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暴走!クリスマスクッキング

#アリスラビリンス #ノベル #猟兵達のクリスマス2023

シエナ・リーレイ



佐東・ころも



アレシア・マハシヤー





「クリスマスパーティーにブッシュドノエルを作りたい!とシエナは提案します。」
「急なのだわ!?」
 今日は12月24日、クリスマスイブの日。
 少々特殊な者達が集う『人形館』でもクリスマスの催しが開かれる。

 その人形館の主、にして今回の提案者、灰髪の少女シエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)は、館の外で降る雪と積もる雪景色に嬉々として調理器具を手にした。

「でもまあクリスマスに料理は素晴らしい考えなのだわ!砂糖菓子の魔女の冥利に尽きるのだわ!というわけでお手伝いするのだわ!」
 隣で嬉々として諸手を挙げたのは佐東・ころも(ハロウィン大好きお砂糖魔女っ娘・f36006)。
 魔女姿の彼女は身体が砂糖で出来ている砂糖菓子の妖怪少女なのだ。
「(人形とか混ぜられても困ってしまうからというのもあるのだわ)」
 シエナは度々呪いと物理的な力を暴走させる。
 今回の料理でも何をやらかすかは分からない。
 ただ、ころもは逆に『やらかした何か』に普段から巻き込まれる少女である。
 この料理で何らかのおかしな悲劇が起きるのは確定事項と言ってもいい。

「あの……何か作るんですか?ボクも参加しても」
 おずおずと二人のいた部屋に偶然立ち寄っていた子が諸手を挙げた。
 この金髪の長髪にロングツインテールを足した、気弱な女の子の様な外見をした男の子の名はアレシア・マハシヤー(光失いし癒しの使徒・f41241)。
 実は身長も年齢もこの中では一番若い子である。

「料理は皆で作った方がより良いものができるます!とシエナはアレシアを歓迎します」
「なのだわ!皆で素敵なクリスマス・ブッシュドノエル・ケーキを作るのだわー!」

 こうして3人は行動を開始。
 雪の積もった丸太の様なケーキ、ブッシュドノエルの制作開始である。


「まずは鉄板にクッキングペーパーを敷いて……とシエナは模索します。」
 大がかりなブッシュドノエルを作る経験は彼女らに足りない。
 書店からおもむろに購入したクリスマス料理本によるレシピを逐一見ながら調理を行う。
「次はボール……?一気に過程が飛んだよ。この紙の上にボールを置くのかな?とシエナは模索します。」
 言葉を紡ぎながらも更に次の工程である卵を持ち出し、鉄板とボールの上にそれぞれで割ろうと。
「「「ストーップなのだわー!」」」
 突如、大量に湧いた小さな砂糖の魔女っ子達がシエナを止めた。
「ボウルの上だけでいいのだわ!鉄板は後で使うからそのまま置いて、オーブンを予熱、後卵は予め出しておくのだわ!」
「うわ、わっ」
 急に仕切り出したころもとその様子におびえるアレシア。

「私ころもは砂糖菓子の妖怪!お菓子全般の料理は大の得意なのだわ!ブッシュドノエルも楽勝なのだわ!だから手伝おうとしたけど……今あり得ない事し始めたし、先が思いやられるのだわ」
 ドヤりながらもみんなを心配し始めたころもは、今しがた自身の体内の砂糖を分けて生み出した小さな魔女っ子、プチころも隊に指示を出す。

「とりあえず私達が手本を見せて作るから、見て覚えるのだわ!どうか邪魔しないで欲しいのだわ。」
「わたしも料理つくりたい!とシエナは突然のころもの仕切りに反意を唱えます。」
「て、手伝うくらいなら大丈夫……?」
「だまらっしゃいなのだわ!今の人形館は20人くらいいるのだし、ブッシュドノエルがもう1つ2つ増えても問題は無いのだわ!作るから、今はひたすら観てて欲しいのだわー!」

 そう言って沢山の小さなころも達……通称プチころも部隊が調理に向かう。
「えっと、今の内にオーブン予熱しておきますね」
 その裏でアレシアができる事をといった感じにこっそりと手伝っている。

 そしてシエナは。
「次は少し暖かくなった卵を10秒ごとに混ぜるのだわ」
「そこから私の呪詛を少し隠し味に入れましょう。とシエナは手伝いをします」
「ストップなのだわ!?」
 全く懲りる事無く調理に手を加えようとしている。
 逐次シエナの暴走を止めながらも、プチころも達はせっせせっせと調理を進めている。

 それでもシエナの凶行は止まらない。
 何せクリスマスパーティの準備なのだ。自分がやらねば誰がやるの精神である。

「ココアと薄力粉を振るってかき混ぜて……種が出来上がったのだわ~♪」
 順調に調理を進めるころも。
「それで更に別のボウルでバターと牛乳を暖めながら混ぜて……」
 その時である。ころも(本体)を誰かが伸ばした手が掴む。
「だわ!?」
 別で生地(バターと牛乳)をかき混ぜていたアレシアは気づかない。

「次は板に生地を敷いて平らにするのですね!とシエナはレシピ本を見ながら調理します。」
 それはシエナだった。
「ま、待つのだわ。生地がまだ出来上がってな…ぃ……のだわっ!?」
 突如ケーキ種と共に袋の中に入れられるころも。
「生地がまだできていないけど、確か生地ってこうやって作るんだよね?とシエナは調理を続けます。」
 袋の中でケーキの種(砂糖や卵をかきまぜた黄色くて美味しそうな液体)とまんべんなく混ぜられたころもは、床に置かれてシエナの素足にどんどんと踏まれていく。
「の、のだわ!?私踏まれてるのだわ!?むぎゅう!?な、なんっでっ」
「これで生地が完成です。板にしいて平らにしましょう!とシエナは意気込みます。」

 最初に紙を敷いた鉄板……ではなくまな板の上に乗せられた、踏み捏ねられてやや液状となったころもは、ローリングピン(※生地とかを押しつぶしながら伸ばすローラーみたいな棒)で押し付けられ、そのままゴリゴリグリグリと伸ばされていく。
「だわー!?だわ!?だわー!だわー!!」
 断末魔が続く。
 ころもは全身お砂糖で出来ている女の子。恐らく衛生面では問題ないはずだ。この後加熱もされる。
 そしてシエナは力が強い。女の子一人を板の上で押しつぶすのは容易い程の地力を持っている。
(※良い子は真似しないでください)
「ちょ、ちょっと待つのだわ!まず紙を敷いた鉄板じゃないしココアパウダーでチョコ風味入ってないしいつの間にか私がブッシュドノエルの材料に……もご」
 口が捏ねられ、潰されて塞がれる。
 実はシエナの見ているページは、何かの拍子でページが取れてブッシュドノエルのページに重なった、うどんのレシピページとごっちゃになっている。

 ころもは柔らかい生地の様になっていき、まな板の上でペラペラの平面と化した。
 潰れたような慌て顔のまま、気泡の抜けたペタペタに柔らかく四角く薄べったいケーキ生地となる。
 一方アレシアはせっせとレンジで温めた牛乳とバターをかき混ぜている。
「それでぐるぐる巻きに巻いて、とシエナはレシピ本通りに進めます。」
「だ、だわわー!?」
 だがシエナは一度決めるとやり切るまでは終わらない。暴走人形状態に入っている。

「待ってください。確かブッシュドノエルは中にクリームが……生地には生クリームを入れないと。」
 そこでアレシアが介入してくるが。
「(あ、アレひア!き、気づい……)」
 気づいてない様子だった。
 生地としてのされたころもに無慈悲にクリームが塗りたくられる。
 涙目で小さくきゅうきゅうと声をあげる、その身体がクリームで塞がれていく。
「…………」
 彼女らはそもそも調理本のページを読み違えている。
 が、ころもの悲鳴もお構いなしに調理が進んでいた。混沌とした状況である。

 ころんころんと調理手袋をした手でロール状に巻かれ、形を整えた状態でレンジに入れられるころも。
「(あ、熱いのだわ!熱いけど平気だけど焼き上がるのだわ!?あつっあつつ、だれかきっ気づいてなのだわー!?)」
 ぷしゅうぅと音が鳴って完成し、取り出す。
「あれっ、黄色い?確かブッシュドノエルって茶色かったような……ころもさん、どこ行きました?」
 アレシアもころもがどこに行ったか気づいていない。
「(……うう……)」
 こんがり焼けた、香箱ロール状に巻かれ体の内の隅々に生クリームがぎっしり詰まったころも。
 その表情は愛らしくも涙目であり、どこかぴくぴくと小刻みに身を震わせている。
「そうですね。茶色くしないといけないので、さっきの生地とチョコクリームを塗りましょう!と、シエナは仕上げにかかります。」
「(ふえぇ!工程が違うのに!体がぺたぺたされるのだわ!くすぐったいのだわ。マッサージされてるみたいだけど食べられるクリームを塗りたくられるのは正気の沙汰じゃないのだわ!でもお砂糖の私の身体で何かそれっぽくなってきたのだわー!?)」

 ペタペタと、ころもの表面がまず生地で塗りたくられ、次にまろやかなチョコクリームで塗りたくられる。
「…………」
 茶色く美味しそうな、ころもブッシュドノエル(チョコ味)が完成した。
 砂糖で出来た魔女衣装も丸太の形に圧縮され、隙間にやや香ばしいクリームがはみ出ている。
 上には苺や砂糖が雪の様に降りかけられ、愛らしくデコレーションされている。
 おいしそうな雪の丸太のケーキの様。
 最初のケーキ種にはココアパウダーが入れられていたので、ココアの風味もころもの中から漂ってくる。


「これで完成ですが、先程までいたころもさんはどこに……トイレでしょうか……あっ」
 アレシアはレシピ本を読み直した。
 生地を入れるタイミングなどが間違っていた事に気づく。
「種と生地を一緒に混ぜた上で鉄板に……鉄板じゃないですし、まな板の上で……シエナさん、種と何を混ぜました?」
「ちゃんとさっき伸ばした生地と……あっ、とシエナは、一緒にころもを混ぜていたことに気づきます。」
「ころもさんを……混ぜた……!?」
「よくある事だよ!ドンマイ!とシエナは次のブッシュドノエルを作る事を提案します」
「ええっ……いいのかな……大丈夫ですか……?」
 アレシアがフォークでころもドノエルをつつく。
 ほんの少し、ぴく、ぴく、とブッシュドノエルが動いている。
「本当にころもさんがケーキになったんだ。というか生きてるんだ。」
 アレシアはこの惨状に戦慄した。
 しかし目の前の、魔女の砂糖菓子を材料にしたブッシュドノエルが、とても美味しそうに見えて仕方がないのであった。


「それじゃあとりあえずこのころもさんはパーティに。皆で食べるかは始まった時にでも……あれ?」
 テーブルの上には沢山の、先程まで別枠で調理をしていたプチころも達。
「そういえば忘れていました。」
「せっかくだから砂糖菓子としてブッシュドノエルの上に乗せます?とシエナは提案を――」
 一斉にプチころも達は飛び掛かり。
 二人の頭の上にぺたん、と乗る。
「え?」
「何でしょう?とシエナは」
 その瞬間、魔法の砂糖がプチころも達の手から一斉にぶわっと放たれた。
 シエナとアレシアはぐにょぐにょに身体が柔らかくなっていき。二人纏めてまな板の上に乗せられた。

「おわあ!?とシエナは驚き……むぐもご」
「な、なんで……へぶ、ふぎゅ」
 『プチころも』はころものユーベルコードであり、ころもの自立した分体達である。
 が、彼女らはそれぞれ悪戯好きで、魔法の力で周りの全員をお菓子に変える悪戯に命をかけている(※使用者であるころもも対象とする)。
 制御しているころもがブッシュドノエルとなって動かなくなった今、彼女らを止める事はできない。
 シエナとは別の方面で大変危険なプチころも達は、次なる獲物兼材料、すなわちアレシアとシエナにお菓子化の牙を剥いたのだ……!

 シエナにはフルーツやナッツがねじりこめられて捏ねられ、「Triple fold三重の後屈」と呼ばれる、エビ反り状態から股に頭を通す軟体ポーズを取らされ、こんがり焼かれた上に粉を振るわれた。

 アレシアはどういう原理なのか、生地の様に体がぐにゃぐにゃの半液状となり。
「ふぎゅっ!」
 四角いクッキー型を押し付けられてブロックの様に四角くなった後、体の中に様々なスライスされた果物が差し込まれ、加工され。
 その後二人揃ってオーブンの中に運ばれていき、熱され、その後冷蔵庫に入れられ、冷やされていく。


「ふぇあー!ふぇあー!メリークリスマスなのー!」
 クリスマスパーティ会場 
 人形館での約束の時間ディナータイムとなり、妖精ポーラリア・ベル(冬告精・f06947)がヒイラギで彩られたクリスマスの鐘を鳴らす。
「しえなんと、ころもんと、あとあんまり知らないけど白かったり金髪だったりする人……アレシアだっけ?が、腕によりをかけて作ってるって聞いたわ!特にお砂糖菓子魔女さんのころもん、料理得意だって言ってたし!」

「「「「料理なのだわ!料理なのだわ!」」」」
 料理人の恰好をしたプチころも達がせっせと料理を運んでくる。
 人形館の猟兵達が集まる中で、豪華なテーブルの上に豪華な料理が色々と乗せられる。
 その中には。
 チョコとココアの香りが漂う、丸められてクリームのはみ出る豪華な等身大ブッシュドノエルと化したころも。
 奇形に丸められた上で程良く粉を振りかけられた、真っ白なシュトーレンと化したシエナ。
 四角くふんわりとした金粉入りの真っ白ケーキ生地に、色とりどりのフルーツを挟まれ、上に小さくつまようじを突き刺されたピンチョスケーキと化したアレシア。
「ほわぁ!美味しそう!皆のキャラを象ったクリスマスキャラ料理なのね!」

 ポーラを含む人形館の猟兵達は、これらが彼女らが調理された成れの果てだとは微塵にも思う事が無く。
「なのだわ!」「なのだわ!」「たっぷり召し上がるのだわ!」
 ある者はつんつん突いて、ある者は表面のクリームをそり落として、彼女らを食べにかかるのであった。
「それじゃあみんなで、頂きますだよ!メリークリスマース!」

 雪の降る冬の12月、クリスマスイブ。
 彼女らの料理はこの後猟兵達に食べられることになるのだろう。

 そんな皆様の様子を嬉し気に見ながら、プチころも達は再び材料や調理器具を手にしている。
 プチころも達はクリスマスパーティ会場の猟兵達をも、また美味しそうな材料に見えていた。

 この後どんな惨劇が起きたかは、皆様のご想像にお任せしたい。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年03月05日


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