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夢幻戦線誕生編〜強い奴はどんな時でも強い

#獣人戦線 #ノベル #吸血鬼戦線

黎明・天牙




 ヨーロッパ某所、ゾルダートグラードの支配下にある炭鉱施設。
 そこに捕虜として収容されていた獣人達を救い出すため、黎明・天牙は激闘を繰り広げていた。

『さて、お手並み拝見と行こうか☆』

 敵はエクスプローラー・ラスティーノ。
 単騎で軍隊を壊滅させた戦果から、一部では超大国の切り札とも呼ばれる男だ。
 彼は素早い身のこなしで瞬時に距離を詰めて来ると、オーラを纏った爪で攻撃を仕掛けてきた。

「……あっ何か当たってるわ」

 天牙の視力は爪の動きをちゃんと捉えていたはずだった。
 だが回避したつもりの攻撃は左腕を掠めていたようで、一拍遅れの流血と痛みがそれを伝えてくる。

『まだまだこれからだろ☆』
「危ねえな、おい」

 ラスティーノは追撃とばかりに顔めがけて回し蹴りをしてくる。
 天牙は適当なところで拾ってきた鉄の棒で防御するが、その衝撃は尋常ではなかった。

「山村ソード曲がったわ……まあいいや」

 ただの蹴り一発で鉄の棒が折れ曲がるほどの威力。噂に違わぬ実力ということか。
 天牙は山村ソード(鉄の棒)をまっすぐに直すと、壁の方へ投げつけて突き刺してから振動の力を放つ。
 これは魔術や神秘の力ではない、特殊な超技術だが――。

『それは読めてたぜ☆』

 ラスティーノはまるで未来を見ていたかのように、鉄棒と振動の力を回避した。
 ただの超反応や超スピードというだけでは説明がつかない。最初から予想していたかのような動きだ。

(ふ〜ん、身体強化と未来視と次元能力てんこ盛りのユーベルコードって訳か……ならやりようがある)

 一連の攻防から相手のユーベルコードを予想した後に、天牙は再び戦闘態勢に入る。
 なるほど攻守ともに優秀な能力で、普通の獣人では手も足も出ないだろう。
 だが、この程度ではまだ彼を絶望させるほどの理不尽ではない。

『ぼけっとしてていいのかな……うおっ?!』

 ラスティーノは瞬時に相手の視界から消え、背後から爪の攻撃をしてくる。
 だが、その前に天牙は振動の力を放ち、敵の体勢を崩した。

「速いなら捕まえればいいんだよ、餅つき大会だな」
『ぐわっ! てめぇ……真似すんじゃねえよ!』

 体勢を崩したラスティーノの両足を掴むと、べしんべしんと地面に何度も叩きつける。
 ダメージより屈辱を感じたためだろう、相手は口調を荒げながら手を振りほどこうとするが――。

「おばけの世界へ飛んで行け〜☆」
『どういう意味だよ! ぐおっ……!』

 その前に天牙はジャーマンスープレックスのように回転し、敵を壁の方へ投げつける。
 動揺があったためだろう、ラスティーノは受け身に失敗してしまう。叩きつけられた衝撃を流すことができず、立ち上がるのにもたついている間に、追撃が来る。

「今なら何と呪殺弾と振動の力もついてきます☆」
『ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!』

 即座に天牙はガンナイフの銃口を向ける――さっきパクっておいたものだ。
 マヒ効果のある呪殺弾を撃ち込んで動きを封じ、振動の力をぶつける。
 未来が視えていようが回避出来ない攻撃を食らい、たまらずラスティーノは血を吐いた。

「何ボケっとしてんだ? 今度は空の旅へご招待だ……ぜ!」
『ぐわぁ……!』

 天牙の攻撃は止まらない。すぐさま敵を蹴り上げて、空高く吹っ飛ばす。
 戦いの流れは拮抗から天牙の優勢へと、徐々に傾きつつあった――。



『ふふ……』

 一方その頃。
 別の世界から天牙達の戦いを見ていた邪神は、余裕そうに笑っていた。

(あれれ〜? 何か思ったよりボコボコにしてな〜い? ピンチになった所を余が契約するって流れだったよね〜? 時代という名のインフレに飲まれる筈だよね〜? 天牙の奴を追い詰めて契約に持ち込むつもりだったのに……? えっ?)

 が、内心では冷や汗ダラダラだ。
 このままではあの男、邪神が手を出すまでもなく、普通に勝ってしまいそうである。 

(こいつ、ゾルタードグラード研究機関【スティグマ】の最高傑作だよ? 少なくとも獣人戦線でこいつに勝てるオブリビオン片手で数えるくらいしかいない筈だよ? もしかして過去から連れて来る奴を間違え……あっ間違えてた)

 しかも人選ミスまであったことにも今更気付く。
 あまりにも迂闊、いや杜撰と言うべきか。

(やっべ……どうしよ折角支援していたスティグマの最高傑作、ここで潰されたら無駄じゃん。仕方無い)

 これ以上傍観している場合ではないと悟った邪神は、片手から黒い光を獣人戦線に向けて投げ放つ。
 その光は、今まさに二人がいる戦場へと、まっすぐに飛んでいった――。



『うぐっ…ぐおっ……!』
「おいおい、大丈夫か? まだまだアトラクションは残っているぜ?」

 振動の力を放ちながら、相手との距離を詰めていく天牙。
 あれから戦いのペースを握った彼は、完全にラスティーノを圧倒していた。

 もはやラスティーノも認めざるを得まい。
 この得体の知らない男は、自分が全身全霊を賭けて倒さねばならない「敵」だと。

『悪いスティグマさん、俺死ぬわ……でもこいつだけはあの世に連れて行く! 獅子奮迅!』

 そう言ってラスティーノは新たなユーベルコードを発動する。
 瞬間的に彼のパワーが何倍にも膨れ上がっていくのを感じ、天牙は「ちっ……」と舌打ちした。

(さっきから防御に徹してたのはこのユーベルコードを発動する為か……)

 この能力を使用したが最期、ラスティーノの魂は消失し、二度と復活することは出来なくなる。
 その代わりに未来視と次元能力、神速を超える速さを手に入れる事が出来る、一世一代の覚悟を決めた時にしか使用しない、秘中の秘たるユーベルコードだ。

『吹き飛べ! 鳥野郎!』
「……?!」

 姿が消えたと思った次の瞬間、天牙はラスティーノに蹴り飛ばされていた。
 受け身を取る暇もなく、壁に叩きつけられる。さっきとはまるで立場が逆だ。

(ちっ! 見えねえ!)

 体勢を立て直す前に追撃が来る。だが分かっていても反応が追いつかない。
 これまでとは文字通り次元の違うスピードだ。

『見えてんだよ! くたばれ、鳥野郎!』
「おいおい……☆つける余裕もねえのか?」

 防御に徹する天牙だが、ラスティーノの未来視で動きを読まれているせいで、攻撃を防ぎきれていない。
 それでも敵の豹変っぷりをからかうのは余裕の現れか、それともただの虚勢か。

 ――邪神の放った黒い光が、時空を超えて戦場に到達したのは、そんな時だった。

『らあぁぁぁ!』
「ぐぅ……!」

 本来の邪神の想定だと、その光はラスティーノに当たるはずだった。
 だが、ラスティーノが天牙を蹴り飛ばしたことで互いの位置がずれ、光は別の方角に飛んでいってしまう。
 そして――。

『マルスゥゥゥゥゥゥ!』『ルキナァァァ!』『ヒムロォォォ!』『パンツゥゥゥ!』『メタボォォォォォォ!』『イージスゥゥゥ!』

 黒い光は収容所でダイナマイトを投げていた、雀レンジャーズに命中した。

『イヤッホォォォォォ』×50

 これまで警備のオブリビオンを爆撃でかく乱し、天牙の戦いに横槍が入るのを阻止していたスズメ達。
 その一部がさらにテンションを上げたかと思うと、突如巨大な戦車に変身し、砲台を一斉発射した。

『はぁ……―――?????』

 降り注ぐ砲弾の雨。爆音、爆炎、衝撃。
 あまりにも意味不明な事態に、敵は考えるのをやめ、そして吹き飛ばされていった。



『あっ、やべっ……』

 その様子を別の世界で見ていた邪神は、頭を抱えてしまっていた。
 本当はあの黒い光のパワーをラスティーノに与えて状況を逆転させるはずだったのだろう。だが。

(やらかしたぁぁぁぁ! 間違えて変な雀達に当たったぁぁぁぁ! 変身能力手に入れちゃったぁぁぁぁ! もう余計な事しないでおこう……今度は天牙にあたりかねん……)

 何をやっても思い通りにならない。今の邪神にできる最善は、うまい具合に契約のチャンスが訪れるよう、ことの成り行きを見守ることだけだ――。



『てめぇが! 猟兵に覚醒する前に潰す!』
「痛てぇな……おい……」

 【獅子奮迅】の発動以降、戦いの流れはラスティーノ優勢のままだった。
 防戦一方ながらも天牙は思考を巡らせ、逆転の策を練る。敵が口走った発言はひとまず無視だ。

(猟兵って確かすげー強い連中の事か……とりあえず隙を作らねえとな……)

 その時、彼らの視界の端から黒い鷹が飛んできて、ラスティーノに破壊光を放つ。

『くそ! 何なんだよ! また鳥かよ!』
「おっ……チャ〜ンス! サンキューリズ!」

 黒い鷹は一瞬でラスティーノに倒されてしまったが、この一瞬が天牙に好機を与える。
 ここにはいない仲間へと、彼は感謝を叫んだ。

『リズ、今のは……?』
『私のユーベルコード! 一瞬でやられたけど……ごめんアルナ……これでいいのね、天牙!』

 その頃、収容所の出口まで逃げる事に成功したヴォルガとリズは、作戦通り逃走用の車と武器を確保していた。
 そして、もし天牙がピンチだった場合は少しでもいいから隙を作って欲しいと、彼に頼まれていたのだ。

「俺もとっておきがまだ残っているんだよ!」
『?! ……あれはやばい!』

 このチャンスを無駄にすまいと、全身に振動の力を纏い、ユーベルコードを発動しようとする天牙。
 危機を察知したラスティーノはそれを邪魔しようとするが――。

『ああっ?! 今度は何だ! ……ヴォルガの奴のユーベルコードか……』

 突然真横に飛んできた弾丸を、とっさに回避するラスティーノ。
 着弾した地面が溶けているのを見れば、それがヴォルガの【牙狼狙撃・インソムニア・スナイプ】だと分かる。

「『パラダイス・ブレイカー』神蛇雀男……!」

 この隙に天牙はユーベルコードの発動に成功。
 その瞳は蛇の目になり、周りには蛇の形の振動エネルギーが漂う。

『あいつ等……絶対許さねえ! だがまずはてめぇだ……ぐわあぁぁぁぁ!』

 二度に渡る横槍に怒り狂いながら、ラスティーノは目の前の敵に襲いかかろうとするが――吹き飛ばされる。

(な……何だ?! 未来視でも見えなかったぞ?!)

 何が起きたか理解できずに困惑するラスティーノ。
 次の攻撃は『危ねえ!』と防いだが、それも間一髪である。

 今のユーベルコードは【OVERBOOST・蛇雀振動撃】。
 神蛇雀男の超越攻撃と組み合わせる事で、未来視でも回避は難しくなる。

 そして神蛇雀男の力はあと一回、ユーベルコードの同時使用ができる。

「決着着けようぜ、ラスティーノ!」

 天牙はとある方向を向きながら、最後のユーベルコード【LASTBOOST・雀蛇神王砲】を発動。
 次元を超えた神速で、四方八方から拳がラスティーノに飛んでいく。

『くそが! 未来が見える前に攻撃が飛んできやがる! ……仕方ねえ!』

 防御するだけではジリ貧だと踏んだラスティーノは、顔を覆いながら天牙に突撃する。
 拳の一部が彼の足元を掬い、残りの拳が体勢を崩した所に向かって来るが――。

『ぐっ! ……足と顔が無事なら何とかなるんだよ!』

 攻撃を食らうも地面を転がりながら、何とか回避に成功して天牙の元に迫る。
 その姿はまさに執念だった。

「じゃあ、これはどうだ?」
『うおぉぉぉぉぉ!』

 天牙が放った巨大な蛇神王の拳も回避される。
 そして彼我の間合いは互いに拳を打ち込める距離に。

『これで終わりだぁぁぁぁ! が……ぁぁぁぁ!』

 残された力を振り絞り、巨大な爪のオーラを放とうとするラスティーノ。
 だが、その寸前――神速で戻って来た必中の拳が、彼の背後から突き刺さる。

『ぐ……あ……』

 あの時、壁に突き刺さった「山村ソード」が、彼の腹を貫通していた。

「途中で切り札切ってきた時ほ驚いたが……致命傷だぜ、ラスティーノ」

 獅子奮迅の反動で動けなくなっているラスティーノの元へ、天牙はゆっくりと歩いていく。

『くそ、最初からこれを狙ってたのかよ……』
「神蛇雀男はスピード特化形態だからな。トドメの一手が必要だったんだよ、ヴォルガとリズにサポート頼んでよかったぜ」

 想定外の事態もあったが、最終的には盤面を読み切り、布石を用意し、詰みの一手を見出した者が勝利した。
 ならば、この決着は必然と言えるだろう。

『……やるじゃねえか、でも俺を倒しても何も変わらないぜ……』
「そうか? ヴォルガとリズ助けられたし、気に入らねえ収容所ぶっ壊せたぞ?」

 敵の負け惜しみにも動じず、けろっとした態度で返す天牙。
 それを聞いたラスティーノは、ふうと大きく溜息を吐いた。

『……俺の負けか、せいぜい足掻けよ……』

 心の中で(頼んだぜ……俺のクローン……)と呟きながら、ラスティーノは消滅した。
 後に天牙はこのクローンとも決着をつけることになるが、それはまた別の話である。



「よっしゃ、逃げるか」

 敵の死を見届けた天牙は、くるりと踵を返す。
 こうして彼らは収容所を脱出し、ヴォルガの仲間を助けたり、リズの妹と合流出来たという訳だ。

『こんな……筈ではなかったのだ……』

 なぜか邪神は膝をついて絶望していたが、天牙の知ったことではない。
 それよりも――。

『ユー達、マイフレンドォォォォォォ!』×∞
『おい! 何だ! こいつ等は!』
『キャァァァ! 頭のおかしい雀がついて来たぁぁぁぁ!』
「あっ何か変身したわ……」

 こんなドタバタの一幕のほうが、よほど大変だったかもしれない。



 その後、ヴォルガ、リズ、雀達、そして(ジャンケンでリーダーになった)天牙は夢幻戦線を結成する。
 このチーム名は、夢や幻を現実にする為に戦う戦線という意味だ。
 これから彼らが獣人戦線で繰り広げる数々の冒険と激闘を、世界はまだ知らない――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年04月06日


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