チョコレートよりも甘い二人
●バレンタインにとびきり甘いプレゼントを
「そろそろ休憩時間のはず……」
ユスミ・アルカネン(Trollkvinna av Suomi・f19249)が綺麗にラッピングされたチョコの入った紙袋を手に、ダークセイヴァーにある魔王城の通路を軽い足取りで歩いていた。
「気に入ってもらえるかな……」
バレンタインプレゼントを喜んでくれるだろうかと不安と期待が混じった顔で、大切な人がいる執務室に向かった……。
「ふぅ……休憩にするか」
執務室の重厚な椅子に座り山積みの書類にサインを書いていたクリストフ・フロイデンベルク(辺境の魔王・f16927)がペンを手放し、ぐっと背を伸ばすように背もたれに体重を預けた。
傍に控えていた側近は出来上がった書類を手にして退室していく。
「全く、魔王などというのは楽な仕事ではないな」
誰も居なくなった部屋でクリストフは気分転換に机の引き出しを開けると、仕事に使う資料の底に埋まるように置かれていたファッション誌を引っ張り出して目を通す。
「ユスミはこういった服が似合いそうだな。隣に立つなら私の衣装は……」
その顔は真剣で息抜きをしているというよりは、勉強しているようだった。
そうしていると控えめなノックが響く。そのノックの音から誰が来たかを悟ったクリストフはすぐにファッション誌を仕舞っていつも通りの態度で返事をする。
「入っていいぞ」
ゆっくりドアが開き、顔を見せたユスミに笑みを向ける。
「クリストフさん、今、時間大丈夫?」
「ああ、見ての通り休憩中だ。どうしたユスミ」
ユスミが尋ねると、クリストフは応用に頷いて部屋に入るように促す。
「えっと、今日はこれを渡そうと思って」
そう言ってユスミが紙袋を手渡す。それを受け取ったクリストフが中身を取り出し丁寧に包装を解いた。
「ほぅ、チョコレート……そうかバレンタインか」
仕事ばかりで忘れていたが、今日がバレンタインだったことをクリストフは思い出した。
「丁度一息つこうと考えていたところだったのだ、では茶は私が淹れるとしよう」
すっとクリストフが立ち上がり自らお茶の準備をする。
「クリストフさんお茶淹れられるの?」
「なに、
その程度の嗜みはある」
慣れた手つきでティーポットに茶葉と湯を入れる。そして談笑しながら蒸れるのを待ち、2つのカップに注ぐと紅茶の豊かな香りが部屋を包む。
「ではユスミのチョコを早速一つ……うむ、悪くない」
紅茶で口を湿らせ、チョコを一つ食べてみると、甘さと僅かな苦みのハーモニーは市販のものらしく完成された味わいだった。
「ユスミの手作りならば猶良かったのだが、それは次に期待だな」
美味しそうに食べながらも、手作りならもっと嬉しいと言うと、クリストフが手ずから淹れてくれた紅茶を嬉しそうに飲んでいたユスミが、少し表情を曇らせてソーサーにカップを置く。
「最初はお花を贈るつもりだったんだけど、欲しい花が見当たらなかったの」
少し早口で市販のチョコを買うに至った説明を始めた。
「だから、チョコレートを作ろうと思ったんだけど、材料を用意できなくてお店で売っているチョコレートになっちゃった……」
しょぼんとした顔で上目遣いにクリストフを見る。
「どうかな、お店のチョコだから、ボクが作るより美味しいと思うよ」
「ふ、ユスミの手作りに勝るものなどこの世に存在しない。だが市販品にしてはなかなかのものだ。ほら、ユスミも食べてみるといい、これなど好みだろう?」
ユスミ好みのチョコレートを摘みその口にそっと差し出す。
「……美味しい」
「なに、ユスミが私の為に悩んで選んだものだ。手作りには劣ってもこれはこれで十分嬉しいものだ」
ユスミが甘いチョコを口にして頬を綻ばせると、クリストフもチョコを食べて微笑み
和やかな一時を過ごす……。
(……ただ、食べてもらってるだけ。それでいいのかな、ママや……、他のお友達はどんな事するかな……)
もっと何かしてあげたいと、ユスミは仲良しでラブラブなママとパパのことを思い出す。
(そういえばママが……。確かこうやってチョコを口に……)
それを自分がする姿を想像して恥ずかしさに頬を赤く染めていく。
「む? どうかしたのか?」
クリストフが不思議そうに顔を覗き込むと、ママを参考に同じ事をして喜んでもらおうと、ユスミは恥ずかしさを我慢して自分の口にチョコを咥えてギュッと目を瞑り、少し顔を上げた――。
「ふ、くくく、これは流石に意表を突かれた」
驚き笑みを零しながらも、クリストフは愛しい少女を待たせずすぐに抱き寄せ顔を近付ける……。それは力強くも宝物を扱うように優しかった。
(………あれ……、そういえばママが口に咥えていたのはこんな小さなチョコじゃなかったはず……)
目を閉じ構えながらユスミはそういえばママが使っていたのは細長いチョコ菓子だったと思い出す。だがその思考もすぐに耳元の囁きで霧散する――。
「愛しているぞ、ユスミ。正直愛おし過ぎてこのままお前の全てを我がものとしてしまいたい程だ」
そう囁くと甘いチョコレートごと唇を奪い、ユスミは抵抗も忘れて身を委ね、チョコレートよりも甘い甘い身も心も溶けてしまいそうな時間を過ごす……。
休憩など早々に終わり、魔王の仕事の時間になっても誰もイチャイチャしている執務室に近づかない。何か用事があって近づこうとすると、側近がそれを止めて首を横に振る。すると察したように用のある者も諦めて去っていく。
ユスミが来ているときには仕事にならないと、城に勤める誰もが知っていた。
邪魔の入らぬ二人だけの甘い時間は、ユスミがとろとろに蕩けるまで続いた………。
成功
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