GGO・ビルダーズ・クエスト
──空高く頭上に、円環に連なる浮島をいただく街があった。
その街の中心に仰々しく聳えるのは、枝先の果ても見えないトネリコの大樹。
大地と空を繋ぐ架け橋と共に生まれたこの街は、プレイヤーとNPCが行き交う度に賑わいを重ね、この
世界に新たな
歴史を紡ぐ──筈だった。
●
「バグシティ…バグプロコトルによって破壊された街の通称だよ。普通のプレイヤーさんやゲーム内のNPCさんは、立ち入り出来ないくらい壊滅状態になってるみたい」
グリモアベースに集まった猟兵たちへ、布都御魂・アヤメは沈鬱な面持ちで言葉を紡ぐ。
大樹のバグシティ──街としての有り様も、その名前すらも
脅威の前に削り果て、浮島の膝下にあるのは機能を失った廃墟と【バグシティ】の通称があるばかり。
広大なワールドのGGOにおいて拠点となる街がなければ、プレイヤーもNPCもこの世界での活動区域を狭めることとなる。
バグプロコトルの群れを放置し続ければバグシティは数を増し続け、この広い世界が危ぶまれてしまう事にもなりかねないだろう。
「そうなる前に、助けてあげなくちゃいけないよね!」
アヤメは両手の拳を握りしめて顔を上げる。ここに集まっているのは、グリモア猟兵の呼び掛けに答えてくれた正義の猟兵たちだ。改めずともその心は決まっている。ひとつ大きく頷いたアヤメはぐるりと見渡してから、大きく息を吸って言葉を続ける。
「まずは、みんなにバグプロコトルを倒して欲しいんだ。ボクが視たのは、大きなイカ型モンスターだよ。目がチカチカ光ってたんだけど…仲間同士で喋ってるのかな。単純な連携攻撃もしかけてくるみたい」
大きさはこれくらい!とアヤメは両手を広げ、上下に動かしながら飛び跳ねる。具体的とはとても言い難いが、猟兵たちの思うイカよりよほど巨大なことは間違いない。たかがイカとは侮らずに戦うのが良いだろう。
「全部倒せたら、そのまま街の事もなんとかしてあげて欲しいんだ。プレイヤーさんもNPCさんも居ないから、放置したら他のモンスターの住処になっちゃいそうなんだよ…」
脅威を取り除き場所を取り戻しても、誰かが廃墟を街に変えていかなければ、拠点にはなりようもない。だからこそ、猟兵たちの出番はまだまだ終わらない。
「街に必要なのは家だけど、あんまり知識がなくても大丈夫!GGOの世界には建築とかアイテム合成とか、クラフトのシステムがあるから、素材さえあればパパッと一瞬で作れちゃうよ!好きにクラフトしちゃっていいよ!」
住む場所さえあれば、訪れたプレイヤーは疲れた体を休める事ができるし、NPCは定住もできる。人が住む場所が街になる──それは、この世界でも当たり前のことだ。
そして勿論、住居の他にも何か機能のある建築をすれば、街の発展に貢献できるだろう。
自由度の高い
GGOだからこそ、なんでもあり。創意工夫を試すのも一興だ。そしてその為に必要なのは、膨大な量の素材となるだろう。
「素材は現地調達になるけど…街の上の浮島には素材が豊富だし、バグプロコトルのドロップアイテムも使えるんじゃないかな?」
その辺りはお任せ!とアヤメは笑顔を浮かべる。雑にも思える締めくくりは信頼ゆえだ。この場に集まってくれた猟兵ならばきっと、失われた街を取り戻せることだろう。
「みんななら、きっと大丈夫!全部倒して、街を修復してあげてね!」
笑顔を浮かべてアヤメは握りこぶしを突き出す。猟兵たちはひとりひとりゴツンと拳を合わせた。
後ノ塵
後ノ塵です。はじめまして、あるいはこんにちは。GGOでバグシティを復興する三章構成のシナリオとなります。
一章は集団戦です。廃墟の街に跋扈する陸生の巨大イカ、ラングスクイード達を残らず一掃していきましょう。
イカといえど陸生、陸生であれどイカです。目の点滅など簡単なサインで、連携攻撃もしかけてくるのでお気をつけて。
二章は冒険です。建築やアイテム合成によって街を修復する…その為には、素材が必須!
上空に浮かぶ島々では、上質の素材がドロップするようです。集めて街の復興に勤しみましょう。高所からの落下にはお気を付けて。
街としての機能を充実させるのか、それともいっそ、何か街の目玉になるものをクラフトするのかは、貴方次第です。
三章は日常です。
頑張った成果が実を結び、NPCたちも徐々に戻ってきた事で、街が無事に修復されました。
となれば、復興パーティーです!
皆でめいっぱい盛り上がれば、更に噂を呼び人を呼び、街は賑わっていくでしょう。思い思いに楽しみましょう。
皆様のプレイングお待ちしております。奮ってご参加のほど、どうぞよろしくお願いします。
第1章 集団戦
『ラングスクイード』
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POW : スクイッド・スロー
掴んだ対象を【烏賊】属性の【触腕】で投げ飛ばす。敵の攻撃時等、いかなる状態でも掴めば発動可能。
SPD : スクイード・スピン
自分の体を【墨を吐きながら高速回転】させる攻撃で、近接範囲内の全員にダメージと【盲目】の状態異常を与える。
WIZ : スパイニー・テンタクル
対象の【胴体】を【棘の生えた触腕】で締め上げる。解除されるまで互いに行動不能&対象に【貫通】属性の継続ダメージ。
👑11
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冠をいただく大樹の下で、長い腕が幾重にも這いずっている。
それは草を踏み荒らし枝を手折り、触腕状の脚で進み行く。触腕が飲み込むように抱きしめているのは、家屋だろうか。この世界にありふれた見た目の建造物は、見るも無残に拉げている。
抱擁がほんの少し強まって、板の屋根は乾いた悲鳴をあげると、そのまま呆気なく割れてしまった。傾き倒れる体躯はレンガの壁を圧し潰し、音を立てて崩れるそこには土埃が舞い上がる。
凄惨な破壊が行われているというのに──声を上げる者は既にいない。
街を襲い廃墟とし、我がものと言わんばかりに跋扈するバグプロコトル──ラングスクイードたちは、その寄り集まった瞳を明滅させる。その明滅は原始的なサインに過ぎない。されど、解する者にとっては充分な言葉だろう。
ずるりと這いずるように、しかし器用に歩くように、ラングスクイードの群れは長い腕を蠢かし──無数の瞳は、静かに明滅を繰り返していた。
フリル・インレアン
ふええ、せっかく眺めもよさそうな街の筈がこうなってしまうのは残念です。
まずはバグプロトコルさんを倒してしまいましょう。
ふえ?おかしいですね?
ゲームの中の筈なのに、イカさんの臭いでいっぱいです。
ゲームの中だけど、私達は生身だから当然って、それは嫌ですね。
掴まったら臭いがついてしまいそうです。
ふえ?そうなったら、しばらく距離をおくって、アヒルさんなんでもう遠ざかっているんですか!
こうなったら、ふええ劇場です。
ここなら一般の方はいない筈ですので、妖精さんに変身して攻撃を躱してフォースフライパンで攻撃です。
よく整備されていても、通る者がいなければ寂れるもの。寂しい街道へふわりと降り立つのは大きな帽子のフリル・インレアンとアヒルさんだ。
帽子のつばを両手で摘みながら息を付き、大樹へ振り向くとフリルは溜息を吐いた。
街道の先では大樹が高く空を目指しており、何か冒険を思わせる。フリルの目の前に広がるのはそんな、壮大な景観の一端だ。
けれど、その大樹の下では破壊された建物があるばかりか、這いずる大きな腕がチラリチラリと主張している。
「ふええ…せっかく眺めもよさそうな街の筈が、こうなってしまうのは残念です」
街を取り戻すにもまずはバグプロコトルを倒してから。警戒を絶やさぬままに、フリルは軽快に街道を進んでいく。
「ふえ?おかしいですね?」
そうして街の入り口へ辿り着き、崩れかけた壁に身を潜めて様子を伺うフリルの鼻孔をくすぐるのは、塩気を帯びた強いアンモニア臭──所謂、イカのニオイである。
イカは体内のアンモニアで浮力を得るという。イカモンスターが大型になればなるほど臭いのは当たり前の…ように思えども、それはあくまでも
現実の話。ここはあくまでも
仮想の中だ。
「ゲームの中の筈なのに、イカさんの臭いでいっぱいです」
ラングスクイードの設定が「そういうもの」だとしても
GGOは
仮想世界。視覚と聴覚はアウトプットされた情報に準じようとも、嗅覚のことともなればどうにも不思議な話だ。
そうしてしきりに首を傾げるフリルの──その頭に向かって、さっそくクチバシを取り出すのは彼女のアヒル型ガジェット、アヒルさんだ。
キツツキのようにフリルを突きながら、アヒルさんが主張するのはこの
GGOが
異世界であること。生身でこの世界へ訪れる猟兵たちにとっては、ここは紛れもなく現実になるのだ。
アヒルさんの言葉にフリルは大きく。ならば臭いを感じるのも当然のことだろう。となれば次に、フリルには大きな懸念が浮かび上がる。
「それは嫌ですね…掴まったら臭いがついてしまいそうです」
眉尻を下げてフリルはふえ、と息を吐く。街の外へも漏れ出しそうな程に、充満しているアンモニア臭は──とにかく臭い。近付くだけでも億劫になりそうなのに、チラリと見えたあの長い腕に捕まったらお洋服にも帽子にも、すっかりイカ臭さがしみついてしまいそうだった。
そうなったら、どうしよう?なんていらぬ心配だ。アヒルさんはフリルの不安にクチバシを大きく上下させて頷くと──そのままダッシュ!
「そうなったら、しばらく距離をおくって…アヒルさんなんでもう遠ざかっているんですか!」
早々に距離を置こうとする薄情なアヒルさんにフリルは頬を膨らませるが、そんなことを言ってもアヒルさんの進行方向は街の中心へと向かっている。フリルも猟兵、出遅れるわけにはいかないし、イカの臭さに屈している場合でもない。
「こうなったら、ふええ劇場です!」
片手を空へ掲げユーベルコードを発動すれば、フリルは光に包まれ小さな妖精さんに変身する。一般人に決して見られてはいけない姿だけれど、誰もいないからこそ心置きなく戦える。
サイキックエナジーで輝く大きなフライパンを携えて、フリルはピュンっとひとっ飛び。先行したアヒルさんがラングスクイードの胴体へ体当たりすると、今度はフリルが密集した目玉にフライパンの底を叩き付ける。
バチン!と大きな音がして、ラングスクイードは反撃に触腕を大きく振り上げた…かと思えば、そのまま力尽きサッと白く染まっていった。
いわゆるイカチョップとも呼ばれる締め方は、ラングスクイードにも効果的らしい。確かな手ごたえを感じたフリルとアヒルさんは、華麗な連携で次々にイカにチョップをきめていく。
白く倒れるイカが増えれば、いかにラングスクイードとて怒り狂ってくるものだ。ユーベルコードで反撃すべく触腕を伸ばしてくるが、捕まらなければ問題なし!妖精フリルは素早く飛び交い攪乱して、輝くフライパンを振り上げる。
ひとしきりチョップし終われば、すっかり純白の山が出来上がり。額を拭ってひと息つけども、街を取り戻す戦いはまだ始まったばかりだ。フリルとアヒルさんは顔を見合わせ頷くと、次のイカへと向かっていった。
大成功
🔵🔵🔵
アンネリーゼ・サラティム
此方のエリアでの活動を円滑とするには、この街の復興は必須事項、ですね。
では、早速バグプロトコルの排除を開始しましょう。
充分に敵との距離を取った上で、マテリアライズ・ガトリングでの【弾幕】を張り攻撃していきます。
叶う限り触手の届かない間合いを保ちつつ戦いますが、そう上手くはいかないでしょう。
そこで、空間情報改竄:焦熱空間形成。
わたしの周囲をぐるりと囲む形で発火空間を形成、触手を伸ばしてきた敵を燃やしてしまいます。
此方が放つ弾丸にも炎を纏わせ威力増加が見込めるかと。
建物に火がついてしまった時は、速やかに消去を行います。
以後の復興の礎となり得る建物かもしれませんし。
「此方のエリアでの活動を円滑とするには、この街の復興は必須事項、ですね」
アンネリーゼ・サラティムは大きな瞳をゆっくりと瞬かせて、辺りを確かめるように見渡しながら、バクシティへ踏み入れる。
一歩進めば早々に、ラングスクイードの黒い腕がぞろりと這い出すが、アンネリーゼは鋭く察知し距離を取る。
いつもと変わらぬその表情はどこか緩く見えようとも、気持ちを引き締めた彼女の動きは、いつになく機敏なものだ。
「では、早速バグプロトコルの排除を開始しましょう」
そうしてアンネリーゼが取り出すのはマテリアライズ・ガトリング。細腕には一見荷が勝ちすぎる重武装に見えれども、物質情報を改竄してある軽量装備だ。アンネリーゼは軽々と取り回してわずかに腰を落とすと、ラングスクイードの腕がこちらに向かって飛び出すその寸前に、素早く制圧射撃を開始する。
連続する発砲音にラングスクイードの腕が弾け、身が吹き飛ぶ。──その破壊の音は勿論、周囲のバグプロコトルを引き寄せるもの。
ひと気のない廃墟のバグシティで、ざわりと蠢き迫るのは脅威の気配。伸びてこようとする新たな腕を素早く察知すると、アンネリーゼは惜しみなく弾幕を広げていく。──弾数は半無限、弾切れの心配は必要ない。
銃身を大きく左右に振りながら分厚い弾幕を張り、なるべく近寄られぬよう間合いを保つが、相手はイカといえど多少の知性も持ち合わせている。
集まったラングスクイードたちの瞳が一斉に点滅すれば、今度は一転して整った動きを見せる。仲間がやられていく隙間を縫いながら、そして倒れゆくその屍を盾にしながら、ずるりと伸びる無数の触腕は波打ちながら大きく左右に展開する。
弾幕を広げれば広げるほど、穴は開く。その僅かな穴を穿つように、鋭く伸びる黒い腕。毒々しい発光色の棘がアンネリーゼの眼下に迫り──そうして、じゅわりと音を立てて焼き尽くされた。
「迂闊に侵入なさらないようご注意ください」
アンネリーゼの周囲をぐるりと囲うように、形成されているのはユーベルコードによる焦熱の発火空間。触れた黒い腕は一瞬で焼き切れて、焼け焦げたイカはたたらを踏んで後退る。
己らの身から唐突に溢れ出した炎に、声もなく震え上がるラングスクイードたち。だが、アンネリーゼのマシンガンがその勢いを止めることはない。
──放つ弾丸が発火空間を通り過ぎれば、弾は炎を纏い延焼する。
銃身を更に左右へ振りながら、薄く広げた弾幕は穴だらけ──その弾が掠るだけでも、ラングスクイードは次々にその身を焼いていく。瞳を点滅させるイカ達は思わぬ痛手に混乱し、既に統率を失っている。単純な殲滅戦ほど簡単なもの…アンネリーゼは挙動不審のイカの群れを次々に撃ち抜き燃やしてゆく。
逃げ惑うラングスクイードの延焼からか、或いは外れた弾からか…発火は時折この街の建物を焼き焦がすが、アンネリーゼはそれらを目敏く見つけて足座に消火する。
「……以後の復興の礎となり得る建物かもしれませんから」
既に破壊されていたとて、既にあるものも重要な素材足り得る。なるべく狙いを外さぬようにしながら、やむを得ない延焼は確実に消火して。
確かな仕事ぶりで押し寄せる一波を退けたアンネリーゼはガトリングを下ろし息を吐く。
周囲一帯に見えるのは廃墟と、こんがりと焼け焦げた蜂の巣状のイカの姿──なんとなく、香ばしい匂いが漂ってきそうだった。
大成功
🔵🔵🔵
ティルライト・ナハトギフト
……まぁ
イカが陸を歩いていても不思議ではないわね
どちらかというと何でこんなに真っ黒なのかしら?
それでイカは無理があるんじゃないの?
さて
捕まると完全に不利ね
足場をしっかり確認
フットワークで回避&距離を取りつつ
一気呵成に攻めるわ
回避しつつ、イカを纏めるように誘導
集まったところで【ポイズンスラッシュ】!!
AGI型近接を舐めてもらっては困るわね
といってもこの数が相手だと捕まりそう……というか捕まるわよね普通に考えて
痛っ、くっ、ちょっと……!
女の子の扱い方が雑なんじゃないの……!
紙装甲なんだから!
付き合ってられないわ
脱出はスノウチャクラムで触腕を斬り裂いて
後はすかさず【ポイズンスラッシュ】を叩き込むわよ
廃墟の街──バグシティ。ラングスクイードの黒い触腕の蠢きを眼下に収めながら、涼やかに立っているティルライト・ナハトギフトはその瞳に冷やかな色を乗せる。
「……まぁ」
そのほとんどが崩れ壊され剥がれかけた、屋根の上。不安定な足場をものともせずに、佇むティルライトはため息混じりの吐息を零す。
「イカが陸を歩いていても不思議ではないわね。……どちらかというと何でこんなに真っ黒なのかしら?それでイカは無理があるんじゃないの?」
なにせここは
仮想の世界だし、現実世界にはイカやタコなどは陸上に進出する説すらあるもの。その辺りから膨らませた設定と言われたら、陸を歩くイカがゲーム内に存在することに不思議はない──だからこそ、と言うべきか。ラングスクイードの体色は如何せん受け入れがたいカラーリングと言うものだった。
元来、イカといえば鮮度の良いものは透明である。色が濃くてもせいぜいが赤褐色をしているものだ。眼下に蠢くイカは少々黒過ぎて、突拍子もなく思えるのだった。
しかし、何はともあれイカと言うならばイカなのだ。ティルライトはもう一度だけため息を溢してから廃屋から飛び降りると、音も立てずに大地へ降り立つ。いつの間にか取り出していたスノウチャクラムを構えると、大地を蹴ってラングスクイードの前へと飛び出す。イカはイカだし──バグプロコトルは、バグプロコトルだ。
疾風のように駆けるティルライトに向かって伸びゆくのは幾つもの黒い腕。捕まるのは不利、であればティルライトの選ぶ手はフットワークを活かした一気呵成の攻撃だ。
チャクラムを投げてタゲ取りの一撃を当てると即座に退避。外敵を察知したラングスクイードは次々に腕を突き出すが、ティルライトは動き続けることで狙いを定めさせず、回避し続けイカの群れを翻弄する。
「AGI型近接を舐めてもらっては困るわね」
いかに陸生であろうとも、ティルライトの流動的な動きにまんまと流されれば、あとは誘導されるだけ。イカの群れたちは知らずのうちに、青い風の作る渦の中だ。
ティルライトの口の端がほんの僅かに上を向いた。鋭く伸びた触腕の攻撃を僅かな動きで回避すると、そのまま上を伝って駆ける。胸の前に構えるチャクラムはユーベルコードの輝きを帯びている──放射状に放たれる斬撃は毒属性。集めたラングスクイードの胴体へ、ポイズンスラッシュを食らわせれば、ドス黒いイカの体表はあっという間に毒の色へと染まりゆく。
泡ならぬ、墨をふいて倒れるラングスクイードたち。一度で終われば良かったが、とはいえこの場には敵の数が多すぎるもの──それもある程度は、覚悟の上だ。
倒れゆくラングスクイードの背後から伸びる、幾つもの新たな触腕。ティルライトを囲むイカの瞳は、信号のように激しく明滅している。一波退けた外敵への警戒の現れなのか、数が明らかに増している上に統率が見て取れた。
先程とは打って変わった連携攻撃にティルライトは退避を強いられる。跳ねるようなステップで回避すれども、回避の隙を狙われてしまえば、いよいよ避けきれずに触腕に捕縛される。
「痛っ、くっ、ちょっと……!女の子の扱い方が雑なんじゃないの……!」
装備を貫通する棘の痛みに、ティルライトは思わず顔を歪める。胴体を締め上げ拘束するのはユーベルコードの力、ティルライトは行動不能だ。じりじりと近寄る他のイカたちが振り上げる黒い腕に…彼女はしかし、大きなため息をはいた。
「付き合ってられないわ」
その言葉と共に──大きく弧を描き戻ってくるのは、捕まる直前に放っておいたスノウチャクラム。雪色の戦輪は触腕を切り裂きティルライトを解放すると、彼女の手元へ収まった。
「こっちは紙装甲なんだから!」
青き疾風が再び舞い上がり、ユーベルコードの斬撃が再び開花する。ティルライトはイカの胴を蹴って駆け回り、片っ端からポイズンスラッシュを叩き込む。蠢く触腕は再び連携攻撃を仕掛けてくるが、何のことはない。
一度見たイカの連携攻撃なんて──ただの初見殺しに過ぎないのだから。
大成功
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月隠・三日月
この世界のイカは私の知っているイカとはずいぶん違うね。大きいし地面を歩いてるしなんだか凶暴そうだし。
ともあれ、オブリビオン――バグプロトコルをのさばらせておくわけにはいかないね。
墨を吐くのは普通のイカと同じなのだね、盲目の状態異常で周りが見えなくなるのは困るな。【妖刀自動起動・呪詛返】で状態異常は反射したいね。ダメージまでは反射できないからできれば攻撃を躱したいけれど、範囲攻撃だから難しいかな。まあ、多少の負傷はいいとして、敵を斬ることに集中しよう(【捨て身の一撃】)
盲目の状態異常を反射できれば敵は周りが見えなくなるだろうし、連携攻撃も防げるかな。敵の隙をみて妖刀で【切断】したいね。
一閃。鋭い一刀に切り裂かれた黒い胴体が、ずるりと滑って落ちていく。
──バグプロコトルの群れが蠢くバクシティに、新たに降り立つ影がひとつ。
「この世界のイカは、私の知っているイカとはずいぶん違うね」
月隠・三日月は変わらぬ温和な微笑みの中に、どこか感心のような色を滲ませて、緊張のない声を吐き出す。
どこか場違いなほど柔らかな佇まいは一見隙するとだらけ。ともなれば、うねりを上げて迫るのはラングスクイードたちの黒い腕だ。棘だらけの黒い触腕を次々に振り上げて、鞭のようにしなりながら外敵へ向かってゆく。
迫りくる攻撃にも三日月は笑みを絶やさず、僅かな動きで回避すると、瞬時に間合いを詰めてまた一閃。
一体、二体と、胴体を分かたれたラングスクイードは着々と増えていく。
──そうして倒れる仲間を見咎めれば、警戒を高めるのはバグプロコトルとて自然の流れだ。
ラングスクイードの一体がその瞳を点滅させると、他の仲間が距離を取った。振り上げた腕を大きく左右に振るい、他の足を軸にそのまま独楽のように回転し始める、その身に宿すのはユーベルコードの力。そして周囲に飛び散る飛沫は、食らえば盲目となろう黒い墨。
「おっと、墨を吐くのは普通のイカと同じなのだね」
見知ったイカとの思わぬ共通点に三日月は驚くも、接近する高速回転に素早く距離を取る。墨で周りが見えなくなるのは少々困るもの。とはいえ周囲のイカたちは三日月を逃すつもりがないらしい。三日月の退路を断つべく群れは素早く円状に展開して、彼と独楽を包囲する。
縦横無尽に動き回るラングスクイードは、回転しながらも仲間の瞳から発される信号で、的確に三日月を追ってくる。このままジワジワと削るつもりであるならば、イカにしては随分賢い知能を持っているのだろう。
ならば、その知能と状態異常を使わせてもらうまでだ。狭い円の中で逃げに徹していた三日月は土を踏み締め方向転換すると、今度は外周のラングスクイードに向かって駆けてゆく。
多少の負傷は覚悟の上。そして盲目は三日月にとっては、取るに足らぬ状態異常だ。
三日月が外周に近付けば、一点突破を警戒して円は狭まり、独楽も三日月の背中を追ってくる。ぐっと狭まる円の中、逃げ場のなくなった三日月はそのまま独楽に向かって地面を蹴った。
飛び散る墨が目を晦ませて、しなる触腕と棘が三日月を引き裂く──否。
「呪を以て呪を制す、ってね」
三日月は薄い笑みを浮かべながら、墨を浴びた瞼を開く。その黒曜の瞳の輝きは曇ってはいない。
妖刀自動起動・呪詛返──その身に宿す呪いが、盲目を反射する。寸前で視覚を失い狙いの逸れた触腕の棘は、それでも三日月の体を掠めて肉を割いた。だが、彼が止まることはない。
捨て身の一撃で狙うのは、腕ではなく足。回転の軸を切り落とせば独楽は傾き、盲目となったラングスクイードは標を失いまんまと暴走する。
撒き散らされる墨は他のイカたちへ飛び散り、そのユーベルコードは遺憾なく発揮される。盲目の墨に、信号を失えば──連携などできよう筈もない。
視覚を失い伝達手段を失って、混乱の中のラングスクイードたち。三日月は浴びた墨を軽く拭って、隙だらけの黒いイカたちをあっさりと切断していった。
大成功
🔵🔵🔵
ローザ・ドランケル
(飛んでくる)
噂になってたのはこのエリアかの
街を廃墟にして回られるとこっちのダンジョンの運営にも問題が出てくるんじゃ
バグイカは処分じゃ、処分
ドラゴンっちゅーのは割と狡猾での、近接攻撃型には遠距離で責めるもんじゃ
ブレスで一掃してもいいんじゃが、復興するのにこれ以上壊すわけにもいかんしの
代わりに雷で焼きイカにしていこうかの
飛行しながら目標地点に急行して通り過ぎながら雷を落とすヒット&アウェイ方式で駆逐していくぞい
後で何かに使えるかもしれんしの、討ち漏らしの探索も兼ねて巡回しながらドロップアイテムは回収しておくのじゃ
街の復興だけじゃなくて諸々の運営にも
お金が掛るもんなんじゃ
──奪還戦の渦中となった大樹の街へ、飛来する影がある。
鳥ではなく、しかしモンスターでもなく。長い髪と尾をなびかせるのは、ひとりのドラゴンプロコトルだ。
ローザ・ドランケルは街の上で静止すると、廃墟の街を改めるようにゆっくりと見下ろした。
「噂になってたのはこのエリアかの…街を廃墟にして回られると、こっちのダンジョンの運営にも問題が出てくるんじゃ」
どこか
疲れ気味な雰囲気をその表情に覗かせながら、ため息混じりに吐き出すその言葉もまた、気怠げだ。
ダンジョン運営に何かと忙しく働きがちであるのは、ドラゴンプロコトルの『あるある』だが、それは勿論ローザも例に洩れず。このようにバグプロコトルに破壊されたバグシティなどは当然、運営の障害となる目の上のタンコブだった。
「バグイカは処分じゃ、処分」
ローザは鼻を鳴らし黒い触腕が跋扈する街へ滑空していく。先行した猟兵の手によってバグイカの数は減っていようとも、それでもまだまだ多いもの。
おもむろに開いた口から溢れるブレスを──ローザはカチンと噛み締め、触腕の届かぬ高さでホバリングする。ローザのブレスは申し分ない火力の範囲攻撃ではあるが、その分街への被害も甚大となる。モンスターを各個撃破したい──そんな場面でも、適切な対処手段を持っているのが狡猾なドラゴンというものだ。
「復興するのに、これ以上壊すわけにもいかんからの」
そう言いながら、ローザは揚々と翼を広げる。ひとつ大きく羽ばたくと両翼はバチリと音を立て、その羽ばたきは雷鳴となる。
「さばきのいかづちじゃ」
ローザはほんの僅かな笑みを溢すと、ラングスクイードの群れへと向かって急降下した。目にも止まらぬ速さで街を、イカを通り過ぎるそのすれ違いざまに、
幾重にも枝分かれした雷が次々とイカの胴体を射抜いて焼いてゆく。
突然の襲撃者にラングスクイードたちの瞳が激しく点滅する。ユーベルコードの力をその見に宿し、墨を吐きながら高速回転し反撃に打って出るが──空を急行するドラゴン相手には、ナンセンスな攻撃だ。
急旋回で回避し圧倒的なスピードで通り過ぎるローザの前に、イカの触腕はあっさりと空を切り、追尾する雷鳴が降り注ぐ。時に、からくも避ける姑息なイカが居たとて、やはり問題はない。雷はラングスクイードをイカ焼きにするまで追尾していくのだから。
──雷鳴の速さで、あっという間に街を一周したローザは、始めに降下した場所へと戻り息つく。
静かになった廃墟の街を見渡すその目に映るのは、数え切れないほどの巨大イカのこんがり丸焼き。そしてその側に落ちているのはもちろん、ラングスクイードのドロップアイテムだ。
ローザはおもむろにひとつ拾って、己のインベントリに格納する。モンスターのドロップアイテムには素材として使えるものもあれば、そうでないものもある。しかしどちらにせよ、換金すれば
お金になるもの。拾っておくのに損はない。
「街の復興だけじゃなくて、諸々の運営にも
お金が掛るもんなんじゃ」
管理に運営に維持にと、ダンジョンのやりくりに追われるドラゴンプロコトルなればこそ、ひとつもロストさせる理由はない。
一帯のアイテムの回収を済ませたローザは、空へ飛び立たずにその足で廃墟を進みながら、注意深く周囲を見渡す。ドロップアイテムの回収は勿論のこと、ラングスクイードの討ち漏らしがいては後の障害となる。一匹とて逃してはおけぬものだ。
残党の探索にドロップアイテムの回収に──何かと忙しいドラゴンプロコトルは、ダンジョンの外でも勿論、忙しいものだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『浮島アスレチックの攻略』
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POW : 勢いで浮島を跳び移っていく。
SPD : 道具を使って確実に移動する。
WIZ : 空を飛べる魔法でひとっ飛び!
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バグプロコトルを殲滅し、ようやく街を取り戻した猟兵たち。残されたのはラングスクイードのドロップアイテムと、閑散とした廃墟の街。
脅威は去れど、街としての機能は未だ失ったまま…なればこそ、
建築に取り掛からなければ!
しかし、瓦礫を
再利用するだけでは、クラフトの素材にはとても足りないだろう。誰ともなしに猟兵たちは此度のドロップアイテムを改める。
…【ラングスクイードの墨壺】【ラングスクイードの皮】【ラングスクイードの軟骨】【ラングスクイードの目玉】【ラングスクイードの身】【ラングスクイードの足】…もはやいくつかは、素材と呼ぶよりも食材とも呼べる代物かもしれないが、これ程の大きさともなると膨大な量である。
何か使える素材はあるだろうか…とはいえ、街をひとつ作るとなるとまだまだ心許ないだろう。
ともなれば、と猟兵たちは空を見上げる。
──ゴッドゲームオンラインには時に、島々が上空に発生している場所が点在する。
そしてそれは、この街の遥か上空にも存在している。地上からの外敵に脅かされないが故に、独自の生態系が構成されており、そうしたところにはいつだって上質な資源が眠っているものだった。
──つまるところ、素材の楽園である。
空を見上げて雲の隙間に見える幾つもの島影がある。…そこに辿り着く事はできない言わせないのが、
この世界でのお約束だ。
街の中心にそびえ立つのは、寄り集まってひとつになったトネリコの大樹。うろのように開いた空間を見つけた猟兵たちは、大樹の内部へと足を踏み入れ、螺旋の階段を見つける。
他に目ぼしいものはない。ここが入り口なのだと囁く直感に誘われて、猟兵たちは歩みを進める。
空へ辿り着くとは思えぬほどの階段を、ほんの十数段上がり切り──開けた出口に見えるのは遥か空に浮かぶ島々の、鮮やかな光景。
ぐるりと見渡せば島々には豊かな森があり、遠景には小さくも涼やかな滝が覗いている。木もあれば石もあり、資材集めに困りはしない。きっと存分に新たな街を描けるだろう。
ローザ・ドランケル
うむ、ここならば街の復興の資材集めにはピッタリじゃろうな
生態系を破壊しない程度に切り取ってもらっていくとするかの
わしが素材採取係で、呼び出した配下のドラゴン達に運搬と街づくりを任せようかの
家とかの建造物は木材で、屋根はイカの皮で撥水を持たせたりとかできんじゃろうか
墨壺は看板に目玉は通信とかに使えんかの
石材は石畳とか水路の舗装とか、必要であれば城壁みたいなものに使えばよいじゃろう
浮島攻略の中継地点になるじゃろうから、宿屋や武器防具屋に食事処も充実しとかんんといかんしの、ベットに武具に調理器具みたいな小物用に布とか綿に金属類も準備しておいた方がよいかの
街の運営というのも大忙しじゃ
月隠・三日月
少し階段を上がっただけで上空の島に着くとは驚いたね。空間がゆがんでいるのかな?
とりあえず家は必要だよね。あとは店……今は人がいないから貸店舗かな? 商売ができる場所があるといいかもね。
この世界はクラフト? ができるのだったね。作る工程がないなんて風情が無いようにも思うけれど、こういう時には便利だね。
建築に必要な素材は……木とか石とか、かな? 木は【紅椿一輪】で切り倒して、石は手ごろな大きさのものを持っていけばいいかな。石は切り出すのもありだね。
種族柄力はあるから、多少素材が重くても運べるけれど(【怪力】)……できれば簡単に運搬したいな。何だっけ、いんべんとり? そういうのが使えたら使いたいね。
ついでに見つけた手頃な石を一か所に集めつつ、岩場を見付ければ石を切り出してみる。今度は切った岩が何故か切れておらず、脇には切り出された石が並んでいた。
リアリティのない演出に時折首を傾げながら、そうして集まった資材は山とは言わぬが小山ほど。街づくりに充分とは言えずとも、そろそろ運ばなければ手間取る量だ。
三日月の種族柄、力はあるのだが如何せん腕は一対しかない。そしてあいにく、手持ちのアイテムに縄はない。代わりに蔦でも探そうかと周囲を見渡せば、上空で風を切る音がした──かと思えば、風はすぐさま舞い戻り三日月の前へと降り立った。木々を揺らしながら降り立つのは、僅かに首を傾げたローザだ。
「何をしとるのじゃ」
「資材をまとめる為に、蔓を探していたんだ。縄でも良いのだけれど」
「インベントリに入れたらいいじゃろう」
「いんべんとり?」
「こうじゃ」
ローザの仕草に倣えば三日月の目の前には、ぽんと軽快な音を立てて半透明の
画面が出現する。
三日月が驚きながらもう一度ローザを見ながら再び仕草を倣えば、周囲の資材が一瞬で格納される。あれ程あった小山は消え去り、浮かび上がった画面には、すっかり木材と石材が収まっていた。
「簡単に運搬できるんだね。ありがとう」
「……ん、いや、待っ──」
便利な世界に感心しながら、三日月は勢い良く飛び石のような浮島へ飛び移る。資材集めには道なりに進んでいたが、身一つで戻るだけなら飛び移って行くのが速い。
去り際に、ローザが話しかけてきた気がしたが、振り返ればひらひらと手を振っていた。何も問題はないらしい。手を振り返して、三日月は街へと戻って行った。
──去ってゆく三日月の背中を見つめるローザが、呆気に取られていたのだとは、誰も知る由もない。
「所持重量は見た目によらんの…」
三日月が街へ戻れば、ドラゴンたちは既に作業に取り掛かっているようだった。運んだ石材で手際よく割れた石畳を敷き直し、木造の家を
建築していく。
「この世界はクラフト? ができるのだったね」
その様子に三日月が思い出すのは
この世界の仕組み。クラフトによる建築は文字通り一瞬の事で、作る工程がないなんて風情が無いようにも思えども、こういう時にはやはり便利なものだ。
三日月も見様見真似で、建築作業に参加する。場所を決めたら建物のパーツ選択を繰り返す単純作業だ。やって見れば思いの外簡単で、複雑ではないからこそ、直感的な組み立てによって家の形は簡単に作られていく。
家々が並び始め、街の形がいくらか見えてくれば、ローザも再び街へ降りてくる。大まかな部分ができれば、次は細かい部分を詰めて行きたい所だ。ローザは街の運営を念頭に置いて頭を捻らせる。
「ダンジョン攻略の中継地点になるじゃろうから、大樹の近辺は宿屋や武器防具屋に食事処に…となると水路はこの辺りになるかの」
木材と墨壺を合成して看板を作ると、それぞれの建設予定地へと設置してゆく。街の設備を充実させるべく奮闘する。街の運営というのも大忙しだ。
そうして徐々に街の建築が進み行き──空っぽの住宅地と、貸店舗の区画が出来上がると、まだまだがらんどうと言えども、街の大まかな形と
市場の姿も見えてくるものだ。
ふと街道へ向かう遠景を見れば、街へ走り寄る荷馬車が一つ。街へと辿り着いたとたん、小太りの男が降りてくる。
「おお!街が開放されたと聞いてきてみれば、こんなにも立派な市場があるとは!失礼、わたくしは商人でございます。」
良いタイミングで現れた彼は、勿論このゲームのNPCだ。市場をぐるりと見て回り、猟兵たちに一礼すると、再び荷馬車に乗り去っていく。市場があれば行商人が訪れる──そうして物流が回れば、
人の営みも始まっていくだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふええ、クラフトですか。
建築って、たくさん素材を使うって聞いたことがありますよ。
材料は足りているんですか?
ふえ?ここは『それはまるでチートのような、とんでもない魔法』の出番って、私はそのユーベルコードは使えませんよ。
それに魔法じゃなくて才能じゃなかったですか?
ふえ!?どんな素材も一晩で用意してしまうNPCさんのような魔法があるじゃないって、まさかアヒルさん内職の魔法のことを言っているんですか?
アレ、どこにも一瞬で用意するって書いてないんですよ。
あとはよろしくって、偽物でも大丈夫なんですか?アヒルさーん!!
「ふええ、材料が足りてないです」
減り続ける資材を前に、フリル・インレアンは消え入りそうな声で弱音を吐いた。
現実であれば
人が生えてくるようなことはなかろうが、GGOはあくまでもゲームである。街づくりシミレーションゲームというのは家の数だけ人が増えるし、家がなくとも勝手に人が増えるもの。時に、GGOもまた然り。
猟兵たちの手によって、復興を始めた大樹の街──ほんの一晩明けただけでも、この街にはどこからともなくNPCの移住者がやってきていた。
未だ復興途中であれど、人口はこのまま増加し続け、ある程度の段階までは続いていくことになるだろう。
そしてこういう時に
人々が欲しがるものは、家だけでもないものだ。
「家具が壊れちゃったの」
「商売をしたいんだけど、物がなくてなあ」
「生活水準、もっと上げられない?」
「ふええ」
そんな
理不尽な要求もまた、一種の
お使いである。いずれ一般のプレイヤーが解決していくものだとしても、今はまだまだプレイヤーが足りないし、人口が増えていけばこの手の要求はどんどん増えていく懸念もある。材料確保はとにもかくにも急務であった。
猟兵は割と何でもできるが、何でもするにも
適切な手段があればこそ。NPCの要求に目を回すフリルはそんな手段を持っていない──とは、アヒルさんが言わせない。
アヒルさんはなんとなくドヤ顔で胸を張り、あれがあるじゃないと言わんばかりに一つのユーベルコードをフリルに示す。
「ふえ?ここは『それはまるでチートのような、とんでもない魔法』の出番って、私はそのユーベルコードは使えませんよ。それに魔法じゃなくて才能じゃなかったですか?」
フリルがしきりにクエスチョンマークを頭に浮かべても、アヒルさんは何のその。引き続きドヤ顔で胸を張る。いやいや、似たようなユーベルコードはフリルだって持っている、と。
「ふえ!?どんな素材も一晩で用意してしまうNPCさんのような魔法があるじゃないって、まさかアヒルさん内職の魔法のことを言っているんですか?」
出し惜しみしてる場合じゃない!とでも言わんばかりに突いて催促するのは、フリルのユーベルコード、地道にコツコツと作る内職の魔法だ。実物を模した偽物を作るユーベルコードだが、何故か大量に物を作った場合のみ極めて精巧になるという代物だ。
「アレ、どこにも一瞬で用意するって書いてないんですよ」
しかしそのユーベルコードに、一晩で事を済ます事実はない。そしてそうなってくると、苦労するのは勿論フリルだけである。
「偽物でも大丈夫なんですか?アヒルさーん!!」
フリルの言葉もなんのその。あとはよろしくと片翼を振って、てってと走って去ってゆくアヒルさん。遠ざかる背中は残念ながら振り向いてはくれないが、真っ直ぐ大樹に向かって行くので手伝ってくれないわけではないのだろう。
「ふええ…やるしかありません」
フリルは意を決してアヒルさんの背中を追いかける。模倣するには実物、つまり材料が必要だ。アヒルさんの背中を追いかけ浮島を駆けるフリルが、ちょっぴりスリリングな体験をする羽目になったのは…アヒルさんだけが知っている。
…かくして、フリルは材料を入手した!
「ふええ」
「ふ、ふえぇ…」
「ふええ!!」
街へ戻ったフリルは時々悲鳴をあげながら、ユーベルコードを駆使して大量の複製品を作り上げ。ぐったりしたフリルを突くアヒルさんが居たとか──居ないとか。
成功
🔵🔵🔴
アンネリーゼ・サラティム
次は街の再建ですね。
然し流石に人手が必要となることですので、まずはその確保の方を。
物質情報再構成:擬似住民生成。
これで以てこの世界の冒険者の皆さんの模倣体を召喚し、素材採取クエストの依頼という形で素材を集めてきてもらいます。
わたしは街の再建にあたりましょう。
瓦礫や集めてもらった素材に対し、構成情報への【ハッキング】をかけて【分解】からの再構築(【拠点構築】)という手順にて建物や内装を作成していきます。
デザインは、この地域の一般的なものに合わせるか、先に再建に取り掛かった猟兵の皆さんに合わせましょう。
後は、住民の皆さんを呼ばないとですが…
これは実際のギルドに募集を打った方が良いですかね。
大樹の麓で──街の再建が進みゆく。
猟兵たちの活躍により、がらんどうの街には着実に住居が増え、出入りするNPCがやってくる。復興は着実に歩を進め、しかしそれでも完全復興には遠いもの。住居はまだまだ足りないし、定住する
住民も…この街が滞りなく運用される人数に達するには随分と遠いだろう。資材に建築に、人手はとにかく足りやしない。
アンネリーゼ・サラティムは、そんな「足りないものだらけ」のこの街をぐるりと一回り。出来上がっている区画、着工途中の区画、まだ手付かずの区画…それらの足りない不足を把握すると、さっそく行動開始する。
「まずは、人手の確保の方を」
まだ装飾の整っていない大樹正面の広場へ向かったアンネリーゼが、発動するのはユーベルコード──物質情報再構成:擬似住民生成。
「…当該世界の知的生物情報、ダウンロード完了。任意情報の入力を完了、複製、展開──起動します」
アンネリーゼの声と共に、ユーベルコードは空間を震わせエフェクトを輝かせる。広場に召喚されたのは、この世界の
冒険者の模倣体だ。
「こちらが今回のクエスト内容です」
空を見上げ大樹を見上げ、アンネリーゼが示すのは素材採取クエストの依頼だ。冒険者たちに手渡すのは、必要素材をリストアップしたスクロール。早期納品、余剰納品での報酬ボーナスも明記されているともなれば、冒険者の
やる気も奮い立つもの。
冒険者たちは誰ともなしに大声を出して腕を突き上げると、隊列を組んで順々に大樹へ向かう。
「よろしくお願いします」
後ろ姿を見送るアンネリーゼは、感情の乏しいその表情に、朗らかな笑みを浮かべて一礼した。
「さて、街の再建にあたりましょう」
そうしていよいよ素材が集まれば、アンネリーゼの復興作業のスタートだ。
街の各所に散らばる瓦礫を前に、アンネリーゼは集めてもらった素材を並べると、構成情報へのハッキングをかける。分解──そして、そのまま瞬時に再構築。クラフトとは一味違う拠点構築は建物も内装も一挙に作成する。
早速出来上がった一軒家のデザインは、
この世界にありふれた一般的な構造物だ。アンネリーゼはおもむろに木製の扉の取っ手を捻る。建付けは滑らかで、中には想定通り生活必需品が一式揃っている。建物も内装も、新たな生活環境として十二分のものが仕上がった。
一軒出来上がったならば、あとは単純作業の繰り返しだ。同じ手順で住居を作り続け、アンネリーゼはあっという間に住宅街の一画を完成させる。
「後は、住民の皆さんを呼ばないとですが…」
空っぽの住宅街前に、アンネリーゼはひとり呟く。今は空き家でも、この街の住民は緩やかに増え続けるだろう。とはいえ、住民がなるべく早く居着けばそれだけ、街としての機能の復活──復興は早まるというものだった。
「実際のギルドに募集を打った方が良いですかね」
そうと決まれば次に取り掛かることは一つ、冒険者ギルドの建築だ。
次にアンネリーゼが、緩やかな歩みで真っ直ぐ向かうのは、街の中心部となるであろう大樹正面の広場だ。街道へ繋がる大通りのその一等地。
廃墟と資材を糧に先ほどと同じ手順で瞬く間に建築するのは、この世界にありふれた、そして見慣れた外観の冒険者ギルドだ。
アンネリーゼは緩んだいつものその表情に、仄かな微笑みを浮かべて扉を開く。
ギルドの職員さんの仕事ぶりは、ここからが本領発揮だ。
成功
🔵🔵🔴
第3章 日常
『パーティタイム!』
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POW : ひたすら飲食を楽しむ
SPD : 料理を作ったり買ってきたりする
WIZ : 芸を披露する
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猟兵たちがこの地へ訪れ、はや一週間。急速に建て直された街並みは屋根を増やす度にその賑わいを取り戻し、あっという間に人口も
容量一杯までに膨れ上がった。
まだまだ至らぬ部分もあろうとも、需要も供給も回り出した大樹の街は、これから先も発展していくこととなるだろう…ならば、と
誰かが声をあげる。
「それじゃあ──復興祭の開催だ!」
思い付きに始まって、あれよこれよ話はまとまり──瞬く間に街中に伝播して、ほんの数日で祭りの準備は整った。そうして祭りの当日を迎え、ガーランドで飾られた大樹の大広場。そこに集うのは、なにも街の
住民だけではない。
未踏破のダンジョンのすぐ傍に、修復された街があるらしい…そんな噂を聞きつけやってくるのは
冒険者たちに、祭りを聞きつけた耳ざとい
行商人たち。こぞって街へ訪れた彼らは、あっという間に祭りの活気に飲み込まれていく。
猟兵たちが訪れたばかりの頃の、閑散とした廃墟の姿はもう面影すら残っていない。すっかり活気を取り戻した大樹の街──このお祭りを遠巻きにしてしまうのはもったいない!
出店の通りを歩けば、感謝の言葉と共に何かと振る舞って貰うこともあるだろう。時に強引に思えどもトリリオンの心配は不要だ、何せ猟兵たちの働きを、この街の
住民たちは誰よりも良く知っているのだから。
しかしここまで規模の大きな祭りともなれば、時に人手が足りないこともある。手を貸して料理の腕を振って見せるのも、材料のお使いに奮闘するのもまた一興。ダンジョンへ足を運ぶこともないともなれば、ごく気軽なお使いだ。
或いは、立ち並ぶ店を離れて、広場の中心まで足を運ぶのも良いだろう。そこでは何故か、突発的に始まったレクリエーションが開催されている。種目不問、飛び入り歓迎。乱入して何か披露できれば、祭りは一層の盛り上がりを見せるだろう。
猟兵たちが思い思いに過ごす時間を、この街は大いに歓迎してくれるだろう。
…──空高く頭上に、円環に連なる浮島をいただく街がある。
その街の中心に仰々しく聳えるのは、枝先の果ても見えないトネリコの大樹。
大地と空を繋ぐ架け橋と共に生まれたこの街は、
大いなる脅威に破壊の限りを尽くされた。ひとたび壊れた大樹の街はされど、猟兵たちの手によって再びその息を吹き返した。
プレイヤーとNPCが行き交う度に賑わいを重ね、この
世界に新たな
歴史を紡いで行く。
ローザ・ドランケル
働きづめよりは偶には休息も必要じゃな
そういう時間に色々閃いたりするもんでもあるしの
酒を飲みながら摘みでも頼んで……って、この様子だとバグイカの足とか身とかも祭り料理になってそうじゃな
まあ倒して素材となった今では影響もないじゃろ
破壊と再生は世の常だしの、破壊の限りを尽くした奴らもまた新たな営みの礎となったんじゃろうな、うん、中々美味いの
それと酒の席では商人の紐も少しは緩んで商談も弾むんじゃないじゃろうか
ちょっと街の再建で余った資材とかバグイカの食べれん部分の素材とかを売ってトリリオンをちょっと稼いでおくかの
なに、浮島を攻略する為の商品として扱えば商人も冒険者も潤って、win-winじゃろ?
破壊尽くされ、閑散としていた廃墟は跡形もなく。今この街に満ち溢れているのは、いっそ騒々しいほどの祭りの活気。
ローザ・ドランケルはそんな賑わいの中、綺麗に敷き詰められた石畳の上を、のんびりと歩いていた。
巨大イカのバグプロコトルとの戦闘から街の復興にと、大樹の元へきてからというもの、ローザはすっかり働き詰めだった。何かと忙しく過ごしているドラゴンプロコトルにとっては、特別珍しくもない日常ではあるが、それでもやはり偶には休息も必要というもの。
「そういう時間に色々閃いたりするもんでもあるしの」
なにせダンジョン運営にはアイディアも必須となれば、休息を遠ざける理由はない。
すっかり猟兵たちの手を離れたこの街を、ひと通り回ったローザは満足そうに頷き、その場でくるりと方向転換。気ままな歩みが次に向かう場所は、イカ墨で描かれた看板が並ぶ酒場街だ。
昼は食事を、夜は酒を──そんな場所にも今日ばかりは祭りの気配。
看板の下の軒先にはこぞって出店が並び連ね、行き交う人々の空腹をあの手この手で捌いていた。
この辺なら食べ歩きにはもってこいだし、飲食の為に設えられたスペースだってある。さてどうするか…などとローザが悩む暇はない。なにせ、ローザの姿を見つけた住人は次々に、あっと声を上げるのだから。
「ローザさん!ご飯食べに来たの?」
「そんなところじゃ」
「なんだ、また働いてんのか?」
「今日は祭りじゃろう。偶にはわしも休むんじゃ」
「ハハハ、そりゃそうか!それじゃ旨いもん食ってもらわないとな!」
「いーっぱいお礼するからね!何にする?」
「酒と摘みでも頼もうかの」
あれよこれよと飲食スペースへ誘われたローザの前に並ぶのは、色とりどりの酒と摘みの数々だ。杯はその場に居合わせたNPCやプレイヤーにも配られて、即興の宴会場となる。
「復興に、乾杯!」
「ローザさんたちに、かんぱーい!」
一緒に杯を掲げる者の中には事情を知らぬ者たちも居ようが、お祭り騒ぎの中で細かいことを気にする者はいない。
ローザもまた気兼ねなく休息を楽しむべく──グラスを傾けて、近くにあったナッツをパクリ。昼間から酒を楽しむのは、大人の休息の嗜みである。酒場の喧騒を肴に酒を楽しめば、彼女の
疲れ気味な雰囲気もゆるもうもの。
今度は果実をパクリと一口、再びグラスを傾け酒精と共に流し込む。空のグラスはもちろん、すぐさま満たされるし、摘みは減るどころか増える一方だ。
酒と摘みに舌鼓を打つローザだが、その
品ぞろえを見ていればちょっとした懸念が頭を過るもの。
酒等の加工品は他所からの輸入品、ナッツや果実は浮島由来だ。街は大きくなっていても、この街の産業はまだまだお察しだ。食事の
種類は行商人を頼りにしているだろう。
しかしそれでは
お金がかかるもの──祭りは儲かってこそである。
「この様子だとバグイカの足とか身とかも祭り料理になってそうじゃな」
手っ取り早く儲ける方法は想像に難くない。そしてローザの懸念通り、それは颯爽と運ばれてくる。
「出来立て熱々、イカの香草焼きだよー!」
ずいっと差し出された皿に鎮座するのは、格子に切り目が入った大振りな白身。よく焼かれた身は程よく焦げ目がついており、食べ易いように一口サイズに切られている。
見た目はごく普通に美味しそうな料理に仕上がっているものの…材料はどう考えてもバグプロコトル。とはいえ、ドロップアイテムがバグってはいなかったことは、ローザもその目で確認済みである。
「まあ倒して素材となった今では影響もないじゃろ」
破壊と再生は世の常、GGOの常だ。破壊の限りを尽くしたバグプロコトルとて、倒されればまた新たな営みの礎となるもの。ローザは躊躇うことなく一口パクリ。弾力のある身は良く味が染みており、噛み締めれば
香草の香りが口の中に広がっていく。
「うん、中々美味いの」
何気ないローザの言葉と微笑みに、新たな
摘みを運んできたNPCも笑みを浮かべ、その後ろでは別のNPCがこっそりとガッツポーズ。…街を救った
英雄も絶賛!などと銘打てば、売り上げも期待できるだろう。
──イカを摘まむ合間にも、ローザの前にはNPCたちが代わる代わる現れては、復興の祝いと感謝を告げていく。顔の知れた者には、いつだって来客は多いもの。
「これはこれは、ローザ様!」
「おお、あの時の」
そうして次にローザの前へ現れたのは、見覚えのある小太りの商人だ。
「ルメースにございます。復興祭と聞きまして、慌てて参ったのでございます」
「勤勉じゃの」
「ホホ、ローザ様ほどではございません。とはいえ…やはり祭りというのは楽しいものでございましょう」
「そうじゃな。商人の紐も少しは緩んで商談も弾むんじゃないじゃろうか」
グラスを交わしながら、ローザの穿った言葉にも商人は顔色一つ変えずに微笑むばかり。本心がどこにあるとしても、ローザにとっては丁度良いタイミングである。
「ここに余った資材とかバグイカの食べれん部分の素材とかがあるんじゃな」
「ほほう?」
インベントリからそそっと見せるのは使い切れなかった余り物だ。目玉などは通信アイテムの
合成に使えるのではなかろうか…ローザが耳打ちすれば、目の前の商人はピクリと片眉を上げた。
「せっかくじゃ、ちょーっと色を付けれんかの。なに、浮島を攻略する為の商品として扱えば商人も冒険者も潤って、win-winじゃろ?」
「…ホホ、ローザ様もお人が悪い」
そうして賑やかな祭りの裏で、ひっそりと──ささやかな商談は弾んでゆく。
何、心配することはない。暗い話はひとつとてないのだから。
ただ少しだけ、とあるドラゴンプロコトルの懐が温もった、というだけだ。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふええ、久しぶりに太陽を見た気がします。
アヒルギルドの要請で日夜、内職の魔法で材料の複製をし続けてたから外に出る機会がありませんでした。
今日は何故かアヒルギルドの方からのお仕事が無かったのですが……。
ここ、どこですか?
いつの間に、こんなに大きく発展していたんですか!
それにお祭りなんて聞いてないですよ!!
だから、アヒルギルド長さんが今日はお休みにしてたんですね!
アヒルギルド長さん一人で遊びに出かけるなんてズルいです。
私も休暇を楽しみます!!
祭りに騒ぐ街の中。賑わいから少し離れた細い路地の先、
小さな住居の扉が開く──。
「ふええ、久しぶりに太陽を見た気がします」
まるで扉から這い出るように、いささかぐったりとした姿で現れるのはフリル・インレアンだ。すっかり高く昇った太陽を見上げて、フリルは眩しそうに目を細める。
いったいいつから姿を消していたのやら…
個人ギルドで昼夜を問わず、内職の魔法で材料の複製をし続けていた彼女は、あれから外に出る事もなく働き続けていたのだった。
だからこそ、フリルは本日も変わらぬ労働が待っている…と思っていたのだが、
アヒルギルド長は、今日に限って何故か不在。
「今日は何故かアヒルギルドの方からのお仕事が無かったのですが……」
どこを探しても見つからないと、彼女が開いた扉は玄関だった。眩しい太陽の日差しと、路地の向こうの喧騒に導かれるように、フリルは緩慢な歩みで、恐る恐る進みゆく。
「ここ、どこですか?」
そうして見慣れぬ路地から大通りに辿り着いたフリルは、見たこともない街の姿に唖然とする。見慣れぬのも仕方がない。なにせアヒルギルドが出来たばかりの頃は、この辺はまだまだ更地だったのだから。
周囲に見えるのは真新しい家ばかり。そして目の前を行き交うのは、以前は見たこともない程の人だかり。
いつの間にこんな大きく発展していたのかと──驚き困惑するフリルの耳には更に、衝撃の事実も飛び込んでくる。
「ねえ、どこ行く?」
「まずは腹ごなしかな〜」
「広場でもなんかやるらしいよ」
「せっかくの復興祭だし、全部楽しまなきゃな!」
「…ふええっ!?お祭りなんて聞いてないですよ!!」
寝耳に水とはこの事だ。街の発展も復興も知らされてないし、お祭りなんてもっての外。通り過ぎてゆく人々の雑談によって与えられた新たな情報は、フリルの脳裏にひらめきを導く。
「あ…っ!だから、アヒルギルド長さんが今日はお休みにしてたんですね!」
お祭りと知ればアヒルギルド長さんの不在も、アヒルギルドのお休みも合点がいくというものだ。フリルは思わず体を震わせうつむき──しかし、顔を上げたフリルの表情に浮かぶのは憤慨だった。
だって、フリルはこれまで頑張って働いていたのだから。フリルだって休暇が欲しいし、お祭りがあるなら楽しみたい!
「アヒルギルド長さん一人で遊びに出かけるなんてズルいです。私も休暇を楽しみます!!」
空へ浮かぶ浮島へ向かって勢い良く拳を突き上げて、彼女が描くのは素敵な休暇。お祭りを目一杯楽しむべく、フリルは大通りを駆け出した──。
「どうしてこうなっちゃったんですか!?」
──しかして、フリルの意気込みはジュージューと音を立てる熱々鉄板の前に、今、呆気なく打ち砕かれていた。
「イカスミ焼きそば、追加で三人前ー!」
「ふ、ふええっ」
「ピリ辛は六人前お願いしまーす!」
「ふえええっ!」
悲しいかな、お祭りの人混みに押し流された果てに、アヒルギルド長…ならぬ
アヒル料理長に見つかったのが、本日のフリルの運の付き。
そのまま出張アヒルレストランの出店に引っ張ってこられたフリルは、急遽お料理スタッフとしてヘラを大いに振るっていた。…ちなみに、アヒル料理長は遊びに出掛けている。
お昼時のピークともなれば、何がなんでも人手が欲しいもの。雇われNPCたちに泣き付かれたフリルが逃げられよう筈もなく。
「助かります、フリルさん!」
「ふえ、こんな筈じゃなかったのですが…」
「あはは…すみません。お客さんがハケたら何とか私達で回せると思うので…!」
「うう…っわかりました!」
しかしそうは言っても好評であればあるほど、人の列はなかなか途切れないものである。フリルの料理
技能が功を奏し、出店にはよりいっそう長蛇の列を形成してしまっていた。
途切れることのない客足に、なんなら材料も全然足りないので、昨日まで散々使い続けたユーベルコードだって本日もフル活用だ。内職の魔法で材料を複製しながら、ヘラを振るって絶品焼きそばを作り上げ、フリルは見事なダブルタスクで注文を処理していく。
「すみません…!十人前追加で…!」
「ふえええー!」
焼きそばのその美味しさと、料理を巧みにさばく手腕を絶賛する声が聞こえてくることが、せめてもの救いになる…のだろうか。
通り過ぎる人々がお祭りを楽しむ姿を目の前に──アヒルギルド以上の忙しさに見舞われながら、フリルのお祭りは過ぎてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
月隠・三日月
復興祭か。こういった祭りは神を祀るものではないのだよね、それは知っているよ。
でも、あの大樹、飾りがつけらているんだよねえ。実は御神木だったりするのかな……?
ともあれ、街が活気を取り戻してよかったよ。なんだか感慨深いね。
広場の中心の方が賑やかだし、私はそちらに行ってみようかな。
へえ、皆芸を披露して楽しんでいるのだね。色々な方がいて面白いなあ。
せっかくのお祭りだし、私も何か披露しようかな。といっても、できる芸は剣舞くらいなのだけれど(【ダンス】)
あの大樹が御神木だったら、奉納剣舞ということになるのかな?
使うのが妖刀で悪いけれど、周囲に悪影響は与えないから大目に見てほしいな。見た目は普通の刀だしね。
バグプロコトルに破壊尽くされた廃墟から、見事に復興を遂げた大樹の街。かつての活気を取り戻し…復興を祝う祭りに浮かれた様子は、街を見渡せば面白いように見て取れる。
そこら中を飾られた街の中でも一際目立たせられているのは、この街のシンボルである大樹であろう。カラフルなガーランドで飾られた大樹を見上げて、月隠・三日月は不思議そうな顔を浮かべる。
「実は御神木だったりするのかな……?」
復興祭と銘打たれているこの祭りは、街と人のための祝いの祭りだ。神を祀るものではないとは三日月ももちろん知っているのだが、目の前の光景──例えばそう、幹へぐるぐると巻きつけられたカラフルなガーランドなどに、三日月はついつい注連縄と御神木を連想してしまうのだった。
どこかおかしな親近感も湧き上がる光景とはいえ、街が活気を取り戻したのはこの街へ関わった猟兵にとっても幸いなことである。三日月は穏やかな微笑みを浮かべると、ゆっくりと賑わいの中を巡っていく。
「なんだか感慨深いね」
はじめこそ、どこか風情がないように思えたこの世界の
建築作業だったが、かつては空っぽだった家々に、人が住まう様子はやはり感慨深い想いを抱かせる。時にそれが、
同じような建築になっていたとしてもだ。
三日月の視界に映るのは、双子以上に
そっくりの家が、二つならず三つ四つとずらりと並ぶ様子だ。
この世界ならではの光景であれど、それでいてそこに住まう人々には他の世界と大きく差はない。祭りに浮かれ楽しむ姿は皆一様に、それぞれ楽しそうな姿だ。
賑やかな街の中を見て回り、より一層の賑やかさに心を惹かれれば、三日月の足が自然と赴くのは街の広場だ。
人だかりの中心に大きく場所を開けただけのそこは、突発的に始まったレクリエーションの会場。舞台はないが、ここも立派な路上ステージである。
「へえ、皆芸を披露して楽しんでいるのだね。色々な方がいて面白いなあ」
路上ステージはジャグリングに始まり、玉乗りやパントマイムなどの大道芸で、広場は大盛り上がりを見せている。三日月も人だかりに混ざって見物すると、彼らの芸に大きな拍手を送った。
しかし、誰から始めたものではない特別ステージだからこそ、ここに決まりきった
演目はない。素人も玄人も入り交じる楽しげなレクリエーションは、大きな輪を携えて小動物を引き連れた芸人が掃けると、次の演目はパタリと途絶えてしまった。
人はますます集まっているというのに、次に芸を見せてくれる者はいない。…期待にざわめく人だかりが、そのまま白けてしまうのも味気ないだろう。
「せっかくのお祭りだし、私も何か披露しようかな」
「お、兄ちゃんなんかやれんのか?いいねぇ!」
「ふふ、できる芸は剣舞くらいなのだけれどね」
「えー!超見たーい!頑張ってお兄さん!」
祭りの活気に浮かされるのはNPCもプレイヤーも、そして猟兵も変わらない。見知らぬ人々の応援を受け止めた三日月は、微笑みを返すとその場で高く跳躍する。そのまま空中で一回転。次の芸はまだかと待ちかねる広場のステージにその身を躍り出した。
三日月の軽快な登場に、人々が呆気に取られたのは一瞬のこと。広場に集まる人だかりは再びぱっと華やいだ。
「よっ待ってました!」
「ヒューヒュー!」
口笛を吹き鳴らし拍手が飛び交う円の中。鞘に手を伸ばしかけた三日月は、ふと大樹を見上げる。
「あの大樹が御神木だったら、奉納剣舞ということになるのかな?」
背後に佇むのはカラフルなガーランドで飾られた大樹。天空を目指す堂々たる姿はやはり、御神木のように厳かなものを感じさせる。…それが、祭りに浮かれた華やかな姿であったとしてもだ。
「使うのが妖刀で悪いけれど、周囲に悪影響は与えないから大目に見てほしいな」
どこか砕けた微笑みと囁きを溢して、三日月が取り出すのは見た目だけならば普通の刀。それでいてこの刀は、三日月の家に伝わる常ならざる妖刀ではあるが──周囲に悪影響などはないし、何よりこの樹は神体でもなく、神格化されているわけでもないものだ。きっと大目に見てくれるだろう。
三日月が鞘から刀を抜き払えば、祭りの喧騒が波を鎮めるように遠ざかる。
鋼の刃がゆるりと凪ぐ。たゆたう波のような穏やかな動きで手首を返し、再び鞘へ納める。
緩急を付けた流麗な踊りが、演じるのは大太刀周りだ。相対する幻影は──かつてこの街に蔓延った大烏賊の群れ。
迫る幻影に三日月は素早く足を引くと、刀を大きく振り払う。じわりじわりと追い詰められるように、後ろ足を引き円を描く。
──舞いの示す劣勢にいよいよ観客が息を呑む。顔を下げる三日月はされど、微笑みを浮かべて前を見た。
大きく踏み込み、ただ一閃。鋼が鋭く風を切る。
幻影の端を鮮やかに打ち払い、三日月の刀は動きを止めた。
鈴が転がる涼やかな音と共に、幻影を屠った切っ先を鞘へ収める。そうして剣舞を終えた三日月は、最後に大樹へ拝する。
この大樹が神であろうと、なかろうと。この大樹はこの街の生活を支えてゆき──人々もまた、大樹とこの街を守り継いでゆくのだろう。
くるりと振り向き笑顔を向ければ、静まり返っていた観客はワッと一斉に賑わい華やぐ。
三日月へ向かう歓声はしばし止まぬまま──復興を祝う祭りへ、鮮やかな彩りを添えていった。
大成功
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