ご城下美食珍騒動~寿司の心
●――極上の馳走を求めて
「……寿司じゃな」
「はっ?」
筆頭家老石渡実継は女中の入れる茶の匂いを楽しんで居た所に放り込まれた意味不明な呟きに思わず、と言った様子で声を上げた。
だがよくよく、いやよく考えなくともそれが意味する所は解った。
所謂、いつもの、と言うやつだ。
「寿司に御座いますか」
納得した声に藩主佐合篤胤は我が意を得たりと頻りに頷く。
「うむ、寿司じゃ」
「とは言え寿司と言いましても種類が御座いますぞ。玄人向けの熟れ鮨から始まり甘酢と魚の旨味が見事な早寿司、風味豊かな笹の押し鮨、旅人に人気な富山の鱒鮨、海苔と具材の取り合わせが実に雅な巻き寿司、そして最近の流行となった握り寿司」
「それじゃ!」
クワッと目を見開いて立ち上がろうとするも、両足が痺れているので妙な前傾姿勢になって元に戻る佐合。
慣れたもので、誰一人噴出さずに耐える。
とは言えその瞬間、茶室に居る全員が目を背けて直視を避けたが。
「……して、殿。握り寿司であれば私が良い処を知っておりますぞ」
「ほほぅ、実継の贔屓の店とな?」
ずいっと身を乗り出す佐合。
筆頭家老でありながら意外とフットワークの軽い石渡。
仕事の無い時にはぶらりと城下を訪れ供回りと共に美食を求めて練り歩く事も多い。
「はい、店主の愛想が良く技術も確か。ネタもシャリも山葵も醤油も、ガリまで一級品と言う文句の付け所の無い寿司屋でして。名を富永寿司と」
「えっ?」
「む?」
声を上げたのは佐合でも石渡でもなく、茶を淹れていた女中であった。
思わずと言った様子で声を上げた女中は慌てて平伏する。
が、それを咎めるものはいない。
「失礼致しました……!」
「良い良い、それよりもその方。声を上げると言う事は富永寿司を知っておるのか?」
佐合の鷹揚とした問い掛けに女中は平伏したまま答える。
「はい、私の生家のすぐ近所に御座います馴染みの寿司屋に御座います」
「ほほぅ、そうであったか。ふむ、どうじゃ。その方も偶の両親への顔出しがてら案内役をすると言うのは」
気安い佐合の申し出に恐縮しつつ、女中は如何答えたものかと言葉を濁す。
「あの……それが……」
「嫌と申すか?」
「滅相も御座いません!」
「殿、その様な言い回しでは益々萎縮してしまいますぞ。その方、良い。申してみよ」
口を尖らせておどけてみせる佐合に苦笑いをしつつ石渡が水を向けてみる。
おずおずと女中が口を開くが、その言葉は予想外のものだった。
「そのぉ……話に聞いた所、富永寿司は昨日店を畳んだ、と」
「「…………なにぃ!?」」
●――奇妙な予知とその行方
「えー、と言う訳でですね。そんな感じの予知をしました」
至って普通な、と言うには少々憚れるが有りえなくも無さそうな日常の風景を語る望月・鼎。
集まった猟兵達も果たしてどの辺りが予知なのかと首を傾げている。
「おっと、そんな顔をするのはまだ早いのです!実はですね、このお寿司屋さんのご主人、店を畳んだ後でオブリビオンに切り殺されてしまう様なのです」
突然のオブリビオン出現宣言。
脈絡無く伝えられた言葉に益々困惑する猟兵達に、鼎は一つ頷いて答える。
「はっきりと見えたのは先程のお殿様達の歓談です。次に見えたのがお寿司屋さんのご主人が浪人姿のオブリビオンに斬られる場面、そして証文や借金と言う言葉。何かしらのトラブルに巻き込まれたと見て良いでしょう。皆さんには先ずこのお寿司屋さんに行って事の次第を聞き出して貰いたいと思います。オブリビオンが絡んでいるとなれば、恐らく只の借金のいざこざって訳では無いでしょう」
良く有りそうな借金絡みのトラブルでは無い、となれば何者かの策謀だろうか。
何が狙いなのか、と思案している所へ鼎の能天気な声が届く。
「あ、しっかり聞き出す序にお寿司を頂くのも良いかもしれませんねぇ♪何でも一級品の味だとか」
想像してか、じゅるりと涎を啜る巫女。
恐らく脳内は寿司ネタで溢れ返っている事だろう。
「そんな訳で、先ずはそのお寿司屋さんにゴーゴーです!お話を聞き出せたら後は流れでお願いします!」
何ともふわっとした要請。
果たして今回の事件の真相とは――。
一ノ瀬崇
回らないお寿司屋さんの鮪の旨さは異常。
こんばんは、一ノ瀬崇です。
今回は美味しいお寿司屋さんを巡る騒動です。
コテコテの時代劇節にギャグを絡めての仕上がりとなります。
難しい事は気にせず、お楽しみ頂ければと思います。
※このシナリオはノリや流れを引き継いだ緩い連続ものとなっております。
勿論今回が初めてのご参加の方でも楽しみ頂けますが、前作「ご城下美食珍騒動~お刺身の秘密」をチラ見して頂くとニヤリと出来るかもしれません。
第1章 日常
『おスシ食べろ!!』
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POW : 好きな寿司ネタを腹がはち切れるほど食べる
SPD : 好きな寿司ネタをバランス良く味わう
WIZ : ふふ、玉子から食べるのが「通」ってやつですよ
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テオドア・サリヴァン
「またあの藩で事件が起きるようだな」
前回の任務であの藩にはもう一度行ってみたかったからな。それに藩の人たちには世話になった。また一肌脱ぐか。
【SPD】
寿司ネタをバランスよく食べるか。最初にマグロから頼むか。
店主や他の客と談笑しながら寿司を食べつつ怪しい奴がいないか周りを見ておこう。
「本当に美味しいな。店主、この店の寿司はここが1番だよ。」
神代・凶津
相棒も奇妙な依頼を見つけてくるな。
まあ、旨い寿司が食えるってんなら悪い気はしないがな。
回らない寿司なんて滅多に食えるもんじゃないしなッ!
店に着いたがまず、なに食うかな。
やっぱ旬のやつを貰おうかッ!
相棒はなに食うよ?玉子?
お、何だか通っぽいな。
せっかくだから腹一杯食って帰ろうぜッ!
え、帰るのは仕事が終わってから?
そういえば仕事だったな。
大丈夫だ相棒、今思い出したから。
とりあえず店主に色々話聞こうぜ。寿司でも摘まみながらよ。
【使用技能・情報収集】
【アドリブ歓迎】
神宮寺・絵里香
≪心情≫
・前回はカワハギの刺身だっけ?よく知らんが。
今回は寿司か。相変わらず魚介好きだな。ここの殿様。
・まあよく分からんが、取りあえず調査だ。寿司屋に行けばいいんだな。
・あー…何も頼まずに話を聞くのは営業妨害か。適当に頼もう。
≪情報調査≫
・【世界知識】と【情報収集】でそうだな、今回起こるだろう事件と
似たような感じで流行っていても急に店を畳むか‥誰かが強い用心棒
を雇ったとかそんな話を聞けるといいかな。
・寿司はまあ‥そこそこ値が張るものと赤だしでも頼むか。
依頼じゃきゃ地酒を燗につけたりしたいんだがな。
・まあ何かしらのトラブルがあるんだろうし、その辺を聞く感じで。
ユース・アルビトラートル
行っていきなり玉子!煮穴子!しめ鯖!漬けマグロ!我ながら性格悪いラインナップを注文するよ!で、あとはお話聞こっか。小さめでも満腹だし。
【情報収集・世界知識】を活用するよ。あと口車。聞きたいことは、債務の詳細……まあどういう約束で、どういう使途で、いくらを誰から借りたかってとこ。
美味しいお店ってことなら、常連さんとか幸せ者だねーと、おだてつつもお店を畳むということにちくっと刺さる感じのお話から。一応、目的はオブリビオンの情報を得ること。いい感じのところで……所謂、誘導尋問というヤツ。何か心に引っかかることが?って聞くよ。出来れば物証まで確認したいな。あくまでも穏やかに聞き出していくよ。
時雨・零士
POW
真鯛、ひらめ、えんがわ、イカ、蛸、鰤、鯵、のどぐろ、穴子、かんぱち、鰻、玉子、前回も堪能したカワハギ、そして鮪!鮪も赤身や漬け、中トロ、大トロに脳天やカマなどの希少部位!
新鮮なモノを揃えてるからこそのネタの数々を堪能するぜ!この時代だとサーモンは寿司にねぇかな?
いや~!ネタが新鮮な上に丁寧な仕事!腕が良く無きゃできねぇ!これは美味いぜ!幾らでもイケるな!(と言いながら食べまくって豪快に寿司下駄が積み重なっていく)
大将!これだけの腕なら大繁盛だろ?実際、都や城下でもこの店の評判を聞く程だしな!これは店も安泰だよな?(と大将を絶賛しつつ、店の状況をさり気なく聞いてみたり)
※アドリブ等歓迎
テラ・ウィンディア
お寿司ー!
お寿司ぃー!!
おっ寿っ司--!!!(テンションが上がる竜騎士
おれ鮭とたまごと穴子と鰻とかんぴょう巻とー…あと鮪!!
もう存分にもきゅもきゅ食べながらその味わいを解説するぞ!
この世界のご飯は凄く美味しいぞ!
お寿司ってどんなのだろう…気になるんだっ!(なのでたっぷりとしっかりと味わう
え、わさびぃ…こんなのつけて美味しいのかー?(フラグ立てつつもぐもぐ
(つーんってきてもだもだ)でも何だろうこの清涼感…ぴりっときて…このお寿司と合う…のか?
お寿司って凄いなっ!美味しいぞ!
そういえばご主人…何か悩みがあるのか…いや、あるんですか?(なれない敬語でむむむ
ああ、悩みごとでお寿司に影響したら大変だしな
シルヴィア・ジェノス
えっ、お寿司!?しかも絶品の!?食べるしかないじゃないの、そんなのー!お寿司♪え、調査?あー……勿論ソッチモヤリマスヨ?
通ぶって玉子からいってみる?その後は食べたいものを食べたいように食べるわ。お金はかかっちゃうけれど【大食い】でたんと食べます。美味しく食べられる範囲でね。そうして店主さんにインパクトを与えることでお話ししやすくなるかも。最初はなんてことはない話、そこから少しずつ本題に入っていこうかしら。店を出る前、もしくは後に周囲で怪しい動きをするような者を見つけたら、紅い追行を使って追ってもらいましょうか
まあ調査とか得意じゃないし、お寿司を食べるのが主になりそうだけれどね!
アドリブ歓迎
デナイル・ヒステリカル
【花魁と仲間たち】で参加します
SUSHI!江戸の町に行くなら一度は食べてみたかったものです
今回は堪能させていもらいましょう!
横に丁度良く人目を惹き付ける花魁さんが居ますので、こちらを見物する人に話を伺いますよ
『ちょっとお尋ねしますが、あのお寿司屋のお勧めネタはなんですか?』
【WIZ】
店に付いたら早速注文!大将!タマゴ一つ!
ふふ、卵から食べるのが通というものですよ(ムシャムシャ)
大将!タマゴ一つ!
『卵から』といか『卵のみ』ですが……(ムシャムシャ)
た、大将。その、タマゴを……
あっ、はい、手持ちがちょっと、その。ガリでもいいですか?え、ダメ?
じゃあ……タマゴ一つで!(落涙)
※アドリブ連携歓迎
スヴェトラーナ・リーフテル
【花魁と仲間達】で参加します。店に、入ります。これが私のすべきことであると【世界知識】が告げています。情報収集?任せましたよ、情報戦闘用の死霊騎士。自分の好みで食べるに限りますが、まずは淡白な白身から行きましょう。そうですね、【世界知識】の導きに従ってスズキですか。私はそれに決めましたよ、私の舌は既にスズキからマグロ、穴子、かんぴょう巻きの黄金のルートの準備ができています。いえ、やはりやめましょう。あれは気の所為です。此処で私が卵を頼まなければどうなるのか?つまり、通でないとばれてしまいます。それだけは避けたいところです、つまり此処は卵……!その次に濃いものを頼みましょう……!
アマータ・プリムス
【花魁と仲間たち】で参加
お寿司は久しぶりですね今回は少々奮発しましょう
宣伝も兼ねて打掛を着て花魁の姿で寿司屋へ
UCでアリウスを呼び出し従者に【変装】
【世界知識】で集めた花魁に関する情報をもとに【学習力】で花魁になりきりできるだけ注目を集めます
「十六夜様のお手伝いをお願いしますね、アリウス」
当機たちが店に入った後アリウスは十六夜様を手伝い【情報収集】
喋れはしませんがなにかの役にたつはず
お寿司屋では白身や光り物を中心に巻き寿司も頼み情報収集もかねて店主と雑談
「あ、十六夜様にお土産を買いませんと。お勧めで10貫ほどお願いします」
お寿司を食べた後は十六夜様達と合流して集まった情報を整合
月代・十六夜
「おかね が ない」
【花魁と仲間たち】で参加。泣いてなんか無いんだからね!
まぁ冗談はさておき、襲撃で壊滅とかじゃなくて閉店ってことは、何かしらトラブルが有った可能性は割りと高いしな。
聞き込みはアマータ嬢たちに任せて、周辺をアリウスとぶらぶら回って井戸端話を【聞き耳】して【情報収集】と行くか。
あわよくば予知に出てたような浪人の目撃証言とか、【視力】で見つけられればいいんだが、まぁ流石に高望みがすぎるかなそれは。
あ、トラブル起こすわけにも行かないんで何かヤバそうだったら【韋駄天足】で即離脱のチキンムーブで。
うーん、しかし回らない寿司、しかも大名レベルが行くような高級店。もう味の予想がつかんなぁ。
ツーユウ・ナン
【POW】
(前回から引き続いての猟兵には軽い挨拶を)
また会うたのう。殿様同様おぬしらも美味い物には目が無いと見える。わしも同類よ。
太平の世になって食文化は実に発展しているようじゃのう。
技術が伝播し、各地に名産が生まれ、広く知られるようになった。
実に喜ばしい事よ。
まずは件の寿司屋へ。
良い料理人には良い理念があるからのう、ここは主人が薦める酒と寿司ネタを見繕ってもらうとしよう。
地酒と地の食い物は旅の醍醐味。
きっとまだ見ぬ美食が隠されているに違いない。
ふと手の空いた主人の表情を窺い見る。
何か難儀している事があるなら話してみてくれないか?
美味い物を食わせてくれた恩に、少しは報いたいからのう。
アリルティリア・アリルアノン
…こ、これは!
もしやキマフュー旧人類の間では富や名声を得た者だけが口にする事を許されたといわれる「回らないスシ」!
つまりアリルもそれだけの大物…?
ともかくスシを満喫…もとい事件を調査しましょう!
まずは「ギョク」!
これから行くのが「ツウ」らしいですからね!
…なるほど、これは噂以上の「たくみのわざ」です(わかってない)
その後はエビとかタコとか、
セオリーとか関係なく好きなネタを頼んでいきます
あ、ワサビは抜いてくださいね!
え、調査?モチロンシマスヨ
この手のトラブルは「どーぎょーたしゃ」の嫌がらせの可能性も高い
スシを食べる間に、店の人やお客さんに
事前に調べておいた他のスシ屋の事をそれとなく聞いてみます
月鴉・湊
寿司か。これ自腹?これ経費で落ちない?
まあ久々に贅沢しますかね。
店に入り、先ずは茶を一杯。
大将、とりあえず今日のおすすめは?
それ貰ったら次はハマチかな。
そしたら鯛だな。甘エビも貰おうかな。
穴子も忘れちゃあいけないな。
その後はマグロ、それも中トロをメインにつぶ貝、いか、いくらをまとめて頼もう。
一つ一つ鮮度がいい。流石大将、これ程の寿司は滅多に食えないよ。
そうだ、土産として持って帰りたいんだが握りを適当に包んでくれるかい?
さて、大将ありがとう。また越させてもらうよ。おあいそだ。
ふう、食った食った。
……あれ、ここにおじさん何をしに来たんだっけ?
戸辺・鈴海
美味しいお寿司を頂ける機会、逃す訳には参りません。
マイ箸を持参して意気揚々と参陣致しましょう。
本当に旨い寿司屋さんであれば、大将のオススメを頂きたいですね。
その日の仕入れ事情によって、活きが良いネタも違ってくるでしょうし。
時期的には暖かくなってまいりましたので、鰊でもあれば是非お願いしたいところでしょうか。
定番なところを交えれば、エンガワや鰹も頂けると嬉しいです。
至福の時間を味わいつつも本題も忘れないでおきましょう。
風の噂で聞きつけたという体で、やんわりと困っていることが無いか聞いてみます。
これ程まで美味しいお寿司を提供するお店ですから、私たちとしても力になってあげたいですので。
夏目・晴夜
ユタカさん(f00985)と寿司食います
本日の趣旨は完璧に理解しております
とりあえず寿司を食べればいいんですよね、寿司を
しかしこのハレルヤ、実は箸が使えないのですが……
……え、寿司って素手で行ってもいいのですか?
寿司って意外とワイルドな食べ物でもあるんですね
いやはや最高です
よっしゃ、まずは茶をすするところから始めます
私もマグロとサーモンと、あとエンガワと鯛も食べたいです
アナゴといくら、しめ鯖なんかも実に気になりますね
いや言われなくてもつけませんよ、山葵なんて
あれただの劇薬ではないですか
うわ、中トロと大トロも美味しそうですね…!
普通のマグロも凄く美味しかったので、これらも是非とも食べてみましょう
柊・雄鷹
ハレちゃん(f00145)と参加するでー
美味しいお寿司屋さんのピンチや、これは助けなあかんっ!!
まぁまずは、お寿司を食べるのが礼儀ってもんやな
ハレちゃん、寿司に箸なんていらん
素手で行け、素手で!男なら!
んー、ここはやっぱりバランスよく攻めななっ!
タマゴ、うなぎ、サーモン、エビにマグロ……
あ、山葵も勿論つけてな!
ハレちゃんはお子ちゃまなんやし、山葵はやめといた方が良ぇんちゃうー?
……あっ、ホンマに山葵あかんのや
あれが美味しいんやけどなぁ、勿体ない!
しかし、寿司に熱いお茶ってホンマに良ぉあうなぁ
考えた人、もしや天才か?
中トロに大トロ……なんて魅惑的な響き!
是非、いただきまーす!!
忍足・鈴女
WIZ
通っちゅうんは【礼儀作法】が大事…
寿司の味を楽しめる食べ方をするものや…
まずはコハダを
コハダは職人の技量が一番分かるネタやからね
この寿司飯の味とのバランスが…
まず淡泊な白身系の魚(タイ・ヒラメ等)を食べ、
寿司を食べた後はアガリを一口
この熱ーいお茶には舌に残った脂を
さっぱり取ってくれる意味があって
次のネタも楽しめるっちゅうわけや
醤油を塗る時に崩してまうお子様には
ガリを刷毛にして塗るという方法を教えて上げる
寿司の定番
中・大トロ
江戸時代ならいざ知らず
呪法で輸送とか保存の問題が
解決してるなら
とろりとした食感と広がる脂の旨味
最後に鉄火巻きを頂き、御馳走様
その一挙動にも【存在感】というか【色気】が
「またこの藩で事件が起きるようだな」
テオドア・サリヴァンが城下を歩きながら道行く人々を眺める。
誰も彼も、陰鬱な雰囲気の無い晴れ晴れとした顔付きをしている。
「前回はカワハギの刺身だっけ?よく知らんが」
「ですね。今回はいわゆる江戸前寿司、食に関わる事件の多い藩です」
神宮寺・絵里香の声に戸辺・鈴海が反応する。
どこから如何話が繋がっていくのかと思案顔の絵里香に対して、鈴海はマイ箸持参で涎を飲み込みながら楽しげにふらふらと飛んでいる。
その後ろで鈴海と同じ様に楽しげな顔をしているのは時雨・零士。
彼の脳内では寿司ネタがマイムマイムを踊って攻め寄せている。
(真鯛、ひらめ、えんがわ、イカ、蛸、鰤、鯵、のどぐろ、穴子、かんぱち、鰻、玉子、前回も堪能したカワハギ、そして鮪!鮪も赤身や漬け、中トロ、大トロに脳天やカマなどの希少部位!)
もう鼻歌でも歌い出しそうなテンションだ。
それを見て、ツーユウ・ナンは微笑ましげな笑いを漏らす。
「殿様同様おぬしらも美味い物には目が無いと見える」
それは自分も同じだが、とツーユウは腰元の『酒瓢箪』をゆらゆらと遊ばせながら歩いていく。
この四人とは以前、同じ藩の依頼で顔を合わせており共に戦った仲間でもある。
それともう一人、前回共闘した猟兵が今回も参加している。
アマータ・プリムスは打掛を纏い花魁の姿でしゃなりしゃなりと練り歩いている。
「お寿司は久しぶりですね。今回は少々奮発しましょう」
前回の事件で訪れた際は海の幸を色々と堪能出来た。
それら新鮮なネタを使った江戸前寿司となれば期待も膨らむと言うもの。
「SUSHI!江戸の町に行くなら一度は食べてみたかったものです。今回は堪能させていもらいましょう!」
「食べましょう。これが私のすべきことであると【世界知識】が告げています」
鼻息荒くふんすふんすとテンションを上げているのはスヴェトラーナ・リーフテルとデナイル・ヒステリカルの両名。
日頃寿司を食べる機会に巡り合わないのか、出発前から矢鱈と浮き浮きした様子を見せていた。
そんな二人とは対照的に何処と無くしょんぼり感を漂わせているのは月代・十六夜だ。
アマータが首を傾げてみせると、彼は魂の抜けた様な声で答える。
「おかね が ない」
無駄遣いはしていないのだが出歩いて遊ぶお金は基本的に持っていない、そんな懐事情の十六夜。
なので彼は今回店には入らず周辺をうろついて何かしらの噂が無いかを調べて回る予定だ。
その供回りはアマータが従者に変装させた『アリウス・プーパ』が務める。
能力の仕様上凡そ800m付近までしか探索は出来ないが、今回の場合は十分な距離だろう。
そんな花魁と仲間達から少し遅れて、第二陣が続く。
「いやー、楽しみだねお寿司!」
「えっ、お寿司!?しかも絶品の!?食べるしかないじゃないの、そんなのー!お寿司♪」
今にもくるくると回り出しそうなルンルン気分で通りを行くのはユース・アルビトラートルとシルヴィア・ジェノスのコンビだ。
片や小食のフェアリー、片や暴食のエルフ。
食事の量のバランスは取れていないが、もしかしたら足して二で割ると丁度良くなるかもしれない。
その二人の横で穏やかな顔をしている月鴉・湊。
「寿司か。これ自腹?これ経費で落ちない?」
回らない寿司とシルヴィアと言うコンボが果たしてどれだけの破壊力を秘めているのか。
想像すると背筋と財布がぶるりと震えそうだ。
そんな彼の後ろで一人ごちる鬼の仮面を付けた少女。
「相棒も奇妙な依頼を見つけてくるな。まあ、旨い寿司が食えるってんなら悪い気はしないがな」
荒っぽい口調は鬼の仮面のもの。
神代・凶津と言う名のヒーローマスクだ。
日頃回らない寿司を食べる機会が無いからか、今回の依頼への熱意はかなり高い。
彼等の横で飛び跳ねる様にステップを踏んでいる少女が居る。
「お寿司ー!お寿司ぃー!!おっ寿っ司--!!!」
ご機嫌に節を付けて歌うテラ・ウィンディア。
その姿に擦れ違う人々は一様に微笑ましげな顔を向けている。
そして微笑ましさを振り撒くもう一人の少女。
「もしやキマフュー旧人類の間では富や名声を得た者だけが口にする事を許されたといわれる『回らないスシ』!つまりアリルもそれだけの大物……?」
キラキラしたどや顔で両手をぶんぶこ振って歩いているアリルティリア・アリルアノン。
魔法少女を名乗り日々精進するおませさんだが、行動の端々に子供らしさが滲み出ており愛嬌に溢れている。
そんな微笑ましい空間の後ろで仲良くおちゃらけながら歩く夏目・晴夜と柊・雄鷹。
男の友人同士特有の気安さと明るさでわいわいと楽しげに話している。
「美味しいお寿司屋さんのピンチや、これは助けなあかんっ!!」
意気込む雄鷹に晴夜が頷きを返す。
「本日の趣旨は完璧に理解しております。とりあえず寿司を食べればいいんですよね、寿司を」
「いやいやいやハレちゃん!情報収集を忘れたらアカンやん!」
真顔ですっとぼける晴夜にツッコミを入れる雄鷹。
とは言え参加した猟兵の半分以上は情報収集よりも回らないお寿司に思考を持って行かれている気がしないでもない。
彼等の後ろ、最後尾に付いている忍足・鈴女もすまし顔ではあるがこれから食べる寿司に思いを馳せていた。
「通っちゅうんは【礼儀作法】が大事……寿司の味を楽しめる食べ方をするものや……」
まだ店に着いていないのにもう食べる時の動きをなぞっていた。
果たして彼女の眼鏡に適う味は出てくるのか。
様々な期待を乗せて猟兵達は漫ろ歩く。
総勢十八名。
彼等の姿は非常に目立っていた。
そしてやってきた富永寿司。
昼前にも関わらず閑散とした店内には客の姿は無い。
付け台(カウンター席)には椅子が幾つか、座席卓は三つ程有るが居るのは店主と思しき老人と小僧が一人だけである。
「おや、まぁ」
十八人も一度に押し掛けたものだから店主は目を丸くしたが、直ぐに人好きのする笑顔を浮かべて迎え入れてくれた。
小僧も椅子を動かしたり卓を並べ替えたりと大忙しだ。
程無くして全員が座り、注文を取っていく。
皆思い思いに頼むが、玉子の多さに店主は少し驚いた様だった。
「随分と玉子がお好きな方が多う御座いますねぇ」
「あぁ、如何やら玉子から頼むのが通だとか言う話を聞いたらしくてな」
熱い番茶を飲みつつ、湊が答える。
それを聞いてほっほっほと上品に笑う店主。
「通とはまた、良う御座います。まだまだ江戸前寿司は生まれたばかり。馴染みの薄い方々も多くいらっしゃいますが、そんな中でも食べ方に一家言持たれる方がいらっしゃると言うのは江戸前寿司が受け入れられつつある証に御座いますな」
「成程、そう言う考え方も有るか。ともあれ大将、今日のおすすめは?」
「はい、今日は良い叺と姫鯛が手に入りましたので、叺は焼霜造りに。姫鯛は皮霜造りにすると良う御座います」
「ではそれを頼もう」
「はい、出来上がるまでこれで凌いでくださいな」
早速寿司を握っていく店主に代わり、小僧が小鉢を置いていく。
中には鰊のぬたが入っていた。
塩揉みし酢で塩を洗ってから酢に十分程漬けて置き、水気を切って浅葱と共に酢味噌で和えたものだ。
使われている酢が尖っておらず柔らかい味の為、一口食べるとふわりと酢の匂いが広がり鰊の旨味がそれを追い掛けて行く、爽やかな春の風を思い起こさせる一品だ。
浅葱のしゃっきりとした食感が良いアクセントになっており、味わう楽しみと食べる快感とが共に口を悦ばせる。
「はい、先ずは玉子です。そちらさんには寿司桶に入れて運ばせます」
卓に着いている未成年組と酒を飲まない数人の下へ、小僧が寿司桶を持っていく。
中には厚焼きにした玉子が入っている。
砂糖はまだまだ貴重なので、出汁と味醂を使った甘さよりも旨味が際立つタイプのものだ。
ちなみに、鶏卵の量産体制は整っていない為実は卵は高級品である。
玉子を四つ頼むよりも適当に握ってもらって酒を付けた方が安く済む程。
こっそりと道中で道行く人に話を聴いて相場を調べていたデナイルは、思わぬ落とし穴を見付けて一人冷や汗を掻いていた。
「おぉー♪」
「たまごー!」
「ぎょくー!」
テラ、シルヴィア、アリルティリアのちびっこ……ちびっこ?三人が歓声を上げる。
一人二十歳が紛れ込んでいる気がするが、気の所為だろう。
それを見て小僧が相好を崩しているとすかさず店主からお叱りが飛ぶ。
「こら、お客様にでれでれしてないでさっさと次を持って行かんか!」
「あ、はいっ!」
「全く……いやはや、若いのが失礼致しました」
「ははは、まぁ今日はわし等しか居らぬ様だしな。おっと、わしには何か主人の薦めの酒と寿司を見繕ってもらおうかの」
付け台でツーユウが鷹揚に笑いながら注文を出す。
隣に座っていた絵里香も熱い茶で一息入れて口を開く。
「オレは姫鯛と叺、鰤を貰おう。あぁ、それと赤だしを頼む」
「うちはコハダを」
「俺は大将にお任せだ!色々握ってくれ!」
鈴女と零士も追って注文する。
それに鈴海とテオドア、アマータも続く。
「私もオススメを頂きましょうか」
「俺はマグロを頼もう」
「当機はヒラメを」
「はい、では少々お待ちを」
慣れた手付きで柵を切り出していく店主。
見る間に寿司が出来上がり、次々と並べられていく。
その手際の良さは正に職人芸と言った所か。
付き台の面々の分を仕上げると、次は卓の注文に取り掛かる。
寿司桶に並べられていく様はまるで魚介の宝石箱。
色取り取りのネタとシャリの取り合わせが実に見事だ。
未成年が多いからかシャリに山葵は塗らず、代わりに鮫肌を張った卸金で摩り下ろした山葵を小皿に載せて別に出す心遣いがまた粋だ。
今度は確りと仕事をこなした小僧が寿司桶を卓に置くと、ちびっこ達から歓声が上がる。
思い思いに食べていくのを、凶津やデナイル、雄鷹が世話していく。
「テラ、早い者勝ちじゃねぇんだ。慌てて食うと喉に詰まるぞ……お、この平目旨いな」
「だってよ、どれもうまくて止まらねぇよ。この穴子なんか香ばしさとタレの絡みがぜつみょーなんだぜ!」
にぱーっと笑いながら食レポを始めるテラに苦笑を向ける凶津。
宿主にして相棒の桜も寿司の味には大満足らしく、目を輝かせている。
「あーベタベタじゃないですか。はい、お絞りで拭いてください。しかしこの鮪美味しいですね」
「うふふ、多少のベタベタは気にせずガンガン食べるわよー!」
目がキラッキラしているシルヴィアは口許や手をお絞りで拭きつつ食べ進めていく。
ちびっこ枠にカウントされているが気にしていない様子に、デナイルは乾いた笑いをお茶で潤すので精一杯だ。
「ほれ、海老の尻尾はこっちに寄せとってや。山葵は美味しいけどその分ガツンと来るから苦手な子は付けん方がええやろなぁ……ってハレちゃん、それワイのや!?」
「うまうま……なるほど、これは噂以上の『たくみのわざ』です!」
一口食べては満足げにほっぺたを押さえて震えるアリルティリア。
面倒見の良い雄鷹が彼女に色々と話を振っている隙を突いて、晴夜はそっと中トロを取ってぱくりと口の中へ。
赤身とはまた違った旨味を味わいながらお茶を啜って一息吐く。
「美味しいです」
「せやろなァ……!」
「冗談ですよ。はい、私の分をどうぞ」
「ハレちゃん優しぃー!」
わいわいがやがやきゃっきゃっと、実に楽しげな風景。
そんな賑わいを眺めながらまったりと食べ進めるのはユースとスヴェトラーナだ。
「皆賑やかだね。まぁこれだけの美味しさなら無理は無いのかもしれないけど」
穴子、締め鯖、漬け鮪と味の濃い所を選んで食べていたユースが、はふぅと息を吐く。
どれもこれもネタとシャリの味わいが絶妙に絡み合っている。
フェアリーである為に普通のサイズの寿司が数人分にもなっているが、幾ら食べても食べ飽きず、それでいてくどくない味付けは流石の一言。
お茶を啜ってまったりする横では、スヴェトラーナが何やら呟きながら食べ進めている。
「スズキからマグロ、穴子、かんぴょう巻きの黄金のルート。やはり私の考えは間違いでは有りませんでした……!次々に口の中で花開く旨さの取り合わせは四季の移ろいを一つに纏めた絵画の如し、この感動を語るには私の経験はまだまだ不足していると認めざるを得ませんがそれも致し方なし……!」
「わぁ、こっちもヒートアップしてたよ」
何時になく饒舌な様子で感動しているのを眺めつつ、またお茶を啜る。
「あー……これは依頼外でも来たいかもしれない……」
満足げに笑うユース。
賑やかな卓とは対照的に、付け台では穏やかに寿司を楽しんでいた。
「うーむ、どれもこれも絶品じゃのう」
熱燗を傾けながら姫鯛の皮霜造りを摘むツーユウ。
少し歯応えの有る皮と柔らかな身の食感の違いが歯を楽しませ、噛む度に滲む旨味が実に素晴らしい。
団扇海老の刺身も絶品と言う他無く、茹でた内子がまた酒に良く合う。
旨そうに酒を煽るツーユウを横目に見て、絵里香は赤だしを飲みながらぽつりと零す。
「依頼じゃきゃ地酒を燗につけたりしたいんだがな」
呑む時は憂い無くとことん呑むタイプの絵里香は、何か予定が控えている場合は酒を口にしようとしない。
代わりに赤だしで舌を湿らせる。
三つ葉と豆腐のシンプルな赤だしだが、出汁の深い旨味と雑みの無い味わいが寿司を邪魔せず互いの味を引き立て合っている。
鰤も先日食べたものと甲乙付け難い旨さだ。
大根おろしと醤油で食べるスタイルで、鰤の脂を大根おろしのサッパリとした辛味が包んで非常に美味しい。
「いや~!ネタが新鮮な上に丁寧な仕事!腕が良く無きゃできねぇ!これは美味いぜ!幾らでもイケるな!」
上機嫌に次々食べていくのは零士だ。
色々なネタを出されるが、そのどれもが旨いとなれば気分も上がると言うもの。
「大将!これだけの腕なら大繁盛だろ?実際、都や城下でもこの店の評判を聞く程だしな!これは店も安泰だよな?」
(いきなり切り込んで行ったァーー!!)
澄ました顔で鮪を摘みつつ、内心で盛大に声を張り上げるテオドア。
もう少しそれとなく情報を聞き出そうと考えていた所への直球勝負。
店主も力無い笑みを浮かべつつ、口を閉ざした。
あれ?と首を傾げてみせる零士を肘でつついていると、何やら吹っ切れた様子で店主が静かに語り出した。
「お恥ずかしながら、店内は見ての通りで皆さんがいらっしゃるまでは閑古鳥が鳴いておりました。それと言うのも、最近は荒っぽい連中が店や近所に顔を見せる様になったからなんです」
「荒っぽい連中?」
「はい、どうやら流れ者のやくざ崩れの様でして……。困った事に迷惑者ではありますが直接誰かを害したとかは無いのでお役人様も打つ手が無いらしく。おまけにこの店を明け渡す様に強く言われておりまして……」
聞き出した話はこうだ。
この店を始めるに当って、元々の土地と店の持ち主との間で賃貸契約を結んでいた。
本当は月幾らと決まっていた賃料だが、ある時元の持ち主が店主の寿司の味に惚れ込み時折寿司を奢ってくれれば今後は賃料は要らないと言ってくれた。
そのまま最近までやってきていたのだが、元の持ち主が借金か何かでこの土地と店の権利を売り払ってしまったらしい。
新たにその証文を手にしたのが件のやくざ崩れの親玉らしく、土地と店の賃料を求めてやってきた。
困った事に記録に残っているのはある時までしか賃料が払われていないと言う事実だけ。
寿司を奢る代わりに賃料は免除されていたと言っても、何処にもそんな記載や追加の証文は無いと一蹴され、利子を付けられ莫大な金額に膨れ上がった賃料を払えと催促されている。
ならば元の持ち主に確認と取ってほしいと言った所、既に元の持ち主は巾着目当ての物取りに殺されてしまっているらしい。
周到に揃えられた証文を前に役人も手立てが無く、情に訴え一言二言掛けるのが精々との事。
そして期日までに返せぬのならば店の売り上げと家財一切を置いて出て行ってもらうと言われている。
その期日は明後日だ。
「成程な……随分と上手く事が運んでいる話だ」
テオドアはぬるくなってしまったお茶を飲んで思案する。
元の持ち主が死んでいる、と言う辺りが何やらキナ臭く感じる。
相手が全うな商人ではなくやくざ者だと言うのも気掛かりだ。
「ふむ……大将さん、一つ聞きたいのですが」
鈴海の声に、店主は声を落としながらも答える。
「はい、何で御座いましょう」
「そのやくざ者、今は何方に?」
「通りを抜けて少し行った所に水霖亭と言う大きな宿が御座います。今はそちらに部屋を取っている様で……どうやら、この店の売り上げで支払う心算らしく豪遊していると噂で聞いております」
「水霖亭……そうですか、有難う御座います」
一つ頷いて周りを見渡す鈴海。
その視線に、皆が頷きを返す。
「大将、うちらに何が出来るかはまだわからん」
鉄火巻を一つ口に放り込みつつ、鈴女が力強く店主を見据える。
「しかし此処まで聞いてはいさようなら、ちゅうんは仁義に悖る。何か出来る事は無いか、色々と調べてみよう思いますぇ」
「おぉ……いえ、しかし……」
「何、上手く行ったらまた旨い寿司を御馳走してくれたらそれでええんよ」
笑みを浮かべる鈴女に店主は一度深く礼をした。
上げた顔に先程までの寂れた諦観は浮かんでいない。
「よっし、腹一杯食べたら色々やってみるか!」
「よう食べるのう」
ニカっと笑う零士に目を見開くツーユウ。
既に二十貫は食べているが、まだまだ余裕そうだ。
「あ、十六夜様にお土産を買いませんと」
「おっと、そうだったな。大将、土産として持って帰りたいんだが握りを適当に包んでくれるかい?」
アマータの声で此処に居ないもう一人の猟兵を思い出した湊。
早速店主に寿司折を作ってもらい、序に自分の分も注文しておく。
何人かはお土産の寿司折に興味を引かれていたが、懐具合と相談した結果今回は諦める事にしたらしい。
「ふむふむ……暴れはしないが此処らを出歩くやくざねぇ」
一方、十六夜も井戸端会議をしている妙齢の女性達や息抜きと称して暇潰しの散歩をしている男達から情報を聞き出していた。
最近見掛ける様になったやくざ、最近手広くやり始めようとしているらしい水霖亭の旦那、街道で睨みを聞かせている謎の浪人達。
どれが繋がってくるか分からない以上はどんな些細な情報でも見逃せない。
そうして情報を集めていた十六夜の背後から声が掛かる。
「お待たせ致しました」
「お、おかえり」
声の主はアマータだった。
振り返れば他の皆も戻って来ている。
どうやら寿司屋での情報収集は上手く行った様だ。
回らない寿司、しかも大名レベルが行くような高級店と言う事で味も値段も予想が付かなかったが、皆の顔を見る限り味は予想以上に満足行くものだったらしい。
多少の羨ましさを抱えていると、目の前にずいと四角い箱が差し出される。
「お?」
「お土産ですよ。当機の奢りです」
「マジで!?」
予想していなかったサプライズに目を見開く十六夜。
受け取って結びを解いて見れば、鯖と鯵の押し寿司が十貫程入っていた。
匂いだけで、もう旨いのが分かる。
口に溜まって行く涎を飲み込みながら、十六夜は頭を下げた。
「ありがてぇ……ありがてぇ……」
「拝まれても困りますよ、当機は当分仏様にも神様にもなる心算は無いのですから」
両手の指でニイっと口の端を上げて笑ってみせるアマータ。
押し寿司の味は胃にも心にも沁みたそうな。
大成功
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第2章 冒険
『雪に白鷺、闇夜に鴉』
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POW : 周囲の情報や噂を地道に聞いて回る
SPD : 商人の屋敷に直接潜入して情報を探る
WIZ : 商人達の周辺状況から真相を推察する
👑11
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幾つかの断片的な手掛かりを元に、猟兵達は次の場所へと向かう。
件のやくざ達が身を寄せている水霖亭と言う名の宿。
この場所に何かしらの情報が眠っているのは間違いない。
店主と美味しいお寿司の為にも、真実を見付け出すのだ!
テラ・ウィンディア
こういう事件は足で調べるって話だよな!
このお宿の評判について調べるぞ
用意
「表情で分かる心理学」
実はおれは旅行中なんだけどここのお宿って高いのかな?
評判どうなんだろう?
なんて問い掛けながらも返答とこの宿について話を聞くと同時に相手の微表情についても把握するぞ
(人の心は顔が出るらしいからな。)
嫌悪
鼻の周りのしわを寄せる
恐怖
両眉を上げる+眉を中央に引き寄せる等
怒り
眉に力が入り唇にも力が入る
幸福
頬と口角が上がる
軽蔑
片方の口角を上げる
悲しみ
眉が八の字になる
そんな周りの人達の話と表情からの心理についても細々と調査をするぞー!
なお、おれは好奇心旺盛なちみっこだな!
尚、周囲におれ達を観察してるの居ないかも警戒
デナイル・ヒステリカル
【組合の鴉】で参加します。
まず前提としてこの件はグリモア猟兵によって予知された、浪人風のオブリビオンによる寿司屋の店主の殺害事件であるということ。
街道で睨みを利かせる浪人たちへは最大限警戒しましょう。
その上で僕がするべき行動は、情報の集積と伝達。
また、そうして見えてくる事件の全貌を明確にすることです。
街道を見渡せる宿の二階を借り受け、商人の屋敷と街道の浪人を監視しながら、他の猟兵に渡した通信機の中継役として働こうと思います。
各々の連絡から事件のあらましを【情報収集】し、其々に危険が迫るようならば警告を伝えます。
アマータ・プリムス
【組合の鴉】で参加/喋りは花魁言葉
今回の当機の役目は囮ですかね?
「わちきはここに呼ばれたでありんすが?」
衣装はそのままに遊女として水霖亭を訪れる
【世界知識】により携帯秘書装置で遊女の振舞いを調べ完璧な【礼儀作法】でやくざ者たちの元へ。
UCを使いアリウスを傍付きの童女の姿に。金髪蒼目の童女にすれば人目もなお引けるでしょう
呼ばれたというのはもちろん嘘ですが応対していれば【時間稼ぎ】もできるはず
時折デナイル様に渡された通信機で連絡を取る
(進捗はどうですか?)
できる限り応対しますがお触りは許しません
「わちきに触るんはよしなんし。お代がまだでありんすよ?」
潜入組が脱出したら合図を貰って当機も撤退
スヴェトラーナ・リーフテル
【組合の鴉】
急に出てきたやくざ者
何故か殺されている元持ち主
手広くやっている水霖亭の旦那
物凄くプンプンしてますね、なんでしょう……これ……風が来ています……
さて、お金の関係を探りましょう。まず、【世界知識】によると町奉行所は調査を担当しているはずです。つまりここに行けば現行の調査記録が手に入るはずです。よって私は町奉行所に行き、天下自在付を振りかざして急に出てきたやくざ者、江戸で起きた物取り、水霖亭の全情報を【情報収集】します。その際私は【世界知識】のプロファイリング知識を呼び起こすことで事件を【学習】して状況を分析します。次に現地の調査を行っている猟兵と合流し、物的証拠と合わせて推理を行います
月代・十六夜
「さーて鬼が出るか蛇が出るか」
【組合の鴉】で参加。
デナイル君からは通信機、おじさんからは透明化UCを貰って屋敷に潜入。
姿は見えてないが、【視力】、【聞き耳】、【第六感】で出来るだけ人に合わないように。足音もたてたくないし、【スカイステッパー】で着地するタイミングを最小限に。
資料に関してはおじさんに任せてあるから、こっちは【聞き耳】だな。
できれば黒幕会議とか聞ければベストではあるんだが、まぁ高望みはしない。
最悪、やくざ者の寿司屋に直接行動をかける日時とかでもまぁ及第点ってとこだろ。
ある程度情報集めて、おじさんから資料の回収が終わる連絡を待って撤収。
集めた情報を持ち寄って相談かな。
月鴉・湊
組合の鴉】で参加。
さてさて、一羽の鴉、闇に紛れて侵入ってかね?
UCを使用し透明化して水霖亭に侵入するよ。
その時に一緒に潜入する十六夜君へ殺気を向け彼も透明化してもらおう。
ちょっとぞくっとするけど我慢してね?
潜入したら情報となる資料を中心に探そうかね。
暗いところでも暗視が聞くからね。事の全貌がわかる計画書があればそれも持ち帰り、見つけられたら証文もちょいと拝借してなかったことにしますかね。
あとは透明化してるついでに中の敵の人数も把握しておきましょうかね。
情報が集まったら脱出してデナイル君達に渡し、おじさんはその後に備えて一休みしとくわ。おやすみー
神代・凶津
さてと、旨い寿司も食ったし張り切ってお仕事といくかね相棒。
あんな旨い寿司屋に無くなられては困るしな。
で、ここが件のやくざ共が根城にしている宿か。
直接乗り込んで情報収集したいところだが行ったところで追い出されるのがオチだろうし、ここは搦め手でいくかね。
外から宿に入っていくやくざの一人に【追い雀】を使うぜ。
こいつは五感を共有できるから上手くいけば追いかけさせているやくざの周辺から何らかの情報を手にいれることが出来るはずだ。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
【アドリブ歓迎】
神宮寺・絵里香
≪心情≫
・あんまり推理とかは得意じゃないんだがな。
・まあある情報をまとめるだけ纏めるか。
≪推理≫
・今までの情報と【世界知識】を基に推理をしてみる。
・黒幕は水霖亭っぽいな。証文やらの手配も多分こいつ。
商売やってるからこそ必要な証文が分かるんだろうしな。
土地やらを買い取ったのもこいつかな。まあ高い金積んでも
あとで浪人に殺させて回収すれば元手0だろうし。
・やくざものは、脅し役。まあ適当に流れてきたのを上手い話で
釣ったんだろう。いざという時のスケープゴートかな。
・後は動機とかがよく分からんが、そこら辺は潜入した奴が拾ってくる
んじゃないか?
・後はそうだな。巫女の【第六感】に任せてぶらつくか。
ユース・アルビトラートル
さってとー、誘導尋問するまでもなく知りたいことは判明!で、あくまでも目的は「オブリビオンの捜査」。ボク自身で探索するの正直苦手で。皆の調査を期待して、集まった情報を洗い直し繋げて【情報収集】したいな。
まず方針として「水霖亭、親玉、物盗り、元の債権者、富永寿司」の関係性から枝を伸ばしていきたい。その上で、もしも「オブリビオンだから」じゃないと説明できないことが出てきて、そこで矛盾なく正体を裏付ける証拠があれば人物を特定できる。コスプレでも無ければ予知から「ひとりの浪人」が結論に繋がるか、立証不十分でも極めて疑わしい人は出るはず……?
富永寿司で捜査結果待ってるね!あ、クロダイ1貫くださーい。
時雨・零士
持ち主が土地を手放したってトコからして、経緯が曖昧だし、怪しいモンだな…。
持ち主も亡くなってるワケだし…証文や記録も殺して強引に奪われた可能性もありそうだな。
同格以上の豪商って身形で水霖亭に客として潜入。
金の為になんでもやる輩は権力者やより金を持ってる相手に弱いからな。
豪遊してるトコに特上の酒を持って偶然豪遊してるのを見掛けた体で軽く接触して、部屋の目星や相手から軽く情報を引き出す。
で、ヤツと別れた後、動向を同じ宿で探り、部屋を出た隙等を見て【アクセルフォーム】の千倍の動作加速で部屋を【見切り、第六感】で捜索。金庫等は【鍵開け】で開ける等して証文やその他証拠を素早く頂くぜ。
※アドリブ等歓迎
ツーユウ・ナン
【POW】
いや実に美味い寿司じゃった。
料理も良ければ人も良い、こんな店主が殺されるなど何の因果か。
手を尽くして阻止してやらねばのう。
この陰謀の目的は主人か、はたまたこの店の土地か。
賭けや強請で借金を負わせ、欲しいものを手に入れるというのが悪党の常套手段ゆえ、仕掛けから絡んでいる事は十分考えられる。
まずは証文を手に入れたやくざ者と水霖亭の裏を洗う必要がある。
蛇の道は蛇、わしも用心棒で通った道よ。
地元やくざの親分にでも顔を通してもらって「水霖亭に出入りする流れやくざ」について調べてみよう。
親分さん、一寸話が聞きたいんだがいいかい?
この街の宝をひとつ、守らないといけないんでね。
アリルティリア・アリルアノン
お金を貰う前からどんちゃん騒ぎとはいいご身分です!
でもならず者が派手に遊んでいるという事は、相当騒がしいはず
どこにいるかはすぐわかりそうですね
しかしあの人たちだけであんな回りくどい計画を考え付くとは思えません
だとすれば裏で糸引く黒幕がいるはず!
そして仕事が成功する目処が立ったとなれば、何らかの方法で接触するはずです
部屋の中の様子を探るのは危ないですから、そういうのが得意な仲間にお任せします
アリルは部屋近くの物陰に身を隠し、
彼らを訪ねて来る人や、どこかへ出かけようとする人がいないか
目を光らせておきます
見つかった時は迷子のフリをしてやりすごします
テオドア・サリヴァン
「やくざ者か、それにきな臭い話も出てたな」
【POW】
周囲の住民たちや宿の人たちに聞き込みをするか。内容としてはやくざ者たちについて、奴らが泊まっている宿の主人、そしてこの辺で何か変わった事件がなかったか聴き込みをするか。
「良からぬ奴らがいるのは確かだが…まだわからないことが多いな」
地道に探してみるとしようか。
忍足・鈴女
SPD
まあ…あんだけ啖呵きった手前…ねえ…
という訳でユーベルコードでひらりと屋根裏から侵入
まずは、証拠を集めることから始めよか…
天井裏から捜索
まあ暗いけど【暗視】でなんとでもなるし
静かに【串刺し】で天井に穴開けて
覗きながらそれっぽい部屋を探す
そして証拠品をゲット!
鍵が掛かってても【鍵開け】で問題無し
これは【盗み】やないんやで…
そう…【情報収集】…正義の行い故…
その後は【聞き耳】でいかーにも悪巧みしてそーな
部屋を【忍び足】で捜索するえ
あー、今時マジでそんなテンプレな事いう人おるんやなあ…
と思いながら屋根裏で待機
バレそうんなったら
猫の鳴き声でもして【時間稼ぎ】を
いやうちも大概テンプレやなあ…
戸辺・鈴海
実にきな臭い話でした、客観的に見れば実にコテコテで胸やけしそうです。
こんな私利私欲がどろんどろんな相手であれば、尻尾を掴む事も出来ましょう。
とはいえ、全くの確証も無しに殴りこむのはスマートではありませんね。
此処は先手を取るべく動くのが良いのではないかと考えます。
水霖亭に赴いて、件の相手について宿の人から聞き込みを行いましょう。
宿では甘味でも食べながら話をしたいです、話を聞くだけというのは失礼ですし。
やけに羽振りの良い人が居るから気になった体で話題を振る感じが妥当かなと。
調子に乗ってる感じですし、証文を見せびらかしているかもしれません。
懐に持っているのか、部屋に置いてるのか探れれば十分でしょう。
一軒の寿司屋を巡るとある騒動。
その実態を掴むべく、猟兵達は行動を起こした。
行く先は大きく分けて二つ。
水霖亭へ向かう者達と、それ以外の場所へ向かう者達。
手始めにと店の周辺や近所の住民達への聞き込みを行っているのはテラ・ウィンディア、神宮寺・絵里香、テオドア・サリヴァンの三人だ。
「やくざ者か、それにきな臭い話も出てたな」
顎に手を当てて思案顔のテオドア。
視線の先ではテラが自分より年下の子の輪に入り色々と話を振っている。
丁度寿司屋を出て直ぐの路地裏で元気に遊んでいたのを見掛けたので、折角だからと話し掛けてみる事にしたのだ。
大人よりも反応が真っ直ぐで解り易く、且つ大人の目線では気付かない事も知っている可能性が有る。
子供を当ると言う判断は中々の妙手かもしれない。
当の本人は子供らしからぬ心理学を用いて情報を得ようとしているが。
「ふーん、じゃあそんなにお高いって訳じゃないんだな」
「まぁ泊まった事は無いけどな!父ちゃんの所に来てたお客さんがそう言ってた!」
「成程な」
テラはふんふんと頷きながら情報を整理していく。
水霖亭は一階が一般的な旅客向け、二階が富裕層向けとなっており、更に特別な客に向けた一段豪華な客室が離れに有るとの事。
件のやくざ達が身を寄せているのもこの離れらしい。
「有難うよ!お陰で助かったぜ!」
ニカッと笑うテラに、何人かの男の子は照れ臭そうに視線を彷徨わせている。
それを見た女の子達は男の子達の尻を蹴飛ばした。
テラも中々に罪な女である。
「そこの美丈夫さん、お暇かしら?」
そんな光景を眺めていたテオドアへ、声を掛ける女性が居る。
見れば客引きらしい女性が色目を使っていた。
「もしお暇ならうちで一献やって行かない?」
「申し訳無いのですが、まだやる事が有りまして。……そうだ、お嬢さんにもお話を聞きたいのですが宜しいですか?」
情報収集用の爽やかな好青年を演じて穏やかに微笑むテオドア。
効果は有った様で、女性は髪の毛を指先でくるくると弄びながら薄く頬を染める。
「お、お嬢さんだなんて……口が上手い人ね」
「お気に障ってしまったのなら謝罪致します。なにぶん思った事を素直に口にしてしまう性質でして」
「も、もうっ。何か聞きたい事があるんでしょう?」
「ええ。……実は最近この辺りをうろついているやくざ者が居ると聞いたのですが」
それを聞いて、女性はきょろきょろを辺りを見回してから声を潜めて言った。
「あの連中の事は余り大っぴらに言わない方が良いよ。今はまだ狼藉を振るっちゃいないけど、いつ何が切欠で暴れ始めるか分かったもんじゃないからね」
「と言う事は、今の所被害らしきものは何も?」
「直接誰かが殴られたの乱暴されたのってのは無いね。お役人様達も色々と目を光らせてるからそうそうお痛は出来ない筈さ。まぁ賭博をやる場所も無いから普段は水霖亭で飲んだ暮れてるよ。全く……水霖亭の旦那も金は払うからって言ったってあんなのを置いておくだなんて困っちゃうわねぇ」
「そうですか……その水霖亭のご主人や、この辺りで何か変わった事件が起きていたりはしませんか?」
「変わった事は無いと思うわね。水霖亭の旦那は、実は余り良く知らないのよ。何せ今年の頭にやってきたばかりだからねぇ」
「やってきたばかり?」
「ええ、何でもそれまで宿を取り仕切っていた大旦那が病気か何かで亡くなったとかで、急遽宿を建て直すのに今の旦那が江戸の方からやってきたとか」
「そうでしたか……お話を有難う御座います」
「良いのよ、これくらい。……ところで話のお礼にうちの店に寄って行ってくれても罰は当らないけど」
「ははは、そちらはまた何れ」
「つれないわねぇ。それじゃまた今度いらしてね」
軽く手を振って女性は通りを歩いて行った。
表情をにこやかな笑みから思案顔へと変えてテオドアは今聞いた話を纏める。
今水霖亭を取り仕切っているのは今年の初めに移ってきた江戸から来た者。
その理由は前任の死亡によるもの。
それだけならば別に如何と言う事も無いが、富永寿司の一件と併せて考えると実に胡散臭いものを感じる。
「おう色男、何仏頂面してんだ?」
声に振り返ると絵里香が立っていた。
「聞き込みをして分かった事を頭の中で纏めていてな。そう言えば何処へ行っていたんだ?先程から姿が見えなかったが」
「あー……適当にその辺を歩いて居たら例のやくざ者の一味らしきチンピラに絡まれてな。取り敢えずボコボコにしてから役人に引き渡してきた」
事も無げに放たれた言葉に目が天になるテオドア。
相手に気取られぬ様に絡め手で情報を集めていた筈がいきなりのストロング調査である。
やだこの巫女怖い。
そんな気配を感じてか、絵里香は起きた事を簡潔に話し始めた。
「勘に任せて適当に歩いていたら御し易いとでも思ったのか馴れ馴れしくナンパしてきてな。無遠慮にベタベタ触ってこようとしたから腕を捻り上げて関節外して地面に叩きつけて、小指から一本一本折って行こうかとした所で役人が来たんだ。んで、一部始終を見ていた町人にも証言してもらって、身柄を引き渡したんだよ。表立って悪行を働いてないから動くに動けなかったらしいが、今回の事を出汁に使って監視を強化するそうだ」
「それは……何と言うか……凄い、な」
予想以上に苛烈だった対応に若干冷や汗を掻きつつ答えるテオドア。
言葉に詰まり視線を彷徨わすが、ふと気付いて視線を戻す。
「と言う事はその男から何かしらの情報を得られる可能性が?」
「おう、既に二つ程な。まぁ指を折るかと問い掛けたら勝手にぺらぺら喋り始めたんだが」
「うへぇ、おっかねぇ姉ちゃんだぜ。で、何だってよ?」
いつの間にか此方へやってきていたテラがニヤニヤ笑いながら先を促す。
そのおでこを指先で優しくぴんと弾いて、絵里香は続きを話す。
「一つはやくざ達の居る場所だな。水霖亭に離れが有るとかで、今はそこに居るらしい」
「おれの聞いた話と一致してんな。って事はそこに溜まってんのは間違い無さそうだ」
「もう一つは如何やら用心棒の真似事をしているのが居るらしい。それも『数人』だ」
新たに齎された情報に目を見開く二人。
てっきりやくざの親玉が予知に出た浪人かと思っていたが、此処に来てその浪人は複数人である可能性が出て来た。
調査に乗り出す前に得られた情報の中に『街道で睨みを効かせている謎の浪人達』についての話が有った。
もしかすると、それらは浪人とやくざ達ではなく、何人もの浪人達なのかもしれない。
「やくざの親玉とは別に浪人が何人もいるってか?」
「良からぬ奴らがいるのは確かだが……まだわからないことが多いな」
新たな情報と付随して生まれた新たな謎。
それらを伝えるべく、三人は通信機を手にした。
町の外れ、裏通りに面した一軒の酒屋。
その中で多数の男達に囲まれながらツーユウ・ナンは涼しい顔で酒を呷っていた。
膳と囲炉裏を挟んだ向かいに座るのはこの町で色々と手を回している地元やくざの大親分こと狭霧の大吾だ。
互いに肴を摘みながら話を進めているが、そこに腹の探り合いや言葉の裏を読ませて言質を与えない、と言った頭脳戦は微塵も無い。
「あの流れ者共が何処からやってきたのかは又兵衛達が戻って来ねぇと解らねぇが、どうせ真面に働くのが億劫になっちまったどうしようもねぇ屑の集まりよ。纏めてる奴等は知らねぇが、三下の奴等はちょいと脅してやったら尻尾巻いて逃げ出しやがった。ありゃ度胸も意地も無ぇ癖に自尊心と見栄だけは一丁前の極潰しだな」
「成程のう、やくざ者にしては妙に大人しいと思っとったら親分さん達がしっかり締めてくれなすったか」
「おうよ、余所は如何だか知らねぇがこの町では無法は許さねぇさ。そうだろう、おめぇら!」
「「応っ!」」
上機嫌な大吾の呼び掛けに威勢の良い声で答える子分達。
俄には信じられない話だが、この町の地元やくざ達は本当にやくざと言う呼称が正しいのか首を傾げたくなる様な集団だった。
みかじめ料は一日に店一軒につき何か料理や食材を一品だけ徴収、貰ってきたもので自炊を始め、白昼堂々往来を練り歩いては小さな諍いを仲裁し、迷子を見付ければ親元へ送り届け、老人が身体を痛めれば看病しつつ仲間に医者を呼びに行かせ、流れ者が厄介事を持ち込まぬ様に見張り、祭りの時には設営やら手配やらを担い、役人とはたまに肩を組んで酔っ払い合いながら嫁や子供の自慢話で盛り上がる。
実態を知った当初はツーユウですら目を丸くして惚けてしまった。
何せ最初に「親分さん、一寸話が聞きたいんだがいいかい?この街の宝をひとつ、守らないといけないんでね」と話を振っただけで身を乗り出して聞いてきた程だ。
町の宝は皆の宝、とあっさり協力を申し出てくれたのは有難いが、これまでに見て来たやくざ達との違いに苦笑を漏らすばかりである。
正直言って有志が集まって出来た自警団と変わりない。
が、本人達は好んでやくざと自称している。
その理由は『その方が何か格好良いから』らしい。
(……まぁ、平和なら良いかのう)
詳しく考えるのは止めたツーユウ。
町民からも親しまれており役人からも気の良い連中と見られているのならば何も問題は無いだろう。
そんな事を考えていると、店の入り口が騒がしくなった。
丁度、件のやくざ達を探っていた連中が戻ってきたらしい。
手下の一人が大吾に耳打ちをして下がっていく。
「ふぅむ、どうやら奴等は山向こうの村で碌に働きもせず遊び惚けていた阿呆共らしい。家を追い出されるかどうかって時に今のやくざ達の親玉に誘われてこっちまで付いてきたって事らしいが……浪人達の方は何一つ解らなかったそうだ。唯一解ったのは一人二人じゃねぇ、二十、三十人もの浪人が居るって事だな」
「ほほう、そりゃまた随分な大所帯じゃのう」
「詳しく調べようとしたが勘付かれて危うく斬り付けられる所だったらしい。口惜しいが俺等が動き回れるのはこの辺りだな」
「いや、十二分に助けになった。感謝するぞ」
「そう言って貰えりゃ有難ぇ。それじゃこの先はお任せするぜ、猟兵さんよ」
その言葉にツーユウは目を細める。
周囲の男達にも動揺は見られない為、皆正体を知っていたのだろう。
剣呑な気配を感じてか、大吾はぐいっと杯を傾けて唇を湿らせた。
「これくらい調べが付かねぇでやくざは名乗れんからな。色々とそれらしきお人が居るってのも入ってきてる。って事は今追っているのも……って事だ、同じ人間が相手ならまだしも妖が相手と有っちゃ手も足も出ねぇ。この手で守れねぇってのは不甲斐ないが……改めて言わせて貰おう。この先はお任せするぜ」
胡坐の両膝に手を当てて頭を下げる大吾。
何とも清清しい潔さに、ツーユウは酒を飲み干して、ほぅと息を吐き出した。
「任せい」
短くも強い意志を乗せた言葉に男達は頭を深く下げる。
予想だにしなかった展開では有るが、それもまた良いものかとツーユウは笑う。
(こんな所にも宝が眠っておるとは。手を尽くして阻止してやらねばのう)
一方スヴェトラーナ・リーフテルは町奉行所を訪れていた。
目的は今回の事に関わる公的な書類や情報の調査。
役人達もあのやくざ達には目を付けていると言う事から保管されている情報は多いと踏んでの行動だ。
「控え居ろう……!」
「「「ははーっ!」」」
「いえ、冗談です。控えるのは良いので情報を集めるのを手伝ってください」
そんな遣り取りが有ったとか無かったとか。
ともあれ手隙の役人達が入れ代わり立ち代り持って来る記録の束を読み進めていく。
定まった書式と言うものは殆ど無く、ふわっと此処にこう書けとしか決められていない記録も多い為に読み進めるには多少の時間が必要である。
おまけに悪筆なのが何人か居て、真面に読むのも難しいのが幾つか。
「誰ですかこの味わいも何も無いヘッタクソな字を書いたのは……」
「は、はい!私です!」
時折書類を運んできた役人を弄りながら情報を纏めて行く。
すると、一つの情報が浮かび上がった。
「この水霖亭の主人の前職は……傘職人?」
関所の台帳にも江戸から回して貰った記録の写しにも水霖亭の主人の名前はしっかり記載されている。
だがそこに書かれていた彼の前職は傘職人。
宿の経営に携わっていたと言う話は何処にも無い。
「異国の地で突如任されて宿を上手く経営出来るものでしょうか」
無論、それまで本人も気付かなかった商才が花開いたと言う可能性も無い訳では無い。
が、何か引っ掛かる。
首を傾げながら書類を捲って行くスヴェトラーナの目に、小さく記載された一文が映る。
『関所付近にて身元不明の男の遺体を発見、損傷が激しく手形も未所持』
「…………ほう」
ふと、ある閃きがスヴェトラーナの脳裏を過ぎる。
まだ想像に過ぎないが、もしやこの身元不明の遺体こそが……。
そう思い通信機のスイッチを入れ一報を送る。
「さて、一先ずは目ぼしい情報は手に入りましたか」
軽く伸びをして肩の凝りを解す。
と、動きに煽られて一枚の書類が机から落ちた。
手を伸ばして拾い上げると、そこにはミミズがエアロビクスを踊っている様な字が書かれていた。
果たしてこれを文字と呼んで良いのか、かなりギリギリのラインだ。
「これを書いたのは誰ですか」
「は、はいっ!それも私です!」
「貴方、仮にも公的な文書を書くのでしたら最低限他人が読める文字で書いてください。……所で、これは何の書類ですか?」
「えーと……あ、これは先代の水霖亭の主人の検屍結果ですね」
「検屍結果?」
「はい。首と胸をそれぞれ一突きされて即死ですね。こんな殺され方をしたってのは余程恨みを買っているか、刀で人を殺すのに慣れてる奴の仕業かのどっちかですね。まぁ水霖亭の主人がそんな殺され方をしたってんじゃ宿に客が寄り付かなくなるってんで、水霖亭の人達は持病が悪化したって事で触れ回ったみたいですが。とは言え実際の死因はこっちで解ってるんでそれなら大っぴらに死因を喧伝せず秘密裏に調べようって事で」
何やらとんでもない情報を聞かされた。
見れば同僚の役人も口をあんぐりと開けている。
知っていたかと目で問い掛けてみれば首を左右にぶんぶんぶん。
「あれ?皆知ってたんじゃないの?」
「今初めて聞いたぞ」
「えー!?だって此処に書いてあるじゃん!」
「てめぇのきったねぇ字なんか誰も読めねぇんだよオラァン!!」
ぎゃーぎゃーわーわーと騒ぎ始める役人達に、思わずスヴェトラーナは天を仰ぐのだった。
「…………と言う訳で、やくざ達は水霖亭の離れに居るようです。数人は気晴らしにその辺を練り歩いているかもしれません」
通信機を使い各々へ情報を飛ばしているのはデナイル・ヒステリカル。
彼は水霖亭に程近い場所の宿を借り受け、通りに面した部屋から水霖亭と周囲を監視していた。
何か動きが有れば即座に連絡出来る体制だ。
同時に各猟兵から届けられた情報を纏めて皆へを伝える役目も負っている。
とは言えそうそう何かが起こる訳でも無い。
大半の時間は幾分まったりとしながらお茶を啜り煎餅を齧っている。
そして付けっぱなしにしている卓上の通信機からは多少気の抜けた声が届いてくる。
『あ、クロダイ一貫くださーい』
「ちくしょう!文字通り美味しい役目を!」
おどけ半分妬み半分で声を上げるデナイル。
会話の相手は富永寿司に残り、店主の護衛を勤めているユース・アルビトラートルだ。
いつ相手が仕掛けてくるかも解らないので念の為にと残ったのだが、一人悠々と寿司を食べながら安楽椅子探偵を気取っている。
とは言え新しい情報が届いたら一緒に考えてくれる為、整理される情報の精度は高まっている。
その点で言えば立派に役目をこなしていると言えなくも無いが、やはりあの美味しい寿司をゆっくり堪能しているのかと思えば嫌味の一つでも言いたくなるのは人情だろう。
「と言うかユースさん小食じゃ有りませんでした?」
『いやぁ、そうなんだけどね。何だか此処のお寿司は幾らでも入っちゃいそうなんだよ。これも大将の腕が良いからかもね!あ、えんがわくださーい』
「ちくせう……!ちくせう……!」
先程お腹一杯食べたとは言え、こうも聞かされ続ければ小腹も空いてくると言うもの。
仕方なくぱりぱりと煎餅を齧るが、何処か負けた気がするのは何故だろうか。
「事件を解決したらお腹一杯食べてお土産の押し寿司も買って行きましょう……!」
決意を胸に秘めていると手元の通信機が光る。
スイッチを入れるとスヴェトラーナから面白い報告が届いた。
証拠はまだ何も無いが、一考に価する推理。
『なになに、何か面白そうな話?』
嗅覚が働いたのか、通信機越しにユースの弾んだ声が聴こえる。
「確かに面白い話です。新展開を予感させる情報で、テレビだったら間違いなくコマーシャルが流れ出しますね」
『ほほうほうほう♪さ、勿体ぶらずに』
「スヴェトラーナさんが奉行所で見付けた情報です。一つ目は水霖亭の主人、どうやらこの町に来る前は江戸で傘職人をしていたとか」
『傘職人?それはまた思い切った転職だね』
「ええ。此方に来るまでは宿の経営所か人を使う事も無かったそうですよ」
『成程。で、一つ目って言ったからには二つ目もあるんでしょ?』
「その二つ目が問題ですよ。何でも江戸の関所の近くで、身元不明の男の遺体が見付かっていたそうです。手形や身分を証明するものも無く、損壊が激しくそのまま名無しの権兵衛として葬られたとか」
『成程……成程成程♪』
実に楽しそうな声を上げるユース。
情報を得ただけでこうも早く物語を組み上げると言うのは一種の才能だろう。
『つまりこんな事が有ったかも知れない訳だ。水霖亭の主人は元の主人が亡くなったと知らされこの町へ向かっている途中、何者かに殺されてしまう。下手人は本人確認が出来ない様に遺体を損壊させて手形を奪い、本人に成り済まして関所を潜り、そのまま水霖亭の新しい主人として居座っている、と』
「今の所証拠は有りません。潜入組の集める情報次第でしょうね」
『そうだねぇ、出来ればこの想像は外れていて欲しいものだけど……』
「『当っていたら只じゃおかない』」
期せずして二人の声が重なる。
思わぬ方向から新たな可能性を見せ始めた今回の事件。
何が正しく何が間違っているのかを見定める為に、次なる情報の収集をせねばなるまい。
今の考察を皆に通信機を介して伝えた後で、デナイルは思い出した様に言う。
「そう言えば一つ気になる事が有るんですよ」
『うん?』
見下ろす通りには賑やかな呼び込みの声や行き交う人々の話し声が飛び交っている。
過ぎ行く人達も笑っていたり焦っていたり、実に情緒溢れる光景が広がっている。
その中に異質なものは一つも無い。
「先程から誰も浪人達を見掛けたって言わないんですよね。勿論僕の場所からも見えていません」
念の為にぐるりと見渡してみるが、やはり浪人らしき姿は見えない。
「一体、何処で何をしているんですかね?」
一方此方は水霖亭への潜入組。
やくざ達が居ると目される部屋の近く、普段は使っていない家具や置物を置いておく倉庫の物陰から周囲の様子を窺う小さな影が一つ。
アリルティリア・アリルアノンがやくざ達を訪ねてくるものや、逆に何処かへ出かけようとするやくざが居ないかを見張っていた。
「お金を貰う前からどんちゃん騒ぎとはいいご身分です!」
ふんすふんすと気合を入れながら周囲の様子を窺う。
本格的な潜入と言うか隠密行動は仲間に任せて、彼女は入り口の監視と囮役を担った。
大人が見張っていればやくざ達や宿の使用人達もそこまで警戒はしない。
今の所は離れに酒や肴を持っていく女中くらいしか通っていないが、それはそれで正面から直接訪ねての接触は無いと言う情報が手に入る。
仲間達の手に入れた情報如何によってはこれから接触するのか、それとも既に接触していて如何行動する予定なのかも解るだろう。
「ふっふっふ、完璧過ぎる作戦です。よもやこんな所に敵が潜んでいるとは気付かないでしょうし」
ドヤ顔で見張り続けるアリルティリア。
それを遠巻きに見詰める姿があった。
「ねーねー、あの子何してるのかしら」
二階の部屋を掃除していた女中の一人が同僚の女中の肩をつつく。
同僚はちらりとそちらを見て、動かしていた手を止めた。
「あぁ、あの子さっきからあそこに隠れてるのよ」
「何でまた?」
「ほら、あの年頃の子って流行の物の真似して遊んでるじゃない。大方こないだの旅芸人一座がやってた演目の主人公になりきってるんでしょ」
「あー、私見に行けなかったのよねー。何やってたの?」
「大江戸を股に掛ける正義の隠密、クノイチ小町。ちょうどあんな風に潜入して盗賊の住処から情報を抜き取っていく場面も有ったのよ」
「なるほどねぇー。でもあの先って離れでしょ?危なくないの?」
「大丈夫でしょ。何か有ったら直ぐにお役人様がすっ飛んでくるわよ」
「それもそうね」
そんな風に噂されているとは気付かず、アリルティリアは見張りを続ける。
暫く見張っていたが、やくざと接触していると思しき人は居なかった。
そろそろ暇を持て余し始めてきた頃、急ぎ足で戻って来たやくざが一人。
「ん、あれ……?」
極薄い気配だが、そのやくざの後ろに付いて行く何かの小さな影。
「あっ、桜ちゃんの雀ですね!」
「さて、後は上手い事情報を吐いてくれるのを待つだけだが」
巫女服姿の少女の顔に付けられた赤い鬼の仮面。
神代・凶津とその宿主である桜の二人は水霖亭近くの茶屋でのんびりとお茶と団子を楽しんでいた。
直接乗り込まずともユーベルコード【追い雀】である程度の情報は手に入るので幾分気が楽だ。
流石に他の仲間達の様に隠密に長けている訳では無いので、こう言った手段で追い詰めていくのが一番良い。
「っと、そろそろ丁度良いくらいか」
団子を齧りながら意識を式神へ向ける。
聞こえて来たのはやくざ達の会話。
『三吉が役人に捕まった』
『何?おいおい、大人しくしてろって言われてただろ』
『一人で艶本屋を冷やかしに行った帰りに道行く女にボッコボコにされてたんだとよ。俺はそこまで面も割れてねぇから普通に聞き出せたんだが』
『あいつから色々と話が漏れるって事は無ぇだろうな』
『俺等も含めて大した事は知らされて無いから大丈夫だろ。あの怪しい浪人達の場所知ってんのは親分とあの旦那くらいだからな』
ほぅ、と小さく息を吐く。
あの浪人達の場所、と口にした。
それは即ち、別の場所に浪人達が固まって居ると言う事。
(逆に言えば今は一般人とそう変わらないやくざ者しか居ないって訳か。或る程度動きやすくなるかもしれないな)
通信機を起動し情報を伝えていく。
これで手に入れたい情報がだいぶハッキリとしてきた。
水霖亭の主人に関する事柄・浪人達の居場所・その他役立ちそうな情報。
中でも一番手に入れたいのは、やはり浪人達の居場所だろうか。
伝え終わった所で再びやくざ達の雑談が聴こえて来る。
『そう言えば何でこっちはこんなに人気が無いんだ?』
『あぁ、今えらい美人の花魁が来てるんだ。生憎親分が居ないから取り敢えず客人対応でやってるんだが、あわよくばお近付きになろうと鼻の下伸ばして刺さってるって訳よ』
『なぁるほど。お前は……あぁ、そういやお前男色家だっけか』
一部非常にどうでもいい情報も有ったが、どうやら他のやくざは先に入り込んでいた彼女に熱を上げているらしい。
「何事も無けりゃ良いんだが」
大勢の下心溢れる男達が遠巻きに眺める中、アマータ・プリムスは煙管からぷかぷかと紫煙を燻らせて詰まらなそうに視線を投げ掛けていた。
ユーベルコード【Date et dabitur vobis】を使い人形『アリウス・プーパ』を傍付きの童女姿に変装させ、自身は花魁姿で堂々と正面からやくざ達の下へ乗り込んだ。
スタイル抜群の灰色の髪の美女と、金髪碧眼の童女と言う組み合わせは否が応でも衆目を集める。
事実、周囲の男達はだらしない笑みを浮かべて小声でひそひそと品評をしていた。
中には童女に扮したアリウスの方が良いと言っているのも居る辺り業が深い。
(好き勝手品評する割には、自身が品評に値する程の容姿では無い様ですが)
冷めた目を向けるアマータ。
軽蔑を乗せた視線の所為で何人かが自分の内に秘めた扉を開いてしまった事には気付いていない。
先程も何を調子に乗ったのか強引に迫ろうとした戯け者が居たので、腰に回そうと伸ばしてきた手の甲を思い切り煙管で打ち付けてやった。
「わちきに触るんはよしなんし。お代がまだでありんすよ?」
痛みに悶えながら小声で悪態を吐いてすごすごと引き下がる男を見遣りながら、密かに溜息を吐く。
(そこで怒りもせず引き下がる辺り意気地も度胸も有りませんね。これではやくざと言うよりも只のチンピラ、それも卑屈で自省する事の出来ない社会の塵の類ですか。まだ引き篭もりのニートの方が積極的に面倒を振り撒かないだけマシですね)
この男達を取り纏めている筈の親分は外出中らしい。
何処へ行っているのかは誰も知らない様子で、有益な情報は何一つ得られていない。
逆に言えば、別の場所に重要なものが置いてある可能性も有るので一概に外れとも言えない。
此処で男達を釘付けにして置けば、他の潜入組が注意するのは宿の使用人だけで済む。
(ん、通信ですね。デナイル様、進捗はどうですか?)
簪に取り付けた小さな通信機から極少量の音が流れ出す。
至近距離で耳を寄せてぎりぎり聞き取れるか如何かと言う音量。
『大凡掴めたようです。そろそろ撤収して構いませんよ』
(解りました。それでは帰るとしましょう)
通信を切って煙管の火を落とし、すいと立ち上がる。
「刻限にありんす。親分には宜しくお伝えくんなまし」
「おぉ?もう少しで帰ってくると思うからもうちょい待っててくれよ」
「そうそう、このまま帰したとあっちゃ俺達が怒られちまう」
道を塞ぐように立つ男達。
ニヤニヤと下劣に笑う姿に多少イラっとしたので、アマータは少しだけ力を入れて煙管を横に振った。
ひゅん、と風を切る音が鳴る。
少し遅れて、男達の鼻頭に横一文字の赤い線が走り、ぷくりと血が浮き出てくる。
煙管を走らせて浅く斬ってみせたのだ。
オブリビオン相手には使い所は無いが、一般人相手の脅し程度なら十分だ。
「う、うわっ!?血が!?」
「いてぇ!いてぇよぉ!?」
慌てふためく男達に出来る限り抑揚を消した声色でゆっくりと告げる。
「どいてくんなまし」
「「は、はいっ!」」
威圧されてあっさり道を譲る男達。
最後まで情けない所しか見せなかった如何しようもない男達に嘆息しながら、アマータは離れを後にした。
「実にきな臭い話でした、客観的に見れば実にコテコテで胸やけしそうです」
事態の成行きを再度追い直した戸辺・鈴海は呆れた様に息を吐いた。
今彼女が居るのは水霖亭の一階、玄関口からすぐ右手に併設されている甘味処だ。
値段は少々割高だが、砂糖を使ったものが食べられると有ってそこそこの人気を博している。
当然鈴海の前にも人気の品が幾つも並んでいる。
栗羊羹、カステラ、三食団子、最中。
少し渋めのお茶と合わせるとこれまた絶品。
「いやぁ、話を聞くだけでは悪いと思っていましたがまさか甘味処が有るなんて」
上機嫌にカステラを頬張る鈴海。
ざらりとしたザラメが舌の上で溶けて行く感覚と、しっとり沈み込んでいく様な甘味が絶妙だ。
「うふふ、お客さん一杯頼んでくれるから有難いわ」
そう言って微笑むのは甘味処を取り仕切っている若い女中だ。
高い分余り量は出ないのだが、今日は鈴海のお陰で普段の三倍以上の儲けが出ている。
食べ終わった甘味の皿が幾つも重ねられており、栗羊羹に至っては既にお代わりを二回もしている。
久し振りの上客と言うのも有って、女中は鈴海の世間話に付き合ってくれるらしい。
「そう言えば最近離れに荒っぽい人が泊まっているとか聞きましたけど」
「あぁー、あの人達ね。あんまりこっちには来てくれないから詳しい事は解らないのよ。男の人って甘いもの苦手な人が多いのよね」
どこかほんわりとした口調で喋る女中。
頬に手を当てる仕草も妙に似合っている。
「あ、でも親分さんは時々おまんじゅうを食べに来るのよね」
「そうなんですか?」
「ええ、見た目は少し怖い感じだけどおまんじゅうが好物らしくて一度に五つも食べていくのよ。ちょっとかわいいわよね」
うふふと笑う女中に釣られて鈴海も笑いを零す。
やくざの親分がおまんじゅうをパクパク食べる絵面は中々に愉快だ。
「今日は来てないんですか?折角ならちょっと見てみたい気もしますが」
「今日は確か、朝から旦那様と一緒に新しいお店の場所に行ってた筈ね」
「新しい店ですか?」
首を傾げていると女中はすんなりと教えてくれた。
「何をやるかは詳しく聞いていないのだけど、旦那様が新しい商売を始めようとしているの。それで親分さん達をそのお店の用心棒にしようとしてるんじゃなかったかしら」
「ほほー、そうなんですね。あ、お茶のお代わりをお願いします」
「はい、直ぐお持ちしますねぇ」
立ち上がって湯呑みを持って裏へ下がっていく女中を見送りながら、今得られた情報を脳内で整理する。
やくざの親分は今水霖亭には居ない。
現時点で主人と親分には何らかの利害関係が有る。
(聞き出せそうなのはこんな所ですか。流石に証文の場所は知らないでしょうし、聞いても教えてもらえないでしょうね)
栗饅頭を口に放り込んで、鈴海はお腹をさする。
「この辺にして置きますか。腹八分目とも言いますし」
時は少し遡る。
潜入組の中でも直接証拠を探して動き回る四人は互いにかち合って時間を無駄にしないように担当する場所を予め取り決めておく事にした。
月代・十六夜は宿の一階、月鴉・湊は宿の倉庫、時雨・零士は宿の二階、忍足・鈴女は離れの奥。
「それじゃあ皆、用意は良いかな?」
最年長の湊が音頭を取る。
証文を始めとした様々な証拠が有るとしたらこの宿の何処かだ。
上手く見付け出す事が出来れば事態は大きく動き出す事になるだろう。
「じゃあおじさんと十六夜君はユーベルコードで透明になるとしよう。ちょっとぞくっとするけど我慢してね?」
そう言って【咎は無となり消えていく】を発動する。
本来は殺気を向けた暗殺対象と自分を不可視にし、秘密裏に葬る際に使うものだ。
が、透明になるのなら潜入には持って来いの性能だろう、と言う事で早速活用してみた。
殺気を向けられた十六夜が反射的にびくりと震えるよりも早く、互いの姿が透明になる。
「体温や物音なんかは消えないから注意してね」
そう言い残してするりと動き出す湊。
動き出した気配に続いて、残った三人も動き出す。
湊が向かった先は宿の裏手に有る大きな倉庫だ。
閂に南京錠と中々に厳重な門構えとなっており、そのまま正面から侵入するには骨が折れそうだ。
ぐるっと回ってみたが他に侵入出来そうな窓も無い。
「となればやっぱり正面かね」
鯉口を切り、そのまま滑らせる様に抜き放ち納刀する。
音も無く南京錠が落ち地面に転がる。
後は閂を脇にどければ倉庫の入り口は開いたも同然。
素早く倉庫の中へと入り込むと、日が差さない場所特有の粉っぽい空気が鼻を刺激する。
暗視が利く為周囲を探るのに問題は無い。
見ればそれ程埃は積もっておらず、定期的に掃除されているのが解る。
「溜め込んだ店の金に昔の帳簿……」
積まれた木箱の中身を確かめつつ面白いものは無いかと探るが、どこの宿の倉庫にも眠っていそうなものばかり。
「こりゃ外れだったかな?」
手前側の木箱を粗方調べ終えた湊は苦笑しつつも奥へと向かう。
奥には更に古いものが所狭しと積み上げられており、ちょっとした骨董品屋の様な雑多さが感じられる。
その中で、一つ気になるものを見付けた。
「これは……通行手形かな?」
端の部分に変色した黒い染みの有る手形。
その乾いた色合いを、湊は良く知っていた。
「血か。これはさっきデナイル君が話していたちょっとした物語、とやらに出て来た手形そのものかな」
思わぬものを見付けた湊。
その後も色々と探してみたが特にこれと言ったものは無さそうだ。
同じく姿を消していた十六夜。
彼は宿の一階をうろついていた。
音を立てぬ様静かに移動し、時には宙を蹴って廊下を進む。
炊事場は流石に人が多かったのでスルー、使用人の部屋を通り過ぎ、主人の使う部屋までやって来た。
気配を探ってみるが中に人が居る様子は無い。
そっと襖を引いてみると、そこは綺麗に整理整頓された部屋だった。
調度品も主張の強いものは無く、至ってシンプルに纏められている。
机の上には書き掛けの書が有る。
「月……別、水……あぁ、出納帳みたいなもんか」
漢数字が多く読み難いが何となく書いてある事は読めた。
流石にこれを持って行くのは宿自体に悪影響が出てしまうだろう。
それに物を探るのは皆の役目。
主人の話を盗み聞きしたい所だが、何処へ行ったのか気配が無い。
座布団も冷えていた為、水霖亭へとやってくる前に何処かへ出掛けたのかもしれない。
「仕方ない、その辺でもうろついてみますかっと」
廊下に出てひょいひょい進んで行くと、先程通り過ぎたのとは別の使用人の部屋から話し声が聞こえる。
これ幸いと聞き耳を立ててみる十六夜。
「しっかし旦那様も大忙しだな。今日も行ってるんだって?」
「あぁ、今日は朝からだな。まぁ新しい店を建てようってんだ、そりゃあ気合入れて大工の連中に差し入れを持っていくってもんだろう」
「にしても助っ人屋ねぇ。随分と思い切った事をするもんだ」
「どんな仕事にも対応出来る奴を抱えて、繁忙期に貸し出すか。一体何処でそんな潰しの利く連中を見付けて来たんだか。聞けば全員浪人だったって話だが」
「江戸に居た時にでも縁を繋いだんだろうさ。何せ天下の江戸だ。人も仕事も山ほど有るんだろうよ」
「へっ、羨ましい話だねぇ」
(浪人達を……ははぁん、そういうカバーストーリーか)
この町での拠点を作る心算だったのだろう。
浪人達が全部オブリビオンだとするなら、随分と悪知恵の働く奴等だ。
(さて、出来れば場所も聞いてみたい所なんだが)
その時、十六夜の耳に此方へと向かってくる足音が届いた。
(おっと、此処等で退いておくか)
素早く足音の反対方向へと歩き出し、手近な部屋から外へと飛び出し街中へと消えていく。
使用人の部屋からはサボりを咎める女中の声が響いていた。
「さて……初っ端から当てが外れたな」
小奇麗なやり手の若旦那風の格好で座椅子に座る零士。
金払いの良い客と思わせて主人と接触を持とうとしたが生憎と留守らしい。
いつ戻るかも解らないとの事で、本人から情報を聞き出すのは諦める事にした。
となればやるのは二階の散策。
何かしらの目ぼしいものが有れば良いのだが。
「それじゃあ楽しい家捜しタイムと良くか。変身!」
『フュージョン。フォームチェンジ、アクセル』
普段のコンバットフォームを経ず、直接アクセルフォームへ変身する。
素早く移動するにはこれが一番だ。
少し町を観光してくる、と女中に言付けてあるので部屋に入られ不在を不審がられる事も無い。
正に万全の態勢で、零士は廊下を行く。
誰かとかち合いそうになる時は自身の第六感を駆使して部屋に逃げ込んだり天井に張り付いたりしてやり過ごす。
気分はステルスアクションだ。
「意外に楽しいな……!」
ちょっとしたスリルを味わいながら目的の部屋に辿り着く。
一階が休む為の私室なら、二階は接待も兼ねた執務室。
広い室内には品の良い調度品が纏められ、何処か隔絶した雰囲気が有る。
「ちゃっちゃと探すか」
個人的に持って帰りたいものも数多く有るが、ぐっと堪えて捜索を始める。
とは言え調べる場所はそう多くない。
比較的アッサリと零士はとあるものを見付け出した。
「これは……地図か?こっちは印の付いた店の図面か……助っ人屋?」
詳細は良く解らないが、主人が新しい商売を始めようと手を広げているとの噂だ。
恐らく、これがその新しい商売に関わるものなのだろう。
「こんな所だな。見付かる前に戻るか」
懐に二枚の書類を仕舞い込んで、素早く窓の外へと身を投げ出す。
直ぐ様人目に付かない路地裏に駆け込んで変身を解けば、もう誰も正体に気付く事は無い。
「いよっと」
ユーベルコード【ネコ式よじ登り法】を使い軽快に離れの天井裏へ上る鈴女。
正面でアマータが注意を引き付けている間に適当な部屋へ入り、押入れの天板を外して侵入完了だ。
「まあ……あんだけ啖呵きった手前……ねぇ」
呟きながら中腰で進んでいく。
幾分埃っぽいが咽る程ではない。
蜘蛛や鼠も居ないので比較的快適な部類に入るだろう。
梁を跨いで目星を付け『鉄針』で静かに穴を開けていく。
「此処は違うなぁ」
目的はやくざの親分が使っているであろう部屋。
何かしらの証拠品や手掛かりが有るとしたらそこだ。
そうして数度、天井に小さな穴を開けていく。
「お?」
それまでの部屋とは違う、豪華な室内が見える。
人の気配も無いので端の方の天板を外してするりと着地。
見渡せば明らかに偉い人が寛ぐ様な部屋になっている。
嫌味にならない程度に金が主張する屏風、綺麗に塗り上げられた行灯、良く解らないが高級そうな雰囲気の掛け軸、これまた見事な壷。
見れば見る程金持ちの部屋だ、と感じてしまう。
「っと、惚けとる場合やない」
意識を戻した鈴女は引き出しや戸棚を開けて物色していく。
「これは盗みやないんやで……そう、情報収集……正義の行い故」
薄く口許に笑みが浮かんでいる気がしないでもない。
ともあれ幾つ目かの引き出しを開けて、遂に目当てのものを見付ける。
「有った、富永寿司の証文」
今回最も手に入れて置きたかったものだ。
素早く懐に仕舞い込んで、再び天井裏へ。
音を立てないように移動して最初の部屋へ戻る。
しかし此処までの動きに誰一人気付いた様子は無い。
些か拍子抜けしながらも、鈴女は離れから脱出した。
通信機で『証文奪還』と送って富永寿司へと戻る。
「にしても三下しかおらなかったけど、親分は何処へ行ったんやろ……?」
本来なら悪巧みの場面で聞き耳でも立てたい所だったが、ほぼ全員が釣り出されていてそれも叶わず。
肩透かしなやくざ達に呆れを覚える鈴女であった。
大成功
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第3章 集団戦
『浪人』
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POW : 侍の意地
【攻撃をわざと受け、返り血と共に反撃の一撃】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 怨念の返り血
【自身の返り血や血飛沫また意図的に放った血】が命中した対象を燃やす。放たれた【返り血や血飛沫、燃える血による】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ : 斬られ慣れ
対象のユーベルコードに対し【被弾したら回転し仰け反り倒れるアクション】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
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数々の情報を持ち帰った猟兵達。
一軒の寿司屋を巡る騒動も愈々大詰めだ。
幸い、浪人達が滞在しているであろう場所は既に見当が付いている。
町から外れた場所にある建築途中の大きな店。
周囲には建築物も無く、人通りも無い。
今から向かえば丁度夕暮れ前には着く。
大工達も一日の仕事を終え、家路に着く頃だろう。
つまり気兼ね無く戦えると言う事だ。
奴等の悪事を暴き、序に気になる事は直接聞き出し、浪人オブリビオンの野望を打ち砕け!
ツーユウ・ナン
浪人をこれだけ集めるとは、どこかで戦さでもおっぱじめる気か?
ならその戦さ、わしらで全部買ってやろうじゃないか。
どんな悪事を企んでおるのか知らんが、その謀ここで潰させてもらうぞ。
わしもこの街の事をちいと気に入っておるんでな。
◆攻撃を【見切り】接近戦に持ち込む
練った氣を湯気の様に立ち上らせて手に纏い【オーラ防御】化勁と組み合せる事で武器や飛び道具を徒手で受け捌く
・腕を取り擒拿【グラップル】で極め投げ
・白刃取り【武器受け】から捻り倒し
『UC』
・震脚を響かせて突き【鎧無視攻撃】
「哈ハ!」
・交叉法【カウンター】で頂肘
・瞬時に入身で回り込み、横合いから靠撃【吹き飛ばし】【範囲攻撃】
「哼フン!」
ユース・アルビトラートル
控えおろー……控えおろー…………控えおろーっつってんでしょうがー!(ユーベルコード発動)というわけで、ボクを前に暴力は価値なし。聞きたいこともある。そのまま【戦闘知識】で援護もするよ。
それで、この浪人たちは猟兵でどうにかするとしても、ここまで来て一連の事件自体を放置して帰るのはね。どうしても解決しなかった疑問3点を詳らかにしたい。
・どうやって親方が富永寿司の証文を取得したか?
・一連の他殺事件における直接証拠(取引文書等)は存在するか?
・寿司屋店主の殺害計画と、その動機は?
……勘が正しければ、浪人たちが全て説明できるはず。それが判れば、水霖亭現主人と親方については町奉行に一任して帰ろっかな!
テラ・ウィンディア
やっぱりおれはこういう闘いの方が解りやすくていいな!
突入時点で周辺の状況を【戦闘知識】で分析
効率的に殲滅しやすい密集陣形に向けてグラビティブラスト
そのまま【空中戦】で浮
属性攻撃
全身に炎属性付与
【早業】で槍と太刀と剣を切り替えながら暴れまわる
中距離には槍で【串刺】
近距離は剣と太刀で切り裂
第六感と見切りを駆使して返り血含め回避を試み
更に【分身】も交えて余計に敵の命中精度をも粉砕!
これでも相応に実戦は潜り抜けてきているんだ!
やすやすとおれを切り捨てられると思うなよ!
常に暴れまわりながら冷徹に周辺状況を把握して【戦闘知識】も踏まえ効率的且つ確実に殲滅を優先
可能な限り親分或いは其れに類する敵の捕捉を試み
時雨・零士
水霖亭の偽旦那にオブリビオンのやくざ共。
テメェ等の悪事も大体の思惑も掴んでる…これ以上好き勝手させねぇよ。
テメェ等の悪事はここで潰すッ!
天下自在符を見せつけながら「変身」!
更にクロスメモリでストームドラグーンへ【フォームチェンジ】。風の鎧で敵の血や攻撃を防ぎ、【属性攻撃】竜巻で動きを封じてカオスエクストリーム!
更にブレイズフェニックスへ【フォームチェンジ】!炎を纏った拳や蹴り【グラップル、怪力、2回攻撃、属性攻撃】の連撃から最後は【捨て身の一撃、力溜め、ジャンプ】ロストプロミネンスで仕留めるぜ!
さて、始末がついたら、富永寿司で大将に報告して祝杯あげようぜ!目いっぱい堪能だ!
※アドリブ歓迎
神宮寺・絵里香
≪心情≫
・これまた随分と大掛かりな計画だな。やくざの親分が考えるには
些か小賢しすぎる。誰かさらに裏で知恵を貸した奴でもいるのかね。
・まあ…その辺の裏はそういうの考えるのが好きそうな奴に任せるか。
≪戦闘≫
・【高速詠唱】からUCを発動。第三の能力で血を浄水。
体外に排出された血なんぞ、汚れた水以外の何物でもない。
攻撃力を強化。
・黒剣と傘を使い戦闘。【水属性】と【破魔】の力を纏い、
斬った先から血を浄水。
・基本的には黒剣を伸ばし【薙ぎ払い】【串刺し】にして攻撃。
・【第六感】【戦闘知識】を基に攻撃に対処。
武器攻撃は傘で【武器受け】し、【グラップル】で蹴とばし距離を
取った上で黒剣で処理。
アリルティリア・アリルアノン
うわー…最初から怪しかったとはいえ、調べてみたら真っ黒でしたね
これはお寿司屋さんが狙われたのも「新しい商売」とやらと関係があるのか、
別の目的があって大将と成り代わる必要があった…という所でしょうか
なんにせよその方らの悪事、すでに明白である!
神妙にお縄につけー!
…まあオブリビオンだし素直に言うこと聞くわけないですよね
こうなればサムライ風のバトルキャラクターズを召喚、
額の文字が「11」「10」の2体になるよう合体させて戦わせます
さあS三郎、K之進!懲らしめてやりなさい!
アリルは返り血浴びたくな…
もとい、司令塔として後ろでどっしりと構えてますよ!
時々カーン!と睨みを利かせてみたりするのです
夕暮れを目前に控えたとある町外れ。
建築途中の大きな店の裏に設けられた、これまた大きな東屋でゆったりと茶を飲む男達。
その顔には厭らしい笑みが浮かんでおり、見た者は十人中十人が悪巧みをしている所だ、と答えるだろう。
殆どは着流しを着た浪人風の者だが、二人だけ他とは違う出で立ちの男が居る。
一人は髷を結わずやや派手な色合いの小紋を着て、もう一人は禿げ上がった頭と作務衣に似た所々擦り切れた小袖を着ている。
共通しているのはあくどい顔付きだ。
「そっちの盆暗はどうだ?」
「何、気付きやしねぇよ。どいつもこいつも頭の回らねぇ屑ばっかりだ、掃除出来るとありゃあ町人からの覚えも目出度くなるだろうよ」
「ふっ……悪知恵の働く奴だ。それでこそ悪党よ」
「何言ってやがる。てめぇも似た様な事考えてたじゃねぇか」
「それもそうだな、はっはっは」
笑い声を上げる男達だったが、浪人の一人が笑い声を止め、鯉口を切って立ち上がる。
即座に続いた男達が東屋から飛び出し、周囲の様子を窺う。
「覗き見とはお上品な趣味じゃねぇか。姿見せろぃっ!!」
胴間声を張り上げる小袖を着た禿げ頭。
その声に応じて、店の影から猟兵達が姿を現した。
「気付くか。丸っきりの三下と言う訳でも無さそうじゃのう」
赤い瞳を剣呑に向けながら、ツーユウ・ナンは好戦的な笑みを浮かべる。
「猟兵だと?もう嗅ぎ付けてきやがったか!」
「……いや、これは好機かもしれん」
気炎を上げる禿げ頭を、小紋の男が左手を上げて制する。
「此処でこやつ等を葬り去れば次の者達が送り込まれる迄、しばしの時間が稼げる。動き出してしまえば流れと言うものはそうそう簡単には変えられぬ。おまけに猟兵の持つ、天下自在符だったか。アレを手に入れられれば更に動き易くなろうて」
「ははぁ、そりゃあ良い」
殺気の中に欲を紛れさせた視線を向けてくる男達。
その様子に、ユース・アルビトラートルが疑問の声を上げる。
「いやいや、何でそっちのやくざの親分らしき人と水霖亭の主人らしき人も好戦的なの?ほら、こっちには天下自在符が有るんだよ?ご存知天下の三つ葉葵だよ?」
「ふはははは、そんなもの鼻をかむちり紙にしかならんわ。それ!」
掛け声と共に二人は服の裾を掴み、一気に上へと引き上げた。
ばらり、と風を叩きながら舞い上がった小紋と小袖の下から他の男達と変わらぬ浪人姿の男が現れる。
一拍遅れてぽとりと落ちるのは二つの鬘だ。
「見ての通り、儂等も貴様等猟兵を殺す刺客【おぶりびおん】よ!」
「な、なんだってーーー!!?」
「すげぇ!テレビで見た時代劇特有の謎早着替えだ!」
割とたどたどしい発音で告げられた情報に驚きを露にするユースと、思わず声に出してしまったテラ・ウィンディア。
「成程、オブリビオンが全てを回していたと。それにしては随分と迂遠な事をするもんだ。宿屋の主人に成り代わるばかりか、そのまま潜伏していたとは」
神宮寺・絵里香は大掛かりな計画を練っていた浪人達を油断無く見据える。
正直な所、誰かさらに裏で知恵を貸した奴でもいるのかとも思ったものだ。
「どんな悪事を企んでおるのか知らんが、その謀ここで潰させてもらうぞ」
周囲の浪人達を見渡し威圧するツーユウ。
何も知らぬ猟兵共に何が出来る、と血気に逸る者達を主人に扮していた男が制する。
「まぁ待て。どうせこやつ等は既に風前の灯火。冥土の土産に教えてやるのも良かろう」
その声に動きを止めつつも警戒は怠らない浪人達。
どうやら、この男が彼等の頭脳役らしい。
男は鼻を鳴らして、正面に居たユースを見ながら語る。
「今の世の中、世を回すのは金。自ら手を下すのも良いが、鐘で哀れな人間共を操るのもまた一興。元の主人を謀殺し呼び出した後釜を始末して成り代われば、好き勝手に使える大量の金が手に入る。噂を流すも店を建てるも自由自在よ」
「水霖亭の主人に納まったのは金の為、か。……うん、それだけの金が有るのならわざわざ一軒の寿司屋に嫌がらせをして目立つ必要も無いんじゃない?」
「それ故のやくざ者よ。いや、やくざとは名ばかりのどうしようもない屑共だな。まぁ使い捨てるには後腐れなくて丁度良いが」
「どう言う事?」
首を傾げてみせるユース。
男は興が乗ってきたのか、上機嫌で喋り続ける。
「何、最初に水霖亭の主人を斬り殺した時、偶々あの寿司屋の証文を持っていた奴もその場に居ったのだ。惨たらしく死んでいく様子を見せ付ければ証文を売り渡す証文を書かせる事等、赤子の手を捻る様なものよ」
「証文を手に入れるまでの過程は外道極まりないけど置いておくとして、何でまたやくざを?」
「その答えこそ、新しい店よ」
男は建設途中の店を指差す。
新しく作られる店の名は助っ人屋。
「新しく始めた店を軌道に乗せるには良い評判を広める事が手っ取り早い。その為にちょっとしたお芝居をしようと言うのだ」
「お芝居?」
「証文を片手に無理難題を吹っ掛けるやくざ達。話の拗れから店主を斬り殺し無理矢理店を頂こうとする所へ偶然通り掛かった助っ人屋の浪人。無体を働く外道を糾弾すると、あろう事かやくざ達は目撃者を消すべく浪人へと斬り掛かる。見事返り討ちにし、店の主人の仇を取った浪人の噂は瞬く間に広まっていくだろう。此方は店の評判が上がり、町民はやくざ達が一掃されて安心を得、真実を知らぬ寿司屋の主人は仇を討ってもらい成仏出来ると言うもの。一挙両得、いや濡れ手に粟という奴よ」
「予想以上にド外道です
……!?」
「ひでぇマッチポンプも有ったもんだな」
想像を遥かに超える邪悪さに、アリルティリア・アリルアノンと時雨・零士は顔を引き攣らせる。
「そうして助っ人屋として色々な場所に出入りし弱みを握って金を集め、この町を足掛かりとして藩を、ひいては全国を儂等の手中に収めてくれるわ!うわっはっはっは」
「最後だけ流れが雑過ぎる……!」
思わず突っ込みを入れてしまうユース。
とは言え大方聞きたい事は聞き出せた筈だ。
「ぺらぺらと喋ってくれて有難いよ。これで遠慮は要らないね」
聞きたい事を聞き出したユースだったが、男は不敵な笑みを崩さない。
「猟兵とはお目出度い奴等よ。この儂がたかが虫けらを哀れに思うだけで此処まで喋ると思っておるのか?」
その言葉に呼応するかのように、どこからか浪人達がわらわらと集まって来た。
周囲を取り囲む様に動く浪人達を眺めながら、男は上機嫌に笑う。
「仕込みとして手頃な奴を襲う為に散って居った仲間達が戻るまでの時間、稼がせてもらったぞ。よもや卑怯とは言うまいな?」
「ひきょーだぞ!!」
「言っちゃうんだ」
人差し指をビシっと突き付けるテラに思わず突っ込むユース。
とは言え如何にも数は多い。
人数差を見て厄介そうに顔を顰める者が多い中で、ツーユウと絵里香は涼しい顔をしていた。
「よくも数だけ揃えたもんじゃのう。敵の数は此方の約五倍じゃな」
「だったら対等だな」
ひゅんと風を切って『黒蛇剣 ウルミ』と『擬槍 蛇乃目』を構える絵里香。
「考える時間は終わった。となれば、後はブッ飛ばすだけだよなァ?」
「そう言う事じゃな。その戦さ、わしらで全部買ってやろうじゃないか」
何とも頼もしい二人に背中を押されて、皆も構える。
それを見て、男は馬鹿にした様子で声を上げた。
「ならば儂等の野望の礎となるが良いわ!掛かれ!」
互いに得物を構えての戦い。
その中で先ず声を上げたのは零士だ。
「これ以上好き勝手させねぇよ。テメェ等の悪事はここで潰すッ!」
腰元に顕現したベルト『デオルム・ドライバー』の力を最大限まで解放する。
右手に構えたメモリチップを差し込み、雄々しく叫ぶ。
「行くぜ……超変身!」
普段変身の際に発生する光の輪に加えて、嵐を従えた飛竜のシルエットが浮かび上がる。
「デオルム!クロスフォーム!!」
『フュージョンクロス。フォームチェンジ、ストームドラグーン』
眩い光が弾け現れる姿は、普段とはまた違ったカラーリングとパーツを付けたヒーローの姿。
竜の鱗を思わせる深緑の下地に走る、稲妻のエフェクトを模した黄金のライン。
目に当る部分は鋭く吊り上がり、真っ直ぐに悪を見据える強き瞳へ。
両肩の翼爪型のパーツから生み出される風の鎧に、マフラーが激しく棚引く。
その姿は正に、荒れ狂う嵐の竜騎兵。
「てめぇの罪、この俺が裁く!」
「大道芸人みたいな姿しやがって、何を偉そうに!」
「だ、大道芸人
……!?」
折角の決めポーズとセリフに茶々を入れられ憤慨する零士。
「ええぃ、ロマンを解さない奴等だ!」
「ろまんだか欺瞞だか知らんが大人しく斬られぃ!」
「食らって堪るか!」
迫り来る刃をすいすいと交わしながら喉元へのチョップや向こう脛を狙った蹴りで迎撃していく零士。
その度に派手な吹っ飛び方や倒れ方をしていく浪人達。
何事かと思いながら攻撃を仕掛けていくと、その内の一人が忌々しげな声で叫ぶ。
「くそっ、やけに失敗しやがる……!」
「こいつの攻撃を受け流せないだと……!」
その呟きにピンと来た零士はマスクの下でふっと笑った。
先程から様々な攻撃を仕掛けているが、それらはユーベルコードそのものによる攻撃ではない。
変身するまでがユーベルコードであって、殴ったり蹴ったりするのは単なる物理である。
特別な力ではない、ただ摂理に従い起こるだけの現象。
故にこの浪人達が目論んでいる様な、ユーベルコードによる攻撃を無効化したり相殺したりする行動はほぼほぼ無意味である。
唯一利点を挙げるとすれば派手に吹っ飛んでいる事で衝撃の幾つかは逃す事に成功している点だろう。
「ドデカい一撃をお望みとあらば、遠慮無く行かせてもらうぜ!」
零士が両腕を胸の前で交差させると、両肩のパーツから竜巻が流れ出る。
咄嗟に飛び退くが、正面に居た一人は逃げ遅れ竜巻に飲み込まれた。
「うおぉ!?かまいたちか!?」
全周囲を風の壁に囲まれ身動きが取れない浪人。
その浪人目掛けて、空高く飛び上がった零士が降りてくる。
「行くぜ!カオスエクストリーム!!」
雷光を纏い天空から大地へと落ちる必殺の一撃。
切り裂かれた竜巻が四方へと弾け、浪人達を空中へ持ち上げる。
中心に居た浪人は直撃を食らい、断末魔の悲鳴を上げる間も無く倒れて消えた。
「まだまだ!クロスフォーム!!」
間髪入れずに別のメモリチップを差し込む。
『フォームチェンジ、ブレイズフェニックス』
全身が輝き出し、一瞬で新たなフォームへと姿を変える。
額に付いた金色の二本角の飾り、赤熱している様な色合いの装甲、黒くしなやかなインナースーツ、銀色に光るライン、稲妻型から猛禽類を思わせる形へと変化した目に当る部分。
そして背中のランドセル型パーツから吐き出される廃棄熱で翼の様にはためく陽炎。
炎を操り空を翔る、フェニックスの名に相応しいフォームだ。
「せえぃっ!」
飛び上がった零士は空中を自在に動き回り打ち上げられた浪人達を蹴り飛ばして一点に集め、もう一度空高く打ち上げる。
成す術無く空を舞う浪人達。
そこへ一直線に飛び向かう零士。
先程の一撃が天から地へと叩き付ける竜の尻尾なら、今度の一撃は地上から空へと舞い上がる不死鳥の飛翔。
「報いを受けろ!ロストプロミネンス!!」
必殺の飛び蹴り。
浪人達を纏めて打ち貫き、爆炎を撒き散らしながら空に新生の炎を宿す。
「ぐわぁぁぁ!?」
罪を食らう炎に身を焦がし、やがて燃え尽きていく。
天空でそれを見送った零士の背中のパーツから、大量の蒸気が排出されていた。
「さぁ、次はどいつだ!」
「よっしゃ!突っ込むぜ!」
「援護させます!さあ、懲らしめてやりなさい!」
龍の牙から作られたと言う曰くを持つ槍『紅龍槍『廣利王』』を手に駆けて行くテラと、背後から【バトルキャラクターズ】で召喚・合体した侍風のキャラ二体を援護に向かわせているアリルティリア。
即席のちびっこコンビネーションだが、意外にもその連携は上手く噛み合っている。
攻め立てるテラと守備に回る侍ズ。
巧みなスイッチで変幻自在の攻守を繰り出すその動きに浪人達は翻弄されていた。
数度目の打ち合いで遂に槍の穂先が浪人を捉えその皮膚を切り裂いていく。
だが、攻撃を食らった筈の浪人は焦る所かニヤリと笑みを浮かべた。
「掛かったな!その顔を焦がしてやる!」
飛び散った血飛沫が黒い炎を浮かび上がらせながら迫る。
そのまま顔に受けてしまうかと思われたが、それを防いだのはもう一人の猟兵だ。
「大いなる水を司る白蛇の名の下に、水よ我が支配下となれ」
詠う様な声でユーベルコード【水神権限】を発動させるのは絵里香だ。
体外に排出された血も、大きな枠で捉えれば汚れた水である事は間違い無い。
力を失い純水となって地面へと落ち染み込んで行くのを確認して、絵里香は黒剣と傘を構えて檄を飛ばす。
「突っ込むばかりじゃ猪と変わらんぞ。相手の動き・相手の意識、その両方の間隙を突け」
「へっ、そんなまどろっこしい事してるよりも纏めてブッ飛ばすのが良いぜ!見てな!」
槍捌きで追い込んだ浪人達へ掌を向けるテラ。
ニヤリと好戦的に笑って高らかに叫ぶ。
「大地の力……存在の維持を司る力……星の力……我が手に集いて我が敵を滅せよ……グラビティ・ブラスト……往けぇ!!」
ユーベルコード【グラビティ・ブラスト】が放たれる。
読んで字の如く、重力波を砲撃として撃ち出し広範囲の敵を攻撃する技だ。
全身に押し潰す様な圧が掛かり堪らず膝を付く浪人達。
「へへっ、どーよこの威力!!」
「お、チャンスですね!」
得意気にピースサインを出して笑うテラに続いて、意味有りげに浪人達へ睨みを利かせていたアリルティリアが侍ズに指示を出す。
刀を構えた侍ズは範囲から逃れた浪人達の攻撃を華麗に切り払いながら前進し、膝を付いた浪人を討ち取っていく。
アリルティリア当人も、何を思ったか攻撃を仕掛けに飛び出してきた浪人を右手に持った魔法のステッキ『エレクトロ・ルミネイト』で迎え撃つ。
「甘いですよ!」
「うがぁぁー!?」
先端の一番硬い所で脛を思い切り打たれ、堪らず悶えながら転げ回る浪人。
「賑やかな奴等だな。まぁ戦えているのなら良いか」
血飛沫を無力化しつつ、絵里香は黒剣を巧みに操り浪人を相手取る。
「ぐぁっ!?」
「刺し貫かれたままなら血を使えず、反撃も相殺も出来ないだろ」
浪人の胸を貫いたのと同時に刃の形状を変えて抜けない様に大きな返しで行動を阻害する。
身動きの取れない状態で静かに絶命して焼け消える浪人を見送る事も無く、次の相手を探して視線を巡らせる。
「隙有りだぁ!」
「無ぇよ」
背後から斬り掛かってきた浪人の刀を傘で受け、柄を捻り取り出した短槍で浪人の頭を突き刺す。
悲鳴を上げる暇も無く、浪人は湿った炎に巻かれて消えた。
「おらぁ!」
「襲う時に声を上げるんじゃねぇよ、煩ぇなぁ」
隙を突いた心算の浪人の袈裟切りを傘で止めて胴を蹴飛ばす。
もんどりうって倒れる浪人の首を延びた黒剣の刃が斬り飛ばした。
血飛沫が舞うが、それらが効力を発揮する前に空へと溶けて行く。
「歯応えの無い」
「おれの敵じゃないな!」
「さ、どんどん倒しますよ!」
さくさくと浪人達を倒していく三人。
テラは槍から剣と太刀に持ち替えてインファイトを仕掛ける。
何だかんだ言いつつも絵里香の洗練された動きを見て技術を盗んだらしく、一撃で確実に葬る様に立ち回っていく。
見ただけで的確に再現出来る辺り、彼女の戦闘センスは相当なものだ。
これでまだ十歳だと言うのだから果たして何処までその才能は伸びるのか。
アリルティリアは全体を見ながら侍ズに指示を出し、浪人達が好き勝手に動けない様に牽制を交えつつ追い詰めていく。
互いの体が邪魔となり満足に刀を振れなかったり、避けようとした方向には侍ズの攻撃が来ていたり。
思う様に戦えない状態を作り出して追い詰めていく姿には将としての才能が垣間見える。
難しい論理によるものではなく、感覚で戦場の在り方を掴んでいる稀有な少女。
絵里香については今更敢えて特筆する事も無いだろう。
歴戦の戦士であり地力も技術も経験も十分。
戦いを見ながら強襲、遊撃、援護、奇襲、挟撃、支援と縦横無尽の活躍を見せる。
先程の様に時折若い二人へ色々と教授する余裕さえ有る。
圧倒的な実力とカリスマで戦場を支配している、勇将の名に相応しい活躍ぶりだ。
「くそっ、何だこいつ等!」
「出鱈目な動きの癖に隙が見当たらないぞ!?」
思わず悪態を吐く浪人達。
彼等にとっての苦難はまだ始まったばかりだ。
「控えおろー……控えおろー…………控えおろーっつってんでしょうがー!」
悲鳴にも似た声を上げているのはユースだ。
ユーベルコード【法廷警察権】で浪人達の動きを止めて皆の援護に回っている。
その目論見は成功し、対象となったほぼ全ての浪人は動きを封じられていた。
が、一人だけとんでもない方法でこのユーベルコードを抜いてきた浪人がいる。
「ふはははは!貴様の血で染めた座布団の上に幾らでも控えてくれるわ!」
ちょっと残念な感じのするこの浪人。
腕力は他の浪人達と変わらないが、その特異な精神が問題だった。
ユースの法廷警察権は命令に従わない対象を拘束し、その命令に従う以外の動作を禁止して動きを封じるものである。
例えば今回の様に控えろ、と言う命令に対しては殆どの浪人が両膝を地面に付けて平伏した姿になっている。
所がこの浪人に限っては何を如何したのか『ユースを排除した上で従う』と言う謎の解釈を行った事で身体の自由を得ていたのだった。
勿論、本来はこんな事は不可能である。
例えば女性へ挨拶を行うと言う命令の場合極普通にお辞儀をして言葉を交わすのか跪いて手の甲にキスをするのか、と言った風に文化の違いによって此方が出した命令の動作と対象が従った命令の動作に多少の食い違いが出る事は有る。
だがどこの世界に控えろと言う命令を実行するのに命令を出した者を殺してから従う、と言う行動を揺ぎ無い常識を捉えている奴が居ると言うのか。
「絶対頭おかしいよ!」
「おかしくなければ人斬りなんぞ出来んわ!」
「ごもっともな事を!」
刀片手に襲い掛かってくる浪人から逃げていくユース。
と、そこへ割り込む影が一つ。
「哼!」
裂帛の気合と共に放った靠撃。
身体そのものを打ち付ける槌と成して衝撃を与える攻撃だ。
意識の範囲外からの攻撃に堪らず吹き飛ばされる浪人。
「ツーユウさん!助かったよ!」
「遅くなったかのぅ?」
ユースの窮地に駆け付けたのはツーユウだった。
見れば周囲には平伏している浪人以外は見当たらず、遠くにいるのは他の皆と戦っている。
「え、あんな短時間で突破したの」
「どいつもこいつも歯応えの無い奴等じゃった」
右手をぷらぷらと振る姿は何とも言えぬ強者特有の雰囲気に溢れている。
対する浪人も直ぐに起き上がってくる。
知性のパラメーターを全部肉体に振ったようなタフさだ。
「おぬしは他のとは少し違うようじゃな」
「邪魔しやがって!お前も斬り捨ててやらぁ!」
上段に構えて唐竹割りを放つ浪人。
一度目をバックステップでさらりと躱し相手の呼吸を読み切るツーユウ。
練り上げた氣が全身から立ち上り、湯気の様に周囲の空気を燻らせて行く。
浪人が再度踏み込んで来て放った刀を、氣を纏わせた両手で挟み込む。
「おおっ、真剣白刃取り!」
ユースが妙技に目を見開く。
捻り倒された浪人は素早く体勢を立て直し、今度は刀の間合いの外からゆっくりと様子を窺ってくる。
「なんじゃ、見ているだけか?」
「へっ、大口叩くだけは有るが……これはどうだ!?」
素早い踏み込みと共に横一文字に刃が滑る。
並みの者ならばそのまま腹を切られていたであろう一撃。
だがツーユウには通じない。
「呀!」
左膝をかち上げ左肘を落とす。
交叉法のちょっとした応用だ。
人体でも特筆に価する硬さを誇る膝と肘による挟撃が、浪人の刀を捉えた。
キィン、と甲高い音と共に刀が真っ二つに折れる。
「んなっ!?」
「哈!」
動揺した隙を見逃さず、震脚からの正拳突きを放つ。
真っ直ぐに胸を打った手応えが返り、浪人は数歩後ろに下がった。
そのまま片膝を付いて折れた刀を杖代わりにし、ニヤリとツーユウに笑ってみせその身を灰へと変えて消えた。
「ふむ、中々の相手じゃったな」
事も無げに言うツーユウ。
それを隣で見ていたユースは、これが武人かと一人戦慄していたのだった。
大成功
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神代・凶津
浪人共の居場所もわかっていよいよ大詰めだな相棒。
今回は破魔弓でご同僚達の援護に回るとするか。
遠距離から矢を射って敵の射程範囲外から仕掛けるぜ。
時折、【封縛の矢】で奴らのユーベルコードを封じてやる。
さっさと奴らをぶちのめして寿司屋でパーッといこうぜッ!
【使用技能・スナイパー、援護射撃】
【アドリブ歓迎】
忍足・鈴女
ふむ…返り血を攻撃に使うとか随分Mっ気のある御侍さん方やねえ…
つまり…血を出させない様に攻撃すれば良いと
うちのUCにそういうもんは…(きゅぴーん)
「うち血を見るのが怖て…せやから皆はん…『怪我しんといて下さいね』」
と敵を励ますような演戯をしつつUC発動
こっちの攻撃や相手のUCで出血する度に
うちのUCのダメージも乗る上に若干痛みによる隙も作れるやろ
こっそり【忍び足】で近づき
【怪力】に任せた【グラップル】で
首とかコキャっといく【暗殺】スタイルで
敵の攻撃は三味線の糸巻いといた近場の【敵を盾にする】事で回避
さて、腹ごなしの戦闘も終わった事やし…
もう一回お寿司食べにいこか…
(証文破いてもええんやろか)
デナイル・ヒステリカル
【浪人討伐隊】で参加します。
無数のオブリビオンは強敵ですが、それ以上に厄介なのは、この敵の打倒と富永寿司の取り潰しが別の問題であるということ。
皆さんの活躍で証拠は出揃いましたが、まだ決定的ではないかも知れない。
なので、先ずは答え合わせを始めましょうか。
僕は戦闘に先んじて話しかけます。事
件を追って得た証拠を根拠に推測を語り、真相を問いただしましょう。
そして問答の様子をこっそりと記録し、全てが終わった後に証拠映像としたいと思います。
戦闘の際には相手に血を流させない様に気をつけます
仲間が拘束してくれた集団を【範囲攻撃】で攻めましょう
雷の【属性攻撃】でダメージの蓄積と、回避対策で動きの阻害を狙います
スヴェトラーナ・リーフテル
【浪人討伐隊】で参加します。周りと孤立しない様に位置取りをしながら、【世界知識】にある幾つかの【呪詛】で強化された死霊騎士と死霊蛇竜を召喚します。前者は盾とメイスを手に持ち全身を鉄の鎧で覆い、後者はブレスの火力が増大しています。この二体のうち、死霊騎士を自らの護衛として味方が敵の拘束&無力化を完了するまで待ちます。そして、時が来たら一気呵成に死霊蛇竜のブレスで敵を蒸発させます。また、この際も死霊騎士は手元に残しておきます。不測の自体というものはあるものですからね。頼みましたよ、私の盾。しかし、彼等も大変ですね……こんな事になること事態運が悪いです。
月代・十六夜
【浪人討伐隊】で参加。
とりあえず目につく所からさくさく行こう。
【韋駄天足】で相手集団の一番後ろの侍の後方に着地、振り返って型無を抜く【フェイント】をかけて、こっちを向いた相手の手元から【虚張盗勢】で刀を盗む。
一旦離れて【ジグザグフィールド】で足元の高さにワイヤーを張って動きにくくさせてから再度吶喊。
【ルアーリング】や相手の迎撃を誘っての【ステッパー】で急停止で作った隙をついて片っ端から取っていって箱に放り込むぜ。
アマータ嬢の援護が飛んで来始めたらワイヤーを拘束用にチェンジして、抵抗できない相手をワイヤーで縛っていくぜ。
アマータ嬢のと違って俺のワイヤー切れ味ないから…
アマータ・プリムス
【浪人討伐隊】で参加
今回も当機はサポートに動きましょう
指先からフィールムを伸ばし【敵を盾にする】要領で刀を奪い自傷の手段を断つ
そのまま奪った刀は十六夜様に回収していただきましょう
「血が脅威なら一滴も流させなければいいのでしょう?」
UCを発動しアリウスを召喚アルジェントムから【武器改造】で【属性攻撃:氷】のミサイルを【範囲攻撃】で撃たせます
凍らせてしまえば血も流れず動きも止まるはず
その間に当機は十六夜様と協力して武器を失った浪人たちをフィールムで拘束
次に控えるお二人のお膳立て
「フィナーレのお時間です。幕引きは任せましたよ」
デナイル様の撮影はジト目で眺めます
「何をしているんですか……」
テオドア・サリヴァン
「浪人との斬り合いか今回も時代劇な展開だな。」
さっさと奴らを倒して終わらせようか。
浪人とはいえ剣術には長けているし油断ができないな。そうなると少々卑怯だが俺は敵が他の猟兵たちに気をとられている隙に「忍び足」で近づき背後から斬ろう。「妖剣解放」を使用して相手をどんどんきっていくのも敵の攻撃には「見切り」で避けるとしようかな。
「さてと、全てを話してもらおうか。お前たちの悪事とやらを。」
「ふむふむ、これで大体の事は解りましたね。後はこれを後程藩主の元へ届けて説明も加えれば富永寿司のいざこざも解決出来るでしょう」
そう言って『電脳ゴーグル』の録画機能をオフにするデナイル・ヒステリカル。
攻め入るまでは繋がっていなかった浪人達の暗躍と富永寿司との関係。
それを先程ご大層にぺらぺらと喋ってくれた為、解決の糸口が見付かった。
証文は既に確保済み、関係者から違法に奪い取ったのも今証拠が出た、後は浪人達を倒すだけである。
「何をしているんですか……」
その撮影の様子を隣で見ていたアマータ・プリムスはジト目を向けながらデナイルに声を掛ける。
「何って、見ての通り録画ですよ。後々提出しようと思いまして」
そう答えるデナイルだったが、何も知らない一般人が見たら怪しげな青年にしか見えなかった。
電脳ゴーグルを通して録画していたのだが、音量やズーム調整をする為に親指と人差し指でフレームを挟みクイクイ動かしている姿が絶妙に怪しい。
また期待通りに情報を集められた事も合って口元が若干ニヤついていたのもポイントだ。
「寺子屋前に居たら通報不可避ですね」
「酷い風評被害ですよ!?」
思わず突っ込むデナイル。
と、そんな風に遊んでいると痺れを切らした浪人達が声を張り上げる。
「随分と馬鹿にしてくれるじゃねぇか!いつまでその緊張感の無い顔が続くか楽しみだぜ!」
「こいつも地味にディスってきた
……!?」
予想外の言葉の刃を受けて敬語が崩れるデナイル。
とは言え時間は十分に稼げた。
彼等とて、無駄に時間を消費した訳では無い。
「準備完了です」
涼しい顔でスヴェトラーナ・リーフテルが言うのと同時、地面に映し出された召喚陣から二体の死霊が現れた。
一体は鉄鎧を着たメイスと盾を持つ騎士、もう一体は翼を持ち黒い鱗に覆われている蛇。
呼び出す際に呪詛でこれでもかと強化を重ねていた。
突如現れた禍々しい死霊にたじろぐ浪人達。
その隙を突いて、月代・十六夜が飛び出す。
「着いて来れるか?」
大地を踏み締め【韋駄天足】で大きく跳躍、浪人達の背後へと回り込む。
振り向き様に刀に見せ掛けた特殊アクセサリー『型無』を抜き放つ振りをして見せた。
慌てて迎え撃とうと刀を抜く浪人達。
しかしそれこそが狙い。
「――――盗ったっ!!」
フェイントを交えた巧みな体裁きで浪人達の手元から刀を掠め取る。
「うおっ!?」
「しまったっ!?」
得物を失い狼狽える浪人達。
そこへアマータの援護が届く。
「サポートは当機にお任せください」
指先から飛ばした操糸『マギア・フィールム』を使い手前側の浪人達を拘束していく。
同時に刀も取り上げ自傷による血飛沫の攻撃を未然に防ぐ。
それに合わせて十六夜はユーベルコード【ジグザグフィールド】を発動。
張り巡らされるワイヤーの網は浪人達の動きを阻害し、代わりに十六夜の動き易い足場を形成していく。
「なんだこりゃ!」
「くそっ、硬くて切れやしねぇ!」
如何にかワイヤーを退けようともがく浪人達に、十六夜がワイヤーを射出する。
「アマータ嬢のと違って俺のワイヤー切れ味ないからな……その分拘束するには良いか」
「ぬうっ、珍妙な糸使いめ!」
次々と両足首と胴体をふん縛って無力化させていく。
動けなくなった所へデナイルが雷に匹敵する威力の放電現象を起こして意識を刈り取っていく。
「PSIプログラム実行……収斂完了」
ユーベルコード【轟く雷鳴】、彼の使う雷の技の中でも比較的大人しいものだ。
「そもそも正面切っての戦い自体そんなに得意では無いんですけどね」
そんな事を嘯きながら淡々と処理していくデナイル。
あっと言う間に数を減らされた浪人達は攻勢に出るべく前へと出る。
しかし、その歩みは思う様に進まない。
スヴェトラーナの呼び出した死霊騎士の鉄壁の防御を中々突破出来ず、もたもたしている間にテオドア・サリヴァンの剣技が延びてくる。
意識の合間を縫う様に動き回り、浪人達が死霊騎士だけを見た瞬間を狙って剣を一振り。
前後左右問わず、当人にとっては来ると思っても居なかった場所から斬撃が飛んでくる。
「浪人との斬り合いか……今回も時代劇な展開だな」
悪を成敗して回る将軍の如き剣筋で次々と浪人を打ち倒していくテオドア。
予想外の強さに思わず一歩後退さった浪人。
その首が、ゴキリと嫌な音を立てる。
「な、なんだぁ!?」
思わず振り向いた先に立っていたのは露出度の高い着物を羽織った、色香溢れる女性。
いつから居たのか全く近く出来なかった女性に、浪人達は警戒を露に刀を向ける。
それを艶かしい流し目で見つつ女性――忍足・鈴女は言葉を掛けた。
「うち血を見るのが怖て……せやから皆はん……『怪我しんといて下さいね』」
その言葉と同時に発動する【女王様の絶対命令権】。
宣告したルールを破ればダメージを与える、制限型のユーベルコードだ。
血飛沫を基点とした技を持つ浪人に合わせての選択。
ダメージを受けないよう自戒を促し、破ってもダメージによる隙を生ませる上手いやり方だ。
「猟兵相手に無傷でいられるか!でぇい!」
「おぉぉっ!?思い切りがええ御侍さんや!?」
誤算は二つ。
浪人達が然程ダメージを恐れていなかった事と、既に言った様に猟兵を相手にして怪我をしないのはほぼ無理だろうと言う事。
実際に受けるダメージは然程大きくは無く、自傷して燃える血飛沫を飛ばしてきた。
「でも馬鹿正直に受ける道理も有りませんなぁ」
「おぉ?」
こっそりと三味線の糸を巻き付けておいた浪人を引き寄せる。
何事かと困惑している浪人に降り掛かる、燃える血飛沫。
「ぎゃあ!あっちぃ!!」
「なんと、猟兵の癖に卑怯な!!」
「戦場に卑怯もラッキョウも有るかよ!」
悪役らしからぬ抗議を切って捨てたのは鬼面、神代・凶津だ。
後方から和弓『破魔弓』で離れた場所の浪人や、回り込もうと動いた浪人を射抜いていく。
流石に浪人達も矢には最大限の注意を払っているのか、上手く避けたり一か八かで叩き落すのに成功している。
「大人しく当たれやぁッ!!」
気合を込めた声と共に素早く引き絞っていく。
ユーベルコード【封縛の矢】が浪人の右袖、左脇腹、左足裾を捉えた。
もんどり打つ様に倒れ伏した浪人は動きを封じられる。
この体勢ではカウンター技である【侍の意地】の抜き打ちも放てないだろう。
「いよっし!」
喜色を滲ませた声を上げる凶津へ浪人達は苛立った様に睨みをぶつける。
「あいつも切り伏せろ!近付いてしまえば弓なんぞ怖くも」
「隙有りだ」
指示を飛ばしていた浪人は、背後に迫るテオドアに気付かなかった。
喉から刀を生やし、血飛沫を撒き散らす暇も無いまま焼け落ちていく。
「油断大敵ですぇ」
はんなりとした口調と共に首の骨を折っていく鈴女。
いつの間にか現れてはいつの間にか去っていく。
忍者の様な動きだ。
そんな神出鬼没な二人の動きを支えているのは死霊騎士を操るスヴェトラーナ。
彼女の的確な観察眼が戦況を徐々に傾けていく。
気付いてみれば、あれだけ居た浪人達も最早数える程しか居ない。
「ぐぐぐ……おのれぇ!」
「せめて一太刀浴びせてくれるわ!」
それまで前に立たず指示を飛ばしていたスヴェトラーナを狙って、浪人達は最後の攻勢に出た。
数で死霊騎士を抑え、死霊蛇竜へと斬り掛かっていく。
応戦するが数の差は如何ともし難く、横を二人の浪人が抜けて出て来た。
「死ねぇぇぃ!」
刀を上段に振り上げる浪人、その後ろから突きを放とうと構える浪人。
あわや、と思われたその時スヴェトラーナの唇が音を紡ぎ出す。
「基底情報より指定空間へ対称群の既約表現の要素を展開、現出します」
直後、二人の浪人を炎と氷の竜巻が飲み込んでいった。
ユーベルコード【情報二相展開】。
属性と自然現象を組み合わせた現象を発動するこの技で、スヴェトラーナはあっさりと迎撃に成功した。
「私とて猟兵。戦えない訳ではありませんよ」
炎と氷、相反する二つの竜巻が空気を軋ませる。
煮え滾る歌とでも言うべきその音を聞きながらスヴェトラーナは次の指示を出した。
「大きく下がって。来ますよ」
「お待たせ致しました」
声を継いだのはアマータ。
自身の人形『アリウス・プーパ』にトランク型ガジェットの『アルジェントム・エクス・アールカ』を改造して作り上げたミサイルランチャーを構えさせる。
「凍らせてしまえば血は流れませんからね」
アリウスがトリガーを引き、浪人達の中心点にミサイルを放つ。
見た事の無い兵器を前に反応が遅れた浪人達に、ミサイルの爆風が襲い掛かる。
付与されている属性は氷。
瞬く間に全身を氷付けにされた浪人達のオブジェが出来上がる。
「おーおー、見事なこって」
凶津のからかう声が届いた頃合で、内部の浪人達は溶ける様に消え去った。
後には浪人型の氷が鎮座しているだけである。
「悪趣味ですねぇ」
転がっていた他の浪人達を無力化しながら、デナイルが呟く。
観光名所にしようにも、この氷では人気が出なさそうだ。
辺りを見回せば、もう立っている浪人は居ない。
全員、撃破出来た様だ。
「こんなもんか?」
「こんなもんだろう」
奪った刀を纏めている十六夜に、剣に着いた血脂を斬り流しているテオドアが答えた。
悪巧みの割には大した事の無かった力量の浪人達であったが、これで如何にか一段落は着いただろう。
浪人達は倒され、不正の証拠も掴み、証文も取り戻した。
「一件落着、やね」
そう答えた鈴女だったが、その脳内は早くも富永寿司での打ち上げで埋め尽くされていた。
お礼に食べ放題くらいは期待出来そうでもある。
「お城に行って一部始終を話してから、ですよ」
「いけずな事言わんと」
それを察したスヴェトラーナの声に、鈴女はいやんと頭を振るのだった。
大成功
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戸辺・鈴海
皆さんの話を総合すると、浪人はかなりの人数の様子。
私は援護に徹すると致します、ユーベルコードによる面制圧です。
浪人同士の連携阻害や、移動と攻撃の妨害を主目標にします。
饅頭好きの親分は白か黒か見定めたいです。
白なら大親分の元で性根叩きなおし、黒なら役所に引き渡しですね。
富永寿司に関して提案が御座います、家老さんに話が通せればですが。
先に地主を失った経緯を、当たり障りの無い範囲で説明致します。
そこで藩主に寿司の味を確かめてもらい、お墨付きが貰えぬか判断頂きたいと。
人気を取り戻す為の策です、寿司の献上を条件に土地を買って頂くのも面白そうです。
後は店主に報告がてらお寿司と冷酒でを満喫させて頂きますね。
月鴉・湊
数々の悪行、お天道様が許しても俺が恨みを張らしてやろう。
俺は潜んでる浪人達をやろうかね。
まずは人の気配がする部屋にいるか障子に指で穴を空け確認する。
居たらその部屋の灯りを血を操って消す。
それからが本番。狼狽える浪人に死角から血の糸を首に巻き付け吊り上げる。
そして糸を鳴らせば命の灯火も消えてしまうだろうね。
恨むなら俺を恨みな。
浪人達を無事に倒した猟兵達。
証文も取り返し証拠も手に入れ、一路奉行所へ。
話を上げておいてくれるそうなので、翌日には上の役職の署名付きで富永寿司の店舗を安堵してもらえる事と相成った。
一先ずの決着を得て一行は富永寿司へ。
一足早い宴会へと雪崩れ込み旨い寿司に舌鼓を打っての大騒ぎ。
しかし、めでたしめでたしと幕を引くにはまだ早い。
それを知って動いたのは二人。
戸辺・鈴海と月鴉・湊だ。
先ずは鈴海から見ていこう。
「では、お取次ぎをよろしくお願いします」
「はい、少々お待ちください」
日も落ちて夜の帳が降り始めた頃合、鈴海はこの藩の城へとやってきていた。
やましい事も暗躍する必要も無いので、正面から堂々と天下自在符を見せての入城。
用件は大事では無いからと伝えてはいるがそれでも下に置く訳には行かず、一番上等な対面の間に通された。
金糸で鳳が縫われた豪華な座布団に座ってまったりしていると、廊下を急ぎ足で駆けて来る音が聞こえて来る。
「総房藩藩主、佐合篤胤様。筆頭家老、石渡実継様。ご到着に御座います」
供回りのお侍さんがそう告げる。
すーっと開いた襖の向こうで、二人の立派な羽織を着た人が平伏している。
「失礼致します。総房藩藩主、佐合篤胤。筆頭家老、石渡実継。参上仕りまして御座います」
「夜分にすみません。どうか、畏まらずに」
一度立ち上がって座布団を降り、向き直って頭を下げる。
「いえ、猟兵戸辺様に在られましては日頃より妖退治にお力添えを頂き、誠に有難きを」
「いえいえ、此方も見過ごす訳には……」
互いに頭を下げ合う鈴海と佐合。
放って置くといつまでも続きそうな気配を感じて、石渡が助け舟を出す。
「戸辺様、格別のご配慮忝う御座います。殿、我等が控えるばかりでは戸部様に気を使わせてしまいますぞ。此処はお言葉に甘え、席を共にさせて頂きましょう」
「おぉ、そうか……では、失礼致します」
石渡の取り成しで漸く互いに腰を据えて話し合う体勢になる。
鈴海は早速、今回の事件についてのあらましを語った。
ひょんな事から知れた妖(オブリビオン)の暗躍。
石渡は贔屓の店、富永寿司が狙われていたと知って目を白黒させていた。
「なんと、その様な……いやはや、全く気付けませんで、汗顔の至りに御座います」
「いえいえ、私達もそれを知ったのはこれより先の日に、お二人が話されていたのを聴いたからなんです」
「先の日の話を聴いた、と申しますと」
「そうですね……少し抽象的な話になってしまいますが。本来は私達がそれに気付かず、富永寿司が浪人達の手に渡ってしまいます。お二人はそれを女中さんから『昨日、富永寿司は店を畳んだ』と聴く事になります」
「我等が知るのは終わった後、と」
「ですが私達の仲間がその様子を予知しました。つまり『オブリビオンによって引き起こされる未来』を知った訳です」
「それは……うぅむ」
流石にサイエンスフィクションな概念は掴み切れていない様子の佐合。
しかし石渡は得心した様子で、より解り易く言い直した。
「先んじて妖を倒す事で、悪い事が起きていたもしもの未来を避けた。そう言う事ですな。猪に畑を荒らされる前にその猪を退治してしまえば畑は無事、と」
「おぉ、それなら解る」
「そして猪に荒らされてしまうぞ、と教えてくれたのがその予知ですな」
「うむ、猟兵様とは凄いものよな……!」
説明していて此処までの理解力を見せるとは思っていなかったので、鈴海は目を見開いた。
この察しの良さならこの後の『お願い』もすんなり通るかもしれない。
「とまぁ、騒動は治まったんですが」
「他にも何か憂い事がお有りで御座いますか」
「いえいえ、事件では無いのです。ただ、今回の騒動で富永寿司は客足が遠退いてしまいまして。時間が経てば少しずつ戻って来るとは思うのですが、此処まで振り回された富永寿司の店主に何も無いと言うのは些か……」
ちらりと横目で窺ってみると石渡はしたり顔で此方を見ていた。
小さく頷き佐合に話し掛ける。
「そう言えば殿に富永寿司を紹介したいと思っておりましてな。ネタもシャリも山葵も醤油も、ガリまで一級品と言う文句の付け所の無い寿司屋でして、殿もお気に召すかと」
「何、本当か!おのれ実継、何故今まで俺に黙って居ったのだ!」
「殿が寿司を食いたいと申された時の為に取って置いた、等と言う事は微塵も御座いませんぞ」
「ええい、その様に旨い寿司なら居ても立ってもいられぬわ!明日食いに行くぞ!」
「畏まりまして御座います」
頭を下げる石渡が小さくニヤっと笑ってみせる。
それを見て鈴海も、佐合に見えない様に小さく笑う。
悪巧みをしている訳でも無いのに、妙なドキドキが有ってそこはかとなく楽しい。
当の本人である佐合は遊ばれているとは気付いてない様子だが。
(ともあれこれで此方の仕込みは十分ですかね。それじゃあ戻って私も宴会と洒落込みますか)
鈴海の動きが陽で有るなら、湊の動きは陰。
あの場に現れた浪人達は全員倒したが、湊はまだ残党が居ると見て捜査をしていた。
勝利のムードに水を差す事も無い。
そう考え、湊は一人水霖亭の近くに身を潜めていた。
やくざ者達は捕縛されて行ったが、証文や手形等を置いていたこの場所に浪人達が戻って来る公算は高い。
まだ見付けていない何かしらの手掛かりを持っていくか、それとも何も無いのを確認して帰っていくか。
或いは取り越し苦労で全員、あの戦いで倒れたのかもしれない。
「……ま、どれでも良いさ」
そう嘯きつつも、警戒は怠らない。
彼の勘が、間違い無く此処へやって来ると告げていた。
そうして暫くが過ぎ。
中天に繊月が上りか細い光で地上を照らす。
夜目に慣れたもので無い限りは手元の小銭さえ数えられない暗さだ。
「来たか」
気配を感じ取り凭れていた欅の幹から背を離す。
足音は一人分。
ひっそりと後を追ってみると離れに入って、ほんの数分も立たぬ内に出て来た。
間違い無く、あの浪人だ。
手には何も持っておらず多少苛立った様子で足早に歩き去って行く。
それを追い掛けて行くと主要な通りをどんどん外れ、やがて山道側に程近い小さな廃寺へと向かって行った。
「成程……緊急時の落ち合い場所か」
周囲の気配を探ってみるが、有るのは廃寺の中の三つだけ。
足音を消して近付いてみると声も潜めずに語り合う声が聞こえて来た。
「ダメだ、何も残っていない。倉の方は鍵が壊れていたとかで番頭や丁稚が総出で無くなったものが無いか検分の真っ最中だったが、多分そっちも無いだろうな」
「くそっ、猟兵共め。こうなっては此処に身を潜めるのも良い手とは思えんな……」
「他の者は皆やられたか……あれだけの数を揃えて勝てぬとはな。残った俺達は運が良いのか悪いのか」
(成程、この三人で全部か。それなら……仕事と行くかね)
念の為に障子に穴を開けて覗き込んでみる。
手前に置いてある襤褸襤褸の行灯で解り辛いが、中に居るのは三人で間違いない様だ。
早速、下唇を歯で引っ掻き血を出す。
指先でなぞる様に操り、障子を潜らせ行灯の灯を消す。
途端に室内は暗闇に包まれた。
「何だ?風か?」
「ちっ、おんぼろの行灯め」
手探りで此方へと向かってくる浪人。
その爪先を操った血で引っ掛ける。
「うおっ!?」
「おいおい、気を付けろよ?」
呆れた様な声が飛ぶのに合わせて静かに『血装具「紅染」』を突き出す。
御誂え向きに、倒れた浪人の頭は障子の直ぐ先。
ぞぶりと入り込んだ針が浪人の血を抜き、静かに浪人の命を吹き消す。
直ぐ様抜いた血を操り、置かれていた小さな仏像を倒す。
半壊しており所々鋭利な断面を剥き出しにしていた仏像は正面に居た浪人を巻き込んで倒れた。
「うっ!」
「何だ!?」
不幸にも、浪人の胸元には仏像の手が深く突き刺さっていた。
合掌していたのが朽ちて壊れ、丁度抜き手の形になっている。
これも仏罰って奴かねぇ、と思いながら湊は障子を開け放ち天井に向けて『血の糸』を投げる。
まるで意思を持っているかの様に血の糸は梁を通ってくるりと回り、残った最後の一人の首に巻き付いた。
「ぐぅっ!?う、ぐぐっ
……!!」
「数々の悪行、お天道様が許しても俺が恨みを張らしてやろう」
ゆっくりと聞かせる様に、湊はキリキリと糸を引いていく。
既に先の二人は燃え尽きた灰となり、夜風に吹かれて消えて行った。
残るはこの浪人只一人。
その体躯がゆっくりと持ち上げられ、繊月の弱弱しい光に照らし出される。
「恨むなら俺を恨みな」
引き絞った糸を、左の人差し指でぴんと弾く。
それが引き金となってか、もがいていた浪人は力を失いぐったりと吊られ、そして灰になった。
血の糸を回収して、誰も居なくなった廃寺を見回す。
「おっと」
倒れた仏像を起こして元の位置へと戻す。
時間を稼げればと思って倒したが、まさか自らの手で悪人に裁きを下すとは予想外だった。
その悪行に、仏様も腹に据えかねたのかもしれない。
埃を払い拝んで、湊は廃寺を後にした。
「出会った咎人は知らぬうちに身を血に染める。それが「染物屋のカラス」の仕事だ」
そう呟いて、さて宴会宴会と足取り軽く町へと戻る。
もう、血の気配は何処にも無かった。
大成功
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