サーマ・ヴェーダは恋慕の拗体か
メルヴィナ・エルネイジェ
以下は執筆時の参考資料程度に扱ってください。
●何人合わせ?
メルヴィナ
ルウェイン
以上二名です。
同背後なので扱いの公平性等は気にしないでください。
●ルウェインについて
エルネイジェ王国軍の軍人です。
階級は少尉で男爵の爵位を持っています。
しかし貴族カースト的には底辺の貧乏貴族です。
これは戦争で名を挙げた平民の成り上がりで、資産もコネも持っていないからです。
この時はまだ猟兵化している自覚がありません。或いは猟兵化していません。
またヴェロキラ・イグゼクターも拝領していません。
●ルウェインの性格について
功名心が強い堅物です。
自分の家系を武闘派と自負し、戦いで名を挙げて家格を高めようとしています。
「グレーデの血は戦士の血だ!」
これは自分と父を棄てて他の男の元に行ってしまった母を見返したい思いから来るものです。
●哨戒部隊
領海をパトロールしていた普通の哨戒部隊です。
●哨戒部隊を襲撃した敵って?
特に考えていないので完全に不明でもOKです。
●リヴァイアサンはどうやって敵に気付いたの?
クロムキャバリア全土よろしくエルネイジェ王国にも広域通信網は存在しません。
なので海洋生物が伝言を涙ぐましくバケツリレーして教えてくれます。
●ルウェインはメルヴィナを知ってる?
皇女なので顔は分かります。
直接の面識はありません。
しかし今回の件でトゥンクしてしまい、後に恋心を拗らせてメルヴィナのストーカー化します。
「メルヴィナ殿下……なんて美しい御方だ……まるで人魚のようだった……」
●メルヴィナはルウェインを知ってる?
全くの初対面です。
部隊が全滅して可哀想とは思っているかも知れませんがそれだけです。
●メルヴィナって魚臭いの?
スーパーの鮮魚売り場みたいな匂いがします。
隣にいれば魚臭いなぁって思うレベルです。
●臭いの原因
お風呂に入ってないとかアポクリン腺がどうとかという訳ではないです。
「お風呂は毎日入ってるのだわ!」
リヴァイアサンとの同調率が高まるほど身体の性質がリヴァイアサンに近付いていきます。
最終的に自分の身体にリヴァイアサンの力を宿すに至ります。
結果としてリヴァイアサンの超魚臭い体臭が反映されます。
またメルヴィナは魚を見るのも食べるのも好きです。
「お魚には健康や美容に良い成分が多く含まれているのだわ」
体臭の原因と科学的な関係があるのかは分かりません。
●本人は臭いを気にしてるの?
していますがどうにもなりません。
指摘されると不機嫌になります。
「そんな事言われてもどうしようもないのだわ……」
●香水は?
色々試しましたがどれも混ざり合ってヴォエッ!みたいな臭いになりました。
●ファブリーズは?
効きません。
ルウェイン・グレーデ
メルヴィナがルウェインと出会う切掛のノベルをお願いします。
アレンジ・アドリブその他色々お任せします。
●つまりどういう事だってばよ?
要約すると転生令嬢がイケメン騎士様を助けるアレと似たような感じです。
ある日の晩の海竜教会での事です。
リヴァイアサンが暴れ始めました。
縄張りとするエルネイジェ王国の海に何者かが入り込んだようです。
「勘弁して欲しいのだわ……」
折角眠っていたメルヴィナは叩き起こされてご機嫌斜めです。
ですがお仕事なのでスクランブル発進しました。
現地に着くと、海面には王国軍の船やキャバリアの残骸が浮かんでいます。
どうやら哨戒部隊が何者かの襲撃を受けて全滅したようです。
「生き残った人はいないのだわ?」
するとリヴァイアサンは心音を辿って生存者を見付けてくれました。
「酷い怪我なのだわ」
メルヴィナは生存者をリヴァイアサンの上に引き揚げました。
「急いで応急処置しないと手遅れになるのだわ」
そして膝枕すると、ユーベルコード【癒しの水】を使って治療します。
メルヴィナが助けた男の名はルウェイン・グレーデといいました。
ルウェインはエルネイジェ王国軍の軍人です。
その日は哨戒任務に当たっていました。
ですが突如謎の敵から襲撃を受け、乗っていたキャバリアを撃墜されて海に放り出されてしまいました。
そして気を失ってしまいました。
しかし水の音で目を覚ましました。
するとなんという事でしょう。
目の前にはとても美しい女性がいるではありませんか。
そして女性は魚の匂いがします。
とても芳醇な魚の匂いでした。
「人魚……だと?」
「残念ながら違うのだわ」
そこでルウェインは敵に襲撃された事を思い出し、慌てて飛び起きようとしました。
すると身体にとてつもない痛みが走りました。
「動いてはダメなのだわ。傷が深いのだわ。王国軍が来るまで大人しくしているのだわ」
ルウェインは女性の言う通りにします。
「王国軍が来る? ここは?」
「海の上でリヴァイアサンの上なのだわ」
「リヴァイアサン? まさか貴女は!」
ルウェインは思い出しました。
目の前の人魚のように美しい女性はメルヴィナ皇女だったのです。
「メルヴィナ殿下! ご無礼をお許しくださ……いでぇっ!」
飛び起きようとしたルウェインをまた激痛が襲います。
「動かないでと言ったのだわ。あなたは貴重な唯一の生存者なのだわ。死なれると困るのだわ」
メルヴィナの言葉にルウェインは言葉を失います。
「他の者は? 艦長は?」
ルウェインは恐る恐る尋ねました。
「聞こえた心臓の音はあなただけなのだわ。リヴァイアサンがそう言っているのだわ」
「そうでありましたか……恐れ多くもこの不肖ルウェイン・グレーデをご助命頂き、大海の竜帝とその巫女様に心よりの感謝を……皆、すまない……!」
死んでしまった仲間達を思い、ルウェインは声を殺して泣き出してしまいます。
「泣くと体力を使ってしまうのだわ」
メルヴィナは困った様子でよしよしと頭を撫でました。
ルウェインにはメルヴィナの手がとても温かく感じられました。
だいたいこんな感じでお願いします!
●∧(キャレット)
水似て燃える炎。
第一印象は、正しくそう形容する他なかった。
凍れる炎とも、燃え盛る氷とも取れるような威容。視界が埋め尽くされる。
かろうじて、それが五体持つ存在であると知れたことは己の幸運か、それとも不運であっただろうか。
いや、出来事自体は不運を示すものであったことだろう。
これで己の血は絶える。
己を戦士であるとルウェイン・グレーデ(無銘騎士・f42374)は既定する。
戦って、武を示すことで功を得る。
そういう自負があるのならば、己が戦いの中に死することはある種の必定であったことだろう。
きっと今際の際さえも戦場にあった父も同じことを思ったのかも知れない。
家督を継いだ己にとって、十代とは青春の日々ではなかった。
ただ激動の日々でしかなかった。
『エルネイジェ王国』において最も最底辺の貴族階級。
それが己である。
戦で名を挙げた騎士の家系、と言えば聞こえはよいが、実質的には慢性的な資金難を己が生命でもって自転車操業状態で維持しているに過ぎない。
愛があれば、などと嘯くことすらままならない。
なぜなら、愛というものが金に勝るものであることを己は知っているからだ。
「ああ、なんと……」
他愛のない人生であっただろうか。
こんなにも無為に散る生命であったのならば。
後悔が込み上げてくるのを感じ、ルウェインは喉に入り込んだ海水を吐き出した。
嗚咽が込み上げ、息ができない。
「俺は、何を」
何を考えた?
海上に残された炎は消えることなく燃えていく。凍えるような海の冷たさと、己が吐き出せなかった言葉に喉をつまらせ、空を掻きむしるようにして天に手を伸ばす。
だが、その手が何かを掴み取ることなどなかった。
己は何も掴めない。
忸怩たる思いすら抱くことすら許されず、ルウェインは意識を手放した――。
●海竜教会
メルヴィナ・エルネイジェ(海竜皇女・f40259)は、瞼をゆっくりと開け、目を覚ます。
いや、その動作はそこまで緩慢なものではなかった。
彼女は振動によって目を覚ましたのだ。
「なんなのだわ……?『リヴァイアサン』? どうしてそんなに暴れているのだわ?」
彼女は『エルネイジェ王国』の第ニ皇女にして、この国にて信奉される機械神の一柱『リヴァイアサン』の乗り手であり、巫女である。
彼女は猟兵であるが、しかし普段はこの海竜教会に引きこもり続けている。
その理由は彼女が所謂『出戻り』であるからだ。
他国との軋轢を解消するために政略結婚で嫁いだは良いが、破綻した結婚生活に心傷つき、逃げ帰ってきたのだ。
というのが『エルネイジェ王国』のゴシップ誌におおよそ、マイルドに記されるところの事実であった。
本来はもっと、醜聞じみた内容を面白おかしく記されているのだが。
「勘弁して欲しいのだわ……」
メルヴィナは己のネグリジェを落とす。
身一つでクローゼットを開く。そこには『リヴァイアサン』に搭乗する際に身につけるスーツがあった。
水中用キャバリアに最適な特化仕様のスーツは薄っすらと肌が透けるほどに薄く、しかし、深海の水圧にも絶えることができる仕様であった。
そのスーツに身を包む。
艷やかな黒髪が揺れて落ち、手にした海杖より伝わる『リヴァイアサン』の意志、その言語ならぬ声に耳を傾ける。
どうやら『リヴァイアサン』の伝えるところに寄ると、『エルネイジェ王国』の領海に何者かが侵入したようだった。
「数は? 一つ? たったそれだけなのだわ? それくらいだったのならば、領海域の哨戒部隊で十分対処できるのでは?」
少々不機嫌であった。
確かにメルヴィナは猟兵として戦い時以外は引き籠もってばかりである。
偶にはバカンスにと姉たちから誘われて出かけることはあっても、基本的に彼女は他人に対して不信感を募らせていた。
だからこそ、こんな晩に、それも就寝していた時に叩き起こされてはご機嫌な麗しくないのも頷けるところである。
しかし、『リヴァイアサン』が海竜教会の下、海と繋がっているドッグ兼プラットフォームで暴れているのならば巫女として出ないわけにはいかない。
「『リヴァイアサン』が其処まで言うのならば、行くのだわ」
意志が伝わる。
緊急の事態であると。
だからこそ、メルヴィナは『リヴァイアサン』に乗り込み海へと飛び出す。
海は静かでいい。
けれど、時として戦いの気配を呼び込むものであった――。
●戦禍
『リヴァイアサン』の巨体が海上へと飛び出す。
海水の飛沫が飛び散り、『メルヴィナ』は己が領海に浮かぶ惨憺たる状況をみやり、言葉を失う。
そこには『エルネイジェ王国』の哨戒船やキャバリアの残骸が浮かんでいたのだ。
どれもこれも損傷が激しい。
まるで強靭な力で一気に凍らせながら焼かれたかのような、ともすれば、何か大きな力でもってねじ切られたかのような破壊の痕だった。
「これは……酷いのだわ。全滅なのだわ……? 誰か、誰か生き残った人はいないのだわ?」
メルヴィナの動揺が『リヴァイアサン』に伝わったのだろう。
機体のマルチスキャニングソナーが起動し、音を拾い上げていく。どこを見ても、暗闇に浮かぶ残骸は見通せない。
祈るような思いだった。
哨戒部隊の全滅。
何者かが破壊したことは疑う余地もない。
だが、すでに破壊の主の姿は見えない。
残骸は全て『エルネイジェ王国』のものだ。ならば、敵の残骸は存在していないということになる。
一方的にやられた、ということだ。
「ソナーに反応なのだわ? これは……心音……!」
ソナーに引っかかったのは人一人分の心音だった。メルヴィナは即座にコクピットから飛び出す。
記されていたのは、海上の残骸となった哨戒船の破片の上。
彼女はためらいなく冷たい海水のナカへと飛び込んだのだ。生きている。生きている生命が在る。なら、彼女は己の身が凍えることも厭わずに破片へと近づく。
パイロットスーツのおかげでもあるが、しかし、それでも頬を、髪を濡らす冷たさは体から熱を奪うようでもあった。
「……酷い怪我なのだわ」
破片の上に上がる。
そこにあったのは一人の男性兵士。
海水に濡れ、銀髪が張り付いた肌は温度を失っているようだった。唇は青ざめ、さらに失血もしているのだろう。
このままでは死ぬ。
それを理解したメルヴィナはたった一人の生存者の体を抱き上げ、己の膝上へと乗せる。
瞳にユーベルコードが輝く。
まだ失われていない生命が己の腕の中にあるのならば、メルヴィナは諦めないだろう。
「治すのだわ。きっと。必ず」
癒しの水(ヒーリングウォーター)が生存者の体へと染み込んでいく。致死ではないというのならば、彼の体を癒やすことができるはずなのだ。
傷口が塞がっていく。
そして、喉奥に溜まっていた海水を咳き込むようにして吐き出し、彼は瞳見開く。
「ガハッ……! ゴホッ! ハァッ!?」
呼吸ができなかった次巻を埋めるように肺へと空気を取り込み、跳ねるようにして体を暴れさせる。
だが、メルヴィナは彼の体を己の膝上に押さえつける。
急に体を起こしてはならないと知っていたからだろう。喉に詰まっていた海水を吐き出させるために顔を横に向けさせる。
胃の内包物まで一緒に吐き出されてしまうが、意に介さない。
救える生命を救った。
ならば、己が身が汚れることなど彼女が厭うわけもなかったのだ。
胃液の据えた匂い。
そして、それすらも押しのけるのは芳醇な海の匂いだった。
銀髪の生存者……ルウェインは、見上げ、そして知るだろう。己を救った人物の姿を。
「人魚……だと?」
「残念ながら違うのだわ」
きっぱりとメルヴィナは生存者ルウェインに告げる。
確かに人魚に見紛うほどの美貌であった。海水に濡れた黒髪、ユーベルコードの輝き満たし瞳は青い宝石のようだった。
そして、何よりこの芳醇な魚の匂いに加えて女性の香り。
己の吐瀉物の匂いなんて、ちっぽけなものであった。だからこそ、ルウェインはメルヴィナのことを人魚だと思ったのだ。
いや、まて。
それどころではない、とルウェインは身を起こそうとする。だが、背筋に鋭い痛みが走る。
そうだ、己は謎のキャバリアと遭遇し、これに撃墜されたのだった。
「ぐっ……! 俺は、生きているのか……? 部隊は、みんなは……! 俺が、俺が行かねば
……!!」
「動いてはダメなのだわ。傷が深いのだわ。王国軍が来るまで大人しくしているのだわ」
だが! とルウェインは立ち上がろうとする。
そこで傍と気がつく。
ここはどこなのだ? 王国軍と眼の前の人魚の如き麗しき婦人は言った。
ならば。
「海の上で『リヴァイアサン』の上なのだわ」
ルウェインはメルヴィナの言葉に頭上を見上げる。なんで今まで気が付かなかったのだと思うほどの威容が其処には在った。
「り、『リヴァイアサン
』……?! な、ならば……貴女様は……!」
そう、知っている。
己が仕える王国の第ニ皇女にして『リヴァイアサン』に選ばれた巫女。メルヴィナ・エルネイジェその人!
「め、メルヴィナ殿下! こ、これはなんというご無礼を……!」
膝枕されていた上に吐瀉っていたのである。
状況が状況ならば、ハッキリ言って死刑である。絞首刑が斬首刑か銃殺刑か。選べるだけまだマシってもんである。
慌てふためいたルウェインは身を正そうとして、また激痛が身に走る。
だが、皇女殿下の前で騎士として醜態を晒すわけにはいかない。立ち上がるのだ。せめて、騎士の例だけでも! と彼は渾身の力を込めて立ち上がろうとする。
それをメルヴィナは制するようにルウェインの頭を掴んで己の膝上に戻すのだ。
「な、何を
……!?」
「動かないでと言ったのだわ」
「し、しかし、御身を……殿下の前でこのような……!」
「あなたは貴重な唯一の生存者なのだわ。死なれると困るのだわ」
ルウェインは言葉を喪う。
皇女殿下に粗相をしただけでなく、膝を借りている状況などどう考えても説明ができない。いや、これを見咎められたのならば、自分には何の釈明の余地がないことなど今でもないのである。
だが、今、唯一の、と言ったのだ。
「他の者は? 艦長は?」
それは今の状況を正しく認識するために必要な問いかけだった。
唇が震えているのが己でもわかった。
わかっていたことだ。だが、認めたくはない現実でもあった。
己だけ。
ならば、部隊の者たちはもう。
「聞こえた心臓の音は、あなただけなのだわ。『リヴァイアサン』がそう言っているのだわ」
無慈悲な言葉だった。
己の現実が容易く打ち砕かれる音だった。
受け入れるだけの時間もなかった。けれど、飲み込んだ。飲み込まねばならない。そうだ、己は戦士であり、騎士である。
騎士は泣かない。
誰かの涙を拭うために、涙を流させぬために戦うものだ。
己の父が言っていたように。
ならばこそ、今己が流すべきものは涙ではない。
「そうでありましたか……恐れ多くもこの不肖ルウェイン・グレーデをご助力頂き」
泣くな。
泣くもんじゃあない。
己を騎士だと言うのなら。そういうもんだってお前が言うのなら。
戦友たちの声が聞こえたような気がした。
これは幻聴に過ぎない。己の弱い心が聞かせているだけだとわかっている。
けれど、
「大海の竜帝と、その巫女様に心より感謝を」
喉がひきつる。
すまない、と心中で詫びるほかなかった。己が強かったのならば。己にもっと力があったのならば。
失ったものも失わずには済んだかもしれない。
泣くな。
泣くんじゃあない。
そう言い聞かせるのに、その言葉は戦友たちの声で心に響くのだ。
どうしたって、ひきつる喉は、戦友たちに捧げる言葉を絞り出せず。
「泣くと体力を使ってしまうのだわ」
「……な、いて、などおりませぬ」
「そう、なのだわ……そう、泣いてなどいないのだわ」
そっと銀髪を撫でる。
困った様子出会ったことは言うまでもない。メルヴィナの優しげな眼差しがルウェインの心をより一層惨めなものにしただろう。
けれど、それ以上に。
ルウェインにはメルヴィナの手が温かく感じられたのだ。
己を捨てていった母親。
確かに己の家は経済状況が良くはなかった。けれど、そんなこと幼い自分にはわからなかったのだ。
そんなに金がなければならないのかと思った。
金がなくとも愛あればよかったのではないか。愛あれば、全てが乗り越えられるものではなかったのか。
だが、母親はそうではなかったようだった。
そして、父はそんな己の、いや、自身に空いた穴を埋めるように戦場へと駆け、散っていった。
その運命を呪わない日はなかっただろう。
けれど、メルヴィナの手は己の心の檻を溶かすようあった。
なんたる慈悲深き方なのだろうと思った。
こんなにも惨めな己を優しく、癒やしてくださった。
胸に湧き上がるは、忠義以上の感情であった――。
●そして、そして、の先へ
ルウェイン・グレーデは騎士である。
言うまでも無いが、己の剣は国である『エルネイジェ王国』へと捧げられている。
これまでの彼は功を焦っていた。
騎士の家系であり、男爵としての地位を持つがしかし、慢性的な資金難を抱えていた。
父は戦場に散り、母は経済状況に不満を抱え男を作って蒸発した。
女というものにある種の敵愾心を持っていた。それは今も変わらない。
だが、ただ一人。
そう、ただお一方。この世界にあって、たった一人のあの御方だけは違う。
「メルヴィナ殿下……」
己の剣は国へ。
されど、己の忠義はただ一人。あの御方のためにこそある。
騎士として、抱く感情ではないと言うのならば言わせておけば良い。
何を置いても己は、あの尊き御方のために馳せ参じ、この生命を擲つ覚悟があるのだ。
「……人魚のように美しき御方。あの御方のためならば!」
ルウェインは一歩を踏み出す。
己のが父と同じように戦で名を挙げ、家格を高めることは忘れていない。
だが、己が邁進すべき理由の一つを彼は手に入れたのだ。
父は唯一、空いた穴を埋めるためだけに戦場に奔走し、散った。
それは伸ばすべきものが唯一であった。
戦う理由が唯一だったからだ。
けれど、己は違う。
たった一つではなく、多くを抱え、ただ一人、メルヴィナ殿下のための剣であることを願うのだ。
「あの日、俺から全てを奪った存在がいる。ならば、奴を討てば、爵位だろうと褒賞だろうと!」
駆け上がる。
今の己ではあの御方の隣に立つことなど到底できはしまい。
だが、己が今戦う理由を得たのならば!
進まぬ理由はない!
いつの日にかあの御方の傍に。
ルウェインの心は嘗てないほどに燃え上がっていた。舞い上がっていたとも言うし、第三者的には拗れてると言ってもいいが、それを正す者はいなかった――。
成功
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