●支配
群青。果てなき空。
見上げれば、そこに隔てるものがあるなどとは到底思えないだろう。
だが実際は違っていた……そこには誰かが決めた境界線が引かれているのである。
それは力による支配のためだ。
その事実は、見上げる者達の心に屈辱と反感、憎悪の火を灯していた……。
●自由
時はまさに獣人世界大戦。
ここアドリア海はゾルダートグラードの支配下であった。
しかし超大国による支配を良しとせぬもの達もあった。そういった者達の中には、武器を取り立ち上がる道を選ぶものもあった。
ここイタリア半島南部に位置するアルタ・ムルジャでは、密にそういった者達が集まっていた。山中に秘密基地を築き、そこに物資を持ち込んで反撃の機会を伺っていた。
かれらこそは、ゾルダートグラードの支配に対する抵抗組織。
義侠心溢れる、飛行機乗り達である。
かれらのうち一人が言った。
「ここに集いし、我が愛する兄弟達よ。我らは勝利の末に自由を掴むか──さもなくば、
鴎となって雲を
臥所とするであろう」
これを聞いた全ての者が、敬礼で応えた。
自由。
それは時として、争ってでも求めるものだ。
●角笛は高らかに
「猟兵達よ。獣人世界大戦への参戦を願う」
アノルルイ・ブラエニオンは厳かに言った。
「今回の戦場はイタリア半島、アドリア海上空。
敵は──ゾルダートグラードの制空戦闘機となる。
編隊を組んで襲いかかってくるこの世界の空の戦力だな……主な武器は機銃、そして高さと速度と生かした攻撃をしてくる。
空中戦となることは間違いないだろう。空を飛べる手段を持つならばそれでよし、なかったとしても、現地のレジスタンスの協力を得られる。
居るのだ、そこには。義侠心溢れる、飛行機乗り達が……。
飛行機乗り達の協力を得るのに、特に交渉などは必要ない。
なぜならかれらの心はすでに燃えているからだ。
では行くがいい……汝らに武運を!」
そう言って角笛を高らかに吹き鳴らした──彼の世界での戦の合図である。
デイヴィッド
二年ぶりくらいのOPを提出します。
デイヴィッドです。……前はもっとテンション高かったようですね。しかし今は今だ! 過去には囚われない!
戦闘開始からの描写となります。皆様はすでに飛行機乗りの協力を取り付けたものとしてプレイングを書いてくださって結構です。むろん飛行機乗りとのやり取りを書いても構いません。
OPはもうシリアスにしましたがプレイングではっちゃけるのは全然構いませんぞ!
また、できるだけ早い完結を目指しております。一日か二日を目安に。
なお、タイトルはある合唱曲に由来しています。
よろしくお願いします。
プレイングボーナス……飛行機乗り達と協力し、空中戦で戦う。
第1章 集団戦
『制空戦闘機』
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POW : ワンショット・ワンキル
【機銃弾】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : ダイブアンドズーム
敵より【高い高度、または良好な速力を有する】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
WIZ : 編隊空中戦闘
【同じ目的を持つ僚機】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[同じ目的を持つ僚機]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
👑11
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絶えずゆらめく水面が日の光を反射して煌めく。
鴎の声。波の音。
それだけが聞こえていた。
だがそれらも、すぐにエンジン音にかき消される。
この地の飛行機乗り達の間で言い伝えがあった。
──空で戦って死んだものの魂は鴎になる。
これから戦いの空へと赴く飛行機乗り達は、鴎の声に逝った戦友を想い、自分が死んでも誰かが思い出してくれる、と自らを安心させるのである。
もっとも、今回はいつもより安心できる要素があり、死ぬ可能性はより低いと思えた。
異界よりの『思わぬ援軍』──猟兵達の存在。
それがかれらの戦意を後押ししていた。
天城・千歳
【SPD】
ここにきてユーラシア大戦ですか。余程「はじまりの猟兵」の情報が欲しいんですね。
サテライトドローン群を戦闘空域外周に展開、通信・観測網を構築開始。
本艦の電子・光学系観測機器及びドローン群による【索敵・偵察】で【情報収集】し、収集した情報を元に【戦闘知識・情報検索・瞬間思考力】で分析後UCで最適の迎撃パターンを構築します。
構築した迎撃パターンに従って戦闘を開始後、【情報伝達】で戦闘空域内の味方の管制と誘導を行いつつ、敵に対し【ジャミング】を行い連携を妨害します。
無人騎兵隊と自立砲台群は【自動射撃・遊撃】で味方を支援
向かって来る敵は搭載火器の【一斉発射・範囲攻撃・弾幕・対空戦闘】で迎撃
この空の色を凝り固めたかのような群青の機体が、強い陽射しを浴びて輝いた。
空中機動能力を備えたウォーマシン、天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)が、蒼穹を征く。
対するはゾルダートグラードの制空戦闘機、青とカーキの機体色の、空の戦いに特化した殺戮機械は、千歳を上回る速度と、高度をもって挑みかかる。
それらは、戦いを有利に運ぶと思われた。
……ただし、
それはただの空中機動能力をもったウォーマシンが相手であればの話だ。
千歳と共闘する飛行機乗り達は、すでに敵戦闘機に対して優位な位置取りをし終えていた。
情報収集能力においては、千歳のそれは、明らかに遥かに上を行っていた。
あらかじめ戦闘空域外周に展開されたサテライトドローン群を用いて、通信・観測網を構築していた千歳は、早い段階で索敵・偵察を済ませており、豊富な戦闘知識と優れた情報検索能力、そして瞬間思考力に基づいた最適な行動をすでに割り出していた。
それらは通信手段を用いて飛行機乗り達にも伝達されており、敵に先制してジャミングに成功、敵は千歳の眼前に現れる頃には、すでに展開の終わった無人騎兵隊と自立砲台群のいい的となっていた。
いかに敵の機動力が優れており、それに応じて戦闘能力の上がるユーベルコードを所持していたとしても、戦いは前後の戦術の優劣で決まる。その点において、戦いの結果は交戦するよりも前に明らか。
もはや、情報収集も必要ない。
編隊をなした敵戦闘機群は不利な条件にも構わず攻撃を仕掛けてくるが、ラプラス・プログラムを起動した千歳はそれに真っ向から突撃、すべてを避ける。一気に加速、旋回・上昇して味方の射線を開ける。そして。
一斉攻撃の合図。
飛行機乗り達の機体の火器が、無人騎兵隊と自立砲台群が、そして千歳自身の搭載火器が一斉に火を吹き、敵範囲に弾幕を展開する。
大空に閃光が炸裂した。わずかに遅れて、いくつもの爆音が轟く。
そして黒煙をあげて墜落していく敵機の姿。
飛行機乗り達が喝采をあげた。
そして称賛する──頼もしき異界の戦友を。
「次なる目標に移動します。全機、我に続け」
千歳は周囲の味方に通信した。
編隊を組む飛行機乗り達を先導して、群青の機体が空を翔る。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
拙者はちょっとやる事があるから戦闘機の翼の上でいいぞ!
このまま空戦に突入してくれよな!
でぇじょぶだ地上に【架空兵器】を用意しておきました、超スーパーどえりゃあ音で空中にいる奴らを蚊トンボのように叩き落とす…音波砲でござる
拙者は遠隔制御で忙しいから
想像で作ったもんだからちゃんと動作するんだなこれが
強烈な音響が敵パイロットにスゥーっと効いて眩暈、耳鳴り、吐き気を催しますぞ
弱らしておいたから後はレジスタンスが適当に暴れてきな!
因みに撃ちだす時にサービスでメロディつけておいたから楽しんでほしい
ハァ兵器がねぇ、銃弾ねぇ、周りはポリスがぐーるぐる!
人権ねェ、ある訳ねぇ、レジスタンスにゃ後がねぇ!
「出撃だ! いくぜ黒髭の旦那、倒振り落とされんなよ!」
「無問題!!! ヒャッハー!!!」
まるで昔からの知り合いのように、青鹿毛の馬獣人の飛行機乗りと言葉を交わすエドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)。彼は戦闘機の翼の上に乗っているのである。バランスが心配になるがそこは猟兵を主戦力とする世界の兵器、人一人翼の上に乗せるくらいで飛行に影響が出たりしない。
プロペラの音を響かせ、戦闘機は空へと飛び立った。
僚機と編隊飛行を組み、味方の索敵に引っ掛かった空域へと向かう。
やがて空の彼方に日光を反射するものを認めた……かと思うと、それは猛スピードで迫り、やがて制空戦闘機の群れの姿が明らかになる。
空越しに感じるほどの殺意を放つそれはエドゥアルド達の隊に向けて機銃を撃ってきた。それは命中すれば破壊は免れず、当たり所が悪ければ致命的な事になる危険極まりない代物だ。
しかし十分な距離があったため、初撃は回避することができた……これは偶然ではなかった。
「来た! それじゃあ青鹿毛どの、打ち合わせ通りに」
「了解だ! 行くぜ!」
バカでかい声で言葉を交わすエドゥアルドと戦闘機乗り。もともと彼等は、敵機を確認したらある地点へ誘導するように決めてあったのである。
彼等は敵の機銃の射程ぎりぎりになるように飛行し、ある地点へ向かった……海岸へと。やがて日の光を受けて銀色に輝くものが認められた。
それが何なのかは青鹿毛のパイロットには知らされていないが、それがエドゥアルドの狙いであることはなんとなく察した。
当のエドゥアルドはといえば、何も言わずに戦闘機の翼の上で腕組みをして仁王立ちしていた。
それは、空に広い所を向けている、中が空洞になっていて蓋のない巨大な円錐型のものだ。形で言えば、それはちょうど……
馬鹿でかいメガホンだとか、サイレンに似ていた。
エドゥアルド達はその前を通り過ぎる。そしてそれを追ってきた敵機がその前を通った瞬間……。
機体の何体かが、吹っ飛んだ。
同時に空に爆音が響き渡った。
「音波砲でござる」
エドゥアルドは吹っ飛ばされてなすすべもなく着水した敵機を見やって、改心のドヤ顔をキメた。
滅茶苦茶胡散臭い。
敵を倒したのはエドゥアルドのユーベルコードによって産み出された
架空兵器だった。打ち出された音の波の速さは銃弾の比ではなく、範囲も広い。その攻撃から逃れるすべは、音より早く飛行するのみ──それも気づいてからでは遅い!
「ちなみに直撃を免れたとしても、強烈な音響がスゥーっと効いて眩暈、耳鳴り、吐き気を催しますぞ。用法用量を正しく守ってお使いください」
誰に向けてか講釈をたれるエドゥアルド、その通りに敵機の動きは明らかに生彩を欠いていた。
「ヒューッ! すげえぜ黒髭の旦那! ところでよ……」
ハァ兵器がねぇ、銃弾ねぇ、周りはポリスがぐーるぐる!
「さっきから鳴ってるこの変な歌は何なんだぁ!?」
青鹿毛パイロットは頭上のエドゥアルドに向けて聞く。
「せっかくなんでサービスでメロディつけといたでござる!」
人権ねェ、ある訳ねぇ、レジスタンスにゃ後がねぇ!
「だーっはっはこいつは傑作だ! なんかやる気出てきたぜ!」
「マジか」
おらこんな時代嫌だ
おらこんな時代嫌だ
自由さ得るだ
自由さ得だなら 銭こさ貯めて
俺……結婚するんだ……
「って縁起でもねぇ!」
いくらかシリアスが崩壊した空で、戦いは続く……!
大成功
🔵🔵🔵
風吹・香織
アドリブ連携歓迎
へぇ、空中戦ね。そりゃ戦闘機乗りとして出ないわけにはいかない。
いくよ、
P-38 ライトニング!
って、またこいつかい。本当あちこちの戦場で制空権を確保しようとして、厄介だね。
ユーベルコードを発動。あっちは単発機だが、こっちは双発機、この利点を活かそうじゃないか。
まずは高高度を取って、シンプルに機関銃と機関砲で攻撃を仕掛ける。
その一撃離脱を繰り返したいところだが、そうは許してくれないだろうね。
おそらく高高度の取り合いになるだろう。こっちの方が出力は上だから抜かれないが、攻撃にも移れない。ひたすら上を取り合う羽目になる。
そこで、その隙を友軍に突いてもらおう。
猟兵の中にも飛行機乗りは存在した。「双胴の悪魔」の異名を持つP-38ライトニングを駆るのは、戦闘機パイロット風吹・香織(怠惰な「双胴の悪魔」乗り・f39889)。この世界の日本出身の彼女だが現在は世界を巡る猟兵の一員だ。
香織は高揚していた。出身世界での大きな戦いだから、というよりは、これが空での戦いで、香織が戦闘機パイロットであるからだ。
空の戦いと聞いて、自分が出ないわけにはいかない。
相棒──P-38ライトニング──も同じ気持ちなのか、良好なエンジン音と御機嫌な加速で香織に応えてくれている。
現地の飛行機乗り達とともに出撃した香織は、やがて敵機を確認、交戦に入った。
香織のユーベルコードはアルティテュード・アドバンテージ、高高度をとることで威力を発揮する。まずは有利な位置を取ろうと動く。
敵もそれが解っているのか、上昇するP-38を追いかける。一機だけではない。P-38に狙いを定めた複数の機体が、追い縋っていく。
「いくら集まろうと、単発機ごときに!」
香織は悪態をつきながらも、その加速性能をもって敵よりも高高度を確保することに成功、機関砲の射撃でまず一機を落とした。
しかし攻撃の隙を見て、他の機体が頭上を取ろうとする。
「させないよ!」
香織はP-38を旋回させ、距離を取りながら敵よりも高所に回ろうとする。視界では猛スピードで風景が過ぎていき、空と海が目まぐるしく回転する。迫る敵機。敵も空の戦いのために産み出された戦闘機械、そう思い通りにさせてはもらえなかった。
さらに、敵のユーベルコードは群れ集うほどに性能を増す性質を持つ。
対するは香織は──。
「気付いていないのか?」
敵機体の一機にミサイルが炸裂する。
背後からだ。
「『私だけを追いかけている』
……ということに」
さらに一機、もう一機と攻撃を受け、ソルダートグラードの戦闘機が次々と沈んでいく。
意思を統一するほどに威力を増すユーベルコード、しかし意思が一点に集中しすぎれば、どうなるか。
──他の敵に隙を突かれる。それが答えだ。
現地の飛行機乗り達の手によって、敵機は一機、また一機と葬り去られていき、やがてその空域に敵はいなくなった。
「怪我はないか、スィニョリーナ」
香織に向けて通信が入る。なるほど、イタリア人らしい。
「見事な飛行を見せてもらった。その礼だ」
……なお、その通信した飛行機乗りは他の機体からは「抜け駆けだ!」「このカッコつけ!」と後で仲間からさんざんに言われたという。
大成功
🔵🔵🔵
神酒坂・恭二郎
死を賭して自由を望むか
熱いねぇ
ちょいとばかし銀河戦争の昔を思い出したよ
気持ちに火が入った
相棒の星白鮫の鮫五郎を召喚し、大空を舞う
「雲の中から奇襲を狙う。上手く誘導してくれ」
飛行機乗り達にそう依頼し、雲の中に潜む
エンジン音とは無縁の星白鮫だ。まるで海中に潜む鮫の狩猟の如く、気配を消して獲物を待つ
後は、敵機のエンジン音に合わせて飛び出し、その翼を星白鮫の牙で嚙み砕きを狙うまでだ
合せて、俺も愛刀を振りぬき、風桜子の【衝撃波】を飛ばして敵機の撃破に貢献しよう
周囲を包む白、白、白。
まるで一面の雪原のような視界の中に、神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)はいた。
彼がいるのは、雲の中だ。
じっと耳を澄まし、神経を統一し、雑念を払い、待ち続ける。
スペース剣豪がスペース剣豪として最も威力を発揮する瞬間を。
ただ、待ち続ける。
飛行機乗りの編隊が空を翔ていく。
味方の索敵によって割り出された位置へと向かう。
やがて見えてくる、ソルダートグラードの制空戦闘機。
瞬く間に互いに機銃の射程に入り、撃ち合う。
だがレジスタンスの編隊は上昇し、旋回した。
敵のいない方へと進んでいく。
敵はそれを追いかける。上昇したので、さらに高い位置を確保しようと、一旦攻撃を止める。
レジスタンスの戦闘機は、ある程度飛ぶと、そこで急降下した。
相手が高度を下げたのを見て一機に勝負を決めようとした敵は、より確実に仕留めるために距離を詰める。
やがてレジスタンスの戦闘機は、雲へと入った。
ソルダートグラードの戦闘機もそれを追う。
果たして、何が起こったのか。
突如としてソルダートグラードの制空戦闘機の、操縦席回りが何かに抉り取られた。
巨大な口。並んだ歯。力強い顎。
鮫だ。
雲海の中に、鮫が潜んでいた。
おぞましい音を立てて、戦闘機のボディをいとも簡単に噛み砕いた。
パイロットは何が起こったのかわからないままに骸の海へと帰っていった。
この鮫こそは恭二郎の相棒。
星白鮫、名を鮫五郎。
空ですら狩場とする暴虐の嵐。
奇襲に成功。この一瞬にどこまで倒せるか。
否、どこまで、ではない。
すべて倒して見せる。
恭二郎はこの瞬間を、あらかじめイメージしていた。故にどう行動するかはもはや決まっていた。迷いも、思考もない。この一瞬、ただ敵を倒すためにその腕を振るうのみ。
鮫五郎は噛み付きの勢いのままに他機体に突進、これで二機。残るは三機。一瞬の内に目標をねめつけ、恭二郎は愛刀・銀河一文字を抜き放つ。
その瞬間、迸る『風桜子』。
触れてもいない三機の戦闘機の胴が、真っ二つになり、急降下の勢いのまま、海へと落ちていった。
そして静寂だけが残った。
この地で、恭二郎は飛行機乗り達の熱い心に触れた。
そして、彼の心にも火が入った。
恭二郎は戦いを続ける。
彼の心の望むままに。
大成功
🔵🔵🔵
アポリト・アペルピシア
ククク…大人しく籠の中の生に甘んじていれば、少しは長生きできただろうに
今日ここで果てるとしても、汝らはこの空に羽撃く事を望むか!
面白い、この魔王も手を貸そうではないか
我は自力で飛び回れるとはいえ、機動力では向こうに分があるようだ
しかし元より逃げ回るつもりはない、煩わしい鉛玉など我が念動力で捻じ伏せてくれるわ!
さて…それでは先程の宣言通り、
『魔王千手』を貸すとしよう
戦闘機には不可能な機動で迫る千を超える巨腕、果たして逃げ切れるかな?
おっと…我の方ばかりに気を取られていると、レジスタンスが汝らを撃ち墜とさんと狙っておるぞ!
フハハハ…今日をもってこの空は、奴らにとっての絶望となるのだ!
空に暗雲が満ちた。
──気がした。
それは実際に気のせいだった。しかし、その場にいる者達がそう感じたのにはれっきとした理由があった。
空の彼方より降り来たる……藍色の異形。
その金色の瞳を目にしたものは、陣営を問わず、畏怖を感じた。
愚かな……。
我に挑むとは、身の程知らずな事この上なし。
この空を絶望色に染めてくれよう。
その身の非力を、身をもって知れ!
そんな言葉が聞こえてきそうな──気がした。
顕現せしはアポリト・アペルピシア(魔王アポリト・f31726)。
悪徳と混沌の権化。
正真正銘の邪悪。
時は少し遡る……。
「この世界の飛行機乗り達よ、よくぞここまで辿り着いた。
我こそは魔王……。
アポリト・アペルピシアである……!」
飛行機乗り達のもとへ、他の猟兵達とともに訪ねて来たのはアポリトの方だったが、様式美としてこう言った。
さらにラスボスオーラ全開でこう続けた。
「ククク……しかし愚かな事だ……。
大人しく籠の中の生に甘んじていれば、少しは長生きできただろうに……。
されど今日ここで果てるとしても、汝らはこの空に羽撃く事を望むか!
……面白い……ならば見せてみよ、飛行機乗りの矜持とやらを。
この魔王も……手を貸そうではないか……!」
飛行機乗り達がアポリトのことを理解するのに時間はかからなかった。
要するにアポリトは不当な支配に立ち向かう飛行機乗り達に共感し、協力を申し出てくれた、いい奴だったということだ。
アポリト・アペルピシア。
正真正銘の、デビルキングワールドの魔王である。
「さて……では宣言通り
『魔王千手』を貸すとしよう!」
空に鎮座するアポリト、その周囲に金色の装飾を纏った巨大な藍色の腕が現れる。
次々と、次々と……空を多い尽くさんばかりの腕、その数は千に留まらず、実に1240本!
敵の数などそれを七倍して、さらに七倍してもまだ足りない。
その腕の全てが、邪悪な欲望を持った強大な龍のごとく、本体から独立して動きだす……敵の殲滅のために!
ゾルダートグラードの制空戦闘機部隊はアポリトを脅威と見て、攻撃を集中させるべく動き出す。かれらとて超大国の威信を世界に見せつける、国旗を掲げた空を制する戦闘機部隊。相手が魔王であろうと怯むことはなかった。
しかし、これに対してアポリトは、嘲笑まじりに言った。
「我に挑むか! ならば存分に受けよ……我が『ヘカトンケイレス』を!
そして……!」
アポリトの腕の影から、あるいは腕に向かう戦闘機の死角から、レジスタンスの飛行機乗り達も攻撃を開始していた。
「我と志を同じくする、飛行機乗り達の魂を!!!」
「悪は…………成された
…………」
静寂の空のさなかで、アポリトが言った。
この戦域における、ゾルダートグラードの戦力は、そのすべてが猟兵達とレジスタンスの飛行機乗り達によって殲滅されていた。
「さらばだ!!!」
颯爽と飛び去るアポリト。
その背中に向けて、飛行機乗り達は一斉に敬礼する。
彼等にとってアポリトと共に成したその『凶行』は、長らく彼等の誇りとなって、末長く語り続けられたという……。
大成功
🔵🔵🔵