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バトル・オブ・オリンピア⑭〜リズミック・レヴ

#アスリートアース #バトル・オブ・オリンピア #モーターレース #レース・フォーミュラ『ウィリアム・ローグ』


 醒めちまったこの時に……熱いのは……。
 俺たちのDRIVING……。
 今や誰もが立ち入ることを憚る広大なガレージ。ローグファクトリー。
 そこで一人、シャッターを開けた先の冬の夜空を見上げる、レーシングスーツの男。
 誰あろう、この場所で、その服装をこなせるのは、よほどの傾奇者か……故人、ウィリアム・ローグ本人のみであろう。
 筋肉質ながら、限界まで絞ったボクサーのような体形は、あらゆるモータースポーツ、エアレース、おおよそレースを冠する競技を総なめにしてのけた彼の偉業を成す為だけに象られた彫刻のような装いである。
 誰が疑うだろう。その後ろ姿を。
 たとえ、フルフェイスの奥にあるのが惨たらしい躯の姿であろうとも、彼はレース競技を諦めきれない。
 速さを競う競技において、おおよそ勝てない勝負はなかった。
 だがしかし、彼にとって、勝利は結果に過ぎず、ひたむきにレースに打ち込む彼の願いを満たすものは、ついぞ手に入れられなかった。
 スピードの果てに見出したものは、「アルカディア・エフェクト」という、既に死した身には無用の長物。
『だが、私は走り続けなければならない……命ある者が纏ったときにこそ光り輝くもの……私を超える者にこそ、伝えていきたい……』
 あらゆるものを消滅させるという、『拒絶の雲海アルカディア・エフェクト』をその身に纏い、はるか空高く広がる星の海を見る。
『誰でもいい……戦いでもいい……。私に輝きを見せてくれ……』

 グリモアベースはその一角、モダンな矢絣模様のお仕着せに黒い鳥を連れた給仕、疋田菊月は、居並ぶ猟兵たちに紅茶を供しつつ、お盆を抱えるようにして何やら考え込む。
「ふーむ、ついにバトル・オブ・オリンピアの戦いにも、いわゆる強敵が登場ですね。今回はモータースポーツから、ウィリアム・ローグというレーサーの方のようです。つまり……レースで勝て、ということですね」
 本来の猟兵としての戦いは、血みどろの殺し合い。だが、アスリートアースにおいては、スポーツにおいて相手に勝つことが、オブリビオンを退治することになる。
 信じがたいことに、いかなる凶悪な能力を持とうとも、彼らは最低限度のスポーツマンシップを失わないのだという。
 今回の戦いもその例にもれず、不慮の事故で亡くなるまであらゆるモータースポーツの頂点に君臨したという伝説的なレーサー、ウィリアム・ローグにレースで勝負し、見事に勝利すればいい。
「……でも、勝ちってなんでしょうね? ローグさんにとって、勝利の先の富や栄光というものは、果たして価値があったのでしょうか。私には、もっとひたむきな何かを求めた結果に過ぎないんじゃないかと……素人考えですが!」
 それにしても、一介のレーサーに過ぎない、というにはあまりにも強力な能力を得てしまった彼に対し、どう戦うべきか。
 案ずることはない。彼の所有するローグファクトリーには、彼の用いるありとあらゆるレースマシンが揃っている。
 いかなるレース勝負を挑んでも、彼は自分を倒せるほどの熱い魂を感じるためとあれば、喜んで受けるだろう。
 地上のレースを挑む場合は、最もスピードの発揮しやすい、長いオーバルコースが提案されるはずだ。
 ローグファクトリーに併設されているオーバルコースはとてもシンプルなもので、ホームストレートとバックストレートとをつなぐ、緩やかでバンクの設けられた、いわゆる内側に傾斜の付いたカーブがあるだけで、限界スピードを維持しやすい構成となっている。
 きわめてシンプルであるがゆえに、マシンパワーとドライビングセンスが試される。
「うーん、見た感じ、マシンパワーでごり押して勝ってもよさそうに見えますけども……」
 身も蓋もないことを言うが、そのマシンであっても、心血を注いで作り上げたものには違いあるまい。
 ようは、レースを通じてウィリアム・ローグにその魂のより熱きを示せというのだ。
「しかし、レース競技ですかぁ。私も荷運びの車やキャバリアを所有してはおりますが……速さ勝負となると、どうでしょうねー。いっそのこと、走って挑んでみたくもなりますね!」
 粗方の説明を終え、冗談めかして微笑むと菊月は、猟兵たちを送り出す準備を始めるのだった。


みろりじ
 どうもこんばんは、流浪の文章書き、みろりじと申します。
 はたして第六猟兵というゲームにおいて、レース競技の需要がどれほどあるんだろうか……。
 でも、思いついてしまったら、書いてしまわずにはいられない。というわけで、髑髏のライダー? なんかかっこいいレーサーのウィリアム氏とのレース勝負となります。
 このシナリオは戦争シナリオとなっておりますので、1章完結となっております。
 純粋な戦いを挑んでも構いませんが、彼はあくまでも速さを求めてチーターになった……もとい、死んでから目覚めた能力によって、あらゆるものを消滅させるあのブルーアルカディアの雲海を自分で出せるようになってしまっているようです。
 これを突破できるほどの攻撃に徹するならば、彼に追いつけない可能性も出てくるかもしれません。
 もちろん、彼はあらゆるレース競技において頂点に立った男。ダーティーなレースでも決して後れは取らないでしょう。
 それならばいっそのこと、純粋に速さ勝負をしてしまうのも正攻法と言えるでしょう。
 戦争シナリオにはプレイングボーナスが設定されております。レースを通じてウィリアム・ローグに自身の「魂」を示す。
 純粋に速さで競ることがそれなのか、レースに対する思い入れがそれなのか。その辺りの解釈は皆様のプレイング次第ということになるでしょう。
 これらを盛り込むことで、何やらいいことが起こるかもしれません。
 速さを求めるあまり何かを見出してしまった、スピードに取りつかれた悪魔ディアブロ……CRAZY DRIVER……冗談じゃねぇ……。
 完全に趣味の領域になりますが、勝負中に時間が緩く感じたり、ポエミィなセリフを吐き始めたり、……が多めになります。
 例によって、プレイング募集期間は設けず、だいたい貰った順に書いてまいります。お好きなタイミングでどうぞ。
 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
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第1章 ボス戦 『ウィリアム・ローグ』

POW   :    アルカディア・エキゾースト
レベルm半径内を【アルカディア・エフェクト】で覆い、範囲内のあらゆる物質を【何者にも縛られぬ風】で加速、もしくは【置き去りにされた過去の光景】で減速できる。
SPD   :    ブラック・インフェルノ
【レーシングマシン】から、戦場全体に「敵味方を識別する【漆黒の炎】」を放ち、ダメージと【強制進化】の状態異常を与える。
WIZ   :    ヴォイド・リフレクション
【超加速能力】を宿した【車載兵器からの一斉砲撃】を射出する。[車載兵器からの一斉砲撃]は合計レベル回まで、加速・減速・軌道変更する。
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ベロニカ・サインボード
「速さで勝ちたい」とも「レースが好き」とも思ったことはないが…「オブリビオンと戦い」「希望を示す」のがベロニカ・サインボード

レースマシンに用はないわ…私は『ワーニン・フォレスト』に騎乗する
私のフォースオーラ…私の能力…魂の形、あるいは形ある魂…

「705km/hで走れば絶対勝てる」なんて小癪な事は考えてないし、ある意味今までで一番の、圧倒的強敵…圧倒的不利かもしれない
勝てる…とは思ってないが
勝とう…とは思ってる

「挑戦そのものに価値がある」…そんな言葉は綺麗事だとしても
御伽の住人わたしたちが綺麗事を放棄したら、誰が希望を見るっての?

私はただ、疾走るだけ
ゴールを突き抜けるまで、何もかも忘れて…



 がらんとしたガレージ。ローグファクトリーは、あらゆるレース競技に参加するために、あらゆるモンスターマシンを整備できる設備を構え、そしてそれらがテストするに十分な規模を誇っている。
 彼亡き後も、その場所は敬意を込めて保存され、そして──、彼は帰ってきた。
 おおよそ人とは呼べぬ存在になり果てていたが、それでも彼は生前と何ら変わらず、愚直なまでに日々のルーティンをこなす。
 己の願望をかなえるためのマシンの整備だ。
 躯に成り果てた男の、十字スパナを握る手が止まる。
『ふむ、妙だな。君からは、勝利に対する意欲が感じられぬように思えるのだが……』
 やってきた猟兵の一人、ベロニカ・サインボード(時計ウサギの道しるべ・f35983)は時計ウサギ。
 アリスの物語でいえば、少女を不思議な世界へ導きもする。
 だが、その世界は残酷だ。年端もゆかぬ少女がひどい目に遭わぬよう、しるべを立てていくのがベロニカに課せられた使命であると思っている。
「速さで勝ちたいとか……レースで勝ちたいとか……思ったことはない」
『だが、持っているな……情熱を』
 冷静な暮れるような赤茶の瞳の奥に、しかしウィリアム・ローグは滾るものを感じる。
 その目的が違えど、その魂の在り様は、既に死して落ちくぼんだウィリアム・ローグの目には輝いて見えた。
「アンタがオブリビオンである限り……ここに居られちゃ、絶望がやって来るのよ……。
 オブリビオンと戦い、希望を示すのが、ベロニカ・サインボード」
『いいだろう。では、どれでやろうか? 見たところ、マシンを持っている風ではない』
「レースマシンに用はないわ……私は『ワーニン・フォレスト』に騎乗する。
 私のフォースオーラ……私の能力……私の魂……」
 ごおっと、燃えるようにその身から迸るフォースオーラが形を成す。
 直立したウサギの姿からは似ても似つかぬ、恐ろしい形相の狼は、オウガのようにも見えるが、その瞳の輝きはベロニカに寄り添い、静かな知性を湛えている。
 日の出のような淡い橙。まるで命を薪として燃やしているかのような煌きをまぶし気にしつつ、ウィリアム・ローグは相手にとって不足なしとしたのだろう。
 もっとも手近な黒いバイクのエンジンに火を入れると、先んじてコースに移動し、ベロニカを先導する。
『その相棒が、オイル切れするかどうかは知らないが……3ラップ勝負。先に三度目のチェッカーを踏んだほうが勝ちだ』
「ええ……わかった」
 出走位置についたウィリアム・ローグのやや後ろで、ベロニカは【ワーニン・フォレストへの騎乗】を行う。
 コースはシンプルなオーバルコース。数字の0にも似た、ホームストレートとバックストレートをバンクの付いた緩いカーブで結んだだけのもので、先頭……ポールポジションを取るウィリアム・ローグは外周側でその分だけ先に陣取っている。
 ホームストレートでなるべく離されず、内側から短い距離を曲がって抜き去るのが、最も勝ち筋に近いが……そう思い通りにいくだろうか。
 緊張が奔る。心音のようなエンジン音。獣の唸り声のような排気音が白い煙とともにアルカディア・エフェクトの白い雲をはらむ。
 レース開始を予告するランプが一つ、また一つと点いていく。赤と、赤と、次が青。
 次だ、次だ、次だ──!
『っ!!』
「っ!!」
 ぐおう、と吠えたのは、ベロニカの駆るワーニン・フォレストだったろうか。それともバイクのエンジン音か。
 地を噛む爪が、レーシングタイヤが、アスファルトに嘶くような音を轟かせる。
 ぐん、と激しい横Gが体に負担とかけるのが、凄まじい前への推進力を感じさせる。
 目の前にやって来る景色が明るく、後ろに過ぎ去るにつれて暗くなる気配がする。
 エネルギーでできている狼、ワーニン・フォレストは尋常の獣ではない。ユーベルコードを用いたその駆け足は、常識で測れるものではなく、時速700キロ以上にも達するであろう。
 だが、尋常ではないマシンを駆るのもまた、ウィリアム・ローグであった。
「冗談キツイわ……」
 ひしゃげるような視界の中で、長い長いホームストレートの、自分の前を行くヘッドライトがそれなのだと気づくが、驚きはしない。
 相手は世界の頂点を取った男だ。常識が通用しない程度の事で驚くことなどない。
 勝てるなんて、思っちゃいない。
 そんな簡単な相手とは思っちゃいない。
 だが、ならばどうして、挑んだのか。
 かくん、と前を行くテールランプが赤く光って角度を変えたのが見えた。
 カーブのために姿勢を変えたのだ。
 外側に向けて高くなる傾斜バンクのついたカーブは、ハイスピードウェイにおいて、その速度を維持したままカーブにアタックできる。
 だが、スピードに乗ったままカーブに突入するのは、マシンにもパイロットにも負担が大きい。
「ううぅっ……!」
 直線のみだったそのベクトルが、カーブに差し掛かった段階で伸し掛かるのは、猛烈な横Gをバンクに押し付ける慣性の重み。
 それでも、それでも、前に進むためにワーニン・フォレストは歯を食いしばって地を蹴る。
 美しいラインを描いてハーフパイプのような傾斜の付いたカーブを行くバイクの軌跡を辿り、必死に食らいついていく。
 どうしてそんなスピードで曲がれるのだろうか。どうやったら勝てるのだろうか。
 どうやったら……?
 勝ちたいと思っているのか。
 速さで勝ちたいとか、レースが好きとか、そんなんじゃなかったはずではないか。
 勝てると思ってはいなかったはずではないか。
 だが、こうして一緒に走っていると、ひたすらに速く、気を抜いたら置いて行ってしまうようなあの怪物に追い縋っていると、思うのだ。
 流れる星を追うように、そこに希望を見るかのように、追いついてみたいと純粋な気持ちを抱く気持ちも、わからなくはない。
 アリス症候群を患ったいたいけな少女もまた、時計ウサギをこういう風に追いかけるのだろうか。
 ごうごう、と風の流れる音が思考を追い流していくように感じる。
 いつしか、余分な何もかもを削ぎ落していくように、アスファルトの目地すら平坦な無地に見えてしまうほどに。
 ああ、追いつけそうで、追いつけないのか。
 いやいや、こういうものは、挑戦することに価値があるのだ。
 綺麗事だって?
御伽の住人わたしたちが綺麗事を放棄したら、誰が希望を見るっての……?」
 追いかけているのか、追いかけられているのか。
 やがて、それすらもわからなくなる。
 だが、風を切る音だけが、世界のすべてになっている。そんな気がした。
 どこまでだって行ける。希望を見ているのだから。
 走る。ただ、疾走るだけ。何もかも忘れて……。
『眩しい……それが、希望、魂……それが……!』

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
アルカディア・エフェクト、あの拒絶の雲海と……
いえ、そんなことはどうでもいい
今はただひたすらに、魂を懸けて走るのみ

体操服に赤いブルマでスタート位置に
両手の指を地面につき、クラウチングスタートの姿勢
……マシン? 不要です、私にはこの脚がある

合図と共に駆け出す――【優駿疾駆】!
アスファルトを踏み砕かんばかりの脚力(怪力・ダッシュ)で疾走する!
【気合い】と【根性】を燃料に、【情熱】のニトロを爆発させ、【負けん気】という名のエンジンを【限界突破】して駆動する!

今を生きる我々ができるのは、過去の偉業に挑み、乗り越え、より良い未来を作ること!
ウィリアム・ローグ! あなたの記録を、私たちは塗り替える!!



 乾いた風の吹く、開けた空間。
 ローグファクトリーに併設された大きなオーバルコースには、何もないかのような空虚が流れているかのようだった。
 時が止まっている。
 ここは、彼のチャンピオンレーサーが死した当時のまま、時が止まっているのだ。
 そして彼が戻ってきた後も。
 オーバルコースは、そのシンプルさからサーキットとは呼ばれることなく、単純にオーバル、もしくは、トラックともいう。
 さながらそれは、徒競走のそれであり、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は、何を恥じらうこともなく、そのつもりでチェッカーのかすれたスタートラインに立っていた。
『驚いたな。マシンも持たず、この場にやって来るなんてな……』
 レースの気配を嗅ぎつけてやってくる、世界一のスピード狂。ウィリアム・ローグは、コースの真ん中にたたずむシスターの姿に無くなった目を丸くしているようであった。
 乗り付けるのは、怪物の心音のようなアイドリング状態の黒いバイク。
 よもや、その気配だけでそれが尋常ならざるモンスターマシンであることが伺えるが、仮にそれだけであれば彼はそう強敵でもないかもしれない。
「……マシン? 不要です。私にはこの足がある」
 修道女のローブに手をかければ、現れるのは名札付きの体操服姿。夜闇を照らすスタンドライトに、真っ赤なブルマから覗く白い脚が何とも眩しい。
『恐ろしいな、アスリートというのは。時に、思いもよらないものを見せてくれる……だが、いいだろう。そこに魂があるならば、何者であろうと相手になってやるさ……』
 スターティンググリッド。
 冠のように路面に印字されたマークに、それぞれ位置づけると、ランプが上がるごとに鼓動が増していくのを感じる。
 やや熱を感じるアスファルトに両手をついて、前後に開いた足をやや延ばし腰を上げる。いわゆるクラウチングスタートの体勢は、広大なトラックの中ではシュールに映るやもしれないが。
 黒いマシンにまたがるウィリアム・ローグも、オリヴィアもまったく意に介す様子はない。
 ポールポジションにつくやや斜め前のウィリアム・ローグからは、排ガスに混じって白い雲──アルカディア・エフェクトが蒸気のように漏れ出てくるのが見えた。
「アルカディア・エフェクト、あの拒絶の雲海と……。
 いえ、そんなことはどうでもいい」
 今は、ただひたすらに駆け抜けるのみ。魂をかけて!
 開始を告げるランプが、上がっていく。赤、赤、そして、青。
 爆発音のようなエンジンのスロットルを、オリヴィアは無視する。あんなものを間近で聞くものではない。
 ひたすらに集中し、その機先を逃さずに、開始の合図とともにユーベルコードを発動させる。
 【優駿疾駆】──、走るために生まれてきたかのようなサラブレッドがごとく、美しい脚線美が瞬く間に鋼鉄の様に引き締まり、足先へ送り出す瞬発力が爆裂するような推力で以てアスファルトを蹴りつける。
「うおおおおっっ!!」
 気合と根性の発露。シャウト効果というのもあるだろうか。おおよそ肉体を躍動させるために必要であろうものと連動させるように、気勢が身体を突き動かす。
 人間の耐えうるようなスピードではない。だが、彼女はダンピール、そして猟兵である。
 マシンガンの様にアスファルトを噛む足先が、前へ前へとオリヴィアを躍進させる。
 精神を燃焼させる気合と根性が燃料であり、熱いパトスはさながらニトロの如く燃え、負けるものかという気持ちがその胸の奥にあるエンジンを突き動かす。
『追いつけるのか……人の足で……!』
 白い煙、排ガスか拒絶の雲海か。もはや判別がつかない。そんなことを考えている余裕もない。
 ただ、コースを、灰色のアスファルトを誰よりも速く駆け抜けんとする鬼の形相の女が一人、モンスターマシンに戦いを挑んでいる。
 尋常ではない。人の限界を何段もすっ飛ばしている。
 マシンなど問題ではない。テクニックなどあったものではない。
 だが、そこには──、
「今を生きる我々ができるのは、過去の偉業に挑み、乗り越え、より良い未来を作ること!」
 激しい暴風のような向かい風は、己自身が空気という壁に喧嘩を売っている何よりの証拠である。
 おまけに、レース中のコースというのは極めつけに空気が悪い。
 排ガスだけでなく、常に消耗し続けるタイヤのゴムが常に微細な欠片となって飛び散り、観客席の最前線にでもいればそれを感じる程でもあるという。
 それにも関わらず、オリヴィアは呼吸も難しいはずの疾走の中で、おそらくはウィリアム・ローグに向けて放つ言葉すら、己を鼓舞するために叫び続ける。
「ウィリアム・ロォォォォグ! あなたの記録をォ、私たちは塗り替えるッ!!」
 ごうごうと、打ち付ける風が耳を塞ぐ。
 喚きたてる自分自身の言葉すらも、どこまで正確に発音できていたかすらもわからない。
 足先が熱く、赤熱しているかのような錯覚すらある。
 熱だ。一定のスピードを超えた世界は、向かう先ほど光にあふれ、遠ざかっていくほど暗く見える。
 人はしばしば、それを錯覚するのだ。だが、たとえそれが、光という情報に追いつきつつある現象に過ぎずとも、いいではないか。
『未来……いいなぁ……! 記録に挑める。なんという幸運だ……羨ましい。その魂の輝き……!』

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミノア・ラビリンスドラゴン
魂の輝きを魅せるレース!
燃える展開ですわね!!

バイクや車に興味がないこともないですが……自前の脚で走りますわー!
ゴッドゲーム最強最速のDPSたる聖剣士グラファイトフェンサーは伊達ではありませんことよ!
ゴッドレースにだってよく参加しておりますわー!

スカートを翻してスタート【ダッシュ】!
地形データをスキャニング、もっとも効率の良い位置取りを割り出しますわ!(情報収集・戦闘演算)
【やり込み】、そしてライバルと競い合う! 実に楽しいですわ!
そう感じるのはわたくしが単なるAIではなく、魂を持っているから!!
あなたもそうでしょう? 死してなおレースをしているのですから!!
全速力で駆け抜けますわー!!



 夜中のガレージ。ウィリアム・ローグがありとあらゆるレース競技を総なめにしたモンスターマシンを開発し、その性能をテストし、整備する。それだけの施設が揃ったローグファクトリーは、今、彼の帰還を以て久方ぶりにライトアップされていた。
 スタンドライトに照らされるコースに形状は、数字の0を思わせるとてもシンプルなトラック。
 そう、トラックなのだ。徒競走、或は競馬のコースにも似ている。
 最近では馬を擬人化させたような美少女が走ることもあるらしい。
 ならば、とばかりに、ド派手なドレスで着飾ったドラゴンの化身、ミノア・ラビリンスドラゴン(ポンコツ素寒貧ドラゴン令嬢・f41838)もまた、広大にすら見えるレースコースに降り立っていた。
『生き返ってみるものだ……速さに挑む者は、いつの時代も絶えないんだな。うれしく思う』
 挑んで来るものを、孤高のレーサー、ウィリアム・ローグは拒まない。
 いかなる相手であろうとも、速さに挑戦するものは、同じ志を持つ友であるからだ。
 彼にとって敵は存在しないかもしれない。ただ、目指す先を求める者の、自分とは違う誰かの答えが知りたいのかもしれない。
「魂の輝きを魅せるレース! 燃える展開ですわね!!」
『存分に燃やすがいい。……そんなものが、本当にあるのならばな』
 試すような物言い、そしてフルフェイス越しに見送るような仕草で黒いマシンにまたがる姿は、ここに在ってここに無いかのようにも思える。
 彼にとって、レースとは記録なのか。速さとは、競技とは……疑問は尽きないところだが、しかし、挑んでいるはずなのに挑まれるような言い回しは、ミノアの心に火をつける。
 ドラゴンプロトコルたる彼女の役割は、ダンジョンの運営。その心はゲーム世界から生まれたならば、単なるプログラムの一部に過ぎぬのかもしれない。
 だが、燃え滾るこの心のおこりは、一体どこからやって来るのか。
『さあ、君のマシンを用意するといい。ここを選んだということは、地上を走るつもりなんだろう?』
「バイクや車に興味がないこともないですが……自前の脚で走りますわー!
 ゴッドゲーム最強最速のDPSたる聖剣士グラファイトフェンサーは伊達ではありませんことよ!
 ゴッドレースにだってよく参加しておりますわー!」
『なんだと……。死んでみるものだな。また、新たな扉が開いた気分だ。いいだろう……追いついてみてくれ』
 ゴッドゲームオンラインの話はよく分からない様子だったが、走って対抗するというミノアの意気込みに、ウィリアム・ローグは訝しむこともなく、黒いバイクをスタート位置につける。
 スターティンググリッド。
 オーバルコースというシンプル極まるコースだが、その規模は競馬や競艇、徒競走などとは比べ物にならない広大さだ。
 全長にして4キロ近くはあろうか。大きく傾斜をつけるカーブも、まるで高波のようだ。
 そして、それを走り抜けるであろう、ポールポジションに位置付けるウィリアム・ローグの駆る黒いバイク。アイドリング状態でもエンジンの鼓動は、まるで竜の心臓の如く力強く、人の身を預ける程度のサイズにも拘らず、底のしれないモンスターマシンであることが伺える。
 スタートを告げる予告ランプが上がる。赤、赤……。
 じわりと、ミノアの手の平が湿るのを感じる。踏みしめるアスファルトに残る、タイヤ痕、排ガスの匂い、空風が冷たい。
 こんなにも視界が晴れているのに、伸し掛かる空気が重たくすら感じる。
 ──青、
「ぬああっ!!」
 猛烈なるスタートダッシュ。
 豪奢な姫様ドレスのふんわりとしたレースをあしらったスカートがド派手にめくれ上がる。だが、そんなものはどうだっていい。
 地面を踏み砕かん勢いで足を踏み出し、ただただ駆け抜けるのみ。
 質量があればあるほど、加速は乗りづらく、とりわけ初速のみでいえば、生物は乗り物に勝るケースが多い。
 動力に伝達するパワーが、様々な機構を挟む分だけ人体よりもプロセスが多いからだ。
 5メートル以内なら、乗用車や自転車などよりも、人間のダッシュのほうが速い。
 しかしそれは、常識の範囲内でのお話。
「な、ななっ!?」
 爆音を上げて、猛烈なタイヤ片と燃える排気ガスを吐き出して加速するウィリアム・ローグのマシンは、ドラゴンプロトコルの初速と全く遜色ない。
 驚愕に声を上げるミノアだが、相手が上手は百も承知。
 へこたれるなど思いもしないまま、歯をかみしめて足を前に出す。
 足先が素早過ぎて見えなくなるほどの超人的走行、通称十傑集走りのような足運びで、化け物マシンのテールランプに追い縋る。
「なんてパワー。なんて反射神経! この目で見てなお、スペックが計れませんわ!」
 データ量、そんなものはアスリート相手には意味がないのか。
 それとも、雑多データを超えた何かが、彼をそこまで速さに固執させてしまったのか。
 わからない。わからないが、未知数の存在を追いかけるミノアは、その胸が高鳴るのを感じる。
 死してなお、挑み続けるその心意気に、どうしてか胸が締め付けられるような気持にもなってしまう。
 プログラムでは測れぬ気持ち。それを言葉にすれば、なんというのか。
 加速するうちに白んでいく意識。集中すればするほどに、躍動する肉体に疲労がたまっていくのがわかる。
 でもそれ以上に、なにくそと立ち向かう気持ちが湧いて出てきて止まらない。
 カーブがやって来る。
 こんなに必死な最中においても、ミノアは地形データのスキャニングを怠らない。これはもう職業病といってもよかった。
 壁の中に転移魔法を使って飛び込むようなおバカのために、スキのないダンジョンを作らなくてはならない。日々勉強に余念のないドラゴンプロトコルは、その戦場を常に把握し、今回の場合では、どのルートを選ぶか、即ち、どのラインどりが最も効率的かを考える。
 こんな、教養も何も必要ないような足で稼ぐような競技においても、その奥深くを知れば際限がない。
 実際問題、シンプルなオーバルコースは、レーサーのすべてが詰まっていると言われるほどに、戦略性の高いコースであるという。
 バンクに差し掛かったところで、カーブは傾斜によって横Gを軽減するも、それらは無くなるわけではなく斜めにかかることになる。
 直線で増幅し続けた慣性が、ハンドルを切るときに牙を剥く。その作り出された重力がマシンや、この場合だと直接走るミノアの足腰に伸し掛かる。
「ドラゴンプロトコルをォ……なめんな、ですわーっ!!」
 骨組みがぎしぎしと負荷を訴える。だが、自分で生み出した慣性に押しつぶされるようでは、ドラゴンの名折れ。
 苦痛と疲労を無視するような腹の底からの叫びとともに、足を前に出すことをやめない。
 果てしない苦痛が、終わりのない疲労が、身体を動かすことに対して悲鳴を上げ続けているはずなのに、激しい速度というストレス下において、ミノアはにわかに興奮を禁じ得なくなっていた。
 ハイである。
「やり込み、そしてライバルと競い合う! 実に楽しいですわ!
 そう感じるのはわたくしが単なるAIではなく、魂を持っているから!!
 あなたもそうでしょう? 死してなおレースをしているのですから!!」
 どれほど追いかけているのか。しかしながら、遠く見えていたはずのテールランプは、いつしか手の届きそうなほど近くにあった。
 バイクの爆音は、もう聞こえない。
 打ち付ける風の音も、今は聞こえない。
 地面を蹴る音も、激しい息遣いも、どこか遠くへ行ってしまったのだろうか。
 でも今は、ずっと、もっと、この瞬間を走っていたい。
 聖剣士としてのプライド? それもあるかもしれない。
 全速力で駆け抜けるのが気持ちいい? それもあるかもしれない。
 でも、そう、これは、おそらく、もっと……彼の魂を感じていたいのかもしれなかった。
『楽しいな! 速さを求めあうのは……!』

大成功 🔵​🔵​🔵​

エメラ・アーヴェスピア
アルカディア・エフェクト…また重要そうなものが来たわね
ええ、ここは是非情報を得たい所、何とかしましょう

伝説的なレーサーを相手に自分を示す…?普通にやっても正直厳しいわね
…なら、0か100かになりそうな方法で戦いましょうか…エアレース、行けるのよね?
まぁ戦うのは私じゃなくてこっちだけれど
『渾天裂くは我が鉄翼』、機動型飛行機形態の可変型魔導蒸気機翼兵を呼び出すわ
あなたがレーサーであるなら私は技術者、持てる力で作り出した技術で相手をするわ
狂い無く瞬時に判断を下し、性能を最大限に生かし、勝って見せなさい

※アドリブ・絡み歓迎



 あらゆるレース競技の頂点に立ったという伝説的なレーサー、ウィリアム・ローグ。
 そのガレージであるローグファクトリーには、実にたくさんのマシンとそれを整備し試すだけの設備が揃っている。
 それは彼が死した後も、博物館のように特定の許可が無くては入れない程に、メンテナンス以外に手を入れられないほど、厳重に保管されていた。
 それほどまでに彼は愛されていたし、彼を目標とする者も後をたたず、不慮の事故で没した彼を悼む声はいまだに多いらしい。
 そして、彼は帰ってきた。
 もはや人とは呼べぬ姿ではあったが、誰もがその速さの哲学を、その化け物が眠るファクトリーを、その躍進を目にしたかったろう。
 だが、当の本人はそんなことなど意に介さず、死を超えてなおも速さを求め続ける。
 その先に見出した何かを、誰かに伝えるために。
「もし、お邪魔かしら?」
 そのガレージの一角、開きっぱなしのシャッターをノックするアンティーク人形のような人影一人。
 エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫ガジェットアーモリー・f03904)は、一見するとただの可憐な少女だが、その肉体のほとんどは事故により失われ、機械で補っているという。
 そのメンテナンスを含め、おびただしい数の蒸気機械を使いこなす彼女は、ガジェッティアとして、ウィリアム・ローグの最速に挑みに来たのだった。
『客人は歓迎する……とくに、挑んで来る奴はな……』
 整備の手を止めてエメラに向き直るそのフルフェイスの向こうには、痛々しい髑髏と化した顔が見える。
 そんな見栄えなどどうでもいいという具合に、肩をすくめて見せる。
「伝説的なレーサーを相手に自分を示す……? 普通にやっても正直厳しいわね。
 ……なら、0か100かになりそうな方法で戦いましょうか……エアレース、行けるのよね?」
 ちらりと見やるのは、彼が今しがたまで点検していたらしい単座の飛行機。
 エアレース用の競技機体と目されるが、そのデザイン、黒いカラーリングに槍穂のような流線形。そして機体後部にエンジンを積んだ推進式。どことなく、ロッキード社の偵察機を小さくしたようなフォルムは、エメラも気になるところだった。
『勿論だ。ただ、競技の関係上、オーバルには違いないが……距離はより長くなる。構わないか?』
「ええ、と言っても、まぁ戦うのは私じゃなくてこっちだけれど」
 そうしてエメラはユーベルコードで、自らの刃となる魔導蒸気機械を呼び出す。
 【渾天裂くは我が鉄翼】によって召喚されたのは、機動型飛行機形態の可変型魔導蒸気機翼兵。要するにまぁ、飛行機に変形する魔導蒸気機兵というわけだ。
『君自身が乗り込むわけではなく、君の機械が、私の相手をするというわけか……ふむ』
 やや訝しんだ様子だったが、ウィリアム・ローグの逡巡は短く、呼び出された機翼兵を一瞥くれただけで快く承諾した。
 彼が望むのは、レースを通じてその魂を見る事。
 機械の兵士にそれがあるとは考えにくいが……?
 滑走路につく二機。その傍らに、特等席で見るべく、浮遊する銃の上でエメラは、引き結んだ口元を僅かに開く。
「……いいの? あなたの相手は、機械なのよ?」
『君がそれを訊くのか? ……そこのところだが、まあ、そうだな。やってみたくなった。それだけだ』
「そう……あなたがレーサーであるなら私は技術者、持てる力で作り出した技術で相手をするわ」
 黒い機体のキャノピーの向こうで、骸骨の男が不敵に笑ったように見えた。
 そうして、二つの飛行機械に火が入ると、耳をつんざくような高い音が煌々と推進剤を燃やし、そして──、
 ランプが上がると同時に、二機はほぼ同時に滑走し、重力を揚力が上回り、夜空へと切り込んでいった。
 魂を燃やすようなジェットの軌跡が、ほとんど肉眼で見えないようなターニングポイントで折り返して帰ってくる。
 その時に勝敗は決する。
 エメラにとって、作り出した機兵たちは我が子、或は、魂の分け身のようなものだ。
 大量生産されるような、言ってしまえば雑兵のような役割であるとしても、その機体に手を抜いたことはない。
 妥協は仕方ないが。
 空を切り裂くような、銀色の機翼兵は試作兵器。火器を積んでいる分だけ、純粋なレース仕様とは重量で差がついているが、魔導と蒸気を組み合わせた機体は通常の科学では到達できない者に仕上がっているはず。
「狂い無く瞬時に判断を下し、性能を最大限に生かし、勝って見せなさい……!」
 知らずのうちに、丸みを帯びたエメラの手は、強く握りしめていたらしい。
 この勝敗で命がとられるようなことはない。何の心配もない。
 だというのに、手に汗を握るのはどういうことか。
 相手には技もパワーもある。そんな相手に、技一つで挑もうというのだ。
 プライドであった。それ以上に高潔なものなどある筈がなかった。
 だから挑もうと考えたのだ。
 間違いなく、あの機体は、エメラの魂だ。
 ごう、と、上空を抜ける二つの機影が、地表にまで突風を引き連れて通り抜けていく。
 勝敗は──、
 いや、そこに魂は垣間見えたのか?

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊川・広宣
改変/アドリブ/連携可

行くぞ、『ヴァリエンテ』!まずはスタートダッシュだ!
うわっ!あちぃ!黒い炎がこっちに来る!

あーあ、スピンしてコースアウトしちまった…。こんなとこで止まってる場合じゃないのに。
どうした『ヴァリエンテ』?「オレたちはまだ終わっていない、まだ走れる」?だよな!そう来なくちゃ!
【ゴッドスピードライド】発動!追い上げだ!

「オレは他の世界エンドブレイカーでアンタと同じくらい速いヤツと戦った」
「名前はゼファー。『骸の海』で出会ったら、きっとアンタも気に入る」
「オレがここで負けたらゼファーにカッコ付かないんだよ!」

ところであの声は本当に『ヴァリエンテ』の声だったのか?まぁいいか!



 そこには、走る以外の哲学が存在しない。
 ざらりとした踏み固められたアスファルトと、そこから広がる広大な道と空。
 星の見えるほどの夕闇の中、コースを照らすスタンドライトだけが、目を焦がすように眩しい。
 持ち主が事故で亡くなり、すっかりがらんとしていたはずのローグファクトリーに、本来の持ち主が帰ってきたとき、そこは速さを目指す者にとっての聖域と化す。
『マシンに乗って、コースに入ったということは……私に挑むということでいいのかな?』
 黒いマシンに、黒いスーツ。体格が知れるだけのそれは、個性を消してしまうかのような無機質なものであるが、どうしてだろう。そのフルフェイス越しにでも、ウィリアム・ローグという存在感は、それだけで物語る。
 一方、それに挑むはサッカー少年兼、運び屋をやっている豊川・広宣(フィールドの運び屋・f41336)。
 身体は成長期真っただ中ではあるが、大型三輪宇宙バイク『ヴァリエンテ』にはようやく乗り付けているような感じだ。
 もっともっと体が大きくなれば様になるかもしれないが、それでも付き合いの長いマシンとは、もはや相棒である。
「見せてやるぜ。俺たちの走りをな! 行くぜ、『ヴァリエンテ』!」
 スタート位置につけて、斜め前に位置づけるウィリアム・ローグの黒いマシンを見やる。
 何の変哲もないただのバイクに見えるが、魔獣の心臓を思わせるようなエンジン音は、きっと想像を絶する性能を秘めているに違いない。
 運び屋は安心安全をモットーに、お荷物をお届けする。危ない橋なんて、滅多にわたらない。
 宇宙の走行も可能な、緑とオレンジのボディをもつ『ヴァリエンテ』で公式レースに参加したことなんて、専門のレーサーでもないのにやったことなんてない。
 きっと、オーバルコースのノウハウなんて、ゲームで得た知識くらいがせいぜいだ。
 でも、そんなことは問題じゃないんだ。
 大事なのは、二人なら、なんだって、どこだって行けるって言う事だ。
 スタートランプが赤から、青に変わる。
「よし、スタートダッシュはもらった!」
 激しい振動とともに、身体が引っ張られる。
 初動は完ぺきだった。爆発するみたいなスタートを切ったヴァリエンテが、その高い馬力でぐんぐんと直線を駆ける。
 スタートダッシュでポールポジションのウィリアム・ローグの進路をふさぐようにして飛び出したまではよかった。
 だが、次は最初のバンク、カーブがやって来る。
 オーバルコースは、長い長い半円を描く傾斜の付いたカーブで繋いだ、二本のストレート。
 シンプルなコースだけに、ストレートでついた勢いが、傾斜付きで曲がりやすいはずのカーブを鬼門にする。
「ぬぐぅ……!! 身体が、重いぃぃ!!」
 ハンドルを切れば、当たり前に直線のベクトルへ戻ろうとする慣性が働く。進路を曲げようとするほどに、それは横側へのGに変わっていく。
 直線で伸びたスピードを落とすのは当然のこと、バンクが車体を斜めにすることで、横方向へのGを和らげるが、それは消えるわけではない。
 猛烈なダウンフォースにも似た激しい負荷が、広宣の身体を襲う。
 だが猟兵の身体はタフである。ここでハンドル操作を誤っては、大事故だ。
 体中が鉛のように重たく感じながらも必死にハンドルを握り締めている脇を、黒いマシンが、猛然と熱量を伴ってすり抜けていく。
「クッ……あちぃ、あちぃっ!!」
 排ガス、黒い炎、咄嗟に入れたブレーキが機体制御を失い、ついには『ヴァリエンテ』の車体は横滑りから失速。
 あんとか転倒は避けようと四苦八苦するうちに、機体はスピンしながら内側の縁石に乗り上げてしまう。
「だぁっ、ビビったぁ……あーあ、やっちまった……こんなとこで止まってる場合じゃないってのに……!」
 悔しさのあまり、思わずフロントに拳を打ち付けそうになり、代わりに胸を打つ。
 最初のカーブで翻弄されるなんて思わなかった。
 やはり世界一。半端じゃない。やっぱり、一介の運び屋が相手になんてならないのか……。
 握りしめる拳の先には、相棒のフロントカウルが、スタンドライトの明かりを跳ね返している。
 まだまだ、タイヤ片や埃すらもかぶらないままの機体が、まるで、何かを訴えているかのような気すらする。
(オレたちはまだ終わっていない、まだ走れる!!)
 どっどっどっ、と熱量を湛える心音のようなアイドリングが、叫んでいるかのようだった。
 それだけで、折れかけていた広宣は再び奮起する。
「だよな! そうこなくっちゃあ!」
 歯を剥いて笑うその横顔は、それはもうレーサーのそれであった。
「【ゴッドスピードライド】発動!追い上げだ!」
 この瞬間に、どれほど離されたか、想像もつかない。
 だが、どれほど離されていたって、追いついて見せる。
 爆音を上げるエンジンが、それこそ音の通りに爆発してしまいそうなくらい、加速、加速、大気が燃えているようにすら感じる。
 バックストレートに入って、どれくらい走ったか。蛇のようにコーナーをすり抜けていったウィリアム・ローグのモンスターマシンのそのテールランプが、ぐんぐんと近づいてくるように感じた。
 そこへ、
「オレは他の世界エンドブレイカーでアンタと同じくらい速いヤツと戦った!」
 この声が、暴風の最中に届いているかどうかはわからない。
「名前はゼファー。『骸の海』で出会ったら、きっとアンタも気に入る」
 だが、言葉にせずにはいられない。気持ちよく戦うやつは、いつだって忘れることなんてできないのだ。
「オレがここで負けたらゼファーにカッコ付かないんだよ!」
 アスリートである限り、どこかで誰かと比べられる。突き詰めていけば、自分自身が超えるべきものであるとしながらも、いつだって、どこでだって、勝利こそが戦いを築いてきた。
 多くのスポーツ選手が、栄光を目指す。
 広宣は、シンプルな性格だ。
 そこに勝利が、眩しいばかりの栄光があれば、それを取りにどこまでも相棒と一緒に飛んでいく。
 格好をつけるために、戦った者たちを記憶していく。
 それこそが、己の魂の在り様であるかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノキ・エスプレッソ
命ある者が纏ったときにこそ光り輝くもの…どんな色をしているんだろう…?
可能性があるなら、ボクだってその色を視てみたい。
ウィリアムさん、バイクレースで勝負しましょう。

魂…作り物のボクには、本物の魂なんて存在しないかもしれない。
だけど、色を知る前のボクと…今のボクは違う。色を知ったから、ボクの中にある色が魂の形を作ってる…!

色で出来た作り物の魂だって構わないッ!
思いを【アート】に込めながらUC『グラフィティスプラッシュ』で攻撃しつつ塗料をコースにばらまく!
アルカディア・エフェクトを初めとした攻撃は、外した塗料の上を通過することで戦闘力…スピードを向上させ、バイクの【運転】で回避します!



 無人のガレージ。広大なローグファクトリーに併設された長大なオーバルコースに、その男は佇んでいた。
 全身が黒。ライダースーツも、煤をかぶったかのように提供の企業ロゴが霞んでしまうほどに。
 すでに故人であるウィリアム・ローグのその後ろ姿は、さながら幽鬼の如きものであった。
 フルフェイスのガードの奥に見えるのは、無残な骸骨の姿だが、今更速さの身を求め続けた男に、自らの姿を顧みることなどなかった。
 怪物と成り果てても、目にしてみたい光景があったのだろう。
 その首に巻く靄のような白いそれは、拒絶の雲海。触れるものすべてを消滅させるという、空の世界にあったものだが、なぜそれが彼のもとに現れたのか、どうしてそれを誰かに受け継がせたいのか、彼の思惑は謎であった。
 だがしかし、命あるものにしか輝かすことができないというそれを、彼もまた求めているのか……。
「アルカディア・エフェクト……命ある者が纏ったときにこそ光り輝くもの……どんな色をしているんだろう……?」
 広大なコースのさなかには、視界を遮るものがほとんどない。
 やや離れた位置からは、声すら届かないほどに、ここは空が広く見える。
 飛行場のような、しかしここには、擦り切れたゴムタイヤの焦げたようなにおいと、燃料と排ガスの煙たい匂いが漂っていた。
 ノキ・エスプレッソ(色を求めて走るレプリカント・f41050)の呟く声は、ややもすると、見つめた先にいるウィリアム・ローグに向けて問うたものではないにせよ、それが届くとは思ってはいなかった。
『私には、光が見えたと思ったんだよ……だが、気が付けば光の中だと思っていたのは、この霧の中だったというわけさ……命無きこの身体には、輝いては見えないのだろう……』
 一人、無念を吐露するかのように、ウィリアム・ローグは小首をかしげる。
 強大な、モンスターのような怪物の気配をさせているその男の、わずかに俯く姿の、なんと頼りのない煤けたものだろうか。
 死して光を失うとは、まさにこのことなのか。
 色のない世界。ノキはよく知っている。サイバーザナドゥの貧民街、ダストエリア、そのような場所でに転がっているような機材から、ノキというレプリカントは生まれた。
 進み過ぎた科学技術が、魔法のように機能するそれら全てを把握している者は少ないけれども、それに精通する、さながら魔法使いのようなものは存在する。
 そのようにして生まれた自分は、果たして心ある機械なのだろうか。
 旅するゴッドペインターと出会うまでは、灰色の世界しか知らなかった。
「可能性があるなら、ボクだってその色を視てみたい。
 ウィリアムさん、バイクレースで勝負しましょう」
『いいとも。君もマシンを持っている……。そこに走れるマシンがあるならば、あとは競い合い、走りあうだけさ……』
 遠くを指さすウィリアム・ローグ。既に、もう前しか見ていない。
 人が違えば、その視点もまた異なる。
 見えている景色は、きっと自分のものが全てではない。
 でも、相競おうとしているノキと、そしてウィリアム・ローグは、同じ方向を向いているのだ。
「魂……作り物のボクには、本物の魂なんて存在しないかもしれない。
 だけど、色を知る前のボクと……今のボクは違う。色を知ったから、ボクの中にある色が魂の形を作ってる……!」
『見せてくれ。その魂に、色があるのだとしたら……その輝きを……!』
 ごう、と二台のバイクがうなりを上げて長大なコースを疾走する。
 或は、ここに終わりなどないのかもしれない。
 【グラフィティスプラッシュ】による、塗料を用いたユーベルコードは、ノキの改造バイクのスピードを上昇させていくが、思いの丈とともにばら撒かれるインキの道を、ウィリアム・ローグの纏うアルカディア・エフェクトの雲海が無に帰していく。
『もっとだ! 白で消えるほどの、それは薄い色なのか……!?』
「色で出来た作り物の魂だって構わないッ!」
『そうだ、作れ! 作り続けろ……! 君の描く魂の軌跡を……!!』
 発露するごとに、それらは雲海に飲まれて消えていく。
 だが、それは相互に競っているようにも見える。
 何もかもを消滅させる黒が白を吐き、無数の色が新たに生まれていく。
 敵であるはずのウィリアム・ローグが、ノキの描く魂を、奮い立たせるかのように、それは熱いデッドヒートを繰り広げていくのだった。
 果たして、勝敗は……。
 いや、勝ち負けに今や意味はあるのか……?

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変大歓迎】

ウィリアム・ローグ……伝説のレーサー。
どうだい、アンタが見てきた「向こう側」ってのはさ。
満足できずにこっちへ舞い戻ったのか、それともアタシらを誘うために姿を現したのか……。
なんて、言葉で聞くのは野暮だね。
バイク乗りとして、レーサーとして。走りで、答えを聞かせてもらうよ!

もちろん『騎乗』するのは宇宙カブ。今まで一緒に幾度もの修羅場を潜ったこのマシン以外、考えられないさ。
リミッターなんざ最初から外し、エンジンを限界まで回し……こいつが秘めたいくつめかの封印を解き、全力ダッシュで彼のマシンへ迫る!
その漆黒の炎も覚悟の上で受け、更に進化を乗りこなす。
今、神速の先へ至ってやらぁ!



 にわかに風が出てきた。
 広大なガレージ、ローグファクトリーに併設された長大なオーバル。そのホームストレートの傍らに風を見る旗が、まるで火のように揺れている。
 レース用の施設にはほとんど高台が無く、とくにコース内に入ってしまえば、その視界を遮るものはほとんどない。
 ロードレースに赴く者だけが、この光景を目の当たりにできる。
 地平線にすら思える空の広さ。空の弓張。大地の凹面。
 なるほど、こうまですっきりした場所を与えられると、踏みしめるアスファルトにこびりついたタイヤ痕も相まって、マシンで駆け抜けて見たくもなる筈だ。
 数宮・多喜(撃走サイキックレーサー・f03004)は、自他ともに認めるバイク乗り。サーキットにこもる熱量には思わず反応してしまうが、今宵は一人で走るのではない。
 この場所の持ち主。故人にして、それでも戻ってきたあらゆるレース競技の頂点に立った男。
 どるん、どるん、と怪物がうなりを上げるようなエンジン音が、その心音のようなアイドリングを伴って、多喜の背に語り掛けるかのように近づくのがわかった。
 この場に来れば、彼は来る。そう信じた通りに、黒いライダースーツに独特の覇気を帯びたチャンピオンがそこにはいた。
『いいマシンだ……見た目は安いが、付き合いの長さと、過酷さを……その身からも感じる……』
 命の気配のしない、在りし日とは程遠い惨たらしい姿を見せるチャンピオンは、驚くほど穏やかな声色をしていた。
 思わず面食らう多喜だったが、その存在感、マシンからも漂う獣のような狂暴な気配は、深い渇望を隠しきれていない。
 アスリートアースの戦争。とはいえ、彼らはスポーツマンシップからは大きく外れることはない。オブリビオンと言えど、決して殺し合いに興じることはない。
 だから、その面で恐ろしいということはないのだが……しかし、スポーツという立ち位置から見た場合、その存在感は一変する。
 髑髏のメット越しに、多喜は身震いするのを抑えきれない。
「ウィリアム・ローグ……伝説のレーサー。
 どうだい、アンタが見てきた「向こう側」ってのはさ」
『何とも言えないな……体験してみるのが一番だろう……』
「満足できずにこっちへ舞い戻ったのか、それともアタシらを誘うために姿を現したのか……。
 なんて、言葉で聞くのは野暮だね」
『フッ……』
 誘われるかのように、二人はバイクを並べて、スタート位置につけていた。
 レースというものは、向かい合う競技ではない。
 同じ方向を向いて、同じ先を目指す。
 ただ、それだけに、追い縋るか、追われるか、そして合間に競るか、そこで初めてお互いを意識することになるだろう。
 つまりは──、
「バイク乗りとして、レーサーとして。走りで、答えを聞かせてもらうよ!」
 スタートを告げるランプが、青に染まると同時に、多喜の駆る宇宙カブ『JD-1725』ははじめっから全速力ですっ飛ばす。
 宇宙を疾走可能な多喜の愛機は、当然ただの原動機付自転車などではなく、その姿はカブのみに留まらず、また多数の機能を備えている。
 おまけのように本来の機能である、地上を滑走することだって可能だ。いや、今はその機能だけを限界まで、それこそ、リミッターを外してかっ飛ばす。
 長いストレートが売りのオーバルコースだ。どこまですっ飛ばしたってかまわない。
 何しろ、相手が駆るマシンはモンスターというのも生易しい。そのシルエットは、古のシノビの名を冠するアレに似ている気がするが、そんなのがガワだけなのはしょっぱなのスタートダッシュから以て明らかだった。
「やっぱ、いいマシン乗ってる……!」
 一流は一流を使いこなすから一流。そして、強いやつは、存在感からして強い。
 そのテールランプを追う多喜は、高速で吹き飛んでいく景色を意識の外に、彼の首元でマフラーのように揺らめく白い雲海と、彼の駆るマシンのテールランプを目標に、ひたすらにスロットルを開けていく。
『どうした……その程度ではない筈だ。もっと、魂を燃やせ……! 命の輝きを見せて見ろ……!』
「うぐぁ!!」
 霧のように燃え広がる、漆黒の炎。
 ウィリアム・ローグの軌跡からあふれて出るその炎は、どうやら物理的に燃えているわけではない。
 これはきっと、心を焼き尽くす炎なのだ。
 陽炎のように歪む視界、煮え立つ道。だが、がんがんと歪む視野の中でも、甲高いスペースカブのエンジン音だけが暗く落ちていく世界に安定をくれるような気がした。
 いつだって、修羅場を共に潜り抜けたのは、このバイクがあったからだ。
「だよな! だよなぁ……! 乗りこなせ、踏み越えて見せろ。絶望すら、死の淵すら、乗りこなして見せろ!」
 しがみつくようにハンドルを握り締め、【ゴッドスピードライド】を発動させる。
 進化を促す黒い炎を踏み越えていくことで、多喜のバイクに備えられた封印のいくつかが外れ、そのスピードは見る間もなくぐんぐんと上昇していく。
 どこまで速くなるのか。もはや景色は見えない。ただただ、前を行くはずのウィリアム・ローグのテールランプが白んで見える。
 物理学として、光の速さに近づいていけばいくほど、その光景は輝きを増し、遠ざかるほどに暗くなっていく。
 光という情報に近づくほどその数量を増し、遠ざかるほど減るからだ。
 そして、光が増していく世界を、時に人は、神の領域を垣間見るのかもしれない。
『光が見えたか……? さあ、来い。さあ、来イ……!!』
 ややもすると、死神の誘いのようにも聞こえる声に導かれるかのように、鈍化するほどの高速の中、多喜は歯を食いしばるのを感じる。
 もはや体の感覚のほとんどが、集中し過ぎていて鈍く感じる程に、細胞の一つ一つが、速さを感じていた。
「うるせぇ、言われなくたって……今、神速の先へ至ってやらぁ!」
『おお、これが……輝きか……これが!!』

大成功 🔵​🔵​🔵​

メイティナ・ヴァーンフォルカ
【純粋なスピード勝負です!】
黒衣『邪天』を外して勝負に挑む
今回は私自身でUCを発動してから勝負を挑む
選択コースはオーバムコース

《加速方法》
できる限り空気抵抗を少なくするように…!
体制は空気抵抗を少なくなるように体勢で飛びます
『推力移動』で加速しながらコースを走ります

まだ…最高速を出来る限り落とさないように!
カーブを曲がる時は傾斜に合わせて限界スピードを維持しやすいように立ち回ります

【UC対策】
『心眼』で炎を見ながら水『属性攻撃』の『弾幕』で漆黒の炎を消したり相殺します

『私の魂』
絶対に負けたくない!私だって困っている人達を助けたい!リュールみたいに誰かに手をさしだせる神になるんだ!貴方にも勝つ!



 星々が夜空に煌いて見える。今宵の空には雲一つなく、そして穏やかだが時に風が耳に触る。
 何も遮るもののない大きく開けたレースコースには、大きく風が形を成したかのように吹き付ける。
 スタンドライトによって照らされるコースに暗い場所はない。
 きっと、見通しの悪い個所など一つもなく、だからこそ風通しもいいのだろう。
「……」
 メイティナ・ヴァーンフォルカ(狂人と勘違いされた神がクソゲーハンターとなる話・f41948)は、そのコースのど真ん中に陣取っていた。
 ここに居れば、彼はやって来る。
 なぜならば、この場所はかつて数あるレース競技を総なめにした伝説的なレーサー、ウィリアム・ローグの所有するローグファクトリーに併設されたロングコースなのだ。
 そこに一人、迫力のある鷲の仮面をかぶったメイティナは、堂々と立っていた。
 彼女はなぜか、言葉を発することはない神であるという。自ら言葉を発することによほど抵抗があるのか、嫌な思い出でもあるのか、とにかく、彼女の意思の疎通は、言葉を用いずとも容易いのだ。
 まず思えば大体通じるし、それに便利な看板も持ち歩いている。
 曰く、『挑戦者求む!!』
『ふ、そう誘われてしまってはな……』
 そして、元気な筆文字で書いた看板の甲斐あってか、黒いバイクにまたがった伝説の男、ウィリアム・ローグはその身にけぶる拒絶の雲海を纏って現れる。
『それで……君は、何かマシンで以て、私に速さの先を見せてくれるのだろうか?』
「……」
 くるり、と看板を裏返すと、そこには新たな文字列が浮かんでいる。
 曰く『心配ご無用!』
 そして、持っていた看板を放ると、続けて身に着けていた黒衣『邪天』を鷲の仮面とともにぶわっと脱ぎ捨てた。
 そこには、見目麗しい裸体──ではなく、ユーベルコードによって変じた姿【星導覚醒・星龍アステール】となっていた。
『ふむ……ならば、エアレースのほうがよかったか? む、地上でいい? いいだろう。ならば、位置につこう。ライトが青になった瞬間、スタートだ。いいな?』
 星の龍と化したメイティナに、最低限のレギュレーションを簡潔かつ丁寧に説明しつつ、ウィリアム・ローグとレース勝負を行うことが決定する。
 アスリートアースのオブリビオンは、総じて、スポーツマンを根底としている。ゆえに、基本的にはどの競技においても紳士的である。
 ただ、改めて競技に入った瞬間から、その緊張感、その存在感は恐ろしく大きなものになる。
 神であろうとも、その領域に達するかのような存在感は無視できない。
 大自然を前にしたかのような、死してなおも速さに取りつかれた、ただの一人の男に、かつて大英雄と囁かれた神は圧倒されてしまう。
 それゆえにか、スタートダッシュはやや遅れを取ってしまった。
「……!」
 だがまけない!
 地を噛み、猛烈な擦過音を上げてアスファルトを疾駆する黒いマシン。そのテールランプを目指し、メイティナは龍の姿のままその身をくゆらせて低空を滑るようにして飛んでいく。
 空想上の生物の時点で、物理法則などかなぐり捨てているも同然だが、まったくの無頓着というわけにもいかない。
 身体をすぼめるようにして、空気抵抗を可能な限り減らし、身体に受ける推力を無駄なく前進する力に変換していく。
 ところで、ドラゴンの推力とはなんだろうか。果たして揚力を得るに適切かどうか……星を渡る龍ならば、或は周辺の環境情報を書き換えて移動しているという可能性もなくはない。完全に益体もない考察であるが。
『見た目は派手だが……随分窮屈そうに見えるな……無理に地を這うこともあるまいに……』
 ごう、と黒い車体、そのタイヤ痕から轍のように黒い炎が立ち上る。
 地面すれすれを飛ぶメイティナは、進路上のその炎をまともに浴びることになってしまうが……、
 視界を歪ませるほどの陽炎を帯びるその炎を、メイティナは心の眼でとらえる。
 しっかりと、その先にある傾斜のゆいたカーブを見据え、そのラインどりを注意深く……慎重に選んでいくのだが、どうやってもその道のりは、効率を求めるほどウィリアム・ローグと同じものになっていく。
 目の前にあるものはしかたない。
「……っ!!」
 属性攻撃の水弾で炎の轍を突き破りつつ、続いて突入するカーブにも身体を柔軟に変形させ、スピードを維持したままカーブを駆け抜けていく。
『よくよく追いついてくる……何が君を、そうまでさせる……? もっと見せて見ろ、君のその心を。魂を!』
 追い縋る星の龍。メイティナの瞳は、強い光を湛えている。
 それはただの負けん気。いや、それだけではない。
 彼女は神。神とは信仰そのもの。人々の願いから、それは生まれる。
 頼り縋られ、求め願われ、形を成し生まれていく者が信仰の対象となり得る。
 或は、そのように見られることで神性を得る場合もあるかもしれないが、とにかく多くの思いが寄り集り、神たらしめているのだとしたら、彼女自身が持つ魂の輝きも即ちそれ。
 その域に達した者は、求めに応じずにはいられない。困窮するものに手を差し伸べずにはいられない。
 それが彼女のアイデンティティであり、存在価値であるのかもしれない。
(リュールみたいに誰かに手をさしだせる神になるんだ! 貴方にも勝つ!)
 果たして存在するのかどうかどこにも確認できなかったが、憧れの親友に理想を重ね、その思いの丈を乗せた魂の輝きは、間違いなく彼にも届いたことだろう。
『いいぞ。その輝きが見たかった……! さあ、来い! 速さの先を、見に行こう!!』

大成功 🔵​🔵​🔵​

空桐・清導
POW
アドリブや連携も大歓迎だ

「レースか…。初めての経験だが、
相棒のスピードと操作には自信がある。
アンタには敬意を持って、レースで踏破する!!」
UCを発動して移動力を5倍にして攻撃力を半減

持ち前の天性のセンスとマシンパワーで食いついてく
だが、ウィリアムはその上をいく
「流石はグランプリレーサー!最高にイカしているぜ!」
そんな逆境でも男は、清導は笑う
ひたすらに心が燃え上がるのだ!

「アンタは魂を示せと言ったな!だったら胸に刻みやがれ!
俺は最高のヒーローとなる!
全身全霊を振り絞り、涙を笑顔にしてみせる!
それはアンタもだ!今生きる者の力!味わいやがれ!」
[限界を突破]してウィリアムを抜き去りゴールする!



 天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ……。誰が呼んだか、己が呼んだのか。
 激しい着地音は、アスファルトを鳴動させ、それでも跳ね返ることなく地に手を付きその衝撃全てが己自身であるかのように座り込む姿は、紛れもなく人であったが。
 シルエットのみでは考えられないほど、重量感は鋼鉄のそれであった。
 すっくと立ちあがる立ち姿。星空の見える夜のもとに、その鎧の赤は、日の出を思わせた。
 空桐・清導(ブレイザイン・f28542)は、鋼の鎧を纏うアームドヒーロー。選ばれしものにのみ身に着けることが許された機械鎧『ブレイザイン』の名を名乗り、その心は、血潮は、鎧の赤を示すかのような熱血である。
 その鎧は、牙を持たぬ者のため。
 その体は、巨悪に屈しないため。
 その心は、希望をもたらすため。
 だがしかし、このアスリートアースには、人類を脅かす巨悪は、悲しいかな存在しない。
 アスリートは、スポーツマン。スポーツマンならば、スポーツで決着をつけねばなるまい。
 ヒーローは、なにもその鎧による革新的な能力を用いずとも、全力でスポーツに打ち込むことで彼らと渡り合うことも、或は可能であったろう。
 しかし──、
『ほう、装着するタイプのマシンか……初めて目にするが……ここまでやってきたということは、挑むんだろう。私に……速さに……!』
 ローグファクトリーの主、ウィリアム・ローグは、漆黒のライダースーツに髑髏が見え隠れするフルフェイスという凶悪な井出達に反して、驚くほど穏やかな装いであった。
 しかしながら、それはヒトとして、或は幽霊として見た場合であろう。
 アスリートとしての彼は、まさしく超人。その存在感たるや、彼の用いるモンスターマシンもさることながら、レーサーとしてのウィリアム・ローグの気配は、鎧越しにも怖気が走るほどである。
 ここまで敵意なく、人を圧倒するだけの存在感を持つ者には、なかなか会うことはない。
 だからこそ、清導は全力全開を引き出す装備で以て、ここに臨んだ。
 全てを出し切らねば──、このレーサーに挑み勝利するのは不可能だ。
「レースか……。初めての経験だが、相棒のスピードと操作には自信がある。
 アンタには敬意を持って、レースで踏破する!!」
 たっぷりと見得を切り、ためを作った仕草で指を突き付ける。この一連の動作は、半ば癖のようなものだ。
 憂いの残る勝利など御免被る。正々堂々と、胸を張る勝利をもぎ取る。
 ゆえに、一試合に完全燃焼を念頭に、全力でぶつかるのみ。
『なんという気迫だ……いいだろう。そのスーツで、その足で……私のスピードを超えて見ろ!』
 かくして、コースの位置につけると、フラッグが上がり、レース開始を予告するランプが徐々に灯っていく。
 赤、赤、そして青に染まるその瞬間、清導はユーベルコードを発動。
 相手を叩き潰す牙は要らぬ。今はただ、彼の情熱に届く翼を。
 【超越変身!】その宣言とともに、熱い想いに答えたブレイザインが、徒競走に特化した変身を遂げた。
 あとは、着装する清導が応える番だ。
「うおおおおっ、ぶっちぎるぜ!」
 頭の血管がブチ切れかねない気勢とともに、ブレイザインはコースを駆ける。
 だが、走ることに関してウィリアム・ローグは他の追随を許さない。
 猛然とスタートダッシュから全速力を発揮するも、黒いマシンはさらにその先を行く。
 持ち合わせた感覚は天性のもの。まさしく天稟があるといっていいはずだった。
 そして、ブレイザインもまたその出力は清導の潜在能力を限界まで引き出し、マシンパワーでそれをアシストし引っ張っていっているはずだ。
 これが仮に、どこかの世界の巨大な化け物であっても、スタートダッシュのスピードで体当たりを仕掛けたら、同に穴が開いてしまうであろうほどのパワーとスピード。
 それをも越える、ウィリアム・ローグは一体、どのような境地にあるのだろう。
 奮える。
「流石はグランプリレーサー! 最高にイカしているぜ!」
 噛み締めるのは悔しさか、それとも敬意か。
 どちらでもいい。至極シンプルな答えが、そこにはある。
 すなわち、越えるべき壁がそこにあるならば、飛び込んでいくだけなのだ。
 目の前にあるは、巨大な目標。
 素敵だ。これが、燃えずにいられるだろうか。
 足を進める。もっと速く。
 身を乗り出す。もっと速く。
 はやる気持ちが前へ前へと、身体を突き動かす。
 勝ちたい。あの男の見ている世界が見たい。限界を超えた世界を。
 ウィリアム・ローグという男は、死してもなお、スピードという果てしない目標に挑み続ける怪物だ。
 挑み続ける存在。なんて眩しいのだろう。だからこそ、負けたくはない。
「アンタは魂を示せと言ったな! だったら胸に刻みやがれ!
 俺は最高のヒーローとなる!
 全身全霊を振り絞り、涙を笑顔にしてみせる!
 それはアンタもだ! 今生きる者の力! 味わいやがれ!」
 ばちん、ばちん、と身体のあちこちが、限界を超えて軋み始めているのがわかる。
 選ばれた存在。猟兵と言えども、身体の無茶が利かない保証などない。
 まだ壊れるな。とはいうまい。
 だが、最後まで折れるな。
 魂が肉体を凌駕する。
「くおおっ、ブレイザイン、見せてやろうぜ……俺たちの魂をよっ!!」
『おお……それが、生きる者の輝き……! もっと、もっと見せて見ろ!』
 火柱を上げて駆けるその姿が、ゴールラインを割る。
 果たしてその勝敗は──!
 垣間見た黒いヘルメット。フルフェイスのバイザーの向こうに、表情など見えない筈の髑髏が、笑ったように……。
 清導には見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

暁星・輝凛
僕は速さで勝負するよ。
レーサーにはレースで……敵であっても、決めた生き様を貫いた相手。
それが僕の敬意だ。

自分のカスタムバイク「Blitz」を使用。
妻が用立ててくれたものを、僕の手で更にカスタムしたものだ。
――正直に言おう、コイツが存分に力を発揮できると思ったんだ。
そうとも、コイツは僕と妻の夫婦愛の結晶。それ一本でここに来た!

可笑しいかい? 僕はそう思わない。
いついかなる時でも、僕は彼女を愛してる。
――愛ってのはね、命がけの誇りにすら並び立つんだよ。

風の抵抗を【受け流し】、ローグの後ろにつく。
スリップストリームを利用して隙を伺う。
必要なのは【勇気】だけ。抜いた瞬間、【リミッター解除】でちぎる!



 おおよそレース競技と呼ばれるものを総なめにした伝説的なレーサー、ウィリアム・ローグ。その人の残した広大なガレージ、ローグファクトリーにはらゆるモータースポーツに対応したマシンが格納されており、それはウィリアム・ローグがオブリビオンとして蘇った今も変わらない。
 そしてあらゆるマシンが揃っているということは、それらを試すためのコースも必要ということで、ローグファクトリーには長いオーバルコースも併設されており、そこで待っていれば、おのずと向こうも応じてくれるはず。
 暁星・輝凛(獅輝剣星レディアント・レオ・f40817)は、レースコースに入り込み、その思ったよりも広い視界に感心していた。
 外から見るのと、実際にコースの中に入って選手としてコースと見るのとでは、その見え方は大きく違う。
 直線二本を繋いだだけのシンプルなコースというのも関係しているが、道を、視界を遮るものの無さが、なんとも開放的で、何もない道のりには、なんだか吸い込まれてしまいそうな錯覚すらあった。
 なるほど、レーサーがマシンを転がしてみたくなる気分も、今なら理解できる気がする。
 ほの暗い宵闇の中をスタンドライトに照らされたアスファルトの道を、自分のマシンで駆け抜けていくのは、きっと胸がすくほど気持ちがいいだろう。
 輝凛にはいくつもの顔がある。
 剣術家、対デウスエクス兵器開発者、全国有数の大富豪にしてお調子者のいい男……。
 それら全てを忘れて、ただ、マシンに身をゆだねるように、走ってみたい気持ちもわからくはない。
『来たか……スピードに挑む挑戦者……私の敵……愛しき命ある宿敵よ……』
 大地が大顎をめくれ、その喉を鳴らすかのような、遠雷の様な、それはエンジン音とともに黒いライダースーツを身に纏って現れた。
 暗闇からしみ出したような、くすんだ黒のスーツは、提供の企業ロゴをも掠れさせ、フルフェイスのバイザーの向こうには、痛々しい髑髏が視線無き視線を輝凛へと向けているのがわかった。
 ウィリアム・ローグ。その男のライダースーツを着込んだ体格は標準的だが、レース競技者として立った時には、その存在感は山にも似る。
 無骨で言葉に不器用な印象だが、不可思議なほど敵意がないにもかかわらず、その本性は煮えたぎるマグマでできた飢えた狼のようなどう猛さを持っていた。
 だが同時に、納得もする。
 これほどの、恨みや闘争心ではなく、あまりにも傾いた情熱から死すら凌駕してオブリビオンに成り果てたのも、仕方のない存在なのだと。
「僕は速さで勝負するよ。
 レーサーにはレースで……敵であっても、決めた生き様を貫いた相手。
 それが僕の敬意だ」
『蘇った甲斐がある。そうでなくてはな……報いねばなるまい……速さの果てへと……』
 いうが早いか、ウィリアム・ローグと連れ立ってスタート位置につける。
 細かなルールなど、ほとんど必要ない程に、数字の0を思わせるシンプルなコースを、どれだけ早く回れるか、それを競りながら走る。ただそれだけ。
 心音と、バイクのアイドリングが鼓膜を打つ。
 フラグが上がり、スタートを予告するランプが、徐々に灯る。
 赤、赤──、
 ここに至るにおいて、輝凛は武器を用意しては来なかった。
 持ってきたのはただ、「Blitz」……自分用にカスタムしたバイクのみ。
 魔導機構を組み込んだ、革新的な加速力が売りの最新鋭のバイクは、もともとは妻が用立ててくれたものだ。
『行くぞ──』
 青、ランプが灯る。
 一斉にスロットルを開けるエンジンが排気バルブから熱っぽい吐息を吐き出し、爆燃するエンジンから齎されたパワーを伝達するタイヤがアスファルトを噛み悲鳴を上げる。
 音が何もかもをかき消す中、むしろ無音にすら感じる。一瞬にして耳がばかになる。
 それすらも心地よく、振動とともに推力がマシンをすっ飛ばす。
 翼が生えたみたいに、金属とカーボンの塊が排ガスとタイヤ片をまき散らして道々を疾駆する。
 息ができぬほどの暴風を思わせる加速。
 スピードと反比例するかのように景色が鈍化して、やがて追い縋る先ウィリアム・ローグのマシンのテールランプしか目に入らなくなる。
 さすがだなあ。世界を制しただけはある。凄まじいパワーのマシンを軽々と乗りこなし、あまつさえまだまだ先へ、スピードを上げ続けている。
 輝凛は、それに食らいついていく。
 呼吸を固く感じるほどに、頭も筋肉も鈍重に泥をかぶったような錯覚を覚える。
 これは檻だ。物理法則という壁が伸し掛かり、速度という自由を求めるほどに締め付けてくる。
 ああ、ずっと、ここから先を求めているのだと、今ならばわかる気がする。
 息苦しい。しかし、彼に追いつくためには、この激しい乱気の中に活路を見出さねばならない。
「風……そうだ、風を読んで、拾え……!」
 この期に及んで最も風の抵抗が少ないのは、ウィリアム・ローグの真後ろ。
 スリップストリームである。
「――正直に言おう、コイツが存分に力を発揮できると思ったんだ。
 そうとも、コイツは僕と妻の夫婦愛の結晶。それ一本でここに来た!」
 ふぅう、と固い呼気が抜けたような気がした。
 暴風の影響を切り抜けた身体は、その思いもよらぬほどの負担を物語っていたかのようにわずかにリラックスする。
 力みによって固かった全身の筋肉から余分な力が抜け。今こそ、マシンと一体化したような自然体を手に入れたような気がした。
『フッ……』
 激しい走行の中で、言葉など交わせるはずもないのに、どうしてだろうか。あの男がフルフェイスの奥の髑髏の存在しない鼻を鳴らしたように聞こえた。
 嘲笑するようなそれではないのはわかったが、しかし、歩み寄る、その速さへと踏み込んだ男に語り掛けるチャンスだと思えた。
「可笑しいかい? 僕はそう思わない。
 いついかなる時でも、僕は彼女を愛してる。
 ――愛ってのはね、命がけの誇りにすら並び立つんだよ」
 お調子者を自覚するような輝凛でも、少しばかり照れくさく思えるが、恥じる事でもない。愛情に胸を張れぬ生き方をしてきたつもりはない。
『はは! それが、お前の魂か……俺にはわからぬものだが……ならば、もっと見せてくれ。その輝くさまを……!』
「もちろんさ」
 唇が渇くのがわかった。
 きっとここは、人が長くいちゃいけない領域なのだ。
 前人未踏とは、その多くが極限の環境であるはずなのだから。
 超高速下に於ける、緩衝地帯。それがスリップストリームという最中。
 言うなれば、チェイスはその真後ろで空気抵抗を無視して加速した瞬間を慣性で以て抜けていくタイミングを見る、刹那を見切らなくてはならない。
 それはただの反射神経のみならず、ハンドル操作、空間把握力、それこそその場を鳥瞰するような認識力の強さを、意識が霞むような極限状態で発揮しなくてはならない。
 頭が煮える。景色が鈍化する。周囲が白む。
 だが、交錯の一瞬にかち合った視線は、お互いにとても穏やかに感じた。
 すごい景色だろう。
 ああ、確かにそうかもしれない。
「っちぎれぇぇっ!!」
 それが自分の声だったかどうか。
 悲鳴のようなエンジン音と暴風が、何もかもをかき消すかのような世界で、無意識のうちにバイクのリミッターを解除して一気に加速していた。
 あんなにうるさかったはずの心音も、風の音も、思い出したかのように耳朶を打つ。
『すごいじゃないか……きれいなものだ……』
 そんな声を、耳の後ろに聞きつつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋山・軍犬
星の海を超光速で移動する
宇宙鮫(食材)や星海カジキ(食材)を捕獲する時

千切りなら、0.000001秒以内で精密にきめないと
旨味が壊れて溶ける雪結晶キャベツ

食材輸送の観点からも、フードファイターと速度は
密接な関係があると言える(多分)

つまり、フードファイターの求める速度の本質とは
命の輝きを繋ぐスピード!

そして、その速度を叩き出すのは日々の食事と鍛錬によって
徹底的にチューンアップしてきた
公式?説明でも肉弾戦闘系のアーティストと
称される程に作り込んだこの肉体!

という訳で、現在の自分の出せる速度の限界を超えた
先にある可能性(飯)の為に、挑戦させてもらうっすよ
レースフォーミュラ『ウィリアム・ローグ』ッ!



 ひどくがらんどうに感じる。そこは、ローグファクトリーと呼ばれる、かの伝説的なレーサー、ウィリアム・ローグのガレージ。
 この場所には、かつてあらゆるレース競技を制したというそのモンスターマシンが配備され、その出番を待っているのだという。
 不慮の事故によって彼が没してからは、博物館のようにそのままの状態が維持されていたようだが、今や彼は死しても死に切れぬオブリビオンとなって帰ってきた。
 怪物の帰還。それは、墓場のようだったこのだだっ広いガレージと、そこに併設されたテストコースにぎらぎらとした輝きを取り戻す。
 魂なき情熱。なんと空虚で、ひたむきで、そして……
「うん、うん……やっぱり、こういう場所だと、ジャンクなものがおいしく感じる、っすねぇ」
 照り焼きソースの甘くてしょっぱい醤油の匂い。
 秋山・軍犬(悪徳フードファイター・f06631)は、乾いた匂いのするアスファルトのだだっ広いコースを前に、思わずハンバーガーにかぶりついていた。
 フードファイター、そして超級料理人を兼ねる、正体不明のおそらくは犬っぽいキマイラの軍犬は、あらゆる世界を渡る猟兵という立場を利用して、いろんな世界の食材を手に入れるという趣味と実益を兼ねた活動に興じる。
 その行動が世間一般の正義と等しいかと言われれば微妙なところだが、己の信じる正義にはとても実直である。
 全ては、うまい飯にありつくため。そのためならば、軍犬は割と必死だ。
『ここでの飲食は、控えてくれると嬉しいが……君は、私に挑みに来た猟兵か……?』
「んぐ、んぐ……ゴミは持ち帰るっすよ。まあまあ、ここに来たからには、速さ勝負をしに来たっす」
 その存在を察知し、バイクとともに現れたライダースーツの男の正体を見紛うことはあるまい。
 敵意はほとんど感じないが、勝負という言葉を発した途端、その男ウィリアム・ローグの気配は、重く大きくなったように錯覚する。
 アスリートというものは、ひとたび勝負ごとになってしまうと、スイッチが入る。
 いかに腑抜けたように見せかけていても、心に火が付いた状態の彼らは、自分の立つ舞台では主役を演じる存在感を持ち得る。
 空気の中に鉛でも混じっているのではないかというほどの、圧を感じる。
『次から次へと……君たちは本当に、素晴らしいものを見せてくれる……だがしかし、君はどうだ。見たところ、食べるのが専門のようだが?』
 侮るような言葉は、わかりやすい煽りであったが、そんなものにわざわざ憤慨してやれるほど軍犬は青臭くはない。
 しかしながら、ウィリアム・ローグは、わかっていてやったのだ。
 即ち、この男はッ、フードファイターをッ、料理人をッ、嘗めたッッ!!
 マスクの奥で軍犬は舌を鳴らし、指を立てる。
「──星の海を超光速で移動する、宇宙鮫(食材)や星海カジキ(食材)を捕獲する時。
 ──千切りなら、0.000001秒以内で精密にきめないと、旨味が壊れて溶ける雪結晶キャベツ……」
 網を掴むような手の動き。包丁に指を添えて繊維を寸断する手つき。それらは、何も手にせず仕草を見せるだけでも、そこにそれがあるかのように幻視する。
 洗練された、何度も反復され効率化された技を感じさせる手つきだった。
「食材輸送の観点からも、フードファイターと速度は密接な関係があると言える……(多分)
 つまり、フードファイターの求める速度の本質とは──命の輝きを繋ぐスピード!」
『ふむ、一理あるな……あるのだろうか?』
 力説する軍犬の言葉に、ウィリアム・ローグは小首をかしげる。
 前半はともかく、後半は、なんというか、運送業の無理やりなキャッチコピーに聞こえなくもない。
 だが、ここまで軍犬がフードファイターの矜持を口にするのには理由がある。
 それは、彼がスピード勝負をするのに必要な準備だからだ。
「そして、その速度を叩き出すのは日々の食事と鍛錬によって、徹底的にチューンアップしてきた
 公式(?)説明でも肉弾戦闘系のアーティストと称される程に作り込んだこの肉体……!」
 ポップなミリタリーファッションから覗く、なんかちょっと可愛らしい腕で力こぶを作って見せると、やや考えたのち、ウィリアム・ローグはようやく納得いったらしい。
『まあいいだろう。勝負とするからには、私も全力で応じなければなるまい……ただ、君の肉体が出せる力はそう長時間ではないだろう。ここは……ゼロヨン勝負といこうではないか』
「ぜろよん……て、なんすか?」
『400m勝負……公道では、その昔、この手法で最速を競ったらしい……さあ、構えるのだ』
 一般乗用車では結構地味な勝負になってしまう競技だが、そもそもコースとして走れる道があまりない公道では、このような勝負が日常的に行われていた……という都市伝説がまことしやかに語られている。
 だが、これは朗報であった。
 フードファイターは、食べるのが勝負。それゆえにか、強靭な胃袋はその環境に順応し、平たく言ってしまえば燃費が悪い。
 短期決戦は願ってもない。
 ただし、相手はドラッグカーの様な性能を持ったモンスターマシン。ゼロヨンとて、必ずしも分がいいとは限らない。
 だが、もう後戻りはできない。
 【フードスペシャリテ・フルコースゴールデン】は、食事で得た力、そしてフードファイターとしての矜持を示したところから既に力を発揮し始めていた。
「挑戦させてもらうっすよ……レースフォーミュラ『ウィリアム・ローグ』ッ!!」
 そして、レースの幕が上がるとともに、軍犬は全力で飛び出す。
 混雑する狭い厨房の中をも軽々と素早く動ける足運び? いや違う。
 いくつもの寸胴を一度に運べるタフネス? それも違う。
 そんなものでは、スタートダッシュであっという間に追い抜いて行ったウィリアム・ローグのモンスターマシンの尻尾すらつかめやしない。
 もっと貪欲に、もっと荒々しく。生易しい料理人の矜持などではない。
 犬だ。飢えた犬になれッ!
「ぐわぁあう!!」
 自分は何のために生きてる。
 もっと速く、もっと、限界を超えろ。
 可能性を見出せ。この先にずっと、もっと、未知のお宝(飯)がある筈だ。
「食わせろォォォオオ!!」
 それは、さながら、眼前に肉をぶら下げられた犬のように、猛然と駆ける獣の姿であった。
『なんという執着……これほどまで、俺の速さに対する拘りにも似ている……!』
「に、肉ゥ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

雪・兼光
●SPD

…魂を見せろ?どういう事だ?
そもそもレースならマシンパワーでどうにかすれば良いだけだ

コイツ自体マシンで戦闘を仕掛けてくれば、猟兵一人ぐらいなら簡単に捻り潰せる筈

何でレースで仕掛けた?

…俺のマシンはこれだ(ユーベルコード)
俺も走りを好むもの

さぁ、レースしようぜ(運転を利用して走る)

若輩者にこの世界の最高の走りを見せてれよッ!レジェンドォッ!
俺は必死にアンタに食らいついて行くだけだ!
まだまだ知らない世界をめぐりたいからなァ!
こんな所でてめぇのアルカディア・エフェクトに飲まれてる暇なんてねぇんだよォッ!



 道以外は何もない。
 ウィリアム・ローグのマシンの数々が配備されているという専用の巨大ガレージ、ローグファクトリー。
 そこは、ローグファクトリーに併設された長い長いテストコースであった。
 地平線かと思うほど長いストレート。大波かと思うほど大きく湾曲して反り立つバンク、つまり傾斜の付いたカーブ。
 それ以外は、本当に人っ子一人いない。寂しいだけのコースを、スタンドライトが上からびかびかと照らす。
 夜中でも問題なくマシンを走らせることが可能なよう、コースの道のりは明るく開けていて、だからこそ何もなく感じてしまうのだろう。
 雪・兼光(ブラスターガンナー・f14765)は、そんな道のりを寂しく思いつつ、ゴムと排ガスの残り香のある独特な空気に鼻をひくひくさせていた。
 いかつい三白眼。そのおかげでなんか悪そうな雰囲気や印象を持たれてしまうが、本人はそんなつもりはなく、空想好きの割とロマンチストである。
『道に迷ったかね……ここは、公道ではない』
 現れたのは、バイクにまたがる黒いライダー。
 提供のロゴがいくつも施された割には、煤けてほとんど見えないくらいには黒く、フルフェイスのバイザーの向こうには、髑髏が見える。
 不慮の事故で死したと噂のウィリアム・ローグその人は、意外なほど穏やかで敵意のかけらも感じない。
「いや、あいにくと……あんたに用があってな」
 話の通じる相手かもしれない。そう思いはしたものの、兼光の言葉を聞いたウィリアム・ローグの様子は見る見るうちにその気配を変じさせていく。
『ほう、ではお前は……ここに、勝負をしに来たというわけだな……お前たちの得意な戦いでも構わん。その魂の輝きを見せてくれ』
 むわり、と一回りも二回りも大きく存在感を増していくその変貌ぶりに圧倒されそうになるが、ガンの飛ばし合いで負けるのは癪だ。
「……魂を見せろ? どういう事だ?
 そもそもレースならマシンパワーでどうにかすれば良いだけだ」
『そうかな。意外と、やってみるとそれだけじゃないぞ……』
 恐ろしい程のパワーを秘めたモンスターマシンにまたがるその力の強大さは、見ているだけで気圧される。
 おそらく、普通に戦闘を仕掛けたとしても、猟兵の一人や二人、簡単にぺしゃんこにしてしまいかねない。
 だから解せない。
「なんで、レースなんだ……?」
『私は、これしか知らない。速さを求める方法を……』
 それを見せてくれるならば、全力で答えねばなるまい。
 その力の強大さからついつい失念してしまいそうになるが、彼はアスリートであり、ここはそういう世界だ。
 勝負の世界で、ひたすらにフェアであり、ひたすらに頑なだ。
 そんな態度を見せられたとあっては、兼光もノらざるを得ない。
「……俺のマシンは、これだ」
 【Get on the blaster】……猟兵になるきっかけとなった、拾ったブラスター。それは銃として機能するほか、乗り物に変形し、騎乗することも可能である。
 どうして手に馴染み、使い方を熟知しているか知らないが、それに乗り込むことに、やはり違和感はない。
 なぜならば、
「俺も走りを好む者……さぁ、レースをしようぜ」
 ぐおん、とその出力を上昇させれば、待っていましたとばかりに、レース開始を宣言するランプが上がり始める。
 鎖で繋がれた獣のように唸り声をあげる二つのマシンが、戦いの開始を今か今かと待ち受ける。
 耳の後ろにまで心臓がせり上がってきているのではないかというほど、どくどくと脈打つ高揚が、気を逸らせようとする。
 まだだ、まだだ……そして、緞帳が上がるかのように、ランプが赤から青へと変じる。
 ばりばり、と空気が張り裂けるような爆音が、マシンの拘束を破ったかのように二人を速度の世界へとかっ飛ばす。
『ついてこい。いや……見せつけるつもりなら、超えて見ろ……!』
「若輩者にこの世界の最高の走りを見せてれよッ! レジェンドォッ!
 俺は必死にアンタに食らいついて行くだけだ!」
 速度に置いて行かれた空気が、その世界の中では暴風に変わる。
 耳朶を打つ暴風と爆音で、お互いの声など聞こえる筈がなかった。
 だというのに、喉が焼けるほどの叫びは、自分にすら聞こえないというのに、お互いに声が届いているような気配がしたのだ。
 冗談じゃねぇ……。最初っから全力でかっとばしても、あのモンスターマシンのケツにいつまでも追いつかねぇ。
 こんなんじゃあ、ダメだ。
 チャンピオンはきっと、カーブでも完璧だ。いや、もしかしたら無難かもしれない。リスクを取らず、効率的なラインを取ってカーブに臨むかもしれない。
 兼光に勝機があるとしたら、そこだ。
 リスクなんて、最初っから考えちゃいない。後退のネジは外れているし、心臓はひょっとしたらビス止めでできているのかもしれない。
 すくみ上っている暇なんてないのだ。
「まだまだ知らない世界をめぐりたいからなァ!」
 攻めるしかない。カーブのラインどりで、インを攻める。
 だが、ストレートでフルスピードに達した状態でハンドルを切るのは、いくらバンク付きのカーブとはいえ、インを攻めれば攻めるほど、後半に曲がり切れずアウトに膨らんでいく。その筈だ。
 馬鹿野郎お前、コーナーの秘訣は三つのKよ!
 くん、と身体を内側に傾けてカーブの姿勢を取るが、そのラインはあまりにインコース。
 普通はアウトからイン、そしてアウトに抜けるのが定石。曲がる角度そのものを緩くとることで、スピードの減衰を防ぐのがコーナリングの基本である。
 減速せずに、最初からインを付けば、曲がり切れずにアウトに膨らみ……コースアウトは必至!
 だが、
「こんな所でてめぇのアルカディア・エフェクトに飲まれてる暇なんてねぇんだよォッ!」
 コーナーの秘訣は三つのK! 即ち、気合、気合、気合! それでAll Right!!
 はたして、その理論もへったくれもないインコースを気合で攻めるという、無茶なラインどりはあまりにも斬新。しかし、ユーベルコードという出鱈目が、それを可能にする。
『ほう、前に出るか……! 理論も、物理法則も越えて……何がそうさせる……それが、お前の魂か!』
 強引に前に飛び出した兼光のマシンを見送りながら、ウィリアム・ローグは肉などとうに削げ落ちたはずの顔で笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

結城・有栖
スピードの果てですか…。
オオカミさんも速度には自信がありますよね?

「まあネー。だからこそ、どこまでも速くって気持ちも分からなくはないヨ」

なら、その気持ちを相手にぶつけましょう。

今回はウィンドボードに乗って地上でのレースに参加です。
UCで風を纏い、速度も上昇させて行きましょう。

まずは【野生の勘】で相手のマシンの動きを読み、置き去りにされないように食らいついていきます。
妨害が飛んでくるなら、見切って上手く【操縦】して回避です。

最後のカーブに差し掛かったら、速度を限界まで上げて【空中機動】も駆使して追い抜きにかかります。

「最後の直線が本当の勝負ダヨ。スピードの果て、限界まで飛ばしていこうカ!」



 ウィリアム・ローグの所有する広大なガレージ、ローグファクトリー。
 彼の駆る様々なマシンを配備しているほか、そこへ併設されているテストコースは、あらゆるマシンの走行を想定している。
 それゆえに、いかなる相手が勝負を仕掛けてきても、彼は喜んでその勝負を受けることだろう。
 より速さを目指すために、彼は戦いを享受する。
『今度は子供か……だが、猟兵ならばその姿は当てにならない……君たちもまた、私に速さの果てをみせてくれるのか……』
 少しばかり気遅れてしまうくらい、広大なコースの傍らで首を痛めそうなほどスタンドライトを見上げていると、その男はまるで影から染み出すかのように姿を現した。
 故人、ウィリアム・ローグのその本来の姿を、結城・有栖(狼の旅人・f34711)は知っているわけではない。
 しかしながら、その黒いライダースーツの男がそうなのだと、猟兵の勘がそう教えていた。
 只ならぬ存在感。しかし、驚くほど穏やかで、敵意らしきものはほとんど感じない。
 やはりスポーツマン、その精神性の高さとでもいうのか、それとも、彼が一度死に、その魂の在り様を見ようとしているのか、最初から有栖を一人ではなく複数と認識していた。
 オウガブラッドである有栖には、内なるオウガが存在している。本来は獣の本性の如く激しい衝動を抱えているはずのオウガだが、有栖の中に居るオウガは、なんとも落ち着いていてあまつさえ有栖に助言を与えてくれもする。
「スピードの果て、ですか……。オオカミさんも速度には自信がありますよね?」
『まあネー。だからこそ、どこまでも速くって気持ちも分からなくはないヨ』
 ならば、その気持ちを、走りとしてぶつけよう。
 自身の胸に手を当て、その鼓動が生きている事を感じながら、有栖はスタート位置につける。
 そして取り出すのは、車輪の付いていないスケートボード。つまりは、風の力で浮遊し空飛ぶ板、ウィンドボードである。
『ほう……私も、あの映画は好きだ。勝負が終わる前に、時代を越えてしまわないでくれよ……』
「たぶん、飛ばないと思いますけど……」
 意外とそういう話通じるんだな……などと感心しつつ、有栖はユーベルコードを発現させる。
 内なるオウガ、オオカミさんはただの穏やかなオウガではない。
 その気性、本来の凶暴性は失われたわけではなく、力は力としてきちんと備わっているらしい。
 【嵐の王】……吹き荒れる風が、どこかで遠吠えの様に鳴り響く。
 それこそが、オオカミさんの本来の力、狂暴性。荒れ狂う嵐の如き力の奔流と心を重ねて、その制御を試みる。
 荒れ狂う心が、いまにも身体を突き破って果てしなく暴れ出してしまいそうになる。
 心音が激しく耳朶を打つ。心が燃えそうになる。
 でも、どこかで誰かが、大丈夫と囁いてくれる。きっと、うまくいく。
「ッ!!」
 気が付けば、スタートの合図は上がり、勝負は始まっていた。
 ぐんぐんとスピードを上げるウィリアム・ローグのモンスターマシンのスピードはすさまじく、風を纏った有栖がどれだけ追い風を味方につけても、その後ろ姿に追い縋るので精いっぱいだ。
 マシンパワー、それを完璧に制御するテクニック。そして、シンプルなオーバルコースだからこそ試されるドライビングテクニック。
 当たり前だが、全てが高水準で、一度前に出られては付け入るスキがほとんど見当たらない。
 普通のレースで勝つ方法など、皆目見当もつかない。
 有栖はレースの専門家ではない。競り合いの駆け引きなど、歴戦のチャンピオンにそうそう読み勝てるわけがないのだ。
 運試しをするか? いや、もっと自分らしいやり方がある筈だ。
 そうしてウィリアム・ローグの後ろにつけるからこそ、見えてくるものもあった。
 野性的な感覚、その直感が察知するのは、やはりオオカミさんと同調している瞬間にも感じ取れる風の流れ。
 そのうねりのひと匙から、兆しを見ることなど容易い。
 その流れは、当然のようにウィリアム・ローグのマシンの周辺にも生まれている。
 いや、見えているというよりかは、これは──、
「アルカディア・エフェクト……!」
 全てを消滅させるという拒絶の雲海。その白い雲のうねりが風に乗ってすぐ後ろの有栖にまで影響を及ぼそうとしている。
 だがそれは、とっくに経験済み。
 ブルーアルカディアの空域でそれに遭遇した時にも、わずかなルートを見つけて航行したものだ。
 そうだ、ここは道であって道でない。
 ちょうどバックストレートも終わりに差し掛かり、最後の長いバンク付きのカーブがやって来る。
 大波のように反り立つバンクと、前方から流れてくるアルカディアエフェクト。
 泣きっ面に蜂の状況だが、逆にこれを利用する。
 立体的であるからこそ、本来は柔軟なウィンドボードという乗り物を活かす。
「そういえば……ここは、アスリートアースでした……!」
 アルカディアの波を大きく乗り切るために、身体を仰け反らし、目の前に迫るアスファルトに向けてウィンドボードの底面を正面に向ける。
 気流の波が、嵐の王によって制御された風のうねりが、波の覆いかぶさるがごとく渦を作り、乗り上げたボードに引っ張られるようにして有栖の身体も蹴上がる。
 ハーフパイプの様な傾斜を利用し、風に乗り、身体を逆さにしたまま風の波に乗って、カーブを減速なしで突入し、新たな空中の道を見出した有栖は、実に斬新なラインを描いて、ウィリアム・ローグの取れないラインを作り出した。
 そう、それは、レース競技の技ではなく、サーフィンにおいて誰も真似することのないおとぎ話めいた離れ業。
 さながら、ロケットの発射口を滑るかのようなそれは、『シャトルループ』とも呼ばれる、波に乗って宙返りを打つ。
 当然、凄まじいスピードであるため、強靭な三半規管と反射神経を要するが、その点において有栖とウィンドボードの付き合いは長い。
 ラストのホームストレートを直前に、レースの明暗が分かれた。
『最後の直線が本当の勝負ダヨ。スピードの果て、限界まで飛ばしていこうカ!』
「はい……!」
 余力を残すなんて、そんな上品なことでは、あの速さの魔物にあっという間に追いつかれてしまうだろう。
 何もかもを、過去にするように……あわよくば、風そのものと化すように……あとは、全力を以てストレートをかっ飛ばすだけだ。
『すごいな……! この輝きこそ、私の見たかったものなのか……!!』

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロジャー・カニンガム
果たして頭脳戦車は『命ある者』と言えるのか……
そこに『魂』は存在するのか……
スカした禅問答なんてNO THANK YOU……全てはこのRACEで分かるハズさ……

拡張ユニット「D.A.T.T.ストライダー」に搭乗
[情報収集]でコースやマシンの状態を把握し、[瞬間思考力]で最も速度の出るコース取りを行います
ストレートに差し掛かった所で【ハイテール・ブースト】を発動し、コーナーは[スライディング]を応用したドリフトで曲がり切る!
最後は[リミッター解除]で限界を越えて走り抜けましょう

安っぽいPRIDE……
自分が優れたPRODUCTである事を証明したい…
けれど伝説に挑む理由はそれで充分でしょう?



 どこにも出口のない迷宮。
 タイヤの付いたマシンにとって、コースとはつまりそれ。
 ウィリアム・ローグの最大の所有物にして、彼の生きてきた博物館とも言える巨大なガレージ、ローグファクトリー。
 そこには、数々のレースを制してきたモンスターマシンを試すためのテストコースがあった。
 車輛にとっての晴れ舞台であり、最もシンプルな迷宮。それは、二本のストレートをバンクの付いたコーナーで結んだ、数字の0を思わせる全長約4キロにも及ぶであろうオーバルコースであった。
 二輪、四輪を問わず、この手のコースは『サーキット』とは称されない。
 徒競走や競馬と同じよう、『トラック』と呼ばれることがほとんどである。
 シンプルな構造、それだけに、レースともなれば完璧な走行ではなく、戦略が生じる。
 タイムアタックをするならいざ知らず、バトルとなったときは未知数。
 ロジャー・カニンガム(兎型歩行戦車RIT-17/S・f36800)は、ウサギめいたシルエットをもつ頭脳戦車である。
 装甲を兼ねる半透明のバイザー越しに、頭部のモノアイをぐりぐりと光らせ視線を巡らせると、だいたいの戦略を構築しては、悩ましげにそのアイカメラを明滅させるのだった。
「果たして頭脳戦車は『命ある者』と言えるのか……。
 そこに『魂』は存在するのか……。
 スカした禅問答なんてNO THANK YOU……全てはこのRACEで分かるハズさ……」
 スタンドライトにライトアップされ、浮き出して見えるコースだが、宵闇に照らされるステージ以外は、逆に余計に暗く見えてしまう。
 光が強くあるほどに、影の輪郭が強く浮かび上がる。
 ハードウェアがより想像的なシルエットをもつほど、内部を担うソフトウェアはそれに見合ったものになるだろうか。
 答えは、見えているものほど柔軟ではない。現実問題、ハードであるが、その戦車は、己の在り様をこのレースで示すつもりなのだろう。
 今宵の高性能AIは、ほんの少しばかりセンチメンタル。
『今夜は客が多い……無人機や、足で勝負しようという変わり者も多かったが……今度は戦車か……?』
 呆れたような物言いで、いつの間にかコースに入ってくるのは、黒いライダースーツ。
 死してなお、惨たらしい姿をそのヘルメットの中に垣間見せつつも、速さを求めて走り続ける男ウィリアム・ローグは、黒いバイクにまたがり、ロジャーを一瞥する。
 その口ぶりはぶっきらぼうなものに聞こえるが、しかし挑戦者が現れることには、愉快そうであった。
 彼は、己に挑んで来るものを拒みはしない。
 走る理由があれば、そこに貴賤も何もなく、マシンを転がすだけだ。
「安っぽいPRIDE……。
 自分が優れたPRODUCTである事を証明したい……。
 けれど伝説に挑む理由はそれで充分でしょう?」
『いいとも。このコースに入った以上、私に挑む条件は……そうだな、PASSさ……』
 どこかで使われてた……そんなLANGUAGE……。
 多くの言葉は要らない。答えはレースの中で解る筈さ……とばかりに、かくして多くの言語にも精通する高性能AIを搭載した頭脳戦車と、伝説的なレーサーとの戦いが幕を開ける。
 巨大な砲塔を積んだ以外は、二足歩行のウサギのように、大型の後ろ足で歩行可能なロジャーであったが、今回のレースに際し、「D.A.T.T.ストライダー」というとても表記の面倒くさい拡張ユニットにより、車輪走行が可能となっている。
 データはすでに把握済み……推定走行ラインを数値通りに辿ることができれば、理想的であるが、完璧な走行を行う上で、同時走行するウィリアム・ローグの存在は未知数である。
『車載兵器は、ハンディキャップのつもりかな? その様子では、外したほうが速くはないか?』
「心配無用です……!」
 全く無駄のない走行。それである筈。にも拘らず、最初のコーナーに到達するまで、ウィリアム・ローグのポールポジションを崩せない。
 マシンスペックもさることながら、完全な機械であるロジャーからしても、その走行には無駄がない。
 つまりは、勝負を仕掛ける隙が全く無い状態だった。
 だが、カーブに差し掛かれば話は変わってくる。ここから先は急場をしのぐアドリブが必要になってくる。
 バンクがあるとはいえ、直線で加速した機体を曲がらせるのには、減速を含めたテクニックが必要になってくる。
 バイクであれば体重移動と専用の体勢、車体を傾けて横Gをなるべくタイヤに対して縦に受け流し走行に活かす。
 ロジャーの場合、1メートルに満たない全高ながら、その重量は一般的な乗用車とは比べようもない。戦闘用の装甲はとても分厚くて重いのだ。
 そして重たければ、スピードに乗った際の慣性は強く、その影響はコーナリングにも影響する。
 横Gを受け流すには、その特徴的なシルエットを最大限に利用する。
 大きな脚部を差し出すかのようにして身体を斜めに傾けて重心を大幅に内側に向ける。つまりは、スライディングの体勢だ。
 これにより、横にかかるGを極力脚部の先端、拡張ユニットの車輛パーツに集約し、グリップを高めるとともに慣性を受け流してスピードを確保しつつ駆け抜ける。
「脚部、負担増加……最後まで、持つはずです……」
 明らかなオーバースピード。それに加え、タイトなコース取りのツケは足先に、機体に、みしりみしりと忍び寄る。
 だが、その条件はウィリアム・ローグとて同じはず。
 実際問題、コーナリングにおいてドラマはいくつも発生する。
 道のりにして約500mに及ぶ長いコーナーの中で、渦中の二機は激しいデッドヒート、抜きつ抜かれつを繰り返す。
 そんな中に在っては、少しも譲歩する気など起きない。ここまできて、諦めきれはしない。
『く、ふふふ……いいぞ。よほど負けず嫌いと見えるな……いい面構えになってきたじゃないか……』
「ッ……!」
 この期に及んで、言葉を発する余裕まであるのは、さすがは王者である。
 しかしながら、二人は気づいていた。
 勝負は、このコーナーを抜けたストレートでつく、と。
 コーナーからの立ち上がりが決めてとなるだろう。
 奇しくも、ウィリアム・ローグはヒントをくれた。いや、それくらいは最初から気づいていた。
 だからこそ、最後の最後の奥の手として、取っておくつもりだったのだ。
 なにしろ──【ハイテール・ブースト】を使用することで、機体バランスは大きく崩れるであろうことは明白だったからだ。
高速機動ハイテールモードへ移行……」
 高速機動モードへの変形、それに伴い、機体の負担を考慮した全リミッターをカット。
 直線への立ち上がりを皮切りに、各部スタビライザ、ダンパー、スプリングを一部固定化し、パージ可能な表面装甲及び砲塔の放棄、大幅な機体重量の軽減を敢行。
 爆発的な加速は、同時に自身の負担も激増することを示していた。
 焼け付く機体。鳴り響くレッドアラート。それは、命の火が燃えているかのようにも見えた。
『……見たぞ。その輝き……!』
 後方で、彼が何かを言った気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
どもー!エイリアンツアーズでっす☆
噂のレース会場がコチラと聞いて♪
…てか聖地巡礼じゃん、アガる~…!
超ファンです!!対戦ヨロシクお願いします!!!

オレはモチロン愛機Glanzで参戦。
相手に先行させつつ一定の距離を保って走行。
先制攻撃は敢えて回避せず正面から喰らってみる。
無茶させてゴメンよ、Glanz―UC発動!
強制進化で弾みを付けて大ジャンプし
FMXの要領で空中からのフルスロットルで爆裂ショートカット。
…ウィリアム、オレの【運転】テクを魅せてあげるよ。

ファイナルラップの直線で一気に捲ろう。
展開したKrakeを後方に向け【一斉発射】して再加速を。

伝説と競える幸福を噛みしめて―…勝つのは、オレだ!


宇宙空間対応型・普通乗用車
オレは宇宙空間対応型・普通乗用車。そう、普通乗用車だ。
オレの哲学はあくまで乗客に安全安心で快適な旅路を提供すること。
レーシングマシンとは根本的に思想が異なるってわけだな。

だがなぁ…
そう造られたからって、それで最速を目指すのを諦められるわけねぇよなぁ!
そんな規則通りのクソつまんねぇ車生じんせいは願い下げだよなぁ!
さぁ行くぜ!ウィリアム・ローグ!
哲学なんかじゃ図り切れねぇこのオレの走り!
今ここでテメェに見せつけてやるぜ!
あくまで緊急避難用に作られたこの【瞬速展開カタパルト】だが!
レースにおいても最高の初速を叩き出せるこれ以上ないUCだ!
まず初手でぶっちぎって、そのまま置き去りにしてやんよぉ!



 かつて、伝説と呼ばれたレーサーが居た。
 あらゆるレース競技において、その名を知らぬものが居ない。いや、道を究めんとすれば、必ずその名に行き当たる。
 ウィリアム・ローグ。その男が不慮の事故で落命したという話は世の中に激震を呼び……。
 彼の所有するあらゆるレース競技に用いたモンスターマシンを整備し、試走するともされていた巨大ガレージ、ローグファクトリーは、火を落としてがらんとしていた。
 だが、それも過去の事。
 死の淵からの帰還。その姿がどれほど変貌してしまったとしても、ローグファクトリーを照らすスタンドライトの明かりが再び灯ることに、胸を躍らぬレーサーは居なかった。
 そこは言うなれば、走りを愛する者たちにとっての博物館、もしくは──、
「どもー! エイリアンツアーズでっす☆
 噂のレース会場がコチラと聞いて♪
 あれ、だーれもいねぇでやんの……。
 ……てか聖地巡礼じゃん、アガる~……!」
 巨大ガレージに併設された長い長いテストコースを見渡す、何やらパンキッシュな一見危なそうなキマイラのにーちゃん。
 パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)は、どことなくタコっぽいスターライダー。宇宙を股にかけるパッケージツアーのコンダクター、あと諸々の運転手なども務める勤勉な……たぶん趣味と実益を兼ねた勤勉な仕事人である。
 宇宙からの来訪者。厳密にはそうではないらしいが、蛍光色の触腕をいくつも生やした宇宙タコめいたスタイルは、いっそのこと彼を陽気にさせたらしい。
 色々あった人生を、ひとまずは音楽と情動に任せ、そんな中にあっても風の噂にスポーツの世界にこの人ありという話を聞いていたのであった。
 速さに全てを賭けた男の人生、気になる。
「ははーん、さすが、いい趣味してる。モダンですなぁ~! おん?」
 勝手知ったる他人のガレージ。パウルは、適当にほっつき歩いているさなかに、コースのわきに停車している乗用車を発見する。
 たぶん、ここにあるということはウィリアム・ローグの所有する車輛かもしれない。
 それにしてはずいぶんと、こう……カスタムが普通というか、レーシング仕様じゃないというか、こういうのってモディファイとかされてるものでしょう?
 そんなふうに訝しげにべたべた触っていると、
「こらこら、お触りはご法度だぞ。今日のためにピカピカにしてきたんだからなっ」
「うわぁ、ご同輩でしたァ~? すんませぇ~ん」
 ぴかーんと、いきなりヘッドライトを点灯させる車輛。その正体は宇宙空間対応型・普通乗用車(スペースセダン・f27614)。字面通りの乗用車であり、見た目通りのセダンタイプ……要するにまぁ、クルマのウォーマシンである。
「オレに気付くとは、なかなか見どころがある。
 オレは宇宙空間対応型・普通乗用車。そう、普通乗用車だ。
 オレの哲学はあくまで乗客に安全安心で快適な旅路を提供すること。
 レーシングマシンとは根本的に思想が異なるってわけだな……こらこら、タバコを吸うんじゃあない」
「あっ、そのハナシ、長くなりますかねェ? お仕事まで、一服とかァ~」
「臭いついちゃうから、ダメだぞ。というか、人の車でタバコ吸うとか、信じられんのだが?」
「別、中で吸うとかじゃないンでェ~。あっ」
 話の中でタバコを取り出し始めたパウルではあったが、実際に火をつけるようなことはなく、彼もその辺りは空気を読むタイプのようで、その手の話の腰を折るためのブラフだったらしい。
 そんなことをやっていると、目当ての人物がようやく姿を現した。
『騒がしいな……私を差し置いて車の話とは……妬けるところだ……』
 黒く煤けたライダースーツ。その姿は現役の頃と何ら変わりないようだが、フルフェイスのバイザーの奥に見えるのは、惨たらしく骨のみとなった姿である。
 ウィリアム・ローグの死は揺るがないが、死してなお、その迫力、存在感は、一流のアスリートとして衰えないどころか、凄味を増しているようにも見えた。
「チッスチッス……あー、改めて目の前にすっと、なんかアレっすけど……超ファンです!! 対戦ヨロシクお願いします!!!」
『……いいだろう。望むところだ。もう、残すところ、あと1戦といったところだった……』
 テンアゲ状態のパウルたちに対し、当のウィリアム・ローグはというと、既に多くの猟兵たちと熱いデッドヒートを交わし、その体も機体も、随分とボロボロに見える。
 それでも、表情の見えないレジェンドレーサーの姿は、喜色に染まるのが目に見えてわかるほどだった。
 パウルのテンションに乗せられているわけではないだろう。
 ただ純粋に、速さを求める。そんな者たちとの、熱いバトルが、彼にとって幸福に他ならないのだ。
 普通乗用車は、そんな姿を見て、羨ましいを思った。この男は、なんという自由を手に入れ謳歌しているのだ。
 命の張り甲斐がある。
 安心安全がモットー。大したことだ。大切なことだ。それを生涯にわたり遵守することもまた難しいし、乗用車とは乗るものを安全に保ちつつ運ぶ乗り物なのが大前提だ。
 その在り方を認め、その為に稼働してきたのは、ほかならぬ自分自身。不満はない。そう在るべくして生まれたのだ。
「だがなぁ……。
 そう造られたからって、それで最速を目指すのを諦められるわけねぇよなぁ!
 そんな規則通りのクソつまんねぇ車生じんせいは願い下げだよなぁ!」
 お行儀よく三台並んで、スタート位置につける。
 エンジンがその回転数を上げていく中で、着々とユーベルコードの準備を始める。
 安心安全がモットーの車輛に設けられた、緊急避難用【瞬速展開カタパルト】の起動準備は、最初からぶっちぎるのを宣言しているも同じだった。
「ほ~ん、モダンさんは初っ端からトばしていくつもりなのねぇ……じゃあ、こっちは様子見て行こうかね」
 パウルはその意図を読み取り、愛機の宇宙バイク『Glanz』のカウルを撫でる。
 いずれも宇宙空間に適応する機体だが、有重力下ではまた勝手が違ってくる。
 相手の出方も気になるし、先行逃げ切りをそうそう許してくれるような相手とは、どうにも考えにくい。
 そうこう考えているうちに、ランプは赤から青へと展開。息が詰まるような間もほどほどに、一斉に3台のマシンがうなりを上げる。
「さぁ行くぜ! ウィリアム・ローグ!
 哲学なんかじゃ図り切れねぇこのオレの走り!
 今ここでテメェに見せつけてやるぜ!」
 普通乗用車の周囲に展開する電磁レールが、その図体を超音速レベルの初速で以て射出する。
 レイルガンを彷彿とさせる緊急脱出加速装置であるそれは、最大出力を発揮すれば宇宙速度で空域を離脱するスピードを誇るが、それをやってしまうと間違いなくコースアウトしてしまうので、今回は計算上、約1キロ先のカーブに差し掛かる手前を目途に出力調整を行っている。
 それであっても、その効果は目に見えるものであった。
「まず初手でぶっちぎって、そのまま置き去りにしてやんよぉ!」
『なるほどな……だが、レースは1周で決着がつくわけではない……追われるのもまた、難しい……』
「っへへ、なら追いついてみやがれ!」
 はるか先を行く普通乗用車を追いかける形で、ウィリアム・ローグの黒いバイクは、それでも完璧なスタートダッシュをこなしたといえるだろう。
 そのあとに続くパウルは様子見。だがしかし、何もしかけないというわけでもない。
 オーバルコースは、駆け引きが重要になってくる。それだけシンプルなコースであるのだ。
 コーナリングの定石は、ラインの奪い合いとなる。
 最良のラインを通ろうとすれば、必然的に同じ道を辿るであろうほかの車が邪魔になる。
 その点でいえば、初手から逃げ切りを狙った普通乗用車の判断は正しいと言えるだろう。
「チィ……もう追いついてきてんのか……参るぜ!」
 決して、本来のスピードに自身が無かった、というわけではない。
 宇宙を駆ける車が、そんじょそこらのセダンとは別物の機動力を持つことは、説明の必要がない事だが、それでもパウルと競りながら急速に追い上げてくるウィリアム・ローグの存在は脅威であった。
 だが、だからこそ、熱い。無茶なスタートダッシュを切ったおかげで、機体に負荷がかかっているせいもあるが、コース全体に漂う空気とでもいうのか、勝負の最中にあるこの一体感は、魂なきウォーマシンのボディのどこにもない部分を熱くさせる。
『やるな……お前たち猟兵というのは……本当に、未知数だ……!』
「こいつ、マジかよ……!」
 ぐんぐん、とカーブ最中であっても、ウィリアム・ローグのマシンはスピードを上げていく。
 まさにモンスターマシン。怪物。
 置いて行かれては、きっと追いつけなくなる。
 パウルもそれに追い縋るが、ウィリアム・ローグのマシンから黒い炎が巻き上がると、それを避け切れるルートを見出すことができない。
 ならば、あえて乗り越える方向で考えていくしかない。
 このレースで、無事のまま帰れるなんて、甘い考えは持っちゃいない。相手はレジェンドなのだ。
 だから、無茶をするのが自分だけでおさまるなんてのは、甘い。
「無茶させてゴメンよ、Glanz──」
 だから、無茶をするときは、勝負をキメに行くとき。
 最終ラップ、最後のコーナーで、機体が嫌な振動を覚え始める。そこ以外ではもう仕掛ける余裕はないだろう。
 パウルは【ゴッドスピードライド】を用いて、バイクの出力を跳ね上げる。
 ウィリアム・ローグのマシンから吹き出る黒い炎の影響で強制進化を促される機体は、傾斜の付いたカーブの最中で急激にスピードを上げたため、その軌道は大きく外側に外れていく。
 カーブで加速。それは、自殺行為である。曲がれる角度には限度があり、速度を落とさない限りは、曲がる角度はどんどん緩くなるのだ。
 だが、そんなものは単なる常識だ。
 超えねば。発想を越えなくては、レジェンドには勝てない。
「……ウィリアム、オレの運転テクを魅せてあげるよ」
 大波のように傾斜の付いたカーブ。いや、だからこそ、バイクで思い切り突入する意味がある。
 反り立つ傾斜を登り、モンキーライドの要領で足腰を浮かし、張力を活かす。
 ハイスピードに乗ったそれは、大きな反動となって、バイクを跳ね馬の如く跳躍させた。
『跳んだッ……!?』
 一瞬だけ身体を離し、機体の一部を空中で掴んで、再び騎乗する。それはFMXフリースタイルモトクロスのテクニックだが、単なる見栄えではなく……重心移動による軌道修正も兼ねていた。
 空中での姿勢制御。そして軌道修正。ハイスピードで行うそれは、一歩間違えば大事故である。
 常識のコーナリングラインとは全く異なる、新たなる道、ショートカットは、そうして成る。
「い、ってぇ~……!!」
 ハイスピードの代償は、着地の衝撃を全く考慮していなかったことだが、そんなことに構っている余裕は無い。
 そのまま抜き去ったウィリアム・ローグを後ろに、更に最後のストレートでスピードを稼ぐべく、自身の触手の吸盤に搭載した固定砲台『Krake』を一斉放射し、機体を加速……。
 そうしてようやく、普通乗用車の鼻先をも抜けた。
「チッ、そんな隠し玉用意してるたぁなぁ! やるじゃねぇか!」
「こっちも必死っすよぉ、っへっへ!」
 視線が合う気配。お互いの機体は、ベストコンディションとは程遠く、その安定性は著しく低下している。
 だが、二人とも、まだ勝負はついていないという瞳の輝きを湛えている。瞳、というか、ヘッドライトといういか……。
「……勝つのは、オレだ!」
「いや、俺だぁぁぁぁ!!」
『ふ、ふはッ……いや、見事──!』
 伝説、最速。語彙すら失いかける、音すらも置き去りにしていた筈の世界で、力いっぱいに叫ぶ男たち。
 そして、そんな中で、エンジン音が一台分、消えていく気配を感じるのだった。
 ああ……、勝っちまったんだ。
 情熱と、そして寂寞。
 むせかえるような熱気の中に、冷たい風。そして見上げる夜空に、一筋の白い雲が、見えた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年01月18日


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト