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肉食同源、中国四千吨

#封神武侠界 #ノベル

夢ヶ枝・るこる



豊雛院・叶葉



鞠丘・麻陽



鞠丘・月麻



艶守・娃羽



甘露島・てこの



絢潟・瑶暖



リュニエ・グラトネリーア



華表・愛彩




 封神武侠界。そこは修行に明け暮れる人と仙が多くいる世界。
 修業とはただ山野を駆けまわり、体を鍛えるばかりの事を言うのではない。新たな技術や道具の開発に知恵を絞り、実験を繰り返す。そう言った研究開発もまた修行の一つと言える。
 そんな研究を行う知人の仙人に、夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)はある依頼をしていた。そしてそれが完成したとの報告を受け、彼女は封神武侠界へと赴いたのであった。
「や、どーもどーも、お待たせしまして」
 大きな行李を背負ってるこるの前に現れたのは、導師服を着た外見は14歳ほどの少女。彼女の名は蕈娘。仙丹作りを得意とする仙人である。
「はい、こちらこそ、ご足労戴きありがとうございますぅ」
 それを迎えてるこるも挨拶する。
 蕈娘は当然ながら封神武侠界の出身。そして猟兵ではないため世界を渡ることなど出来ない。むしろるこるの方が来た側ではないかとも思うがもちろんそれには理由があり。
「いやいや、仙界も大概広いとは思ってたんですがね。まさかこんなもんまで用意してたとは」
 そう言って蕈娘が辺りを見回せば、そこは仙界らしからぬ暑い浜辺。もちろん封神武侠界にも海はあるし何ならその向こうから色々なものが渡ってきたりするのだが、ここはどうにもそれとはまた違う。何となく気候は夏っぽいし、吹き抜ける風はそこはかとなくアメリカンな香り。
 ここは封神武侠界に設置された『壺中天』を生み出す宝貝の中。そこにさる目的のため用意したこの浜辺まで、るこるは薬の素材集め以外は出不精な蕈娘に来てくれるよう依頼したのだ。
「まあ、こんだけのを詰め込むなら広さはいくらあってもいいですからね」
 その広い空間を埋め尽くすものを見て、蕈娘は言う。そこに広がっていたのは、肉の海であった。
「お初にお目にかかります。本日はよろしくお願いいたします」
 丁寧に挨拶する豊雛院・叶葉(豊饒の使徒・叶・f05905)。そしてそれに続いて挨拶するのは【豊穣の使徒】の面々であった。
 彼女たちはいずれも超級の肉体を持つ集団。そしてその服装はいずれも水着姿。
「今回は色々纏めてやるから、ちょっと忙しいかもしれないね」
 華表・愛彩(豊饒の使徒・華・f39249)の言葉通り、一同の周りには色々と道具が用意してある。見る者が見ればそれらは何なのか容易に理解できるものばかりなのであるが、3世紀の中国である封神武侠界出身の蕈娘にはいずれも馴染みのないものであった。
「あー、出来ることは一度に纏めてやった方が時間の節約になりますからね。よく分かります」
 だが時短というものに何かこだわりがあるらしい蕈娘は、道具の使い方自体は分からなくとも考え方には納得したかうなずきつつ行李を降ろした。
「で、どなたから試すんですか? そちらの方あたりで?」
 そしてそこから何やら取り出しつつ、蕈娘はリュニエ・グラトネリーア(豊饒の使徒・饗・f36929)の方に声をかける。
「そうでぇすね、別にそれでもいいのですが……」
 リュニエが何やら考えるそぶりを見せた時、その巨肉が押しのけられた。そして出てくるのが桃色の肉。
「今度こそ本物なんですよね! お薬下さい!」
 礼儀なんぞ知ったことかな割り込みを駆けたのはミルケンピーチのボディの一人花園・桃姫。
「さすがは桃姫さん、ですの」
「あれは見習っちゃだめなんだよぉ」
 関心か呆れか言う絢潟・瑶暖(豊饒の使徒・瑶・f36018)に甘露島・てこの(豊饒の使徒・甘・f24503)のツッコミが入る。瑶暖は以前から猟兵としての話を桃姫から聞き自分の活動のための勉強としているため万一これまで学んでしまったら……ということだが、流石に瑶暖もその辺りはちゃんと弁えているはずである。
 ともあれ桃姫の発言通り、蕈娘がるこるから依頼されていた品とは薬である。その効果は、ずばり『ダイエット用の薬』。
「あー……この人が例の」
 詰め寄られる蕈娘が納得した表情でるこるを見ると、るこるはそっと目を反らした。蕈娘に直接依頼したのはるこるであったが、その依頼は桃姫の悲痛な叫び自業自得を受けてのものであったのだ。
「実際にはどういう風に飲めばいいのかな?」
「薬は飲み方を間違えると危険、です」
 鞠丘・麻陽(豊饒の使徒・陽・f13598)と鞠丘・月麻(豊饒の使徒・月・f13599)は冷静に用法について尋ねる。それに対して蕈娘が答えて曰く、『二種類の薬があるので食前食後にそれぞれ飲め』とのこと。
「ま、そういうわけですから食事は多い方がいいんですけどー……正直私あまり食べられないほうなんですよね。その辺どうなんで?」
 見るからに華奢で小柄な上、研究に関係ない事には無頓着な蕈娘。その辺りの対策は使徒に任せたいとのことだが、それに対しては艶守・娃羽(豊饒の使徒・娃・f22781)が自信ありげに答えた。
「そこに関してはお任せくださいませ。準備はしてありますわ」
 そういう彼女の横にあるのは、高さ2m弱の直方体。某所で発掘されたメガリス式蒸気装置を改修、実験を重ねて実用化させた食料生成マシン、その名も『ケンバイキ』だ。しかしこれはそれそのものではない。
「こちらは【成翫】で複製した品でしてぇ」
 るこるのユーベルコードで複製したものに特殊な勾玉を埋め込んで長時間の維持を可能としたものだ。もしこれの動作に問題がなければ、「本体は拠点に置き、個別に一台ずつ収納して所持しておく」という形を取りたいという考えもある。
「その際には桃姫さんにも一つお譲りしたいとも思うのですが……」
「はい、是非欲しい、んですけど……」
「アカリさんが怒りそうなんだよぉ」
 基本的に現状桃姫が肥えたらスポーツギャルな別ボディが毎回ダイエットさせている。それについて前回若干文句を言われたこともあり、桃姫にカロリーを手放しに与えるのは少々憚られるところだ。
 だが、その為のダイエット薬。その為の実験でもある。それを開始するべく、使徒たちは祈るような構えを取った。
 そして全員から力の波動のようなものが湧きだし、それはそれぞれ間で共鳴し、より大きな力となって場を包む。それが十全に行き渡った所で、蕈娘がここにいる全員に薬を配った。
 それを服用した上で、叶葉がケンバイキのボタンを押す。
「それでは皆様、始めましょう」
 その言葉に応えるように、ケンバイキからは大量の肉や野菜が転がり出て来た。それ自体は初めてこの機械が暴走状態で発見された時からあったこと。だが、今回それまでと違ったのは。
「あれ、生なんですか?」
 桃姫が不思議そうに……あるいは残念そうに言う通り、それらは生であった。
「せっかく海に来ましたし、ですので」
「去年はこういうことはしてる時間がなかったんだよ」
 月麻と麻陽が言いながら肉を取り、用意していた諸々の上に乗せる。その乗せた先とは、炭で炙られる網の上であった。
「今回はBBQをしてみようと思いましてぇ」
 そう、今回の食事のコンセプトは、その場で焼くBBQスタイルであった。元々ケンバイキから完成品がいくらでも出てくるのは以前の実験で既に分かっていることであった。確かに完成品があれば調理の手間が省けて良いというのは一つの真理かもしれない。しかし、味の好みは人それぞれ違うものだし、また外で作ってその場で食べるというイベント感、非日常感は手間をかけてこそ味わえるものでもある。
「外で一々料理ですか? 私なんて食えるキノコとか適当に齧って済ませてますけどね」
 先述の通り研究第一な上、友人と呼べる存在もほとんどいない彼女の事、楽しく食べるという発想自体があまりないのかもしれない。
 しかしせっかくこうして機会を得たのだ。いずれにせよ今回の実験のためには大量に食べなければいけないし、それならばお互い楽しんだ方がいい。その考えと共に、焼き上がった肉をリュニエが全員に配る。
「お肉からは色んな事が学べるのでぇす。蕈娘さんも是非どうぞなのでぇす」
「これは牛肉ですかね。で、かかってるタレは……何が入っているのですかね? 甘いような辛いような……」
 それを食べながら味の組成を考える蕈娘。かかっているのは基本的なバーベキューソースなのだが、やはり封神武侠界人である彼女には珍しいもののようだ。
「お肉だけでなく海鮮ものもあるんだよ」
「良ければどうぞ、です」
 続けて月麻と麻陽が出して来るのは海鮮焼き。大型のエビとホタテなのだが、その巨大さから殻がそのまま器になるような程。
「や、これは中々でかい。殻のまま取って食べられるのは楽ですね。でかくたって生き物なんだし、埋めときゃ土に還るでしょうから後片付けもしやすい」
 装置から出たものは食べられる部分を食べ尽くせばそれ以外は勝手に消えていくので片付けの心配はないのだが、蕈娘がそれを知っているはずはないしそういう『手間を省く』方向に興味が向くのはやはり彼女ならではの視点だろうか。
「やはり茸がお好きなのですね。でしたらこれはいかがでしょうか」
 次に叶葉が焼いて出すのはエリンギ。バター醤油を塗って焼けば生で齧るよりもずっと薫り高い。いくら頓着がないからと言っても食べるからにはうまい方がいいはずだ。
「それからこういうのもいかがでしょうか」
 さらに娃羽が出すのは、巨大シイタケを裏返し、傘の裏側にチーズを詰めて焼いたものだ。るこるが見た際には、彼女はキノコ入りのチーズピザに似た料理を食べていたという。ならばそれと似た具材で、しかし比率は逆転したようなものを出せば悦ぶのではないかという考えだ。
「キノコに乳餅を積めたのですか。本来刻み、乗せるものを徹底的に巨大化させ役割を逆転させるとは。固定観念にとらわれない、新しい一歩は常識を疑う所からですね……あつっ!」
 したり顔で色々語りながら食いついて熱い思いをする蕈娘。勢いを御せず微妙に食べ方が下手なのは、やはり食に対する彼女の『経験不足』が出ている証だろうか。
「言っていた割に結構食べますね……やっぱり、それって……」
 その勢いをみた桃姫が不安げに言う。ちなみに彼女自身も追いバター追いチーズしつつ蕈娘の数倍の勢いで食べているのだが、流石にそろそろその理由は理解してきたようだ。
「はい、今回も『本気』を出させていただきましてぇ」
 大食い、吸収能力を強化するユーベルコードの重ね掛け。今までも行ってきたことで、そしてそれは毎回ある種同じ結果を生み出してきた。
「皆様の『才』もより伸びているようで、今回も良き結果となりそうでございます」
「わざとですか!? わざと言ってるんですか!?」
 前回から数十センチ規模で膨れているメンバーの『肉』を見て、叶葉が満足げに言う。そしてその豊満さの増量ははそのまま彼女たちの力の増加に直結しているわけで、今までも規格外の結果を出してきたユーベルコードの多重がけがさらに強力になって今かけられているということに他ならなかった。
「でも、今回はある程度膨れないと実験にならないからね」
「桃姫さん、どうぞご辛抱くださいですの」
 愛彩の言う通りに、今回は今まで以上に様々な『実験』を同時に行う必要があるのだ。その辺りは事前にも桃姫は説明を受けてあるはずであり、いまさらとやかく言うことではないはずである。
「でも、ちゃんと戻るんですか? 望んでないのに丸くなっては戻ってみても全体的に割り増ししてるし、ひどい時なんて1回で1カップ胸が大きくなってたことだって……」
「それならあらかじめ数カップ分発注してストックしとくといいんだよぉ」
「膨らむの前提ですか!」
「まぁまぁ、お肉でも食べて落ち着くのでぇす」
 幾度か繰り返された大食い祭りとそれに伴う桃姫の情緒の乱高下。回数を経るうちに使徒たちも桃姫の扱いに慣れて来たらしく、喚きそうになったところでいい具合に焼けた肉を串に刺して口に突っ込ませて黙らせるというテクニックを皆が身に着けていた。
「あぁ……お肉……」
 やはり誘惑に弱い桃姫。肉自体の味がいいのは当然のことだが、今回はさらに盛られた皿の方にも秘密があった。
 その皿は祭器でもある食器『脂欲の器』。味を良くする代わりにカロリー百万倍という、まるでこの機械で食事するために誂えたかのような品だ。
「やはりいい食事は食器にもこだわりませんと」
 娃羽の言葉の真意を果たして桃姫は理解できているのか。
 そしてやかましいのが黙った所でもう一つ実験は加わる。
「そう言えば、ここでもるこるさん何か手に入れたって言ってましたわね」
 娃羽が続けて水を向けると、るこるもはたと思い当たったような表情になった。
「えぇ、そう言えばそうでした。確かに構造としては通じるものがあったはずですので、折角だから比べてみましょうかぁ」
 そう言ってるこるが胸の谷間に手を入れ取り出したもの。それはケンバイキよりもさらに大きい、卓や椅子までセットになった巨大な絡繰り装置であった。
「や、これは……」
 どうやらこちらはある程度彼女にも理解できる部分があるらしく、蕈娘が興味深げにそれを見る。それもそのはず、これはるこるがかつて殲神封神大戦の折に手に入れた、仙界の秘奥を詰め込んだ摩訶不思議な絡繰りなのである。
 その効果はというと。
「それじゃ、ちょっと失礼するんだよぉ」
 てこのがその椅子に巨大な尻をどっかりと下ろす。すると装置の方から、大量の何かが溢れ出してきた。
「おお、これはまたなんと」
 出てきたのは桃まん、胡麻団子、杏仁豆腐などの中華系スイーツ。三不粘や糖水のようなまさに中華と言った者から、マンゴープリンや台湾風タピオカドリンクのようなちょっと中華に分類していいのか怪しいものまで盛りだくさんだ。
「さすがはてこのさんなんだよ」
 感心するように麻陽が言う。しかし蕈娘は何かを考えるような表情だ。
「なるほど、やっぱり出てくると。しかしこれはそっちの四角いのと何が違うので? ただ椅子と卓がついてるだけで場所も取るようでは劣化版では?」
「えぇ、それでしたらぁ」
 蕈娘の言わんとしていることを理解したか、てこのが立ち上がりリュニエに交代する。するとスイーツの嵐はぴたりとやみ、変わって巨大叉焼に羊肉串に油淋鶏など、中華系肉料理が次々と出て来た。
 この装置の特徴、それは着席した者の好物を自動で読み取り、それをカロリー爆盛りにしたうえで無限に提供するというところにあった。ケンバイキは調整の結果出てくるものを自在に操作できるようにはなったが、それは逆に言えば何が欲しいかを自分で決めなければならないということ。
 一方こちらの絡繰りは席にさえつけばその時一番好むものを自動で、いくらでも出してくれる。さらに装置の出所は封神武侠界でありながら、出てくる『食品』は明らかに先の時代のものや、通常とは違う食性を持つ者に対応したものさえ出すことができる。考えるのも面倒くさい時や、あるいは優柔不断で決められない時などはこちらの装置を使えばあとはただ出てくるものを食べるだけで済むのだ。
「お肉! 揚げ物! スイーツ!」
 あと、今席についてる桃姫みたいに食べたいものの種類が多すぎてボタンを押すのもまどろっこしい時などにも。
 その一方であくまでこれは完成品をひたすら出すだけなので、まさに今行っているBBQのようにあえて未完成の品を出して調理過程から楽しむということには向いていない。そもそも元は拷問的な何かに使われていた機械ということもあり、その辺りの融通はあまり効かないのだろう。
 そんな比較検討の後、一同はBBQへと戻る。
「こちらの鉄板では焼きそばをつくる、です」
「じゃあこっちは炒飯にするんだよ」
 月麻と麻陽が色々と焼いた後の鉄板にそれぞれ米と麺を乗せる。鉄板には今まで焼いた具材から出た様々な味や出汁、さらに焼く前や途中で付けたタレやスパイスなどが全て残っており、それはそのまま下味となって炒めるだけで深い味わいをつけていく。
「これはつまり総括的なことをしているのですね。ここにどう帰結するかを考えれば自ずと過程も決まってくると」
 鉄板ものの締めはそれまで焼いたものの味で決まる。過程を研究し望む結果にたどり着くというのは蕈娘が求める新たなる仙薬、あるいは彼女と腐れ縁になりつつある武侠の鍛錬にも通じるものがあるのだろうか。
「焼きマンゴーとかもおいしいんだよぉ」
「リンゴやパイナップル、バナナなども焼くと甘みが増しますの」
 そして、締めが終われば最後のボーナスデザートタイム。焼いた果物もまたBBQによくあるデザートだ。
 濃厚な絡みつくような甘さとなった熱い果実をほおばり、そしてドリンクで流し込む。宴のフィナーレを飾るラストセッションにより、封神武侠界でのBBQはまず終了とあいなった。
 楽しい食事も終わったので、ではこれで解散……とは勿論いかない。
「さて、もうそろそろでございましょうか」
 叶葉が時間を気にする素振りを見せた時、まずそれは起こった。
「え、な、なんですかこれぇ!?」
 元から巨大な桃姫の尻がもりもりと盛り上がり、あっという間に数倍の大きさに膨れ上がった。元々140cm近くあったのだが、今はもう1000を超えるサイズである。
 彼女だけでない。他の使徒たちの尻も全て大きくなり、全員が1000以上、人によっては2000にすら届きそうな程だ。
 だが、桃姫が驚くのはそこではなかった。
「な、何でお尻だけ!?」
 桃姫の驚きポイントは大きくなったことではなく、尻だけが膨れたこと。その膨れた尻を見て、るこるがのんびりと呟く。
「ああ、どうやら、このくらいの伸長なら全く問題はないようですねぇ」
 その言葉に続くように、他のメンバーも互いの尻を見る。そこには引き伸ばされているものの、各人に合わせた色の水着のボトムが切れることなく確かに張り付いていた。
 ボトム部分の伸縮性を試すのも、今回の実験メニューの一つであった。胸については日常が耐久試験とも言える状態のためある種改めて調べる必要もなかったのだが、それに比べれば注視する機会がやや少ない尻方面をしっかりと調査する必要性の感じての事であった。
「せ、仙人さん、早く! 早く終わりのお薬下さい!」
 このままではまたいつもと同じ結果になってしまう。だが今回は対策用の薬が用意されているはずなのだ。それを当て込み、桃姫は蕈娘をせかす。
「あーはいはい。ちょっと待ってくださいな準備するんで」
 そう言って蕈娘は薬を取り出す……前になぜか服を脱ぎ始めた。
「何で脱ぐ必要があるんですか!」
「え、だって私そんな便利な服持ってませんしー……はい、これ」
 大声で叫ぶ桃姫の口に、蕈娘が器用に丸薬を放り込んだ。そして他の使徒たちにも同じ薬を渡し、さらには自分でも服用する。
 そして、それは来た。
「な、なんでぇぇぇぇぇぇぇ!?」
 天を貫き地を揺るがす轟音。かつて北関東荒野を睥睨した肉の大連峰が、今再びここに顕現した。
 確かに、これ自体はいつもの事である。しかし、今回はダイエット薬を服用したのではなかったのか。
「あー、そうですね、説明しましょうか」
 蕈娘がふよふよと一同の顔の高さまで飛んでくる。ちなみに彼女の体型も使徒たちには遠く及ばないものの、胸と尻が大幅に肥大化しまるで肉の風船が浮いているかのようだ。
「まずそちらの方」
 蕈娘が指すのは月麻だ。
「私の【玉桂結】を蕈娘さんにご提供しまして、その効果で「全員の体型等に及ぼす影響が倍加される代わり、適用が効果切れまで遅延される」状態になっています」
「ちなみにこの効果がないとあなたの肉もっと収集つかないことになってますんで」
 なにしろいくら見込まれているとはいえ桃姫は『使徒』ではない。同等の量を食べさせるには、それなりに予防策が必要なのだ。
「んでもってこちらとこちら」
 次に指すのはてこのと麻陽。
「私のは皆の食べる量や食欲を合体させたんだよぉ」
「私はそこに皆さんのレベルをかけたんだよ」
 二人はそれぞれ相乗効果的に食欲や食べられる量を増やすものを使った。1+1が2じゃ収まらなくなる状態であり、それは人数が多くまた一人一人の実力が高いほどに加速度的にハイレベルになっていく。
「そしてやっぱりとどめはこちらのお方でー」
 そして最後に指すのは、初対面時から彼女を幾度となく導い驚愕させてきたるこる。
「『三千符印』『貳乘超肉の印』にリュニエさんの『豊育の秘薬』もあってそこに私のレベルを合わせましたので……大体レベルとしては10億単位かと」
「宝くじじゃないんですから!」
 普通に生きていたらまず関わらない単位の数字である。ともあれ桃姫的には今まで『UCを凄い重ね掛けしてた』という漠然とした認識だったが、誰がどのようなものを使い何がどう作用してこうなっていたのか、それが改めて説明されることとなった。
 しかし、これはまだ『今までと同じ次元』の話である。
「あ、じゃあ私離れてますんでー」
 話は終わったとばかりに、蕈娘がふわふわ飛んで離れていってしまった。
 そして、その次の瞬間。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 悠久の中国大陸をも揺るがすほどの激震が、壺中天全てを揺さぶった。
 既に肉の山であった10人の肉体が、さらに膨れ上がったのだ。
 ある神話では原初の巨人はその体の部位それぞれが大地となり海となり森となり、世界を形作ったという。あるいはそれさえ彷彿とさせる体が、リクも海も埋め尽くさんばかりにそこにあった。
「まあ、これは素晴らしい。壺中天とはここまで広うございますのね」
 そのはるか高みから辺りを見渡し、叶葉が感心したように言った。この状態で景色を見ていられるとはとてつもなく肝が据わっているというか、あるいはこれこそ心穏やかなる状況なのかもしれない。
「大丈夫、まだ皆全部のUC使ったわけじゃないから……」
「それつまりまだ先があるってことですよね!?」
「麻陽ちゃん、それは追い打ち、です」
 以前とは逆に麻陽が追い打ちをかまし月麻がツッコミを入れる。
「でも結局このお薬はどういうことなのかな?」
「以前アルダワで似たようなお薬を入手したことがありまして、簡単に言えば増える時も減る時も影響が激化する感じのものですねぇ」
 以前るこると桃姫がアルダワ世界で入手した薬。るこるから情報を得てそれに近い特製のものを作ったのだろう。平たく言えば、一括でまとめてとことん膨張した上で時間経過で一気に減っていくという形である。
「そっか、永続じゃないんだねぇ」
「世の中は甘くないのでぇす」
「何で残念そうに言うんですか! 私はもっとこう、食べても太らない、運動しなくても痩せる、そんな簡単な話でいいんですよ!」
「それこそそんな簡単で甘い話あるわけないでしょう」
 色々あって簡単な永続は蕈娘的に慎重にならざるを得ない所らしい。
「それでも最小と言えるわたくしでもお付き合いするうちに相応に伸ばせていただいておりますし、感謝していますわ」
「以前から色々教わっておりますし、今後ともよろしくお願いいたしますの」
 だが娃羽や瑶暖、そしてもちろん他の使徒たちにとっても許容量や基礎サイズ、限界値の全てがどんどん大きくなっていくこの状況は好ましいのだ。それに桃姫だって肥える前にはいくら食べても尽きぬほどの美食とカロリーをほぼ無料で摂取しているのだ。なんだかんだ彼女もいい目を見てはいるのである。
「それじゃちょっと経過観察などさせてもらいますね。どこがどう増えて減ってくか」
「や、やめてください! そんなとこ見ないで、潜らないで!」
 元に戻る時間が来る前にデータをとっておこうと、蕈娘が肉の中に潜り色々測っていく。
「そう言えば、事前に貰った数字から皆さん大分変わってたみたいですね。残留量も調べたいので減少後の皆さんのサイズも測らせていただいてもいいですかね?」
「えぇ、どうぞぉ」
「やめてください! 測らないで、現実を見せつけないで!」
 のんびり答えるるこると必死に現実から逃げる桃姫。
「気にすることはありません、どーせ黄河の砂よか少ないです」
「その上となると那由多、不可思議となりましょうか。まさに見果てぬ世にござりますれば」
 遠くを見るような眼で言う叶葉。まさか本当に遠き理想としてその数字を思い浮かべているのでは。
 ともあれ、ここにてまた肉と食の質のみならず量の向上、制御にもまた新たなる道が一つ開けた。
 悠久なる肉の地平、その先は四千年の向こうにもまだ続いている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年04月04日


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