ブルーバード・ヒドゥン・ドリーム・イン・パラダイス
――サイバーザナドゥ・スラム街。
ここはメガコーポに搾取され尽くされた人々の流れ着いた『最終到達地点』。
日々、グループ・ヨタモノ同士の縄張り争いで流血沙汰が絶えないこの街に安息という言葉はない。
弱者はより弱者を狙うという構図を繰り返し、行きつく末は非力な子供達。
彼らがこの街の食い物にされるのが、暗黙のルールなのだ。
故に、自然と虐げられた子供達は新たなグループ・ヨタモノを旗揚げし、自らの自由を勝ち取るために縄張り争いに名乗りを上げる。
毎日こういったことがチャメシ・インシデントなスラム街で幾百、幾千の命が巻き込まれたか。彼らの気まぐれで、どれだけ多くの人の血がひび割れたアスファルトのシミになっていったかと思うと、ヤンナルネ。
そんな中、ある日、突如としてこのスラム街に現れたのが亡命者保護施設『蒼穹活動』である。
この施設関係者達は複数のグループ・ヨタモノを武力制圧した後、何処かへ連れ去ってしまうという奇行を繰り返していた。
そして誰も街に返ってこないため、他のグループ・ヨタモノは『蒼穹活動』に関わろうとしなくなった。
結果、施設関係者がスラム街で幅を利かせる要因となり、街の治安は好転。
定期的な炊き出しの実施、職業訓練、生活保護など、福祉の充実を施設関係者達は次々と打ち出してゆくのだった。
いつしか『蒼穹活動』と同盟関係を結ぶ
抵抗組織『メサイア』も拠点を建設するなど、一気にスラム街は反メガコーポの足掛かりへと激変してゆく……。
そんな中、消えたグループ・ヨタモノ達がどこへ行ったのだろうか?
その答えを追い求めるためにも、これからある少女を追ってゆきたいと思う。
彼女の名はメクバ。ヤク中の母親から生まれ、物心ついたときにはネグレクトを受けていた彼女はスリの常習犯だった。
自分の幼い少女という立場を利用し、幼女性愛者たちから財布やマネーカードをくすねて10年間暮らしていた。
しかし、つい最近にスッた相手がメガコーポの重役だったのが運の尽きだった。
メクバはニンジャに囚われ、拷問の果てに奴隷の電子タトゥーを強制的に入れられた。そしてどこぞのヤク中男の愛玩動物として撃ち飛ばされてしまったのだ。
「おい飯はまだかよクソビッチ!」
「痛い!」
スタン警棒でメクバの背中が強かに打ち据えられた。
愛玩動物とは名ばかりで、実情はヤク中男の身の回りの世話をする奴隷であった。
しかも夜はメクバに違法電子ドラッグを摂取させて慰み者にする本物のクズである。
「ったく、安くねぇカネ払ってゴミ掴まされたぜFXXK! それとも先にご褒美が欲しいのか? このド淫乱が!」
「いや! 誰か助けて!」
押し込まれる痛みにメクバの悲痛な叫びがあがった次の瞬間だった。
キャバーン!
電子錠のかかったドアが何者かによって蹴破られたのだ!
「私達は『蒼穹活動』です。メクバ=サンを保護しに来ました」
「ンだテメェら!? これからオタノシミって時によぉ?」
ヤク中男がメクバの股座をこじ開けて下半身を丸出しの状態で激昂する。
しかし施設関係者達は問答無用でキリステ・ゴーメン!
ブゥゥンと低いプラズマ音と共に振り下ろされたビームソードが、ヤク中男の粗末な棒を削ぎ落したではないか!
「アイエエエーッ!」
分離した自分の部位に絶叫する男をよそに、関係者達は男にハイクを詠ませることなく首を刎ね飛ばしてオタッシャさせたのだった。
「粛清完了。メクバ=サンの障害は除去された」
「さあ、メクバ=サン。あなたは選ばれたのです。共に『失楽園』へ参りましょう」
メクバは自分の下腹部から零れ落ちた男の粗末な棒を踏みにじると、無言で彼らへついていった。
メクバが連れてこられたのは『蒼穹活動』の施設の地下……スラム街の地下に巨大なもうひとつの街が建造されている真っ最中なのだ。
よくよくみれば、しばらく前に消息を絶ったグループ・ヨタモノ達が目を輝かせながら建設業に励んでいた。
「ここでは悪人は善人になるべく教育プログラムが組まれています。なに、脳の一部を焼き切る事で悪事を考えられなくするだけですけどね」
「「やりがい! 恭順! 調和! 奉公滅私!」」
どこか目の焦点が合っていないグループ・ヨタモノは口々に唱和しながら作業を続けている。
一方、そんなヨタモノを蹴飛ばして笑い合う者達がいた。
あれは悪人ではないかとメクバが尋ねると、関係者達は首を横に振った。
「いいえ、あれは教育の一環です。そして蹴飛ばした物は、あなたと同じ善人なのです」
「ここでは善人による善人の善人のための街づくりを進めています」
「今まで虐げられてきた善人の方々が報われる理想郷を作っていますよ」
関係者達はメクバを善人食堂へ連れて行った。
すると、その値段にメクバは目を疑った。
例えば清涼飲料水が地上の100分の1の価格で購入できたり、焼き鳥もテイクアウト可能だったり。
インフラが! インフラが人権を
慮っている! サイバーザナドゥの施設とは思えない!
「馬鹿な……! なにか裏があるに決まっているわ!」
疑う少女……無理はない。
メガコーポの策略で物価は青天井でインフレが進み、貧民には到底入手できなくなっているのだ。
「これもメガコーポの罠なんだわ! え、一日個室利用権……?」
関係者達に勧められ、初回限定サービスという名の個室利用権を得たメクバは、そのアメニティの充実に目が眩んだ。
最上級★5ホテルめいた広い部屋。ふかふかのキングサイズベッド……そして無料のマッサージ等の上質なルームサービス!
当然、美味しいコース料理も完備! テレビは放映中だし、どれも見た事の無い面白い色んな番組ばかりだ!
なんと有名ライブストリーマーのチャンネルまで視聴できてしまう!
「まさか、まさか! 本当に弱者を救済をするきなの……?』
メクバはすでに気が付いている。
この『蒼穹活動』は世界を変えようとしていると。
「信じて、良いのよね?」
今まで裏切られ続けたメクバにとって、初めて他者から優しくされた経験である。
恐る恐る窺えば、関係者達は拍手で彼女を迎え入れたのだった。
数日後、メクバは耳を疑った。
自身を売り飛ばしたメガコーポ傘下の企業が、突如として倒産したことを。
なんでも『六番目の猟兵』が関わっているらしい。
これに関係者達は「やはりあの方は仕事が早い」と称賛している。
メクバは我慢できずに問い詰めた。
「何で、そこまでできるの? こんな地獄で!」
本気だ、本気で……この施設の関係者達は弱者を救おうとしている!
彼女の問いに、関係者達は施設を立ち上げた創設者の言葉を借りて回答した。
「人を救うのに、理由はいらないんだよ……」
「綺麗事よ!」
憤慨するメクバだが、今まで施された内容は確かにメクバに安住を与えてくれた。
「青き翼の六番目の猟兵様……彼女の意思は世界を変える。ともに信じましょう」
関係者達は一斉に青空へ祈り始めると、メクバもこれに倣って祈り始める。
すると自然と彼女の目からは涙が零れ落ちていた。
「ありがとう、ありがとうございます、青き翼の六番目の猟兵様……!」
こうして、メクバは楽園へ至った。
そして、二度と地上へ戻ることはなかったという……。
成功
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