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囃子廻り

#シルバーレイン #ノベル #猟兵達の秋祭り2023

ルネ・シュヴァリエ



把繰理乃・えんら




 秋の夜長とはよく言ったものだ。既に日は沈み、虫が鳴く。月が高く上り、空を優しく明るく照らす。
 カラコロと下駄を鳴らして向かう彼女らの先には、夜の闇を照らす提灯と屋台の灯り、太鼓や鈴の囃子の音色が眩しい。人々の活気ある声に熱が宿る。

 把繰理乃・えんら(嫌われ者のバーチャルメイド・f36793)は、ルネ・シュヴァリエ(リリスの友想い・f30677)に手を引かれ、慣れない浴衣と下駄でゆったり歩く。
「お誘いいただきありがとうございますルネ様。」
「いいのよ。えんらちゃんの社会見学……ってほどじゃないけど。一緒に屋台巡りしようと思って。」
 ルネの浴衣は、黒橡色に鉛色の蝶が飛ぶ落ち着いた柄で。紫の濃淡で現わされた朝顔が、夏の残り香を感じさせる帯。浴衣と同じ生地で作った大きなリボンで長い髪をポニーテールにして。大人なお姉さんの様をみせるような、可愛さの中にも大人っぽさが散りばめられている。帯留めの赤色も周囲の色を引き締めて、また良い。
「えんらちゃん、浴衣すっごく似合ってるよ。ルネが選んだからね、完璧よ。」
「こんな素敵な浴衣まで見繕っていただいて……。ありがとうございます。ルネ様もお似合いですよ。」
 そんなえんらの浴衣は、江戸紫に現代花柄と華やかなデザインだ。帯は秋の昼間の空のような青色で、結び方に遊びがある。帯留めの紐も花形に結び遊び心がある。華やかな中に可愛さも併せ持つ組み合わせだ。選んだルネのセンスが際立つ。差し色の帯の金色もまた華やかだ。
「いつもくっついてるお嬢様も来たら良かったのにね。」
「お嬢様はその、人間が沢山いる所はあまり好かれないそうですので……。」
「じゃあ、今日はルネがえんらちゃんをエスコートするね。」
 普段は大人しく、お喋りをするのも得意ではないルネ。だが、今日は、お姉ちゃんになりたいと張り切る。えんらのお姉ちゃんとして、えんらを楽しませたい、と。
 祭囃子がどんどんと、祭り会場に一歩近づく度に賑やかな雰囲気を肌に当てていく。
 行こう、と握った手をルネがクイっと引っ張ると、えんらはドキドキする胸を抑えつつ踏み出していく。

「いらっしゃい、いらっしゃーい!」
「たこ焼き、焼き立てだよー!!」
「こっちはりんご飴にべっこう飴、フルーツ飴ならなんでもあるよー!」
「わぁ……!」
 屋台の熱気に、弾む声をあげたのはどちらからだろうか。

「お嬢ちゃん達、金魚すくいやっていかないかい?」
 背の低い水槽の中を泳ぐ赤い金魚を目にして、瞳を輝かせた2人を見て、屋台のおばちゃんが声をかける。
「えんらちゃん、やろう。」
「私、初めてなのですが……。」
「できるよ。」
 ルネが一緒にやってあげる、と。ポイを受け取ったえんらの手に、背後から手を添えるルネ。
「小さいの狙おう。大きいのはポイが破けやすいんだって。」
「は、はい。」
 パシャリと金魚が水から跳ねて跳びあがる。浴衣の袖を脇に挟んで、しゃがんだ二人は、熱心に金魚を吟味する。
「いくよ、えんらちゃん。この子にしよう、ね。」
「は、はい。頑張ります。」
 ポイをしっかり握ったえんらの手を、ルネがアシストするように誘導して、器に金魚を掬い上げる。

 ポイを幾つか破ってしまったが、屋台のおばちゃんが掬った金魚を袋に入れて、えんらの手に持たせる。
「楽しかったかい?掬えて良かったねぇ!」
「ありがとうございます。ルネ様のお陰、でございます。」
 屋台のおばちゃんに話しかけられ、少しの緊張を覚えつつも、えんらは答える。手にした金魚が屋台の灯りに反射して煌めくのがとても趣深く感じる。

「これは、ヨーヨーですか?」
「おじさん、ヨーヨー釣り2回。お願いします。」
「あいよぉ!」
 えんらが興味を示し、屋台の前に足を止めれば、ルネはすかさず財布から小銭を出して店主に渡す。
「えんらちゃんは何色にする?」
「え、ええと。これ……がいいです。」
 えんらが指差したのはオレンジ色に赤や薄いオレンジの線が入ったヨーヨー。お嬢様に似合いそうだと、お土産にしてもいいかもしれないと思う。
「ルネ様は、この紫色がお似合いでございます。」
「じゃあ、ルネはこれを狙おうかな。」
 狙いをつけて、こよりのついたフックを水につけるルネ。
「こよりはね、短く持った方がいいぜ。秘密なっ!」
「はい。……わ、2個取れた!」
「やるねぇ、お嬢ちゃん!!」
 ルネは計3個取れたヨーヨーの内、2個をえんらの人差し指と薬指に付けてあげた。中指の金魚を挟むように。
「紫色はルネとお揃いだね。」
「ありがとうございます。2つも。」
「いいんだよ。」
 ルネはお揃いのヨーヨーを弾ませて、えんらとお揃いが出来た嬉しさをヨーヨーで現わす。ヨーヨーはリズムよく弾む。

 射的屋の前に並ぶえんらとルネ。カチリと引き金を引く音、ポンと射的のコルク弾が跳んでいく音が幾つも聞こえる。
「あの、ルネ様。ここまで全て奢っていただいているのですが……本当にいいのでしょうか?」
「いいの、いいの。ルネも楽しいから。」
 それに、えんらちゃんはルネ以上に人見知りだから。一緒にコミュ力を養ってあげようかなって、お姉ちゃんっぽくして、一緒に楽しみたいから。というのは、ルネの心にそっとしまって。
 銃を構えて、ぎりぎりまで身を乗り出して、狙い定めたお菓子の箱を打ち落とすルネ。
「おお。やるね、お姉ちゃん。」
「……お姉ちゃん!……そう、今日はえんらちゃんのお姉ちゃんだから。」
 ルネは、屋台のおじさんに『お姉ちゃん』と呼ばれ、ドキリとして心を躍らせる。祭囃子に当てられて心も踊る。
 えんらもルネの横で、射的銃にコルク弾をネジ入れて、構える。ルネのスタイルを真似て、肩に銃を当ててぶれないように、体をギリギリまで乗り出して、片目を閉じて、標準を合わせる。的は大きいクマのぬいぐるみ。小さいのは当てられる気がしないから……。
 カチリと引き金を引くと、ポンと心地よさも感じられる空気を押し出す音がして、コルク弾が発射される。クマのぬいぐるみに向かって……その下の棚板にコツンと当たる。
「む、難しいです……。」
 数度目の外しをして、えんらは眉根を寄せる。再度充填しようとカップの中に手を入れるも、コルク弾は既になく。
「あっ、射的の弾が……。」
「……あ、失敗しちゃった?」
 えんらのしょんぼりとした雰囲気を感じたルネが、えんらのカップを見る。
「全て外してしまって。」
「なるほど。ルネお姉ちゃんに任せて。」
「って、ルネ様何を?」
 ルネがえんらから少し離れて、屋台のおじさんの方に向かっていく。
「お?どうした、お姉ちゃん。追加かい?」
「あのね、あのね、大事な妹がね、頑張ってクマさんのぬいぐるみを狙ってるんだけど、上手くいかなくて……。泣いちゃいそうなの。おじさん、助けてくれないかな?」
 射的銃を抱えて、もじもじとして、恥ずかしそうに、時に少し泣き出しそうに頬を赤らめて、ルネはおじさんに上目遣いで話しかける。
「い、いや、それはおじさんも商売だから……。」
「おじさん……お・ね・が・い。」
 きゃるんと、キメて、上目遣いで小さく可愛らしくお願い(誘惑)をするルネ。
 おじさんは、暫し黙り、頬をかき、視線を明後日の方向に向けて。そうして、暫くしたら……。
「……しょ、しょうがねーなぁ、1回だけだからぁなぁ!」
「ありがとうっ。」
 そのやり取りを少し離れた位置で見ていたえんらは、ぽかーんとした顔で。
「はい、えんらちゃん。もう一回できるよ。」
「あの、さすがにルール違反では……。」
「大丈夫、えんらちゃんも美形だからすぐできるようになるよ。」
「できるように等ということではなく……。」
 えんらのカップに2クレジット分のコルク弾を入れつつ、得意気なルネに対して、突っ込みが追い付かないえんら。
 もしやこの方、お嬢様以上に押しが強いのではないでしょうか、と思う。押しの強さをあげるのは、自分にはまだまだハードルが高く感じる……いや、ここまで上げていい物なのか疑問に思う。

「いっぱい景品もらえたね、えんらちゃん。」
「そうでございますね。景品がいっぱいですね。」
 左手には先ほどの射的で、お願い、をして取れたクマのぬいぐるみ。右手にはくじ引きで当てたウサギと馬のぬいぐるみに、お菓子が多数。最近流行りの狐のお面を額に付けたえんら。帯にもお菓子を挟んで。買ったばかりのリンゴ飴を舐めつつ歩く。
 ルネも同じく買ったリンゴ飴を舐めつつ、その甘さと、両手いっぱいにお祭りの跡を持つえんらを見て、ご機嫌な笑顔を見せる。
「えんらちゃん、楽しかった?」
「楽しかったですよ。この姿をお嬢様に見せたら『ふるあーまーえんらですぅ!』などと仰りそうです。」
 くすりと笑うえんら。それにつられるように、ルネも。
「ルネも楽しかったよ。えんらちゃんのお姉ちゃんとしてエスコートできて。」

「また、二人で遊びに行こうね。」
 そう言ったのは、何方からでもなく、二人の総意で。
 秋祭りの終わりを告げる花火が夜空を明るく照らした。
「あ、花火!!」
 秋祭りは終われど、この楽しさの余韻はまだまだ続く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年10月06日


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