イキッたれ! ラビニアさんっ!~承認欲求編~
ゴッドゲームオンライン(GGO)に存在する印旛院・ラビニアというキャラクターは、他のキャラクターと一線を画す事情を抱えている。
まずラビニアには、本来の
遺伝子番号が存在しない。
とある「人権剥奪事件」に遭遇したことで、現実世界の
統制機構での人権を喪失してしまってる。しかし、正義のスーパーハッカー系グリモア猟兵がエナドリを飲みながらチョチョイと細工を施した結果、ラビニアのプレイヤー(男性)は偽造
遺伝子番号を取得する事となった。
……までは良かったが、その頃からラビニアも猟兵に覚醒し自身もグリモアを持つと、現実世界のプレイヤーも性別が女性に変化してしまったから、さあ大変!
今日もウサギのケモ娘として、プリティなラビニアはGGO内での事件の解決に奔走するのだ!
「……って感じのモノローグを自分で書き出したまではいいんだけど、これを誰かに読ませるのは……うん、キッツイよね?」
ラビニアは、ここ最近の自分の活躍を、日記に記すために推敲していた。
最近はヘタレの割には頑張ったので、自分で自分を褒め称えるべく、功績を手元に残そうと考えたからだ。
とはいえ、書いて気付いたことがある。
日記は私的な出来事を書き留めるものであり、誰かに読み聞かせる代物ではないという事を!
「うわあぁぁぁっ! 何を僕は考えていたんだよ~!? モノローグって何っ? 小説仕立てとか何してるの、僕っ? これが他のプレイヤーの目に留まったら、僕の黒歴史が始まっちゃう! いやでも、僕だって最近は頑張ったし、それを手記に残す事は別に悪い事じゃない、よね? う、うん……! えへへへ……」
ラビニアはすぐに調子に乗るタイプのウサギであった。
書き進めるうちに『恥ずかしいけど、SNSに一節程度をアップしたらいいね!してもらえるかも?』という承認欲求に駆られてきたのだ。商人だけに。
本来はヘタレな性分なくせに、そういうところは褒めてもらいたいとイキッてしまうのだ。
「ぼ、僕だって今は猟兵なんだし、今まで人助けしてきたわけだし……そんな話を他人にして、褒められるくらいは許されるよね? えっと、でも全文公開は恥ずかしいから、とりあえず一部抜粋して。うん、好評だったら小出しに投稿してゆこうかな?」
こうして、ラビニアは『名無しさん』としてGGO内のフリーチャットに自身の活躍を小分けにして公開してゆくことにした。
すると、意外にも周りからの評判はよく(もっとも、公開された文章の中の『猟兵』は、創作の存在だと思われているようだが)、後の抜粋した冒険譚も良い反響が多く返ってきたので、更にラビニアは調子に乗っていった。
「えっ? みんながここまで褒めてくれるなんて思わなかったよ……えへ、えへへ……仕方ないなぁ、じゃあ次は復興クエストでゴブリンを退治した時の話をしよっかな? 僕の活躍を少しだけ、ほんの少し、かっこよく盛っても大丈夫だよね……」
ラビニアはイキッた結果、徐々に実際の話よりも盛ってチャット欄で語り始めてしまう。
当然、広がり続ける風呂敷に『読者』達の熱狂は高まっていった。
姿の見えない英雄の活躍劇は、一部のGGOプレイヤー達から面白おかしく持て囃され始める。
その結果、実際のラビニアとは似ても似つかない偶像がGGO内に爆誕してしまうのだった。
ラビニアがそれに気付いた頃には、時すでに遅し。
独り歩きした英雄譚は、ラビニアにとんでもないプレッシャーとなって跳ね返ってきてしまう。
「あばばばばば……! 僕、そんな完璧超人じゃないってばー! は、恥ずかしい! 冷静になったらすごく恥ずかしくなってきた! うわあぁぁぁっ! もうどうにでもなれー!」
顔を真っ赤に染めてラビニアはクエストを受注して走り去ってゆく。
すると、凄まじいDPSを発揮しながらエリア一帯のモンスターをソロで駆逐しはじめたではないか!
「恥ずかしい! “恥ずか死”しそうだよ! 今の僕、一撃でも喰らったら死ぬまである! だから、やられる前にやるんだ! うおおおおおっ!」
ラビニア自身、この時は気が付いていないが、普段は硬すぎて揃討伐は無理だといわれているモンスターですら一撃必殺で倒すほどの火力を発揮していた。その攻撃倍率は、なんと8倍!
ただし、心身ともに羞恥でボロボロなため、ラビニアの言葉通りにあらゆる攻撃が一発でも被弾すると致命傷を受けてしまう状態であった。
だがそれも元から持ち合わせている俊敏性でカバーすれば、敵の攻撃を避けながら超高速DPSをぶっ放す戦場の女神の誕生だ。
これを目撃した他のプレイヤー達は、あの話が創作ではなかったと吹聴する者も現れ始めたとか、しないとか。
のちにラビニアはこの火事場の馬鹿力をユーベルコードと認識し、日記帳へ密かにしたためた。
『シャイネス・ハイパー・ゴッドネス』
【羞恥心を感じることで戦女神めいた覇気】を纏い、攻撃力が8倍になる。
ただし防御力は0となり、全ての攻撃が致命傷になる。
POW No. 498
「ふう……やっぱり日記って、承認欲求のモンスターになるためじゃなくて、日々の覚書程度に、継続して書き連ねるくらいがちょうどいいね」
ユーベルコードの効果が切れた今、手元に残ったのは大量の換金アイテムの山と装備品の在庫であった。
正直、商人的にめちゃくちゃホクホクの笑顔のラビニアである。これで潤沢な資金で年を越せるだろう。
「えへへ……レア装備が買えちゃう! やっぱ僕、天才かもしれないね? でも……い、いくら火力は正義って言うけど……あれを発動させるには、また僕はあんな思いを……? うわぁぁ……チート級ユーベルコードなのは間違いないけど、発動条件が僕の心を抉ってくるよー! どーしよー!?」
とりあえず、詠唱文句は脈絡のないお耽美系の謎ポエムを呟くことで周囲の空気を凍らせれば何とかできそうだ……と考えている辺り、8倍攻撃力強化はラビニアにとって非常に魅力的だったらしい。
※元ネタ※
プロミネンスドライブ
POW No. 498
成功
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