人々が住まう住居が立ち並んだ町並みを、少し外れたところにある森の中。
入り口には豪奢な朱色の鳥居が聳え立ち、鳥居を潜って参道沿いに進んだ先には、色鮮やかに咲く桜並木が参拝客を出迎える。
はらりと小さな花弁が風に舞い、敷かれた薄紅色の絨毯に、導かれるように道を行く。するとそこには荘厳な造りの立派な神社が鎮座して、神聖なる空気を醸し出している。
桜の花を愛でようと、毎年多くの人で賑わいを見せる神社では、そろそろ桜祭りが開催される時期である。
年に一度の花の宴を楽しみに、人々の心も華やいでいた――そんな時だった。
祭りの準備で町が慌ただしく賑わっている。その裏で、大きな災禍の種が芽吹いていることに人々はまだ気付いていない。
――日が暮れて、空が茜色に広がっていく黄昏時の頃。
夕闇迫る逢魔が時に、現世と常世の境界線が重なり合って景色が歪む。
神社の裏手のさらに奥。人気のない場所で、風鈴の音がチリンと鳴ると、茫と炎が虚空に灯る。
そこへ運悪く、裏手に迷い込んでしまった花見客の男が一人。
風鈴の音が気になったのか、聴こえる音色を探して誘われるようにやってきて。
ふと足を止め、虚空に浮かぶ炎を見た途端、男は別の『何か』を視ることになる。
「お、おめえは……まさか、生きとったのか!?」
男の眸に映るのは、死に別れたはずの妻だった。
確かに亡くなったと思っていた妻が、今こうして目の前にいる。
それがどうしてなのか分からない。しかし男には、それがどういうことでも構わない。
もう二度と、逢えることなど叶わない。なのにこうして再会できたことに男は喜び、何の疑念も抱かず妻の傍へと近寄っていく。
――それから彼が戻ってくることは、二度となかった。
神社の裏の桜の杜には、薄紅色の花弁に埋もれるように、一つの骸が転がっていた。
「男が見たモノは、妻の姿をした亡霊だ。つまり男はソレに殺されるというわけだ」
そしてその亡霊を呼び寄せたのはオブリビオンの仕業だと、太刀花・百華(花と廻りて・f13337)が猟兵たちにそう告げる。
オブリビオンは亡霊を召喚させて、桜祭りに集まった人たちを襲うつもりらしい。
もしそうなってしまったら、人々は祭りを楽しむどころではなくなってしまう。
場合によっては亡霊共に憑り殺されて、桜の花咲く神社は血に染まってしまうだろう。
そうした最悪の事態になる前に、どうにか食い止めてほしいと百華が乞う。
幸いにも今から向かえば、敵が出現するより前に現場に着くことができる。
猟兵たちは事前に神社の裏手で待ち構え、後は敵を倒せば良いだけだ。
そこに出現するオブリビオン――彼岸の兜風鈴は、亡霊を呼び出す力を持っている。
しかも召喚するのは、相手の中で最も逢いたいと願う対象だ。
ただしそれらは、自身の心が投影されて生み出されたまやかしでしかなくて。単に姿を真似しただけの霊なので、見た目に惑わされなければ問題ない。
「それでも、ずっと心の中に残る存在がいる者は、些か心苦しいかもしれぬがな……」
猟兵たちの中には様々な想いを抱えた者もいるだろう。
百華はそのことを憂いながらも、彼らなら乗り越えてくれると心の中でただ祈る。
兜風鈴を倒した後は、それらを呼び寄せた元凶のオブリビオンと戦うことになる。
そうしてすべての敵を撃破して、人々を守ってほしいと百華は言う。
無事に終われば、町では何事もなく桜祭りが続いて行われることになる。
もし花見をしたいなら、夜からではあるが祭りを楽しむことができるだろう。
夜空に浮かぶ月の光と、提灯の明かりに照らされながら、薄紅色の花が鮮やかに映える景色は、幽玄とした美しさがそこにある。
「他に出店もあるようだから、色々と見て回るのも良いかもな。旬の和菓子なんかも食べられそうだし」
どちらかといえば和菓子の方が、百華にとっては楽しみなのだろう。
思わず本音が漏れると、少し恥ずかしそうに咳払いを一つして。掌の中のグリモアを、浮かび上がらせ眩い光が放たれて、猟兵たちを彼の地へ誘う。
春の季節の訪れを、祝う桜の花宴。
寄せる思いは様々に、いざ四季の花咲く和の国へ――。
朱乃天
お世話になっております。朱乃天(あけの・そら)です。
桜の花の下での幽霊退治、忘れ得ぬ亡くした過去に想いを寄せてみませんか。
●物語の流れ
第一章は、『彼岸の兜風鈴』との集団戦。
第二章は、『鬼門沌行』とのボス戦。
第三章は、桜の花咲く神社でお花見を楽しみます。
●戦闘について
時刻は夕方。日が沈みかかる頃。
基本的には心情重視です。
兜風鈴は、自身にとって心に残る失った人を亡霊として召喚します。
そうした方への想いを添えて、プレイングを掛けられることを推奨します。
ちなみに敵への攻撃は、一言だけでも戦闘行為を書かれていれば倒せます。
●お花見について
戦闘終了後、神社で夜桜を楽しむことになります。
様々な出店も用意されていて、旬の料理や和菓子を食べて回ったり、花を愛でるなどしながら憩いのひと時をお過ごし下さい。
それと百華もプレイングでお誘い下されば、一緒に桜祭りを楽しませて頂きます。
同行者様がいらっしゃる場合、お相手の【名前】【ID】もしくは【グループ名】の記入をお願いします。
また、シナリオへのご参加は、どの章からでも全く問題ありませんので、どうぞお気兼ねなくご参加下さいませ。
それでは、皆様のプレイングを心よりお待ちしています。
第1章 集団戦
『彼岸の兜風鈴』
|
POW : 風鈴の音が響き渡る
予め【風鈴の音を響かせ続ける 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : 風鈴の音が共鳴する
【共鳴振動となる甲高い風鈴の音 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 風鈴の音が死者を呼ぶ
【黄泉の国 】の霊を召喚する。これは【悲鳴】や【武器】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
――貴方にとって、最も逢いたい人は、『誰』ですか?
シャルロット・クリスティア
……驚きました。
私のような、異邦人の身でも……ですか。
パパ……ママ……。
吸血鬼の圧政に立ち向かって、そして死んでいった、皆……。
幻でも、こうしてまた姿を見られるなんて……。
……でも、ごめんなさい。
私は、みんなとは一緒に逝けません。
私はこうして生き残った。あの時、一緒に戦うことが出来なかったから。
だから今、皆の分まで、戦わなきゃいけないんです。
……ごめんなさい。まだ、皆の温もりを求めに逝くわけにはいきません。
そんな資格は、私にはありません。
……撃ち抜きます。
皆について逝きたい、なんて気の迷いを振り払って。
太陽が西の彼方に傾き落ちて、空に鮮やかな赤が絵の具で描いたように広がり染まる。
昼から夜へと移ろい変わる時の狭間の境界線。
朧気に薄らぐ景色の中では、見える全てのものが霞んでしまい、闇の世界の入り口が、現世と繋がるその刻を――人は『逢魔が時』と呼ぶ。
虚空に灯る炎は冥界よりの使者――風鈴がチリンと音色を奏でれば、その音は、黄泉の国より死者をこの世に呼び寄せる。
「……驚きました。私のような、異邦人の身でも……ですか」
シャルロット・クリスティア(あの雲の向こう側へ・f00330)は、目の前に顕れた者の姿を見るなり驚愕してしまう。
ダークセイヴァーで生まれ育った彼女が、時間も場所も異なる世界で逢ったのは――。
「パパ……ママ……。吸血鬼の圧政に立ち向かって、そして死んでいった、皆……。
幻でも、こうしてまた姿を見られるなんて……」
嘗てシャルロットの故郷であった村を支配していた吸血鬼に抵抗し、村ごと粛清されて死に別れた両親や村人たちの姿がそこにあったのだ。
しかし彼らは皆一様に、虚ろな顔でシャルロットを見つめ、彼女の傍に歩み寄る。
まるで少女を『此方』の世界に連れて行こうとするように――。
「……ごめんなさい。私は、みんなとは一緒に逝けません」
例え亡霊だとは分かっていても、こうして一目逢えただけでもシャルロットにとっては嬉しくて。されど決して情に流されたりはせず、自らの意思を以て否定する。
「私はこうして生き残った。あの時、一緒に戦うことが出来なかったから。だから今、皆の分まで、戦わなきゃいけないんです。
自分には、まだこの世界でやり残していることがある。
彼らの為に生きて戦い続けて、奪われた故郷を取り戻すということを。
「……ごめんなさい。まだ、皆の温もりを求めに逝くわけにはいきません。そんな資格は、私にはありません」
本当は、ここで皆について逝きたいなんて――そんな気の迷いを振り払い。
銃身にルーンが刻み込まれたライフル銃を向けて引き金を引き――響き渡った銃声が、最期の別れを告げるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
火神・五劫
『』:技能
【】:UC
最も逢いたいと願う者の姿を取って現れ、憑り殺す…か
人の心の分からぬ妖だな
いや…むしろよく分かっている、のか?
どうであれ、骸の海へと送り還さねばなるまいな
まやかしが見えるとしたら…俺が最も逢いたいのは
先生、だろうな
今は亡きたった一人の大切な家族であり…愛しい女性だ
仮に亡霊が現れようと、刃を振るうことは一切躊躇わない
こんな所で果てては、本物の先生に顔向けできんのでな
【ブレイズフレイム】を鉄塊剣に纏わせ
『破魔』の力も乗せて
悪しき幻影を祓うように大きく『なぎ払い』
敵からは目を逸らさず、動きを『見切り』
躱せぬ攻撃に対しては『武器受け』『オーラ防御』で対応
※他猟兵との連携、アドリブ歓迎
「最も逢いたいと願う者の姿を取って現れ、憑り殺す……か。人の心の分からぬ妖だな。
いや……むしろよく分かっている、のか?」
ただ命を奪うだけでなく、死に別れた者の姿を見せるというのは、人の心を理解しているが故の悪意だと、火神・五劫(送り火・f14941)が不快を露わに吐き捨てる。
とにかくどうであれ、連中を骸の海へ送り還さなければ、被害は更に広まってしまう。
もし本当にまやかしが視えるとしたら、五劫が最も逢いたい人物は――。
彼にとってのたった一人の大切な家族であり……仄かな想いを寄せた愛しい女性。
孤児だった五劫を拾って育ててくれた、恩師と言える存在だ。
――その彼女の姿を纏った幽霊が、やがて五劫の前に顕れる。
女性の姿を目にした五劫の脳裏に、過去の記憶が蘇る。
もはや懐かしいとすら思える遠き日々。時に苦しい程愛おしく、人として生きていく術の全てを、彼女と一緒に暮らした中で身に付けた。
しかしそうした日常を、彼の全てを奪っていったのは、骸の海より出ずる妖だ。
その妖に、今度はその姿を利用されてしまうという現実に、五劫は燻る怒りを堪えるように剣を持つ手を震わせる。
「……こんな所で果ててしまっては、本物の先生に顔向けできんのでな」
どれだけ姿を似せようと、所詮は中身の宿っていない見せ掛けだけの偽物だ。
五劫が怒れる心を解き放ち、無骨な鉄の大剣に、炎を纏わせ破魔の力を付与させて。
悪しき幻影を、祓うが如く薙ぎ払い――渦巻く地獄の業火が女性の霊を消し去った。
自身が戦うのは誰が為でなく、己が為――。
「……これ以上、未来を喰われてなるものか」
大成功
🔵🔵🔵
エレニア・ファンタージェン
エリィの忘れられない人。
黒い髪に白い肌の貴公子
そう、此処に居たのね
エリィの最後のご主人様
「ねぇ、お顔を見せてくださる?」
遠慮なく近づくわ。遠いとエリィよく見えないの
鼻先の触れるくらい、近く、もっと近く
攻撃を受けても構わない
元々身勝手な人だし、ただの煙管なんて結構ぞんざいに扱うし…
でもエリィ、ヤドリガミになったのよ
だから、本当は大切にしてくれていたのよね?
吐息や鼓動は、亡霊にもあるものかしら
せめて頬に触れてみたい、けれど
あぁ、綺麗
「…思い出した。こんな瞳の色だったわね」
吹っ切れたように微笑んで、UCで死霊を召喚
目を逸らしながら亡霊も兜風鈴もまとめて片付けさせましょう
次は、夢でまたお会いしたいわ
光沢のある白磁色の髪が春の風に靡く。
透けるような白い柔肌に、エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)の赤い瞳が色鮮やかによく映える。
その双眸に薄っすら視える朧気な影。そこに佇んでいる人影を目にした途端、エレニアの煤けた記憶が色付くように蘇る。
それは彼女にとって忘れ難き人。彼女と同じ白い肌、髪色は対照的に黒くてどこか威厳を感じるような、貴公子然とした一人の男性。
「そう、此処に居たのね。……エリィの最後のご主人様」
潤んだ瞳に映る世界は眩しくぼやけ、目を眇めながら男の許に近付いていく。
「ねぇ、お顔を見せてくださる?」
遠くからでは見えないからと、気が付けば鼻先が触れんばかりの距離まで身を寄せて。
嘗てその身は只の古い煙管でしかなかった彼女も、今は新たな生を受け、こうして同じ人として、愛しいご主人様の隣に寄り添い合える。
彼は元々身勝手で、自分を只の煙管だなんて扱い方もぞんざいで。
でもヤドリガミとして生命を得たということは、それだけ大切にしてくれていたことの証なのだと――。
しかし男の姿形は記憶の中と同じでも、その正体は紛うことなき亡霊だ。
あの時感じた吐息や鼓動は、実体なき彼から聴こえることはなく。
せめて頬だけでも触れてみたいと、そっと手を伸ばして見つめ合った時――。
「……思い出した。こんな瞳の色だったわね」
彼の綺麗な瞳を眸に写し、エレニアの色無き記憶が彩を為す。
少女は吹っ切れたように微笑むと、一瞬目を伏せ、足許から浮かび上がった死の影が、男の霊を貪るように呑み込んでいく。
――次に彼と逢うのは、夢の中。
これからも、いつもと変わらぬ午後の陽溜まりに、愛しい鼓動の夢を見る――。
大成功
🔵🔵🔵
砂月・深影
逢いたい人―かつて死んだ双子の弟『陽向』
……嘘だよね。だって陽向はあの時、オブリビオンの襲撃に巻き込まれて僕の目の前で死んだはずなのに(装備しているからくり人形と同じ容姿の少年をしばらくの間茫然と見ているが、手に触れた弟の形見のペンダントの感覚で我に返る)
……そうだね。(ペンダントを手で握りしめながら)これは僕の願望が見せた幻。弟……陽向が戻ってこないことは分かっている。そんな大切な人を突然失う辛さを他の人に味わってほしくないから僕は戦うんだ
【剣刃一閃】で敵を切り捨てる。……まだ敵はいる。だからここで立ち止まれないよ
砂月・深影(寒空に光る銀刀・f01237)の銀の瞳に映った一人の少年。
彼女と同じくらいの年頃だろうか。容姿も深影と瓜二つ、異なるのは瞳が金色で、髪が黒色だという程度のその少年の名前が、少女の口から語られる。
「……嘘だよね。だって『陽向』はあの時、オブリビオンの襲撃に巻き込まれて僕の目の前で死んだはずなのに……」
深影が言った名前は、彼女の双子の弟で。彼の死を、彼女は間近で目撃し、その悲しい出来事は今でもずっと脳裏に焼き付いている。
死者が蘇るなど、あり得ない筈の現実に、深影は暫く茫然と立ち尽くしていたが。
不意に手に触れた、彼の形見のペンダントの感覚が、彼女の虚ろう心を引き戻す。
我に返った深影はペンダントを強く握り締めながら、陽向と過ごした日々を思い出す。
「……そうだね。これは僕の願望が見せた幻。弟……陽向が戻ってこないことは分かっている」
死んだ人間が帰ってくることは、もう二度とない。
平和であった日常が、ある日突然奪われて。全てを失くしてしまった哀しみを、癒して支えてくれるモノなど、どこにもない。
だから彼女は、過去の辛い思いを一体の人形に籠めて。非情な現実から、逃避するかのように心を繋ぎ止めていた。
「でも……そんな大切な人を突然失う辛さを、他の人に味わってほしくないから……」
その為に――僕は戦うんだ。
深影が覚悟を決めて太刀を手に取る。その刀身は、彼女の髪や瞳と同じ澄んだ銀色で。
鋭い光を瞳に宿し、振り抜く刃の一閃は、凍てつく氷の如く、過去の記憶の時を止め。弟の姿を騙る亡霊を、一撃の下に斬り伏せる。
「……まだ敵はいる。だからここで立ち止まれないよ」
大成功
🔵🔵🔵
ヨシュカ・グナイゼナウ
夜の帳が落ちるまでの間、消えかける西日が境界を曖昧にする。ああ、これはいけない。呑まれてしまう。遠くで風鈴の音が聞こえた気がした。
目の前に、あの人がいた。
「おばあさま」
いつもの姿で、綺麗な白髪をきちりと結って。笑って。
ええ、でもわたしは知っています。この光景が二度と目にすることの叶わない、都合の良い願望だとも。
だって、おれが、貴女を埋葬したから。
ごめんね、おれは決して出来た人形ではなかったけれど、それでも貴女は笑って、傍に置いていてくれた。
貴女がいなくなってしまっても、きちんと動いていけるから。
老婦人から託された刀の柄に人形はそっと手をかける。
(アドリブ連携歓迎)
夜の帳が落ちるまでの僅かな時間。消えかける西日が生者と死者の境界を曖昧にする。
ああ、これはいけない。呑まれてしまう。
その時――遠くで風鈴の鳴る音が聞こえた気がした。
黄泉の世界の住人を、この世に招く死の音に、誘われるようにヨシュカ・グナイゼナウ(鍵の壊れた鳥籠の・f10678)が神社の裏手の桜の杜に向かう。
一匹のふくよかな猫を抱えて覗き込む。そこで彼を待っていたものは――。
「おばあさま」
目の前に、あの人がいた。
いつもの姿で、綺麗な白髪をきちりと結って。にこりと笑って。
けれどもヨシュカは知っている。
この光景が二度と目にすることの叶わない、都合の良い願望だとも。
「だって、おれが、貴女を埋葬したから」
嘗て森に佇む邸にて、ヨシュカは一人の老婦人と一匹の猫と暮らしていた。
機械の身である少年は、お世辞にも決して出来た人形ではなかったけれど。
「それでも貴女は笑って、傍に置いていてくれた」
穏やかに微笑む老婦人の顔を見つめていると、不思議と当時の記憶を思い出す。
この造られた機械の身体の中に、人の心を持てるようになったのも、こんな自分を世話してくれた彼女がいてくれたから――。
そんなヨシュカにとって心残りと言えるのは、老婦人から最期に託されたモノ。
『終ぞ返すことができなかった』と言い残し、彼女の形見となった刀を取り出しながら、柄に手をそっと添え――空を切るかのように振り抜いた。
「――貴女がいなくなってしまっても、きちんと動いていけるから」
一手遅れで届いた斬撃が、老婦人の霊を斬り裂くと、影が幻のように消えて散る――。
大成功
🔵🔵🔵
不知火・シンク
POW使用、アドリブ絡み歓迎です。
……(目を開く。声も聞こえない、匂いもしない…それでも目の前に見えるその姿は確かに自らが逢いたい者で。だからこそ再び目を閉じる…君がもういない事は誰よりも知っている。君をこの手で殺した時から私は世界を視るのを止めた)(手物に愛刀を召喚し抜刀の構えを。そのままうUCを発動。切断という概念そのものになった不知火は漸く口を開き)また殺してあげますよ、■■■■。私がそちらに逝ったら…また、花畑を作りましょう(そう言って竜(悪魔)は、超高速の抜刀斬撃を使い距離も強度も無視した切断を周囲の敵に放った)
彼岸の世界を此岸に招く、風鈴の音に誘われ、不知火・シンク(狂いし悪魔(竜神)・f15493)が辿り着いた先。
――薄っすら目を開く。声は聞こえず、匂いもしない。
それでも目の前に見えるその姿は、確かに自らが逢いたい者であるのだが。
だからこそ、シンクは再び目を閉じる――。
(「……君がもういない事は誰よりも知っている。君をこの手で殺した時から私は世界を視るのを止めた」)
常に目を閉じ、視覚以外の感覚を頼りにしながら日々の生活を送ってきた彼女。
その原因でもある根本的な存在が、今こうして目の前にいる。
されどその姿を己の眼で見ることは、彼女にとって赦し難い思いがあるのだろう。
まるで犯した罪を償うように、閉ざした両目は相手の姿を二度とは見ない。
シンクは意を決し、その手に愛用の太刀を握り締め、腰を低く屈めて身構える。
――さぁ咲かせましょう、命の花を。
鯉口を切って抜刀した瞬間、切断という概念そのものになったシンクは、相手に対して漸く口を開いて言葉をかける。
「また殺してあげますよ、■■■■。私がそちらに逝ったら……また、花畑を作りましょう」
そう言って、竜(悪魔)たる娘は目にも止まらぬ抜刀術で刃を放ち、超高速の斬撃が、名も無き霊を切断し――風鈴の音が儚げに鳴って掻き消える。
刃に込めた彼女の想いは、どこか切なく寂しげで。
それはこれまで戦いだけを求めて生きてきた、シンクが僅かに垣間見せた記憶の断片。そしてそれこそが、彼女の偽らざる本当の心だったのかもしれない――。
大成功
🔵🔵🔵
三千院・操
――会いたい人?
そんなのいないよ。だってみんなおれの中にいるから。
軋兄ちゃんも繋姉ちゃんも結ちゃんも探くんも、親も一族も友達も、みんな死んでない。そう、誰も、死んでなんかない。
なのに、ああ、どうして。
どうして、おまえがいるんだよ。
目の前にいるのは中学と高校で一番仲の良かった友人。
馬鹿なことをやって笑いあって、目の前で腐って死んだ親友の男。
――死んだ? いいや、違う。違う、『死んでなんかない』。
だからこれは違う。きっと違う。何かの間違いに決まってる。
そう、間違いなんだ。
だって、死んでない。死んでないんだよ。
事実から目を逸せば、『蝿の王』が呼び起こされる。
目の前で、再び親友が腐り落ちた。
「――会いたい人? そんなのいないよ。だってみんな『おれの中』にいるから」
三千院・操(ネクロフォーミュラ・f12510)は幼少の頃、悪魔と交わした契約によって多くの人の心を宿す。いわゆる多重人格者といった存在だ。
「軋兄ちゃんも繋姉ちゃんも結ちゃんも探くんも、親も一族も友達もみんな死んでない。そう、誰も、死んでなんかない」
そう、死んでいない。何故なら操の一族全員は、その契約によって彼の身体を共有し、今も自身の中に生き続けているのだ、と。
いつでも『彼ら』に逢えるから、それなのに、どうして自分はここに来たのだろう。
「ああ……どうして。どうして……おまえがいるんだよ」
操の前に顕れたのは、中学から高校と、一緒によく遊んだ一番仲の良かった友人だ。
馬鹿なことをやって怒られながらも笑い合い、最後は目の前で、腐って死んだ男の姿。
「――死んだ? いいや、違う。違う、『死んでなんかない』」
死んだのは、きっと何かの間違いだ。あの時自分が見たのも目の錯覚で、これは悪い夢なんだと心の中に言い聞かせ。目を背けるように過去の自分を否定する。
「そう、間違いなんだ。だって、死んでない。……死んでないんだよ」
しかしどれだけ事実から目を逸らそうと、男の霊は昔と変わらぬ姿でそこにいる。
狂気に精神を蝕まれ、気が付けば、心の中の『誰か』が彼の代わりに呟いた――。
「――喰われる準備はいい?」
すると骸の海の彼方から、門が開かれ、不気味で不快な羽音が群れを為す。
召喚魔法に応じてやって来た、巨大な『蝿の魔王』が瘴気を撒き散らして飛び交って。
友の姿をした霊は、『あの日』と同様に、操の前で再び腐って、落ちて逝く――。
大成功
🔵🔵🔵
瑞枝・咲耶
逢いたい人
そう訊ねられれば浮かぶのは年若い青年の顔
長く放置されていた私を拾い上げて、手入れをし、選んでくださった方
あの日、貴方の神楽笛になった私はもう一度歌う喜びを知りました
あの日々は楽しくて、暖かくて
モノでしかなかった私の心を作り上げたのは貴方と過ごした年月でしょう
人はとても儚い存在ということを教えてくれたのも貴方でした
未だ貴方は成人を迎える前
だのに、流行病で儚くなってしまって…
ついぞ、想い伝えることは叶いませんでした
伝えたい想いはひとつ
「咲耶は貴方の笛であれてまことに幸せでした」
恋い慕っておりました
なんて、本当の想いを伝えるのは烏滸がましい
貴方がくれた私の音
想葬の音色をUCにのせて届けます
――逢いたい人は誰なのか。
そう訊ねられればと、瑞枝・咲耶(名残の桜・f02335)が心に浮かべたのは、年若い青年の顔。
彼女がまだ、人の姿を持たない『道具』であった頃。
長く使われることなく放置されていた、そんな彼女を拾い上げ、手入れをし、自分を選んでくれた大切な人。
「あの日、貴方の神楽笛になった私は、もう一度歌う喜びを知りました」
彼と一緒の日々は楽しくて、触れる思いは暖かく。モノでしかなかった彼女の心を作り上げたのは、彼と過ごした年月の賜物だろうと、咲耶は思い返して軽く笑む。
「人はとても儚い存在ということを教えてくれたのも、貴方でした」
しかし心に残る思い出は、良いことだけでは決してない。
彼は未だ、成人を迎える前の若い身なのに。流行病に見舞われて、儚く命を散らしてしまい、その短い生涯を終わらせてしまう――。
咲耶が仄かに抱いた淡い想い。それを伝えることは結局叶わなかったが。
でも今ならば、人の身として言葉に籠めて、想いを伝えることができるだろう。
憂いの彩を瞳に浮かべ、頬がほんのり色付き染まり。少女の可憐な唇が、溜めた想いを声に紡いで織り成した。
「――咲耶は貴方の笛であれてまことに幸せでした」
本当は、恋い慕っておりました――なんて秘めた想いを伝えるまでは、烏滸がましい。
だから彼が授けてくれた笛の音を、せめて最後の手向けに届かせようと。
桜の樹から作られた、咲耶の笛が奏でる優しい調べ。
想いを乗せた音色は桜の花へと変化して、薄紅色の花びらが、風に流れて空に舞う。
そこには彼の魂も、花と一緒に運ばれて、ただ安らかなれと希う――。
大成功
🔵🔵🔵
畠・和彦
お花見の前にまさかの事件だね
心に残る人の亡霊か
記憶のない僕にそれが通用するのかな
・戦闘
姿だけしか知らない彼女が、写真だけに残されたボクの妻がいる
写真ではない君はそのような姿をしていたのか
でも――
「こうして顔をあわせても、ボクは君を知らないんだ」
本来なら罪悪感を伴うべきなのだろう、後悔を抱くべきなのだろう
だが――
「でもボクは、記憶を失ったことに罪悪感も後悔もないんだ」
改めて今の自分の気持ちがわかったよ
「ボクは行くよ
いつかボクが君のところに辿り着いたら、この第二の人生の思い出話を聞かせてあげよう」
だから今はさようなら
君の胸を『シーブズ・ギャンビット』で貫き、別れを告げよう
愛しの人よ、また会う日まで
トレンチコートに、使い古した帽子を被った姿は、まるでドラマに出てくる刑事みたいな出で立ちで。畠・和彦(元刑事の変わりモノ・f15729)は、失くした記憶を求めるように風鈴が奏でる音に誘われて行く。
「心に残る人の亡霊か。記憶のない僕にそれが通用するのかな」
半分興味津々で、果たして自分も霊に逢えるのだろうかと、心のどこかで期待を寄せて目を凝らす。
一目だけでも逢いたいと、和彦が願っているのは一枚の写真だけに残された彼の妻。
彼女がいたことだけは朧気ながら覚えていても、写真でしかその姿を知る由はない。
それなのに、今の自分の前に顕れた、妻の容姿は写真で見るより遥かに綺麗で美しく。
本当に自分の妻なのだろうかと、和彦は思わず目を剥き息を呑む。
しかし次の瞬間、彼の口から出た言葉というのは――。
「こうして顔をあわせても、ボクは君を知らないんだ」
実際逢っても、思い出せない妻の顔。
本来なら罪悪感を伴うべきなのだろう、後悔を抱くべきなのだろう。
「でもボクは、記憶を失ったことに罪悪感も後悔もないんだ」
死んだ彼女に逢えたなら、自分は一体どう思うだろう。そんな好奇心にも似た感情で、妻の姿を見ても記憶が戻ることはなく、むしろ今の自分の方がらしいと再認識をした。
「ボクは行くよ。いつかボクが君のところに辿り着いたら、この第二の人生の思い出話を聞かせてあげよう」
――だから今は、さようなら。
別れの言葉を告げる和彦の、帽子の下の視線が鋭く光り、コートの中からダガーを抜くと――妻の姿をした亡霊の、胸を刺し貫いて、記憶の彼方に葬り去った。
また会う日まで――愛しい人に捧げた餞は、自身の胸に秘めたまま。
大成功
🔵🔵🔵
エン・アウァールス
▼アドリブ歓迎
(枝垂れ桜に隠れるように、
『それ』は立っていた。
上等な着物。黒い爪。
片手には 一一 鏨。
顔は桜が覆い隠していたものの。
それが『誰』であるか、など。)
(自分の口角が釣り上がるのが分かる。
ああ、うれしい。嬉しい。)
もう一度、顔が見れるなんて。
…あの時は、一瞬だったから。
だから、今度はきちんと目に焼き付けておくからね。キミの、
首 が 刎 ね 飛 ぶ 。
その瞬間をね。ふふ、
(……ざ、ざ。
砂のように、灰のように。
降ろされた「魔」が、身体を
這いずり回る。
無邪気に笑う顔すらも覆い。
一一 ぎょろり、と金の複眼が。
一斉に「獲物」を睨み付けた。)
もう終わりかい?
遠慮しないで。さあ、さあ。
柳のような桜の枝が、風に吹かれてゆらゆら揺らめく。
地面に着くかと思えるような立派な枝垂れ桜の向こう側、薄紅色の紗の中に、『それ』は隠れるように立っていた。
上等な着物を身に羽織り、黒い爪を伸ばしたその手には、一振りの鏨が握られている。
顔は桜で覆われて、枝の隙間からしか見えないが。輪郭からして、一体それが『誰』であるかなど、エン・アウァールス(蟷螂・f04426)はその姿を目にした途端、心臓が早鐘を打ち鳴らし、昂る気持ちを抑え切れない様子で口角がニタリと吊り上がる。
――ああ、うれしい。嬉しい。
「もう一度、顔が見れるなんて。……あの時は、一瞬だったから」
逢いたい人に廻り合え、喜ぶエンの表情はどこか狂気にも似た歪な笑みを浮かばせて。
一歩ずつ、この邂逅をじっくり味わうように地を踏み締めながら、爛々と光る金の瞳で見据える先に、待ち焦がれた『獲物』がそこにいる。
「だから、今度はきちんと目に焼き付けておくからね。キミの、」
――首 が 刎 ね 飛 ぶ。
「その瞬間をね。ふふ、」
ざ、ざ……と。その身に降ろした『魔』が宿り、エンの身体を砂のように、灰のように這いずり回って駆け巡り、悪しき呪いの力が指先一つ、毛の一本までも支配する。
子供のように無邪気に笑った顔すらも、覆い尽くして鬼が嗤う。
そして輝く金の複眼が――ぎょろり、と一斉に狙った『獲物』を睨め付ける。
今まで屠った肉と体液で、研ぎ澄まされた黒曜石の鋸刃を、高く掲げて振り下ろす。
その瞬間――斬、と鈍い音がして、手に伝わってくる感触に、エンは静かに愉悦した。
大成功
🔵🔵🔵
織座・このみ
●心情
「父様……母様に、都の人らも……」
故郷の無くなったあの日に殺され焼き尽くされた、
別れがたくも、別れを告げることもできなかった人々……
たとえ姿だけのまやかしでも――
「……うちには、倒せないんよ」
別れなければ、振りきらなければならないと、、わかっていましても、今はまだ……
●行動
あたしは、戦うことも、逃げ出すこともできないで
へたり込んでしまいますよぅ
ですから、姉様が
『失礼な風鈴ですねぇ。あの人達は、こんな空っぽな損自在じゃなかったですよぅ』
そういって亡霊を焼き払うのも、ただ見ているだけで……
※内心・思考の口調は、プレイング記述の話し言葉と違い、訛り気味
人前では狐面外さない
協力、アドリブ歓迎
「父様……母様に、都の人らも……」
白い狐面で顔を覆った和装の少女、織座・このみ(半身は焔となりて傍らに・f04890)は嘗て家族も故郷も、全てを失くした過去を持つ。
そして今、彼女の前に顕れたのは、故郷の無くなったあの日に殺され焼き尽くされた、別れがたくも、別れを告げることもできなかった人々だ。
死んだはずの人間が、蘇ることなど決してない。彼らが亡霊であり、オブリビオンが視せる幻影なのは、このみも十分承知しているのだが。
だが例え、彼らが姿だけのまやかしだろうと――。
「……うちには、倒せないんよ」
辛い過去の記憶から、もう別れなければ、振りきらなければならないと。頭では判っていても、今はまだ……。
心に迷いがあるのだろうか。このみは戦うことも、逃げ出すこともできないで。
虚ろに彷徨うように這い寄る亡霊たちに、何もできずにその場に蹲み込んでしまう。
震える身体を強張らせ、現実から逃避するかのように、亡霊たちから目を背け――。
彼女の脳裏に浮かぶのは、血と炎に染まった惨劇の舞台。
あの時の、炎に呑まれた両親たちの姿は今もその目に焼き付いている。
自分の大事な人たちを、この手で殺めるなんてそんな非道なことなどできるはず――。
『失礼な風鈴ですねぇ。あの人達は、こんな空っぽな存在じゃなかったですよぅ』
いつしかこのみの背後に立っている、和装に黒い狐面を被った一人の少女。
その身に纏った炎は地獄の業火。彼女――『このか』はこのみの双子の姉であり、今は地獄と化している、このみの大事な『片割れ』だ。
このかはこのみと対照的に、微塵も躊躇うことなく亡霊たちを焼き払う。
「……姉、様」
姉が亡霊たちをあの日のように灼く様を、妹は、ただ茫然と見つめるのみだった――。
大成功
🔵🔵🔵
向坂・要
黄昏時
誰ぞ彼、とはよくいったもんで
ゆらりとゆれる影法師
それは年代、種族、性別、世界さえも様々な幾人かの姿(ヒトの形を得る前の持ち主達)を経て1人の老人の姿に落ち着く
最後の持ち主
ヒトの形を得て初めて出会った人物
こいつぁなんとも懐かしい
それらを眺めて口笛一つ
いやいや、こいつは大したもんだ
ここまで似せて来るたぁ流石ですね
なんて嘯き
さて、面白いもん見せてもらった礼をしねぇとね
穿て、とばかりに放たれる錬成カミヤドリの分体達
宿した炎のルーンが幻を穿ち燃やし尽くす様を眺めつつ
何が見えるかと思ってみりゃじぃさんだったとは
まぁ 名を貰った恩もありますしね
なんて、少しばかりの照れ臭さを飲み込んで内心苦笑して
黄昏時は、誰ぞ彼――とはよく言ったものである。
向坂・要(黄昏刻・f08973)の片目に映る、ゆらりとゆれる影法師。
夕闇迫る虚空に灯った炎に浮かぶは、人の霊。
それは年代、種族、性別、世界さえも様々な、幾人かの姿を経て変わり。やがて一人の老人の姿に形を成して、要の前に立つ。
その老人こそが、要が心の中で逢いたいと願った人であり。像のヤドリガミである彼の最後の持ち主で、ヒトの形を得てから初めて出会った人物だ。
「こいつぁなんとも懐かしい」
亡霊の移ろう姿を眺めつつ、感心するかのように指笛一つ吹き鳴らし。
「いやいや、こいつは大したもんだ。ここまで似せて来るたぁ流石ですね」
なんて、仰々しく嘯きながらも、その表情は嬉しそうに笑んでいた。
これも何かの因果だろうか。世の醜さを知りつつも、それでもヒトの傍を選んだ男は、こうして自身もヒトとして、嘗ての主と再び逢えると思いも寄らず。
とはいえ相手は、人に仇為すオブリビオン。どれほど容を似せようと、中身は虚ろな見せ掛けだけの存在だ。
そのことは、要も重々分かっていることだ。それにこの老人には、今の名前をもらった恩もある。
不意に当時のことを思い出し、少しばかりの照れ臭さを飲み込みながら苦笑して。
「さて、面白いもん見せてもらった礼をしねぇとね」
要の右眼の眼帯の、呪の紋様がまばゆく光って炎のルーンをその身に宿す。
そして放たれたのは、彼の本体でもある鉱物を削った像の分体たちの群れ。
――穿て、とばかりに亡霊を、炎で包んで燃やし尽くしていく様を、要はその目を逸らさず見届けるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『鬼門沌行』
|
POW : 妖気解放
【禍々しい波動】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 鬼神召喚
自身が戦闘で瀕死になると【封印されていた鬼神】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ : 百鬼夜行招来々
戦闘用の、自身と同じ強さの【亡霊】と【妖怪】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
黄泉の世界の音色を奏でる風鈴が、最後にチリン、と砕け散り、亡者を呼び出すその音を、二度と鳴らすことはなくなった。
亡くした人に逢いたいと、願う人の心に付け入る卑劣なオブリビオン。
死者の力を利用して、生きとし者を常世に引き摺り込もうとする企みは、一旦潰えたかのように思えたが――。
夕陽が映す生死の狭間の境界線。
黄昏時の茜色射す空間が、奇怪に歪んで移ろい揺らぎ。空間の向こう側から抉じ開けるように顕れたのは――彼岸の兜風鈴たちを操る元凶『鬼門沌行』だ。
逢魔が時を司り、百鬼夜行を呼び寄せる、過去に封印された鬼神のオブリビオン。
人の命を弄び、その尊厳すらも踏み躙る。
春の訪れを祝う桜の宴を、魑魅魍魎が蔓延るような殺戮劇の舞台に変えてはならない。
今再び悪しき亡霊たちとの戦いに、猟兵たちが立ち向かう――!
※『鬼門沌行』が呼び出す亡霊は、特に定めておりません。
こちらも『彼岸の兜風鈴』戦と同様に、自身の心に残る誰かを思い浮かべても構いません。
過去との因縁ですとか、様々な思いの丈を、オブリビオンにぶつけてみて下さい。
火神・五劫
『』:技能
【】:UC
こいつが親玉か
百鬼夜行の主たるに相応しい禍々しさだな
だが、早々に退場願おう
…悪しき鬼を、人の領域には通さんぞ
鬼門沌行の従えるあれは、亡霊…なのか?
何故だか俺には顔が認識出来ん
辛うじて人の姿には見えるが…ああ、そうか。無理もない
実の両親の顔など、まるで憶えていないからな
心に残らぬものの幻影など、取るに足らん
鉄塊剣に『破魔』の力を乗せ
『怪力』を生かし『鎧砕き』の斬擊を見舞う
反撃は『見切り』『第六感』で感知し回避
だが妖気解放は流石に躱しきれんだろうな
『武器受け』『呪詛耐性』で防御だ
可能なら仲間も背に庇おう
波動を放つ敵に近付けずとも
俺には【怪力乱神】がある
“鬼”の力、とくと味わえ!
亡霊たちを使って、人々の死の世界に引き摺り込もうとした諸悪の根源。
冥府の青い炎を身に纏った巨大な腕に、無数の目玉がついているかのような不気味な姿をしたソレこそが、百鬼夜行を統べるオブリビオンである。
「こいつが親玉か。百鬼夜行の主たるに相応しい禍々しさだな。だが、早々に退場願おう……悪しき鬼を、人の領域には通さんぞ」
鬼門沌行から発する覇気にも、火神・五劫(送り火・f14941)は動じることなく気炎を上げて身構える。
敵の青い炎が揺らめいて、陽炎のように立ち上る。すると炎の中に影が浮かび上がって顕れて、鬼神はそれらを従えながら、行進を開始しようと動き出す。
「鬼門沌行の従えるあれは、亡霊……なのか? 辛うじて人の姿には見えるが……」
五劫がどれだけ目を凝らしても、召喚された影をはっきり認識するのは難しく、まるで靄がかかったようにぼやけて見える。
その影に、どこか見覚えがある気もするが。五劫がどれだけ記憶の中を探っても、ソレは朧げに揺らぐ影のまま。
記憶の底を掘り起こしても、思い出せないものがあるのなら――きっとおそらく自分が孤児になるより前のことだろう。そうして彼は、一つの結論へと至って自虐的に笑む。
「……ああ、そうか。無理もない。実の両親の顔など、まるで憶えていないからな」
心に残らぬものの幻影など、恐るるに足らず。
全身に刻み込まれた羅刹の紋様が、光を帯びて破魔の力を巨大な剣に宿す。
鬼門沌行から放たれる禍々しい鬼の波動。五劫は相手の攻撃を、直感的に察知し、動きを見切って『火影』を盾代わりにして受け止める。
「我が一念、何処まで通ずるか」
意識を集中させて力を溜めて、膂力を活かした怪力で、鉄塊の如き大剣を豪快に薙ぐ。
「“鬼”の力、とくと味わえ!」
剣から生じた見えない念力が、斬撃となって空気を裂いて、亡霊諸共、鬼を断つ――。
大成功
🔵🔵🔵
三千院・操
あ、あぁぁ、いやだ。ちがう、ちがうちがうちがう!
おれは悪くない。悪くない、悪くないもん。
だから、そんな顔で俺をみないで――。
呼び出された亡霊たちは、契約の引き換えに失った一族達。
怨むような彼らの顔に精神は限界を迎え、底に潜んだ真人格が現れる。
――あまり操をいじめてやらないでくれよ。
あいつが苦しんでいる様は可愛らしいが……悪いな、それはもう『嘘』なんだ。
俺はミサオ。操を作った『真物』だ。
目の前の邪魔な過去共は【嘘吹く碧色】を使って全て嘘にしてあげよう。
操の現実は操だけのものだ。だから、誰も死んでない。
くく、まだ向き合ってくれるなよ。俺の娯楽が一つ減る。
じゃあな三千院。お前らはもう何処にもいない。
「あ、あぁぁ、いやだ。ちがう、ちがうちがうちがう!」
這い寄る亡霊たちの姿を目にした途端、三千院・操(ネクロフォーミュラ・f12510)は激しく取り乱し、狼狽えながら後退りする。
(おれは悪くない。悪くない、悪くないもん。だから、そんな顔で俺をみないで――)
呼び出された亡霊たちは、悪魔との契約の引き換えによって失った、彼の一族たちであり。怨嗟に塗れた形相で、睨む彼らの視線に操は耐え切れず。髪を激しく掻き毟り、頭を抱えて蹲る。
そうして言葉にならない叫び声を上げながら、遂に精神が限界を迎えたその時だ――。
一瞬、操の動きが止まる。すると冷静さを取り戻したようにスッと立ち上がり、落ち着いた口調で亡霊たちに語り掛ける。
「――あまり『操』をいじめてやらないでくれよ。あいつが苦しんでいる様は可愛らしいが……悪いな、それはもう『嘘』なんだ」
先程までの子供じみたような彼とは、様子も態度も一変し、悠然と構える姿はまるで全く別人で、人が入れ替わったように思える程だ。
否――多重人格者である彼にとっては、本当に入れ替わったのだ。
操の心の底に潜んだ真人格。その人物こそが、今この場所に現れた『彼』である。
「俺はミサオ。操を作った『真物』だ。そこの邪魔な過去共は、全て嘘にしてあげよう」
そう言うと、『ミサオ』は天使の意匠を凝らした純白の銃を亡霊たちに向け、引き金に指を添え、力を加えて狙い撃つ。
放った弾丸が、亡霊の胸に命中すると紫陽花の花びらが舞って散り、亡霊の姿はそこに存在していなかったかのように消えてしまう。
触れた現象を、全て嘘にし、無かったことにする。それが『彼ら』のユーベルコードの能力だ。
「操の現実は操だけのものだ。だから、誰も死んでいない。……くくっ、まだ向き合ってくれるなよ。俺の娯楽が一つ減る」
召喚された亡霊の群れを、一体ずつ愉しむように消してゆく。
全ては現実を取り戻す為。彼らが信じる、唯一無二の、虚構の夢を――。
「じゃあな三千院。お前らはもう――何処にもいない」
大成功
🔵🔵🔵
畠・和彦
さて今度は何をする気かな
・戦闘
ふーん、今度は君達か
記憶を失った時、捜査手帳に残された写真に写されていた者達
証拠のあった妻とは違い、彼らが何者なのかその素性は本当に分からない
おそらく昔の仲間だったんだろう
「ま、どちらにせよボクは前に進むよ
そう約束したしね」
躊躇も未練もなく中央の男の眉間に向け『ジーブス・ギャンビット』でナイフを突き立てる
その瞬間に過ぎる光景
一瞬の記憶、単独捜査に何故かついてくる同年代の占い師の男の姿
ボクを一人だけ下の名で呼んだソイツの姿に、ボクはフッと笑みを浮かべる
「誰か思い出せないけど、ソイツには確信があってね
ソイツは、今更迷って出てくるようなヤツじゃない」
――なぁ、そうだろ?
鬼門沌行が開いた幽世の門から、現れ出ずる亡霊たちの群れ。
畠・和彦(元刑事の変わりモノ・f15729)は帽子を目深に被り直して肩竦め、やれやれと溜め息交じりに亡霊たちの顔を見る。
「ふーん、今度は君達か」
和彦が記憶を失った時、捜査手帳に残された写真に写っていた者たちがいた。
証拠とそれを裏付けする事実のあった妻とは違い、彼らが一体何者だったのか、素性は未だに分からない。
おそらく昔の仲間だったのだろうと、推測の域を出ないが、それでも今は構わない。
「ま、どちらにせよボクは前に進むよ。そう『約束』したしね」
和彦の脳裏に思い浮かぶのは、先ほど心の中で誓いを交わした妻の顔。
一歩ずつ、地面を踏み締めながら亡霊たちに歩み寄り、コートの中からダガーを抜くと――中央の男の眉間に向かって、鋭く刃を突き立てる。
その瞬間――和彦の頭の中に『ある』光景がふと過ぎる。
それは刹那の記憶に過ぎないが、自身が単独捜査をしていると、何故か必ずついてくる者がいた。
彼は自分と同年代で、確か占い師をやっていた。
記憶の中でその男は一人だけ、ボクを下の名前で呼んでいた。
そんな男の姿を思い出し、和彦はフッと口元緩めて薄く笑う。
「誰か思い出せないけど、ソイツには確信があってね。ソイツは、今更迷って出てくるようなヤツじゃない」
男の眉間から、ダガーを引き抜きながら不敵に笑い。消滅していく亡霊の、最期を見届けながら目を細めて呟いた。
――なぁ、そうだろ?
大成功
🔵🔵🔵
向坂・要
あちら(彼岸)の人達のお越しにゃちと早すぎやしませんかぃ?
亡者を従えてるあたり百鬼夜行ってよりゃ亡者のツアコン感、ってね
なんて思いつつ
居並ぶ顔にちらほらと懐かしい顔を見つけ苦笑
それは人の形を得て最初の仲間、主人だったものと共に旅する隊商の面々
オレが、会いたいって思ってたのはお前さんたちだったんですかねぇ
なんて自分に苦笑しつつ
こっちも季節外れになりますが
とエレメンタル・ファンタジアで呼び出す八咫烏の送り火達
迷わず還りなせぇ
と破魔の力も宿したおくる焔はオブリビオンの首魁へ
ま、見た目だけ似せたところで過去は過去
躊躇っちゃあの人らに笑われちまうってなもんで
「あちら(彼岸)の人達のお越しにゃ、ちと早すぎやしませんかぃ?」
亡者を従えている百鬼夜行の主たる鬼門沌行を、向坂・要(黄昏刻・f08973)はまるで亡者のツアコンみたいだと。思わず軽口を叩いてみるが、そんな態度も余裕の表れか。
それはともかく、亡者の中に居並ぶ顔ぶれに、要にとっては懐かしい顔を見つけてつい苦笑いを浮かべてしまう。
それは彼が人の形を得てから最初の仲間、主人だったものと共に旅する隊商の面々だ。
「オレが、会いたいって思ってたのはお前さんたちだったんですかねぇ」
まだ人に成り立てた時のことなぞ、かなり昔の話ですっかり忘れたものだと思っていたが。こうして逢えたということに、それも悪くはないとまんざらでもなさげに軽く笑う。
とは言え、彼らは所詮は過去の亡霊だ。今更そこに戻るつもりはさらさらないと、杖をくるりと回して揮えば、それは一羽の黒い鳥になる。
要が魔法を使って呼び出した、八咫烏が亡霊たちに向かって羽搏いて。火の粉を撒いて飛び交うと、瞬く間に炎が広がり、亡霊たちを呑み込みながら灼き尽くす。
焚べる炎は彼らの魂を、彼岸に返す送り火代わりだ、と。
「――迷わず還りなせぇ」
要は更に、破魔の力を宿した焔で以て、オブリビオンの首魁までもを巻き込んでいく。
例え見た目だけを似せたところで、過去は過去。
人の本質までは真似できず、紛い物でしかない亡霊たちに、今更惑わされるような彼ではない。
「躊躇っちゃ、あの人らに笑われちまうってなもんで」
要はニヤリとほくそ笑み、炎に灼かれて消え逝く亡霊たちを見送った――。
大成功
🔵🔵🔵
織座・このみ
妹のこのみは、まだ立つのも辛そうですしぃ、
仕方ないですから、あたしだけで戦いますねぇ
えぇ、この子を守るためならお姉ちゃんいっくらでも頑張りますよぅ!
妹悲しませた元凶許せないですしぃ
それに
『父や母を焼かされて、あたしも何も感じてないわけじゃないんですよぅ?』
この子を守るためなら躊躇はしないってだけでしてぇ
●行動
ユーベルコード:炎舞・狐火
を使いますよう
妹みたいに神霊降ろしたりはできないですけどぉ
これくらいはあたしでもできるんですよぅ!
※姉のこのかが参加
人前では狐面外さない
協力、アドリブ歓迎
風鈴の音に呼び出された亡霊たちは消え去った。
だが例え、見た目が同じだけの亡霊とはいえ、織座・このみ(半身は焔となりて傍らに・f04890)にとって大切な人々が、再び焼かれる光景を目にすることは、余りに大きな衝撃で。
視線は虚空を彷徨い定まらず、今もまだ、茫然自失とした状態のままでいる。
そんな彼女に、新たな亡霊たちと百鬼夜行が容赦なく襲い掛かってくる――が。
『この子には、指一本たりとも触れさせたりはしませんよぅ』
このみの前に立つ、黒い狐面を被った和装の少女。
その身に地獄の炎を纏った彼女こそ、このみの双子の姉の、『このか』であった。
おそらく無意識的にこのみが召喚したのだろうか、大切な妹を守るべく、再び『彼女』が戦いの場に躍り出る。
妹を悲しませた元凶たる鬼門沌行は、このかにとって当然赦せることのできない敵だ。
それに何よりも――。
『父や母を焼かされて、あたしも何も感じてないわけじゃないんですよぅ?』
このみと双子であるが故、地獄と化した身でいても、心は同調しているのだろう。
自分の手で亡霊たちを灼き祓ったのは、彼女自身も辛さを感じているのだが。それよりも、たった一人の片割れでもある妹を、守る為ならどんなことでも躊躇わない。
だから今度もそうするまでと――纏った炎が二十と二つの火の玉となり、稲穂色をした狐火が、百鬼夜行の群れに撃ち込まれて地獄の業火で灼き尽くす。
『これくらいなら、あたしでもできるんですよぅ』
少し得意げに、このかはこのみの顔をちらりと見遣る。
狐面を被ったままだとその表情までは見えないが、きっと妹に、優しい笑顔を向けているのかも――。
大成功
🔵🔵🔵
シャルロット・クリスティア
……あれが、元凶ですか。
感謝しますよ、みんなに会わせてくれて。私の生きる意味を、再確認させてくれて。
ですが……なんでしょうね、この気持ちは。
気を引き締めなければならないのに、無性に虚しくなります。
……いえ、考えるのは後ですね。まずは……。
妖気……魔力の類でしょうか。至近距離から喰らうと危険かもしれませんが、銃なら問題ありません。
近づかれないように気を付けつつ、遠距離から【スナイプ】。
物陰などの【地形を利用】して【目立たない】ようにしながら、他の猟兵さんの【援護射撃】です。
【視力】を凝らして、攻撃の中核や弱点を見極めて、効率よく行きたいところですね。
エン・アウァールス
▼アドリブ歓迎
▼心情
御代わりかな?歓迎するよ。
食べこぼしはしないから。
鬼門沌行は…あの目玉?が核なのかな。炎、もしくは指を剥がせればいいのだけれど。
やっぱり、守りの堅い相手は苦手だねえ。
▼戦闘
【戦闘知識】【呪詛耐性】【見切り】を駆使。
亡霊は「肉剥」を【武器改造】で薙刀形状に変化させ、尽くを【なぎ払い】。
『敵SPD/封印されていた鬼神』が現れた場合、積極的に戦い、鬼門沌行から引き離す。
鬼神を仕留められたなら、鬼門沌行の巨大な手に「雪迎え」を巻き付け開かせて、目玉を露出させるように試みる。
▼補足
降魔化身法での姿は「黒蟷螂」
目のみ金色。
「……あれが、元凶ですか。感謝しますよ、みんなに会わせてくれて。私の生きる意味を再確認させてくれて」
禍々しいオブリビオンの姿を目にしても、シャルロット・クリスティア(あの雲の向こう側へ・f00330)は恐れることなく冷静に。前哨戦で邂逅を果たした亡霊たちのことを思い返して決意を再認識するのだが。
どこか得体の知れない奇妙な違和感が、決戦の時を前にしながら心の中に混ざり込む。
気を引き締めなければいけない時なのに、無性に虚しくなるのは何故だろう。
「……いえ、考えるのは後ですね。まずは……」
しかし今はそんなことよりも、敵を討つことだけに専念するべき、と。なるべく近付かないよう距離を置き、桜の木に隠れるように身を潜め、銃を持つ手に力を籠める。
「御代わりかな? 歓迎するよ。食べこぼしはしないから」
後方支援に徹するシャルロットに背中を預け、エン・アウァールス(蟷螂・f04426)が前に立つ。
鬼門沌行に対して薄っすら笑みを浮かべて一瞥し、目を光らせながら相手の急所はどこかと探りを入れて。核と思しき目玉にどうやって攻撃を加えようかと思考を巡らす。
まずは出方を伺いながら敵の様子を見ていると、亡霊たちが先に前に出て、猟兵たちを憑り殺そうと襲い掛かってくる。
押し寄せてくる亡霊たちに、エンが仁王立ちして立ちはだかる。
鋸刃に柄を取り付けることで薙刀状に変化させ、口角を吊り上げながら刃を一閃。
力任せに薙いだ『肉剥』が、亡霊たちを悉くに斬り払い。仕留め損ねた分は、後方からシャルロットがライフル銃で援護射撃して、確実に撃破しながら鬼門沌行の方へと視線を向ける。
視力を凝らして敵の挙動を観察するシャルロット。
すると青い炎の揺らめきが、強さを増して燃え盛り、荒ぶる波動となって放たれる。
「そうはさせません!」
シャルロットの秘めた覚悟がライフル銃と同調し、銃身に刻み込まれたルーンが魔力を発動。彼女自身の戦闘力が強化され、撃ち込むルーンの弾丸が、まばゆい光を纏って直撃すると――敵の波動を相殺し、煌めく魔力の奔流が、鬼門沌行の青い炎を消していく。
そしてシャルロットが作って生じた僅かな隙を、この好機をエンは見逃さない。
「折角の御馳走なんだから。美味しく戴かないと」
血肉に餓えた羅刹が、その身に妖怪変化や悪鬼を降ろし、正真正銘の『鬼』と化す。
金の瞳を耀かせ、指先から銀糸を伸ばし、鬼門沌行目掛けて放って巻き付ける。
絡んだ糸は赤く染まった夕焼け空の光に反射して、黄昏色に照り輝いた鋼の糸が、敵の体躯に深く食い込み締め付ける。
獲物を貪り喰らうが如くの感触に、エンは微かに愉悦しながら、弦楽器を爪弾くように指で銀糸を弾いて鳴らす。
鬼門沌行の肉体が、その振動によって斬り裂かれ、糸を伝って滴り落ちる鮮血を、エンはまるで子供のように目を光らせながら見惚れつつ。
次第に黒い殺意が渦巻いて、もっと喰らい尽くせと『黒蟷螂』が彼の心に訴える――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
砂月・深影
亡霊達は多分弟を失った時の襲撃で命を落とした人達かな。顔はあまり覚えてないけど、声がそんな感じだったから。……悲鳴や嘆きだけど
彼らも愛しい人の元に行きたかったのかもしれない。そう思ってしまうのは、やっぱりまださっきのことがあるからかな……(深呼吸)
……さて、亡霊達の主を退治しないとね(鬼神を睨みつけて)
相手の隙を見ながら残像やフェイントを交えて手に持った刀で鬼神に攻撃を仕掛けるよ。相手からの攻撃は可能な限り見切ったり、武器受けやオーラ防御で防御したりしていく。
ここぞというタイミングで【波涛舞刃】を発動させる。強力な分、外すと大きな隙になるから使いどころには注意しないと
砂月・深影(寒空に光る銀刀・f01237)が太刀を逆手に握り締め、敵が呼び出す亡霊たちを優雅に舞うかのように斬り伏せる。
きっと彼らは、弟を失った時の襲撃で、同じく命を落とした人たちなのだろう。
顔ははっきり覚えていなくても、深影にとっては聞き覚えのある声だった。ただし……それは悲鳴や嘆きの声だけれども。
「彼らも愛しい人の元に行きたかったのかもしれない。そう思ってしまうのは、やっぱりまださっきのことがあるからかな……」
例えまやかしだとは分かっていても、弟の姿を見られたことは、深影の気持ちに大きな変化を齎していた。
冷静さを取り戻し、深呼吸をしながら乱れた息を整える。
「……さて、亡霊たちの主を退治しないとね」
銀色に輝く双眸に、決意の光を宿して元凶たる鬼神を睨み付け、この戦いに決着を付けるべく立ち向かう。
劣勢が続く鬼門沌行の、全身から燃え盛る青い炎が貼られた呪符を灼き捨てる。
そうして己の力を抑えていた符を剥いで、封印された鬼神が今解き放たれようとする。
『グオオオオォォォッッ!!』
鬼神としての本来の姿を取り戻した鬼門沌行が、深影をあの世に引き連れようと、異形の腕を伸ばして迫り来る。
しかし深影は武器に破邪のオーラを纏わせて、相手の動きを見切って刀で受け止め、すかさず返す刃で斬りかかる。
「さて……僕の速さについてこれるかな」
白い翼を翻し、流れるような動作で超高速の連続攻撃を繰り出す深影。
「――打ち寄せる波の如く、攻める!」
凍てつく氷を思わせる、煌めく銀の剣閃が、無数の軌跡を描いて幾度と鬼神を斬り刻み――やがて攻撃の手が止まったその瞬間、斬るべき鬼神の姿はもうそこにはいなくなっていた。
亡霊たちを統べるオブリビオンを討ち倒し、束の間の静寂が桜の杜に訪れる。
深影は髪に咲いた赤い山茶花に、そっと手を添えながら心の中で静かに祈る。
――大切な人たちを失った辛い過去。
そうした人の心の哀しみを、欺く非道な鬼共にも負けず。
猟兵たちはこの困難に、見事勝利し、打ち克ったのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『桜色に染まる春の宴』
|
POW : 桜咲く街を散策
SPD : 飲食などの出店を巡る
WIZ : 自ら余興や出し物を行う
|
※第3章の冒頭部分は後日追記しますので、プレイングの受付は冒頭部分追加後から開始させて頂きます。何卒ご了承下さいませ。
――提灯明かりが照らす宵の時。
宴の舞台である神社から、聞こえてくるのは祭囃子と賑わう人々の楽しげな声。
そして今宵の祭りに彩り添えるのは、月の光に映える満開の薄紅色の花。
ふわりと吹いた春の微風に、はらり、ひらりと、桜の花弁が夜空に舞う。
鮮やかなまでの幽玄なる美しさ、その幻想的な光景に、人々は心惹かれて思わず見惚れ――日常ならざる夢の世界のひと時に、心行くまで酔い痴れる。
更に神社の境内には、様々な屋台が立ち並んでいる。
食べ物であれば、天婦羅にお寿司に蕎麦といった辺りが、この時代の定番だ。
甘味処では、団子に饅頭、お汁粉などもあり。
花を愛でるだけでなく、団子に舌鼓を打つのも良いだろう。
楽しみ方は人それぞれで、穏やかな春の空気を感じつつ。
桜の花に想いを乗せて、この安らぎの時を満喫していこう――。
シャルロット・クリスティア
POW
静かな場所で、桜を眺めていましょう。
ああいう喧騒が嫌いなわけではないんですけど……今日はなんだか、混ざる気分になれなくて。
風に舞って散って行く桜の花……綺麗ですね。
同時に、どこか儚いというか……寂しくも思えます。樹はまだ生きているにしても、その花は……散ったら終わり、なんですかね。
それとも……。
……みんな。
みんなは、咲けましたか?
次に何かを遺せましたか?
……残された私には、何ができるんでしょうか。
誰のために、何をすればいいんでしょうか。
そんな事をぐるぐる考えながら、帰還までの時間を潰します。
祭りを楽しむ人々の喧騒を背にしながら、一人離れて静かに桜を眺めるシャルロット・クリスティア(ファントム・バレット・f00330)。
別にこういう賑やかな雰囲気が苦手なわけではない。普段であれば彼女も一緒に宴に興じていたかもしれないが――今日だけは、そこに混ざる気分になれないでいた。
「風に舞って散って行く桜の花……綺麗ですね」
吹き抜ける風に薄紅色の桜吹雪が華麗に舞う。
しかし同時にその散り際は、どこか儚げで寂しいとすら思えてしまう。
樹はずっと生きている、けれども花が咲くのは短くて、散ってしまえばもう終わり。
「……なんですかね。それとも……」
……みんな。
みんなは、咲けましたか?
次に何かを遺せましたか?
シャルロットの瞳には、それはあたかも人の命を宿しているかのように映って見えて。
頭に思い浮かべるのは、亡霊とはいえ、僅かながらも逢えた両親や故郷の人たちの顔。
――風に運ばれ夜空に消える花びらは、一体どこに飛んでいくのだろう。
その行く先を目で追って、彼女の青い視線は夜空を明るく照らす月を見る。
あの月は、故郷の世界と繋がっているのだろうか、と。そんなことをふと考えながら、シャルロットは彼らと一緒に暮らしていた過去に心を寄せる。
しかし現実は、自分だけがこの世界に取り残されていて、心の殼の奥底は、未だ過去の亡霊に囚われたまま――。
……残された私には、何ができるんでしょうか。
誰のために、何をすればいいんでしょうか……。
少女は頭の中で幾度も思考を巡らすものの、答えが見つかるまでには至らない。
しかしそれを探し続けることこそが、今のシャルロットが生きる理由だと――。
そうして彼女は帰還するまで暫しの間、ただ過去の故郷のことを想うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
畠・和彦
【POW】
ボクが記憶を失う前に記した記録では、桜の木の下でボクは妻に告白したそうだ
ロマンチストに過ぎる
「まったく、何考えてんだか」
その行為に今の自分は思わず苦笑する
ふと、そのときまた横切る光景があった
『まったく、何考えてんだか』
呆れたように言い放つあの占い師の男の姿を思い出し、また自分はフッと笑ってしまう
思い出す気なんて正直なかったし、今でも他人事しか思えない妻と仲間
だが確かに彼らはボクの中で生きている
やっぱり思い出したいのかな?と心中で自身に問いかける
けれども、やはりその気にはなれない
むしろ今回のことで綺麗さっぱり片付いた気がする
一方的とはいえ、約束も交わせたのだから
「だから、これで満足だ」
――ボクが記憶を失う前に記した記録では、桜の木の下でボクは妻に告白したそうだ。
「まったく、何考えてんだか」
ロマンチストにも程がある、と。畠・和彦(元刑事の変わりモノ・f15729)は記憶を失くした過去の行為に思わず苦笑しながら、満開の桜の景色に目を遣って。
照れ臭そうに帽子を押さえ、思い出せない記憶に想像を巡らせていたその時に――ふとある光景が頭の中を横切った。
『まったく、何考えてんだか』
呆れたようにそう言い放つのは、あの占い師の男の姿であった。
彼のことを何故思い出したのか、和彦の頬が自然と緩み、フッとまた笑ってしまう。
思い出す気なんて正直なかったし、妻や仲間のことは今でも他人事としか思えない。
もう死んでしまってこの世にいない彼らだが、それでも確かに自分の中で生きている。
「……やっぱり、思い出したいのかな?」
和彦は心の中で自分自身に問い掛ける。だがその一方で、どうしても、素直にそうした気持ちになれない自分もいるのは間違いない。
失くした過去はもう二度と、自分の元へは戻ってこない。
それに今の生活自体こそ、自分の世界における現実なのだから。
未練がないかと言えば、嘘になるかもしれないが。しかしこうして亡霊とはいえ彼らに逢えたということは、今まで燻り続けた思いを吐き出す良い切欠だったかもしれない。
むしろ今回のことで胸の痞えが下りたと、和彦は憑き物が落ちたようにすっきりとした表情で、月夜に映える桜の花をじっと見つめて微笑んだ。
これで綺麗さっぱり片付いて、一方的でも約束を交わせたことに変わりはない。
「――だから、これで満足だ」
大成功
🔵🔵🔵
向坂・要
こいつぁ賑やかだ
油揚げや稲荷寿司でもねぇかな、なんて屋台を冷やかしたり覗きつつ
この喧騒が、日常に。
少しだけ感慨めいたものが過ってしまうのはきっと久しぶりに見た懐かしいからか、桜があまりに綺麗だからか。
なんて
らしくねぇですね
と内心苦笑して
さて、折角ですし楽しんでいきましょうかね
と精霊の力(エレメンタル・ファンタジアの応用)を借りて
色とりどりの和紙で折った鶴を舞わせて祭りの喧騒に花を添え
しんみりした感傷は似合わない
彼らもそんなものより賑やかなのが好きでしょうしね
花見を楽しみに、多くの人で賑わいを見せる喧騒に。向坂・要(黄昏刻・f08973)もこうした空気は久しぶりだと、どこか懐かしさを覚えつつ。少しだけ感慨めいたものが過ぎっていくのを心の中で感じていたりした。
そう思うのも、きっと桜があまりに綺麗だったから――。
「なんて、らしくねぇですね」
などと内心苦笑しながら、鮮やかに咲いた桜の花に視線を向けたその先に、色んな屋台が並んでいるのが目に留まり。油揚げが好物でもある要としては、そこに稲荷寿司がないだろうかと、誘惑に駆られるように屋台を覗いて見て回る。
そんな様子で屋台巡りをしていたら、美味しそうな出汁の香りが要の鼻腔を擽って。
一体どこからだろうと匂いのする方へと目を遣ると、そこは蕎麦屋の出店であった。
蕎麦屋となれば、稲荷寿司だけでなく、お揚げの乗ったきつねそばもある。
要にとっては一石二鳥と言える屋台に巡り合え、早速注文をして蕎麦と稲荷寿司を戴くのであった。
きつねそばの分厚い油揚げにはつゆがしっかり沁み込んでいて、それを一口噛む度に、凝縮されたお出汁の味が口いっぱいに広がっていく。
更には稲荷寿司の方もまた、程良く甘味が効いてそれが酢飯と良く合って。要はこの上ない幸福感を、心行くまで味わっていた。
そうして馳走を堪能し終えると、今度は色とりどりの和紙で折られた鶴を取り出して、精霊の力を借りて風に乗せ、月夜の空に折り鶴の群れが羽搏くように舞う。
花見の宴の喧騒に、華やかな彩りを添えて飛び行く場所は、常世に眠る者たちの地か。
「彼らもしんみりした感傷なんかより、賑やかなのが好きでしょうしね」
それは自身の最後の持ち主だった老人と、共に旅した隊商たちに捧げる餞として。
せめて少しでも、今のこの世の楽しさを、向こうの世界に届けられたら、と――。
大成功
🔵🔵🔵
織座・このみ
素敵な夜桜を楽しむ前にちょっとお説教の時間ですよぅ!
まだ衝撃抜けきってない妹に追い打ち掛けるのは不本意ですけどぉ
お姉ちゃん心を鬼にしますねぇっ
『あなたがあたし達を――あの日なくなったものを、今も大切に思ってくれてるのは嬉しいんですよぅ? けど、そのせいであなたが怪我したりするのは、誰も望んでないんですからねぇっ!』
このみのそういった気持ちや優しさを否定したりしたくないですし
残してしまった側の我が儘ですけどぉ
無理して戦おうとするより、逃げ出してでも、身を守ってほしいんですからねぇっ
お説教が終わってこのみも落ち着きましたら
改めて夜桜を楽しみますよぅ
※姉のこのか視点で参加
協力、アドリブ歓迎
花見で賑わう人々の姿も声も、織座・このみ(半身は焔となりて傍らに・f04890)の目に見えど、耳に聞こえど、彼女の意識は未だに上の空でいて。心は茫洋と遠くの世界を彷徨っている。
大切な人が炎に焼かれて死に逝く様を、過去の辛い記憶を呼び覚まされた衝撃からは、ずっと立ち直れていないまま、亡霊に魂を奪われたかのように佇んでいた。
しかしそんなこのみの心の中で、ただ一人だけ、はっきり聞こえる声が響く。
声の主たる姿は決して目には見えないが、語り掛けてくるのは彼女の裡にいる、双子の姉のこのかであった。
だがその声は、どこか怒気を孕んでいるようであり。傷心の彼女を慰めるというより、まるで説教するかのような勢いだ。
『あなたがあたし達を――あの日なくなったものを、今も大切に思ってくれてるのは嬉しいんですよぅ? けど、そのせいであなたが怪我したりするのは、誰も望んでないんですからねぇっ!』
このみの優しい気持ちを、姉のこのかは誰よりもよく知っている。
だからそうした想いを否定したくはない。それでもあの時は、無理して戦って、身も心も壊れるよりも、逃げ出しても構わなかったから、自分の身を守って生きてほしかった。
それは残してしまった側の我が儘なのかもしれないけれど――。
とにかく言いたいことは言い切った。この言葉をどう思うかは、全て妹次第だと。
心の中に遺り続ける半身の魂の、叫びの声にこのみも漸く目が覚めたのか。ふっと我に返って周囲を見渡して、そこに姉の姿はないものの、一番間近な自分の中に、『彼女』の想いを感じ合う。
心に負った傷は簡単には癒えないが、せめて少しずつ、今を生きて行こうと前を向く。
――見上げた空には月が綺麗に輝いて、照らす光は少女を導く標の如く。
そこから足を一歩踏み出せば、彼女の進む道行きを、祝福するかのように桜吹雪が風に踊って、夜空の彼方へ華麗に舞う――。
大成功
🔵🔵🔵
火神・五劫
無事に妖を討伐できて何よりだ
そういえば、もう幾年も戦いに明け暮れて
のんびりと桜を眺めることなど無かったな
酒と肴を調達して、花見と洒落こもうか
この土地の酒はどれが美味いんだ?
つまみには何が合うだろう?
現地の者に話を聴いて、勧められたものを買ってみよう
望んで始めたわけではないが、旅もまあ悪くはない
こうして見聞を広められるからな
腹を満たしながら眺める夜桜は
この世のものとは思えぬ美しさだ
…もし先生が生きていたら
共に酒を酌み交わすこともあったのだろうか
ん、あの同族の娘は…百華と言ったか
事件について伝えてくれて、ありがとうな
人々を守れた礼だ、何か奢るぞ
酒…はまだ呑めんか。甘い物がいいか?
「そういえば……のんびりと桜を眺めることなど、もう幾年も無かったな」
火神・五劫(送り火・f14941)はこれまでの自分を省みて、ずっと戦いに明け暮れていたことを桜の花を見て気付く。
孤児として故郷を失くし、妖退治の道を歩み続けてきた五劫。
己が生き抜く為に剣を振るい続けてきた青年は、長らく忘れていた平和な時間を噛み締めながら、まずは酒と肴を調達しに行こうと会場中を見て回る。
多くの出店が立ち並び、賑わう雑踏を掻き分けるように、行く先々の店を覗き込む。
「この土地の酒はどれが美味いんだ? つまみには何が合うだろう?」
屋台の売り子や花見客に声を掛け、勧められるがままに酒と一緒につまみの天婦羅を。
その後は手頃な場所を探して腰を下ろし、暫しの休息の時を過ごすのだった。
望んで始めたわけではないのだが、こうして旅をするのも悪くはない。
世の中にはまだ知らないことが多くある。それで見聞を広められるなら、何れ自分自身の糧となろう。
揚げたばかりの天婦羅に、舌鼓を打って酒を呑む。
はらりと散った花びらが、酒を注いだお猪口の中に舞い落ちて。
何とも風情なものだと感じつつ、そこに嘗ての恩師の顔が五劫の脳裏にふと過ぎる。
「……もし先生が生きていたら、共に酒を酌み交わすこともあったのだろうか」
共に暮らしていた日々を懐かしみ、二度と叶わぬ願いに想いを馳せて。
――感傷に耽りながら視線を向けたその先に、不意に一人の少女の姿が目に留まる。
「ん、あの同族の娘は……百華と言ったか」
今回の事件を予知してくれた、自身と同じ羅刹の少女の太刀花・百華(花と廻りて・f13337)に、五劫は礼を言おうと言葉を交わす。
「事件について伝えてくれて、ありがとうな。人々を守れた礼だ、何か奢るぞ」
「こちらの方こそ力を貸してくれて感謝する。ただまあそこまで言ってくれるなら、折角だからお言葉に甘えるとしよう」
五劫の誘いに、百華は微笑みながら頷いて、心弾ませ屋台の方へと足を伸ばす。
酒はまだ、一緒に呑めるような歳ではない。それなら甘い物がいいだろうかと、五劫も彼女に付き合うように屋台巡りに繰り出すのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ジャスパー・ジャンブルジョルト
和菓子の屋台もあると聞いちゃあ、じっとしていられねえ。なにせ、俺はスイキョーだかんな。あ、スイキョーってのは『酔狂』じゃなくて『スイーツ強者』の略だぜ。
やっぱ、花見の定番といえば、三色団子! 屋台を片っ端から巡り、三色団子を食い比べる。とくに美味い団子は百華にも勧めておくか。あいつも俺と同じスイキョーの匂いを漂わせてっからな。
たらふく食った後は腹ごなしにツィターを弾くぜ。花見の宴に相応しい陽気で派手な曲を……と、思ったけど、亡霊とか見たせいで感傷的になってる奴らもいるかもしれないから、しっとり系の曲にしとこう。
他の猟兵の引き立て役や調子に乗って痛い目を見る役など、お好きなように扱ってください。
華やぐ花見の会場には屋台が付き物である。
ずらりと並んだ出店に足を止め、味を求めるのも花見の一つの楽しみ方だ。
そうした中に、和菓子の屋台もあると聞き、ジャスパー・ジャンブルジョルト(JJ・f08532)は居ても立ってもいられず、会場となる神社に足を運んでやってきた。
「なにせ、俺はスイキョーだかんな。あ、スイキョーってのは『酔狂』じゃなくて『スイーツ強者』の略だぜ」
などと冗句交じりにキメながら、クールなケットシーの放浪剣士は足取り軽く、屋台を片っ端からぐるりと回る。
花見の定番と言えば、なんといっても三色団子は欠かせない。
味の食べ比べをしてみるのもまた一興と、ジャスパーは色んな店の三色団子を買っては食べてを繰り返し。結論から言えば、どの団子も甲乙つけがたいほど美味しくて。
その最中、同じく屋台巡りをしていた百華とばったり顔を合わせると、お裾分けをするなどして勧めることも忘れない。
「あいつも俺と同じスイキョーの匂いを漂わせてっからな。俺の目に狂いはなかったぜ」
団子を渡した時に嬉しそうな顔を浮かべた百華の様子に、やはり自分の勘は正しかったと得意げになるジャスパー。
そうして団子をたらふく食べて幸福感に満たされながら、少し腹ごなしをしようかと。
徐にツィターを取り出し、一曲奏でようとしたところで、弦を弾く手を一瞬止める。
この花見の宴に相応しい、陽気で派手な曲でも、と。最初はそう思っていたのだが。
亡霊との邂逅に、感傷的になっている者もいるだろうから。だからこの場はそうした者の為、それと亡霊たちの魂を鎮める意味でも、代わりにバラード調のしっとりとした曲を演奏することにした。
ジャスパーが奏でる、切なくも優しい旋律が、風に流れて桜吹雪が同時に舞う。
その癒しの音色はあの世に逝った者たちの、心にきっと届いているだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
エン・アウァールス
▼アドリブ歓迎
【SPD】
百華(f13337)と
お疲れさま、百華。
…その。今、手は空いているかな?
キミさえ良ければ、出店を一緒に
見ていかないかい。
…実はね。
和菓子を見たいな、と思って
いるのだけれど。
どうも、ひとりでお店に行きづらくて。
勿論、ただでとは言わないよ。キミの分もご馳走させてもらうとも。
百華はどれがいいかな?
これと、これと一一
あと、桜餅を2つ。それじゃ、お勘定を。
付き合ってくれてありがとう。
一一 あ。
花びらが、髪に。
百華は綺麗な黒髪だから、
桜がよく映えるね。ふふ。
「お疲れさま、百華。……その。今、手は空いているかな?」
花見を楽しむその傍らで、エン・アウァールス(蟷螂・f04426)が百華を見つけて呼び掛ける。良ければ一緒に出店を見て行かないかい、と誘うエンに対して、快く二つ返事で了承する百華。
それではどこに行こうかと訊ねれば、エンははにかむように頬を掻きながら、一瞬間を置き、少し照れ臭そうにぽつりと言う。
「……実はね。和菓子を見たいな、と思っているのだけれど。どうも、ひとりでお店に行きづらくて」
甘味を一人で買いに行くことなんて、滅多にないからこういうことには慣れなくて。
だからそういう時は、女性が一緒に来てくれると心強いから、と。
「勿論、ただでとは言わないよ。キミの分もご馳走させてもらうとも」
ご馳走、という言葉を聞いた途端、百華は瞳を輝かせ、それなら折角だからと、二人は一軒ずつ屋台を覗いて回って練り歩く。
そうして買った和菓子を包みに包んでもらって小脇に抱え、それとは別に、エンが注文したのは二つの桜餅。これは付き合ってくれたお礼だからと言いながら、百華にその一つを差し出した。
すまないな、と笑みを浮かべて百華が桜餅を受け取った時――頭上から、ふわりと桜の花が舞い落ちて、その一片が彼女の髪の上へと降りてくる。
「百華は綺麗な黒髪だから、桜がよく映えるね。ふふ」
まるで髪飾りみたいで似合っているよと、微笑ましげに彼女の髪を見つめるエン。
「べ、別に……綺麗などでは、ない……」
そんな風に褒められると無性に恥ずかしく。髪に乗った花びらを、百華は手で払おうと――しかし、頭上に咲き乱れる桜の花を目にすると、思わず手も止まってしまう程、ただ茫然とその美しさに見惚れるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
砂月・深影
祭りの喧騒から離れた所で桜を見ているよ
夜の風景に浮かび上がる桜と月……、確かに昼とは違った美しさがあるね
昔、弟と桜を見た時も昼と夜とでまったく雰囲気が違って驚いたっけ
あの頃から幾かの時間は流れたけど、桜を見て感じる気持ちはあまり変わってないんだね……。やっぱり桜には亡霊の呼び声よりも人々の楽しい声が似合うよ
戻る時までは桜を眺めているね。この風景に酔いしれていたいから……
人々で賑わいを見せる祭りの喧騒からは、少し離れたところで桜を眺める砂月・深影(寒空に光る銀刀・f01237)。
空に浮かんだ月の明かりに照らされて。夜の世界に薄紅色が映える幻想的な風景に、青空が澄んだ日中や、茜色に染まった夕暮れ時とは、また違った美しさがそこにある。
「昔、弟と桜を見た時も、昼と夜とでまったく雰囲気が違って驚いたっけ……」
同じ花でも時間によって見た目も雰囲気も、変わってくるのは何とも不思議な感じがするものだ。
深影は弟と一緒に桜を眺めた日の光景を思い出し、そこに懐かしさを覚えてその当時のことに思いを馳せる。
あの頃からは、幾度も時間が流れ過ぎたけど。桜を目にして感じる気持ちは、昔と余り変わっていない。それは今この目で見ている桜も、きっと昔から、ずっと変わることなく花を咲かせているだろうから――。
「……やっぱり桜には、亡霊の呼び声よりも、人々の楽しい声の方が似合うよ」
深影は先ほど逢った弟の亡霊の姿を脳裏に浮かべ、首から掛けた形見のペンダントに手を添えながら心の中で静かに祈る。
こうしていると、あの頃みたいに一緒に桜を見ているような気になって。
もしかしたら、月の向こう側の世界でこちらの花見の様子を眺めていたりして。
そんな風にも考えながら、深影はこのまま暫く黙って花を愛で、幽玄なる朧桜の景色に酔い痴れた――。
大成功
🔵🔵🔵
桜橋・ゆすら
咲耶さん(f02335)と共に街を散策しましょう
提灯の明かりに目を細め、見事な桜の花にほぅと溜息
なんて華やかな桜なのでしょう
はらりひらりと舞う夜桜に心奪われてしまいそう
嗚呼けれど、此処で我を失ってはいけません
…ゆすらの傍らには、愛らしい桜を連れて居ますもの
「―あの、咲耶さん。桜を眺めて、何かを思い出すことはありますか?」
ゆすらは、あります
記憶も曖昧ですけれど、誰かの面影をふと、感じるのです
…どうして訊ねたか、なんて
あなたが何だか寂しげな顔をするから、ですよ
彼女へ向き直り、心配そうに訊ねます
ゆすらとあなたは、似ていてもきっと違う
――あなたにとって、桜は何色?
あなたの気持ちを、聞きたい
アドリブ歓迎
瑞枝・咲耶
ゆすら(f13614)様とご一緒に
提灯に照らされた夜桜は見事に美しい
でも、何故でしょう?とても悲しい色に見えるのは
折角の友人との夜桜見物…このような心では夜桜にもゆすら様にも失礼、なのに
思い出すことですか?
ゆすら様に訊かれて表情に出てしまっていたことに気付く
「私は、道具だった頃の記憶があります。其れはきっと、人に恋をしていたから」
私達と人では流れている時間が余りにも違いすぎる
叶わぬ恋ほど、哀しいものはなくて
だから私は人を避けて自分の殻に籠もった
桜は何色か
考えたこともありませんでした
桜から生まれた私には桜は当たり前で、何色かなんて
私は…桜は何色なのでしょう
きっと、とても哀しい色ですね
アドリブ歓迎
ゆらゆらと、闇夜に燈る提灯の、明かりが並ぶ景色に目を細める少女が二人。
光に照らされて、茫と浮かび上がる桜の花の見事さに、桜橋・ゆすら(きみがため・f13614)の口から、ほぅ、と感嘆の溜め息が思わず零れる。
はらりひらりと舞う夜桜に、目だけでなくて心までも奪われてしまうような気分に陥りそうになり。
嗚呼けれど――此処で我を失くしてしまっては、傍らにいる愛しい『桜』を愛でることすらできないと。
ゆすらは桜を見つめる薄紅色の瞳の先に、もう一人の少女の姿を映し出す。
そこにはこの日の桜のような髪色の、瑞枝・咲耶(名残の桜・f02335)がどこか物憂げな様子で佇んでいた。
提灯明かりに浮かぶ夜桜は、確かに綺麗で美しい。でもそれなのに、とても悲しい色に見えてしまうのは、どうしてなのかと想い耽って桜の花を見ていると。
「――あの、咲耶さん。桜を眺めて、何かを思い出すことはありますか?」
一緒に来ていた少女の声が聞こえ、咲耶は彼女の言葉に一瞬考えた後、表情に出ていたことに漸く気付く。
不意にそんなことを訊いたのは、きっと寂しそうな顔をしていたからだろう。
はっとして、一拍間を置いた後、同じヤドリガミである少女に向けて言葉を返す。
「私は、道具だった頃の記憶があります。其れはきっと、人に恋をしていたから」
道具としての長い年月を経て、魂宿って命を得た彼女らと、人の身とでは流れる時間が余りに違って隔たりがある。
相手に寄せる想いは届くことなく。故に叶わぬ恋ほど、哀しいものはなく。
だから咲耶は、この辛い気持ちから逃れたく、人を避け、自分の殻に籠もった、と。
友たる少女の告白に、ゆすらは彼女が話している間、一言も発することなく黙って静かに聞いていた。そしてひと段落ついた後、話を続けるように自身のことを語り出す。
「ゆすらも、記憶も曖昧ですけれど、誰かの面影をふと、感じるのです」
持ち主に心を寄せるといった感情は、ヤドリガミの彼女たちにしか分からない。
でも秘めた想いをこうして打ち明けられるのは、二人に似ている部分があるのだろう。
そうしてゆすらは咲耶の方に振り向いて、彼女の顔を心配そうに覗いて訊ね聴く。
「ゆすらとあなたは、似ていてもきっと違う。――あなたにとって、桜は何色?」
今の気持ちを、知りたいから、と。その問い掛けに、咲耶は目の前の満開の桜を眺めて答えを探そうとする。
桜の木から生まれた少女にとって、こうした色に咲くのが当たり前だと思っていたが。
改めて、そういう風に言われると、一体何色だろうと考えたことなど……一度もない。
「私は……桜は何色なのでしょう」
抱いた想いは漠然と、愁いを帯びた薄紅色の双眸に、映る景色は決して忘れることのできぬ過去。
彼女の記憶の中の桜は褪せたまま、遺した想いに彩は無く。
「……きっと、とても哀しい色、ですね」
二度と戻らぬ遠き日々。移ろう心は儚げに、彷徨うように桜の花を見つめていると――そよいだ風が嫋やかに、咲耶の髪を優しく撫でる。
春の訪れ告げるそよ風は、まるであの人の――。
夜空にふわりと舞った花吹雪。その行く先に、少女は愛しい人の影を見る。
それは刹那の幻か、もしくはこの日の桜が視せた夢の一片だったのかもしれない――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2019年04月04日
宿敵
『鬼門沌行』
を撃破!
|