秋深し 夜の帝都に 花咲くは 燃ゆる大輪 浴衣かな
旅団『蛇塚わくわく武闘派ファーム』の面々は、サクラミラージュの帝都で行われる「浴衣コンテスト2023」に参加するべく、現地で各自集合する運びとなった。
「浴衣コンテスト、キビは初めて仕立てて貰った一着を披露するよう!」
小雉子・吉備は雉の羽根を連想させる翠色したフリル付き浴衣を纏い、その上に白地に桃の絵柄の羽織を着込んではしゃいでいる。
夜の帝都の街灯と夜空に浮かぶ花火が、吉備の晴れ姿を祝福するかのように煌めく。
「サクラミラージュは、元々風流で雅だけど、夜の景色に花火までつくと……また違った赴きな風流さもあって、これもまた綺麗だよね」
その傍らで微笑む桃髪の少女こと蒼・霓虹。
一見すると彼女の浴衣は桃色に染め上げたシンプルさが目立つが、よく見てみると所々に中華風のデザインが施されていたり、浴衣の生地も光の反射で七色の輝きを放つ糸が織り込まれており、歩くたびにゴージャスな雰囲気を漂わせていた。
「雅な街並みに、咲き乱れる夜桜と花火、吉備ちゃんの言う通りでしょうか? そうですね、先ずは色々露店や屋台を見て回ってみましょうか。何かツマミも見付かるでしょうし。例えば、さんが焼きとか?」
『霓虹さん、あれこれ欲張って食べ過ぎるのは厳禁ですし……というか、さんが焼きの屋台は多分ないと思った方が良いですよ』
相棒の猟機人・彩虹(戦車龍形態)が霓虹を背にしてツッコミを入れた。
これに吉備はクスクスと笑いを堪えている。
「露店や屋台巡りかぁ……にしても、此処でさんが焼きが出てくるのは霓虹ちゃんらしいや、ってあれは?」
吉備はふと空に打ち上がった花火を見上げると、思わず目を凝らしたのだった。
アルジェン・カームもまた、相棒のプルートーに女物の浴衣を着させて帯同させている。
「此処がサクラミラージュですか。なんとも不思議な街並みですね?」
シンプルな濃紺の生地に縦縞模様が入った浴衣姿に、同じ色のセンスを広げて夜空に花咲く花火を見上げる。
初めての帝都の街並みは、エンドブレイカー出身のアルジェンにとって見目新しく新鮮であった。
「シルバーレイン世界の日本文化には慣れたつもりでしたが……此処も随分発展しているのですね。そしてここでも花火はあるのですね?」
「何だか大正時代の街並みっぽいね!」
プルートーは黒地に百合の花があしらわれた浴衣を纏い、上機嫌に雪駄のままアルジェンの周りを跳ね回る。
なお、プルートーは男の娘である。
「ねね、ボクの浴衣、似合ってる? 初めて作ったけど、どうかな?」
その場でクルクル回ってお披露目するプルートー。もうこれで何度目だろうか。
だがアルジェンはそれを無碍にせず、笑顔を湛えて賛美した。
「ええ、よく似合ってますよ、ぷっさん。僕も浴衣を始めて作りましたが、我ながら気にってますよ」
「アルジェン、かっこいいよ! って、みんなは何処かな?」
プルートーがキョロキョロ帝都の大通りを見渡していると、一際大きな花火が夜空に打ち上がった。
轟音と共に七色の火花の大輪を咲かせる帝都の夜空。
そこに金色の浴衣姿の女性が、天女のように宙を舞っていた。
「とーちゃーくっ!」
農園旅団の主、蛇塚 レモンだ。広げた番傘でふわりと歩道へ降り立つ姿は実に神秘的である。
レモンは自身の強力な霊力から編み出された念動力で自身の身体を浮かせて、大通りの真向かいから路面電車の上を飛び越えてきたのだ。
この登場を目の当たりにした周囲の農園メンバーは、徐々にレモンの元へ集まってきた。
「わぁーっ! レモンちゃん大胆っ! しかも花火をバックに登場って、絵になるよね。浴衣の色合いも手伝って素敵だよう! それに念の使い方にそういうのもあるんだね?」
吉備がニコニコする横で、霓虹は何やら逡巡する。
「確かに、空中での挙動と力場が働いた様な感じを受けましたね、念の使い方に一長のあるレモンちゃんならではでしょうか……特撮効果的にも映えそうですねっ!」
『霓虹さん、悪い癖が出掛かっていますよ?』
相棒の特撮オタク熱が過熱する前に、彩虹はそれとなく宥めるのだった。
と、ここでアルジェンとプルートーも合流する。
「おーい! レモン! こっちこっち!」
「レモンさん、皆さんも。こちらでしたか」
手を振るプルートーと共にアルジェンもセンスを掲げて合図を送った。
レモンと吉備、そして霓虹達も気づき、路面電車が通過したタイミングで合流を果たす。
――その時だった。
「あ、見ろヘカテ! レモン達だぞー!」
「そのようですね? ほらテラ? 減速ですよ?」
「うん、わかってるぞー!」
赤と黒のツートーン生地の浴衣に山吹色の帯を締めたテラ・ウィンディアの小さな体が、帝都の夜を斬り裂きながら急降下してきたではないか。
相棒兼保護者のヘカテイアは黒い子猫の姿でテラの肩にしがみついている。
「こんばんわだぞ! レモン達もお祭り来たんだな! おれの浴衣も似合ってるだろ!」
新調した浴衣が気に入りすぎて、いつもよりテンションが高いテラである。
「テラさんがシューティングスター・エントリーっ!? 登場も浴衣もかっこいい~っ!」
レモンが驚きながらテラを褒めれば、他の面々も口々に感想を述べてゆく。
「流れ星かと思えば、双子エルフの妹さんのテラさんでしたか。猟兵の多くは空を飛べる方が多いのですね」
アルジェンは自然と遠くを眺めていた。
その昔、エンドブレイカー達は空を飛ぶ技術を習得するために大勢が崖から転落したらしい。
あの努力なしに気軽に空を飛ぶ猟兵が羨ましいアルジェンであった。
「テラちゃん達もっ、今の登場の仕方カッコいいよねっ! 浴衣も良く似合って素敵だよう!」
興奮する吉備。
「今のはイカした登場の仕方ですよねっ! わたし達も虹に乗りながら登場とかすれば魔法少女みたく――」
『霓虹さん、アホな事言っていないで他の農園メンバーを探しますよ』
「彩虹さん、最近私に冷たくないですか? って、他にも誰か来るんですか?」
しょげる霓虹の疑問に、彩虹は目からサーチレーダーを展開する。
『ええ、確かミーヤさんの声があそこから聞こえました』
レーダーが差し示す方角から、確かにミーヤの絶叫が聞こえてきた。
「んにゃーっ! レモンちゃん何処だにゃーっ!?」
ミーヤ・ロロルドは片手にチョコバナナとりんご飴と焼きイカ、もう片手にたこ焼き、焼きそば、焼きもろこしのパック3段重ねしながら帝都で迷子になっていた。
「屋台の美味しいものをついつい堪能してたら、ミーヤ、迷っちゃったのにゃーっ! レモンちゃーん!! みんなー!! どこにゃー!?」
朝顔柄のパステルブルーの浴衣姿のミーヤが涙目で必死に叫ぶ。
すると、路地の奥からズドドドッとまとまった人数が猛ダッシュでミーヤへ駆け寄ってきた。
「あっ! ミーヤちゃん発見っ! 確保ーっ!」
「「おーっ!」」
「えっ、ちょ、うにゃあ~~~~っ!?」
一瞬でレモン達に包囲されるミーヤ。
「「ワッショイ! ワッショイ!」」
お祭り騒ぎの農園メンバー。
そのまま勢いに任せてミーヤはエクストリーム合流を果たしてみせた。
「び、びっくりしたのにゃ。一瞬だけ残忍で凶悪なウォータ君が走って向かってくる幻覚が見えたにゃー」
「あはは……別に勝ち取りたいものはないし、ただミーヤちゃんの姿を見たらテンションが上がっただけだよ~っ!」
レモンは苦笑いを浮かべていた。
こうして、ようやく予定していたメンバーが全員揃ったので、農園メンバーは帝都の夜店巡りを開始した。
そこで自然な流れで話は『レモンの慰労』にまとまってゆく。
「レモンちゃんは先日戦争の予知、色々とお疲れ様でした。今夜は屋台グルメを満喫しましょう。さんが焼きとか?」
『だから、さんが焼きは売ってないですよ……』
霓虹のさんが焼き推しに彩虹も呆れてしまう。
吉備はレモンにビニール袋に入った品を差し出す。
「お疲れ様なレモンちゃんには、労う為にお団子屋台で霓虹ちゃんが見つけてきた、ラムネ餡の乗った串団子、デザートに良かったら、ラムネの舌触りの甘酸っぱさが堪らないよ。吉備の分はレモンちゃんと一緒に探したいかな?」
「ミーヤも一緒に美味しいものを食べに巡りたいにゃー! とりあえず、ミーヤの焼きイカをどうぞにゃ!!」
右手の焼きイカ串をレモンへ差し出すミーヤ。
アルジェンは微笑みながら最年長の余裕をみせる。
「エンドブレイカーの戦いではレモンさんも凄く頑張って貰いました。なので本来は僕自慢のアマツカグラ懐石料理を振舞いたいところですが……代わりに、本日は夜店巡りでレモンさんに癒されてもらいたいのです」
「アルジェンの言う通りだぞ! だが、癒しか……こういうの難しいなー!」
「テラ、そういう時は自分が癒されるものを提案するのもありですよ?」
ヘカテの助言を受けたテラは、じっと相棒の黒い子猫を見詰めている。
「……そうなると、おれはヘカテにゃんをレモンに差し出す事になっちゃうぞ?」
「待ってテラちゃん!?」
「てことでレモン! ヘカテを吸え!」
「に、にゃあぁ~ん……!」
覚悟を決めたヘカテを良かれと思って差し出すテラだが、レモンはいたたまれなくなったため丁重に断ったのだった。
こうして突発的に開催された『レモン慰安会』。
まずは、みんなで射的に興じる。
「ご飯の前に、射的にチャレンジしよう! そこだよう!」
吉備が見事にコルク弾で景品を撃ち落とせば、霓虹も挑戦する。
「戦闘では弾幕を展開してますので射撃の腕は自信ありますよ。すばり狙い撃ち、しちゃいましょうか」
意気揚々と照準を合わせ、引き金を絞った。
しかし、コルク弾は空気抵抗を受けやすく、狙い澄ましても弾道が思わぬ方向へ逸れてしまいがち。
見事に右へ大きく弾が逸れてゆくのを、霓虹は首を捻ってみせた。
『霓虹さん、珍しくノーコンでしたね』
「おかしいですね……時計スタンド、欲しかったです」
「霓虹は残念だったな! かくいうおれも射撃は得意じゃないが……」
テラはコルク銃を握るとヘカテへ尋ねた。
「こういう時は超重力弾を撃つんだが、いつもヘカテに頼ってられないからな!」
「テラ!? ここでグラビティ・ブラストはダメですよ!?」
ヘカテ曰く、テラの射撃=ユーベルコードの重力弾であった。
実弾の経験は乏しく、そのせいかコルク弾は景品の僅か左を掠めるに留まった。
「惜しい! ごめんヘカテ……本格的に射撃訓練しなきゃだなー」
「どんまいですよ、テラ?」
猫の手で頭を撫でられるテラだった。
そして真打登場、アルジェン。
「はい、いただきました」
澄ました顔で大きな招き猫の置物を吹っ飛ばしてみせる技量を見せつけ、農園メンバーから羨望の眼差しを一身に浴びる。
「アルジェン! ボクもやる!」
プルートーもはしゃぎながら挑戦することに。
小さな身体でやや身を乗り出した状態で引き金を引けば、見事に大きな鶏のぬいぐるみを入手してみせた。
「みんなーー! こっちに美味しそうな屋台がいっぱいあるにゃー!」
仲間が射撃に夢中になっている間、ミーヤは一足先に抜け出た霓虹と共に屋台メシの調査をしていた。
だが霓虹はがっくりと肩を落として戻ってきた。
「そんな……やはりといいますか……さんが焼きはおろか、たたっこ揚げすらないなんて」
『いや異世界の帝都にローカルフードの屋台がある方が奇妙ですって』
霓虹のローカルフード愛に、彩虹もミーヤも苦笑いで返すほかなかった。
そんなわけで、ここからは食べ歩きモードの農園メンバー達。
まず真っ先に吉備が指を差して声を上げた。
「明石焼きがあるよう! あっちにはお団子屋も! きびだんごが売ってるね!」
「こっちには太田焼きそばがある~っ!」
レモンも郷土のB級グルメの屋台を見て目を輝かせていた。
「な、何故ですっ? 明石焼きときびだんご、太田焼きそばがあって、さんが焼きがないのはっ!! むむ~ぅ!」
『もうそのくだり十分ですって……』
よっぽど千葉名物のさんが焼きに思い入れがあるらしい霓虹に、彩虹は溜息まじりに諫める。
「しかし太田焼きそばですか。これはまたノルスタシーな感じがしますが、ラムネかコーラと一緒に頂くとオツですね。ということで、予め彩虹さんの機体の中を魔法カードで冷やしておきまして、既に飲料類はキンキンに冷えてますよ」
霓虹の魔法カードこと虹水宝玉「ネオンアクアストライク」を出力を抑えたまま、彩虹をクーラーボックスとして活用していた。
農園メンバーは遠慮なく彩虹の機体に手を突っ込んで、ラムネやコーラで喉を潤し、屋台メシを堪能し始めた。
「あっちにベンチがあるにゃ! みんなで仲良くシェアしたいにゃーー!」
ミーヤはいつの間にか両手にそれぞれビニール袋を数袋ずつ持っていた。
もちろん、独りではとても食べきれない量だ、農園メンバー同士で一緒に食べたいとミーヤは申し出た。
「皆で同じものを食べて仲良くなるにゃ!」
「いいですね。ちょうど、僕もどこか落ち着ける場所はないかと探してました」
アルジェンはミーヤの提案に乗ると、他のメンバーも異議なしということで、全員ベンチのある公園の一画に陣取る事にした。
「じゃじゃーーんっ! いっぱい買ってきたにゃーー!! みんなとシェアして食べるのは、とってもとっても美味しいのにゃー!!」
ミーヤが密かに持ち込んできたレジャーシートを地面に広げて、買ってきた屋台メシを披露する。
焼きそば、たこ焼き、焼きもろこし、じゃがバター、フランクフルト、お好み焼き、焼き鳥、ホルモン焼き、イカ焼き、唐揚げ串などの食事系に、りんご飴、たい焼き、お団子、かき氷、チョコバナナなどの屋台スイーツ……まさにフルラインナップ!
「いただきまーすにゃーっ! ミーヤは……んーどれも美味しそうだから、とにかく全部なのにゃ!!」
「すごいぞ! 今夜の屋台メシを全制覇できるな!」
テラもお祭りの時に誰もが一度は夢見るイケナイ事を実現できるチャンスに、思わず顔が綻んだ。
こうして農園メンバー6人で屋台メシをシェア。
桜が舞い散る夜空に咲く花火を見上げながらの食事は、これまた格別である。
「焼きそばにラムネやコーラは、意外とピッタリですよ。私の持ってきたコーラは薄荷入りなので、濃いソースの焼きそばには特に良く合うので」
そのマリアージュに訝しがる農園メンバーの面々だったが。
『そう言えば、現世のスーパーに焼きそばに合うコーラなんてものも、一時期売られていましたね、ミントが入ってて』
彩虹が意外な豆知識を披露すれば、実際に農園メンバーは薄荷入りコーラの爽快感と焼きそばのマリアージュを試してみたりする。
反応はそれぞれだったが、存外悪くないというが一同の感想だった。
「まず、たこ焼きと焼きソバは定番だよねっ! キビもそこら辺をまず抑えなくっちゃって思うよ! 太田焼きそばは、ソースの絡んだ麺の色が濃くて、香ばしいね……ソースの甘さとコクが、シャキシャキなキャベツの甘さと合わさって、味も食感も美味しいね。明石焼きなんて、出汁の旨味とコクと一緒、フワフワしながら舌に溶けていくのは……堪らないねっ!」
吉備の食レポの技巧に、周りは思わず舌を巻くのだった。
ここで、アルジェンがずっと懐に抱えていた品をレモンへ差し出す。
「多忙なレモンさんへ、癒しのアロマをプレゼントします」
アルジェンが独自に香りを調合したというアロマは、レモンの香りをベースにラベンダーのエッセンスを混ぜた気品ある芳香である。
「レモンの香りには精神集中、胃腸改善等の効果が。ラベンダーはリラックス効果、疲れた時の疲労回復に効果があります。寝る前に使用してみてくださいね」
「ボクからもプレゼントがあるよ!」
プルートーもレモンへ封書と巾着に入ったナニカを送る。
「はい! クロムキャバリアの科学小国家ジャパニアが誇る湯の国グンマのクサツ温泉宿招待券と、その湯の花! ライムと一緒に時間があったらいくといいよ!」
「ふたりとも、ありがとうっ!」
思わぬ贈り物にレモンは紅と金のオッドアイを見開いて喜び驚く。
「実は俺も用意してるぞ! 黒猫型もふもふクッションだ! 凄いぞこれ! 猫のもふもふを再現した奇跡の枕だ!」
テラもヘカテの魔法で収納していた贈り物を空間から取り出して、レモンへ手渡す。
そのヘカテも何やら呪文を唱えている様子。
「……できました。貴女は二十歳を過ぎていましたよね……ならばこれを」
ユーベルコードで生成したのは、魔女の強壮薬と若返りの神酒ネクタルだ。
「一応、神の身ですので、これくらいは。しかし、某自称パティシエの作ったチョコとカカオ汁に何故か効能が劣るのは納得できません……あれって結局なんなのでしょうか……?」
ぐぎぎ、と黒猫は何かに苦悩している様子だ。
そうとは知らない吉備と霓虹は、レモンへの気遣いを称賛した。
「よかったねレモンちゃん、これでゆっくり骨を休めるねっ!」
「なるほど……妻帯者と聞いていましたけれど、アルジェンさんは出来る旦那さんですねっ! 奥さんも幸せ者なのでしょうね?」
「ええ、勿論ですとも! 僕の妻はですね、とても強くて美しく――」
霓虹の言葉を聞いたアルジェンは、ここからノロケモードへ突入。
エンドブレイカー時代の自身と妻の活躍を存分に語り出しはじめた。
「――というふうに、妻とはエンドブレイカー時代から共に戦ってきましたからね。忌まわしき俗物魔女は、当時は恐るべき強敵でした。そして今となってはあのエンドテイカーを捨てた此華咲夜若津姫の決断がどれ程の事か……僕にも分かる気がします」
その他にも、各都市国家でのエンドブレイカー達の活躍を語るアルジェン。
「最初は世界の瞳もありませんでしたから……エンドブレイカー達は都市に残ったり次の都市に旅立ったりと別れる事も多かったですね。今では都市国家も増えて、事件も比例して数多く起きているようですが……猟兵の皆さんが4~5人で解決してしまうのを見ると、当時を知るエンドブレイカーとしては衝撃的で驚きましたが……それだけ僕達が強くなったということですね。素晴らしい事です」
先のエンドブレイカー世界の戦争も、結局、土壇場で『11の怪物』の生き残り8体を全て葬り去った猟兵。
恐らく過去最強の存在と言っても間違いないだろう。
アルジェンの話にテラも興味津々の様子。
「おれは猟兵としての出身だから、アルジェンの話だけじゃなくて他の世界の冒険も興味ありまくりだぞ!」
「そういえばアマツカグラでは黒猫が神の使いとして扱われたとか? 中々に良い心懸けですね? 私は神そのものですがっ!」
黒い子猫がドヤ顔すれば、吉備がうんうんと頷く。
「七つの都市国家で濃度の濃い冒険を繰り広げてきたんだね? エンドブレイカーの世界も文化的に独特な感じするけど……色々あって、都市を守るために残ったり向かったり……あとアルジェンちゃんが奥さんがとラブラブだってわかったねっ! 子供もエンドブレイカーなら、そう言うのって、微笑ましくも心強いんだろうなぁ」
「まぁ、終焉ブレイカーな人達ですし、その冒険譚も濃度は凄いのでしょう。件の性悪な魔女も、能力自体はトンデモなチート性能でしたし……なので戦争の時は不完全なままでよかったです。まぁ、猟兵なら埒外のパワーで、エンドブレイカーよりも酷いことしてぶち抜きそうですけども?」
そんな考察をしてみせた霓虹は、連続で打ち上がるスターマインを見上げて、思わず叫んだ。
「花火も綺麗ですね、現世や幽世に負けないくらい、たーまーやぁーっ!」
「かーぎやーっ! サクラミの花火もきれいだねっ!」
「もう、吉備ちゃんはまだまだ子供っぽいですね、ふふっ」
実は師弟コンビである霓虹と吉備は、しばらく花火が打ち上がるたびに声を上げて喜んだ。
アルジェンは自身の世界を救えたから、今があると零しながら花火を見上げる。
「ふふ……こうして違う世界でも、こうした祭りと花火を楽しめる……とても素晴らしい事です」
「ああ! これからも世界を守ってこうな!」
テラは立ち上がって「やーまやー!」と叫んでいた。
皆が花火に夢中になっている間、レモンとミーヤは了承を得た上で輪の中から外れていった。
ミーヤはレモンと手を繋ぎながら、屋台が軒を連ねる通りを一緒に歩く。
「みんなでご飯シェアするのは楽しかったにゃ! けどみんなよく喋るにゃ~、ミーヤはレモンちゃんを独占できなかったにゃーっ!」
「あはは……、なかなか農園メンバーで遊びに行く事ってないからね~っ?」
レモンも道中でミーヤがなかなか前へ出てこない事を気に掛けていた。
で、思い切って二人で示し合わせて、しばしズッ友同士でデートする事になったのだ。
「せっかくだから、ミーヤもレモンちゃんに何かプレゼントしたいにゃ! どうせならお揃いの物がいいにゃーっ!! 何かないかにゃ~~?」
実は、ミーヤは先程の偵察で目ぼしい物を見繕っていた。
彼女はそのお目当ての物が売ってる屋台の前にレモンを連れて来るやいなや、その手を引いて藍色の瞳を輝かせた。
「ねえ、レモンちゃん、あのアクセサリー可愛いのにゃ!」
「ここって、手作りのアクセサリーを売ってるのかなっ?」
どこか異国情緒漂うテント風の屋台の中に、髪の長い女性が不敵に微笑んでいる。
「お嬢さん、お目が高い。こいつはアタシの自信作さ。この細かい金細工は並の職人じゃ真似できないさ」
ミーヤが興味を示した花を象った髪留めは、金属板をくり抜いて模様を作っている繊細な工芸品だ。
花弁のところに宝石が埋め込まれており、それでバラやウメやロウバイなどを表現している。
「金属板が網目状にくり抜いてあるんだね~っ! 全部お姉さんの手作りってすごいっ!」
レモンも思わずその細やかな仕事ぶりに目を奪われる。
ここでミーヤがレモンへ、黄色い睡蓮の花の髪留めを指差す。
「レモンちゃんはこれが似合いそうだにゃっ!」
「へぇ、黄色い睡蓮かい? そっちの子は『優しさ』に溢れた子なんだね?」
女店主曰く、黄色い睡蓮の花言葉が『優しさ』なんだとか。
これにレモンは白い朝顔の髪留めをミーヤへ贈りたいと申し出る。
「あのねっ? 白い朝顔の花言葉は『固い絆』なんだよっ!」
ミーヤの浴衣の柄に合わせた髪留めに、花言葉を交えてレモンなりの感謝を伝える。
これにミーヤは頬を赤く染め、上目遣いで口ごもる。
「レモンちゃん……これからもズッ友でいてほしいにゃ……っ!」
「うんっ! ミーヤちゃん、大好きっ!」
二人は友情を確かめ合うと、目の当たりにしていた女店主がくっくと笑う。
「見せつけられちまったねぇ。いいもん見せてくれた御礼に、御代は負けといてやるよ」
「わーいっ! お姉さん、ありがとにゃ~っ!!」
こうしてそれぞれが購入した髪飾りを、その場で贈り合う二人。
互いに髪につけてあげて、お揃いの出で立ちで農園メンバーの元へ戻っていった。
「あっ! 帰ってきたな! ってその髪飾り、似合ってるぞ!」
テラが早速、お揃いの髪飾りに気が付く。
「お二人とも、本当にお似合いですよ? ふふふ……」
仲睦まじい二人の様子に、アルジェンも微笑みを向ける。
「ああいうの、なんか憧れちゃうね? 霓虹ちゃん、キビともお揃いの何かを付けたいようっ?」
「いいですね、師弟であり親友の証として、今度一緒に何か見繕ってみましょうか」
吉備と霓虹も、ミーヤとレモンの髪留めから絆の証を欲したようだ。
浴衣コンテストの花火大会は、いよいよ大詰め。
大玉の八尺以上の煌めく大輪が帝都の夜空を席巻する。
「た~まや~!」
「かーぎやーっ!」
農園メンバーは代わる代わる、夜空へ掛け声をだして笑顔を見せあう。
ミーヤもニコニコして、お腹パンパンにもかかわらず、この日一番の大声を張り上げてみせた。
「たーまやーにゃーー!!」
「かーぎやーっだねっ!」
レモンも掛け声に倣って、農園メンバー同士が笑顔を見せった。
「みんなと一緒にお祭り、とってもとっても嬉しいのにゃー!! ね、レモンちゃんっ!!」
ミーヤはレモンの笑顔を見詰めて、尻尾をぶんぶんと振りながら破顔一笑してみせた。
レモンも農園メンバーから沢山の贈り物と感謝の気持ちを貰って、胸の奥が熱くなっている。
「みんな、今夜は付き合ってくれてありがとうっ! またこうして、戦闘以外で遊びに行きたいねっ!」
レモンの言葉に、その場にいた五人は一斉に首肯してみせた。
今夜のことは六人の胸の奥に、素敵な思い出として深く刻まれた。
これからも共に戦い、共に田畑を耕し、実りの恵みを預かる者同士、絆を深め合っていける事を願うのだった。
<了>
成功
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