Jännittävä joulu
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12月24日、クリスマスイヴ。
思ったより晴れやかな朝、ボクと彼は駅前で待ち合わせをした。
「うむ、来たかユスミ。」
待ち合わせの場所で、彼が笑顔でそこに居た。
今日のデートはショッピング。UDCの大きな街で雑貨屋と服屋巡りしに行った。
「ふん、民共は聖誕祭とやらにあてられ浮かれておるか。こうも賑わいを見せるとはな。」
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雑貨屋を回って、服屋を回って、いつの間にかお昼になった。
彼に誘われて来たのは小さなレストラン。
何にしようか決めようとしたら。
「あらかじめ予約を取っている。クリスマス限定の特別ランチコースだ。」
運ばれてきたのは豪華な食事。
「美味いか?」
「うん」
何か、よく分からない不思議な気持ちになった。
「そうだ、ユスミ、この後は動物園と美術館、どちらに行きたい?」
「ん……美術館。」
そう答えた時、一瞬だけ、彼の表情が変わった気がする。
食事の後、ボクの要望通り美術館に足を運んだ。
「世間一般の展示でよく見かける、見慣れたものばかりの様だな。」
でも、ボクにとっては真新しかった。
知らないものが沢山あって、次から次へと、作品に足を運んでいった。
この時彼がどんな顔をしていたかはわからない。
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そのまま沢山歩き回っていたら、あっという間に夕陽が沈んだ。
「そろそろ夕飯にしよう。」
そう言った彼に連れられてやってきた、さっきとは別の小洒落た喫茶店。
「わ……」
お店の中に入った瞬間、驚いた。
ボクの身長を超えるくらい、とっても大きな熊のぬいぐるみが席の一つに座っていたんだ。
熊さんの隣で、出されたケーキセットを口にする。
でも目の前で顔を合わせて一緒に食べている彼は、やっぱりそわそわした顔で。
「どうしたの?」
「悪くはない……なかったはずだ。」
そう呟いたから。
何が?と聞いてしまった。
「む?否、なんでもな――」
そう言った時だった。彼の鞄から本が落ちたのは。
「これは!?しまった!」
どうやら当日も確認する為に、一冊鞄にしまい込んでいたらしい。
「ユスミ……!今日はクリスマスイヴ、どうしても成功させたいが、私はそういうものに疎いのだ。」
そう言って彼は独白した。
「デート情報誌だったか?そういう分類らしい書物を熟読し、綿密に計画を立てねばならなかったのだ……!
『彼女の王子様になる完璧デートプラン♥』実に巫山戯た見出しではあったが……背に腹は代えられなくてな。」
そう説明しきった彼は紅茶を口にして、ふっと一息入れた後。
「ユスミの愛らしい笑顔が見たい。
仮にも魔王などと呼ばれる私がお笑い種だが仕方があるまい?お前に心を奪われてしまったのだから。」
くすり、と。
明らかにそわそわしていたあの顔は、そういう理由だったんだねって。
それが少し可笑しくて。
ボクは改めて彼に「とても楽しかったよ」と伝えた。
「……そうか!そうか……!」
彼が見せたのは今日一番の、氷が溶けたような微笑み。
「ケーキはどうだ?口に合うか?」
「うん。ケーキも美味しいし、紅茶もピッタリ。クリストフさんは?」
「私は……そうだな、こうした時間を過ごせるのならば甘いものも悪くはない。」
そう言って。
「あぁ、だがまたユスミの手料理を味わえると尚良いかも知れん。」
なんて言ったものだから。
「ボクの料理? あんまり得意じゃないよ。」
思わずそう返してしまった。
「
Hyvää joulua.」
突然、彼がそう言って来た。
「ふ、まだ言っていなかったのを思い出したのでな?愛しい女の母国語を身に付け喜ばせたいと思うのは当然の事だろう?」
「あ……、うん、
Hyvää joulua. フィンランド語、頑張って覚えてくれて嬉しい。」
ボクも笑顔でそう返した。
ケーキを食べ終えて窓の外を見ると、いつの間にか雪が降っていた。
「お店の熊のぬいぐるみビックリしたね。」
「ん?アレか?後ろを見るがいい」
お店の人がリボンを巻いて、熊さんのぬいぐるみを運んでいた。
「私からユスミへのクリスマスプレゼントだ。」
「えっ、ボクへのプレゼント?」
「驚かせたくてな、事前にカフェの店主に預けていたのだ。」
ふふ、と、もう一度、なんだか可笑しくて、思わず笑みがこぼれてしまった。
「こんな大きなぬいぐるみ、どこへ置くの?ボクの部屋には置けないよ?」
「ふむ?置き場所……か。……くくく、ならばユスミを妻として迎えるべく城に用意させている部屋の工事を急がせねばな。」
くまさんは彼のお城に運ばれていった。またお城に行った時に、会えるかな。
雪とネオンがボク達を照らす中、彼がぎゅっと、ボクを抱きしめる。
「Rakastan sinua...愛しているぞ、ユスミ。」
「...Mnäkin rakastan sinua...」
そう返して、ボクは離れるまで、ずっとずっと、彼の腕に頭を預けていたんだ――。
成功
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