●episode//0
ふわり、ノネ・ェメ(o・f15208)の頭頂をふよふよがくすぐる。
それとは別のふよふよはノネの目の前をのんびり浮遊――ネコともクリオネともつかない姿をぼんやり眺めるノネは、ふと気付く。
(出逢ってもー2年位? 時の流れのお早さょ。。)
今、目の前にいるのは二体だが、合計で何体いるのか、それぞれがいつ生まれたものなのかなど、ふよふよの生態は謎が深い。
(さぱらない。。ゆーなれば、初めて会った日?)
メカサンタから贈られたあの日を記念日とするなら、あと2ヶ月ほど。
(今年ゎ何かサプライズとかしてみたい)
思い立って何か調べようとするが、そこで問題がひとつ。
ふよふよは、常にノネと一緒なのだ。
どこへ出かけるにもそばにいるのだから、こっそりどこかへ行って……というのも難しいだろう。
となると、出来ることはひとつ。
ノネは、サプラィフォンを手に取った。
暁・紅華(†・f14474)のゲーミングスマホがノネからのメッセージを受信した。
「ノネちゃん?」
ゲームのお誘いか、と思いつつメッセージを確認すれば、そこにはふよふよへのサプライズの相談との文言が躍る。
『サプライズといえば贈り物じゃね?』
メッセージを送ってから、紅華は閃いて更に送る。
『ふよふよは見た目が猫っぽいし、食べることもできそうならおやつもいいかもしれないな』
メッセージに、猫用おやつのURLも添えて送信。
いつもより時間を空けて、ノネから返信がある。
『観察してても、とくに何か食べるとこ見た事ないんですょね』
返信するノネはといえば、ふよふよの視線を逃れるためにあっちへ行ったりこっちへ行ったり大忙し。
ふよふよの思想や知能がどのくらいかはイマイチ不明。文字が読めない可能性も大いにあるが……もしも文字が読めるなら、メッセージを見られてサプライズが台無しになる可能性も高い。
そんなわけで、ノネからの返信は遅め。
紅華もうっすらと事情は察していたから気にすることはない。
(そもそもふよふよって、プログラムだよな?)
実体化もできるすごいプログラム――確かふよふよは、そういうものだった気がする。
食事はしないかもしれないが、実体があるなら、何かを纏うことは出来るかもしれない。
『身に着けるものとかよさそうじゃねぇか?』
ふよふよは水のようであり、しかし水ではない何か。
ちょうど冬になるのだから、マフラーや帽子を贈るにはちょうどいい。
『アクセサリーとか服とかなら、ノネちゃん本領発揮できそうじゃん。』
変幻無限の服やアクセサリー、化粧品を持つノネなら、ふよふよにピッタリの何かを見付けだすことだって簡単だろう。
そう思った紅華だが、ノネからの返信は芳しくない。
『仮に着てもらぇたとして、姿が見えない時ゎ実体も無くなってるっぽぃので、服もアクセも置きざりになっちゃうかも?』
細切れの時間の中でそう返信を送るノネの目の前、今はふよふよは四体いる。
紅華から提案を受けるだけでなく、ノネもあれこれ考えてはいる。
食べ物ではなく飲み物はどうか、ゲームは、本はと案は出るものの、茫洋と浮遊するふよふよが何なら喜ぶのかは見当もつかない。
そして、根本的な問題がひとつ。
『いくつ用意しよ……余って残ってしまっても何かあれだし』
「確かにそうだよな」
ノネから届いたメッセージを前に、紅華は天を仰ぐ。
食事をしない、ただ浮いているだけで、数もまちまちな
存在に、物を贈ることはそもそも向いていないのかもしれない。
チャットのメッセージが途絶える。
どうしようかと考える沈黙の中、手持ち無沙汰になったノネは、いつもの癖でサプラィフォンから音楽を再生。
穏やかな調べに耳を傾けることしばし――すると、突然思いついて、ノネは紅華にメッセージを。
『こんな時こそ、歌かも?』
ノネが考えるプランはこうだ。
出逢った場所で、ふよふよの一体一体と目を合わせて歌えば、ふよふよに宛てた歌だとは分かってもらえるかもしれない。
ノネの出したアイデアに、紅華からのレスポンスは早い。
『確かに、ノネちゃんらしくてすごくいいと思うぜ』
言われてみれば、もうそれしかないと確信できるもの。
紅華が乗り気なことがメッセージ越しにも伝わったのだろう、ノネは唇に微笑を乗せ、計画を立て始める。
行き先は出逢いの場所、キマイラフューチャー。
日時は出逢いの日。
「ふふ、楽しみ」
微笑むノネは、街の様子を見やる。
往来からハロウィンの彩りが去った後、ふよふよへのサプライズを決行する日を思って。
●X-DAY
それから時は過ぎ、遂にサプライズ当日がやってきた。
サプライズの歌はノネからふよふよへ贈るものだが、相談に乗ってもらったからと紅華も誘っていた。
キマイラフューチャーの街路も不思議と煌びやかに飾り立てられて、まるでサプライズに備えているかのよう。
紅華とノネが合流した段階ではふよふよは二体だったが、歩くうちにぷつりと分裂、今は四体にまで増えている。
「ここか?」
立ち止まったノネに紅華が尋ねる。
「ぅん」
うなずいて、ノネは息を吸い。
「♪~~」
冬の空気に、ノネの透き通った歌声が乗る。
すいと宙を泳ぐふよふよの速度に合わせて、リズムはゆったりと刻まれる。
響き渡る歌声に、思わず足を止める人の姿も。
ぼうっとした表情で聞き惚れる彼らの眼差しにノネは気付いているのかいないのか。穏やかな調べを伴って、ノネはふよふよに手を伸べる。
「♪~~」
半透明のふよふよは、街を彩るライトを透かして煌めく。
眩しい輝きを瞳に帯びて、ノネの歌声は一層の輝きを増し。
「♪――」
透けるような、どこか儚げな歌を支えるように、紅華の声が重なる。
音そのもののノネに、歌い手としても活動する紅華。二人の声は調和し、一人では生まれ得ない深みを得て、より多くの人の耳へ届いていく。
心地よい歌の渦の中、紅華は身体を揺らして身を委ねる――ノネもそうしたいと感じるが、しかし青眸はふよふよに向けて。
「♪~~」
ノネの視線を受けて、ふよふよは一体どんな気持ちだろう。
何も語らず、表情を変えることもないふよふよの心情は想像するしかない。
でも、ゆらりと尾を揺らす動作は、どこか楽しそうにも見えた。
「♪――」
紅華の声量が増すタイミングで、ノネは息を吸ってまた別のふよふよへ目を向ける。
ノネと紅華、二人の歌は交互に広がる。
紅華が目を開けば、立ち止まる人々でちょっとした人だかりが出来ている。
横に視線を移すとノネはふよふよに歌を届けているところ。旋律に乗せてふよふよと目を合わせているのなら、きっとこれで全員に歌を届け終えたところだろう。
「♪~~」
ノネの正面から離れたふよふよを見送って、ノネもまた、紅華へ目を向ける。
ふよふよへのサプライズは完了した。
あとは歌を終えるだけだが、適当に切り上げるのも芸がない。
だから、紅華は人々へ向き直る。
誘うように伸ばした指先を辿れば、微笑む赤い瞳が人々を穿つ。微かに声量を落とした紅華の歌声は、誰かの重なりを待っているかのよう。
「♪~~」
目配せも言葉もないが、歌の調子から、ノネも紅華の意図を理解する。
伸ばした指先に施された
装飾は、ふよふよを思わせる青のグラデーション。しかし瞬く間に青は弾け、代わりに白紙に五線譜が刻まれる。
五線譜の上に躍る音符は、刻一刻と形を変える。
それは二人の歌をリアルタイムに反映。音楽の心得がある聴衆はノネの指先から音程を読み取って、自らの歌声を交ぜる。
「♪」
一人が加われば、あとは増えていく一方。
歌はあっという間に大合唱に変わり、辺り一帯を覆いつくす。
奏でられた調べの中心、ふよふよは気ままに浮遊するが、その動きはどこか指揮者のよう。
ゆるやかに旋回しつつ上へ上へと昇っていくふよふよの動きに合わせ、歌声のボルテージも上がっていき――。
最高潮の熱気の中、最後の響きはノネの口から。
それもやがて止むと、誰からともなく喝采が上がった。
●What day is it TODAY?
冬の寒さは、歌の熱気に塗り替えられた。
「成功~。ゎぁぃ」
「ふよふよ達も、喜んでくれてるみたいでよかったな」
ぱちぱち手を叩くノネに、ふよふよの様子を見上げる紅華。
達成感に包まれた二人の目の前、ふよふよは浮遊している。心なしか動作はいつもより弾んで見えて、ふよふよなりの楽しさの表明かもしれない。
「街も綺麗だし、良かったな」
「わたしもそー思う。ふふふ。……ぇ?」
街を包む煌びやかな輝きを見て、ノネは小さく声を上げる。
「ん?」
ノネの視線を追う紅華。
そこにあった看板には『Xmas』の文字と、サンタさんの姿があり。
「……くりすます」
ぽつんとノネは呟いて、思う。
そういえば、ふよふよをくれたのは、メカサンタではなかったか。
もっと言えば、これがバースデープレゼントなら、ふよふよへのXmasプレゼントはどうすればいいのか。
「ん? クリスマス……?」
その言葉に、紅華は思い出す。
前にもクリスマスを忘れていたことがあったことを。
そして、プレゼントを渡さなかったことで、藍世の機嫌を損ねてしまったことを。
すっかり頭から抜け落ちていた
祝祭が、今日この日だと気付いて。
ノネと紅華は顔を見合わせて、声を合わせるよりほかになく。
「「ぁ。」」
成功
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