ポリス・クラッキング
「あと一歩で、あの企業の汚職事件の証拠を掴めそうなんだ! 協力してくれ!」
「はあ……やれやれ、オメーもよくやるよ」
眼球にLEDでも仕込んでるのかってくらいキラキラした同僚の眼差しに根負けした。
それが今日、俺が珍しく「仕事」をしている理由だ。
このクソみたいな世の中で、警察官ってのはだいぶマシな職業だ。
上司や企業の顔色をうかがって、あとは道端やスラムの連中を適当に「検挙」してお茶を濁しておけば、うまい汁を吸って不自由のない生活ができる。
それで満足しとけばいいものを、なぜか不満のあるらしいヤツらも中にはいる。
俺の同僚もその1人だ。
「なんでこんな事を俺達がしなけりゃいけないんだ?」
「なぜって、これが警官の仕事だろう! 何より見過ごせるかよ、こんな事……!」
そう語る同僚の目はガキみてえにまっすぐで、言葉に芯が通っていた。
この世界にまだ正義ってモンが残ってるなら、それはオマエの事を言うんだろうさ。
「そんなんだから早死にするんだよ」
「は? お前、何を……ぐあッ!」
俺は腰から拳銃を抜いて、同僚を撃つ。
こんな街中で、それも同じ警官相手に発砲したとなれば、流石に大問題だ。俺の上司だって庇っちゃくれない。
だが問題ない。問題はない。問題はない。撃て。
「やめろ! おい、どうした! ぐっ……!」
同僚も一応サイボーグだ、拳銃弾の1発や2発くらいじゃ簡単には死なねえ。
問題はない。問題はない。撃て。撃て。撃て。撃て。
俺は何をやってるんだ? いや、問題はない。これは全て自分の意思だ。
正義ヅラしたムカつく同僚に、俺は鉛玉を撃ち込み続けた――。
●
「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「サイバーザナドゥにて、『電脳』をハッキングされた警察官による銃撃事件が多発しています」
骸の海汚染を防ぐために生身の肉体を
機械化義体に換装するのが当たり前になったこの世界では、思考能力を補助・強化するべく脳を「電脳化」する者達も後を絶たない。それはサイボーグ化の行き着く果てであり、疑問を呈する声も皆無ではないが、脳をAIによって強化される全能感に抗う事が難しいのも実情だった。
「倫理的な是非はともあれ、電脳化にはリスクも存在します。それは外部からのハッキングによって電脳を操作され、思考を操られてしまう危険性です」
もちろん電脳には最高レベルのプロテクトが施されているが、優れたハッカー――たとえばオブリビオンなら、これを突破するのも不可能ではない。電脳をハッキングされた被害者達は、まるで「自ら望んでそうしているかのような錯覚」のままに暴れまわり、テロや犯罪に手を染めてしまうのだ。
「先日も、暴徒鎮圧に赴いたデスブリンガーがスラム街ひとつを灰と化す事件が起きたそうですが、今回起こったのは『警察官が街中で同僚の警察官に発砲する』という事件です」
撃ったのはもちろん電脳をハックされた警察官。そして撃たれたのは、警察組織の中でもまだ良識を保ち、メガコーポによる犯罪や汚職を追求せんとしていた警察官だった。モラルなき社会で必至に正義を貫こうとしていた彼らは、同僚に背中から撃たれてしまう事になる。
「言うまでもなく、この事件の陰で糸を引いているのはメガコーポです。汚職や賄賂になびかない目障りな警官を始末しつつ、電脳ハッキングされた警察官に全ての罪を被せる企みです」
標的にされた側は当然だが、ハッキングされたほうも汚職警官とはいえ、この件では不当に自我を奪われた被害者だ。同様の事件は街の至る所で同時に発生しており、まずはこれを急ぎ食い止めなければ、陰惨な悲劇が起きてしまうだろう。
「暴徒化した警察官を鎮圧し、彼らの電脳を調べれば、ハッキングを仕掛けたオブリビオンの居所や正体に繋がる手がかりも得られるはずです」
たとえ被害を阻止できたとしても、事件を起こした張本人を抑えなければ、同様の事件はまた繰り返されると予測される。狡猾なオブリビオンは十重二十重の仕掛けで自身のねぐらを守った上で、すぐに逃げられる準備を整えているだろうが――逃走を許す前に、迅速に追い詰めるのだ。
「敵の正体や、関係しているメガコーポの正体は不明ですが、相当に力のあるハッカーオブリビオンがいることは想像に難くありません。どうか細心の注意をもって挑んで下さい」
説明を終えたリミティアは手のひらの上にグリモアを浮かべ、サイバーザナドゥのとある都市に猟兵を送り出す。
人間の自我と自由を奪い取る電脳ハッカー。その忌まわしい陰謀により摘み取られようとしている正義の志を、果たして守ることはできるのか――。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」
戌
こんにちは、戌です。
今回のシナリオはサイバーザナドゥにて、電脳クラッキングされた警察官による銃撃事件を阻止し、その元凶を暴く依頼です。
1章では電脳ハッキングされた不良警官による、警察官殺害を阻止します。
攻撃されているのは腐敗した組織の中でまだ正義の心を失っていない、良識ある警察官です。
オープニングにあるような事件が街のあちこちで同時に起こっているため、まずは現場に急行して被害を食い止めてください。
ハッキング被害にあったほうはいわゆる汚職警官ですが、今回の件については純粋な被害者ですので、なるべくなら穏便に対処したほうが良いでしょう。
2章は事件を起こしたハッカーオブリビオンを追い詰める冒険パート。
そして3章で主犯との決戦になります。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『正義警官VS不良警官』
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POW : 身を挺して正統派の警官たちを庇う。
SPD : 先手必勝で不良警官どもを倒す。
WIZ : 正統派の警官たちを影から守る。
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シェリフスター・ワイルドランド
おおっと、こいつは警官としても電脳としても他人事じゃいられないなぁ!
この事件を解決するの事は同僚を助ける事にもつながるとなると頑張らないとな
さぁ、行こうか!
間に割り込んで銃弾を自身やEシールドで弾くぞ
大丈夫か!?とりあえず乗りな!……俺か?警察車両さ!
まずは『ARMORED BATTERY』を発動し、防御を固めるぞ
走り回ると逆にまずそうだからな……
その後に暴走してる奴の動きを止める為、ホーミングレーザーを痺れのみを与えるスタンモードで連射だ
俺も警察、相手の動きを止める武装位はあるさ
ハッキングの方を何とかしてやりたいものだが、俺で対処できるレベルか不安だからな
兎に角、素早く解決するぞ
「おおっと、こいつは警官としても電脳としても他人事じゃいられないなぁ!」
そう言ったのは、とある企業が開発した頭脳戦車の武装警官、シェリフスター・ワイルドランド(
鋼鉄の騎馬・f39925)だ。人間の電脳をハッキングできるなら、彼のような機械種族のAIを操ることも理論上は可能だ。対岸の火事と笑ってはいらない――まして被害を受けているのが同僚となれば。
「この事件を解決する事は同僚を助ける事にもつながるとなると頑張らないとな。さぁ、行こうか!」
正義の心でホイールを回し、乗り手不在のままサイバーシティを疾走する二輪車両。目的地は電脳ハッキングによる事件発生が予知されたポイントだ。街の巡回中と思しき警官が同じ警官に銃口を向ける、まさに決定的なタイミングに急行する。
「危ないぞ!」
「えっ!? うわぁっ!!」
突然猛スピードで近付いてきた無人車両と、突然発砲する同僚に、その警察官は二度驚く羽目になった。ギリギリのところで間に割り込めたシェリフスターは、自身の車体とエネルギーシールドを盾にして銃弾を弾く。対サイボーグを想定した大口径拳銃でも、頭脳戦車のボディは貫けない。
「大丈夫か!? とりあえず乗りな!」
「いや、なんなんだよアンタ! それにアイツは急に何を
……?!」
「俺か? 警察車両さ!」
緊急時ゆえシェリフスターの説明は十分とは言えなかったが、銃を持ったまま明らかに様子のおかしい同僚を見れば、ただならぬ事態が起こっているのは分かる。いくら品行方正とは言えない不良警官でも、往来で突然発砲するほどイカれてはいなかったはずだ。
「おい、邪魔すんなよ」
不良警官は不自然なほど据わった目で乱入車を睨み、銃を乱射する。彼はその行動を自分の意思だと無意識に錯覚させられているが、実際には全ての行動を外部から支配されている。操られていることに本人が自覚できないのが、電をハッキングの恐ろしいところだ。
(走り回ると逆にまずそうだな……)
ここで自分が動くと流れ弾で被害が広がりかねない、と考えたシェリフスターは停車したまま【ARMORED BATTERY】を起動。シールド発生装置の出力を全開にして広範囲に強固なシールドを張る。光の障壁がカキンカキンと暴走警官の銃撃を跳ね返すさまは、まさに鉄壁であった。
「俺も警察、相手の動きを止める武装位はあるさ」
相手の銃が弾切れになるのを待ってから、シェリフスターはホーミングレーザーの発射口を警官に向け、多数の追尾レーザーを連射する。痺れのみを与えるスタンモードに設定してあるため致死性はなく、あくまで暴徒鎮圧を目的とした装備だ。
「ぐえッ?!」
レーザーを浴びた警官はビクッと身体を震わせてカエルのような悲鳴を上げ、ばたりと倒れて動かなくなった。どうやら気絶させてしまえば電脳ハッキングによる暴走も止まるらしく、起き上がって襲い掛かってくる気配はない。それを確認してから、シェリフスターはシールドを解除した。
「ハッキングの方を何とかしてやりたいものだが、俺で対処できるレベルか不安だからな」
「あ、ありがとう、助かったよ……にしても、ハッキングだなんて……」
強固なプロテクトがあるはずの電脳に外部からアクセスする、恐ろしいハッカーの話を聞かされた警官は、不安げに首筋をさする。彼は同僚とは違って脳まで改造してはいないようだが、それでも他人事とは思えないのだろう。快適さを求めて電脳化を行う人間は増える一方であり、本件と同様の被害はいつ、誰にでも起こりうるのだ。
「兎に角、素早く解決するぞ」
これ以上事態が深刻になる前に、主犯であるハッカーオブリビオンの所在を突き止め、撃破する。鋼鉄の騎馬に宿った正義の心は、炎の如く燃えていた。たとえ人ではなくとも、悪を憎み市民を守らんとするその姿勢は、正しく警察官らしいものだった――。
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
んもー、便利だからって何でもかんでも電脳化するから…
まあ生身なら操られないと言う保証もないんだけどそれはそれだな……
なんにせよ…まずは正気に戻してあげないとね…同僚に付き合う程度には良識残ってるみたいだし…
…まずは現場に急行…撃ってる警官を術式組紐【アリアドネ】で拘束して取り押さえ…
…そして【我が身転ずる電子の精】を発動…目と腕を粒子化…
…データを見ながら医療製薬術式【ノーデンス】を使うことで「正常な状態」を把握…
…粒子化した腕でハッキングの影響を取り除いて正常化するとしよう…
…ついでにハッキングの経路を把握した上で遮断もしておくか…
撃たれた警官の治療も忘れないうちにやっておこう…
「んもー、便利だからって何でもかんでも電脳化するから……」
プロテクトがあるから大丈夫と思っていたのかもしれないが、高度に発達した電子社会において絶対のセキュリティなど存在しないことをメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は知っている。達人クラスのハッカーにかかれば、迂闊な電脳化は人間の思考にバックドアを開けるのと同義だ。
「まあ生身なら操られないと言う保証もないんだけどそれはそれだな……」
かくも世の中には一般人の認識していない危険がはびこり、サイバーザナドゥにおいては特にそれが多いという話である。各世界の技術・魔法の研究家であるメンカルから見ても、こうした技術の悪用は望ましいことではなく、放置すれば事態がより深刻になることは容易に推察できた。
「なんにせよ……まずは正気に戻してあげないとね……同僚に付き合う程度には良識残ってるみたいだし……」
そう呟きながらメンカルは現場に急行し、同僚に発砲する警官を見つけると、術式組紐【アリアドネ】を使用する。
使用者の意のままに伸び動く魔法の組紐は、蛇のようにぐるぐると警官の手足を縛り上げ、あっという間に拘束してしまった。
「なんだこれ おい 解け 解けよ」
縛られた警官は機械のように感情のない声音で喚くが、メンカルが魔力を込めた組紐は頑丈で、サイボーグの腕力でも千切れない。撃たれたほうの警官は、呆然とした表情でそれを見つめている――肩から血が流れているが、どうやら致命傷ではなさそうだ。
「な、なにが起きたんだ、こいつは? それに、あんたは……?」
「……後で説明するから……まずはこっちが先……」
困惑している警官のことは一旦置いておき、メンカルは取り押さえた警官の傍らでしゃがみこむ。身動きを封じても電脳をハッキングされている状態は変わらず、リモートでこれ以上の暴走を起こされたり、証拠隠滅のために脳を破壊されでもしたら面倒だ。
「我が体よ、変われ、集え。我は掌握、我は電霊。魔女が望むは電網手繰る陽陰」
【我が身転ずる電子の精】を発動したメンカルの目と腕が、粒子の集合体に変化する。この状態になった彼女の眼はデータや信号の流れを目視でき、粒子の腕は実体のない電子情報に直接「触れる」ことができる。リアルとデジタルの境界を越えた、超常的ハッキングを可能にするユーベルコードだ。
「んー……だいぶ改竄されてる、けどまだ手遅れじゃない……」
電脳内のデータを見ながら医療製薬術式【ノーデンス】を使い、対象の「正常な状態」を把握するメンカル。異常な箇所を特定できれば、粒子の腕でつまみ取るようにハッキングの影響を取り除いて正常化していく。その光景はプログラムの修復というよりは、脳の外科手術のように見えた。
「……ついでにハッキングの経路を把握した上で遮断もしておくか……」
一旦正気に戻したところで、電脳がある限りは再度ハッキングされない保障はない。侵入に利用されたシステムの脆弱性の確認や、同じ手口を使わせないためのプロテクトの補強も、彼女にとってはお手の物だ。あとは相手のハッカーの技量によるところはあるが、ひとまずは大丈夫だろう。
「ありがとな、うちの同僚をわざわざ……うっ、いてて……」
「お待たせ……次はこっちの治療するよ……」
電脳ハッキングの治療を済ませたメンカルは、忘れないうちに撃たれた警官の治療もやっておく。【ノーデンス】は対象の診断内容に応じた薬を精製する術式であり、そのジャンルは電子も生身も問わない。銃創の回復くらいならあっという間だ。
「はい、終わり……」
「おお……マジで凄いな、あんた」
顔色ひとつ変えずにてきぱきと施術を完了させたメンカルに、警官は感服と同時に驚きを隠せない。彼女の迅速な措置により、この場の被害は最小限に抑えられ、罪なき善良な警官も、不良とはいえ悪党に堕ちきってはいない警官も、ともに命を救われたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ルナ・シュテル
電脳ハッキングによる暴走事件の鎮圧、然る後に首謀者の制圧。了解致しました。
LNA-1120、任務を開始します。
DoubleOrbitを飛ばし【情報収集】、暴走する警官の在る場所を【索敵】。
他の猟兵の皆様の行動も見つつ、より状況の切迫してる現場へ優先的に向かいましょう。
ShadowSchranzの【迷彩】機能で身を隠し、暴走しておられる方に密やかに接近。
掌のElectroShockを【気絶攻撃】モードで叩き込み鎮圧を試みます。
暴走者が多いなら白昼夢の電子式を発動、眠り粉散布により鎮圧を。
鎮圧後は負傷者の方へ【医術】知識による応急処置と病院の手配を。
然る後、暴走者の電脳を調べ手掛かりを探します。
「電脳ハッキングによる暴走事件の鎮圧、然る後に首謀者の制圧。了解致しました」
グリモア猟兵からの依頼を機械的に復唱し、ルナ・シュテル(Resonate1120・f18044)は現地に転移する。バイオロイドである彼女の製造目的は人類への奉仕。オブリビオンの起こす事件から猟兵として人類を守護するのも、その手段に含まれる。
「LNA-1120、任務を開始します」
まずは多目的ドローン「DoubleOrbit」を飛ばし、電脳ハッキングを受けた警察官のいる場所を特定する。事件は各所で同時に発生しており、1人だけでは対処しきれない状況だ。彼女は他の猟兵と行き先が被らないように行動を見つつ、より状況の逼迫している現場へ優先的に向かう。
「やめろ! どうしたんだよ、お前ら!」
「撃つ、撃つ、撃つ」「殺す、殺す……」
現場では電脳を支配された警官達が、壊れたロボットのように銃を乱射していた。同僚の呼びかけにも反応はなく、明らかに正気とは思えない。オブリビオンハッカーに思考をハッキングされた人間は、このように本人の自我とは関係なく凶行に及んでしまうのだ。
(現場に到着。速やかに鎮圧を試みます)
そんな暴走警官の背後から、密やかに接近するのはルナ。標準装備のボディスーツ「ShadowSchranz」に搭載された迷彩機能により、彼女の姿は誰にも見咎められることはない。まるでニンジャのように音もなく忍び寄ると、相手の首筋に手を伸ばし――。
「ElectroShock、スタンモード」
「うギッ?!」
掌に仕込まれた放電機構から、バチッと音を立てて紫電が閃く。不意打ちを食らった暴走警官は、それで糸が切れたように崩れ落ちた。出力は調整してあるので命に別状はないが、しばらくは気絶したままだろう。ハッキングの影響を取り除けるまでは大人しくしてもらおう。
「敵?」「敵だ」「敵だ」
それで他の連中からも居場所がバレたか、残りの暴走警官が一斉にぐるりとルナを見る。運が悪いのか犯人の意図なのか、ここには電脳化を行っていた警官が複数名いたらしい。これだけの人数を順番にスタンさせていくのは、少々骨が折れそうだ。
「電脳妖精プログラム起動。此度のお勤めは──」
それならとルナは【白昼夢の電子式】を発動し、妖精型の電子生命体から眠り粉を散布させる。おとぎ話に出てくるような妖精たちが、可憐に舞い踊りながら鱗粉を散らし――それを吸い込んだ暴走警官達は、深い眠りへと誘われた。
「鎮圧完了。続いて負傷者の方への救護活動を開始します」
「だ、誰だか知らんが、助かったよ……」
暴走者を全員眠らせると、ルナは脳にインプットされた医術知識に基いて、負傷者の応急手当と病院の手配を行う。
標的にされていた一般警官や流れ弾を受けた通行人など、負傷者は少なくないが、迅速に事態を収拾できたおかげで重傷者がいないのは幸いだった。
「次は、こちらの方から……」
ひととおりの救護活動を終えた後、ルナは髪をケーブルのように伸ばして暴走者の電脳にアクセスし、ハッキングの痕跡を調べる。いくら鎮圧しても主犯格のハッカーの手掛かりを掴まなければ、同様の事件は何度でも繰り返されるだろう。それも含めて今回の任務であるからして、彼女の行動に迷いはない――。
大成功
🔵🔵🔵
李・麗月
撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだってねぇ。
引っ込んでコソコソやってるような奴は気に食わないから始末しないとねぇ。
催眠と誘惑の力を込めた指定ユーベル・コードで動きを止めて殺害を阻止するわねぇ。
ついでに仙術によるカウンターハックで汚職警官の電脳を
ハッキングしてる犯人に迫れないか試してみるわぁ。
まぁ、何かしら掴めたらラッキーな気分ねぇ。
「撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだってねぇ」
とあるハードボイルド小説の主人公のセリフを引用しつつ、今回の敵の所業に眉をひそめるのは李・麗月(《蠱惑娘娘》・f42246)。他人の脳を操って引き金を引かせ、表に出てこようとすらしない輩に、果たして「撃たれる覚悟」はあるのか。
「引っ込んでコソコソやってるような奴は気に食わないから始末しないとねぇ」
主犯の尻尾を掴まえるためにも、まずは今起こっている事件を解決しなくては。サイバーシティのあちこちで、電脳をハッキングされた警官による発砲事件が多発している。その現場のひとつに転移した彼女は、即座にユーベルコードを発動した。
「はい、これ以上はダメよぉ」
「ぅッ……誰、ダ
……?!」
催眠と誘惑の力を宿した【寵姫の瞳】に見つめられた警官は、突然ピタリと攻撃を止める。いくら電脳を通じて思考をハッキングされていても、麗月の美貌にはそれを上書きするほどの魅力があった。生まれながらに「美しさ」を追求して作られた人間が、羽化登仙に至るほどの修行を経て磨き上げた、人界の域を超えた美だ。
「しばらく眠っててねぇ」
「ぁ……はぃ……」
ひとたび仙女の魅了に嵌ってしまった警官は、あとは言われるがままの幼子のよう。速やかに鎮圧を完了させた麗月は、その警官の額に符を貼り付け、心の扉を開かせる仙術を用いる。科学や機械技術によるものとは異なる、魔法的なハッキングだ。
「ついでに犯人に迫れないか試してみるわぁ」
ハッキングされた電脳からカウンターハックを仕掛け、ハッキング元のオブリビオンを特定する。それが麗月の狙いだった。相手は強固な電脳プロテクトも破れるほどの凄腕ハッカーで、侵入の痕跡も巧みに隠蔽されて遡るのも困難だが、この世界では一般的ではない仙術という技術体系は、その突破口となりうる。
(まぁ、何かしら掴めたらラッキーな気分ねぇ)
麗月本人はそこまで期待していた訳ではなかったものの、成果は上々というところだった。何重にも経由ポイントを挟んで相手の痕跡を追いかけ、発信元を特定するまでには至らなかったものの、かなり近い所まで迫ることはできた。
「あとは他の人達に期待しようかしらぁ」
自らが掴んだ情報を他の猟兵と共有した後、麗月は気絶した汚職警官や怪我人の容態を診て、救急搬送を手配する。
彼らが病院で目を覚ます頃には、全て終わっているのが理想だろうか。美貌の仙女は艶やかな笑みを浮かべながら、次の目的地へと移動する――。
大成功
🔵🔵🔵
真梨木・言杷
……他人事とは思えないな。なにせ
こんな体だ、私の頭にも電極は刺さっているからね。主犯の脳を焼くまでは安心して眠れやしないよ。
敵が電脳に侵入できる以上、撃ってくる警官の予測は無意味か。なら【ハッキング】で周辺エリアの監視カメラや通行人が持っている端末のカメラを覗き見し【情報収集】、撃たれる方の警官を探す。
情報を掴めたら『機動重転輪』で現場に急行、電脳ハックされた警官に五寸釘弾を打ち込む。警察なんて嫌いだけど……手掛かりも少ないし、殺す理由はないか。出力を絞ったD.O.S.で制圧、銃を奪い【捕縛】する。
きみ、これからも危ない橋を渡るつもりなら、もう少し背中に気をつけた方がいいかな。
「……他人事とは思えないな。なにせ
こんな体だ、私の頭にも電極は刺さっているからね」
電脳化された脳に外部からアクセスし、人間の思考や行動を操作する悪のハッカー。いかにもSF小説にありそうなネタだが、笑い話ではないと真梨木・言杷(呪言.txt・f36741)は知っている。他ならぬ彼女自身が、その手の技術に精通したハッカーでもあるからだ。
「主犯の脳を焼くまでは安心して眠れやしないよ」
疑り深く慎重な彼女は、自分だけは大丈夫などという慢心を持ったことはない。同様に、どんなに巧妙なハッカーでも永遠に潜伏することは不可能だ。事件を起こすためにアクションを取れば、必ず痕跡が残り、所在の特定に繋がる。段階を踏んで敵を追い詰めていこう。
「敵が電脳に侵入できる以上、撃ってくる警官の予測は無意味か。なら……」
言杷はまず、周辺エリアの監視カメラや通行人が持っている端末のカメラにハッキングを行い、情報収集を始めた。
街中にある機械の目を覗き見すれば、大抵の情報はすぐに掴める。探すのは撃つ方ではなく、撃たれる方の警官だ。
「……そこか。この距離ならまだ間に合うかな」
特定した所在にピンを刺し「機動重転輪」に乗って現場に急行。最短経路を突っ走れば殺人が起こる前に到着する。
うつろな目をした一人の警官が、もう一人の警官に銃を向けている所に駆けつけた言杷は、素早くオートネイルガン「クスノキツールズ OXTIME」を構えた。
「■ⅢⅡ■ⅢⅢⅡⅢ■──"
えまたいわきさ えまためよき えまたいらは"」
アンテナとコネクタを兼ねた五寸釘弾が暴走警官に打ち込まれ、圧縮された呪言のテキストデータが送り込まれる。
言語フォーマットも異なる古今東西の"呪いのことば"を受信した電脳は、膨大な情報過多による処理落ちを起こす。比喩なしの「言葉の重み」を利用した【D.O.S./重咒詞.txt】攻撃だ。
「警察なんて嫌いだけど……手掛かりも少ないし、殺す理由はないか」
「え、ぅあゥげッ
……!?!!?!」
言杷がその気になれば如何様にも相手の電脳を壊せただろうが、彼女は殺人鬼ではない。出力を絞った呪言で一時的に動きを封じた後は、銃を奪って捕縛する。相手はバグった機械のように呂律の回らないノイズを繰り返していたが、しばらくすると電源が落ちたように大人しくなった。
「主犯は手を引いたかな。痕跡くらい残っているといいけど」
巧妙なハッカーほど自分の足跡を消すのが上手いものだが、ここまで派手にやった後は何かしら形跡が付くだろう。
倒れた警官の電脳から手掛かりを洗い出そうとする言杷に、撃たれそうになった警官が「あ、あの」と声をかける。
「君は、助けてくれたんだよな? ありがとう……でも、これは一体……」
「きみ、これからも危ない橋を渡るつもりなら、もう少し背中に気をつけた方がいいかな」
このモラルなき世界で警察の本分に務める正義感は立派だが、警戒心が足りなければ何もできず早死にするだけだ。
恩人から苦言を呈されると、流石に相手も身に沁みたようで「肝に銘じます」と頷く。今後彼がどうしようが言杷の関知するところではないが――仕事上とはいえ助けた命を、無駄にされたくはないものだ。
大成功
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百鬼・甚九郎
おやおや、大変じゃのー。人の世、いっつも揉めとるイメージあるのう。
百年も生きれんのにケンカばっかりして大変じゃなあ。もっと楽しく生きたらどうじゃ、って儂、いつも思う。
今回も楽しくなさそーな事件じゃのー。
イバラを伸ばしてスパイダーなマンみてーに移動しつつ、鬼紙で鳥折って偵察に飛ばして警官探すぞい。つってもパッと見ではっきんぐされとるかまではわからんし、とりあえず二人以上いるのを見たら、UCで引き剥がして武器を握りつぶしとくぞい。
お、こやつ当たりじゃな? てかまだ動くんか? うーん殺すの駄目らしいからのう。ならこうじゃ、手足折ってワイヤーロープで縛っておこう。このロープか? その辺の店で買ったぞ。
「おやおや、大変じゃのー。人の世、いっつも揉めとるイメージあるのう」
どんなに社会やテクノロジーが発達しても、人類は決まって争いを起こす。機械に置き換えた脳を操作して、遠くから人を殺させるとか、随分と手の込んだその技術を別のことに使えんものかと、百鬼・甚九郎(茨鬼童子・f17079)は呆れ顔であった。
「百年も生きれんのにケンカばっかりして大変じゃなあ。もっと楽しく生きたらどうじゃ、って儂、いつも思う」
楽しければ万事オッケーの精神に基づき、刹那的な生き方をする「鬼」から見れば、人間どものやることは理解に苦しむ。まあ依頼として請け負ったからには放っておくこともできないが、どうにも気分がアガらないのが実情である。
「今回も楽しくなさそーな事件じゃのー」
ぶつぶつと文句を言いつつ、右腕から伸ばしたイバラを建物に絡め、蜘蛛男のように街を飛び回る甚九郎。移動しながら「鬼紙」で折った鳥をばら撒いて、どこかに警官がいないか偵察させる。今回の事件では被害者も加害者も警官だということは分かっているので、目星が付けやすいのは助かる。
(つってもパッと見ではっきんぐされとるかまではわからんし、とりあえず二人以上いるのを見たら潰しとくかのう)
疑わしきは罰せよというか、火種は燃え上がる前に消しておくのが吉というか。彼のやり方は強引かつシンプルだ。
事が起きる前に此方から仕掛けたら、それは単に警官を襲う通り魔に見えるが――鬼はそんなもの気にしないのだ。
「失礼するぞい」
「うわッ?!」「な、なんだテメェ!」
ずしん、と音を立てて空から降ってきた緑髪の偉丈夫に、二人の警察官は狼狽する。甚九郎は気にせずに彼らを強引に引き剥がし、所持していた銃をがしりと【鷲掴み】にする。甲冑を付けた鬼の怪力で爪を立てられた銃は、ちり紙のようにぐしゃりと握りつぶされてしまった。
「何をするんだ! 逮捕されたいのか……おい
?」「…………」
それを見た片方の警官は怒りの表情で叫ぶが、もう片方の警官の顔からはスンと感情が消える。直前まで普通の人間と変わらなかったのに、今はまるで人形のようだ。普段通りに行動するようにプログラミングされていただけで、すでに電脳ハッキングを受けていたのか。
「お、こやつ当たりじゃな? てかまだ動くんか?」
「殺す、殺す、殺す」
攻撃を受けたことで本性を表した暴走警官は、壊れた銃のかわりに警棒を抜いて殴りかかってくる。並々ならぬ殺意を感じるが、正直言って鬼を殺せるほどの脅威にはほど遠い。かと言って放置すればもう一人の警官や通行人が襲われるだろう。
「うーん殺すの駄目らしいからのう。ならこうじゃ」
「ぐぎゃッ?!」
甚九郎が軽く力を込めただけで暴走警官の手足がへし折れる。いくら機械化義体だろうが鬼の膂力の前では誤差だ。
物理的に攻撃や抵抗をできなくしてから、その辺の店で買っておいたワイヤーロープで縛り上げる。もともと善良な人間ではないらしいし、この程度の痛い目は日頃の報いだと思ってもらおう。
「これでよいかの? では次に行くとするか」
「あ、アンタなんなんだよ……ま、待てーーっ!」
何が起きているのか説明は一切ないまま、一般警官は甚九郎を問い詰めようとするが、イバラのロープで次の現場へと移動する彼を捕まえることはできない。人の世のルールに囚われない、マイペースな鬼らしい解決法であった――。
大成功
🔵🔵🔵
ベティ・チェン
「マッポーマッポと、シラカワ=サン」
コレがなくてもすぐ死んじゃいそうと思ったのはナイショ
「思考加速に、補助脳。使ってるヒト、多いと思う…多分」
「ただ…」
マッポーマッポの電脳確認
生きたまま開頭手術、出来るのかなあ
「ドーモ、タヌマ=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
肉薄して相手が拳銃を持つ手を拳銃ごと爆砕
銃撃出来ないようにする
敵の攻撃は素の能力値で回避
「シラカワ=サン、タヌマ=サンは、電脳ハック、されてる。ボクは他のシラカワ=サンとタヌマ=サンを助けに行く、から。確保と介助、頼んだ」
手当任せどんどん次の現場へ
合わせて全ての現場を同心円に出来る地点があるかプログラムを走らせておく
「マッポーマッポと、シラカワ=サン」
ウカツに電脳をハックされるような悪徳警官も、メガコーポに目をつけられるような正義警官も、コレがなくてもすぐ死んじゃいそうと思ったことを、ベティ・チェン(
迷子の犬ッコロ・f36698)はナイショにしておく。モラルが崩壊したサイバーザナドゥにおいて、この手の輩は総じて短命なのだ。
「思考加速に、補助脳。使ってるヒト、多いと思う……多分」
戦闘においても日常においても、常にAIの補助が受けられる電脳化の需要は高く、今後も上がり続ける一方だろう。
だからこそ、それを利用した電脳犯罪も増加の一途を辿る。根本的に解決しようと思うのなら、被害者から電脳を取り除くしかないが――。
「ただ……」
不良警官の電脳を遠目に確認して、ベティは「生きたまま開頭手術、出来るのかなあ」と呟く。少なくともそれが可能なレベルの医師や技術者の知り合いは彼女にはいない。ひとたび電脳化手術を受けたなら、元通りの生身の脳に戻るのはかなり難しいだろう。
「……今は、考えないで、おこう」
ベティが受けた依頼は電脳ハッキングによる事件の鎮圧と、主犯であるオブリビオンハッカーの抹殺だ。まずは今、すぐに出来る事から――そう決めた彼女は一陣の風となってサイバーシティを駆け、マッポ―マッポの前に姿を現す。
「ドーモ、タヌマ=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
「なんだ、テメ――……」
今まさに同僚を撃ち殺そうとしていた暴走警官が、銃口の向きを変える間もなく。ベティはアイサツの直後に肉薄すると、拳銃を持つ手に【偽神侵食】の一撃を突き立てる。大剣型偽神兵器よりエネルギーを注ぎ込まれた警官の手は、ねじ切れるように爆散した。
「制御できない痛みを、キミに」
「うぎゃぁぁぁぁっ!!!」
右手と銃を失った警官は、残った左手で殴りかかるが、ニンジャの身体能力と動体視力にかかればハエが止まるような攻撃だ。ひらりと躱しざまに大剣の柄で後頭部を殴りつけ、意識を刈り取る――アイサツからここまで一連の流れに2秒とかかっていない。
「シラカワ=サン、タヌマ=サンは、電脳ハック、されてる」
「な、ハッキング?! 誰がそんな事を……それに君は一体?」
マッポーマッポの鎮圧を完了したベティは、もう一人の警官に手短な説明をする。いきなり同僚に襲われ、見知らぬ少女に助けられた側からすれば、尋ねたい事は他にも山ほどあるだろうが、今は答えている暇がない。同様の事件は他の現場でも起こっているのだ。
「ボクは他のシラカワ=サンとタヌマ=サンを助けに行く、から。確保と介助、頼んだ」
「わ、分かった……あっ!?」
倒した警官の手当てを任せて、ベティはどんどん次の現場へ。被害が大きくなる前に、最速で事件を解決していく。
同時に彼女は、懐の改造スマートフォンにインストールしたプログラムを走らせ、事件が発生した現場のマッピングを行っていた。
(全ての現場を、同心円に出来る地点があるか)
もし、そのような場所が存在すれば、オブリビオンハッカーが潜伏している可能性は極めて高い。手駒だけを操って自分は高みの見物など、断じて許すものか――事件の鎮圧と並行して、次にサンズ・リバーを渡らせるターゲットを、ベティは着実に追い詰めつつあった。
大成功
🔵🔵🔵
キャット・アーク
汚職警官って割とお金を溜め込んでる人もいるから、おねだりすれば大体何でもくれる
汚職してない警官はお金の無い人もいるけど、それでも何かをくれる
オレにとってはどっちでもあんまり変わらない
でも
どっちもオレの
ものだからさ
オレの
縄張りに手ぇ出されるの、ムカつくんだよね
(領土侵犯を腹に据えかねて少々不機嫌)
狩りの時みたいに汚職警官の後ろから忍び寄って、銃を抜こうとする腕に引っ付くよ
(行動強制の上書きを試みる)
ねぇねぇ、そんな怖い物は仕舞って、ご飯でも食べに行こうよ
そっち(善良警官)の人も一緒に行こ
こっち(汚職)の人の奢りで
今ちょっとヤな事あってさ
二人でオレを慰めて、おねがーい
(汚職警官って割とお金を溜め込んでる人もいるから、おねだりすれば大体何でもくれる。汚職してない警官はお金の無い人もいるけど、それでも何かをくれる)
まるで路地裏の野良猫のように、決まった棲家も持たず気ままに生きるキャット・アーク(
路地裏の王様・f42296)にとって、警察官という人種は都合のいい
パトロンだった。それが下心であれ善意であれ、憐れみであれ優越感であれ、くれるモノの価値は同じだ。
「オレにとってはどっちでもあんまり変わらない。でも、どっちもオレの
ものだからさ。
オレの
縄張りに手ぇ出されるの、ムカつくんだよね」
高いビルのてっぺんで、メガコーポの連中がどれだけふんぞり返ろうが気にしない。だが路地裏は彼の王国なのだ。
領土侵犯が腹に据えかねたか、今日のキャットは少々不機嫌だった。誰がやったのか知らないが、この落とし前はつけさせないと気が済まない。
「おい、やめろ! どうしたんだよ!」
「うるせえ。死ねよ」
キャットが縄張りとする路地裏の一角では、今まさに惨劇の幕が開けようとしていた。電脳をハッキングされた不良警官は、ロボットのような無機質さで同僚に銃口を向け、善良な警官がどんなに呼びかけても聞く耳を持たない。自分が異常な行動を取っているという自覚すら無いのだ。
「死……」
「にゃあ」
「なッ?!」
だが、彼がまさにトリガーを引こうとした時、狩りの時のように音もなく忍び寄ってきたキャットが、ぎゅっと腕に引っ付いた。その瞬間、不良警官の電脳に湧き上がってきたのは「この少年を猫可愛がりしたい」という衝動――それはハッキングによる命令を中断されるほどに強い。
「ねぇねぇ、そんな怖い物は仕舞って、ご飯でも食べに行こうよ」
自身の声やボディータッチを通じて対象を籠絡する、これがキャットの【
野良猫が鳴く】だ。圧倒的な武力を持つわけではなく、メガコーポのような経済力もない彼が、路地裏の王にまで上り詰めた原動力のひとつ。その魅力はオブリビオンのハッキングや行動強制すら上書きする。
「そっちの人も一緒に行こ。こっちの人の奢りで」
「あ、ああ、なら行こうか」「チッ、しょうがねえなあ……」
さっきまでの一触即発の空気はどこへやら。キャットが出てきた途端に警官達は二人とも彼の虜になってしまった。
こんな形で事件が阻止されるのは、主犯のハッカーも予想外だったのではあるまいか。目論見がご破産となって悔しがっていれば、キャットとしてはいい気味だ。
「今ちょっとヤな事あってさ。二人でオレを慰めて、おねがーい」
「いいとも」「ああ!」
警官達の間で腕に抱きついてぶらぶらするキャット。本物の猫のような気まぐれな可愛らしさに二人はぞっこんだ。
こうして平和裏に事件を鎮圧してみせた彼は、ついでに新しいパトロンの確保と食事にもありついたのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
トモミチ・サイトウ
アドリブ/連携可
「こんなことが起きるから警察への信用が無くなるんです」(舌打ち)
UCを発動し動きを止めたところで盾で銃弾を受け(ジャストガード+盾受け+鉄壁)、カウンターでシールドバッシュを喰らわせる。
体勢を崩したところを部位破壊で手だけを壊す。
「申し訳ありませんが、これでしばらく大人しくしていて下さい」
現場の警官達から話を聞いているうちに、ある考えに行きつく。
「今回の件、もしや父さんのことにも関係あるのでは?」
義父であるシゲオも、かつてとあるメガコーポの犯罪を追っていたのだった。
「こんなことが起きるから警察への信用が無くなるんです」
良識ある武装警官の一人として、今回の事件に対するトモミチ・サイトウ(レプリカントの武装警官・f42298)の怒りは相当なものだった。不正を嗅ぎ回る目障りな警官を抹殺し、その罪を別の警官に擦り付ける――メガコーポの卑劣なやり口に舌打ちが漏れる。
「とにかく、これ以上は許しません」
警察の名誉と正義を守るためにも、必ずや主犯を裁いてみせると決意を固め、トモミチは事件現場に急いで向かう。
遠くから聞こえる発砲音からして、すでに事件は起きてしまっているようだ。一般人への被害や、死者の発生だけは防がなくてはならない。
「動くな!」
「なッ……なんだ、テメェ」
現着と同時にトモミチは【ホールド・アップ!】を発動し、警察手帳を見せて叫ぶ。同僚に銃を向けていた不良警官が、その一喝で動きを止めた。彼の表情はどこか機械的に「作られた」印象があり、電脳ハッキングの影響は見るからに明らかだ。
「邪魔をするなら……死ね」
「どうやら完全に操られているようですね。仕方ありません」
鈍い動きで銃口を向ける暴走警官に対し、トモミチは「機動隊の盾」を構える。耐衝撃性に優れ、拳銃弾なら十分に跳ね返せる代物だ。暴徒鎮圧は職業柄慣れたものなのか、鉄壁のガードで銃撃を防ぎながらまっすぐに前進していく。
「申し訳ありませんが、これでしばらく大人しくしていて下さい」
「ぐは……ッ!!」
距離を詰めるとシールドバッシュを食らわせ、体勢を崩したところで拳銃を抜き、警官の手だけを狙って破壊する。
武器を使えなくすれば、同業者とはいえさしたる脅威ではない。拘束・捕縛からの鎮圧が完了するまでに、それから大した時間はかからなかった。
「何が起こったのか、お話を聞かせてもらえますか」
「あ、ああ。私もよく分かっていないんだが……」
ひとまず収拾が付いたところで、トモミチは襲われていた警察官のほうに事情聴取を行う。曰く、とあるメガコーポの不正を証拠を押さえるために調査を行っていたところ、同行していた仲間から突然撃たれたとのこと。直前まで彼に怪しい様子はなく、ここまでされるほどの恨みを買った覚えも無いとのことだ。
(今回の件、もしや父さんのことにも関係あるのでは?)
現場の警官から話を聞くうちに、トモミチはある考えに行き着く。彼の養父であるシゲオも、かつてとあるメガコーポの犯罪を追っていたのだが、証拠捏造の容疑を掛けられた挙げ句に
最終死刑囚としてどこかへ連れ去れてしまった。養父を陥れた犯人を捜すことが、彼が武装警官になった理由である。
「どうやら、詳しく調査する必要がありそうですね……」
ハッキング被害にあっただけの警官からは、これ以上の情報はおそらく引き出せまい。真相を追い求めるのなら主犯のハッカーを捕まえる必要がある。この事件を解決すべき理由がまた一つ増えたトモミチは、拳を強く、強く握り締めるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
警官の脳をハッキングしてサイコパスにするとはな
目的は社会的混乱か、あるいは警察権威の完全なる失墜か…
何れにせよ、放置は出来んな
シガールQ1210を装備
使用する弾丸は鎮圧用のゴム弾だ
非殺傷だが、ハンマーで殴られたような衝撃をまともに喰らえばサイボーグでも動きを止める事は出来るだろう
まずはコイツで不良警官の動きを止める
フン、団体でお出ましか
どいつもこいつも、見事に眼が死んでいるな
襲われてた警官を護る様に立ちはだかり、UCを発動
不良警官達の頭に操り糸を打ち込み、同時に呪毒を流し込んで電脳を操作
ハッキングで改竄された電脳データを正常値に戻し、同時に意識を奪う
やれやれ、随分と熱心に仕事をする不良警官だな
ゴム弾とUCで敵を無力化しつつ、余裕があれば電脳にハッキングを仕掛けて敵の情報を抜き出せないか試みる
上手くいけばハッカーを追い詰める手掛かりが拾えるかもしれんからな
最も、下手に触って相手の脳が焼き切れるようなら即座に止めるが
安心しろ、暫くすれば意識も回復する
今のうちに彼らの拘束を頼む
「警官の脳をハッキングしてサイコパスにするとはな」
人体の機械化が当たり前に浸透したサイバーザナドゥだからこそ起こる犯罪に、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は眉をひそめる。加えてハッキングの対象も、それによる攻撃対象も警察官にターゲットを絞っているのがタチが悪い。
「目的は社会的混乱か、あるいは警察権威の完全なる失墜か……何れにせよ、放置は出来んな」
一刻も早く被害を食い止めなければ、状況は悪化の一途を辿るばかりだ。強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"に鎮圧用のゴム弾を装填し、キリカは現場へと急行する。そこには断続的な発砲音と共に、銃を振り回して暴れる警察官の姿があった。
「落ち着け! どうしたんだ!」「殺す、殺す、殺す、殺す……」
「そこまでだ」
二人いた警察官のうち見るからに正気でない方に銃口を向け、トリガーを引くキリカ。非殺傷のゴム弾とはいえ秘術で強化されたソレは命中すればハンマーで殴られたような衝撃を受ける。まともに喰らえばサイボーグでも動きを止めることは出来るだろう。
「ぐッ
……?!」
狙い通り、横槍を入れられた不良警官は同僚からキリカに視線を移した。だが問題はそれだけではなく、周辺からも正気を失った警察官がわらわらとやって来る。どうやら"計画"を妨害する者たちの存在に気付いたハッカーが、近くにいた警察官の電脳を纏めてハッキングしたようだ。
「フン、団体でお出ましか。どいつもこいつも、見事に眼が死んでいるな」
ハッカーの傀儡と化した者達から、キリカは襲われていた警官を護るように立ちはだかり【La marionnette】を発動する。彼女の指先から放たれるのは呪詛を纏った極細の操り糸――肉眼では見えないほど繊細なそれは、不良警官達の頭に打ち込まれ、ケーブルのように呪毒を流し込む。
「うッ、あガががガガガ
……?!」「やめロッ、入っテくルなァッ!」
彼女は電子的なハッキングとは異なる方法で、警察官の電脳を操作するつもりだ。ハッキングで改竄された電脳データを正常値に戻り、同時に意識を奪う。不良警官達はノイズめいた悲鳴を上げたかと思うと、すぐに電源を落としたように大人しくなった。
「邪魔をするな」「テメェから殺……すッ?!」
「やれやれ、随分と熱心に仕事をする不良警官だな」
このように暴走した連中をゴム弾とユーベルコードで無力化していきながら、キリカは余裕をみて電脳にハッキングを仕掛け、敵の情報を抜き出せないかも試みる。上手くいけばハッカーを追い詰める手掛かりが拾えるかもしれない。
(最も、下手に触って相手の脳が焼き切れるようなら即座に止めるが)
証拠隠滅のために強硬手段を取られても困る。相手は決して善人とは言えないが、こんな形で死んで良いほどの悪党でもない。人命に配慮しつつ回収できた情報は断片的なものだが、それでも敵を追い詰める重要な手がかりとなった。
「こ、殺したのか……?」
「安心しろ、暫くすれば意識も回復する」
やがて発砲音が聞こえなくなると、倒れ伏した同僚達を見て、善良な警察官が恐る恐る尋ねる。荒事も起こりがちな職業とはいえ、こんな鉄火場に巻き込まれる機会はそうそう無いだろう。彼の不安を払拭するように、平然とした口調でキリカが答える。
「今のうちに彼らの拘束を頼む」
「わ、わかった!」
大丈夫だとは思うが、また電脳をハッキングされて暴れ出されてはたまらない。急いで手錠を取り出す警察官をよそに、キリカは電脳から引き抜いたデータを確認していた。敵の攻撃を防いだなら、次はこちらから攻め込む番だ――。
大成功
🔵🔵🔵
高岩・凛
【アドリブ改変歓迎】
さて、ハッキングはわかんねえけど現場働きなら俺にもできるし、ちょっとはがんばっかな?
つっても、俺じゃどいつがマトモでどいつがおかしいか、普通にしてたら見分けつかねえしどうすっかな……?
そうだな、だったら……普通じゃねえ状況にしてやりゃ見分けがつくか?
じゃあ[ハッキングエージェント]で脳みそが大作映画になったバカが銃ぶっ放してるとか急行要請を流すか。
場所は……人の来ねえ所がいいな、それなら『事故死』させようってボロ出すだろ。
んで隠れたトコから義手で纏めて頭ぶち抜いて一発だ。……ぶち抜いちゃダメか。射出型の拘束具とかでいいか。来るまでそれのデザインだな。かわいい旗も付けとこう。
「さて、ハッキングはわかんねえけど現場働きなら俺にもできるし、ちょっとはがんばっかな?」
元は警察の機動隊員、そして現在はUDC組織の機動部隊副隊長という、バリバリの現場派である高岩・凛(Actor2・f17279)。頭がおかしくなった、または「おかしくされた」連中を取り押さえるのは職務の内だろうし、この依頼には適任と言えた。
「つっても、俺じゃどいつがマトモでどいつがおかしいか、普通にしてたら見分けつかねえしどうすっかな……?」
事件が起こるのを待っていれば確実に判別は付くが、それだと手遅れになるケースもある。未然に対処するのが理想だが、電脳をハッキングされた人間は自分の意思で行動しているように見えるため、普段通りの生活を送っている間は判別が難しい。
「そうだな、だったら……普通じゃねえ状況にしてやりゃ見分けがつくか?」
そう考えた凛は右腕の義手から可変コネクタを近場の端末に接続し、「ハッキングエージェント」を用いて警察への急行要請を流す。「脳みそが大作映画になったバカが銃ぶっ放してる」とでも誤報を送れば、近場にいた警察官は駆けつけざるを得まい。
「場所は……人の来ねえ所がいいな、それなら『事故死』させようってボロ出すだろ」
すぐに誤報だとバレない程度に情報工作して、もちろん通報者が特定されないよう隠蔽も抜かりない。要請を出した後、彼女は一足先に「事件現場」に向かって、適当な建物の物陰に身を隠した。あとは警察官が来るのを待つだけだ。
「急行要請があった場所はここか? 変だな、誰もいないぞ」
「チッ、バカのイタズラかよ」
ほどなくして現場にやって来たのは二人一組の警察官。同じ制服を着ていても品行の差が態度や雰囲気ににじみ出ており、片や優等生、片や不良といった感じだ。彼らはひととおり周辺調査を行って、通報にあったような事件の痕跡がないことを確認する。
「やはり誤報だったみたいだな。しょうがない、引き揚げよ――」
だが、事件はこれから起こることを善良な警官は知らなかった。さっきまで普通に話をしていたはずの不良警官が、無機質な表情で彼を見て、無言で拳銃を抜く。明らかに正気ではない、されども淀みのない動きで狙いを定めて――。
「そこまでだ。ド派手に吹っ飛ばァす!」
「ごはッ!!?」
その瞬間、物陰に潜んでいた凛が【超大型兵装展開】を起動し、トチ狂った不良警官を一発で吹き飛ばす。今回は頭をぶち抜くわけにはいかないので、使用したのは義手に接続する射出型の拘束具だ。見た目は巨大な手錠のようなデザインである。
「なッ、なんだアンタは?!」
「落ち着けって、助けてやったんだから」
突然同僚を不意打ちされて、何も知らない方の警官は慌てるが、凛はそれを「まーまー」と手で制しつつ不良警官のほうを見る。拘束具で捕まった後もジタバタともがいているが、待機中ずっとデザインまで凝ったそれは簡単に外せるものじゃない。かわいい旗が付いているのがポイントだ。
「お仕事ご苦労さん。まあこれからも頑張れよ」
「あ、おいっ!」
仕上げにゴツンと頭を殴って不良警官を昏倒させると、凛はさっさとその場を後にする。残された警官は疑問だらけの状況に困惑ながらも同僚を放って追いかけるわけにもいかず、「何だったんだよ、一体」と途方に暮れるのだった。
凛からすれば、イカれた警官ひとり捕まえたところで万事解決ではない。同様の事件を阻止し、ハッキング犯をとっちめるまで、仕事はまだまだ続くのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
クレア・ノーススター
「バカだなぁ、そんな事口にしちゃうなんて」
ピンポイントで相方がクラッキング、偶然とは思えない
以前から睨まれていたに違いない
迂闊というか、なんというか
それらしい警官を発見、どうしようかと思案し…
とりあえず、何か違う物で気を引く事に
となれば派手で目立つ物が望ましい
…迷うまでも無かった。路肩に停めて有る誰かの車を使えばいい
PDWのストックで少し離れた所に停まっていた見知らぬセダンの窓を叩き割り、大音量のアラームを鳴らせる
見た感じ安っぽそうな車両だったが、盗難警報器はちゃんとついていた模様
そのまま物陰に隠れ、なんだなんだと現れた警官の背後へ
相方に気づかれない様にしつつ汚職警官を羽交い絞めにし物陰に引きずり込んでは、装備していた銃を回収、不意を突かれて自分も撃たれてはたまったものではない
続いて自身の手首に格納していたケーブルを警官に接続、自身のと警官の電脳を直結させクラッキングを妨害
「やっぱり本職の人程には簡単にはいかないね」
妨害しつつもなんとか犯人の手がかりを警官の電脳から得ようとするが…?
「バカだなぁ、そんな事口にしちゃうなんて」
正義感が仇となった警察官に、そんな感想を漏らすのはクレア・ノーススター(サイボーグの戦場傭兵・f36825)。
メガコーポ関連の事件を調査していた警察官の相方が、ピンポイントにクラッキングされるなど偶然とは思えない。以前から企業に睨まれ、始末する機会を窺われていたに違いない。
「迂闊というか、なんというか」
モラルなきこの世界において正義感は貴重な美徳だが、賢明さと慎重さが伴っていなければ命取りになるという、よくある見本だ。とはいえ依頼を引き受けたからには見捨てるわけにもいかず、取り返しの付かない事態になる前に彼女は調査を開始するのだった。
(……いた。問題はここからだね)
シティを歩き回るうちにそれらしい二人組の警官を発見したクレアは、さてどうしようかと思案する。まさか正直に「あなたの相方、クラッキングされてますよ」と伝えても信じてはもらえまい。本人に自覚がないうえ、異変が起きるまでは第三者からも判別が難しいのが電脳ハッキングの厄介なところだ。
(とりあえず、何か違う物で気を引こうかな。となれば派手で目立つ物が望ましいけど)
ここは囮作戦でいくことにしたクレア、そうなれば迷うまでもなかった。路肩に停めてある誰かの車を使えばいい。
少し離れた所に見知らぬセダンが停まっているのを見つけた彼女は、気取られないようにすうっと移動し――装備していたPDWのストックで窓ガラスを叩き割った。
(見た感じ安っぽそうな車両だったけど、盗難警報器はちゃんとついていたようだね)
たちまち大音量のアラームが鳴り響けば、クレアはそのまま物陰に隠れ、「なんだなんだ」と現れた警官の背後へ。
車上荒らしかと思って駆けつけてきたのだろう、片方の警官は真面目そうな印象だが、もう一人のほうは見るからにだらしのない不良めいた風体だ。
「はぁ……ほっとけよそんな安っぽいクルマなんだ。どうせ大した被害額じゃねえよ」
「そういう訳にもいかないだろ。警官が見て見ぬふりなんてできるかよ」
そんな会話をしながら車を調べる正義警官の背後で、汚職警官は呆れ顔――だが、その片手がゆっくりと腰の拳銃に伸びていく。まるで本人も自覚しなまま無意識に手だけが動いているような所作。どうやらクラッキング犯はこの騒動を好機と見たらしい。
「そんな調子じゃ、テメェ早死に……うッ!?」
しかしその刹那、死角から飛びかかったクレアが汚職警官を羽交い締めにし、相方が気づく間もなく物陰に引きずり込んだ。抵抗される前に速やかに銃を回収して、押さえつける――不意を突かれて自分も撃たれてはたまったものではない。
「大人しくしててよね」
続いて彼女は手首に格納していたケーブルを警官に接続し、自分と相手の電脳を直結させクラッキングを妨害する。
遠隔からの無線操作よりも有線接続のほうがレスポンスでは有利だ。もし接続を介してこちらの電脳まで侵入しようとする場合、【フリーダムブレイズ】が攻性のファイアウォールとして機能する。
「やっぱり本職の人程には簡単にはいかないね」
スキルの差を装備とユーベルコードで補ってクラッキングを食い止めつつ、クレアはなんとか犯人の手がかりを警官の電脳から得ようとする。侵入の痕跡を逆に辿っていけば、大元を特定することも可能だ。とはいえ通常、優秀なハッカーはそんな痕跡を滅多に残さない。
「でも今回は、流石に派手にやりすぎたんじゃないかな?」
慎重かつ入念な調査によって、クレアは犯人の所在をある程度の範囲まで絞り込む。後はこれを他の猟兵の調査結果と照らし合わせれば、確実に追い詰めることができるだろう。悪辣なるオブリビオンハッカーとの戦いは、次の段階に移行しようとしていた――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『高層ビルを上れ』
|
POW : 邪魔するものを蹴散らして、ひたすら階段を駆け上がる。
SPD : 変装する、外壁を登るなど、警備の目を掻い潜って進む。
WIZ : エレベーターをハッキングするなど、ショートカットできるルートを探す。
|
警察官をターゲットにした電脳ハッキング事件は、猟兵達の迅速な対応により無事に鎮圧された。
さらに被害にあった警察官の電脳や事件現場を調査することで、この事件を起こしたメガコーポ及びオブリビオンの手掛かりも得ることができた。
ハッキングを仕掛けてきた大元の発信源は、シティの中心部に立ち並ぶ高層ビルの一つ。
調査によると、その建物はメガコーポ「スパイク・シアン」社が所有するオフィスビルとなっている。
スパイク・シアンは「刺青」による特殊なオブリビオン製造技術を持つメガコーポだ。
ここで生まれたオブリビオンは優秀な兵士や工作員として、企業に利益をもたらすため様々な活動を行っている。
今回のハッキング事件もその一部とみて間違いあるまい。
事件を起こしたハッカーは、このビルの中にいる。
しかし相手もこちらの調査に対して何の備えもしていない事はありえない。
警備や障壁など、厳重なセキュリティが張り巡らされているのは容易に想像できた。
だが、ここまで来て二の足を踏んでいても仕方がない。
行く手を邪魔するものを排除・回避して、犯人に逃げられる前にビルの上階に到達する。それが次のミッションだ。
この機会を逃せば、再びハッカーの尻尾を掴むのは難しくなる――時間との戦いは、すでに始まっていた。
メンカル・プルモーサ
…さーて……次は実行犯を捕まえないとね…
自己判断型伝令術式【ヤタ】にネットを巡回してもらってスパイク・シアン社の情報とオフィスビルの間取りをゲット…
…そしてスーツ姿に軽く変装して普通のカードに現影投射術式【ファンタズマゴリア】による幻を被せ、遅発連動術式【クロノス】で【言の葉を以て曰くは開く】を刻んだ偽装社員証を作成…
…社員でござい…という顔で【言の葉を以て岩戸は開く】を発動させてセキュリティを正規に突破して内部に潜入…
…警備の類は心理隠密術式【シュレディンガー】と【ファンタズマゴリア】を駆使して誤魔化して上階のハッカーがいそうな場所を目指すとしようか…
「……さーて……次は実行犯を捕まえないとね……」
電脳ハッキング事件の情報を掴み、犯人がいると思しき「スパイク・シアン」社のビル前までやって来たメンカル。
外観はごく普通のオフィスビルだが、ここは言うなれば敵の城。相応の備えもなく飛び込むのは自殺行為にあたる。
「ふむ……なるほど……」
そのために彼女は自己判断型伝令術式【ヤタ】にネットを巡回してもらい、スパイク・シアンの情報を集めていた。
調べ方さえ分かっていれば大概の情報が転がっているのがサイバーザナドゥのネットだ。同社の最近の活動実績からオフィスビルの間取りまで、まるっとゲットできる。
「……それじゃ、行こうか……」
情報収集を終えたメンカルはスーツ姿に変装して、現影投射術式【ファンタズマゴリア】による幻を普通のカードに被せ、偽装社員証を作成する。術式効果を物品に付与できる遅発連動術式【クロノス】で【言の葉を以て岩戸は開く】を刻んだことで、実際にカードキーとしても使用できる代物だ。
『社員証をご提示下さい』
ビル前でセキュリティAIに呼び止められた彼女は、さも社員でございといった顔で社員証のユーベルコードを起動。
偽造品とはいえ、ここのセキュリティに対応した正規品と寸分違わぬ代物だ。機械的な検査では見破れなかったようで、すぐに『確認しました。お通り下さい』というアナウンスと共に、入り口の自動ドアが開いた。
「……一応、本当にオフィスビルとしても使われてるのかな……」
難なく潜入を果たしたメンカルが見回したところ、ビルの一階内部は普通の会社らしき雰囲気で、スーツ姿のサラリーマンや警備員の姿が見える。だが、彼らが同僚のふりをして入ってきた少女に声をかけることはない。心理隠密術式【シュレディンガー】の作用により、存在を認識し辛くなっているためだ。
「……この階に用はないし、上階のハッカーがいそうな場所を目指すとしようか……」
事前に調べた間取りの通り、階段やエレベーターを使ってメンカルはビルを登っていく。心理迷彩が効かない機械的なセキュリティに対しては【ファンタスマゴリア】の幻が有効だ。あらゆる感覚器とセンサーを欺く幻惑の術式が、彼女の存在を不可知とする。
「……次の階はサーバールーム……会社にもハッカーにも重要な部屋だね……」
誰にも気付かれず、見咎められもせず、密やかに探索を進めるメンカル。その足はすでにビルの上階に達していた。
異界の術式を操る彼女もまた、情報を司る常識外のハッカーのひとり。果たしてこちらの世界のハッカーと腕前ではどちらが上なのか、両者が邂逅する時はそう遠くないだろう――。
大成功
🔵🔵🔵
李・麗月
ふうん、ここに今回の元凶がいるってわけねぇ。
それじゃあさっさとお顔を拝みに行きましょうかぁ。
指定コードで透明になって警備員に接近して憑依しちゃう。
そのまま元凶の元までご案内してもらうわぁ、らくちんらくちんねぇ。
アドリブ・絡みはご自由で。
「ふうん、ここに今回の元凶がいるってわけねぇ」
灰色の雲に覆われた空を突くようにそびえ立つ、スパイク・シアン社の高層ビルを見上げて、そう呟いたのは麗月。
警察官の電脳をハッキングしたオブリビオンハッカーは、このビルの中にいるとみて間違いない。あとは逃げられる前に追い詰めることだ。
「それじゃあさっさとお顔を拝みに行きましょうかぁ」
ビルには当然厳重なセキュリティが張り巡らされていて、サイボーグの警備員もいる。中に入るだけでも簡単なことではないが――麗月は艷やかな笑みを浮かべたまま悠々と近付いていく。【魂魄転化】により魂魄体となった彼女の体は透明となり、肉眼では視認できなくなっていた。
「はーい、憑依しちゃうわよぉ」
「うっ……なん、だ
……?!」
麗月はそのまま警備員に抱きつくようにして、その肉体に憑依する。【魂魄転化】の真価はただ透明になることではなく、他者に取り憑いて自分への忠誠心を植え付けて、意のままに操作できることにあった。相手が抵抗したのは一瞬で、すぐに心までも彼女の手に堕ちる。
(これで簡単に中に入れるわねぇ)
メガコーポの社員に取り憑いてしまえば誰にも見咎められず、警備やチェックもスルーできる。取り憑いた警備員と一緒にいとも容易くビルに侵入を果たした麗月は、声を出さずにクスクスと笑った。電脳ハッキングの犯人も、まさか自分の部下をこんな方法で乗っ取られるとは思っていまい。
(そのまま元凶の元までご案内してもらうわぁ)
憑依状態を維持したまま、ビルの上階を目指す麗月。道中ですれ違ったスパイク・シアンの社員も、彼女が取り憑いた社員を怪しむ様子はない。とはいえ社員にはそれぞれ仕事に応じた権限があり、ただの警備員には入れないエリアも当然ある。
(まあ、それなら乗り換えればいいだけよねぇ)
移動が行き詰まりになるたびに、彼女はその辺の偉そうな人間と接触し、憑依先を変更する。不信感を持たれないようにする意味でも、こまめに相手を変えるのは効果的だろう。その過程で何人もの男を虜にしては捨てていくさまは、まさに魔性の女だった。
(らくちんらくちんねぇ)
かくして麗月は厳重なメガコーポのセキュリティを素通りして、ハッカーオブリビオンのいるフロアに迫っていく。
おそらく彼女に憑依された社員達は後で大目玉だろうが、その時にはこのビル自体が存続しているかも怪しかろう。猟兵とハッカーが邂逅すれば、ここは間違いなく戦場と化すのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
ベティ・チェン
「サーペントは同類の暗号を読む。ビルの逃走経路は、屋上か、地下。みんなが下から上がる、なら。ボクは上を潰してから、下りる。フロッグ・イナ・ウェル」
雷属性を纏った自分の身長ほどある大剣(偽神兵器)構え高々度からマッハ12でビル屋上に吶喊
屋上にあると思われるヘリ発着場を、あればヘリごと破壊
「上からの強襲。前門のタイガー、後門のバッファロー。さて、キミはどちらに逃げる?」
「ドーモ、サンシタ=サン。ベティ、デス。ゴートゥ・アノヨ!」
上がってくる敵を偽神兵器で斬り捨て、又は敵の攻撃を偽神兵器に喰わせながら階段を下りる
エレベーターはドアごと切断してエレベーターロープ切断
階段しか使えないよう手を回す
「サーペントは同類の暗号を読む。ビルの逃走経路は、屋上か、地下」
電脳ハッキングの犯人がこちらの動きに気付き、逃げ支度を整えている可能性を考慮して、ベティは敵の退路を断とうとしていた。ここまで表に出てこない慎重なオブリビオンなら、逃走経路は複数用意していると考えるのが自然だ。
「みんなが下から上がる、なら。ボクは上を潰してから、下りる。フロッグ・イナ・ウェル」
すでにビルに潜入した猟兵達とは別方向。上と下から敵を挟み撃ちにするために、彼女は屋上からの侵入を図った。
自分の身長ほどもある大剣型偽神兵器に、電気を纏わせて構え――【偽神降臨】を発動したベティはその大剣と共に稲妻と化して空に飛び上がった。
(こうしたビルの屋上には、大抵ヘリの発着場がある)
ユーベルコードによる高々度からマッハ12での強襲。上空からの侵入に備えて対空設備が施されていたとしても、撃墜できるものではない。雷鳴を轟かせながらビル屋上に吶喊したベティは、そこに予想通りヘリポートと発進準備中のヘリコプターを見つけると、着陸地点をそこに定めた。
「雨でも降ってきそうだな。さっきからゴロゴロと……ッ!?」
「イヤーッ!!」
大剣を構えたまま垂直落下してきたベティによって、機体はバラバラに破壊され衝撃波がヘリポートに吹き荒れる。
上司からの命令で整備をしていた社員は不運だったとしか言いようがなく、飛んできたヘリの破片で頭を打って気絶してしまった。
「上からの強襲。前門のタイガー、後門のバッファロー。さて、キミはどちらに逃げる?」
落雷となって大胆なエントリーを果たしたベティは、まだ見ぬ犯人を威圧するように屋上からの階段を下りていく。
これだけ隠密とは無縁の手口を使ったのだ、当然すぐに警備員が駆け上がってくる。その中にはスパイク・シアン社が開発した「刺青」付きのオブリビオンもいた。
「侵入者を発見」「撃て!」
メガコーポに隷属する忠実な社員は、いちいち侵入者に「止まれ!」などと呼びかけたりはせず、即座に発砲する。
アイサツもなしの無粋な対応。だがベティは苛立ちさえ見せずに華麗に弾道を見切り、雷の軌跡を描いて肉薄する。
「ドーモ、サンシタ=サン。ベティ、デス。ゴートゥ・アノヨ!」
「「グワーーーッ
!!?!」」
名乗りと同時に下される死刑宣告。偽神兵器の一閃が警備員を斬り捨て、バラバラの肉片と機械のパーツに変える。
ただの社畜や量産型オブリビオン程度では、ベティの足を止めることはできない。半端な攻撃は偽神兵器に喰われ、ダメージを与えることすらできなかった。
「もうキミは逃げられない、ボクらが逃がさない」
さらにベティは道中でエレベーター乗り場を発見すると、ドアごとエレベーターロープを切断して使用不能にする。
これで上方向に逃げようとする敵は階段を使わざるをえず、別ルートですれ違いにはならない。もはや相手は上下を縛られた袋のネズミだと、ニンジャは一歩一歩、靴音を響かせながら階段を下りていくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
シェリフスター・ワイルドランド
お、ホシの大体の居場所が分かったのか、そいつは助かる
なら突入しようか!
ビルの上か…下から登ってもいいんだが、どうしても時間がかかるな
妨害もあると考えると別の手段がとりたい
他の猟兵は下から行きそうだしな
…ここには高層ビルが立ち並んでいる訳だ
悪いが目標から近い他のビルの屋上をちょっと借りるぞ
あとは目標のビルに飛び移るだけだ
Eシールド展開、ブーストオン!『BARRIER STRIKE』!
邪魔するぞ!ダイナミック強制捜査だ!
後はシールドを張りながら罠を踏み潰しながら足りない階層へ階段を突き進むだけだ!
まぁ、直接上に行ければそれが一番だけどな
※誰かを乗せるのも歓迎
「お、ホシの大体の居場所が分かったのか、そいつは助かる」
電脳ハッキング事件による騒動を鎮圧するために、街を駆け回っていたシェリフスターの元にも、犯人の所在を突き止めたという連絡が回ってくる。ハッキング犯の背後にいたのはスパイク・シアン社、そして同社の持ちビルの一つが敵の拠点になっていたようだ。
「なら突入しようか!」
話を聞いたシェリフスターは進路変更した目的地に急行。その道中、どうやってビル内に侵入するか作戦を考える。
流石に警察車両が中に入るのを許可してくれる企業はないだろうし、結局は強行突破することにはなる。問題は敵が逃げられる前に迅速に追い詰めるることだ。
(ビルの上か……下から登ってもいいんだが、どうしても時間がかかるな。妨害もあると考えると別の手段がとりたい)
他の猟兵達の多くも下からの突入を考えているだろう。それなら自分は上から行けば警備の手も分散するのではないかとシェリフスターは考えた。ハッキング犯がビルの上階のどこかにいるのも考慮すれば、単純な時間短縮にもなる。
「……ここには高層ビルが立ち並んでいる訳だ。悪いが他のビルの屋上をちょっと借りるぞ」
サイバーシティの摩天楼の中から、彼は目標に近くて警備の手薄なビルを選び、屋上まで一気に駆け上がる。高さも丁度スパイク・シアン社のビルと同じくらいで、向こう側の屋上の様子がはっきりと見える。それでも、ただの人間やバイクが飛び移るには距離があり過ぎるが――。
「Eシールド展開、ブーストオン! 『BARRIER STRIKE』!」
ユーベルコードを起動したシェリフスターは自身の機体にエネルギーシールドを纏い、可変式大型イオンブースターに点火する。ロケットのような勢いで急加速した鋼鉄の騎馬は、エンジン音を轟かせながら転落防止のフェンスを突き破り――ビルとビルの狭間に身を躍らせる。
「邪魔するぞ! ダイナミック強制捜査だ!」
そのまま対岸のビルに着地成功した彼は、堂々たる大音声で叫びながら内部に突入。張り巡らされたセキュリティもトラップも踏み潰しながら階段を駆け下りていく。あくまで対人を想定された罠くらいでは、強固なシールドを突破することはできない。
「なッ、なんだコイツ、どこから入っ……うわぁぁぁ!!」
騒音を聞きつけて警備員もやって来るが、爆走する頭脳戦車を止めることはできず。邪魔するものを尽く跳ね飛ばしながら、シェリフスターはまだ捜査されていない階層を上から順に調べていく。下から迫る猟兵と合わせて、ハッキング犯の潜伏場所はどんどん狭まっていく訳だ。
「待ってろよ! 逃がさないからな!」
武装警官の誇りにかけて、狙った犯人は絶対に逃がさない。猟犬の如くビル内を疾走する彼からは、並々ならぬ気迫が感じられた。機械であろうと人間であろうと、熱い正義の魂に違いなどなく――裁きが執行される時は間もなくだ。
大成功
🔵🔵🔵
トモミチ・サイトウ
アドリブ/連携可 POW判定
「念の為捜査令状は確保しておきましたが、彼らが従うとは思えませんね」
正面口から入り、受付に捜査令状を提示。
「ほら来た」
向かってくる警備員たちに咄嗟の一撃を入れ、警備システムは拳銃で破壊。
脚部の出力を上げ、ジャンプするように階段を駆け上る。
「それにしても『刺青』という時点でヤクザとの接点を感じますね。あとで調べをつけてみる必要がありそうです」(第六感)
最上階までたどり着き、拳銃と盾を構えつつドアを蹴破る。
「警察だ!ハッキング容疑で逮捕令状が出ている!無駄な抵抗は止めて出てこい!」
「念の為捜査令状は確保しておきましたが、彼らが従うとは思えませんね」
警察官に対する違法なハッキングに関与した疑いで、スパイク・シアン社が所有するビルの捜査に向かうトモミチ。
この世界において企業の立場は警察よりも上だ。通用しないだろうとは承知の上で、それでも法的な措置に基くことに拘った彼は、正面口からビルに入り、受付に捜査令状を提示するが――。
「ほら来た」
あっという間に警備員がやって来て、出入り口を塞がれてしまった。このビルの中はメガコーポの領土に等しく、たとえ殺人が起きたとしても如何様にも揉み消せる。捜査に応じる気もなければ生かして帰すつもりもないという、何よりも明白な意思表示だった。
「身の程を知らない正義気取りのバカが」「あの世で後悔するんだな……ぐえッ?!」
単独でのこのことやって来た警官を、メガコーポの手先どもは完全に侮っていただろう。そんな連中の鼻っ柱に咄嗟の一撃を入れ、トモミチは拳銃を抜く。こちらは正式な手続きに則り、あちらはそれを無視した。ならば、ここからは自分も遠慮は無用だ。
「テッ、てめぇ!」
「邪魔をするだけ罪が重くなりますよ」
義体脚部の出力を上げ、向かってくる警備員の壁を飛び越えて階段に。たちまち警報が鳴り響き、警備システムが作動するが、彼はそれを銃撃で破壊しながら、跳ねるように上階へと駆け上がっていく。こいつらの逮捕は今はオマケだ――本星であるハッカー犯に、この騒ぎに乗じて逃げられてはたまらない。
「それにしても『刺青』という時点でヤクザとの接点を感じますね。あとで調べをつけてみる必要がありそうです」
拳銃と体術で公務執行妨害を撃退しながら、トモミチは頭の中で今回の事件に関する情報を整理していく。ここまで蹴散らした警備員の中にも、体のどこかに刺青をした奴がいた――あれがスパイク・シアン社の作るオブリビオンか。これをビジネスにしているのなら、想像以上に張った根は深いだろう。
「ですが、今はこちらが優先ですね」
頭を整理しているうちに、彼の足はビルの上階へ。ここまで通ってきたフロアに怪しいものはなかったが、この階は何かが違うと警察のカンが告げている。より一層の警戒を強めて拳銃に弾を込め直すと、盾を構えてドアの前に立つ。
「警察だ! ハッキング容疑で逮捕令状が出ている! 無駄な抵抗は止めて出てこい!」
バンッ! と勢いよくドアを蹴破り、警告を発しながら拳銃を向ける。反応がなければ次の部屋へ向かい、一つ一つ犯人の隠れ場所を潰していく。1階の出入口は勿論のこと、屋上からも別働の猟兵が突入してきており逃げ場はない。確実に、絶対に追い詰める――正義に燃える武装警官の眼は、静かにらんらんと燃え滾っていた。
大成功
🔵🔵🔵
百鬼・甚九郎
ビルを登ればええんじゃろ、簡単じゃなー……ってなんかバリア張られとるんじゃが。弾かれたんじゃが。
まあそりゃそうよな。
んじゃーまあ近くのビルにイバラ引っかけて登ってーの。
足場が脆いからのー、こっから全力ジャンプしてもプラス四階分てとこかの? ギリ足りんのー。
なら羅刹旋風じゃ。隣のビルの屋上でぶおんぶおんイバラ伸ばしながら甲冑腕をぶん回して、勢い付けて本命のビルのてっぺんをガシーッと掴むぞ。
障壁ごとぐしゃっとしてやるんじゃ。まあこの一回掴むだけじゃからいけるじゃろ。
んで引き寄せジャンプで屋上に登るぞ。んで脱出できそうなヘリとかあったら壊してから、上から下に敵さん追い詰める。ゆくぞー。
「ビルを登ればええんじゃろ、簡単じゃなー……ってなんかバリア張られとるんじゃが。弾かれたんじゃが」
上の階に行きたいなら別に中に入る必要はなく、外側からビルを登攀しようと考えた甚九郎。だがメガコーポもそれくらいは対策しているようで、外壁を掴もうとした手は見えない障壁に阻まれる。どんな技術を使っているのか知らないが、護りは厳重そうだ。
「まあそりゃそうよな。んじゃーまあ近くのビルからお邪魔するかの」
そこで甚九郎はまず目標を変更し、スパイク・シアン社のビルとは別のビルにイバラを引っ掛ける。ハッキング事件鎮圧のために街を飛び回っていた時と同じように、イバラをロープにしてビルを登る気だ。こっちの建物にバリアはないらしく、イバラはしっかりと壁に絡みついた。
「よいせっと。ちょい低かったかの?」
蜘蛛のようにするするとビルの屋上まで登りきった甚九郎。ここからスパイク・シアン社のビルに飛び移る作戦だったのだろうが、見てみればそちらのビルは今自分のいるビルよりさらに高い。窓から数えて5、6階分の高低差はありそうだ。
「足場が脆いからのー、こっから全力ジャンプしてもプラス四階分てとこかの? ギリ足りんのー」
怪力無双の羅刹が本気を出せば、こんなコンクリート製のビルの天井なんて簡単に踏み抜いてしまう。それでは跳躍に力が伝わりきらない。折角ここまで登ってきたのに、やり直しか――と思いきや、甚九郎の表情は全然諦めている者のそれでは無かった。
「なら羅刹旋風じゃ」
甚九郎はイバラを伸ばしながら右の甲冑腕をぶん回す。ぶおんぶおんとヘリのローターのように回転するイバラで、ビルの屋上には旋風が巻き起こる。そうして勢いを付けてから、彼は本命のビルに向かって大ジャンプ――ベキィッ、と足元に亀裂を残して、宙に身を躍らせた。
「
応々、行っくぞ~!」
距離も高低差も悠々と飛び越えて、鬼の右腕がビルのてっぺんをガシイッと掴むと、その箇所が障壁ごとぐしゃっとひしゃげる。【羅刹旋風】による強化もあれば、まあこの一回掴むだけじゃからいけるじゃろ、との考えだったが、どうやら上手くいったようだ。
「おー、上はこうなっとったんじゃな」
そのまま甚九郎はイバラを引き寄せる勢いでジャンプし屋上によじ登り、いかにも脱出用ですと言わんばかりに用意されたヘリを見つけると、まずは挨拶代わりにぶっ壊しておく。ここから下に向かって、ビルの中にいる敵を追い詰める算段だ。
「ゆくぞー」
まだまだ力が有り余ってしょうがない、とばかりに腕をぐるぐる回しながら、中に通じる階段を下りていく甚九郎。
ひとたび侵入を許してしまえば、どんな警備員もセキュリティも彼を止められない。堂々たる鬼の行進が向かう先は、果たして――。
大成功
🔵🔵🔵
キャット・アーク
(お腹いっぱいになって機嫌も少し治った)
(何をしに来たのか忘れかけたが、なんとか思い出した)
特に隠れたりもしないで、堂々と正面玄関から入るよ
アポは無いけど、用事があるの
上の階に会いたい人がいるんだ
ね、行ってもいいでしょ?
危険物探知のゲートにタッチしてから通れば何にも引っかからない
監視カメラに手を振って「遊びに来たよー」って声かけとけば警報も鳴らない
こーいう所って職員は楽に移動できるように専用通路があったり、罠解除コード持ってたりとかするよね
そーいうの使わせてほしいなー
いいよって言ってくれた人の所に、後で遊びに行ってあげる、ってご褒美をチラつかせるよ
(本当に実行するかは定かでない)
「あー、お腹いっぱい。ごちそうさま」
懐柔した警官達からたんまり食事を奢られ、腹が満たしたキャット。少し機嫌も治ったついでに、何をしに来たのかまで忘れかけるマイペースぶりだが、なんとか思い出してスパイク・シアン社のビルに向かう。彼のナワバリを荒らしたハッカーが、ここにいるとの情報だ。
「こんにちはー」
特に隠れようともしないで、堂々と正面玄関からお邪魔する。彼のようないかにもストリートの住人らしい少年は、門前払いをくらうのが普通だが――そうならない魅力を持つのが彼の不思議なところだ。相手が警察官からメガコーポの社員になっただけで、やることは何も変わっていない。
「お客様。恐れ入りますが、事前にお約束はされておりましたか?」
「アポは無いけど、用事があるの。上の階に会いたい人がいるんだ」
受付で社員に呼び止められると、キャットはにこやかに笑顔で用件を伝える。【猫に牡丹】の魅了効果にかかれば、ウソを吐く必要すらない。ここにいる連中はメガコーポの社員と言っても下っ端のようだし、ユーベルコードに抵抗できるほどの力は無いだろう。
「ね、行ってもいいでしょ?」
「は、はい……どうぞ!」
一瞬で骨抜きになった社員は「ありがとー」と笑顔で手を振るキャットを見送るだけ。他の社員や警備員も彼の声を聞いただけで同じような調子だ。となれば彼の障害になり得るのは、ヒトの心を介さない機械的なセキュリティだけだが――。
「ここを通ればいいの? わかった」
ビル内に設置された危険物探知のゲートを見ると、キャットはちょんと指先でタッチしてから通る。
機械化義体に換装された彼の体には銃火器なども仕込まれているが、ウンともスンとも反応しない。【猫に牡丹】の効果は生物だけでなく無機物や自然現象にすら及ぶのだ。
「遊びに来たよー」
監視カメラにも手を振って挨拶しておけば警報も鳴らない。本当に友達の家に遊びに来たような気楽さで、キャットはメガコーポの拠点を闊歩する。あとは上階のどこかにいるハッカーを見つけるだけ。問題があるとすれば、1人で歩いて探すにはこのビルが広すぎる事くらいか。
「こーいう所って職員は楽に移動できるように専用通路があったり、罠解除コード持ってたりとかするよね。そーいうの使わせてほしいなー」
さらにラクをするためと時間短縮のために、キャットはちょっと偉そうな社員を見つけておねだりしてみる。普通なら即座に突っぱねられるはずなのに、野良猫のような気まぐれさと愛くるしさで、図々しさを感じさせない。逆にそれも魅力の一部だと思わせてしまう。
「いいよって言ってくれたら、後で遊びに行ってあげる」
「じゃ、じゃあ、これを……!」
トドメにご褒美をチラつかせれば、社員は興奮気味にカードキーを差し出した。これが専用通路を使うカギらしい。
キャットはにっこり笑って新たな
パトロンにウィンクを贈り、カードを持ってビルの上階に向かう。もちろん、ここでの約束を彼が本当に実行するかは定かではない――。
大成功
🔵🔵🔵
ルナ・シュテル
此方のビルがハッキングの発信源との事。
目標の捜索を開始します。
敵もまたハッカーとなれば、電脳戦を挑むには相応の備えが必要。
即ち手数です。
奉仕者的新定義を発動、LucyDoll達を同型機化し、私の補助を命令して彼女達に天上天下の二十の業を発動させます。
後は【ハッキング】にてビル内の防御設備を無力化、隔壁やロックも解除していきます。
敵の妨害は同型機達に【カウンターハック】で抑え込ませ、制御奪取状態を維持。
監視システムを覗き込んでの敵の居場所の特定。
ビルの構造データ窃取による敵の逃走ルートの想定と対処。
可能な範囲にてこれらの情報を集めつつ、敵のもとへ向かいましょう。
「此方のビルがハッキングの発信源との事。目標の捜索を開始します」
事件の鎮圧と電脳の調査を経てたどり着いた、メガコーポ「スパイク・シアン」社のオフィスビル前で、ルナはホログラフキーボード「Conceptual」を起動する。強固なセキュリティに守られた敵拠点を攻略するために、電子的なアタックを仕掛ける気だ。
「敵もまたハッカーとなれば、電脳戦を挑むには相応の備えが必要。即ち手数です」
そのために連れてきたのは十三体の簡易量産型バイオロイド「LucyDoll」。ルナの意思に従って自立稼働するだけの傀儡だが【奉仕者的新定義】を発動することで自我を持った個体にアップデートされる。文字通りの手数のみならず、頭脳の数もこれで人数倍だ。
「目覚めなさい、誰でもなかった姉妹達よ。今この場に於いては、貴女達もまた『タイプ:ルナ』なのです」
「「タイプ・ルナ各機、只今より全霊を以て命令の完遂に当たります」」
覚醒した同型機達に補助を命令すると、彼女らは【天上天下の二十の業】を起動し、ハッキングに必要な各種機器を出現させてサポート体勢を整える。各員の準備が完了したのを確認すると、ルナはスパイク・シアン社のセキュリティシステムに攻撃を開始した。
「ビル内の防御設備を無力化、隔壁やロックも解除していきます」
モニターに表示される数値やプログラムが目まぐるしく変化し、書き換えられていく。システムに潜んだ脆弱性を突き、時には人数にものを言わせて強引に突破する。元が同型機であるがゆえの並列処理と効率化によって、パスワードやファイアウォールも即座に解析していった。
「攻撃を受けている……?! 一体どこのハッカーだ!」「すぐに応戦しろ!」
自社ビルへのハッキングを確認したスパイク・シアン社も、子飼いのハッカー達に対応を命じる。その中には先刻の電脳ハッキング事件を起こした犯人も含まれているだろう。電脳世界における顔の見えない戦争は、すぐに激化する。
「妨害が来ます、抑え込んで下さい」
「「了解しました」」
侵入経路を辿って逆にこちらのシステムを乗っ取らんとする、敵の反撃を同型機達がカウンターハックで阻止する。
セキュリティの制御奪取状況は全体の45%程度。ルナはその状態を維持しながら監視システムを覗き込み、ビル内の映像を眼球の「BloodyTears」に投映する。
「ハッキング犯の所在は……この階層が怪しいですね」
カメラの映像を何度切り替えても、それらしい人物の姿は見つからない。だが「そこには居ない」という情報が逆にターゲットを特定する手掛かりになる。意図的に作られたと思しき監視システムの盲点を、ルナはハッカーの居場所と推測した。
「ビルの構造データを窃取しました」「敵の早々ルートの想定と対処も実行済みです」
「ご苦労様です。では、敵のもとへ向かいましょう」
同型機と共に可能な範囲で必要な情報を集めきった彼女は、いよいよ物理的な侵入を開始する。道中のセキュリティはこれまでの過程で全て無力化されており、妨害要素は一つもない――紅い光を放つバイオロイドの瞳は、目的地をまっすぐに見据えていた。
大成功
🔵🔵🔵
高岩・凛
【真梨木・言杷と共闘】
ったく殴ってどうにかなんなら得意分野だけどよぉ!キリがねえんだよどんだけいんだこいつら!よく飽きねえな!
ほらまた出てきやが……あ?見たことあるツラだな、まあいいや手ぇ貸せや!足りねえんだ!なにせ右が無えからよ!
はー……バックアップいっと楽だなさすがに。後は上に登りゃあいいだけか?なんか妙案あるんだろ先生よぉ?な?そうだろ?どうにかなんねえ!?もうおかわり来てんだよ!
時間稼ぎ!?時間稼ぎねはいはいはい!やりゃいいのな!?あーもうしょうがねえヤケだ![ハザードライバー・リゲイン]!で【Regainst】起動!きっついんだよコレ!あーもう何百秒でも稼いでやるよクソッタレがよぉ!
真梨木・言杷
【高岩・凛との共闘】
敵の根城はスパイク・シアンの摩天楼、か……警官が仲間割れするさまを高みの見物といった具合かな。だけど……先に突入して暴れている猟兵がいるらしい。混乱に乗じてビル内へ侵入する。
っ!?……なんだ、敵かと思ったよ。……でも好都合だ、戦闘は彼女に任せよう。
手を貸すよ、右手なら10本ある。NiNEProxyを使用。設定する技能は【ハッキング】。トラップや警備システムをハックして凛を援護、上層階まで繋がるエレベータを目指す。
エレベータ前まで辿り着けたら、制御システムに侵入して警備ごと一気に制圧する。私含め全機の演算能力を総動員するから、きみは少し時間を稼いで欲しいな。30秒あればいい。
「敵の根城はスパイク・シアンの摩天楼、か……警官が仲間割れするさまを高みの見物といった具合かな」
いかにもメガコーポらしい陰湿な手口に、顔をしかめながらビルを見上げるのは言杷。建前上はオフィスビルということになっているが、企業が巨額を投じたセキュリティと警備システムに守られたこの建物は、まさに現代の城砦だ。簡単に攻略できるとは思わないほうがいい。
(だけど……先に突入して暴れている猟兵がいるらしい)
耳を澄ませるまでもないレベルで、中から聞こえてくる銃声や戦闘音。どうやら先客が派手な歓迎を受けているようだ。誰か知らないがこちらとしては好都合――対応に追われる社員や警備の混乱に乗じて、彼女はビル内へ侵入する。
「ったく殴ってどうにかなんなら得意分野だけどよぉ! キリがねえんだよどんだけいんだこいつら! よく飽きねえな!」
一方その頃、凛はスパイク・シアン社のビル内にてドンパチの真っ最中だった。相手は体のどこかに刺青を刻んだ、警備用量産型オブリビオンの集団。実力は大したことないのだが数だけはやたらと多く、倒しても倒しても道を塞がれるのでイライラして仕方ない。建物に仕掛けられた障壁やトラップも地味に邪魔だ。
「ほらまた出てきやが……あ? 見たことあるツラだな」
「っ!? ……なんだ、敵かと思ったよ」
そんな鉄火場でふいに遭遇した二人の猟兵。曲がり角から出てきた小柄な影を、凛は敵かと思ってぶん殴りかけるが――ギリギリでそいつの顔に見覚えがあるのに気付き、拳を寸止めする。あわや出会い頭にぶっ倒されるところだった言杷も、相手の顔を見ればほっとした様子でネイルガンの銃口を下げた。
「まあいいや手ぇ貸せや! 足りねえんだ! なにせ右が無えからよ!」
ここで顔見知りの二人が鉢合わせたのは偶然だが、受けた依頼と目的は同じだ。挨拶もそこそこに敵との殴り合いを再開した凛は、有無を言わさぬ勢いで叫ぶ。いきなり乱闘に巻き込まれた相手に手を貸せというのもなかなか無茶振りではあるが。
「……でも好都合だ、戦闘は彼女に任せよう」
凛の腕っぷしの強さに関しては言杷も知っている。数の多さに手こずっているだけで、ケガらしいケガを負ってないのがその証拠だ。ここはサポートに回ったほうが速く目的を達成できるだろうと判断した彼女は、【NiNEProxy/九字護身・傀儡子形代.bak】を起動する。
「手を貸すよ、右手なら10本ある」
9体の身代わり義体と共に印を組み、呪言を紡いで社内ネットワークに悪性情報を流し込む。お得意のハッキングで付近のトラップや警備システムを掌握した言杷は、それを用いて凛を援護する。これまで攻略の大きな障害となっていた設備が、一転して自社の警備員に牙を剥きだした。
「な、なんだ!? システムのエラーか……ごふッ?!」
「はー……バックアップいっと楽だなさすがに」
システムの反逆に動揺する警備の連中を、凛が片っ端から叩きのめす。さっきまでの圧が一気に軽くなって、彼女も戦いやすそうだ。現実改変機構剣「ヒュームブレイカー」で敵を斬り伏せ、アームキャノンで進路をこじ開ける、その暴れっぷりは鬼人が如し。
「この先に上層階まで繋がるエレベータがある。そこを目指そう」
「おうよ!」
フォワード担当の凛とバックアップ担当の言杷は、即席ながらも役割分担のできたチームプレイでメガコーポの警備網を突破していく。ハッキングで奪取した見取り図に従って、二人がエレベータに辿り着くのはそう難しくなかった。
「後は上に登りゃあいいだけか? なんか妙案あるんだろ先生よぉ? な? そうだろ? どうにかなんねえ!? もうおかわり来てんだよ!」
だが相変わらず警備オブリビオンの人海戦術に終わりは見えない。そして当然と言えば当然だが、このような状況で侵入者に利用される恐れのあるエレベータは停止させられている。ここで上に昇れなければ、二人は袋小路で敵に包囲されるわけで――凛が必死に焦るのも無理はなかった。
「今から私含め全機の演算能力を総動員するから、きみは少し時間を稼いで欲しいな。30秒あればいい」
しかし言杷は冷静に、少なくとも表面上は焦りを見せず、エレベータの操作パネルにコネクタの五寸釘を撃ち込む。
ここから制御システムに侵入して、警備ごと一気に制圧するつもりだ。これまでのハッキングとは段違いに難易度が高いため、思考を集中する必要がある。その間無防備な彼女を護れるのは凛だけだ。
「時間稼ぎ!? 時間稼ぎねはいはいはい! やりゃいいのな!? あーもうしょうがねえヤケだ!」
イヤと言ったところで敵の袋叩きにあうだけだ。ヤケクソじみたテンションで怒鳴りながら、凛は腰に巻いたベルト型制御ツール「ハザードライバー・リゲイン」を起動。覚醒化義肢展開形態に変身する【Regainst】を発動させた。
「きっついんだよコレ! あーもう何百秒でも稼いでやるよクソッタレがよぉ!」
スマートな黒銀の装甲で全身を覆った凛は、悪態を吐きながら大暴れを始める。装着者の精神力をパワーに変換するこの形態は、彼女がキレればキレるほど出力を増す。その戦闘力たるや、剣を薙いだ風圧だけで警備のオブリビオンが吹っ飛ばされるほどだ。
「なッ、なんだコイツ、ヤバ過ぎる?!」「もっと応援を……」
「これ以上呼ぶんじゃねぇよクソが!!」
救援要請を出そうとしているヤツは優先的に叩き潰し、エレベータにいる言杷には誰も近付けさせない。職務に忠実なスパイク・シアンの社畜達も、流石にこの剣幕と強さにはビビり気味だ。すぐ目の前でハッキングが進行中だと分かっていても、まったく手出しできない――。
「システムの制圧完了。もういいよ、ご苦労様」
「やっとかよ! 次は勘弁しろよな!」
そうしている内に言杷の伝えた30秒はあっという間に過ぎ、停まっていたエレベータが再起動する。扉が開いた瞬間に凛は中に駆け込むと、別れ際の駄賃代わりにアームキャノンを発砲。精神力で増幅された生命エネルギー弾が、残存する警備員を消し飛ばす。
「さっさと行こうや!」
「わかっているよ」
この先で障害となりうる要因はまとめて制圧済み。移動途中でエレベータを止められて立ち往生になる心配はない。
言杷が端末をタップすると扉が閉まり、二人を乗せたエレベータは勢いよく上階に昇っていく――ここを超えれば後はもう、電脳ハッキング犯の居場所はすぐそこだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クレア・ノーススター
「へぇ、ここが…」
誰かのセダンでビルの周りを一周
侵入できそうな裏口を探すもそう簡単にはいかない模様
裏口の傍、監視カメラの死角ギリギリに停車
ボンネットを開いてエンジントラブルのふり
自分の制服の胸元を少しだけ緩めて申し訳程度の色仕掛け
そういう義体ではあるがカスタムの内容が戦闘寄りなので、あまり頼りにはならないが
「ボクの車が動かないんだ。手を貸してくれないかな」
社員に声をかけてみる
正確には盗難車だが
エンジンがかからないんだと言いながら車の傍へ連れ込んで、覗き込ませてはノックアウト
上着とIDカードを失敬して侵入を試みる
成功したらハッキング
火災警報を誤作動させ、同時に消防に通報し混乱させる
ついでに、セキュリティが厳しかったりハッキング機材の有りそうな部屋の位置を調べる
スプリンクラー大放水のおまけつき
エレベーターを自分の乗る一台を除いて停止させれば、スプリンクラーの大雨を掻い潜って飛び乗る
この場の全員と戦うのは無理だ、こうやって無理矢理隙を作る他ない
PDWの初弾を装填しながら、ハッカーのいるフロアへ
「へぇ、ここが……」
誰かから拝借したセダンに乗って、ビルの周りを一周するクレア。スパイク・シアン社の持ちビルだというそれは、外観としては普通のオフィスビルのようで、まさかハッカーの根城には見えない。だが、ここが電脳ハッキング事件の犯人がいるという情報は確かである。
「外向きの監視も厳しいね」
侵入できそうな裏口を探すも、そう簡単にはいかない模様。すぐに見咎められ騒ぎになるのは避けられなさそうだ。
いざとなれば強行突破も視野の内だが、本命とあたるまでは弾も時間も使いたくない。そう考えた彼女は敵を欺くために一芝居うつことにした。
「この辺りでいいかな」
クレアはビルの裏口の傍、監視カメラの死角ギリギリに車を停めて、ボンネットを開いてエンジントラブルのふりをする。ついでに制服の胸元を少しだけ緩めて、申し訳程度の色仕掛けも準備オーケーだ。元々そういう用途の義体ではあるが、戦闘寄りにカスタムしてあるので、あまり頼りにはならないが。
「ボクの車が動かないんだ。手を貸してくれないかな」
「なんだって? こんな所でかよ」
付近を通りがかった社員に声をかけ、さも困っているような演技をする。正確には道中拾ってきた盗難車なのだが、相手にそんな事は分かるまい。見知らぬ緑髪の美女とエンストした車を見た社員は、"困惑"と"面倒"と"下心"がブレンドされた反応を示した。
「エンジンがかからないんだ。頼むよ、お礼はするからさ」
「仕方ねえなあ……」
怪しまれない程度の強引さと謝礼の匂わせで、うまく相手を車の傍まで連れ込むクレア。なにも知らない社員は警戒心を緩め、開け放たれたボンネットを「どれどれ?」と覗き込むが――その背後で車の持ち主が、銃を構えているのに気付かない。
「失敬」
「がっ!?」
ストックで後頭部を一撃された社員は、短い悲鳴を上げてノックアウト。クレアはのびた相手の懐をごそごそと漁ると、IDカードと上着を拝借する。これがあればビルに入るためのセキュリティはクリアできるはずだ。奪われた社員は後で大目玉だろうが、危機感の足りなかった本人の自業自得だと諦めてもらおう。
(上手くいったね)
気絶した社員と盗難車を置いてビルへの侵入を試みたクレアは、服装とIDカードのおかげで怪しまれず中に入ることができた。だが一般社員のIDでは社内の重要なスペースには立ち入れまい。ここからは逆に内から騒動を引き起こし、敵を撹乱する時間だ。
「うわっ! なんだよ!」「火事か?!」
社内システムにハッキングをかけ、まずは火災警報を誤作動させ、同時に消防に通報する。ジリリリリリリッ!! と鳴り響く大音量の警報に、社員達は何が起こったのかと困惑気味だ。紛れ込んだ不審者になど目が行くはずがない。
「冷たっ!?」「ちょっと、何よコレ!」
おまけにスプリンクラーの出力を全開にして大放出しれやれば、ずぶ濡れになった社員による混乱はさらに広がる。
この間にセキュリティの厳しいフロアやハッキング機材のありそうな部屋の位置を調べたクレアは、人の目を避けて移動を開始する。
(この場の全員と戦うのは無理だ、こうやって無理矢理隙を作る他ない)
スプリンクラーの大雨を掻い潜ってエレベーターに飛び乗り、急いでドアを閉じる。同じ手段で追いかけて来られないように、これ以外の台は停止させておくのも忘れない。敵に本職のハッカーがいるのなら、この程度の細工はすぐに復旧されるだろうが、時間稼ぎになればそれで良い。
「さて、犯人の顔を見に行こうか」
PDWの初弾を装填して、エレベーターが止まると同時に走りだす。ここが件のハッキング犯のいるフロアのはずだ。
色々と手間もかかったが、この仕事もいよいよ最後の大詰めが近い。全身に警戒心を漲らせた何でも屋の口元には、静かな微笑が浮かんでいた――。
大成功
🔵🔵🔵
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
フン…事件の影にメガコーポ有り、か
先の不良警官達の頭を覗いた時点で、見当は付いていたがな
UCを発動
まずは電子戦ポッドを搭載した小型ドローンを数機召喚
ビル入り口のセキュリティカメラに取り付き、リンクケーブルを接続
そのまま正門前カメラのデータリンクをハッキング
私をスパイク・シアンの重要人物と誤認させて、入口を通過
同時にドローンをコートの内側に忍ばせる
よし、入口はクリア…
次は受付だな
スマートウォッチを見る振りをして、マッキナ・シトロンでドローンを操作
無線LANから受付のデータをハッキングして上階への訪問予定者の欄に、事前に購入しておいた仮の個人情報を書き加える
確かにセキュリティは厳重だが、こちらの装備した軍用の電子戦ポッドの前では安い壁紙と同じだな
エマ・キーストンよ
今日、こちらにアポイントメントを取っているのだけど…
仮名を名乗り、指に張り付けた偽の指紋フィルムで生体認証を行う
怪しまれないように自然に振る舞い、受付を突破しよう
あとは敵を追い込むだけだが…
一体、何が出てくるやら
「フン……事件の影にメガコーポ有り、か。先の不良警官達の頭を覗いた時点で、見当は付いていたがな」
この世界で起こるほとんどの陰謀には、直接間接問わずメガコーポの関与がある。電脳ハッキング犯の正体がスパイク・シアン社のオブリビオンだと判明しても、キリカには今更驚くことでもなかった。連中の悪巧みを叩き潰すのも、もはや平常運転となった猟兵の仕事だ。
「さぁ、行ってこい」
彼女は【Abeille】を発動し、手始めに電子戦ポッドを搭載した小型ドローンを数機召喚する。メガコーポのビルは要塞の如きセキュリティで守られており、強行突破しようとすれば消耗は避けられない。迷宮に挑む探索者のように、まずは"鍵開け"から始めよう。
「リンクケーブルを接続、データリンクのハッキングを開始する」
キリカが飛ばしたドローンはビル入り口のセキュリティカメラに取り付き、認証システムに細工を仕込む。自分の姿をスパイク・シアンの重要人物と誤認させれば、中に入っても咎められないだろう。この程度のハッキングなら大した時間はかからない。
「これで行けるはずだ」
細工を済ませたキリカは堂々と背筋を伸ばしてビルに向かう。入口を通過する瞬間は流石に緊張があったが、警報が鳴ることも警備員が駆けつけて来ることもなく、カメラは沈黙したままだ。もちろん、コートの内側に忍ばせた銃器やドローンなどの装備品もスルーである。
(よし、入口はクリア……次は受付だな)
ビルに入ったキリカはスマートウォッチを見るフリをして、マシンブレスベルト「マッキナ・シトロン」でドローンを操る。今度は社内の無線LANから受付のデータをハッキングして、上階への訪問予定者の欄に、事前に購入しておいた仮の個人情報を書き加えた。
(確かにセキュリティは厳重だが、こちらの装備した軍用の電子戦ポッドの前では安い壁紙と同じだな)
慣れた手際で速やかにハッキングを完了させたキリカは、やはり何喰わぬ顔でドローンを回収すると受付に向かう。
別のメガコーポの役員や資産家をイメージし、怪しまれないよう自然に振る舞う。元よりここを潰す気で来たのだ、顔色など窺わずに堂々としてればいい。
「エマ・キーストンよ。今日、こちらにアポイントメントを取っているのだけど……」
「確認しますので、少々お待ち下さい」
偽名を名乗るキリカに話しかけられた受付嬢は、ホロウィンドウを開いて本日の訪問予定者を確認する。「あら?」と一瞬首を傾げたのは、それが記憶にない名前だったからだろう。しかしリストには確かに「エマ・キーストン」の名が記載されている。
「……確認しました。生体認証を行いますので、こちらに指を当ててください」
データを改竄された疑いよりは自分の記憶のほうに疑問を持ったか、受付嬢は通常通りの業務を続けることにした。
もちろん、指に張り付けた偽の指紋フィルムで生体認証対策も万全だ。タッチパネルに指を当てるとピッと音が鳴って、ランプが青く点灯する。
「ありがとうございました。どうぞお通りください、エマ様」
「ええ。ありがとう」
全認証を難なくクリアして受付を突破したキリカは「ゲスト」として正々堂々、上階に繋がるエレベーターに乗る。
ハッキングの形跡が見つかるまでは、内部のセキュリティや警備員も、彼女を攻撃してこないだろう。まさにフリーパス状態だ。
「あとは敵を追い込むだけだが……一体、何が出てくるやら」
この先にいるのは、多数の警察官の電脳を操れるほどの腕利きのハッカー。猟兵にとっても危険なオブリビオンには違いあるまい。ここまで来て最後の大詰めを油断するわけにはいかないと、キリカは気を引き締めて拳を握り締めた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『刺青スレイブ・社外秘S型』
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POW : 伝染――闇墜ち刺青
指定した対象を【刺青奴隷】にする。対象が[刺青奴隷]でないならば、死角から【魂の暗黒面「ダークネス」を呼び起こす刺青】を召喚して対象に粘着させる。
SPD : 刺青スパイの逃走術
【自身、および自身が闇墜ちさせた奴隷の刺青】からレベル個の【刺青の複写】を放ち、視界内に配置する。[刺青の複写]を消すと、それがあった場所に瞬間移動する。
WIZ : 陽動指令
【周囲に潜伏中の奴隷や、予め仕掛けていた罠】を解放し、戦場の敵全員の【注意力や思考力】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
👑11
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「もうここを突き止められるとは。予想よりも32分17秒、速い」
電脳ハッキング事件の犯人を追い詰めるため、メガコーポ『スパイク・シアン』社のビルに突入した猟兵達。
セキュリティを攻略して彼らが辿り着いたフロアには、ビジネススーツに身を包んだサイボーグの女性がいた。
「あなた達のお名前は存じませんが、優秀な工作員には違いないようです。『撤退』は間に合わないとみて、方針を『迎撃』に切り替えたのは正解でした」
彼女が左腕の手袋を外し、袖を捲ると、そこには華のようなデザインの「刺青」がある。
スパイク・シアン社製『刺青スレイブ・社外秘S型』。それが彼女の名前だ。
同社の秘密工作員として多種多様な「汚れ仕事」を担い、企業の敵を排除するオブリビオンである。
「ワールドハッキングプログラム起動。【刺青所有者以外の侵入禁止】を
法則に設定」
社外秘S型は猟兵達の前で端末を操作し、フロア内の空間をサイバースペースに置換し、物理法則を支配下に置く。
おそらくはワールドハッカーが使用するユーベルコードと同種。世界を書き換える恐るべきハッキング技術は、彼女が警察官の電脳をハックした犯人である何よりの証拠だった。
「速やかにご退場いただければよし。さもなくば……ここで死んでいただきましょう」
彼女は【刺青所有者以外の侵入禁止】の法則を戦場に適用した上で、通常のユーベルコードで攻撃を仕掛けてくる。
ルール自体に強制力はないが、違反者は全ての行動成功率が低下する。つまり彼女に戦いを挑むのなら、「刺青」を持たない猟兵の弱体化は避けられない。
どうにかしてルールの穴を突くか、弱体化覚悟で正面から戦いを挑むか。判断は各猟兵に委ねられる。
いずれにせよ、ここまで追い詰めた犯人を逃がす選択肢はない。
「刺青スレイブ・社外秘S型。任務を遂行します」
淡々と日々の業務記録を読み上げるように、開戦を告げるスパイク・シアンの走狗。
彼女が担う忌まわしき陰謀を断つために、猟兵達も戦闘態勢に入った――。
シェリフスター・ワイルドランド
工作員じゃない、警察だ!
後でしっかりと調べて、逮捕への足掛かりにさせてもらうからな!
今はこの場を制圧させてもらうぞ
このワールドハッキングプログラムもUCによるものと判断させてもらうぞ
Eシールド展開、『SHIELD ATTACK』だ!
歪な法則の戦場なんて、仕掛けられた罠ごと俺の
脚で
踏み均し
立ち塞がる全てをものともせずにぶつかるぞ!
俺がいる以上、そう簡単には逃さんぞ!
※誰かを乗せるのも可
「工作員じゃない、警察だ! 後でしっかりと調べて、逮捕への足掛かりにさせてもらうからな!」
どこぞの別企業の手先だと思われるのは心外なのか、敵の誤解にはきっちりと訂正を入れるシェリフスター。ついに追い詰めた電脳ハッキング事件の実行犯に、正しき法の裁きを受けさせる事こそが、武装警官たる彼の使命であった。
「今はこの場を制圧させてもらうぞ」
「そうはいきません。まだ仕事が残っているので」
対する『刺青スレイブ・社外秘S型』の使命は、スパイク・シアン社の社命に従うことだ。そこに善悪の区別はなく、組織の歯車として力を行使する。彼女が組み上げたプログラムは現実を侵食し、スパイク・シアンの社員に絶対有利な空間を作り上げていた。
「このワールドハッキングプログラムもユーベルコードによるものと判断させてもらうぞ。Eシールド展開、『SHIELD ATTACK』だ!」
刺青所有者以外の侵入を禁止するプログラムに対し、シェリフスターは対抗するユーベルコードを発動。強固なエネルギーシールドを全面に張って、フルスロットルで突っ込んだ。歪な法則の戦場なんて、自らの
脚で踏み均してやろう。これが彼のスタイルだ。
「まさか、そんな力技が……」
正面から突っ込んできた頭脳戦車に社外秘S型は驚くが、事実として彼の突進によってワールドハッキングプログラムは相殺されていた。物理法則を書き換えるほどの異能をもってしても、それ単独で猟兵を止めることはできなかった。
「ですが、仕込みはまだあります。皆さん、仕事の時間です」
「「おおおおおおっ!!」」
社外秘S型が【陽動指令】の合図を出すと、室内に仕掛けられていた罠が作動し、潜伏していた刺青奴隷が姿を現す。
猟兵がビルに突入してからの僅かな時間で、これだけの準備を整えていたのか。彼女もこれでトドメを刺せるとは思っていないが、注意力や思考力を奪えれば逆転のチャンスが生まれる。
「どいたどいた! 公務執行妨害だぞ!」
「「ぐへえッ?!」」
だが、シェリフスターは決してアクセルを緩めない。足止めのトラップも掴みかかってくる奴隷も、立ち塞がる全てをものともせずにぶつかって、なぎ倒していく。頑丈なシールドはこれでもビクともしないし、彼の注意は常に本命のホシから外れない。
「俺がいる以上、そう簡単には逃さんぞ!」
パトランプのように輝くアイライト、唸るホイールとイオンブースター。縦横無尽にフロアを駆けて、犯人に圧をかけるシェリフスター。燃える鋼の正義感は止まることを知らず、ここにきて逃亡を許すような隙など微塵もなかった。
「しつこいですね……っ」
機械めいた鉄面皮の社外秘S型も、これには微かに眉をひそめる。面倒な警官が出張ってきたと思っているだろう。
彼女は突進を躱そうとしたものの避けきれず、壁際に跳ね飛ばされる。逃走経路からさらに外れた袋小路へと――。
大成功
🔵🔵🔵
百鬼・甚九郎
ん? ん~?
サイボーグか? ロボか? どっちじゃ?
わからんの~。まあええか、今は関係ないわけじゃし。
ほーん、UC重ねがけってわけか。ずっこくない?
あー、弱体化するんか。つってものー、儂、その入れ墨趣味じゃないのー。
なら退却するかの。さらばじゃ。(窓から飛び出して去る)
と、見せかけて。儂は隣のビルの壁面にしがみついておる。
さすがに隣のビルまでは「戦場」に入らんじゃろ。
んでこっから目標の嬢ちゃん目掛けて、射程五倍のイバラ刺突!
遠距離狙撃じゃな。本体移動力半分じゃが。
儂以外にも猟兵おるからのー、おらん奴警戒しとるヒマはなかろうよ。
鬼も騙し討ちする時代よなあ。これも学習ってやつかもしれんの。わはは。
「ん? ん~? サイボーグか? ロボか? どっちじゃ?」
人間的な情緒に乏しく、淡々と職務を遂行しようとする『刺青スレイブ・社外秘S型』は、甚九郎の目にはヒトか機械か区別が付かなかった。ただでさえこの世界はその二つの境目が曖昧だというのに、心までこんなに冷たくてはややこしい事この上ない。
「わからんの~。まあええか、今は関係ないわけじゃし」
どっちにせよ眼の前のヤツが電脳ハッキング事件の犯人だと分かっている以上、ぶちのめしてしまえば解決である。
巨大な鬼術甲冑に包まれた右腕をぐるりと回し、無造作な臨戦態勢に入る。無頼であってもその所作には鬼気迫る圧があった。
「このフロアは部外者の立ち入り禁止です。入りたければ貴方も奴隷になりなさい」
「ほーん、ユーベルコード重ねがけってわけか。ずっこくない?」
社外秘S型は【刺青所有者以外の侵入禁止】のワールドハッキングプログラムを起動した上で【伝染――闇墜ち刺青】による奴隷化を甚九郎に迫ってくる。彼女が見せる刺青を受け入れれば、ルールから排除される事はなくなるが、それは魂の暗黒面を呼び起こされ、堕落するリスクを負うことでもある。実に「ずっこい」二者択一だった。
「あー、弱体化するんか。つってものー、儂、その入れ墨趣味じゃないのー。なら退却するかの。さらばじゃ」
ここで甚九郎が選んだのは第三の選択肢、すなわち撤退。近くの窓ガラスを叩き割ると、そこから飛び出して去る。
こうも諦めが速いと社外秘S型も拍子抜けだが、脅威がひとつ減ったのは好ましい――と見せかけて。彼は隣のビルの壁面に爪を立ててしがみついていた。
「さすがに隣のビルまでは『戦場』に入らんじゃろ」
プログラムの適用範囲は広くてもスパイク・シアン社のビル内部に限定されていると踏んだ、甚九郎の予想は正しかった。さっきまで身体に纏わりついていた嫌な感覚が消えると、彼はこの場所から敵を狙撃する構えに入る。正面からぶん殴るだけが鬼の取り柄ではないのだ。
「遠距離狙撃じゃな。本体移動力半分じゃが」
現状で必要のない要素を削り、イバラの射程を5倍に。さらに神経伝達ラグを無くし、心音足音茨音体臭影を消すことで、気配ゼロの【影打ち】モードに移行する。どんなに高性能なセンサーでも、今の彼を感知するのは難しいだろう。
「儂以外にも猟兵おるからのー、おらん奴警戒しとるヒマはなかろうよ」
他の猟兵が社外秘S型の相手をしている内に、甚九郎は悠々と狙いを定める。不安定な姿勢くらいは何のその、膂力にものを言わせてバランスを保つと、ビルの中にいる標的をじいっと睨めつけ――研ぎ澄ませたイバラの棘を、矢のような速さで伸ばす。
「――……ッ
!?!!」
完全な知覚範囲外からの不意打ちに、社外秘S型は反応する暇もなかった。気付いた時にはイバラに貫かれ、真っ赤な血飛沫が身体から吹き出す。それは彼女が機械ではなくヒトである証であり、殺せば死ぬイキモノである証拠だった。
「鬼も騙し討ちする時代よなあ。これも学習ってやつかもしれんの。わはは」
血に染まったイバラを引き戻し、かんらかんらと笑う甚九郎。世の変化に応じて彼も色々と手管を学んでいるのだ。
標的はまだ死んではいないようだが、手応えはあった。このまま此処でちくちくと嫌がらせをしてやろうかと、彼は影打ち体勢を維持したまま次の狙撃機会を窺い続けるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
トモミチ・サイトウ
アドリブ/連携可
「警察官に対する違法ハッキング、及び公務執行妨害の容疑で逮捕する」
第六感で飛んでくる刺青を回避したり、盾で防いだりするも回避しきれず、左手に命中。
虚ろな目にのぼせた様な恍惚の表情を浮かべるトモミチに、刺青奴隷化に成功したと確信した女は次の瞬間、インモラルな一言を聞く。
「父さん、僕を抱いて」
魂の暗黒面がよりによって秘めたる願望に発動。女への忠誠より父への(アウトな)想いが上回り、正気に戻ったところでUC発動。主に左腕を用いたパンチラッシュをお見舞い。
「ひとつ個人的に聞きたいことがある。シゲオ・サイトウについて何か知らないか?」
ここで3分が経過し、左腕が刺青ごと破壊される。
「警察官に対する違法ハッキング、及び公務執行妨害の容疑で逮捕する」
警官らしい手順に則り、『刺青スレイブ・社外秘S型』の逮捕状を読み上げるのはトモミチ。一連の捜査でヤツが犯人である根拠は集まっており、何よりここに猟兵達が突入してきた時の反応が状況証拠を裏付けている。人間の意思を無視して操り人形にする悪行、断じて許しはしない。
「脅しのつもりですか? そんな逮捕状に力などありません」
もちろんメガコーポ配下である社外秘S型が素直にお縄につくことはあり得ない。それはトモミチも分かっていよう。
この期に及んでまだ罪を重ねることを辞さないか、彼女はワールドハッキングプログラムによる万全の迎撃体制を整えていた。
「丁度いい。ここで警察官の奴隷を補充しておきましょう」
今回の件で失った手駒の代わりにするつもりなのか、社外秘S型は【伝染――闇墜ち刺青】を発動し、トモミチを刺青奴隷にしようとする。死角から飛んでくる禍々しい刺青を、彼は第六感で察知して回避するが――プログラムの影響によるものだろう、いつもより動きが鈍い。
「厄介だな……」
【刺青所有者以外の侵入禁止】の法則が設定されている限り、部外者である猟兵の行動は阻害される。かと言って奴隷化を受け入れる訳にもいくまいと、盾を構えて防御と回避に徹するが。それでも躱しきれなかった刺青が、彼の左手に命中する。
「うっ
……!!」
「上手くいったようですね」
刺青によって引きずり出される魂の暗黒面。それは背徳的な解放感を伴い、人格を汚染する。虚ろな目にのぼせた様な恍惚の表情を浮かべるトモミチに、奴隷化に成功したと確信した社外秘S型は小さく笑みを浮かべるが――次の瞬間、彼女はインモラルな一言を聞く。
「父さん、僕を抱いて」
魂の暗黒面が暴き出したのは秘めたる願望。これまで決して表に出してこなかった、父への危うい想いが暴走する。
それは刺青に刻まれた社外秘S型とスパイク・シアン社への忠誠心よりも強く。溢れる情念が彼を正気へと引き戻す。
「なっ
……?!」
予期せぬ背徳的な発言に社外秘S型が虚を突かれた直後、我に返ったトモミチは【オーバーヒート・ボディ】を発動。
左腕の出力を限界以上に高め、短時間の性能向上を図ると、自壊も省みない猛烈なパンチラッシュをお見舞いする。
「やってくれたな。お返しだ」
「ぐっ、がっ、ごはッ
!!?!」
正気に戻ったとはいえ刺青は左手に付着したまま。つまり部外者の行動を阻害するルールは今の彼には適用されず、なんの束縛もなく全力を発揮できる。嵐の如き鉄拳の乱打に社外秘S型は耐えきれず、ボコボコに殴り倒され、床を這うことさえ許されない。
「ひとつ個人的に聞きたいことがある。シゲオ・サイトウについて何か知らないか?」
「な、なにを……誰ですか、それは……」
容赦なく拳を振るいながらトモミチは大事な質問を投げかける。この拷問めいた状況で何も情報を漏らさないのは、よほどメガコーポへの忠誠心が強いのか、あるいは本当に何も知らないのか。いずれにせよその反応で、この女から聞き出せることは何もないと判断する。
「知らないのなら、いい」
「あぐっ!!」
ここで3分が経過し、オーバーヒートした左腕が刺青ごと破壊される。ようやくラッシュから解放された社外秘S型だが、受けたダメージは軽いものではなかった。足を引きずりながら後退し体勢を整える姿に、当初の余裕はない――。
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
んー…このぐらいならまあ……(周囲の猟兵に)時間稼ぎ頼めるかな…
…仕掛て居そうな罠の種類と場所…それと潜伏位置を一通り把握して仲間と情報共有…注意力や思考力の低下を軽減しよう…
更にワールドハッキングプログラムを解析…脆弱性を探してそこを足掛かりに【新世界の呼び声】を使用…
…フロア内をこちらの支配下に置くとしよう…
…リアリティハッキングプログラム起動…『刺青所有者の行動禁止…』
…あとは刺青奴隷を術式装填銃【アヌエヌエ】で打ち倒しつつ光の矢を斉射して社外秘S型を打ち倒すとしようか…
「んー……このぐらいならまあ……時間稼ぎ頼めるかな……」
戦場となるフロア全体に展開されたワールドハッキングプログラム。内容こそ独自のものだが、これまで様々な世界の術式やプログラムに触れてきたメンカルから見て、それは決して解除不可能なものとは思わなかった。味方の猟兵が『刺青スレイブ・社外秘S型』と戦っている間に、彼女は解析と情報収集に専念する。
「……他にも色々用意してるみたいだけど……定石の範疇って感じだね……」
この屋内に仕掛けられそうな罠の種類や位置、それに伏兵の潜伏位置の候補が、電子型解析眼鏡【アルゴスの眼】のレンズに表示される。そうして把握した情報を彼女は味方とも共有することで、【陽動指令】による注意力や思考力の低下を防いでいた。
「今度はこっちが攻める番……と」
見たところ社外秘S型は他の猟兵との物理戦闘で手一杯で、電子戦に対応する暇はない。この隙にメンカルは電子の海に潜り、ワールドハッキングプログラムの解析を進めていく。セキュリティの盲点となる脆弱性を探し出せれば、後はそこを足掛かりに【新世界の呼び声】を起動するだけだ。
「新たなる世界よ、換われ、染めろ。汝は構築、汝は創世。魔女が望むは万物統べる星の声」
メガコーポの走狗が作り上げた箱庭が、魔女が構築した仮想現実世界に上書きされていく。単にテクスチャを張り替えただけではなく、適用されるルールが塗り替えられたのだ。あっという間にフロア内はメンカルの支配下に落ちた。
「……リアリティハッキングプログラム起動……『刺青所有者の行動禁止……』」
「そんな、バカなっ……!」
社外秘S型もハッカーとしての技量には相当自信があったはずだ。自分の手掛けたプログラムがこれほど速く解析され、環境を更新された事実に動揺を隠せない。フェイクではないかと疑ってみても、メンカルが新たに敷いたルールは見えない鎖のように彼女を縛めていた。
「プログラムの再定義を……!」
「無理だよ……」
向こうがやったように支配権を奪い返そうとしても、すでに解析された――手の内の割れたプログラムでは太刀打ちできない。刺青所有者のみを対象とする拘束ルールが、リアリティハッキングプログラムの解析成功率を低下させる。もはや彼女はまな板の上の鯉も同然だ。
「……あとはこれで打ち倒すとしようか……」
メンカルは術式装填銃【アヌエヌエ】を取り出すと、潜伏中の奴隷に向けてトリガーを引く。この連中もスパイク・シアン社の刺青を刻んだ者には違いなく、新たなルールによる行動禁止対象である。所在までバレていては抵抗のしようもなく、「ぎゃっ?!」と断末魔の悲鳴だけが虚しく響いた。
「……最後はあなた……」
「ま、待ちなさ……きゃぁっ!!?」
そしてとどめに光の矢を斉射して、進退窮まった社外秘S型を射抜く。閃光が標的の手足や胴体に次々と突き刺さり、そのたびに甲高い悲鳴が上がる――ハッカーとして完全に上をいかれた屈辱に比べれば、この程度の痛みはまだ軽いものかもしれないが。
大成功
🔵🔵🔵
李・麗月
逃げられたら面倒だからおとなしく待っててくれて助かるわぁ。
自分に有利な陣地を作ったつもりかもしれないけど陣地を作るのは仙人の基本なのよねぇ。
指定コードを発動して誘惑と催眠術に関しては成功率低下を妨げる。
向かってくる奴隷は片っ端から魅了して罠に向かわせて対処させる、尊い犠牲ねぇ。
ボスにも魅了を仕掛けて対処させて能力を割かせつつ月麗天牙の薙刀形態で攻撃を仕掛けるわぁ。
どっちの陣地構成力が強いか勝負といきましょうねぇ。
「逃げられたら面倒だからおとなしく待っててくれて助かるわぁ」
麗月からしてみれば、恥も外聞も任務も捨てて逃げに徹するヤツのほうが、よほど厄介ではあった。その点、今回の『刺青スレイブ・社外秘S型』は迎撃を選択した。よほど準備に自信があったのだろうが、その度胸が命取りとなる。
「仕事を放り出す訳にはいきませんので。これ以上我が社の邪魔はさせません」
対する社外秘S型はワールドハッキングプログラムの展開を完了し、フロア内にはトラップや伏兵を配置済みである。
今回の電脳ハッキング事件を妨害した予想外因子である猟兵。その排除は彼女にとって優先される事項なのだろう。
「自分に有利な陣地を作ったつもりかもしれないけど、陣地を作るのは仙人の基本なのよねぇ」
身体に纏わりつくような違和感を覚えながらも、麗月は落ち着いて【誘傾麗月】を発動。仙術によって周囲を自身の陣地とし、ハッキングを上書きしながら誘惑・催眠術を強化する。これで得意の魅了に関しては成功率はトントン――いや、フラットな状態よりは上回ったか。
「私のハッキングを相殺した……? 妙なユーベルコードを使いますね」
「ふふっ、皆アタシの虜になっちゃうのよぉ」
これに警戒を強めた社外秘S型は【陽動指令】を発動、周囲に潜伏中の刺青奴隷を差し向けるが、彼らもすでに麗月の領地内にいる。心蕩かす仙女の美貌を見てしまった瞬間、それまでの使命もメガコーポへの忠誠心も全て忘れ、彼女の虜になってしまった。
「まだ罠が残ってるのよねぇ。見つけてくれるかしらぁ?」
「はい!」「かしこまりました!」
麗月は自分に向かってきた奴隷を片っ端から魅了した後、そいつらを罠に向かわせて対処させる。すっかり籠絡され判断力の鈍った奴隷たちは、自ら罠に引っかかることでそれを作動済みにするという、ある種男前な解除法しかできないが、彼女にとっては好都合である。
「尊い犠牲ねぇ」
「こちらの社員の洗脳まで……くっ……」
流石に社外秘S型は他の刺青奴隷とは違って簡単に魅了されはしないが、陣地で強化された催眠術に抵抗するには相応の能力を割く必要があるようだ。彼女がワールドハッキングプログラムを再構築する間に、麗月は薙刀形態に変形させた宝貝「月麗天牙」で攻撃を仕掛けた。
「どっちの陣地構成力が強いか勝負といきましょうねぇ」
まるで舞を踊るように優雅に、魅惑の香気を振りまきながら薙刀を操る麗月。その御御足が床を踏むたびに陣地は広がっていき、誘惑はより強固となる一方で相手の抵抗力は下がる。鋼の如き忠誠心も、果たしていつまで保つものか。
「くうっ……やめな、さい……ッ!」
物理攻撃と精神攻撃の両方に対処するマルチタスクを強いられる、社外秘S型の額には脂汗が。余裕のなさがありありと見えるが、今更迎撃を諦めて撤退できるはずもない。選択の過ちを悔いる暇もなく、己を過信したハッカーは窮地に立たされつつあった――。
大成功
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キャット・アーク
自分からは動かない
攻撃が来た時に避けようとするだけ
キミがオレを好きになるにはちょっと時間かかるかもだけど、奴隷達の方はどうかな
(奴隷達へ)
ね、そんな所に居てさ、今幸せ?
オレなら、言う事聞いてくれる人には
ご褒美をあげるよ
ね、おねがい
あいつを捕まえて
罠を踏んででも絶対逃さないで
刺青が入ってるなら動けるでしょ?
そうそう思い出した
オレ、怒ってるんだよね
キミが手をつけたのが一体誰の
ものなのか分かってもらわないと
まずはキミん所の重役さんの名前と住所から
一人一人骨抜きにしてって(会社が回らない様にして)あげるからさ
分かんないなら調べて
できるよね?
「どうやら、想定より手こずりそうですね……お前達も、粉骨砕身働きなさい」
「「はい!!」」
万全の備えで迎え撃ったにも関わらず、劣勢になりつつある『刺青スレイブ・社外秘S型』。この状況を打開するために彼女は同じスパイク・シアン社製の奴隷達に【陽動指令】を出し、生命惜しまず働くことを強いる。命じる方も命じる方だが、従うほうも従うほうである。
「なにが楽しいんだろうね、あれって」
そんな社畜根性とは無縁の生き方であるキャットは、戦いを遠巻きに眺めるだけで自分からは動かない。攻撃が来た時に避けようとするだけで、基本的には傍観姿勢だ。とはいえ、それは何もやっていない訳ではない――警察官や社員を籠絡してきた彼の魅力は、ここでも依然健在だ。
「キミがオレを好きになるにはちょっと時間かかるかもだけど、奴隷達の方はどうかな」
キャットは【猫の一声】によって、ワールドハッキングプログラムが設定した戦場内のルールをさらに書き換える。
ここではキャットこそが王であり、王に服従し傅く事こそ幸福となる。絶対王政の支配下にて、彼は奴隷達へ優しげに呼びかける。
「ね、そんな所に居てさ、今幸せ? オレなら、言う事聞いてくれる人には
ご褒美をあげるよ」
「ご、ご褒美
……?」「やります!」
刺青で刻まれた彼らの忠誠心の対象は、その一言だけで会社からキャットにすげ替えられてしまった。元から奴隷精神が染みついていた分、懐柔するのも容易かったか。社外秘S型の「待ちなさい!」という叫びも、もう彼らには届いていない。
「ね、おねがい。
あいつを捕まえて。罠を踏んででも絶対逃さないで。刺青が入ってるなら動けるでしょ?」
「「はい!!」」
先程上司の命令を受託した時と変わらない歯切れの良さで、奴隷達は新たな王の命じるがまま古巣に半旗を翻した。
ワールドハッキングプログラムの設定したルールは【刺青所有者以外の侵入禁止】。だったら刺青のない自分よりも刺青持ちの奴隷達のほうがよく働いてくれるだろう。
「なっ、何をしているのですか! やめなさい、お前達……!」
社外秘S型は慌てて抵抗するが、数の暴力によって強引に押さえつけられる。単純なスペックなら一般の刺青奴隷に負けないだろうが、
王のために生命惜しまず働く奴隷は想像以上に厄介であった。罠を踏もうが殴り返されようが、まるでお構いなしだ。
「そうそう思い出した。オレ、怒ってるんだよね。キミが手をつけたのが一体誰の
ものなのか分かってもらわないと」
捕まえられた社外秘S型の顔を改めて見ると、キャットの中で忘れかけていた怒りが再燃する。電脳ハッキングという陰謀そのものではなく、自分のナワバリをそうと知らないよそ者に荒らされた怒りだ。ここまで来たからには、落とし前はきっちり付けさせなければ。
「まずはキミん所の重役さんの名前と住所から。一人一人骨抜きにしてってあげるからさ」
「い、言うはずが
……!!」
今ここで奴隷達にしたように、本社の役員までもが彼の魅力に陥落すれば、やがては会社が回らなくなってしまう。
そのための情報提供を要求された社外秘S型は拒否しようとするが、胸の奥から「命令された歓び」が湧き上がって止まらない。他よりも抵抗力が高いだけで、【猫の一声】は確実に彼女の心にも影響を及ぼしているのだ。
「分かんないなら調べて。できるよね?」
「い、イヤ……なのに、手が……!」
やがて本人の理性に反して社外秘S型の身体は勝手に検索を始め、重要機密である社員の個人情報を公開してしまう。
ハッカーとしての技量をスパイク・シアン社を脅かすために使われるなど、彼女にとって屈辱の極みだろう。情報を入手したキャットは「ありがとう」と微笑み、相手のプライドをへし折るように、ぽんぽんと優しく頭を撫でた――。
大成功
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ルナ・シュテル
容疑者を発見、オブリビオンと断定。
これの排除に当たります。
刺青を持つ者でなければこの空間での行動は侭ならない。
【プログラミング】にて構築したホログラム式のタトゥを肌に転写し、これを以て条件適合を狙いましょう。
然る後、過超封絶を発動の上にて戦闘開始。
加速した行動速度で以て周辺空間を【ハッキング】、刺青の複写へ【データ攻撃】を仕掛け転移を封じていきます。現在位置から離れているものを優先的に。
敵のハッキングにはAnti-Aresの【乱れ撃ち】で回避を意識させることで手数を削りつつ【カウンターハック】で対抗を。
隙を見て、ErectroShockの【電撃】で電脳を焼き切り仕留めにいきます。
「容疑者を発見、オブリビオンと断定。これの排除に当たります」
スパイク・シアン社のビル上層にて『刺青スレイブ・社外秘S型』と会敵したルナは、任務内容に基づいて直ちに行動を開始する。電脳ハッキング犯の正体がオブリビオンだと確定した以上、もはや説得や交渉の余地はない。奉仕者として人類に仇なす存在は徹底的に始末する。
「【刺青所有者以外の侵入禁止】。部外者は即刻退場願います」
対する社外秘S型も淡々と仕事をこなすタイプという点では、ルナと似通う所がある。ワールドハッキングプログラムを展開し、再三退去を求める姿勢は機械の如く冷静だ。刺青を持つ者でなければ、この空間での行動はままならない。
「刺青の形状パターンを確認。これを以て条件適合を狙いましょう」
そこでルナは敵に刻まれている刺青を参考に、プログラミングにて構築したホログラム式のタトゥを肌に転写する。
刻んだ者を闇堕ちさせる効果のない見せかけだけの代物だが、安全にワールドハッキングの影響をすり抜けるのが目的だ。ルールを欺き自由を取り戻した彼女は、然る後に【過超封絶】を発動の上にて戦闘開始する。
「システム・デルタ・マックス起動。固有時間、加速開始」
内蔵された固有時間加速システムによって、爆発的に増大する運動及び反応速度。他者とは異なる時の流れに踏み込んだ彼女は、スローモーションになった世界で超高速のハッキングを遂行する。目的は社外秘S型の撤退手段である、【刺青スパイの逃走術】を封じる事だ。
「外部からのアクセスを確認……目的はワールドハッキングプログラムの書き換え……ではない?」
ルナのハッキングを感知した社外秘S型は、その狙いに気付くと微かに動揺を見せる。ターゲットにされたのは彼女が周辺空間に配置していた刺青の複写。いざとなればコレをマーカーにした瞬間移動で、戦場から離脱する手筈を整えていたのだ。
「現段階で17個の複写を確認。現在位置から離れているものから優先的に対処します」
「させません……!」
複写された刺青にデータ攻撃を仕掛け、転移機能を破壊するルナ。社外秘S型もカウンターハックを試みるが、固有時間の違いは行動速度の差として明白に表れ、後手後手の対処を強いられてしまう。やはり電子戦においてもスピードは正義なのだ。
「Anti-Ares起動、セミオートモードで射撃開始」
「くっ!」
ルナは指先に仕込まれた光線銃から暗赤色のビームを乱れ撃ち、回避を意識させることで相手の手数をさらに削る。
さらに相手からのハッキングにカウンターで対抗するなど、物理戦と電子戦のマルチタスクも完璧。二手三手と複数の行動を同時にこなせるのも【過超封絶】の恩恵だ。
「あちらは限界のようですね。仕留めにいきます」
敵の処理能力に負荷を与え続けて隙を晒させたところで、ルナは時間加速倍率をさらに引き上げて戦場を疾走する。
一陣の風となって社外秘S型に肉薄した彼女は、首の裏に開いた電脳へのコネクタを鷲掴みにすると、掌の放電機構を起動する。
「ElectroShock、最大出力」
「ぎっ、ああぁあぁぁぁッ
!!!?」
今回は鎮圧を目的とした低出力モードではない。対象の電脳を芯から焼き切る事を目的とした高圧電流が、社外秘S型の体内を駆け巡る。サイボーグにとっては致命的となる一撃を食らった相手はカエルのようにびくんと体を痙攣させ、それまでの鉄面皮を崩して絶叫を上げた――。
大成功
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高岩・凛
【真梨木・言杷との共闘】
要は余裕ねえんじゃねえか。ディベートやってんじゃねえんだ、涼しい顔で言ったってなんも変わんねえぞ?
つっても……悪あがきにしては面倒くせえな、ったく……
あ?命なんかこんな程度で賭けてられるかよ、こういう時に賭けるモンつったらアレに決まってんだろ、終わった後の飲み代だろうが。だろ?
んーじゃあやるか、[ハザードライバー・リゲイン]+[オーバードシフター]と【過動する最適化】でとにかく追い詰める。当たらなかろうが無視できるわけじゃねえんだ、向こうで先生がなんかやってる間付き合ってもらうぞ。
んでお膳立てが整ったらそのツラを思いっきりぶん殴ってやれるな、待ってたろ?ようやくだ。
真梨木・言杷
【高岩・凛との共闘】
追い詰めた……いいや、誘い込まれた、か。ここは既に敵の支配下、今すぐ引き上げたいところだけど……
きみ、顔見知りに命を賭けられるかな。……そうだね、ここを凌げたら一杯奢るよ。
凛が時間を稼ぐ間、サイバースペース上に【ハッキング】を仕掛け、【結界術】で敵の法則が及びにくい領域を作り出す。私も同業者だ、二人分位はやってみせよう。
敵はすぐに再度の書き換えを行うだろう、そこに【カウンターハック】でS.M.U.R.F.を起動。『刺青スパイの逃走術』を奪い、私と凛、周囲に刺青を複写。弱体を解除しつつ瞬間移動で背後に回り、釘弾で【捕縛】する。
さあ、退路は潰したよ。賭けのリターンは奴の顔面だ。
「追い詰めた……いいや、誘い込まれた、か。ここは既に敵の支配下、今すぐ引き上げたいところだけど……」
「要は余裕ねえんじゃねえか。ディベートやってんじゃねえんだ、涼しい顔で言ったってなんも変わんねえぞ?」
同じハッカーとして、敵対するハッカーの領域に留まるのは危険極まると言杷が慎重論を唱える一方で、キツいのは向こうの方だと凛は口元を歪める。いかにも企業人らしいお硬い態度で誤魔化しても、この状況があちらにとって不本意であり、撤退の猶予も無かったのは事実なのだ。
「……確かにこの状況は想定外ですが、まだ現場判断で対処できる範疇です。何も問題はありません」
指摘を食らった『刺青スレイブ・社外秘S型』は一瞬動揺を見せたものの、すぐにアンドロイドめいた鉄面皮に戻る。
ワールドハッキングプログラムの再展開は完了。部外者の侵入を禁止し行動を制限する
法則がある限り、このフロアで彼女の優位は揺るぎなかった。
「つっても……悪あがきにしては面倒くせえな、ったく……」
威勢の良いことを言いはしたものの、凛も状況が読めていない訳ではない。ここに来るまでの疲労とは別の理由で、身体が重いし思考も鈍っている気がする。【刺青所有者以外の侵入禁止】の法則に反してここにいる限り、この不調は解除されないだろう。
「きみ、顔見知りに命を賭けられるかな」
「あ? 命なんかこんな程度で賭けてられるかよ」
どうやら言杷のほうには打開策の考えがあるようだが、その質問に凛はつれない返答。まあ、ビルを登る最中も結構な無茶をさせられていたし、そういう反応も無理はないかもしれない。やはりダメか――と、俯きかけたハッカーは、ふいにトンと胸を肘で突かれる。
「こういう時に賭けるモンつったらアレに決まってんだろ、終わった後の飲み代だろうが。だろ?」
「……そうだね、ここを凌げたら一杯奢る」
この程度の修羅場くらい"命を賭ける"までもないと凛は言っているのだ。それを聞いた言杷は表情を緩めて頷くと、この顔見知りを信じてプログラムを起動する。ハッキングが完了するまでの時間は、彼女が必ず稼いでくれるはずだ。
「んーじゃあやるか」
臨時の相方が端末を叩き始めたのを見て、凛は「ハザードライバー・リゲイン」に「オーバードシフター」を装着。
ベルト自体が新たな形態に変身するのに合わせて、全身を覆う装甲の形状も変化する。命なんか賭けてられるかとは言ったが――ここからはもう一弾、ギアを上げさせて貰おう。
<<overclock,works>>
時空干渉による【過動する最適化】を果たした凛は、物理的限界を超えた超高速機動を可能とする義肢融合形態に変身を遂げる。飛びかかる寸前の猛獣のように姿勢を低くし、クラウチングスタートに似た体勢から地面を蹴れば、その疾走は音を置き去りにした。
「……ッ?!」
社外秘S型は反射的に【刺青スパイの逃走術】を起動し、予め刺青を複写しておいたポイントに瞬間移動する。あと一瞬遅ければ彼女のいた場所は漆黒の戦鬼に蹂躙され、無骨な大剣の餌食となっていただろう。ワールドハッキングプログラムの影響下にあってなお、驚嘆に値するスピードである。
「あの女を止めなさい!」
危険を感じた社外秘S型は【陽動指令】を発し、周囲に潜伏中の刺青奴隷や予め仕掛けていた罠を使って相手を足止めしようとする。だが凛は「遅っせえんだよ!」の一声でそいつらを蹴散らし、速度にものを言わせて執拗に社外秘S型を攻め立てる。
「当たらなかろうが無視できるわけじゃねえんだ、向こうで先生がなんかやってる間付き合ってもらうぞ」
「くっ……目的は、ワールドハッキングの解除ですか……!」
荒事担当が時間を稼ぎ、ハッカーが電子戦で目的を達成する。エレベーターをハッキングした時とやり口は同じだ。
敵もその事は当然理解しているが、それでも目の前にいる明白な脅威から意識を逸らすことはできない。目を離した瞬間喉笛に噛みつかれそうな、強烈な殺気をそれは放っていた。
「私も同業者だ、二人分位はやってみせよう」
この間に言杷はサイバースペース上にハッキングを仕掛け、敵の法則が及びにくい領域を自分と凛の周りに作り出す。ハッカーの技術と伝統的な結界術の合わせ技であり、やっていることは陣取り合戦に近い。当然、敵は奪われた陣地を取り戻すために再び書き換えを行うだろうが――。
「ワールドハッキングプログラム再起動、空間情報の再定義を……――!」
「回ⅡⅢⅡ回ⅡⅢⅢ──"向こうは知るまい、此方は知り取る。即座微塵にまらべや"」
そこにカウンターハックで起動する【S.M.U.R.F./還著詞.tmp】。社外秘S型本人に生じたプロテクトの隙間を突き、彼女が持つユーベルコードを一つ処理落ちさせ、自分の脳に呪文として記録する。奪ったのは【刺青スパイの逃走術】――瞬間移動のマーカーとなる、刺青の複写を作成する能力だ。
「これが欲しかったんだ」
「しまった
……!!」
言杷は直ちに奪取したユーベルコードを使用し、自分と凛に刺青を複写する。これで「刺青所有者」となった二人は進入禁止の対象外となり、弱体を解除される。能力を逆手に取られた社外秘S型が、ありありと焦りの表情を浮かべた。
「やっと追い詰めたよ、同業者さん。終わりにしようか」
「ッ!!」
さらに言杷は周囲にも刺青を複写し、先程向こうがやったのと同じ手口で社外秘S型の背後に回り込む。振り返る間もなく放たれるネイルガンの連射――捕縛の呪言をかけられた五寸釘弾が、藁人形のように敵の体を空間に縫い付ける。
「さあ、退路は潰したよ。賭けのリターンは奴の顔面だ」
「ああ、ありがとよ先生」
敵の拘束を完了した言杷は、とどめの一撃を相方に任せる。それを聞いた凛は装甲の下で笑みを浮かべ、ぐっと拳を握り締める――社外秘S型のユーベルコードは処理落ちから復旧しておらず、今なら瞬間移動で避けられる心配はない。お膳立ては整ったというわけだ。
「そのツラを思いっきりぶん殴ってやれるな、待ってたろ? ようやくだ」
「や、やめて……あぎゃぁッ
!!!?!」
超高速機動形態によるトップスピードを乗せた、最速渾身のストレート。衝撃波を帯びた一撃が顔面に突き刺さる。
釘弾の束縛まで引きちぎる勢いで殴り飛ばされた社外秘S型は、ボールのようにフロアを跳ね、悲鳴と共に壁へと叩きつけられたのだった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ベティ・チェン
「ドーモ、シャチク=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
「ここに、堕ちた刺青奴隷は、居ない。キミが、万もポイント配置出来るとも、思えない。だから。地道に、潰す。ベイビーサブミッション」
100体の分身召喚
複写刺青をどんどん破壊させる
自分も分身も敵の攻撃は素の能力値で回避
吶喊してフォトンセイバー振るい瞬間移動したら同じく1番近くにいた分身がすかさずセイバー振るうのを繰り返す
自分から離れた場所に転移した場合は刺青破壊優先しながらゆっくり近付く
どんなに長くても1時間は保たないだろうと思っているので焦らず続ける
トドメは容赦なく刺す
「ボク達の、襲来を。30分以上、読み違えた。ハイク詠め、サンシタ」
「ドーモ、シャチク=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
相手が奴隷根性の染みついたメガコーポの犬だろうが、ベティはニンジャとして挨拶を欠かさない。礼儀作法を忘れないからと言って、敵への敬意があるわけではないが。電脳を介して他人の脳を支配しようとしたコイツは、問答無用で抹殺すべき対象だ。
「どこの野良犬か知りませんが、噛みつく相手は選ぶべきですね」
無論『刺青スレイヴ・社外秘S型』も、素直に辞世の句を詠むほど往生際良くはない。ワールドハッキングプログラムで部外者の行動を制限しながら、刺青の複写をフロアのあちこちに再配置していく。【刺青スパイの逃走術】で、隙あらばこの場を逃げ延びるつもりだろう。
「ここに、堕ちた刺青奴隷は、居ない。キミが、万もポイント配置出来るとも、思えない。だから。地道に、潰す。ベイビーサブミッション」
まずは複写刺青を片っ端から破壊するために、ベティは【カゲブンシン・フェノメノン】で100体の分身を召喚する。
いずれも本体と同じ能力と実体を有する分身達は、戦場となったフロアの四方八方に散って、瞬間移動のマーカーとなる刺青を見つけ次第潰していく。
「なんて数……!」
社外秘S型は驚いているが、これだけ大量の分身にはベティにもリスクがある。分身達は全て生命力を共有しており、被弾した場合のダメージも100倍になるからだ。つまり100体いるうちの1体にでも攻撃を当てられれば、敵にも逆転の可能性がある訳だが――。
「所詮デスクワーク派。遅すぎる」
「くっ、速い!?」
プログラムの妨害を受けてもニンジャの敏捷性は凄まじく、社外秘S型の攻撃は掠りもしない。そのまま複写刺青の掃除を続けながら、ベティは敵に吶喊した。無数の光の粒子で形作られたフォトンセイバーの刃が、メガコーポの社畜の首を狙う。
「ッ!!」
社外秘S型は咄嗟に残っていた刺青の元に瞬間移動するが、そこにもいたベティの分身がすかさずセイバーを振るう。
慌てて別の場所に移動しても、別の分身がまた斬り掛かってくる、その繰り返し。どこに逃げようが安全な場所などない。
(どんなに長くても1時間は保たないだろう)
【刺青スパイの逃走術】を使用するたびに、移動先にあった刺青は消える。無理に深追いしなくても、刺青の破壊を優先しながらゆっくり近付くだけで、相手は逃走手段を失っていくのだ。それを理解しているからこそ、すぐに結果が出ずともベティは焦らない。
「まずいですね、これは……!」
対照的に社外秘S型の表情は焦燥に支配されている。100人の分身から波状攻撃を仕掛けられ、複写した刺青も数えるほどしか残っていない。これで攻め気に逸ってくれればチャンスもまだ残っていただろうが、生憎とニンジャには油断も隙もない。
「ボク達の、襲来を。30分以上、読み違えた。ハイク詠め、サンシタ」
「わ、我が社の計画が、こんなところで……ぎゃあッ!!」
万策尽きて追い詰められた社外秘S型に、ベティは容赦なくフォトンセイバーを一閃する。真っ赤な血飛沫がフロアに散って、絶叫が反響する。かろうじて致命傷は逸れたようだが、手応えからして相当の深手だろう――愚かな社畜に引導を渡すその時まで、彼女は決して動きを止めなかった。
大成功
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クレア・ノーススター
「工作員ではないけど…厄介なことになったね」
踏み込まれた時の為に、何かしら策はあるだろうとは思っていたが。
自分も何か刺青を入れた方がよかったのだろうか?
どのみち今からでは無理だが
遮蔽物を躊躇いなく使い、視界ギリギリからの不意打ちめいた射撃を繰り返す
弱体化が免れない以上、持久戦めいた戦法も仕方ない
「工作員ではないけど……厄介なことになったね」
踏み込まれた時の為に、何かしら策はあるだろうとは思っていたが。これほど大規模な迎撃準備を整えられていたのは少々予想外だった。ワールドハッキングプログラムによる身体の不調を感じながら、クレアはやれやれと嘆息する。
(自分も何か刺青を入れた方がよかったのかな? どのみち今からでは無理だけど)
【刺青所有者以外の侵入禁止】。このルールに違反した部外者は、フロア内におけるあらゆる行動に制限を受ける。
とはいえ即座に戦闘不能になるほどではないのが不幸中の幸いだ。だったら今できる限りのことをしようと、彼女は銃を構えた。
「これ以上、我が社の領域で好き勝手は許しません……!」
一方の『刺青スレイヴ・社外秘S型』も追い詰められた状況に変わりない。鉄面皮を装っていても焦りは隠しきれず、プログラムの補助でどうにか持ちこたえている様子だ。この機に乗じない手はないと、クレアは手近な遮蔽物の陰へと滑り込んだ。
「弱体化が免れない以上、持久戦めいた戦法も仕方ないかな」
ターゲットを視界に収められるギリギリの距離から、気付かれぬよう慎重に狙いを定め、トリガーを引く。不意打ちめいた発砲音が響いた直後、社外秘S型は「ぐっ?!」と悲鳴を上げてよろめいた。そもそも知覚できていなければ、【刺青スパイの逃走術】で避ける暇もなかったようだ。
「すこし逸れたか。やはり本調子とはいかないね」
「この……ッ!」
怒った社外秘S型の反撃が来ると、クレアは遮蔽物に頭を引っ込めてやり過ごし、別の射撃ポイントへと移動する。
その身を彩るのは【フリーダムブレイズ】の炎のオーラ。ワールドハッキングプログラムの効果を反射することで弱体化を緩和しているが、それでも万全とはいかずに照準がブレた。
「まあいいさ。焦る必要はないしね」
ビルの下から増援がやって来る気配もなく、状況は依然として猟兵有利だ。あとはターゲットに逃走の隙を許さず、確実に仕留めるだけ。そのためにクレアは距離を保ったまま射撃を繰り返し、じりじりと敵の気力体力を削っていく。
「そろそろキミも限界なんじゃない?」
「ぐ……よくも……っ!」
幾度かの潜伏と攻撃を経て、今や遠目に見ても分かるほど、社外秘S型は満身創痍だった。瞬間移動に使える複写刺青もほとんど潰され、ハッキングされた空間には本人の血痕が散らばっている。対するクレアの体力と残弾にはまだまだ余裕がある――ここで焦って詰めを誤らないように、彼女は身を潜めたまま無慈悲な射撃を続けるのだった。
大成功
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キリカ・リクサール
アドリブ連携ダメージ描写歓迎
ハッ!こちらとしてはどうでもいい話だな
逃げようが抵抗しようが、お前を待つ運命は変わらん
シルコン・シジョンを装備しデゼス・ポアを宙に浮かせる
同時にUCを発動
ダメージ覚悟で操り糸を自分に打ち込む
気でも狂ったかと相手は思うだろうが、これも作戦だ
そのまま敵の『伝染――闇墜ち刺青』の直撃を受ける
が、直前に私に打ち込まれた操り糸をデゼス・ポアへと渡す
私に構うな…!
やれッ…!デゼスッ!
刺青奴隷…おそらくはスパイク・シアンに忠誠を誓う兵士にでもするつもりだろう
だが、私の身体を操っているのは私ではなく、デゼス・ポアだ
反撃開始と行こう
全身を襲う苦痛に耐えながら、デゼス・ポアが操るまま一気に敵に接近し、至近距離からの一斉発射
フルオートで全弾を敵に叩き込む
ご主人様、気分はどうかな?
今の私は刺青持ちだ、そちらのルールには抵触しまい?
更に追撃で敵にダメージを与えたら、刺青に呪毒を流し込み爆破
激痛耐性で痛みを堪え、刺青を取り除く
クッ…ぐあッ!
ハァ…ハァ…まったく、文字通り「骨が折れる」な…
「まさか、ここまで手強いとは……やはり撤退すべきだったでしょうか……」
「ハッ! こちらとしてはどうでもいい話だな」
猟兵の力を過小評価し、迎撃を選択したことを後悔し始める『刺青スレイヴ・社外秘S型』。そんな彼女を鼻で笑ったのはキリカだ。最初から逃げるつもりなら逃げ切れたと思っているなら、奴はまだ猟兵のことを何も分かっていない。
「逃げようが抵抗しようが、お前を待つ運命は変わらん」
「……ならばその運命、力ずくで捻じ曲げてみせます」
鋭い殺気を感じ取った社外秘S型は、残されたリソースをワールドハッキングプログラムの維持と【伝染――闇墜ち刺青】の発動に費やす。彼女達スパイク・シアンのオブリビオンが持つ刺青はただのタトゥーにあらず、魂の暗黒面を呼び起こす奴隷化の呪いなのだ。
(刺青奴隷……おそらくはスパイク・シアンに忠誠を誓う兵士にでもするつもりだろう)
敵の意図を察したキリカは神聖式自動小銃"シルコン・シジョン"を構え、呪いの人形「デゼス・ポア」を宙に浮かせると同時に【La marionnette】を発動。縫い付けた者を支配する不可視の操り糸を、ダメージ覚悟で自分に打ち込んだ。
「なにを……?! いえ、今なら!」
気でも狂ったのかと社外秘S型は思うが、たとえ罠だとしてもこれが千載一遇のチャンスには違いない。謎の自傷行動で動きが止まっている隙に、死角より放たれた刺青がキリカに直撃する。それは彼女の魂まで汚染するように、深く、深く刻みつけられた。
「ぐっ……私に構うな……! やれッ……! デゼスッ!」
だがキリカは意識まで奪われる直前に、自分に打ち込んだ操り糸をデゼス・ポアへと渡す。それを受け取った人形は『キャハハハハ』と笑いながら糸を手繰って、キリカの身体を操作し始めた。人形が人形遣いを操る、本来とは真逆の構図だ。
「これで、私の身体を操っているのは私ではなく、デゼス・ポアだ」
「そんな
……!!」
肉体の支配権を自分の意思でもスパイク・シアンでもない、味方に委ねるという大胆な発想。自らの半身とも言える人形が相手だからこそできた決断と言えるだろう。これで向こうが刺青経由でどんな命令を下そうと、キリカに従属する自由はない。
「反撃開始と行こう」
『ヒャハハハハハ』
キリカに言われた通りデゼス・ポアは遠慮なく糸を引き、そのたびに全身を襲う苦痛に耐えながら、キリカは操られるがまま一気に敵に接近する。まだ動揺冷めやらぬ社外秘S型の胸に叩き込むのは、至近距離からシルコン・シジョンの一斉射撃だ――聖歌の如き銃声と共に、聖別を施された弾丸が標的を貫く。
「ぐ、がはッ!? こんな、ことがッ……!」
「ご主人様、気分はどうかな? 今の私は刺青持ちだ、そちらのルールには抵触しまい?」
【刺青所持者以外の侵入禁止】というワールドハッキングプログラムの抜け道を通るために、わざわざこんな無茶をやったのだ。お陰でなんの制限も妨害もなく、フルオートで全弾を叩き込める。最後の切り札まで攻略された社外秘S型に、もはや逃れる術は残っていなかった。
『ヒヒヒヒャハハハ!』「これで終わりだ……!」
さらに体術による追撃を与えたのち、デゼス・ポアはキリカの刺青に呪毒を流し込んで爆破させる。肉ごと抉る勢いで強引に刺青を取り除きつつ、爆発に敵を巻き込む自爆戦法だ。闇堕ちの呪いと傀儡の呪い、ふたつの呪いが混ざりあったそれは、瞬間的に大きなエネルギーを生み出す。
「や、やめ……ッ
!!!!」
満身創痍かつ、瞬間移動用の刺青まで丹念に潰された社外秘S型に回避手段はない。制止する暇もなく爆発に呑まれ、言葉にならない悲鳴を上げる。衝撃波でフロアの窓ガラスが割れ、真っ黒な爆煙がもうもうと外へと立ち上った――。
「クッ……ぐあッ! ハァ……ハァ……まったく、文字通り『骨が折れる』な……」
激痛に耐えて刺青を除去し、心身の自由を取り戻したキリカは荒い息を吐く。刺青のあった片腕はだらりと垂れ下がってぴくりとも動かず、相当のダメージが見て取れるが――敵が受けたダメージはそれ以上だろう。フロア全体を制圧していた電脳空間が、加速度的に崩壊していく。
「任務……失敗……申し訳、ありませ……」
絞り出すように紡がれた本社への謝罪が、『刺青スレイブ・社外秘S型』の辞世の句となり。無念のままに息絶えた女は刺青と共に骸の海に還っていった。これでもう、スパイク・シアン社による電脳ハッキング事件が再発することは無いだろう。
――かくして猟兵達は警察官の電脳ハッキング事件を解決し、その背後にあるメガコーポの陰謀を打ち破った。
ヒトと機械の融合が進んだ世界だからこそ起こりうる事件。発達するテクノロジーの裏に潜む闇を、彼らは払ってみせたのである。
大成功
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