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バレンタイン生配信『ケルチュ――ブ!!』

#ケルベロスディバイド #ノベル #猟兵達のバレンタイン2024 #ケルチューバー

ジークリット・ヴォルフガング



ステラ・フォーサイス



ナノ・ナーノ



真・シルバーブリット



ヴィルトルート・ヘンシェル




●ケルチューバー
 押しも押されぬは、異星よりの侵略者と日夜激闘を繰り広げるケルベロス。
 戦士に休息はないのかと嘆く事なかれ。
 ケルベロスの原動力は平穏に生きる人々の笑顔。
 ならば、イベント目白押しな12月、1月、2月は大忙しであるが故に、人々の笑顔の華咲く季節でもあるのだ。

 そして、時は2月14日。
 言わずと知れたバレンタインデーである。
 誰も彼もがチョコの用意で大忙し。
 女性は本命に義理チョコに友チョコに。
 男性は、え、は? あ~? チョコ? みたいな興味ないですけど? みたいな斜に構えたポーズに。
 うん、今日も地球は平和である。

 これはケルチューバーと呼ばれる普段は宇宙からの侵略者と戦う正義の味方ケルベロス達がケルベロス動画投稿サイト『ケルチューブ』を舞台に行う啓蒙活動やりたい放題な無法地帯を記録した面白おかしい物語である――!

●バレンタインデー
 ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・f40843)は些か緊張していた。
 なんでそんなに緊張しているのかと言うと、これまで自分が『ケルチューブ』での配信を手伝ってくれていた裏方……幼馴染のステラ・フォーサイス(帰ってきた嵐を呼ぶ風雲ガール・f40844)がついにケルチューバーデビューを果たす初回の生配信を行う日だからなのだ。
「……ついにこの日が来たか。胸が熱くなるな」
「だからって配信一時間前からスタンバってるのは、重すぎるなの」
 そんなジークリットの様子にナノPことナノ・ナーノ(ナノナノなの・f41032)は微妙な顔をしていた。
 いやまあ、そういうナノも配信一時間前からスタンバってる所を見るに、これまで裏方として手伝ってくれていたステラのデビューともなれば、他の用事をさておいてもリアルタイム視聴にありつきたいと思うのは自然な成り行きであったのかもしれない。

「確かにステラにはこれまで多くの配信を手伝ってもらってきていた。どんな配信内容かを相談してもらえなかったのは、少し……胸に来るものがあったが」
「全然平気そうに見えないなの」
「くっ! 私に相談してくれれば先輩ケルチューバーとしてのノウハウを持ってステラの初回配信を華々しく飾ることもできたというのに……!」
 相談してよぉ! とジークは歯噛みしている。
 そういうところじゃないの、とナノは思ったが口にしなかった。野暮であるから。
 しかし、ナノは思う。
 ジークリットはああ言っているが、ステラは配信協力者としての下積みがある。
 自分のプロデュースにも的確に意見を言ってくれていた。
 そんな彼女がジークリットの配信協力という経験を得てどんな成長を遂げているのかは、正直なところ興味があったのだ。

「でも、馴染みだからって忖度はしないなの」
 そう、あくまでナノはプロデューサーである。
 配信気格を練る側の視線でどうしたって今回の配信は厳しい目で見ざるを得ない。
「たとえコケたとしても後で直に慰めてやらねば……! 誰にだって最初あるのだ。歩行器なしで歩けると意気込んで転んで膝を擦りむくことだって……!!」
「ジークは一体何目線なの?」
 ナノはちょっとジークリットの様子に引いた。

 そんな二人の視聴者を他所にステラは、相棒である真・シルバーブリット(ブレイブケルベロス・f41263)と共に配信するための作業に勤しんでいた。
「ステラ、これでいいの?」
「うん、大丈夫。カメラもオッケー。電波の感度も良好。パトロールコースの渋滞情報もバッチリ。スポットへのアポイントメントもしっかり」
 ステラがあれヨシ、これヨシ、と指差し確認している。
 今回は二人のケルチューバーデビューである。
 初回は生配信と決めていたが、日々のパトロールで訪れる話題のスポットめぐりな旅系ケルチューバーとしてのデビューも計画していたステラにとって、道行く先でのトラブルは企画がポシャってしまう可能性はなるべく排除したいと思うところであった。
 シルバーブリットもそれには同意であった。
 予期せぬ渋滞程萎えるものはない。
 それに今回は記念すべき初配信に加え、バレンタインシーズン。

 ステラが日々のパトロールでチェックしていた恋人と訪れたいスポットは人混みが酷くなる可能性だってあったのだ。
「さあ、配信までもう少しだよ」
「うん。ちょっと緊張してきたかも」
「大丈夫だって、いつもどおりやればね。シルバーブリットは最後に目玉もあるんだから。終盤には緊張もほぐれてくるでしょ」
「そうかなぁ……でも」
「私を信じなって。絶対大成功するからさ。みんな、ああいうのが大好きなんだから」
 ステラの自信たっぷりな様子にシルバーブリットも覚悟を決めたようだった。
 カメラの角度を再度チェック。
 天候情報もバッチリ。
 さあ、行こう、とステラが笑うのに合わせてシルバーブリットは己のエンジンに火を灯す。
 エキゾーストパイプから彼の意気込みを知らしめるように爆音が響き渡る。

「ごきげんなエキゾーストから、こんばんわ――」

●配信配信
「ケルベロスのステラ・フォーサイスと」
「ライドキャリバーのシルバーブリットだよ!」
 ハイウェイを疾走するシルバーブリットの元気な声と共に初配信が始まる。
 来たか! とコメント第一号は神速のジークリット。
 その様子にステラは少し笑う。
 なんだかんだで気にかけてくれているのだろう。実際には結構重めのアレであったが、相談無しに此処まで配信を決めていたからステラは知る由もない。
「今日は記念すべき初配信ということでね。普段から私達がパトロールしているコースにある話題のスポット巡りをしようって思っているんだ」
 ステラはポップアップされた『いいね チャンネル登録お願い』を指差すような仕草をして見せる。
 こういうお願いは案外視聴者にとって有効なのだ。
 変に斜に構えているのは、かえって視聴者側からも『じゃあいーわ』とスルーことが多い。素直にお願いされれば、人は頼られている気がしてボタン押すだけだし、とすんなりチャンネル登録してくれるものなのだ。
 加えてステラは美人である。
 俗っぽいと言われようがなんであろうが、顔が良いのは強みなのである。

 そんな彼女がお願いねってしようもんなら、可愛げしかない。
 見え見えのどストレートにボールを放り込まれているのにバットが振れない。
 見逃しストラークッ!
「旅系ケルチューバーって言えば良いのかな? あ、コメントありがとうね」
「うん、僕らがあちこちに出かけて皆に、こんな良いスポットがあるよって教えてあげたいんだー」
「そうそう。今回はねバレンタインシーズンってことだから、とっておきの場所に行くんだよ。バレンタインデートしたいなって思っている子もいるでしょ」
「バレンタインデート?」
「バレンタインといったらデートでしょ」
「え、チョコもらえる日じゃないの?」
「それはそうだけど、それ以外にもあるでしょ。ていうか、チョコで動くの、シルバーブリットって」
「変換機関があるからね! グラビティチェインだけじゃなくチョコで繋がる生命だってあるんだよ!」
 二人の掛け合いは小刻みが良い。
 なんてことのない会話から企画趣旨、加えて配信外の生活を感じさせる雰囲気。
 そうしたものは、これまでジークリットたちの配信を手伝ってきた所以を感じさせるおのであった。

 視聴者からすれば熟れた、とも思えただろう。
 少しだけ初配信の固さが残っているのも初々しくて良い。
 そんな感想をジークリットたちと同じく、コラボ案件として配信を共にしたことのあるヴィルトルート・ヘンシェル(機械兵お嬢様・f40812)は感じていた。
「流石はあの方達ですわね」
 彼女は自宅件配信場の豪奢なソファに腰掛け、目の前に浮かぶ画面に頷く。
 お紅茶の香り立ち上る自室。
 お嬢様のための、お嬢様に寄る、お嬢様的空間。
 彼女はステラたちの配信開始から見守っていた。あえてコメントを送らず、配信者としてステラの挙動を観察していたのだ。
 これから同業者がどんどん増える。
 それは己が先駆者としての自負を持っているからではない。
 新たな配信者は新たな可能性。
 なれば、お嬢様ともあろうものが為すべきことは、敵を良く知ることである。
 そして、己に足りぬものを知れば、百戦危うからずというもの。

「見事な華を咲かせましたわね、ステラ様」
 ごくり、と紅茶を一口含んでヴィルトルートは改めてステラのポテンシャルの高さに慄く。
 そう、彼女の配信はなんていうか……そう、言い換えればクラスメイトの距離感近い系女子!
 いるよね。
 クラスに一人は男子との距離感がバグっている子。
 男子の心に爪痕残していく青春の香りを幻視させるような女子。
 それがステラである。
 そんな子が?
 バレンタインシーズンだからって、バレンタインデートコースを教えてくれたり、チョコを渡すのにぴったりな場所やロケーションを交えて配信を行う?
 そんなの法律で禁止しないと行けない程の禁止カードでしょ。

 あまりにも圧倒的な女子力。
 画面から伝わる旋風の如き圧にジークリットは慄く。
「なん……だと……?」
 ジークリットは最初だからステラがコケて落ち込むだろうと思ったのだ。
 コメント第一号になったのも、そのためだった。
 ひとりじゃない。
 それは心強いことだ。だから、と思っていたのだが、みるみる間に同時接続数が跳ね上がっていく。コメントだってログがダララララって流れていくのだ。
「これはすごいなの。あ、あそこステラちゃんと行きたかった場所なの」
 圧倒的女子力に打ちのめされたジークリットとは裏腹にナノはスマホ片手に紹介されたスポットにピン立てしていく。
 素直に感心している。
 プロデューサー目線で見ていたが、いつの間にか配信に引き込まれている。

 そうか、とも思う。
 ジークリットは女子力(物理)をウリにしている。
 けれど、同じ女子力でもステラのは純正培養。天然物。いや、別に養殖物が天然物に勝てぬ道理はないが、しかしだ。
 これは強烈すぎる。
 青春時代の夏の香りを想起させるような、それでいて存在しない記憶をかきむしるようなステラの配信は、所謂面白おかしいネタに走りがちなSNSのそれではなく、キラキラした日常……ある種、他者にとっては非日常めいた生活を示してみせたのだ。
 そのキラキラ具合に脳を焼かれるのがジークリットである。
「……ステラが遠くに行ったような気がする」
 なんだかんだでいつも自分のアシストをしてくれていたステラ。
 彼女のポテンシャルを見誤っていた自分にジークリットは打ちのめされてしまう。

 だが、ふっ、とジークリットはニヒルに笑う。
「流石は私の幼馴染だ!」
「だから何目線なの」
 ナノはついには半眼になってしまう。そうこうしていると配信は終盤へと近づいていく。
「あ、そろそろお時間だね。今日は初配信に付き合ってくれてありがとね。コメントもいっぱい嬉しかったな。みんなあったかくて、冷たい風もへっちゃらだったよ」
「本当にね! あ、ステラ。最後にいいかな?」
「もっちろん。じゃあ、配信の最後の締め、行くよ!」
 その言葉と共にシルバーブリットの車体が中に飛ぶ。
 謎のエフェクトが画面に広がる。
 え、なに? と動画を見ていた視聴者たち全てが困惑する。

 ジークリットも、ナノも。無論、ヴィルトルートもそうだった。ヴィルトルートは配信が締めに入ったのでドカンと最大金額のご祝儀スパチャを投げる準備をしていた。
「ちぇーんじ、ブレーイブ・ケルベロス!!」
 そう、配信最後の締めはシルバーブリットの勇者ロボ形態への変形である。
 本邦初公開。
 コメント欄は大賑わいである。
 キラキラした配信返して、とか。これは良い配信詐欺だのコメントが一気に噴出する。トレンドは『ブレイブケルベロス』で一色になってしまった。

 その凄まじいトレンドの旋風にジークリットは思わずうめいた。
「それは反則過ぎるだろ!?」
「よくわかってるなの。最後に一番インパクトあるなの」
「敵ながらあっぱれですわ! ならば、この私名義のスパチャで爆上げですわ!」
「次回もステラとブレイブケルベロスをよろしくね!」
 最後に持っていったシルバーブリットの笑顔と共に配信は無事に大成功で終わりを告げるのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年04月01日


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