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春嵐に消えゆく

#サムライエンパイア


 ふわり。ふわり。
 淡く色づいたほのおが、川の畔にゆらゆらと漂って。
 暗やみの中。まるでお星さまがおどっているみたい、と。
 誘われるがままに近付いていったのは、里で一番小さな男の子。
 ふわふわ浮かぶ海月に囲まれて、きゃあと声をはしゃがせた。

 今日は、年に一度の「祈り」の日。
 この地におわす神さまへ。一年の平穏を願い、感謝と祈りを捧げる日。
 川沿いの里に根付いた特別な日の、幻想的な景色。
 普段は警戒心が高い筈の大人も、目前の光景に思わず感嘆の息を吐いて。

 このふわふわたちも、僕らみたいにお祈りに来たのかな?
 いったい、どこから来たのかな?
 末の子につられて、子どもたちが我先にとほのおの輪に飛び込んでいく。
 好奇心に誘われるまま――その中の一人が、ほのおをつかむ様に手を差し伸べて。

 「……え?」
 忽然と。ほのおに触れた刹那、その小さな姿が消えてしまった。
 何が起きたかも分からずに、その場に居た皆が一様に静止する――否。
 彼らの背後に浮かんでいた影だけは、悠然とした動きのままに。

 海月に惑う人々を、獲物と定めて。
 星海を溶かした様な影が、彼らへと迫っていた。

 ――ごうごうと。春の嵐の音がする。

●春嵐に消えゆく
「可哀相に。最後には皆、嵐に呑み込まれて消えてしまいましたとさ」
 これにてお仕舞いとでも云う様に、ハロルド・マクファーデン(捲る者・f15287)は手中に在る本を閉じかけて――猟兵たちの眼差しを受け、困ったようにその眉尻を下げた。
「……なんてね。ここで終わりに出来てしまう方ならば、私の呼び掛けに応えてくれる筈もなかっただろう。すまない、そして集われたあなた方に感謝を」
 居住いを正し、ハロルドは改めて猟兵たちの顔を見渡した。彼らに自らの予知を伝えるべく、言葉を続けていく。
「場所はサムライエンパイア。古くから、とある水神が住まうとされていた川があるらしくてね。その畔に、彼の災厄は程なくして現れる」
 予知に現れたオブリビオンは二種。
 幻想を纏い漂う海月の群れと、星空を写したかのような甲羅を持つ亀の怪異。
「まず厄介なのが、この海月なんだ。これらはどうも、人の心に深く影響を及ぼす術を使うらしい」
 ――例えば、それは己自身の望み焦がれたモノであったり。
 ――例えば、それは己が心の奥深くにしまい込んだモノであったり。
 その毒牙は、誰しもが心に秘めているであろう事柄を否応なく浮かしてくる。
「どうか、気をしっかりと保って対処してほしい。……最も、あなた方であれば余計な心配となるかもしれないが」
 その腕っぷしはもとより。猟兵たちの心の強さも信じている、とハロルドは面々を見ながら柔く笑みを浮かべる。
「海月を全て倒したなら、待ち構えているのはあの亀だ」
 夜と星々を落とし込んだような色を持つオブリビオン。名を『黒翡曜』と言う。種の中ではまだ小さく、子亀に類される大きさだ。
「成獣ほどの驚異はないとは言え、その固さは侮れないからね。心して臨んで欲しい」
 あの甲羅を貫くのは、容易ではないだろう。人々を呑んだ嵐にも気を付けねばならない。幸いにも、本体の動き自体はそれほど素早くはなさそうだ。
 どうにか立ち回り、里の者が川へ訪れる前に決着をつけたい。
「今の時間であれば、まだ日が落ちきっていないだろう。里の方々が来る夜までに、この災厄を祓って来て欲しいんだ」
 それが終われば、と。
 これまでの真剣な声音から一転して、ハロルドは楽しげな響きを言葉に乗せた。
「どうも、今日はこの里で年に一度行われる「祈り」の儀と言うものをやるらしいんだ。調べてみたが、これがなかなかに面白い趣きでね。詳しいことは、現地で聞くことが出来るだろう」
 全ては、事が終わった後に。
 そろそろ時間だと、ハロルドは腰を上げて再び本を開く。淡く輝きを放つ一枚の頁、猟兵たちに縁深いグリモアの光だ。
「どうか、くれぐれも気をつけて。己の心に、呑まれないようにね」


瀬ノ尾
 初めまして。瀬ノ尾(せのお)と申します。
 お目通し頂きましてありがとうございます。

 此度はサムライエンパイアでのお話です。

●第一章
 幻想を見せる海月達を倒して頂きます。
 もしも。見えるであろう幻想風景やトラウマがありましたら、たっぷりと詰め込んでくださいませ。PC様それぞれに、思い思いの打ち倒し方を綴って頂けたら嬉しいです。

●第二章
 亀の形をしたオブリビオン『黒翡曜(こくひよう)』との対決です。
 海から遡り、この川流れる地へと流れついた様子。自然破壊――並びに、人の営みに反応を示しているらしく。ここで倒さねば、遠からず近隣の里を襲ってしまうでしょう。

●第三章
 無事に全てのオブリビオンを撃破できましたら、最後には里の方々と共に「祈り」の儀に参加することが出来ます。
 ゆたりと流れる川へ、祈り・願いを込めた笹船や紙を流していく穏やかなひと時。
 普段は口に出せぬ言の葉を、形にしてみるのはいかがでしょうか?

 各章、どこから参加していただいても構いません。大歓迎です。
 グループ参加の際は、迷子防止のために【お相手のID】もしくは【グループ名】をご記入下さいませ。

 もしもお声かけがありましたら、第三章のみハロルドもお顔出しさせて頂きます。基本的には登場致しません。

 それでは、どうぞ宜しくお願い致します。
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第1章 集団戦 『水晶宮からの使者』

POW   :    サヨナラ。
自身に【望みを吸い増殖した怪火】をまとい、高速移動と【檻を出た者のトラウマ投影と夢の欠片】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    夢占い
小さな【浮遊する幻影の怪火】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【鍵の無い檻。望みを何でも投影する幻影空間】で、いつでも外に出られる。
WIZ   :    海火垂る
【細波の記憶を染めた青の怪火】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
👑11
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夕暮れの刻。導かれるは川の畔。
傾いた陽が、穏やかに流れる川を橙色に染めている。

――ふわり。ふわり。

新たに場に現れた人影に反応してか。
空中に浮かぶ海月の群れが、猟兵たちを取り囲むように動き始めた。
ルヴィリア・ダナード
見覚えのある教会と見覚えのある顔も思い出せない人影達にちょっと泣きそうになる。
これってどっちの意味なんだろうか。
会えて嬉しいから?それとも…悔しいから?
私を大切にしてくれて嬉しかった。誉めてもくれたでも…
君は考えなくてもいい、なんて呪いの言葉が頭に過って体が震える。
何も考えないなんてダメだった。
私は人形だけどちゃんと考えて行動のできる人形だった。

私のせいで死んでいった悪いことをしてないヒトが私を攻める。
一人一人の顔を見て名前を思い出す。沢山後悔した、一杯泣いた。
私はもう後悔で泣かない為に頑張るんだ。

すっかり自分のことで一杯になって今の状況を忘れるところだった。
今の私の精一杯を見せてあげるわ。



 ルヴィリア・ダナード(嘘つきドール・f01782)は、気付けば教会の中に居た。
 懐かしい空気に、どうしようもなく既視感を覚える。彼女は、この場所を知っていた。
「ここは……」
 くるりと、周囲を見渡して。何気なく視線を向けた先、見覚えのある人影たちがルヴィリアの目に飛び込んでくる。
 覚えはある。けれど、今はもう顔も思い出せなくて。
 ぼんやりとした輪郭のみを伴う人影を前にして。彼女の緑の瞳には、薄い膜が揺らめいていた。
 ルヴィリアの胸に湧き上がる感情。涙を零さぬように瞬きながら、彼女は考える。
 これって、どっちの意味なんだろうか。
 会えて嬉しいから? それとも……悔しいから?
 彼の人々は、ルヴィリアを大切にしてくれいてた。ちゃんと誉めてもくれた。それを、嬉しいと感じていたのは本当だ。
「でも……」
『君は』
 ルヴィリアの言葉を遮るように、影の一つが言葉を放つ。
『君は、何も考えなくていい』
「――っ!」
 それは、ルヴィリアにとっての呪いの言葉だった。影は口々に同じ言葉を繰り返す。神に背く者を狩る、それだけの為の物である機械人形へ。言い聞かせるように、言い含めるように。
 違う、と震える身体を抱き締めながらルヴィリアは頭を振る。
「何も考えないなんて、ダメだった。私は人形だけど――ちゃんと考えて、行動の出来る人形だった!」
 囁かれ続ける呪いの言葉を振り切るように、影たちを背にしてルヴィリアは歩き始める。
 目指すは教会の出口。自分自身の判断で行動を起こした、あの日のように。
 扉に近づくにつれて……囁く人影は、いつの間にかその姿を変えていた。
 先程のぼやけた人々とは違い、はっきりと顔を持つ影が、歩みを止めぬルヴィリアの背に声を掛ける。
 それは、彼女を責める言葉だった。
「!」
 弾かれたように振り返ったルヴィリアは、目にしたその顔に息を呑む。
 知っている、忘れてなんかいない。次々と現れる顔を見て、一人一人の名前を思い出す。
 どうしようもなく、覚えている。彼らを想って、たくさん後悔して、いっぱい泣いた。あの日々を。
 感傷が、作り物である筈の胸を満たす。けれど、ここで雫を落としてはなるものかと、咄嗟に耐えて。
「私は。もう後悔で泣かない為に、頑張るんだ」
 いつか抱いた想いを胸に。涙を堪え、踵を返して。ルヴィリアは『出口』に手を掛けた。

「――もうっ。すっかり自分のことでいっぱいになっちゃった」
 海月の見せる『檻』から出たルヴィリアは、地に降り立つや否や古びた魔道書を開く。今の状況を忘れてしまうところだった、と。意志を強めた緑の瞳が、目前の怪異を真っ直ぐに見つめていた。
「今の私の精一杯を、見せてあげるわ!」
 怪異へ突き付けるように向けた指の先。まばゆい天からの光が、海月たちへ降り注いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
オレには嫌な記憶がないんです。だからこれは適材適所。

トラウマとは違いますけれど。善良になろうとしているところがある。
オレはことの善悪を知らないうちから今までずっと、悪人です。だから善良に「戻ろう」じゃなくて、「なろう」とする。もう一人だか二人だか百人のオレが。
「今からでもやり直せる」「悔い改めれば正しく生きていける」って、どこかで思ってるんでしょう。

そんな綺麗な話がありますか。オレは悪びれない悪党でいることが好きなんです。

『刃来・竜檀』。一人でも二人でも百人でも千人でも、顔面真っ二つにしてやる。善人のオレが一人でもいてたまるか。
善人のオレを呼ぶクラゲも斬ります。余計なことをしてくれる。本当に。



 海月が見せるという幻想。己が蓋をしてきた心を、否応に出してしまうもの。
 此度の敵の術を聞いて、矢来・夕立(無面目・f14904)思ったのだ。それならば、と。
「適材適所です。オレには、嫌な記憶がありませんから」
 ことの善悪を知らぬうちから、今までずっと悪人であり続けた自分には。足の竦む様な、恐れる様な事柄など、何も。
 海月の展開した『檻』を物ともせずに、夕立は歩を進める。海月たちの『檻』は心を晦ませはしても、自らが立ち止まりさえしなければ障害とは成りえない。
 淡々とした物言いで前に出て来た夕立に、海月たちがふわふわと集いはじめる。
 だが、彼に畏れを抱く心はなく。ともすれば無感情にも見える暗い赤の瞳が、どの怪異から切り捨てるべきかと狙い定めるように動いていた。
 ――率直なまでの殺意に、あてられたのだろうか。今までゆらりと漂っていただけの海月たちが、警戒を示す様に動きを変える。ふるりと身を震わる海月が纏い始めたのは、より強く色を持った赤い怪火。人の望みを吸い出して力を増していく炎を、海月たちは夕立へ向けて放出した。
 眼前に迫る炎を払うように、夕立は咄嗟に月の羽織を翻す。纏わりつく火に、しかし常ならばある筈の熱は伴わず。火傷を引き起こすようなものではないなと夕立は瞬時に判断し、そして僅かに動きを止めた。この怪火も、身体の損傷を狙ったものではない。では、一体何の為に?
 払われた炎が、靄のように広がって。次第に形を成していく。
「――あなた、は」
 それは、人の形をしていた。淡い赤を帯びていた光が、徐々に暗くなり。闇に溶ける様な黒になる。頭から爪の先まで、黒を纏わせた人影。行き場を失った赤色が、ぎゅっと凝縮されるように集まれば……まぁるい、二つの目玉になって。
 矢来・夕立の姿、そのものを模っていた。
『やり直そう』
 目の前の影が口を開く。夕立の耳朶に響くそれは、あまりにも慣れ親しんだ声で。
『今からでも、やり直せる』
『悔い改めて。そうすれば、正しく生きていける』
「……何を、言っているんですか」
 剣呑を帯び始めた夕立の瞳など意に介さぬように、ひとりふたりと増える影は口々に言葉を落としていく。
『大丈夫、やり直そう』『心を改めて』『悔やんでいるんだろう』『悪党でいるのは、もう終わり』『そう。今からでも、オレは』
『『善き人に、なれるよ』』
「……………」
 声はなく。音もなく。
 ――赤漆の茎を握ったその手が、答えだった。
「全く、ふざけている」
 人影が、崩れていく。息もつかぬ間に繰り出された一閃が、己と同じ形をしたモノを切り捨てていた。
 ああ、でも。影はひとつだけではない。いつの間にか己を囲むように群れていた炎の人影へ、夕立は躊躇いもなく刃を向けた。
「事もあろうに、善人になろうだなんて。そんな綺麗な話がありますか。オレは、悪びれない悪党でいることが好きなんです」
 手にした脇差が、次々と影を切断していく。忌々しい言葉を放つ口ごと叩き斬るように、顔面から真っ二つに切り裂いて。影の一切を逃さぬように消していく。
「……余計な事をしてくれる、本当に」
 硝子越しの瞳が、僅かに細められる。視線の先、影どもを生み出した怪異たちへも、その凶刃が向けられた。

成功 🔵​🔵​🔴​

上泉・信久
SPD 共闘可

幻想的な光景ではあるが厄災に変わりはないな
まずは海月の妖を屠るとしよう

幻術には【殺気】をもって自身を律しよう
無窮の剣に到達するべく邁進して早百年
海月如きの幻術で曇ることはない

数が多いな……1匹ずつやっていては被害が出てしまうか
無窮村正を構え、【錬成カミヤドリ】で複製する
剣の道としては不敬であるが、此度は仕方あるまい
相手は妖なれば、亀まで剣技は我慢しよう

複製した村正を操り、川を泳ぐ魚のように宙を駆けさせる
「村人を守ること」を優先し、自分に近づく海月は【見切り】【残像】で回避する
せっかくの祭りだ。存分に苦しんで冥土へゆくがよい


穂結・神楽耶
●*
夢を見ること、祈ること。年に一度のハレの日を守らねばなりませんね。

恐らくわたくしは焼け落ちる都市を見るでしょう。かつてわたくしが猟兵となる前のこと、守護者でありながらその任を果たせなかった日の夢。
悲鳴。怒声。命乞い。嗚咽。救いを求める声。視界を染める黒煙と、世界を舐める火炎と。かつて守れなかったすべてがわたくしに手を伸ばす。そんな幻想。

【巫覡載霊の舞】。清浄なる神霊の伊吹で以て幻惑を切り払います。負担はかかりますが、神霊を降ろした状態なら幻想投影にも耐性を得られましょう。
かつてに囚われて今守るべきものを取りこぼすわけにはいきません。
浮かびて踊るその海月、何体いようと叩き切ってご覧入れます!



「――あら」
 畔に着いた穂結・神楽耶(守れずのヤドリガミ・f15297)は、遠目に夕陽を背に立つ猟兵の姿を見止めた。不確かではあったが、見知った影のような気がした。けれども。
 まずは目の前の脅威を取り除くことが先決だ。本体である太刀を握りしめ、彼女の視線は漂う海月の群れへと向きなおる。
「年に一度のハレの日を、守らねばなりませんね」
 夢を見ること、祈ること。かつて御神体であり守護者であった神楽耶が、そうした人の営みを守るべく立ち上がるのは自然な事のように思われた。
「ああ。幻想的な光景ではあるが、厄災に変わりはないな」
 人々への災いと成りえる海月たちを前にして、同じく刀に宿るモノである上泉・信久(一振一生・f14443)も一歩前に出る。見目の若さに反し齢百を迎えている彼にとって、唯人たちは子の様なものに見えるのかもしれない。彼らの短い生を奪い取られる訳にはいかぬと、予知に現れた人々を守るために信久は打刀を抜く。
「まずは、海月の妖を屠るとしよう」
「ええ。わたくしも助力いたします」
 横に並ぶ神楽耶の太刀から神霊の気を感じ取り、心強いと口の端を上げて信久は前を見据えた。
 辺り一面に漂う海月の怪火。怯む事なく、二振りは一歩を踏み出して――。

 ――――ほのお、炎、焔。
 瞼を開けた神楽耶のまなこに、ごうごうと燃え盛る赤が映し出された。
 視界を染めるほどに止めどなく上がる黒煙が、世界を舐めるようにうねる火炎が。
 忘れもしない神楽耶の地が、穂結の社が。嘗ての彼女の全てが赤に呑みこまれ、焼け落ちていく。
 眼前に広がる、この光景は。彼女がいつか見た、見てしまった、地獄だ。
『…………たすけ、て』
 声が、呼んでいる。炎を前に固まっていた神楽耶の耳に、それは確かに届いた。
 その一つを皮切りにして。いくつもの声が、重なるように神楽耶の耳に流れ込んでくる。
『たすけて』『あつい、あつい』『いやだ』『たすけて!』『しにたくない』『おかあさん、どこ?』『やめろ、やめてくれ』『たすけて!!』『ころさないで』『どうして、こんな』『だれか、だれか』『おねがいだから』『たすけて!!!!』
 ……それは、悲鳴だった。嗚咽だった。命を乞う言葉だった。救いを求める声だった。唯ひたすらに助けを望む、切な願いだった。
 彼らが手を伸ばしていたのは。彼らを守るべきはずだった者は、誰?
「――分かっております。これは、わたくしの後悔そのもの」
 一つ、息を吐いて。『穂結・神楽耶』を名乗る少女は、目前の炎へ歩き出す。
 全てを燃やすかのように揺れ踊る炎。だが、そこに嘗ての熱さはない。
「あの日を悔やみはすれど、哀しみはすれど」
 一歩。また一歩を踏みしめて。燃え盛る赤を映した瞳が、決意を灯して前を向く。
「それに囚われて、今守るべきものを取りこぼすわけにはいきません」
 ……もしかしたら。猟兵となり力をつけた今であれば、この地獄に囚われた人々を救えるのかもしれない。間に合わなかった過去を、やり直せるのかもしれない。
 だが、これは幻想だ。失われんとする命は、既にここには無い。
 揺れる炎へ、おもむろに手を伸ばす。掲げる指先、その身に降ろすは神霊の力。清浄なる神霊のいぶきを以て、神楽耶の身は限りなく神へと近くなる。
 参りましょう、と神楽耶は己の武器を構えて呟いた――今度こそは、この身を間に合わせる為に。

「なるほど、大事は無いようだな」
 再び顕れた神楽耶の姿を見て、信久はその悠然とした笑みを崩さぬまま、されど一匙の安堵を滲ませて言葉を溢した。彼女が忽然と姿を消してしまった時には驚いたが、これが海月たちの『檻』に囚われるということか。
 面妖な事だ、とひとりごちるようにして。信久は、舞い踊るように浮かぶ海月の群れに目を向ける。
 ――信久自身、海月の怪火に身を晒しもした。
 だが。無窮の剣に到達するべく邁進して早百年、海月如きの幻術で彼の精神が曇ることはない。信久の強靭な理性を支えたのは、その剣先のように鋭く尖った彼自身の殺気だ。
『檻』に捉われることなく、信久は目の前を浮遊する怪異の群れと対峙していた。
 近づく海月の動きをその素早さでもって見切りながら打刀を振るい、一体、また一体と信久は妖を屠っていく。
「……ふむ。どうにも数が多いな」
 次から次へと、押し寄せるように向かい来る海月たち。その強さは知れていても、このまま一匹ずつ相手取っていては被害が出てしまうかもしれない。
 ざっと後ろへ飛び退り、信久は一度海月の群生と距離をとる。手にした打刀を構え――刹那、その一振りが、幾重にも重なった。
 数にして、凡そ二十。無窮村正と呼ばれた、常よりも重いという珍しい打刀が瞬く間に顕現され、信久の背後に展開される。
「剣の道としては、些か不敬ではあるが。此度は仕方あるまい」
 持ち前の剣技は、この後に控える大型の脅威に備えて――せっかくの大捕物を前に刃こぼれをしては勿体無いだろうと、飄々とした声音で信久は嘯く。
「わたくしも、加勢いたしますね」
「おや。もう大丈夫なのか?」
 武器を構え、横に並び立つ神楽耶を横目でとらえて、信久は声を掛けた。
「ええ、ご心配をお掛けいたしました。万事、滞りありません」
 『檻』から出た神楽耶の身は、清廉な気を纏わせる神霊体となっていた。神気に満ちたこの状態であれば、もう海月の幻影に惑わされることもない……刻々と削られていく、彼女の寿命と引き換えにして。
 この国に伝わる戦巫女の術。この地に慣れ親しんだ信久も、その特性を看破していた。
 あまり時間は掛けられないな、と。眼前の海月の群れを見据えながら、信久は打刀の操作に集中する。
「では、一息にゆくぞ」
「はい。あれなる海月が何体いようと、全て叩き切ってご覧に入れます!」
 己が武器を振り抜いた神楽耶が、勢いよく衝撃波を放ち。
 己の武器を浮かせた信久が、二十を超える打刀を一斉に振り下ろす。

 横薙ぎの一閃に、海月達は成すすべなく薙ぎ払われ。
 討ち漏らした個体を、川を泳ぐ魚のように宙を駆ける無窮村正が斬り払う。
「せっかくの祭りだ。存分に苦しんで、冥土へゆくがよい」
 淡い紫の羽織をはためかせ。霧散する妖へ、信久は土産の言の葉を贈った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

伊美砂・アクアノート
心的外傷、あるいは過去の強烈な悲劇、記憶の中の想い出…。興味深いね、他の猟兵が何を見て、どのように立ち向かうのか。 しかし、残念なコトに。あるいは、不幸なコトに。…伊美砂・アクアノートという個人に【悲劇的な過去など存在しない】『私』が何かを視るとすれば、それは無明長夜の虚無でしかない。ただ一人きりであることを望む。 意識は脳内にしか存在しない。思考は数十の人格に分割される。あらゆる過去と未来は、全て分割されて別の私のモノになる…。…なーんてね! あたしは毎日がハッピー! オレは常に幸せ! ボクはいつでも幸福。ふはは、我は常に世界の頂点!……私たちはみんなひとりぼっち! だから、せめて笑うのさ!



「心的外傷、あるいは過去の強烈な悲劇。記憶の中の思い出」
 共に導かれた猟兵たちが消えては顕れる様を見て、伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)はその様子を観察していた。
「興味深いね。他の猟兵は一体何を見て、どう立ち向かっているのか」
 それは、哀を滲ませて。それは、憤怒を引き起こして。それは、決意を新たにさせて。
 猟兵たちの在り方に、興味を惹かれる。彼らが見たようなものを、きっと彼女は見ることが出来ない故に。
 人の記憶を浮かび上がらせる海月の『檻』。されどもそれは、“該当する記憶が存在する”場合の話である。
「残念なコトに。あるいは、不幸なコトに」
 アクアノートは、その陽に当たらぬが故の白く滑らかな腕を伸ばして。漂う海月の怪火を受け入れる。余裕すら感じるその仕草は、火の先に見える何かを、まるで予感しているとでも言うようで。
「私、伊美砂・アクアノートと言う個人には。“そういったもの”はないのよ」
 ――とぷん。

 それは、闇であった。
 果てのない暗闇、無明長夜の虚無。何も見えぬ空間に、ただの一人きり。
 その孤独な光景は、『私』が望むものでもあった……けれども。
 孤独は長くは続かない。彼女の持つ意識は脳にしか存在せず、その思考は数十人の人格に分裂される。あらゆる過去も、未来も。全てが分割されて、『私』ではない別の『私』のものになる。
「……なーんてね!」
 恒久と思われた闇の中、アクアノートの突き抜けて明るい声音が響き渡った。同じ声が口々に、ただ一つの体から紡がれていく。
「あたしは毎日がハッピー! オレは常に幸せ! ボクはいつでも幸福。ふはは、我は常に世界の頂点!」
 淀みなく放たれる言葉。同じ口から出たとは思えぬトーンの声が、我先にと主張を述べる。
 個を持った『私たち』が、暗闇の中で蠢く様に囁きあっている。
「私たちは、みんなひとりぼっち! だからせめて、笑うのさ!」
 悲劇的な過去など、彼女にはなかった。悲劇を悲劇と感じるすべがなかった。いつからだったろう、自分の中に悲哀という人格を見掛けなくなったのは。
 だからこそ、ここには何もない。つまり、障害となるべきものは何もない。
 ただ一歩を踏み出せば、それでいい。
「さぁさぁ、ご覧くださいな」
 真っ暗闇の中、アクアノートはポーチからコインを取り出す。手品師のようなコールロインを行いながら、誰にともなく言葉を続けて。彼女は確信していた、これを披露すべきはこの暗闇の一歩先、黄昏の中に浮かんでいると。
「これは、指先の動きでコインを弾き飛ばすだけの……ただの技術です。ええ、種も仕掛けもない」
 一歩を、踏み出す。視界が開ける。眩しいほどの夕焼けの光が、そして無数の海月たちが、アクアノートの瞳に飛び込んでくる。無数には無数で相手取る、武器は既にこの手の中に。
「射撃技術ですの!」
 無数のコインが、彼女の手中から放たれる。それは浮かぶ海月を次々と撃墜して。
 堕ちていく海月たちの群れの中。オートクチュールの革靴、その黒のヒールをカツンと鳴らして。
 アクアノートは優雅に、高らかに、しとやかに、快活に。『私たち』の笑みを浮かべてみせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

キトリ・フローエ
人々の祈りを、消させるなんてするものですか
綺麗な花を見せてくれるわけでもない、はた迷惑なだけの春の嵐は、あたし達の手で止めてみせるわ

…きっと、海月達が見せる幻は、ずっと昔
星だけが輝いてる夜空の下、一面の花畑
何もわからないまま、静かな世界の中にひとりきり

あの時は、こわいという感情を知らなかった
けれど、今はわかる
あの時のあたしは、とてもこわかったの

…でもね、今は独りじゃないって知ってるの
あたしのことを知っている、覚えていてくれる皆がいるから
――こわいものなんて何も、ないのよ

ベル、と杖に呼び掛け、祈りを込めて、全力で
空色の花嵐で海月達を纏めて攻撃
ひとの心を覗き見した報いは、その命で受けてちょうだい



「人々の祈りを、消させるなんてするものですか!」
 橙に染まる川の畔に、キトリ・フローエ(星導・f02354)がその銀白色の髪をふわりと揺らして舞い降りた。菫の花を思わせるかのような翅を羽ばたかせ、彼女は周囲に漂う海月たちと対峙する。
 小柄な彼女と海月たちとでは、さほど大きさは変わらない。無数の海月を前にして、けれどキトリは怯むことなく前を向いている。
 キトリの脳裏に過ぎるのは、出立前に耳にした里の人々の様子。そして、それら全てを奪い去ってしまうであろう、春の嵐。
 春は好きだ。綺麗な花々を見せてくれるから。花びらが風に舞い踊る心穏やかな光景を、キトリは既に知っている――だからこそ。
「はた迷惑なだけの春の嵐は、あたし達の手で止めてみせるわ!」
 迫り来る敵の怪火から、目をそらさずに。花纏う精霊を供にして、キトリは幻想に立ち向かう――!

 ……ずっと、昔のこと。
 キトリの心の片隅に、今もひそりと残っている景色がある。
 星だけが輝いている夜空の下、一面に咲く花畑。
 残酷なまでにきれいで、穏やかで。静謐を湛えた世界に――小さなあたしが、ひとりきり。
 何もわからなかった。自分がどこから来て、どこに行くべきなのか。
 己のはじまりすらも、知らなかった。
「……あの時は、分からなかったけれど」
 眼下に佇む『あの時のあたし』を見ながら、キトリは言葉を溢す。
「今なら、分かるわ。……あたしは、とてもこわかったの」
 その感情すら、知らなかったから。あの時は言葉にすることも出来なかった己の心を、キトリは今ようやく口にする。今はもう、こわいという感情を知っている――そして。
 この気持ちをも塗り替えてしまえるほどの、大切なコトを知っている。
「今のあたしは、もう独りじゃないって知ってるの。あたしのことを知っている、覚えていてくれる皆がいるから」
 ――こわいものなんて何も、ないのよ。
 ふと。幻想の『あたし』が顔を上げる。行く宛もなく、さみしいと言う気持ちすら分からずに、瞳を彷徨わせていた『あたし』がいる。
 幻想の自分自身と目が合って、キトリはぱちりと瞳を瞬かせる。鏡写しのあたしたち。けれど、その目に映る景色はきっと変わっている。
 星煌めくアイオライトの双眸を、キトリは柔らかく細めてみせた。
「きっと、『あたし』もこれから分かる日が来るわ」
 そう、きっと遠くないうちに。大切なモノたちに逢える日が、やって来る。
「――ベル!」
 花蔦絡む杖を掲げて、キトリはその名に呼びかける。花纏う彼女の相棒は、呼応するように輝きを増して。
「あなたの花を、見せてあげて!」
 キトリの出来うる精一杯を込めた祈りが、煌めく青と白の花びらになって舞い上がる。
 空色の花嵐が、全てを吹き飛ばすかのような勢いで吹き荒れて――彼女を捉えていた『檻』を、かき消した。
 夕焼けに染まる空の中。青白の花弁を纏わせて、夜星の瞳をもった少女は高らかに謳う。
「ひとの心を覗き見した報いは、その命で受けてちょうだい!」
 星空のドレスを翻して、キトリは再び花嵐を巻き起こした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エン・アウァールス
【●*】

絶対に出るなと、そう言われている。
恥ずかしいから、みっともないから。

そんなぼくの所に、会いに来てくれるひとがいた。少し色褪せた着物を着ていたけれど。
とても綺麗な、女のひと。

ぼくに言葉を教えて、読み書きも教えてくれた。
頭も良くて、やさしくて。
ただ、角が片方折れていただけだった。

暮れ六ツ。
今日もあのひとが来てくれる。

けれど、
届いたのは、あのひとの悲鳴だった。
布の破れるような音がする。
気づけば、扉に縋り付いた爪先から血が滲んでいる。
どうして。どうして開かないの。

「ねえ、」

聞きなれない声。
振り向く前に、顔の真横から鋸が顕れる。

「使いなよ」

恐る恐る、受け取ったそれは。
驚くほど軽く、手に馴染んだ。



 それは、昔。ほの暗い場所での出来事。
 エン・アウァールス(蟷螂・f04426)には、今もずっと、心に覚えているひとがいる。
 恥ずかしいから、みっともないからと。外に出ることを禁じられていた自分のところに、いつも会いに来てくれたひとがいる。とても綺麗な、片角の女のひと。
 彼女は、外界への戸を閉ざされていたエンに言葉を教え、読み書きを教えた。物を知らぬエンにも、柔らかな言葉を掛けてくれて。頭が良くて、優しくて。それがエンにはとても眩しく見えた。
 ……ただ。そんな綺麗な彼女の纏う着物が、いつも色褪せていたことが。エンにはすこし不思議だった。

 悲鳴が、聞こえる。
 暮れ六つ。いつもならあのひとが来てくれる時間。だけど、あのひとは来ない。来れるわけがない。だって、この悲鳴はあのひとのものだ。
 絶えず響く悲鳴、布の破れるような音。彼女の片方折れた角に言及する、荒々しい声。
 気付けば、エンは扉に縋り付いていた。いつも彼女が開いてくれる扉、彼女に逢える扉。今開けなければ、きっともう二度と、あのひとを見ることは叶わない。
 それなのに、なんで、どうして。扉は固く閉ざされたまま、エンから彼女を引き離そうとする!
『――ねぇ』
 ぬるりと。聞きなれぬ声と共に、鈍く光る黒が視界へ入り込む。顔の真横に差し出されるようにして顕れたそれは、黒い鋸だ。
 何が、誰が。後ろを振り向こうとするエンを遮るように、声が再び言葉を放つ。
『使いなよ』
 何に、とは言わなかった。どうにか扉を開けようとして血の滲んでいた爪先を、おそるおそると鋸に伸ばして。
 掴み取ったそれは、物々しい見た目に反して驚くほど軽く。拍子抜けしてしまうほど、すんなりとエンの手に馴染んで。
 手にした鋸を、エンは勢いよく振り被って――。

「そういうことも、あったよね」

 ――ザン、と。見せられていた己の幻想ごと両断するようにして、エンは海月の怪異を斬り払った。
 映し出されていた幻想は、凡そ過去の真実に寄ったものだろうけれど。それを見せられたエンが、果たして何を思ったのか。感情の見えぬ金の瞳からは、あまり多くを窺い知れない。
 それにしても、とエンはすっかり持ち慣れてしまった自身の鋸を見遣る。
「こんな海月一つ斬ったくらいじゃ、キミを研げそうにもないな」
 使い慣れた道具の一つ。肉と体液で切れ味を増すそれは、ふよふよと浮かぶ海月たち程度の手応えでは満足しそうにない。
 でも、これは仕事だから。羅刹である己の身に鬼を宿しながら、エンは鋸を握り直す。降魔の代償として流れ出すエンの血液が、黒曜石の刃に滲んでいく。
「もう少し使うよ、『肉剥』」
 周囲を漂う海月の群れは、それなりに綺麗と思えるものだけれど。まずは仕事を完遂させないと、とエンは仄暗い光を瞳に宿す。浮かぶ炎の海月を、一つ残さず、貪り尽くすように、狙い定めて。
 鬼と化した青年は、衣を靡かせて躍り出た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

閂・綮
【●*】

桜樹文様の小袖を纏い。
その腕に赤子を抱く、女が居た。

“ どうぞ、抱いてくださいませんか。その子もきっと喜びます”

手渡された赤子は、きょとりと黒目を動かし。女の腕から離れたことに気付くと、不安げに男を見上げた。
一一と。その赤子の顔に、小さな影が落ちる。
鳥のような、花のような。
不思議なものが、飛んでいる。

指先を掠めたり、鼻先を優しく啄んでいくそれに、赤子は笑い声を上げている。

「すまなかった」

笑う赤子と、その様子を穏やかに見守る女に向けて。
男はただ一言、瞼を閉じそう言った。

一一破魔の光が、満ちていく。

もう一度、瞼を開ければ。
女の姿は消え。腕に抱えていたものは、焼け焦げた塊となっていた。



 ふわり、ふわり。
 夕闇に漂う海月たちは、猟兵たちの奮闘により徐々にその数を減らしていった。
 次々と海月を屠っていく猟兵たちの中、貪欲なまでに海月を狩っていく一人の後ろ姿を目の端に見とめて、導かれて来たばかりの閂・綮(マヨヒガ・f04541)はしばしその動きを止める。
 その傍に。未だ怪火を携えていた海月が、音もなく近づいていた。

 ――女が、居た。
 桜樹文様のあしらわれた小袖を纏い、その腕に赤子を抱いている、女が。
 女は、穏やかな空気を纏って閂を見上げていた。抱えた赤子を愛おしげに一撫でしてから、しずしずと閂に差し出して。
『どうぞ、抱いてくださいませんか。その子もきっと喜びます』
 さぁ、と女に促されるままに、閂はその小さな嬰児を抱きかかえる。
 手渡された赤子は、そのくるくるとした黒目を動かして。やがて、自分を抱えているモノが、今まで抱かれていた筈の女の腕では無くなっていることに気づいたのか。まぁるい瞳が、きょとりと閂の方を向く。
 くしゃりと。その愛らしいかんばせが歪みそうになり――。
『――う、あ?』
 ひらり。泣いてしまうかと思われた赤子の鼻先に、小さな影が落ちていた。
 鳥のような、花のような。不思議なものが、ひらりひらりと舞い踊って。
 周りをふよふよと漂うそれにつられるように、赤子の瞳が動いていく。
 鮮やかな色彩をしたそれは、たまに赤子の指先を掠め、鼻先を優しく啄んで。その度に、きゃあきゃあと赤子が楽しげな声を上げていた。
 愛らしく笑う赤子と、その様子を穏やかに見守る女。
 あたたかくまぶしい、その光景は。いつか、どこかの閂の心を投影したものなのだろうか。
 閂は、静かに瞼を閉じて……とつと、ただ一言だけ呟いた。
「――すまなかった」
 刹那。彼の指先からじんわりと、あたたかな光が広がっていく。それは神聖な、破魔を宿した光。心惑わす魔を昇華する光が、この空間に満ちていく。
 ……やがて、溢れんばかりの光が収まって。閂は今一度、瞼を開く。
 そこにいた筈の女は消え。
 この腕に抱えていたものは、焼け焦げた塊となっていた。
 カタリ、カタリと。役目を失った幻想の鳥が、悲しげな音を立てている。

 『檻』を壊した閂は、錆び付く体を軋ませながら歩を進める。
 目に染みるような夕焼けの空は、彼の好むところではあるけれど。しかし、その瞳に映るのは愛しい人々の営みではなく、それを脅かす怪異のみ。であれば、閂が為すべきは一つなのだろう。
 軋む指先を前へと掲げる。浮かぶ海月たちへ、託宣を下すかのように。
「お前たちを、恨みはすまい」
 ポウと灯る光は、破魔のそれであり。
「だが……人の安寧を、見す見す侵させる訳にはいかぬのだ」
 慈悲深きカミの在り方、そのものだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アハト・ナハト
見えた幻想は暁光を受けて朝を迎える空、明ける夜。

光、光、光

彼の瞳に朝の風景が映る。
「朝?そんな筈は、、有り得ないだろォ?捌夜は明けちゃいけない。だーれ?捌夜にこんなモノ見せるのわァ?」

彼の表情に怒りが滲む。幻であったとしても、否、幻だからこそ夜が明ける光を見せられた事は許せなかった。
彼にとって光は恩寵。光は温み。未だ掴んではいけない、掴めぬ物。

その怒りに答える様に武器が彼の殺意が、夜にしか咲かぬ花に変わって海月へ向かって征く。

「楽にはさせねェよォ?」


アドリブ・改変可



 漂う怪火、海月たちの群れの中。
 アハト・ナハト(セイギと捌の夜・f14905)はそれを見た。
 焦がれて止まぬ――『 』を、見た。

 既に日は暮れ始め、宵に差し掛かっていた筈の空。アハトはそう記憶していた筈だった。
 次に来るは夜。黒灰の髪を持つ彼が、そのまま溶けてしまうかのような捌の夜。天幕の降りた真暗闇。
 その、筈だった。
「……なに、なんだァ?」
 髪に覆われた彼の瞳に、飛び込んでくるものがある。視界を防ごうとも、強烈に。瞼の裏を突き抜けて、網膜を焼き付けんとするものがある。
 これは、この『 』は。まさか。
「――朝ァ?」
 引き攣った様な声を零して。アハトは信じられぬと言った面持ちで空を見る。
 その瞬間。雲間から差した暁光が、アハトの瞳を突き刺した。
 夜は既に開けている。帳はとうに開いている。眩しいまでの輝きに満ちた明けの空が、そこにある。

 『ひかり』『ヒカリ』『光』――。

 彼の瞳に、焦がれて止まぬ『光/朝』が映る。
「……えない」
 ぽつりと。普段は裂けているかと思われるほど大きく開く彼の口が、その口角を下げきって。小さく、小さく繰り返す。アリエナイ。アリエナイ。アリエテハイケナイ。
「そんな筈は、有り得ないだろォ?」
 徐々に開かれる口から吐き出されるのは、否定の言葉。彼が夢に見るほどに焦がれた明けの空。けれど、ああ、けれども。それは“こんなところで見れるものの筈がない”。
 未だ、捌夜は明けてはいけない。
「だーれェ? 捌夜にこんなのモノ見せるのわァ?」
 アハトの顔に物騒な怒りの表情が滲む。例えこの『光』が幻であったのだとしても――否、幻であるからこそ。
 夜を明かす『光』を見せられた事が、許せない。
 アハトにとって『光』は恩寵。『光』は温み。未だ掴んではいけない、掴めぬ筈の物。
 彼の怒りに呼応する様に、彼の殺意を表すかの様に。アハトのグローブから伸びる糸が、はらはらとその姿を変えていく。糸の先から、白に変わって。夜にしか咲かぬ刺々しい花の花弁が、辺り一面に吹き荒れていく。
「凄惨に啼く、惨状に亡く。何時だって惨状は夜に起こるからねェ」
 その言葉を体現するかの様に。月下美人の花弁が、視界を、空を覆っていく。全て覆われてしまえば……ああ、何てことはない。見慣れた夜がやって来る。
 そうだ、本来ここは朝などではなく。夜を迎えんとする黄昏の下。
 己にまやかしを見せたモノ……この空の向こうにいる敵を認識して。
 アハトはにぃやりと、犬歯を剥き出しにして笑みを浮かべる。
「楽には、させねェよォ?」
 なぶる獲物を想像して。アハトはうっそりと、その長い舌を舐めずった。

成功 🔵​🔵​🔴​

雨糸・咲
●*

私も水辺に居を構える身ですが
海月を見るのは初めてですね
ゆったりと虹色に輝いて、何だか綺麗
…なのですけれど

怪火の次に見えたのは、二人の人影
睦まじく手を取り、微笑み合う壮年の夫婦
小柄な女性は私とよく似ていて
あぁ、
あれは、私の大切な――

主さま…
奥さま…

二人が穏やかに齢を重ね
共に老いていく姿
それを、どれほど願ったか

でも――
現実には届かなかった夢
指先は触れること無く、弾けて消えた泡沫

…どんなに優しくても、真でないなら

ぐっと奥歯を噛み締め
握った杖を一振り

清めの白菊、偽りの夢を払って…

叶わなかったことを悔やみはしても
戻りたいと弱音を吐くつもりはありませんよ
今はこの手に、掬えるものがきっとあるから



 普段は森の湖畔で過ごしている雨糸・咲(希旻・f01982)にとって、漂う海月の姿は初めて見るものだった。ゆったりと虹色に輝いて、何だか綺麗ないきものの姿。その幻想的な光景に、咲は思わず感嘆の息を零すけれど。
 ――彼らの纏う幻影の怪火は、香り立つ少女をも浮き世へと拐っていく。

 ぼやけた視界。定まらぬ景色。
 一体どこに来てしまったのだろうと、咲はおもむろに辺りを見渡す。ここが、話に聞いていた海月の『檻』なる場所なのだろうか?
 つと、視線を滑らせた先――胡桃色の瞳に、二人分の影が映る。
「……あぁ」
 漏れた吐息は、歓喜か、驚嘆か。万感の思いが、咲の胸を満たしていく。
 睦まじく手を取り合って、微笑みあっている壮年の男女。その様子は、おそらく夫婦と思えるもので。片割れである小柄な女性は、どこか咲と似た面影を感じさせていた。
 見目にも仲睦まじい二人の影の方へ、誘われるようにして。ふらり、ふらりと歩を運ぶ。咲は、彼らが誰か知っている。
「主さま、奥さま……」
 それは、咲がこの身を得るに至った所以の大切な主さま。そして――ついぞ見ることが叶わなかった、願い焦がれた二人の姿。
 二人が穏やかに齢を重ね、共に老いていく姿。かつての咲が、それをどれほど願ったか。
「――でも」
 それは同時に。彼女がそこまでに願い『続けた』と言うことは、現実には成しえなかったからだという事実の表れに他ならない。まだ籠であった頃の自分が自我を持ち、宿神となるまで募った想い。
 思わずと言った風に伸ばした指先。けれど、それは誰に触れることも無く――夢は、泡沫となって。あっけなく弾けて、消えていく。
 そう、これは夢。咲にとってどんなに優しく、望んだ世界であっても……真では、ない。
 ぐっと、耐えるように奥歯を噛み締めて。咲は己の杖を握りしめる。
 残酷なまでに優しい夢を、終わらせるために。
「――清めの白菊」
 手にした『雪霞』を一つ、ふる。
「偽りの夢を、払って……」
 ――さぁぁ、と。無数の白菊の花びらが、辺り一面に舞い踊る。
 優しくも、現世に在らざる偽りの景色を。咲の焦がれてやまなかった世界を。
 全て、覆い隠すかのように。

「……叶わなかったことを、悔やみはしても」
 再び黄昏に身を染めた咲は、まだ数を残す海月たちと今一度あいまみえる。
 波打つ群青の髪を揺らして、一歩。今度はしっかりとした足取りで、前を進む。
「戻りたいと弱音を吐くつもりは、ありませんよ」
 はらはらと、彼女が歩む度に白の花びらが舞い落ちて。咲は、しかと前を見据えて『雪霞』を構える。
 ヒトの身として顕現せし今ならば。この手に掬えるものが、きっとあるから。

 ――ふうわりと、花香る。唯一と謳われる、白菊の香りが。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
正に逢魔時、ですねぇ

夕暮れを游ぐ儚い糸遊
げに美しき光景なれど人を惑わす厄災故に
宵の帳が降りる前に骸海への航路を標しましょう

招くよう差し出す掌
まみえる幻想

今刻と違わぬ夕さりの薄明のひととき
広がる景色は雄大な山を抱く草原
遠くを往く人影を見る
自身によく似た、けれど己ではない後ろ姿
手にした香炉を落とそうとしている

――其れが粉々に砕けたなら、あなたは安らぐことが出来ますか?

問い掛けに返る答えはない

幽かに笑んで双眸を閉じる
此れは幻
私は「答え」を知っているから

霊符を挟んだ指で空へ描く五芒の一番星
一陣の風が吹けばきっと、幻は彼方に

範囲攻撃で解き放つ符
真白の雪柳の花弁で海月達を祓う

さぁ
在るべき海へ還る時間ですよ



「――ああ、これは」
 ふわりと漂う花の香。畔に降り立った都槻・綾(夜宵の森・f01786)は、僅かに目元を緩ませた。縁のある香りは、戦さ場においても心を和ませる。
 さて、と綾は周囲を見渡して。ぽつぽつと、数を減らしながらも未だ浮遊する海月へと目を向ける。
 黄昏の陽に晒されて。人襲う魔は、その淡いほのおの身をゆらめかせていた。
「正に逢魔時、ですねぇ」
 夕暮れを游ぐ儚い糸遊。げに美しき光景なれど――其れは、人を惑わす災厄故に。
 宵の刻はすぐそこに。帳が降りきってしまう前に、然るべき場所へ送り届けてしまわねば。
「骸海への航路を標しましょう――さぁ」
 おいで、とでも言う様に。綾は、たおやかな仕草で海月に掌を差し伸べる。
 常と同じく、穏やかな笑みを湛えた儘。その瞳に一雫の好奇を滲ませて。
 ――揺蕩う小さな赤の灯火が、その滑らかな指先に触れようとしていた。

 其れは、うつし世の刻と違わぬ夕さりの薄明。
 雄大な山を抱く草原の中に、綾は一人で佇んでいた。
 ――否。一人と言うのは間違いで。綾と、もう一人だけ。まるで鏡に移したかのように似通った人が、そこにいる。
 彼は、綾に背を向けるようにして。その手中にある香炉を、今にも落とそうとしていた。
 遠目に見える濡れ羽の君、綾に由縁のある男。
 香炉を手放そうとするその姿にも動ぜずに。『青磁香炉』は、至って穏やかな声で男の背に問い掛ける。

「――其れが粉々に砕けなら、あなたは安らぐことが出来ますか?」

 ……答えは、無く。『香炉』は幽かに笑んで、ゆるやかに青磁の双眸を閉じた。
 此の光景は、海月の見せる幻だ。何故なら、『香炉』は既にその「答え」を知っている。
 纏う狩衣から霊符を取り出して、綾は空へ五芒の星を描く。
 黄昏に輝く一番星。其れを中心にして、一陣の風が吹き起こる。
 草はらが、山が、男が。すべてが瞬く間にかき消えて――役目を失った『檻』が、一人の男を解き放った。

 浮き世の黄昏から帰還して。手にした符へ力を流しながら、綾の視線は残る海月たちを捉えていく。花を手向けるべき相手を、ひとつひとつ定めていく。
「さぁ――在るべき海へ、還る時間ですよ」
 巻き起こるは雪柳。春を告げる愛らしき花弁が、全ての海月を包み込んで。
 真白の花景の柩が、糸遊をとこしえの眠りへと誘っていく。

 すべて、すべての海月は、骸の海へと還りゆく。
 彼らの夢を、想いを呑み込んで。過去司る骸の海へと、還って行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『黒翡曜』

POW   :    地天の甲
全身を【堅牢地神の加護により硬質】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    銀砂の星
対象のユーベルコードに対し【長尾から発生させた光粒】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ   :    気嵐の夢
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
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 夜が来る。夜が来る。
 星海を溶かした様な、夜が来る。

 猟兵たちが全ての海月を屠る頃。
 陽は山の向こうへと姿を隠し、辺りがうすら闇へと包まれる。
 各々の戦の跡。しばし訪れた静けさに、誰ぞが安堵の息を零した時。

 川の水面が荒く波立ち、周囲の木々がざわめき蠢く。
 やがて顕れたるは、仄かな光纏う怪異の姿。
 ――ごうごうと。春の嵐が、やって来る。
ルヴィリア・ダナード
【●*】

さっきの海月さんもだけど…
この亀さんもなかなか綺麗なんだよなー…
ダメダメ、見た目で騙されたらいけないね。
痛い目にあったところでしょ、気合い入れ直していくぞ。

もう!こんな破天荒な現象、経験したくなかったわ!
やるならしっかりコントロールしなさいよー!
メリーさんを盾のように使ってまずは自身の身を守る。
そしてしっかりユーベルコードを観察。
よしよし!バッチリ見せてもらったわ!
ということでこれでもくらいなさい!
ミレナリオ・リフレクションでそっくりそのままお返ししてあげる。
私はこんな破天荒な現象でもしっかり、制御して、やるわ…!


矢来・夕立
●*
先のは酷かった。
こちらは雅やかといえばその通りなんですが、バケモノですし。彗星落としと参りましょう。
幸運ですよ。若い内に死ぬというのは。思い残しが少ない。

堅いのは面倒ですね。嫌いです。
『忍び足』で射程圏内まで接近しましょう。
上手く行ったら気づかれないうちに『紙技・影止針』。
当たればまあまあ痛いでしょうか。
少なくとも動くのは辛くなると思いますよ。普通の折り紙ではないので。

『2回攻撃』で命中する確率を上げて、攻撃力の低下とユーベルコードの封印を狙います。
闇討ちや先制攻撃を考えている方がいらしたら協力しますよ。

前衛の方、必要なら『援護射撃』でもしますので。どうぞご随意に暴れてください。


キトリ・フローエ
まるで地上に落ちて、帰る場所を失くした星のよう
…そんなにきれいなものだったなら、怪異なんかにならなかったかしら
どこにも行かせないわ
あたしたちが、ここで全部終わらせてあげる

他の猟兵のみんなと一緒に戦うわ
あたしはみんなが攻撃しやすいように、夢幻の花吹雪で黒翡曜の動きを一時的にでも封じたい
夢の嵐は空を飛んで回避を試みるけれど、無理なら耐性とオーラの守りでやり過ごして
それから、同じ嵐(エレメンタル・ファンタジア)をお返ししてあげる
あたしはあなたに夢を見せてあげることは出来ない
見せてあげられるのは、躯の海への帰り道、ただ、それだけ
だからせめて迷わないように、祈りを込めて全力で、あたしの魔力を叩きつけるわ


伊美砂・アクアノート
【SPD】『咲いた花なら散らねばならぬ 恨むまいぞえ小夜嵐』…ってね。しかし、咲き誇る前に、花を摘み取るのは無粋というモノだよ。人も花も、精一杯に咲き誇って実を結んでこそ浮かぶ瀬もあれ。 きゃはは、オレ上手いコト言ったかな?【暗視5、2回攻撃6、投擲5、スナイパー5、援護射撃5】ユーベルコードで、味方を支援するようにコインを連射。 にゃはは、花に嵐の例えもあるけれど! 貴方は此処でさようならさ! それが人生、それが戦争。たとえ何もかもが消え去っても、何処かの誰かは生きて笑ってるでショウ! 『想い廻せば浮世は鏡 笑ひ顔すりや笑ひ顔』…なんて。少なくとも、これで誰かが笑えるのなら、それで良い。


雨糸・咲
荒っぽい春の風に乱された髪を押さえて
思わず見入ってしまう、星空に似た姿
一瞬、そちらへ行きたいと思ってしまうほど
頬を叩く風も忘れてしまうほど

…きれい、ね

誰にも届かない、小さな呟きを零して
それでも
瞼を閉じ、再び開けば迷いは無く

まだ子亀だと聞きましたが…
人々に災厄を齎すものならば、
行かせるわけにはいきません

伸ばした両手は
連れて行って、と求める素振りに似るけれど
強靭な蔓は怪異を捕らえるため
こちらの攻撃が他の生き物に影響を及ぼさないよう
岸に足止めしましょう
他の方が攻める足掛かりとなれれば

――さようなら、美しい夜空
静かな深い海の底、覚めない眠りについて下さい

※アドリブ、他の方との絡み歓迎です


アハト・ナハト
【●*】

音のした方を向くとソコには

「嗚呼?海月と来たら今度は亀ェ?発散し足りないから良いけどさァ、いつから此処は竜宮城になった訳ェ?」

なんて、口では気だるく言うが表情は体は未だ殺る気に満ちている。

「亀ってあれだろォ?甲羅をひっくり返せば自力で戻れずそのままくたばっちまうんだろォ?なら」

UCを使って無数の人を影から出すと、その全てに亀を持ち上げてひっくり返す様に協力して貰う。
亀のUCで消されても永遠と影から出し続ける。そうすれば捌夜に目が向いて他の猟兵も動きやすいだろうしなァ。

出来るだけ攻撃する時は肉の柔らかい足や腕、首の付け根を狙わないとねェ。


都槻・綾
――何と美しき骸、

星海を背負いし荘厳な姿に思わず零れる素の呟き
然れど何故
此の地を、現し世を訪ったのだろう

川流れ往く祈りの想いに惹かれましたか?
或いは
変わり行く地や時代を宙の海から嘆いたのでしょうか

例え
返る答えのない徒爾であろうと
自己満足であろうと
言葉で以て己と他を繋ぐという智慧もまた
人の営みのうちだからこそ
彼の者にも問い掛けてみたい

死角、急襲に備えて研ぎ澄ます第六感
見切り回避
自他共にオーラ防御

挙動をよく観察
次技を読んで皆へ声掛け
七縛符で封じ、仲間の援護

高速詠唱、属性攻撃で祈り高めた鳥葬は
大地の――草木芽吹く自然の、土の、花の、香り纏う羽搏き
春爛漫の嵐を贈ろう

萌える春の香に包まれて、お休みなさい


閂・綮
【●*】
エン【f04426】と協力

人の営みに反応する災禍、か。
…“そのように、”生まれついたか。

我は、人に望まれた守護者故。
お前を見逃すことは出来ん。
例えお前が“そのつもり”では無いのだとしても。
その歩みが、破壊しか齎さぬのであれば。
この先には進ません。

恨むのなら人ではなく。
我を恨み、水底へ還るがいい。

◾️戦闘
他の猟兵が戦いやすい様、【破魔】の光で暗闇に灯を。光は花火のように空を昇り、やがて砕け散る。
負傷者が出た場合は駆け寄り【救助活動】及び【生まれながらの光】で支援に当たる。
敵のWIZ攻撃に対し【オーラ防御】【拠点防御】、また「花翼」による【範囲攻撃】で相殺を試みる。


エン・アウァールス
【●*】
閂【f04541】と協力

これで子供なら、成熟した個体はさらに面倒なんだろうねえ。海月は斬り甲斐が無かったけれど、こっちはこっちでいやに硬そうだ。

まあ、あの守りを崩すのは得意なヒトにお願いして。
エンは柔らかそうな箇所を狙っていこうかな。

◾️戦闘
【暗視】【忍び足】【罠使い】で敵の死角に周りつつ行動しよう。
「肉剥」は守りの堅い部分には不向きだから、露出している手足・頭・尾を狙う。
「雪迎え」を周りの木々に張り巡らせて敵の阻害、また自身が回避するための足場にする。
「雪迎え」が敵の身体に巻き付き、隙があったなら「肉剥」で【傷口をえぐる】。


穂結・神楽耶
●*
春の嵐。それだけでしたら風物詩と呼べる季節の訪いなのですが……オブリビオンが関わっているのですからそうは行きません。偽りの星ではなく、祈りを捧げるべき空のために参りましょう。

とはいえわたくしの膂力で彼の甲羅を抜いて痛撃を与えるのは困難です。よって為すべきは撹乱でございますね。
【錬成カミヤドリ】。複製した刀を鼻先に掠めさせ、進路を限定して差し上げます。ヒレや長尾ならば甲羅ほどの硬度はないでしょう。可能ならそこを貫通し、その場に縫い留めることで動きを封じましょう。

どうあれ、人の営みを守るべく。
そのためにこの地に降り立ったのですから。


上泉・信久
POW 共闘可

さて、今度こそ本命とのご対面か
寄らずとも斬る、それだけだ

甲羅を斬るよりもその頭や手足を斬ってしまえばよいのだが……
それでは面白くないからな
無窮村正を構え、【見切り】で硬質状態を判断する
隙を狙いつつ、手足を軽く斬り、様子をうかがう

硬質が解除されたところを【剣刃一閃】で斬りかかる
相手が硬質するよりも早く、【早業】【鎧無視攻撃】【属性攻撃】をのせて
強き盾も油断すれば……斬れるものだ

周囲の猟兵の補助も行おう
踏み台が欲しければ背中を貸そう
動けぬようなら、代わりに攻撃を受け流そう

ただの厄災 それだけのこと
気性が荒れても首を落とせば静かなり
【剣刃一閃】で首を落としにかかる



 ざぁざぁと。水面を揺らし木々を掻き分けて、それは嵐と共にやって来た。
 吹き荒ぶ風に乱された髪を押さえながら、雨糸・咲(希旻・f01982)は後ろを振り返り――目の当たりにした星空に、瞠目する。
 夜闇を落とし込んだような深き藍。空を漂うその背には、無数の星々を思わせる光が散りばめられ。波打つ長尾がうねる度に、きらきらと光粒が零れ落ちていく。
 荒々しき風の中。その姿だけが穏やかに、悠然と。神秘すら湛えて、『黒翡曜』が猟兵たちの前に姿を現した。
 きれい、と。思わず零れた呟きは、誰の耳に届くでもなく嵐の前に掻き消えて。かがやく星空に伸ばしかけた指先を、けれど咲は押し止める。人に災い齎すその本質を、けして忘れたわけではない。
 しかし。星纏うその姿、息を呑むは一人にあらず。
 うつくしきいろを好む都槻・綾(夜宵の森・f01786)もまた、その荘厳さを前にして、ほうと息をついていた。
「――何と美しき、骸」
 然れど、何故。星海背負いし彼の怪異は、此の地を、現し世を訪ったのだろうか?
 浮き上がる疑問は、綾の知識欲の顕れか。知りたがりのヤドリガミは、彼の者の在り様に思いを馳せる。
「まるで、星のようね。地上に落ちて……帰る場所を失くした、星」
 星海のきらめきを瞳に映しながら、キトリ・フローエ(星導・f02354)がぽつりと言葉を溢した。在るべき場所を見失ったという意味合いでなら、この妖精の少女にもどこか通ずるところがあるのやもしれない。佇む『黒翡曜』を見つめながら、キトリはふと瞳を翳らせる。
「……そんなにきれいなものだったなら、怪異なんかにならなかったかしら」
「まぁ、そうですね。雅やかではありますが、バケモノですし」
 小さき少女の隣に並び立った矢来・夕立(無面目・f14904)は、その視線を己の手元へと向けたまま、淡々と言葉を紡いでいく。手中の式紙を片手間に弄び、硝子越しの赤を怪異へと滑らせて。
「先の海月よりかは幾分マシですが……屠るべきものに変わりありませんね」
 ――彗星落としと、参りましょう。

「あーあァ、海月と来たら今度は亀ェ?」
 ごうごうと勢いを増す風にその黒髪をなびかせて、アハト・ナハト(セイギと捌の夜・f14905)は気だるげに首を傾かせる。その仕草は適当ともとれるだろうが――ずるりと、彼の足元から伸びた影が、未だその殺意が萎えていないことを証明していた。
「発散し足りないから良いけどさァ、いつから此処は竜宮城になった訳ェ?」
「竜宮城……そっか。海月さんも亀さんも、本当は海に居るもんね」
 うんうんと頷くルヴィリア・ダナード(嘘つきドール・f01782)も、自前の武器を構えながら嵐に備えている。先程の海月も、この亀も。彼女にとってはとても綺麗と思えるものだったけれど……見た目に騙されたらいけないね、とルヴィリアはぐっと手に力を入れた。
「さっき痛い目にあったところだもの。気合入れ直して……わぁっ!?」
 ごぉぉ、と。一際大きな風が吹き上がり、ぜんまい模様があしらわれたベールが浮き上がっていく。ベールが飛ばされていかないようにと頭を押さえるルヴィリアを横目に、伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)は、ふむと思案するように口元に手を当てていた。
「『咲いた花なら散らねばならぬ、恨むまいぞえ小夜嵐』……ってね。しかし、咲き誇る前に、花を摘み取るというのは無粋というモノだよ。人も花も、精一杯に咲き誇って実を結んでこそ浮かぶ瀬もあれ――きゃはは! オレ上手いコト言ったかな?」
 春嵐と言えど、春も告げぬ間に吹かれてしまっては本末転倒だ。巻き起こる風にも動じずに、アクアノートはくすくすと笑みを溢している。その口調は止めどなく変わり続け、しかし獲物を見据える視線だけは変わらずに。
「ええ。単なる春の嵐でしたら、風物詩と呼べる季節の訪いなのですが」
 その射干玉の髪を風に遊ばせて。穂結・神楽耶(守れずのヤドリガミ・f15297)は一歩、嵐に立ち向かうように前に出た。
「……オブリビオンが関わっているのですからそうは行きません。偽りの星ではなく、祈りを捧げるべき空のために参りましょう」
 全ては、人の営みを守るべく。その決意は、この場に集った猟兵が少なからず持ち得ているものだ。
「――嗚呼。そうだな」
 閂・綮(マヨヒガ・f04541)の呟きを聞き留めたのか、傍らに控えていたエン・アウァールス(蟷螂・f04426)が何事かと振り返る。かち合った金の瞳に、綮は大したことではないと諭すように眼差しを和らげる。
「何。心強き者たちだと、感心をしただけだ」
「……ふうん。そっか」
 さして興味もなさそうな風体でエンが言葉を返す。彼の中では、第一に仕事の完遂だ。手にした『肉剥』と『雪迎え』を構えながら、エンは再び敵へと視線を移す。先の海月は手応えがなかったが、こちらはこちらでいやに硬そうだ。どう切り崩していこうかと、目前の怪異を眺めながらエンは思案する。
「さて、今度こそ本命とのご対面か」
 上泉・信久(一振一生・f14443)もまた、見るからに硬質な甲羅を持った怪異の姿を見ながら、獲物を定める様にして鯉口を切っている。寄らば斬る、寄らずとも斬る。それが剣豪の刀であった彼の在り方だ。信久の視線は、怪異の斬りどころを見定めるように動いている。

 風を吹き荒し、畔に佇む『黒翡曜』。ごうごうと勢いを増していく音は、夢の嵐の前触れに他ならない。淡く光る怪異の瞳は、すでに『人』を捉えている。営みを守らんとする者たちを、己の敵と定めている。

 張り詰める空気の中。
 揺らめく尾が、ぴしりと。一際に波打って。

「――――、来ます」
 凛と響いた声は、綾のもの。
 直後。ごおぉおおおぉぉ、と渦音を轟かせ。先までとは比べ物にならない嵐が吹き荒れた。
「っ、何これ!」
「あァ!? 冷てえなァ、水かァ?」
 吹き荒ぶ風は、巻き上げた恵の水を多分に含み。その質量と寒冷が、遺憾なく猟兵たちへと叩きつけられる。
 水の嵐に驚きながらも、ルヴィリアは咄嗟に自身の鉄処女『メリーさん』を前方に展開し、その影に自分の身を隠すようにして嵐を耐える。
 並んだアハトもまた、伸びた影の中から無数の人影を召喚し、それらを盾として嵐の猛威を殺そうとしていた。
「――みな、後ろへ」
 綮の穏やかな声と共に、彼を中心にして神秘の力が広がっていく。綮の護りの力が、彼自身を拠点として背後の仲間を守るように構築されていく。
 護りの中で体勢を整えながら、キトリは嵐の中心に鎮座する『黒翡曜』を見据える。
 こんな嵐を、災いを。人々の元へと向かわせるわけにはいかない。ここで全部終わらせてあげる、とキトリは決意新たに杖を握り締めた。
「ベル、お願い――花よ、舞い踊れ!」
 花纏う精霊の杖が輝いて。その先端から、魔力で創り出された無数の花弁が放たれる。きらめく夢幻の花吹雪が、人を呑まんとする怪異の嵐を押し留めて。舞い散る花弁が『黒翡曜』の眼をくらましていく。
 束の間に止む嵐。これを好機と見て、複数の猟兵たちが散り散りに展開した。
薄闇の中、動く影たちに反応したのか。それらの姿を捉えようと『黒翡曜』の長き尾が大きくしなり――。
「動いてはだめよ……もう少しの間だけ、ね?」
 彼の怪異へ、縋るように伸ばされた咲の両腕から葡萄の蔓が放たれて。『黒翡曜』の尾を、足を、その場に縫いとめるかのように絡みついていく。
 蔓から逃れようともがく怪異の姿は、その美しさ故に胸を打つものがあるけれど。咲は一度瞳を閉じて、短く息を吐く。まだ子亀と言えども、それは災厄を齎すものに変わりなく。であれば、ここから先へ、人々の元へ行かせるわけにはいかないのだ。再び開かれた少女の瞳に、すでに迷いはない。
「――っ、力が、もう……」
 ぐい、と。力強く引かれる尾に、小柄な咲の身が引っ張られる。捕縛の蔓も保ちそうにない、と咲が唇を引き結んだ時。
「いいえ、充分です。あとは私が継ぎましょう」
 怪異の死角へと周り込んでいた綾が、手にした護符を『黒翡曜』へと放っていた。
縛りを司る七縛符は、怪異が放つ嵐の力を封じるもの。代償をともなう綾の額にはうすらと汗が滲みはじめるが、それは彼が笑みを崩す事象には値しない。しかと前を見据えながら、綾は怪異へと語り掛ける。この骸が何故、此の地に訪れたのか。綾は未だ、その解を得てはいない。
「川流れ行く祈りの想いに惹かれましたか? 或いは――変わり行く地や時代を、宙の海から嘆いたのでしょうか」
 其の問い掛けは、おそらく答えが返る事の無い徒爾。自己満足であるのだろうと、綾自身も分かりきっている。――だが、それでも。
 言葉で以て己と他を繋ぐという智慧もまた、人の営みのうちだからこそ。人の智の結晶を好む綾に、言の葉綴りを止める道理はない。
「――さて、頃合いか」
 後方にて護りに徹していた綮が、綾による嵐の抑止を察知してその動きを変える。
 ポウ、と指先に灯る破魔の光を、頭上に掲げるようにして。淡い光は、やがてその輝きを増していき。綮の指から離れると同時、一直線に空へと駆け上る。
 それは、まるで花火の様相であった。一筋の光が空を昇り――高みへと至った瞬間に、方々へと砕け散る。それは薄闇を祓う光となって、猟兵たちの視界を明るくさせた。

 それが、合図。示し合わせずとも、猟兵たちは理解していた。
 嵐を封じ、体勢を整えた今が、攻撃の機であると。

 まず一番に動いたのは、エンだ。先程までの薄暗闇の中でも、夜目の効くエンは憚ることなく行動していた。畔の周囲の木々へ張り巡らしていた銀の糸を足場にして跳躍し、勢いよく怪異の前へ躍り出る。狙うは――剥き身の、足。
「……ああ、やっぱり。ここならまだ、柔らかい」
 前足に深々と突き刺さった黒曜石の刃が、怪異から染み出た残滓を吸っていく。血肉にも等しきそれは、心なしか黒曜の切れを鋭くさせていた。
『――――――!!』
 一拍遅れて、耳つんざく音が響き渡る。声無き音は、言葉を持たぬ『黒翡曜』の悲鳴だろうか。痛みにのたうつかのように、怪異の動きが激しいものとなる。
「嗚呼? 亀も痛いって感じるんだなァ?」
 ズブリと。続いて二撃目を放ったのはアハトだった。夜のように真っ黒な直刀が、エンとは反対側に位置する足の付け根を抉っている。狙うならば肉の柔らかい部分だと、目論み通りに刃を通らせたアハトがにぃやりと口の端を釣り上げた。甲羅の硬さが何だと言うのだ。ちゃあんと、捌夜の刃は届く。
 続けての傷は『黒翡曜』の悲鳴を増幅させていた。声にならぬ高音が、猟兵たちの鼓膜を震わせていく。
 のたうちまわりながら、怪異は傷を負った足を振り上げる。飛び退く人影を踏み潰さんとするその体を――ひと筋の光が、貫いた。
 薄闇に輝くそれは一枚のコイン。暗器の射出を得意とするアクアノートの得物だ。
「にゃはは、花に嵐の例えもあるけれど! 貴方は此処でさようならさ!」
 それが人生で、戦争だと。目に見えぬ速さでコインを連射しながら、アクアノートは高らかに謳い笑う。コインが突き抜けたのは負傷した前足。深まった傷から、過去の残滓が漏れ出していく。
 木々に紛れ、薄闇に隠れながらの援護射撃。塞がる視界を物ともせず、スナイパーとしての技量を持つアクアノートは確実に的を撃ち抜いていく。
「今のうちに下がって! ――花よ!」
「私も行くわ! さっきのお返しを、してやるんだから!」
 キトリの花吹雪が舞い、ルヴィリアの拘束ロープが亀の足を捉える。
 その最中にも、エンとアハトは一旦後方に下がって距離を取っていた。いつでも追撃を放つことが出来るよう、その凶刃を携えたままに。
「あまり暴れぬように――この地もまた、人にとっての大切な場なのですから」
 人々が大切にしている「祈り」の場を荒されぬようにと、神楽耶もまた行動を起こす。己の本体である結ノ太刀の複製を、瞬く間に顕現させて。行け、と手を翳す彼女の号令に応えるように、両手指の数を超える太刀の雨が怪異へと降り注ぐ。
 それはヒレを裂き、尾を穿ち。暴れる怪異の手足を縫い留めるように、止むことなく刃を降らせていく。
『――――!!』
「っ!」
 刹那。淡く光る『黒翡曜』の瞳が、刀操る神楽耶の姿を捉えた。
 意思の疎通など出来ぬ相手。しかし、捉えられたという感覚が神楽耶の全身を粟立たせる。
 嵐はない。未だ封じられているから。足でもない。未だ捕らえられているから。であるなら、次に来るのは……?
「――尾か!」
 青白い光を纏う尾が、うねりを上げて迫り来る。神楽耶は咄嗟に太刀を呼び寄せて――しかし。尾から零れる光が触れた瞬間に、浮かぶ複製の太刀が泡沫と消えていく。相殺の光が、彼女の武器を、盾を消し去って。咆哮放つ『黒翡曜』の尾が、その姿をも消し去らんと神楽耶の目前へと迫り――。
「……少々、五月蝿いですね」
 静かに、と。頭上から小さな声が落ちると同時、いくつかの影が怪異の尾へと突き刺さる。暴れんとする尾を縫い止めるそれは、薄い手裏剣のように見える――夕立の、式紙だ。
 息をつく間も無く、二撃目の手裏剣が『黒翡曜』の尾へと降り掛かる。千代紙製のそれは、見目の薄さに反して怪異へと影響を与えていた。
 夕立手製の武器である式紙もまた、相手の術を抑える術を備えている。怪異の尾が纏っていた光の粒が、その輝きを失ってさらさらと力なく落ちていく。
「聞けばあなた、まだ子の個体だとか。……幸運ですよ、若い内に死ぬというのは。思い残しが少ない」
 すたりと、静かな音を立てて夕立が地へと足をつける。身を隠すに長けた彼は、畔の周囲に茂る木々へと身を隠し、ひそやかに攻勢の機を伺っていた次第だ。手折りの式紙を指に挟み、すぐにでも追撃ができるよう気を張り詰める。

 嵐は封じた。相殺の光も封じた。『黒翡曜』に残された手段は、防御のみ。
 その防御が一番の難敵だと、猟兵の誰もが感じていた。只でさえ硬い甲を削り斬るすべを、そう簡単には繰り出せない。
 傷を負った事もあってか。怪異は堅牢地神の加護によりその身を硬質化させ、護りを固めている。動けぬ身となれど、降り掛かる脅威の前に甲羅へと篭るのは亀の習性故だろうか。
「ふむ。隙を見て頭や手足から斬ってしまえばよいのだが……それだけでは、この村正も面白くないだろうからな」
 無窮村正を構え、怪異の状態を見極めようと信久は目を細める。
「あら、削りきれるのかしら?」
「応とも。一刀をくれてやろう」
 敵の守りの姿勢を見て姿を現したアクアノートに、信久は飄々と言葉を返す。そうであるならば、とアクアノートは袖口に忍ばせていたコインを取り出した。援護射撃なら任せてくれ、と。
「じゃあ、気を散らしてみましょうか」
「撹乱ですね、お任せを」
 式紙を手にした夕立と、再び太刀の錬成を行った神楽耶も隣に続く。守りの儘でいてはならぬという危機感を、怪異へ与えるために。
「……じゃあ、行くよ」
 小さく落とされたエンの声と共に。猟兵たちがそれぞれに攻撃を放っていく。
エンの鋸が、神楽耶の太刀が、夕立の式紙が。怪異の護りを解こうと一斉に降り掛かる。
「亀ってあれだろォ? 甲羅をひっくり返せばァ、自力で戻れずそのままくたばっちまうんだろォ? ならァ……」
 ずるりと。再び影から幾つかの人影を出したアハトが、それらを怪異へと差し向ける。
「あの子を動かす、と……私もお手伝いしましょう。攻める足掛かりとなるならば」
 先ほど怪異を繋ぎ止めた咲の蔓が、再び『黒翡曜』の足元へと忍び寄る。剣戟の間を縫うようにして、影と蔓がそれぞれ怪異の身体に絡みついていく。
 硬化中とは言え絶えず降り注ぐ攻撃、身に纏わりつく術。鉄壁の護りの中に居ても、それは煩わしく思うものであったのだろう。如何に鈍きものと言えど、飛び回る羽虫を振り払わずにはいられない。
 ――それは、程なくしてやって来た。
「…………あ、」
思わずと溢れた呟きは、エンのもの。護りに徹していた筈の怪異が、おもむろに動きを替えて。
ダン、と地を踏み鳴らし『黒翡曜』が再び地に足をつける。現れた瞳は、己に纏わりついていた影どもを睨め付けて。裂かれながらも未だ形を保っていた長尾を、薙ぎ払うように振り抜いていく。光粒はなくとも、長さ故にそれは単純な物理攻撃として猟兵たちに襲い掛かる。
 長き尾が蔓を払い、影を消し。猟兵たちの中でもより近くで斬り掛かってたエンへと襲い来る。
「――――!」
 咄嗟に黒曜の刃を縦に構え、銀の糸を手繰り寄せる。少しでも、その威力を殺すために。
 ――衝撃。腹を打たれる、身が吹き飛ぶ。盾とするべく展開した銀の糸が、その役割を失ってはらはらと解けていく。飛ばされたエンの身は畔を飛び越え、今にも木の幹に叩きつけられようとしている。
「――エン、」
 男の口から放たれた単語は、仲間の名だった。同行した仲間を救おうと、綮は己のからくり人形を差し向ける。鮮やかな色彩を纏った鳥が、木々との激突を防ぐ為に空を滑っていく。
 その身が木へ激突するかと思われた瀬戸際に、『花翼』がエンの衣服を啄ばんだ。『花翼』はエンの身体を攫うようにして滑空し、ガラガラと音を立てて地へ落ちていく。
「うっ……は、ぁ。いたい……」
「しばし、耐えろ。癒しを贈る」
 駆け寄った綮の指先に仄かな光が灯り、咳き込むエンを癒そうとその身を包んでいく。幸いにも、エンは鬼を宿し身体を強化する術を心得ていた。行動不能になるほどの傷ではない。
 負傷者が出た、しかし。それは怪異が護りを解いた証左に他ならない。
 その隙を見逃す道理を、信久は持ち合わせてはいない。
「――今か」
 硬質が解除されたと見た瞬間に、信久は動いていた。再び護りに入られてなるものかと、息もつかぬ素早さで怪異の眼前へと身を滑らせる。
「強き盾も油断すれば……斬れるものだ」
 剣刃、一閃。鎧をも砕く早業の一撃が、重みを乗せて振り下ろされる。常より重いと謳われその扱いを持て余された、無窮村正の一撃が。
『――――!!』
 怪異が、吼える。その硬さを誇る甲羅に、一筋のヒビが入る。
「お見事! このまま消し去ってしまうかな?」
 その傷を見逃さず。躍り出たアクアノートがコインを構える。
 信久の背を踏み台にして跳躍し。怪異の頭上から、金の弾丸をその手に籠めて。
「『思い廻らせば浮き世は鏡、笑ひ顔すりや笑ひ顔』……なんて。たとえアナタの何もかもが消え去っても、何処かの誰かは生きて笑ってるデショウ!」
 放たれる弾丸。金の弾道が、『黒翡曜』の殻を撃ち抜いて。
 護りの要を崩された亀の怪異の身体が、音を立てて地に沈み込む。

「――は。此方も、そろそろ」
 微かに、その端正な顔を歪ませて。今まで嵐の封に専念していた綾が、疲労を滲ませた息を吐く。その様子を見て、大丈夫! と声を掛けたのはルヴィリアだ。
「あの破天荒な現象にはびっくりしたけど……もう、覚えたわ! 次は対抗してみせるから!」
「ええ。あんな嵐、倍にして返してあげるわ!」
 古びた魔導書を開くルヴィリアと、空に浮かび杖を構えるキトリ。
 この場では一際に小柄な二人の明るい声に、綾はふと目元を和ませる。
「成程……では」
 任せましたよ、と。綾の言葉と共に、縛符に流していた力が途絶えた。
 己を縛る力の消失を感じ取ったのだろう。深手を負った『黒翡曜』も、しかしすぐさまに攻撃の体勢を取り始める。彼の怪異にとっての、一番の矛が顕れる。
 うなる風、巻き起こる水の渦。
 人の営みの全てを呑み込まんとする、禍々しい春の嵐。
 けれど。
「もう、バッチリ見せてもらったわ! そっくりそのまま、お返ししてあげる」
 一度見た技と、全く同じものを放ち相殺する術。既に見聞きし観察した技に対して、その成功率は格段に上がっていく。
 掌を翳す。ルヴィリアの頭上に、ごうごうと風の渦が集っていく。コントロール知らずの力の塊が、場の空気を震わせていく。
「っ、こんな破天荒な現象、でもっ。私はしっかり、制御して、やるわ……!」
 吹き荒れる二つの嵐の力。向かい合う二つは、されど全く同じものではなかった。
 この場には、もう一人。嵐操る術を心得た妖精がいる。
「あたしからも、お返しよ。あなたに夢を見せて上げることは、出来ないけれど……」
 相棒の杖へと力を籠めて、キトリは『黒翡曜』の姿を見据える。
「示してあげられるのは、躯の海への帰り道。ただ、それだけ」
 ――だから、せめて迷わないように。祈りを込めた魔力が、杖を通じて場にもう一つの嵐を巻き起こす。
「全力で、送り届けてあげる……!」
『――――――――!!!!』
 ぶつかる。互いの風が、嵐が。滅ぼさんとするものと、守らんとするものが正面からぶつかり合う。
 力は互角……されど、その数は猟兵たちに分があった。春の嵐が、二人の猟兵の放ったそれに呑み込まれ、怪異の本体へまでも差し迫る。
 ヒレが傷つく、尾が千切れる。ヒビある箇所から甲が、剥がれ落ちていく。
 しかし、このまま消失してなるものかと。今一度唸りを上げた怪異の――その瞳を、千代紙の手裏剣が貫いた。躊躇いなく柔きを狙う、夕立の援護射撃だ。
 畳み掛けんと動く姿は、一つに非ず。未だ動きを止めぬ怪異を足止めしようと、神楽耶の太刀がその鼻先を掠ませ、咲の葡萄の蔓が再びその身を地へと縫いとめる。綮による癒しの光を受け、前線に復帰したエンの銀糸が頭に絡み。アハトの影が怪異の進路を阻み、アクアノートのコインがヒレを撃ち抜いて。その首を落とさんと、信久の剣技が打ち込まれていく。
「時の歪みに彷徨いし御魂へ、航り逝く路を標さむ――」
 宣いし声は綾のもの。息を整えたその声は、属性纏う鳥を呼び寄せる。
「……萌える春の香に包まれて、お休みなさい」
 大地の――草木芽吹く自然の、土の、花の、香り纏う羽搏きが。春爛漫の嵐が、『黒翡曜』へと降り掛かり。深藍の身は、既に浮かび体を支える力を失って。川の畔へと、沈み込む。
「――さようなら、美しい夜空」
 伸ばした蔓を収めながら、咲は地に伏せる怪異に眼差しを向ける。静かな深い海の底、覚めない眠りにつくように、と。未だ失われぬ神秘的な美しさに、せめて安らかな眠りをと祈りを捧げて。
 消失を迎えるのみとなった怪異を前に、綮が一つ、歩を進める。
「……人の営みに反応するよう、生まれたついたお前を。我は見逃すことは出来ん」
 それは、彼が人に望まれし守護者故に。けして交れぬ在り方を思いながら、綮は破魔の光を灯らせる。
「消えゆくを恨むなら、人ではなく」
 ――我を恨み、水底へ還るがいい。

 淡くかがやく『黒翡曜』の額を、撫ぜるようにして。
 春嵐おこす過去の残滓は、骸の海へと還っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『しのぶれど、』

POW   :    あえて隠さず「想い」を口にする

SPD   :    誰にも見られぬように工夫して折り畳む

WIZ   :    魔力を籠めて祈りの力を高める

👑5
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 光が泡沫と消えていく。春の嵐が消えていく。
 滲み出た過去の残滓が、骸の海へと帰っていく。

 やがて全てが消え去れば、畔は本来の静謐を取戻し。
 辺りはすっかり夜闇へと包まれた。

 ――ぽう、と。
 ゆらゆら揺れる明かりが、一つ、二つ。みっつ、よっつ。
 茂みの向こうから次々に現れるそれは、人の手が持つ提灯だ。

「おや、こんな時刻に人がいるとは珍しい。あんた方、旅のお方かね?」
 腰の曲がった老翁 が、人の好い笑みを浮かべて猟兵たちへ問いかける。

 嗚呼、と誰かが一つ頷けば。
 元から話好きであったのだろう、老翁は朗らかな雰囲気のまま言葉を続けていく。

「今日は、ここで「お祈り」をする日でなぁ。里のみなも楽しみにしておったんだ」

 ――その昔。乾いたこの地に、水司る神さまが訪れた。
 神さまは、慎ましくも穏やかに暮らす人々を愛し。
 この地へ、恵みの水を注いでくださった。
 とめどなく注がれた水は、やがて大きな川となり。
 人々に、平穏と潤いをもたらした。

 神さまに謝恩の念を抱いた人々は、その気持ちを伝えんと。
 年に一度。こうして川を訪れて、感謝や祈りを込めた『想い』を流すのだと言う。
 それは、思いしたためた紙であったり。
 それは、祈り込めて折られた笹舟であったり。
 形はそれ様々に。普段は口にせぬ想いを、人々は川の流れに乗せていく。

「まぁ、今となっては、流すものも感謝に留まらぬがね。小さな子らなどは、お願い事を綴ったりもしておるよ」
 古くからある習わしなのだと、はしゃぐ幼な子たちを眺めながら老翁は言った。

 かけっこでもするかの様に、次々と飛び出てくる子どもたち。
 中でもいっとうに小さな男の子が、猟兵たちの前へやってきて。
 その小さなもみじで握りしめていたものを、ぱぁと見せるように開かせた。

「ねぇ、いっしょに「おいのり」しようよ!」

 春の匂い立つ夜のなか。人々の「祈り」が、満ちていく。
 ぽつぽつと置かれた提灯が、夜の畔を照らしている。
 暖かな薄明かりに包まれながら、人々は思い思いの祈りの形を川へと流していた。

 その中にはちらほらと、先の戦いに身を投じていた猟兵たちの姿も見えている。
キトリ・フローエ
ひとびとの祈りが、想いが
様々なかたちで流れてゆくさまを見つめながら
あたしも見よう見真似で笹舟を作ってみようとしたけれど、上手く作れなくて
子ども達に聞いたら、教えてくれるかしら?
…ねえ、ハロルドは作り方、わかる?

誰かに作り方を教わりながらも四苦八苦
やがて出来上がった笹舟は、頑張ったけれどやっぱりどこか不格好で
小さなあたしには少し大きな笹舟を、そっと水の流れに乗せる

あの海月達も、すごく大きかった亀も、迷わずに還ることが出来たかしら?
あたしが生まれた世界はここじゃないけれど
それでも、『かみさま』に声は届くのかしら?
かみさまへのお祈りは、心の中でそっと
みんなの祈りも、かみさまに届くといいなと思いながら



 人々の祈りが、想いが。様々なかたちで流れゆくさまを、キトリ・フローエ(星導・f02354)も興味深そうに見つめていた。
 中でも興味を惹かれたのは、幼な子達が集まって作っていた笹舟だ。
 誰でも好きに作れるようにと幾数枚重ねられていた笹は、キトリには少し大きくて。両手で持ち上げたそれを、平べったい小石の上に置いてみる。
 子ども達はどう作っていたかしら。確か両側を折っていて、端を千切って――?
「おや、笹舟作りかい?」
「――ハロルド」
 ひとり奮闘していたキトリに声を掛けたのは、この地への呼び掛けをしていたハロルド・マクファーデン(捲る者・f15287)だった。平穏を取り戻した今、この「儀」に興味があるからと自身も畔に訪れていたらしい。
 覗き込むようにして屈むハロルドに、キトリは視線を手元へ戻しながら言葉を落とす。
「子供たちが作っていたのを見たから。あたしも見よう見真似でやってみようとしたのだけれど……あまり、上手く作れなくて」
「ああ、なるほど」
 キトリが折りかけていた笹を繁々と眺めるハロルド。――この儀式に興味を示していた彼なら、もしかして笹舟の作り方も知っているかしら? そう思い至ったキトリは、ねぇ、と興味深げな男に尋ねてみる。
「ハロルドは作り方、わかる?」
「私かい? ううん、そうだな。手順自体は文献で見た事はあるが、如何せん実践不足でね。私も素人同然だから――ああ、良いところに」
 おうい、と。ハロルドが声を掛けたのは、今しがた笹舟を流し終えた子ども達だった。
 呼ばれるがままにパタパタと駆け寄ってきた子ども達は、何事だろうかと並ぶ二人を見て首を傾げる。
「笹舟を作りたいんだが、私も彼女もあまり経験が無くてね。良かったら、作り方を教えてもらえるかい?」
 にこりと笑いながら問い掛けるハロルドと、傍らで子ども達を見つめるキトリ。
 ――ぱぁぁ、と。花咲くような子ども達の笑みが、答えだった。

「――出来たっ!」
 子ども達に折り方を教えてもらうこと数十分。初心者、かつその大きさのハンデにもめげず、負けず嫌いの彼女はついにそれを完成させた。……少しばかり歪な形には、なっていたが。
「けど、やっぱり不恰好かしら……」
 むう、と出来上がった笹舟の造形に不安を覚えるキトリ。そんな彼女に声を掛けたのは、折り方を教えてくれた子ども達だ。
「そんなことないよ  作ったの、これがはじめてなんでしょう?」
「それに、おねえちゃんぼくたちよりずっとに小さいのに。ぜんぶひとりでやっちゃった!」
「これならきっと、かみさまのところにもとどくよ!」
 無垢な子ども達の声に、背中を押されるようにして。少し不格好なままの笹舟を抱え、キトリは川岸へとやって来る。
 小さなキトリには少し大きな笹舟を、そっと水の流れに乗せて。
 歪な舟は、けれど沈むことなく水に浮いて。他の「お祈り」と同じように、ゆっくりと流れていく。

 ――あの海月達も、すごく大きかった亀も、迷わずに還ることが出来たかしら?
 ――あたしが生まれた世界はここじゃないけれど。それでも、『かみさま』に声は届くのかしら?

 浮かぶ疑問は、けれど声に出ることはなく。舟を流し終えたキトリを見て、ハロルドが声を掛ける。
「お疲れ様。良い舟だったね」
「……そうかしら?」
 首を傾げるキトリに、ハロルドはにこにこと笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「笹舟作りもそうだったけれど、あなたの気持ちはとても真っ直ぐだ。きっとあの怪異達にも、その気持ちは届いただろうね」
 あの嵐はとても大きかったから。キトリの全身全霊を込めた嵐は、彼の怪異たちを在るべき場所へ送り届けただろうと。何の確証もないけれど、ハロルドはそう口にする。
「――そうかしら」
「ああ、そうとも」
 緩やかに流れていく笹舟を見守りながら。キトリはそっと、心の中でお祈りをする。
 ――みんなの祈りも、かみさまに届くといいなと思いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨糸・咲
綾さん(f01786)と

宵闇に点る灯りと人々の姿は穏やか
彼らを愛した神様の気持ちもわかる気がします

感謝を受け取った水神様は
きっと嬉しかったでしょうね

笹舟の作り方を教えてくれた子に
お願いはと問われ

そうね…
みんながずっと幸せでいられるように、って

村の人たち
今は亡き主夫婦
みんな、みんな
…骸の海に還った星空も
安らかに眠り
もう迷い出て来ないよう

綾さん、あなたにも
幸せが沢山降って
恵みの水のように心を満たしてくれますように

ちょっと欲張り過ぎかも知れないけれど
優しい風景は夢だけでは寂しいから

私は…
自分の幸せは、よくわからないのです
時間がかかってしまうかも
でも
あなたが手伝って下さるなら
いつか見つけたいです


都槻・綾
f01982/咲さん

嵐の後だからこそ尚更
穏やかなひと時に感じますねぇ

口調には悪戯心を覗かせつつも
人々の営みを見守る眼差しは温かい彩り

黒翡曜は
嘗て村を愛した水神の涯てだったのかもしれない

言葉を以てしても
届かぬ想いはあるけれど
神慕う祭りが護り続けられている事が嬉しくて
柔らかな笑みが浮かぶ

咲さんの願いに真摯な瞳を向け

…「みんな」の中に
ちゃんと御自身も含んでいらっしゃいますか?
貴女も幸せでなければ
私の幸福は成り立ちませんよ

彼女の瞳に誰の面影が残っているのか
どんな幻を見たのか
いつか聞かせて欲しい

どうか貴女自身の幸いも見つけて掴んで下さいな、と
咲さんの幸福を願う笹を流しましょう

私の願い、叶えてくれますか?



「嵐の後だからこそ尚更、穏やかなひと時に感じますねぇ」
 すっかりと静けさを取り戻した川辺。そこに集う人々の営みを眺めながら、都槻・綾(夜宵の森・f01786)は含んだ笑みと共に言葉を溢した。
 それはまるで揶揄するような口調で、けれども青磁の双眸には温かな彩が滲んでいる。
 宵闇に点る灯りと、人々の姿は穏やかで。揺れる灯りを瞳に映しながら、隣に並ぶ雨糸・咲(希旻・f01982)も柔らかく微笑んでいた。
「彼らを愛した神様の気持ちも、わかる気がします。……感謝を受け取った水神様は、きっと嬉しかったでしょうね」
「……ええ」
 水神様、と聞いて。綾の脳裏に浮かんだのは、先に対峙した『黒翡曜』の姿だった。
 ――もしかしたら。『黒翡曜』は、嘗て村を愛した水神の涯てだったのかもしれない。
 亀の姿をした水神は有名だ、その縁であるならば……と。
「――綾さん?」
 思考の海に呑まれそうになった綾の視界に、咲の胡桃色の瞳が入り込む。何か考え事だろうか、と首を傾げる咲に、綾は何でもないと微笑んでみせた。
「いいえ。それよりも……私たちも、参りましょうか」
「はい! 私、笹舟を折ってみようと思うのです」
 子どもたちに聞いたら教えてくれるでしょうか? という咲の呟きに、綾は肯定の頷きを返して。
 青を纏う二人もまた、祈り捧げる人々と輪の中へと入っていく。

 咲が笹舟の作り方を尋ねれば、元から人懐っこくあったであろう子ども達は朗らかに了承してくれた。丁寧に手順を指南し、される様子を眺めながら。綾はゆっくりと、儀に勤しむ里の人々を見渡してみる。
 言葉を以てしても、届かぬ想いはあるけれど。こうして神慕う祭りが護り続けられていることが嬉しくて。綾のかんばせには、自然と柔らかな笑みが浮かんでいた。
「――最後にこう、でしょうか?」
「そう! お姉ちゃん、上手だね!」
 子どもの明るい声と共に、咲の手の上には立派な笹舟が完成していた。普段も手先を使う作業をしているからだろうか、初めの作品にしては綺麗に形作られている。
「ありがとうございます、お陰で無事に出来ました」
「いいよ、ぼくたちも楽しかったから!」
「ねぇ、お姉ちゃんはかみさまに何をお願いするの?」
 子ども達の無邪気な問い掛けに、咲はぱちくりと目を瞬かせる。
 そうね、と一言だけ呟いて。瞳の裏に思い描く「願い」の光景に、咲は口元を綻ばせた。
「……みんなが、ずっと幸せでいられるように、って」
 それはここに集う人たちへであり。今は亡き主夫婦への祈りでもあり。
 みんな、みんな……骸の海に還った星空も。安らかに眠り、もう迷い出てこないようにと。
 それは人を、他者を想い続ける事が出来る咲の、心からの願い。
 そう続いた咲の言葉に、子ども達は瞳を輝かせて――けれど。そんな咲に思うところがあったのだろうか。隣にいた綾が、ふと口を開く。
「みんな幸せに――それが、咲さんの願いですか?」
 問い掛ける綾へ、はい、と咲は言葉を返す。笑みを湛えたままに、真っ直ぐに。
「綾さん、あなたにも。幸せが沢山降って、恵の水のように心を満たしてくれますように」
 こう願うのは、ちょっと欲張り過ぎかもしれないけれど。でも、優しい風景を夢だけにしてしまうのでは寂しいから。
 そう言葉を続ける咲の微笑みは、どこか儚くも見えて。
 ――少しの間を置いて。綾は小さく、言葉を溢す。
「……『みんな』の中に、ちゃんと御自身も含んでいらっしゃいますか?」
 ……聞こえた咲の願いは、どこか。献身さを伴うもののようにも思えたから。
 静かに周りの色を映す咲の瞳には、いったい誰の面影が残っているのか。
 綾自身も捉われたあの『檻』の中で、彼女はどんな幻を見たのか。
 今の綾には知りえぬこと。……けれど、いつかは聞かせてほしいと。
 そう思いを込めながら、綾は静かに言葉を紡いでいく。
「貴女も幸せでなければ、私の幸福は成り立ちませんよ」
「……私は」
 綾の言葉を受けた咲の瞳が、ふと、僅かに翳る。
 咲は、自身が籠であった頃から、今までもずっと。大切なあの方を想い続けている。
 だからだろうか。自分を顧みるということに、どこか不慣れな様子が見受けられるのは。
「自分の幸せは、よくわからないのです。時間がかかってしまうかも。……でも」
  瞳を、開く。咲の胡桃色の眼差しが、彼女を見つめていた青磁の瞳を捉える。
「綾さん、あなたが手伝って下さるなら。いつか見つけたいです」
 しかと合わさった視線。それに、満足がいったのだろうか。
 それまで真摯に彼女へ向けていた綾の視線が、ふと和らいだ。
 ええ、と。綾の口から溢れたのは、了承とも取れる柔らかな声音で。
「時間が掛かっても構いません。どうか、貴女自身の幸いも見つけて掴んでくださいな」

 みんなの幸せを願う祈りと、そんな彼女の幸福を願う祈り。
 二つの祈りを込めた笹舟が、ゆるやかに流れていく。
「……私の願い、叶えてくれますか?」
 小さく落とされた綾の問いは、果たして。然るべき相手の元へ届いくのだろうかと。
――解は、流れゆく笹舟だけが知っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
●*
古くから連綿と続く歴史の一。今なお感謝を忘れぬ方々の、その祈り。
……眩しいですね。守ることができて、ほんとうに。

さて、折角の機会ですし「お祈り」に参加しましょう。子どもたちに笹船の折り方を教えてもらうのは楽しそうですね。あまり上手には折れないかもしれませんが…それもまた思い出となるでしょう。
流れゆく船に乗せる思いは、今はひとつ。
彼らの命が、幸いが。また明日の「おはよう」に、あるいは未来の「お祈り」へと続きますように。続かなかった誰かの分まで。
朗じましょう、【茜小路の帰り唄】。


閂・綮
【●*】【WIZ】

この地には、そのような神が顕れていたか。
信心深いことだ。…彼の神も、喜んでいるだろうよ。

(翁や子ども達の語りに相槌を打ちつつ、己も笹船を折る。…が。錆びた指先で折り上げたものは、不恰好にしかならなかった。)

…さて。
このようなひしゃげたものを流してしまっては、水神の機嫌を損ねてしまうかもしれんな。

“ 寛容な神であるから、許してもらえるだろう、” と?

そう言うお前は 一一 ああ、上手く作れている。

ほう。指南できる程の腕前だと、自負するか。
…では、その手並。拝見しよう。



 人々が祈りを捧げる姿を見守りながら、穂結・神楽耶(守れずのヤドリガミ・f15297)はその双眸を柔らかく細めていた。
「古くから連綿と続く歴史の一。今なお感謝を忘れぬ方々の、その祈り。……眩しいですね」
 ――守ることができて、ほんとうに。
 彼女の胸に込みあげるは、安堵だろうか。守りの任務を果たす事が出来た感慨に、神楽耶はぎゅっと結ノ太刀を握り締めていた。
 そんな神楽耶の姿を見とめて。小さな影が一つ、その袖をくいと引っ張った。
「おねえちゃん、おねえちゃん」
「あら、何でございますか?」
 下を見れば、小さな女な子が。くるくるとした瞳を神楽耶へ向けて、幼な子はあのねと言葉を続ける。
「おねえちゃんも、いっしょに「おいのり」しよう?」
 きらきらと。まるでお姫様みたいに綺麗な着物で着飾った神楽耶に、女の子は興味津々といった眼差しを向けていた。
 そして。その愛らしい幼な子の眼差しを、無下にするような彼女でもないのだ。
「――ええ、そうですね。折角の機会です、ご一緒させて頂きましょう」

 神楽耶が女の子に手を引かれて向かった先。そこでは幼な子の他にも、大人や翁達が集まって、それぞれに祈りの準備をしていた。
 そうした人々の和の中でも、頭一つ飛び出た姿がある。先に共に戦った猟兵、閂・綮(マヨヒガ・f04541)のものだ。
「なるほど。この地には、そのような神が顕れていたか」
 老翁の昔語りを聴きながら、綮は穏やかな声音で相槌を打っていた。
 和気藹々と祈りの儀を進める人々。その姿を見て、信心深いことだと綮は思う。彼の神も喜んでいることだろう、とも。
 そうしている内に、神楽耶を連れてきた女の子が老爺への側へと駆け寄って。こっちこっちと促されるままに神楽耶も近くへと歩いていく。
「ねぇ、じいさま。こっちのおねぇちゃんも一緒に笹舟作りしてもいい? えっと……」
「神楽耶。穂結・神楽耶でございますよ。――わたくしも、ご一緒して宜しいでしょうか?」
 問い掛ける神楽耶に、老爺も綮も快く快諾の意を示した。
 里の人が用意してくれた敷物の上に座り込む。互いに軽い会釈を交わせば、猟兵たちは二人に並ぶようにして座り。正面には老翁と、先の女の子を含めた幼な子も数名集りはじめた。
 幼な子たちに教えを受けながら笹舟を折っていく神楽耶。そんな彼女を見て、今まで老翁の話を聞くばかりであった綮も興味が湧いたのだろうか。徐にその指先が、笹の葉を摘んで。
「おや、あんたも折ってみるかね?」
「ああ。……だが、どうにも不慣れでな。近頃はすぐ、指が固まってしまうのだ」
 綮の言葉は比喩の類ではなかったが、老翁は不器用であることの表現だと受け取ったようだった。まだ若く見えると言うのに難儀だなぁ、と老翁は朗らかに笑いながら、自身もまた笹の葉を手に取っている。どうやら付き合ってくれるらしい。
 集ったみなが、一様に笹舟作りに励んでいく。滞りなくすいすいと作る者、慣れぬ作業故に戸惑う者、不器用を遺憾なく発揮する者。それぞれに向き合いながら、舟が作り上げられていった。

 ――さて。
「このようなひしゃげたものを流してしまっては、水神の機嫌を損ねてしまうかもしれんな……」
 綮が作り上げたのは、やはりというべきか不格好な舟であった。彼の錆びた指先では、千切って折ってという作業も難しい。
 如何しようかと逡巡する綮に声を掛けたのは、隣で同じように笹舟を作っていた神楽耶だった。神楽耶が手にした笹舟もまた、すこし歪な形となってしまっている。
「あの子たちに教えて貰いましたが、なかなかに難しくありましたね……良い思い出とはなりますが。人の身を得ても、ままならぬことも多いものです」
「……ああ、全くだ」
 同じヤドリガミとしての共感だろうか。苦笑を浮かべ合う二人に対し、幼な子は明るく声を掛ける。
「わたしもね、出来たのよ! ねぇ、はやく「おいのり」しに行きましょう!」
 はやく、はやく、と逸る気持ちのままに女の子は川辺へ駆けて行く。お待ちください、と神楽耶もそれに続くように足を運び始めた。
 そんな二人の背を眺めていた綮の横に、先の老翁が並び立つ。老翁は綮の手元にある笹船をみれば、ほけほけとした笑みを浮かべて口を開いた。綮が笹舟を流すか迷っているのだろう、と察したらしい。
「どのような形であれ、大丈夫だろうて。神様は寛容であるからなぁ、想いが込められたものであれば、受け取ってくださるよ」
 そう言葉を送る老翁の手には――なるほど、長年この地で生きたが故の功だろうか。帆までついた立派な笹船が出来ている。
「――ああ。お前は随分と、上手く作れている」
「そうさなぁ、毎年作っていればこうもなる。あんたが良ければ、次は教えてやるもやぶさかでないぞ?」
 どこか楽しげな口振りの老翁に、綮はくつりと喉を鳴らした。
「指南できる程の腕前だと、自負するか……では、その手並み。拝見しよう」

 早速と自身の笹舟を流す女の子につられて、神楽耶もそっと舟を川へと流してみる。
 二人の舟は、ぷかぷかと危うげなく浮かんでいって。やがて川の流れに乗って、どんどんと向こうへ進んでいく。
「おねえちゃん。おねえちゃんはお願い、したの?」
 静かに祈り捧げる神楽耶に、幼な子はまたしても興味津々といった眼差しを向けていた。
 神楽耶が流れゆく船に乗せる思いは、今はひとつ。
「ええ。皆さんの命が、幸いが、続きますようにと――」
 また明日の「おはよう」に。あるいは未来の「お祈り」へと。
 続かなかった誰かの分まで、ずっと。続いていきますように。
 神楽耶は想いを、祈りを口遊む。どこか懐かしい、わらべ歌の旋律に乗せて。
 透き通るような唄声は、人の耳に良く馴染む。傍らの幼な子もまた、その瞳をきらめかせて聞き入っていた。

 茜小路の帰り唄。
 また明日、おはようと言うために――。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
いつも言わないこと、言えないことか。ないです。
普段から正直者なので。
願い事もないです。無欲なので。
これ、強ち「ウソですよ」とも言い切れないんですよね。

伝えたいことがない。祈るのも好きじゃない。
……ということで、静かにしてます。他人を邪魔するほど無粋でも、ないので。

どこかから聴こえてくる唄を聴くくらいでしょうか。
彼女の声はよくわかる。



 里の皆が各々の祈りに勤しむ中。矢来・夕立(無面目・f14904)はと言えば、どうにも手持ち無沙汰な風体であった。
 ――普段は口にせぬ感謝や祈りを、形にして流すんだよ。
 そう、あの見るからに人の良さそうな老翁は口にしていたけれど。
「……無いんですよね、特には」
 小さく溢された夕立の呟きは、ざわめきの中に溶けるようにして消えていく。
 いつも言わないこと、言えないこと。そういったものは、夕立にとって無縁に等しく感じられていた。何かとあけすけに物を言う彼には、特に秘する事柄なども……少なくとも、今この場において湧き出るものはなく。
 普段から正直者なので、とは本人の談だ。
 では、願い事をするのはどうだろうか? ――そちらも、あまり得手とは言い難い。
 無欲なので、とはこれまた本人の談である。夕立の口癖とも言える「ウソですよ」との台詞も続かない辺り、それは限りなく本心に近い言なのだろう。

 さて。別段伝えたいと思うことも無く、祈るのもまた好きでは無い。
 そう言ったスタンスの夕立ではあるが。だからといって、他人のそれを邪魔するほどの無粋でも無いつもりだった。
 すなわち。彼が出来ることと言えば。
「……静かにしていましょうか」
 みなが笑い合い、語り合っている様を眺めながら。夕立は、それらの喧騒から少し離れた茂みの方で佇んでいた。木を背にして、手慰みにと式紙を弄ぶ。

 ……そうして、幾ばくか経った頃だろうか。
 式を折っていた夕立が、ふとどこからか視線を感じてその動きを止める。
 突き刺さる視線は、けれど敵意を感じさせるものではなく。何事だと顔を上げた夕立の目に飛び込んで来たのは――くるりとまん丸い瞳をした、とても小さな女の子で。
 何を思ってこんな茂みの方まで来たのだろうか。とてとてとこちらに駆け寄ってくる少女の姿に、夕立は僅かに目を眇める。この物好きな生き物はなんだろう。
「おにいちゃん、ここで何してるの? 「おいのり」しに行かないの?」
「……いえ、まあ」
 きょろきょろ、うろうろ。夕立がそれとなく視線を逸らしているにも関わらず、女の子は興味津々と言った様子で眼差しを向け続けている。何ならめちゃくちゃ正面から見ようとしてくる。小さい子の行動力ってすごい。
「オレは良いんです。ああいった事は得意でないので」
「ふうん。……おにいちゃんが着てるもの、ぜんぶ真っ黒なのね。はじめて見た!」
「これは学生服と言うんですよ。ウソですけど」
「ウソなの!?」
「ええ、ウソです。厳密にはですが」
「げんみつ……?」
 おおよそサムライエンパイアでの事象しか知らないであろうこの幼な子には、この学生服の所以など説明しても分からぬことで。すらすらと適当に言葉を並べる夕立に、女の子は不思議そうに小首を傾げている。
 他愛ない会話は、互いに実になるものもないだろう。早々に打ち切ってしまおうかと、夕立は短く息を吐く。
「こんな黒装束を相手にしていても、楽しくないでしょう。別のところに行くのをお勧めします」
「べつのとこ?」
「例えば、ほら。あちらの方になど」
 夕立が示した先は、明かり揺らめく川の畔。先に共に戦った猟兵たちと別れた場所だ。皆が何をしているかなど知らないが、おそらく誰かしらはいるだろう。
「……旅人が物珍しいのであれば、あちらにもたくさんいますよ。オレもあとで行きますから」
「! うん、わかった!」
 元気に返事をする幼な子は素直なもので。あっという間に駆けていく女の子の背中を眺めながら、夕立はぽつりと言葉を溢す。
「……まぁ、ウソですけど」
 願わくば、あの子の興味を満たすものがあちらにありますように。また騒がしくやって来られては、どうしようもない。

 ――程なくして。
 どこかから、懐かしさを覚えるわらべ唄が聴こえてくる。
 そこそこに耳馴染んだ唄声と、それにはしゃぐ少女の声を聴きながら。
 夕立は、折り終えたばかりの式紙をひらりと舞わせたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

伊美砂・アクアノート
にゃはは。ワタシは江戸っ子ではないが、風流に棹を差すほど無粋な野暮天ではないのであるぞ。祈りはヒトそれぞれ、想いもヒトそれぞれであるからな。…たとえ傍観者だとしても、それなりの矜持というモノがある故な。 幼子の紙流しや、年輩の方々の祈りを、邪魔せぬように眺めていよう。ーーーもう春であるな。じきに、暖かい日も増え、水で大地も潤い、作物の植え付けも始まろう。良きかな、佳きかな。他の猟兵諸氏も、戦いの日々の中で物思いや祈るモノも多かろう。安らう日も、憩う時も、大切であろう。 私も、少しはのんびりとしましょうか。ボクにだって、感情の1つだってあるし、オレだって平和なヒトたちを眺めるのは好きさ。



 猟兵たちの中には、あえて人の和に入らずにいる者もいる。
 先の戦いに赴いていた伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)も、共に戦った猟兵たちや里の人々が集まり賑わう様を、笑みを浮かべて眺めていた。

 にゃはは、と独特な笑い声を響かせて。アクアノートは風流を愛する江戸っ子が如く――もちろんワタシは本当に江戸っ子な訳ではないのだが――無粋な野暮天とならぬ程度に、彼らの姿を見守っていた。
 畔にて休息を取る彼女の視線の先。幼子たちが自らの願いを綴った紙を流し、年配の方々も祈りの笹船を折っている。
 祈りはヒトそれぞれ、想いもヒトそれぞれである。からこそに、瞳に映る人々の光景は見るに飽き足りることがない。
「……たとえ傍観者だとしても、それなりの矜持というモノがある故な」
 せめて邪魔をせぬように眺めていよう、と。自らを傍観の者と定め、アクアノートは畔で一人思い耽る。
 ふと、視線を滑らした茂みの方。ちらほらと花をつけ始めた木々が彼女の目に留まる。先の嵐にも散らされずに残っていた、芽吹きが。
「――もう、春であるな」
 じきに、暖かい日も増えていくだろう。恵みの水で大地も潤い、作物の植え付けも始まろう。今よりも緑の増える気候の中、穏やかな彼らが農作業に励む姿は、アクアノートにも容易く想像出来る。
 水司る神がもたらしたという恵みは、今も里の者を愛し、愛されているのだろう。
「良きかな、佳きかな」
 来る春の景色を想ってだろうか。朗らかに笑うアクアノートの表情は、至極穏やかなものだった。それは、先の戦いで見せた顔とはまた打って変わっている。
 彼女の独特な多面性は、多重人格者である所以なのだろうか。口調も、雰囲気すら一変させて。アクアノートは、『私達』の思考をつぶさに溢していく。
「私も、少しはのんびりとしましょうか」
 他の猟兵諸氏も、戦いの日々の中で物思いや祈る者も多いだろうと。
 安らう日も、憩う時も、大切だろう。そのように、アクアノートの中の一人は思考する。
 そしてその憩いは、とめどない思考を抱える彼女にも訪れてしかるべきだ。
 春の穏やかな風が、灯りにきらめく白糸の髪を揺らしていく。
「ボクにだって、感情の1つだってあるし」
 たくさんあるように見えて、どこかに欠落した何かを抱えながら。それでも彼女は立ち止まらずに。
「オレだって平和なヒトたちを眺めるのは好きさ」
 『私達』ではない他者の行く末を眺めながら。
 アクアノートは春の訪れを甘受していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エン・アウァールス
【●*】

(揺れる灯が近づく前に。
足音を立てず、草木が擦れる音すらも許さずに。金眼の獣は、木々の闇へと静かに消えた。)

ハロルド(f15287)と

やあ、隠密にはそれなりに自信があったのだけれど。
いい耳をしているね、キミ。

…人見知り、という訳ではないのだけれど。
ああいった『普通』のヒト達の側は落ち着かなくて。だから、できることをしようかなって。

(歩きながら、残された嵐の跡を片付けていく。倒木や枝を川から上げ、…指先が少し、悴んだ。)

願いごとやお祈りはしたのかい?
まだなら、ほら。行かなきゃ。

エンの願いはもう叶っているからね。…つまり、秘密ってこと。ふふ。



 ――さて。時は少し、遡る。
 海月を屠り、『黒翡曜』をも打ち倒した猟兵たち。数にして十と一になる。
 しかし、揺れる提灯の火が近づく前に。
 その一つが、音もなく消えていた。

 事態の収集を察知し、ハロルドがこの地へと足を踏み入れた時。それぞれに過ごす傭兵たちの姿を見て、彼はおや? と首を傾げていた。猟兵たちはそれぞれに散らばっていて、一見にしてそうとは分からなかったが……どうにも、一人足りない気がする。
 つい先ほどにハロルド自身が案内した面々だ、皆の顔は覚えている。
 はて。あの金眼の獣の如き御仁は、一体どこに行ったのか――。

「ああ、こんなところにいたのか」
「……やぁ」
 茂みの向こう、里の皆が集った川の下流へと進んだ先。人の通らぬ暗がりの中に彼はいた。一人静かに姿を消していた、エン・アウァールス(蟷螂・f04426)その人だ。
 声を掛けたハロルドに反応してか。エンは若草にも思える髪を揺らして、ゆるりとした仕草でそちらへ振り返る。暗闇でも薄らと光る金の瞳が、訪れた琥珀を射抜いた。
「……隠密にはそれなりに自信があったのだけれど。いい耳をしているね、キミ」
 淡々とした口調は、けれど敵意を含めたものではなく。見覚えのある彼が、どうしてここに来たのだろうかとエンは不思議そうに首を傾ける。人々の喧騒はすでに遠く離れ、わざわざこちらまで足を運んで来るような人はいないだろうと思っていたのに。
 純粋な疑問を浮かべるエンの眼差しを受け、ハロルドはにわかに眉を下げて苦笑した。
「ふふ、耳聡いとはよく言われるよ。こうしてあなたを発見できたのは、たまたまだけどね」
 よいしょ、と倒れた木々を跨いでハロルドはエンの方へ足を運ぶ。暗くてよくは見えないが、辺りには倒木や枝が散乱しているようだった。
 先の戦闘で発生した残骸の、名残。あまり場を荒らさぬようにと猟兵たちが心を砕き、けれど強敵を前にどうしても零れてしまったいくさの跡。
 倒木や枝の幾らかが、下流の方まで流れ着いていたようだった。
「あなたこそ、こんなところでどうしたのかな。あそこは、あまり居心地良くはなかったかい?」
 もしも希望があれば、早めにベースへの入り口を繋げるけれど。そう続けるハロルドに、エンは小さく頭を振る。
「……人見知り、という訳ではないのだけれど」
 つと、エンが視線を滑らすのは上流――今もなお集っているのであろう、里の人々の灯りの方で。遠目にもわずかに見える灯を見て、エンは眩しそうに目を細める。
「ああいった『普通』のヒト達のそばは落ち着かなくて――だから、できることをしようかなって」
 そう言いながら、エンは残された嵐の跡を片付けていく。川に浮かんだ倒木や枝を掴もうとして……指先が少し、悴んだ。
「キミこそ、願いごとやお祈りはしたのかい?」
 再び合わさる瞳の、その奥に潜む感情は読めないけれど。まだだよ、と首を振るハロルドに、エンはわずかに口の端を上げる。尖り気味の八重歯が、ちらりと覗いた。
「まだなら、ほら。行かなきゃ」
「ああ。けれど……あなたは、行かないのかい?」
 あなたの祈りは、願いは何なのだろうと。問い掛けるハロルドに、エンは瞳を和らげて。
「エンの願いはもう叶っているからね。……つまり、秘密ってこと」
 ふふ、と小さく溢れた微笑みは静謐に溶けていき。
 金の瞳をした獣は、人知れずに祈りの夜を過ごしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルヴィリア・ダナード
●*

笹舟を作ろうかな!
んと、どうやって作るんだったかな?
誰か作ってる人がいたら教えてもらおう。
折角だし丈夫そうな笹の葉をチョイス。
この里のヒト達を見たときから決めてたんだ。

『みんなのお願いが叶いますように』

神様に届くまでに沈んでもらったら困っちゃうからね。
丈夫そうな笹の葉を選んで正解でしょ?
流す際はしっかり届くことを祈って流す。

みんなそれぞれのお願いが叶うまでにはいろんな事が起きちゃうだろうけど
乗り越えた先には素敵な笑顔が待ってるはずだから!
私はその笑顔を見れるだけで満足です!

特に今はいろんなヒトの笑顔だけで心が暖かい。
自分が頑張れる意味を思い出せて良かった。
素敵な一日をありがとう、カミサマ。



 猟兵たちも交えた祈りの集い。皆が楽しそうに笹舟を折っている様を見て、じゃあ私も! と元気にその和に入っていったのはルヴィリア・ダナード(嘘つきドール・f01782)だ。
 緑の瞳を瞬かせて、まずは並べられた笹の葉とにらめっこ。神様のところまでちゃんと届くように、まずはしっかりと丈夫そうな葉を選ばなきゃ。
 じぃっと笹の葉を見比べるルヴィリアの瞳は真剣そのものだ。
「……よしっ、これにしよう!」
 陽気な声と共に、ルヴィリアが選んだのは瑞々しい緑の葉だった。笹舟の作り方はちょっとおぼろげだけれど、これくらいしっかりしてれば多少のことでは崩れたりしない……はず!
 満足そうに笹の葉を持ったルヴィリアは、傍らで舟作りに勤しむ人々へと問い掛ける。
「ねぇ。私にも笹舟作り、教えてもらっても良いかな?」
 小柄な彼女の問い掛けに、里の人々は朗らかな笑顔で了承したのだった。

 やがて。元の素材の良さもあってか、立派な笹舟を完成させたルヴィリアが、里の人達に紛れて川辺へとやってくる。
 自分と同じように、思い思いに祈りを進める人々。その姿を見るルヴィリアの表情には、自然と笑みが象られていた。
 元は感情を求められぬ機械人形であった彼女だけれど。いろんな人と触れ合うたびに、たくさんの心を知っていく。
 水辺に立ったルヴィリアは、笹舟をそっと水に触れさせて。
 神様の元までちゃんと届きますように、とめいっぱいの祈りを込めて。川の流れに乗せるように、すっとそれを押し出した。
 ルヴィリアが舟に込める祈りは、もう決めている。
「――みんなのお願いが、叶いますように」
 それは、この里のヒト達を見たときから願っていたルヴィリアの気持ち。
 ぜんまいを模した十字架を両手で握りしめて、ルヴィリアは静かに祈りを捧げる。

 ――みんなそれぞれのお願いが叶うまでには、いろんな事が起きるだろうけど。
 乗り越えた先には、素敵な笑顔が待ってるはずだから!
「……私は、その笑顔を見れるだけで満足です!」
 ルヴィリアが後ろを振り向けば。里の人々がみな、笑顔で祈りの儀を楽しんでいる。
 それは、先ほどの『檻』で見た光景にはほど遠く――けれど、あの過去を経てきたからこそに、見れるもので。
 ルヴィリアのぜんまい仕掛けの心が、ほんのりと暖かくなっていく。
 ……ああ、良かった。自分が頑張れる意味を、思い出すことが出来て。

「素敵な一日をありがとう、カミサマ」
 今日という日への感謝を込めて。
 聖職者のベールを纏ったドールは、神様への祈りを捧げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アハト・ナハト
【●◆】


「無事にお祈りが出来て良かったねェ」


里の人々から離れて一人。
川辺で彼等の笑い声を聞きながら、眺めてくる提灯を笹船をぼんやり見つめる。
あの場所が眩しく逃げて此処まで来てしまった。

夜の帳に包まれた人々の祈りの焔がまるで空に浮かぶ星の様で、思わずそれを望んではいけないのに手を伸ばそうとしてしまう。

しのぶれれど。偲ぶ過去すら無いけれど、忍ぶモノを今日だけは形にしても良いだろうか。
感化されたのかそれともあの海月の夢のせいか、だが理由は何でも良かった。今日は今日だけはと言い聞かせて提灯を川へと流した。

「捌夜もいつか。今はなくても必ず、光へ」

提灯は流れていく、その様を一人ぼんやりと眺めていた。



 皆が集う祈りの場から、少しばかり足を進めた先。提灯の明かりも薄らとしか届かぬ川辺に、アハト・ナハト(セイギと捌の夜・f14905)は一人ひそやかに佇んでいた。
 向こうにいる里の人々の笑い声を聞きながら、アハトは川の流れをぼんやりと見つめている。たまに流れてくる笹船や灯籠の動きを、彼の長い前髪に覆われた瞳が追っていた。
 人々が携えていた提灯の明かり。何より彼らの笑顔が、雰囲気が眩しくて。あの灯りから逃げてるようにして、アハトは人影ないこの暗がりまで来てしまっていた。
「……無事にお祈りが出来て良かったねェ」
 ひそりと呟く彼の、その表情は窺い知れない。
 今はすっかり真暗闇。アハトにも馴染みの深い夜が、この世界を覆っている。
 その闇の中に、ぽつぽつと。人々の祈りの焔が、まるで空に浮かぶ星のように輝いている。
 夜の帳に包まれた星の如き灯りは、彼が求めてやまぬ物にも思えて。望んではならないと戒めていたはずの輝きに、アハトは思わずと言った様子で手を伸ばしかけ――すんでに、止めた。
ぶらりと。彼の長い腕が、所在なさげに空を掻いている。

 しのぶれど。里の人々は、そう口にするけれど。偲ぶ過去すら、アハトには持ち得ぬもので。
 ……それでも。忍ぶモノ、を今日だけは形にしても良いだろうか?
 なんて、柄にもない思考がアハトの脳裏を過る。あの里の人々や、共に戦った猟兵に感化されたからだろうか。それとも、あの海月に見せられた『朝』の夢のせいだろうか。とりとめなく思い巡らす――けれども。
 分かっている。理由など、どうでも良かったのだ。

 ゆたりと、アハトは徐に立ち上がる。どこかぼうとした彼の傍らには、先ほどから川を流れるものと同じ灯籠が置かれていた。
 この儀では、笹や祈りの紙と同じように灯籠を流す習慣もあるらしい。灯りの無い方へ行かんとするアハトを見とめて、もし良ければ、とその灯火を託したのは里の一人だった。それが暗がりの明かりに使えと言う意味合いだったのか、儀式への参加を促す意図だったのか。アハトには分からなかったけれど。

 その灯籠を手にして、アハトは川岸へと歩を進める。今日は今日だけはと、己に言い聞かせるようにして。
 ゆるやかな水の流れを前にして。片膝をつき、手にした灯籠をそっと離す。
 小さな灯籠は、危うげなく揺らめいて。他の祈りと同じように流れゆき――星になる。

「捌夜もいつか。今はなくても必ず、光へ」

 灯籠は流れていく。誰かも分からぬ夜の男の、微かな願いを乗せて。
 その様を、アハトは一人ぼんやりと眺めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

上泉・信久
隠すほどのことでもない
想いは口にしてこそ意味がある
言霊というやつだな

鞘に収まっている間は俺は平穏を感じられるのだ
斬ることに特化して造られた念もあるのだろうが……
刀匠の想いまでは俺にもわからんな

だが、俺を使っていた者の気持ちはわかる
守るために斬り、強くあるために振るい、抜かねば只の人間
100年生きても剣の道は遠きかな

まだ俺は刀として戦える
ヤドリガミになったのもおそらく別の神が何かしら関係するのかもしれん
ただただ感謝
また俺は人々を守ることが出来る

守れなかった命もある
その魂をどうか安らかに天へと還してくれ
俺をこうした神なら聞き届けてくれるだろう

数秒の哀愁
その後はいつものように飄々と話す
風流だな



 人々の想い込められた祈りが流れゆく様を、上泉・信久(一振一生・f14443)も悠然とした佇まいで眺めていた。直接言葉には乗せず、各々の形にして神の元に届けられる想い。それもまた、風流ではあるのだろう。
 だが、信久はこうも思うのだ。『想いは口にしてこそ意味がある』と。
 音を付与し、人の口を介して世界に落とされる言の葉。言霊という概念もまた、昔からこの世に強く根付いているものだった。
 幸いにも、信久が思い馳せる事柄は彼にとって隠すほどのことでもなく。であれば、堂々と放つもまた乙であろう。

 ──信久が想うは、感謝。
 百年という永き時を経てもなお、戦い続けられる事への謝恩の気持ちである。
「まだ、俺は刀として戦える」
 普段から飄々とした振る舞いをする信久だが、その実、彼が平穏を感じることが出来る時間は限られている。
 彼自身が鞘に収まっている間。それが束の間の平穏であった。
 恐らくは斬ることに特化して造られた念もあるのだろう。……流石に己を作り上げた刀匠の想いまではわからないが、おおよそ其れが関与しているのではないかと信久は推察している。

 だが、彼自身を使っていた者の気持ちはわかる。
 守るために斬り、強くあるために振るい、抜かねば只の人間である身。
 元の持ち主たちと似た生を、彼もまた歩んでいるのだろうか。
 百余年を生きても、剣の道は遠きかな。志高くある信久にとって、まだ邁進の日々は続いていくのだろう。
「また俺は、人々を守ることが出来る……有難いことだ」
 信久がヤドリガミと成ったのも、おそらく神が何かしら関係しているのかもしれない。それはこの地に伝わる水神とはまた違う存在ではあろうが。しかし、奇跡をもたらしたという意味合いでは似た性質を持つのだろう。
 神々への感謝を口にして。しかし、信久は己が取り落としたものにも想いを馳せる。
 守るために斬って来た信久の掌から、零れ落ちていったもの──即ち、守れなかった命のこと。
 今日この日の里の者こそ守れれど。永きを生きた彼には、守りきれずに果ててしまった命もまた覚えはある。
 人々の祈りが満ちる中、信久は瞳を閉じる。思い返すはいつの日か巡り合った命。彼らは今、安寧の地にあるのだろうか?
「彼らの魂を……どうか、安らかに天へと還してくれ」
 俺をこうした神なら聞き届けてくれるだろう、と。
 いつもは好々爺然とした振る舞いをする信久も、この時ばかりは哀愁を纏わせて。
 畔で静かに佇む姿は、まるで黙祷を捧げているかの様だった。

 ──しばしの、祈りの後で。
 先の名残を一切見せず。飄々とした体で人々と話す彼が、其処に居ることだろう。
 風流を愛し、人を愛し。彼のヤドリガミは、こうして今日も生きて往く。

 ◆

 斯くして。
 水神奉る里の平穏は、彼らによって守られた。
 これからも、里では年に一度の「儀」が続いていくことだろう。
 人々の祈りは流れゆき、やがて海へと辿りつく。

 海へ還る。海へ溶ける。
 人の想いも、星海の過去も。すべては海へ還りゆく。
 ──いつかまた、溢れ出づるその日まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月21日


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#サムライエンパイア


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠弦月・宵です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

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 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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