シャルムーンデイの贈り物~圭一とフールのお話
ランスブルグ第3階層「石壁の街」の一角には、知る人ぞ知る、主に若者に人気の雑貨屋があるという。ここで扱っているのは主にスチームパンクをモチーフとした装飾品で、どれも店主の個性が光る逸品揃い。
これで、店の立地さえ良ければもっと繁盛するだろうに――けれども、ちょっとした隠れ家っぽい雰囲気こそがまた味を出しているのかも知れない。
そんな雑貨屋を見いだしたお目が高いお客様が、シャルムーンデイも近い日に一人。最近異世界からやってきて、これまた異世界の技術である『写真』を持ち込み、構えたフォトスタジオには予約が殺到中だという売れっ子写真家こと山崎・圭一(三・十・路 学ラン・f35364)である。
圭一にはシャルムーンデイ――元居た世界風に言えばバレンタインデーに、プレゼントをしたい相手が居た。男の俺が贈る側? でも何もないのも淋しいし、なんて。
そんなことをつらつらと思いながら、行きつけの酒場から自分の店に戻る途中、何の因果か偶然この雑貨屋を発見したのだ。何という運命!
しかも、圭一のセンスに見事ぶっ刺さったこの雑貨屋の品揃えの中から、贈りたい相手のモチーフにピッタリなシルクハットを見つけてしまったものだからさあ大変。気がつけば、シルクハットと一緒に帰宅していたという。
その日の雑貨屋は、運命の出会いが続いた。圭一が店を出た後しばし、フール・アルアリア(No.0・f35766)もまた、シャルムーンデイの贈り物を探してこの雑貨店を偶然見つけたのだった。
叶わなくても構わない片想いの相手に感謝の気持ちを伝えたくて、でも言葉だけでは足りない気がして、でもでも下手な贈り物は重く捉えられそうで……などと考えていたところに、雑貨屋のショウウインドウに飾られていたシルクハット風の帽子に一目惚れ。
これまた気がつけば、フールと共に帰宅を果たしていたという。
二人が帰る場所は、同じ場所。圭一が営む写真館。
帰ってきたフールに、圭一が「渡したいものがある」と言えば、フールは「僕もなんだよね」と返す。
じゃあ、とせーので同時に互いに突き出したものは、何と見事に互いをイメージに作られたかのようなシルクハット!
圭一からは、精巧な金細工がクラウン部分を飾り、ピンクの薔薇のコサージュが甘さを引き立てるデザインで。
フールからは、赤い薔薇のコサージュが美しいショートスタイルのデザインで。
「考えてるこたァ一緒かよ!」
圭一が破顔すれば、フールは驚きやら嬉しいやらで目をまあるくさせるばかり。
「趣味合うね、って思ってたけど……これはまさかの……」
被ってみてもいい? と問えば、勿論、との答え。
「似合うかな?」
「うむ、流石は俺。思った通りフールに良く似合ってる」
「ええー、えへへ……ありがとう」
褒められて嬉しいやら照れるやら、ふにゃんと笑ってフールは何とか感謝を述べた。
「圭ちゃんは勿論、似合うよ! 格好いい」
「そーぉー?」
フールに褒め返され、圭一はちょっと気取った仕草で貰ったシルクハットを被る。
「キャーーー!!! 圭ちゃんはいつだって格好いいけれど、その格好、最っ高!」
おっと、これはおはしゃぎが隠せない。しょうがないよね、好きな人の洒落た姿を見て、興奮しないでいられない人なんて居ないからね。
「ねえねえ、圭ちゃん、今度これ被って一緒にお出かけしたい!」
ウッキウキのフールが、圭一の腕を取って今にも外に飛び出しそうな勢いで言う。
「お出かけかぁー、その前にこの帽子に合う服とか探そうぜ」
案外冷静な圭一は、折角だからとコーディネートの提案をする。石壁の街の商店街でなら、きっとこの帽子に似合う衣装や靴なども揃うことだろう。
どうせ行くなら、第2階層の鉄壁街がいいかな、なんてことまで考える。洒落た店でちょっと奮発したディナーなんていうのも良いかも知れない。
(「……何か、俺一人勝手に脳内で盛り上がってないか?」)
うっかり口に出さないようにしながら、圭一はどうどうとフールをなだめるに止めた。
「そっかぁ……でもそうだよね、さすがは圭ちゃん」
頼りになるね、なんて言いながら、本当はもっと言いたいことがあるフールは、ちょっとソワソワしながら一度圭一から離れて、店内をぐるぐると回る。
「どした? せっかくフォトスタジオなんだし、写真でも」
「圭ちゃん、あのね」
何のことはない、ただ日頃の感謝を伝えるだけだ。
なのに、心臓が跳ねるように高鳴るのは何でだろう。
「――圭ちゃん、いつも僕を傍に置いてくれて、ありがとう!」
何だか、泣きそうになってくる。
心からの感謝の言葉なのに、笑顔がどことなく強ばるようで。
「何言ってんだ、こっちこそいつもフールには感謝してるぜ?」
きょとんとした顔で、早く撮るぞという仕草をする圭一。
二人して帽子を被って、最高の笑顔で、最高の一枚を残そう。
「――うん!」
成功
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