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真夜中二時の誘蛾灯

#UDCアース


●PM2:00
 眠れなかった。
 夜中に家を飛び出したのはそんな些細な理由。
 月と星と、夜道を照らす電灯が光を放つ。黒画用紙に垂らしたチョークの粉のように、吹かれたら消えてしまいそうなほど弱々しい。
「クロは元気だねぇ」
 物静かなのがいやになって、リードを引っ張る黒柴に話しかけた。ときおり私の顔を見て「わん」と鳴く。それ以外に返事をする方法がないらしい。
 寝付けないので、近所を歩くついでにクロを散歩させることにした。飼い犬を連れてきたのは単純に心細かったから。この辺りは夜になると真っ暗闇に沈み、電灯以外は頼れるものもなくなってしまう。限界集落寸前の田舎町だが、のんびりとした時間を過ごすには悪くない環境でもあった。
 最近だ。言葉にできない不安が頭によぎりはじめたのは。
「……牛田のおばあさんが出ていったのも、こういう夜なんだっけ」
 数週間ほど前から、村に住む人が相次いでいなくなるようになった。
 たいていは老人でボケかけてもいたから、うっかり出かけて戻れなくなったのだとみんな考えていた。しかしここ数日にかけて消える人間の数は増え、いよいよ見過ごせない状況になった。村の雰囲気も前より騒然としている。寄合に出たとき聞いた、最年長のおじいさんの言った言葉が耳に残っている。
「おかえんなさい、戸はもうじき閉じますので……」
 詳しくは誰も聞かなかった。まじないめいたものがあると信じたくなかったのだろう。
 ただ何か、そういった儀式が本当にあるのだとしたら。

 ワンワンッ グルルルッ!

 クロが吠えだした。聞いたことのない鳴き声だった。いくらリードを強く引いても、暗闇に向かって牙をひん剥くのをやめない。
 何かがいる。いや、それか。
 この先で戸が開いているのかもしれない。
 後退りした直後、目には眩い光が飛び込んできた。田舎の暗闇を掻き消す光が視界一面に広がり、その光以上のことが考えられなくなる。
 リードが手から落ちる。クロのけたたましい鳴き声が遠くなっていく。
「ごめんクロ。私、行かないと」
 光に包まれ思考が薄らぐ。冷える身体が熱で解される。
 頭の中にあった不安は砕かれ、私から消えていた。

●グリモアベース
 資料の束を手に、木鳩・基(完成途上・f01075)は事件の内容を簡潔に説明した。
「集団失踪です」
 UDCアース、北陸地方のある地域にて。山に囲まれた集落で、人間が次々と行方不明になった。
 一人消え、二人消え……基が予知を見たときには、既に住人が全員消えていた。
「その町、田舎といってもコンビニはあるくらいの規模らしいんですけど……ようは数人程度じゃない。数十人単位で失踪してる。何が関わってたとしても、状況はかなり深刻だと思います」
 都市から地理的に隔絶されているが、コミュニティとしての規模は十分。近代化も進んでいて、田や畑が広がるというよりは住宅地が小さくまとまっているような町だという。
 眉をひそめ、基はさらに続ける。
「予知に出てきた言葉が引っかかりますね。『戸』がどうとか言っていたような……もしかしたら、『境界』がその町にはあるのかも」
 境界。
 聞きなじみのない単語を呟いた基に視線が集まり、慌てて基も補足を付け足した。
「昔から日本には異界との接続点があるっていわれてて、そこでは妖怪とか怪奇現象が起こるそうなんです。たとえば川や橋、十字路なんかはそれにちなんだ怪談もたくさんあって……同じような境界が町にはあって、いままで閉じてたんじゃないかなと」
 真面目な顔をして話しながらも「前にテレビでやってました」と自ら崩し、先の話と合わせて推測を語り出す。
「『おかえんなさい、戸はもうじき閉じますので』は、たぶん『戸』を閉じる呪文か何か。おかえんさないで帰るよう促してるのは、その戸から怪異オブリビオンが出てこようとしてるんじゃ……」
 集団失踪はその前触れ。このままでは強力な怪異が世に放たれてしまう。
 であれば、やることは決まりだ。
「まずは境界を閉じる儀式の方法を探しましょう。呪文を知ってるおじいさんがいたんですから、完全には消えていないはずです。まぁそのおじいさんも失踪してるんで、一からの調査にはなりますけど……」
 調査対象は住民の家や取り囲む山の中。大変ではあるが、UDC組織も協力してくれるそうだ。
 それと、と基はある犬の写真を掲げた。黒柴だ。
「境界の場所はこの子……クロが教えてくれるかも。飼い主が消える寸前まで見ていた、唯一の証人ですよ」
 消えたのは人間だけで、飼い犬や飼い猫はまだ町にいる。この際、頼れるものは頼ってしまおう。
「儀式を実行。境界が閉じて、それでも怪異が残っているなら……最後はそいつを倒すだけ!」
 前触れにもかかわらずここまでの事件を起こせているのは、おそらく境界が持つ常世離れした世界の力。それが閉じられてしまえば相手も後がない。力を削ぐことに繋がるだろう。
 怪異を倒せたら、消えてしまった人々も戻ってくるかもしれない。その可能性は残されている。
 クロの写真を、基は猟兵たちに手渡す。手にはいくらか力が籠っていた。
「倒しましょう、町の人を消したその元凶。作戦開始です!」
 鼓舞する声とともに、彼女のグリモアが眩い光を輝かせた。


堀戸珈琲
 どうも、堀戸珈琲です。
 地方の怪奇譚が好きです。

●最終目標・シナリオ内容
 忘れられた儀式を復活させて怪異の力を削ぎ、その怪異を撃破する。

●シナリオ構成
 第1章・日常『集団失踪事件』
 第2章・日常『???』
 第3章・ボス戦『???』

 山奥のとある田舎町が舞台です。コンビニがあるなどある程度は近代化しているので、そういったイメージでお願いします。
 第1章で儀式の調査、第2章で儀式の実行、第3章で残った敵の撃破と進行していきます。

●第1章について
 忘れられた儀式について調査します。住民の家や山などを調べ、儀式の方法を探ってください。
 UDC組織も同行しているので、ある程度ヤマを張れば人海戦術で探すのも問題ありません。
 また『境界』の場所、つまり「どこで儀式をすべきか」は動物に聞いてみるのもアリです。

●プレイング受付
 各章、断章の追加後に送信をお願いします。
 制限については、マスターページにて随時お知らせします。基本的には制限なく受け付けますが、状況によっては締切を設けます。

 それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。
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第1章 日常 『集団失踪事件』

POW   :    山の中へ探しに行く

SPD   :    村人達の家の中を捜索

WIZ   :    動物達に頼ってみる

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●誰もいない町
 人の気配がどこにもない。
 よく晴れた空の下、異様な空気を転移した猟兵たちはすぐに察する。
 現着しているUDC組織の職員から話を聞くと、この町で起きたことの実感が徐々に染みていった。

 何十軒の住宅で構成された町。
 コンビニや商店などの施設以外は何もない、簡素な集落。
 寺や神社といった土着信仰らしきものはいまのところ見つかっていない……。
「何かあるとすれば住民たちの家か、それか山の中でしょうねぇ」
 職員の一人がそう零す。
 ばらばらに捜索するとすればそれなりに広域だが、人手ならある。UDC組織に協力を仰げば喜んで手を貸してくれるだろう。
「それと……失踪者が失踪直前まで連れていた飼い犬のクロは、飼い主の家の庭にいます。保護して連れてこようとしたんですが、絶対に動こうとしなくて……」
 端末でマップを表示し、「ここです」と指をさす。
 場所を教えてもらうとしても、何か働きかける必要がありそうだ。

 情報共有を終え、猟兵たちはゴーストタウンと化した町へと足を踏み入れた。 
ブラミエ・トゥカーズ
腐れ縁のUDC職員の青年に手伝わされている
情報収集のために無人の家屋を捜索する
自身は撒き餌の護衛程度の気分
本来ならば招かれなければ家屋に入れない妖怪
今は無人なので無問題

理不尽と思わぬか?余等、妖がカクリヨに隔離されたというのに異界の外様が我が物顔で遊んでいるのは。
余も、戸が閉まるから帰れと言われたら帰らざるを得ぬしな。

自身も扉や戸口、出入り口に関する結界を超えられない存在
興味はここの住人は巻き込まれたのか、自身が呼び出したのか
退去の言霊があるのなら召喚の言霊もあるだろうと考えている

こういう田舎町にいると懐かしい気分になるのではないか?
少年だった青年を日常の裏に繋がる戸を超えさせた吸血鬼が揶揄う



●戸を開くのは
 玄関戸に手を掛ける。
 家主は施錠を忘れていったのか、がらがらと音を立てて戸は横へと動いた。
「誘い出され、外へ躍り出た……それもありうるか」
 無人の家を見上げ、ブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)は推測を零す。現代的と呼ぶには少々古い、築何十年かの住居。窓には野暮ったい雨戸が備え付けられている。
 仰ぎ見るブラミエを、後ろから青年が急かす。早く調査を進めてほしいとのお達しだ。UDC職員の彼とは腐れ縁で、借り出されるようにしてブラミエは任務に同行していた。
「吸血鬼たる余に門戸をくぐれと? 無茶な要求だが――」
 彼の催促にため息一つ。
 直後、足を踏み出して敷居を跨いだ。
「まぁよい。家主も留守であるからな」
 玄関から土足で廊下に上がり、周囲を睨む。今日の自分は撒き餌の護衛。不審な気配があれば対処しようと構えたが、特に問題はなさそうだ。
 促し、青年も家の中へ進入する。日傘を持っていた下僕妖怪は静かに闇へ消えていく。
「始めるとするか。例の最高齢の老人とやらがここに住んでいたのであろう?」
 互いに頷き、ブラミエと青年は探索を開始した。

 一階を調べ終え、二階へ。
 とある部屋の扉を開く。六畳の畳が敷かれた手狭な部屋。その空間の壁二つには本棚があり、どちらも本が敷き詰められている。
「書庫か」
 窓から差し込んだ陽を避け、埃を払いながら、ブラミエは一冊の本を抜き取った。この地域周辺の郷土史に関するもので、他も似た内容の歴史書らしい。
 青年が別の本棚を調べにかかったのを横目に見つつ、ブラミエは予知の呪言を呟く。
 おかえんなさい、戸はもうじき閉じますので。
 全く、と愚痴るように青年に向けて言葉を投げかけた。
「理不尽と思わぬか? 余等、妖がカクリヨに隔離されたというのに異界の外様が我が物顔で遊んでいるのは」
 不平不満を言えど、戸が閉まるから帰れと言われたら帰らねばならないのは現在も同じ。
 自身がそうした存在だからこそ、ブラミエには気に掛かることがあった。書物をパラパラ捲っては次に移る。その作業を繰り返し、やがて目を見開いた。

『XX町周辺に存在する石塔と、閉戸の儀について』

 記載されていたのは儀式の起源と実行方法。この町ではときおり戸が開き、魔が現れる。戸を閉めるため、その場所には特定の紋を刻んだ石塔を建てるという。
 収穫を得たブラミエだったが、文字を追う目を止めようとはしなかった。
 続く文章を読んで、ブラミエの思考はさらに深まっていく。

『外から訪れた魔が戸を開かんと石塔を崩し、異界の力を得んとしたという伝承も残されている』

 ブラミエの関心は集団失踪の発生要因だった。
 単に巻き込まれたのか、あるいは住人が自ら喚んだのか。閉じる儀式があるなら開ける儀式もあるのでは。その推測は的中していたが、この文面を見るに――。
「余等とは違う客人がいる可能性、か……」
 予期しないことは余所者がもたらすものだ。何でもない、些細なきっかけで。
 そのとき、本棚から小物が落ちた。骨董品の小刀が畳に転がり、ブラミエの瞳の中で回る。
「こういう田舎町にいると懐かしい気分になるのではないか?」
 ブラミエは囁く。
 かつて少年だった彼を、日常の裏に繋がるその戸を越えさせた。
 あれが起きたとき、客人はどちらだっただろうか。
 陽の当たらぬ陰で独り、吸血鬼が揶揄う。

成功 🔵​🔵​🔴​

山路・紅葉
うーん…さすがはUDC、いまだに事件が少なくならないんだね…
今回は原因が分かってるみたいだけど、失踪は頬っておけないよっ
私もできる限り頑張るっ!行こう織子ちゃん!

うーん、さすがに動物の声は聞けないよ…
🐺ワタシはあくまで犬型であってそのものじゃないからね
そういう訳だからそっちは他の人に任せて…
『Black Boon』を使って他に失踪した人達の道具から"嗅覚"を使って"追跡"、"失せ物探し"しよう
いきなり匂いが消えている場所を探せば良し、もしかしたら一か所じゃないかもしれないし、とにかく数をっ
さー、頑張るよっ!
🐺…むしろ私達が犬ね…いえ、ワタシは間違っていないけど…

※協力・アドリブ歓迎


川村・育代
◎ペットショップで犬のおやつを買ってきて、クロとお近づきになれないかやってみるわ。
『ねぇ、あなたのご主人様はどこに行ったか教えてくれない?ご主人様を助けたいの。協力してくれるかな?』
いなくなったであろう場所に行けたら何か手がかりになる物がないか探すつもりよ。
町の人が何故いなくなったかは分からないけど、怪異(オブリビオン)が絡んでいる以上、急がないといけないわね。



●黒犬駆ける
 山々の中に開かれた町。
 田舎とはいえ、まぁまぁな数の人が住んでいた。それが忽然と消えてしまった。
「うーん……さすがはUDCアース、いまだに事件が少なくならないんだね……」
 静まり返った町を歩きながら、山路・紅葉(白い兎と黒い犬・f14466)は辺りをうかがう。猟兵に覚醒して長いが、この世界は平和になる気配がない。
「今回は原因が分かってるみたいだけど、失踪は放っておけないよっ」
『そうね。戻ってくるかもしれないとはいえ、消えた人の容態も気になるし』
 紅葉の腕から黒い煙のようなものが湧き立ち、犬の形となって隣に浮かぶ。試験兵器『黒犬』――現在では紅葉の相棒でもある「織子」が、その赤い瞳を彼女に向けた。
「うんっ! 私もできる限り頑張るっ! 行こう織子ちゃん!」
『……行くって言ったって、どこに?』
 勢いよく拳を掲げる紅葉に織子の視線が刺さる。
 現状、手掛かりは地道に探すしかない。
 現象を目撃した証人といえば、黒柴のクロがいるものの。
「動物の声が聞ける、みたいな能力は私にはないし……」
『ワタシもあくまで犬型であってそのものじゃないからね』
「そういうわけで、私たちは私たちにできることを!」
 言いつつ、紅葉はアタッシュケースを地面に置いた。開いて取り出していくのは、いくつかの小物。帽子、ハンカチ、ぬいぐるみ……。
『それは?』
「消えた人たちが使ってたモノ。UDC組織の人たちに集めてもらったんだ。日が経ってないなら匂いは残ってるはず」
 地面に並んだ物品を覗き見る織子に、紅葉はぱんっと手を合わせた。
「お願い、織子ちゃん!」
『……なるほど、分かった』
 意図を組み、織子は小物に鼻を近づけては次々と匂いを嗅いでいく。研ぎ澄ませた嗅覚で嗅ぎ取った匂いを記憶し、目を瞑る。
 見えない糸を掴んだ瞬間、織子はその方向に顔を向けた。
「そっちだね! さー、頑張るよっ!」
『……むしろ私たちが犬ね……いえ、ワタシは間違っていないけど……』
 糸を辿ろうとする織子に従って、紅葉は走り出す。

●心を紐解く
「クロのいる場所はー……ここだっけ」
 UDC組織から端末を片手に、小さな少女が町を歩く。
 ある住所に辿り着き、門からそっと庭を覗き込む。
 まるで誰かを待つように、黒い柴犬が犬小屋の前で座っていた。
「いた! クロだ!」
 ぱっと笑顔を弾けさせ、川村・育代(模範的児童・f28016)はクロへ駆け寄る。
「ワンッ!」
「おっと!? ……まぁ、知らない人が来たら驚くわよね」
 吠え始めたクロに少しだけ距離を置きつつ、育代は持っていたビニール袋を探る。
「クロ、あたしはあなたの敵じゃない。ほら、お近づきの印に――」
 そう言って手のひらに乗せたのは骨型のキャンディ。ペットショップで買ってきた犬用のおやつだ。
「グルルルル……!」
 それでもクロは警戒を解こうとしない。
 不安を、育代は読み取る。飼い主を含めて周りの人間がいなくなったのだ。クロはクロなりに怯え、怖がっているのだろう。
 つぶらな瞳でクロをじっと見ていた育代は、さらにもう一歩距離を縮めた。
「あたし、ご主人様を助けたいの。みんないなくなって怖いのよね? でも、助けられるかもしれない。……協力してくれるかな?」
 キャンディを手に乗せ、クロへまっすぐ差し出す。
 歯を剥いて唸るクロと目が合う。声を掛けるごとに少しずつ唸り声は弱くなり、最後にクロはキャンディを口に咥えた。
 がぶがぶとキャンディを噛むクロに微笑んで、育代は切り出す。
「……ねぇ、あなたのご主人様はどこに行ったか教えてくれない?」
 意思が伝わったのか、クロはキャンディを咥えたまま四つ足で立ち上がり、庭から出ていった。慌てて後を追った育代を誘導するように、振り向いて「ワン!」と鳴く。
「急がないといけないわね……町の人がいなくなった理由は分からないけど、怪異オブリビオンが関わっているんですもの」
 証人に連れられて、育代は事件の現場へと赴く。

●戸の場所
『匂いはここで途切れてる』
「ありがとう織子ちゃん。でも、ここって……」
 住民たちの匂いを辿ってやってきた紅葉は、目をぱちぱちと瞬かせた。
 織子が特定した、匂いの途切れている場所。
 そこには一軒のコンビニが建っていた。町の外れに位置し、裏には森林が広がる。随分と変な場所に建てたな、と大半の人が思うくらいには妙なロケーションだ。
 ここも例に漏れず無人になっている。やはり店員も失踪してしまったのだろう。
「織子ちゃん、ここで間違いないよね?」
『もちろんよ。住人の匂いを複数人嗅いだけど……匂いはここに続いてて、ここで途切れてる』
「じゃあ、ここが『戸』のある場所なのかな?」
 顎に手を添えて考え込む紅葉。
 彼女の耳に、本物の犬の鳴き声が飛び込んできた。
「わわっ!?」
「ワンワンッ!」
「ここがあなたのご主人様が消えた場所なのね……コンビニ?」
 クロの後を追ってきた育代も、山を背景に建つコンビニを見つめる。
「あっ、育代ちゃん! その子って……」
「うん、話に出てたクロ。紅葉さんもこのコンビニに辿り着いたの?」
「私たちは匂いを追ったんだ。他の町の人もここでいなくなってるみたいで……」
『逆にいえば、『戸』がいくつかある可能性は低いってことかしら?』
 互いに情報を交換し合い、整理を進めていく。
 場所は間違いなくこのコンビニで間違いない。
 もし他に、手掛かりがあるなら――。
『待って、まだ匂いがあるような気がする』
「織子ちゃん、何か掴めそう?」
『……見つけた』
 織子が顔で指し示した方向へ、紅葉が近づく。
 コンビニの駐車場。何個か、砕けた石が転がっている。
 見過ごしていたかもしれないそれを、紅葉は拾い上げた。
 石には家紋のような模様が刻まれている。印で割るように、誰かに砕かれていた。
「なんだろう、これ……」
 紅葉の後ろで、クロが激しく鳴き始める。
「ワンワンワンッ!」
「どうしたのクロ!? 落ち着いて!」
 暴れるクロの頭を育代は撫でる。撫でられていくうちにクロは落ち着きを取り戻し、ただある方向を眺めるばかりになった。
 育代がクロの視線を追う。その視線は、石を拾った紅葉に向いているのではなく。
「コンビニそのものを見てる……?」
 何かを感じ取っているのだろうか、黒い瞳には白い箱型の建物が映っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

天羽々斬・布都乃

「集団失踪事件ですか――
怪異が関わっているならば陰陽師の出番ですね」
『事件を解決すればUDC組織からの報酬も出るじゃろうしな。
事件を片付けたら、稲荷寿司パーティーじゃ』
「はいはい、きちんと町の人達を助け出してからですよ」

式神のいなりに語りかけ集落を見渡します。
――私の力が役立つのは情報収集でしょうか。

山の中に向かい未来視の力を解き放ちます。
無数に枝分かれする未来の中から――情報を手にする自分の姿を掴み取ろうとし。

「くっ……」
『布都乃よ、同時に複数の未来を見続けてはならぬ。
お主はまだその魔眼を使いこなせておらんのじゃからな』
「けれど、今こそ力を使わなくては――」

――何としても未来を掴みます。



●見えるもの、まだ見えないもの
 一人の少女が坂道を登り、彼女の後ろを子狐が付いていく。
 遠くから鳥の声が聞こえる。頭上では枝葉がかさかさ揺れていた。
「集団失踪事件——怪異が関わっているならば陰陽師の出番ですね」
 静寂の中で天羽々斬・布都乃(未来視の力を持つ陰陽師・f40613)は意気込む。
 邪を絶ち、人を救う。その使命を背負った布都乃にとっては見過ごせない事件だ。
 そんな彼女とは裏腹に、式神のいなりは気楽に構えていた。
『事件を解決すればUDC組織からの報酬も出るじゃろうしな。事件を片付けたら、稲荷寿司パーティーじゃ』
「はいはい、きちんと町の人たちを助け出してからですよ」
 いなりをたしなめ、布都乃は改めて視線を巡らせる。
 ここは町を囲む山の中。生い茂る木々に見下ろされながら遊歩道をずっと歩いてきた。
 この先には分岐がいくつかあるらしい。前へ伸びていく道も二手に分かれている。何が手掛かりになるかもわからない状況で、当てずっぽうに探せば時間を無駄にするだけだ。
「使うならここですね」
 ぺた、と布都乃は右頬に手を添えた。
 彼女の右目が金色に輝き始める。
 眩い光を放つ瞳の中で動き出すのは——あらゆる可能性を含んだ、いくつもの未来。
 乱れた線のような情景が、布都乃の頭に一度に去来する。
「このまま……このまま続ければ……!」
 情報を手にする未来の自分を認識し、自らをそこへ引き寄せられる。
 未来視を応用した、確実な捜索方法だが——。
 ぐらり、彼女の身体が揺れた。
「くっ……」
『お主……! 布都乃よ、同時に複数の未来を見続けてはならぬ。お主はまだその魔眼を使いこなせておらんのじゃからな』
 おちゃらけた雰囲気を殺し、いなりは言う。
 何重にも分岐した未来を視る。
 大量の情報が頭に流れ込む、危険行為。
「けれど、今こそ力を使わなくては——」
 誰かを助けられないかもしれない。
 正面を向く。歯を食いしばり、次々と過ぎていく未来を捉える。
 情報の負荷に強く頭を殴られるが、それでも。
 何としても未来を掴みます。
 心の中。決意が滾り、未来は集約されていく。
「視えた!」
 布都乃が飛び出す。
 山道を駆け、階段を上る。
 確信を覚えたその感覚、それを未来に繋ぐため。

 肩で息をしながら、布都乃は階段を上りきった。
 落ち着いてから前を見る。
 そこには奇妙に積まれた石があった。
「これは……?」
 石積みはさほど高くない。人の膝くらいまでの高さしかない。
 奇妙なのは、大した軸もなく安定していること。
 よく観察すると石にはすべて印が刻まれており、前には空の皿が置かれていた。
『ふむ、石塔じゃな』
 いつのまにか追いついたいなりが布都乃の隣で呟く。
「い、いつのまに……!? じゃなくて、その、石塔って……?」
『いわば印のようなものじゃ。怪異を封じる重しとして働くぞ』
「じゃあ、ここが『戸』の場所なんですか?」
『いや、ここはまだ崩れておらん』
 別の場所の石塔が崩れた。
 集団失踪を引き起こした原因はそこにいる、といなりは推理する。石塔の周りをぐるぐる周って、子狐は布都乃に笑いかけた。
『じゃが、崩れる前の石塔を見つけられたのは収穫じゃ。再び積むとしても簡単になるじゃろうしな。よくやったぞ、布都乃』
「いえ、そんなに大したことでは……!」
 謙遜しながら布都乃は考える。
 見つけた石塔はかなり強固そうだ。それを崩せる相手とはどんな存在なのか。
 姿のわからない敵を認識して、布都乃はぎゅっと拳を握った。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 日常 『近くて便利なコンビニ』

POW   :    食べ物を買いに行く。

SPD   :    飲み物を買いに行く。

WIZ   :    雑誌や日用品を買いに行く。

👑5
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●閉戸の儀
 田舎の広いコンビニの駐車場、その一角。
 印を刻んだ石を積む。
 固定するような細工を施さずして、石積みは安定する。
 盃に注いだ清酒を振り撒き、空になった皿を石塔の前に供えた。
「おかえんなさい、戸はもうじき閉じますので――」
 それに続く言葉を、UDC職員の男性は唱えていく。

 猟兵たちの調査により集まった情報。
 一、『閉戸の儀』に関連する石塔と、その詳細な実行方法。
 一、住民たちが失踪した地点と、石塔が存在した痕跡。
 一、地域で発見できた石塔から得られた、石塔と印の再現方法。
 これらの情報はUDC組織に伝達され、早速儀式は実行される運びとなった。
 町に一軒だけあるコンビニ。クロや他の失踪者が残した生活の一部から割り出されたこの場所に、猟兵たちとUDC組織の面々は集合していた。

 老人が収集していた資料によって知りえた儀式の再現を終え、UDC職員は一息つく。
「これで資料に記載されていた手順は完了しました。あとは……『丑三つ時に戸が閉まる』……これを待つだけです。……だけ、なんですが」
 彼は視線を石塔に向けた。
 自然と崩れることはなさそうではあるが、どこか弱々しく見える。
「なんでしょうね、何か『効き目が弱い』ような……実行直後だから? それか、この場所自体に、効力を弱まらせる作用でもあるのか……」
 戸が開いた要因もそこにあるのでは、と呟いてから、UDC職員は猟兵たちを見やる。
「何か、重ね掛けできるものがあるのであれば、それを試してもらえると助かります。あとは――」
 コンビニを、彼は一瞥した。
「そこのコンビニも、時間があれば詳しく調査をお願いします。効力を弱めている原因がそこにあるのかも……」
 頷くと同時に、猟兵たちの頭に情報がよぎる。

『外部の怪異が異界の力を得るために門を開こうとした、という伝承』
『意図的に砕かれていた石塔の石と、コンビニそのものへ敵意を向けたクロ』
『石塔そのものは本来強度の高いものである』

「しっかし、そんな曰く付きの場所にコンビニ建てるなんて、よく誰も反対しなかったな……」
 文句を零しながら、UDC職員は持ち場へと戻っていく。
 目の前には、無人になった一軒のコンビニが佇んでいる。
 何も発さない不気味さをかすかに漂わせていた。
ブラミエ・トゥカーズ

田舎にコンビニであるか。
外界から来た異物そのものではないか?

とりあえず無人なのでコンビニ入ろうとする
お店であれば普通に入れる
そうでないなら、入れないので友人のUDC職員に招き入れてもらう

赤色の飲み物を買う
固形物は食べられないので買わない
お代はレジに置いておく

異界の物を食せば異界から帰れなくなるという話はあるが、これはそういった類の話であろうかな?

気にせず飲む
入り口にある消毒液や医薬品コーナーに警戒しつつコンビニ内に異界の気配が無いか調査する

もしかすると壊れていた石塔こそ正規の物で、外界の不埒物が作った石塔が中にあるかもしれぬな?
なら、今は互いに効果は半々な状態であるのかな?



●異物、紛い物
 扉を押し開け、堂々と店内に進む。照明の消えた店内は薄暗い。
 田舎にコンビニ。
 感じ取った違和感を、ブラミエは言葉として吐き出した。
「それこそ、外界から来た異物そのものではないか?」
 独り言に対して、後から続く腐れ縁のUDC職員が首を傾げる。
 少々の笑いを口に含み、彼女は奥に進む。入口付近の陳列棚に置かれた衛生用品――消毒液と市販薬――を露骨に回避して、ぐるりと視線を巡らせた。
 元より店とは開かれた場所。ここが二十四時間営業かは知らないが、立ち寄りやすいのは人間も吸血鬼も変わらない。
「……今は無人であるが故、関係はないがな」
 相変わらず、友人の彼は店内を片っ端から調べている。
 借り出されている身の自分も仕事をしようか。なんとなくそうした気分にはなったが、腹ごしらえは必要だ。
 誰もいないレジの前に立つ。掌に握った硬貨を何枚か台に放り投げ、踵を返して通路をそそくさと歩く。
 サボるなと文句を飛ばす青年を無視して、ブラミエは蓋のない飲み物の陳列棚へ手を伸ばす。
「どうした? 金は払ったぞ?」
 あっけらかんとした表情を向ければ、彼はため息を零した。
 手に掴んだのはトマトベースの野菜ジュース。紙パックを軽く振るだけで、粘度の高い液体が詰まっているのがわかった。
「異界の物を食せば異界から帰れなくなるという話はあるが、これはそういった類の話であろうかな?」
 ここが現世と異界の境界なら、食品に手を出すのは禁忌なのか。
 頭の片隅でそう考えつつも、ブラミエは野菜ジュースのキャップを回した。
「帰れなくなったら……別の形でまた戻ればよい」
 飲み口を軽く噛み、紙パックを傾ける。とくとくと、液体が流動する。
 液体が舌を這った瞬間、ブラミエは咄嗟にそれを吐き捨てた。
 血液のように床に赤い飛沫が付着する。口元を手の甲で拭い、彼女は思考を整理していく。
 ブラミエが液体を拒んだ理由。
 味が好まなかったのでも、液体が異界の食物だったからでもない。
 嫌悪する、科学の臭い。
「……塗料?」
 紛い物。
 逆算する、建物への微弱な違和感。
 もしコンビニが以前から営業していたなら、紙パックに塗料が詰まっている意味はない。
 棚の商品自体が急ごしらえの紛い物。それならば――。
「何かが装っているのであろうか?」
 だが、まだ確信は持てない。
 とにかく調査を、とブラミエが顔を上げる。
 陳列棚と商品の隙間に、積まれた石が見えた。
「ここに隠されておったか」
 入店したときから探っていた気配。
 表の石塔の効き目が弱いのであれば、不埒者の作った石塔が中にあるのではないか?
「異界の気配は感じてはいたが……ここにあるとはな」
 よく見ると、ひっそり建てられた石塔はいろいろと杜撰だ。印は適当で、刻まれいない石すらある。
 正規の石塔を破壊し、中途半端な石塔に置き換えた。そのため、効力が打ち消し合って半々になった。
 それがブラミエの推理だった。
「まさしく異物で、紛い物であろうな」
 呟き、ブラミエは棚の隙間に手を滑らせる。
 偽の石塔を掴んで、力任せに腕を引く。
 数秒も経てば、陳列棚の一部ごと石塔は崩された。
「さて、これで用は済んだ。しかし――」
 新たな謎について考えようとして、ぱたりと取り止めた。
 破壊した石塔と棚に背を向け、コンビニを出ようとする。
「真夜中二時は遠い。まだ講じられる策はあろうからな」
 駆け寄ってきたUDC職員の青年に情報を共有してから、ブラミエはコンビニの中を振り向く。
 えも言われぬ不気味な空気が、やはり漂っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天羽々斬・布都乃
「石塔の効き目が弱い……ですか」
『なにか原因があるのじゃろうが、布都乃、お主は自分の得意分野で行動すべきじゃろう』
「そうですね。天羽々斬流陰陽術、その力をお見せしましょう」

懐から霊符を取り出し、【五行強化符】の術を発動します。
効果は結界の強化。
何者かが再び石塔を破壊しようとしても、それを妨げる護りを施しましょう。

上手く行けば、万が一の時の保険になるかもしれません。

『さて、わしはちょっとコンビニの方を見てくるとしよう』
「なにか分かったんですか、いなり?」
『うむ。事前の情報収集はぬかりないぞ』

くるりと振り返ったいなりが自信満々に語ります。

『この地区限定のきつねうどん……
油揚げが旨いと評判なのじゃ』


川村・育代
◎丑三つ時(午前二時)まで時間があるし、石塔の作り方を石塔を修理したUDC職員に聞いて石塔を増設しようと思うわ。
単に2個並べるのではなく、駐車場の反対側や店の裏側など壊れていた石塔の反対側になるような所に建てるようにするわ。
クロの反応から見てコンビニが建ったことが何らかの悪影響を与えてるのは間違いなさそうだから、その分石塔を増やして対抗させるわね。
石塔を建て終わったらグッドナイス・ブレイヴァーでドローンを出して午前二時まで様子を見るわね。



●少女と少女の対抗策
 駐車場の端に積まれた石塔を見下ろす。
 衝撃を加えられたら崩れてしまいそうな弱々しさがあった。
「確かに、山の中で見たものとは雰囲気が違いますね……」
 顎に手を添え、布都乃は呟く。
 再現の参考にした山の石塔と比べ、安定度が劣る。盤石だったあの石塔には似ても似つかない。
「石塔の効き目が弱い……手順は間違ってないはずなのに」
『何か原因があるのじゃろうが……布都乃、お主は自分の得意分野で行動すべきじゃろう』
 考え込んでいた布都乃の足元でいなりが促す。頷き、彼女は懐へと手を入れた。
「そうですね。天羽々斬流陰陽術、その力をお見せしましょう」
 取り出したのは、歪んだ文字の記された御札。霊符だ。
 崩さないようにそっと石塔に触れさせれば、霊符は不思議な力で固定された。
 手を合わせ、布都乃は呪文を唱える。
「相生相剋の理よ、私に力を」
 札の貼られた石塔に向かって祈る。
 目には見えない結界が霊符を中心に展開され、少しずつ効力を持ち始める。
「悪に抗える護りを、ここに」
 二度と悪意に揉まれないよう、少女は静かに力を注ぐ。

「……あんな子どもでも立派に術を使えるのか」
 布都乃の様子を遠巻きに眺め、UDC職員の男性が言葉を零す。
 年端もいかない少女の姿に感嘆していると、くいくいっと袖口を引っ張られた。
 振り向くと、同じくらいの少女がそこにいた。
「ちょっといい……ですか?」
「うおッ!?」
 慣れない敬語で、育代が彼に話しかける。驚きを隠すように「何かな?」と聞く男性に、育代は本題を切り出した。
「あなた、石塔を直した人ですよね?」
「あ、あぁ……そうだけど」
「どうやって直したか、教えてもらえません?」
 育代からの要求に、UDC職員は困惑しながら頷いた。
「いいけど……何で?」
「石塔の数を増やして、対抗できる力を増やしたいんです」
 育代の考えはこうだ。
 クロの反応からして、コンビニが建ったことが悪影響を与えているのは明らか。そして儀式が完了する午前二時まではまだ時間がある。
 『戸』を閉じるための石塔の数を、どうにか増やしておく。それで力が増強されれば願ったり叶ったりだ。
 理屈には納得したらしいUDC職員だったが、それでも渋るようにこめかみの辺りを手で掻いた。
「しかし……石塔の範囲が被ると悪い影響が出るらしいんだ。現に店内に効力を弱める石塔があって、そっちは別の猟兵が破壊を――」
「くっつけるみたいに建てるわけじゃないですよ」
 言いつつ、育代は男性の足元を指さす。
「ここ、あの石塔の反対側ですよね?」
 はっとしてUDC職員が目を見開く。
 これだけ駐車場が広ければ、互いが互いを阻害せずに力を高められるかもしれない。その微調整はUDC組織の得意とするところでもある。
「な、なるほど……わかった。石塔の建て方を教えよう」
「ありがとうございます!」
 ニコッと可愛らしい微笑を、育代は職員に向ける。
 資料と実際の石塔の写真を参考に、石の積み方、印の刻み方……情報を一つずつインプット。電脳の存在として記憶に定着させていく。
 儀式のために用意された石を前に、育代は道具を握った。
「じゃあ、あとはこっちでやっておくので」
「いいのか? 大人でも結構難しいんだが……」
「大丈夫です」
 育代は再び笑顔を向けた。
「子どもは何もできないわけじゃないし、何も考えてないわけでもないですから」
 言葉の端ににじむ、見てきた教育の世界。
 それを知らないUDC職員も圧するような迫力があった。

 少しして。
「……上手くいった!」
 強固な結界が張られた石塔の前で、布都乃が歓声を上げる。
 これでしばらくは破壊されることはないだろう。
 もしも非常の事態が起きても保険として機能してくれるはずだ。
「一仕事……終わりましたね!」
「布都乃ちゃん、こっちもいい?」
 ぐーっと伸びをする布都乃に育代が声を掛ける。
「育代さん、なんです、か……!?」
 声の方を見て、布都乃は口を大きく開けた。
「石塔が増えてる!?」
「何とか増やせたわ。思ったより難しかったけど……」
 それでも、石積みには成功した。石塔は正しく効力を発揮し、互いに干渉して相殺することもない。
「さっきの、こっちの石塔にもお願いできない?」
 手を合わせ、育代は布都乃に頼み込む。
 術を行使したばかりで疲れていたが、布都乃は大きく首を縦に振った。
「もちろんです!」
 霊符をもう一枚取り出し、先ほどと同じように五行強化符を発動する。
 仕事に取り掛かった布都乃を見上げ、いなりが独りコンビニに向かって歩き出す。
『さて、妾はちょっとコンビニの方を見てくるとしよう』
「なにか分かったんですか、いなり?」
『うむ。事前の情報収集はぬかりないぞ』
 それだけ言って、器用にコンビニへと入っていった。
 黙々と術に集中する布都乃だったが――。
「……気になるなぁ。何かしてないといいんですけど……」
「じゃあ、覗き見してみる?」
 言うと同時に、育代の頭上にドローンが喚び出される。少女たちの上を旋回してから、ドローンもまたコンビニに向かって飛んでいった。
「い、いいんですか?」
「元々午前二時まで様子見するために使おうと思ってたしね。さて、いなりちゃんの様子はっと――」
 二人が中継を映した画面を覗き込む。
 店内にて、小さな子狐の影を発見。
 尻尾を揺らして佇むは、カップ麵売り場の棚の前。うろうろと戸棚の前を行ったり来たりして、食い入るように眺めている。
 やがてその場から飛び出すと、勢いよくコンビニから飛び出した。
『大変じゃ布都乃!!』
「どうしたんです!?」
『この地区限定のきつねうどんがないッ!!』
 いつもに比べればすさまじい剣幕で訴えるいなりに、布都乃はすっ転んだ。
「まさか、本当にきつねうどんを探しているとは……普通に置いてないんじゃないですか?」
『そんなはずはない! 妾の情報網じゃぞ!? 油揚げが旨いと評判のきつねうどんが……ないのじゃ!』
「いや、知りませんよ……」
 やいやいと騒ぐ布都乃といなりの傍らで、育代は静かに考える。
 置かれていない。そう考えるのが普通だ。
 しかし、コンビニそのものに不審な部分が多い。
「このコンビニ、本当に営業してたのかな……?」
 空を飛ぶドローンがコンビニを映す。
 疑念はさらに深まりつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

山路・紅葉
調べる事が多いよぉ…
うーん、私はコンビニを調べようと思うんだ
あんまり調べ物は得意じゃないし、もしコンビニの中で何か起こるなら私なら何とか対処出来るんじゃないかな
🐺正確にはワタシの方ね、敵意を向けたって事は警戒するのは無駄じゃないでしょ
さっきと同じく『Black Boon』を使って"嗅覚"と"聴覚"をたよりに"失せ物探し"するね
…このコンビニがたまたまじゃなくて、人為的にここに建てられた可能性もあるのかなぁ…
もしそうなら、物の配置に秘密とか隠し部屋とかあったり?
🐺何かあったらワタシ主導で黒犬のオーラを纏って防御"オーラ防御"、そして格闘で対処よ

※協力・アドリブ歓迎



●箱の音
「お、お邪魔しまーす……」
 ゆっくりと扉を押して、コンビニに入る。
 外光しか光がない店内を見渡す。
 異変はないと判断して、紅葉は棚と棚に挟まれた通路へと足を踏み出した。
「それにしても、調べることが多いよぉ……調べものはあんまり得意じゃないんだけど……」
『それでもクロが敵意を向けたのなら、警戒するのは無駄じゃないわ』
 注意深く棚を眺め見る紅葉の隣にばしゅんと織子が現れ、彼女に言葉を返す。
「だよね。コンビニの中で何かが起こっても、私なら対処できると思うし」
 実際に対処するのは織子ちゃんだろうけど。
 自分の発言に補足を入れつつ、紅葉は先ほども使ったBlack Boonブラック・ブーンを再び発動。
 紅葉の周りを織子が飛ぶ。微かな変化も逃さぬよう、鼻先を丹念に動かす。
 その傍らで、紅葉には引っ掛かていたことがあった。
「ねぇ、織子ちゃん」
『何かしら?』
「さっき駐車場で見た、砕けた石のことなんだけどさ」
 意図的に破壊されたと見られる石。
 ちょうど重なるように建てられたコンビニ。
 裏側に感じ取る、悪意の気配。
「……このコンビニがたまたまここにあるんじゃなくて、人為的に建てられた可能性ってあるのかなぁ……」
 同様の考えを抱いていたのは織子も同じだったようで。
『その線は探ってみる価値アリだと思うわ』
「じゃあ物の配置に秘密とか、隠し部屋とかあったり?」
『探してみるわね。もし何かあっても――ワタシに任せておいて』
 意識を絞り、織子はさらに感覚を研ぎ澄ませていく。
 あらゆるものが詰め込まれた施設だけあって、臭いは複雑に入り混じっていた。紙とプラスチック――何故か食べ物の臭いはしない――が大半を占める。
 一方で、ここに音はない。微かな音であっても織子の耳には届く。

 ——ドンッ。

『……振動。店の奥からよ』
「方向はどっち?」
『この方向は……バックヤードね』
「わかった!」
 切り返し、レジのテーブルを抜けて紅葉はバックヤードへと走る。
 陳列前の商品らしき段ボールの山の中、織子が繰り返し音と臭いを拾う。
 確信を持ち、織子は赤い目で一つの段ボールを見つめた。
『間違いないわ。あの箱の中から音が鳴ってる……とても小さいけれどね』
「ありがとう、織子ちゃん。調べてみるね」
 示された箱の前に屈み込み、紅葉が箱を開く。
 鬼が出るか蛇が出るか。
 警戒しながら開いた箱の中には――何もなかった。
 紅葉が自分の目を疑った、その直後。

 ——ドンッ。

 箱の底を何かが叩き、箱全体が跳ね上がる。
 反射的に紅葉は飛び退き、迎撃のため織子がその身体を自身のオーラで包み込む。
 不条理が重なってもいいように構えた彼女たちの視線の先、段ボールは衣擦れのような音を発した。
『クロ……? ここに来ちゃ、ダメ……』
 音は若い女性の声にも聞こえた。
 直感的に、二人は箱の正体を理解する。
「これ、もしかして」
『失踪した町の人ね』
 ぐるり、紅葉は視線を巡らせる。
 積まれた段ボール全部が、もしや――。
「あの、私! あなたたちを助けに来たの! だから落ち着いて――」
『けど、心配しなくていいわ。この中には何でもあるから……』
『……こっちからの会話は通じないみたいね』
 言葉にならない苦悶が紅葉から漏れる。
 隣でそれを見て、織子は彼女に耳打ちした。
『ここは一旦、引き返しましょう。この人たちを元に戻す方法もわからないのだし』
「でも……!」
『儀式が完了したら、何か方法が見つかるかもしれない』
 渋々了解し、後ろ髪を引かれる思いのまま紅葉はバックヤードを出た。
 バタバタと振動する、箱の音が耳に残っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『彷徨えるコンビニ』

POW   :    非常通報システム
【警備会社】から、【電撃警棒やショットガン】で武装したX体の【警備員】を召喚する。X=自身の精神消耗度(0〜10)の2乗。
SPD   :    スーパー客寄せくん
【妙に中毒性のあるBGM】を披露した指定の全対象に【店に入りたい、店から帰りたくないという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ   :    あるといいながある、いるといいながいる
いま戦っている対象に有効な【商品や店員】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
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●日は沈んで
 猟兵の調査により、失踪した町の住人――と思わしき存在が発見された。
 所在は店舗奥、バックヤード。
 大小さまざまな空っぽの段ボール。それらが人間の声に酷似した音を発する。
 すぐに情報は共有され、段ボールを外に持ち出そうとUDC職員が奮闘したが――不可能だった。
 そもそも、これがどういった現象なのかも見当がつかない。
 変形させられているのか、あるいはこの『箱』という状態に閉じ込められているのか。
 一行が思い悩む中で、UDC職員が口火を切る。
「とにかく、一旦は儀式を完了させましょう。もしこれが『戸』の影響で呼び寄せられた怪異の仕業なら、『戸』を閉めることで元に戻るかもしれません」
 猟兵たちの尽力により、石塔は本来の効力を取り戻した。
 妨害目的で設置されていた石塔の破壊、石塔増築による対抗力の増強、それらへの強化術の付与――。
 ちょっとやそっとでは崩れない石塔が築かれている。
 後は時間が経つのを待つだけ、といったところで、UDC職員が声を漏らした。
「それと……このコンビニについても少しこちらで調べておきます。いつ、誰によって建てられたか。役所に掛け合えば手に入る情報でしょう」
 偽物に置き換えられていた食品。
 本来あるはずの商品の不在。
 これらの報告を、彼らも不審に思ったらしい。

 そして時刻は、午前二時を迎える。

●真夜中二時の誘蛾灯
 午前二時。
 駐車場の端と端に設置された石塔から、怪しげな光が伸びる。
 空まで伸びた光は突然バツンと途切れ、粒子は空気に揉まれて消えていった。
 ……これで『戸』は閉じたのだろうか?
 様子を確認しようと、待機していた猟兵たちしたそこに向かおうとした。

 コンビニの前に、人型の何かが落ちてきた。
 まるで次元の門から叩き出されたかのうように現れたそれは、鈍い動きで立ち上がる。
 相手を視認して、真っ暗な顔を猟兵たちに向けた。
 コンビニ店員の服を着ていた。
「いらっしゃいませ。温めますか? レジ袋は有料です」
 不明瞭な文脈で言葉を吐き出す人型の、その背後。
 いままで消灯していたコンビニの電気が点灯。
 ガラス戸は開き、延々とループする音楽が外に流れ出る。

 異常な現象に構える猟兵たちに、一本の通信が入った。
『店に入っているならすぐに店から出てください!』
 叫びに近い声で放たれた内容は、警告のようでもある。
『その場所にコンビニなんて――なかったんです!』
 役所に掛け合い、調査した結果。
 猟兵たちがいる場所にコンビニが建設された記録はどこにもなかった。
 その情報から割り当てた、怪異の正体。
『神出鬼没のコンビニ型UDC――それがこの事件を引き起こした元凶だったんです! 人間を誘い込み、店の中に閉じ込める……それが『戸』の影響で、町一つ消せる規模になった!』
 召喚した店員を遠隔操作して元々の石塔を破壊。それからこの場所に居座り、人々の意識に潜伏するようにして人を消していった。『戸』が開かれたからこそ、ここまでの力を持ったのだという。
『昼間は潜伏していたか、活動時間ではなかったのか……。けど、これで『戸』は閉じた。力の大部分は削れて、相手もそれを恐れて攻撃してくるはず――』
 UDC職員の言葉通り、コンビニは着々と臨戦態勢を整えている。
 コンビニの放つ電灯によって生まれた影が縦に伸び、警備員や店員が影の中から続々と出現していた。

 話を聞くに、本体はコンビニの建物。
 コンビニそのものを狙わなければダメージには繋がらない。
 もちろん、それを追い払おうとする配下も凌がなくてはならない。
 相手は石塔を崩しにくる。二手に分散し、強化術で強化されているとはいえ、油断すれば物量負けしてしまう。

 戦闘の要点を把握する猟兵たちに、UDC職員は推測を口走った。
『あのバックヤード、弱点になりえませんかね? 一ヵ所に箱をまとめて隠していたなら、あそこが核なのかも……効くのかはわかりませんが、内臓を狙うような感覚で、こう――』
 店内に入らずとも、バックヤードを外側から殴るだけでも有効打になりうる。
 その可能性を頭に留めて前を向くと、コンビニの前には人だかりができていた。
「お帰りください。それか、いらっしゃいませ」
 先頭に立つ店員が、真っ黒な顔で誘う言葉を投げかける。

 真夜中の夜闇で、眩い光を放つ店舗。
 快く人を誘い込む姿は、真夜中二時の誘蛾灯。
 一軒のコンビニが、敵意を持って襲いかかってくる――!
天羽々斬・布都乃
『むっ、あれは!』
「何かわかったんですか、いなり!?」
『地域限定極上稲荷寿司じゃ!』
「ちょっとーっ!?」

小躍りしながらコンビニの中に駆け込んでいく式神を追って、私も天羽々斬剣と布都御魂剣を構えてコンビニに飛び込みます。

「こうなったら――敵の体内から直接、核を叩きます!」

生み出される商品や店員は【異能打ち消す破邪の瞳】による斬撃で打ち消していきます。

『ああっ、妾の稲荷寿司やきつねうどんがー!』
「帰ったらいくらでも買ってあげますから!」
『約束じゃぞ、布都乃!』

バックヤードに飛び込んで、段ボールを傷つけないようにコンビニの核を見定めて攻撃しましょう。

「石塔を崩される前に――核を破壊します!」


ブラミエ・トゥカーズ
店員が消毒液とか野菜コーナーやお摘みの大蒜とか色々持ち出してくる

人の進歩とは恐ろしいな、余等妖怪が幽世に追いやられるのも当然であるなぁ。
即死は無いが、手が出せない

というわけでだ。貴公に任せる。

妖怪:ぬらりひょん
店の中で買い物するのかしないのか、唯々、店長のように、常連の用に時間をつぶす
妖怪としての権能により店員はそれを無視できない
そうすることで店員をレジや品出しという行為に拘束する
ダメージは与えられないが他猟兵の攻撃へのフォローとする

ブラミエは手を出すと普通に反撃を食らい大ダメージ
所詮は現代医学薬学に追いやられた古臭い病である

色々歓迎



●客人跋扈
 消毒用エタノールがまっすぐに放り投げられた。
 舌打ちをしてブラミエは躱す。滅菌に殺菌。大量生産される消毒液ですら、病の総体である彼女を傷つけるには十分だ。
 エタノールの容器が地面に転がったのを視界の端に捉え、ブラミエは前を見据える。
 闇に灯るコンビニの明かり、それが店員たちの姿を浮かび上がらせていた。
「すみません、ただいま清掃中です」
 脈略のない台詞を発し、その手元には商品が出現する。
 ネットに入ったニンニクの束。ぐるぐると回転させ、一斉に吸血鬼へと投擲した。
 再び、ブラミエは飛び退く。闇に消えていくニンニクを一瞥し苦笑を零す。
「人の進歩とは恐ろしいな、余等妖怪が幽世に追いやられるのも当然であるなぁ」
 吸血鬼の弱点すらコンビニを利用すれば揃えられてしまう。便利な時代になったものだ、とどこか他人事のようにその進歩を笑った。
 所詮は現代の医学薬学に追いやられた古臭い病。即死こそないが――。
「余には手が出せないであろうな」
 相手は現代の集合体。無理して戦っても相性は悪い。
 そう判断したブラミエが一歩下がるのと入れ違いで、巫女服の少女が前へと駆けていった。
「コンビニそのものが怪異でしたか――それでも!」
 天羽々斬剣と布都御魂剣を構え、布都乃は走る。
 店先に立つ店員がカッターナイフを握り込み、接近してくる彼女に切りかかった。
 腰を落とし、横振りの一撃を回避。速度を殺さず店員を一閃する。
「私のやることは同じです!」
『よいぞ布都乃、そのまま突っ走って――』
 布都乃の肩に乗るいなりの言葉が途切れる。
 コンビニの扉が開き、一人の店員が表に出てくる。光溢れる店内から現れた店員はまるで後光が差しているようでもあり、その手のひらにはなんと――。
『むっ、あれは!』
「何かわかったんですか、いなり!?」
『地域限定極上稲荷寿司じゃ!』
 キラキラと輝く稲荷寿司の寿司パックがあった。
 ただそれだけをチラ見せして、店員は一瞬で店に引っ込んだ。
『これは……抗えん!』
「ちょっとーっ!?」
 布都乃の肩から飛び降り、いなりは小躍りしながら店内へ駆け込んでいく。
「……あーもうっ!」
 額に手を当ててから、布都乃もその後を追う。店内こそ相手の懐、というか体内だ。どう考えても罠だが、もう考えている時間はない。
 入店した一人と一匹を眺め、回避に徹していたブラミエが呟く。
「あえて店に誘われる……客、か。そういえば、いかにも適役な者がいたか」
 彼女らに助太刀しようにも自分では足手まとい。
 それならいっそ、幽世の従者を喚び出して行動させた方が助力になる。
 頷き、ブラミエは前に手を伸ばす。
 背を押すような動作をすると、和装をした異形の存在がそこに現れた。
「というわけでだ。貴公に任せる」
 ぐらり、後ろが歪に膨らんだ頭を揺らす。
 草鞋のぺたぺたという音を鳴らして店員たちの間を行く。誰にも気付かれていないかのように、それはいとも容易くコンビニへと侵入した。

「ここがコンビニの中ですか……?」
 店内に足を踏み入れた布都乃が声を零す。
 コンビニの内装はそのままに、混沌としていた。欲が引き出され、振り回されるような感覚。店内BGMが頭を掻き乱し、飛び交う商品が戦闘意欲を失わせようとする。
 ぶんぶんと頭を振って、布都乃は子狐の姿を探した。
「いなりー? どこですかー? ……って、あっ!」
 どっさり積まれた寿司パックとカップ麺。
 特製のベッドに幸せそうな顔をして、いなりは寝そべっていた。
「あぶなーいっ!」
『ああっ、妾の稲荷寿司やきつねうどんがー!』
 商品の山をまるごと真っ二つにしていなりを救出。
 救出された本人は叫んでいるが、言っている場合ではない!
「帰ったらいくらでも買ってあげますから!」
『約束じゃぞ、布都乃!』
 掛け合いの最中にも敵は迫る。
 傘や文具を手に詰め寄る店員に、布都乃の右目が光を放つ。
 未来視によって攻撃を把握。回避してから繰り出される斬撃。一人、また一人と店員は切り裂かれていく。
 しかし、敵の数は減らない。斬った次から店員が複製される。
 客より店員の方が多いという異様な状況。
 そのとき、コンビニの入店音が鳴り響く。店員たちが一斉に客を振り向いた瞬間、彼らの動きが止まった。
「い――いらっしゃいま、せ……!?」
 強制的に言葉を引きずり出され、店員たちはそれに向かって頭を下げる。
 頭の長い、人型の異形。
 カゴを手に持ち、普通の客のように棚の商品を手に取って眺め始めた。
 客が入店した。そうなれば、店員は正しく対応することを求められる。品出しをし、レジにつき、掃除をし、求められれば説明をする。
 ひょいひょいとカゴに食料品を放り込み、異形はレジへ。ままごとのようにやり取りをして、異形はカフェマシンから注がれたコーヒーをイートインで飲み出した。
 ぬらりぬらりと、堂々と。常連客のように、あるいは店の主――店長のように。

「ぬらりひょん。家に現れてはさも家の主のように振る舞う、厄介者」
 店内の喧騒が落ち着いたのを眺め、ブラミエは言う。
「家に入り浸る。権能としてはただそれだけではあるが……客なら店はそれを無視できない。客人に無礼を働くわけにはいかぬものなぁ?」
 総大将とも噂される風格。攻撃はできないが『店』を相手取った際の妨害には打ってつけだ。
「余はいまや、鼠のようなものだ。しかし一噛みでもすれば……末端を壊す毒にはなれる」
 病原菌のように、ブラミエの刺客は敵を侵食していく。
 
 平静を取り戻した店内。
 イートインの異形を一目見てから、布都乃は剣を構え直す。
「とにかく今のうちに――このまま直接、敵の核を叩きます!」
 走って踏み切り、レジの仕切りを飛び越える。
 バックヤードへ飛び込めば、段ボールの積まれた空間が目の前に広がった。
「このどこかに核が……?」
『布都乃! 焦るでない!』
「そうですね! わかりました!」
 右目に意識を集中。輝く瞳の内側で、布都乃は未来を掴み取る。
 乱雑に積まれた段ボール。隠れていた立方体を斬る自分の姿が脳裏に映った。
 確信を抱き、一点に向かって踏み込んだ。
 表ではいまも店員たちが暴れている。放置すれば石塔が破壊されるのは時間の問題。
「石塔を崩される前に――核を破壊します!」
 剣の柄で段ボールの山を捲り上げる。ばらばらと宙に舞う段ボール、そのうちの一つ。
 二本の剣を握り締めた。
「はあッ!」
 一方で貫き、もう一方で切り払う。
 絶叫のような邪悪な振動が、布都乃の身体を震わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

山路・紅葉
コンビニが異変側の物、とは考えてたけどコンビニ自体が異変!?
🐺さ、さすがにそこまでは予想外だったわね…
と、兎も角なんとかしないとっ

外でも内でも戦えるけれど…うん、状況を見て判断しようっ
どちらでも大丈夫そうなUCは…織子ちゃん、お願い!
🐺任せなさい!私が体を動かす主導、『Black Beast』発動ッ!
相手の攻撃は纏った黒犬のオーラで防ぎ"オーラ防御"、強化された防御力と吹き飛ばし耐性を生かして前進
後は近くの敵を強化された攻撃力を乗せて力ずくで"怪力"ぶん殴って吹き飛ばすだけよッ!
やる事は中でも外でも変わらない、私にぶん殴られたいのは誰かしら!?

※協力・アドリブ歓迎


川村・育代
◎まさか、コンビニその物が怪異だとは思わなかったわ。
敵ながら上手く隠れてたわね。
店員や警備員による人海戦術に対抗できる大人数召喚系のユーベルコードが使えるのはあたしだけみたいだから、あたしは石塔を守る方に回ってコンビニ本体への攻撃は他の人に任せるわ。
幽霊海賊団で660人の海賊を呼んで彼らの数に対抗するわ。
警備員のショットガンの火力は厄介だからラッパ銃持ちの海賊に最優先で狙うように指示するわ。
あたしはカトラス持ちの海賊と一緒に店員の迎撃に回るわ。
店員もただのコンビニ店員じゃないから油断しないようにするわ。
飛び縄で敵を引き寄せて盾に使ったり魔法少女のステッキで殴ったり呪殺弾を撃って戦うわね。



●攻守一体
「コンビニが異変側の物、とは考えてたけど……」
「まさか、コンビニそのものが怪異だとは思わなかったわ」
 驚きを声色に隠せない紅葉と、どこか感心を含んだ声を発する育代。
 二人は揃って、闇夜を打ち消さんとばかりに電灯を光らせるコンビニを見つめていた。
 敵ながら上手く隠れてたわね、と心の中で呟く育代の傍らで、黒犬の織子が二人の言葉に続く。
『さ、さすがにそこまでは予想外だったわね……』
「と、兎も角なんとかしないとっ」
 既に本体へは一撃加えたが、コンビニの取る挙動は激しくなっている。
 建物の影から現れる人影はその出現ペースを上げ、こちらへ迫る。
 狙いは背後にある二つの石塔だ。
「……この場で人海戦術に対抗できるのはあたしだけみたいね」
 状況を俯瞰視し、育代は身構える紅葉に声を掛けた。
「紅葉さん。あたしは石塔を守る方に回るから、コンビニへの攻撃は任せていい?」
「えっ、私たちはいいけど……育代ちゃん独りじゃ――」
「大丈夫、人手ならあるわ」
 二回、育代が何気なく手を叩く。
 彼女の背後から冷気が漂い、巨大な船がアスファルトに乗り上げた。何十人、いや何百人もの透けた人間が船から頭を出す。
 660人の幽霊海賊たち。
 カトラスとラッパ銃を手に、人ではない彼らは続々と地に降り立った。
「ね?」
「心強い、かも……」
『なら話は決まりね。行くわよ!』
「うんっ!」
 得意気な育代を背に、紅葉は織子に引っ張られるようにして前線へ躍り出た。

 直進する紅葉の前にコンビニの従業員らが立ちはだかる。
 ヘルメットと防護服、そこに電撃警棒やショットガンで武装した警備員。壁のように並び、得物を構えている。
 店の外側でも内側でも戦える。どちらがいいかは状況判断。
 まずはこのまま肉壁を破らなければ。どこで使用しても問題ないユーベルコードは――。
「……織子ちゃん、お願い!」
『任せなさい! 私が体を動かす――』
 紅葉が跳躍すると同時に『黒犬』のオーラが彼女を包み込む。
 そのまま敵に飛びかかり、警備員は即座に警棒を振りかざした。
 電流を帯びた打撃が彼女の身体に命中したが――少しも効いていない。
Black Beastブラックビースト発動ッ!」
 紅い眼、その目つきが変わる。
 肉体の主導権を紅葉から織子にスイッチ。敵の攻撃を受け止めたまま、身体の回転を利用して殴りかかる。オーラを纏い、その右腕は犬の頭のように変容していた。
 腹に拳が叩き込まれ、完全武装の警備員が大きく吹っ飛ばされる。
 命が自身に染み込むのを感じながら、織子は取り囲む敵群を睨みつけた。
「暴れればいい、簡単な仕事よ!」
 釘留めされたように硬直する警備員たちへ、彼女自ら踏み込む。
「さぁ、ワタシにぶん殴られたいのは誰かしら!?」
 一瞬で距離を詰め、頭上から拳を振り下ろす。敵が地面に打ち付けられるより速く走り出し、繰り出された蹴りが別の相手に突き刺さった。
 当然、反撃は来る。だが、背後から振られた一撃は表面を覆う『黒犬』に無効化された。
 振り向き、織子は歯を覗かせる。ぐらりと頭を揺らす警備員の、警棒を持つ腕を掴んだ。抵抗する相手を握力で押さえ込み、腕を高く振って放り投げる。砲丸が如く投げられた敵は警戒していた警備員複数人を纏めて薙ぎ倒した。
『織子ちゃん! いい感じだよっ!』
「えぇ、このまま全員ぶっ飛ばしていくわ!」
 一騎当千の勢いで蹂躙する織子。
 その近くで、ぱたんと人影が倒れた。警備員が次々と、散弾銃による銃撃でヘルメットを砕かれる。
 少し離れた位置から、幽霊の握るラッパ銃が煙を放っていた。
「手伝うわ。いくら硬くても、ショットガンの火力は厄介でしょうから」
 織子から見て後衛に立つ育代が前へ手を伸ばす。
 並んだ海賊の幽霊たちがラッパ銃を構え、湧いて出る警備員を一斉に撃ち抜いていく。
『今のうちに近づこう!』
「もちろんそのつもりよ!」
 立ち塞がる敵が排除され、織子はさらにコンビニへ接近していった。
 その姿を見送って、育代は今一度深呼吸。
「さて……あたしも頑張らないとね」
 改めて、目の前を見据える。あれだけ織子が暴れたというのに、人影は続々とコンビニの影から発生し続けている。コンビニにトドメを刺すまでは持ちこたえねばならない。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ――」
 壊れたテープのように台詞を繰り返す店員たちが、ハサミやボールペンの包装を剥いて走り寄る。
 駐車場の端にある石塔を意識しつつ、育代は可愛らしい魔法少女のステッキを手に取った。
「もうとっくに、あなたたちは迎え入れる側じゃないわよ」
 海賊の幽霊とコンビニ店員の群れが衝突する。一方がカトラスで切り裂き、一方が日用品で首筋を刺す。世にも奇妙なマッチアップ、その隙間をすり抜けた何体かが育代にも襲い掛かった。
 明らかにただのコンビニ店員ではない。
「まぁ、見かけで判断できないのはお互い様ね!」
 親しみやすい制服に気を許すことなく、育代は飛び縄を放つ。カラフルな縄が敵に絡みつき、その瞬間に手元へ引っ張る。簀巻きになった店員が盾のように立って、肉薄する店員のハサミにその顔を刺された。
 倒れる簀巻き店員の陰から育代が飛び出す。隙を見せたハサミ持ちの頭へステッキの一撃。ひるんだ店員を、重なるように何本もの剣が貫いた。
 動かなくなった店員を無感情に見下ろし、海賊たちは素早く持ち場に戻っていく。
「あたしがいる限り、石塔は崩させないわ。……両方とも!」
 幽霊を率いて、育代は防衛線を張り続けるのだった。

『織子ちゃん、ここって……!』
「えぇ、バックヤードの――外側ね!」
 敵群を突き進んだ織子たち。
 彼女たちは現在、コンビニの裏――バックヤードのちょうど外側に来ていた。
「直接じゃないけど……ここなら何も巻き込まずに力をぶつけられるわ!」
 言いながらも、織子は壁に向かって拳を叩きつける。動かない、そして平らな対象には、力は何にも阻害されずに伝達され――。
 轟音とともに壁に亀裂が入った。同時に強い振動がコンビニの内部から放たれる。
 あと一撃。そう確信を持った直後、回ってきた警備員が織子を発見する。
 迎撃しようと構えた織子だったが、結局敵の攻撃は届かない。
 警備員の背後から飛んだ、その肉体を貫通する不可思議な弾丸。
「怪異には怪異、呪詛には呪詛返し……届いたみたいね」
 ステッキを構えた育代が放ったのは、相手を呪い殺す呪殺弾。
 これ以上、身勝手な怪異の好きにはさせない。
 意を汲んで、織子も攻撃姿勢を取った。
 大きく振りかぶり、オーラを纏って繰り出される鋭い拳。
「これで……お終いッ!」
 激しい衝撃が打ち鳴り、絶叫のような震えが来る。
 亀裂に重ねられた一発が、壁を完全に砕く。
 破片は飛び、あからさまに傷ついた段ボールを銃弾のように貫いた。

 それが、この怪異の最期だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●帰宅の時間
 トドメを刺した瞬間、コンビニは最初から何もなかったかのように消え去った。
 そのかわり、敷地には何十人の人々が現れた。失踪し、段ボールとして格納されていた町の住人たちだ。UDC組織が簡単に調べたところ、命に別状はないらしい。
 ひとまずは搬送の用意を、と猟兵たちが待機する最中――。
「ワンワンッ!」
 犬の鳴き声が割り込む。
 猟兵やUDC職員たちの間をすり抜け、避難させていたクロがコンビニがあった敷地に入ってくる。まっすぐに走るクロは、まるで決め打ちしていたかのように一人の女性の元へ辿り着いた。
 ぺろぺろとクロが彼女の顔を舐める。他の住民が起きない中で、彼女はふっと目を覚ました。
「クロ……? あれ、私……たしかコンビニに入って……」
 混濁する記憶を巻き戻しながら身を起こす。
 近くに座った黒柴の頭を撫で、彼女は猟兵たちを見た。
「何……えっと、この人たちが助けてくれた……? あ、ええっと……ありがとうございます」
 わけもわからぬまま礼を言って、また目を瞑る。
「よくわからないけど……今日からは、眠れそうです……」
 それから、すーすーと安堵した顔で眠りについた。

 奇妙な町を巡る、奇怪な事件。
 おそらくまた何もなかったかのように、きっと日々は過ぎていく。
 けれど空き地に建った石塔が、証人として町には残るだろう。

最終結果:成功

完成日:2023年12月12日


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#UDCアース


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
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 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は佐藤・和鏡子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト