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慌てて落っこちたハンプティ

#アリスラビリンス #グリモアエフェクト #戦後


 塀に座った、落っこちた。そうして──元に戻せなかった。

「イースター・パーティへようこそ!」
 バロン・ドロッセルの手元からぽんっと弾けて飛び出す花束。中心には、カラフルな卵イースター・エッグが楽しそうに鎮座している。

「猟兵の皆々サマ、ごきげんよう!パーティのお知らせだよォ」
 胡乱な言葉を携えて、この場に集まった猟兵たちの顔を一巡り。バロンは早速、今回の予知を開示する。

「場所はアリスラビリンス『逃さずの国』!
 この国へ迷い込んだ可哀想なアリスたちに、オウガの残党が迫り寄る!
 はてさて、アリスの運命は?もちろん、皆々サマの手の中だ」
 カツカツ靴底を鳴らしながら、バロンはどこか場違いなほど陽気に言葉を並べる。

 訪れるもの全てを捕らえる『逃さずの国』…イースター真っ盛りの国は、ポカポカ暖かな陽気に包まれて、卵料理のご馳走がぎっしり並ぶ、イースターのパーティ会場。もちろん、あちこちにはカラフルな卵イースター・エッグだって隠れている。

 けれど、楽しそうな国はそれだけでは終われない。カラフルで楽しげな催しに、“参加しない”なんて野暮を許さないのが『逃さずの国』──足を一歩踏み入れれば、皆が一様にパーティを楽しまずにはいられない。
 アリスも猟兵も、そしてアリスへ迫るオウガとて、この国の強いる強烈な欲望に従わなければならない。

「だからね、皆々サマは否応なしにイースターパーティを楽しまなくちゃいけないよ!
 ステキなルールはひとつ。卵を見つけ出すことさ!
 エッグハントに興じながら、アリスを助ける事もあるんだねェ」
 隠された卵を探し見つけることができれば、逃さずの国の欲望に囚われる事なく行動できるだろう。

「ただし、卵を割ってしまわないようにね。
 すぐ近くでアルプトラオムが見てることもあるもんだ…怖ァい苦痛やトラウマが出てきてしまうよ!」
 楽しい楽しいエッグハントも、それは卵を割らぬから。アリスたちに迫るオウガ『アルプトラオム』の撒き散らす災厄は──アリスたちの苦痛や恐怖、絶望は、既に卵の中に潜んでいることだろう。

 卵を割って、孵してしまえば。それらは吹き出して溢れてゆく。アリスは苦痛と恐怖に苛まれ──猟兵たちもまた、自身の恐怖やトラウマを引きずり出されることもあるだろう。

「ゆめゆめ、卵を割るなかれ。アリスたちを救えるように、祈っているよ」
 念を押す言葉を言い添えて、バロンはパチンと指を弾く。光り輝くグリモアが仰々しく扉を開く。

 扉の先に待っているのは、カラフルに色めくイースター・パーティ。
 楽しげなアリスの笑い声をかき消すように、遠く嘶きがこだまする。地を蹴り駆ける蹄の足音は、怯える小さな足音たちに重なって。

 そうして慌てて、落っこちて。
 ──アリスたちの悪夢のはじまり、はじまり…?


後ノ塵
 後ノ塵です。はじめまして、あるいはこんにちは。アリスラビリンスの『逃さずの国』でアリスを救う二章構成のシナリオとなります。

 一章は集団戦です。エッグハントに興じながら戦って、追われるアリスを助けてあげてください。
 卵が割れてしまう記述と、ご自身の恐怖やトラウマに関する記述の双方がございますと、リプレイに反映致します。過剰な色付けは致しません。
 卵が割れてしまう記述のみの場合、アリスが怯えます。励まして恐怖を打ち払ってあげるのも良いかもしれません。
 卵を割りたくない方は割らないように、そして敵にもうっかり割らせないように、立ち回ってください。

 二章は日常です。ウサギ穴を探して、逃さずの国を探索します。この章では卵が割れても何も起きませんのでご安心を。
 エッグハントは終わりましたが、逃がさずの国ではイースターパーティが続いています。イースターにまつわる欲望にも再び囚われるでしょう。
 引き続きエッグハントをするも良し、イースターにまつわる他の遊びを楽しむも良し、イースターのご馳走を食べるも良し…アリスと共にパーティを続けながら、ウサギ穴を探してください。

 皆様のプレイングお待ちしております。奮ってご参加のほど、どうぞよろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『アルプトラオム』

POW   :    劈く嘶き
命中した【悲鳴】の【ような嘶き声に宿る苦痛の記憶や感情】が【対象に伝わり想起させることでトラウマ】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD   :    狂い駆ける
【自身を構成する恐怖の記憶や感情をばら撒く】事で【周囲に恐怖の記憶や感情を伝播させる暴れ馬】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    もがき苦しむ
攻撃が命中した対象に【自身を構成する記憶や感情から成る黒紅の靄】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【かつてのアリス達が抱いた絶望の記憶や感情】による追加攻撃を与え続ける。
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フリル・インレアン
ふええ!?なんで馬さんが鳴く度に私にアヒルさんが突き刺さっているんですか!
これは本物のアヒルさんじゃなくて、私のトラウマですか?
私のアヒルさんに突かれたトラウマ記憶なんですね。
このままですと、トラウマアヒルさんに埋もれてしまいます。
こうなったら、お洗濯の魔法で落としてしまいましょう。
ふえ!?トラウマアヒルさんを扱う時は卵をのように注意をしろって、なんで本物のアヒルさんに怒られなきゃいけないんですか!
それより、アヒルさんはちゃんと卵を見つけたんですか?
卵の扱いのプロだぞって、温めてないでちゃんと運んでください!



 暖かな陽気に包まれて、逃さずの国はイースター・パーティの真っ盛り。卵を探して楽しく過ごして、疲れたらご馳走を摘んでひと休み。楽しく遊んで、夢のよう!
 そんなカラフルな会場を塗り潰すように、その黒馬──アルプトラオムは疾駆する。耳を劈く悲鳴のような嘶きが、想起させるのはアリスの苦痛。そうしてそれは、猟兵にも伝播する。当然エッグハントに興じるフリル・インレアンにも降りかかるものだ。

「ふええ!?なんで馬さんが鳴く度に私にアヒルさんが突き刺さっているんですか!」
 アルプトラオムの嘶きはアヒルさんへと変じ、フリルの体に突き刺さる。突かれるたびに転びかけるフリルに、絶え間なく襲いかかるクチバシの追撃。それはまるでフリルを無理やり踊らせているかのよう。
 追いやられるように外れたステップを踏み散らすフリルのダンスに、加わらないアヒルさんだけが本物のアヒルさん。だから本物アヒルさんはふんぞり返って、自分じゃないよと主張する。

「これは本物のアヒルさんじゃなくて、私のトラウマですか?」
 四方八方から突き刺さる無数のアヒルさんは、フリルのトラウマ。アヒルさんに突かれた過去の記憶が、トラウマとなって襲いかかっているのだ。…あれ?アヒルさんの日頃の行いが原因じゃないか?そんなの、アヒルさんは知らんぷり。

 そうしている間にも、アルプトラオムは嘶いて、フリルにはアヒルさんが突き刺さる。このままでは埋まって埋もれて、フリルはアヒルさんとも言えぬ何かになってしまうだろう。

「こうなったら、お洗濯の魔法で落としてしまいましょう…!」
 フリルはユーベルコード、身嗜みを整えるお洗濯の魔法を発動すると両手をパタパタ、ぽんぽんぽん。頑固な汚れを落とすには、それなりの労力がかかると言うもの。しつこい汚れが如きトラウマアヒルさんをフリルは思い切りはたき落としていく。そこへ待ったをかけてくるのが、本物アヒルさん

「ふえ!?トラウマアヒルさんを扱う時は卵をのように注意をしろって、なんで本物のアヒルさんに怒られなきゃいけないんですか!」
 お洗濯の魔法でトラウマは着実に落ちていけども、アルプトラオムは変わらず嘶きをまき散らす。加減なんてしていたら、フリルがトラウマに埋もれてしまう。

「それより、アヒルさんはちゃんと卵を見つけたんですか?」
 それに卵と言うならば、どんなものよりエッグハントの方が大事だ。この国が強いる欲望によって気持ちがはやるフリル向かって、まぁまぁとアヒルさんが掲げるのは、ひとつのイースター・エッグ。白いレースの縁取りに、黄色の菱形は嘴のよう。アヒルさんはフリルに卵を見せつけてから──そうしてしっかりと抱卵する。

「卵の扱いのプロだぞって、温めてないでちゃんと運んでください!馬さんが走っていきますよー!」
 叫ぶフリルにアヒルさんは余裕のサイン。だって、アヒルさんはただのアヒルではなく、アヒル型ガジェットなのだ──迫る黒馬へ翼を広げラリアット。アルプトラオムは己の走る勢いのまま頑丈な翼に打ち据えられて、崩れ落ちるように消えていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

白霧・希雪
【蒸気飛行船】アドリブ歓迎 連携

エッグハント、ですか。

──楽しみですね。

(内心では少し違和感を感じるものの楽しみはする。)

あ、ゼロさん、卵見つかったんですね。よかったです。

油断したところに、攻撃を受ける
──卵が割れる

トラウマ:過去数百年にわたって、関わるものを呪い殺し奪い続けてきた、制御できなかった頃の自分にかけられた呪いについてのトラウマ。(過剰な色付けも全然OK!)

後悔、懺悔、色々なものが綯い交ぜになった暗い感情が溢れる。
贖罪を─
贖罪を、しないと─
私の罪を、私に罰を─

ゼロさんの声が聞こえる。
こんな私に?
咎人にかける声なんて──

いや…違う。
私を…待ってるんだ。

ごめんね、ゼロさん。
遅くなった。


ゼロ・ブランク
【蒸気飛行船】アドリブ・連携歓迎

エッグハーント♪楽しいイベントだーいすき!
……あっ、卵を探してアリスを助ける、でしょ?ちゃんと目的は分かってるよー!(あせあせ)

でも、とにかくイースターパーティーを楽しまざるを得ないもんね。
希雪ちゃんと一緒にパーティーを楽しみながら卵を探すよっ♪
卵割れちゃうこともあるかも……だけどアタシはだいじょーぶ!
何故ならアタシは過去の記憶喪失だから、トラウマなぞ無いのだー!!(ぐっ)
なので、卵が割れちゃったら、希雪ちゃんやアリス達を支援する立ち回りをするよぉ♪
UC『ビリビリ!イラスト描写術』を使って、カワイイイラストで励ましつつ、アルプトラオムも攻撃!みんな元気出して!



 逃さずの国にはぽかぽか暖かな春の陽気。どこもかしこも彩り溢れ、国中に花弁が舞い踊る。否応なしに楽しみを強いるこの国は、されども本当に楽しそうな気配に満ち溢れている。
 だからこそ、ゼロ・ブランクは逃さずの国の特性など関係なしに、ぴょんと浮かれて兎のように飛び跳ねる。

「エッグハーント♪楽しいイベントだーいすき!」
 心躍る気持ちを声に出せば、気持ちはますます上向きに。そうして跳ねるように前を歩くゼロの背中を、白霧・希雪は微笑ましく見つめる。

「…ふふっ、楽しみですね」
 楽しそうなゼロの姿をみていれば、希雪も思わず微笑みが零れ落ちるもの。

「あっ、卵を探してアリスを助ける、でしょ?ちゃんと目的は分かってるよー!」
 そんな希雪に、ゼロはハッと割れに返ったように立ち止まると振り返ると、慌てて今回の目的を反芻する。
 焦りを滲ませるゼロの姿にも、やっぱりこの国を思う存分楽しみたい気持ちがあるのは隠せていない。希雪の胸にはますます和やかな気持ちが湧き上がり、くすぐるように微笑みが零れ落ちてゆく。
 見透かされた気持ちを誤魔化すように、ゼロはコホンとわざとらしく咳払い。仄かに頬を染めたまま、ぐっと拳を握りしめる。

「でも、とにかくイースターパーティーを楽しまざるを得ないもんね」
「はい。そうですね」
 話している間にも、二人の視線は自然と卵を探し。はてさて、いったいどこから探したものか。
 そうしてぐるりと見渡し歩きだして、最初に見付けたのは卵ではなく、二人のアリスだ。

「卵がないよ」
「卵はないね」
 声を揃えて言いながら、体ごと茂みに突っ込み顔を見合わせる二人のアリス。アリスたちもまた、無邪気にエッグハントを楽しんでいた。
 だがこの国にはアルプトラオムが迫っている。二人きりにしておくのは危険だろう。ゼロと希雪は顔を見合わせる。

「一緒に探したほうが良いよね?」
「はい。そのほうが何かあった時に、守りやすいです」
「よしっ、それじゃ行こっか!おーいっ!」
 さっそく同行を申し出てみれば、二人のアリスは素直に頷き付いてくる。
 ──そうして、二人はアリスたちと楽しいエッグハントに耽っていく。一緒に茂みの中を探して、次は塀の上から見下ろして。ご馳走の並ぶテーブルの下、クロスのトンネルをくぐれば顔を合わせて笑顔になって。

 楽しんで、笑いあって。それは本当に自分の内から湧きあがる楽しさなのか、それとも逃さずの強いる強烈な欲望からなのか。
 歌う花の花壇の土に、コロンと転がるイースターエッグ。一足早く卵を手にした希雪が抱くのは、楽しさの中の一滴の違和感だ。滴った違和感はささやかなれど、希雪の胸にじわりと染み出す。

「みーっけ♪」
 けれど希雪の思考は、嬉しそうにはしゃぐゼロの声で途切れた。振り返り見れば、ゼロとアリスたちはそれぞれ卵を手に持っているようだった。

「あ、卵見つかったんですね。よかったです」
「うん!希雪ちゃんも見付けた?」
「はい。ひとつだけ」
「やったね!アタシも可愛いの見つけたよ!」
 ほら、とゼロが見せるのはカラフルなウサギが並んで描かれたイースターエッグ。希雪も拾ったイースターエッグを見せれば、卵には天使の両翼が描かれていた。互いに卵を見せ合えば、可愛らしい卵に心が躍る。

 嗚呼、けれど──怖い悪夢はやってくる。
 迫る足音は、地面を強く蹴る蹄。歌う花が悲鳴を上げる。どうして気付かなかったのか、アルプトラオムは一行のすぐ側まで迫っていた。

 蹄を鳴らし花を踏み散らし、アルプトラオムはやってくる。どこにもない目でアリスたちを見据えると、脇目も振らずに走り出す。逃さずの国の欲望は、オウガにだってイースターを強いている。
 ──だから、オウガから見ればアリスと卵なんて、大皿に乗ったご馳走だろう。

「危ない…っ!」
 咄嗟に希雪がアリスたちを突き飛ばす。その拍子、手元を離れる卵が視界に入った。あ、と思って手を伸ばせば、嘶く黒馬はすぐ目の前。

「希雪ちゃん!」
 ゼロの目の前で、大きく振られた首が希雪を突き飛ばす。視界の端で、落っこちた卵は呆気なく割れて──そのまま、恐怖トラウマは溢れ出した。


「…真っ白?」
 けれどゼロの目の前には、ただの空っぽの空白が、何にも染まらずポツンとあった。ぐるりと見渡しても何もない。一緒に居たはずの希雪とアリスの姿すら、どこにもなかった。それなのに、耳をすませば空っぽの世界の奥で、知らないアリスがシクシク泣いてる声がする。

「そっか、アタシは記憶喪失だから」
 ゼロは僅かに視線を落とす。記憶がないからゼロを襲うトラウマは真っ白で、アルプトラオムが振りまくアリスたちのトラウマへの、共感だって遠いのだろう。
 それならそれで、大丈夫。ゼロはニッと歯を見せ笑って前を見る。

「つまりアタシに…トラウマなんか無いのだー!」
 真っ白のキャンバスは、どんな色にだって染められる。ゼロの世界は空白ここから始まる──。
 白いだけの世界が弾けて割れた。

 ゼロの目前で、アルプトラオムがアリスに迫る。卵から溢れ出したトラウマに苛まれるアリスに抵抗の手段はない。ゼロはスプレー缶をカシャンとひと振りすると噴射する。

「ビリビリシビれるアート、描いちゃうよぉ♪」
 描くアートは攻撃的な雷のシンボル。ビリビリ黒い稲妻がキラめいて、空を轟かせるとアルプトラオムを鋭く打ち貫く。
 雷を食らい続けた黒馬はいよいよ崩れ落ちるも、新たな蹄の音があちこちから聞こえてくる。動けぬアリスたちを守りながら、一人で応戦するのは荷が勝つだろう。…だが、ゼロは己が独りではないと知っている。

 ゼロはスプレー缶をもう一振り。今度のアートはカラフルでカワイイ兎たち。兎はぴょんと跳ねると、倒れた希雪にまとわる黒紅の靄トラウマに上書きするように張り付いてゆく。
 そうしてゼロは大きく息を吸い込み、ありったけの気持ちを込める。

「希雪ちゃーん!」


 …アリスたちの恐怖、絶望が、呼び水となって希雪のトラウマの蓋を開ける。

 ──お前のせいだ。
 ドロリとした赤黒い影が、希雪を指差す。ひとつ、ふたつ、みっつ…数え切れない影の指先が、希雪を突き刺し糾弾する。

 ──お前が呪った。お前が殺した。お前が奪った。
 突き付けられた言葉が幾重にも反響する。ああ、それは希雪の罪だ。かけられた呪いのままに、希雪は関わるものを呪い殺し奪い続けた。呪いは全てを奪っていって、希雪には何も残らなかった。

 それでも、呪いは止まらずに、何もかもを奪っていった。
 後悔した。関わったことを。懺悔した。殺したことを。憎悪した。呪われたことを。恐怖した。奪っても奪っても奪い尽くすことを。
 全てが綯い交ぜになった暗い感情が溢れ出し、ドロリとした赤黒い影が希雪の手足を埋め尽くす。

「──贖罪を」
 贖罪を求める声がする。それは希雪の声だった。希雪は咎人なのだから。贖罪をしなければならない。罪には罰を、償いを。罰されなければならない、罪を贖わなければならない。全てを奪った咎人は、全てを失った希雪は、何もかもを償わなければ。

 ──!
 希雪の耳に聞こえるのは、希雪の罪を責める声。希雪の罪を咎める声。咎人に罰を、償いを望む声。

「──本当に、それだけ?」
 希雪はハッと顔を上げる。赤黒い影が希雪の全てを埋め尽くしかけていた。覆い尽くされた手足は重く泥のようだった。けれど、希雪の耳には聞き慣れた声が聞こえてくる。

 ──!
 その声は暖かくて、まるで春の日差しのよう。希雪を覆う影が少しだけ溶け出した。けれど影は、再びドロリと盛り上がり希雪を埋めてゆく。

「こんな私に、咎人にかける声なんて──」
「──本当に、そう思う?」
 希雪の言葉に、誰とも知らぬ声が重なる。希雪は歯を食いしばった。暖かな声を知っている。優しい声を知っている。そしてそれは、希雪を責める声なんかじゃない。

「…違う。私を…待ってるんだ。」
 ゼロが呼ぶ声がする。希雪は影を引き千切り、手を伸ばす。春の日差しのように暖かな、友の声へ。


「希雪ちゃん!」
 ゼロの声を呼び水に、希雪はトラウマを振り払う。アルプトラオムはゼロのすぐ目の前に迫っていた。希雪は素早く近づくと、大薙刀を振りかぶると黒馬の鼻面へ振り払った。

「ごめんね、ゼロさん。…遅くなった」
「大丈夫!それじゃ、そっちはお任せだよぉ♪」
 ゼロは再びスプレー缶を一振り。カワイイ兎アートは恐怖にもがくアリスに寄り添い、トラウマを上書きするように癒やしてゆく。
 二人のアリスをゼロに任せると希雪は大薙刀を翻し、アルプトラオムの群れと対峙する。

 ──後悔も懺悔も、すべて希雪の中にある。それでも希雪が選ぶのは、闇に埋もれぬ光の道。

「私に流れる天の覇者たちの血を。私に宿る天の覇者の呪いを」
 与奪の呪を解き放てば、血色の円輪が瞬いた。希雪の頭部にズルリと角が伸び、大きな尾が這い出して、黒き翼が重なった。天使とドラゴンを掻き混ぜ変じた姿に成りて、希雪は飛翔する。

「これが、私の...最速......!!」
 劈く嘶きを掻い潜り、希雪は群れの中を飛び荒ぶ。避け切れぬ苦痛の悲鳴はトラウマとなって突き刺さるも、希雪が再び屈することはない。
 円鱗から放たれる与奪の呪に、アルプトラオムの群れは次々と崩れ落ち──そうして、靄のように掻き消えていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

月隠・望月
アリスたちを助けるのは、猟兵として当然の行い。
いーすたーというのは馴染みのない祭事だが、細かな決まりはわからずとも『卵を見つけること』はできるだろう。

えっぐはんととは、絵が描いてある卵を見つける遊びのことらしい。であれば、【呪符壁展開】で自分の周囲に探知結界を張って探し出すのが効率的か(【結界術】)。遊びとしては反則気味かもしれないが、まあ遊びというのは全力で取り組むものだ。たぶん。

卵を見つけたら結界で包んで割れないよう保護しよう。
オウガを見つけたら結界で囲んで動きを封じ、【浄化】して倒したい。
アリスたちはこの世界でおそろしい思いをしたことだろう。今この時だけでも、その恐怖はわたしが封じよう。



 暖かな陽気と鮮やかな彩りに誘われ、逃さずの国へと訪れる猟兵がまたひとり。
 アリスたちを助けるのは、猟兵として当然の行いである──ならば、月隠・望月は逃がさずの国に飛び込むことを躊躇うことはない。
 たとえ、この国逃がさずので行われている祭事パーティに、一切の馴染みがなくとも、だ。

「いーすたーに、えっぐはんと…」
 春爛漫の逃さずの国を見渡しながら、望月は小さく口ずさむ。それはどちらも望月には馴染みのない催事、口に出してみれどもやはり耳に馴染まぬ響きはどこか辿々しい。

 変わらぬ表情のまま、望月は小さく息を吐く。細かな決まりはわからずとも、エッグハントは絵の描かれた卵を探すだけのシンプルな遊びだ。『卵を見つけること』ならば、耳に馴染まぬままでもやれようもの。

「であれば、探知結界を張って探し出すのが効率的か」
 えっぐはんとは遊びなれど、遊びとは常に全力で挑むもの──反則気味にも思える探索だとて、きっと大目に見てもらえるだろう。思惑を胸に、望月がざらりと取り出すのは呪符の束。一斉に空へ投げ放つと、呪符は不可視の結界を創り出す。

 そうして探知結界によって明かされた卵の在り処は…存外近く。木々が揺れる小さな林道を進み見上げれば、空っぽの巣に夜色の卵。
 音もなく木へ登り、望月は難なく卵を入手する。卵に描かれているのは濃紺に浮かぶ満月と兎。僅かな吐息を溢し、望月の指先が殻へ触れて結界を紡ぐ。軽く弾けばキンと澄んだ音が響く。これで割れることもないだろう。

 卵を確保すれば、望月が次に目を向けるのはオウガとアリスの居所だ。探知範囲を瞼を閉じて広げれば、望月の眉がぴくりと動く。

「……!」
 瞬きの間につむじ風を残し、忍びは音もなく姿を消した。


 黒檀の髪を振り乱し──息を切らしてアリスは走る。

「逃げなきゃ…っ」
 背後に迫るは狂って駆けるオウガの蹄。振り返る度、アリスの足はもつれてしまいそう。そうして躓き転んでしまえば、恐ろしい事になるだろう。そんなことは分かり切っている、ああ、けれど。

「でも…卵を探さなくっちゃ…!」
 逃さずの国の欲望に取り憑かれ、アリスはふいに立ち止まる。恐ろしいものが追ってくる。でもだって、そこの鳥箱に何かありそうなんだもの。
 白い指先が鳥箱の蓋を開けば、思った通り。真っ赤な卵がコロンと一つ。浮かれた気持ちでアリスは振り返る。ああ、けれど、後ろには?

「ひ…っ」
 悪夢の馬がアリスを見下ろして、アリスは喉を引きつらせる。頭の模様が大きく割れて、染みだすように零れ落ちるのは、アリスたちの恐怖と痛苦。強張る体は崩れ落ちて、アリスは固く目を瞑る。ああ、食べられる──。

 アリスの耳元で、キンと澄んだ音がした。恐る恐る瞼を上げれば、アリスの瞳に浮かぶのは夜の色。


「守り通す。必ず」
 望月は短く言葉を放つと、アルプトラオムの首へ無銘刀を振り下ろす。不意をつかれたオウガは浄化の一撃によりあっさりと倒れるも、アリスに迫る恐怖は一頭だけでは終わらない。

 狂った蹄を響かせ勢い良く近付いてくるのは、無作為に恐怖をばら撒く暴れ馬。望月は再び呪符を取り出すと、鋭く息を吐きながら空へ放つ。一帯を囲うのは封じの結界だ。

「今この時だけでも、その恐怖はわたしが封じよう」
 恐怖を伝播させる暴れ馬は結界に体を強かにぶつけていくも、強固な呪符壁を打ち破るには程遠い。望月は結界へ飛び込み、浄化の一太刀を次々に浴びせかける。

 暴れる馬の動きは不規則で、爆発的に増加したスピードと反応速度は脅威そのもの。だがその力は命を削り、結界はアルプトラオムの存在を浄化していく。

 その見に抱く恐怖の記憶も感情も、解けて朽ちて消えてゆく──。
 望月の刃を待たずして、最後のアルプトラオムの膝がガクリと崩れ落ちる。刀を鞘に納める澄んだ音と共に、悪夢は霞のように消えていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シトー・フニョミョール(サポート)
・性格
礼儀正しくしつつもふざけられるところはトコトンふざけます。
御主人様をマスターと呼んでは心酔し、過剰ではない範囲で忠誠を誓ってます。
人を固めたり物質に変えたりしたいという願望はありますが、可能な限り抑えます。(でも可愛いかったり、美しかったりする対象を見たら固めて持ち帰りたいって部分は強い)
口癖として「ふっふっふ」ならぬ「ぬっぬっぬ」と言ったり、語尾に「~ぬ」とつけたりすることが偶にあります。(なくても良い)

・戦闘
『マスター譲りのユーベルコード』を使って公序良俗に反しない感じで戦います。
スキルの活用についてもおまかせします。
全部おまかせじゃないですか! だがそれがいい。


冷泉院・卯月(サポート)
勿論お仕事は大事ですけどぉ、折角なら珍しい物や新しい物も見つけたいですよねぇ~。
あ、ご一緒される方がいらっしゃればぁ、一緒に頑張りましょうねぇ~。

あまり戦闘は得意ではないですけどぉ、ぶちくんとたれちゃんの力も借りてぇ、頑張っちゃいますよぉ~。
遠距離なら二人に短杖になってもらって魔法弾を撃ったりぃ、
接近戦なら二人で力を合わせて杵になってもらって頑張っちゃいますぅ~。
パラドクスは状況に応じて臨機応変に使いましょうかぁ~。

戦闘以外なら運転なんかも得意なのでぇ、何処へでもお届けしちゃいますよぉ~。
道中も楽しいことが見つかるといいですよねぇ~。



「勿論お仕事は大事ですけどぉ、楽しまなきゃなんですよねぇ〜?」
 愛兎ぶちくんたれちゃんを両腕に抱えながら、冷泉院・卯月は春の陽気のようにのんびりと首を傾げる。

「ぬーん…とにかく卵を探せばいいんですよね?」
 シトー・フニョミョールは呟きながら、さっそく周囲を見渡してみるが、わかりやすく卵が転がっている事はないようだ。シトーは腰に両手を当てて、逃さずの国のイースターにひとつ頷く。

「では、なんとかやってみましょう」
「頑張りましょうねぇ~」
 一行のエッグハントの始まりだ。卯月はぶちくんとたれちゃんを地面に下ろして、二人と二匹は手分けして探索する。

 そうして辿り着いたのは、高い垣根が周囲をぐるりと囲む庭園だ。
 四角く整えられたそれはまるで迷路のよう。入り口を見つければ、一行はさっそく進みゆく。
 迷路は広く、右へ左と進めば分かれ道に行き止まり。片手を頼りにようやく抜ければ、ゴールにはご褒美のようにイースター・エッグがころんと佇む。

「ありましたね。あら可愛い」
「素敵なイースターエッグですねぇ〜」
 寄り添う闇夜の卵に、仲良し三匹兎の卵。一行は卵を拾って和気あいあい。けれどこの国のイースターは、楽しいばかりではないものだ。

 勢い良く枝を折る音を引き連れて、今度はアリス達の悪夢が躍り出る。垣根の壁を突き抜けると、アルプトラオムは前足を振り下ろす。二人は飛び退き回避すると、シトーは素早くスカートを翻す。

「甘いですよ。ぬっぬっぬっ」
 不思議な笑みを溢すシトーのスカートから、こぼれ落ちるのは手榴弾。炸裂をもろに食らって黒馬は吹っ飛ぶも、間髪入れずに二頭目があらわれる。

「え〜いっ」
 ぶちくんたれちゃんがぴょんと一飛び、短杖に変身すれば、今度は卯月が遠距離からの魔法弾で先制攻撃を浴びせてゆく。されど次から次へと、悪夢は潰えず続くもの。

「マスターの力をお借りしましょうか」
 更なるアルプトラオムの蹄の音に、シトーはスカートをパッとはらった。ならばこちらも何とかするまで。愛しの御主人様マスターからの賜りもの、マスター譲りのユーベルコードを発動すると、シトーの手に収ったのは瞬間固化物×3トリニティ・ペトリファイ

「ってこれは私のユーベルコードじゃないですか!ぬー」
 投げ付けていけば、アルプトラオムは次々に力を失ってゆく。狂った蹄をいくら打ち鳴らせども、その身を構成する恐怖はもう撒き散らせない。

「ぶちくんとたれちゃんと一緒に、頑張っちゃいますぅ~」
 短杖が兎のようにぴょんと一飛び今度は力を合わせて杵に変身すると、卯月もユーベルコードを解放する。
 杵を掲げて空へ浮かべるのは偽物の満月。狂月化した獣の手足で杵を握り直すと、そのまま大きく振りかぶる。

「え〜いっ」
 のんびりとした掛け声には似合わぬ重量の連続攻撃で、卯月は次々にアルプトラオムを倒していった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 日常 『不思議の森の探険隊』

POW   :    ずんずんと

SPD   :    そそくさと

WIZ   :    ゆっくりと

👑5
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 ──悪夢の去った逃さずの国に、心地の良い風が吹き抜けてゆく。

 僅かに滞った淀みさえ吹き飛ばす春風は、軽やかに花弁を運ぶもの。イースターを彩る景色にもはや脅威はあらず、アリスたちはほっと胸を撫で下ろす。
 けれども、ここは逃さずの国。浮かび上がる気持ちは春のよう。

 イースターを楽しまなくっちゃ!
 逃さずの国の欲望は、アリスたちも、そして猟兵だって逃さない。
 少し疲れたならご馳走を食べてみる?ローストラムにキッシュもあれば、甘いエッグタルトも絶品だろう。
 それとも長い長いテーブルの上でエッグロール?鮮やかな花壇の隣をエッグレースしたって、とりわけ愉快だろう。
 はたまた、新しい卵を探してエッグハントは?楽しいことは、何度だって楽しいもの!

 ああでも、ひとつだけご注意を。楽しく過ごして夢中になって、ウサギの穴を探すのを、うっかり忘れてしまわぬように。迷子のアリスを導くことを忘れぬように。
 アリスたちの悪夢は終れども──アリスたちの旅はまだまだ、これからも続くのだから。
フリル・インレアン
ふえ?私、何かを忘れているような?
アヒルさんはまだ卵を温めていて、一応イースターを楽しんでいますし、
私も卵を探してはご馳走に手を付けているので、この国のルールは守れている筈です。
ふえ?アリスさん達が次の国へと行くウサギ穴ですか?
それもまだ見つかっていませんが探している最中です。
ふえ?私の――ですか?
それは大丈夫な筈ですよ。
お仕事が終わったら、グリモアベースに帰れる筈ですよ。
ふえ?アヒルさん何ですか?
首を振って、まだ私に何かあるんですか?
ふえ?せっかくアリスラビリンスに来ているのに私の扉を探さないのかですか?
……そ、そういえばそうでした。
最近すっかり忘れてましたが、私もアリスでした!!



 イースターの賑わいの中、フリル・インレアンは心置きなくキッシュのひと切れをぱくり。サクサクほろほろ、解ける食感を満面の笑みで楽しみながら、舌鼓を打つフリルのもとに、ぴゅうっと大きく風が吹き込む。
 フリルは慌ててキッシュを口いっぱいに詰め込んで、吹き飛びかけた帽子を押さえる。もぐもぐ、ゴクン。そうしていたずらな春風を振り返ると、あれ、とひとつこぼれ落ちるのは疑問符だ。

「ふえ?私、何かを忘れているような?」
 首を傾げて、周囲をぐるり。アヒルさんはまだ卵を温めているが、それがアヒルさんなりにイースターを楽しんでいる姿なのは、間違いなく。
 そしてフリルは、中断していたエッグハントの続き。卵を探しながらもこうして、通りすがりのご馳走に手を伸ばしている。だから、この国にはちゃぁんと従っていて、なんにも問題ないはずだ。
 けれどアヒルさんは卵を温めながら、呆れたように問いかける。

「ふえ?アリスさん達が次の国へと行くウサギ穴ですか?」
 それもまだまだ見つからないが、こうしてイースターを楽しみながら探している最中だ。色めくご馳走と、卵の潜んでそうなそこかしこにいくら目を惹いても、フリルだって猟兵。ウサギの穴探しはしっかりと心得ている。
 けれどアヒルさんは、イヤイヤそっちじゃないでしょう、と首を振る。

「ふえ?私の――ですか?」
 アヒルさんの言葉にフリルはやっぱり首を傾げる。だって、それこそ大丈夫。オウガはさっぱり倒したのだから、あとはアリスをウサギ穴へ見送って、そうしてお仕事が終わったら、フリルとアヒルさんはグリモアベースに帰れるのだから。

「ふえ?アヒルさん何ですか?首を振って、まだ私に何かあるんですか?」
 けれど、アヒルさんはやっぱり首を振る。呆れたようにため息をついて、フリルに片翼をズビシと突きつける。

「ふえ?せっかくアリスラビリンスに来ているのに私の扉を探さないのか、ですか?」
 そうそうと頷くアヒルさん。フリルはしばし瞬きを繰り返し、あっと大きな声を上げる。

「……そ、そういえばそうでした。最近すっかり忘れてましたが、私もアリスでした!!」
 忘れていたら仕方がない、とは言ってくれないのがアヒルさん。鋭いツッコミが如き嘴が飛んできて、フリルはそのまますっ転び、茂みにズボッと収まった。

「ふええ!ひどいですアヒルさん。…あれ?」
 頭を突っ込んだままジタバタ不満を訴えるフリルの、目の前にコロンと転がるイースター・エッグ。カラフルな卵は疎らに色が抜けていて、白い部分が鍵のような形を作り描いていた。

 フリルは卵を拾って茂みから這い出すと、瞼を閉じてゆっくり深呼吸。アリスが自分の世界の扉へ辿り着けているならば、扉の方角はわかるものだ。

「……この国に私の扉はないみたいです、アヒルさん」
 ちょっぴり残念そうにフリルが微笑んで振り向けば、アヒルさんもようやく仕方がないねと肩をすくめる。今日のところはアリスの旅を見送って、グリモアベースへ帰るだけだ。

 いたずらな春風が、再びぴゅうっと大きく吹き込む。今度は帽子が吹き飛ばされて、フリルは慌てて追いかける。
 コロコロぱたぱた、ようやく帽子を捕まえれば、そこにはぽっかり開いたウサギの穴。

「あっ!ウサギの穴がありましたよ、アヒルさん」
 あとはアリスを導くだけ。フリルが帽子をしっかり被りなおして振り返れば、アヒルさんはいつの間にかアリスのことも見つけていたようだった。
 アヒルさんに連れられたアリスは、大きな瞳をパチパチさせるも、自分の向かうべき旅はわかるもの。フリルとアヒルさんに見送られて、アリスはウサギの穴へと飛び込んでゆく。アリスの旅はこれからも続くだろう。

 ──大きな帽子の物語も、まだ続いてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゼロ・ブランク
【蒸気飛行船】

よーっし、引き続き希雪ちゃんとイースターパーティーを楽しんじゃうぞっ♪
……あっ!『迷子のアリスたちをウサギ穴へ導く』でしょ?まーたアタシが目的忘れたって思ったでしょー!?(あせあせ)

この広い『逃さずの国』のウサギ穴を見つけるためには、人手がやっぱり必要だよねっ!
だから、さっき助けたアリスにも、道中見かけたアリスにも声をかけて、一緒に探すのはどうかな!?
エッグハントの続きをしながらあちこち探し回っていたら、ウサギ穴も見つかるんじゃないかな♪

エッグハントしながら、途中でご馳走もつまんじゃおっかな~お腹減っちゃった!
……あ!このエッグタルト美味しい!希雪ちゃんもこれ食べてみて!!


白霧・希雪
【蒸気飛行船】

そうですね、ゼロさん。
でも、このまま楽しむのも大事ですが…

…わかっているなら、大丈夫ですよ。

人手が必要、ですか。確かに人がいた方がウサギ穴を見つけるのは楽になりそうですね。
結局、迷子のアリスを導きながら探さないといけませんし、見つけたアリス達には手伝ってもらいましょう。

アイテム「金羽の髪飾」で周囲の生体反応を感知しつつ、ゼロさんと一緒に歩き回る
一応、さっきみたいな化け物が現れる可能性も考えて、握りしめた手のひらに隠れるサイズの薙刀をいつでも持っておく。

(ゼロさんの空腹発言に対して)
そうですね。少し歩きましたし、ここらで少し休みましょうか。
あ、美味しいですね、このエッグタルト。



 悪夢トラウマを打ち破り、平和の訪れる逃さずの国。花弁を運び吹き抜けてゆく風を見送ったゼロ・ブランクは、ぐっと体を縮めて──飛び跳ねるように思いっきり伸び上がる。

「よーっし、引き続き希雪ちゃんとイースターパーティーを楽しんじゃうぞっ♪」
 春の陽気を心置きなく楽しめるともなれば、アリスの心はもちろん、猟兵の心も弾むものだ。さりとて、ここは逃さずの国。

「そうですね、ゼロさん」
 白霧・希雪は僅かに目を細める。アリスたちは未だ果ての遠い旅路にあることも、忘れてはいけないことだった。

「でも、このまま楽しむのも大事ですが…」
「……あっ!『迷子のアリスたちをウサギ穴へ導く』でしょ?まーたアタシが目的忘れたって思ったでしょー!?」
 釘を刺そうとした希雪の言葉に、ゼロは大慌てで唇を尖らせる。ゼロだって猟兵だ。オウガを倒して安全になって、心置きなく楽しめるといったって──もちろん、依頼のことは忘れてはいない。

「ふふっ…わかっているなら、大丈夫ですよ」
 希雪は綻ぶように笑みを浮かべる。ちょっぴり頬を染めたゼロは、楽しみに浮かび上がった気持ちを誤魔化すように咳払い。そうして二人はアリスを振り返る。
 恐ろしい悪夢から逃れて、楽しげにイースターを過ごすアリスたち。けれど、いつまでもこの国で過ごしてはいられない。アリスには、帰るべき自分の世界があるのだから。

 広い逃さずの国でウサギの穴を見つけるならば、必要なのは人の手だろうか。ゼロはうーんと首を傾げてから、閃きを捕まえパッと明るい笑顔を希雪に向ける。

「ねぇ希雪ちゃん!この広い『逃さずの国』のウサギ穴を見つけるためには、人手がやっぱり必要だよねっ!」
 そうですね、と希雪が応えるその前に、ゼロは大きく両腕を開いてアリスを示す。

「だから、さっき助けたアリスにも、道中見かけたアリスにも声をかけて、一緒に探すのはどうかな!?」
「確かに、人がいた方がウサギの穴を見つけるのは楽になりそうですね」
「ねー♪エッグハントの続きをしながらあちこち探し回っていたら、ウサギ穴も見つかるんじゃないかな♪」
 あてどもなく探し回るなら、数の力というのは侮れないものだ。そして怖いオウガも居ないともなれば、アリスたちも安心してこの国を探索できるし──隠れて潜んでいた迷子のアリスだって、きっとウサギ穴を探しているに違いない。

 ゼロはエッグハントと『アリス探し』をアリスたちに呼びかけ、希雪は金羽の髪飾に手を伸ばす。生体反応を感知する髪飾りは、こういった人探しにおあつらえ向き。念の為、握り締めた手のひらの中には、小さな薙刀を忍ばせる。…脅威が去ったとて、新たなオウガが現れる可能性は捨てきれないのだから。

「希雪ちゃーん!こっちから行ってみなーい?」
「はい、わかりました。今行きます」
 大きく手を振るゼロに向かう自分の足の軽さに、希雪はほんの少しだけ驚いて、くすぐるように微笑んだ。

 そうして、猟兵二人とアリスが二人。再び始まるエッグハントに、迷子のアリスを探すそれはまさしく逃さずの国の探検隊。春爛漫のイースターパーティーを進んでゆく。

 ゼロがスキップで先導し、二人のアリスがそれに続いて、希雪は注意深く最後尾へ。時折分かれた道を見つければ、ふた手に分かれてずんずん進んで、羽の髪飾でアリス探し。

 歌う花の花壇が続けば、卵を探しながらイースターパーティーを楽しむ歌に耳を傾ける。あれでも、ちょっと待って!よくよく歌詞を聴いてみれば、ここらをアリスが通ったみたい。
 魔法みたいな髪飾で、あっという間に隠れたアリスをみーつけた。花はいつだって親切だ。
 今度は悪戯カラスの導きで、迷路の庭園に進めばあちこち卵があるみたい!そうして誰もが迷子になって、出口がちっとも見つからない。
 天使の羽で飛び上がり、そそくさ進んでゴールにようやく辿り着く。笑うカラスにご用心。

 そうして歩き回って楽しむ探検隊を、次に迎えてくれるのはイースターのご馳走だ。出来たてのご馳走の匂いを嗅げば、猟兵だってアリスだって、ぐうっとお腹も鳴るというもの。顔を見合わせ笑ったら、次の言葉は決まっている。

「お腹減っちゃった!」
「そうですね。少し歩きましたし、ここらで少し休みましょうか」
 希雪の提案に、アリスたちの声がわあっと華やぐ。歩いた分だけお腹はすくもの、アリスたちはお行儀よくテーブルに着くと、すぐさまご馳走に手を伸ばす。

 そんなアリスたちの姿に微笑みながら、ゼロも負けじと並ぶご馳走を品定め。ペロリと舌を出し何から食べようか。疲れた体にはやっぱり、甘いものが染み渡るもの。艷やかなエッグタルトに手を伸ばして、さっそくぱくり。タルト生地はサクッと割れて、中には濃厚なカスタードがとろり。優しい甘みが口いっぱいに広がれば、驚きと歓声が零れ落ちる。

「このエッグタルト美味しい!希雪ちゃんもこれ食べてみて!!」
 ゼロはひょいっとタルトを二つ手にとると、ひとつを希雪の前に並べて、ひとつは再びもう一口。美味しいものは何度食べても美味しいものだ。
 タルトを頬張るゼロの笑顔にオススメされるがままに、希雪もタルトを一口ぱくり。そうすればたちまち、希雪の口からも思わずあ、と声が零れ落ちる。

「美味しいですね、このエッグタルト」
「ね、ね!美味しいよねーっ!アリスたちもこれ食べてみよー♪」
 そうして始まるのは、お気に入りのご馳走の食べ比べ。ローストラムはしっとり柔らかくて、キッシュはサクサクほろほろ。どれもこれも美味しいと、食べ過ぎないようにしなくっちゃ!お腹が一杯になりすぎて、動けなくなったら大変だ。夢中になりそうなアリスたちの手を慌てて止めれば、どうにもやっぱり名残惜しそう。それなら幾らか包んでしまおうか。イースターのご馳走は、お弁当にも、お土産にも良いのだから。

 お腹も心も満たされて、隊は再びウサギ穴の探検に向かってゆく。道中見つけた迷子のアリスがお腹を空かしているならば、エッグタルトをプレゼント。そうして楽しく黄いレンガの一本道を、歩いて歩いてようやく見つけたウサギ穴。
 ぽっかり開いたウサギ穴に、どこからともなくやってきたのは時計ウサギ。ウサギの尻尾につられるように、アリスはひとりふたりと飛び込んで、次の世界へと向かってゆく。

「お姉ちゃんたち、ありがとう」
 最後は二人のアリスがゼロと希雪に手を振って、ぴょんとウサギ穴へ飛び込んだ。
 アリス達の背中はあっという間に見えなくなって。だからゼロと希雪は次の世界では怖い思いなんてしないように、笑顔が曇らぬようにと願いをかける。アリスたちの旅はきっと、これからも続くのだから。

「アタシたちも帰ろうか、希雪ちゃん」
「はい。ゼロさん」
 ゼロと希雪もまた、逃さずの国を後にする。猟兵たちの物語もまた、これからも続いてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月隠・望月
いーすたーの催しは続いているようだ。欲望に囚われすぎないよう、アリスと共に適度に楽しみながらウサギ穴を探そう。

先ほど戦っておなかもすいている、何か料理を食べながら探索しよう。少し行儀が悪いが。
……おいしい。これは……えっぐたると? まあ名は何でもいい。食べ物はおいしいことが重要。

ウサギ穴は……とりあえず、先ほどと同じく【結界術】で探知結界を張って探せないか一度試してみよう。だが、ウサギ穴あれは特殊なものだ。うまく探し出せるか……。
難しければ地道に歩いて探そう。手際よく送り出せずアリスには悪いが……いや、もしかするといーすたーを楽しむ時間も、アリスにとっては悪くはないものかもしれないが。



 悪夢は消えても、変わらずここは逃さずの国。もちろん、イースターの催しはまだまだ続いている。

 しかし、一時とはいえ平和が訪れたことに違いはない。月隠・望月は警戒を解くと小さく息を付く。アリスはどこかそわそわと、落ち着かない様子で周囲をキョロキョロ見渡して、望月と目があえば頬を赤らめ佇まいを正すことを繰り返している。それでいて望月も、変わらぬ表情の下では妙に落ち着かない気持ちを持て余していた。意思に反して急かす気持ち…それこそが逃さずの国の欲望なのだろう。

 ならば、と望月は僅かに頷く。逃さぬというならば、囚われ過ぎないように適度に楽しみながら、ウサギ穴を探すまでだ。望月は首巻で口元を隠し直してアリスへ向き直る。

「一緒にイースターを楽しもう」
 そうしてアリスに目線を合わせると、望月は片手を差し伸べる。まるで絵に描いたようなお誘いエスコートだが──望月は当然、そうと狙ったわけではない。けれどアリスは一瞬呆気に取られたかと思うと、すぐさま頬を林檎のように染め上げてから、恥ずかしそうに微笑むと望月の手を取った。

 はてさて楽しむといっても、この国のイースターの催しは多岐に渡る。まずは腹ごしらえも必要だろう。何より望月は先ほど戦ってお腹も空いている。

「少し行儀が悪いが……何か料理を食べながら探索しよう」
 そうしてご馳走を求めて通りがかった花園に、花のアーチの真ん中でぽつんと一対のティーテーブル。ケーキスタンドに乗せられているのは、どうしてか手のひらサイズのエッグタルトばかり。それでいて艶のあるエッグタルトは出来立てで、素朴な甘い香りは花の香りにも負けないくらい魅力的。だからアリスは堪えきれずに、一口ぱくり!

「美味しい!」
 サクッと割れたタルト生地から、たっぷりのカスタードが口いっぱいに広がれば、アリスは思わず歓声をあげるもの。けれどすぐさま我に返ると、恥ずかしそうに口元を押さえる。望月もまたエッグタルトをぱくりと一口。しばし無言で咀嚼して、仄かに目元を綻ばせる。

「……おいしい。これは……えっぐたると?」
 しかしこれもやはり、望月にはあんまり馴染みのないお菓子。とろりとした卵餡に僅かに首を傾げてみるが、名前は何でも良いものだ。エッグタルトをひとつ、ペロリと完食する。美味しいものは美味しいし、食べ物はおいしいことが重要なのだから。
 さりとて魅力的だからこそ、掻き立てられる欲望に従い過ぎるわけにはいかない。いくらか包んでいよいよウサギ穴の探索だ。

 望月は呪符の束を取り出すと、勢いよく空へと投げ放つ。再び紡ぐ探知結界で、探し求めるのはウサギ穴。
 瞼を閉じて探索範囲を広げていけば、逃さずの国の姿形は見るよりもよく視える。けれどウサギ穴は、国と国を繋ぐ魔法の道だ。

「だが、ウサギ穴あれは特殊なものだ。うまく探し出せるか……」
「…見つかりそう?」
 アリスの問いかけに望月は力なく首を振った。やはり一筋縄ではいかぬようだ。望月が結界で見つけられたのは、いくつかの『それらしき』もの。一つ一つを当たっていくしかないだろう。

「手際よく送り出せず、アリスには悪いが……」
 バツが悪そうに、望月は僅かに目を伏せる。けれどアリスははにかみながら、望月の手を取った。

「一緒に楽しんでくれるんでしょ?」
 今度はアリスに手を引かれ、二人はイースターの彩りに溢れるこの国を歩いて回る。
 卵にまつわる催しは、望月よりもアリスのほうが詳しいものだ。ルールを改めたら試しにちょっぴり遊んでみたり、春爛漫の景色を眺めて一息ついたり、お腹が空けばエッグタルトを分け合って。ウサギ穴を探しながら、逃さずの国をひとつ、ふたつと巡っていく。

 アリスの笑顔をみていれば、楽しむ時間も悪いものではないのだろう。けれどいくら楽しくたって、この時間にだって終わりがあるものだ。
 ようやく辿り着いたウサギ穴。アリスは名残惜しそうに望月へ別れを告げる。

「ありがとう、猟兵さん」
 アリスの旅路は帰路の旅。だから、ほんの一時の縁にアリスが再びを求めることはない。イースターは楽しくとも、怖い悪夢なんて、アリスはもうまっぴらなのだから。

「とっても、とっても楽しかった!」
 白いウサギが横切って、アリスは望月の言葉を待たずにウサギ穴へ走り出す。一度だけ振り返ったアリスに、望月は静かに手を振った。
 ウサギ穴に続くその旅路が、その帰路が──アリスの帰るべき扉に、繋がっていることを願いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年04月23日


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#アリスラビリンス
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#グリモアエフェクト
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#戦後


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト