その大樹が刈られるその前に
●
――その日強風が吹いて、その家の周囲の幻朧桜が吹雪となって散り乱れた。
その帝都のとある高級住宅の一角にあたる、その場所で。
「……成程。|黯党《 あんぐらとう 》も、追い込まれ始めている様ですね……」
自らの周囲に佇む気配を感じ取ったその男は、まるで何処か達観した表情と共に溜息を1つ零す。
その眼前に置かれているカップがその気配に揺れ動き、同時にカップで香気を楽しませてくれていた紅茶が、風に揺れた。
気付けば、近侍として仕えてくれていた者達が必死になって自分を護ってくれようとしていることに気が付き、その男は叱咤する。
「逃げなさい! 彼女達の狙いは私です。私を見捨てさえすれば、貴方方は助かるのですから!」
その、黒いスーツに身を包んだその男の鋭い叫びを聞いて。
近侍達は、何かを察したかの様にその屋敷から姿を消し。
その代わりに……その少壮の男を取り囲む様に、その額に|黯《 あんぐら 》の札が貼られた九尾の狐達が姿を現している。
自らを、その|悪魔《 ダイモン 》化されたかの狐達が自らを殺すことを、欲しているのを察した、男が思わず溜息を零しながら。
「……さて、この先に出るは鬼か蛇か……」
そう、誰に共無く呟いて。
最期になるかも知れない紅茶にゆっくりと口を付ける。
――その男の名は……『竜胆』と言った。
●
「……全く、厄介な話だね」
――グリモアベースの片隅で。
蒼穹に輝き始めた双眸を開いた北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が誰に共無くそう呟く。
優希斗が開いた双眸のその先には、猟兵達が何時の間にか集まっていた。
その猟兵達の姿を見て、1つ首肯する優希斗。
「|黯党《 あんぐらとう 》って……皆は知っているかな?」
――|黯党《 あんぐらとう 》。
それは、理不尽によって人生を転覆させられた『悲劇なる者』を煽り悪魔甲冑『|黯瞞瑜《 アングラマンユ 》」に搭乗させて帝都転覆を目論んでいたテロル組織とされている。
――その一方で。
「……幻朧帝直属の軍令暗殺部隊であると言う不安な噂迄流れている……要するに、|極めて《 ・・・ 》きな臭い組織って訳だ」
――そして、その|黯党《 あんぐらとう 》の首魁とされる本田英和によって今……。
「もしかしたら、知っている人もいるかも知れないけれど……帝都桜學府の要人の1人である、竜胆さんが暗殺されるという予知が視えたよ」
竜胆が暗殺される場所は、彼の私邸でもある帝都桜學府の士官達の住宅街の1つ。
尚、割とひっそりとした場所に竜胆は住んでいるらしく、それ以外の要人達への被害は無いだろう、と判断されている。
「……因みに竜胆さんはある程度この襲撃に備えてそれなりの戦力を整えていたみたいだ。……とは言え、それ以上の戦力を叩き付けられて既に『大勢は決している』と判断したみたいだね」
側近に実力のあるユーベルコヲド使いがいれば、或いは何らかの手を取れたかも知れないが。
今の竜胆の周りに、それ程の実力を持つユーベルコヲド使いはいない。
「……竜胆さんの周囲の近侍達でさえも、ユーベルコヲド使い程の実力者では無いんだろう。だからこそ竜胆さんは、自分の命が狙われていると判断するやいなや、直ぐにその近侍の人々に屋敷からの脱出を命じているのだろうからね」
――そうすることで。
彼等の命が救われる可能性が、ほんの少しでも上がると恐らく竜胆は|分かって《 ・・・・ 》いるのだ。
無論、彼等が口封じのために殺される可能性も想定していない筈はないだろうが。
「……まあ、そんな危機的な状況だから、皆に介入して貰うことになるんだけれどね」
――何故ならば……。
「竜胆さんを狙った|黯党《 あんぐらとう 》の部隊は、皆が来る可能性は想定外の筈だからね。想像外では無い可能性は0では無いけれども」
――それでも。
「そんなリスクを冒してまで竜胆さんを暗殺しようと動いたのであれば、それだけ竜胆さんの事が、彼等|黯党《 あんぐらとう 》にとって危険な存在であることを示唆しているとも言える」
――だからこそ。
「皆には、この戦いに介入して、竜胆さんの命を救い……その裏にいるであろう黒幕を叩き潰して欲しい」
――仮に、この戦いで黒幕を倒した場合……それが『骸の海』から戻ってこない保証は0では無いが。
「それでも、竜胆さんの暗殺を防ぐことは出来る。……そう言った積み重ねこそが重要なことだと俺には思える」
――だからこそ。
「危険な戦いになり得る可能性を想定の上で言う。……どうか皆。竜胆さんとその側近達の命を救った上で……この事件の黒幕を叩いて欲しい。宜しく頼む」
その優希斗の言の葉と共に。
――蒼穹の風が吹き荒れて、猟兵達がグリモアベースから姿を掻き消した。
長野聖夜
――咲き続ける桜が舞い散り、枯れ落ちるかも知れないその場所で。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
と言うわけで、サクラミラージュシナリオを1点、お届け致します。
このシナリオは、下記タグの拙著シリーズと設定を多少リンクしております。
ですが旧作未参加者でも、参加は歓迎致します。
参考タグシリーズ:桜シリーズ。
尚、このシナリオで登場する護るべき主要対象は、下記となります。
竜胆。
帝都桜學府諜報部の幹部の1人です。
諸事情により、最も信頼を置いている部下との接触は不可能です。
また、竜胆の周囲の近侍の人々は竜胆と猟兵が囮になればこの戦場から離脱し、生存できる可能性が高まります。
因みに竜胆の屋敷には本人の他に、それなりに隠業と戦闘能力に秀でた者達が20名程、また近侍として5~6名程が駐屯しています。
ですが、今回の敵部隊には押し切られる程の能力のため、竜胆は彼等の命を危険に晒すわけには行かず、撤退を命じております。
彼等が撤退するまでの時間を稼ぎ、被害を減らすのもプレイングボーナスになり得る可能性がございます。
尚、竜胆に協力を要請する場合、下記ユーベルコヲドを使用してくれます。
UC名:ビブリオテーク・クルーエル
効果:【過去から学んだ全ての記憶】から【類似する事例】を発見する事で、対象の攻撃を予測し回避する。[類似する事例]を教えられた者も同じ能力を得る。
因みに風が吹き荒れた影響か、幻朧桜の花弁が吹雪と化して舞い散っております。
此を何らかの形で利用する場合は、技能『地形の利用』によるプレイングボーナス扱いです。
尚、戦場の都合上、キャバリアや軍用車両、軍用機の使用は不可能と判定します。
第2章以降の状況は第1章の判定によって前後致します。
プレイング受付期間は下記の予定です。
変更あれば、タグ及びマスターページにてお知らせ致しますので、ご確認下さい。
プレイング受付期間:4月12日(金)8:31分~4月13日(土)14:00頃迄。
――それでは、良き戦いを。
第1章 集団戦
『『幻朧怪狐録』黒天金星の九尾狐』
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POW : 千変万化・天
戦闘力が増加する【様々な武具を装備した『鬼神』の群れ】、飛翔力が増加する【翼を持った『応龍』の群れ 】、驚かせ力が増加する【闇に潜み多様な獣の能力を操る『鵺』の群れ】のいずれかに変身する。
SPD : 千変万化・地
戦場の地形や壁、元から置かれた物品や建造物を利用して戦うと、【分身できる数と、回避率と、技能名「化術」】の威力と攻撃回数が3倍になる。
WIZ : 千変万化・人
【レベル×1体に分身し】【相手を油断させる弱者、相手を威圧する強者】【相手を誘惑する美人のいずれかに変身する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
イラスト:TK
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ウィリアム・バークリー
皇族であり帝都桜學府諜報部の長たる竜胆さんは、犯罪組織から見れば真っ先に排除したい相手でしょうね。
|黯党《あんぐらとう》も必死なようです。故に、ここで刺客を叩き潰せれば、かの組織に大きな打撃を与えられるはず。
Active Ice Wall展開。『スプラッシュ』を片手に竜胆さんの側で氷塊を操作して、こちらに向かう攻撃を「盾受け」します。威力と攻撃の手数を増やしてくるのなら、それに勝るだけの盾を展開すればいい。
竜胆さんはぼくが守り抜きます。皆さんは狐たちの殲滅をお願いします!
護衛に支障が無ければ、氷塊のpriorityを他の方にもお渡ししましょう。
まずは急場をしのぐこと。竜胆さんは必ず守ります。
御園・桜花
そこそこ頓痴気節発揮
「黯党幹部も男装女子だったら…今上帝の暗殺部隊説も本物かもしれません…」
暗殺を防ぐだけでなく色々な思い込みを確かめる為に参加
「貴方達が撤退しなければ竜胆さんも撤退出来ません!其れに貴方達が倒れたら、結局竜胆さんは自分の手足を失ったのと同じになります!貴方達全員が無事に脱出するのが肝要なのです!」
30名近い屋敷の人々の脱出支援
敵と人々の間に割り込み制圧射撃で敵の行動阻害しながらUC「幻朧桜召喚・桜嵐」
敵には視界不良や幸運及び生命力低下を
脱出する人々には幸運上昇と生命力回復与え
敵の攻撃から逃れ易くする
「信じて下さい!竜胆さんは必ず私達でお守りしますから!さあ早く逃げて下さい!」
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
今回の目的は、竜胆さんの安全の確保と、近侍達の脱出路確保及び脱出までの時間を稼ぐ事です。|近接戦闘《CQB》が予測されますので、各自留意して下さい。
竜胆さんの元へ駆けつけ、彼を直接護衛します。
お久しぶりですね、竜胆さん。詳しい話は後程。まずは、目の前の脅威を片付けましょう。
竜胆さんを守りながら、UCで敵を迎撃。護衛が最優先ですので、深追いは避けます。
(G19Cのマガジンを抜いて残弾を確認、再びマガジンを装填し竜胆さんに)…あなたの事です、危険を冒してあえて残るのは、何か理由があるのでないでしょうか。ひょっとして|猟兵《我々》が救援に来るのも、計算していたのでは?
大丸・満月
【SIRD】で参加
言って猟兵としては新米だからな、
旅団の猛者の中で勉強がてら暴れさせてもらうか。
【混合血液】で活性化して動きやすくすると【フック付きロープ】を【ぶん回し】て、化けた群れや狐を相手にしていきつつチームの仲間が倒した分も【生命力吸収】や【捕食】で喰らって【ワイルドイート】発動。
喰えば喰うほど強くなる、そこに自分が倒す倒さないは関係ねぇ
ただ狐は雑食で美味くないんだよなぁ、なら化けてからのが美味いか?
でもチームで来ているからな、
ただ暴れて数減らしだけじゃ無く、敵の流れを見て護衛の脱出のフォローやお偉いさんに向かった敵の引きつけもやってみるか。
悪いな、偉い人の前で血みどろの戦い方でな。
馬県・義透
【SIRD】
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第四『不動なる者』盾&統括役武士
一人称:わし 質実剛健古風
武器:黒曜山(刀)
久々に竜胆殿絡みではあるが…また敵が派手に動きよるの。
わしがやるのは、撤退の時間稼ぎよ。命散らさぬように、とは…四悪霊の誓いに添うでな。
だからこそ、わしなのよ。黒曜山に映る未来を見通せる盾としてな!
見えたものは、常に皆と共有しよう。対策が立てやすくなろうから。
そうして、UCによる切り刻みも行っておく。数も減らさねばならんから、当然のことよな?
防御は四天霊障を広域配備、それによる重力結界を適度に落とす感じでな。
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして行動
…こっちの世界に来るのも久しぶりだな。相変わらず、竜胆も面倒なコトに巻き込まれてやがる。いずれにせよ、俺らがやるコトはいつも通り。敵を完膚なきまでに叩き潰すのみだ。
んじゃ、|狐狩り《フォックス・ハント》と行こうぜ。
近侍達の脱出路の打通と脱出までの時間稼ぎを行う。
UCを使って敵を迎撃すると同時に、派手に弾幕を張って敵の目を引き付け、近侍達から目を逸らせる。
(近侍達に)四の五抜かさず、とっとと逃げな。手前ら上司良いを持ったぜ。助けたいのなら、まず脱出して援軍を呼べ。それこそが、手前らの出来る最善の手段だ。
ったく、この狐共、躾が全然なってねぇな。飼い主もさぞかし、性悪なんだろうよ。
真宮・響
【永遠の絆】で参加
連携・アドリブ可能
究極のテロリストであるならば皇族であり諜報部のトップである竜胆は狙われるだろうねえ。アンタも災難だね。
竜胆、アンタが撤退を命じた配下は夫と義理の末娘がフォローしに行っている。アタシは目の前にいる敵を一掃するよ。
全く、精神攻撃に長けてると。でもどんな強化をしようと家族と馴染みの竜胆のためなら【オーラ防御】【見切り】【残像】【心眼】を持って攻撃を乗り切り、【瞬間思考力】を持って迫ってくる敵を【グラップル】【強打】で蹴り飛ばし、【槍投げ】【串刺し】で片手の槍を投げてブッ刺し、赫灼の闘気でなぎ払う!!
初めて会った分際で竜胆を殺そうとは片腹痛い!竜胆とは長いんだ!!
真宮・奏
【永遠の絆】と参加
連携・アドリブ可能
簡単に言えば黯党は究極のテロリストです。竜胆さんが狙われる可能性は高いと思っていましたが、案の定、ですか。
大丈夫ですよ。今回も貴方を守って見せます。お父さんと星羅もいますしね。
ええ、竜胆さん、貴方を守り抜いて見せます。トリニティエンハンス発動、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【受け流し】【ジャストガード】【鉄壁】【硬化】【衝撃吸収】すべてのスペックを注ぎ込んで【かばう】!!
近づく敵は【怪力】【シールドバッシュ】【衝撃波】で蹴散らします!!
初見の敵に竜胆さんを殺させはしません!!私たちにとって大切な方ですよ!!さあ下がりなさい!!
鳴上・冬季
「九尾の妖狐と言えど、|忘我《オブリビオン》に好き勝手されるのは業腹です」
「皇族狙いですか…ふむ。幻朧帝が大正帝かもしれない噂、黯党が幻朧帝直属の暗殺部隊かもしれない噂。最近はきな臭い噂が多過ぎます。何処まで意図して振り撒いているのやら」
嗤う
「知りたいことを知るためには、未だ未だ貴方に生きていただかないと困ります。微力を尽くさせていただきますとも」
嗤う
「蹂躙せよ、黄巾力士」
普段から連れ歩く2mの黄巾力士1体に150分間の連射命じる
砲頭は徹甲弾
金磚は誘導弾
使用
竜胆をオーラ防御で庇える位置で斉射させる
自分は雷公鞭で雷撃
敵の使用可能物をどんどん破壊
「敵に突入された時点で建替必須でしょう?」
嗤う
神城・瞬
【永遠の絆】で参加
数々の勢力に命を狙われてきた竜胆さん、案の定、黯党に狙われましたか。巻き込まない為に最低限の戦力以外撤退を命じるのは竜胆さんらしいですが、これ以上させません。
ええ、父さんと星羅が来てます。敵の攻撃は初見の相手にその姿されようと今更戸惑うことありません。美人は奏と母さんがいますしね。
【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【武器落とし】【凍結攻撃】をあわせた【結界術】を展開し、【高速詠唱】で朧月夜の狩人を放ち、【限界突破】【全力魔法】で必殺の【電撃】を【範囲攻撃】で放ちます。
もちろん、【残像】【オーラ防御】【心眼】の備えはしておきます。
竜胆さんはここで終わる命ではない!
真宮・律
【永遠の絆】で参加
ああ、家族から竜胆の話は聞いているぞ。皇族で諜報部の長でありながら息抜き、難事件を解決した男。傭兵の俺でもこれほど稀有で優れた長は見当たらない。
だからこそ狙われるんだろうな。だからってそのまま好きな通りにさせる訳ないよな。星羅、行くぞ。手勢を確実に撤退させる。
【陽動】【遊撃】を駆使して敵の攻撃を俺に引きつける。もちろん火雷の意志を発動してな。【残像】【瞬間思考力】【勝負勘】【心眼】を駆使して敵の攻撃を捌き、回避、【斬撃波】【衝撃波】を飛ばし【牽制攻撃】、グレプスキュルを振り回して【切断】。
ほらほら、俺に集中しないと自分がやられるぞ!!・・・星羅は大丈夫だな?
神城・星羅
【永遠の絆】と参加
連携・アドリブ可
家族から竜胆様の話は聞き及んでおりました。もっとも尊いご身分にありながら前線に立ち続ける稀有なお方。初めて接敵する敵に御身を害される訳には参りません。
家族より手勢の誘導を任されました。光栄です。必ず果たして見せます。【高速詠唱】で音律の使いを発動、【邪心耐性】【呪詛耐性】にて敵の精神攻撃、【残像】【幻影使い】にて物理攻撃に耐え抜き。音律の使いに敵の牽制を一任して道を切り開き、誘導するのに専念します。
音律の陰陽師にとって、伝え、導くことはお手のものです。皆様、【式神使い】で呼び出した金鵄、導きの八咫烏、導きの狛犬、護りの狼の誘導にしたがって進んでください!!
文月・統哉
お待たせしたね竜胆さん
俺達が来るのは想定の内、だよね?(笑顔
オーラ防御展開
大鎌を手に竜胆さんを庇い護りつつ
仲間と連携協力して戦う
化け狐の集団とはまた厄介な連中だ
雅人がいないのは敢えてかな
襲撃に備えつつUC使いはいない
『相手を油断させる弱者』だけを周囲に置いて
敵も俺達も誘い出した形だろうか
全く、自らを囮にするのも程々にだよ
でも呼んだからには知ってる事は全部教えてくれるのだよね?
敵は周囲の地形を利用して戦う様子
ならばその地形に罠を仕掛けよう
『レプリカクラフト』で花吹雪を丸ごと複製し
大量の複製花弁を周囲の地形に溶け込ませる
花弁の付いた物品や花弁そのものに敵が触れると
ダメージを負わせる仕掛け罠付きだよ
館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎
竜胆…久しぶりに名を聞いたな
ならば、俺たちが向かうしかあるまい
…信頼を置いている部下と接触できないってことは
部下自体がすぐに駆け付けられない場所にいるってことだろうしな
竜胆の護衛につく猟兵は…数が足りていそうだな
なら俺は、手数を増やして九尾狐の数を減らそう
単純に数を減らすだけでも、避難の時間稼ぎになるはずだ
指定UC発動し、分身を10体生成
うち2体には安全な避難経路の確保のために動いてもらう
「地形の利用、視界、世界知識」で比較的敵の数が少ないルートを探してもらう
発見したら竜胆の周囲の人々を誘導し、戦場外に逃がしてもらおう
残りの分身は俺と一緒に、囮も兼ねて真っ向から九尾狐に斬りかかる
其々の黒剣に「武器に魔法を纏う」で桜色の聖属性のオーラを纏わせ
片っ端から九尾狐に斬りつけよう
この環境だと黒鎧は目立つから、隠れるのは難しいが
むしろ目立つからいい囮になるだろ?
ついでに「範囲攻撃、衝撃波」で幻朧桜の花弁を吹き飛ばし、千変万化・地の威力の増加も防いでやるか
森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
光学迷彩纏ったガヴェインで超上空を飛翔しつつ、一緒にこの世界を見て回っていたんだが
どーにも帝都の一角が騒がしいと思ったら…竜胆が襲撃されてるじゃねぇか
こりゃ…状況は待ったなしだな
ガヴェイン、ちぃと行って来るわ
そのまま光学迷彩を維持しつつ、超上空から竜胆の館の周囲を光学、及び熱源で探査し続けて
増援や新手が来そうなら俺に知らせろ
…これ以上は何もねぇと思うが、念のためだ
状況的に乱戦、ないしは分断は必至か
こりゃ、敵味方識別しねぇ悪魔召喚は使いづれぇな
「地形の利用」で吹き荒れる幻朧桜の吹雪に紛れて九尾狐の集団に突撃しつつ
二槍伸長「ランスチャージ、串刺し」で撹乱しながら
指定UC発動し手近な九尾狐を漆黒の雷で撃ち抜いてやらぁ
サイキックエナジーを獲得したら
「闇に紛れる」で気配を断ちつつ片っ端から九尾狐に触れてサイキックエナジーを流し込み洗脳
上手く洗脳出来たら同士討ちを命じ、状況をさらに撹乱してやろう
分身して数が増えようが、変身してこちらを撹乱してこようが、まとめて倒すだけさ
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
あー…
久々に竜胆さんの名を聞いたと思ったら、いきなり状況がクライマックスじゃないですか
…それだけ黯党が追い詰められているって事か?
思うにこれ…諜報部に一報入れる方が良くないか?
既に周辺は大騒ぎになっているだろうから、誰かが事の次第を説明したほうがいいだろ
といっても下手に増援を派遣されると犠牲者が増えるだけだから
黯党の事は伏せた上で我々で事を収めると一言添え、連絡するだけに留めよう
連絡相手は信頼を置いている部下さんならベストだが、無理なら連絡を取れる相手なら誰でもおっけー
私は竜胆さんの護衛につきつつ、近侍さんたちを逃がすための時間稼ぎをするか
指定UC発動し、限度いっぱいまでムササビ属性を付与した空飛ぶもふもふさんを九尾狐に殺到させようか
…自分で言って何だが、ムササビ属性って何やねん
とにかく、取り付いたら捕縛属性発動し、九尾狐の行動を少しでも制約
その間に竜胆さん周辺の人々を逃がそう
もふもふさんなら弱者、強者、美人のいずれに変身されても動じることはない…と思いたい
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で密に連携
事前行動:グリモア猟兵・現地行政の登記情報を通して、
屋敷見取り図を情報収集し、氏の位置、敵の予想経路、近侍さん方の脱出経路を局員や仲間と相談共有
近侍保護は仲間に任せ、自身は竜胆氏保護のため急ぎ部屋へ向かいつつ、近侍保護班と連絡とり合い、UCで黒霧と狼達を要所要所で召喚展開し伏兵として配置。竜胆氏の部屋への侵攻を遅延させると共に、群狼を囮に、近侍脱出経路から敵を引き離して保護班を支援する。
氏と合流したら「お久しぶりです…相変わらずの人気のご様子ですね。全くもって嬉しくないでしょうが」などと微苦笑しつつ、防護態勢へ。
敵の侵入経路を絞れるよう、氏を防護しつつ壁が厚く、入口が少ない部屋へ移動。もしくは近侍保護班と合流し、仲間と自身の防御陣形を固めます。
防御戦闘は群狼達を随時召喚し敵群へ突入させて牽制し、部屋へ繋がる通路上に敵部隊をなるべく押し止める様にして動きの制限を狙い。各個体の脚部を先ず狙撃し動きを奪い、その後頭を撃ち抜いて確実に数を減らすよう戦います。
アドリブ歓迎
●
――その帝都桜學府高級士官用住宅街の片隅を。
光学迷彩を纏った1機のキャバリアが何の気も無い様子で旋回している。
その眼下で嵐の様に吹き荒れる、幻朧桜の様子をコクピット内で見て。
「……ったく、折角のオフだから、のんびり里帰りの後に空中散歩を楽しもうとしていた矢先だってのになぁ……」
それはそのキャバリア……否、巨神『ガヴェイン』に搭乗していた森宮・陽太のぼやく様な呟き。
その、陽太の呟きを丁重に無視する様な形で。
「……熱反応……いや、これは骸の海反応とでも言うべきかを確認。まるで、奴等を相手取った時の様な……」
そうガヴェインから続けられた言葉に、だな、と軽く溜息を漏らす陽太。
(「……この辺りは確か帝都桜學府所属の高級士官達の住宅街だよな? こんなところでこの騒ぎ……まあ、どう考えてもテロルだよな、こりゃ」)
――であれば、鎮圧しない理由も無い。
そうあっさりと結論づけ。
「つう訳で、ガヴェイン、俺ちぃと下に行ってくるから、お前は超上空から熱源探知頼むわ。何かあったら、念話で連絡してくれ」
その陽太の言の葉に。
「良かろう。……気を付けろ、陽太」
そうガヴェインに見送られるのに頷いて。
コクピットのハッチを開き、強風に煽られる様に、陽太が己が巨神『ガヴェイン』から飛び降りる。
――その眼下の戦場では……。
●
「逃げなさい! 彼女達の狙いは私です。私を見捨てさえすれば、貴方方は助かるのですから!」
周囲から火の手が上がりつつある屋敷を取り囲む様にした狐達の姿を見て、鋭く黒いスーツに身を包んだ男が叫んでいた。
彼の周囲には数人の近侍の者達がいる。
そして、屋敷の中にも数十名程の隠密や戦闘に長けた者達を配置はしておいたが……。
「……それを簡単に凌駕できるだけの戦力を彼等……|黯《 あんぐら 》党が用意して大挙してくるとは、余程追い込まれてきている様ですね」
そう誰に共無く呟き、周囲の近侍達が竜胆が動かずその場で紅茶を嗜むその姿に、やはり彼を護ろうと動こうとする。
――その先にあるであろう未来が、『死』という名の全滅であろう事は、過去の経験から見ても明白。
なれば、とせめて彼等が生き残る可能性を上げるため、自分が囮になることも含めて逃げて貰うのが重畳だが……。
「……理性と感情を簡単に割り切ることは出来ませんか」
そう微かに困った様に竜胆が嘆息するや否や。
――パリーン!
と硝子窓の割れる音と共に、嵐の様に桜吹雪が入り込み。
その桜吹雪に紛れる様に無数の巨大な分身を生み出した九尾の狐が、竜胆を引き裂かんとその手の爪を突き出した、その時。
「お待たせしたね、竜胆さん」
その竜胆の座る椅子の後ろの壁が突然隠し扉の如く開放されると同時に。
黒ネコ刺繍入り深紅の風が、宵闇を斬り裂く星彩の輝きの一閃と共に竜胆の命を奪わんことを欲した九尾の狐へと迫る。
迫り来る一閃に気が付いた九尾の狐が咄嗟に後方に跳躍し、後退したその瞬間を見て。
「成程、既に戦いは始まっている様ですね。グイベル01より、総員へ。竜胆さんの安全の確保とト、近侍達の脱出路の確保及び脱出までの時間を速やかに稼いで下さい。尚、今回の戦いは|近接戦闘《 CQB 》が予測されます。各自留意の程を」
そう冷静に竜胆の聞き慣れた声と同時に。
深紅の風……文月・統哉の後方から、数発の弾丸が九尾の狐に向かって発射される。
それは、ネリッサ・ハーディが愛銃『G19C Gen.5』が撃ち出した弾丸。
不意を打って近侍達と竜胆を護る様に放たれた弾丸に近侍達が驚愕に体を硬直させ、九尾の狐達を一瞬怯ませたのを見逃さず。
「今です、満月さん」
そうネリッサが素早く指示を出した、その刹那。
「まあ、俺は猟兵としては新米だ。局長達猛者の中で、勉強がてら暴れさせて貰うぜ」
その体内に刻印を刻み込まれた、丸みを帯びた男がネリッサの脇を駆け抜ける様に飛び出し。
その舌に残ったUDCの血の残滓が体内の刻印を活性化させていくのを感じながらフック付きワイヤーを放った。
放たれたフック付きワイヤーがネリッサ達の奇襲に思わず蹈鞴を踏んだ九尾の狐を縛り上げるのを確認し、その男はそれを振り回し。
明後日の方向へ投げ放つと同時に肉薄、九尾の狐に食らいついたところで。
「……満月さん、あまり無理はしないで下さいね。しかし、よくもまあ、これだけ正確な見取り図を彼も用意してくれたものです。それがグリモア猟兵の仕事と言えばそれまでかも知れませんが……」
その九尾の狐の1匹を食らう、大丸・満月を見て、ネリッサの後に続いて素早く姿を現した灯璃・ファルシュピーゲルが思わずぼやいていた。
(「とは言え、此処にいる近侍の皆さんにも早いところ避難をして頂かないと、却って私達の足を引っ張る可能性もありますね」)
ざっと見て、竜胆の傍で尚も逃げるのを渋りつつ、その凄惨な戦闘の様子に動けなくなっている近侍は2~3名。
後の2~3名は……竜胆の命を受けてこの九尾の狐達に襲われるより前に部屋を出て、屋敷から逃げている筈だが……。
「とは言え、其方の人々の保護は馬県さんや……」
「アタシの旦那の律や、義理の末娘の星羅、それから戦力的に不安が残る可能性があるから、息子の瞬もフォローに向かわせている。だから、そっちは心配しなくても大丈夫だ。……竜胆、勿論アンタもね」
その灯璃の言の葉に被せる様に。
全身から闘気を赫灼の如く立ち上らせて割れた窓の方から飛び込みつつ、業炎の熱波を解き放った真宮・響がそう告げる。
告げられた響のそれに、静かに竜胆が首肯で返すのを認めながら。
「初見の敵に、竜胆さんも、他の皆さんも……誰一人やらせはしません!」
そう高らかに叫ぶと共に。
蒼天のサーコートを颯爽と翻し、その手に赤熱した自らの『守る』という意志の現れを体現した炎剣と精霊の盾を構えた真宮・奏が姿を現した。
「端的に言って、究極のテロリストでも言うべき、|黯《 あんぐら 》党にあなたが狙われる可能性は高いと思っていましたが……案の定、でしたね」
そう告げて、竜胆を守る様に九尾の狐達の前に立ちはだかる奏。
その奏に向かって。
巨大化した九尾の狐達の何匹かが斧や長剣を装備した『鬼神』の群れと化し、奏を断ち切らんと迫った時。
「まあ、皇族であり、帝都桜學府諜報部の長……幹部でもある竜胆さんは犯罪組織から見たら真っ先に排除したい相手でしょうね。寧ろ、これだけの戦力を整えて狙わない理由も無いでしょう」
その言の葉と、共に。
奏と竜胆を護る様に無数の氷塊がネリッサ達の現れた後ろの壁から飛来して氷塊の盾となって『鬼神』達の攻撃を受け止める。
その氷塊の主……ウィリアム・バークリーが突き出した右手の前方には、桜と青と白色が綯い交ぜになった魔法陣が描き出されていた。
「つまり、それだけ|黯《 あんぐら 》党も必死と言う訳です。故に、此処で刺客を叩き潰せれば、かの組織に大きな打撃を与えられる可能性が高いとも言えますね」
そう全員に聞かせる様に呟くウィリアムが作り出した氷塊の影からぷかり、と煙草の煙が浮かび上がり。
同時にその煙草の煙の主の『UKM-2000P』から無数の弾丸が薬莢音と共に放たれ、満月に反撃しようとしていた九尾の狐に風穴を開けた。
「……こっちの世界に来るのも久しぶりだが。相変わらず、面倒なことに巻き込まれてやがるな、竜胆?」
口の端で煙草を噛み砕く様にして、地面に灰を落としながら。
鮫の様な笑みを浮かべてサングラスの内側の茶色の瞳越しに近侍達を見つめてそう問いかけたのは、ミハイル・グレヴィッチ。
ミハイルの率直なそれに、同感です、と言う様に苦笑を漏らした灯璃が。
「……相変わらずの人気のご様子ですね。全く以て嬉しくないでしょうが」
そう奏達の後ろで肩を竦めてみせると、竜胆も又、思わず苦笑を零す。
――と、此処で。
「り、竜胆様、この者達は……」
漸く、と言った様子で恐る恐る近侍の内の1人がそう、竜胆に尋ねているのに。
「ご覧の通り。竜胆を守る為にやってきた超弩級戦力ってところだ」
そう鮫の様に笑って告げるミハイルが告げると。
「あ、貴方様達が……!?」
既に自分達の活躍は聞き及んでいるのであろう。
流石に驚いた様に目を丸くさせている近侍に鮫の笑みを浮かべてミハイルが続ける。
「まっ……そんな訳だからよ。手前らは四の五の言わずに、とっとと此処から撤退しろ。これは俺達の|ビジネス《 ・・・・ 》だからな」
そう不敵に告げるミハイルの言葉を受けても尚。
「で、ですが、貴方方だけに竜胆様を任せるわけには……」
自らの主を置いて此処から逃げる事を躊躇う様に逡巡する近侍のそう言葉を口に乗せた、その刹那。
「あなた達が撤退しなければ、竜胆さんも撤退できません! それに、あなた達が倒れたら結局竜胆さんは自分の手足を失ったのと同じになります! あなた達全員が無事に脱出するのが今は肝要なのです!」
響達が飛び込んできた窓の向こうに不意に現れた幻影の幻朧桜が、バサリ、と桜吹雪を巻き起こしている。
それと同時に高らかな鋭い声を上げたのは、右手に軽機関銃を、左手に桜鋼扇を構えた御園・桜花。
桜鋼扇を優雅に翻して幻朧桜の幻影を召喚したその桜花の背後にもまた、既に九尾の狐が迫っていたが。
「やれやれ、如何に九尾の狐と言えど、|忘我《 オブリビオン 》に好き勝手されるのは業腹ですね」
そんな嗤いと共に。
桜花の背後に現れた鳴上・冬季がその手の雷光鞭を一閃。
解き放たれた雷光の一撃がその九尾の狐が一時的に感電し、全身を雷で痺れさせ。
次の瞬間、感電した九尾の狐は胴と下半身を泣き別れにされていた。
冬季と共にいた、赤黒く光輝く刀身持つ黒剣を一閃させた赤と青のヘテロクロミアのその青年……館野・敬輔が黒剣が浴びた血糊を振るって落とし溜息を漏らす。
「……久しぶりに竜胆さんの名を聞いたかと思えば……いきなり、これか」
その敬輔の嘆息の交じったぼやきを聞いて。
「皇族である竜胆氏が狙われる……ふむ。幻朧帝が大正帝かも知れない噂、|黯《 あんぐら 》党が幻朧帝直属の暗殺部隊かも知れない噂と、本当にきな臭い噂が多過ぎますね。何処まで意図して振り撒かれているのやら、興味は尽きませんね。であればこそ、未だ未だ竜胆氏には生き残って頂かないと困ります」
そう冬季が笑いながら告げるのに、敬輔が軽く頭を振るうのに。
「取り敢えず、ぐだぐだ言うのは後回しだ! おい、この場にいる近侍共、此処は俺達が引きつけるからとっとと、此処から逃げやがれ! それが手前らと、竜胆の安全が保証される最善なんだぜ?」
そんな敬輔や冬季達の登場を確認しながら、続けてそう説得を行うミハイル。
それでも尚、微かに不安げに竜胆を見る近侍達に、竜胆は優しく微笑んだ。
「ミハイルさん達の言うとおりです。貴方達は此処からお逃げなさい。私のことは、超弩級戦力の皆様がおりますので、大丈夫ですから」
その竜胆の囁きに背を押されて。
近侍達が済まなそうに、この場から逃げ出すその背を見て、ミハイルが薄らと笑った。
「……手前らは良い上司を持ったな。脱出して援軍を呼ぶなり、なんなり、出来ることがあるんだからな」
そのミハイルの言の葉に静かにネリッサが首肯しつつ、では、とミハイルへと流し目を向ける。
「ミハイルさん。彼女達の撤退の援護をお願いします。後ろから何らかの形で狙われる可能性も0ではない以上、後顧の憂いを断つ為の戦力は必要ですので」
そう事務的な口調で告げるネリッサの言葉を聞いて。
「イェス、マム。……まあ、その分報酬は弾んでくれよ?」
そう鮫の様に笑ってミハイルが首肯し、今、正しくこの場から逃げ出した近侍達の背を守る様に、UKM-2000Pを構えてその背を追う。
そうして銃撃の乱射の轟音で、九尾の狐達の鼓膜を叩き、近侍達から意識を逸らさせるのに首肯しながら、ネリッサが続けて通信機越しに呼びかける。
「……グイベル01より各員へ。引き続き竜胆氏及び、近侍達、そして未だ常駐している可能性のある20名程の護衛達の避難を急いで下さい。……竜胆さんの護衛は私達が引き受けます」
そうネリッサから下された命令を受諾して。
「ああ、其方は任せたぞ、ハーディ殿」
そうネリッサの小型情報端末MPDA・MkⅢ越しに、連絡を取ってきたのは……。
●
(「久々に竜胆殿絡みではあるが……」)
未来を視る事が出来る己が愛刀『黒曜山』で、此方に向かって逃げ出してくるであろう最初に逃げた近侍達の姿を映し出した馬県・義透――否。
その義透と言う術式を構成する四悪霊が1人、『不動なる者』、内県・賢好であった。
「……また敵が派手に動きよるの」
一度ネリッサとの通信を切り、誰に共無くそう呟いた義透が次に認めたのは、左肩から首の付け根に掛けてが白化した敬輔の分身達。
その分身達の敬輔の数名が、義透の周囲にいる九尾の狐達を、桜色の光を纏った黒剣で薙ぎ払っている。
その義透の『黒曜山』不可視の未来を視る事の出来る未来視の支援を受けながら。
その近くでは。
「あー……」
既に始まっているドンパチ騒ぎを確認した藤崎・美雪が何処か遠い目になって桜吹雪吹き荒れる戦場を見つめていた。
「久々に竜胆さんの名を聞いたと思ったら、いきなり状況がクライマックスジャナイデスカ」
何となく片言になってしまうのは、既に自分の周囲にもじりじりと滲み寄る様に九尾の狐達が迫っているからでもあるし。
目前に迫る九尾の狐が無数に分身している姿を目撃しているので、何となくちょっと現実逃避をしたくなったからかも知れなかった。
……何故ならば。
「私は、戦闘能力皆無なんだがなぁ……。と言うか此、流石に事の次第を一応報告しておかないとまずいだろうな……」
そもそも考えなければならないことが多過ぎるのだ。
仮に帝都桜學府諜報部に連絡を取ったとしても、下手な増援を派遣されると犠牲者も増える一方だし。
かと言って、伝えねば伝えないで情報の錯綜と混乱が起き、二次災害になり得る可能性が非常に高い。
では、どう帝都桜學府諜報部に繋ぎを取ろうかと美雪が思考を続ける瞬間を狙って。
――100数匹に分裂した九尾の狐が一斉に美雪を斬り裂かんとした……その時。
「……数々の勢力に命を狙われてきた竜胆さんや、その竜胆さんの周りの方々の命を救わないという選択肢はないでしょう、美雪さん」
その、言の葉と共に。
鋼鉄の羽根を生やした149匹の狩猟鷹が美雪の周りに迫る分身した相手を威圧する強者の姿へと変身した九尾の狐達を啄み。
「美雪、無事だな!?」
更に全身に雷炎のオーラを纏って、雷光と化した男が、赤銅色の剣閃を解き放つ。
解き放たれた斬撃に細切れにされた狐達の姿を見て、美雪は、自らの窮地を救ってくれた2人の方をチラリと振り向いた。
「瞬さんと、それから瞬さんのお父上だったか、あなたは?」
その美雪の問いかけに。
「本当であれば今すぐにでも竜胆さんの下へと駆けつけたいのは山々ですが……今は、其方には母さんと奏に行って貰っています。人々の避難の手が足りない可能性もありましたので」
そう狩猟鷹を解き放ちながらの神城・瞬の言葉を引き取る様に。
「竜胆の話は俺も聞いているんだ。皇族で諜報部の長で在りながら生き抜き、難事件を解決した男だと。傭兵の俺でも、これほど希有で優れた長は聞いたことが無い程だ」
そう言の葉を続けたのは、真宮・律。
「この世界では最も尊いご身分にありながら前線に立ち続けると言う希有な方を此処で失わせるわけには参りません。だからこそ、私も協力に参りました。……母さん達からも人々の避難を言付けられています」
更に律の後ろに控え目な表情で佇んでいた幼子……神城・星羅がそう続けるのを聞き、美雪がそうか、と小さく頷くと。
「さて……わしの予想通り、此方に向かって先に竜胆殿の後を辞していた近侍達が此方に向かってきている様だな」
不意に。
そう義透が自己紹介をし合う星羅達の方を振り向き、声を掛けてきていた。
「義透さんの未来視か。であれば、避難民達を支えるのは、私達の役割だろう」
そう美雪が告げるのに、それならば、と律が美雪の言葉を引き取り首肯する。
「俺達が彼等の退路の確保の為の責任を取ろう。勿論、恐らくもう脱出しているかも知れないが……竜胆が駐屯させていたと言う20名程の護衛も含めてな。星羅、瞬、付いてこれるな?」
その律の問いかけに。
「はい、勿論です、父さん」
そう気を引き締め直した表情で星羅が首肯した、その直後。
『コォォォォォォォォーンッ!!!!』
けたたましい鳴き声と共に、巨大化した九尾の狐達の群れがこの屋敷から誰一人逃がすまいと言わんばかりに翼の生えた『応龍』の姿に変化する。
「……空からの脱出を不可能にしますか。……このままでは、近侍達以外に護衛として駐屯していた方々も逃げられなくなりそうですね」
そう冷静に状況を見定めて呟くと同時に、空中を覆い尽くす『応龍』へと変化した九尾の狐達に向けて、狩猟鷹を解き放つ瞬。
右手に持つ月虹の杖の杖先で描き出された、自らの一族にのみ伝わる月読みの紋章の刻まれた魔法陣から出現した狩猟鷹達が狐達を啄むその間に。
「藤崎殿。帝都桜學府諜報部への連絡は任せたぞ」
義透がそう冷静に指示を出しながら、己が愛刀『黒曜山』を上空に向けて一閃。
放たれた未来への不可視の斬撃が瞬の狩猟鷹に啄まれ、動きを止めていた九尾の狐の一匹を問答無用で斬り落とす。
落とされた九尾の狐……否、『応龍』がドスン、と地面に叩き付けられる音を背にしながら、律が屋敷に向かって飛翔して。
「俺達の事を放っておいて良いのか?! 無視すればお前達が死ぬだけだぞ!」
そう大声で高らかに挑発すると同時に燃え上がる雷炎のオーラ纏った赤銅色の両手剣を横薙ぎに一閃。
放たれた赤銅色の雷炎の斬撃の波が、此方に向かって逃げてきている竜胆の近侍達を追おうとしていた九尾の狐を叩き斬った。
「あ、アンタ達は……?!」
竜胆の指示で逃げてきたのであろう男が律の後ろから彼を保護する様に飛び出してきた星羅へと問いかけると。
「僕達は、竜胆さんをお助けするために此方に遣わされた超弩級戦力です」
星羅の代わりに瞬が短く自分達の身分を証明する様にそう言の葉を紡ぐと同時に、サァビスチケットを見せ。
「私は直接お会いしたことはありませんが、竜胆様をお助けするために、私の家族……母と義姉が既に竜胆様のいる戦場に向かっております。ですので、皆様はこの子の指示に従って安全に此処から脱出をして下さい」
そう星羅が早口で説明して音律の指揮棒を振るい、左手の式神の刻まれた札を翳すと。
星羅の目の前に導きの八咫烏が姿を現し、キィィィィと、安心させる様に彼等に向かって一鳴きする。
『竜胆様を、助けに……? 貴方達超弩級戦力が……』
瞬と星羅の説明を聞いて、微かに驚いた様に息を飲むその近侍の男に向けて。
「皆様の知る竜胆さんは、そう言う方だと言うことは、何よりも貴方達の方がよく知っているでしょう?」
そう、狩猟鷹達に九尾の狐達を牽制させていた瞬が畳みかけると。
「竜胆様……! それ程の覚悟を……」
そう何処か感極まった様に呟き微かに瞳を潤ませた近侍達が首肯した。
「さあ、お急ぎ下さい。大丈夫、この子がきちんとあなた達が逃げる方角を指し示してくれますから」
そう星羅が未だ齢8歳とは思いにくい柔和な微笑みを浮かべると同時に、召喚した導きの八咫烏を指揮棒で指し示すと。
その導きの八咫烏は主の意図を理解して、この近侍達が安全に逃げられる方角に向けて嘶きと共に飛びたって。
その後ろを近侍達が追い、無事に避難していく姿を義透……『不動なる者』が見つめて力強く頷き掛けた時。
『黒曜山』に映し出された、大量の九尾の狐達の姿を見て、厳粛な顔つきに変わった。
「此処も危険だ。直ぐに他の者達の避難を。神城殿、頼めるか?」
その義透の問いかけに、はい、と決意の表情を浮かべて首肯する星羅。
その間に美雪は、懐から取り出した虹色のミラーコンパクトを使って連絡を取っていた。
「この世界でインターネットはそれ程普及していない筈だが、連絡位は取れる筈……」
そう美雪が呟き、どうにかこうにか帝都桜學府諜報部直通の筈の、電話交換手へと連絡を取ろうとした、その時。
『コォォォォォォォォーンッ!!!!』
咆哮と共に、アサルトライフルとマシンガンを装備した『鬼神』と思しき九尾の狐がその手の銃の引金を引いた。
――ドルルルルルル! ドルルルルルル!
上空から吐き出された無数の銃弾が、美雪達を撃ち抜こうとするのに。
「やらせはせぬぞ」
迫り来る死の恐怖にその表情を強ばらせた導きの八咫烏に案内されていた近侍を守る様に義透が立ちはだかり、四天霊障を震動させる。
それは、『義透』と言う術式を構成した、賢好達悪霊の無念が集まった概念結界。
その少々おどろおどろしい漆黒の塊の様な結界が近侍達を守りぬいた、その時。
「……ちっ、やっぱり乱戦な上に、分断されている状況かよ。ならば……やってやる!」
その叫びと、共に。
上空から摩擦熱で燃え尽きてしまうんじゃ無いかと思える程の速さで二槍を翼の様に広げた陽太が、漆黒の雷を解き放ち。
美雪を狙った銃弾の嵐と、九尾の狐の1体を撃ち抜いた。
その陽太の周りには彼を護る様に張り巡らされた結界と、何時の間にか戦場全体を押し包む様に張り巡らされた氷塊の盾。
「……難儀な状況だな、美雪。未だ戦いは始まったばかりだろ?」
ウィリアムが戦場全体に張り巡らした氷塊の一部を足場代わりに利用して大地に立った陽太のその言葉に。
「ああ……その通りだよ、陽太さん」
微かに渋面を浮かべながら、美雪がそう思わず愚痴る様に言葉を漏らす。
――戦いは、未だ始まったばかりだ。
●
――轟。
幻朧桜の花弁が嵐の様に戦場を舞う。
その戦場を舞う無数の花弁達を自らの巨大な体の隠れ蓑にして、無数の分身を生み出す九尾の狐。
その、無数の花弁を撃ち抜く様に。
「あなた達の相手は私達が致しますよ!」
そう叫んだ桜花が、軽機関銃の引金を引きながら、周囲に咲き乱れている幻朧桜とは別の幻影の幻朧桜を自らの周囲に展開。
その召喚された無数の幻朧桜を吹き散らす桜吹雪を以て、桜吹雪を隠れ蓑として襲いかかろうとしてきていた無数の分身を撃ち抜くと。
――ぶわっ!
と凄まじい勢いでそれらの桜吹雪と同化して『闇』と化していた鵺の群れが、一斉に桜花を食いちぎらんと襲いかかってきた。
――と、その瞬間を確認して。
「やらせませんよ」
そう冷静に告げた灯璃が自分の頭の中に叩き込んだこの屋敷の見取り図を思い出しながら、ばっ、と反射的に左手を挙げる。
その灯璃の不意の仕草に興味を持ったか、竜胆を狙っていた九尾の狐の一匹が灯璃へと意識を向けた、刹那。
――全ての光を飲む漆黒の森の様な霧が戦場を押し包み込み。
同時にその霧の中に潜んでいたのであろう、光すらも喰らい尽くす狼の様な影の群れが九尾の狐に食らい付き、骨も残さずその存在を喰らった。
それに全く怯んだ様子を見せずに、追撃を仕掛けてくる九尾の狐達を見ながら、灯璃が素早く竜胆に提案を持ちかけた。
「此処にいつまでいても埒があきません。此処から西側にある個室へと移動した方が良さそうです」
その灯璃の提案に、一理ありますね、と小さく竜胆が首肯するが、その表情は険しく。
程なくして、竜胆は否定する様に頭を軽く横に振った。
「ですが其方は敵の手も少ない以上、この屋敷に配置していた私の部下達が先ず最初に目指す目的地にする可能性が高い。もしそこに私達が行けば、逃げられた彼等を巻き添えにしてしまうでしょう」
――故に。
「灯璃さんの仰る手を打つためには、先ず、私が皆様と共にこの場にこの狐達を引きつけ、彼等の避難が完了したと言う報告を受けてからの方が最善でしょう」
そう冷静に告げる竜胆のそれに。
「では、もう暫くは此処に踏みとどまる必要がありそうですね」
そうネリッサが同意して、ウィリアムの呼び出した氷塊の影からG19C Gen.5の引金を引き。
撃ち出した銃弾をウィリアムの氷塊に跳弾させて威力を高め、九尾の狐の内の一匹の米神を撃ち抜いたところで。
「行くよ!」
すかさずウィリアムの氷塊を蹴って加速した響が両手遣いに構えた『ブレイズブルー』……青白く燃える炎槍を旋回させた。
自らの頭上でプロペラの如く回転させた『ブレイズブルー』から、赫灼たる青き光が解き放たれ、九尾の狐達を焼くが。
それによって同胞達が傷つき焼き尽くされる姿を見ても全く怯むことなく。
数多の巨大な狐達が姿を変化させ、時に無数の分身を生み出して肉薄し、最前線に出ている響や統哉、満月を狙ってくる。
「……面倒だな」
まるで数が減った様に思えない、九尾の狐達の群れにやれやれと肩を竦めながら。
満月がネリッサが米神を撃ち抜いた『鵺』の姿をした九尾の狐に食らいつき、その肉を貪ると。
その丸みを帯びた体が、見る見る内に更に筋肉で引き締まっていく。
それは、自らの体内の刻印が、満月の細胞の活性化を促している証。
「まあ、狐は雑食だからか美味くないんだよなぁ……。まあ、今は質より量か」
そう、誰に共無く呟きながら。
桜吹雪の影に隠れた『応龍』に向かって、ダン、と大地を蹴って肉薄しながら……。
「いただくぜ」
叫びと共に、その引き締まった拳にバグナウの様に巻き付けたフック付きワイヤーを大薙ぎに振るって『応龍』を引き裂いたところで。
「そこに潜んで竜胆さんを守ろうとしている方もお逃げください!」
桜花がそう叱咤をかけると、其方にあった気配が遠のく気配が感じられた。
隠密に長けた竜胆の配下が此処から脱出していく気配を統哉もまた、察して。
「ニャハハッ。やっぱり竜胆さんは慕われているね。自分が囮になるから逃げろと言われても、逃げない部下がそれなりにいるんだから」
思わず笑声を上げながら、己が大鎌『宵』を一閃。
漆黒の刃から一条の闇を切り裂く星彩の如き輝きを伴った光刃が解き放たれ、九尾の狐達の分身を叩き斬る。
――と、そこで。
「蹂躙しろ、黄巾力士」
のたうつ仲間達の数多の屍を越えて、竜胆達に肉薄しようとする九尾の狐の命を断ち切る様な、嗤いと声が響き渡る。
その冬季の命に応じる様に竜胆を守る奏の前に現れたのは、2m程の黄巾力士。
それは、冬季がいつも自らの傍に仕えさせている宝貝・黄巾力士だ。
「……ああ、成程。外で戦っていた様でしたので、確証は持てませんでしたが……やはり、彼も来ていたのですね」
嘗て自らに陳情書を提出してきたその人物の事を改めて思い起こし、そう思わず微苦笑を零す竜胆。
そんな竜胆の微苦笑は脇に置いて。
黄巾力士が其の肩の砲塔から徹甲弾を発射。
発射された其れが桜吹雪の中に隠れ、暗殺の隙を窺っていた九尾の狐たちを炙り出し、次々に爆発霧散させていく。
「……問答無用とはこのことだよな」
その様子を見て、分身の内の2体を割いて、天井等に隠密していた竜胆配下の人間達の避難誘導をさせていた敬輔が思わず嘆息。
嘆息しながらの敬輔の赤黒く光り輝く刀身持つ黒剣による一閃は、自分達に向けて桜吹雪の間隙を拭って銃撃の嵐を続けていた『鬼神』化した狐を斬り捨てていた。
そんな敬輔の嘆息に、おや、と冬季が意外そうに笑う。
「敵に使用されるであろう物を徹底的に破壊しておくのは、今回の作戦においては極めて重要でしょう。そうでなければ、足元を掬われるのは私達の方ですよ、館野さん」
「……いや、まあ、其れは間違っていない。間違っていないんだが……」
――誰かが此処で起きているで事について一報してくれている事を祈ろう。
そう敬輔は信じ、それ以上の事は敢えて突き詰めて考えない様にする。
――いずれにせよ。
「中に突入してきた奴等だけじゃない。元凶は分からないが、未だ未だこの戦場を覆い尽くす九尾狐達の気配は消えそうにないからな……」
しかし……と、敬輔は誰に共なく話し続ける。
「竜胆さんが皇族で、帝都桜學府諜報部のお偉いさんである以上、此れだけの戦力を投入するのは敵にとっては必然かもしれないが……それにしたって、数が多過ぎる」
そんな独り言の様な敬輔の其れ。
しかも竜胆が信頼を置いている部下……恐らく雅人達の事であろうが……彼等と竜胆は連絡を取ることが出来ない。
まるで……。
「こういう機会を、テロルである|黯《 あんぐら 》党が狙っていたとしか思えない動きだよな、これ……」
「そうですね。普通に考えれば内通者がいるのでしょうが。果たしてその内通者は、|誰《 ・ 》なのでしょうね?」
あの噂の真偽は確定されていない。
そもそも、あの情報自体、故意に流されたものである可能性も否定できないのだ。
(「まあ、竜胆さんの事です。恐らくそれを承知の上で動いているのでしょうがね」)
そう内心で結論付けた冬季の口の端には、何時の間にか嗤いが浮かび上がっていた。
●
「……と言う訳だ」
その一方で。
陽太や義透に半ば守られる様な形で、漸く連絡の繋がった帝都桜學府諜報部の人間に連絡を伝えるのは美雪。
其の美雪の連絡から、電話越しにいるであろう帝都桜學府諜報部の諜報員達も色々と察したらしい。
直ぐに外の人々の避難、竜胆の屋敷から避難してくる人々の保護、そして、その周辺の封鎖を確約してくれた。
一先ず、此れでこれ以上被害が不用意に広がる恐れはなくなった、と見て良いだろう。
(「しかし……竜胆さんの信頼している者達とは連絡が取れないままか」)
これも……。
「……偶然か、それとも必然なのか……?」
と、美雪が誰に共なく呟いた、その直後。
律に斬り倒され、或いは瞬の召喚した狩猟鷹に啄まれている仲間達の姿を確認した九尾の狐の何匹かが姿を変えた。
――その姿は。
「……凄まじい美人だな。多分、場所によっては花魁と呼ばれる程なのではないか?」
と思わず同じ女性である美雪ですら、ぽつりと呟いてしまう程に……目の覚める美人の姿へと変身した九尾の狐。
その狐が、媚びる様な、甘える様なそんな視線を陽太に律、瞬や義透……避難経路の確保に重点を置いていた猟兵達に向けている。
「おお……こ、これは……」
それが罠だと分かっていても。
それでもどうしようもない魅力にあふれた視線に陽太が一瞬攻撃の手を怯ませるが。
「キュキュキュキュキュッ! キュキュッ!」
その鳴き声と共に。
全部で145匹のムササビ属性を付与した空飛ぶムササビを嗾け、陽太を誘惑する美人に美雪が殺到させた。
(「……いや、自分で設定しておいてなんだが、ムササビ属性って何やろうな……」)
等と脳内関西突込みを発生させながら、ではあったが。
「ぶっ、ぶはっ、危なかった……! 助かったぜ、美雪!」
そう我に返った陽太が告げると同時に、濃紺のアリスランスを伸長させ、自らを誘惑してきた九尾の狐を串刺しにする。
――その一方で。
「俺達にそんな誘惑が通じると思うなよ!」
その叫びと共に。
律は自分へと誘惑を掛けてきた花魁狐をクレプスキュルで一閃して真っ二つに斬り捨て。
「妹達も母さんも戦っているのです。美人局に引っかかっている時間は僕達にはありません!」
その叫びと共に、瞬が召喚していた狩猟鷹の内、数十匹を殺到させ、目前の美人狐を鋼鉄の羽根で串刺しにする。
そんな律や瞬の後ろ姿を視ながら、義透は『黒曜山』に映し出された未来を視て。
「神城殿」
と星羅に呼びかけた、その瞬間。
「はい。皆様、此方です! 此方に向かって逃げてきて下さい!」
前に進み出る律やそれを後方から狩猟鷹と魔法で支援する瞬。
そして、この屋敷の外側の一角……即ち、陽太や美雪が切り開いている方角が安全圏内にある事をを確認して。
星羅が、律達の横を駆け抜けて此方に向かって走ってきている近侍達に向けて叫ぶ。
軍を勝利に導いた伝説を持つ、金鵄と、世界を護る純白の狼達を召喚して。
その式神達を逃げてきている人々の方へと向かわせながら、懸命に星羅が叫び続けた。
「この子達は、皆様の安全を約束する守護神達です! どうかこの子達の指示に従って、避難してきて下さい」
ヒュン、ヒュン、とその手の音律の指揮棒を振るいながら。
けれども、今、竜胆達に促されて撤退してきた近侍達にとっては、突然現れたその獣たちが敵か味方かの判断は直ぐには出来ぬ。
それ故に、避難してきた近侍達が一瞬如何するかと言う様に迷いの表情を浮かべるが。
「あいつは真宮家の家族だ。信用してそいつらの指示に従いな」
そう告げて。
竜胆達のいる主戦場から流れ弾の様に此方に雪崩れ込んできた九尾の狐達へとUKM-2000Pの引金を引き。
無数の銃弾をばらまき、時には穿つ様に九尾の狐達の足止めをしていたミハイルが鮫の様に笑ってその背を押す様にそう告げると。
たった今、主戦場から逃げてきた近侍達が、星羅達の方に近づいてくる。
――と。
「あっ?!」
その近侍達の内の1人が、ミハイルの背後で思わず声を上げて転び、先に逃げていた近侍達と距離を離されてしまう。
(「ちっ……こりゃ、まずいか?」)
そんな転んでしまった至近にいる近侍を、この九尾の狐達が見逃す筈もない。
殆ど野生の狩猟動物の勘に近い動きで、一瞬転んでしまった近侍にその爪で八つ裂きにしようとした、刹那。
――アォォォォォォーン!
その鋭い咆哮と共に。
星羅の召喚していた式神の一体……白き狼が白き風の様に疾駆してその近侍の傍に走り込み。
「グレヴィッチ殿!」
そうなるであろう事を、『未来視』していた義透が声を上げるよりも先に、ミハイルの体は動いていた。
即ち、転んでいた近侍の背中を引っ掴み、滑り込む様に姿を現した純白の狼の背にその近侍を乗せたのだ。
「星羅! 直ぐに出せ!」
そう叫び。
白狼とそれに乗せられた近侍の1人。
そしてミハイルの頭上を飛び越えて彼に肉薄しようとしている『応龍』の間に割り込みながら、律が『応龍』の喉に両手剣を突き立て。
「はっ!」
気合い一声、喉元から腹部にかけて、両手握りの『グレプスキュル』を一気に下ろす律。
律の真っ向両断の一閃が喉から腹部に掛けてを真っ二つに斬り裂き、たまらず『応龍』が九尾の狐の姿に戻り、どう、と地に伏せた。
その時には、竜胆のいた戦場から撤退してきた近侍達は、既に星羅や陽太達が作り上げた撤退路を案内され、無事に戦場を抜け出していた。
――と、その時だ。
「……? 如何した、ガヴェイン」
光学迷彩で姿を消し、超上空から戦況を見渡していたガヴェインからの通信を陽太が聞き取ったのは。
そのガヴェインからの連絡……吉報とも言えるそれを受け取り、漸く陽太が微かに安堵した様に微苦笑を零し。
「……ああ、そうか。分かったぜ」
そうガヴェインに告げてサイキックによる通信を切ってから、義透へと声を掛けた。
「おい、義透」
「どうかしたのか、森宮殿」
次に陽太の口から出る言葉は、果たして『黒曜山』の未来視で、視ることが出来るものであったのだろうか。
真偽の程は定かではないが、何となくその先に続く言葉を予感した様な口調で問いかける義透に首肯し、陽太が続けた。
「確か、数十人位だったか? 隠密で隠れる様に竜胆の安否を気遣っていた奴等の熱源がこの戦場から脱出するのが確認出来たぜ」
――だから、此で避難は完了だ。
そう告げる陽太のその言葉に深々と頷いた、義透は――。
●
「……分かりました。ありがとうございます、馬県さん」
その義透の連絡を、左手に持った小型情報端末MPDA・MkⅢで受けたネリッサが礼を述べて1つ首肯する。
その右手で愛銃『G19C Gen.5』を構えて引金を引き、九尾の狐達を撃ち抜きながら。
「灯璃さん、至急、最も迎撃態勢を取りやすい部屋への移動を。人々の避難が完了した以上、此処に何時までも止まっているのは無駄にしかなりません」
そうネリッサが隣で光遮る黒い霧の森を現出させ、目眩ましを行いながら、九尾の狐を|狙撃《 スナイプ 》していた灯璃に告げると。
「イエス、マム」
灯璃が素早く、GPNVG-42 "Nachtaktivitaet.Ⅱ"で捧げ銃の礼で返すと同時に。
「竜胆さん、皆さん、此方です!」
そう素早く指示を出し、移動を開始。
灯璃に連れられた竜胆を追う様に統哉や黄巾力士、奏を突破した九尾の狐達の分身が襲いかかろうとするが。
「そうはさせるか」
その呟きと共に。
引き締まった筋肉の塊と化した満月が横合いから飛び出す様に奇襲を掛け、九尾の狐を食らうのを合図にして。
――パチン。
と、灯璃がすかさず指を鳴らした、その刹那。
――ウォォォォォォーン……。
無言の咆哮と共に、光すらも喰らい尽くす様な狼達の群れが、この戦場を包み込んでいた霧から飛び出し一斉に九尾の狐達に群がった。
『こーんっ?!』
先程までとは明らかに遙かに違う、夥しい数の黒き狼達の群れの奇襲に、思わず悲鳴を上げる九尾の狐達。
――と、そこに。
「流石は灯璃だね。ならば俺も行くよ!」
一度は九尾の狐の一群に防御網を突破された統哉がそれに追いつき、宵闇に斬り裂く星空の様な軌跡を、両手遣いに構えた大鎌で描き出す。
そのまるで星空の煌めきの様な軌跡と共に、戦場に吹き荒れる桜吹雪達がより一段と濃厚になり……。
大量の狼の群れに食らわれた九尾の狐達が体勢を立て直す様にその桜吹雪に紛れようとした……その直後。
不意に、その統哉が巻き起こした桜の花弁達が、九尾の狐達の体に纏わり付き、狐達が、その肌を青褪めさせてどう、と力尽きていく。
「これは……オブリビオンに効く毒でしょうか」
幻影の幻朧桜による桜吹雪で尚も執拗に追撃してくる九尾の狐達の視界を塞ぐ様にしながら思わず呟く桜花。
その桜花の推測を『正』とする様に顔色を死人の様に青褪めさせて眠る様に頽れる九尾の狐達。
そうして力尽きていくその九尾の狐達を援護しようとその姿を『応龍』に変えて突破を図る九尾の狐達に向けて。
「アンタ達如きを、竜胆に指一本触れさせやしないよ!」
叫びと共に響がウィリアムの氷塊を蹴って肉薄し、青白く燃え盛る闘気を炎の様に解き放った『ブレイズブルー』を投擲。
投擲された『ブレイズブルー』が、数匹の九尾の狐を纏めて串刺しにし、一網打尽にしたその瞬間を狙って。
「今ですね……!」
竜胆の傍にいたウィリアムが自らの呼び出した無数の氷塊の影で作り出した死角から、飛び出し。
両手で構えたルーンソード『スプラッシュ』に氷の精霊達を纏わせて、袈裟に刃を振るって統哉の毒を受けても尚、抵抗を続ける九尾の狐を一刀両断。
凍てついたその九尾の狐の肉片を満月が食らい、全身に取り込んだ凍てついたその血で更に自らの肉体についた脂肪を更に筋肉へと活性化させ。
「まっ……局長達の退路を守るのも、こう言う時には必要だよな」
不味そうに食らった狐の肉に顔を顰めた満月が続けざまに、ワイヤー突きフックをブンブンと振り回す。
その満月の振り回しに合わせる様に、ウィリアムが自ら呼び出した氷塊達の一部を移動させると。
満月のワイヤー付きフックロープが巻き起こした突風を受けて砕かれた氷塊を鋭い氷の礫の様に、九尾の狐達の足下にばらまいた。
まるでマキビシの様な氷礫を踏みつけ四肢を傷つけられ、動きを止めた九尾の狐達へと。
――ドーン! ド-ン! ドーン!
冬季の黄巾力士が自らの砲塔から徹甲弾を放って撃ち抜き、九尾の狐達を粉砕。
この砲撃で7割近い戦力を失っても尚、追撃を掛けようとする九尾の狐達に向かって。
要所、要所に固められていた灯璃の狼達が飛び出し、次々にその九尾の狐達の体を喰らい尽くすのに1つ首肯しながら。
「此処です、一息つきましょう」
そう灯璃が告げて指さした一室にネリッサを先頭に竜胆が飛び込んだ。
「満月さん、退避を」
その部屋に飛び込み『G19C Gen.5』から雪崩れ込む様に合流してくる響達を掩護する銃撃をしながらのネリッサの言葉に。
「了解だ。丁度食べ飽きてきたところだったしな」
満月がやや面倒そうにそう呟きながら部屋へと入室。
続けて殿を務めていた響がダメ押しとばかりに青白く燃え盛る闘気の波を放って九尾の狐達の足止めを行い。
更に統哉が、灯璃が要所、要所に潜ませていた霧狼達の隠れていた構造物の偽物に仕掛けた罠を『宵』で生み出した衝撃波で起動させて、残存の九尾の狐達を更に1割程殲滅する。
残り2割程に過ぎない、九尾の狐達がそれでも尚、まるで狩りの群れを再編するかの様に一端動きを止めたのを目の端に止めながら。
ウィリアムが素早く氷塊をバリケード代わりに入口に展開した。
「恐らく次があの九尾の狐達の最後の攻撃となるでしょう。それさえ凌げれば私達の勝利でしょうね。ですが……戦力の8割近くを失っているにも関わらず、尚も竜胆さんを狙う程、執拗な相手とは……そう言う相手とは言え、本当に執拗なことこの上ないですね」
「そうですね、灯璃さん」
再編を行う九尾の狐達を見ていた灯璃の分析に頷きながら。
ネリッサが愛銃『G19C Gen.5』の残弾とマガジンを確認。
やや心許ない残弾を確認して新しい弾倉に取り替えながら、ちらりと落ち着いた表情を浮かべる竜胆を見つめ。
「竜胆さん」
そう確認する様に問いかけると。
「どうかしましたか?」
穏やかにその様に返事を返してきた竜胆を見て、ネリッサはある種の確信を持った口調で、言の葉を紡いだ。
「……あなたの事です、危険を冒して敢えて残ったのは、何か理由があるのではありませんか? ひょっとして|猟兵《 我々 》が救援に来る可能性も、計算に入れていたのでは?」
そのネリッサの問いかけに、竜胆は穏やかに微笑んで。
「私は、皆様のことを|信じて《 ・・・ 》おりますから」
そうはっきりと告げる竜胆のそれに、ネリッサが思わず、溜息を漏らした。
「雅人の様に信頼できるユーベルコヲド使いを傍に置かず、敢えて『相手を油断させる弱者』だけを周囲に置いったって事は、敵も俺達も誘い出す為……とかかな?」
そう統哉がやや踏み込んだ様に問いかけるのに。
「雅人達には今、調べて貰っていることがあります。正直に言えば、私の身の上よりも其方の情報を正しく皆様に伝えられる環境を整える方が重要です。……私もまた、組織と言う歯車の一部に過ぎませんので」
そうまるで何かを探るかの様に神妙に目を細めて呟く竜胆のそれに、統哉が興味を示して更に問いを重ねようとしたその時。
――パリン! パリン! パリン!
「……統哉さん。竜胆さんにその件について聞くのは後回しにした方が良さそうです。……最後の攻撃が始まりますよ!」
そうウィリアムが叫び、自らの突き出した右の掌の目前に描き出された魔法陣へと周囲の精霊達の力を集結させるその間に。
――ウィリアムがバリケード代わりに作り出した氷塊を叩き割って現れた九尾の狐達に向けて。
冬季の黄巾力士が徹甲弾を連射して、桜吹雪や周囲の遮蔽物を利用しようとした九尾の狐とそれらの遮蔽物を粉砕するのを確認しつつ。
「……|黯《 あんぐら 》党幹部も男装女子だったら……今上帝の暗殺部隊説も本物かも知れませんね……」
そう独り言の様に呟いて、自らが召喚した幻朧桜の巻き起こした桜吹雪の間隙を拭う様に軽機関銃を桜花が乱射した。
桜花の軽機関銃乱れ打ちの間隙を拭う様に弾倉を取り替えたネリッサが愛銃の引金を引き、確実に九尾の狐達の眉間を。
そして、灯璃が愛銃GPNVG-42 "Nachtaktivitaet.Ⅱ"で『応龍』に変化し、空中から飛びかかってくる九尾の狐達を|狙撃《 スナイプ 》して仕留める。
再編した筈の部隊ですら、瞬く間に潰され、血と肉の塊と化した狐達の死骸が量産されたところに。
「後は……!」
その言葉と共に。
奏が『鬼神』へと変化した九尾の狐達に向けて、エレメンタル・シールドに籠められた精霊達の力を押し出す様に振るい。
風の精霊達の力を帯びた魔力の波を解き放ち、自分達を串刺しに、或いは千枚卸にしようとしていた武器を叩き落としたところに。
「そろそろ終わりか。まあ、鬼神や応龍の方が、未だ味はマシか。……とは言え、お偉いさんの前で随分と血みどろの戦い方を見せちまったか。悪いことしたな」
そう小さく謝罪の言葉を呟いて。
全身の細胞を完全活性化させた満月が、ウィリアムの氷塊を蹴飛ばして跳躍し。
奏の防御によって隙が出来た『鬼神』や『応龍』達を、フック付きワイヤーで締め上げる様にして纏めて食らい。
「この戦いが終わったら、詳しく話は聞かせて貰うからね?」
その満月の力任せの攻撃で出来上がった隙を埋める様に、統哉が大鎌『宵』を一閃。
「まあ、統哉は聞きたいこともあるだろうけれどね。究極のテロリストって言っても差し支えない|黯《 あんぐら 》党の奴等が、竜胆を狙うのはある種当然だ。取り敢えず竜胆の災難を叩き斬ってやらないとね!」
その統哉の生み出した衝撃の波に合わせて。
響が雄叫びと共に、自らの『ブレイズブルー』を回転させ。
回転させた槍先から青白き炎の形をした闘気を解き放ち、残存の九尾の狐達を1匹残らず焼き払ったのだった。
●
――丁度、その頃。
「……如何した? 俺達は、此処に居るぞ!」
そう挑発する様な笑みと共に。
自らの分身10体の内、2体を星羅やミハイルが避難誘導に成功させた人々の護衛へと回した敬輔が、残り8体の分身と共に、囲い込む様にしていた九尾の狐達へと赤黒く光り輝く刀身持つ黒剣を桜色の光を伴って一閃。
その桜色の光を纏った一閃と共に放たれた斬撃の波が、周囲の桜吹雪に隠れて襲おうとしていた九尾の狐を切り払う。
――既に、周囲に吹き荒れている桜吹雪の勢いは収まりつつあった。
それはまるで、九尾の狐達の数に呼応するかの様に勢いが衰えているかの様。
「ふむ……やはり私達が来るであろう可能性を竜胆さんは想定していた様ですね」
その敬輔の補助をする様に周囲に向かって雷光鞭を振るい、周囲の遮蔽物を破壊していた冬季が小さく唸る。
――その口元に嗤を浮かべながらの冬季の気配。
それを何となくその背に感じ取り、軽く頭を横に振る敬輔。
……と。
敬輔の分身達の1人が『鵺』に変化した九尾の狐が漆黒の雷光の様な突撃を直撃されそうになっていた。
それは分身にとっても虚を衝かれた、そんな一撃。
その一撃の衝撃に備えて、本体である敬輔が身構えた……その時。
――ドルルルルルルル!
突如として大量の銃弾が鵺と化した九尾の狐を撃ち抜き、穴だらけにして存在を消滅させた。
その銃声のした方角を敬輔が何気ない様子で見やれば……。
「漸く、退屈な時間稼ぎは終わったってところだな。さあ、本当の|狐狩り《 フォックス・ハント 》と行こうぜ、館野」
そう口の端に鮫の様な笑みを浮かべ。
UKM-2000Pの砲塔から白煙を立ち昇らせていたミハイルが愉快そうに敬輔に言い放つ。
「……そうか。ミハイルさん達が近侍や避難させるべき人達の護衛に回っていたのか」
冷静にそう告げる敬輔の其れに、まあ、とミハイルが肩を竦めた。
「成り行きってやつでな。まあ、これで足手纏いがいなくなったんだ。漸く暴れ放題になるぜ。|撃破数《 キル・スコア 》を此処でタップリ稼いでやる」
そう楽しそうに笑声を上げながらUKM-2000Pを乱射し、派手に薬莢をばら撒く音を耳にして、敬輔が軽く肩を竦める。
(「まあ……これだけ派手に戦っていれば、これ以上屋敷の中に増援が向かう事は無いから良しとするか」)
寧ろ、外で囮として戦っている分、中の負担が減ると考えれば十分だろう。
そう判断し、ミハイルの連射に合わせる様に敬輔が自らの分身を嗾け、その弾幕を掻い潜る様にして肉薄してこようとする九尾の狐を斬り捨て。
自身も『鬼神』と化して、二刀流に構えた長剣で自らを切り裂こうとする九尾の狐の胴と腰を泣き別れにした、丁度その時。
「成程な。義透の未来視は何処までも正確だったって訳だ! 星羅、瞬、俺の後に続けよ!」
その威勢の良い叫びと共に。
ミハイルの脇を駆け抜ける様にして飛び出した律が赤銅色の剣閃と共に、敬輔の分身達が渡り合っていた『応龍』の翼を断つ。
そこに鋼鉄の羽根を生やした狩猟鷹が殺到し、『応龍』の全身を嘴でつつき、その爪で穿たせながら。
「敬輔さん! 鳴上さん! 無事の様で何よりです!」
そう叫ぶ瞬に気が付き、敬輔が軽く会釈を返しつつ。
「奏さん達は?」
そう問いかける敬輔の其れに、ふわり、と月読の衣を靡かせて、空を舞う様に敬輔の隣に着陸した瞬が。
「竜胆さん達の所です。本当は僕も母さん達に合流し、竜胆さんの護衛に回るつもりでしたが……それでは、避難のための戦力が足りなくなりそうでしたので」
そう告げる瞬の其れを聞いて、敬輔が確かに、と首肯を返した時。
「義兄さん! 父さん!」
そう何処か拙く幼い声が響き。
それと同時に、141体の白鷲がもう一対の羽を生やし……2対4翼の白鷲と化して、残像と共に、九尾の狐に襲い掛かっていた。
――相手を威圧する圧倒的な気配を纏った強者へと姿を変えようとしていた、九尾の狐達を。
……更に。
――キュキュキュキュキュッ! キュキュッ!
と何処か愛らしい鳴き声と共に突然現れた100匹超のムササビっぽい小動物達が星羅の白鷹にたかられていた九尾の狐に張り付き。
「そこだな」
同時に敬輔の赤と青のヘテロクロミアでも視認できない漆黒の斬撃が走り、九尾の狐の1体が袈裟に切り裂かれ消失する。
「先輩。あなたはこの中で一番気にしそうだから伝えておく。取り敢えず帝都桜學府諜報部には情報隠蔽と避難者達の保護の約束は取り付けておいたぞ」
そうやれやれと言う様に嘆息し、軽く首を鳴らしてみせる美雪に続く様に。
「これで竜胆殿の護衛及び付き人達の安全は確保出来たと言って良いだろう。彼等がこれ以上この戦いに巻き込まれる恐れは無さそうだと言う未来も視えたのでな」
続けてそれを補う様に重々しい口調で断言する義透のそれを聞いて、敬輔がよし、と小さく拳を握りしめる。
「一般人に被害が及ぶのを避けるのは竜胆氏に恩を売ると言う意味でも、意味がありますね」
そう冬季が笑って首肯するのに、そういうことじゃ、と義透が首肯を返す。
「であるからして、後は、外の残敵を殲滅するだけだ。最も、既に仕込みを完了させたものがいる様だがな」
「仕込み……?」
その義透の意味ありげな口調に敬輔が小首を傾げた、その刹那。
――カッ!
閃光の様な漆黒の雷光が、勢いの弱くなっていた桜吹雪を貫く様に戦場を叩いた。
それは命中した対象から生命力を、そしてサイキックエナジーを奪う漆黒の雷。
「……成程、そう言う事ですか」
その漆黒の雷光の意味を一番最初に理解したのが雷公鞭を操る冬季であることは、ある意味で必然であったであろう。
次の瞬間、漆黒の雷光に撃ち抜かれた九尾の狐達が互いに互いを斬り合い、或いは喰らい合う様に同士討ちを始める様を見て。
「ハハッ……! こいつはより取り見取りだぜ!」
そう笑ったミハイルが混乱する狐達の群れにUKM-2000Pの銃口を向け、躊躇なく引金を引く。
――ドルルルルルルル! ドルルルルルルル!
その激しい音と共に無限にも等しい銃弾が混乱し、互いに互いを傷つけあう九尾の狐達を纏めて撃ち抜き。
その場に肉片と化させて消滅せしめ。
「後は、仕上げと言ったところであろうな」
そうなるであろう未来を『黒曜山』で視ていた義透が。
言の葉と共に、僅かに生き残った九尾の狐に向けて『黒曜山』による漆黒の切り上げの一閃を解き放ち、その刃を以て九尾の狐の一匹を断ち切った。
その九尾の狐の死骸を踏み越える様に、周囲に未だ残っていたウィリアムの幾ばくかの氷塊を渡り歩く様に移動しながら。
「行くぞ!」
敬輔の8体の分身が、撤退、或いはネリッサ達の所へであろう、援軍に向かおうとする九尾の狐達の包囲網を作り上げたところに。
「これで終わらせるぞ! 瞬! 星羅!」
律がその状況を見て取ると同時に、大地を蹴って跳躍し、赤銅色の刀身持つ両手剣に雷炎のオーラを纏わせて横薙ぎに振るうと。
振るわれた雷炎のオーラが全てを燃え上がる赤銅色の熱波と化して九尾の狐を焼き尽くしている。
「勿論です、父さん」
その律の動きに呼応する様に、月虹の杖を手元で旋回させ、月読みの紋章を思わせる魔法陣を描き出す瞬。
その瞬の描き出した魔法陣から放たれた月光の光を浴びた鋼鉄の羽根を生やした狩猟鷹達が一斉にその身に生やした羽を矢雨の如く降り注がせ。
次々に残存の九尾の狐達を射貫かせて、その動きを痺れさせて止めさせたところで。
「今です、星羅」
義兄の……魔術の師でもある瞬のその言葉に星羅が首肯すると同時に、音律の指揮棒を振るうと。
星羅が呼び出した4翼2対の翼持つ白鷹達が白き突風と化して、残された九尾の狐達を轢き倒していく。
――そうして、ほぼ壊滅し、僅かに生き残った九尾の狐達の姿を見て。
「……どうやらこれで終わりの様であるな」
そう確認する様に呟いた義透のそれを、視覚した未来を再現するかの様に。
冬季の雷公鞭から放たれた雷光が、震えながら立ち上がり、悪あがきの一撃を叩きこもうとしていた『鬼神』を貫き、絶命させたのだった。
●
「……状況終了確認、お疲れ様ですミハイルさん。引き続き外の警戒をお願いします」
一先ずの外からの九尾の狐たちの増援の撃破の報告をミハイルから受けたネリッサが1つ首肯し、竜胆を見つめる。
「どうやら、貴方を狙う|黯《 あんぐら 》党の九尾の狐の部隊は一先ず全滅した様ですよ、竜胆さん。それから貴方の護衛を任されていた者達、及び近侍達の避難も完了したとのことです」
そのネリッサの言の葉に、竜胆は、少々安堵した様に息を漏らし。
「流石は超弩級戦力の皆様ですね。見事な手腕です。ありがとうございます」
そう一礼する竜胆のその言葉に、それで、と統哉が静かに問いかける。
「こうなるであろう可能性は十分、竜胆さんにとっては想定の範囲内だったと思うんだが……そうやって俺達を呼び出したって事は、やっぱり理由があるんだよね?」
そう統哉が静かに問いかけるのに、竜胆がはい、と小さく頷くが……。
「……ですが、今直ぐに話すのは難しそうです」
そう沈痛な表情を浮かべて告げる竜胆の其れに、統哉がパチクリと瞬きをする。
「どういうことだい?」
その、統哉の言葉を遮る様に。
「! 竜胆さん!」
|その気配《 ・・・・ 》を直感し、咄嗟に竜胆を脇に突き飛ばしたのは、奏だった。
その次の瞬間には、奏のエレメンタル・シールドに1本の刀子と思しき歪で禍々しき形をした短剣が突き立っている。
『あらあら、外れちゃったわね。まあ、これだけ警備が厳重ならば当然かしら。まあ、良いわ。標的もより取り見取りだもの』
――その言の葉と、共に。
木枯らしの様な桜吹雪が不意に巻き上がる様に吹くと同時に、姿を現したのは、1人の女。
『|あのお方《 ・・・・ 》の仇……一人残らず皆殺しにしてやるわ』
「……|あのお方《 ・・・・ 》……?」
そうウィリアムが怪訝そうにぽつりと呟いた、其の時には。
……女の姿をしたその忍者が、その両目に深い憎悪の光を宿して竜胆とウィリアム達猟兵を睥睨していた。
大成功
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第2章 ボス戦
『暗殺者・アヤメ』
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POW : 暗殺術・影
【影の暗殺者(シャドウアサシン)】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
SPD : 暗殺術・縛
【鎖状の影】【手枷代わりの短剣】【特殊な繊維の帯】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 暗殺術・刃
自身の【武器の刃】が輝く間、【両手の特殊短剣】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
イラスト:美火
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ガイ・レックウ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「――そうだ。貴様達が奪ったのだ。|あのお方《 ・・・・ 》を」
その女……『アヤメ』と名乗る影朧の言の葉に。
竜胆が自らの頭の中にある名簿を探り、目前の影朧がどう言う存在なのかを推察する。
「……成程。貴女は、|彼《 ・ 》を愛していた……いや、今も愛している、のですね……」
何処か遠くを見る様な眼差しと共に問いかける竜胆のそれを耳にして。
全身から抑えようのない超弩級戦力達と竜胆への憎悪の念を発しながら、女はその通り、と冷たく言い放った。
「|花蘇芳《 ・・・ 》様……。貴様達のより多くの人々を救済する為に少数を犠牲にする……そんな大義名分の為に切り捨てられた|あのお方《 ・・・・ 》が抱いた世界への憎悪を、怒りを……私は決して忘れない」
――その為に。
|彼女《 ・・ 》は自ら自死をし……その己が怨念によって得られた瑕疵を糧に影朧へとその身を化させた。
そうすれば、永遠の命を……|あのお方《 ・・・・ 》の崇高なる使命を、望みを果たすことが出来ると……。
「|彼《 ・ 》に唆されたが故に、貴女は自らの身を、|悪魔《 ダイモン 》化させたのですね……」
そう小さく呟く竜胆の声音には、微かな憐憫が籠められている。
――その憐憫が、彼女の為にならぬことは承知の上だが。
それでも、そんな悲壮な決意をするしか無かった彼女の胸中を鑑みれば……憐れまずにはいられない。
『あのお方……花蘇芳様は、今の世界の在り方を、本当に憂いていた』
――不都合を転生と言う言葉で丸く包み込み、本当であれば目を向けねばならぬ臭い物に蓋をしてしまう様な、そんな世界を。
『だからこそあのお方は|革命《 ・・ 》を望んだというのに……! それを、貴様達は……!』
その狂おしいばかりの憎悪の言の葉を聞いて。
竜胆が微かに悲しげな表情を浮かべて軽く頭を横に振った。
「……確かに、貴女の仰ることは真実の1つ、ではあるのでしょう。ですが……それが今、この世界に生きとし生ける者達の全てが背負わなければならない|業《 ・ 》である必要はありません。……その貴女方の振る舞いによって、数多の罪無き人々の命を無闇矢鱈に散らさせることは……」
――|私《 ・ 》としては、容認出来ない。
そう態度と表情でキッパリと示す、竜胆を憎々しげに見つめるアヤメを見て、竜胆は何も言わずに頭を横に振る。
「……それ程までに、私が憎いのであれば。貴女の大切な人の命を奪い、多数の人々を救い、少数を犠牲にすることを是とした私を憎むのであれば」
――その罪は、私が背負うべきものだ。
だから……。
「……来なさい、『アヤメ』さん。私の死を以て、貴女が受けたその深き心の痛みと苦しみを癒すことが出来るというのであれば」
――その想い、受けて立つと致しましょう。
そう、この場にはそぐわないであろう、不敵な笑みを浮かべて。
竜胆が淡々と告げた言の葉に、『アヤメ』が深き憎悪と共に生み出した自らの分身と共に、竜胆へと肉薄した。
*第2章は下記ルールにて対応致します。
1.作戦の目的は、『竜胆を守り抜く』です。竜胆の『死』は失敗判定となります。
2.このシナリオの『アヤメ』は『悪魔化』して強化された影朧です。その為、桜シリーズの同名の人物(菖蒲)とは異なる存在となります。
3.『アヤメ』は絶対先制で下記UCを使用します。
UC名:暗殺術・影
【影の暗殺者(シャドウアサシン)】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
尚、本来は追跡のみが主となりますが、このシナリオのこのユーベルコヲドで呼び出された影の暗殺者は、『暗殺』、『地形の利用』、『隠密』等で直接竜胆を暗殺可能な存在となります。
また、絶対先制で使用されたユーベルコヲドは、反射・無効・複製等の『敵のUC』を自らのものにするUCの対象にすることは出来ません。
この影の暗殺者への対策は、プレイングボーナスとなります。
4.『アヤメ』は嘗て超弩級戦力達によって、大切な人を殺されております。
この件について挑発を行う事は可能です。
5.帝都桜學府諜報部に連絡が行っているので、竜胆以外の人々の護衛や他の人が入ってくる可能性を考える必要はございません。但し、戦場の関係上、キャバリアや航空機等は戦闘に使用できません(周囲への被害が拡大してしまう為)
6.竜胆に協力を要請する場合、下記ユーベルコヲドを使用してくれます。
UC名:ビブリオテーク・クルーエル
効果:【過去から学んだ全ての記憶】から【類似する事例】を発見する事で、対象の攻撃を予測し回避する。[類似する事例]を教えられた者も同じ能力を得る。
尚、竜胆をこの戦場から離脱させる事は出来ません(フェアリーランド系のUCでの保護は出来ません)し、竜胆もこの場から撤退することはありません。
7.アヤメを転生させる・させないは判定には全く影響がございません。撃破さえすれば問題ありません。
――それでは、良き戦いを。
ウィリアム・バークリー
花蘇芳をカタコンブで討滅してから二年以上。それだけ経っても彼に狂信を向け続けるんですね。彼自身、紫陽花閣下の追随者でしかなかったのに。
まずは『影の暗殺者』を抑えなくては。
「見切り」で動きを把握し、フロストライトで「凍結攻撃」を「武器に魔法を纏う」ことで『スプラッシュ』に付与。「カウンター」で冷気による「マヒ攻撃」を加えます。
受けに回っていたらじり貧です。攻め込みます。
「オーラ防御」と「武器受け」「受け流し」で彼女達の攻撃をしのぎつつ、これ見よがしに『スプラッシュ』を振るい「串刺し」狙い――と見せかけての本命、Stone Hand!
動きは封じました。万一クラッジパウダーを使われる前に討滅します。
御園・桜花
竜胆の行動から挑発が極めて有効な敵と判断
敵が竜胆に思考すら向けられなくなる程挑発する
味方が有利に攻撃出来るよう敵の短慮を招くのも目的なので竜胆が被弾しないなら自分の被害は度外視
「…奪われた存在で有名なのはソウマコジロウですけれど。貴女の仰る方は何方でしょう?名も無き黯党の方ですか」
首傾げ
くすくす笑い
「其の方の想いも、貴女や私の生死も。帝にとっては、取るに足らない詰まらない事ですのに。たかが黯党の影朧の分際で、良く吠えます事。流石吠えるだけしか能の無い方は違いますわね」
「私も貴女も其の方も。帝の無聊を慰める影絵巻に過ぎませんのに…甚だしい身の程知らずです事」
UCの範囲内の全敵麻痺で影の再行動防ぐ
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして行動
花蘇芳?誰だったっけか・・・あー、思い出した。以前俺達がブチ殺した、革命家気取りの夢想家のコトか。悪ぃ悪ぃ、すっかり忘れてたぜ。
で、手前がアイツの|女《イロ》ってワケか?ふん、花蘇芳と同じく、早死にしそうなツラしてるな。ま、手前が何だろうと、どうでもいい。花蘇芳の元に送ってやる。
という訳で竜胆、今回は|必要経費《使用弾薬量》が増えると思うが…ま、それ位の出費で命が買えるなら、安いモンだろ?
UCを使用しての手数と火力に物を言わせた全力射撃を行って派手に弾幕を張り、アヤメと影の暗殺者を迎撃し、竜胆に近づけないor燻り出しを試みる。戦闘でものを言うのは、何といっても火力と物量だぜ。
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
花蘇芳…成程、竜胆さんが、あえてこの場に踏み止まっていた理由が分かった様な気がします。
アヤメさん、あなたが憎む理由は分からなくもありませんが…竜胆さんや近侍達を巻き込んでの暗殺という|非合法《イリーガル》な手段を取った時点で、我々としてもこれを見過ごす訳にはいきません。それに、私達猟兵もある意味同罪なのですから。
竜胆さんを守る事に重点を置いて、G19Cで敵に対する迎撃を行いながら、アヤメの隙を見計らい、アヤメに向けてUCにて攻撃。
…復讐というのは、どこかで断ち切らなければ、延々と連鎖します。とはいえ、今回の件が果たして正しい解決法なのかは…私にはわかりません。
馬県・義透
引き続き『不動なる者』にて
花蘇芳…ああ、そういえば黯党と関わりがあったな。
…まあ、どうしても印象が『我らの地雷を盛大に踏んだ者』なのだが。あのような無茶はあのときだけよ。
竜胆殿への護衛を。黒曜山に写る未来視を活用するはもちろんのこと、内部からの声…『疾き者』からの助言もな。
あやつ、忍者ゆえに…暗殺のタイミングをよく知るのよな。
疾「何かに集中とかはもちろん…上と下もねー」
UCによる置き斬撃で、そもそもその暗殺者が動ける範囲を狭めておこうかのう?
さらに、四天流星より、位置錯誤の呪詛を密かに流しておく。
そうすると、自ずと来る方向も限られようて。
大丸・満月
【SIRD】で参加
ここに関わるのは初めてだから俺はその因縁は知らないし、知ったこっちゃねぇ。だから遠慮なく行くぜ!
影の暗殺者は五感を共有されてるって事は本人に攻撃すればそっちも鈍くなるんじゃねえか?フック付きロープを【ぶん回し】で本体を攻撃しつつ【気配感知】と皆との連携で暗殺者を察知したら【早業】で【記憶消去銃】を撃って攻撃。
こっちもUC使えるようになったらワイルドイートで番犬のようにガンガン食らいつき、これによって能力強化して本体に攻撃をどんどん当てて暗殺者の操作を妨害してやろうかなと。人の姿でも容赦なく【捕食】していく。
その事件の経緯も知らない新参者だがなぁナメんじゃねえぞ!
鳴上・冬季
「救助が主目的ですから、救済は他の方にお任せします。出でよ、混元氷精杯」
酒盃型宝貝から延々光が湧き出し戦場全体に広がる
光っているのは目に見えぬほど微細な空飛ぶクリオネ
影の暗殺者に喰らいつく
敵を喰らい尽くし対消滅するまでずっと光り続けるので敵の位置が視認出来る
「蜈蜂袋や混元傘、混元珠から発想した宝貝です。|裸亀貝《クリオネ》に飛行の形質を与え捕食と発光を強化しました。これが永続すれば封印宝貝に名を連ねたのでしょうが、属性を盛り込みすぎて安定しません。もって精々2時間でしょう。残念です」
嗤う
竜胆は黄巾力士がオーラ防御で庇う
自分は簡易宝貝保持したまま雷公鞭振るい雷撃
敵の攻撃は仙術+功夫で縮地し回避
烏丸・都留
【SIRD】
SPDアドリブ共闘
「態との遅参だけど、私なら数で対抗できそう…」
UC:攻撃回数等を自身装備類含む超強化
エレボスの影と対情報戦用全領域型使い魔を無数に召喚
懐中羅針儀で敵の位置を特定、その情報を見た方に流すことでリアルタイム情報連携強化
上記も併用して敵の暗殺部隊にして対抗
時騙しの懐中時計、フェノメノンアクセラレーターによる能力超向上
超反応防御船殻/外皮の事象改変型結界(特定した敵の位置へ至る一方通行のワームホール型作成)を多重展開(約3億枚迄対応可)し味方含め防御する(かつ敵本体から暗殺部隊への味方攻撃も敵本体へ)
敵認識後、アイテールのメイスで距離を無視した攻撃
森宮・陽太
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
真の姿解放(オーバーロード)
ガヴェインに念のため探査の継続を要請
花蘇芳の縁者なら、俺の「敵」だ
奴の革命はテロルそのもの
ただ、この世界の秩序を乱すのみ
故に俺は、貴様を討つ
先制対策
アヤメと影の暗殺者は五感を共有している
「地形の利用、闇に紛れる」で気配を断ったうえで
死角からアヤメ本体を「不意討ち」し斬って怯ませてやろう
暗殺には暗殺で対抗だ
先制を凌いだ後も「第六感、見切り」で暗殺術・縛を警戒しながら
常に背後や死角を取るよう立ち回り
二槍伸長「ランスチャージ、暗殺」で一気にアヤメを「串刺し」にしてやる
隙を見て小声で「高速詠唱、言いくるめ」+指定UCでブネ召喚し俺の影に隠しておき
接敵した瞬間、ブネをアヤメの影に移動させて一気に捕縛しUC封じ
…いつから俺を只の暗殺者と思っていた?
アヤメの処遇は任せるが
もし、アヤメが転生を望むなら「浄化、破魔」+【悪魔召喚「アスモデウス・浄炎」】でその手助けをしよう
憎悪や狂信の記憶を断ちたいなら【悪魔召喚「ダンタリオン」】でその記憶を奪う
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
花蘇芳…巴里で革命と嘯きながら死者の尊厳を蹂躙した輩か
奴の革命とやらに正当性は欠片も無い
貴様が花蘇芳の狂信者であるなら…ここで叩き潰す
先制の暗殺術・影と暗殺術・縛は「第六感」を併用し死角含め警戒
俺に対して使われたなら「視力、見切り」で軌道を見切って回避を試みるが
間に合わなければ黒剣で容赦なく斬り飛ばす
特に影の暗殺者は気配を察したら躊躇なく斬る
竜胆の護衛はそれなりにいそうなので
俺はアヤメへの攻撃を優先
本音を口にしたら、それだけで十分挑発になるだろ
花蘇芳が求めた|革命《・・》とやらの行きついた先は
結局ダークセイヴァーの吸血鬼と大差ないのだからな
俺にターゲットが向いたら
すかさず「2回攻撃、怪力」+指定UCの18連撃(※いつも通り味方斬りなし)で一気に全身を切り刻む
向かなくとも「地形の利用、闇に紛れる」で死角を取った上で18連撃敢行
どうした!? 貴様の憎悪は軽くないはずだろう!?
ところで、アヤメ
貴様はなぜ、この世界に「転生」という概念があるか
考えたことはあるのか?
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
ここで花蘇芳さんの名前を聞くことになるとはねぇ…
アヤメとやらが花蘇芳さんに抱いている感情が恋愛だったら、少々事が拗れる予感はするが
逆に崇拝や狂信だったら、こちらに遠慮する理由は無くなるだろ
影朧化している上、悪魔化までしていたら
如何に言葉を尽くそうが届かぬ気はするが
言いたいことは言わせてもらおう
竜胆さん、家具壊しても怒るなよ?
先制対策…どうすることもできん(きっぱり
壁に背をつけ背後を取られないようにしとくか
凌いだら「歌唱、鼓舞」+指定UC発動
時々グリモア・ムジカに演奏を肩代わりさせながら
猟兵全員に声が届かせて回復と再行動を促すか
ところで、アヤメとやら
貴殿は花蘇芳さんが巴里にて盛大に死者の尊厳を踏み躙ったこと、存じてないのか?
革命とやらで救うべき、犠牲となった少数を、花蘇芳さんは自らの手で蹂躙したことになるのだが
貴殿はその点、どうお考えか?
…その点、まだ紫陽花さんのほうが筋を通しておったのだよ
…で、竜胆さん
念のためお聞きするが…アヤメ殿を唆した|彼《・》とは?
真宮・響
一度目の前で律を殺されたアタシとしてはその気持ちはわかるんだよ。
でも修羅としてのアヤメが今生きる人々の幸せを奪う権利はないんだよ。
さあかかっておいで。アンタの全てを受け止めてやる。
絶体先制は【心眼】【瞬間思考力】で気配を読み、【ダッシュ】をしてでも追いつき、問答無用でブレイズランスで【怪力】【重量攻撃】でぶん殴ってから【足払い】。その動きを阻止。
後は竜胆の傍につきっきりで【残像】【オーラ防御】【見切り】で自衛しつつ、近づいたら【衝撃波】や【グラップル】の蹴りも交えてとことん攻撃を邪魔。
でもアタシはアンタをこのまま悲しい女として終わらせたくない。せめて全力の浄火の一撃を入れさせてくれ。
真宮・奏
それが貴方の愛の形なんですね。アヤメさん。私には瞬兄さんがいますし、一度お父さんを目の前で失ってますので、悪に落ちてでもその方の本懐を遂げようとする。
でもすでに失った理念を今生きる人々に押し付けるのは認めません。
絶体先制は【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【受け流し】【ジャストガード】【鉄壁】【硬化】【拠点防御】を全て活用して全力で竜胆さんを【かばう】ことで凌ぎたい。
正直攻撃に回る余裕なさそうですね。トリニティ・エンハンスで防御力を上げて竜胆さんを【護衛】。攻撃に回る余裕があるのみ【シールドバッシュ】で攻撃に回ります。体力は【回復力】でなんとかなりますか。
竜胆さん、ご無事ですか?
神城・瞬
もう竜胆さんが凄腕の暗殺者に狙われていますか。さすが長く活動を続けてきた組織。十分な戦力を整えていますね。でも思う通りにはさせません。
父さんについていて急ぎ駆けつけます。星羅、ちゃんとついてきてくださいね。
アヤメさんの動きが早すぎますね。絶体先制を結界に閉じ込めることはできませんか。せめて【マヒ攻撃】【部位破壊】【武器落とし】を【凍結攻撃】で放って追跡者の動きを邪魔しますか。父さん、本体はお願いします!!
ただ手数が多すぎる。脅威が増す間に押し切りましょう。【高速詠唱】で月蝕の呪いを発動。とことん邪魔しながら【全力魔法】【限界突破】で【電撃】!
【残像】【オーラ防御】【第六感】の備えを!!
真宮・律
まあ、一度家族を置いてあの世に行った身としては花蘇芳は自ら悪に堕ちることは構わないだろうが、アヤメ、アンタまで死人になって悪になるの望んでいたか?永遠の命ってそんなものなのか?
まあ俺の立場ではアヤメを止めることしかできない。まず竜胆の安全最優先だ。まあ、【迷彩】【残像】【心眼】【瞬間思考力】を駆使しながら傭兵の流儀を発動。なるべく回避し切りたいが一度当たればアヤメの動きの癖はわかるので、立ち回りだけでもなんとかなるか?
【勝負勘】【戦闘知識】を駆使して【怪力】【切断】で力任せにぶった斬る!!後は【電撃】で追撃してやるか。
星羅と朔兎は経験少ないので危ないならすぐフォローに回る。終わらせてやろう。
神城・星羅
朔兎様?まさか貴方様が出向いて来られるとは・・・驚いたのは確かですが、かなり巧妙で手強い相手ですので加勢頼もしく。
はい、以前、母様達が関わった方がらみで恨んで修羅と化した方が竜胆様という重要な身分な方を狙っております。
迷いでた方を還すことも役目です。式神達は全て避難に向かわせたゆえ、弓を構えます。手数が侮れませんので【残像】【幻影使い】【気配察知】の準備はして起きます。
敵の手強さゆえ、いざとなれば私が直接竜胆さんを【護衛】します。いつでも黎明の祝詞を【高速詠唱】で発動できるように。状況に応じて調律の弓で【援護射撃】できるように。【一斉発射】も視野に。
アヤメ様。もう苦しまずにおやすみなさいませ。
文月・統哉
オーラ防御展開
仲間と連携し
影の暗殺者の動きを少しでも見切り衝撃波と斬撃で薙ぎ払う
竜胆さんを庇い護って戦いつつ
竜胆さんにも協力を頼みたい
竜胆さん、貴方は彼女の想いを知っている
その上で自らが罪を背負う覚悟でいるのなら
貴方がするべきことは死ぬ事ではない筈だ
影朧として嘆き苦しむ彼女の魂を救う為に
生きる者として、どうか協力して欲しい
彼女をここへ差し向けたのは黯党だ
影朧としての彼女の想いも恨みもまた利用されているのだろう
だが彼女の望みが暗殺の命よりも
花蘇芳への想いにあるならば
俺は彼女を救いたい
花蘇芳の時と同じく祈りの刃でアヤメを斬る
『邪心』を断ち、彼の魂のあるだろう場所へ
輪廻の輪の中へと彼女を送り届けたい
源・朔兎
心配になってきた。師匠、瞬さんきたぜ!!どうした?愛しの姫・・星羅。ふむふむ亡き人の理想の為に自ら修羅とかした女性か。
まあ、星羅追いかけてきたから他人事には思えないな。でもその想いをぶつけられても今生きてる人には関係ない。
俺には敵の攻撃を惹きつけることしかできないな!!【残像】【ジャンプ】【ダッシュ】【変わり身】【幻影使い】を駆使して敵の目を竜胆殿の前から逸らしつつ隙みて双月の秘技を叩き込む!!
敵には目障りな存在なので真っ先にユーベルコード封じを喰らう可能性は高いな。ま、後は【切込み】【グラップル】【急所突き】を駆使する。
貴女の行為は本当に死人になってまですることか?納得してるなら悪質だな。
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員で参加し密に連携
成程、下手な思想より動機として余程理解できますが…
ただ革命とか使命を引き継ぐなどと謳うのはどうかと?
個人的な感情で復讐に走ってる時点で、貴女は街で強盗してる様な連中と同じただの犯罪者でしかありませんよ。
先ずは多少なり竜胆さんから、猟兵側へ意識が向くよう仲間と少し煽りつつ、先手で動いてくる影暗殺者とそれを囮に動きそうなボスへの行動制限を狙い、指定UCで黒壁と霧を一気に展開。
一章で使用の見取り図を元に、敵が竜胆さんと護衛班に向けて姿は隠せても、迂回した経路や方向から襲撃しにくい様に味方の防衛線の正面へ黒壁と霧で強制誘導を仕掛けます(罠使い・地形の利用・先制攻撃)
上手く誘導でき影暗殺者を味方の迎撃線に乗せられたら、
自身は全周警戒しボスの動きを集中監視(見切り・聞き耳)
奇襲の芽を潰しつつ、動き回りながらボスの脚と短剣を持つ手を狙い精密射撃(スナイパー・鎧無視攻撃)を仕掛け。敵の素早い機動力を封じつつ、仲間と連携してUC攻撃を妨害するよう戦います
※アドリブ・絡み歓迎
●
――そのアヤメの言の葉に。
「花蘇芳、ですか……成程」
ガシャリ、とG19C Gen.5の弾倉を落とし、クイックリロードを行いながら。
その名前を反芻する様にネリッサ・ハーディが小さく呟く。
そのネリッサの言葉の意味が分からなかったのであろう。
SIRD……Specialservice Information Research Departmentの隊員の1人、大丸・満月が軽く頭を横に振った。
「此処に関わるのは始めてだから、俺はその因縁は知らねぇな……」
――知ったこっちゃねぇ、と言うのも確かなことではあるが。
その満月の呟きに応える様に。
目前のアヤメの姿を見て、ウィリアム・バークリーが静かに頭を横に振った。
「既に2年以上前の話ではありますが……ぼく達がカタコンプで一度党滅した影朧ですね。……まあ、その後逢魔弾道弾の弾丸となって帝都を炎に包み込んだ妄執の塊と化した存在でもありますが」
嘗ての戦いの記憶を思い出しているのであろう。
ウィリアムがやれやれという様に嘆息する一方で、そうですね、と灯璃・ファルシュピーゲルが短く首肯で返した。
「そう言う意味では、花蘇芳さんの様な下手な思想より復讐の方が動機としては余程理解できますが……」
そんな灯璃達の言葉を聞き流す様にしながら。
「……それが貴女の愛の形なんですね、アヤメさん……」
ある種の共感めいた感傷と共に、真宮・奏がポツリと呟く。
竜胆の傍を離れぬ様、密着に近い状態でガードを固める様に、エレメンタル・シールドとシルフィード・セイバーを構えながら。
(「私には、瞬兄さんがいますし、一度お父さんを目の前で失っていますので、悪に墜ちてでもその本懐を遂げようとするその思いは……」)
分からないでもないのだけれど。
――そんな、奏の胸中にざわめく想いとは裏腹に。
はっ? と言う馬鹿にした様に鼻を鳴らしてアヤメを見つめたのは、御園・桜花。
「……奪われた存在で有名なのはソウマコジロウですけれど。貴女の仰る肩は何方でしょうか? 名も無き|黯《 あんぐら 》党の方ですか?」
そう首を傾げて、クスクスと嘲笑を浮かべる桜花のそれに。
『……貴様、花蘇芳様を愚弄するか! この世界の過ちを正し、本当に清く正しき、弱気者を守り、強きを挫く世界への革命を目指したあの方を……!』
憤怒と憎悪に顔を真っ赤にして荒れ狂う怒りと共に殺気を叩き付けてくるアヤメ。
そのアヤメから解き放たれた愛する者を殺された事への深き憎悪を孕んだ怒りを、真宮・響によって叩き壊された窓の向こうに広がる中庭で感じ取りながら。
「……復讐に燃えていた頃の俺は、まさか、こんな雰囲気じゃなかった……よな?」
増援の九尾の狐達を殲滅した館野・敬輔が、思わず顔を顰めていた。
そんな敬輔の独りごちる様なそれも、この遠くからでも感じ取れる殺気もどこ吹く風と言った様子で。
「花蘇芳って言ってたか? ……誰だったか……そいつ?」
何処か飄々と、口の端に鮫の様な笑みを浮かべたミハイル・グレヴィッチが尋ねると。
「花蘇芳……巴里で革命と嘯きながら、死者の尊厳を蹂躙した輩だよ、ミハイルさん」
周囲に何か、チリチリと首筋が痒くなる嫌なざわめ感じた敬輔が、それを気遣いつつそう応えると。
あー……とたった今、思い出したと言う様にミハイルが思わず肩を竦めて見せる。
「以前に俺達がブチ殺した、革命家気取りの夢想家か。全く……あれの|女《 イロ 》が今更になって出てくるとはね」
ミハイルに応えを返す間に、その気配を感じた方へと駆けだした敬輔の後を追う様に、UKM-2000Pを担いだミハイルも移動を開始。
そんな敬輔とミハイルの後を追いながら。
「……俺は正直、家族から話しに聞いているだけでその事件に直接関わった訳じゃないから詳しくは知らないが……」
そう真宮・律が何かを確認するかの様に、己の脳裏に浮かんできた疑念を口に出す。
「花蘇芳は革命……と言う名の夢想の為に、自ら悪に墜ちる事を厭わなかったってことだな?」
そのミハイルと敬輔の言葉を聞いた律の確認の問いかけに。
「……そうですね、父さん」
首肯しながらそう応えたのは、神城・瞬だ。
(「それにしても、もう竜胆さんが凄腕の暗殺者に狙われているという状況とは……」)
伊達に、長く活動を続けてきた組織ではないと言うですか。
そう内心でアヤメの動きを直観した瞬の呟きに、まあ、と馬県・義透を構成する四悪霊が1人――『不動なる者』内県・賢好が言の葉を紡ぐ。
「……確かにあの男は|黯《 あんぐら 》党と関わりがあったな。まあ、『我等』からすれば、『我等の地雷を盛大に踏んだ者』と言う印象しか残らなんだが」
「それは……先程、敬輔さんが言っていましたが、花蘇芳様、と言う方が『死者の尊厳』を踏み躙る者だったから、ですか?」
その義透の回想に、藍色の瞳を瞬かせながら首を傾げるのは、神城・星羅。
その星羅の問いに、義透は左様、と小さく頭を縦に振るだけだったが……。
(「ただ、それだけでそのことに義透様がどれ程の憤怒を抱いたのか……その気配がひしひしと伝わってきますね」)
そう、星羅が義透が纏ったその気配にたらりと、無意識に冷汗を垂らしたその時。
「師匠―! 瞬さーん!」
不意に。
星羅達の背後……藤崎・美雪の連絡によって封鎖された筈の方角から、素っ頓狂な声と共に、長身の少年が駆け寄ってきた。
「って!? 今の此処の状況は、私が帝都桜學府諜報部に伝えて封鎖をして貰った筈だが……そんなところに……」
――誰が、入ってきた?!
美雪が驚きのあまりに、思わず鋼鉄製ハリセンを取り出し反射的に突っ込みを入れそうになりながら其方を振り向き、その少年を倒してこれ以上進ませない様にしようとした、その時だった。
「えっ……朔兎様?」
その聞き覚えのある声を聞いて、思わず其方を振り向いた星羅が呟き、此方に掛けてくる少年を見やると。
少年……源・朔兎が美雪達の前でキキーッと急停止して……。
「師匠! 瞬さん! 愛しの姫……星羅! 何だか心配になって俺も来ちゃったぜ!」
そうハキハキと告げる朔兎のそれに、そうですか、と腕を組み、先程まで装備していた月虹の杖を六花の杖に持ち替えながら。
「そうですか。……朔兎も来たのですね」
そう腕を組んで確認する様に問いかける瞬にそうだよ! と頬を紅潮させて朔兎が大仰に首を縦に振るのに、美雪が微かに眉根を寄せていた。
(「ま、まあ戦力が増えるのはありがたいなのだが……大丈夫なのか、この少年は……」)
そんな心配をちらりと心の中に浮かび上がらせる美雪の事を気にした様子もなく、朔兎が続ける。
「その、俺、何か皆のことが途轍もなく心配になってきて、それで……!」
「……成程な」
まあ、瞬達の知人であり、超弩級戦力の1人である事を告げられれば、帝都桜學府諜報部としても通さぬ訳には行かないだろう。
そう無理矢理自分を納得させながら、思わず美雪が何とはなしに空を見上げる。
空の向こうでは、森宮・陽太の巨神『ガヴェイン』が光学迷彩を纏って上空からの偵察を続けているのだろう。
……その『ガヴェイン』の主である陽太は。
「……花蘇芳の縁者……か」
そう誰に共なく淡々と。
小声で小さく言の葉を紡ぎ、静かにその拳をギュっ、と握りしめ。
「ならば、あいつは……俺の『敵』だ」
そう自らの意志でそのキーワードを口にした時。
「……ああ、行こう。奴の革命……この世界の秩序を乱すに過ぎないそのテロルを止めるために」
そう低く呟くとほぼ同時に。
陽太の顔に顔全体を覆い尽くす能面の様な白のマスケラが姿を現し。
同時にその全身をブラックスーツに包み込んだ陽太が周囲のある意味で無残な景色に溶け込む様に姿を晦ます。
と……その時。
「……成程。暗殺者には暗殺者で当たるって訳ね」
不意に、陽太の脳裏にその声が響いた。
陽太……暗殺者でもある『零』が其方を見やれば、そこにはエレボスの影と呼ばれる、原初の暗黒神の眷属隠密部隊の姿。
そのエレボスの影が届けてきたその声に、聞き覚えがあった陽太が。
「お前は、確か……」
そう、さりげなくその声の主……烏丸・都留に問いかけると。
「ええ、その通りよ」
そのエレボスの影に潜む様にステルスしていた都留が懐から懐中羅針儀Ωを取り出し、其処に示された座標を確認して、1つ頷き。
更に、密かにネリッサ達の方へと向かわせ張り込ませている対情報戦用全領域型使い魔召喚術式から伝えられてきた情報を、懐中羅針儀Ωに転送。
そうして『敵』であるアヤメの呼び出しているであろう、『暗殺者の影』の居場所を解析しながら、陽太に告げる。
「局長達と合流する前に、既に呼び出されている影を止める必要があるわ。座標はある程度絞りこんでおいたから、至急移動をして」
その都留の言の葉に。
「確かに、それは良い手と言っても差し支えないであろうな」
そう答えたのは、義透。
彼の胸中では、その義透と言う術式を構成している四悪霊が1人にして、忍びの者である『疾き者』がうんうんと首肯している。
その義透と都留の言葉に背を押される様にして。
「……良いだろう。この戦いでは、情報は、何よりの武器になるからな」
そう陽太が短く首肯すると同時に、散った幻朧桜に溶け込む様に姿を消したところで。
「早々、此は伝えておいた方が良さそうですね」
そう、何処か低い笑声を上げて。
敬輔の上を風火輪で浮遊しながら続いていた鳴上・冬季が。
「此度の戦いの主目的は、竜胆さんの救助です。ですのでもし望む方がいるのでしたら、あの影朧の救済はお任せしますよ」
そう笑いながら告げた言の葉は……。
●
「……修羅としてのアヤメ……アンタが今を生きる人々の幸せを奪う権利はない。だから……アタシ達が、アンタの全てを受け止めてやるよ……アヤメ」
桜花の、その挑発を聞いて。
怒り心頭に発していたアヤメに向けて。
自らの青白く猛々しく燃え盛る闘気を現した『ブレイズブルー』を構えてそう告げた響や。
「……ああ、分かっているよ、冬季」
――例え、其れがどれほど困難な道であったとしても。
それでも己が信念を貫く事を選んだ文月・統哉の胸中に響いていた。
(「未だ、俺達の居るところから、離れた場所に居る筈なのに、冬季の声が、聞こえた気がしたのは……」)
――それが自分達の望む、求める答えへの覚悟を問われていると無意識に感じたからか。
或いは今は奏と共に、竜胆の護衛としてそこにある冬季の宝貝、黄巾力士が無意識に主の声を転送したのかも知れない。
――いずれにせよ……アヤメを、彼女を『転生』と言う名の救済のために。
(「今、俺達が出来る事、それは……」)
そう統哉が内心で1つの決意を固めると同時に。
「竜胆さん」
と、奏達に守られている竜胆へと呼びかけた。
その統哉の呼びかけに。
「如何しましたか、統哉さん」
戦況が逼迫しているのを承知の上で問いかける竜胆に頷き、統哉が続ける。
「俺は……俺達は、竜胆さん、貴方が、彼女がどういう思いを持っているのかを知っていることを、知っている。……恐らく、その経験や知識から導き出すことの出来るものなのだろう」
その統哉の言葉に対して、竜胆は、只静かに自分を見つめてくるのみ。
それが、信頼故か、それとも覚悟を試されているのか、未だはっきりとした答えを得られぬ儘に、統哉は言の葉を紡ぐ。
「その上で、貴方自身が彼女にこれから与えられるであろう行為に対して、貴方が罪を背負う覚悟があるのであれば、貴方がするべきことは、今此処で、死ぬことではない筈だ」
その統哉の何処か確信に満ちた言葉を聞いて。
「ええ……そうでしょうね」
そう竜胆が相槌を打つのに、だから、と統哉が囁きかける様にそれを願った。
「影朧として嘆き苦しむ彼女の魂を救うために、生きる者として、どうか協力して欲しい」
――その、統哉の覚悟の表れとも取れるその言葉に。
竜胆が応えを返そうとした、其の時。
「竜胆さん!」
――ガキン!
奏の悲鳴の様な警告の声と共に、彼女のエレメンタル・シールドを叩く銅鑼の様な音が、戦場に鳴り響く。
突然何処からともなく行われたその攻撃を辛うじて受け止めた奏の顔が苦痛に歪み。
また、冬季の黄巾力士も同時に駆動系を一突きされたか、がくり、とその場に膝をついている。
その黄巾力士と奏の姿を見て、竜胆が身構えながらポツリと呟いた。
「……成程。既に布陣されていた戦力があったと言う事ですね」
もし、奏達がいなければ恐らく如何に竜胆と言えどその命を奪われていたであろう。
(「しかも、この暗殺者の動きは……恐らく……」)
奏の発した警告に応じる様に反射的にG19C Gen.5から援護の銃撃を行いながら。
「私達が、ユーベルコードを使うよりも未だ速く、動ける様ですね」
そう下した判断を口に出すネリッサのそれに、そうですね、と GPNVG-42 "Nachtaktivitaet.Ⅱ"を下ろして熱源を確認していた灯璃が首肯で返していた。
(「影の暗殺者は当然ですが、熱源反応は無し。アヤメさん本体は……桜花さん達に怒り狂っている、と言う状態ですか」)
そんなアヤメの、暗殺そのものよりも自らの憎悪を優先させる行動に、思わず灯璃の苦笑が零して。
「全く……革命とか使命を引き継ぐ等と謳いながら、実際には個人的な感情で復讐に走っているとか……街で強盗している様な連中と同じ只の犯罪者に過ぎませんよ、アヤメさん」
そう、灯璃がアヤメを挑発するのに被せる様に。
「あなたが憎む理由は分からなくもありません……少なくとも、愛する者を奪われたその憎悪は、貴女方にとっては確かな事実なのでしょう」
そうネリッサが言葉を続ける。
この戦況で、最も気を付けなければならないのは、『影の暗殺者』と『アヤメ』の連携によって、竜胆が集中放火されること。
であれば、アヤメ本体の|憎悪《 ヘイト 》をコントロールする事は、竜胆の暗殺の阻止の為にも必要なことであろう。
(「正直、今回の彼女の在り方ややり方に対しては……想わないところがないではないのですが」)
そう内心で呟きながら。
ネリッサはですが……と軽く頭を横に振り、心に引っ掛かっていたそれを言葉にした。
「竜胆さんや、近侍達を巻き込んでの暗殺等と言う|非合法《 イリーガル 》な手段を取った時点で、あなたの行いは、決して私達には看過できない犯罪です」
――しかも。
そう……しかもだ。
「……花蘇芳は、私達猟兵が殺しました」
そのネリッサのキッパリとしたそれを聞いて。
『……貴様等が……!』
憎悪の炎で自らの瞳を光らせるアヤメにそう言う意味では……とネリッサが続ける。
「私達猟兵もまた、ある意味で同罪なのですよ……アヤメさん」
そのネリッサの何処か泰然とした言葉を耳にして。
『……貴様等超弩級戦力共が、あのお方を殺すと言う愚かな真似をしなければ……! 弱者を踏み潰す様な、そんな糞みたいな世界を変える事が出来た筈なのに……!』
そう深き憎悪の籠められた呪詛を吐き出しながら。
自らの呼び出した影の暗殺者へと意識を向けさせぬ様にするかの如く。
鎖状に変化させた影を戦場全体にばらまく様に解き放つアヤメ。
そんなアヤメに対して、桜花が完爾と笑いかけた。
「その方の想いも、貴女や私の生死も。帝にとっては、取るに足らない詰まらない事ですのに。たかが|黯《 あんぐら 》党の分際で、良く吠えますこと。流石は、吠えるだけしか能の無い方は違いますわね」
その桜花の叩き付ける様な挑発をする口を塞がんとする様に。
解き放たれた鎖状に変化した影が絡み合って、桜花の顎を砕かんとせまる。
その攻撃を桜花が舞う様な足裁きと共に、何時の間にかその手にあった桜鋼扇で叩き落とすのをチラリと横目にして。
「こんな安い挑発に乗る程度の暗殺者とは、所詮はその程度、と言う事ですか! 流石は、あの紫陽花閣下の追随者に恋慕を抱き、崇拝して自らを影朧にまで身を堕とした方だけはありますね!」
そう態とらしく焚き付ける様に叫びながら。
自らのルーンソード『スプラッシュ』に自らの胸元にしまっていた宝石『フロストライト』に降りている永久の霜を纏わせてその刃を振るうウィリアム。
その全てを凍てつかせる『氷の剣』とでも呼ぶべきウィリアムのその一閃が、桜花に向かった影の鎖とぶつかりあい、それを凍てつかせた瞬間を狙って。
「お前をぶっ飛ばせば、竜胆を狙っている|影の暗殺者《 シャドウアサシン 》も、鈍くなるんじゃねぇのか? おらぁ、行くぜ!」
吠え猛る様な叫びと共に、全身が脂肪で出来た丸い塊に戻っていた満月がその手のフック付きロープをブンブンと振り回した。
――その口の中に、大量の混合血液に含まれたUDCと……先程存分に喰らった旧尾の狐達の不味い血の味を含みながら。
その満月の我武者羅とも言えるフック突きローブの振り回しにアヤメが咄嗟に対応する様にたん、とバックステップ。
そうして、満月のその攻撃を躱した、その直後だった。
「……暗殺は何も貴様の専売特許ではない。俺達は此処で、貴様を討つ」
その言の葉と、共に。
アヤメ本体の後背に姿を現した白いマスケラを被った陽太が、濃紺と淡紅色の槍閃を走らせたのは。
その濃紺と淡紅色の螺旋状の二閃による不意打ちによるダメージを、咄嗟に身を捻ル事で、最小限に食い止めるアヤメ。
だが……その負傷は、確かな負傷だ。
――だから。
「此処ね。……今よ」
その戦況を対情報戦用全領域型使い魔召喚術式で知覚した都留が。
「局長、響、文月」
そう、それぞれの装備する通信機越しに通信を入れてきたのを耳にして。
「そっちか!」
都留から齎された情報と|その《 ・・ 》気配を第六感で感じ取った響がブレイズランスを旋回させて叩き付ける様に振り下ろし。
「ならば俺は……こっちだ!」
続けて統哉が漆黒の大鎌『宵』を竜胆の背後の何もない様に見える空間に向けて一閃。
流星を思わせる煌めき伴う大鎌の一閃が、何もない様に思える空間を薙ぎ。
「そこですね」
更にネリッサが自らの愛銃の引金を引いて撃ち出した2発の銃弾が、統哉と響が薙ぎ払わなかった空間のとある一カ所を撃ち抜いたところで。
「ええいっ!」
ネリッサの斜線から凡そ45度程に当たる空間へと、奏がエレメンタル・シールドを突き出した。
そのエレメンタル・シールドによるシールドバッシュから、確かな手応えを奏が感じた、その瞬間。
『……ぐっ?!』
|本体《 ・・ 》のアヤメの左肩に、激しく打擲された様な痛みが襲い。
それと、ほぼ同時に。
本来であれば、もう、既にその息の根を刈り取っていた筈の竜胆に向けて解き放った|影の暗殺者《 シャドウアサシン 》が奏のシールドバッシュによって、激しく壁に叩き付けられていた。
――主と同じ、左肩に打撲傷を受けながら。
それは本当に数秒間の間に起きた出来事。
……即ち、それは。
最初に奏が辛うじて守り抜き、次の暗殺の機を窺っていた影の暗殺者が変則的な動きで走り回っていたその場所を。
|追跡《 トレース 》した都留の情報を下に、響と、統哉とネリッサが、予め打ち合合わせていたかの様に自らの空間を薙いでその移動先を誘導し。
そこに奏が自らのシールドバッシュの一撃を、クリーンヒットさせたのだ。
それは、桜花の挑発に乗ったアヤメ本体が咄嗟に放った攻撃に、ウィリアムがカウンターを叩き付け。
更に満月と陽太が一瞬、アヤメの本体に負傷と衝撃を与える事で、影の暗殺者に漸く生まれた僅かな綻びを衝いた、刹那の攻撃。
無論、その一瞬の攻防での勝敗の趨勢を灯璃が見逃す筈もなく。
「……|Einen Schritt voraus ist Dunkelheit《 一寸先は闇ですよ 》!」
――パチン、と。
術の詠唱と合わせる様に灯璃が自らの指を弾いた、その瞬間だ。
――屋敷をまるで覆い尽くす……否、その屋敷自体を1つの『巨大迷路』と言う名の空間にするかの様に、無限の霧と黒壁の迷宮が組み立てられたのは。
『くっ……これは……!』
本来此は、任意の現象や、エネルギーを吸収する霧と黒壁を作る為のユーベルコード。
けれども、今、一番重要なのは、この迷路という名の領域を作成することで……。
「……あなたを私達が追い込むことが出来る様になる事ですね」
その脳裏に最初に貰ってきた見取り図と、今、自らが生み出した霧によって味方であれば、誰でも入ることの出来る様作った迷路の地図を脳裏に思い浮かべながら。
灯璃が微苦笑と共に迷宮化した迷路の情報を共有するべく、JTRS-HMS:AN/PRC-188 LRP Radioを起動し、その情報を猟兵達の通信機へと送った時。
「皆、任せたわよ」
その通信機越しに、都留の合図の様な言の葉が届くと同時に。
――戦場に雷光が迸り、それが猟兵達の反撃の鏑矢となった。
●
「……霧と黒壁に覆い尽くされた迷路……迷宮化したのか」
その霧に包み込まれ、黒壁に囲まれたその迷宮の転送されてきた詳細な地図をサバイバル仕様スマートフォンで確認して。
そう敬輔が苦笑と共に誰に共無く小さく呟くと。
「成程。此は面白い。此でしたら竜胆さんの屋敷への被害も、この人数での襲撃も、不可能ではなさそうですね」
その敬輔の言葉に笑いかけながら冬季が1つ首肯する。
その冬季の手には、酒盃型宝貝が生み出され始めている。
「……混元氷精杯を使うのは、流石に間に合いませんでしたか」
それは、延々と光が湧き出し、戦場全体を眩い光に包み込む精杯と言う名前の、無敵の『宝貝』
とは言え、最初の竜胆の暗殺の対策には、どうやらギリギリ間に合わなかったらしい。
(「とは言え……使いどころは未だ未だ十分ありますからね」)
そう内心で結論しながら敬輔の頭上を浮遊する冬季の、何処か残念そうな呟きに思わず苦笑を零した敬輔が、律達と共に迷宮の中に突入する。
(「灯璃さんのユーベルコードによって作り上げられた迷宮か……。まあ、確かにこの場所は、謂わば……」)
――作り上げられた、仮初めの空間。
概念的なその迷宮の中を走り、最短で律達と共に、統哉達のいるであろう戦場を目指すその間に。
「……ふむ。どうやらこの辺りが置き所の様だな」
そう、敬輔達に並んで走っていた義透が呟き。
漆黒の長剣『黒曜山』に見えた未来を確認すると共に、刃を一閃。
そこに不可視の斬撃を残した上で、尚も敬輔達と併走を続けている。
そんな義透……賢好の胸中では、『疾き者』……忍びである『外邨・義紘』が、賢好にアドバイスを続けていた。
(「何かに集中とかは勿論……上と下もねー、暗殺の狙いどころ、ですよねー」)
仮に、例え初太刀による暗殺が失敗したとしても。
優れた暗殺者であれば、次善の手を予め考えておくものだ。
対象を『暗殺』する為に十重二十重に手を用意しておくのは、必然。
故に、|その時に備えて《 ・・・・・・・ 》、予め手を打っておくことこそが、暗殺者同士の戦いにおいて重要なんですーと、義紘が告げる。
――そう言う意味では。
「態との遅参ではあるけれど……先行させた私の装備が思ったよりも動く動いてくれている様ね」
先程、戦場全体に一瞬ではあるが解き放たれた雷光。
その解放主である自らの対情報戦用全領域型使い魔から入ってくる情報を絶えず仲間達に流しながら呟く都留の装備と、暗殺者である陽太を先行させたのは妙手だったと言う事だ。
そんな義透が出した結論と大体同じ所に落ち着いていたのだろう。
「……まあ、既に狐達と戦っていた私達の動きは、既に見切られている危険性もあったのも確かだからな……。恐らくそれ故に、陽太さんも暗殺者になったんだろうし」
そう自らのグリモア・ムジカに譜面を展開、同時にサウンドウエポンを次々に展開しながら美雪が嘆息するのに、静かに義透が首肯を返している。
そんな義透と美雪のやり取りの間にも、その後ろについて走っていた律が、微かに沈痛そうな表情を浮かべて、そっと溜息を漏らしていた。
「正直、一度家族を置いてあの世に行った身としては、花蘇芳は自ら悪に墜ちる事は構わないと思うのは分かるが、アヤメにもそうなって欲しかったのだろうか?」
そんな律の怪訝そうな呟きに思わず、一瞬目を伏せてしまったのは、瞬。
今は妻となった義妹である奏と義母である響の事の想いに思いを馳せ……そっと誰に共無く嘆息を零した。
「……少なくとも、父さんが母さん達にそんなことを望んでいないのは分かります。僕も星羅達には仮に僕が闇に墜ちたとしても墜ちて欲しくないし、そもそも戦いで命を失わせたくないですし」
況してや、星羅は義理の妹とはいえ、齢8歳。
そんな星羅や律のことを心配し、慌てて合流してきた朔兎も、未だ12歳と言う幼子に過ぎぬ。
「……お義父様……」
その瞬の言の葉を耳にして、星羅が何とも言えない複雑な表情を浮かべて、その大きな藍色の瞳を思わず伏せる。
「愛しの姫……」
そんな風に伏し目がちになった星羅を気遣う様にその肩をポン、と叩く朔兎の表情にも何とも言えない表情が漂っている。
星羅や朔兎の様子を本当にちらりと見やる様にしてから、瞬は静かにただ、と言の葉を紡ぎ続けた。
「……アヤメさん自身については、僕や奏もそこまで詳しくはないのです。とは言え、彼は……花蘇芳は、グレヴィッチさんの言うとおり、革命という名の妄執に囚われていたのは事実ですが」
――そうであるならば。
「……仮に今、此処に花蘇芳がいたとしても、自らの志を継ぐ為に、自ら影朧と化したアヤメさんを自身の駒として見ることには何の抵抗もないだろうな。……それが、本当にアヤメさんの意志なのかどうかは、別ではあるが」
(「だが……引っ掛かることがある。アヤメさんは、花蘇芳がした|あの事《 ・・・ 》を知っていて行動しているのか?」)
それとも、知ることなく、その意志を継ぐなどと宣っているのだろうか。
そんな疑問が、美雪の脳裏を駆け抜けていった……その時だった。
『……くっ! 未だ未だ……!』
その呻きと共に。
再び生み出した影の暗殺者に竜胆を狙わせながら、戦場全体に鎖状の影と、手枷代わりの短剣、そして特殊な繊維の帯を解き放ち。
同時に自らの両手に構えたチャクラムと思しきそれを投擲、全部で18の斬撃を生み出したアヤメの姿が視認できる距離に入ったのは。
「だが……物事には何時だって例外というものがあるものだ」
そう……今、自分達が|視ている《 ・・・・ 》光景を。
|義透《 ・・ 》が既に|未来視《 ・・・ 》していたと言う様な、例外が。
「……そう言うことか」
その意味を敬輔が理解して、そうポツリと独り言を零した、その時。
『ぐっ……?!』
義透が移動中に置いておいた|不可視の斬撃《 ・・・・・・・ 》が生み出した断裂にアヤメの本体が踏み込み、その背中から鮮血が飛び散った。
その背中に受けたダメージ故に、両手に持ったチャクラムの様な双剣で解き放とうとしていた怒濤の18連撃の動きが鈍る。
その竜胆とその周囲に張り付く様に守りを固めていた奏や統哉、ネリッサ達を一度に戦闘不能にしようとした斬撃の動きが鈍った瞬間をその目で捕らえて。
「敬輔さん!」
瞬が咄嗟に都留の雷光によって強化された六花の杖を振り翳し、全てを凍てつかせる氷柱の矢を解き放つ。
都留の雷光に導かれる様に9本に分裂した氷柱の矢が、18連撃と同時に再びアヤメが呼び出した暗殺者の影を貫き、その動きを一瞬食い止めたその隙を狙って。
「させるか!」
走りながら赤黒く光輝く刀身持つ黒剣を大地に擦過させた敬輔が、一気にその刃を撥ね上げる様に切り上げた。
その切り上げによって生まれた斬撃の波が敬輔のヘテロクロミア……右の青の瞳の輝きに応じる様に9の斬撃と化して、アヤメの解き放った18の刃に後背から迫り。
アヤメの刃による斬撃の半分を叩き落としたその隙に。
「朔兎、遅れるなよ!」
律が朔兎に呼びかけながら大地を蹴って、宙を舞い、自らの体を回転させながら、赤銅色の刃持つ両手剣を振るう。
振るわれた赤銅色の一閃が、義透の不可視の斬撃に囚われたアヤメの背後に迫り。
『くっ……!』
気が付いたアヤメがその一撃を咄嗟に身を捻る様にして躱しつつ、10撃目の斬撃の軌道を返して、律の刃を受け止めた。
――その衝撃にアヤメが思わずその身を怯ませた瞬間を狙って。
「師匠、瞬さん! 俺も行くぜ!」
ダン、と迷宮の壁を蹴った朔兎が、月の紋章刻まれし白銀の刀身持つ双月の剣を振るう。
振るわれた二刀一対の双剣が、瞬の六花の杖から氷柱の矢を放つ時に空中に描いた月読みの紋章の刻まれた魔法陣に照らし出され、淡い月光色の輝きを伴う斬撃を放つと。
『ちっ……!?』
それが時間差で今にも竜胆を守る奏の急所に迫っていたアヤメの11、12撃目の斬撃を食い止めた所で。
「さて……此処ね」
その言の葉と、共に。
ミハイルの背後から跳躍した都留が、原初の天空神アイテールのメイスを振るった。
その目で認識した者であれば、確実に打ち据えることが出来るとされる原初の天空神の加護を受けた棍の一撃が、13撃目の刀閃を叩き潰すその間に。
「へっ……漸くお楽しみの時間だぜ」
そうミハイルが鮫の様な笑みを浮かべると同時に、UKM-2000Pの引金を引くと。
――ドルルルルルル! ドルルルルルル!
数万発にも及ぶ無数の銃弾が猛り狂う嵐の如き勢いでアヤメに迫り、アヤメが咄嗟にその身を翻し、残された5閃の斬撃で全弾を何とか叩き落とした。
そのアヤメの様子を見て、ヒュウ♪ と思わず称賛とも揶揄とも取れる口笛を吹くミハイル。
「おっ? まさか、UKM-2000Pの銃弾を叩き落としてくれるとはな。思ったよりもやるじゃねぇか」
そう愉快そうに鮫の笑みを浮かべながらミハイルが、アヤメと奏達の向こうへと愉快そうに声を投げかけた。
「と言う訳で、竜胆、今回は|必要経費《 使用弾薬量 》が増えると思うが……ま、それ位の出費で命が買えるなら安いモンだろ? 何なら、危険手当なんかも付けて貰って構わないぜ?」
そうおどけた様に告げるミハイルのそれに、奏に守られていた竜胆が、くすり、と微笑を零し。
「勿論。私宛に請求書を提出して頂ければ、きちんと手当はお支払い致しますよ」
そうきちんと約束をする竜胆のそれに、そうこなくっちゃな、とミハイルが笑うのとは対照的に。
『前門の虎後門の狼……まさかこんなに次から次へと超弩級戦力が現れるなんて……! 道理で|閣下《 ・・ 》から預かった狐達が全滅した訳ね』
そう悪態をつき、冷汗を垂らすアヤメを見て、冬季が嗤った。
「愚かな話ですね。あれだけの数を解き放っておきながら、私達によって戦力の全てが削ぎ落とされることを考えもせず、竜胆さんに刃を向けたのですか。暗殺者にはあるまじき感情の乱れとでも言うべきでしょうか」
そう嗤って言いつつ、冬季が風火輪で空中を飛翔し、その手に持つ酒盃型宝貝を高々と掲げた瞬間。
その酒盃型宝貝に潜んでいた目に見えぬ程微細な、空飛ぶクリオネが、無限にも等しい眩い光を解き放ち。
その天井から竜胆を奇襲しようとしていた再び呼び出された影の暗殺者を食らい付くし、その存在を対消滅させる。
『ちっ……この光は……?!』
太陽の様に眩いその光に忌々しげに舌打ちをするアヤメを、冬季は嗤った。
「これは、蜈蜂袋や混元傘、混元珠から発想した宝貝です。|裸亀貝《 クリオネ 》に飛行の形質を与え捕食と発光を強化しました」
そう何処か誇らしげに、或いは、からかう様に。
嗤いながら流れる様に冬季が言の葉を紡ぎ続ける。
「これが永続すれば封印宝貝に名を連ねたのでしょうが、属性を盛り込みすぎて安定しません。もって精々2時間でしょう。残念です」
その、冬季の『残念です』という言葉を聞いた、その瞬間。
『ええ……本当に残念ね。そんなものは、2時間も持たないわ!』
そうアヤメが叫ぶと、ほぼ同時に。
アヤメの手が上空に翳されると同時に、無数の手枷代わりの短剣が、冬季……否、冬季の作り出した『宝貝』に向かう。
この手枷代わりの短剣が命中すれば、その力が著しく減少する事を、既に彼女は察していたのだろう。
そこまでを読み込んで、アヤメがその短剣を投擲した……その時。
「そうはさせません!」
――ヒョウ、と。
そう叫んだ星羅が祝詞を歌い上げながら、都留の雷光を帯びて強化された調律の弓から一矢が解き放った。
雷光の速度で放たれた調律の一矢が、冬季の目前に迫っていたその手枷代わりの短剣を撃ち抜いたその様子を見て。
『くそっ……!』
とアヤメが思わず、と言う様に舌打ちをする様子を見て。
「……どうやら、間に合った様だな」
そう美雪がそっと安堵の息を漏らすのを見て。
「……此処までの藤崎さん達の案内、ありがとうございました。馬県さん、烏丸さん」
告げながら懐に忍び込ませておいたコインを取り出そうとするネリッサが礼を述べると。
「イエス、マム」
「何、全ては計算通りと言うことだ」
都留が敬礼それに敬礼を返し、義透がその未来をまるで視て来たかの様に深々と首肯した。
つまるところ……灯璃達が予め流しておいた策『迷宮を利用したアヤメと影の暗殺者の強制誘導』は、今、此処に成ったのだ。
――そう。この戦いの転換点ともなり得る、合流が。
●
『くっ……! 伏兵……新たな増援の存在を警戒しておくべきだったか……おのれ!』
そう思いっきり舌打ちをしつつ。
アヤメが解き放った鎖状の影を叩き落とす様に淡紅のアリスグレイヴを一閃、淡紅と雷光の綯い交ぜになったそれを解き放ちながら陽太が頭を横に振る。
「……他の猟兵達が来るのは予測していたが……此処に来て新たな俺達の増援が来るのは流石に想像外だった様だな」
そう呟きながら、濃紺のアリスランスを伸長する陽太。
フェイントの為に解き放った陽太の伸長した濃紺色の刺突を絡め取るべくアヤメは身に纏った特殊な繊維の帯を伸長した。
放たれた帯が陽太のアリスランスを絡め取り、その動きを封殺しようとするその間に。
「……これは想定の範囲内ですね。統哉さん」
先程、冬季によって守り抜かれた竜胆が粛々とそう言の葉を紡いだその刹那。
「ああ!」
統哉がそっと胸中に安堵を覚えながら、両手持ちで構えた漆黒の大鎌『宵』を一閃。
解き放たれた漆黒の刃が青き雷光と星彩の如き煌めきを伴う一閃となって解き放たれ、陽太を締め上げようとしていた帯を斬り裂くとほぼ同時に。
――キィーン!
と、アヤメの二刀の特殊短剣の輝きを伴う刃とぶつかり合い、澄み切った音を立てた。
『くっ……!』
それでも、尚。
自らの憎悪と憤怒を叩き付ける様にアヤメが再び戦場を叩きだしたミハイルの弾幕の間隙を拭う様に走りながら、手枷代わりの短剣を……。
「朔兎に投擲できると思わないことだね!」
その叫びと、共に。
タン、と大地を蹴って加速した響が自らの胸中に宿る燃える情熱を練り上げた闘志を、青白く光輝く『ブレイズブルー』に籠めて振るう。
振るわれたその一閃を見て、アヤメは思わず顔色を大きく青ざめさせた。
――あれをその身に受ければ、私は私で|無くなって《 ・・・・・ 》しまう。
そうまるでパラノイアめいた直観が背筋に悪寒の様に走ったから。
『貴様達は、そうやって数多の我が同士や|あのお方《 ・・・・ 》の心を踏み躙ってきたのか! この転生等と言う偽りの安らぎを与える……そんなまやかしめいた呪法で世界を救済してきたつもりなのか!』
その、アヤメの悲痛な雄叫びに呼応する様に。
再び戦場に溶け込む様に生み出された影の暗殺者が、竜胆の背面を取ろうと、肉薄した……その時。
「私も、貴女も、其の方も。帝の無聊を慰める影絵巻に過ぎませんのに……」
くすくすと何処となく艶のある嘲笑を浮かべ。
バサリ、と桜鋼扇を翻す桜花。
瞬間、都留のユーベルコードによって青白く光輝くオーラを纏った桜鋼扇から戦場全体を包み込む花霞の如き大量の桜吹雪が解き放たれた。
解き放たれた桜吹雪が、両手の武器を光り輝かせたアヤメに纏わりつき、その体を痺れさせようとするが。
『暗殺者として、この程度の痺れで動きを止めはしない!』
そう吠え猛る様な雄叫びと共に麻痺を振り切ったアヤメが、自らの右手に構えたチャクラムの様な短剣を一閃。
闇色に光り輝いたその短剣で空間を断裂する様に切り裂くと同時に、9つの閃刃を作り上げて、桜花を八つ裂きにせんと迫るのに。
「では……桜花さんの桜吹雪だけではなく、これも組み合わせたらどうですか!?」
そう鋭く叫びを上げると、同時に。
ウィリアムが己が宝石『フロストライト』……常に霜の降り続けている魔法石を再起動し。
『スプラッシュ』に永久の霜を纏わせ凍てつかせた氷刃を解き放った。
解き放たれた霜の降りた氷の斬撃が、アヤメに張り付いた桜吹雪を凍てつかせ、その全身に霜を降りたたせたその瞬間を狙って。
「行くぜ!」
――まるで、その隙を狙っていた番犬の如く。
先程噛み砕いた血液パックと飲み干した狐達の血を体内で融合させ、引き締まった体を得た満月がアヤメに肉薄。
アヤメの体に食らい付き引き裂かんと目にも留まらぬ速さでフック付きロープを射出する。
射出された満月のロープが桜花を狙ったアヤメの右手を締め上げる様に絡みつき、その腕を食いちぎらんと満月がその口を開いた時。
『この……!』
アヤメがその満月の首筋に左手の輝き伴う特殊短剣を振るい、その首を筋肉事貫き突き殺さんと……。
「……竜胆さんの読み通り、ですね」
そう嘆息と共に呟いたのは、ネリッサ。
同時にネリッサがピン、と小さな結界石を、左手で弾いて投げ飛ばすと。
その結界石が、ピタリ、とアヤメの左腕に張り付き。
――刹那。
「うぉぉぉぉぉーん!」
――それは、酷く不気味で誰もが異形と感じる様な姿を持った不気味な猟犬の様な。
ある種気持ち悪さを越えた、明らかに異質な猟犬の様な生物がアヤメの左腕に噛みついた。
『ぎゃっ!?』
ネリッサの銃ではなく、召喚獣による奇襲に悲鳴を上げる、アヤメ。
その猟犬の様な異形の生物に左腕の肉を齧り取られて、よろよろと近くの壁に背を預けるアヤメに向けて。
「……お前は、知っているのか?」
そう何処か底冷えのする様な声が上空から降り注ぐ。
『……何?』
その底冷えする様な声の主は、右の青の瞳を輝かせ、都留の呼び出した雷光によって青と赤の綯い交ぜになった輝き伴う刀身の黒剣持つ敬輔。
満月に右腕の肉を、ネリッサの呼び出した猟犬に左腕の肉を喰らわれたアヤメが、その敬輔を視線で殺さんばかりの勢いで睨みつけると。
無数の鎖状の影がアヤメの周囲に出現し、敬輔を縛り上げんと一斉に迫るが。
「おっと、俺達の事を忘れて貰っちゃ困るぜ!」
その数多の鎖状の影を見て。
瞬の月読みの紋章によく似た双月の紋章刻まれた白銀の双剣を構えた朔兎がアヤメの側面から肉薄し。
双剣を打ち鳴らす様に振るって、斬撃の舞を踊る様にアヤメの鎖状の影を牽制し。
――そこに。
「アヤメ、先程のお前の短剣の一撃で、お前の癖は読ませて貰った。だから……その隙をつかせて貰う!」
その叫びと共に。
鎖状の影に隠匿する様に忍ばせていた手枷代わりの短剣を薙ぎ払う様に赤銅と青白い光纏う両手剣の巨大な一閃が戦場を駆けた。
その律の両手剣……『クレプスキュル』の一撃が、アヤメの影状の鎖事、それらの短剣を纏めて叩き落とした瞬間を見て。
「おいおい、真宮達にばかり気を取られていると、ハチの巣になるぜ!」
そんな獰猛な笑いと共に。
ミハイルが連射する機関銃から放たれる無限にも等しい銃撃が、咄嗟に後退する満月や律、朔兎達への追撃をアヤメに中断させたところで。
「花蘇芳が求めた|革命《 ・・ 》とやらの行きついた先は、結局、ダークセイヴァーの吸血鬼……強者による弱者の家畜・隷属化の道であったと言う事をな」
そう冷たく敬輔が呟くと同時に、黒剣を振るった、その瞬間。
唐竹、袈裟、右薙、右斬上、逆風、左斬上、左薙、逆袈裟。
そして刺突の9つの時計回りの剣撃が、颶風と化して、アヤメに迫った。
迫りくる9の斬撃を見て、ぎろりとその瞳を憎悪に滾らせ、辛うじて動く両手の特殊短剣を輝かせて其れに応じるアヤメ。
その目にも留まらぬ斬撃の代償に、失った寿命を吐血させながら笑う敬輔。
「如何した!? 貴様の憎悪は軽くない筈だろう!? この程度か?!」
その言の葉と、ほぼ同時に。
続けて同じ9の斬撃を今度は逆時計回りに振るい、アヤメの斬撃を越えた一撃を叩きつけようとする敬輔。
その合計18の目にも留まらぬ血痕を伴う刃を受けきり、アヤメが不意を打つ様に、その身に纏った忍び装束の帯を……。
「……此処だな。行け、ブネ」
そう淡々と呟いて。
先程まで|それ《 ・・ 》に狙われていた陽太がフリーになった束の間を利用して左手のアリスランスから持ち替えた銃型のダイモンデバイスの引金を引いていた。
そのアヤメに突き付けた銃口の先に描き出されたのは……中央に小竜型の姿をした悪魔の描き出された魔法陣。
その魔法陣に描き出された小竜姿の悪魔……『ブネ』が、己が配下の無数の悪霊と精霊達を解き放ち、アヤメの体を拘束せんと迫るのに。
『くっ……!』
忽ち自らの帯を絡め取られて、その動きを鈍らせたアヤメに向けて。
「……その隙を見逃すわけには行きませんね」
ずっと、その機会をうかがう様に、Hk477K-SOPMOD3"Schutzhund"に装備されたスコープで状況を見定めていた灯璃が冷静に引金を引く。
ミハイルの機関銃による激しい音とは正反対の『静』なる一発の弾丸が、アヤメのその腹部を撃ち抜いていた。
『ガハッ!』
その灯璃の一発の|狙撃《 スナイプ 》で。
アヤメが腹部から夥しい量の血を流しつつ、片膝をついて、何とかその場に着地した――瞬間。
「~! ~!」
美雪の歌声が戦場に響き渡った。
それは、諦めない意志を称賛し、貫くことを願うトッカータ。
美雪のグリモア・ムジカに描き出された譜面に想いを込めて歌い、そして、それを奏でさせる美雪のその声が。
温かな七色のオーロラ風を吹き荒れさせ、都留の強化によって加速していた統哉達猟兵を、更に加速させるのだった。
●
――それはまるで、アヤメの時が止まってしまったかの様。
両腕と腹部に大きな瑕疵を負い、更に戦場に響き渡る美雪のトッカータが重なれば……。
(「如何に暗殺者と言えど、この追撃を捌ききるのは難しいですね-」)
そう義透を構成する四悪霊が1人、『疾き者』の胸中から囁きかける声を聞いて。
「……そうだな。ならばワシが為すべき事は、その動ける範囲を更に狭めていく事であろうよ」
美雪が歌い始める未来を、『黒曜山』の刀身に映し出される事で視ていた義透が、目にも留まらぬ速さで『黒曜山』を一閃する。
美雪の吹き荒れさせた七色のオーロラ風に後押しされる様に放たれた未来への不可視の斬撃が、どうにか立ち上がり態勢を立て直そうとするアヤメの周囲の壁を斬り裂くと。
斬り裂かれた黒壁が、まるで土砂の様にアヤメの頭上から降り注いだ。
『……っ!』
天井の落盤に気が付いたアヤメが咄嗟に転がる様にして躱したそこに。
「逃がすかよ!」
全身の細胞を超活性化させ、引き締まった肉体と化した満月が肉薄し、アヤメの足を食いちぎらんと迫る。
『この……っ!』
その瞳に宿るのは、恐怖か、それとも身を焦がす程に有り余る憎悪であろうか。
何なのかは判断の付かないその黒い炎を灯した瞳で、満月を睨み付ける様にしながら、腰に差していた刀子を投擲するアヤメ。
その、投擲された刀子を満月が無造作にはね除けたその一瞬の隙を突いて、冬季の宝貝に一瞬で消滅させられるのを承知しながら、自らの影の暗殺者を召喚して満月を暗殺しようとするが。
「それはやらせられないわね」
その様子を自らの対情報戦用全領域型使い魔召喚術式で見透かした都留が呟くと同時に。
アドバンスド・リフレクション・ハル(超反応防御船殻/外皮)を億に近い数を展開し、暗殺者が構えた暗器の一撃を完全に因果の彼方へと追いやっている。
「おや……未だ、それだけの余裕があったのですか。意外に最後まで確りと抵抗するものですね」
そのアヤメが足掻く様を冬季が嗤い。
自らが作成した盃型宝貝から生み出された無数の|裸亀貝《 クリオネ 》の発光で、影の暗殺者を焼き切っていく。
『がっ……ガァァァァァァァァァァッ!』
その灼熱する様な痛みを自らの全身で感じ、喘ぎながらも尚、抵抗しようとするアヤメに向かって。
「続けていくわよ」
続けざまにミハイルの機関銃による一斉掃射の背後から、アヤメを捕捉した都留が、アイテールのメイスを大上段から振り下ろし、アヤメの頭部を思いっきり殴りつけた。
強烈な衝撃を頭部に受け、脳震盪を起こされ、思わずぐらりと傾ぐアヤメ。
そのアヤメの光に刻まれたかの様な全身の傷を見ながら。
「まっ……手前が何だろうと、俺にとってはどうでも良いんでね。とっとと花蘇芳の元に送ってやるよ」
そう口の端に笑みを浮かべて。
ミハイルがUKM-2000Pから無数の銃弾を叩き付ける様に解き放ち、それがアヤメを容赦なく撃ち抜いていく。
銃声の薬莢が、戦場を激しく叩く音を響かせるその間に。
(『未だ……未だ……!』)
――|復讐《 ・・ 》を果たすこともなく、此処で殺されてやるわけには行かないの!
その執念とも呼べる凄まじき憎悪と共に。
|竜胆《 ・・ 》の影の中に、アヤメが影の暗殺者を召喚し、その存在に竜胆を共倒れ覚悟で暗殺させようとするアヤメだったが。
「……此処まで激しい戦況であれば、影の中に隠れる手法を取る可能性は、私にも予測できます!」
その叫びと、共に。
その手のシルフィード・セイバーを逆手に構え直した奏が、竜胆の影の中に召喚された影の暗殺者に向けてその刀身を突き出した。
冬季が呼び出した宝貝による戦場を照らし出す眩い光、そして竜胆の圧倒的な経験に基づいた予測。
そして……何よりも、その気持ちが理解できるが故に、彼女を『止めたい』と願う奏の想いが、シルフィード・セイバーに投影され。
シルフィード・セイバーに纏われた風の精霊達が、過つ事無く、最後の影の暗殺者の左目を貫いた……その時。
『がっ……!』
アヤメの左目にもまた鋭い痛みが走り、その瞳から鮮血が溢れ出した瞬間を狙って。
「アヤメ様。もうこれ以上苦しまずにおやすみなさいませ」
そう祝詞に乗せて歌う様に。
言葉を紡いだ星羅が美雪のオーロラ風に後押しされる様に、調律の一矢を再び解き放つ。
解き放たれたその一矢が、アヤメの体を横殴りにする様に射貫いた次の瞬間。
「あなたは、これだけの攻撃を受けても尚、戦い続けるのですか。如何して、それ程までにして戦い続けるのです? それが、貴女の本当に望んだ未来なんですか!?」
そう問いかける様に叫んだ瞬が、六花の杖の柄をトン、と大地に叩き付けると。
氷の結晶の様に美しく透き通った六花の杖から解き放たれた氷結の風がアヤメの全身を覆い尽くす様に纏い、その体を凍てつかせていく。
瞬の氷風によって既にその身を凍てつかせ、その手を震わせるアヤメ。
けれども凍てついた筈のその両手で尚も握りしめていた異様な形状の短剣を振るい、18の斬撃を激昂と共に瞬に向けて解き放とうとした瞬間だった。
「……このタイミングでしたら、確実でしょう」
そう竜胆が|自身の経験《 ・・・・・ 》から導き出した応えを言の葉に変えて誰に共無くそう呟いた時。
『な……に……?』
声を震わせながら、瞬が生み出した氷風の棺から辛うじて脱出し、反撃を図ろうとしたアヤメの足下に。
「もうこれ以上、あなたの好きにはさせません」
その呟きと共にウィリアムが『スプラッシュ』の先端を突きつけ……そして。
「……Stone Hand!」
そう、鋭くウィリアムが呪を唱え。
「……もう一度だ、行け、『ブネ』」
陽太が、一度姿を眩ました様に見せた『ブネ』を再召喚したのは。
『何を……』
そうアヤメが呆然と呟いた、その時には。
アヤメの足下から、岩石で出来た大地の精霊の腕が突き出し。
『……?!』
ガチリ、とアヤメの体を掴み取り、その動きを完全に封じ込め。
そこに、小竜姿の悪魔『ブネ』と『ブネ』の配下たる精霊と悪霊達が一斉に群れてアヤメにたかり、アヤメの行動を完全に縛り上げた。
――その状況を好機と見て取り。
「総員、一斉攻撃!」
ネリッサが号令を下しながら、再び懐から取り出した結界石を取り出してピン、と弾き、今度はそれをアヤメの左足に張り付かせ。
「オラオラオラオラオラ!」
――ドルルルルル! ドルルルルル!
と薬莢が地面に叩き付けられる音と共にミハイルが全力で機関銃を連射。
連射された無数の銃弾が、ウィリアムと陽太によって拘束されたアヤメを撃ち抜き。
更にネリッサの解き放った結界石が、彼女の左足の脹ら脛を喰らい。
「人の姿だろうが、何だろうが、問答無用で喰らわせて貰うぜ!」
その雄叫びと共に。
引き締まった肉体を持った満月が、その手の記憶消去銃を連射し、その右腕の骨を撃ち抜きながら、アヤメ右の脹ら脛の肉を喰らった。
四肢の肉を喰らわれ、陽太のブネ達、そしてウィリアムの呼び出した大地の精霊の腕によって完全に拘束され、どう、とその場に倒れ込むアヤメ。
既に彼女は、ゼー、ゼー、と荒い息を肩でついている。
「……ふむ。既に限界が来ている様ですね」
そのアヤメの様子を見て、冬季が淡々と嗤うのを見て。
(「……ああ……花蘇芳様……|我が主《 ・・・ 》……申し訳ございません……」)
そう内心で、アヤメが自らの憤怒と憎悪に身を焦がされ自らの命が消えた時の絶望を思いながら。
『こんな所で……あのお方の……花蘇芳様の宿願を……果たし得ぬままに果てていく等……! この四肢もがれ、首のみになっても、私は最期まで貴様達に食らいつく――!』
その凄まじい執念とでも言うべき復讐心を殺意へと変えて呪詛の様に吐き出しながら、憎しみの眼差しを叩き付けてくるアヤメの瞳と悲壮な姿を見て。
「……復讐というのは、何処かで断ち切らなければ、延々と連鎖します」
――けれども、今、自分達は、彼女をウィリアムの言葉を借りれば、『討滅』する事で、彼女に決着を付けようとしている。
果たして、それが……。
「今回の件では、正しい解決法なのでしょうか……?」
ネリッサがそう、誰に共無く問いかけた、その時。
「……ならば、ネリッサさん。彼女に止めを刺す前に、少し私に話をさせてくれないだろうか?」
そう、グリモア・ムジカに自らの奏でるトッカータを奏でさせ続けながら。
問いかける様な美雪の、それを聞いて。
「何か、考えていることがあるのね」
そう端的に確認を取ろうとする都留のそれに、美雪がああ、と首肯した。
「死ぬにせよ、転生するにせよ……彼女には確認しなければならないこと、そして……聞いておいて貰わねばならないことがあるからな」
その、美雪の沈痛そうな表情と共に告げられたそれに同意する様に。
「そうだね、美雪。アタシも、彼女が此処で只死ぬだけという『最期』を迎えさせるのは、正直気が引けているんだよ。こいつの気持ちは、理解できるからね」
そうそっと溜息を漏らしながら響が同意の首肯を返す。
そんな響の言葉に籠められた深い想いが、『魂人』として蘇った律に分からぬ筈もなく。
故に、律もまた、複雑な表情を浮かべながら、これ以上の追撃を止めた。
「俺は、花蘇芳の|女《 イロ 》がどうなろうが構わねぇが……まっ、良いぜ。その分、後でたっぷり弾んでくれや」
その美雪と響の言の葉を聞いたミハイルは、そう鼻を鳴らしながら、機関銃を撃つその手を止める。
そのミハイルの目は、ネリッサ……彼の所属するSIRDの局長の方へと構わないか? と言う様に向けられている。
そのミハイルの視線を感じ取ったのであろう。
「……そうですね。思うところがあるのであれば、きちんと伝えておいた方が良いでしょうね。……悔いなく今の彼女の在り方の最期を看取るその為にも」
ネリッサが追撃中止の手信号を出したのに気が付いた灯璃が、捧げ筒の礼を取りながらそう応えると。
「……感謝するよ、灯璃さん」
そう美雪がネリッサ達に一礼をし。
それから……徐に、こう問いかけた。
「アヤメさんとやら。貴殿は、花蘇芳さんが巴里にて盛大に死者の尊厳を踏み躙った事、存じていないのか」
そう美雪に問いかけられたアヤメは表情を青褪めさせながら……。
●
『……馬鹿な! あのお方が、大を救うために小を犠牲にする欺瞞に満ち満ちた帝都桜學府の様な、愚かな真似をする筈がない!』
と大きく頭を横に振っていた。
本当に、知らないのか。
それとも、嘘をついているのかどうかは分からないけれど。
既に戦闘不能のアヤメのその声は、反射的な悲鳴の様だった。
(「此は……知らないのか? それともその犠牲を、犠牲と思ってもいないのか……?」)
そんなどちらとも取れるアヤメの反応に美雪がトッカータを奏でさせ続けながら、目を細めて言葉を続ける。
「……花蘇芳は、嘗て巴里のカタコンプで、革命とやらで救うべき、犠牲となった少数を人為的に影朧化させて、自らの手で蹂躙したことがあるのだよ」
「……グラッジパウダーの事、ですね」
その美雪の述懐を聞いて、そう小さく相槌を返したのはウィリアム。
(「今だと一般人を人為的に影朧化する事の出来るとされたあの生物兵器より、逢魔が辻そのものを生み出す逢魔弾道弾の方が危険だとは思いますが……」)
――だが、それが使われたことがあるのは事実。
既に2年以上前の事ではあるけれども。
そのグラッジパウダーによって……花蘇芳は自らを影朧化し、更に……。
「既に死に、安らかな眠りについていたはずのカタコンプの死者達を無理矢理影朧化させて、花蘇芳は私達超弩級戦力へとそれを嗾けたのだ」
その美雪の『死者であった弱者』を虐げた花蘇芳の話を聞き。
『ばっ、馬鹿な! その様な事を、あのお方がする筈がない! あのお方は弱者を真の意味で救済することを願っていた! その為に必要な戦力を整えるべく巴里へと渡ったのだと……!』
と、動揺に色めき立つアヤメがそう咽び叫び続ける姿を見て。
ふと、思うことがあったのだろう。
では……と、灯璃が静かに、問いかける様に言葉を紡いだ。
「その必要な戦力を、花蘇芳がどうやって整えようとしていたのか、それを考えたことはありますか? あの当時であれば、|黯《 あんぐら 》党に力を借りるか、或いは、何らかの形で自分本位に操れる兵力を作り出す方法が無ければ、革命など行うことは出来なかったでしょう。その為に……嘗て死した者達を利用する為の道具を、もし花蘇芳が当時持っていたのだとしたら?」
その灯璃の問いかけに。
アヤメが衝撃に打ちのめされた様な表情を浮かべ、同時にゴボリ、と口から血の塊を吐き出している。
それは既に積み重ねられてきていたアヤメの深き瑕疵をこれ以上無い程に示すものだ。
そんなアヤメをじっと見つめながら美雪が静かに嘆息した。
「……そう言う意味では、花蘇芳がその遺志を受け継いだ、と言い張り続けていた紫陽花さんの方が、余程筋を通していたよ。彼は……紫陽花さんは、己が覚悟を示すために共に死者達を弔う為に自ら影朧甲冑に搭乗し、傷ついた人々を率いて最期まで私達と戦ったのだからな。少なくとも、|死者を辱める《 ・・・・・・ 》様な真似は、紫陽花さんは行わなかった」
『……紫陽花閣下……か』
花蘇芳を愛しながらも、その死への復讐のために自ら命を絶ち、影朧と化した女であるからだろう。
アヤメも又、紫陽花の名前はやはり聞き及んでいた様だ。
その、アヤメの様子を見て。
「……君の想いは、何処にある?」
そう静かに問いかけたのは、竜胆の力を借りて、竜胆や仲間達への被害を最もよく抑えた、統哉。
『……私の想い……それは……花蘇芳様の……仇を……!』
その絶望的なまでの憎悪の気配を発しながら。
呪詛の様に呻くアヤメのそれに統哉がつまり、と軽く頭を横に振る。
――漆黒の大鎌の刃から宵闇を斬り裂く一条の流星の如き煌めきを発させながら。
「つまり、アヤメ。君の|本当の望み《 ・・・・・ 》は暗殺ではなく、花蘇芳の為の復讐にあるんだな?」
――その為の手段としての最善が、暗殺だった。
けれども……。
「……元々、彼女は普通の人間でした。ユーベルコヲド使いですらありませんでした」
沈痛そうに、『人』であった頃の彼女のことを思い出す様に。
そう粛々と言葉を紡いだのは、自らの過去の記憶から名簿とプロフィールを洗い出した、竜胆。
その竜胆の言葉にアヤメがぎくり、と表情を強ばらせる。
『貴様……!』
今にも爆発してしまいそうな程に狂おしい憎悪の念。
その憎悪の念を真正面から受け止めながら……竜胆は申し訳なさそうに、彼女へと一礼する。
「私達、『帝都桜學府』が目指す道は、不安定な存在である『影朧』達の救済です。影朧達を救済することで、人々も守ることが可能です。ですが、それは逆に言えば……自らの意志で影朧になろうとする『人』の命を救済する事迄は出来ないとも言うことは出来るでしょう」
――その竜胆の言の葉は、まるで何かに思いを馳せているかの様で。
いや……もしかしたら。
竜胆は、嘗ての自分の犯した『罪』を今、また犯してしまったと言う感傷を抱いているのかも知れない。
無論、それを表情に見せることは全くないけれども。
――と、此処で。
「……さっき灯璃達に止めを刺させない為に言ったけれど。私はアンタがそこまでして花蘇芳の復讐を果たそうとする気持ちは分かるんだよ。……アタシだって、同じだから」
――だって。
今は魂人として蘇ってきた律を……自分の夫を。
殺した獣に娘達と共に自らの手で止めを刺し、復讐を果たした事実があるのだから。
そしてそれは……。
「……家族を殺したその相手に復讐した以上、俺も全く分からない、とは言えないな……」
そう自らの手に持つ黒剣を両手使いに構えて祈る様にその柄を握った敬輔が呟く。
――その黒剣の中に眠る赤と青と白……母と、父と、妹……オブリビオンによって奪われた家族達の魂の事を想いながら。
「……」
その響の言葉に対して、律は何も言えず、そっと顔を下げる。
そんな『養父』である律が孕む深き葛藤に、大丈夫です、と言う様に。
『養子』である瞬が、そんな律の肩に、支える様にその手を置いた。
そんな『養父』であり、『師』でもある瞬の姿に、星羅が息を飲み。
その星羅を愛する朔兎もまた、想うことがあるのか、口を噤んだまま、そっと星羅の肩に手を乗せる。
「……」
陽太……『零』はそんな、アヤメ達の姿を淡々と見つめていた。
今なら何時でも殺すことが出来るが……だが、それを|してはいけない《 ・・・・・・・ 》と言う『陽太』の胸中での囁きに。
(「そうだな……陽太」)
そう小さく『零』が首肯し、息を飲んでその光景を見守っていると。
「……アヤメ」
淡々と切りつける様に。
代償として支払った寿命を血として口から吐き捨てながら、敬輔が言葉を紡ぐ。
「……貴様は何故、この世界に『転生』と言う概念があるのか、考えたことはあるのか?」
その、敬輔の問いかけに。
『あれは……忌むべきものだ! 本当に大切な何かを全て、『無くして』しまう……そんな偽りの安寧の安らぎに過ぎぬ……! そして、そんな『転生』等と言う弱者のことを忘れさせるシステムを守り、偽りの平和を騙り続ける者達に、花蘇芳様は|殺され《 ・・・・ 》、忘れさせられたのだ……!』
――例え、他の者達から見たら、その『道』が間違っていたのだとしても。
その間違った『道』を進む者を愛する者達がいるのは必定。
だからこそ、それを忘れさせる|転生《 ・・ 》は、忌むべきものだ。
死者の無念は、その痛みは……。
『永遠に忘れられてはならないものだ……! それを……!』
「……ならば、尚のこと貴様は竜胆さんを殺しに来るべきではなかった」
その言葉を正面から受け止めながら、淡々と、何処か冷淡に。
微かな憐憫と共にそう告げた敬輔のそれに、何、と目を見開くアヤメ。
『貴様……それは、どう言う……!』
そのアヤメの言葉を遮る様に。
「……成程」
合点がいった、と言う様に首肯したのは、冬季。
その口元に嗤いを浮かべてアヤメを見、それから竜胆を見てから再びアヤメへと視線を戻し、冬季が続ける。
「竜胆さんは『皇族』ですからね。故にその命は不老不死……ある意味で永遠の存在とも言えるでしょう。そして竜胆さんは、自分がそうであることを分かっているからこそ、貴女方の記憶を、誰かに殺されるであろうその時まで記憶し続けることになります」
――もしかしたら、『皇族』の特異性自体が、その内失われる可能性もありますが。
その言葉は流石に口に出すことなく、内心で呟くに止めたけれども。
それでも、冬季が嗤いと共に放ったその言葉は……。
『……!!!!!』
アヤメを絶句させ、目を見開かせるには十分だった。
そんなアヤメの真正面に。
統哉がゆっくりと回り込み、それから頽れているアヤメに目線を合わせる様に片膝をつき、その赤い瞳で真摯にアヤメを見つめて続ける。
「……転生は、本当は、優しい嘘なのかも知れない」
――けれども……それでも。
「でも……幻朧桜によって浄化された貴女達『影朧』の魂は……今は、魂の輪廻の中にいるであろう花蘇芳の魂は……」
――貴女が浄化され『転生』されたその先にきっと未だいるであろうから。
――だから。
「俺達は、君を輪廻の輪の中へ……恐らく花蘇芳が未だいるであろう『魂』のあるその場所に君を送り届けたい」
その統哉の意志に……想いに応える様に。
「ああ……同感だよ、統哉。この子には、せめて安らかな世界の輪廻の輪へと戻って欲しい、とアタシも想う」
そう響が言の葉を紡いだ――その刹那。
統哉の漆黒の大鎌『宵』と。
響のブレイズブルーがまるで共鳴する様な輝きを放つ。
――それを貫き通すのは、彼女の意志を無視した……エゴに近い行為であるのかも知れないけれど。
けれども……どんなに偽善的であろうと、無かろうと。
「俺達が、望み、選び取る道を以て、君の魂を、心を、少しでも救うことが出来るのならば……」
そう締めくくる様に統哉が最後の言葉に願いと祈りを籠めて紡ぐと同時に。
その統哉の意志に呼応する様に、自らの内に秘められた熱き情熱を籠めたブレイズブルーを響が両手で構え。
――統哉が、アヤメの邪心……『復讐心』を断ち切る様に流星の如き煌めきと共に『宵』を一閃し。
――響が、青白く燃え盛るブレイズブルーを赤熱させ、赤き浄化のオーラと共にそれを突き出す。
――それは、統哉と響の『邪心』のみを断つ一撃。
その一撃が、傷だらけで瀕死状態の『アヤメ』の体を薙ぎ、突き立てられるのに合わせる様に。
「影朧は如何なる時であったとしても、転生されるべき存在なのです。それこそが、私、|桜の精《 ・・・ 》の役割で在り、それを望む誰かがいる限り、私が果たさねばならぬ使命なのです」
そうまるで祝詞の様に言の葉を紡いだ桜花が桜鋼扇を翻しその場でしずしずと自ら舞った時。
花霞のごとく大量の桜吹雪が吹き荒れて、それが『アヤメ』……『影朧』を
周囲に咲く幻朧桜へと取り込ませ、そのまま『アヤメ』という存在を、浄化――『転生』させたのだった。
●
――その統哉達が桜花と共に選んだ結末を見て。
「……『転生』させたのか」
そう陽太が誰に共無くポツリと呟く。
(「……アヤメが望んでいたのは復讐であり、『転生』でも、その『記憶』を忘れることでもなかった」)
その気になれば、統哉達の手伝いを出来たかも知れないが……。
「それを彼女自身が望んだ訳ではない以上……俺が何かをすることは出来なかったな」
それが正しい事なのかどうかは、陽太にも、自分にも分かるまい。
只、分かるのは……統哉や響には依るべき信念……自らの想いを貫く『覚悟』があったと言う事だ。
「それが本当に正しかったのかどうかは……俺には分からないが……」
――それでも。
アヤメの『処遇』を一任する事しか出来なかった……しなかった自分は、果たして正しかったのであろうか。
そんなことをぼんやりと陽太が思う、その間に。
「……終わりましたね」
その結末を見届けて。
淡々と、少し疲れた様な溜息を漏らすネリッサの声が虚ろに響く。
(「これが、果たして本当に最善の結末……だったのでしょうか?」)
――分からない。
彼女の望みが『復讐』であり、その連鎖を断ち切るために、その魂を『浄化』……その記憶を無かったものにすることが果たして正しかったのかどうか。
そんな、ネリッサの誰に共無く呟いたそれを耳にして。
「……統哉さん達が、影朧達を転生させることが出来なければ、アヤメさんは、此からもずっと影朧として、生き続けることになります」
そう、ふとした調子で。
淡々と言の葉を紡いだのは、竜胆。
その竜胆の呟きに気が付いたネリッサと陽太が、竜胆の方を向くと。
竜胆は此で良かったのだ、と言う様に静かに息をつく。
「私達、帝都桜學府の理念は、影朧の『救済』です。討滅ではありません。……ただ、彼等の澱み、止まってしまった魂を再び輪廻の輪に戻す……それこそが、私達『帝都桜學府』が影朧達に出来る、最善の『救済』です。である以上……」
――統哉さん達の選択を、私は支持します。
「その上で……もし先程の転生に負い目を皆様が感じるのであれば、それは貴女方に協力して頂いた私達『帝都桜學府』が負うべき責任であり、罪です。……貴女方が一切気に病むことはありませんよ」
そう穏やかに、しかし、凜とした様子でキッパリと告げる竜胆のそれを受け。
「……ありがとうございます、竜胆さん」
そう灯璃が微かに小さく首肯したところで。
「竜胆さん、ご無事でしたか!?」
息を詰めていた奏が息を吐いて問いかけるのに、竜胆がはい、と首肯で返す。
「まっ……当然だよな? 手前が生きてなきゃ俺達の|必要経費《 ・・・・ 》の請求先が無くなっちまうぜ」
そう口の端に笑みを浮かべて、懐から取り出した煙草を美味そうに一杯吸うミハイルのそれを見て、ネリッサが思わず苦笑を零した時。
「竜胆さん……確認がある」
不意に、美雪がそう竜胆に尋ねると。
「何でしょうか?」
姿勢を正す様にした竜胆がそう問い返してきたのに、美雪が小さく頷き、軽く唾を飲み込み、そして尋ねた。
「……念のためお聞きするが……アヤメ殿を唆した|彼《 ・ 》とは、誰だ?」
その美雪の問いかけに。
竜胆がそれは、と静かに応えを返そうとした、その時。
「……|黯《 あんぐら 》党首魁、本田・秀和でありんすよ」
――不意に。
灯璃の迷宮が解除されたその瞬間を狙っていたかの様に、琴の音と共にそんな解が美雪達に掛けられた
その声に聞き覚えのあった者達が其方を振り向き、それを代表するかの様に……。
「……あなたでしたか、|白蘭《 ・・ 》さん」
そうネリッサが呟くと、白蘭と呼ばれたその女性が久しぶりでありんすな、と微かに相好を崩していた。
「白蘭さん。どうやら、本田・秀和の居場所の特定が完了した様ですね」
そう確認する様に問いかける竜胆のそれに。
「遅くなってあいすいません、竜胆はん。雅人が別件の調査に関わっている影響もありんすので、到着が遅れてしまったでありんすな。まあ……美雪さんが諜報部に根回ししておいてくれたお陰で、此方に来ることが出来たでありんすが」
その白蘭の説明に。
「……連絡を入れていなかったら、本当にどうなっていたんだろうな……」
そう思わず溜息を漏らす美雪に苦笑を零し。
「では、白蘭さん。申し訳ございませんが、皆様を案内して頂けますでしょうか? 後の処理は、私がしておきますので」
その竜胆の命令とも取れるその言葉を聞いて。
「……あいわかりましたわ、竜胆はん。皆様、お力添えお願いできますかえ?」
――|黯《 あんぐら 》党首魁、本田・秀和の撃破のお力添えを。
その白蘭の問いかけに。
「……やれやれ。こいつは超過勤務手当位は付けて貰いたいところだぜ」
そう煙草を吹かしながら笑ったミハイルが問いかけるのに。
「無論、つけさせて頂きますよ」
同様に微笑を浮かべてそう返した竜胆のそれにミハイルが良いねぇ、と首肯を返し。
「どちらにせよ、このテロルの首魁を倒さなければ、終わりませんからね。皆さん……行きましょう。白蘭さん、案内をお願いします」
そうウィリアムが言葉を紡いで白蘭に案内を請うと。
「無論でありんす」
そう首肯した白蘭が琴を爪弾きながら歩き始めるのを、ウィリアム達猟兵が後を追って向かって行った。
――この事件の元凶……本田・秀和の居る、その場所へ。
大成功
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第3章 ボス戦
『黯党首魁・本田英和』
|
POW : 汝の業は無力なり
対象のユーベルコードに対し【それらを喰らい破裂する使い捨ての悪魔 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
SPD : 『何故、欺瞞に満ちた世界を守る?』
対象への質問と共に、【邪悪なる混沌の光 】から【盟約の妖獣】を召喚する。満足な答えを得るまで、盟約の妖獣は対象を【呪術、爪牙】で攻撃する。
WIZ : 世を憎む者共よ
いま戦っている対象に有効な【悪魔化した影朧 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
イラスト:ひなや
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「国栖ヶ谷・鈴鹿」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
――白蘭と共に超弩級戦力達が、|黯党《 あんぐらとう 》首魁のいる、その場所に向かっている。
そこは、無限にも等しい程に満開に咲き誇る幻朧桜の桜吹雪に、視界を遮られる様な、そんな場所だ。
その戦場で、自らの操る|狐《 ・ 》と共にいた男が、瞑っていた双眸を開き、ふん、とつまらなそうに鼻を鳴らしていた。
『……奴を殺すことが出来る程度には戦力を渡してやった筈だが……それすら出来なかったか、無能者め。が……所詮借り物の悪魔など、その程度の存在か』
そうはっきりと毒づきながら。
その男……本田・秀和は頭を振りつつそっと嗤う。
『まあ、良い。猟兵達に|有効《 ・・ 》になるであろう存在を用意するだけの|時間《 ・・ 》を稼ぐ役には立ったのだからな』
そんな嘲弄と共に。
本田・秀和が|それ《 ・・ 》を作り上げ、自らの周囲にその存在を配置した、その刹那。
――ポロン。
不意に、何処か物悲しげな琴の音色が、本田・秀和の鼓膜を叩いた。
気が付いた秀和が其方を見れば、そこには……。
「……愛する男を持った女を利用するその腐れた魂を……妾が見逃すと思いなんすか、影朧」
そう、明確な秀和への敵意を込めて。
キッパリと言の葉を紡いだ琴持つ女……白蘭を見て、秀和がはん、と嘲笑と共に鼻を鳴らす。
『今は亡き、使い捨てに過ぎぬ男を愛し……そしてのうのうと生き残り、偽りの救済を宣う帝都桜學府に下った裏切り者か。……あの時、貴様にスパヰ甲冑を与えた、|あのお方《 ・・・・ 》の面汚しめが』
その、秀和の嘲弄と共に放たれた言葉を聞いて。
白蘭は、微かに痛ましげな表情を浮かべるが……程なくして、頭を横に振った。
桜吹雪がそんな白蘭の髪を浚っていく。
「誠に残念な話ではありんすが……妾は、『人』なのでありんすよ、|黯党《 あんぐらとう 》首魁、本田・秀和。それに……確かに紫陽花様はあの折、影朧甲冑と言う兵器を譲り受けたでありんすが……それでも紫陽花様は、あくまでも1人の『将』として、紫陽花様なりに愛したこの世界を守る為の戦いに殉じたのでありんす」
――そして、その紫陽花の覚悟をも、帝都桜學府諜報部の竜胆に協力してくれている超弩級戦力達は上回る覚悟と力を以て紫陽花を下し。
その上で自分……|白蘭《 ・・ 》と言う1人の人を『生かす』道を選んだ。
「その『道』の理由が、貴様達に繋がる為 の手段に過ぎなかったとしても……妾の命は救われた。只、その1つだけで……妾は、超弩級戦力と竜胆さんに借りがあるのでありんすよ」
――そんな自分を『師』として慕い、自らが『琴』を教えることとなった桜の精。
影朧達に転生と言う名の救済を望む心優しき愛おしきあの娘が選んだ道の後押しをしてやることが出来ない程、『妾』の心は強くなかった。
――つまり。
「妾は結局の所、只の1人の『人』でありんすよ。それ以上でも、それ以下でもないでありんす。最も、それが正しいのかどうかは定かでは無いでありんすが……只、『愛』を知り、それに殉じる『人』に過ぎぬのでありんす」
――だからこそ。
白蘭には、目前の秀和を赦すことは出来ない。
――何故ならば。
「|主《 ぬし 》は、そんな『女心』を解することも無く利用して、徒にその命を費やさせた……人にとって害為す『影朧』以上の存在では無いでありんすからな」
そう口の端に挑発的な笑みを称えて。
告げながら己が手で琴を構え、それを爪弾こうとする白蘭を見て。
『……ふん。所詮貴様も、忌まわしき幻朧桜の呪縛から逃れることの出来ぬ愚か者、と言うことか』
――であれば目前の愚者は、超弩級戦力達に協力する……。
『……我等の敵にも等しい、忌まわしきあやつと同じ……我等が粛正の対象に過ぎぬと言うことだな』
――なれば、此処で。
『その命、終わらせるとしよう。我等に楯突く愚かなる帝都桜學府の狗と……』
――あの、忌まわしき。
『|あのお方《 ・・・・ 》が望む|予知の力《 グリモア 》に導かれたのであろう、超弩級戦力達よ』
――それが。
|黯党《 ・・ 》首魁、本田・秀和による……戦いの引金を引く言の葉だった。
*第3章のルールは下記となります。
1.このシナリオの|黯党《 あんぐらとう 》首魁、本田・秀和は、絶対先制で下記UCを使用します。
UC名: 世を憎む者共よ
いま戦っている対象に有効な【悪魔化した影朧 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
このUCは反射・無効・複製系のユーベルコードの対象になることは無く、同時にこの絶対先制によって召喚された影朧にのみ下記ルールが適用されます。
ルール名:|暗殺者《 アサシン 》
効果:絶対先制で召喚された影朧は、死角や超遠距離から攻撃を行う。
その為、このUCで召喚された影朧を撃破することは不可能です。
その状況で、一方的に攻撃を与え猟兵達を戦闘不能に追いやるダメージを与えてきます。
但し、この影朧は本田・秀和を撃破すれば自然消滅します。
その為、絶対先制の状況で攻撃・反撃が不可能な影朧の攻撃に対してどういう対抗策を講じるのかは、プレイングボーナスとなります。
尚、この影朧の武器は銃剣と機関銃、また、状況によっては光線等も使用してくることがあります。
2.このシナリオでは白蘭と言うNPCが参戦します。
白蘭は自衛を行う一方で、下記UCのどちらかで猟兵達を支援してくれます。
a.白蘭の魅惑(【魅惑の視線】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能))
b.白蘭の琴弾(【平和を願う白蘭の琴に惹かれて共に戦う仲間】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[平和を願う白蘭の琴に惹かれて共に戦う仲間]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化)
特に猟兵達の指示が無ければ、白蘭はbのUCを使用していると判定します。
但し、琴を弾き続ける白蘭は自衛が難しくなるので、もしかしたら彼女を援護することはプレイングボーナスになるかも知れません。
尚、白蘭のaのUCに影朧達が抵抗する時、影朧達はそれに気を取られない事は出来ない様です。
3.白蘭をこの戦場から撤退や避難させることは出来ません。
4.この地域は幻朧桜が咲き乱れておりますが、戦場は広くある程度自由に行動を行うことが可能です。
5.第1章・第2章の判定の結果、この戦場には一般人の様な力無き守るべき対象は存在しなくなりました。
その為、目前の秀和との戦いに猟兵達が集中することが可能です。
――それでは、最善の結末を。
※追記
白蘭は基本的には自衛可能ですが、死亡する可能性がございます。
大変、失礼致しました。
御園・桜花
※妄言頓痴気節
敵眺め
「男装女子ではない、と言う事は、今上帝が心傾ける方ではないと言う事ですね。安心しました」
「今上帝にとって、貴方よりソウマコジロウさまの方がずっと大事な方ですとも。だって貴方…あの方が引かれた青写真の外に、一歩も出ていないではないですか」
「借り物の力に縋り掌の上で思った通りにしか動かぬ駒と、飛び出し自らに挑むもの。無聊を託つ方が何方に心傾け大事にするか等、一目瞭然でしょう?」
微笑む
「無聊を慰める為ですもの。転生でも其の儘でも構いません。貴方の蒙昧ぶりを楽しんでいただけるよう、何度でも戻ってらっしゃい。其れとも」
「黯党の党首に収まりながら、救われたいと仰る?」
微笑み吶喊
UC「精霊覚醒・風」
時速760kmの飛翔能力と回避率10倍得る
桜鋼扇使い本田と零距離で殴打戦
空中戦や空中機動駆使
敵の攻撃は第六感や見切りで躱し
カウンターで追撃叩き込む
本田だけに聞こえるよう笑顔で
「貴方も私もあの方の前では等しく塵芥。ですから私、決めましたの。目に付く塵芥になって何時か御目通りの機会を得ると」
ウィリアム・バークリー
おやおや、影朧の首魁が偉ぶったことをいいますね。
この現世は生きる者の世界。死に損なって彷徨う影朧は速やかに転生することをお勧めしますよ。
それが世界の理です。
狙撃なり死角からの攻撃なり、厄介ですね。
「範囲攻撃」で戦場全体を「全力魔法」「オーラ防御」の「結界術」で覆い、超遠距離からの弾丸で貫けないようにしましょう。死角からの攻撃は、仲間と背中合わせになって、防ぐ方針で。
では、Permafrost。「氷結耐性」「寒冷適応」「武器に魔法を纏う」で環境に適応し、強化された『スプラッシュ』の「凍結攻撃」を繰り出しましょう。
なぜこの世界を守るか、ですか? 守るべき人々がいるというのでは答えになりませんか?
ネリッサ・ハーディ
【SIRD】のメンバーと共に行動
…お久しぶりですね、白蘭さん。健勝そうでなによりです。昨日の敵は今日の友、と言ったところですね。あなたを護衛させて頂きます。
白蘭の傍でG19Cで射撃を行いながら、UCの炎の精を召喚、うち約半数を使い白蘭を守ると同時に、残り半数は本田に対する牽制及び攪乱目当ての攻撃を行う。暗殺者に対して有効な対抗策とは言い難いですが…多数の炎で多方向から牽制攻撃を仕掛ければ、狙いが甘くなる…かもしれません。
革命とか救済とか、大言壮語をしている様ですが…あなたのやっている事は、人の弱みに付け込んで、利用しようとしているだけ。幾ら立派な御託を並べても、所詮卑劣漢の戯言に過ぎません。
烏丸・都留
【SIRD】
WIZアドリブ共闘
アイテールの護衛隊を縮小召喚味方の死角に配置
懐中羅針儀で敵を死角も加味し特定、味方貸与の戦闘支援ユニットによる機動力/スキル/リアルタイム情報連携強化
時騙しの懐中時計、フェノメノンアクセラレーターで能力超向上
超反応防御船殻/外皮の事象改変型結界(敵への一方通行のワームホール型等)を多重展開(約3億枚迄対応可)し味方含め射線感知/防御
前章UC効果で治療後、機を見てUC変更
「害意はその指示者に返すわ…」
CICユニットによる即時配置転換能力で接敵中や危機状態の味方とアンチ・アストラルマイン(量子/霊子機雷)等を入替、自爆/不意討ち等
アイテールのメイスは距離を無視した攻撃
ミハイル・グレヴィッチ
SIRDとして行動
ふん、あいつが|黯党《あんぐらとう》の首魁か。花蘇芳と同じで、いかにも早死にしそうなツラしてやがる。黯党だか何だか知らねぇが、所詮手前らも、現実が気に食わないからって周りに八つ当たりしているだけだな。そんなに気に食わねぇなら、あの世に送ってやらぁ。
他の猟兵がヤツと交戦している隙に、気づかれない様に隠れながら狙撃ポジションに着き、タイミングを見計らってUCで狙撃。
ま、今回は|人間サイズの標的《マン・ターゲット》だからな。いつもみたいな、手足の関節やらカメラアイやら、針の穴に通す様な真似はしなくて済む分、気楽だぜ。
そんじゃ、|一撃必殺《ワンショット・ワンキル》といこうか。
灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員として密に連携
この手の思想テロ犯は、やっぱり人の話を聞きませんね(やれやれと呆れ顔しつつ)
まずは先制で動く暗殺者影朧へ即応して防御態勢を。
指定UCで味方や周辺の生物達の視界を利用し全周警戒し、暗殺者の動向を集中監視(情報収集・見切り・戦闘知識)超遠距離発砲ならば、必ず先制されたとしても着弾まで一瞬時間があるので、射撃体勢or発砲炎を認めた瞬間に迎撃射撃。自動小銃の手数で撃ち落とすのに集中し味方の防御に専念します(スナイパー・先制攻撃)
味方の防御壁・結界が上手く機能し始めたら、より近距離を集中警戒し、防御にあたる味方と連携し死角をカバーできるようにし、迎撃戦闘。死角から一気に斬り込めないよう牽制射撃し、敵首魁への攻撃に当たる仲間がなるべくフリーになれるよう支援します
思惑の為に平然と方便を使った上に、平気で部下を捨て駒する様な詐欺師な影朧なんて、存在自体が欺瞞も良い処でしょう。そんな人達の思想と日々、真面目に生きてる一般市民の生活を天秤にかけるまでもありませんよ?
アドリブ歓迎
大丸・満月
【SIRD】で参加
少なくとも白蘭は生かさなきゃなんねぇってのと、その選ばれた者ツラしたヤツは殴んなきゃいけないのは分かった。
先制攻撃については他の皆の防御策と【気配察知】で出来るだけ向き合い、
【武器受け】や【衝撃吸収】に影朧だから効くかと【霊的防御】で少しでもダメージを減らす方に立ち回る。
白蘭の琴弾の時は守るように立ちまわりつつ傍に集まる事でUCの恩恵を受けつつ催眠銃やフック付きロープで攻撃。白蘭の魅惑の時は皆の立ち回りに紛れて使用シーンを見せずに【刻印変化術】を使って白蘭に化けて【演技】して魅惑対象に外れた方を攪乱していく。
使い捨ての悪魔は出来れば破裂前に【捕食】して【生命力吸収】したい所。
真宮・響
なるほど、こいつが噂の。確かに首領には相応しいね。悔しいが認めるよ。
言いたいことはそれだけかい?確かにこの世界は見方によっては嘘に満ち溢れている。でもアタシ達猟兵は色んな事を見てきた。いい所も悪い所も全て守るのが使命だ。
まあ、言っても通じないのはわかっているのでこいつに集中するか。【オーラ防御】【心眼】【迷彩】【見切り】で本体の攻撃を回避、こいつがどんなに強大であろうと所詮一人だ白蘭に攻撃が行きそうだったら真紅のゲイボルグで強引に【槍投げ】【串刺し】して止めてやるさ。
まあ武器一つ投げても武器はあるからねえ。【重量攻撃】【気合い】【グラップル】【頭突き】【連続コンボ】を駆使して戦う。
真宮・奏
なるほど。潔いほどの自己中心さ。アヤメさんが気の毒ですねえ。
こういう人は反応するだけ無駄ですねえ。価値が無さすぎる。でも強さは本物ですね。ええ、大丈夫です、白蘭さん。貴女は私達が護ります。
どこまでも攻撃してくるとなると。まず【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【ジャストガード】【受け流し】【ジャストガード】【鉄壁】【かばう】を発動して白蘭さんを守るとともに奥の手の白鱗装甲を発動。
攻撃する余裕ができれば【シールドバッシュ】【衝撃波】で絶対先制の対処を。
言いませんでしたか?これほどの乱戦であれば対処法はわかると。驕りですね。さあ、終わりです!!
神城・瞬
ああ、これが噂の。なんか僕と似た感じがするので余計に嫌悪感が増します。
討論するだけ無駄です。ええ、話がする余裕がないほどこれは危険です。いきましょうか。
絶対先制については【オーラ防御】【第六感】【心眼】【残像】を持って対処し、【高速詠唱】で凍てつく炎を発動。状況に応じて本体への攻撃や縦に利用します。【電撃】【連携攻撃】で仲間の支援も。
隙をついて【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】【目潰し】を込めた【結界術】を本体に仕掛ける。ええ、敵はあれだけの集団を率いるだけ会って僕も倒れる可能性がある。でもここには皆さんがいる。
僕が倒されようと朔を【式神使い】で食いつかせます!!
真宮・律
ああ、こいつが。まあ、話に答えるだけ無駄だ。
何ほざいてんだ?自覚ないのか?目の前にいる戦友たちはお前と違って色んな修羅場を超えてきた。それに比べればお前の主張なんてクズなんだよ。
問題は絶対先制だが・・・【瞬間思考力】【勝負勘】【心眼】【残像】【迷彩】を総動員して避けるか。一度動きを【瞬間記憶】すれば二の舞は防げる。
後は本体撃破に集中するか。黄昏の隼発動。召喚するものごと攻撃するとともにグレプスキュルを【怪力】【重量攻撃】で一気に振り切る。余裕があれば【電撃】【斬撃波】【音響弾】を使って【牽制攻撃】し、味方へ攻撃が置かないよう【陽動】するか。
強さは認める。でもお前は一人できた。意味わかるか?
神城・星羅
幼き私でもわかりますね。目の前にいるのは極めて悪質。迂闊に問答すると更に増長しかねない。
これだけに強大ですね。これだけの事を成し遂げられる強さと威圧感。残滓であろうと消し去る価値は十分ある。
絶対先制はできる限り対応します。【気配察知】【第六感】【心眼】【幻影使い】を駆使します。あとは弓での【一斉発射】【矢弾の雨】と【高速詠唱】での【誘導弾】【音響弾】を駆使して白蘭様を【護衛】します。
一度見れば攻撃の気配はわかりますし、奏姉様のい通り絶対先制は必ず戦友たちの皆様に飛ぶはずですので乱戦になれば対応できます。
余裕があれば神籟の祝詞を発動。音律の陰陽師の名にかけて皆様の鼓舞を。
源・朔兎
ああ、こいつが。まあでかい厄災持ち込むやつだけあるな。
未熟者の俺には問答の余裕がない。強すぎなこいつ。漂う気が威圧感ありすぎるんだ。外見が瞬さんに似てるんだよな。全く。大事な人なんだよ。本当に。
正直俺が真っ先にやられる可能性高いが、できるだけ粘らせてもらうぜ!!【残像】【気配察知】【心眼】【迷彩】【第六感】【変わり身】【幻影使い】で全力回避、余裕あれば【武器受け】【カウンター】!!
一度攻撃みればこっちもものだ!!なにしろ先輩方沢山いるしな!!月読同士発動、【ジャンプ】【ダッシュ】【空中浮遊】【空中機動】【滑空】で目の前をうろちょろし、隙見て【怪力】【急所突き】【切りこみ】!!
絆の力舐めるなよ?
馬県・義透
引き続き『不動なる者』にて
わしも頭にきておってな
粛正されるは、貴様の方よ
先制に対しては、黒曜山に未来を映し、四天霊障による三重属性(風、氷雪、炎)結界を展開し、広域防御をすることにする
視覚共有状態の内部の三人と手分けしておるから、合図は不要よな
攻撃に使うUCは、ここで初めて使うからの…残る軌跡を利用し、敵が動ける範囲を狭めるようにしよう
もちろん、敵本体たる本田殿を斬る心意気はそのままだがの?
さらに、斬撃波を飛ばす。これはUCではないから、無効化も何もないのであるが
世界を守るは四悪霊…『我ら』の誓いなれば。欺瞞というが、それはそちらの見方だけでな
文月・統哉
彼が本田英和か
アヤメも再び使い捨てとして召喚する気だったのだろうか
ならば俺のするべきことは
守りたいと、救いたいと、その想いを願いを貫く事
オーラ防御展開し、仲間と連携
白蘭を庇い守りつつ協力を頼む
『白蘭の魅惑』で生じる影朧達の隙を狙いたい
『ガジェットショータイム』で宵のブースターを召喚
斬撃や衝撃波に『祈りの刃』と同じ力を込めて
使い捨てにされる妖獣や悪魔の影朧達の邪心を断ち
英和の呪縛から解き放って浄化する
何故世界を守るのか
それはこの地に生きる者がいて
生きたいと願う者がいるからだ
なくならない悲劇を嘆けばこそ
変えてゆく為の未来を願う
影朧の、オブリビオンの力に比べれば
人の力など非力に思えるだろうか
でもね、だからこそ、人は想いを託すんだ
一人では到底成し得ない事だとしても、俺達は一人じゃない
仲間がいる、友がいる、大切な人がいる
過去からは見えぬ未来へも、想いは願いは届けられる
影朧のお前では為し得ない事でも
今を生きる者であればこそ
まだ見ぬ未来へと、人は歩んで行けるから
今はまだ届かずとも
お前の事も仲間がきっと
森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
真の姿解放継続、人格は『零』のまま
ガヴェイン、いるか?
いるなら、そのまま上空から広範囲の探査を継続しろ
ただし、探査の対象は熱源から『骸の海』に変更だ
…これで暗殺者の位置を炙り出し、攻撃の軌道が予測しやすくなれば
多少は致命の一撃を避けやすくなるか?
黯党首魁、本田・秀和
転生は影朧を破滅から救うシステムで在り、偽りの救済にあらず
この世界の秩序を乱すのであれば、俺はその秩序を守る
それこそが俺と陽太の意だ
基本は「地形の利用、闇に紛れる」で死角を取りつつ
二槍伸長「ランスチャージ、暗殺」で急所を貫き仕留める
隙を見て小声で「高速詠唱、言いくるめ」+指定UCでセーレ召喚し
ガヴェインから暗殺者の位置情報が来たら
セーレに伝えて暗殺者全員を巻き込むようにフィールドを展開し弱体化を狙う
超遠距離であっても、目標が見えてなければ攻撃はできまい
…必ず、視認できる範囲にいるはずだ
ところで、一つ聞きたいが
幻朧桜の呪縛に民が囚われているというなら
貴様は何故、幻朧桜が咲き乱れるこの場にいる?
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
ここで紫陽花さんの名が出ますか
己が意に従い、不器用ながらも筋を通し
信頼できる者達と共に我々若者に後を託した…将の名を
絶対先制、一般人な私にどうやって対処しろと…?(唖然)
申し訳ないが、盾役の方何とか引き付けてくれ(他力本願)
私自身は死角を警戒するしかできん(汗
凌いだらいつもどおり
「歌唱、鼓舞」+指定UCでトッカータを演奏
幻朧桜の間を吹き抜けるようなオーロラ風を吹かせて
皆の行動の後押しをしようじゃないか
…我ながらすっごく狙われる気がしそうだが
少しでも時間と手数を稼ぐとなるとこれしかないしなあ
それにしてもまあ、黯党首魁は好き放題言ってくれる
紫陽花さんは最後まで将として立派に戦ったぞ?
道を違えた責の一端が我々にあるのは否定しないが
それでも紫陽花さんは、死者、弱者を踏み躙るような真似はしなかった
だが、貴方にとって紫陽花さんは影朧甲冑を与えた駒であり、消耗品だったのか
…許しておけぬな
…なぜ、この世界に幻朧桜が根付き
転生と言う概念が広く浸透したのだろうな
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎
|予知の力《グリモア》を知っているということは…カルロス・グリードと接点があるのか?
返事がどうであれ、黯党首魁、本田・秀和…貴様は斬る
絶対先制の|暗殺者《アサシン》召喚が厄介だな
せめて「第六感、戦闘知識」で微かな殺気だけでも感じられないだろうか?
欲を言えば、白蘭に【白蘭の魅惑】を使ってもらい、影朧たちの気を引きつけてもらいたいが…
基本的には「闇に紛れる、地形の利用」で死角を取った上で
盟約の妖獣ごとまとめて「早業、2回攻撃、怪力」+指定UCの18連撃(味方斬りなし)
隙あらば武器を黒剣から|復讐《アヴェンジャー》に持ち替え反応を見てみよう
反撃は「視力、見切り」で挙動を見極め「武器受け」で受け流し回避
何故、欺瞞に満ちた世界を守るか、だと?
この世界で生きる人がいるからだ
…この答えでは不満か?
これ以上の真理はないだろ?
俺は紫陽花を憎悪と絶望の刃で斬った
だから、紫陽花についてどうこう言う資格はない
彼に如何なる理由があったとしても
俺が明確な殺意を持って斬ったのは事実だからな
鳴上・冬季
「人にも狐にも愚物はいます。愚物が愚物に使われる、実に腹立たしいことです」
嗤う
「あのお方…あのお方ですか。それが大正帝だろうが幻朧帝だろうがオブリビオンフォーミュラだろうが、貴方が只の走狗であることに変わりありません。消えてしまいなさい」
黄巾力士にオーラ防御で自分庇わせ雷公鞭でUCで雷撃
敵全員への範囲攻撃をすることで見えない暗殺者や狐に対応する
「範囲攻撃で次の攻撃を行わせなければ良いでしょう?」
嗤う
「興味はありますが、竜胆さんが知る以上のことを今貴方が話すとは思えませんから。秘密を秘密にしたまま、ここで消えて下さって構いません」
嗤う
●
――その幻朧桜咲き乱れるその場所の上空に向けて。
「……ガヴェイン、いるか?」
自らの顔を白いマスケラで、その全身をブラックスーツで覆った森宮・陽太……の暗殺者人格『零』がそう念話で問いかける。
(「……如何した、『零』?」)
そのガヴェインから返ってきた念話に向けて。
(「……そのまま上空から広範囲の探査を継続しろ。但し、探査の対象は熱源から『骸の海』に変更を」)
その陽太……『零』の念話でのそれに対して。
(「……承知した」)
そうガヴェインが念話を返し、その白を基調とした巨大な甲冑の騎士の様な己を光学迷彩で隠して探索を続けるその間に。
「おやおや、影朧の首魁が偉ぶったことを言いますね」
その朗朗たる英和の高説を聞いたウィリアム・バークリーがからかう様に微かに笑う。
『……何? 我等が崇高なる使命を超弩級戦力……只、腑抜けに生きる愚者達を擁護するのか?』
そのウィリアムの称えた微苦笑を見て、鋭く細められた双眸を更に細めながら、英和が問いかけてくる。
その一方で。
英和の全身から迸る暴力的なまでに圧倒的な殺気と、その引き締まった体と、何処となく見覚えのある姿を見て。
その気配に息を飲みつつ……赤と金のヘテロクロミア持つ、神城・瞬が。
「ああ、これが噂の」
と思わず嘆息してしまった、その理由は……。
「でかい災厄持ち込むやつだけあるな。それに……外見がなんつうか、瞬さんに似ているんだよな。全く……大事な人なのに、本当に」
そう源・朔兎がぼやく様に呟くのに、瞬が朔兎と、朔兎の愛する……。
「……これほどまでに強大な存在が居るのですね。……私達これだけの猟兵と対峙できるだけの強さと威圧感を持つ影朧が……」
そう小さく呻き声を上げている瞬の義娘の神城・星羅を守る様にそっとその前に立つ。
――その一方で。
「はん。あいつが|黯党《 あんぐらとう 》の首魁か。花蘇芳と同じで、いかにも早死にしそうなツラしてやがるな」
そんな殺気など何処吹く風と言った様子で。
その口の端に愉快げな鮫の笑みを浮かべるミハイル・グレヴィッチが笑って呟くのに、そうですね、と御園・桜花が微笑んだ。
「男装女性ではない、と言う事は、今上程が心傾ける方では無いという事ですね。安心しました」
それはまるで、新しい玩具を発見した子供の様な、そんな笑みで。
そんな桜花の笑みを見ながら、どうでしょうか? と笑うのは、鳴上・冬季。
「今上帝が、存外実は両刀使いであると言う可能性もありますからね。古来より存在する権力者達は、自分達に都合の悪い情報は歴史の闇の中に葬るものです」
そんな冬季が桜花に向ける笑いとは異なる嗤いを、英和に向けて、とは言えと続ける。
「人にも狐にも愚物はいます。愚物が愚物に使われるとは、実に腹立たしいことですね」
その冬季の嗤いと共に告げられたそれにそうですね、と首肯したのは、真宮・奏。
「……これほどまでに、潔いほどの自己中心さ。そんな相手に利用されたアヤメさんが本当に気の毒ですねえ」
エレメンタル・シールドを構えながら続けた奏のそれに、でもね、と真宮・響が軽く頭を横に振った。
「冬季、奏。アンタ達の言うことは正しいが……こいつが纏っている気配……実力は、悔しいけれど正しく本物だよ。それこそ油断したらアタシ達がやられかねない」
そう用心深く青白く燃え盛る炎を纏ったかの様な槍『ブレイズブルー』を構えて呟く響のそれに。
「じゃが、真に粛正されるべきあやつの方よ」
そう、漆黒の刀『黒曜山』を構えながら、酷く低く響き渡る様な声で告げたのは、馬県・義透を構成する四悪霊が1柱――『不動なる者』――内県・賢好。
その義透を構成する残りの三悪霊……疾き者――外邨・義紘、静かなる者――梓奥武・孝透、そして侵す者――馬舘・景雅達もまた、賢好の言の葉に深く首肯を返していた。
そんな義透達から迸る気配と同様に憤怒を籠めたオーラを纏う、文月・統哉が静かに尋ねる。
「……アヤメも、再び使い魔として召喚する気だったのか」
その統哉の問いかけに。
ふん、とつまらなそうに鼻を鳴らす英和。
『所詮は使い捨ての駒にしかなれぬ愚鈍な女だ。貴様達に破られた時点で、さっさと見限りを付けていたよ』
「……紫陽花さんを使い捨ての駒と切り捨てるだけでなく……貴方が契約したアヤメさんをも侮辱するか」
そう小さく呻き、囁きかける様に。
淡々と告げたのは、藤崎・美雪。
その美雪の言の葉に、何を馬鹿な、と言う様に英和が嗤う。
『……|あのお方《 ・・・・ 》がお与えになった影朧甲冑を使っても貴様達を止める事の出来なかった屑の様な人間のことなど、一々覚えておらぬ。況してや……この転生などと言う欺瞞に満ちた世界をのうのうと享受している屑共であれば、尚更な』
そう吐き捨てる様に切って捨てる様に朗朗と良く通る声で語る英和のそれに。
「……取り敢えず、だ」
そう淡々と、琴を構える白蘭が鋭く目を細めて睨み付けるのをチラリと見やりながら、静かに嘆息したのは、大丸・満月。
満月は連続して自らの刻印を活性化させた影響で消耗した体力を回復させるために、バリボリと特製カロリーバーを噛み砕き。
「この白蘭って奴は生かさなきゃならねぇこと、で、無駄に選ばれ者ツラした手前は殴んなきゃならねぇのは良く分かった」
紫陽花と呼ばれる者や、その男を愛したと言う白蘭達とネリッサ・ハーディ達の因縁を満月は知らない。
だが、それでも尚、目前の人を見下す影朧を滅し、人を守ろうとする白蘭を守らねばならない、これは変えようのない事実だった。
要するにそれ以上のことはこの戦いにおいて、今は知る必要はないのだ。
そんな満月の右隣で琴を構えて佇んでいた白蘭に向けて。
「先程はきちんとした挨拶が出来ませんでしたが、改めて。……お久しぶりですね、白蘭さん。健勝そうで何よりです」
『G19C Gen.5』の弾倉を取り替えながら、白蘭の左に立ったネリッサの挨拶。
それに白蘭もまた、そうでありんすな、と小さく微笑んだ。
「あの『彼岸桜』の件、依頼でありんすからな。もう1年と半年以上前の話になるでありんすか。あの時は紫蘭を追う為に、雅人もおったが……」
その白蘭の言の葉に。
そうでしたね、と微かに微笑を浮かべ、ネリッサが改めて目配せを送る。
「あの時はきちんとした挨拶をする余裕も時間もありませんでしたが……昨日の敵は、今日の友と行ったところですね。あなたを護衛させて頂きます」
そのネリッサの返しを聞いて。
「それは助かるでありんすよ。妾は元々単独での戦闘には向いていないでありんすからな」
そう何処か柔和に微笑む白蘭の様子を見て、灯璃・ファルシュピーゲルもその場で軽く敬礼する。
「そう言えば、あの時も白蘭さんは自分が望む世界のために自らの力を使う、と言っていましたね。今回も同じ様な理由ですか?」
その灯璃の問いかけに。
カラコロと鈴の鳴る様な上品な笑声を上げ、白蘭が続ける。
「以前にも少し話したかも知れないでありんすが。妾は妾が愛したあのお方を殺された時の想いを忘れてはおらぬ。だが……」
――そう。
「結局の所、可愛い妾の琴の弟子や、雅人の様な若者達が影朧達を救済する為に戦っている姿を見ておるとな……あやつらの幸せのために戦うのもまた、妾やあの方の望みだと感じるのでありんすよ。まっ……情に流されて、と言うやつでありんすな」
そうカラコロと笑う白蘭のそれに、そうですか、と灯璃が微笑を零し、そして……。
「そう言うことでしたら、あの手の話を聞かない思想テロ犯を放置は出来ませんね。話も聞いてくれませんし」
とやや呆れた表情で自らの藍色の双眸に英和を映し出す灯璃。
そんな灯璃の様子にそうでありんすな、と白蘭がカラコロと笑声を上げているのを見やりつつ。
(「……|予知の力《 グリモア 》を知っていると言うことは……」)
そう鋭く赤と青のヘテロクロミアを細めた館野・敬輔が脳裏に思い浮かんだその疑問を英和に向けて、叩き付ける。
「……貴様は、カルロス・グリードと接点があるのか?」
その敬輔の問いかけに。
『……成程。愚者とは言え、流石は六番目の猟兵達とでも言うべきか? ……貴様達さえいなければ、不要な愚者共を1人残さず摘み取り、今頃は咲き乱れる忌々しき幻朧桜も枯れ果てていたであろうに』
そう何処か抑揚無き憤怒と共に淡々と言の葉を紡ぐ英和のそれに。
「……何ほざいてんだこいつ? 自覚無いのか?」
そう嘲笑する様に言い放ったのは、真宮・律。
『……こんな欺瞞に満ち満ちた世界を守ろうとする愚者が、我が言葉を愚弄するか?』
「はっきり言っておくが……此処にいる俺の戦友達は、お前と違って数多の修羅場を乗り越えてきている」
――何もそれは、竜胆と共に戦い抜いてきた事だけには限らぬ。
それこそ数多の戦場を……数々の世界を猟兵達は渡り歩き、戦い、守り抜いてきているのだ。
「……そんな皆が背負い、守ってきたものに比べれば……それこそお前の主張なんてクズなんだよ」
――だからこそ。
「……そろそろ、潮時かしらね」
無数の自らの認識任意対象の防御を張り巡らすことの出来るドローンユニットアイテールの護衛隊を縮小し密かに戦場に配置しながら。
自らのばらまいた対情報戦用全領域型使い魔召喚術式から入ってくる情報を解析しつつリアルタイムに戦況シミュレーションを行う烏丸・都留が小さく呟く。
その都留の呟きに応える様に。
『……所詮、我等の崇高なる思想を、この世界の欺瞞を解せぬ者共と問答するのは時間の無駄か』
まるでそうなるであろうことを予測していた様に。
その口の端に何処か蠱惑的で皮肉げな笑みを英和が浮かべた刹那。
――ビー! ビー! ビー!
都留の対情報戦用全領域型使い魔召喚術式からの警戒アラートが鳴り響くと共に、超超射程距離から無数の光条が戦場に迸った。
●
「……どうやら、私達の裏を掻くために用意したあの愚物の手勢は、思ったよりも有能な様ですね」
その無数のレーザーに咄嗟に対応しようと雷公鞭を抜きながら。
ヒュン、とそれを一閃、天より雷光を迸らせ、光条と相殺させながら冬季が嗤う。
「それにしても、あのお方……あのお方ですか。それは果たして何者なのでしょうね……」
そう誰に共無く呟きながら。
直ぐにあることに気が付き、否、と冬季が嗤う。
そんな彼の目前には、黄土色の結界張り巡らした己が宝貝・黄巾力士。
「まあ、それが大正帝であろうが、幻朧帝であろうが、オブリビオンフォーミュラだろうが、貴方が只の走狗であることには変わりませんか」
『ふん……帝都桜學府の狗風情がよく吠えるわ』
その冬季の嗤いに対して、嘲笑を返す英和。
――その間に。
「……骸の海反応、確認。距離……200km……!」
そう張り上げる様なガヴェインの通信を聞いて。
陽太が成程、と冷静に思考を張り巡らしながら、咄嗟に引き抜いた二槍をプロペラの様に回転させて光条を受け止めている。
「……俺達のユーベルコードの範囲外からの超射程距離攻撃か。ガヴェイン、そいつが何処に移動するのか、分かるか?」
そう陽太が問いかけているその間に。
「……最初の光条……超射程距離からの狙撃には後れを取りましたが……」
そう呻きながら自らの肩を掠めた光線に肉が焼かれる嫌な匂いを感じ取つつ、灯璃が言葉を紡ぎ続ける。
「超長距離からの射撃であれば、次からは着弾までの一瞬の時間を見切らせて貰いますよ……!」
そう呟くと、ほぼ同時に。
不意に、灯璃の目が上空で、光学迷彩下で探索を続けていたガヴェインの様に空から見下ろすかの如く広くなった。
視界そのものも、空を舞う鳥達や地を駆け回る動物達の圧倒的な視力を得て、大凡の状況を把握することが出来る。
(「半径50km圏内の生物の視覚をお借りしているのです。どんなに狙点を変えても見極めて見せましょう」)
そう内心で呟く灯璃の動きを、まるで読んでいるかの様に。
『愚かな……何故貴様達は、この欺瞞に満ちた世界に生きる者達を守ろうとする? 何のために世界を守るのだ?』
「愚問ですね。自らの思惑の為に平然と方便を使った上に、平気で部下を捨て駒にする様な詐欺師な影朧なんて、存在自体が欺瞞も良い処のあなたがそれを問いますか」
その英和の嘲弄する様な質問に対して、半径50km圏内の鳥類の瞳を借りて戦況を見渡し始めていた灯璃がそう返し。
「そんな存在自体が欺瞞の様な人々の思想と日々を、真面目に生きている一般市民の生活を天秤に掛ける必要性が一体何処にあるのですか?」
そう続けて一笑に付した灯璃のその言葉に。
『愚かな……その貴様の言う真面目に生きている一般市民とやらがそもそも欺瞞と犠牲の上に成り立って自分達が生きる幸せを享受している愚者であるという、何故、当然のことに貴様達は思い至らぬのだ!?』
そう英和が激昂と共に咆哮を叩き付けるや否や。
英和の傍に控えていた『黯』の布を被った狐の背の光輪が眩い光で戦場を照らし出し始めた。
その見るまでも無く邪悪な光と共に、その1頭の狐を守る様に姿を現した妖獣が鋭い嘶きを上げる。
「コーン!」
英和の狐が呼び出した盟約の妖獣は……。
「……九尾の狐……?! 最初に戦ったあの狐達の同胞か……?」
咄嗟に漆黒の大鎌『宵』を横薙ぎに一閃。
その漆黒の大鎌の刃先から発せられた星彩の如き一筋の閃刃で、最初のレーザーを辛うじて叩き落とし満月と白蘭を守りつつ呻く統哉。
「……くっ……自衛も儘ならないぞ、この状況……!」
そう全身を冷汗で濡らしながら、グリモア・ムジカに譜面を展開しようとする美雪。
死角こそ守っていたが、それでも繰り出された美雪に向かって炸裂しようとする無数の光条を……。
「何処までも攻撃してくるとなると、真っ先に狙われるのは回復役。もし、アヤメさんとの戦いの情報を何らかの形で共有していればその動きは予測できます……!」
そう叫んで。
咄嗟に美雪の前に飛び出した奏がエレメンタル・シールドを前面に突き出すと同時に風の精霊を纏って辛うじて光線を防ぐ。
エレメンタル・シールドが光線に貫かれその表層が剥げた奏の防御力が落ちるが。
「ですが……それならば本気で相手を致しましょう!」
その雄叫びと、ほぼ同時に。
奏の全身を白燐蟲が覆い尽くし……先の光線で減じられた奏の防御力を増強させていくその間に。
英和の呼び出した妖獣たる狐がその口から呪詛の篭もった呪を詠唱し、続けざまに戦場全体に呪詛を張り巡らんと……。
「やらせません!」
その呪詛が白蘭やネリッサ、満月達を纏めて狙おうとしているのを悟り、その前に立ちはだかる様に前に立つ奏。
その全身に纏われた白燐蟲達が呪術を受けるが、奏の守りを崩しきることは出来ない。
――そうなるであろう未来を『黒曜山』にて視ていた義透が。
「……成程、呪詛か」
そう静かに首肯すると同時に、全身の毛を総毛立たせながら、低く呻いた。
「それは……|我等《 ・・ 》への挑戦だな」
――そう。
|我等《 ・・ 》は四悪霊の集合体にして、『義透』と言う名の1個の集合体。
その義透……今、表に出ている『不動なる者』、義紘が『黒曜山』に映し出されたその未来を読み取り。
周囲の戦場を覆う様に、四天霊障……己が無念の集まった風と、氷雪と、炎によって生み出された三重の広域結界を展開、呪詛を押し返し、凍てつかせ、灼いていく。
「義透さん、ありがとうございます!」
そう奏が首肯と共にエレメンタル・シールドを突き出して生み出した風圧を、この呪詛をばらまく妖獣達に叩き付けるその間に。
「……わしは……否、|我等《 ・・ 》もいい加減貴様には頭にきている。言ったであろう、粛正されるのは、貴様の方だと」
そう殺気を籠めた呪詛の様な義透が言葉を叩き付けるが。
その奏の衝撃波にも、義透の言葉にも、妖獣達は決して怯まず、今度は爪牙を繰り出そうとした……その時。
「此処で叩き潰すぞ!」
その言葉と共に、義透の結界に守り抜かれた律が、たん、と大地を蹴って英和に肉薄しながら。
「存分に暴れてやれ!」
そう勢い込んで叫び、赤銅の長剣『クレプスキュル』の剣先を、英和に向けて突きつけた刹那。
その【胸】に1と刻印された140羽の隼達が翼を広げ、まるで矢雨の如き勢いで呼び出された妖獣達に殺到した。
【胸】に1と刻印された140羽の隼達が、その嘴と爪で群がる様にして九尾の狐に襲いかかり、その体を斬り裂くのに。
狐達が己が爪で薙ぎ払い、その牙を突き立てて返し、隼と狐達が瞬く間に乱戦へと突入していく間にも。
「光線を凍てつかせるのは中々に難しくはありますが……バークリーさん!」
そう叫びつつ六花の杖を構えて空中で回転させて魔法陣を空に描き、その魔法陣の中央に月読みの紋章を瞬が描き出していた。
(「義透さんの広域結界の展開や奏の防御だけでは、とてもではないですが妖獣達が召喚されるよりも|先《 ・ 》に放たれた攻撃の対処までは間に合いません……!」)
――で、あればそれに対処しなければならないのは……。
その瞬の意図を即座に了解したウィリアムが首肯するよりも早くルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、瞬と背中合わせになって魔法陣を描いて……。
『氷の精霊達よ、かの悪食から我等を守ってください!』
そう瞬と詠唱を重ね合わせたその時。
瞬とウィリアムを中心とした薄白と桜色の綯い交ぜになった結界となって、一斉に連射された光線を受け止める氷の結界を張り巡らせていた。
「……ぼく達の射程距離外からの攻撃ですか。……あの影朧は傲慢でこそありますが、力量は高いと言う訳ですね」
そう呟きながら、瞬と共に張り巡らした氷の結界を貫通した光線を咄嗟に『スプラッシュ』を縦にして受け止めたウィリアムが頭を振る。
けれども……その間に。
「ですが、今上帝にとっては、その方如きよりも、ソウマコジロウ様の方がずっと大事な方でしょう」
そう微笑んだまま。
自らにも向けられた影朧からの光線の斜線を咄嗟にその首が痒くなる……第六感で感じ取った敬輔が抜剣した黒剣で守られた桜花が吶喊。
自らを精霊化させて桜花精となり、全身に渦巻く桜吹雪を纏って加速しようとしたのを。
「……誰か1人でも先に相手にとりつけば、牽制にはなるわね」
そう呟くと、ほぼ同時に。
130隊分の軍団を運用するべく使用する対神霊/UDC/NBC対応型戦闘支援ユニットを都留が放出。
同時にその戦闘支援ユニットに青光を乗せ、それを桜花の背に取り付けた時。
――轟。
と本来であれば780km……飛行機と同速程であった筈の桜花の速さが目で捕らえるのも困難な程に加速されて英和に肉薄していた。
『……速いな』
そう淡々と呟くと同時に、タン、と咄嗟にバックステップをしながら影朧――と言う名の肉壁を召喚する英和。
全身にまるで電磁結界を張り巡らしたかの様な影朧が、桜花の接近を阻止しようとした、その時。
「頼めるか、白蘭」
そう統哉が続けての攻撃をネリッサがG19C Gen.5で、満月が記憶消去銃で撃ち落とすことで守られた白蘭に願うと。
「同僚の友人とでも言うべき主に頼まれたならば、断るわけにもいかないでありんすな」
艶やかな笑みと共に。
琴を爪弾く手を一旦止め、桜花の目前の影朧を、妖艶な……嘗て『白蘭太夫』とも呼ばれた数多の男を虜にした|その瞳《 ・・・ 》で甘く見つめた……刹那。
『がっ!?』
その抗いがたき蠱惑的な視線を受けた桜花の目前の影朧が一瞬、動きを止めたその脇を素早く桜花が通り抜け。
――更に。
「……こんなになってまで、英和に利用されて。……せめて、その呪縛から解放しよう」
その言の葉と、共に。
統哉が自らの初めて作ったガジェット、『暁』に願いと祈りを籠めて、その懐中時計を光輝くブースターへと変形させ。
その眩い浄化の光を蓄えたガジェットを、漆黒の大鎌『宵』に装備した瞬間。
漆黒の大鎌は、純白に金の線の入った微細に渡り美しき金色の大鎌と化していた。
「……安らかに」
その大鎌の様子に静かに首肯しながら、祈る様に言の葉を紡ぎ。
『暁』と『宵』の融合大鎌……『黄昏』とでも呼ぶべきそれを撥ね上げる統哉。
斬り上げる様に解き放たれた黄金と流星の煌めき伴う斬撃の波が、白蘭の視線を受け、一瞬動きを止めていた影朧を祓う。
――それは只、影朧達の持つ邪心……英和の呪縛を断ち切る光彩の刃。
そんな統哉に向かって呼び出された妖獣達がその爪牙を以て引き裂かんと肉薄してきたその時。
「くっそ! やらせるかよ!」
その叫びと、共に。
朔兎が、自らが戦場を掛けることで生み出した残像に131の武器を召喚して。
その『刀』や『弓』を装備した白い狩衣衣装の武士達が、統哉を守る様に展開されて、妖獣達の迎撃に回ろうとする……よりも先に。
「不味いわね……対防御システム『アドバンスド・リフレクション・ハル』……展開」
その都留の判断は、正しく間一髪と言ったところだった。
咄嗟に都留が展開したそのアドバンスド・リフレクション・ハル数億枚に事象改変型結界を朔兎の側面に展開。
先の光線とほぼ同時に掃射されていたのであろう、一発の超電磁加速された銃弾の性質を書き換えブラックホールの様にそれを吸収しようとするが。
「ぐわっ!」
その『アドバンスド・リフレクション・ハル』を構成する結界ですらも尚、殺しきれない衝撃が朔兎を襲い、朔兎の肩が焼け爛れる。
ぐっ、と苦痛に呻きながらも態勢を立て直そうとする朔兎を守る様にアイテールの護衛隊の一部を召喚しながら。
「……事象改変型結界ですら衝撃を完全に殺しきれないなんて……その影朧の使い方を熟知している、と言う事ね」
思わず都留が呟き、今、朔兎を狙った砲弾が撃ち出された方角を特定するべく時騙しの懐中時計に弾道を入力。
即座に弾き出されたその場所に潜むのであろう影朧を足止めするべく、原初の天空神アイテールのメイスを振るうが……。
「! 都留さん、標的の影朧は既にその場所を移動しています、これはまるで……」
「……テレポートだな」
生物達の目を借りて、最初に召喚された影朧の動きを見ていた灯璃の言葉に被せる様に。
上空から骸の海の探知を行っていたガヴェインが陽太に空から戦況を見て把握した情報を伝達。
「……テレポートによって自分の場所を瞬時に移動し、超遠距離から、何時の間にか何十発もの攻撃を繰り出す影朧……」
その陽太の呟きに。
「……これは……兎に角、凌ぎきるしかありませんね」
そうネリッサが俄に緊張した表情を浮かべると同時に。
その手で己が端末、小型情報端末MPDA・MkⅢを起動させていく。
その端末の画面には……。
――|荒れ狂う火炎の王の使い《 ファミリア・オブ・レイディング・フレイム・キング 》
と言うコード名が現れ、ネリッサが躊躇なくそれに承認を与えたその時。
――ネリッサの周囲に、135体の炎の精が生み出された。
●
――生み出された135体の炎の精。
その炎の精達の内半数を白蘭の周囲に展開し、更に残りの半数……70弱の炎の精を狐と共に走り回る英和に肉薄させるネリッサ。
(「本体である英和に多数の炎で、多方向から牽制攻撃を仕掛ければ……」)
多少なりとも|暗殺者《 アサシン 》と化した英和が召喚した影朧への牽制にもなり得るかも知れない。
そんなネリッサの期待を背負った炎の精達が飛び回りながら英和に肉薄。
ふと気が付けば、ミハイルと満月が何時の間にか姿を消していた。
|作戦《 ・・ 》通りに狙点を探しに行ったミハイルは兎も角、先程までは記憶消去光線銃で超距離射撃に共に対処していた満月の姿が見えなくなったのは少し不自然だ。
(「とは言え……」)
それも、満月に何か考えがあるからだろうと判断し、ネリッサは65体の炎の精達と共に白蘭の護衛に集中する。
――そんなネリッサの不意を打つ様に。
「! 局長、来ます!」
上空から次の狙点に瞬間移動した影朧が、今度は武器を機銃に変えて、その銃口から無限にも等しい弾丸を解き放つのを灯璃が目撃。
灯璃は咄嗟にHk477K-SOPMOD3"Schutzhund"の引金を引いて、機銃から放たれた弾幕に対応するが。
(「……これは弾幕が厚い、ですね……!」)
そう思わず内心で呟き、ひやりと背筋に冷たい汗が流れ落ちていくのを感じたその時。
「此処で、皆様をやらせる訳にはいきません。纏めて撃ち抜くというのであれば、此で!」
その言の葉と、ほぼ同時に。
星羅が自らの調律の弓でひょうと矢を放つと同時に、その調律の弦を引いてビィン! と鋭い鳴弦を鳴らした時。
解き放たれた調律の矢がその鳴弦を受けて、無数の矢弾の雨となり、灯璃が撃ち漏らした機銃から掃射された銃弾を射抜いていく。
「はぁ……はぁ……」
只、其れだけの刹那の攻防であったにも関わらず……星羅は荒く肩で息をついていた。
(「これだけの事を成し遂げられる強さと威圧感を持つ影朧の召喚した影朧との攻防で、これ程消耗する事になるとは……」)
星羅が、例え残滓と言えど消し去る価値は十分ある、と改めて確信を得たその直後に。
肉薄した70体の炎の精達が吐き出した炎を見て、桜花の肉薄からの回し蹴りを右腕で受け止めた英和が、左手を突き出した時。
その手に黒ずんだ炎の様な……。
「……アンタ自身だって、影朧だろうに。それでも自分の同族を、道具として利用するつもりかい!?」
その激しい憤怒を叩き付ける様にして。
響が咆哮と同時にその手のブレイズブルーにありったけの情熱と力を込めて投擲した。
放たれた青白く燃え盛るオーラの様な炎を纏ったブレイズブルーが放物線を描いて黒ずんだ左手の気配に向かい其の手に突き立つと同時に熱波を放つ。
放たれた熱波にちっ、と咄嗟に舌打ちをして後退する英和を。
「借り物の力に縋り、掌の上で思った通りにしか動かぬ駒を、私が逃がすとお思いですか?」
そのからかう様な言葉と共に。
桜花がふわりと、桜織衣の裾を風に靡かせる様にしてふわりと飛翔と共に、回転しながら踵落としを叩き込もうとした……その時。
『コーン!』
その傍に控えていた黯の紙を纏った狐が眩く光輝く悪しき光輝を纏って体当たりを敢行。
思わぬ伏兵の跳躍と同時に放たれた突進を、桜花が桜鋼扇を翻して咄嗟に防御。
その一瞬の隙を見た|暗殺者《 アサシン 》が、肩に担いだスナイパーライフルで宙を舞う桜花を撃ち抜こうとした、その時。
「そう上手く事が運ぶとは思わない事ですね」
その呟きと共に。
銃身が焼け、白煙漂うMK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"を地面に放り。
素早くMK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"に持ち替えた灯璃を後押しする様に。
「妙なる……響……再起の……力を……!」
肩で息を切らした星羅が祈る様に言の葉を紡ぐや否や、灯璃の背を押す様に香り高き風が吹き荒れた。
それは周囲の猟兵達全員の負傷を回復し、その行動を加速させる風。
何処か馥郁たる香りを思わせる其れの後押しを受けた灯璃が、躊躇いなく自らの長距離用狙撃銃の引き金を引くと。
桜花を撃ち抜かんとした影朧のスナイパーライフルの銃口に音もなく灯璃の銃弾が嵌り、その内側で爆発を起こす。
ちっ、と思わず舌打ちをしながら素早く次の狙点と思しき場所へと移動する影朧の軌跡を懐中羅針儀Ωで解析しながら成程ね、と都留が呟く。
「でも、今の銃撃戦で大体の動きを把握する事が出来たわ。これなら……全員の死角を減らす余裕が出来そうね」
そんな、都留の独り言の様な確信に応じる様に。
狙撃こそ免れたものの、一瞬死角の出来た桜花を斬り裂き、噛み砕かんと欲した秀和の狐達の行動を阻害する様に極小化した都留のアイテールの護衛隊達が殺到。
その無数のアイテールの護衛隊によって、一時的に狐達がその動きを封じられた……その時だった。
「黯党首魁、本田・英和……此処で、貴様を斬る!」
その叫びと共に刹那に生まれた英和の隙を抉る様に、都留のアイテールの護衛隊の中に紛れる様にしていた敬輔が踏み込みと同時に黒剣を袈裟に振るったのは。
振るわれた赤黒く光輝く刀身によるその一撃が英和の肩を斬り裂き鮮血を飛び散らせるその間にも。
『何故だ? 何故そこまでして貴様達はこの欺瞞に満ち満ちた世界の真実から目を背ける? 欺瞞だらけのこの世界に如何して貴様達はそれ程までに肩を持つというのだ!』
そんな英和の問いに応じる様に、新たに召喚された、無数の妖獣達が敬輔を喰らわんと襲いかかろうとするが。
「そんなの、簡単な理由だ」
その敬輔の隣に立つ様に。
黒ネコ刺繍入りの深紅の結界を張り巡らした統哉が駆け寄り黄金色の輝き伴う『宵』を一閃。
星彩と金色の綯い交ぜになった大鎌の一閃が妖獣達を纏めて薙ぎ払い、その中に巣食う邪心を断ちながら告げる。
その背後から、妖獣達が一瞬魅入られる様に動きを止めさせることが出来た白蘭の誘惑による援護を受けながら。
「それはこの地に生きる者がいて、生きたいと願う者がいるからだ。無くならない悲劇を嘆けばこそ、変えて行く為の未来を願うんだ」
その統哉の言葉に応える様に。
統哉の構えた大鎌『宵』の刃先を振るう度に放出される星彩と黄金の流星の如き光が、更に一際強い輝きを発していた。
その統哉の『宵』の輝きに続く様に。
ブレイズブルーを投擲した響が大地を蹴って肉薄すると同時に、正拳突きの要領で拳を英和に向かって解き放った。
「例え、武器1つ投げたとしても、幾らでも武器はあるんだよ!」
叫びと共に放たれた響の正拳の拳を咄嗟に英和が受け止めるが思いも寄らぬ強い衝撃に微かにその表情を歪めるのを見て。
「後は、例えば……アタシのこれとかね!」
その叫びと共に。
グオンと大きく体を振りかぶった響が、英和が自らの拳を受け止めるのと同時に頭突きを放つ。
その響の頭突きを咄嗟に身を捻って躱し、無理矢理距離を取ろうとした瞬間を狙って。
「おおおおおおっ!」
咆哮と共に敬輔が右の青の瞳を眩く光り輝かせ、赤黒く光輝く刀身持つ黒剣を逆時計回りに円を描く様に振るう。
それは左斬上に始まり、左薙、逆袈裟、唐竹、袈裟、右薙、右斬上、逆風と続く、怒濤の連続攻撃。
その敬輔の怒濤の9連撃の眼前に無数の妖獣達が割り込み咆哮と共に英和の前に立ちはだかったその瞬間。
『はっ!』
狐達の影で右手の杖を振るい、英和が無数の悪魔達を召喚した。
――それは、ユーベルコードを喰らい、破裂する使い捨ての悪魔達。
狐達の背から突如として現れた使い捨ての悪魔達に敬輔の9連撃が喰い荒らされ驚愕した敬輔に狐達がその爪と牙を以て襲いかかるのに。
「館野さん!」
灯璃が咄嗟にMK.15A SOPMOD2 SASR"Failnaught"の引金を引き、狐達の内の一匹の眉間を撃ち抜き。
「荒れ狂う炎の精達よ、妖獣達を焼き払え!」
続けてネリッサが召喚し、英和を牽制させていた70体の炎の精達が、その炎を、敬輔を襲う狐達に溶岩の如く吹きちら化して焼き払う。
――けれども、そのネリッサと灯璃のフォロー故に。
それまでずっと守られていた防御の間隙が生まれた|白蘭《 ・・ 》に向かって英和の手から放たれた悪魔達が殺到。
「しまった! 白蘭さん!」
ほんの僅かな自分の遅れに気が付いた奏が思わず叫び、|白蘭《 ・・ 》の傍へ駆けつけようとした、其の時だった。
「チャンス到来とは、正にこのタイミングでありんすな」
そう、何処か冗談めかした口調で|白蘭《 ・・ 》が笑い。
――ガブリ、と。
|白蘭《 ・・ 》がその口を大きく開き、それらの破裂する悪魔達を食らったのは。
『……な……に……?』
その一瞬、何が起きたのか分からないと言う表情を秀和が浮かべたのを見て、|白蘭《 ・・ 》……否。
「はっ……まずまずか。……少なくとも雑食性だった九尾の狐どもよりはマシな味だ」
その呟きと、共に。
刻印の魔力で自らの全身を包み込み、『白蘭』の姿となった、満月が、|白蘭《 ・・ 》の姿の儘、愉快そうに笑った。
●
――その満月によるカウンターの間隙を拭う様に。
濃紺と淡紅色の螺旋状の槍閃が、天空から降り注ぐ雷光と共に、英和を狙う。
それは奇襲にも等しい陽太の刺突と、冬季の振るった雷公鞭が生み出した雷撃。
その同時攻撃を直観した英和がバク転して強引に後退しながら両手を交差させ、続けて影朧を召喚しようとするのを。
「今上帝が無聊を慰める為に用意した青写真の外に一歩も出ていないあなた如きが私達を振り切れる筈が無いではございませんか」
そう微笑の中に嘲りを添えて。
飛行機を遥かに上回る速度で問答無用で肉薄した桜花が回し蹴りを解き放つ。
零距離から放たれたその蹴りを、交差した両手を押し出す様に召喚した影朧を盾として英和が受け止めたその瞬間を狙って。
「その動きも既に予知出来ていたのう」
そう言の葉を紡ぐと同時に。
漆黒の刀『黒曜山』を一閃したのは、義透。
その義透の『黒曜山』の一撃は、桜花の速度は愚か音速をも上回るマッハ5.0を誇る。
音よりも尚速い初めての斬撃は、英和がバク転と同時に着地しようとしていたその大地を、三日月形に抉っていた。
『なっ……?!』
其処に着地すれば、残された斬撃波の餌食になる。
そう咄嗟に考えてしまい、更に横跳びする様にとんぼ返りを空中で打って、体勢を立て直そうとしたのは当然であろう。
そうして大きな隙が出来た英和を護り抜かんと傍に控えていた中犬……忠狐とでも呼ぶべき妖獣が桜花達と英和の間に割って入ろうとした、其の時。
「此処ですね」
呟きと共に『スプラッシュ』を天に掲げたのは、ウィリアム。
そのウィリアムの行動と、『スプラッシュ』に収束していく氷の精霊達の力を感じ取り、瞬もまた、六花の杖をクルクルと回転させた、その刹那。
「――Permafrost!」
ウィリアムが天に掲げた『スプラッシュ』をその場で唐竹割に振り下ろし。
「凍てつく炎よ……吹き荒れろ!」
そのウィリアムが『スプラッシュ』を振り下ろし、空間を断ち切ると同時に戦場全体に吹き荒れた猛吹雪の中を瞬の149個の青白い炎が飛ぶ。
全てを凍てつかせ、永久凍土の世界を齎す猛吹雪に視界を奪われ、あまりの寒暖の変化に身震いする狐に向かって。
荒れ狂う呪いの凍てつく青白い炎と化した瞬のそれが、まるで銃弾の様に狐に着弾し、青白い呪いの炎を解放した。
『コォォォォォォォーン!』
瞬の凍てつく青白い炎に焼かれてその全身を凍てつかされ、狐が悲痛な悲鳴を上げている。
更にウィリアムが戦場に生み出した永久凍土の世界……そこは、義透が敢えて斬痕を置かなかった場所……に着地した英和が。
『ちっ……こんな所で……!』
ずるり、と軍靴を滑らせてその場にどう、と頽れる様に転倒しそうになったその直後。
その英和に追撃を掛けようとした桜花達の足止めをするべく超長距離にいる影朧が新たな機関銃を構えて、響達を蜂の巣にしようとした、其の時。
「其方にばかり、気を取られて本当に良いのでありんすか?」
既にかの影朧が何処にいるのかを懐中羅針儀Ωで把握した都留からの情報を基に、挑発的な笑みを称えた満月がそう問いかける。
これ程離れた距離では、本来であれば決して届く筈のない声ではあるが……満月は構わず、言葉を続けた。
「妾は、貴様を見る事さえ出来れば、貴様の動きを止めることが出来るでありんすよ?」
――|超弩級戦力《 ・・・・・ 》達の力を借りれば、幾らでも。
その決して誇張とは思えない、白蘭の姿をした満月の挑発的な笑みを、スコープで捕らえて。
影朧が白蘭の姿をした、満月達のいる後衛へと機銃の銃口を向けた、其の時。
「もう、私達の方の対策は完成しつつありますから。その手は通用しませんよ」
その状況を、灯璃が強制的に共有した空飛ぶ鳥の視界で見定めると同時にそう淡々と告げるのに首肯して。
「行きなさい。ファーマルハウトに住みし荒れ狂う火炎の王の使い魔達よ」
ネリッサが号令と共に、自分達と白蘭の周囲に配置していた60強の炎の精達を嗾け。
「炎の精達への、対神霊/UDC/NBC対応型戦闘支援ユニットによる加速属性を付与。……これなら、十分間に合うわよ、局長」
そう状況を分析していた都留がネリッサに伝えるとほぼ同時に、弾速を遥かに超える速度で60強の炎の精達が影朧に向かって驀進した。
「……はぁ……はぁ……!」
その60強の炎の精達もまた、圧倒的な精神的な摩耗に耐えた星羅が先程放出した香り高き追風を受けて、その炎の勢いを煽られ――そして。
――轟!
と言う激しい音と共に、影朧が気づいて咄嗟に放り捨てた機関銃に着弾し、その銃を炎で跡形もなく消滅させていく。
『ちっ……! あの影朧、もう付いてこられ始めたのか……無能者め!』
そう毒づきながらも態勢を整え、その手の杖を掲げ、新たな影朧を目前に召喚を行おうとする英和に向けて。
「おや……未だ、やられたりない様ですね」
嗤った冬季が、ヒュン、と雷公鞭を一閃。
しなる様に放たれた雷公鞭の一閃と共に、英和の上空から落雷が落ち。
雷光の中でも最も巨大化された落雷……天雷とでも呼ぶべき其れが、秀和の全身を痺れさせていった。
『がっ……ガァァァァ……何故……何故だ……! 何故、貴様等はこの欺瞞に満ちた世界を守る……!』
全身を冬季の雷撃によって痺れさせられ、その口を縺れさせながらも。
問いかけと共に、英和が無念と共に力尽きた自らの狐の同族である妖狐達を召喚し、続けて新たな影朧を呼び出そうとした、其の時。
「害意は、その指示者に返して上げるわ……」
そう小さく言の葉を紡いだ都留が、すっ、と人差し指を英和に向けて突き付けた、その刹那だった。
――ごっ!
『がっ……?!』
先程、義透が作り出した三日月形の斬撃の波を躱す事で生まれた英和の死角を狙って、致命傷にもなりうる強烈な打撃が英和の側頭部を打ち据えたのは。
突然の激しい横殴りの衝撃に、激しい脳震盪を起こしてぐらつき、喘ぐ様に口から液体を撒き散らす英和の胸を。
「……|Начать съемку《 射撃開始 》」
――ズドォォォォォォォォォーン!
呟きと共に、永久凍土と化した戦場を揺るがさんばかりの勢いで解き放たれた一発の弾丸が|бекас《 狙撃 》した。
それは……それまでずっと狙撃のタイミングを狙いに狙い続けていたミハイルの撃った、ボルトアクションスナイパーライフル、『SV-98M』による一撃。
「流石に手前が召喚している影朧程の距離から、正確に狙い撃つ事は出来ないが……」
それでも、とその必殺の一撃を決めたミハイルが鮫の様に笑った。
「所詮は|人間サイズ《 マン・ターゲット 》だからな。いつもみたいな手足の関節やらカメラアイやら、針の穴に通す様な真似はしなくて済む分、気楽だったな」
そう愉快そうに笑ったミハイルの声を、まるで聞いていたかの様に。
「お前の強さは認める。だが……お前は所詮、1人で来ることしか出来なかった」
胸が陥没する様な容赦のない一発を浴びて大きくその体を傾がせながらも。
それでも、未だ抵抗できるとばかりに妖狐達の召喚を続けようとする英和に向けて。
敬輔と統哉、そして響が素早く義透が作り出した三日月型の斬撃を足場にして、跳躍と疾走を繰り返すのに追随した律が呟く。
その律が肉薄と同時に、上段に構えた赤銅色の両手剣を……。
「そう、お前は|1人《 ・・ 》で来たんだ。その意味が……お前に分かるのか?」
問うと同時に、唐竹割に振り下ろした。
英和を真っ向両断にせんと振り切られた『クレプスキュル』の斬撃は、ミハイルに胸を陥没させられ。
都留に激しい脳震盪を起こさせられていた英和の体を断ち切り、バッ! と大量の血飛沫を戦場に撒き散らさせる。
これ程迄の攻撃を受ければ、人間や猟兵は愚か……『影朧』であったとしても致命傷であったろう。
――だが。
『ふざけるな……! 貴様達にこの世界の欺瞞が、過ちについてが、分かるものか……! 所詮は、幻朧桜と言う欺瞞に満ちた平和に踊らされるだけの者達が……!』
其れはまるで執念……否、妄執の様と怨嗟の籠った絶叫だった。
しかもその絶叫に導かれる様に。
無数の妖狐達が英和の頭上に現れた2つの魔法陣から現れその爪牙で我武者羅に食らい付かんと……。
「あらあら、|妾《 ・ 》を忘れないでくれなんしな」
そんな、妖艶な微笑みと、嘲りと共に。
奏に守られていた|本物《 ・・ 》の白蘭の眼差しが怪しげに輝く。
その眼光に籠められた老若男女問わず魅了する力が、律を八つ裂きにせんと襲いかかろうとした妖獣達の身を一瞬竦ませ。
「だから言っているだろ、何で、お前は、1人なんだと」
そう告げて。
乱戦を制した140体の内、70体程までに数を減らしていた胸に【1】と刻まれた隼達へとピュイ、と律が合図を出すと。
瞬間【35】と胸に刻まれた巨大な2羽の隼となった隼が、鋭い鳴き声と共に妖獣達に吶喊、それらの体を自らの羽で横薙ぎに斬り裂き。
――そこに。
「焼き尽くしなさい」
そうすかさずネリッサが下した命令を受けて。
70の炎の精達が隼の羽にその身を斬り裂かれ、よろける2体の妖獣に向かって突撃。
その体にとりつき、塵一つ残さず敵を焼き払っていく。
「……革命とか救済とか、大言壮語をしている様ですが……」
その焼き滅ぼされていく妖獣達のせめて、その魂だけでも安らかに眠れる様にと。
願いと祈りの籠められた統哉の『宵』の一閃で、焔に捲かれていた獣達が浄化されていくのを見送りながら。
「……あなたのやっている事は、人の弱みにつけ込んで、利用しようとしている、只それだけです。つまり……所詮は卑劣漢の戯言に過ぎませんよ……本田・英和」
そのネリッサの締めくくる様な言の葉に。
『ふざ……けるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
永久凍土と化した世界そのものを揺るがさんばかりの大音声が戦場に轟き。
そんな英和を尚も守ろうとするかの様に、既にほぼ無力化されている筈の超射程距離にの影朧が闇に溶け込む様にして、再び銃声を鳴り響かせようとした。
●
――その時、だった。
「……♪ ……♪」
その歌が戦場全体に鳴り響いたのは。
それは……美雪が戦場に居る、『諦めない意志を称賛し貫くことを願う』、トッカータ。
――トッカータ・オブ・オーロラスタイル。
その美雪が歌う温かな七色のオーロラ風が、周囲に咲き乱れる幻朧桜の花弁を舞い落とし、桜吹雪と化させて統哉達を後押しする。
――その間に。
「黯党首魁、本田・英和」
そう低く呟く様に。
淡紅と濃紺の螺旋を描いた鋭い刺突を放った陽太……零が、淡々と言の葉を紡いだ。
「転生は本来、影朧を|破滅《 ・・ 》から救うシステムで在り、偽りの救済にあらず。なれば、この世界の秩序を乱す貴様は……俺と陽太の敵にして、迎え撃たねばならぬ存在だ」
その陽太……『零』の言の葉に応じる様に。
陽太の被る白いマスケラの前に不意に輝きと共に描き出された魔法陣。
その魔法陣の中央に描き出された純白スーツに身を包んだ、優しげな風貌をした少年に向けて……。
「……その光と桜の権能を持って勇敢な者を鼓舞し、悪しき者を浄化せよ!」
そう陽太の鋭く命じたその瞬間。
魔法陣の中で双眸を見開きそこから生まれ出でる様に実体を伴った少年が真摯な光宿す双眸をかっ、と桜色に輝かせた。
その少年の双眸の輝きと共に解き放たれた光が、美雪が起こしたオーロラ風で吹かれた幻朧桜の桜吹雪の嵐を更に加速させていく。
この……永久凍土と化したこの世界で、何処か温かみを感じさせるその吹雪にその背を押される様にして。
「そこだっ!」
叫びと共に永久凍土をアイススケートの要領で滑って肉薄したウィリアムが『スプラッシュ』を袈裟に振るって英和を凍てつかせ。
「転生でも其の儘でも構いません。何度でも戻っていらっしゃい、黯党の党首に収まった青写真に収まった憐れな男」
その言葉と、微笑と共に。
桜花が零距離の儘に桜鋼扇を振るい、心臓をミハイルに撃ち抜かれても尚、その意志だけで戦いを続けようとする英和にネコの爪による抉り傷の如き切り傷を作り上げ。
――その美雪の風に押される様にして。
「喰らえ!」
敬輔が今度は時計回りに黒剣で9連撃を振るう様に見せかけて……その左手で己が腰に佩いた斧を手に取り斬り上げの要領で振るう。
その漆黒の斧に刻み込まれた銘は|復讐《 アヴェンジャー 》。
嘗て禁軍と呼ばれる者達を撃破した戦いの1つで敬輔が手に入れた、『はじまりの猟兵』の使用していた漆黒の斧。
そこに刻み込まれた文字と、明らかに普通とは異なる気配持つその斧を見て、ぎくり、と英和が身を震わせた。
『そ、そうか……っ! 貴様達は既に辿り付いているのだな……! 『はじまりの猟兵』の世界に……!』
――であるのであれば。
|あのお方《 ・・・・ 》の言葉通りであれば、彼等が帝の真実にそう遠くない未来に気が付く可能性は低くは無い。
一瞬、そんな思考をしながらも敬輔の|復讐《 アヴェンジャー 》の一撃を食らい、鮮血を撒き散らす英和。
それでも尚、そんな英和を守る様に突撃銃を持った影朧が召喚されたのは……。
「この愚物の執念の賜物と言ったところでしょうか。流石に此処まで来ると凄まじいものがありますね。ですが、既に手遅れです」
その呼び出された影朧の姿を見て、冬季が嗤いながら。
「この戦場は、森宮さんの召喚したあの少年の悪魔によって、その様相を大きく書き換えられてしまいましたから」
そう続けて冬季が雷公鞭を振るってその影朧の頭上に雷を落とす。
落とされた天雷に耐え切れず、一瞬でどう、と頽れるその影朧に。
「うおおおおっ! これで終わりだ!」
都留によって幸いにも致命傷を免れていた朔兎が迫りながら、一度妨害された召喚術を完成させた。
その瞬と似た様な月読の紋章を中央に描かれた魔法陣から131人の白い狩衣衣装の武士達が姿を表し。
その手の弓でひょう、と矢を一斉掃射して、頽れた影朧の全身を射貫き。
更に刀を持つ狩衣衣装の武士達が、刀を、地面を除く全方位から突き出して、一斉に英和を串刺しにし。
――そして。
「影朧の、オブリビオンの力に比べれば、俺達、人の力など、お前には非力に思えるのだろうな」
既に、虫の息となりつつある英和に向けて。
そう手向けの言葉を投げかけながら、黄金色に輝く『宵』を一閃する統哉。
それは……未だ出ていない英和が満足の出来ない答えが出続けるが故に、姿を現し続けていた妖獣達を一閃し。
その胸中に眠る『邪心』を断ち、妖獣達を瞬く間に浄化している。
その様子を何処か哀れむ様な表情で見やりながら。
「……でもね」
――だからこそ。
「人は思いを託すんだ。1人では到底為し得ない事だとしても、俺達は1人じゃないから」
――その思いを如実に示した者もいる。
それは……その『将』たるその男は。
「その人……紫陽花さんは、確かに、1人でその責任を負おうとはしたけれど。でも、そんな紫陽花さんと共に戦った人々も数多いた。彼も……『1人』じゃなかったんだ」
『ふん……|あのお方《 ・・・・ 》の、面汚しに過ぎぬ、屑共の事など……』
そう朔兎の呼び出した武士達に串刺しにされた体を痙攣させながら告げる英和に。
美雪がグリモア・ムジカに自らの歌を代唱させながら、統哉の言葉を引き取る様に続ける。
「……白蘭さんも言っているが……紫陽花さんは、最期まで『将』として立派に戦ったぞ? ……まあ、道を違えた責の一端が、我々にあるのは否定しないが……」
「……紫苑さんの事ですね」
その美雪の呟きにそっとそう溜息を漏らしたのは、奏だった。
それは、影朧を救済する為に戦い、戦死した紫陽花の娘の名。
彼女は、未練を残して影朧と化したが……思いを馳せていたとある青年と共に赴いた自分達との戦いの果てに。
自らの遺志を、想いをその青年……雅人に託して転生し、『紫蘭』と言う名の数奇な運命を抱えた『桜の精』となった少女の事だ。
それしか残された手段は無かったとは言え、紫苑を転生と言う概念の元に殺したその罪は、もしかしたらずっと自分達が背負い続けなければならないものなのかも知れない。
少なくとも……紫陽花が影朧甲冑で『あの反乱』を起こしたその責任の一端は、決して消えること無く付き纏い続けることだろう。
でも……その経緯を知っているからこそ、美雪にははっきりと言えることがある。
――それは。
「それでも紫陽花さんは、死者、弱者を踏み躙る様なまねはしなかった。……その想いに、私達に願いを託すために戦ったのだ。……そんな風に、貴方に只、『駒』と嘲られる様な存在では、彼は無かった」
その美雪の言の葉に。
同じくその一連の戦いに関わり続けてきた統哉もだから、と静かに首肯して続ける。
「仲間が居る、友がいる、大切な人が居る。……過去からは見えぬ未来へも、想いを、願いを届けることが、|人《 ・ 》には出来る。でも……」
――影朧達は、そうではない。
彼等は不安定な魂の儘にこの世に『停滞』し続けている彷徨える魂達なのだから。
そしてそれは……目前の影朧にして、テロルでもある英和も同様であろう。
『……認めぬ……私は決して認めぬ……! その様な欺瞞の上に成り立った世界こそが、この世界のあるべき正しき姿ではない……!』
その雄叫びと、共に。
自らの最後の力を振り絞って立ち上がり、統哉をその杖を以て打ち据えんとする英和。
そうまでしても尚、自らの死を拒む英和に向けて。
戦場全体を覆い尽くす桜吹雪に守られる様に英和の背後に音も無く現れた陽太が、未だ串刺しにされていない英和の背にリッパーナイフを突き立てながら。
「……1つだけ聞かせろ」
そう問いかけると同時に、グリグリとリッパーナイフを捻る様に突き立て、ゴボリ、と英和に喀血させながら問いかけた。
「……幻朧桜の呪縛に民が囚われているというのであれば、貴様は何故、幻朧桜が咲き乱れるこの場にいる? 貴様が本当に願ったことは……」
――或いはその応えを欲したのは、『零』ではなく陽太だったのかも知れぬ。
もしかしたらこの英和の本心は……。
「転生によって救われたいと本当は思っていると……そう、あなたは仰いますか?」
そう滑り込む様に身を屈め。
敬輔達より更に深く英和の懐に潜り込みながら、桜鋼扇を突き出した桜花の畳みかける様な言の葉に。
英和が――その死相を浮かべつつあったその顔に――嘲いを浮かべた。
『全て……は……この世界を……正す……為だ……! 貴様達ごと……この忌まわしき……幻朧桜とあの愚者共を……!』
その、英和の解に。
「……何処までも救いようがない存在だな、貴様は」
そう吐き捨てる様に、断ずる様に言葉を吐き出した陽太がリッパーナイフを抜きながら後退し。
それと同時に……右手で構えたままにしていた淡紅のアリスグレイヴを撥ね上げた。
撥ね上げられたグレイヴの穂先を陽太がその首に食い込ませたその直後。
懐に飛び込んでいた桜花が先程突き出した閉じた桜鋼扇でその腹部を貫きながら、英和の耳元に囁きかけた。
「……貴方も私も、あの方の前では等しく塵芥。ですから私、決めましたの」
その桜花の囁きと共に、尚もグリグリとねじ込まれていく桜鋼扇。
その攻撃に等々耐えきれなくなり、ゴボリ、ともう胃液位しか無いであろう液体を吐き出しながら。
『……貴様、何を……?!』。
まさか、と言う表情を浮かべて喘ぎつつ、問いかける英和に桜花は笑って囁いた。
「目に付く塵芥になって、何時かお目通りの機会を得ると」
――何時か……そう、本当に、何時か。
それ以上を言葉にせず、自宅にある様々な写真を掛け合わせた|あのお方《 ・・・・ 》の姿を脳裏に描いて、微笑む桜花。
その間に腹部に捻じ込む様に突き立てた桜鋼扇が、英和の腹部を抉り抜いた時。
『ガ……ァァァァァァァッ!』
陽太がその首に食い込ませたアリスグレイヴに同時にその首を掻き切られ。
――この戦場に現れた本田・英和は、終焉の時を迎えたのだった。
●
「……少し力みすぎましたかね?」
存在そのものを解体され、消滅していった英和の姿の残滓を見送りながら、コトリ、と小首を傾げる桜花。
音も無く、アリスグレイヴを引いて息をそっと吐いた陽太は、さて、とそんな桜花の問いに軽く頭を横に振っていた。
「奴は転生を望んでいなかった。つまりこの世界の秩序……理を否定したのだ。であれば、相応の罰を受けるのは必然だっただろうな」
そう呟く陽太のそれを左から右に聞き流しながら。
連戦で解き放ったユーベルコードの代償を払う様にゴボリ、と喀血して膝をつきながら、敬輔が軽く頭を横に振る。
「……はじまりの武器への反応、そして|予知の力《 グリモア 》についてを知っている……。あいつに何を知っているのか詳しく問い詰めた方が良かったのだろうか?」
そう苦しげに顔を歪ませながらも思考を垂れ流す様に言葉にする敬輔のそれに冬季が笑っていえ、と頭を横に振った。
「正直に言えば、少々興味はありましたが、竜胆さんが知る以上のことを今、あの愚物が話すとは思えませんでしたね。秘密なら、秘密にした儘、此処で消えて下さった方が、後腐れが無くて良かったと思いますよ」
その冬季の言の葉に。
「まっ……何はともあれ、取り敢えず白蘭は無事。選ばれた者ツラしたあの馬鹿は倒せたから良しってところだな」
そうあっさりと締めくくる様に白蘭の姿を解除して呟く満月のそれに。
「まっ……そう言うことだな、満月」
飄々とした様子で。
桜吹雪の中を悠然と煙草に火を点けて歩いてやって来たミハイルのその言葉に。
「守るべき人々を守る。ぼく達が彼のこの欺瞞に満ちた世界を守る理由なんて、只、それだけしかありませんからね。故に、彼と相互理解をすることはついぞ出来ませんでしたが」
そう首肯して『Permafrost』を解除しながら『スプラッシュ』を納剣しながらウィリアムが苦笑と共に肩を竦めるその間に。
「麗しの星羅! 大丈夫か!」
自分も決して傷を負っていないわけでは無いというのに。
前半で死力を尽くして疲労と体力の限界が来て戦いが終わるや否やその場に崩れ落ちた星羅の方へと朔兎が慌てて駆け寄っている。
それを追う様に走った瞬が、そっと星羅の脈を見てそれから安堵を籠めて息を吐いた。
「……強敵でしたからね。極度の緊張と疲労が祟って気絶した様です。……これ程の消耗になる事は星羅も覚悟をしていたのでしょうが……」
――それでも。
養父として星羅を保護している身である瞬としては、彼女がこれ程までに無理をするのをもう少し気遣う必要があったかも知れない。
そう微かに気落ちした様に肩を落とす瞬を励ます様に、律がパン、と瞬の肩を叩いた。
「気にするな。疲労ならば、休めば回復する。場数を踏めば、自然と慣れてくる様な事だ。寧ろここはお疲れ様と『師』としては言ってやるところだぞ、瞬」
そう律が宥める様に告げるのに、瞬がそうかも知れませんね、と首肯を返すその間に。
「何はともあれ、皆無事で何よりでした。勿論、白蘭さんも」
そうエレメンタル・シールドを下ろしながら奏が白蘭に声を掛けるのに、白蘭が今回は爪弾かなかった琴をそっと愛おしげに撫でる。
「まあ、妾のユーベルコヲドでこの影朧達を一時的にせよ虜にすることが出来たのは僥倖であったかもありんすな。折角の琴が無駄になったのは少々残念ではありんすが」
そう白蘭がカラコロと笑声を上げているその間に。
「取り敢えず局長。英和が召喚していた影朧……|暗殺者《 アサシン 》の消滅は確認できたわ」
そう都留が対情報戦用全領域型使い魔召喚術式と懐中羅針儀Ωで周囲の探索を密にし、弾き出された結果をネリッサに伝えると。
「それは、何よりです。ご苦労様でした、都留さん」
そう安堵の息を零しながら労いの言葉を都留に掛けるネリッサの脇で、灯璃が都留に向けて敬礼。
灯璃の敬礼に都留が敬礼で返したのを見ながら、煙草を吸いつつ近づいてきたミハイルが、で、と軽く肩を竦めてネリッサに問いかけた。
「|局長《 ボス 》、竜胆に対しての報告なんかは如何するんだ? 危険手当やら、必要経費の請求やら、やることはたんまりあるが」
ミハイルの軽口の様なその問いに、それは、とネリッサが軽く首肯を返す。
「改めて報告書を纏めて、白蘭さんにお渡ししましょう。そうすれば……」
「無論、竜胆はんから言付かった命やからな。妾も最後まできちんと処理はするでありんすよ」
そうネリッサの目配せに気が付いた白蘭が微笑を口元に浮かべながら首肯する。
そんな風に、ネリッサ達が一通りの算段を付けたのを横目に見やりながら。
「……転生、か」
そう誰に共無く呟いたのは……。
「美雪……如何した?」
その赤い瞳を向けながら、美雪の声を聞いた統哉が問いかけると。
美雪はいや……と軽く頭を横に振りゴシゴシと目頭を解す様にしながら嘆息する。
「……何故、この世界に幻朧桜が根付き、転生と言う概念が広く浸透したのだろうな、と思ってな……。私達は……」
――転生と黄泉還り。
その2つの生死に関する価値観を分かつ戦いを経験した。
けれども、あの戦いでもはっきりとした答えは出ず……今も尚、人々の魂を癒し、転生させる幻朧桜を巡る影朧達と戦っている。
――そして、幻朧桜のあるこの世界を、英和は『欺瞞に満ちた世界』と言い続けているのだ。
「……その意味は多分、未だ誰にも分からない事だと思うね」
その美雪の述懐を聞き、静かに双眸を瞑り、深呼吸と共に言の葉を漏らす統哉。
――結果として。
英和は転生を、自らの最期の時までずっと否定し続けていた。
――それでも。
「今を生きる俺達なら、未だ見ぬ未来を、歩んで行ける。例え、今は未だ、英和の転生にも、美雪の求める答えに届かずとも」
――だから。
「前に進むしか無いという事であろうな。今は、未だ」
――例え、|我等《 ・・ 》は四悪霊……一度死して、その激しい感情と共に蘇った者達であっても。
蘇った以上は猟兵であるのであれば……進み、答えを掴まなければならないのだ。
美雪と統哉のやり取りを捉えた義透が自らの胸中を振り返りながらも、そう諭す様に美雪に告げると。
「……そうだな」
そう静かに美雪が首肯するのに合わせて。
「今上帝様にとっては、私達の此もまた、無柳に過ぎぬのでしょうね。ならば……」
誰にも聞こえぬ様、小声でそう呟く桜花がその続きを更に唇に載せるよりも前に。
桜吹雪が猟兵達を優しく包み込む様に吹き荒れて、その姿を隠したのだった。
――今、猟兵達が帰るべき場所に、猟兵達を送る、その為に。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2024年04月29日
宿敵
『黯党首魁・本田英和』
を撃破!
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