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遣らずの雨に、花ひらり

#UDCアース #呪詛型UDC


●先見の景色
 くすんだ空に陽光は閉ざされ、まもなく静かな雫がおりるだろう。
 池の石の上、浮つく緑の蛙が跳ねた。

●グリモベース
「――ねぇねぇ。ひょっとして今、お茶したい気分じゃない? したいよね!? ね! ね! うん、行こう! ちょうどいい予知、あります!」
 猟兵たちに話しかけるホワイティは今日も今日とて楽しそうに一方通行のコミュニケーションを展開。
「舞台はUDCアース! とあるカフェで過ごす人たちがUDCの怪異に巻き込まれてしまうのだ。幸い、怪異は『その場で日常を満喫している者達』を率先して取り込むってことまで分かってるから、そこを利用して敵の懐に飛び込んじゃお!」
 件のカフェに店名はなく、通称『花カフェ』と呼ばれているそう。
「注文したものと一緒に花のお菓子を添えてくれるから『花カフェ』って呼ばれてるみたいだよ。どんなお花が出てくるかはそのときのお楽しみ! メニュー選びに困ったら店員さんにお任せするのもありありだと思う!」
 カフェには一般的なカフェメニューに加え、簡単な軽食に軽いアルコール類も用意されているらしい。
 軽く飲み交わすのもいかにも楽しげで良いかもしれない。

「転送先は生憎の空模様で、皆が到着して間もなく小雨が降りそう。でも、たまには落ちる雫を眺めながらお茶を飲むのも素敵だよね。仕事は仕事なんだけど、今回はとにかく楽しむことが大切なのだ。私の分も、めいっぱい食べてめいっぱい飲んでめいっぱい楽しんできて!」

 ただし。

「たくさん楽しんだ先、どんな展開が待っているのかは私にも読めないんだよねえ。んー……なんか、こう、もやもやーっとしてて。うう、頼りなくてホントごめん。とにかく、警戒の心は忘れないでほしいのだ」
 なんて、プロに対して杞憂だとは知りつつも。
「怪異を呼ぶ呪詛を鎖すまでがカフェ旅だよ。それじゃあ準備はいいかな? レッツゴー!」

 午後三時、花のカフェへ、さぁ――。


京都
 オープニングをご覧いただきありがとうございます。
 京都(けいと)と申します。
 UDCアースで皆様らしい時間をお過ごしください。

●第一章
 小雨の日に、屋内カフェで思い思いのお時間をどうぞ。
 皆でわいわい、ひとりでしっとり、どちらも歓迎いたします。

●第二章、第三章
 以降、必要な情報は章間の導入文にてお伝えいたします。
 多分今回はずっとゆるゆるしていると思います。

 ・お好みの章にご参加ください。
 ・お知り合いでない方同士でも絡ませる場合がございます。
 ・プレイングの受付開始や終了については適宜雑記に記しております。

 以上になります。ご確認ありがとうございました。
 よい旅へ導けますよう、精一杯努めてまいります。
 どうぞよろしくお願いいたします。
37




第1章 日常 『カフェで一休み』

POW   :    わいわいお喋りしながらお茶する

SPD   :    店内を楽しみながらお茶する

WIZ   :    まったりのんびりお茶する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●雨ふりて
 ケッケッ。ケケケッ。
 蛙の楽しくはしゃぐ声。
 
 辺鄙に佇むそのカフェは、薄い霧に覆われていた。

 ぽつり。ぽつり。
 雨に打たれて水面が震う。

 ぼんやりと滲むように漏れる、オレンジ色したカフェの明かり。

 ボーン。ボーン。
 扉ををひらけば三時の鐘が。

『いらっしゃいませ、お客様』

 ――どなた様も花のようなひとときを、どうぞ。
飛鳥井・藤彦
花の菓子、ええなぁ。
どんなん来るか楽しみですわ。
あ、飲み物も店員さんのお勧めをいただきます。
甘いのも苦いのも酸味があるのも大丈夫なんで。

嫌いな人もおるけど、僕は割合雨って好きやねん。
雨露に濡れた花、散らされた花もまた綺麗やろ?
髪や服を濡らした別嬪さんも絵になるしなぁ。

ちゅーわけで雨と飲み物と菓子をのんびり楽しみつつ、ご縁があれば誰かと他愛ない話を交わせたらええなぁと。
ナンパ?
ちゃいますよって。
ただのお喋り好きです。
常に締りのない、説得力に欠ける顔してるとはよー言われますけど。
話の種はお互いの皿の上の花菓子についてとか、そこら辺から話膨らませられたら。

※アドリブ、他PC様との絡み歓迎


古高・花鳥
怪異の解決が目的だということは分かってます
でも……オシャレで素敵なカフェで、お茶してのんびりできるなんて聞いたら、なんだか楽しみになっちゃうのは……しょうがないですよね?

服装は制服にしましょう、放課後ごっこです
メニューは折角ですしお任せにします。あまりこういうカフェには来ないので、きっとメニューを見てもピンとこない気がしますし……
それから、お花のお菓子。味わいながらに「料理」の経験でざっくりとしたレシピや味付けを考えてみたいですね

心地良い小雨の音が聞こえる中、一人でのんびりと過ごしたいと思います
ですが、もし席をご一緒できる方がいらっしゃったら、是非お話ししたいです

(アドリブ、絡み歓迎です)




 店の一番奥の席――すべてを見渡せる場所に陣取り、穏やかな笑みを浮かべているのは飛鳥井・藤彦(浮世絵師・藤春・f14531)。
 早々に注文を済ませた彼は、品を待つ間、ぼんやりとしたまなこで店内を眺めて過ごす。
 ふわり、少し雨に濡れてしまっていても、彼の柔い毛は空調の僅かな風に踊った。
「ちょっと濡れてしもたなぁ」
 持参した手拭いで雨粒を払う藤彦の表情は、台詞のわりにどこだか楽しそうにさえ映る。
 だって、彼は雨を嫌っていないものだから。
 髪と同じくらい柔らかそうな睫毛を伏し、柔和な笑みを向けた先には雨露に濡れる花。
 ガラス越しにもその風流な美しさは十分に伝わり、藤彦の感性を存分に刺激した。
 特に、雨に舵を取られる水面の花弁たちには心擽る愛らしさがある。
 どれもこれも、雨の齎す一級品だ。
「どの子も元気な別嬪さんや。ああ、あの子らが人間やったらなぁ」
 どんなやろ?
 冗談半分に漏らした溜息さえも、柔らかい。


 店員に導かれるまま、奥まった席へ腰をかけるセーラー服姿の女学生。店のあちこちに視線を遣っては笑顔を抑えて口元が落ち着かない。
 この少女も猟兵のひとり、放課後ごっこを楽しむ、古高・花鳥(月下の夢見草・f01330)である。
 メニューを差し出されると端から端まで丁寧に目を通し、たくさん時間をつかってようやくひらいた口が言うには。
「……お任せでお願いします。すみません、こういったカフェは不慣れなもので」
 そう言って花鳥は丁寧に頭を下げる。
 丁寧に頼まれて悪い気のしない店員は、お似合いのものを見繕ってまいります、と普段以上に畏まってキッチンへと姿を消した。
 その姿を見届けた花鳥。少しだけ力を抜き、窓を通して外を見る。
 ざあざあと小川の流れるような雨音と、ぽつんぽつんと雫の落ちる音とが雑じりあい、なんとも心地よい。
 それは母の胎内を思い出すからだとは通説だけれど――。
 そんなことを考え少し視線を落とせば、一輪の赤い大きな花が同じようにこちらを見つめていて、それがなんだか健気で誇らしく、ひとり小さく微笑む花鳥だった。


 ――お待たせいたしました。
 店員があたたかさと良い香りを携え戻ってきた。

「あ、おおきに。店員さんのお勧め、楽しみに待ってたんよ」
 ぱぁ、と花開くように藤彦の笑みの温度があがる。
 藤彦の元へ運ばれてきたのは透き通る赤褐色のウバ茶と紫色した花の砂糖漬け。
「藤の花やね。キラキラしてて愛らしいなぁ」
 それにまた頬を綻ばせながら、藤彦は店員の行方を見遣る。
 盆に残った、自分以外の誰かに宛てた花菓子の行方に興味があったのだ。
 ――だって、あんなに綺麗な菓子やもの。貰う子やって、きっととびきりの別嬪さんに違いあらへん。

 さて、ではそのとびきりの別嬪さん。彼女はふたつ離れたテーブルに、ぴんと背筋を伸ばして腰掛けていた。
「ありがとうございます。……! わぁ、綺麗……!」
 思わず感嘆の溜息を漏らした花鳥の瞳は、鮮やかな梅の花咲くクッキーを映している。
 それはイラストではない本物の梅の花で、押し花のようにクッキーに貼りついていた。
「どうやって作るのでしょうか……」
 カリッ。まずは一口。なるほど、味は普通のクッキーで、ちょっと塩気を感じるのは梅の花のおかげだろうか。
 味の秘密をもっと知りたくて、一度緑茶で口を潤してから、もうひとくち。
 ――と、
「美味しそうに食べはるねぇ」
 突然正面から声がかかり、花鳥の身が強ばる。
「あ、びっくりさせてしもたら堪忍な。ナンパ? ちゃいますよって。ホンマに」
 ただちょっと、可愛い君とお喋りがしたいのだと、藤彦は屈託のない笑みを浮かべるのだった。
 それでも花鳥の緊張はなかなか解けず、しかし藤彦はそれすらお見通しというように、変わらず微笑みかける。
「君の花、梅やね。よう似合うてるわ。でも僕のもなかなかやで」
 ひとつ、藤の砂糖漬けをとって光に透かしてみれば、雨露に濡れたのとはまた違う、可憐な美しさが瞬いた。
 思わず見惚れる花鳥。
「――綺麗。これは、何の花でしょうか? スミレ……いえ、藤でしょうか」
「大正解。じゃ、ご褒美」
 砂糖漬けの乗った皿を花鳥に寄せれば、彼女はぱちぱちと瞬きを繰り返し、終いには躊躇いの表情を滲ませた。
「えっと、これはあなたのお菓子で……」
 もごもごと口篭る花鳥。藤彦は皿を差し出したまま、変わらず微笑んでいる。
 そのまましばし、時は流れ――。
「…………有難く頂戴いたします」
 根負けしたのは花鳥。もとより菓子には興味があったものだから、戸惑いつつも気持ち逸るところもあり、ここは甘んじようと。
 小さな手に藤の花が摘まれるのを見れば、藤彦は満足そうに紅茶を啜る。
 ティーカップの向こう、新たな花が咲くのが見えた。

「――ところで、なぁ、君。どこかで会うたことないか?」
「どこかで……?」
 互いに首を傾げる。
 そういえば、どこかで……、

 ――そのときだった。

「!!」
 二人が警戒の色を見せたのは同時。店内の雰囲気が明らかに変化したのだ。
 もくもくと煙様の何かが俄かに立ち込め、瞬く間に視界を覆っていき、そこからはあっという間。

 ――二名様、怪異の世界へ、どうぞ、いってらっしゃい。
 道中お気をつけて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

光・天生
【POW】
ノワ先生(ノワーラ・アルバァ)と一緒です。
ノワ先生は同じ団地に住む、非常に物知りな人。
歳下でも尊敬の対象です。

注文したコーヒーと一緒に出てきた花のお菓子をまじまじ。
確か、花言葉っていうのがあるんですよね。
この花は、確か……

……!?
知ってるんですか、ノワ先生!
凄い……俺なんてまだまだ全然勉強不足です。
ノワ先生、すげえ……!
え、スマホ検索?
俺まだロクに使えなくて……。
ノワ先生、すげえ……!!

その後も先生の知識に心から感心し、目を輝かせながら聞き入りまうわコーヒー苦っ。
それでも俺はブラックです。

最初は怪異を引き出そうと気を張ってたのに、すっかり楽しんでいて。
やっぱりノワ先生は、すごいです。


ノワーラ・アルバァ
光おにーさん(光・天生)とごあいせきです。はいー
おにーさんはご近所さんだよ。ノワから見てもなんだかあぶなっかしくて心配になる感じ
「世間知らず」ていうのかな。ちょっとおもろい

おにーさんとお花のお話をしながらスマホで検索検索
このお花はねー…
花言葉はー…
ノワお花のことはよくしらないけど調べるのはかーんたん

…やー、おにーさんまだスマホで検索とかできないのかな
まいいや。ノワがおしえたげるよ
おにーさんはもちょっとがんばりましょう

すごーく褒められるからちょっとおもしろくて、お砂糖たっぷりのお紅茶もすすみます
そしてきらきらしてるおにーさんにちょっと呆れるのでした

とゆーか何しにきたんだっけノワ
【WIZ】




「ノワ先生! ここです、この席が良いと思います」
 光・天生(鈍色の天蓋に神は座す・f05971)が提案したのはローテーブルのソファ席。
 ぶんと手を振ってアピールする天生に、『ノワ先生』と呼ばれる少女――ノワーラ・アルバァ(☆白黒鍵盤ハーモニィ★・f05973)が歩み寄る。
「ノワ、ちゃんといくから」
 そんなアピールしなくても。
 光・天生という少年は、いつも純で真っ直ぐで、うぶだった。それ故、ノワーラは彼から目が離せずにいる。もちろん単純に面白いというのもあるのだが、とにかく見ていて飽きない存在なのだ。

「さぁ、先生。どうぞ先にお掛けください」
 天生がエスコートすれば、ノワーラは自然な流れでそれを受け入れる。
「おお。このソファすごくしずむ。ふわふわ。ノワのしっぽにもまけてないかも」
「!! 本当ですか! 俺もっ……!」
 急ぎ隣に腰掛けた天生は目を輝かせながらノワーラよりやや深く沈んでゆく。
 そんな様子がまた目に楽しくて、ノワーラは静かに眺めた後、にやと笑い。
「とっておきのあそびをおしえてあげよう」
 前触れなく立ち上がり、ぴょんと飛び跳ねるとそのままお尻からソファへダイブ。
 ボフッ。空気を吐き出すソファと一緒に天生の身体が少し跳ね、次いで心が躍る。
「すげぇ! 先生は楽しいこともたくさん知っているんですね。そうだ! せっかく教えていただいたんだから、俺も……」
 勢いよく立ち上がる天生。
 嫌な予感しかしないノワーラであるが、加減をと口をひらく暇はなさそうだ。
 次の瞬間には小さな身体が重力を失い、追って大きな耳がひらひらり。
「あっ、先生、すみませんっ……。俺、加減が苦手で……」
 特に初めてやることには。羅刹とはとかく不器用な生き物であるものだから。
 申し訳なさにわたわたと落ち着かない天生を、ノワーラはじっと見つめ。
「……おにーさんもなかなかやるね」
 実は存外楽しかった、もう一度宙に舞ってみるのも吝かではない――ノワーラの大きな瞳がそう語っていた。


 注文の品が運ばれてきたとき、ふたりはまだソファであぁだのこうだの楽しんでいて、気を利かせた店員はテーブルの端にそっと品を置いていく。
 それに天生が気づいた頃にはすでにノワーラはお砂糖たっぷりのお紅茶を頂いているところだったものだから、天生の瞳がまた一段と煌めいて。
「すげぇ! 先生もうお茶飲んでる! すげぇ!」
 その勢いのまま、俺も俺もとコーヒーに口を付ける天生。
「……まだあついから気をつけ――」
「熱っ! 苦っ! 苦っ!」
「……うん。次はカフェに入ったときにちゅーこくするようにするね」
 こんな言葉にも、天生は助かりますと首を縦に振り、
「ところでノワ先生、俺のこのクッキーの花はなんて花でしょうか」
「どれどれ……ああ、白いマーガレットだね」
「こんなカピカピになっているのによく分かりますね。さすがです!」
 もう一度、確かめるようにマーガレットの押し花が施されたクッキーを見てから、花を避けて端を齧る天生。
「あ、そういえば、花には花言葉っていうのがあるんですよね。マーガレットの花言葉って……」
 期待の眼差しがノワに注がれる。
「あぁ、なんだろね」
 こういうときはね、とノワが取り出したのはスマホ。慣れた手つきで検索をかけ、出てきた画面には『秘めた愛』に『信頼』の文字。
「ノワ先生、すげぇ!」
 一部始終を食い入るように眺めていた天生の尊敬のボルテージはマックスだ。
「そりゃあ、ノワだからね」
「スマホまで使いこなすなんて……俺なんてまだロクに使いこなせないのに……」
「おにーさんはもうちょっとがんばりましょう。でも、いいよ。ノワがおしえたげる」
「あ、ありがとうございます! 頑張ります!」
 天生のなんと嬉しそうなことか。
 しかしノワも満更ではない様子。だから今日の紅茶はいつもより甘くて、美味し――、
「うわコーヒー苦っ!」
「…………」
「あ、先生呆れないで! ノワ先生……!」
「……べつに。……ところでノワ、ここに何しにきたんだっけ」
 百合のかたちをしたチョコを齧れば、中から蕩け出るのはとろとろの蜂蜜。
 暖色が包む店内で、いつまでも穏やかなときが続くようにさえ思える。
 
 しかし怪異とは、突如日常を侵すもの。

「っ……!! 先生!」
 変異を察知した天生が、ノワを護るように立ち上がる。
「……だいじょうぶ。このまま、いこう。ごしょーたいされちゃったね」
 ノワは冷静だった。そもそもそれが目的である、と。
 天生は頷き、僅かに力を抜く。そして確りとノワの手を取って。
「では、お供します」
 
 行く先は怪異の渦中。
 しかしこの手、護るものあらば――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バラバ・バルディ
【WIZ】
おぉっ、お茶会か!わしもお茶会は好きじゃ!あの団欒という感じがなんともほっこりするんじゃよなあ。それに『花カフェ』という名前も愛らしくて良いではないか!
敵の正体が分からぬのはちと気にかかるが……とにかく楽しめば良いんじゃろう?ならばわしの得意分野よ!ほっほほほ!任せよ、思う存分堪能してくるからの!

もし、この席空いとるかのう?ご一緒しても構わぬか?そうかそうか、ありがとのう!お主は優しいのう!おぉ店員さん、わしは温かい紅茶……種類?ほう、紅茶にもこんなに種類があるのか!うーむ、ではオススメをお願いできるかの?ありがとのう!
(サラッと相席。すぐ使えるよう傍らに異彩の杖を置いて楽しむ)


虚偽・うつろぎ
WIZ
のんびりお茶するよ

ちょいとそこ行く店員さん
サンドイッチか何か軽食をお任せして良いかな?
飲み物はお紅ティーでお願い。
茶葉も軽食に合わせて任せるよ

雨音を聞きながらのんびり過ごすのも良いものだね
こんな中で何が出て来るのかも楽しみさ
メインディッシュは邪神が良いなぁ
あ、花は後で役に立つかもだからちゃんと取っておくかな

出来れば窓際の席で雨音と雨の景色を楽しんで来るべき時を待つとするよ

アドリブ絡みなどご自由にどぞ


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
呪詛を呼ぶ怪異なァ。
人々を取り込もうとは、迷惑千万な話よ。

ま、今のところは、穏やかさを満喫しよう。
小雨の中でゆっくり過ごすというのも、なかなか洒落ていて良いな。
紅茶も珈琲も捨てがたいが……。
今日のところは珈琲にするか。ブラックで頼もう。
まだ冷えるからなァ、ホットにしようか。

しかし、花の菓子とは愛らしい。
見せたら喜びそうな当ても幾らかある。
撮影はしても構わんのか?
連絡機能以外は、いつ使うものかと思っていたが……。
こういうとき、このスマホとかいうのは役に立つな。
まだ使い慣れないのが難点だが。
ええと……カメラはこうで良かったかな……?




 あたたかな光に包まれ、心地よい静けさを保つ店内。
 その中に、静けさとはまた違った心地よさを醸し出さんとする一角が。
 それは大きなガラス窓に面した横並びの席で、多種多様の種族の後姿が並ぶ様子は、ちぐはぐながらにそれだけで楽しいものだから、自然と興味を呼び起こす。

 一番端――ここは所謂隅っこの席であるが、そこにありながらひと際目だって映るのは虚偽・うつろぎ(名状しやすきもの・f01139)。自己主張の激しい容姿は、名乗らずとも皆に彼の呼び名を与えている。
「ちょいとそこ行く店員さん。サンドイッチか何か軽食をお任せしてよいかな? あとお紅ティーも頼むよ」
 うねうねと、文字通りあの手この手で店員を招き、見た目と同じくらい特徴的な呼称で注文をしている。
 それを受ける店員も、心なしかうねうねと。うねうねは伝染するのかもしれない。

「おぉ店員さん、わしにも温かい紅茶を一杯たのめるかの?」
 割って入ったのは、うつろぎと並びの席に腰掛けていたバラバ・バルディ(奇妙で愉快な曲者爺さん・f12139)。
 にぎやかな外見に楽しげな声色、小さな子に風船でも配っていそうな、そんな愉快なシャーマンズゴーストのおじいさんである。
 店員に渡されたメニューを眺める様までなんだか楽しそう。
「なんと! 紅茶にもこんな種類があるのか! 困ったのう。うーむ、ではオススメをお願いできるかの?」
 おすすめでの注文を快く承る店員に、バラバは、ありがとのう! と屈託のない大声で礼を言う。一方で、異彩の杖を傍らに据える用心深さを見せながら。

 そんな個性的な面々に挟まれているのはニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)というドラゴニアンの青年。
 大柄な彼には窮屈とも感じられるポジショニングであるが、そこは気さくな彼のこと、左右の奇抜さをさして気にした風でもなく、賑やかな雰囲気を楽しみつつ、ひと足早く湯気立つブラックコーヒーを啜っていた。
「春遠からじとはいえ、冷えるな」
 目の前のガラスの向こう、雨に打たれる野花を見遣ればより一層に寒さが感じられる。
「しかし花の菓子か。あいつらに見せたら喜ぶだろうなァ」
 ニルズヘッグのもてなしに選ばれたのは、薔薇をとじこめたゼリーババロア。真っ赤な薔薇が上品そうに花弁を重ね、透明なゼリーの中で美しく花ひらく。これを残してきたあの子らに見せたらたいそう喜ぶだろうと、思いついて取り出したのはスマホらしい使い方をされてこなかったスマホ。
「撮影は……して良さそうだな。ええと……これはどう使うんだ」
 やたらと力強く画面を押したり、無意識にひらいたウェブページで変な広告のバナーをタップしてしまったり、分かりやすく不慣れ感を漂わせるニルズヘッグ。眉間の皺も徐々に深くなっていく。

「ほっほ。お困りかの?」
 助け舟を寄越したのはバラバだった。優雅に小指を立ててティーカップを摘みながら、ひょいと顔を出す。
 ――と、
「ひょっとして楽しいことやってる?」
 すかさずうつろぎの『う』の字も横からうにょり。
「いや、スマホで写真を撮りたいんだが、連絡手段としか使ったことがなくてな……」
「まだまだ若そうなのに珍しいのう。どれ、わしに見せとくれ。んー……よし、これじゃ!」
 残念。設定画面でした。
「こっちじゃないかな」
 またまた残念。メール画面でした。
「おかしいのーう」
「おかしいね」
 あっちをタップ。こっちをタップ。そもそもアイコンの少ない画面であるのに……。
 ――ひょっとして遊ばれてないか? ニルズヘッグが微かな、しかし確信に近い疑念を抱いたその時。
「お! できたぞ。綺麗な薔薇が映っちょる」
 うつろぎがカメラを起動し、バラバが嬉しそうに画面越しの薔薇を差して見せた。
「おお、これは助かった。ありがとう」
 礼を述べられればうつろぎの手がたくさんのピースサインをかたちどる。
「よければ僕のも写真に撮ってよ。誰かに見せるんだろう?」
「ああ。そいつはありがたい。土産はたくさんあったほうがあいつらも喜ぶだろう」
 好意に甘んじてうつろぎのテーブルにカメラを向けるニルズヘッグであるが、どうだろう、そこにあるのは空の皿とティーカップだけだった。
 首をかしげるニルズヘッグ。しかしうつろぎはあっけらかんとして、
「ここ、ここにとってあるんだ」
 たくさん生えた掌のうち、ひとつをひらいて差し出し見せる。
 覗き込めば、黒く淀むタールの中に、ぽつん。たんぽぽの砂糖漬けが浮かんでいた。
 ――これを撮るのか……? 僅かな動揺を見せるニルズヘッグ。
「ほー、可愛いたんぽぽじゃの。しかし思うんじゃが、そこじゃなくて頭に飾るのはどうじゃ? そのほうが、ほら、『映える』じゃろうて」
 冗談か本気か分からないバラバの助言を受け、なぜか素直にたんぽぽの体内輸送を開始するうつろぎ。
 結果、『う』の字の右上あたりにたんぽぽが収まることに。
「お待たせ。さぁ、いつでも撮っていいよ」
「お、おう……」
 カシャ。カシャ。
 角度を変え、距離を変え。生真面目なシャッター音が、しばし店内に響くのであった。

「どう?」
 画面を覗き込むうつろぎ。写真写りが気になるらしい。
 そして、花だけでなくちゃんと『う』の字ごと画面に収まっているのを見ると、満足そうに頷いている。
「初めてなのに上手じゃのう。どうじゃ、わしの花も撮ってくれんかの」
 軽快な所作で皿ごと桜煎餅を差し出すバラバであるが、何故か立ち上がり、気取った身構えをとっている。
「…………」
「どうかしたかの? ほれ、このポーズ結構しんどいんじゃから。はよう、はよう」
 カシャ。カシャ。
 撮れども撮れども、淡い桜煎餅がド派手な色合いの羽毛に沈むわ沈むわ埋もれるわ埋もれるわ。
 でも。
 ――まぁ、いいか。
 だって、この写真もきっと愛らしい笑顔を生むだろうから。


 ひょんなことから打ち解けたこの三人は、その後もしばらく会話が絶えずにいた。
 ――が、終わりのときは確実に忍び寄る。
 もくもくと、白煙が三人を取り囲み始めたのだ。

「……お出ましか」
 ひとつ。

「楽しかったからのう」
 ふたつ。

「次はメインディッシュかな」
 みっつ。

 ――順に煙に呑まれて、消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エリル・メアリアル
【ダニエル(f00007)と行動】

カフェっていうのは、初めて入りますわ……!
見るものなんでも珍しく眺めながら、窓際の席を選んで座りますわ

頼むのはコーヒーとパンケーキ。ふわふわで甘~いパンケーキ、小さく切って少しずつ食べますの!
そして、わたくしは女王。王たるものなんだって食べられるべき。だからこのブラックのコーヒーだって……!!
(一口、苦い顔で無言になる)

それと、ダニエルが頼んだケーキはどんなものかしら?甘いかしら?美味しいかしら?
わたくしにも一口食べさせるのが、臣下の義務ではなくて?
ということで、さぁ、わたくしによこしなさいっ

なるほど、外の景色も楽しみつつ……確かに、それも優雅で素敵ですわね!


知念・ダニエル
エリル(f03064)と一緒に。

怪異現象が起きる店なんて怪しいっすけど、お嬢が行きたいって言うから……。
お嬢、あんまりうろうろしちゃ駄目っすよ。

とりあえず俺はおススメのケーキとウインナー珈琲を。
花のお菓子も来るって聞いたけど、さて、俺とお嬢には何が来るのやら。
お嬢、その珈琲を飲むには経験値が足りてないっす。
仕方ないっすねぇ、交換してやってもいいっすけど。

お嬢は欲張りっすねぇ。
食べてるだけじゃ駄目っす。外の景色も楽しみつつ味わうのが大人の嗜みってものっすよ。
それが出来なきゃ、このご褒美はあげられないっすねぇ。
(なんて言いつつ、仕方がないから半分切ってエリルの皿へ置き)




「まぁ! まぁ! これがカフェというところですのね」
 ひらり、ひらり。上品にスカートの裾を翻しながら店内を眺めて回るのはエリル・メアリアル(孤城の女王・f03064)。
 飾られた花を見ては、その花と同じくらい可憐な笑みを湛え。
 窓を垂れる滴を見ては、その滴と同じくらい透き通った瞳を輝かせ。
 ――しかし、そんな無邪気な彼女のすぐ後ろに従う知念・ダニエル(黄昏冥土・f00007)は、対照的に渋い表情浮かべていた。
 なにせこのカフェを楽しめば怪異に呑まれてしまうのだから。それは即ち、エリルを危険に晒すと言うことで、いくら猟兵とはいえ、護るべき相手に踏み込ませたい場所ではないのだろう。
 そんなダニエルの心中を知ってか知らずか、エリルは軽やかに店内散策を続けている。
「お嬢、あんまりうろうろしちゃ駄目っすよ」
 長身から零れる気だるげな声。しかし、彼の目はエリルの行く末を確りと見守っている。
「ダニエル、ねぇ、ここにいたしましょう。窓際だから、外のお花がよく見えるわ」
 ダニエルが異論を申さないのを知るエリルは、話し掛けながらすでにほとんど腰掛けていた。
「お嬢、窓際は冷えるっす。だから、これを」
 隣に腰掛けつつ、ダニエルは柔らかな所作を以てエリルの膝をブランケットで包み込む。
「まぁ、いつの間に。たいへん感心いたしましたわ」
「お褒めに預かり光栄っす。でも、いくらブランケットがあるからって油断は禁物っすからね」
 言いつつ、まずはメニューをとエリルにメニュー表を差し出すダニエル。
「それならわたくし、もう決めていますの。あまぁいパンケーキと、コーヒーをお願いいたしますわ」
「コーヒー? 大丈夫っすか? せめてカフェオレ――」
「決めたと言ったら決めましたの。臣下が口出しすることではございませんわ!」
 ぷうと頬を膨らませるエリルに、ダニエルはやれやれと肩を落とす。こうなったら彼女はテコでも動かない。
「……わかったっすよ。――じゃあ、俺はおすすめのケーキと……ウインナー珈琲を」


 注文の品がやってくるのにそう時間はかからなかった。
「わぁ……! 見て、ダニエル。見た目だけでふわふわだって分かるわ。このパンケーキ、本当に柔らかいのね」
 それはもう、思わず指でつつきたくなるほどに。
 つんつん。
「……お嬢、はしたないっす」
「はっ……! わ、わたくしってば……」
 はっと我に返ったエリル。パンケーキの魔に魅せられていたよう。
 少し頬を上気させながら居住まいを正し、上品さを損なわず頂けそうなサイズにパンケーキをカットして、ぱくり。
「ん~! とっっっても美味しいですの!」
 女王様はたいへんご機嫌麗しく、これにはダニエルも僅かながらに微笑み湛えるのであった。
「お嬢、その薔薇の花びら入りのキャンディも食べてみたらどうっすか」
「ええ、もちろんそういたしますわ。ふふ、薔薇だなんて、上品なわたくしにぴったりね」
 そういって小さな口へ運ばれたキャンディは、右の頬へ転がったり左の頬へ転がったり。時折、カラリと楽しげな音を響かせながら、気付けば溶けてなくなっていた。
「口の中があまあまですわ。でもわたくし存じてますのよ。こういうときはこれを頂くのだって」
 エリルの白い指が、真っ黒なコーヒーの入ったカップをつまむ。
「わたくしは女王。王たるものなんだって食べられるべき。だから、これだって……!」
 高らかな宣言と共にカップに口をつけ、勢いよくブラックコーヒーを口にしたエリルは……、

 沈黙。

「お嬢」
 彼女に何が起きているか、ダニエルにはもちろん察しがついていた。
 が、あえて呼ぶに留め、エリルの返事を待つ。
 しかし。

 引き続きの沈黙。

「はーーーー……」
 深い深い溜息だった。
「仕方ないっすねぇ」
 ダニエルは、自分の皿の上にあったミモザの砂糖漬けをエリルの口に運んでやる。
「――食べて」
 暗示のように唱える声は普段よりも少し低い。
 それを受けたエリルも、操られたように大人しく口をあけ、ミモザの黄色を口に含む。
 すると、
「……甘い、ですの」
 じゅわ。と口内で溶ける砂糖。苦味があっという間に消えてゆく。
「お嬢、それを飲むには経験値が足りてないっす」
 そう言って向けた視線は窘めの色を含み、エリルはバツが悪そうに視線を泳がせる。
「……仕方ないっすねぇ、俺のウインナー珈琲と交換してやってもいいっすけど」
「あ、当たり前でしてよ! それにそのチーズケーキ。それもわたくしに分け与えるのが臣下の義務ではなくって? さぁ、わたくしによこしなさいっ」
「お嬢は欲張りっすねぇ。――でも、食べてるだけじゃ駄目っす。外の景色も楽しみつつ味わうのが大人の嗜みってものっすよ。それが出来たらご褒美にあげてもいいっす」

 揃って窓の外に目を遣れば、池の水面が雨に踊り、花が笑う。
「――美しいですのね、『外』の景色って」
 それはとても大人しい呟きだった。
「……まだまだたくさん見れるっすよ」
 それはとても優しい呟きだった。
 

 そうしてしばし言葉少なな、しかし穏やかな時を過ごした2人。
 そろそろ頃合いかと、ダニエルがチーズケーキをエリルに分け与えようとしたそのときだった。

「――気をつけるっす」
 周囲に異様な煙が立ち込めはじめた。それと、明らかな異質も感じられる。
 気だるげな雰囲気を一転、鋭い目付きで構えるダニエル。
 しかしその一方で――、
「わ、わたくしまだチーズケーキを頂いていませんことよ! 早すぎますわ! 空気をお読みなさい! レディの食事中に無礼よ、無礼だわ!」
 立ち込める煙にきゃんきゃんと喚くエリル。
「お嬢……」
 溜息混じりに呟くダニエルは複雑な表情を浮かべるのみ。それでも、怯えて震えてしまうよりはずっとマシだと、心中安堵するのだった。
「俺から離れないでほしいっす」
「そんなことを言っていないで、臣下ならちゃんとわたくしに付いてきなさい」

 怪異迫ろうとも、ここにあるのは変わらぬ日常。
 ――君在ればこその。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朝沼・狭霧
ベイメリア(f01781)と
【WIZ】

桜の形をした和三盆のお菓子と共に
暖かい緑茶をいただきます
まだまだ寒いですもの、暖かいお茶がおいしいです

しとしとと、小雨がぱらついてきた空を見上げながら
今自分が暖かな、室内にいる幸せを満喫します

「ねえメリーさんは雨は好きですか?」

「私は子供の頃は雨に濡れると嬉しかったのですが、いつしか雨に濡れるのが嫌いになりました」
「その事を少し、寂しく思います」

メリーさんが笑ってくださると
私も思わず笑みを返してしまいます

友人との緩やかな時間を、ゆっくりと楽しみます


ベイメリア・ミハイロフ
狭霧さま(f03862)と
【WIZ】

お菓子に合う温かい紅茶をお任せでお頼みいたします

雨は―わたくしは好きでございますよ
大地に恵みをもたらし、また
色々な音や感情を包みこんでくれる気がいたしますので

狭霧さまの子供の頃…
きっととてもおかわいらしくていらっしゃった事でしょう
確かに子供の頃は、お外に出るのが楽しみでございました

今はお嫌い…ですか
理由を伺って良いものかと迷いつつ
個人的には、狭霧さまのお綺麗な髪や翼が
雨に濡れてしまうのは、勿体無く感じてしまいます
それに、濡れてしまっては
お風邪を召されてしまいますもの
濡れないに越したことはございません!

…なんだか的外れな事を言っていますかしら(ふふ、と笑いつつ




 桜のかたちの和三盆を口に含む。
 よくある砂糖とは違った、まろやかで優しい甘さ。
 その甘みを溶かすようにあたたかな緑茶を流し込めば、ほっと、幸せがここに。
「……はぁ」
 幸福そうな溜息をこぼすこの美しいオラトリオは朝沼・狭霧(サギリ先生・f03862)。
「狭霧様、せっかくの幸せが逃げてしまいますよ」
 冗談めかして笑う金髪の女性、ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)も負けず劣らず美しく。
「ふふ、そうね。でもね、あまりに幸せだったものだから、ほっとしてしまって。それに、逃げた幸せは他のだれかを幸せにするでしょう」
 例えば、外で雨に打たれる花だとか。なんて、あの子はもう十分に幸せなのかもしれないけれど。
「お優しくていらっしゃるのですね、狭霧さまは。でも、確かに外は寒そうですし、暖かいお店の中、美味しいお菓子とお紅茶と。幸せすぎるくらいでございますね」
 改めてテーブルの上を見れば、食べかけのスコーンに、ポットの中でジャスミンの花が踊るマスカットティー――すべてが、あたたかい。
 

「――ねえメリーさんは雨は好きですか?」
 窓の外の花を眺めたまま、狭霧が問うた。
「雨でございますか? 雨は――わたくしは好きでございますよ」
 大地に恵みをもたらし、また、色々な音や感情を包みこんでくれる気がいたしますので、とベイメリアは微笑む。
 そして、彼女が問うた理由が知りたくて、同じことを聞き返す。
「狭霧さまはいかがです?」
「……私は、子供の頃は雨に濡れると嬉しかったのですが、いつしか雨に濡れるのが嫌いになりました。そして……、」
 ベイメリアは、静かに耳を傾けたまま。
「そして……その事を少し、寂しく思います」
 何故、今はお嫌いなのでしょうか? ――そうして踏み入ることは、今のベイメリアには出来なくて。
「左様でございますか」
 相槌を返すのみ。
 踏み込めば彼女をもっと知れたのかもしれない。ただ、踏み込むには何かが足りなかったのだ。
「わたくしも子どもの頃は、お外に出るのが楽しみでした。それにしても――狭霧さまの子どもの頃……きっと、とてもおかわいらしくていらっしゃったことでしょう」
 双眸を伏せれば瞼の裏に幼い日の彼女が屈託なく笑っていて、それは過去ではなく想像の産物に過ぎぬのだと知りつつも、頬が緩んでしまう。
「ベイメリアもきっと可愛かったでしょうね。そんな頃に出会っていたら、私たち、こんな日には一緒に雨に濡れながら遊んでいたのかしら」
「ふふ。ええ、きっと」
「……でも狭霧さま。例えば、心変わりして急に昔のようにお外で雨に濡れたくなったとしても、どうぞお止しくださいませね」
「あら、どうして?」
「だって、狭霧さまのお綺麗な髪や翼が雨に濡れてしまうのは、勿体無く感じてしまいますの。それに、濡れてしまってはお風邪を召されてしまいますわ!」
 だから濡れないにこしたことはないのだと、ベイメリアは珍しく強めの語気で主張する。
 そんな様子に、狭霧はくりくりな目をさらに大きくしてぱちぱちと瞬く。
「……あら嫌だ。わたくし、なんだか的外れな事を言っていますかしら? 」
 またいつも通りのゆったりとした口調を取り戻したベイメリアがはにかんで笑う。
「……いえ。――いいえ、ベイメリア。どうもありがとう」
 ――貴女は、変化を嘆く私を励まそうとしてくれているのね。


 しかし、友とのかけがえのないひと時はそう長くは続かず――。

「――! 狭霧さま!」
「ええ、どうやらお茶会はここまでのようですね」
「わたくし、お仕事だってことをちょっぴり忘れておりましたわ」
「私もです。今度はお仕事抜きで、またゆっくり」

 怪異をにおわす白煙が迫る中、微笑むふたりは無意識に背を預け合う。
 友よ、またあとで、君の笑顔を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サギリ・スズノネ
 なるほど、カフェでお茶をすれば良いのですね!
 どんな怪異があるのか気になりやがりますが、せっかくなのでサギリも優雅に『てぃーたいむ』と行きがやるですよ!

 うーんうーん、注文は何が良いですかねー。サギリ、甘いもの好きですけど……迷いますね!
 迷った時は店員さんにおまかせが一番だと、サギリは聞いたことがあります。
 手を挙げて店員さんを呼んで、おまかせ一つお願いしやがるのです!

 わくわく注文を待ちながら、カフェの中を眺めます。
 何かあれば【第六感】にビビビと来るかもしれないなーと思いつつ。

 メニューが届いたら店員さんにお礼を言って早速食べるですよ!
 わーい! 美味しそうですよ! 




 カフェでお茶をするくらいお安い御用だと、サギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう。・f14676)は意気揚々と店内へ。
 怪異はそれなりに気にはしつつ、しかしここはせっかくなので優雅に『てぃーたいむ』といってみよう。

 窓際ではないが、しっかりと外の確認出来るテーブルに腰掛けた彼女は、持て余した両脚をぷらぷらりと揺らしながらメニューを眺める。
「うーんうーん、優雅にキメるには何が良いですかねー。やっぱり紅茶? ……ゲッ、めちゃくちゃ種類がありやがるです!」
 一先ず飲み物は後回しにし、デザートのページへジャンプ。
「サギリ甘いもの好きですけど……けど! やっぱりこっちもめちゃくちゃ種類がありやがるです!」
 パタン。メニュー表を閉じるサギリ。
 サギリは聞いたことがあった、『迷った時は店員さんにおまかせが一番だ』と。
「店員さーん! おまかせ一つお願いしやがるのです!」
 これには接客のプロも少々面食らったが、すぐに笑顔で注文を通しにキッチンへと向かっていった。

 「さて、」
 と、サギリは窓の外の景色へ目を向ける。今日のような、しとしとと静かに音を奏でる雨は嫌いではなかった。
 それと同じくらいお気に入りの美しい夕焼けは、きっと今日は見れないけれど、その代わりに甘いものが食べられるものだから、サギリはとても嬉しそう。
 仕事で訪れたカフェではあるが、今回は存分に楽しめばそれで良いし、何かあれば己の第六感が何やら仕事をするだろうから力を抜いて。
 幸い今のところ特に何か感じられることもない。ただ、窓ガラスに張り付いた蛙だけ、何だか気になるけれど。


 その後も外を眺め、少しぼんやりとしていたサギリ。しかし目の前に白菊で彩られたぜんざいが提供されれば途端に目を輝かせ。
「あんこ! わーい美味しそうですよ!」
 それはそれは嬉しそうに店員に礼を述べ、あっという間にぺろり。
「サギリ、もっと食べられる気がします」
 今度こそ自分で選んでみようと再びメニュー表を手にとるサギリ。
 その瞳は今日一番輝いていた。

 しかし、そんなわくわくの最中にあるサギリに容赦なく怪異が迫り来る。
「え! そりゃあ確かにめちゃくちゃ楽しんでましたけど! もう少し待ちやがれです!」
 どこへともなく叫ぶ。
 だがもちろん怪異が待つはずもなく、瞬く間に煙が視野を奪って。
「メニュー表が……見えないです……」
 消え入りそうな声。

 ゲッゲッゲッ。
 嘲笑うように蛙が鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
カフェかぁ…。始めて来たけど私浮いて無いよね?血の香り服からしてないよね?消臭スプレーしたけど大丈夫かなぁ…。

メニュー選びにしばらく悩んだ末に店員さんに伝えるのは、「お任せで」の一言。こういうお店入ったこと無いし、メニューが多くて困っちゃった。

頼んだものが来たら、窓際の席でのんびりお茶を楽しもう。…実験施設から逃げてきてから一人でのんびりするの始めてかも。




 店に入るなり、明らかにそわそわとし始めた少女がいる。
 名をアンナ・フランツウェイ(断罪の御手・f03717)というオラトリオの少女だ。
 くんくん。すんすん。
 しつこいくらいに自身の衣類を嗅ぐ彼女。
 ――血の香り服からしてないよね?
 念入りに消臭はしてきたものの、いざ店内に入ってみるとまた不安にかられてしまう。
 まして初めて訪れた場所なのだから仕方の無いこと。
 実際のところはというと彼女の消臭は完璧であったし、愛らしい見目も手伝って不審がる者など誰一人いなかったのだが。
 そんなこととは露知らず、アンナは落ち着かない様子のまま席につく。
「わぁ……字がいっぱい」
 どれもこれも馴染みのない単語ばかりでアンナは小首を傾げる。
「あの、よく分からなくて、お任せしてもいい?」
 上目遣いで尋ねてみれば、店員はその愛らしさに魅せられ営業用ではない笑顔で応えるのだった。


「わ。なんだろう、これ。わかんないけど、すごく甘くていい匂い」
 店員が説明することには、フルーツを沢山詰め込んだマフィンだそう。
 中身だけでなく、ピンクやイエローといった明るい色の生地に包まれていて、見ているだけで楽しいお菓子だ。
 一緒に提供された紅茶には、砂糖漬けにされた苺と苺の花が浮いている。
「カフェってこういうものが出るんだ。けっこう楽しいかも」

 そしてひとり、窓辺で静かな時を過ごす。
 考えてみるとこうしてひとりでのんびりと過ごすのは、あの『施設』から逃れてより初めてな気がした。
 あたたかい紅茶と甘いマフィンを啄んでいると、実験体として過ごしたあの日々が遠い昔のようにも感じられ、アンナは何とも不思議な感覚にとらわれる。
 ――世界には、こんな優しい時間もあるんだね。
 そんなことを思うアンナの横顔はいつもより少し大人びて。
「悪くないね」
 優しい吐息のように呟いた。

 しかしアンナにとって大切なこの時間を奪わんとするものがいた。

「なに。この煙みたいなの……」
 席を立ち周囲を眺めんとするも、すでにすべてもやの中。
「怪異ってこれかな」
 僅かに身構える。しかしここから先に何があろうと、あの頃に比べれば。
 
 ――今度は仕事抜きでカフェに行ってみようかな?
 願わくば、また輝く世界に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒久根・ギギ
フィン(f00295)と
…さすがにこういう場で
いつもの作業ツナギっつーのもなぁ
あり合わせでジャケットとズボンは何とかしたケド
…アーハイハイどーも

春、ね
気がついたら季節が変わってて
目まぐるしいっテの
けどまぁそうだな
俺も嫌いじゃねーよ

花はよく分かンねぇから
適当な軽食でお任せに
…ああうん、ケーキとか好きそうだよな、そっち

花…野郎に花も何もあったもンかよ
そーゆーのはあンたみたいな
女を擬えるもんだろ
(添えられただろう花菓子を
フィンの髪に飾るような仕草で)
ほら、こーいう風にナ
(笑ってザクリと噛み砕き)

あ?姉貴ン所は行かねーと
後々煩いからまぁそこそこ…等々
いくつか素直に答えてから
今度はそっちな、と聞き返し


フィン・クランケット
【POW】
ギギさん(f02735)をお誘いしてっ
えへへ、よくお似合いですよぉ?(にこにこ)

わーい、カフェカフェ♪
雨…催花雨ってやつですかねぇ
春が近づいてるのかもと思うと、うきうきしませんか?
春はお花の季節
私、お花好きなんですよぉ

っとと、ギギさんは何頼むか決めましたっ?
わーたーしーは…ハーブティーとお任せでケーキも付けちゃおうかなぁ
お花のお菓子も楽しみです~

(じーっと相手の顔を見)
ギギさんは、どんなお花でしょうねー?
(私より出てくるお花が想像つかないとは言いませんとも、ええ)

あ、折角なので、ギギさんの日常のこと教えてくださいっ
普段はお姉さんのところでご飯取ることが多いんですか?等々、以下雑談




「……やっぱなんか落ち着かねーんだよなぁ」
 店に入るなりぼそりと呟く荒久根・ギギ(スクラップマーダー・f02735)。
 彼が落ち着かないというのは、もちろんこのいかにも女子向けな空間のことも含むのだが、それよりなにより己の出で立ちである。
 モノトーンカラーで纏めたジャケットとカーゴパンツ。これを最後に着たのはいつだったか。
「えへへ、よくお似合いですよぉ? もちろん、いつものツナギ姿もステキですけれど」
 対照的に明るく笑ってみせるのはギギを誘った張本人、フィン・クランケット(蜜柑エルフ・f00295)。
 触覚みたいにぴんと伸びた毛束をぴこぴこ揺らし、いかにもご機嫌といった様子。
 彼なりに気を遣ってくれたことも、こんな不慣れな場まで付いてきてくれたことも、今この瞬間を共にしていることも、全部全部嬉しくて。
「……アーハイハイどーも」
 首の鱗をぽりぽりと掻いたのは照れ隠しだったのかもしれない。


 早速、大きなガラス窓に面した席に腰掛ける2人。
 窓の外の景色はすっかり雨に濡れてしまっていた。
「催花雨ってやつですかねぇ」
「ンだそれ」
「えっと、『ぼちぼち春ですよ、だからお花さん咲いてくださいねー』って感じの雨のことです」
「ふぅん。つーかそっか。もう春になるンだな」
 この世界の季節は目まぐるしく変わるものだぁなと、ギギは花の蕾に目を遣って。
「春が近づいてるのかもと思うと、うきうきしませんか? だって春はお花の季節ですよ。私、お花好きなんですよぉ」
 へらへらと緩みきった頬。私はお花が大好きですと顔に書いてあるみたいに。
「あーそれは分かるわ、なんとなく」
「え! ギギさんもお花好きなんですか!」
「……ちげーよ。あンたが花好きそうってコト。――けどまぁそうだな。俺も嫌いじゃねーよ」
 ――それってやっぱり好きってことでは。
 大きな瞳でギギを見詰めるフィン。
「……ンだよ」
「ふふ、なんでもないですっ。そういえばここ、お花のお菓子を出してくれるんでしたっけ。ギギさんはどんなお花でしょうねー?」
 フィンの笑顔は意味深で、それに気付かぬギギではなく。
「はっ、野郎に花も何もあったもンかよ」
 不貞腐れてそっぽを向いてしまうのだった。


「わあ! ギギさんのお花、すっごく可愛いですね!」
 食事が運ばれてくるなり歓声をあげるフィン。
 ギギのパニーニには珍しい緑の薔薇のエディブルフラワーが添えられており、フィンのオレンジタルトには小さな菫が添えてあったのだが、どうやらフィンはギギの薔薇のほうが気に入ったよう。
「そんなにコレが気に入ったかよ。まぁさっきも言ったケド、男の俺が薔薇ってのもなァ……」
 骨ばった指先で彼女の意中の薔薇をつまむ。
 と、それをフィンの髪にあてがってみせ。
「こーゆーのはあンたみたいな女を擬えるもんだろ」
 にや、と口端を上げて不敵に笑む。
「ギ、ギギさ……」
「――なーンてな」
 ザクリ。憐れ、緑の薔薇はギギの鮫歯に散ってゆく。
「あぁっ……!」
「蜜柑みてーで面白かったぜ」
「……なっ!! もう! もう!」
 これが『喧嘩するほど――』と言えるのか否か、それは二人だけの知るところ。


「そういえばギギさんって普段どんな生活してるんですか? 例えばご飯とか――あ、お姉さんと一緒に食べてます?」
 訊かなければ語ることをしないギギなものだから、彼のことはよく知っているようで、実は知らないことも少なくない。
「あ? 姉貴ン所は行かねーと後々煩いから、まぁそこそこ」
「いいなぁ。ジジさんのチョコレート、また食べたいです」
 よほど美味しかったのか、まるで今食べているかのようなふにゃふにゃ笑顔でフィンが言う。
「……言えば喜んで作るだろーよ」
 身内を褒められちょっとこそばゆいのか、ギギはふいと視線を逸らして。
「で、そういうあンたは飯どーしてんだよ」
「私? 私は――」

 フィンの言葉が途切れた。俄かに迫る白煙故に。
 それは生き物のように二人を包み込まんとうねり寄る。
 平穏を突如襲う異質――そう、これこそ件の怪異であった。

「はーーーー正直ここに来るだけで大分疲れたンだが……マジでめんどくせェな」
 鋭い歯を存分に覗かせ、煙を威嚇するように吐き捨てるギギ。
「まぁまぁ。ひょっとしたらスクラップアンドビルドな世界がギギさんを待っているかもしれませんよ?」
「ンな都合良くいくかよ」
「そう言わず。乗りかかった船じゃないですか」
 それに、行く末には必ず打破すべき存在があるのだから。
「ケッ。――こうなったら徹底的にやってやろうじゃねーか」
「その意気です!」
 なんだかんだ舵を取るのはいつもフィンで、それがこの二人の在り方なのかもしれない。

 怪異なんてなんのその。
 Stand by me.
 Stand by you.

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『温泉で邪神召喚』

POW   :    従業員に突撃!教団の人なら締め上げよう

SPD   :    怪しい場所に突撃!お風呂とか怪しいよね?

WIZ   :    潜入調査だ!宿で働いてみよう!

👑11
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●雨やまず

 ふわふわふわり。靄が彼方へ消えていく。
 猟兵たちが視界を奪われていた時間はそう長くはない。
 しかし、そこに見えた景色はすっかり変わってしまっていた。
 
 花みつるカフェは姿かたちなく、代わりに在るのはこの世界ではよく知れたとある娯楽施設。
 君はひょっとしたら何度か利用した経験があるかもしれないし、例えば本なんかで目にしたことがあるかもしれない。もちろん、まったく見知らぬ施設であるかもしれないが。

「いらっしゃいませ、素敵なお客様」
 未だ入り口に佇む猟兵たちに、和装の女性が声をかける。
「ようこそ、温泉旅館『はなやなぎ』へ。ささ、細かいことは気にせず、どうぞごゆっくり」
 女将と呼ばれるこの女性はにこやかに、しかし有無を言わさぬ強引さで猟兵たちを旅館へ誘ってまわる。
 まぁなんとも怪しいものではあるのだが、ここと怪異が切っても切れぬ関係にあるとは語らずとも知れたこと。
 虎穴に入らずんば虎子を得ず。猟兵たちはひとり、またひとりと旅館の中へ消えていくのであった。
 
 グァッ、グァッ。
 ここでも蛙が喜び歌う。

 ゲッゲッゲゲゲッ。
 暮れなずむ空に太陽はない。
バラバ・バルディ
【SPD】
……おぉ、そうかそうか。ありがとうのう。
(外観や内装を興味深そうに眺めつつ、ニコニコしながら誘いに乗る)
ふーむ、どうやらわしは初めて来る宿のようじゃな……うむ。では、わしは温泉に入ってこよう!
いやっ、わしとて何も考えとらんわけではないぞ。ほれ、まだ何も分からぬのなら、ひとまずは相手の出方を見るのも一つの手じゃろ?
すまぬが、わしは足がちと悪くてのう……湯には浸けぬゆえ、杖を持って入っても良いかのう?
(右足の傷痕を見せ女将等の同意を得る。無理なら『隠し』て持ち込む。本当は無くても問題ない)

……ふふん、極楽じゃのう
(蛙の声に合わせ鼻歌を『歌い』温泉を堪能しつつ、周囲を観察して『情報収集』)




「……おぉ、そうかそうか。ありがとうのう」
 怪奇な誘いにいち早く応じたのはバラバ・バルディ(奇妙で愉快な曲者爺さん・f12139)だった。
 陽気そうに足取り軽く旅館へ赴き、迎えの従業員たちとも率先して挨拶を交わしたりなんかしている。
「この絵画は素晴らしいのう。花と蛙とは珍しくも愛らしい」
 バラバが目をつけたのは一枚の絵画。玄関にこれみよがしに飾られている大きな一枚だ。
「あ、分かりますぅ? この絵画はですねぇ、我々のボ――」
「ちょっとアンタ!!!」
 嬉しそうに絵画の説明をせんとしゃしゃり出た若い女従業員の言葉を遮るのは鬼のような形相をした女将。先ほどとはまるで別人のようである。ぜえぜえと肩で息をするほどの勢いで従業員をにらみつけ、奥の従業員室へ戻るよう言いつけた。
 そして何食わぬ花なりとした笑みでバラバに向き直り。
「ほほ、とんだご無礼を。あの子ったら自分の仕事を蔑ろにしてこんなところにいたものですから」
 わたくしもムキになってしまいお恥ずかしいですわ、と。
「……ほっほ。いやなに若い者には良くあることじゃろうて。女将さんも教育熱心だのう」
 対するバラバも朗らかさを欠くことなく、細かいことなど気にせぬといった風で頷いている。
「ときに女将よ。わしは温泉に入りたいのじゃが、ちと足を悪くしておってのう。こいつも一緒で構わんかの?」
 ひょいと掲げて見せた愛用の杖。装飾がカラリと音を立て、存在を主張する。
「ええお客様、もちろんよろしゅうございますわ」
「そうかそうか。ありがとうのう」
 如何せんこの通りで――そう言って服の裾をあげてみせるバラバ。その細い足首には、うっすら、囚われたような痕が彼の過去を垣間見せていた。


 しとしとと降り注ぐ雨をガラス越しに眺め、バラバはゆったりと内湯に浸かりながら先刻の出来事を思い返す。
「臭うのう」
 ひとりきりの湯船。遠慮無用と肩まで思い切り浸かってみれば、豊かな顎鬚が花咲くみたいに水面にひらいた。
 これで何も考えずにいられればそれこそ極楽なのであろうが、生憎と頭の中は忙しない。
 それというのも、あの場での追求は避けはしたが、女将の態度はどうにもきな臭いもので、果たしてあの従業員は何を口走ろうとしたのだろうか。それとあの絵画との繋がりとは。
「花と蛙……はぁー難しいのう。そもそもボなんちゃらってなんじゃいな」
 同じことが何度も何度も頭の中を行き交い、身体より先に頭のほうがのぼせてしまいそうなほどだ。
 ガラスの向こうの蛙に縋るような視線を向けてはみたが、ゲコゲコ歌が返るのみ。仕方がないのでそれではこちらもと鼻歌を奏でるバラバ。
 しばしささやかな演奏会を楽しむバラバであったが、一方で浴室中を観察していてふと気付く。
「……ちょいと蛙が多すぎやせんかのう」
 改めて注意深く周囲を観察するバラバ。じぃ、と蛙を見つめれば、それは気まずそうに跳ねて露天の彼方へと消えていった。すると、それに続くように1匹、また1匹とガラスを離れ去っていく。
 不可思議さに行方を追うてみると、彼方に質素な建物が1軒、蜃気楼のような不確かさの中に佇んでいるではないか。
「やれやれ、怪しいもんを見つけてしまったわい」
 真相に近付きながらも落胆の色を隠せないバラバはしかし、老体に鞭打って極楽から離れ蛙を追う覚悟を決めたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

サギリ・スズノネ
【WIZ】を選択

メニュー表の代わりに見えて来たのは温泉旅館……!
怪しさ満載ですけど、温泉旅館ってサギリ好きなのですよ!

さてさて、ごゆっくりと言われましたけど、カフェでたくさんゆっくりしたので、ここからがお仕事タイムなのです!
ちょいとお宿で働いて色々調べてみるですよ!

お手伝いとか、臨時バイトとか、募集してないですかね?
お宿でお世話になるお金がないのですよ、なんて理由でお願いしてみるのです!

潜入出来たら旅館内を【掃除】しながら、【第六感】を働かせて館内を調べつつ、情報を集めます。
『はなやなぎ』で起こった不思議な話や、女将さんについてさり気なく話を聞くですよ!

※アドリブ、他のPC様との連携歓迎です!




 軽やかな音を転がすように旅館へ踏み込んだのはサギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう。・f14676)。まだ僅かに鼻に残るカフェの甘い香りと決別し、仕事に取り掛からんと意気込んでいる。
 元より温泉旅館の好きなサギリ、旅館の仕事について勝手知ったる訳ではないが無知でもない。ならばちょっと無理を言って働くこともできるのではないかと彼女は考えた。潜れるところまで潜ってやろうではないか、と。
 そうと決まればまずは脆い部分から押して通るべし。点在する従業員の中、押し切れそうな雰囲気を纏う若い男の従業員に目を付けるサギリ。
「あのっ!」
「っは、はい!」
 急に勢いよく話しかけられ、気の弱いらしいその男は分かりやすく気圧され縮む。しかし相手が少女であることを認識するとやや落ち着きを取り戻し、客商売らしい微笑みを返しながら用を問うてきた。
「えと、サギリ実はお金を持っていなくてですね」
「ああ、お金でしたら気になさらないでください」
「え?」
「当旅館はお代は一切頂きません。ご安心ください」
「……」
 ――思っていたのと会話の方向が違う。金がいらない旅館? そんな馬鹿な。怪しい。完全に怪しい。
 しかしたればこそ食い下がらねば、潜らねば。
「でもサギリどーーーーーーしても宿屋さんごっこがしたいのです!」
 子どもらしさを矛に、愛らしさを盾に。今にも泣き出しそうな必死さで訴える。
「はぁ……宿屋さんごっこねぇ……」
 困って眉を下げる男。しかし目の前の幼い子がそれ以上に切羽詰った顔をしているものだから。
「……わかったよ。偉い人に聞いてみよう」
「わーい! ありがとうですよ!」


 なんとか従業員見習いとして潜入に成功したサギリは、厨房の清掃を仰せつかり、布巾片手にガスコンロを丁寧に丁寧に磨き上げていた。マニュアルを確認しつつとはいえ、汚れと真摯に向き合うその姿勢はプロのそれだ。
「よし、この汚れには重曹ですね、サギリ覚えまし――って違う!! そうじゃないのです!」
 布巾を投げ捨てる。危うくガチで働いてしまうところだった。
「な、なんですか今の音はっ」
 騒がしさに駆けつけたのは同じく厨房の清掃にあたっていたあの気の弱い男。
「ちょ、ちょっと虫がいやがりましてですね!」
 乾いた笑いで取り繕いつつ、サギリは本来の使命を果たさんと探りを入れ始め。
「そ、そういえばここの女将さんっていつもああなんです?」
「どういう事だい?」
「客引きがすごく強引じゃないです?」
「あぁ、だってそうでもしないと――あ、」
 慌て自分の口を塞ぐ男。
「そうでもしないと……なんです?」
 隙ありとばかりにずずずいと身体ごと迫るサギリ。
「なっなななんだっけ? そ、そんなことより、ほらお嬢ちゃん、掃除しなきゃ! ね!」
「嫌なのです! 言ってくれないとサギリ大きな声で泣いてやるのです!」
「そ、そんな……」
「さぁはやく! 男なら決めるときは決めるのです!」
「いやいまはそういうんじゃ……」
「あ、もう泣きますですよ。 カウントダウンなのです。5、4、3、2――」
「あーー!!!分かった!!! 分かったから!」
 ――まぁ、いいか。だって、どうせこの子もゆくゆくは……。

「土産話に教えてあげよう。――この旅館はね……」

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィン・クランケット
ギギさん(f02735)と

むむっ、怪しい
第六感にぴこぴこ来てますよっ(アホ毛ぴここん)

これは実地調査が必要ですね!
決して温泉やったー!とか思ってませんとも、ええ!

カエルがたくさん
カエルの旅館、昔話にありそうな…と、それはともかく、ギギさんは調べたいことありますか?
私は温泉ってところが気になってて、入った人を洗脳しちゃう温泉とか
あ、大ガマも確かにありえそうっ
ということで、温泉を調べたい気がします!
厨房とかもちょっと怪しいですけど(くぅ)

…。

ち、違います違います!
今のは消化音でっ
本当ですよぅ!?

あ!今太ってるって!
うわーん、ピンチになっても助けてあげないんですから!?
ギギさんの童顔!悪顔ウサギー!


荒久根・ギギ
フィン(f00295)と

何、ホラー?
うんいや普通に五感でも
怪しさ感じるぜこれ

この状況で温泉だーって喜べる
肝の太さは中々…
普通に入れンなら良いけど

アー、カエルは確かに
多すぎる気はすンな
茹ってたらうっかりコイツらの
親玉みてーなのに
ぱくっと丸呑みされたりして

旅館の目玉なら確かに温泉は
確認しときたいか
じゃあ俺は…
(腹の音に噴き出す)
…アーはいはい仰せの儘に
厨房行ってこいってことね
調理器具の修理で釣れっかな
ついでに喰えそうなモンあったら
取って来てやっから皆まで言うな
…カエルの親玉もたっぷり太った奴のが
好みかもしれねェしな
…冗談だって、冗談
泣くなよ?

…あ、テメ、誰が童顔だ
お前にだけは言われたくねェぞ…!




「むむっ、怪しい」
「何、ホラー?」
「第六感にぴこぴこ来てますよっ」
「うんいや普通に五感でも怪しさ感じるぜこれ」
 愛らしいあほ毛をぴょこぴょこ動かし意気込むフィン・クランケット(蜜柑エルフ・f00295)に対して、あからさまな怪異に心底だるそうな荒久根・ギギ(スクラップマーダー・f02735)。
 二人が旅館へ赴く足取りはカフェへ向かったときのそれと同じ。
「ギギさんほらもっとぐいぐい行きましょうよ」
「はぁ」
「どうしてそんなに落ち着いていられるんですか? 実地調査ですよ。温泉で! そう、お・ん・せ・ん・で!!」
「喜んでんじゃねェよ。どんだけ肝が太ェんだ」
「なっ、べ、別に喜んでないですよ。ええ喜んでないですとも! 仕事熱心と言ってくださいっ」
 なんて取り繕いつつも身体は正直なもので、フィンの指先はすでに旅館のパンフレットへと伸びていた。
「わぁギギさん見てください! お風呂、たくさん種類があるみたいですよ。えへへ、迷いますねぇ」
「……やっぱ楽しんでんじゃねェか」
「あわわわわそんなこと――あ! あ! ほら見てくださいギギさん、カエルがいっぱい!」
 取り急ぎ仕事モードに切り替えたフィンは、追い詰められていたのも手伝って高い情報収集能力を発揮。パンフレットに点在する蛙の存在を指摘した。
「アー、カエルは確かに多すぎる気はすンな。そこのガラスにもへばりついてやがる」
「わ、本当だ! カエルの旅館、昔話にありそうな……と、それはともかく、ギギさんは調べたいことありますか?」
「あぁ? そういうのはあンたのが得意だろ」
 ほれ、とギギが指差して見せたのはフィンのぴんとはねた頭の毛。
「んんーっと、そうですねぇ」
 ぴこんぴこん。謎の駆動力で毛がうごく。
「私は温泉ってところが気になってて、入った人を洗脳しちゃう温泉とか」
 どうでしょう? とギギを見遣れば、彼も一緒に思案して。
「なるほどなァ。茹ってたらうっかりコイツらの親玉みてーなのにぱくっと丸呑みされたりして」
「ひゃー大ガマのご登場ですか。確かにありえそうっ。ということで、温泉を調べたい気がします!」
 びしっと敬礼を決めながら打診するフィンはすっかり探検隊気分。
 相変わらず場を満喫しているようにしか見えぬ彼女に一抹の不安をおぼえるギギであったが、一方で確かに彼女の意見は的を射たものであると理解していた。
「一緒に女湯を探るわけにもいかねェし、俺はどうすっかね」
「それなら厨房とかもちょっと怪しいかなーなんて思うんですけ――」
 くぅ。
 控えめに鳴いたのはフィンの腹の虫。
「……ど」
 もじもじ。視線を低い位置で泳がせ、パンフレットを握る手には力がこもる。
 恥ずかしい。これではいかにも厨房の食料が目当てのようではないか。まぁ外れではないのだけれども。
 けれども!
 ああ神様仏様、願わくば彼の耳に届いていませんように。
「――ふっ、ハハっ」
 だがしかし乙女の切なる願いは、噴出すギギの前に空しく散った。
 なんてこった。神様も仏様もいやしないじゃないか。
「ち、違います違います!今のは消化音でっ……本当ですよぅ!?」
「…アーはいはい仰せの儘に。厨房行ってこいってことね。調理器具の修理で釣れっかな。ついでに喰えそうなモンあったら取って来てやっから」
「だ、だからお腹が空いてるんじゃないですってば! ……でも、」
「あン?」
「でも、ギギさん私に比べたらまだへっぽこですし、ついていってあげるのも吝かではないですよ」
「いらねェし」
「…………」
「んじゃ、命があったらまた後で会おうぜ」
「…………」
 沈黙するフィンからギギの背中が遠ざかる。
 一歩、二歩、三歩、四歩――。
「あーーーークソッ!! 面倒臭ェなァ!! 黙ってついてこい!」
 背中で怒鳴ればオレンジの笑顔が花咲いた。


 なんだかんだでニコイチな二人。揃って足を踏み入れたのはこぢんまりとした食糧庫だった。
「さて、と。鬼が出るか蛇が出るか」
「わぁ! みかんです! ギギさん、おみかん出ました!」
 パァァァと輝く笑顔でギギを見つめるフィンは、小さな両手に、大事そうに蜜柑をのせて見せびらかしている。
 ――コイツはやはり置いていくべきだったか。緊張感もあったもんじゃないと呆れて言葉もでやしないギギ。
「あ、言っとくけどあげませんからね、私が見つけたんですから」
「いらねェよ……」
 からがら返すギギの心中などつゆ知らず、フィンは愛おしそうにみかんの皮をむき始め。
「……まァいい。カエルの親玉もたっぷり太った奴のが好みかもしれねェしな」
「!? 今太ってるって言いました? ひどーい……うわーん、ピンチになっても助けてあげないんですから!?」
 うっうっ、と小刻みに肩を震わせるフィン。
 お口のみかんはこんなにも美味しいのに、果たしてこれはいけないことなのだろうか。今だけはスマイル有料にしちゃいたい気分である。
「……冗談だって、冗談。……泣くなよ?」
 恐る恐る、震う彼女を覗き込む。人間関係において自分がそう器用でないことを知っているギギだものだから、いつもの笑顔が消えるのは居心地が悪くて。
「……の……がん」
「?」
 細く漏れたフィンの声を拾おうと大きな耳をすこぉしだけ持ち上げてみれば――。
「ギギさんの童顔! 悪顔ウサギー!」
 途端、待ってましたとばかりに声を張り上げ罵るフィン。そのまなこには涙なんて、ひと粒だってありやしない。
「っ!! テメ、誰が童顔だ。お前にだけは言われたくねェぞ……!」
 未だ彼女の若々しい声の余韻を残す脳が痛んで、ギギは頭を抱えながらくらりと後ずさる。
「つーかうるせぇンだよ。状況弁えろって」

「――お客様、こんなところでナニをコソコソなさっているのですか」
 突如ふりかかる太い声。
 きっちりと閉めたはずの扉はいつの間にか開け放たれ、厨房から差し込む光を背に、男と思しき大ぶりの影が仁王立ちして二人を窺っているではないか。
 棘を隠しきれないその言葉遣いから、おおよそ友好的な相手とは考え難く――言葉交わさずとも危機を本能で嗅ぎつけ、薄暗い食糧庫の中、肩を並べるフィンとギギ。
 すると男はもう一度問うた。ここで何をしている――と。

「どう思います? ギギさん」
「どうもこうももうやるしかねェだろ。コイツをシメて全部聞き出す」
「でも怒ってるだけで無関係かもしれませんよ?」
「……そんときゃそんとき」
 それがとても君らしくて、あははと笑うフィンはしかし、喜んでポシェットへと手を伸ばすのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

光・天生
引き続きノワ先生(ノワーラ・アルバァ)と一緒に。
これが怪異……え、探偵ごっこ?
さすが先生……俺には思いつかない深遠な提案です。

先生と共に女将や仲居を追跡。
彼らの動向や会話から、邪神にまつわる情報を探れないでしょうか。

……まどろっこしい。
怪異として現れた空間の存在、いっそ恫喝して締め上げ……
……ダメなんですか先生!?
しょんぼりして後ろに下がります。

俺も気になることがあります。
窓から見えた空……太陽の有無。
「……あの。ところで今って、何時ですか?」
あくまでごく自然に、ただ気になった風に。

邪神の領域なれば、先生の身辺は常に警戒。
いつでも戦闘態勢を取れるようにはしておきます。

【合わせにつき判定お任せ】


ノワーラ・アルバァ
光おにーさん(光・天生)とごいっしょです。はいー
いかにもーな展開だよおにーさん
そいじゃ「探偵ごっこ」いってみよ。 おにーさん助手ね

ノワ、こゆとこはきたことないけど
あの和服の人。おかみさん?ってゆーの?
こっそり後をついてったらおもしろいの見られないかな。ね。

ノワたちと女将さん以外に誰もいなくなったら、もしもしーってお話し聞いてみよ
乱暴はだめだからねおにーさん。やっちゃいそーになったらノワがめってするから

聞いてみるお話は
んー
「ここってなにか見所はあるのー?」
「かえるさんの声がすっごいけど、いっぱいいるの?」
かなー。

あぶなくなったら、頼りにしてるからねおにーさん
【WIZ】




 怪異の誘いに応えた新たなるふたつの影。
 いかにもーと、ゆったりひとつ頷くノワーラ・アルバァ(☆白黒鍵盤ハーモニィ★・f05973)。
 その傍ら、光・天生(鈍色の天蓋に神は座す・f05971)はと言えば、素早く周囲に視線を巡らせ取り急ぎの脅威がないのを認めたところだ。
「急に襲ってくる、なんてことはなさそうですね。今のところは、ですけれど」
「うんうん。そいじゃ“探偵ごっこ”いってみよ。はいおにーさん助手ね」
「え、探偵ごっこ?」
「だって、“うってつけ”でしょ」
「なるほど……そうなんですね。俺には思いつかない深遠な提案です」
 どうやら俺はまだまだ常識知らずのようです――さすが先生。いや、今だけはぜひノワ名探偵と呼ばせてください。
 
 ノワ名探偵と助手ティエンシェンの奇妙な謎解き紀行が、今、はじまる――!


 さてさてそれからややあって。
 小さな探偵たちはというと、女将と呼ばれる人物をホシとしたところ。
 柱や調度品を巧みに利用し足早な女将の後ろをついてまわる。大抵の場面でノワーラの豊かなしっぽがすこぉし覗いていたのだけれど、さいわい女将が振り返ることはなく、そのままとある部屋へ消えていったのだった。

「従業員用の控え室でしょうか。中からなにやら声がしますが……」
 天生は扉に耳を寄せ、瞳を閉じて聴覚を研ぎ澄ましてみるが。
「……ダメですね、途切れ途切れで要領を得るのは難しそうです」
 しかし天生は知っている。この程度の困難は名探偵を彩る装飾に過ぎないのだ、と。
「ふぅん。でもまぁノワにまかせなさーい」
 ほら! さすがです、ノワ名探偵! 心の中で拍手を打つ天生。ちゃんとTPOを弁えるしっかり者だ。
 そしていつもみたいにたっぷりと尊敬の眼差しをノワへ注ぎ、それに応えたノワは怪しげに笑みながらある秘密道具を取り出した。
 それを天に掲げ宣言することには――。
「かみこっぷ~~」
「紙コッ……え、先生、いまそれどこから出しました?」
「おなかのポケットだよ」
「??? おなかにポケットありませんよね?」
「なくてもあるの。ノワだからね」
「……す、すごい、さすがです先生」
 まぁね――なぁんて、ほんとはふつーにポシェットからだしたんだけど。おしえてあーげない。

「じゃあおにーさん。これをおみみととびらではさんでみて」
 先生は聞かぬのかと天生が視線で問う。だって、先生の大きなお耳は自分のよりよっぽどよく聞こえそうなのに。
 するとどうだろう、ノワは顔をくしゃくしゃにして嫌悪を示すではないか。
「それ、おみみがぞわぞわってするし、けなみがみだれちゃうから――こんなことレディに言わせるなんてまだまだだね」
 ノワに叱咤された天生はしょんぼりと、己の至らなさを悔いながら紙コップ越しに部屋の会話に耳を立てるのであった。
 これは挽回せねば。ヒントを得ねば。
 だがしかし。
 どれだけ耳を欹てようともあまり効果は得られない。
 ――天生は狼狽した。心の中で思うばかりとはいえ、敬愛する先生の妙案に対し、あろうことか“無意味”の判定を下そうとしている自分がいることに気付いてしまったのだ。
 “そんなはずは”“いやしかし”、廻り廻る思考の果てに汗が滲む――さらりと流れた雫が頬を伝って床にぽつりと染みたとき、天生のなかで何かが弾けた。

「……まどろっこしい」
 そもそもこれは怪異として顕現したもの、すなわち敵であることは明らかはのではないか。正体こそ不明ではあるがどうせ討つものなのだから、何を躊躇うことがあろう。
 とっとと締め上げて吐かせてしまえ、もう潰してしまえ。
 鈍色差す鋭い瞳を以ってドアノブに手をかける天生を、しかし制する者があり――。
「めっ」
 それは、ちいちゃなちいちゃなノワの手だった。
「乱暴はだめだからねおにーさん。ノワの探偵ごっこめちゃくちゃにしちゃいやだよ」
「……っ、す、すみません」
 調子を取り戻したか、はたまた崩されたか。何れにせよ、天生はしゅんと項垂れ、子犬のような澄んだ瞳に悲壮感を湛えるのであった。

 そうこうしているうちに部屋の方に動きがあり、扉に向かって歩いてくる足音がひとり分。
 聞きつけた二人はすぐさま階段の影に隠れ様子を窺う。
 出てきたのは女将。特段変わった様子もなく、こちらへ向かって歩いてくる。
「このままふつーにでてって話しかけよ」
 ノワの言葉に頷く天生。きっとそのほうが怪しくない。
 そうしてふたりは、まるで普通に歩いてきて出くわしたみたいに女将と対峙する。
 女将はといえば、よく大人が子どもにしてみせるようなこれといって特徴のない優しげな笑みを浮かべ、こんなところでどうしたのかしらと見下ろすのみ。特別警戒もしていなければ、歓迎もしていないといったところか。
「うんとね。あそぶところを探してて。ここってなにか見所はあるのー?」
「そうねぇ、子どもだったらゲームセンターなんかがいいじゃないかしら」
「ゲームセンターはお金がかかっちゃう。そうだ。カエルは? たくさんカエルの声がする。どこにいけば会えるかなぁ」
「――……ほほ。蛙は子どもの相手をするためにいるんじゃありませんよ、お嬢ちゃん。間違っても追い掛け回したり、捕まえたりしないでちょうだいね」
 女将はずっと、笑顔のかたちを崩さないまま、腹の底が知れぬまま。
「……あの。ところで今って、何時ですか?」
 脳裏に焼きついていたのは雲に隠れた空の景色。あそこに太陽はあっただろうか。
「さぁ、でももう少ししたらお夕食の時間ですよ。とても大切な時間だからね、あなたたちも遅れずに集まるんだよ」
 それだけ言うと女将は、忙しい忙しいとひとりごちながら去っていってしまった。

「どうしましょう、先生」
 女将の背が見えなくなった頃、天生が呟き、ノワが視線を交える。
「おしえてあげる。しちゃだめって言われたことはね――しなきゃだめなんだよ」
 これがめい探偵のだいげんそく。

 こうしてふたつの影は宿の外、小雨続く露天へと消えていく。
 蛙の群れを追いかけて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朝沼・狭霧
ベイメリア(f01781)と【SPD】
カフェの次は温泉ですか
なんていうか罠なんでしょうけれど
よくできてます
「この旅館は蛙のモチーフが多いのですね」
「カエルの苦手なものといえば、「蛇」」
お財布に入っていた蛇の抜け殻をぼとりと落としてみます
「あらら、落としてしまいました拾ってくださいますか?」
女将や店員たちの反応を見たいです
あら?なにか私呼ばれてるのかしら?
同じ「サギリ」さんという方がこられているみたい
面識はないですがご挨拶してみたいですね
お風呂に使って
「まあ、ゆっくりはしづらいですが
肌をあまり出さないベイメリアと裸の付き合いができるのは貴重な体験ですね」
ベイメリアに軽くお湯をかけちゃおうとします


ベイメリア・ミハイロフ
狭霧さま(f03862)と【SPD】

ここは温泉愛好家を名乗って情報収集したく
武器は服のスカートの膨らみに隠して
先行されている皆さまの御身が心配でございます
ここは早めに合流したい所…

こちらの温泉の効能は?
お代がいらないとは、こちらの管理人さまは一体どのようなお方なのですか?
蛙の鳴き声がとても風情がありますね、なんだか数が多くていらっしゃいます?等
他に何か変わった所がないかよく見て

温泉に浸かって
露天の向こうを注意深く見つつ
ふう…狭霧さま
折角の温泉ですけれど、あまりゆっくりできませんね…
このような時でもかわいらしい仕草をされる狭霧さまに
ふふっ、狭霧さまったら

何か見つけられたなら、急ぎ服を着て参ります




「はぁ、カフェの次は温泉ですか」
 きっとこれも罠なのだろうけれど、それでも朝沼・狭霧(サギリ先生・f03862)はその立派な佇まいに感心してしまう。
「狭霧さま、老婆心ながら申し上げます。どうか油断なされませんよう」
 ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)は凛として狭霧の横に立つ。上品に膨らんだスカートの裾の中に得物を隠して。
「ええ、もちろん。でもいかにも無骨なアジトなんかよりは楽しめそうでしょう」
 あどけなく笑う狭霧に、ベイメリアの頬も緩んでしまう。
「まったく、かないませんわね」
 
 そうして淑女2名、旅館へと足を踏み入れる。
 いかにも上客といった出で立ちの二人はあっという間に従業員たちの歓待を受け、あれやこれやと聞いてもないのにこの旅館宿の説明の嵐だ。
 しかしこれは願ってもない状況で、怪しまれず探りを入れるにちょうど良い。
「わたくし、温泉が大変好きでして……こちらの温泉の効能はいかがなものでしょうか?」
 ベイメリアが問えば、みな口をそろえて“美肌の湯”という。なんでも、ここ以上に肌が滑らかになる温泉はないのだとか。
「ここは蛙のモチーフが多いのですね」
 狭霧が問えば、またみなで口をそろえて、この旅館のシンボルなのだ、と。
「蛙の鳴き声がとても風情がありますね。でも、なんだか数が多くていらっしゃいます?」
 すかさずベイメリアが質問を掘り下げ、真意に近付かんとす。
 しかし、従業員たちは特段変わった様子もなく、『みなで大切にしておりますから』と言うのみであった。
 そこからさらに踏み込んだのは狭霧で、一般的に蛙が不得手とするときく蛇の抜け殻を、ぽとり、さりげない仕草で床に落とし。
「あらら、落としてしまいました。拾ってくださいますか?」
 ところがこれにも変わった反応は見られず、小柄な女従業員が嫌な顔ひとつせず、蛇の皮を狭霧へ返すのであった。
 当てが外れた狭霧。取り出した財布の収拾をつけるため、お代を払いたいのだと誤魔化して窺う。
 するとなんと、また口を揃え、お代はいらぬというではないか。
「あの、失礼を承知でお伺いいたしますが、お代がいらないとは、こちらの管理人さまは一体どのようなお方なのですか?」
「はは、構いませんよ。実は私たち従業員は全員が“研修生”なんです。これは実地研修みたいなもので、お客様にはお付き合いいただいているものですから、代わりにお代を頂かないこととしているのです」
 誠実そうに答えたのは、いつの間にやらそこにいたスーツ姿の男。こちらもここの従業員のようだが、少し位が上のようだ。
「こちらの説明が足らず、ご心配をお掛けしてしまいましたね。申し訳ございません。でもそういうことですから、どうぞ憂いなくお過ごしください」
 言うことには、夕食まで無料でサービスされるそう。それまでに湯に浸かっておくと良いですよとアドバイスを残し、男は奥へと去っていった。

 ――如何いたしましょう、狭霧さま。
 ベイメリアが目配せして伺いを立てる。
「せっかくですから、温泉にいきましょう」
 察した狭霧が自然な笑顔でそう言えば、従業員たちもそれが良いとみな頷いた。


 広々とした浴室に水の音だけが響いている。
 そこに、ふぅと柔らかな息を吐き出す音。
「狭霧さま。折角の温泉ですけれど、あまりゆっくりできませんね……」
「そうね。……でも、」
 狭霧は湯気越しのベイメリアにしっとりとした視線を送り。
「ベイメリアと裸の付き合いができるのは貴重な体験ですね」
 普段は衣に包まれている彼女の肢体。透き通るように白く滑らかな肌は隠しておくにはもったいないように思えてならない。
「あ、あの、狭霧さま。あまり見られると、わたくし、」
 いくら同性とはいえ、いや同性だからこそあまり見られては恥ずかしいもの。ベイメリアの頬にのぼせたのとは違う朱が差した。
 それがまたなんとも初心で愛らしく映った狭霧。生来のお転婆心に魔が差して、そっと手のひらで僅かな湯をすくい、恥らうベイメリアに向かって――。
「えいっ」
「きゃっ!」
 思いもよらぬ狭霧の悪戯を受け、大きな瞳をぎゅっと瞑って縮こまるベイメリアだったが、程なくして顔を綻ばせると、狭霧と共に子どものような無邪気な笑顔で笑うのだった。

「それにしても何も出ないわね」
「ええ、然様でございますわねぇ」
 ベイメリアは何とはなしに露天へと目を向ける。
 ずぅっと先まで続く霞が確かな怪異を臭わせるも、霧と同じく掴めない。
 ――と、辛抱強く観察を続けていたベイメリアの目にひとつの影が。
「狭霧さま……! あそこをご覧くださいませ。なにやら、大きな影が」
 その大きな影の全貌は知れぬものの、少なくとも“人間”のかたちはとっていない。
 そして何かを探るように、追跡するように、慎重に、ゆっくりと歩を進めているように見えた。
「男湯の方から来たのかしら。怪異と関係しているか、ひょっとしたら何かを見つけた猟兵の仲間かもしれないわね」
 ベイメリアに続き影へ鋭い視線を送る狭霧。何れにせよ追ってみるべきだろうと、急ぎ湯船からあがり露天へと向かう――と。
「さっ、狭霧さま!」
「どうしたのベイメリア。早く行かないと見失ってしまうわ」
「承知しております、が……」
 裸を見られたときよりもずっと恥ずかしそうに頬を赤らめるベイメリア。
「その、お召し物を……」
「!!!」
 ようやく自身のあられもない姿に気付いた狭霧。
 ベイメリアに負けないくらい赤く染まった頬は、しばらくそのままだったとか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
温泉……温泉?
まァ、ここが元凶なことには違いがあるまい。
蛇竜を外で待機させて、私は中に入ろうか。何かあったらすぐ来いよ。

【蛇の王】を呼び出しておこう。追跡対象は女将だ。
『追跡』はあれの得意とするところ。何か面白い情報でも見つけてくれば良いが。
その間、私はそこらの従業員を掴まえて、話でも聞いてみようか。
口八丁の『言いくるめ』は私の十八番だ。
見ての通り、私は外国の出身で、日本の文化というのに興味があるのだ――ってな。
何か面白い……例えば、この旅館にまつわる不思議な話とか、あれば友達が喜ぶのだが。
鬼が出るか蛇が出るか……何にせよ、何かが出てくれば良いがな。


古高・花鳥
気がついたら喫茶店から温泉旅館……奇妙すぎやしませんか

「コミュ力」を活かすことや「言いくるめ」るのは苦手なのですが、従業員の方に掛け合ってアルバイトや研修の形で潜入を試みます
「手をつないで」情熱を伝え、素敵な旅館に惚れ込んだことや、以前実際に旅館でアルバイトをしていた経験があること、等で押し切ってみますね……もちろん「優しい」笑顔も忘れずに
駄目だったら気配を殺しての潜入しか無いです、はい

潜入後は「忍び足」と【居合域】で人をなるべく避けながら事務室へ
顧客リストの類、旅館ならば間違いなくあるはずです!
従業員の情報に営業記録……普通の旅館にしては不自然な点を見つけてみせます

(アドリブや絡み歓迎です)




 突如現れた景色を見据え、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)は整った眉を顰める。
「温泉……温泉?」
 なんの脈絡もない展開に疑念を抱かずにはいられない。
 しかしどうあれここが元凶であるに違いないのだと、ニルズヘッグは宿へ足を踏み入れることを決意する。
「さて、ここで待っていてくれよ。何かあったらすぐ来いよ」
 ニルズヘッグが優しく言葉を落とした先には赤黒く、血闇をとじ込めたような美しい蛇竜。
 主と視線を交えるその瞳は小さくも、確かな信を宿し応えている。

 そして時を同じくしてここに舞い降りた猟兵の影がもうひとつ。
 ぱちぱちと瞬きながら周囲を見回したその影は、景色の変貌に困ったように溜息をつく。
「私が移動したのでしょうか? それとも建物がやってきたのでしょうか?」
 小首傾ぐのは古高・花鳥(月下の夢見草・f01330)。
 空気を吸えばまだカフェのあのあまぁい香りがしてくるような気がして、目の前の景色はなかなか腑に落ちぬもの。
 
 と、そんな花鳥の瞳にひとりの男の姿が映り。
 小柄な竜を使役しているその男、状況からして同じく怪異を探る仲間の猟兵であろうとは容易に推察でき、花鳥は彼へと近付いていく。
「こんにちは。急にお声掛けして申し訳ございません。その、何か掴めましたでしょうか?」
 言葉を選び問う花鳥に、問われた男――ニルズヘッグも意図を掴む。
「いや、生憎とこちらも到着したばかりでね」
 これからある手を使って女将を追跡するつもりなのだとニルズヘッグは続け、君はどうするのかと問うた。
「従業員として雇っていただこうかと。無理でしたらなんとか潜入して探ってみるつもりです」
 とはいえ説き伏せるのは苦手だから難しいかもしれない――困って笑う花鳥だが。
「それならば任せておくがいい」
 ニルズヘッグは口の端をあげて笑う。得意分野なのだ、と。


 かくして揃って宿へ足を踏み入れた二人。
 例によって集まった従業員らの歓待を受けたところ。
「ああ、さっそくですまないのだが、彼女がこの旅館を甚く気に入ったようでね。内側から色々と見てまわりたいそうだ」
 つまりここで働かせてやってくれないかと、ニルズヘッグは堂々とした態度で告げる。
「旅館でアルバイトをしたこともあります。ご迷惑はおかけしませんので、どうかお願いできませんか?」
 花鳥の思いがけぬ申し出に困惑する従業員たち。
 誰が口をひらくのかしばしお見合いを続けていたが、そのうちひとりが申し訳なさそうに言うことには。
「お応えしたいのは山々ですが、実は我々も研修中の身でございまして……」
 だから教えられることはないと言いたいのだろう。口をもごもごさせ、察してくれと瞳で訴えている。
「何を言うか。たればこそ彼女を受け入れるべきだろう」
 お断りムードが漂う中であっても、ニルズヘッグの威風堂々たることや。
 そのまっすぐとした物言いに従業員たちの視線は、続く言葉を待って注がれる。
「誰かに物を教えることこそ一番の勉強だと言うではないか。彼女に教えることで己の実力を試してみてはどうだ?」
 そうでなくとも彼女から学ぶことは多いはず、とニルズヘッグが示したのは花鳥の笑顔。
 ふわふわとした、わたあめみたいな彼女の自然な笑顔だ。
 これには従業員たちもやや心ほだされて――それを感じた花鳥は最後の一押しをと従業員の手を握り真摯な瞳で重ねて願う。
「――かしこまりました。少しだけなら……」
 ニヤリ。ニルズヘッグが隠れて笑う。
 そうして、花鳥は従業員のひとりと共に、旅館の奥へと消えていくのであった。

 さて、場に残ったニルズヘッグ。次は己の仕事に取り掛かる。
「なァ、ところで何か面白い……例えば、この旅館にまつわる不思議な話などないだろうか」
 あれば友への土産話にしたいのだと、ニルズヘッグは旅館中をいかにも珍しいといった感じでしげしげと眺める。
 しかし問われた従業員は困って首を捻ってしまった。外国の者はおろか、この国の者にだって語れるほどの事はないのだという。
 様子を見るに嘘を吐くでもなさそうで、ここは引き下がるしかないだろう。
 僅かではあるが落胆の色を見せたニルズヘッグを励ますように、従業員は温泉を勧め。
「うちの温泉には驚かれますことでしょう。それに、もう少ししましたらお夕食の時間でございます」
 きっと満足なさるからそれを土産話にしては如何かと微笑む従業員の笑顔は、さっそく先ほどの花鳥を真似たよう。
 まだどこか歪なそれに絆された訳ではもちろんないが、館内散策という名の捜査も悪くはない気がして、ニルズヘッグも旅館の奥へと導かれるのであった。


 一方、従業員としても潜り込むことに成功した花鳥はというと、隙を見てお付きの従業員から離れ、ひとり事務室と思しき部屋で調査を進めていた。
 そぅっと、音を立てぬよう一挙一動に気を遣いながら手掛かりを求める花鳥。
 顧客リストだとか営業記録だとか、旅館にありそうな資料ならいくつか思い浮かんでいる。それらを辿れば何某かの情報が得られるはずだ。
 しかし――。
「……ありませんね」
 出てくるのは接客やマナーに関係する資料のみ。それも、ありとあらゆる職業に対応した多種多様のものが何冊も。
「判断に迷うところですが、普通の旅館でないことはこれで確かになりましたね」
 営業の形跡が見られないということは、きっとそういうことなのだろうと結論付け、花鳥は部屋をあとにする。

 と、そこへたまたま通りかかったのは、何の縁かニルズヘッグであった。
「あ。先ほどはどうもありがとうございました」
「なんということはない。それより何か掴めたかい?」
 花鳥の肩ごしに事務室を眺めるニルズヘッグ。
 そこは随分と片付いており、おおよそ誰かが探りに入ったとは思えず、花鳥の丁寧な仕事ぶりをうかがう事が出来た。
「この宿に経営の痕跡はみられませんでした。やはり、何か別の目的があって客を招いているようですね」
「だろうな」
 共に表情は険しい。その“目的”に良い展望などありやしないものだから。
「女将を追跡していた私の使いが情報を持ってきたのだが、どうやら屋外の小屋に従業員たちが集まりはじめているそうだ」
 そこへ行けばきっと核心に近付く――しかしそれは危険と同義。
 まだ幼さを残す少女を誘う場所ではない気がして。
 少女が猟兵であり自ら望んでこの場に在ることは百も承知。しかしそれでも躊躇ってしまうのは本能や常識や優しさが先行してしまうからで、決して彼女を侮って入る訳ではないのだが。
「それは朗報ですね。では、ご一緒しても?」
 ピンと筋の通った声は、無邪気にも凛と響く猟兵のしるべ。迷いも憂いも微塵もない。
「――もちろんだ、戦友よ」
 心晴れたニルズヘッグ。
 二人のつわもの、怪異へ挑む。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『エージェント・アマガエル』

POW   :    はねかえる
【強靭な肉体 】による素早い一撃を放つ。また、【あらかじめ跳ね回る】等で身軽になれば、更に加速する。
SPD   :    いろいろつかえる
いま戦っている対象に有効な【エージェントひみつ道具 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    死亡フロッグ
自身の【死亡フラグをつい立ててしまう言動 】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
👑11
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●雨しみて
 ある者は従業員の口を割り、ある者は何某かの後を追い。
 そうして辿りついたのは旅館の離れ。
 大層立派な旅館に相応しいとは言えぬ湿気たつくりではあるが、凝った装飾が施されており、実は決して質素なものではない。
 ちょっと観察してみれば、猟兵ならその真意を見抜くことが出来るだろう――邪神召喚に通ずる紋様である、と。
 とくればこの離れの用途も自ずと知れるもの。
 そう、ここは邪神復活を目論むUDCたちが呪いを生み出す秘密のサロンなのである。
 
 ――離れの戸が静かにひらく。
 出てきたのは女将だ。彼女はぐるりと猟兵たちを見回して微笑んだ。
 そして、高らかに宣言す。

「温泉旅館『はなやなぎ』従業員規則第一条! “邪魔するお客様は排除すべし”!」

●遣らず、きみ
「それでは、そういうことですのでお客様」
 高級そうな微笑みはしかし、それを最後に歪み、変容す。
 女将だけではない――。

 ゲロゲロ。ゲッ。

 今日はもう聞き慣れた蛙の声。
 ひとつ、またひとつと増え……ああ、気付けば囲まれてしまっているではないか。
 これが先刻までの可愛い蛙だったらどれほどよかったことか。
 しかしながらいま猟兵たちを囲んでいるのは――。
「(あの人はまだ幼さの残る笑顔で迎えてくれたっけ)」
「(彼女は女将に怒られて落ち込んでいた人だ)」
「(あぁ、優しそうなあの男まで)」

 みんな揃って蛙のお顔。
 澄ましたみたいにスーツを召して、あんなに個性豊かだったのに、今となってはみぃんな同じ。

「さぁ、お前たち。この者らを駆除するのだ。残念だが今回の客は全員ハズレのようだね」
「接客訓練はこれまで。これより戦闘訓練に移行する――」

 グァッ。グァッ。
 四面蛙歌の響くことよ。
バラバ・バルディ
【SPD】
はて。狐狸に化かされるという話はよく聞いたものじゃが……まさか蛙に化かされるとはのう!ぬぁっはっは!!
まあ、短い間じゃったが、温泉を楽しませてもらったことは感謝せねばな。ありがとのう!

じゃが、それはそれ、これはこれじゃ。お主らが良からぬことを企んでおるならば、わしはそれを止めねばならぬ。
おとなしくしてもらおうかの。
(『早業、高速詠唱』で【彩禍】を弾幕のように放つ。敵のUCを封じるよりも、行動の自由を阻むことを優先。 ※詠唱台詞はあってもなくても大丈夫です)

わしは足が悪いと言ったな、あれはな、嘘じゃ。すまぬのう!ぬぁっはっはっ!!
(敵の攻撃は『ダッシュ、逃げ足』で回避)

※アドリブ他歓迎


サギリ・スズノネ
蛙さんがスーツを着ているですよ!
ちょっと格好良いなんて思ってしまったですよ!

……でも、やっている事は格好良くないのです。
目論見含めて、ぶっ飛ばしてやるですよ!


●戦闘
蛙さんなら身体が乾くのとか苦手ですかね?
何て思ったのでー、やってみるですよ!

【火ノ神楽】で火の鈴を複数出現させて、敵の体から水分を奪うようにぶつけます。
火の鈴が当たったら、そのままスーツを延焼させてみるですよ!
敵が少なくなったら、火の鈴をまとめて合体させて攻撃するのです!

敵の攻撃は避けられれば良いんですが、動きが早そうですし、あまり無理をせずに、鉄鍋を盾代わりにして【盾受け】するですよ!

(※アドリブ、他のPC様との連携歓迎です!)




「ぬぁっはっは!!」
 膠着を打破したのはバラバ・バルディ(奇妙で愉快な曲者爺さん・f12139)の笑い声だった。腹の底から響く役者っぽい笑い声には敵も味方も思わず意識をやってしまう。
「失敬失敬。いや、狐狸に化かされるという話はよく聞いたものじゃが……」
 まさか蛙に化かされようとは――長く生きてみるものだ。バラバは生に感謝し頷いた。
「蛙さんのスーツ、ちょっと格好良いなんて思ってしまったのですが……鳥のきぐるみもすごく格好良いのです」
 サギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう。・f14676)は共に清掃にあたっていた従業員に全容を語られた後、この離れへと辿り着いていた。あの男は話の後にふらり姿を消してしまっていたが、きっと、この群れのどこかにいるのだろう。
「お嬢ちゃん、ちょいと確認なんじゃが……。鳥のきぐるみというのはよもや……」
「はい! あなたのことでございますよ!」
 パアァと照らす笑顔に、バラバはまさかこの羽毛は自前と言い出せず――まぁ格好良いならいいかと自分を納得させながら敵へと注意を戻す。

「さて、短い間じゃったが、温泉を楽しませてもらったことは感謝せねばな。ありがとのう!」
「温泉、楽しかったのですか? サギリも入ればよかったのです……。で、でもでも、やっている事は格好良くないのです」
 道中サギリも温泉を抜けてきたもので、ばっちり肉体労働をこなした彼女には少々の後悔が。本来なら多少引き摺りはするところだが、敵前という現実が奇しくも彼女を奮い立たせていた。
「そうとも。お嬢ちゃんの言う通りじゃ。お主らが良からぬことを企んでおるならば、わしらはそれを止めねばならぬ」
 例え歓待を受けようとも。例え老体に優しく染み入る温泉があろうとも。これが定められし、本来の流れなのだから。
「目論見含めて、ぶっ飛ばしてやるですよ!」
「威勢がいいのう。わしも負けていられんわい」
 あどけない少女と賑やかな爺さんと――でこぼこコンビが仲良く地を蹴り火蓋を切った。


 赤。青。黄。
 彗星のように力強い軌跡を描き飛び巡るのは、バラバが生み出した彩の禍。それは明確な目的を持って敵のもとへ突き進む。
「まずはおとなしくしてもらおうかの」
 世にも美しい弾幕に呑まれ呑まれた蛙が数匹――いや、数人。
「くっ……!! 道化のじじい風情が……!」
 分かりやすく悪態をつくスーツの蛙であるが、その腕に赤光の枷を、その脚に青光の枷をかけられ、虚しく地に墜つ。
「あ! だめなのですよ、そういうこと言ったら! お年寄りには優しくしないとだめなんだって知らないのです?」
 お口の過ぎた蛙をしっかりと嗜めるサギリ。たいへんにおりこうさんである。
「ほっほ。ありがとうのう、お嬢ちゃん。じゃが心配無用じゃて」
 小さな優しさに触れ、いつも以上に目じりを下げたバラバの口元が僅かに歪むと同時、彼の髭をびゅうと棚引かせ黄色の光が蛙の喉を貫いた。
 これには命尽きたと思うた蛙だが、否と気付けばまた口をひらこうと。
 しかし。
「……!?」
 ――その声帯に施されたのは黄光の枷で、蛙は二度と歌えない。
「ひゅーひゅー! さすがなのですよ! 悪いこをしやがったからバチが当たったのです」
 代わりに高く響いたのは、サギリの奏でた無邪気で未熟な口の笛。
 暢気にしているように映るものであるが、彼女とて猟兵。決して準備は怠っていない。
 ふつり、ふつりと湧き出るようにいずる炎の鈴。
 シャン、シャン。願いに満ちた鈴を鳴らして神楽を舞えば、ここは舞台か、楽殿か――ようこそ皆様、鈴の舞台へ。
 金色の炎鈴、指先ひとつで蛙に向けて。あれよあれよ、彼奴らの衣が燃えていく。
 声もなく、ただ静かに燃え往くばかりの蛙たち。それはさながら――。
「蛙の丸焼きじゃのう」
「それっておいしいです?」
「うーん。仮に美味しくてもお嬢ちゃんにはおすすめできんかのう」
 ビジュアル的な問題で。

「さてお嬢ちゃんや、そろそろ終わりにしてやってくれんかのう」
 そう言ってバラバは腰をとんとんと叩く。長期戦はこの老体にはそれなりに堪えるのだ。
 これを見て取ったサギリは、素直に大きく頷き応え。
「がってん承知でございます!」
 ひとつふたつと、金色に燃える鈴がサギリへ戻り、やがて夕焼けみたいな大炎火と成る。
 ――嗚呼、これを喰らえばひとたまりもないのだろう。
 未だ伏したままの蛙たちが悲しく見上げ。
 ――嗚呼、せめて手足が動いたならば。
 未だ自由の叶わぬ四肢を悔やみ。
 ――嗚呼、嗚呼、嗚呼。
 悲壮も悔やみもすべて胸の内のこと。
 嘆くことも叶わぬ歌忘れた蛙どもは、沈む太陽と共に還りゆく。夜、眠るべき場所へと。
 今際の際に彼らが目にしたその夜は――虹の掛かるそれはそれは美しい夜だったとか。
「温泉は本当に良かったからのう」
 バラバの杖が、きらり、瞬いた気がした。


「それにしてもお爺さんの脚が狙われなくてよかったのです」
 サギリは知っていた。バラバの脚が悪いのを。そう。彼女は、“あのとき”一部始終を見ていたのだ。
「ぬぁっはっはっ!! そうかそうか。味方まで騙してしまうとは、わしの演技力も褒めたものじゃのう」
「嘘だったのです?」
「ああ、あれはな、嘘じゃ。すまぬのう」
 安心させるよう、バラバは謎の横走りで戦場を一往復。途中、まだ交戦中の場をすり抜けるパフォーマンス付きだ。
「そ、そんな……サギリ、すっかり騙されて……」
 落胆するサギリに罪悪感をおぼえたバラバであるが、もうひとつ、彼女に切り出さねばならぬ事実があった。
「落ちこんどるとこに重ねてすまんのじゃが、わしな、着ぐるみじゃなくてのう」
「……ははーん。また嘘なのですね? サギリ、もう騙されませんよ!」
「いやこれは本当で……」
「いーや、サギリは学んだのです! 騙されないのです!」
 一難去ってまた一難。賢き愚者も、幼さの前ではただの道化に過ぎぬのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

光・天生
ノワ探偵(ノワーラ・アルバァ)の推理、お見事でした。
ここからが、俺の本分。
――一匹残らず、ブッ潰してやる。

まずはカエルどもの出方を見ます。
接近戦を仕掛けてくるなら、ノワ探…先生の歌で集中力を研ぎ澄まし
近づいてきたところに【カウンター】の一撃を見舞う。
距離を取って戦うなら、ノワ先生の歌で強化した身体能力に任せ
【ダッシュ】で一気に接近しての一撃。

どのみち、俺の戦法は拳ひとつの【グラップル】。
灰燼拳でもっての、一撃必殺。
ノワ先生を狙うなら、自分のダメージを厭わず庇い、殺気を剥き出しに反撃。
……先生の前で荒っぽい口調は避けたいんですが。

歌は、そうですね。
カエルどものジメジメを吹き飛ばすような、一曲を。


ノワーラ・アルバァ
光おにーさん(光・天生)、探偵ノワの推理はどうだったかな。楽しかったー?
けど「探偵ごっこ」はおしまいみたい。猟兵さんにもどらなきゃ

出番だよおにーさん、かっこいいとこみせてよね

蛙さんにしてはかわいくないよね
あんまり近寄りたくないやー。寄ってきたらけっとばす
そんでおにーさんの後ろに隠れてよ。おにーさんのお邪魔にはならないようにね

とにかくノワは、がんばってみんなを応援応援
ノワーラ・アルバァの奇跡の歌声。みんなの心にお届けするよ
うるさい鳴き声なんてノワのお歌でけしちゃうから

元気の出るお歌がいいかな
勇気の出るお歌がいいかな
んーとー。おにーさんリクエストある?
【サウンド・オブ・パワー/WIZ】




「そう、犯人はエージェントなカエルたち。もちろんノワにはさいしょから分かってたけどね」
「そ、そうだったんですか! すごい、さすがノワ名探偵、お見事です」
 顎に手をあて豊かなしっぽをぶわりはためかせれば名探偵の威厳も増すもので、これにはお決まりの助手だけでなく、一部の蛙たちまでざわつきを隠せないでいた。
「光おにーさん、探偵ノワの推理はどうだったかな。楽しかったー?」
「もちろんです。また是非お願いします」
 ソファ遊びだって、探偵ごっこだって、ノワ先生の教えてくれる遊びに楽しくないものなんてないのだ。だって、ノワ先生なのだから。
「けど、おにーさん。探偵ごっこはもうおしまい。猟兵さんにもどらなきゃ」
 そう、ここからは闘いの時、猟の時。名探偵ノワではなくノワーラ・アルバァ(☆白黒鍵盤ハーモニィ★・f05973)として、探偵助手ティエンシェンではなく光・天生(鈍色の天蓋に神は座す・f05971)として在らねばならない。
 対峙するは蛙人。誰も彼も、このふたりよりずっと大きい。油断は禁物だ。
「出番だよおにーさ――」
 主役を譲るためやや後方に目を遣ろうとしたノワであるが、彼女の生徒は彼女が思うより少し前のめりなよう。
 彼は静かに、しかし素早くノワを背に庇い立つと、拳をとざして敵を見据える。
「――そう。じゃあ、かっこいいとこみせてよね」
 ノワの瞳が僅かに細まった。


 手練れの者ならば、すぐに感じ取っただろう――天生の構えに隙らしい隙がないことを。
 故に、最初に動いたのは芸の浅い若人であった。考えも浅いその蛙人は、単純に『小さい』『女』であるノワーラに標的を定め襲い掛かるも――、
「破ッ!!!」
 割って入った天生による突き一本。電撃殺虫器に寄ってきた間抜けな虫みたいにあっけない最期であった。
 しかしその衝突は火種を生み、戦火は瞬く間に広がってゆく――数人のエージェントたちが、ふたり目掛けて飛びかかったのだ。
 そしてそのうちの一人が、ノワーラへと忍び寄る。
「へへ、おじょーちゃん。おじちゃんと遊ぼうよ」
 蛙特有の瞳をぐにゃりと微笑ませながら、ノワーラへ手を伸ばすおっさんエージェント。対するノワーラはというと。
「見た目だけじゃなくて中身もきもちわるいんだね」
 淡々とした物言いであるが、全身の毛という毛が逆立っている。正直もう見たくもないのだが、敵前の為それも叶わず嫌悪に瞳を歪ませた。
 それを見た蛙のおっさんは輪をかけて嬉しそうにするものだからもう救いようがない。ノワーラの反応を窺いながらじわりじわりと近寄るその姿はあらゆる者に不快感をもたらすことだろう。
「あぁ……ノワ、もう無理」
 生理的に。だからお行儀悪くも御御足が伸びてしまうのも仕方の無いこと――ノワーラ・アルヴァ、全力の蹴り飛ばしである。
 技には満たぬそれではあるが、仮にも手練の猟兵が放った一撃。それも特大の嫌悪感をともなったものとくれば、大人ひとり弾くのも他愛のないこと。
 不慣れな部位にそんな一撃をいただいてしまったその男は、恥ずかしくもその場に蹲り、しかしそれでもなお気色の悪い笑顔を浮かべているではないか。
 が、しかし。幸いにもそれは長く続かなかった。
「ひしゃげろ」
 天生だ。青く燃ゆる怒りの炎を隠すことなく闘志を剥き出して蛙人に襲いかかれば、厭らしい瞳は拳に潰え、顔ごと爆ぜた。
「……すみません、先生。遅くなりました」
 足元の惨状には目もくれず、天生はノワを振り返る。
「しょうがないね、おにーさん。あとでお説教ね」
 ノワーラは閃いた。そうだ。お詫びに新しい靴でも買ってもらおう。
「……とはいえ、けっこーいっぱい出てきたね、かえるにんげん」
 天生が大分片付けていたようだが、それでもこのままでは埒が明かない。
「じゃあ、ノワもがんばろっかな。おにーさん、何かお歌のリクエストある?」
 元気の出るお歌。勇気の出るお歌。しぶーい演歌だってこのノワーラ・アルバァにおまかせあれ。奇跡の歌声を、きっと届けてみせるから。
「では……そうですね。カエルどものジメジメを吹き飛ばすような、一曲を」
 天生はそう言って真っ直ぐな瞳をノワーラに飛ばすと、それきり、彼女に背を向け再び戦闘態勢に戻る。ピンと伸びた背はノワーラへの揺るぎない信の証だろう。
「おっけー。ノワにおまかせおまかせー。うるさい鳴き声なんてノワのお歌でけしちゃうから」
 いつもみたいなゆるゆる語を展開するノワーラだが、一度大きく息を吸い込んだ彼女の口から次に飛び出したのは――『奇跡』だった。
 今宵ノワーラが奏でる奇跡は『新緑の眠る夜のうた』。彼女の唇はシルクを撫でたときのような冷涼かつ柔らかな音響で天生の背を護る。そして声帯の震えは空気を渡り、天生の拳を纏って堅固を増した。また、ノワーラの吐息から生まれた心地好い茉莉花の香りが天生の胸にひろがり、彼の冷静と熱情とを調律する。
 そこからはまさにあっという間。数多いたエージェントたちはすべて天生の拳に散って、消え去った。
「……あれ。もう終わりですか?」
「だね。ほかのとこのカエルも、他の人たちがやっつけたみたいだし」
「ちょっとやり過ぎましたか……」
 汚れに汚れた拳を省みた天生が呟けば、ノワーラはにやりと笑って。
「ううん。ちゃんとかっこよかったよ、光おにーさん」
「本当ですか? ――いえ、でもすべて先生のおかげですから」
 尊敬する先生に褒められても手放しで喜ばぬ生真面目な天生。
「そりゃあね。ノワは先生だから」
 対照的にノワはどーんと小さな胸を張る。
 このでこぼこなやり取りは、彼らがお家に帰るまでずっと続いたとか。

●雨やみて
 遣らずの雨もいつしか止んで。
 蛙、柳に飛び付けず。
 空には半月瞬き、星満ちて。
 静寂のなか、水面の花は微睡み沈む。
 おやすみ、君よ。静かな夢を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月12日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#呪詛型UDC


30




種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト