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凛と鳴る冬の風を頬に受けたユウは、静かな参道を一人歩いていた。
誰もいないはずの参道に、ユウは人混みの幻を見る。賑やかな境内を歩く三人の少年少女の姿を見たユウは、湧き上がる観念に目を閉じた。
胸の奥から滲み出す、懐かしさと寂しさと自責。混ざり合い希死念慮と名を変えたそれが、心をちりちり疼かせる。
希死念慮をそっと抑えて蓋をしたユウは、拝殿の前に立ち祈りを捧げた。
「神さま、やっと思い出しました。あなたとの約束を破ったことを」
祈るユウの隣で、幻の三人が仲良く手を合わせている。あの時、自分は無邪気に願った。
『皆の未来の幸せのために、もっとがんばれますように』
ここで祈祷木に願いを書いて、神様に奉納したのはずっとずっと昔のこと。
「俺は、頑張りきれませんでした……」
口に出したユウは、自嘲の笑みを浮かべると首を横に振った。
「……違う。他でもない俺自身が、大切な人々の幸せを、壊したんです。そして破った事からさえ、忘れることで逃げました」
無邪気に、懸命に祈りを捧げるかつての自分。約束を破り、故郷から逃げても抱えていた罪を、アリスに堕ちてずっとずっと忘れていたのだ。
「あなたの助力があっても、俺は……」
失った大切な人達は、もう戻れない場所は、壊れたままで元に戻ることは二度とない。溢れたユウの涙が、頬を伝い地面に落ち滲む。
「あの頃の皆を、幸せには、もうできない。だけど」
心と向き合い出た声は、ぐしゃぐしゃに震えている。褪めた唇から漏れ出る嗚咽に言葉が乱れて。
「贖うことはできなくても、それでも、せめて皆の生きている世界を守るために、頑張るからっ……!」
そう伝えたいのに言葉は声にならず、喉の奥で弾けてしまう。声になるのは意味の成さない嗚咽ばかり。言葉にならない思いが溢れる中、ユウは必死に祈りを捧げた。
助力を求めたりしません。
だけど、どうか見ていてください
そして罰はどうか今の大切な人々を巻き込まずに俺一人だけに。
必死に祈りを捧げたユウは、引いていく感情の波に息を吐きだすと深く一礼した。
振り返り見た参道は閑散としていて、もう賑やかな幻影は見えない。片隅にある祈祷木受付に目をやったユウは、一つ頭を振るとそのまま歩き出した。
願いを、祈りを形にするのはまだ早い。
いつかまたここに来た時は、祈祷木に願いを書けるだろうか。
思いを馳せたユウは、吹き抜ける風の中を歩き出すのだった。
成功
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