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バトル・オブ・オリンピア②〜人の騎馬で挑む狂気

作者：聖山　葵

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「んと、アスリートアースの世界にレースの度にコースが変形する『不思議のサーキット機構』を搭載した、アスリートアース最新技術の粋が凝らされた『F1レースサーキット』があるそうなんですよぉ」
　ハイウェイスターであるカレン・ソウゲツ（サイボーグのハイウェイスター・f36589）が興味を持ったとしても無理もない施設だが、別にカレンは興味があって話を始めた、という訳ではない。
「スポーツの祭典『バトル・オブ・オリンピア』の戦場と言うか競技場の一つがそこなんですぅ」
　君たちにはかの世界中のあらゆるレースコースを再現できるこの驚異的なサーキットでここを占拠するレーシング・フォーミュラ」配下のダークリーガーを蹴散らし勝利をもぎ取ってきてほしいとのこと。
「サーキットは変形によって次々と急カーブを出現させるのでぇ、一筋縄にはいかないかもですねぇ」
　瞬時の判断でそんなカーブをドリフトしながら、ラフな運転でこちらの機体の破壊を狙ってくるダークリーガーの相手もしなくてはならないだろう、レースに勝つのであれば。
「ちなみに乗るマシンを自前で用意できなくても貸していただけるようなので心配は無用ですよぉ」
　この場合、借り物のマシンで戦うことになるが、君たちが相手にするダークリーガーに関しては何というかマシンに乗ってすらいない。もしくは彼女らがマシンと言うのか。
「戦っていただくことになるお相手はぁ、騎馬戦軍団。アスリートがダークリーガーの影響でダーク化、変貌した姿でぇ、騎馬戦スタイルで戦う運動会マスターだそうですよぉ」
　つまり人の作った騎馬をマシン代わりにサーキットを駆けるということなんだろう。
「集団戦メインの競技を得意としていてぇ、フォーメーションと散開を駆使して相手に掴みどころを与えないそうですよぉ？」
　ビジュアル的にはツッコミどころ満載なレースシーンとなるかもしれないが、それはそれ。
「わたしもめいっぱいサポートしますからぁ」
　どうぞよろしくお願いしますねぇとカレンは君たちに頭を下げたのだった。

第1章 集団戦 『騎馬戦軍団』

POW   :    キバセン・ファイナル 自身の【身体部位】ひとつを用いた行動・攻撃の威力を3分間3倍にする。終了後［身体部位］は【疲労骨折】により破壊される。 SPD   :    ビクトリー・ウェーブ 戦場内に、見えない【勝負運】の流れを作り出す。下流にいる者は【負け運】に囚われ、回避率が激減する。 WIZ   :    スター・オブ・キバセン 【フォーメーションを組んでの高速疾走】によって【味方を鼓舞する英雄の幻影】を発生させ、自身からレベルm半径内の味方全員の負傷を回復し、再行動させる。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「或る意味、剛毅な方々ですねぇ」
　おっとりした様子で夢ヶ枝・るこる（豊饒の使徒・夢・f10980）は転送されたサーキットを占拠する「レーシング・フォーミュラ」配下のダークリーガーらをそう評した。ただ、同時に手加減も無用だとも思っており。
「では、参りましょう」
　借りたバイクに跨ると浮遊する12枚の円盤FMSで前方に錘状にバリアを展開することで空気抵抗を軽減、これを走らせ始めるが油断は禁物。
「前方は探知しておくとしましてぇ」
　潜行させた浮遊する涙滴型の水晶FPSを用いて先の情報を得ながら走り。
「大いなる豊饒の女神の名に於いて、その祈りを届けし聖壇の理をここに」
　漆黒の刀身の脇差と周囲の設備を接続し、制御下に置き操ることで突然出現するカーブはるこるにとって都合のいい頻度、曲がり方に変わってゆく。
「招かれざるお客さんだね、みんな行くよ！」
「「おーっ！」」
　とはいえサーキットを走るのはるこるだけではない。るこるの姿を認めた「レーシング・フォーミュラ」配下のダークリーガーこと騎馬戦軍団は三人で作った人の騎馬に跨り体当たりを敢行しようと突っ込んで来る。
「へ？　わっ？！」
「きゃあっ」
「なん」
　ただ、浮遊する16枚の札FLSを用いて空間歪曲障壁を展開していたるこるには体当たり程度のラフプレーでは触れることすら能わなかったようだが。かえって自分たちの騎馬のバランスを崩し、あわや転倒しかけ足を鈍らせるとるこるから置き去りにされ。
「このまま凌いでいれば、何れ自爆して動けなくなってくれる様ですので――」
　一応カウンターで相手を撃退する備えもしつつ、るこるは自身の桁違いに発育の良い体型の身体を乗っけたバイクを駆って走り続ける。
「油断せず、しっかり最後まで走りますねぇ」
「っ、追うよ！　みんな！」
「うん」
「はい」
「おー！」
　ドリフトを決めるるこるのバイクに少し険しい顔をした騎手を乗せ、騎馬戦軍団が追いかけだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「生身でサーキットに現れるなんて、ここの競技者はなかなかにクレイジーね」
　人手で来た騎馬をマシンとするダークリーガーの様に口を開いた山岡・朱鳥（呪われた鬼の血・f41465）はぽつりと零し。
「なんと勇敢な、まさかマシンに生身で肉薄してこようとは」
　同じ光景にルイナ・ラヴ（戦う魔術研究者・f38750）も声をあげたのは少し前のことだ。
「まあいいわ。……視える、見切る、斬り返す」
　マシンにも乗らずサーキットをゆく競技者へ覚えた驚きを次の一言で流した朱鳥はルイナに声をかけ。
「ルイナ、私の瞳術でカーブや敵の妨害を予知してあげるから貴女は敵の妨害に対処して」
「わかりました」
　エンジン音響くサーキットの中で傾国参戦の二人がお互いの声を知覚しそうしてやり取りができているのは、ルイナ専用の改造バイク一つのバイクに二人乗りしているから。
「さあ行くわよ、レース開始よ」
　朱鳥が促し、改造バイクが走り出し、今に至る。
「コースアウトしなよっ！」
　二人乗りの姿を認めれば騎馬戦軍団の一騎がすぐさまラフプレーを仕掛けてくるも。
（私の鬼の眼はどんな変化も見逃さない、お前達の妨害もね）
　どんなラフプレーに出るかはオミトオシであった。
「ルイナ、左に寄るわ。それから――」
　小声で宣言に続けラフプレーの内容について相方へ話した朱鳥がハンドルを切れば、これに合わせて身体を傾けたルイナへダークリーガーはバイクから引きずり降ろそうと伸ばした手で触れることも構わず。
「当代の主にして王ルイナ･ラヴの名の下に」
　集わせた使い魔のコウモリ達の放つ超音波と己を守るような位置に出現させる凝血の盾とともにラフプレーを躱されバランスを崩した騎馬戦軍団の一騎を転ばせる。
「いくらダークリーガーとは云え、流石に流血沙汰にはしたくありませんので」
　そのまま後方に流れてゆく脱落者へルイナは追撃などはせず。
「スポーツは殺戮の場ではありませんからね」
　行きましょうと前方に視線を戻すルイナに朱鳥はそうねと頷いた。
「よくもやったなーっ！」
「勝負運の女神は常に先頭を駆ける者に微笑むのよ！」
　仲間を脱落されても懲りずに仕掛けてくる別の騎馬戦軍団の一騎を躱しながら二人を乗せたバイクはさらに先へとサーキットを突き進むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「えっ、ちょい待ち？」
　驚いて声をあげたのは、数宮・多喜（撃走サイキックレーサー・f03004）が転送される前のことだった。
「騎馬戦で……Ｆ１ってかクルマに挑んでるのか彼女たち？」
　思わずグリモア猟兵に聞き返していたりしたってきっと無理もないと思う。
「あれでサーキットを走るなど何かの冗談だと思っていましたが、私の駆る『D.A.T.T.ストライダー』と比べても遜色ないスピードで走行できるのは流石ダークリーガーと言うべきでしょうか」
　転送されて実際の光景を見たロジャー・カニンガム（兎型歩行戦車RIT-17/S・f36800）は人であれば遠い目をしたとでもいうところだろうか。
「どうか私のセンサーの異常であってほしいです……」
　そんな願いも空しく騎馬戦軍団たちは生身の身体でサーキットを駆ける。
「その根性、凄いとしか言いようがないけれどよぉ」
　絶句に近い様子で多喜は騎馬戦軍団たちを眺め。
「……いや深く突っ込んだら負けな気がするね、うん」
「でしょうね」
　ロジャーが多喜の独言に同意するまでが希少な平穏の時間だった。
「ここは私たちのサーキットだ！」
「出て行けぇ！」
　他の猟兵たち同様にサーキットを走ればダークリーガーたちは牙を剥く。
（若干気が進まないけれど、手を抜くのも失礼に当たるか）
　生身でぶつかって来る騎馬戦軍団のぶちかましに多喜は宇宙カブの速度を上げ。
「わわっ」
　相手の急加速に目測を誤った騎馬戦軍団が何もない自身の真後ろを通り抜ける様に振り返ることもない。敵は多数だ。
（確かに変則的なカーブが連続するコースなら、徒歩の騎馬戦の方が有利な部分があるかもしれないけれどね）
　ちらり視線を流せば別の騎馬戦軍団がフォーメーションを組んで高速疾走、近寄ってくるのが多喜には見えて。
「足回りの器用さなら、バイクも負けちゃいないんだよ！」
　出現するカーブを攻めつつ、サイキックを練り上げながら多喜は叫んだ。
「そのままバランスを崩しちまいな！」
「わ」
「っきゃあ」
「うああっ」
　発生した極限まで増幅したサイキックエナジーの嵐に英雄の幻影に鼓舞されながら突っ込んで来た騎馬戦軍団がひっくり返り脱落してゆく。
「こっ、これじゃ近寄ることも」
　先に脱落した一騎ほど近づいていなかった別の騎馬戦軍団は同じ轍を踏むわけにはいかず、減速し。
「だったらっ！」
　目を付けたのは、頭脳戦車を高速地上走行に特化する拡張ユニットとした改造スーパーカーD.A.T.T.ストライダー。つまりロジャーであった。
「おやおや、こちらを妨害する余裕まであるようです……」
　ロジャーからすると、ある意味とんでもない。生身のアスリートがサーキットを走るどころかラフプレーにまで及んでくるのだから。先ほどの様に自身のセンサーの異常だと思おうにも騎馬戦軍団らは現実として近寄ってきている。
「おっと」
　その間にも出来上がる急カーブへロジャーは瞬間思考力で即座に最善策を割り出し、まるでスライディングするかのような動きからD.A.T.T.ストライダーがドリフトに移行して新品のカーブを攻略してゆき。
「今――」
　騎馬戦軍団が襲い掛かろうとした瞬間だった。
「ではこちらも、目標捕捉……ミサイルを投射します」
「え゛っ」
　三人の仲間で作られた騎馬に跨る騎手の表情がこわばった。瞳に映るのは放出されたばかりのミサイルで。
「サイバーザナドゥ流のお返しです」
　爆発に悲鳴も呑まれ炎と煙の中に消えた騎馬戦軍団がロジャーから遠ざかる。
「けほっけほっ」
「わぷっ」
「ミサイルの爆発に加え、爆煙で視界不良の中、予測不能のコースを走り抜けるのは困難でしょう」
　ミサイルの直撃を受けたわけではないが何騎かの騎馬戦軍団も残る爆炎に突っ込んで速度を落とすこととなる中、ロジャーはさらにリードを稼いでゆく。もちろん懲りずにラフプレーを仕掛けて来ればミサイルをお見舞いすることは忘れずに。
「うぅ」
「きゅう」
　猟兵たちを狙ってラフプレーを仕掛けてきたことを鑑みれば自業自得か。サーキットのコース外には弾き出されたりクラッシュして走行不能となったダークリーガーたちが目を回したり気を失ったりして横たわっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「あと一息ですね」
　猟兵たちによって次々蹴散らされ、サーキットを走る騎馬戦軍団は数を減らしていた。魔法の箒に跨った火土金水・明（夜闇のウィザード・f01561）は出現する急カーブを攻略しつつ決着の時が近いことを確信していた。
「油断は禁物にゃ」
　肩に乗る使い魔の黒猫クロの声に小さい頷きで応じ、明はカーブの脱出地点で体重をかけ箒ごと身体を傾ける。
「な」
「あ」
　他の猟兵に撃退されていて、ようやく復帰したのであろう。一騎の騎馬戦軍団は明とその箒を捕まえ損ね。
「やはり箒で正解でしたね。こちらの方が扱いなれていますし」
　片手で帽子のつばを押さえて振り返れば、手を伸ばし過ぎてバランスを崩した騎手が人の騎馬の上で上体をふらつかせていた。
「サーキットと言う場所柄を考えるとマシンの方があったかもしれませんが」
「ノーコメントにゃ」
　連続するサーキットの急カーブから抜け出た箒に跨る明。かなり遅れてこれに続く騎馬戦軍団。どちらもマシンとは無縁だった。もちろん、前方に目を向ければきちんとマシンを借りたり持参したバイクや車に搭乗した猟兵も居るのであくまで部分的なモノではある、それに。
「私の役目は少しでも沢山のダークリーガーを蹴散らして他の猟兵の方の勝利に繋げる事です」
　明は片手で箒を握ったまま、もう一方の手で七色に輝く杖を天に翳す。
「私の心にも雨が降る」
　静かに唱えた直後だった。降り出した金色こんじきの雨に誘われるように虹色の稲光が空に走り。
「さ、散開っ！」
　空を仰いだ騎馬戦軍団の騎手が叫ぶ。弾かれた様に人で出来た牙は崩れて虹色の稲妻はただ誰も居ないサーキットのコース上に落ちかかるが、騎馬を崩した騎馬戦軍団もそれまでのようなペースで走ることは能わず。
「これで他の猟兵の方を追うのも難しくなりましたね」
　優しい雨に打たれながら、明は言う。再び集結してしまえば、しなくても虹色の稲妻は騎馬戦軍団を構成していた面々を襲うだろう。もちろんダメージを覚悟すれば話は別だが、明の降らせている稲妻に打たれずとも他の猟兵にラフプレーを仕掛ければ、相応の反撃に見舞われる。
「こっ、これぐらい、きゃあああっ」
　稲妻を無視して騎馬を組もうとした者たちがあげる悲鳴を聞きながら、明は何台かのマシンがゴールに迫り、そのままレースを制すのを見届けて。
「終わりですね。私たちも続きましょう」
　箒を操って明自身もゴールを通過したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2024年01月12日