう。兄ちゃんやっぱこのディナー最後の晩餐け?」
「まさか。うちは福利厚生もしっかりしてるんだよ。ノエル、フロアの中央にある水晶は見える?」
言われて目をやった先にあったのは、大きな紫水晶――その原石だ。周囲の石ごと切り出したのか、どんとデカい柱のような形をしたそれはフロアの目立つ場所に居座っていた。
「確かに何か……」
インテリアとしては珍しいものでも無い。サイズは大きいが、ただそれだけだ。それだけだというのに、ひどく妙な気分になる。
「変じゃね?」
「そう、あれはただの天然石じゃなくてね。一緒に切り出した石に入っていた香木の方に問題があってね。幻覚作用があるんだ」
最初は、と兄がウエイターに二言三言告げる。ドルチェを運んでくるというウエイターには、こっちの話を気にする様子も無い。聞こえていない、というよりは認識出来ていないが正解で、そんな秘密のお茶会が――カクテルパーティーが出来ちゃうのが『あの天然石』というなら。
(「あやしい仕事引き当てすぎだべ」)
グレイは派手な仕事を特別好むというタイプでも無い、筈だ。うん。兄ちゃん服は派手だけど。そもそも、グレイが現場に出て来ているあたり、本当にイレギュラーなのだろう。
「んで、あれが便利グッズなのけ?」
「そう俺やノエルはそう思うし、あの効果自体は知れたものだから、今回も理由になってもらうところだったんだけど、暗殺者の方がアレに入れ込んじゃってね」
頬杖をついて、グレイが笑う。あ、絶対やばいこと言うべ、と諦めと身構えをつけた瞬間、楽しそうな顔をして兄は言った。
「神様の啓示だってさ」
「わーお、びっくりじゃんよう。暗殺者って普通、ああいうの耐性あるけ?」
「あったみたいだよ。ただ、はまっちゃったんだろうね、何かに」
あの天然石が――正しくはそこに巻き込まれてた香木の齎す幻覚に、暗殺者は神を見た。ハッピー、ハレルヤ。仕込みで来た店で運命の出会いを果たした暗殺者は、全てを裏切ると決めたのだ。
「神様のためにね」
「カミサマのお陰で追加料金にオプションプランじゃん。でも兄ちゃんよう、そいつ探すにもこの中に隠れてんなら、どうするべ」
何処かのタイミングで騒ぎは起こすのだろうが、向こうが動き出した後でやるのも面倒くさい。それこそ今は森の中に木が隠れている状況だ。
「嘘つきを見つけるのは難しくても、嘘をついている人間を探すのは難しく無いからね」
吐息を零すようにしてグレイが笑う
「兄ちゃん悪い顔するじゃんよう」
「兄ちゃんは人好きする顔をしているからなぁ。ただ、向こうが何を大切にしているか分かるなら簡単なことだろう?」
はい、ノエル。あーん。
そんなことを言いながらやってきたドルチェからアイスクリームをひとすくい差し出した兄は微笑んだ。
「あれ、壊そうか。ノエル」
「うげ」
ハレルヤしてる暗殺者くんが転職希望を出してるタイミングで、そいつの神様を殴れば――そりゃぁ出てくるだろう。めちゃくちゃ、怒って。
「やっぱ最後の晩餐じゃんよう」
「大丈夫大丈夫。ノエルのことは兄ちゃんが守ったげるから」
「なら兄ちゃんが殴るべ」
チョコレートアイスひとつじゃ安すぎる。じとり、と見れば、とっても申し訳なさそうな顔だけをした兄が目を伏せた。
「新しいパーツが合わなくてね」
「都合の良いときだけポンコツになりやがって兄ちゃんよう」
結局、目立つことには代わりはない。ぺろりと食べきったドルチェのプレートに、グレイの所にあった苺がちょん、と乗る。子供扱いというよりは、子供の頃の認識が抜けきらない兄は相変わらずニコニコと笑っていて――請け負った仕事である以上、掃除屋にノーは無い。
斯くして、ノエルの拳一発で破壊されたカミサマに、一秒も待たずに暗殺者は飛び出て、派手にぶちまけられた弾丸は結果的に当初のターゲットをお片付け。首と胴体が離れてた依頼人は、代理を立てて成功報酬をL&P カンパニーに振り込むこととなった。暗殺分と、処理分、そして――きっちり掃除代を。
「次のご用命もお待ちしてマース」
「掃除屋を宜しく」
成功
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