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バトル・オブ・オリンピア⑭〜原チャリで来た!

#アスリートアース #バトル・オブ・オリンピア #モーターレース #レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』


●最速の魂への挑戦
 車、バイク、果ては飛行機――あらゆるジャンルのモータースポーツに挑戦し、それらのことごとくの大会で頂点に立ったという伝説のレーサー。それがウィリアム・ローグという人物だ。
 しかし彼の目的は、表彰台の天辺などではない。莫大な賞金でもない。スピードそれ自体だった。速度を極め、極めきった果てのさらに先、スピードの向こう側を追い求めていたのである。
 不慮の事故で命を失ったはずの彼が、今、アスリートアースに『レース・フォーミュラ』として帰還した。最速を求めた生涯の果てに、彼は何者にも追いつけない『アルカディア・エフェクト』に至った。
 ただ、彼自身はこの能力は死者たる己が持っていてもしかたないものと考えているらしい。
 ゆえに、命ある者たちのうち、見所のある者にその能力を託そうとしているのだとか。
「で、白羽の矢が立てられたのが、あたしら猟兵ってわけ」
 大宝寺・朱毘(スウィートロッカー・f02172)は肩をすくめた。
「その見極めとして、実際にウィリアムとレースをするってのが、今回の依頼になる。どんなモータースポーツでもどんなコースでも構わないって話だったから……スクーターレースで、って頼んでみた」
 スクーターレースは、文字通りスクーターを用いたレースである。レギュレーションは様々あるが、今回は排気量は50cc以下、形状はいわゆるスクーター型のみでミニバイク型はダメ、ただしその他の改造は武装や兵装を含めて何でもアリという規定になっているのだという。
 コースはアスファルト仕様のサーキットコース。ヘアピンもあればジグザグもあるし、直線もあるという、まあごく普通のもので、特にこれというギミックはない。
「スクーターならそんなにとんでもないスピードなんて出しようがないから、いくらウィリアムでも……って言いたいところなんだが、正直、この条件でもレースで勝つのは無理だと思う」
 スピードを極めた彼の技術は、少なくとも今の猟兵で太刀打ちできるような領域にはない。
 では、ウィリアムに何をもって猟兵を認めさせるかといえば、それは『魂』に他ならないという。
「もっと噛み砕くなら……いわゆるスポーツマンシップとか、リスペクトとか、そういうことじゃないかな? 彼自身はスピードにこだわり抜いたアスリートだったわけだが、何かに対して一所懸命であることとか、懸命な人に対して敬意を持ってこととか、そういうのができる人を認めてくれる……ってことだと思う」
 つまりレースに勝てないまでも、レースを通じてそれらの心意気を示すことができれば、成功となるわけだ。
「ちょっと条件の特殊な戦いになるけど、あたしから言えるのは以上だ。アスリートアースの命運が掛かってる戦いでもある。気合い入れて挑んでくれ」


大神登良
 オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良です。

 これは「バトル・オブ・オリンピア」の戦況に影響を与える戦争シナリオで、1章で完結する特殊な形式になります。

 このシナリオには下記の特別な「プレイングボーナス」があります。
『プレイングボーナス……レースを通じてウィリアム・ローグに自身の「魂」を示す』
 レースに勝てるか勝てないかは重要ではありません。そもそも、勝てる可能性は限りなくゼロに近いと考えられます。レースに対して、あるいはスポーツ全般、もっと広く何かに挑戦することそのものに対しての真摯な姿勢を示すことで、ウィリアムの心を揺さぶることが攻略条件になります。
 逆に、相手に対してリスペクトを欠く言動、スポーツに対して不誠実な態度などを見せた場合は、どれほどスピードや運転技術その他に優れていようが失敗するものと思ってください。
 なお、このシナリオに参加し成功すると『アルカディア・エフェクトの後継者』となります。今すぐ何かができるわけではありませんが、いずれ覚醒するかもしれません。

 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『ウィリアム・ローグ』

POW   :    アルカディア・エキゾースト
レベルm半径内を【アルカディア・エフェクト】で覆い、範囲内のあらゆる物質を【何者にも縛られぬ風】で加速、もしくは【置き去りにされた過去の光景】で減速できる。
SPD   :    ブラック・インフェルノ
【レーシングマシン】から、戦場全体に「敵味方を識別する【漆黒の炎】」を放ち、ダメージと【強制進化】の状態異常を与える。
WIZ   :    ヴォイド・リフレクション
【超加速能力】を宿した【車載兵器からの一斉砲撃】を射出する。[車載兵器からの一斉砲撃]は合計レベル回まで、加速・減速・軌道変更する。
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数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

……は?
何言ってんだ、「勝つのは無理」?
寝言も大概にしやがれ、最初から勝負を捨てるレーサーなんているもんかよ。
やるからには勝つ!
その意気込みと覚悟で臨まなけりゃ、それこそレースと対戦相手への冒涜じゃないか。
そうだろう、ウィリアムさんよ!

勿論挑むのは真っ向勝負、レギュレーションを考えりゃアタシも宇宙カブに乗れないが条件としちゃ同じ土俵って事だね。
武装はいらねぇ、むしろカウルやフレームを剛性をギリギリ残して軽量化しておくれ。
スピード勝負で余計なウェイトはいらないからさ。
後は単純、『運転』と『操縦』技術を研ぎ澄ませて食らいついていくだけ!
現在のレーサーの意地を見せてやる!



●走魂注入
 かつて著名なプロ格闘家が、試合前にインタビュアーから「もし負けたらどうするか」と質問され、「戦う前に負けることを考える者があるか!」と一喝したというエピソードがある。彼のこの態度は、アスリートたる者かくあるべしと、後の世に至っても賞賛の対象となった。
 数宮・多喜(撃走サイキックレーサー・f03004)は、そんなアスリート魂を持ったレーサーだった。
 ゆえに、グリモアベースで聞かされた注意事項について、多喜は大いに不満だった。
「カウルやフレームは、最低限の剛性がギリギリ残ればいいから、限界まで軽量化しておくれ。武装は何もいらない」
 多喜にそう言われたメカニックの中年男性は、眉間にしわを寄せた。
「無茶なオーダーだな。そんなマシン、ろくに乗りこなせるもんじゃ……」
「乗りこなす」
 鬼気迫るオーラを放ちつつ、多喜は言った。
「そうじゃなきゃ、あのウィリアムには勝てない。そうだろ?」
「――っ」
 メカニックは息を呑んだ。
 と、そんな両者の様子を見ていたウィリアム・ローグが口を挟んでくる。
「本気で勝つ気なのか……?」
「当たり前だ。そのつもりでなきゃ、相手にもレースにも失礼ってもんだろ。やるからには勝つ!」
 その軒昂なる意気は、多喜にとっては当然のことだ。しかし、ウィリアムにとっては懐かしさを感じるものだった。
 生前、勝利を重ねて圧倒的強者となったウィリアムに対し、多くの者は「胸を借りるつもりで」と言って挑んだ。骨のある者は「どうにか喰らい付く」と言った。「勝つ」と言ってくる者となると、ほんの一握りだった。
 ウィリアムは身を一つ震わせた。レースをする前にしてわかる。多喜の魂はアルカディア・エフェクトの後継者たるに相応しいと。
 だが、だからといってレースをせずして合格判定を出すわけにもいかない。
 ヘルメットの奥から笑みをこぼして、ウィリアムは言い放つ。
「……では私は、跳ねっ返りの小娘と絶対王者との差を、わからせてみせよう……!」
「はっ、上等だよ!」
 闘志を燃やす両者の間に、激しい火花が散った。

 その後に繰り広げられたレースは、見る者の心を焼く名勝負だった。
 多喜は【一走懸命(ザ・オンリー・ニート・ルート・トゥ・ウィン)】で常にウィリアムの背後に追随し続けた。そして最後の直線、限界までの軽量化が物を言い、空を飛びそうなほどの加速でウィリアムを捉え、そのまま抜き去る――かと思われたが、ギリギリのところで【ブラック・インフェルノ】の炎に耐えられずに大破した。
 剛性の見極めを誤ったとメカニックが平謝りしたが、多喜は「あのマシンだから喰らい付けた」として、彼を責めることはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空桐・清導
SPD
アドリブや連携も大歓迎だ

「ヒーローは戦う舞台を選ばない!
いざ尋常に勝負といこうか!ウィリアム・ローグ!!」
熱血が服を着て歩いているような男―空桐清導
機械鎧がスクーターに乗っているのは少し間が抜けているが、
彼は超本気中の超々本気、マジも超々マジだった

UCに発動して炎の灯ったスクーターを駆け、
のんびりとした排気音を掻き消す全力の雄叫びを上げる

「へっ!最速のレーサーはどんなマシンでも速いぜ!
けどな!オレはアンタという最高の男に認められてえ!!
そして、必ず最高のヒーローになるんだよ!!」
何処までも愚直で一本筋な志
どれだけくじけ、転ぼうとも決して諦めない
それが己に出来ることだと清導は声高に宣誓する



●倒れない者、あるいは倒れた後に立てる者
 ヘアピンに差し掛かったウィリアム・ローグの外側からまくってくるように、紅蓮の炎に包まれた空桐・清導(ブレイザイン・f28542)が肉迫してきた。
「勝負だ、ウィリアム・ローグ!」
 熱のこもった声で宣言する清導の格好は、炎のような赤い色の機械鎧姿だった。
 モーターレースはどんなものであれ事故、衝突のリスクが付きまとうし、こと二輪車は構造上転倒しやすい上に、乗り手が露出している。ゆえに、服装を頑丈なものにするのは必須であるといえる。いえるが、しかし。
「重そうだな……」
 スクーターにまたがる清導の姿を見やり、ウィリアムは首を傾げた。
 ゴテゴテした機械鎧が小柄な二輪車にちょんと座っている様は、見目にシュールなシルエットだが、それ以前にスピードで勝負において余分な重さは不利を招く。
 だが、清導は別にギャグやウケ狙いでそうしているわけではない。彼は大真面目だし、超本気である。
 その本気を示す炎が、彼と彼の操るマシンを包んで燃え盛っている。【フレイム・フルカウル】の炎を宿したスクーターは、性能の限界を無視しているとしか思えないスピードを捻り出している。
 だが、それでもなおウィリアムとの差が縮まらない。いかなるジャンルのモータースポーツにおいても最速。ある種の呪いとさえ思えるその性質は、清導のユーベルコードによる超常さえも超えてくる。
 とはいえ、そうなるだろうことは清導も予想はできていた。わかっていながらにして、それでも挑まずにはいられなかった。
「オレはアンタという最高の男に認められてえ! そして必ず、最高のヒーローになる!」
「愚直だな……」
 ヘルメットのシールド越しにでもまぶしい物を見るように、ウィリアムは目を細めた。
「だが、口だけ、気持ちだけの者は英雄たり得ない……その言葉を嘘にしたくないなら、相応しい実力を示すのだな……」
「言われるまでもねぇぜ!」
 さらに炎の輝きと速度を増やし、ウィリアムを追う。
 それでも、差は縮まるどころか徐々に開いていきさえする。レースの最後まで、その差が挽回されることはついになかった。
 勝負に勝つ者は、強い者だ。では、勝負に負けた者は、弱い者か? 一側面を見るなら、そうだろう。しかし、負けてもなおくじけず前を向き、次の戦いに立ち向かえる者は、決して弱者ではない。人はそれを、たとえば勇者と呼ぶ。
 この敗戦を経験した清導が、後に何者と呼ばれるようになるのか? それは、歴史が語ることになるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
魂を示すか……よかろう
では存分とみせてやるとしよう

ちょっと骨董品にも近いような、
すごく使い込まれたスクーターを借りて持ち込むぞ

そしてスタート前に、『神は万物に宿る』を使用する
我が神通力を分け与えれば、このスクーターには魂が宿り付喪神となる

此度のレースでは其方が我の相棒だ
では、よろしく頼むぞ!

我には操縦はできぬため、レースは基本スクーターの付喪神任せだな
適宜念動力でカーブを曲がるのをサポートしたり、鼓舞で応援しよう
(必要があればオーラ防御で攻撃のガードも)

我(鏡のヤドリガミ)のように道具にも魂が宿る
それはスクーターでも同じことだ
道具の魂を、とくと見るがよい!



●魂は過去に、今に、未来に
 天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)はレーサーではない。運転技能があるわけでもない。それでは、ウィリアム・ローグと戦うどころか、まともレースをすることさえままならぬのではないか。
 そう思うのが自然だが、しかし。
「我は道具に宿る魂の力を引き出せる。我自身も、鏡のヤドリガミゆえな」
「ほう……?」
 話を聞きつつ、ウィリアムは興味深げに唸った。
「スクーターも同じ。なるべく多くの経験を積んだ上に大切にされてきた、骨董品のようなスクーターが理想だが……」
「それなら……少し手前味噌になるが、打って付けのマシンがある……」
 そう言ってウィリアムはどこぞに引っ込み、しばししてから、何やら古ぼけたレース用スクーターを引っ張り出してきた。
「私が生前に使ったマシンだ……今の時代では型落ちもいいところだが、経験値という点では、なかなかだろう……」
「おお?」
 百々は目を丸くした。かつてのウィリアムの愛機。つまりは伝説の最速をその身で経験した生き証人、いや生き証メカということ。
「確かに申し分ない。だが、敵に塩を送るような真似をして良いのか?」
「構わない……むしろ、私も見たいのだ……このマシンの魂の力を……」
「ふむ」
 百々はウィリアムに託されたマシンのハンドルを握った。それが物品であるからには、触れればわかる。そのスクーターは古ぼけてはいるが、愛情と敬意をもって手入れされてきた代物だ。
「では、存分に見せてやるとしよう」

 レースは信じられない展開となった。終盤に至るまで、百々の操るスクーターがウィリアムの頭を完全に押さえ、リードを奪っていたのである。
 百々のスクーターからにじみ出るオーラを、後方のウィリアムは懐かしく眺めていた。
「忘れたことはない……私一人が最速であったことなど、これまで一度もなかったことは……」
 マシンに宿る魂は、おおむね彼が想像した通りだった。かつてのウィリアム自身と、メカニック、スタッフ、果てはファンやライバルたちの気配。全てがない交ぜになったものが、マシンの鼓動になり、息吹になり、感じることができた。
 ――おいおいチャンピオン、そんなものかい?
 マシンの魂が、ウィリアムを振り返って、そう言ったような気がした。
「ふっ……生意気な……!」
 最後のカーブに差し掛かったところで、ついにウィリアムが内を突いて並んでくる。
「ぬうっ――気張るのだ、相棒よ!」
 ドライビング技術で役に立てない百々は、マシンの魂を鼓舞することで加速を促す。それは、かつて最強を誇ったウィリアムと同等の技術をもって成された。つまりは誰にも追い付けるはずがない――ウィリアム自身以外には。
 直線のデッドヒートの果て、過去の己の魂を抜き去ったウィリアムは、わずかマシン半分のリードで先着した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エイプリル・スノードロップ
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。

強敵ともとの戦いは魂を、生命を強く輝かせる、これほどわくわくすることはない。
マシンスペックが同じなら後は純粋なテクニック勝負じゃな。やはりコース取り一つとっても差がでてくるのぉ、まぁ分かっていたことじゃ。じゃがこれは喜ばしいことでもある。これ以上ない見本が目の前におるのじゃからな。
体格が違う以上はそのまま真似しても意味はない、吾の肉体に合わせた調整が必要じゃ。たとえ今は届かずとも、いずれ必ずどれだけの時をかけようとも追い抜いてみせると約束しよう。
まぁ、今はこの勝負を楽しむとしようぞ。


ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
懇願する、ねえ。
フォーミュラに頼まれ事をするとは思わなかったけど、
まあ、頼まれたのなら応えようか。

スクーターレースの経験は無いけれど、幸い目の前に最高のお手本が居るからね。
【慣応練磨】で観察して技術を覚えて、少しずつでも近づけるように腕前を上げていくよ。
過去の光景に目を向ける暇なんて無い。
生きてる限り、挑む限り、意志ある限りあたしはなんだって出来るんだ。
いずれ追い越してみせるさ。

たださ、あたしがアンタを越えていったとして、もう一度追いつく気はないのかい?
無理とか無意味とか、アンタはそんなものに縛られる様な奴には見えないんだ。
死んだくらいで生命の、魂の輝きは失われないって、あたしは信じてるよ。



●約束
 ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)は、彼女にしては珍しくといっていいだろうか、ほとんど人と変わらぬ体をしていた。スクーターレースの経験などなく、スクーターに適した獣体がどんなものか見当が付かなかった彼女は、結局『人が乗る用にデザインされた物に乗るのだから』と、人の形で落ち着かせたのである。
 スタートの前、マシンにまたがるウィリアムを横目にしつつ、ペトはふと思い付いて声を掛けた。
「仮にあたしがアンタを越えていったとして、もう一度追いつく気はないのかい?」
「……どういう意味だ……?」
「アルカディア・エフェクトだよ。アンタは死者にとって無意味だって考えてるみたいだけど……死んだくらいで魂の輝きは失われないって、あたしは信じてるんだよ」
 ペトが言うと、ウィリアムはしばらく虚空を見つめつつ考え込んだ。
 そしてやがて、ゆるりと首を振る。
「それはできない……現世でアルカディア・エフェクトを使う者がいるとすれば、それは命ある者でなければならない……」
「かつてのアンタの生き様から考えると、そんな固定観念に縛られるようには思えないんだけど?」
「いや、こればかりは骸の海に至った者の、違えてはならないケジメだ……これを破って現世で大きな力を振るえば、それと意識しようがしまいが、世界に破壊をもたらす……それは、私の望むところではない……」
 それでも、己の生涯を賭して得られたアルカディア・エフェクトを骸の海に浮かべておくだけにはしておけなかった――あるいは、これが現世にあれば来たるべき災厄を防げるという予感でもあったのか。
 何にせよ、彼はそれを自分が振るうものではなく、命ある者に託すべきものとして扱うつもりのようだ。
「そうかい……まあそれなら、その思いに応えようか」
 ペトは前へ向き直った。
 シグナルが青に変わるまで、もう間もない。

 ペトとエイプリル・スノードロップ(豊穣の聖女・f40158)と)は、両者ともに似たような作戦を考えていた。
 それは、先行するウィリアム・ローグのレースぶりを見本として観察し、その技術を自分のものにすることでウィリアムに喰らい付くというものである。常人には――というか、レースのプロであってもやろうと思ってできるようなことではないが、超常存在たる猟兵、その理外の動体視力や洞察力があれば、必ずしも不可能ではない。
「やはり、コース取り一つとっても差がでてくるのぉ」
 つぶやきつつ、エイプリルはウィリアムの真後ろを通りつつヘアピンを曲がっていく。
 ほとんど同じ軌道を描いて走っているのだが、ほんのわずか、エイプリルの方が外へと膨らむ。そうして伸びた距離の分だけ、ウィリアムの背は遠くなる。
 ハンドルさばき、あるいは微かなアクセルワーク、あるいはもっと他の何かの要因。一応、把握できる限りのことは把握して己のドライビングに反映しているつもりなのだが、それでも歴然たる差があった。
 これは、見たままの動作を反映するだけでは、体格差その他の要因で最適解を引けないからである。
 無論、それはエイプリルとて理解しているので、都度都度に自身に適応できるように調整はしているつもりである。あるが、しかし、今見て今分析して今反映させて、それで伝説的最速を上回る最適解を導いて再現してみせよというのは、あまりにも無理があった。
 さらに無論、そうなるだろうことまで、エイプリルは理解していた。
「戦いは魂を、生命を強く輝かせる。敵が素晴らしき強者であれば、なおさらな」
「さて……あたしらにとっては敵は確かに強者だけど……」
 【慣応練磨(コンバット・ラーニング)】でジワジワとドライビングの精度を上げつつ、それでも徐々に引き離されているペトは、愚痴るように言う。
「ウィリアムは退屈しちゃいないかい?」
「そうでもない……初心者同然のレーサーにあっさり抜かれたとあっては、あの世でライバルたちに合わせる顔がなくなるから……格好は付けさせてもらっているがね……」
 ウィリアムからすれば、レースの専門家でもない者が初見で自分の動きを模倣し、ある程度喰らい付けているという時点で驚愕の対象であった。
 今は膨大な経験の差がアドバンテージとなってウィリアムの方がリードを得られているが、伸びしろでいえば、生前のウィリアムをも凌駕するのではないか。そう思わせるだけの、ダイヤの原石めいた魂の輝きは感じ取ることができる。
「いつか私と同じ領域……いや、私には至れなかった領域にさえ……君たちならば、行けるのかもしれないな……」
「もちろんだ!」
 次第に遠ざかりつつある背中へ向け、エイプリルは叫ぶような大声で言った。
「今は届かずとも、どれだけの時間を必要としようが、いずれ追い抜いてみせると約束しよう!」
「……そうか……その約束、信じよう……」
 薄く笑ったウィリアムは、さらなる加速で猟兵たちを突き放しに掛かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エミリィ・ジゼル
スピード競争であれば原チャリでも受けるんですね
ローグさんはあれですね、なんとかと天才で紙一重で天才の方。
常軌を逸した者というのは得てしたそういうものでしょうか。

原チャリにサメのペイントを施して参戦。
わたくしの魂と生き様を見せつけるならば、やはりサメは欠かせません。

スピード勝負ではローグさんには勝てないでしょうが、これは魂を証明する場。
最終コーナーに入ると同時にUCを発動。サメペイントが施された原チャリなら、これもサメ判定を受けるはず…!

UCが発動して竜巻をまとえたらそのまま一気に全速力でゴールを目指します。

わたくしもサメという一点においては常軌を逸している自信があるのです。それをお見せします。



●クレイジー
「サメのペイントがされているスクーターはありますか?」
「ないけど……重要なのかい、それ?」
「重要です! 最重要です!」
 メカニックの中年男性にかじりつくような距離まで肉迫しつつ、エミリィ・ジゼル(かじできないさん・f01678)が叫ぶ。
「わたくしの魂と生き様を見せつけるならば、サメは欠かせません!」
「お、おう……」
 凄まじい圧力に、メカニックは倒れそうなほどに仰け反った。
「な、何かわからんが……それなら、既製のスクーターにペイントしておくよ」
「お願いします!」
 と、まあ。
 そんな様を見やったウィリアム・ローグは、怪訝そうに首を傾げた。さりとて口を挟むようなことでもないと断じたのか、放置して己のマシンの準備へと戻った。

「竜巻がまとえない?」
 コース上にて、エミリィが金切り声を上げる。
 【轢き殺すサメイドの術】は、騎乗したサメに竜巻をまとわせつつ、超絶の速度で敵を轢殺するという荒技である。
 ゆえに当然、条件としては戦場に適したサメに騎乗しなければならないというものがある。
「……私も世界のルールについて、大して詳しいわけではないが……」
 ウィリアムがエミリィの背後からすーっと近寄りつつ――すでに周回遅れにしてしまったためだ――声を掛けてくる。
「やはり、サメの絵を描いただけのスクーターは、サメとは判定されないのではないか……? サメにこだわらず、他のユーベルコードを使ったらどうだ……?」
「ぐぬぬ……! しかし、それではダメなのです!」
 轟然とエミリィは叫んだ。
「ここは魂を証明する場! サメなきわたくしなど、わたくしではありません!」
 エミリィの魂の咆吼に応じ、スクーターにペイントされたサメの目が、ギラリと光ったように見えた――そう見えただけで、別に改めて竜巻をまとうといったことは起きなかったが。
「そ、そうか……」
 スピード狂。モータースポーツ馬鹿。そんなような評は、生前のウィリアムも散々に言われてきた。耳障り良く称するなら伝説的レーサーとなるのだろうが、スピードを競う競技であれば何にでも首を突っ込み、賞金を溶かすようにマシンに注ぎ込み、身の危険を一顧だにせず爆走する様は、とても正気の人間の所業とは思われなかったことだろう。
 サメという一点において常軌を逸しているエミリィの姿は、そんなかつての自分と重なる部分がある――かもしれない。そんな気がしないでもない。ほんのりと微かに。
「これもまた、魂の煌めきか……何というか、何か、紙一重な気はするが……」
 スピード勝負では圧倒しているはずのウィリアムだったが、エミリィに気圧され、戦慄してしまったのは確かだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

結月・志愛美
よ…よし!最強のレーサーと勝負だ!
『ははは!速度を求める鋼の精神に挑むつもりでいきな!』
背中に背負う剣サヴェイジ・オーラに応援していた
50ccに改造したサヴェイジ・バイクに乗る
視力と心眼でジグザグなどに気をつけながら運転する

これが…アルカディア・エフェクトなの?!
UCに対しては破壊属性の光線を放ちアルカディア・エフェクトを消滅させようとしてみる
念の為、消滅耐性属性の結界術を展開しておく

ウィリアムさん、凄いスピードだ…
『そりゃ富すら無視して速度を求めた男だよ?シャミ?』
一度深呼吸してから叫ぶ

…ウィリアムさん凄く強いし、バイクは初めてだけど!私だって猟兵の一人なんだ!どんな困難も乗り越えて見せる!


花咲・月華
レンタルスクーターを借りています

これがウィリアム・ローグさんがこだわり抜いたスピードか…うん、燃えてきた!
私は50ccでさえ安定かつ最速で走っている相手に対して燃えている
私は直線で推力移動しているが差は縮まらない

UC対策は視力で炎を見ながら水属性攻撃の弾幕を放ち相殺します
念の為水属性(属性攻撃)のオーラ防御を纏っています

私の夢は!世界中の皆と友達になりたいの!誰も仲間外れがいない世界を作りたいの!…私が未熟だからちょっと遅れているけど諦めないよ!色んな事に挑戦して沢山失敗しても絶対野望を叶えてみせる!
叫びながらUCを発動した
これは気合を入れる為に発動しています
さあ!まだまだ勝負はこれからだよ!



●望みは絶えず、むしろ高く
『相手は富も栄誉も何もかも無視して速さを求めた男だよ。そのつもりで挑みな、シャミ』
「わ……わかってる」
 背中の剣に語りかけられつつ結月・志愛美(時空を超えた龍神少女『シャミ』と次元災害の剣・f40401)はハンドルを握る手に力をこめた。
 剣を背負ったままというのは、ウェイトの面を考えればレースに不利になる要素でしかない。しかし志愛美にとってはこの剣は心の支えのようなものであり、どんな種類の戦いであれ、これを置いて挑むなどというのはまず考えられないことだった。
 そしてスクーター。持ち込んだバイクで臨みたいところだったが、これはエンジンを換装してもボディの形状がスクーターに準拠していないと判断され、レギュレーション通りのスクーターを借りることになった。
 ゆえに、心細さはある。力をこめようと、手が震えるのを抑えることができずにいる。
「大丈夫だよ!」
 同じくスクーターをレンタルした花咲・月華(『野望』を抱く?花咲の鬼姫・f39328)は、志愛美の脇に並びつつ、彼女を鼓舞するように声を掛けた。
「レンタルスクーターって言っても、アスリートアースでもトップクラスのスタッフがレース用にチューンナップしたマシンだよ。ウィリアムさんのマシンにだって、性能は負けてない!」
「……うん!」
 うなずいてから、志愛美は顔を上げて前を向いた。体の震えが完全に消えたわけではないが、それでもレースに集中できる程度の腹はできた。
 そんなやりとりは、両者の近くでレーススタートを待つウィリアム・ローグの耳にも当然届くことになる。
 嘲笑うでもなく感心するでもなく、ただ静かに聞いていたウィリアムは、ちらと横目を向けつつ口を開いた。
「素人の癖に、とは、言うまい……レーサーではなくとも、猟兵なのだろうからな……」
 この場にある資格について、ウィリアムはさほど厳しいものを考えていたわけではない。戦う気があること。ルールを守る気があること。示すべき魂があること。せいぜいそのくらいだ。レーサーとしての技量がどうとか、レース前に緊張するかしないかとか、そんなことは些事でしかない。
「ただ、素人が相手だからといって、私は手を抜けない……その覚悟だけは、しておいて欲しい……」
「……!」
 威圧的なオーラ――威圧しようと思って発したわけではないかもしれないが、格上存在の格上たる気配が、確かにそこにあった。志愛美も月華も、固くなった唾を飲み下す。
 それでも。
「それは、当然だよ……」
「手加減なんて、いらないよ!」
 萎縮せず、言い返してみせた。

 速い。
 当たり前だが、ウィリアムは圧倒的な速さを見せつけていた。
 志愛美や月華にせよ、別にそれほどまずい走りをしているわけではない。ヘアピンや連続カーブでは丁寧なライン取りをしているし、直線では目一杯に加速している。並のレーサーとならばそれなりに勝負できるだけのことはできている。
 だが、それは伝説と渡り合えるだけの水準にあるかといえば、否だ。
「凄く速い、強い……」
「これが、ウィリアムさんがこだわり抜いたスピード……」
 陸にいながらに溺れているように、志愛美と月華はあえぐ。
「……これでも、まだ、諦めないか……?」
 二人を振り返りつつ、ウィリアムは問うてくる。
 そんなことを言われれば、あるいは言われるまでもなく、絶望していてしかるべきだろう。それだけの差を付けられている。二人がレースを放棄したとしても、何も不思議ではない。
 しかし、それでも二人は戦う意志を消さなかった。
「私は猟兵だ! どんな困難も乗り越える!」
 遠ざかるウィリアムの背に向かって、志愛美が叫ぶ。
 さらに、月華も。
「私、世界中の皆と友達になりたいの! そして、誰も仲間外れがいない世界を作りたいの! 今はまだ、私が未熟なせいで全然進んでないけど……それでも、諦めない! どれだけ失敗しても、絶対に叶えてみせる!」
 それは、凄まじいまでの野望であった。耳にしたウィリアムが、思わずヘルメットの下で瞠目してしまうほどの。
 夢物語にしか聞こえない。恐らく、身の丈に合っていない願いだろうとも思う。
 しかし、それはかつてのウィリアム自身も、周囲から持たれた感想だろう。
 サーキットで一位、オフロードでも一位、二輪でも、四輪でも、あるいは飛行機でも――そんな目標を、誰が本気で狙うだろうか。一人で多くのスポーツに挑戦するのが当たり前のアスリートアースにおいてさえ、彼のような者は異端だったろう。必ずしも、肯定的に受け止められるばかりでもなかった。
 そういった風向きが変わるのは、口に出した通りの結果を出せたときである。
 心を折ることなく努力を重ねれば、誰でも結果を出せるわけではない。だが、結果を出せる者というのはすべからく、結果を出すまでに踏ん張れる者だ。
「少なくとも、可能性はある、か……」
 二人には届かないような小声で、ウィリアムはつぶやいた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

恵空・仁子
WIZ
アドリブ問題ありません

「最速のレーサー…。究極に行き着いた男…。興味がある。」
彼の全速になれば容易く砕けるか弱い身体
それ故に挑めなかった
だが、彼の魂に向き合いたい私にとって、このレースは都合が良い

スタートと同時にウィリアムに語りかける
「アナタはなぜスピードの先にこだわったの?
何かに打ち込み続けることって難しいことだと思うの。
私の妖精のように、誰かに、何かに魅入られてしまったの?」
平凡を望む私にとってそれは気になるところだった
どうあれ、答えを聞いたら最後に答える

「私は普通を、日常を、仲間達を愛している。
そして、それを護るためなら頑張れるの。
だから、そのために、アナタの業を貸してください。」



●最速へのインタビュー
 まず勝ち目はない、と、グリモアベースで説明を受けた。
 言われるまでもない、と恵空・仁子(動かざる執筆家・f29733)は思っていた。仁子の体は、ウィリアム・ローグとのレースなり戦闘なりに耐えられるほど、頑丈ではない。
 だが同時にグリモアベースでは、勝つ必要はないのだと念押しもされていた。問題となるのは、己の魂を示せるかどうかなのだと。
 それならば、自分にとって好都合だと、仁子は考えた。
 彼女は、ウィリアム・ローグという存在に対して興味自体はあった。究極の最速に行き着いたレーサー。アスリートアースで、あるいは他の各世界を見回しても、唯一無二の存在。
 その魂に向き合ってみたい。仁子はそう考えていた。

「質問してもいいかしら」
 仁子がそう声を掛けると、ウィリアムは軽く首を捻りつつ、ヘルメットの奥からくぐもった声を発した。
「構わないが……何だろうか……?」
「アナタは、なぜスピードの先にこだわったの?」
 仁子の質問に、ウィリアムの動きが止まった。
 何か言葉を紡ごうとしているような気配が、ないではない。ただ、その言葉が確かな言葉として音になることはなく、戸惑った無音だけが通過していく。
 それがしばししてから、ウィリアムはようやく言った。
「……なぜ、とは……どういう意味だろうか……?」
「どう、も何も、そのままの意味よ」
 仁子は淡々と言葉を重ねた。
「何かに打ち込み続けるのは、難しいと思うの。だから、何か強い動機……誰かに影響されたとか、何かに魅入られたとか、そういうものがアナタにあるんじゃないかって」
「どうだろうな……」
 ヘルメット越しにあごに手をやりつつ、ウィリアムはうなった。
「遥か昔にあったのかもしれないが、覚えていないな……スピードの先を追い求めるのは、私にとっては日常の一部だった……」
「日常……?」
 仁子は目を丸くした。
「実感しにくい感覚ね。私は、ただ平凡を望むばかりだから」
「平凡といっても、君は猟兵として戦っているのだろう……?」
「それは……護るためよ。私は普通の日々、仲間との日常を愛しているの。だから、そのためになら頑張れるのよ」
「ふむ……」
 ウィリアムは、髑髏の虚をもって仁子をじっと見つめた。
「毛色は確かに違う……が、他人からは苛烈に思える選択が、当人にとっては平凡であり日常であるという意味では、それほど差はないのかもしれない……」
「――……」
 そうなのだろうか。そうなのかもしれない。
 互いに遠い存在であるものと思っていたものが、不意に近く感じられ、同時に互いに認め合えたような気もした。

成功 🔵​🔵​🔴​

宇宙空間対応型・普通乗用車
スクーターであろうと最速は譲らないか…まったく脱帽だぜ…
帽子被れねぇだろとかそんなツッコミはさておき!
そのスピード魂には心底敬意を表するぜ!
オレも車という殻を脱ぎ捨てて!
スクーター姿で挑ませてもらう!
そう、今のオレは宇宙空間対応型・スクーター!
変形はガジェットショータイムでなんとかしてくれ!

オレが誇れるのは一つ!
陸海空宙、どんな悪路でも安全快適な旅路を提供するド安定の運転技術だ!
この運転技術で、追い抜けないまでも全力でウィリアムに追いすがる!
スピードの向こう側とか正直全く想像がつかんが…
乗客の快適な旅路のために!
盗めるものは全力で盗ませてもらうぜ!
さぁ!アンタの走りを!オレにもっと見せてくれ!



●安全運転の極み
 弘法筆を選ばずということわざはあるが、あるいはアスリートアースには、ウィリアム・ローグは乗り物を選ばないなどということわざがあるかもしれない。
 それほど、生前のウィリアム・ローグというレーサーが遺した成績は圧倒的であり、また多岐にわたっている。
 宇宙空間対応型・普通乗用車(スペースセダン・f27614)にとって、その最速ぶりは大きな敬意の対象だった。そんな彼とスクーターレースで勝負する機会を得られたとなれば、燃えずにはいられない。
「オレも車という殻を脱ぎ捨てて、スクーター姿で挑ませてもらう! そう、今のオレは宇宙空間対応型・スクーター!」
「ええと……」
 困惑するような声は、レースを仕切る審判のものである。
 【ガジェットショータイム】によって召喚されたガジェットは、普通乗用車の全身をすっぽりと覆い尽くす、巨大なスクーター型の何かであった。
 レギュレーションは、排気量は50cc以下、形状はいわゆるスクーター型のみでミニバイク型はダメ、ただしその他の改造は武装や兵装を含めて何でもアリという、割と緩いものである。だが、この巨大なスクーター型ガジェットは、果たしてスクーターと認めていいものかどうか微妙だった。
「……まあ……まあ、私は構わない……」
 審判と同じように困惑げな様子だったウィリアムは、腕組みしつつ言った。
「せっかくの、別世界からの挑戦者だし……」
「ありがてぇ! アンタの走り、見せてもらうぜ!」
 激しいテンションで、鈍色の巨大スクーターが飛び跳ねた。

 巨大スクーターと化した普通乗用車の走りは、速度という点ではウィリアムのそれに及ばないものだった。
 だが、それでも彼の走りを見ていたウィリアムは、そのあまりの見事さに目を奪われてしまうことになる。
「……何という滑らかな挙動……!」
 そう。超高速のサーキットレースのただ中にあって、普通乗用車のブレの少なさは異様の一言だった。仮に彼の操るスクーターに眠った赤ん坊を乗せていたとしても、目を覚ますことはなかっただろう。
「オレが誇れるのは一つ! 陸海空宙、どんな悪路でも安全快適な旅路を提供する運転技術だ!」
 単純に速度を求めたウィリアムとは、また異なるベクトルで極致を追い求める者のドライビングである。
「それでなお、さらに先を求めるか……」
「おうよ! 乗客の快適な旅路のために、アンタから盗める技術は全力で盗ませてもらうぜ!」
「なるほど、な……」
 畏怖にも似た感情が、ウィリアムの胸中に芽生える。認めずにはいられなかった。普通乗用車が魂ある運転技能者であり、その走りが魂の走行であることを。

成功 🔵​🔵​🔴​

東・よるは
スクーターで、レースを?
これまた趣のある試みで。
…わたくしも気合を入れなくては、ね。

まずはしっかりと運転をしましょう。
心も姿勢も伴っていなければ十全に魂を見せることは叶わない。
だからジグザグなシケインも、集中力がいるカーブも、だから一つ一つを丁寧に走っていく。
最終コーナーからUCを起動し、総て越える心地で走り抜きましょう。

努力とは並の体力や気持ちでは積み重ねられぬもの。
望んだものを掴む為に必死に前を向かなければ実るものでは無い。
だからその拘りを大事に出来ることを、とても素敵だと考えるのです。
わたくしも世界を護る為に切磋琢磨する身。その努力に見合った走りを実現させたいと、そう願っているのです…!



●常在
「これはまた、趣のある試みで」
 東・よるは(風なるよるは・f36266)は優雅げに笑みを浮かべた。
 二輪車によるレースといえば、大排気量のスポーツバイクによるサーキットなり、荒野めいた悪路を走るモトクロスなどが思い浮かぶところ、この戦場では敢えてのスクーターレースが選ばれている。
 操縦は簡単だし、どう頑張ろうが最高速度の知れた排気量。となれば、比較的誰にとっても手を伸ばしやすい部門のレースであるといえる。
 もちろん、だからといってウィリアム・ローグに対して勝ち目のあるジャンルではない、というのはよるはも承知はしているが。それでも己の魂を見せるにあたっては、好都合である。
「……気合いを入れましょう」
 戦場に赴く勇将の兜のように、よるははヘルメットをかぶった。

 レース慣れしているわけではない。
 よるはの走りぶりを一見して、ウィリアムはそう判断できた。しかしその一方で、慣れていないながらに一つ一つの動作を丁寧にこなそうという気持ちが見える走りだ、とも思った。加速、減速、曲がる、真っ直ぐ。全てに、ひたむきにこめられた誠実さがある。
 禅。
 一言で表すなら、よるはから感じられるのは、それだ。心身を整頓し、所作を洗練させ、生きることそのものを充実させる。研ぎ澄まされた静寂が、その走りに顕現しているように思われた。
「漫然と日々を過ごしていないようだな……」
 つぶやくようにウィリアムが言うと、よるははヘルメットのシールド越しにウィリアムへと視線を送った。
「そうあろうとは思っております。切磋琢磨し、世界を護れる者であろうと。だからこそ……実感することがあります」
 よるはの告げる声は静かでありながら、なぜかサーキットに響き渡るスクーターエンジンの咆吼を跳び越えて、よくウィリアムの耳まで届く。
「努力を積み重ねることの困難さ。そして、必死に前を向き続けたであろう、ウィリアム・ローグの生涯の凄まじさ」
「……ほう……」
 努力する。
 言葉にすれば短く単純だが、それは重ねれば重ねるほどに心も体も疲弊していく行為である。努力の先に望んだ成果がある保証もなく、それでもそれを積み重ねるには、狂おしいほどの心身の強さが不可欠となる。
 ゆえに、生涯を通じてこれと決めたものを貫ける者は少なく、そうであった生涯は美しく輝く。
「……私に頼らなくとも、いずれ何かしらの境地には至るのかもしれないが……」
 ぐん、とマシンを急加速させつつ、ウィリアムは言う。
「少なくとも、私のアルカディア・エフェクトを持つのに相応しい魂を持っていることは、知れた……」
 遺言か何かのようにそんな言葉を置き去りにしつつ、ウィリアムはどんどんと遠ざかっていった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年01月20日


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#レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト