とある竜牙兵のぼやき
●高難易度ダンジョン『邪竜山脈』
それは酷く険しいフィールドであった。
所謂高難易度ダンジョンという類であった。伝承によれば、その奥地には『邪竜アッティラ』の棲み処であり、この邪竜を打倒することができたのならばレア素材たる財宝に加え、『
竜殺し』の称号を名乗ることが許されているらしい。
らしい、と憶測で物を語るのは、未だこの高難易度ダンジョンが踏破されていないからだ。
これらの事柄は全てギルドの受付嬢『アティ』によって語られることである。
だが、このクエストは邪竜と相対することはできても撃破ならず、ということで未だ高難易度クエストの上位に張り出されて未処理のまま放置されているのだ。
とまあ、事情を語るのならばそんなところだろうか。
『邪竜アッティラ』のは以下たる竜牙兵の一人はダンジョンの一つ、はじまりの洞窟の内部で頷く。
いや、決して船を漕いでいるわけではないと言い訳しておこう。
こういう事情を説明する役がいないと話が進まないからである。
え、何の話?
こっちの話である。
「よいか、傾聴せよ。これより伝えるは『アッティラ』様よりの伝令である!」
隊長竜牙兵が体裁よく姿勢をただし、周囲に居た竜牙兵たちに告げる。
いつものブリーフィングである。
そう、ここにクエストを受注した冒険者……即ちゲームプレイヤーたちがやってくるのだ。
「冒険者ギルドで『邪竜山脈踏破』のクエストが受注されたことを確認。一つのクランが突入してくる模様である。人数は5人!」
「少なくね?」
「いつもの配置で十分だろ」
「静粛に!」
隊長竜牙兵が一喝する。
その様子に一般竜牙兵たちは首を傾げる。どうしたことだろうと思ったのだ。
ここはゲームマスターであるドラゴンプロトコル、アッティラ・ドラゴンロード(邪竜山脈の主・f41821)が管理しているダンジョンである。
序盤の洞窟はほどほどに手を抜いて冒険者、つまりはゲームプレイヤーたちの相手をする決まりになっている。
ならば、特に変わりないはずだった。
「いや、『アッティラ』様は本気で相手をせよとのお達しである」
「どういうこと?」
「え、本気で?」
「どうにもゲームプレイヤーに対処できない事態に陥られているご様子」
そう、最近ダンジョンの奥でバグが発生しているのだ。
バグプロトコルと呼ばれる謎の変異バグである。
それへの対処でアッティラは大忙しなのである。もうまともに何日も顔を見ていない。
「大変なんだなぁ……」
「原因がわかっていないで、リポップしまくるっていうのが厄介だよな。俺たちでも倒せないわけでもないけど」
そう、竜牙兵たちが本気を出せば倒せないことはない。
だが、すぐさまリポップしてくるのだ。つまり、復活してくる。倒せていないのと一緒だ。
しかも、最悪なことにこのバグは感染する。
ウィルスのように、だ。
「西地区の連中が集団でやられたらしい」
「マジかよ」
それが本当であるのならば、この始まりの洞窟も状況によっては一気に瓦解してしまうかもしれない。
そうなる前に対処しようというのだろう。
故にアッティラがゲームプレイヤーの前に立ちふさがることはできない。
せっかく高難易度ダンジョンを突破しても、奥にラスボスがいないのではガックリしてしまうだろう。
「ああ、なるほど。そういうことか」
「そうだ。我等がゲームプレイヤーを本気でボコにする!」
●クラン
「なんか強くね!?」
「ええ、明らかに前動画で予習した序盤の竜牙兵の動きじゃありません」
「仕様変更したということか!」
「そんなアナウンスは出ていなかったような気がするけれど」
はじまりの洞窟に突入してきたクランのゲームプレイヤーたち。
彼等は五人で一塊になって波状攻撃を仕掛けてくる竜牙兵たちをなんとか退けていた。
いや、退けているように見えていただけだった。
そう、今日の竜牙兵たちは本気の本気である。
己たちの主人である『アッティラ』の元にゲームプレイヤーを到達させぬために、普段はある程度のアルゴリズムで動くのだが、今日は独立した思考でもって本気の本気で対処しているのだ。
ステータスは変動していない。
けれど、動きが変わればゲームプレイヤーたちは困惑する。
「一気に突き崩せ!」
対する竜牙兵たちもゲームプレイヤーと同じ気持ちだった。
普通のゲームプレイヤーたちじゃない。
所謂――。
「廃人プレイヤーか、こんな時に!」
どうやら五人のクランの内、一人はNPCのようである。後方で亜麻色の髪をした女性NPCが平謝りしている。
NPCならちゃんとホウレンソウしろよな! と竜牙兵たちはなんとか彼等を撃退してのけたのだ。
「いや、本当バグ問題早く解決してくれ……!」
こんな廃人プレイヤーたちが殺到したらたまらん、と彼等は今日も一日、『アッティラ』のために一生懸命がんばったのであった――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴