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人がカードになった末路

#アスリートアース #ノベル

アトラ・アトル





「(っく……あ……)」
 ここはアスリートアース。
 トラップを受けると人がカードになる、不思議な古代デュエルバトル遺跡。
 アトラ・アトル(ゲームプレイヤーの重戦士(ヘビーウェイト)・f42511)はトラップに引っかかり、無惨にもカードと化してしまった。
「(くやしい……アタシ……どうなって……)」
 このトラップでカードになった者は安全面か都合の為なのか、どういう訳か24時間が経過すると遺跡の外に転移され、カードから解放されて元の肉体に戻る、筈であった。
「(なんで……もどらない……)」

「(…………)」
 三日が経過した。
 アトラのカードは一向にカードから元に戻る気配がない。
 デュエルバトル遺跡の仕様に何か不具合が出たのだろうか。
 このままでは彼女は一生カードのままとなる。その様な気配と不安がカードの中からにじみ出てくる様であった。

――――――――――――――――――――

「ん?なんだこれ」
 そこに一人の人間が立ち寄った。
 そのクシャクシャの紙を拾い、広げる。
「(だ、誰……?人間……ダークリーガー……?)」
 そこには両手を画面手前に押し込んだようなポーズをした、無様な表情をして潰された姿の金髪少女のイラストが。背中にはかろうじて槍が見える。
「え、ぶっさ。何だこのカード。雑誌の付録の奴か?でもキラだし、ワンチャン売れるか……?」
「(な、なんですって!今の言葉取り消しなさいよ!)」
 だがカードと化しているアトラは言葉を返す事も抵抗する事も出来ず、そのまま拾われた人間のポケットの中に無造作に突っ込まれたのだった。
「(ちょっ、ちょっともうちょっと丁重に……!)」

●カードデュエル専門カードショップ
「あ?一度丸められてグシャグシャじゃねぇか。こんな値段にしかなんねえよ。」
 格安の値段を突きつけられるデュエリスト。
「ちっ……まあ売れるならいいや。効果見た所あんまり使えねぇしな。」
「(なっ)」

 こうしてアトラは傷物の訳あり品として、200円でカードショップに引き取られた。
「(ま、まて、押し広げるな!アタシは200円なんかじゃない!)」

 どことも知れぬカードショップのショーケースの中で、ただのイラストとして展示され続けている毎日。
 行き交う人々の色物を見る様な視線が刺さり続けながらも。
「(嫌……カードとして使われる人生なんて……早く元に……どうやったら元に……)」
 出ない涙を欲しながら心で泣き続けるアトラは、誰かに買い取られる運命を待つのであった。

 キラカードで輝く槍使いの少女のカード、効果持ちで即時召喚可、その中では破格の攻撃力を持つが。
 店頭のショーケースに並べられたそのカードの効果を見た者達は大体見なかった事にして立ち退いてしまう。


「お、変なカードじゃん、一回ネタデッキとして使ってみるか。」
 数日が経過した頃、そのような声がして、彼女はデュエリストに引き取られた。

「(あ、熱い!熱っ、い……や、やめて!あっ、あああ!)」
「おーよしよし。グシャグシャのゴミ状態で出すのも不憫だからな。」
 全身にしわ伸ばしのスチームアイロンをかけられ、新品に近い状態まで戻されていく。
 どういう訳かカードになっても五感が通じるようであった。

――――――――――――――――――――

「モンスターカード『槍使いのアトラ』召喚!」
 更に数日後、デッキに入れられたアトラが、名も知らぬデュエリストによって召喚された。
「よし、アトラ・アトル、敵を倒す為に戦う!」
 アトラは完全にカード内のモンスターと化し、攻撃する事だけが使命の様になっていた。
「更に魔法カード『時飛ばし』でこのカードのチャージを飛ばし」
 デュエリストがデメリットをかき消すようなカードを使う。
「罠カード発動!『吊り上げ』!お前は魔法カードを使う際に手札を捨てなければならない!」
 相手デュエリストからもカウンターが来る。
「ちっ……だが……!」
 カードによる応酬が続くも、徐々に自デュエリストの手札が尽きていく。
「くそっ……やっぱ1ターン止めて攻撃するのはやり辛ぇ!」
「なっ、ちょ、ちょっと待ちなさ」
「今だ!速攻モンスターを召喚してアトラ・アトルを攻撃!」
「きゃあああぁ!」

 結局このデュエルでデュエリストは敗北した。

――――――――――――――――――――

 その後のデュエルで使われ続けるも、ことごとく敵のカードにやられてしまうアトラ。
「あーダメだ」
 ベッドの上で転がりながら、その潰れた饅頭の様なアトラのカードを見て舌打ちするデュエリスト。
「こいつ使うなら別のカード運用する方が楽だし。売ろ」
「(よくも……自分が使いこなせないからって!ふざけるな!)」
 その中で文句と悲鳴をぶつけるも、カード内の存在故にアトラの声が通じる事は無かった。

 その後もアトラは転々とカードショップにたらい回しにされていく。
 アトラはデュエリストに買われ、デッキを組まれるまではいいが、いざ使った時の絶望感に使用を諦められ、また売られていく。
「(なんで……何で誰もアタシを上手く使ってくれない!)」

 何回目かの購入された際、デュエリストがカードとにらめっこしながらパソコンを操作している所を、カード越しに見る。
 それはカードデュエルのカード一覧が載っているwikiであった。
 彼はアトラ・アトルのカード情報を入力しているのだ。

『ハズレ枠。キラ限定で販売されているが、その能力はコモン・バニラの類。攻撃力は高いがそれに合うシナジーが見いだせない。わざわざこのカードを使う必要もないだろう。』
「(な、なん……で……取り消しなさい!取り消せ、くそっ!)」
 カードの中から怒号が念じられる。
 もし今声が聞こえたとしても、説得力はないだろう。
 無様に槍ごと潰れたままの不細工な表情の、一見ネタともギャグとも言いかねないそのイラストでは。

 wikiページが更新された後、コメント欄に次々と匿名者からのメッセージが描き込まれる。
「使いにく過ぎる」
「攻撃力は高いけどわざわざ採用するほど強くない」
「コイツのせいで敗けた」
「イラストはエロいw」
「↑間抜け面すぎてちょっと……」

 好き勝手に散々な評価をされていくアトラ。
 そんな評判もあって彼女は次の日、やはりカードショップに売り飛ばされた。

――――――――――――――――――――

 カードデュエルショップの棚一覧。キラカードに並んで貼り付けられているアトラ・アトル。
 今では2円で販売されている。

 隣にあるゴミカードでさえ100円の値段が付いている。
 だが彼女は他で見た事の無い、世界で一枚のカードであるというプレミアから販売をされ続けていた。
 そんな彼女は、最初よりもボロボロである。購入した誰かの扱いが相当酷かったのだろう。


 何日経っただろう。
 カードショップの夜、閉店時間の出来事。
「おーい、そろそろ新段のカードも入荷されるし、ここらで一度販売物整理すっぞ」
 店員達に声をかける店長の声が聞こえる。

 店員の一人が、アトラのカードを手にした。
「いやこの性能じゃ2円でも買い手つかんし。もういいか」
「(えっ)」
 絶望の感情がカードの中を埋め尽くす。
 ぐらり、ぐらり、視界が揺れる。
 店員がアトラのカードを手に、ゴミ箱に向かっている。
「(やだ……捨てないで……捨てないで……!)」
「それに最初から無理矢理シワ伸ばされたグシャカードだったしな。ゴミで充分だろこんなの」
 悲劇の声が伝わる。
 それを無視した店員の手が再びアトラをグシャグシャに潰して丸める。
 悲劇の結末が迫る。
 だが身も心もカードと化したアトラはもう涙を流す事さえできない。
「(アタシはまだ……戦える……)」
 そんな声が聞こえた時、彼女の視界はぐらりと揺れ。


 朝の鳥が鳴く声。
 車両の迫る音。
 視界には同じように捨てられた一面のグシャグシャのゴミ。
 人間であった彼女は、周りのゴミと同様の扱いとなって、今、清掃業者が袋を掴んで持ち上げた。

 最早声を、カードの中から上げる事すらできない。
 運送される間によぎり続ける絶望の未来。

 清掃車の処理裁断機による破砕と裁断。
 自身がバラバラになった上で原型を留めなくなる状態。
 ベルトコンベアに運送され、迫って来る焼却炉。
 その後自身が燃え、何者でもないただの塵に還されていく、そのような未来が。


 アトラの生涯はこれから幕を終える事となるだろう。
 このカードが元人間であるなど、不思議な力によってカードに変えられた者の末路であるなど、この世の誰にも気づかれる事無く……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年03月03日


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