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魔穿鐵剣 〜業禍剣乱刃傷絵巻〜

#サムライエンパイア #魔穿鐵剣

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#魔穿鐵剣


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●剣の涯て
 奪えや、奪え。
 我が手に取るべき刀を奪え。
 一本? 二本? 足りぬわ足りぬ。
 我が手に取るは八本刀。ナガミが鍛えた刃こそ、この手に取るに相応しい。

 一に鋭刃“斬丸”。
 二に瞬刃“風刎”。
 三に剛刃“嶽掻”。
 四に霊刃“妖斬”。
 五に魔刃“穿鬼”。
 六に焔刃“煉獄”。
 七に氷刃“玉塵”。

 終なる八を求めては、我は万理を斬る鬼ぞ。

 草木も眠る頃、剣鬼は開けた深山の中腹より、山間の里を見仰いだ。
 あの里に、求めた剣の果てがある。
 刀匠『永海』(ながみ)一派の、隠れ里。
 先代の永海、筆頭鍛冶の遺作が収められるとまことしやかに語られる。
 永海の打つ刀は、それはそれは大層よく斬れ、ともすればあやかしの作かと疑われるほどの戦果を挙げた。戦場ではその刀から炎が出るところを見たとか、斬られたものが凍えただとか。そんな荒唐無稽な話が、まことしやかに語られた。
 嘘だと思うか。誠の話である。
 永海の作は、打たれた銘の如く、己がそうあるべきと信じているかのように奏功す。
 斬丸は鉄すら断ち。風刎は空を裂き首を刎ね、嶽掻は城塞さえ割った。妖斬はあやかしすら斬り、穿鬼は一切を穿ち貫き。煉獄は焔を纏いて、玉塵は斬った全てを凍てつかせた。そのあまりの力に魅せられた施政者によって、彼ら永海の刀匠は刀を作ることを求められ続け――打てなければ捕らえられ獄死するなど、非業の死を遂げた。
 やがて、彼らは乱世を嫌うように隠棲したのだ。
 歴史の狭間に消えた、神作の打ち手たち。その生き残りが、そして彼らの至宝たる、先代永海の最後の作があの里にはある。
 鬼は、無銘の八本目の刀を弄びながら、巧妙に隠された山間の村を見上ぐ。

 目指すは第七代永海、遺作の八。
 終刃“薙神”。

「刀の世が終わったと言うのならば、この手で再び始めればよい。今一度、業禍剣乱の太刀合せよ。この世は刀によって立身すべきもの。腑抜けた手ぬるいこの俗世を、八本刀を引っ提げて、いざや切り拓いて魅せようではないか」
 無銘の刀が、永海の隠れ里の朧火を、貫くように指し示す。
「行けい、者共! 先ずはかの村を滅ぼし、薙神を手にせよ! そして我らこそが新たなる乱世の雄として、この世に覇を唱うのだ!!」
 ――応――――!!!!

 鬨の声と共に山道を駆ける浪士の群と剣鬼。
 永海の隠れ里の命脈は、まさに風前の灯火であった。

●サムライ・ショウダウン
「作戦を説明する」
 片手で立体パズル状のグリモアを操りながら、少年――壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は資料を改めた。
「今回戦闘の舞台になるのは、サムライエンパイアの山奥。永海――『ながみ』っていう妖刀鍛冶らの隠れ里だ。永海の刀は超常の力を伴うとかで、乱世じゃそれはそれは重宝されたらしいけど――まあ、いいものを作った人々が必ず報われるかっていうと、そうじゃないのは知っての通り」
 灰色は語る。永海の一族はやがて属する軍の要求が過剰になるにつれ、満足に刀を供出できなくなった。刀匠が次々に使い潰されるのを憂えて、先代の筆頭鍛冶の指揮の下、山奥に隠棲したのだという。
 時代の狭間に飲まれ、消えた妖剣の打ち手たち。
 その居所を穿り返し、食い物にしようとしているオブリビオンがいる、と灰色は説明した。
「敵は正面方向から多勢で、村を呑み込むように迫る。隠れ里にいるのはただの刀鍛冶。如何に妖刀が数多くあっても、問題なく押しつぶせると判断したらしい。そこで」
 六面揃った立体パズル状のグリモアを、灰色は宙に投げ上げた。発された光が虚空を切り取り、“門”を作る。
「きみ達に迎撃を頼みたい。正面からの真っ向勝負だ。敵は多数の浪人と、永海の刀を七本持った八刀流の剣鬼。浪人は数多く、剣鬼は強力だ。剣鬼はその剣技だけでなく、永海の刀の力をも振るうだろう。容易い相手じゃないだろうけど――」
 灰色は薄く、唇の端に引っかけるような笑みを浮かべた。
「きみ達が倒せない相手じゃない。……おれはそう信じるよ」

 転送先、サムライエンパイア『永海の隠れ里』。
 敵、浪人多数。及び統率者、八刀流の剣鬼。

「転送を開始する。――ああ、そうだ。無事に村を守り通せたなら……村の人々に、きみ達の戦い方について少し教えてあげてもいいんじゃないか。教え方は色々あると思うし、任せるけど。申し分ない刀があるのなら、彼らが自分でそれを振るう方法を教えてあげれば……きっと、今後の苦難を越える助けになるだろう」
 猟兵を送り出しながら、灰色は最後に付け加える。
 先ずは目の前の敵の掃討だ。猟兵達は口々に了解を告げ、自らの武器を握り直し、灰色が開いた“門”に飛び込んだ。

 ――さあ、猟兵らよ。
 魔を穿つ鐵の剣と成れ!

 業禍剣乱刃傷絵巻、剣風鳴りて開幕である!



 お世話になっております。
 煙です。

 令和の世になろうとしている中、戦国剣風絵巻をお届けいたします。
 タイトル難読なので改めて、「ませんてっけん ごうかけんらんにんじょうえまき」です。
 ボンジュール太郎.MS様と題材を同じくするコラボシナリオですので、是非そちらも合わせてお楽しみください。

●構成
 一章:対『浪人』集団戦。
 二章:対『乱世の名将』ボス戦。
 三章:村の人々との交流、『修練』。
 首尾よくオブリビオンの群れを退治したならば、隠れ里の人々に戦闘の仕方を教えたり、『示し合わせた猟兵同士での一対一での模擬戦』のようなこともできるかもしれません。ご希望の剣士の方は、刀を打ってもらうことも可能と思われます。
 もちろんお一人様や集団様での参加も大歓迎でございます。また三章に突入したころに別途アナウンスいたします。
 とにもかくにも、まずは敵との戦いでございます。全編通して、『強敵との戦い』を格好よく書ければと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

●参加制限
 ございません。ボンジュール太郎.MS様と私のシナリオの両方に参加することも可能ですし、どちらか一方の参加でも大歓迎です。

●その他
 本作のプレイングの受付開始は、以下のスレッドで告知します。
『https://tw6.jp/club/thread?thread_id=6634』
 今回の描写範囲は『無理なく(一日に三~五名様のお返し)』となります。プレイングの着順による優先等はありませんので、お手数に思わなければ、受付中の限りはお待ちしております。

●おまけ
 人情絵巻がheartful storyなら、刃傷絵巻はhurtful storyですね。言葉遊びです。

●おまけ2 七代永海・八本刀の読み
 きりまる、かざはね、たけがき、あやぎり、せんき、れんごく、ぎょくじん、ながみ。
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第1章 集団戦 『浪人』

POW   :    侍の意地
【攻撃をわざと受け、返り血と共に反撃の一撃】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    怨念の返り血
【自身の返り血や血飛沫また意図的に放った血】が命中した対象を燃やす。放たれた【返り血や血飛沫、燃える血による】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    斬られ慣れ
対象のユーベルコードに対し【被弾したら回転し仰け反り倒れるアクション】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●山間の闇、刃鳴り軋る
 ――おお、
 おお、おお、おお――!
 打ち寄せる荒夜の怒濤が如く、浪人達は永海の隠れ里へ駆けた。
 村まで間近。
 ここまで近づけば、鬨の声とて敵に逃げる隙を与えぬ。
 よしんば刀を抜いて反抗したとて、剣打つのみの刀鍛冶に、人斬りを生業にした剣の鬼共が負けるわけもあるまい。
 故に、浪人達は既に刀を抜いていた。総員抜刀、サムライエンパイアの青き月が、山間の木に透けた月光を照り返す。
 真っ当な路とも言えぬ、踏み固められただけの土の路を、しかし恐るべき速度で浪人達は駆け上る。その脚力、持続力共に常人の域にない。
 彼らもまたオブリビオン。過去から蘇りてこの世に染みを落とす、三千世界の黒点である。

 幕は上がった。
 今宵、刀を求めて荒ぶる剣の鬼共を、刃であやすは猟兵である。
 転送された猟兵らは月を背に、宙から次々と舞い降り、山道へ着地。
 駆け来る敵を睥睨する。

 いざやいざ、刃鳴り散らすはその命。
 逝き先を決めてやろうと、猟兵達は武器を抜く!
ギュンター・マウ
むくつけき男共だなぁおい
このご時世でまた刀で天下が取れると思うなよ
隠棲してる刀鍛冶達を袋叩きにしようとするたぁ、禄でもねぇ

数で向かってくるのなら
俺は足止めの方を請け負おう

ひとまず他の猟兵の肩を勝手に借りるかしながら止まり木を探す
【歌唱】の為に深く息を吸って
ありったけの【呪詛】と
ほんの少しの憎しみを込めて【羈絆の詩】を歌う

「ちょいとてめぇら、其処に止まって聴いてってくれや。」
「まぁ、聴く気がなくても、止まらざるを得ないだろうさ。」





●静寂噛み裂いて、黄泉路を開け
 駆けてくる浪人達は一人二人の騒ぎではない。それこそ当にこれより討ち入ると言わんばかりの数を揃え、複数の道を併走してくる。
 迫る敵の群れ、激突せんと駆ける猟兵らのその最前衛。
「ちいと悪いが、肩を借りんぜ」
 ととおん、と、足音軽く、猟兵らの肩を飛び渡る妖精の姿があった。ギュンター・マウ(淀む滂沱・f14608)である。眼下、最後に足場に借りた猟兵が尖兵と切り結ぶのを見ながら、ギュンターは羽撃き、手近な木の枝に飛びついた。鉄棒めいてくるりと体を回し、枝の上にゆるり、立つ。
「むくつけき男共だなぁおい……このご時世でまた刀で天下が取れると思うなよ」
 乱世は終わり、人々は質素ながら太平の世を謳歌しつつあるというのに。今になって過去が、また争いを呼べとこのように暗躍する。
 到底許せることではない。ギュンターの目の光が、刃のように尖る。
「隠棲してる刀鍛冶達を袋叩きにしようとするたぁ、禄でもねぇ。此処で止めてやらぁな」
 ――敵の数が多いときは、足を止めるのが定石だ。
「ちょいとてめぇら、其処に止まって聴いてってくれや。――まぁ、聴く気がなくても、止まらざるを得ないだろうがね」
 迫る浪人の群れを樹上より睥睨し、すうう、と小妖精はその小さな躯にたっぷりの息を吸った。
 声に呪いを乗せる。
 ギュンター・マウは呪詛の唄い手にして、蠱毒を従えし黄泉の導き手。燃えるがごとき赤き髪を揺らし、彼が唄うのは『羈絆の詩』。
 声、朗々と響き渡る。
 その小さな躯から発された声はチョーカー型の拡声器を通じ、矮躯とは到底思えぬ音量で、夜の静寂を切り裂いた。大音声で迫る浪人らの鬨の声にすら全く劣らず、正面から張り合う。
「ぬ……!?」
 ギュンターの歌声が届いた者の足取りが、全く唐突に崩れた。立て続けに数名が転倒し、続くもの達がそれにより足を止める。視界がぐらつくのか、男達はふらふらと揺れつつ、這々の体で刀を構え直す。
「なんと……?!」
「面妖な! 気を付けられよ、あやかしの術ぞ!」
 全く唐突に五感を乱すギュンターの魔歌に、浪人達はその正体を掴めず動きを止めた。樹上、ギュンターは肩をすくめる。
「あやかし扱いかい。まぁ――忌まわしいことに、当たらずとも遠かあないが」
 己が妖精であることを厭う男は、鼻を鳴らして息を継いだ。
 さあ、戦いは始まったばかり。もう一声、次なる歌は何としようか。

成功 🔵​🔵​🔴​

現夜・氷兎

全く傍迷惑な、独りで遊んでいればいいものを。

来て早々に悪いけれど、未だ君達の『目覚めは遠い』もの。【高速詠唱】【属性攻撃】を以って足元を狙い縫い留めよう。当たらずとも他の猟兵への【援護射撃】として敵の牽制にはできるかな。
攻撃や返り血は【見切り】躱しつつ、届く者から【怪力】【鎧無視攻撃】で【なぎ払い】、着実に数を減らしていこう。

永海の話はエンパイアに住んでいた頃聞いたことがあるんだ。刀を扱う者として、彼らにはこんな結末を迎えて欲しくは無いんだよ。
……現在と過去との切り分けは簡単な方だねえ。過去たる君達の力とはどれ程のものか、楽しみにしているよ。



●夢幻、留め針
 駆け来る敵の一陣は、目を飢えたけもののようにぎらぎらと光らせ迫る。月光の下にさらされて光る刀はさながら牙か。
 刀での立身、人の骸の上に立てる武功。未だそれを、腕一つで成り上がる時代を夢見て、こうして生者を踏み躙らんとするもの達がいる。
「全く傍迷惑な、独りで遊んでいればいいものを」
 呟く声は怜悧に、敵を身勝手と断じる。現夜・氷兎(白昼夢・f15801)だ。敵一党の進路上に、魔刀『薄氷』を片手に、涼やかに立っている。
 氷兎の言葉を聞いたか聞かずにか、浪人の一陣の先頭にいる男が吼えた。
「どけ、どけ、どけぇい! 永海の里への一番槍は某が戴く!! どかぬならば斬って捨てるまでよォ!」
 氷兎は遠間で肩を竦め、息をつく。
「耳に痛い声だ。……残念、戦国の夢を見ているのなら、未だ君達の目覚めは遠いものだよ」
 ひゅん、と薄氷の刃先が翻り、月光を映して煌めく。同時に氷兎の周囲の空気がきしきし、ぴきぴきと音を立てて張り詰めた。空気中の水気が析出・凝固し、一瞬にして百余りの氷の飛針を作り出す。
「征け」
 間髪入れずに射出。氷の針が敵の足を狙い、次々と貫いてはその動きを封じていく。一瞬で五人ばかりが行動不能になる。
「小癪な!」
 胴間声を発しながら、しかし先頭の男が止まらぬ。突き刺さる針をものともせず――或いは通じているのにそれを意念で塗り潰し駆け来たか。
「そっ首、もらったァ!! ちぇいああああッ!!」
 気勢を上げて氷兎の身体を断たんと大上段からの一撃が振り下ろされる。
 しかし、氷兎にとってはそれは見えている攻撃だった。舞うが如くに身を翻し、左に一歩捌いて、薄氷により刀の軌道を逸らす。柔の剣。敵の刀は地面に刺さり浅い穴を掘るのみだ。
 刃紋がごとき羅刹紋が、ゆらり闇中に曳光し、
「なんと、貴様――鬼――」
 言葉の続きを聴こうともせず、氷兎は羅刹の膂力で薄氷を振るった。袈裟懸け一撃、断末魔も許さぬ。浪人は二つに裂け、凄絶に血をぶち撒けて絶命した。
「――永海の話はエンパイアに住んでいた頃聞いたことがある。刀を扱う者として、彼らにはこんな結末を迎えて欲しくは無いんだよ」
 足下の骸を見下ろして目を細めると、今ひとたび、氷兎は氷針の苦痛に藻掻く敵勢へ目を向ける。やがては後続も来るだろう。
「……現在と過去との切り分けは簡単な方だねえ。さて、過去たる君達の力とはどれ程のものか。楽しみにしているよ」
 刀を構え直し、氷兎は再び空中に、無数の氷針を編むのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
「正々堂々やりたいが、この場合は先ず出鼻を挫く。相手が全力でくるなら、使える物を全て使いそれに応えるが礼儀」【礼儀作法】

マフラーを懐に隠して月明かりに気をつけ【目立たない】ように注意しながら浪人達に【ダッシュ】で急行する。
先鋒に近付いたら【吸血】本能による血を求める衝動で、浪人達の大まかな陣形を把握し、【学習力】で最適な足止め位置を模索し、闇に紛れて蟻達を展開する。
UCの特性上、蟻達が使えるのは他の猟兵が到着するまで。
だが、私が狙うのは到着するまでの時間稼ぎと相手の士気を削ぐこと。
勢いそのままに仲間に当たらせないこと。
【携帯食料】を食む
「さて、存分に使えるだけ使いますか!」


田抜・ユウナ
妖刀鍛冶の隠れ里、ね。
背負う刀をチラと見て、
色々興味があるし、個人的にも捨て置きたくはないわね。
……そのためにも、まずは蹴散らしましょう。

●戦
黒子役に徹して援護

戦場を駆け回りながら【レプリカクラフト】
《早業》で敵の体に罠を仕掛けていく。
種別は炸裂薬。
敵が炎の技を使用したら、引火してドカン。自爆させる。
敵陣を混乱させて隙を作るのが目的だから、ダメージよりも手数重視で小型を大量生産する。

自身への攻撃的は技能総出で見切り、舞う木の葉の如くギリギリで回避する。

※共同、アドリブ等は歓迎



●火蟻塚
 聞けば、背に守るのは稀代の妖刀鍛冶の里。
 そして敵の首魁は、知る者ぞ知る、天才が作刀した七本の妖刀を持つという。
 どちらについても興味は尽きないが、このままにしておけば里が滅ぶとくれば、田抜・ユウナ(狸っていうな・f05049)に否やはない。森の中を、探索者としての健脚を生かし、駆け抜ける。
「そんな非道、捨て置けないわね。まずは蹴散らしましょう」
「了解だ……では、手筈通りに。正々堂々やりたいが――この場合は先ず出鼻を挫く。相手とて戦場の流儀は心得ているだろう。全力で全てを使い襲い来るなら、こちらも同様にして応えるまで」
 併走しながら答えるのは仁科・恭介(観察する人・f14065)。上の中ほどの背丈を闇の外套で覆い、目を集めるマフラーは懐に隠しての隠密行だ。
 彼らには、事前に示し合わせた作戦があった。作戦と言ってもほとんど即興、互いに出来ることを開示しそれを効果的に組み合わせただけのことだが、勝算がある。
「じゃあ、まずは私が行くわ」
「わかった」
 先んずるのはユウナだ。目立たぬよう身を隠し周囲の景色に溶け込む。暗闇に紛れ、目立たぬように、音を控えて前進。
 恭介はすん、と鼻を鳴らし、血の匂いを探る。ダンピールとしての吸血衝動に任せ、暗がりの中敵勢の大凡の位置を把握。敵は十人程度の先遣隊のようだ。数人ごとに固まっており、声を掛け合いながら前進している。
 恭介はそのまま集中を深め、ユウナがどの程度まで敵に接敵したかを測る。
 ――私が合図したら、一斉にお願い。
 ユウナの言葉を思い出しながら、干し肉を懐から出して噛み裂き、咀嚼して飲み下す。彼のユーベルコードは、捕食したものの質と量に比例し、その威力を増強するタイプのものだ。
「――何奴!」
 夜闇を切り裂く誰何の声がした。ユウナの匂いが、男達の匂いに紛れると、恭介が感じた丁度その折であった。

「何と聞かれて答えてやるほど、親切でもないのよね」
 ユウナは夜闇に紛れるように、男達に襲いかかった。その背に負った刀だけ見れば、彼女はそれによる格闘戦を得手とするかに見えたがその実はそうではない。刀は抜かぬまま、手の内側に数珠のようなモノを生み出し、男らの手脚や胴に撓らせ放つ。
「くっ、斯様なもので!」
「刀も抜かず我々を愚弄するか!!」
 数珠自体に殺傷力はない。当てても、巻き付いてそれで仕舞いだ。ただ、多少引っ張った程度では強固に巻き付いたそれを外すことが困難なだけで。
 男達はユウナの行動の意図を図りかねつつも、手に持った刀で斬りかかる。
「シぃアッ!!」
 空気引き裂く気合。喉を歯を、吐き出した息が摩擦するような声。振るわれる刀を、髪の毛一本のギリギリでユウナは回避する。しかして捉うるは彼女の漆黒の毛先一筋。刃が彼女の身体を裂くことはない。水面に浮く木の葉を、捕まえようとしているかのようだ。
「なんとすばしこい、小っ癪な!」
「大人しくせぬか!」
「待てって言われて待つやつがいないのはね、そういうやつから死ぬからよ」
 つんと顎を聳やかしながら、振るわれた刀をバックステップで回避し、ユウナはまたも数珠を敵に投げつけ、巻き付ける。
「なんと面妖な!」
「気を付けよ! 此奴、この刻に童女の姿でとは、化け狸の類やも知れぬ!」
 あっ。
「狸っていうな!! 私は狸じゃなくて田貫!! ぜんぜん違う!!」
「タヌキではないか!!」
「その狸じゃないってんでしょーーーが!!」
 嗚呼、音韻での悲しき行き違い。ユウナは激しい戦闘の渦中に於いて、最早訂正を放棄した。最後の数珠を敵に投げつけ、高く跳んで木に取り付く。
「今よ! やって!!」

「わかった。――さて、存分に使えるだけ使いますか!」
 ジャーキーを食みつつ前進していた恭介が、茂みから浪人達へ指を向けた瞬間。
 ざあ、と黒い地面が、前に向けて波打ち、進んだ。……それが軍隊蟻の群だと、昼なら見て取れたやも知れぬ。しかし今は夜。その正体すら一瞬では掴めない。
 蟻が這い、男達を襲った。見えぬ分、恐怖は一入であろう。
「な、なんだ!?」
「術の類か?! 足先に何か……」
「げえっ、つっ、痛、これは、蟲か?!」
「人食い蟲が! 人食い蟲が出た!!」
「ええい愚か者共!! 血を燃やせ!! 焼き払え!!」
 統率者らしき男の号令一下。浪人達は己が身を刃で裂き……迸る血を焔と化し、

「愚か者は、あんたの方だったわね」

 ――爆炎、轟音、大炎上!!

 ユウナが放ったのは『レプリカクラフト』で作成した吸着式のチェーン・マイン。発火機構を省略して、素早く大量に作ったそれを、敵自身の焔で炸裂させる策であった。それを可能としたのが同時に多数の敵の注意を引くことも可能な軍隊蟻の群――恭介の『知恵の実』であった。
 遅滞戦闘と範囲攻撃を得意とする二名が相乗することでの一斉攻撃。裂傷と火傷にのたうち回る敵をよそに、樹上より飛び降り、駆け戻るユウナ。
「まだいけるか?」
「もちろん」
 端的な言葉を重ね、悲鳴を上げて転げ回る浪人共に目をくれず、二人は次の敵を捜して前進を開始した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

狭間・悠弥
武蔵坊よろしく決闘で奪うならいざ知らず、手勢引き連れての夜討ちとはな
…大方、永海の七つ刀も同じような手で奪い取ったんやろ。気に食わん
気に入った事があるとすれば
こっちの動きやすい場所と時間を選んでくれた事や

木々に紛れ夜闇に隠れ、偽天眼の【暗視】で浪人達の動きを捕える
まずは先頭の奴に紅苦無を【投擲】して【暗殺】
仕留めきれんでも、夜闇に忍びが紛れとると思わせれば気勢を削ぐ効果はあるやろ
動揺を誘った所で、隊列からはみ出しとる奴に踊りかかってまずは一撃
何ぞこっちの攻撃を誘っとる節もあるが、そんなもんは【見切っ】とる
一発目で刀握る手を斬り飛ばし、
どてっ腹を殴り飛ばして、纏めて華閃爪で仕留めたる



●天剣より、逃れるに能わず
 サムライエンパイアに生まれた狭間・悠弥(流浪の半人半機・f04267)にとっては、正々堂々死合うて斃れたものの刀を奪うのは、或いは正当なる権利なのだろう。かの高名な怪力無双の荒法師、武蔵坊弁慶もそうして刀を狩ったと聞く。
 しかしてこれは。堂々刀を振るうでもなく、戮殺するは無辜の民。手勢引き連れ夜討ちして、一方的に殺して回り、収奪して我が物にせんとは。
「大方、永海の七つ刀も同じような手で奪い取ったんやろ。気に食わん――」
 悠弥は眼帯の位置を直し、無銘の刀の柄を上げる。それこそ彼の戦闘態勢。抜かぬが既に構え也。
「卑怯者に歩かせる路は無え。こっちの動きやすい場所と時間を選んでくれたのが運の尽きや」
 悠弥はすっと姿勢を下げ、夜風を裂いて跳んだ。樹上、木のざわめきに紛れ夜闇に隠れ、ましらの如くに宙を飛び渡る。
 遠間、闇に沈みながら駆け来る敵四名を偽天眼が捕捉する。悠弥は右手に爪を立てた。裂けた掌から血が溢れ沸騰するように膨らみ、紅苦無を成す。跳躍、照準、投擲。
 重い音を立て、過たず額に突き立った紅苦無が敵の前頭葉を破壊する。膝から崩れ落ちて、駆ける勢いのまま地面を滑る先頭の男。驚愕に他の三名が泡を食って足を止める。
    と
「その隙殺ったァ!!」
 敵の動揺を更に揺さぶる如く、宙から梢を揺らして飛び降りる悠弥! 空中、抜刀の軌跡さえ残さぬ神速の居合いにて、大上段から敵一名を、上げた刀ごと真っ二つ!
 刃筋を立て、的確に、一直線に、充分な力で振るうたならば――悠弥愛用の無銘の刀は、主を裏切らず斬鉄すら容易く成す!
 最早声すらも発せず、ずるりと二つにずれ、血を飛沫かせながら斃れる浪人。
「お、おお、おおおああああっ!!!」
 残り二名。片割れが一瞬早く我に返り、持った刀を振りかぶって悠弥に叩きつける。……しかし、悠弥はそれに受け太刀をするどころか刀を引き納刀。右脚、震脚、
「ぬるい太刀筋やなぁ!」
 右脚――『迦楼羅』の銘もつ機械脚が、足下で圧縮空気を炸裂。反発力で右脚が超高速で跳ね上がり、刀を持つ男の手首をへし折って刀を吹き飛ばす。
 間髪入れず左脚で敵を蹴飛ばし、もう片割れに押し付けて、位置を纏め、
「ふゥ――……ッ」
 呼気、瞬刻、集中。納刀した無銘の刀に、悠弥の右手が触れた刹那。

 紫電一閃。

 悠弥の放った電瞬神速の抜刀術が、闇に一条の閃を引いた。宙に二つの首が飛ぶ。未だ動く鼓動に合わせて噴き出す血を見送ること無く、悠弥は再び樹上に紛れた。
 次の獲物を探すよう、闇の静寂に納刀の音が鳴る。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【POW】
熱い、ホットだぜサムライ!!
いいねェいいねェ最っ高だァ手前等!!
死ぬことも惜しまねェ、突っ込んでくる阿呆ゥども!
――俺様、そういう阿呆は大好きだ
フォン・ヘルダーで真っ向から切り捨ててやらァ!!
使うユーベルコードは【ブラッド・ガイスト】だ。楽しもうぜ?野郎共。
おいおい剣を振るうだけが取り柄じゃねェよなサムライ!
俺様は生憎だがサムライじゃねェから――足も手も出ちまうなッ
殺し合いに礼儀作法もヘッタクレもねェんだ!ただただ命を燃やして己を貫きてェ!そうだろ!?ああそうだろう!!
命捨てろや死に場所は此処だァ!!

がァははははッ!!我こそは――ヘイゼル・モリアーティ!!



●榛色の狂気
 各所で戦闘音が響き出す段で、後続の浪人らの動きにやや慎重さが見え始める頃、そんなことはお構いなしに一人の猟兵が駆け抜ける。
「熱い、ホットだぜサムライ!! いいねェいいねェ最っ高だァ手前等!! 死ぬことも惜しまねェ、突っ込んでくる阿呆ゥども! ――俺様、そういう阿呆は大好きだ!」
 銀の目、黒の髪。普段は迷い戸惑いに揺れる頼りなげな瞳が、今や空に浮かぶあの月と同じ銀に輝いている。
「ぬうっ! 貴様ッ、名を名乗れィ!!」
 先にいる一団が警戒に足を止め吼えるが、猟兵は止まらずそのまま接敵する。
 彼女の名はヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)。――否。自己申告に依るならば――
「がァははははッ!! 我こそは、ヘイゼル!! ――ヘイゼル・モリアーティ!!」
 牙を剥き出しに、目を爛々と煌めかせ、腰から抜くのは牙めいた双剣『フォン・ヘルダー』だ。逆手に握って、ヘイゼルはそのまま、獣さながらの動きで十人ばかりの男共のど真ん中に駆け込んだ。
「う、狼狽えるな! 隊伍を乱さず当たれ!」
「チェイアアッ!!」
 浪人らも流石に徒党を組むだけのことはあり、最低限の訓練は受けているのか、対列を乱さず間隔を取り、同士討ちをせぬようにしながらヘイゼルに刀を繰り出す。しかしヘイゼルはそれすら楽しむように振るわれる刃の間をアトラクションか何かのように擦り抜ける。一閃、腕を掠めて血が散るが、それすら『彼』の思うとおり。腕を伝い落ちた血がフォン・ヘルダーに絡み、禍々しく変形する……『ブラッド・ガイスト』!
「オイオイオイ、剣振り回すだけが取り柄じゃねェよなあサムライ! もっと使えよォ、あんだろォ! 脚とかァ!」「ぶげっ?!」「手とかァ!!」「がぼっ!?」
 ヘイゼルの戦い方を端的に評じるとすれば『ダーティ・ファイト』、これ一言だ。足が手が、敵の鳩尾を顔面を抉り、的確に破壊する。よろめいた者の首を変形したフォン・ヘルダーで掻っ捌き、降り注ぐ血に哄笑する。
「それともサムライってのァなんだァ? 殺し合いに礼儀が要ると思い込んでる甘ちゃんなのか? 違ェーだろォ!! 殺し合いにゃ生きるか死ぬかだけありゃいいンだよ! ただただ命を燃やして己を貫きてェ! そうだろ?! ああそうだろう!!」
 隊伍を保って戦おうとする浪人達が羊の群なら、ヘイゼル・モリアーティはまさに餓狼であった。
「命捨てろや死に場所は此処だァ!! てめェらの牙ァ、魅せてみやがれェ!!」
「「「「う、うおオオオオオッ!!!」」」」
 剣戟が火花散らし、血が飛沫いて、怒号と狂笑と悲鳴が場を席巻した。
       ダンスマカブル
 狂乱、狂奔の死 神 舞 踏。指揮するは狂人、踊るは刃修羅。
 ああ一つ、また一つ。命の炎が消えて散る。

成功 🔵​🔵​🔴​

オルハ・オランシュ


ヨハン(f05367)と

私も刀を握ったことはないけど
君は闇、私は槍に置き換えて考えればわかるよね
強奪なんて許されない、って

もちろん!
手を抜く必要もなさそうだし
思いっきりやれそうだね

対峙した後はもう振り向かないし、声も掛けない
ヨハンの放つ闇を信頼しているから合図なんていらないよ

すごい……道が切り開かれていくみたい
私だって、応えなきゃ!
【範囲攻撃】に一人でも多くの浪人を巻き込んで
繰り返し【なぎ払い】で効率よく傷を与えていこう

浪人の動きもよく見て
ヨハンを狙う素振りを見せたら、容赦なく首元を突く
攻撃が相殺されていたら【2回攻撃】でフォロー
――隙だらけだよ!

この人達には錆びた刀が相応しいんじゃないかな


ヨハン・グレイン


オルハさん/f00497 と

刀というものの価値、俺には今一つ分かりませんが
人が心血を注いで鍛え上げたものを強奪しようなど、随分と欲深い

労せず奪うだけの存在には虫唾が走る
行きましょうか、オルハさん
懲らしめてやりましょう

彼女が前で戦えるよう、俺は場を作り上げよう
焔喚紅から黒炎を爆ぜさせる
薄汚い血は怨嗟に呑ませて消してやろう
彼女の往く手を阻むものは闇に沈めて、
降り注ぐ黒闇でその身を穿つ

例え相殺されようと、その間に彼女が討つだろう

業物を手にしたところで、お前達には宝の持ち腐れだよ
腕でも斬り落とせば刀を欲することも無くなるかな

――まぁ、彼女の前ではやりませんけど



●闇中殺陣
 梢揺れ、響く鬨の声。
 森の暗がりで闇がうっそりと口を開く。
「刀というものの価値、俺には今一つ分かりませんが」
 ――闇、いや。
 人であった。黒尽くめに怜悧な眼鏡、藍色の瞳。揺れる闇そのものに似た細面の少年は、名をヨハン・グレイン(闇揺・f05367)という。
「人が心血を注いで鍛え上げたものを強奪しようなど、随分と欲深い」
「そうだね」
 その横手で、キマイラの少女がいらえた。桃掛かった金髪に、若草色の瞳が美しい年頃の少女だ。ヨハンとは対照的な明るい色彩。
 三叉槍――銘を“ウェイカトリアイナ”という――の石突を地についたまま、少女は耳をぴん、ぴん、と跳ねさせる。
 怒号、足音が大地を揺らし、槍を伝って、敵の到来を告げていた。
「私も刀を握ったことはないけど――君は闇、私は槍って、大事なものに置き換えて考えればわかるよね。強奪なんて許されないって」
 少女、オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)は確かめるようにヨハンに言葉を向けた。ヨハンは顎を引くように頷き、指輪を填めた手をすいと持ち上げる。
「その通りです。労せず奪うだけの存在には虫唾が走る。行きましょうか、オルハさん。懲らしめてやりましょう」
「もちろん! 手を抜く必要もなさそうだし、思いっきりやれそうだね!」
 気合充分といったオルハとは対照的に、ヨハンはの表情は常と同じ凪。ひたすらにクールだったが――現れた敵勢に対しての初手は、滲む怒りが顕れたが如く。
「焼き祓え」
 ゆらあ、と円を描くように振った手に、黒炎爆ぜて軌跡を描く。前に向けた手から、『焔喚紅』に封ぜられた怨嗟の黒炎が投射された。
「ぬうーッ?!」
「なんとォーっ!!」
 駆け来た敵勢が突如投射された爆炎に蹈鞴を踏めば、その一瞬だけで充分だ。ヨハンが得意とするのは中距離での射撃戦。そのレンジの中で立ち止まるなど、自殺行為に等しい。
「穿て」
 ヨハンが謳う声と同時に闇が凝った。『黒闇』が、当に驟雨の如くに降り注ぐ。
「ぐうッ!?」
「ぬああっ、卑怯なり!!」
「卑怯?」
 ヨハンは片眉を聳やかし、蔑むような目を向けた。
「故人が心血を注いだものを夜襲で奪い取る貴様らが、道理を説ける立場かよ」
「その通り!」
 ヨハンが切り開いた――というよりも、ほぼ第一陣をその一手で圧倒したのに続いて、弾丸の如く駆けるオルハ。
 弱冠十四歳の少女ながらに、一度切り込めば二度とは振り返らぬ。脇目も振らぬ。ヨハンの闇を信頼していた。彼の闇は自分を守るだろう。そして自分は、
「応えるよ、ヨハン!」
 彼を守るだろう。
 オルハとヨハンの連携は、声すら交わさぬのに完璧に行われた。オルハの影から闇刃が突き出、彼女の死角から迫る浪人を刺し貫くかと思えば、オルハを無視してヨハンを攻撃せんと駆けるものはオルハがその首を三叉槍で貫いて仕留める。
 ヨハンの操る闇を纏いて、少女は荒れる飄風となった。その勢いの前に、立て続けに五人が打ち倒される。
「囲め、者ども! 囲めィ!」
「生半に散兵を当てるな! 同時に当たれェ!」
 応! と浪人達の声。五人ばかりが一挙に迫り、刀を振り下ろす。しかし、その一斉攻撃の前でオルハはウェイカトリアイナを回旋! 風を孕んだ一挙動の薙ぎ払いで正面から迎撃! 火花散らして弾かれた刀を、ヨハンの闇が鞭の如く撓って弾き飛ばす!
「――隙だらけだよ!」
 刀を喪った浪人達に襲いかかるは、穂先が二重に見えるかのような連続での薙ぎ、突き。
 胸を、首を穿たれ、或いは石突きで骨を砕かれ、五人の男がまたも吹き飛ぶ。
 槍の射程範囲は、刀よりも長い。刀を扱うものが槍を制するならば、その穂先の内側に入り込まねばならぬ。
 しかしてその近距離の死角を、何らかの方法で――この場合ならば闇使いが、変幻自在の闇で――埋めるとあらば、その射程に瑕疵はなく。
 浪人達では、この連携を打ち破ることは出来るまい。
 浪人達もこのままでは不利と言うこと程度は悟り、己の手を傷つけ刀に焔を纏わせるなどの策を弄するが、盤石に構えたオルハを前に攻めあぐね、じりじりと後退する。
 ヨハンは悠然と前進しながら、浪人達に揶揄するように言った。
「業物を手にしたところで、その程度の剣技でまともに振るえるものか。お前達には宝の持ち腐れだよ。――腕でも斬り落とせば刀を欲することも無くなるかな」
 脅しの一声。オルハにそれを見せたくないが故に実行するつもりはなかったが、確かな殺気を込めてヨハンは言う。
「おのれ、言わせておけば……!」
「言わせておくもなにも、言い返せないだけじゃない。――あなた達には、錆びた刀がお似合いだよ」
 ウェイカトリアイナの穂先が闇空を薙ぎ、風切り音を発する。構えを改めるオルハ、そして今ひとたび焔喚紅に黒炎を湛えるヨハン。
「貴、ッ様らぁああぁぁアッ!」
 敵残数、七。ここまでに倒した数の半数にも満たぬ。
 怒りにまかせ、激昂しながら飛びかかる浪人達。
 応ずるように今一度ヨハンは影を編み、オルハは槍を低く構えて跳んだ。

 剣戟止むまで、今しばし。
 最後に残るは闇と槍の足音のみであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

白斑・物九郎
●POW
村を背にし布陣

【喧嘩極意(攻撃回数重視)】で手近な者を片端から迎撃
敵配置及び出方、加えて乱戦の最中には自身の死角側を【野生の勘】で網羅

徒手の佇まいと見せて、傍らの宙より出し抜けに取り出す頼みのメイス「心を抉る鍵(大)」を引き抜き(だまし討ち)、【怪力】を以って打ち掛かる

一合打ち合えば敵の体を崩す
二合打ち合えば対手の得物も護り備えも叩き割る
斬り返して来たなら、巨大の鍵の先端の乱杭形状で以って受け・絡め取り・奪うもしくはヘシ割る


「“この武器はなんだ”って?
見ての通りっスよ
コイツが俺めの“鍵(けん)”ですでよ、サムライくずれ共」


距離を取った輩には束から抜いた鍵を指弾で放つ(クイックドロウ)



●“ワイルドハント”
「そこの童! 退けえい! 退かねば斬って獣の餌ぞ!」
 正面。敵数八。槍無し、騎無し、火縄無し。
 ゆらりと金眼を敵へ向け、少年は――白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は、宣言するように呟いた。
「止まって貰いまさァ。この道、ここで行き止まりですでよ」
 物九郎は全く構えもしないままの自然体で、先鋒の男へ踏み込んだ。その手には武器も何も無い。破れかぶれかと笑い、浪人が刀を振りかぶったその刹那、引いた刀が振り下ろされるよりも早く、浪人の喉に、巨大な鍵の切っ先が叩き込まれた。
「おごばっ!?」
 ――唐突に、出し抜けに、巨大な鍵が『発生』した。何も持っていなかったはずの少年が繰り出した奇襲。
 物九郎が伸ばした右手の先、モザイクに歪んだ空間より、呼ばれるように鍵が現れたのだ。
「ひとうつ!」
 数える声は誇示するかのようだ。『ここにいる俺めは、てめぇらを薙ぎ倒す嵐の王ぞ』と。
 巨大な鍵を手放し、吹っ飛ぶ浪人と等速で踏み込み、落ちる鍵の切っ先側を引っ掴んで、突起に手首を引っかけぶん回す。
 遠心力を殺さぬまま、それどころか自らの動きと腕の力で鍵の速力を増幅し、物九郎は小型の竜巻となって敵へ襲いかかる。
「ぬゥあっ……!? 貴様ッ、そのふざけた武器はッ、いった、いっ」
 刀の軋み音、悲鳴。
 物九郎が叩きつける鍵のインパクトは、一合打てば受け太刀した敵の体勢を崩し、二合続けば刀に罅を入れ、それを案じて下がろうとした対手の身体を、追いかけての、三打目。
「ふたあつっ!!」
「ごべぇ?!」
 くの字に曲がって男が飛んだ。右腕骨、肋骨が大凡粉砕、背骨に亀裂骨折。内臓が軒並み破裂、地に付く前には死んでいる。
「コイツが何か? 見ての通りッスよ。“けん”ですでよ、サムライ崩れ共」
 空を太い音を立てて裂き、苛烈な風を纏うは物九郎の『心を抉る鍵』。――けん。鍵。
「斯様な出鱈目が、あってなるものかァ!」
「出鱈目かどうか試してみますかよ。俺めの鍵は優しくねえ、懺悔は済ませて掛かって来なせェ!」
 浪人達も少年相手に引くほど、血気薄くは出来ておらず――
「者共、囲んで後ろから――ぶべっ?!」
「こ、こやつッ、まるで後ろに目でも……あがあっ!!」
 ああ、故に不幸だ――男達は、最初の一人が吹き飛んだ時点で転進すべきだった。
 人の身で、天性の戦闘センス――野生の勘を持つ嵐の王を諫めようなどとは烏滸がましい。
「全員一挙に掛かってきなせェ。全員揃えてブチのめしてやりまさァ!」
 闇に金眼曳光し、疾風と悲鳴が吹き荒れる。

成功 🔵​🔵​🔴​

矢来・夕立
◎【絶刀】ヒバリさん(f15821)と

こんな状況でなんですが、嬉しい報せでもある。
永海の業については何度か聞いたことがあります。既に途絶えたものと思っていました。
…彼らは永らえている。
潰える未来は、オレたちが変えられる。

というわけですから、ヒバリさんに力を貸してもらいます。
イイ刀鍛冶、魅力的でしょう?終わったら手入れしてもらえるかもですよ。

そうと決まれば参りましょう。
抜刀、からの【だまし討ち】【紙技・冬幸守】。
見えてるものは皆殺し。忍術で殺せる相手なら、わざわざ斬って鈍らせる必要はない。
コレを振るうのは式紙が役目を終えてからだ。
仕事道具は大事にするタチなんですよ。
ヒバリさんもそのようですね。


鸙野・灰二
◎【絶刀】矢来(f14904)と

寡聞にしてその「永海」と云う刀匠の事は知らなんだ。
お前は見聞が広いんだなア、矢来。
いや実に良い話を聞いた、力くらい幾らでも貸すとも。

良い刀鍛冶は勿論魅力的だ。さぞ素晴らしい手入れが期待出来る。
然し、永海の刀を振るうと云う剣鬼はもッと魅力的だ。願わくば八本全てと切り結びたい。
俺の切れ味が通じるのか、斬れるか斬れないか、知りたい。

多勢を相手にするなら手数、速攻。
抜いたらすぐさま《先制攻撃》
【錬成カミヤドリ】複製した十七振りの「鸙野」で《串刺し》だ。

出し惜しみする訳では無いが、佩いた「鸙野」は極力使わずに済ます。
良い刀とは万全の状態で切り結びたいんだ。なア矢来。



●刃軋り求む魔剣と忍
 敵、山道下方百五十メートル前方。
 両手に数えて余るほどの数が来る。速度から推察するに、接敵までおよそ二十数秒。
 赤茶の瞳を半目気味にした、詰め襟に羽織の少年が、親指立てて彼我の距離を測った。顎を撫で、腰の護符揃えより紙で折った式神――『式紙』を抜いて、扇めいて広げる。
「こんな状況でなんですが、嬉しい報せでもあるんですよ」
「あの浪人達の鬨の声は、とても福音にゃア聞こえんが」
 並び立つ長身の男が応じた。遠くに月光照り返す、粗末な刀の浪人の群。声がここまで聞こえる。
「オレたちの後ろの話ですよ。『永海』の業については何度か聞いたことがあります。人斬り、風斬り、空を斬り、斬れぬものなど、ついぞ愛縁ばかり也と益荒男どもに好まれた、よい刀を作る鍛冶士の集まりだったとか。――既に途絶えたものと思っていました。時代の潮目で潰えてしまったものと」
 少年は訥々と語る。事情に詳しいことを誇るでもなく、ただ事実を並べてから、男の背を押す文脈にスイッチ。
「――彼らは永らえていた。今も後ろで息づいている。潰れる未来をオレたちが変えられる。それが、嬉しいって話です。というわけですから、ヒバリさんに力を貸してもらいます。イイ刀鍛冶、魅力的でしょう?終わったら手入れしてもらえるかもですよ」
 長広舌を一息で述べる少年に、長い銀糸の髪をざっくりと右手で梳き回して、ヒバリと呼ばれた男が感心したように笑う。
「寡聞にしてその『永海』と云う刀匠の事は知らなんだ。何時も思うが、お前は見聞が広いんだなア、矢来――」
 ごきりと首を回して肩を一回し。ヒバリ――鸙野・灰二(宿り我身・f15821)は、少年の名を呼ばわりながら唇を歪める。
「いや実に良い話を聞いた、力くらい幾らでも貸すとも。……しかし、まア、なんだな。刀鍛冶ってのは勿論魅力的だが、その鍛冶が作った刀が敵勢に『いる』ンだろう。その『永海』が」
「そういう説明でしたしね。……もしかして、そっちのが?」
 少年――矢来・夕立(影・f14904)は、男を笑うでもなく伺う。にいと歯を見せる灰二。
「応よ。願わくば――『そいつら』、八本全部と斬り結びたいもんだ。俺の切れ味が通じるか、果たして斬れるのか斬れないのか。それが知りたい」
「そういうことなら、ささっと参りましょう。前座で疲れちゃヒバリさんの切れ味も鈍るってもんでしょうから」
 夕立は脇差を抜いた。傍らで飄々と灰二が笑う。
「鈍らぬようには務めるさ。なんたって、良い刀とは万全の状態で打ち合いたい――」
 灰二が腰の日本刀の柄を叩きながら笑って、ひらりと前へ踏み出した。
 まるで世間話する風な二人。既に、その間近に敵が迫っている。
 先に前に出たのは灰二の笑みが敵を捉えた。夕立に向けていた笑みが、浪人共に向き直るなり白刃の如くに光りて尖る。

 鸙野・灰二は、日本刀よりうまれた化生である。

「だからよ。お前らは邪魔だな、ちいとばかり」
 押し潰さんと迫る敵勢を前に、彼は鮫の如く笑った。天を右手に掲ぐなり、自身を取り巻くかの如く、十七本の優美なフォルムの日本刀を複製召喚!
 灰二が掌を振り下ろすと同時に、宙に浮かんだ日本刀――銘を『鸙野』――が、全く同時に十七本、矢雨の如くに降り注いだ。
「ぐおっ!」
「ッぬう!!」
 突如として一斉に注ぐ十七本の刃、予想外の攻勢に、突き刺さり斃れる敵もいれば間髪打ち払う者もいる。いずれでも構うまい。だだん、と地を踏みならして灰二は駆け、外れ地に突き刺さった『鸙野』の一本を引き抜き、浮き足だった手近な一人へ振り下ろす。
「ぐわあっ!?」
「おのれッ! 棒立ちかと思えば仕込みを弄しておったか!」
 最初の一斉射のみならず、念力にて刀を複数同時に操作しながら、灰二は次の一人と斬り結ぶこと二合、
「そうともさ。そして俺だけを見てちゃア、文字の通りに片手落ちさ」
「何……?!」
 灰二が皮肉っぽく言うなり、泡を食ったように数名がもう一つの影――夕立を探し出す。その刹那、辺りに舞う紙片。
 ひらり、ひらり舞う折紙が――唐突に、命得たように羽撃いた。
 風に舞い落ちるだけの筈の紙が、生きているかの如く羽音を立てて滞空するその異様。……無数に舞うのは白い、蝙蝠を模した『式紙』。いかなる術か見当付かぬ、紙技、或いは神業か。
 その狙いを定めるに必要な三秒は、疾うに灰二が稼いでいる。
 夕立は忍だ。敵にそれと悟らせず、注意が逸れた瞬間に紛れ、灰二が敵に警句を漏らすときには、既に樹上より戦場を俯瞰していた。
 ――夕立の赤茶の目が、血の輝きを曳いて光った。
「鏖だ」
 夕立は端的に命じた。式紙どもが牙を剥き、浪人共を食い荒らさんと殺到する。これぞ忍法、『冬幸守』。
「ぎゃああっ!?」
「ひ、っ卑怯、ッぎっ?!」
「舌の前に刀を振って呉れよ。手応えの無い」
 無数の冬幸守が浪人達の首を、耳を、鼻を噛み千切って血をしぶかせ紅に染まる中を、複製の鸙野を振るいながら灰二が剣風となって駆ける。敵一陣――十四名が全滅するまで、二十秒とない。
「矢来、前に出るぞ。永海の八本刀だ、他の猟兵に折られる前に行かなけりゃア」
「はいはい」
 樹上から飛び降り、夕立は念のため抜いていた脇差『雷花』を鞘に収める。
 夕立も灰二も、自らの主力武器を温存している。

 ――使うのならば、端役にではなく。
 花形にぶつけてやろうではないか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
【鳴宮・匡と】

ハッ!随分と前時代的な連中だぜ。いつまでも新しい時代に適応できねえ上に、引っ込むこともできねー馬鹿どもには…実力って奴で分からせねえとな。

感謝しな。俺がわざわざ、前に出てやるんだ。
──未来の忍びの業って奴を、見せてやるぜ。

ユーベルコードを用いて、技能を強化。戦場を縦横無尽に飛び回る、究極の機動力を獲得する。【ダッシュ】【クライミング】【ジャンプ】【早業】により、壁や屋根、人や刀、あらゆるものを足場にして飛び回り、変幻自在の機動で頸を掻き切っていく。

ハッキングしか能のないナードってわけじゃねーんだぜ?
匡!安心しろ、俺は避ける。遠慮なく撃ちまくれ。
時代は忍びと鉄砲だ。引っ込んでろよ!


鳴宮・匡

◆ヴィクティム(f01172)と

あ、お前接近戦すんの
まあいいけど……得意じゃないって割には動くよな、あいつ

――奇しくもいつぞやと同じ構図だな
なんて揶揄は引っ込めておこう
思い出したくなさそうだしさ
……俺もだけど

山間道なら樹上や茂み
或いは幹の陰なんかに身を潜めるか
【千篇万禍】で近づいてくる敵から狙撃する
返り血なんて浴びないさ、そんな距離までは近づけさせない

基本は胴を狙って動きを鈍らせる形で
ヴィクティムに対する援護射撃が主って感じだな
勿論、殺れそうな相手はきっちり始末する
数を減らすのは集団戦の基本だ

……あん?
そもそも味方に当てるなんて下手はしないぜ
こっちを気にしてないで、敵をしっかり見ておきな



●踊れ、世界の最果てで
 戦わねば己を証明できず、己の生きる道以外の価値観を許せぬ。
 平和を倦み、人を斬らねば飯を食めぬと嘯くその価値観よ。
「ハッ! 随分と前時代的な連中だぜ。いつまでも新しい時代に適応できねえ上に、引っ込むこともできねー馬鹿どもには……実力って奴で分からせねえとな」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は揶揄するように笑う。
 伝わり聞こえる鯨波。山道下方、前方百メートルの位置にまで寄せた敵勢を前に、電脳接続型拡張プロセッシングゴーグル『ICE Breaker』を額から目元に落とした。距離、位置情報、敵速度、武装、風速、方位、すべての情報がゴーグルのレンズを走り、闇夜に鮮やかに煌めいた。
「俺がわざわざ、前に出てやるんだ。目ん玉かっ開いて感謝に咽べよ。──未来の忍びの業って奴を、見せてやるぜ」
「なんだ、接近戦すんの? ……得意じゃないって割に、よくやるな、お前」
 生体ナイフ――『エクス・マキナ・カリバーンVer.2』を抜いたヴィクティムに、横合いの茂みに隠れて声をかけるのは鳴宮・匡(凪の海・f01612)だ。彼にしてみれば近寄ってやる理由がない。遠距離から撃てばいいのである。卑怯だとか声を上げて目立ったやつから順に野山のけものの餌にすればいいと思っている。
「たまには端役も舞台で踊るさ。それとも俺がいちゃ遠慮なく撃てねぇか、匡? 安心しろよ、全部避けて見せるぜ」
「あん? そもそも味方に当てるなんて下手はしないぜ。後ろの心配より前を見ときな」
 軽口の叩き合い、売り言葉買い言葉の一歩手前を行き交いながらヴィクティムと匡は言葉を交わす。
 ヴィクティムがポイントマン、匡がサポートの構図は、先の銀河帝国攻略戦の一幕を思い出させるものだったが、それを思い出しつつも匡は口をつぐんだ。ヴィクティムもまた口にしない。
 思い出したい話じゃない。きっと、それは互いに同じだろう。匡はアサルトライフルのチャージングボルトを引き、初弾をゆっくりとチェンバーに押し込んだ。
 敵が迫る。
「行けよ、ヴィクティム。大口叩いたんだ、きっちり働いてくれるだろ」
「ハッ、俺を誰だと思ってんだ。サイト越しにしっかり見てな、せいぜい見失わねーようにな!」
 ヴィクティムは少年らしく笑うと、ウィンターミュートにコマンドを送信、拡張コードを起動。フィジカル・エンハンサーとリアクション・エンハンサーのクロックを同期し、出力調整をウィンターミュートの常駐デーモンに任せる。ヴィクティムのゴーグルにノーティスがポップ、

 ――Awaken, 『Parkourist』!

 ぱ、と地面の弾ける軽い音。ヴィクティムが跳んだのだ。
 認識能力に長けた匡の視界の中でさえ、走るヴィクティムの姿が光の筋に見える。サイバーデッキが闇に曳いた残光のみが、ヴィクティムの存在を示していた。
 サイバーウェアを相互連携させ、自身の機動力を現界まで向上するユーベルコード……『Extend Code『Parkourist』』。
「どの口が得意じゃないとか言いやがるんだよ」
 呆れた風に呟くと、匡もまたユーベルコードを起動する。
 無自覚に瞳に宿る、底無しの深海めいた青。
 彼が生きるために磨き抜いた、何かを射貫くための視界。

 ――極大射程。『千篇万禍』。

 加速する認識能力。拡大する世界。手がどこまでも届くような錯覚。いや、錯覚ではない。銃弾という名の手が、今なら世界の隅まで届く。
 匡は先頭の敵を狙い、トリガーを引いた。耳慣れた銃声と見飽きたマズルファイア。百メートル未満は、自動小銃を使用した射撃戦としてはごく近距離に分類される。
「外す気がしないな」
 土手っ腹に突き刺さった銃弾に、先頭の男の足が止まる。そこに、樹上からヴィクティムが襲いかかるのが見えた。
 ああ、ストリートのハイエナを幻視する。飛びかかったヴィクティムが、ガラス片――否、生体ナイフで先頭の男の首を掻き斬った。血が吹き出、膝をつく浪人。当然の如く絶命。
 攻撃の瞬間だけはなんとか敵も視認できるのだろう、合わせるように刀を振るのだが、悉く宙を斬る。敵が反応し出した時にはヴィクティムはすでにその位置にいないのだ。
 そして、空振りの隙を晒した敵を逃がす匡でもない。セレクターをフルオートに。三射ずつの指切りバーストで敵を撃ち貫き次々と動きを止める。そこを、ヴィクティムが生体ナイフで次々と刺殺、斬殺、貫殺。
 縦横無尽とArseneが踊る。BGMは五・五六ミリメートル小銃弾のパーカッシブな激発音。
 ユーベルコードを機動力に全振りしたヴィクティムの攻撃力を補う匡。彼らのコンビネーションは円熟の域、有象無象では最早抵抗すら許されない……!
『ハッキングしか能のないナードってわけじゃねーんだぜ? 時代は忍びと鉄砲だ。踊れねえなら引っ込んでろよ、ロートルども!』
 ヴィクティムが爪先でリズムを刻み、ナイフの刃先を翻した。
 匡はインカムから聞こえるヴィクティムの声をラジオのように聴きながら、次敵に銃口を振り向ける……!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真守・有栖


綺麗な月。
眺めていると吸い込まれそうで、思わず……

うっとりと夜空に浮かぶ月を眺め。
近づく足音と気配に目を細めて。

来たわね。
ひぃ……ふぅ……数だけは随分と揃えたじゃないの。まぁ、いいわ。

周囲を囲む浪人に臆する事なく。
刀を構える相手の間合いに一歩、無造作に足を踏み出し。
虚を付かれ反応が遅れた者を一刀に伏して、動揺招く者へと刃を返す。

伊達に一匹狼は気取ってないわ。
多勢に無勢は手馴れたもの。

飛沫が舞う。反撃の刃。
肌に触れる刃風。紙一重で避け。

血が匂う。血に濡れる。血が滾る。

刀を持つ手首を落とす。腕を断つ。
反撃すら許さぬと。口の端を持ち上げ。牙を覗かせ。

……嗚呼。
けれど、まだ足りぬ。……もっと、よ。



●月ニ狂フ
 ああ、本当に綺麗な月。吸い込まれてしまいそうなほど。
 一人、月を見仰ぐは真守・有栖(月喰の巫女・f15177)。山道の一本を一人で守る彼女は、しかしてさしたる不安にも焦燥にも駆られた様子はない。
 迫り来る足音、男達の鬨の声。それが間近に迫る段になって初めて、有栖は視線を空から地に落とした。
 荒々しい浪人達の声が轟く。
「そこの娘! 動くでない!」
「この先のむらの娘だな。我らと共に来てもらう。お主の命を駄賃に、門衛を脅しつけようではないか」
 ひの、ふの、みぃ、よ。
 敵勢、先遣隊。数四。まだ距離あれど、彼らの後ろにさらに多数の本隊が続く。
「随分と数を揃えてきたじゃないの。まあ――いいけれど」
 有栖は無造作に足を踏み出した。その目に恐れの色はない。最初に彼女を威圧した浪人が今一度刀を月に光らせ、
「動くでないと言って――」
「遅い」
 空を裂く銀の刃。背にかけた薙刀を踏み出すと同時の一挙動で突き出し、一人目の喉元を貫く。ごば、と男の口から血があふれた。空気が貫かれた喉から、血泡となってごぼごぼと漏れる。
「なっ……」
「此奴……!」
 敵の構えが整う前に、有栖は薙刀を突き放し、死体を他の浪人に押しつけ、動きを阻害。死体が倒れ込むその前に手を閃かせて日本刀を抜刀する。
 一人で戦うことに慣れた有栖は、多勢の隙を作りだしそれを衝く方法を熟知している。敵の慢心、動揺、油断、焦燥、その心の動きすら手玉にとって。
「貴様、よくもォ!」
 反射的と言ってもいい、次の一人が泡を食って刀を振り下ろすのを紙一重で避ける。剛力での袈裟斬りであったが、当たらねば風車に劣る。葉風がわずかに有栖の肌を撫でたのみ。
 死んだ男の血が香り、有栖は蕩けるように目を細めた。血潮が熱く、昂ぶり滾る。
「もっとよ」
 笑みに開いた口の隙間に、微か覗くは濡れた狼牙。
 振るった刀が目の前の男の手首を打ち、断ち落とす。
「ぎッ……ぁああああ!?」
「まだ、まだ、もっと。嗚呼、嗚呼、まだ足りぬ」
 噴血する男の胸ぐらを掴み、盾のように扱って前進。敵に広がる動揺が一瞬だけ動きを奪う。
 有栖にはそれで充分だった。
「くうっ! 御免!」
 決意を決めて男ごと有栖を貫こうと突き出された二刀。
「あぐっ?!」
 盾に使われた男を貫く刃。しかしてその後ろに有栖の姿はすでにない。
 姿勢を低くして脇を駆け抜け、翻した刀を舞うように振った。
「――!」
「か、……」
 喉がぱくりと裂け、血が飛沫き……二人の男が倒れ伏す。
 有栖は熱を持った身体も其の侭に、薙刀を拾い上げては死者を踏み越え進む。
 頬に跳ねた血を指で紅のように引き、視線はその先の本隊へ。
「まだ、夜は長いわ。もっと頂戴」
 少女は艶然と笑うのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロク・ザイオン
オブリビオンは、ひとを喰う病だ。
森番は病と病葉を灼いて、ひとを守る。

…燃える刀も、あるのか。
(生まれてこのかた、この山刀しか握って来なかったが
似たようなものがここにあるのか。
少し、興味はある)

(【地形利用+ダッシュ+ジャンプ】
獣の如く馳せ回り、翻弄。
【先制攻撃+早業】
「烙禍」を叩き付ける。
いつか慣れて避けられても、土が焼けるたびに足元は脆く。刀は疾く、重く。
ここはおれだけの狩場となる)


お前たちは。病に魅入られた病葉だ。
ひとの世には立ち入らせない。
ここで燃えて、森の土になれ。



●病葉を摘む
 彼女に曰く、オブリビオンとはつまるところ、この世界と言う名の森に生じた『ひとを喰う病』だ。彼女は守り手、森番。森番は蔓延る病と、葉を伝い走る疫を灼き、そうしてひとを守る役を負ったもの。
 ロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)は走る。森番を自称する彼女にとって、深山の環境は庭のようなもの。愛用の山刀を片手に、道なき道を駆ける、駆ける。
 ロクはちらと山刀を見下ろす。断罪の烙印があしらわれた、彼女が生を受けてよりずっと傍にあった刃。焔を発し、つみびとを灼く為の刃。
 聞けば、背後の永海の里ではこの山刀に似たしろものが生み出されたこともあるという。だからどうというわけでもなかったが、少しばかりの興味を引かれた。
 守り終えたら、少しばかりは見て回っても良いだろうか。
 声にはせぬまま、ロクは罪怨の咆哮を発した。

 ああ、それはまるでサイレンのような――
 つみびとたちに、おのれの業を伝える音色だ。

「……何だ、この音は!」
「猿叫か? いやしかし、このように吠える猿など――」
 五十メートル先。警戒に足を止める浪人達。ロクは彼らの唇が戸惑いに動いたのを見る。耳は悪いし、聞いてやるつもりも答えてやるつもりもなかった。長い三つ編みにした、焔にも似た赤髪揺らし、青い瞳に月の光を受け入れて、きらり光らせ突き進む。
 五十メートルなど一瞬だ。茂みを突き抜け飛び出したロクの右手にある山刀が――燃える、燃える、赤々と。
「何奴――!?」
 誰何の声に応えてやる義理もない。
 ロクは飛びかかるなり無言で、先頭の浪人目掛け、焔となった山刀を振り下ろした。
 浪人は受け太刀するが、しかして受けた太刀が焔に蝕まれ、山刀の刃に食まれ、折れるに至っては防御も何も無い。
「――いぎっ!?」
 短い断末魔。頭に山刀が食い込み、即死。斃れる前の身体を跳び箱めいて跳び越え、ロクは右手以外の三肢を縮めて獣の如く着地。
 山刀より溢れた炎が地を、臥した死骸を焦がし、何もかも脆く炭化させていく。
 ――此処は狩り場だった。彼女が訪れたまさにその時より。
「お前たちは」
 ロクは、他の浪人をぐるりと一望。残敵数、七。
「病に魅入られた、病葉だ。ひとの世には立ち入らせない。ここで燃えて、森の土になれ」
 森番は言う。――そうとも。森番は病葉の天敵だ。
 灼きにきたのだ。おまえたちを。
「ッ何を訳の解らぬことを……!」
「者共掛かれ! 生かして帰すなァ!」
 刀を振り上げ殺到する浪人達を前に、ロクは低姿勢から再び駆けた。
 振るう山刀が罪を灼く。悲鳴、怒号、剣戟と煽る焔の乱れ舞。――山間に静寂が返るまで今暫し。

 焦土の上に、骸が八つ。

成功 🔵​🔵​🔴​

御剣・神夜
隠れ里に押し入ろうとは
色々辛い過去があるご様子、そっとしておいてくれと言う彼らの想いを踏みにじることは許しません
皆斬り捨てます

侍の意地で攻撃してくる場合は相手の間合いに入らないように注意する。自分の野太刀の間合いで勝負してあまり近づかない
怨念の返り血は浴びない様に血飛沫などの飛ぶ方向を斬り筋から予想して、その方向に立たないようにする
斬られ慣れで仰け反られたり回転されて攻撃を相殺されると厄介なので、野太刀で鍔迫り合いから足払いなどで転ばせて、動けなくしてから突き刺して攻撃する
「誰に率いられてるかわかりませんが、貴方達ごときに首を取られるほど私は安くありません。大将を出してもらえますか?」



●剛刃一閃
 刀とは、力だ。
 千軍薙ぐとされる永海の刀。その輝かしい名声とは裏腹に、打ち手は厚遇されたとは言いがたかった。打たねば死ねとばかりに扱われ、その果てに真実、死んだ者も多かったという。
 それを嫌い、隠棲した妖刀鍛冶らを、今になって過去を穿り出すように――それこそ、その『過去』が襲うとは。御剣・神夜(桜花繚乱・f02570)にとっては、それは到底許せることではなかった。
 十数人からなる郎党が月の光を負って駆け来る前に、神夜は木立より姿を現し、迷いなく立ち塞がる。
 浪人達は抜刀のまま足を止め、構えを崩さずじりりと間合いを計った。
「むうッ……?」
「女! 退け! 死にたいか!」
「――ここから先は通しません。皆、斬り捨てます」
 神夜は言葉少なに、豪刀『牙龍』を抜く。その太刀の全長はともすれば、神夜の身長を超えるほどの長さだ。いわゆる大太刀――或いは野太刀に分類されるサイズの刀を、神夜は苦もなく取り回す。女性としては身長の高い方ではあったが、それでも超常の力を感じる振る舞いである。
「なんたる大太刀……!」
「女、抜いたからには我らと死合う覚悟があるのだろうな!」
 恫喝するような声に、神夜は目を細め、野太刀の切っ先を敵に向ける。
「貴方達ごときに首を取られるほど私は安くありません。私を穫るつもりならば……大将を出してもらえますか? それこそ、誰に率いられてるかもわかりませんが」
「不遜な!」
「斬り捨ててくれるッ!」
 浪人らは、それ以上言葉も重ねず切りかかった。
 まず二人が斬りかかるが、それを野太刀で牽制。重さを感じさせぬ飛燕のような剣先で、敵の間合いの外から小手を打つ。
「ぐうッ!?」
 裂けた前腕から血を溢れさせ、たまらず一人が一歩引く。片割れがそれに目を瞠った隙に、神夜は前進しながら迷いなく突きを放った。
 喉に決まり、重い音。直ぐさま剣先を引く。血が迸る喉を押さえながら二歩、よろめくように下がった男がそのまま後ろに倒れ込んだ。
「此奴……!」
「手練れか!」
「ぬうう、某が参る!」
 左腕に裂傷を負った浪人が今一度踏み出した。その左腕の溢れる血が、呪いめいた焔に燃える。
「イアアッ!!」
 吠え声と共に腕を振り、怨念の炎血を神夜目掛け振り飛ばすが――予想できていたとばかり、神夜は斜め前へ踏み出して血を躱しながら胴打ち一閃。
「ぐはっ……?!」
 そのまま斬り抜け、後ろで倒れる音を聞きながら進み出る。
「言ったでしょう。貴方達ごときに首を取られるほど、この身は安くないと」
 敵がどのような行動を採ろうが、己の野太刀の間合いを崩さず、冷静な対応策を練っていた彼女の前には、自暴自棄な特攻など通用せぬ。
「さあ、次に斬られたいのは何方です?」
 柔和な笑みを浮かべて修羅は、色をなくす浪人達へ問いかけるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ

神すら薙ぐ神薙では無く、凪ぐ神の如き薙神――
太平の世に何と似合いなこと。
…ま、只の言葉遊び。如何な意を込めた銘かなんて識らぬのですがね?
馬鹿正直に真正面から真っ向勝負など、傭兵としては遠慮したいのですが…
けれど、ええ、そのオーダー承りました。
僕は、猟兵ですから。

反撃へは見切りを試み…或いは反撃すら封殺する様に。
時に駆け抜け、放ち。近く遠く、浪人の腕へ脚へ、網の如く鋼糸を張り。
トリニティ・エンハンスで炎の魔力を通し状態異常力強化。
範囲攻撃で一気に吶喊を止めたく。
足りねば糸巻く勢いでもって2回攻撃。

糸はご不満です?
刃を交えるも吝かでは無いですが…
それはとっておき。
どうぞ抜かせてみてくださいませ?



●地獄を下る蜘蛛の糸
 七代永海、遺作の八、終刃「薙神」。
 名の由来については寡聞にして知らないが、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)が思うに、それは凪ぐ神の如くあれと、太平の世に願いを込めて打たれたものではないのだろうか。
 誰も死ぬことのない、人斬り包丁など要らなくなった世界を夢見るように銘打ったのではないか。
 ……彼の意識を揺り動かすように、遠間から雷声が聞こえる。
「――どこまで行っても想像、ただの言葉遊び。如何な意を込めた銘かなんて識らぬのですがね」
 クロトは樹上から、敵の一群を睥睨した。
 ただ、太平の世に隠れ住んだ人々を守るため。グローブを確かめ、ガントレットにボルトを装填する。
「馬鹿正直に真正面からの真っ向勝負だなんて、一介の傭兵としては御免被りたいところですが……仕方ありませんね。オーダーを遂行するとしましょうか」
 僕は、猟兵ですから。

 クロトは敵との相対速度を計算し、当に真下を敵が通り抜けるタイミングで、鋼糸より糸を伸ばしながら飛び降りた。
 蜘蛛糸の如く絡みついた鋼糸が、ピンと張り詰める。前進する浪人のうち二人の首が、彼ら自身の速力で轢断された。
「なんと!?」
「曲者!」
「はい、その通り。曲者の参上ですよ」
 不意打ちで二人殺した。残四名。鋼糸を巻き上げる。
「糸で失礼しますよ。刃を抜かせたくば――どうぞ力尽くで。抜かせてみせてくださいませ?」
 立てた指を口元に添えながら言うクロトの剽げた声に、おおお、と吠える如き浪人らの声が重なった。
 即座に転進、クロト目掛けまず先行した二人が襲いかかる。上段からの斬撃。クロトは後退し回避。続く喉狙いの突きを籠手で受け流しながら距離を詰め、喉輪を喰らわせる。
「おごっ!?」
 そのまま仕込み式の短矢射出機から喉に二発叩き込んだ。痙攣する男を押しつけるようにもう一人の方に向け払い、その隙に糸を伸ばす。
 ――十指より十糸。
 この熟練の傭兵が操るのなら、三名程度、完全封殺して余りある。
 グローブのリールが不吉な音を立てて廻る。それは、まるで地獄の蜘蛛が笑っているような音だった。
 両手を空を掻き分けるように振る。月下、鋼の糸が飄と舞い、月光照り返して一度輝いたかと思えば、瞬く間に残る三名の浪人の身体が軋んで止まる。放たれた糸が、彼らの身体を捉えたのだ。
「な……」
「っに!?」
 間髪入れず、糸へ、焔の魔力を注ぎ込む。
 浪人達の内側には、呪詛を孕んだ焔の血が流れていたが――クロトの焔はそれすら灼いた。
 絶叫を聴けども眉一つ動かさず、絡め取った三名を焔で灼き食い込んだ糸で裂き屠ると、眼鏡をすいと押し上げる。
「抜かせるには少々――力不足だったと言うことで。ご了承くださいね」
 塵と散る骸に片目を閉じ、クロトは糸を巻き上げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ショコラ・エクスシア
アドリブ・絡み歓迎

超常の力を持つ刀か、へぇ、いいね!
さぞ血を舞わせる名刀なんだろうね…興味深いよ。ああ、是非手に取ってみたいものだ!

さて、その前にお楽しみの戦の時間だ。キミの刀はどんな風にボクを斬ってくれるのかなぁ。ぞくぞくするよ。
刀での死合も魅力的だけれど…ここは『羽々斬の鎌』で【羅刹旋風】を巻き起こし、【薙ぎ払う】で一掃だ。

キミたちもボクと同じく戦を望む者なら、さぁ。いざ、いざ。
キミの血とボクの血を舞わせてここに乱世を巻き起こそうじゃないか。



●血風荒れ、今より此処が乱世也
 七代永海の八本刀。それぞれ性能に即した銘が打たれ、超常の力を纏うと言われる妖刀たち。
「薙神、薙神かあ。さぞ血を舞わせる名刀なんだろうね、興味深いよ。――是非手に取ってみたいけれど」
 果たして握れるだろうか。『薙ぐ』『神』の銘を持つ刀だ。きっとあらゆるものを薙ぎ倒すような、伝説に残るような刀に相違あるまい。
 馳せる思いは尽きないが、怒号が少女――ショコラ・エクスシア(戦闘狂は音楽を愛する・f16012)を現実に引き戻す。
「その前に、こっちのお楽しみから済ませていかないとね。ほうら、こっちだよ、皆!」
 山道の真ん中を塞いで、ぶんぶん、と、ショコラはまるで手を振るように得物を振った。その手で捌くは『羽々斬の鎌』。まるで血錆を放置したかのように赤黒く錆の浮いた鎌は、月光を照り返すこともなく禍々しい風切り音を発する。
 山道を来た五人組の浪人らが、警戒もあらわに足を止めた。
「なんだ、娘! 邪魔立てをするか!」
「方々で斬り合うておる。此奴も里の一派やも知れぬ」
「ならば、」
「――殺すか」
「わぁお、戦国って感じ。ま、やる気満々なのは歓迎だけど。――キミの刀はどんな風にボクを斬ってくれるのかなぁ。ぞくぞくするよ」
 ショコラは大鎌をバトンのように取り回し、遠心力で刃の速度を徐々に上げながら、速度を殺さず保つ。
「そのようなけったいな得物で我々と死合おうと?」
「片腹痛いわ。すぐに刀の錆にしてくれる!」
 一人の浪人が踏み出す。疾風の踏み込みより、袈裟の切り下ろし一閃!
「けったいかどうか――」
 ショコラの目が、月光映して青く煌めく。
「試してみようか?」
 空中で火花弾ける。回した鎌の柄が、刀を払ってその刃を欠いた。金属の悲鳴。真っ向から返されたインパクトに、浪人の足が一瞬止まる。
 さらに鎌が半回転。切っ先が三日月めいた斬弧描いて、足を止めた男の頸を薙ぎ斬った。
 ろくに切れもしない、錆びた鎌の刃が、それでも男の頸を飛ばしたのだ。
「な――」
 鎌を振る動作は、『羅刹旋風』の予備動作であった。溜めた力も其の侭に、ショコラは鎌を踊らせて、頬に飛んだ血を拭うこともなく笑う。
「何を呆けた顔をしてるんだい? キミたちもボクと同じく戦を望む者なら、さぁ。いざ、いざ。
キミたちの血とボクの血を舞わせて――ここに乱世を巻き起こそうじゃないか!」
「此奴……!」
 少女の裡に秘められた暴力性にたじろぐよう、男達が一歩引いた瞬間、ショコラは弾けるように駆けた。
 巻き起こる鏖殺鎌風が、男達へと襲いかかる……!

成功 🔵​🔵​🔴​

シズル・ゴッズフォート
武器職人とはいえ、無辜の民であることに変わりません

……確かに、素晴らしい刀は人を引き寄せる「何か」があります
ですが、刀を手に入れるためだけに民を鏖殺? 正気を疑いますね
いえ、オブリビオンに正気が存在するとは思っていませんけれど

「武器/盾受け」を駆使し、バスタードソードと身の丈ほどもある大盾での防戦を展開
剣で斬り、いなし、盾で殴り倒(バッシュ)し、防ぐ
時に体術も交えつつ、どうしても防げない攻撃は【無敵城塞】で受け止める
敵を倒すことそのものは他の猟兵に任せ、とにかく敵を村へ向かわせないことに専念します

―――この守り、抜くこと能わず。此処より先は通行止ですよ、サムライバンデッド?

アドリブ、共闘歓迎



●神の城塞
 確かに――そう、刀もそうだが、素晴らしい武器には人を引き寄せる『なにか』がある。それに惹かれ、誘蛾の如く集まる郎党がいるのも理解は出来よう。しかしその蛾が毒で以て、民を殺して光を奪おうとしているのならば、それはシズル・ゴッズフォート(キマイラのパラディン・f05505)にとって、許せることではない。刀のためだけに民を鏖殺するなど、到底正気の沙汰ではあるまい。
 ――オブリビオンに、正気など元より期待してはいないが。
「止まりなさい」
 群青の夕闇に溶け入りそうな外套と衣服。背に負ったバスタードソードを右手に、大盾を左手に。シズルは駆け来た五人ばかりの浪人達の行く手を塞ぐ。
「止まれと言われて止まるものかよ!」
「小娘如きが猪口才な!」
 口々に侮蔑と恫喝めいた言葉を吐きながら、抜刀した刃を下ろすこともないまま、男達は路を突っ切ろうと駆け来る。
「聞かぬのならば、それまで。――お見せしましょう、この『守り』」
 ひゅんと風斬り、シズルはバスタードソードを肩にかけ、盾の先端を地より浮かせた。――相対距離十五メートル。爪先で土を抉り、踏み込む。
「むっ……!?」
「これは!」
『彼岸蝶の大盾』の先端を地より浮かせ、長辺を地面と水平に構える。それだけで、駆け来る男らの前に壁が発生した。シズルは峻烈な脚力にて盾を構えたまま前進、そのまま敵の先鋒へ力任せにぶちかましをかける。
「ぐわっ!?」
「げはッ?!」
 シズルの急発進の前に制動が間に合わぬ。止まりきれなかった先鋒の二人が、まるで牛車に跳ねられたように後方へ飛んだ。その二人が地面につく前に、盾の切っ先で他二名を牽制しつつ、バスタードソードを浮いた一人目掛け振り下ろす。
「ぬぅあっ!?」
 細身から絞り出されたとは思えぬ膂力での打ち込み。浪人の草履が地にめり込み、その威力を告げている。防御に専念する浪人の腹を、シズルの爪先が打ち抜いた。体術を交えた近接格闘が彼女の戦闘スタイルだ。もんどり打って倒れ込む男を後目に、残りの二人が襲い来る。
「その盾さえ避ければ、おなごの柔肉であろう!」
 浪人ら二名は、シズルの盾に正面から当たらず二方に散り、目配せ一つ、左右より同時に打ち掛かった。――だが、地に根を張る如く足を突っ張り、シズルは構えを改めた。
 刀が二方より彼女の脇腹を、首を裂こうと迫り――金属音。火花。
「――何と」
 へし折れた刀の切っ先が、力なくくるくると宙を泳ぐ。男達が忘我したその瞬間、シズルの盾が唸りを上げ、男を二名纏めて薙ぎ倒した。
「ぐおあっ?!」

 ユーベルコード『無敵城塞』を瞬間発露したシズルの身体を貫ける刃など無い。

「――この守り、抜くこと能わず。此処より先は通行止ですよ、サムライバンデッド?」 泰然と彼女は言う。
         ゴッズフォート
 ――全てを守る、神 の 城 塞として。

成功 🔵​🔵​🔴​

アダムルス・アダマンティン
【結社】◎
武器の争奪はどこに行っても世の常か
実に傲慢、実に愚鈍。自分が武器を選んだ気になるなど
それに重ねて数を頼みにするとは言語道断。このアダムルス、容赦せん

「行くぞ貴様ら。なまくら使いどもにクロックウェポンの威力を教えてやれ」

敵にかける言葉は持たず。前線に出て味方を庇いながら鼓舞し、敵をソールの大鎚を振るって打ち砕く
鎧すら砕く怪力から放つ刻器神撃
小賢しくも後の後を狙う者どもが受け切るか、それとも俺が振り抜くか

「炎火、離れろ。俺と貴様がいると味方にまで被害が出る」
「油断が過ぎるぞ、ラグ。貴様とてまたぞろクラッククロックなどと嘲笑されたくはないだろう」「ならば役目を果たせ、短針のⅦ」


伴場・戈子
‪【結社】◎‬
‪刀鍛冶ってのは刀の母親みたいなモンさ。無理に親と引き離された子が、幸せになれる道理はないだろうよ。‬

‪まったく、どいつもこいつも攻め気に逸って困るったらないね!ウチの奴らは昔っからずっと変わりゃしない!‬
‪刻器身撃、敵の血飛沫や、時には味方の流れ弾を大戈で斬りはらい、エネルギーをアタシの魔力に転化するよ。‬
‪「やれやれ、いつもの事さね。ケツは持ってやるから好きにやりな、若造ども!」‬
‪魔力の網を敵に絡めて行動妨害だ。ウチの若造どもはぶん殴ることしか考えてないヤツが多いからね。‬

‪「マリアはいい子だねえ。あとで煎餅をやろうね。クソガキどもももう少し可愛げがありゃいいのにさ」


ペル・エンフィールド
【結社】◎
刀!刀はキラキラしててとっても綺麗なのですよっ
キラキラは大好きなのです。良いですねぇ…欲しいですねぇ…
妖剣は取っちゃ駄目でしょうけど、この浪人さん達のは別に貰っても良いですね?ですね?
まぁペルやアダムルスの炎に耐えれる刀があるのならですけど。なければ全部溶かしちゃうのです!

にしても結社の皆さんは自由なのです
此れはペルがお手伝いに回るしか無いですね。猛禽類の飛行能力とユーベルコードで場を撹乱していくですよ!

セレナリーゼは心配性ですね
ペルはそんなドジはしないのです!
え?後ろ?わわわ!?


灰炭・炎火
◎【結社】
皆いるってことは、あーし、突っ込んでもいいよね、フォローしてもらえるし!
……あーしねぇ、平和も良いことだと思うんよね。わざわざ乱そうとするなら、そんなに戦うのが好きなら、あーしが相手でもええやんね?

使うのは「ただの暴力」、ニャメの重斧を全力で、容赦なく振るい続けるん。

「あーしの攻撃、わかりやすい? でも、後ろに注意したほうがええよ。あーしと違って他の皆は、賢くてガンガン来よるから!」
「えー、おっちゃんがそばに居よるんやんかー!」


ビリウット・ヒューテンリヒ


【結社】

さて、この世界のアカシックレコードより生じるオブリビオンども、か。
過去がみっともなく現在を侵しにくるなど、あってはならないことだ。悪いけど、馬鹿正直な斬り合いに参加する義理も無いのでね?撃ち抜いてあげよう、私とバロウズで、ね。

バロウズの力を解放。今回は派手に制圧といこうか?軽機関銃に変形。
記憶ある限り弾は尽きない。さぁ、終わりのない雨を見せてあげようか。
例え捨て身のカウンターがあったとしても、射程に入れなきゃいいだけ、実に簡単な対処法だ。

いやまったく、血気盛んな仲間たちだ。セレナ、無理はしないように。
御大将をはじめとした前衛も、油断しないように。

──尤も、我々に敗北はありえないが、ね


マリア・マリーゴールド

【結社】で参加するマス!

せかく、オジさん達つくた剣ぬすむ人いるデスか!ドロボー!悪いの、めっ!デスヨ!

マリィとマリィの、もなか……違うマス?えと、なかま!みんなでめっ!てしマス!
みんなで頑張るデス!

【SPD】
あちあちさん、好きくないデス!
遠くからすぱんデス!
刻器身撃、ばってんの時間デス!
腕、ギロチンの刃と鎖に変えるマス。
ギロチンとーくから投げて首さんバイバイデス!
サムラーイはめってされる時こーする聞きマス!

んふー!ばば様、いつも頼りになるマス!
お仕事シヤスいデスネ!

んン。では。

――この刻こそ神罰の時と知りなさい、愚かな仔らよ。Amen.

ふフ、言い慣れタことばはバチリ言えマスネ!


ラグ・ガーベッジ

【結社】の仲間と参加

「チッ、どんなすげー武器なのか拝みに来てやったってのに……」
「邪魔すんじゃねぇよ雑魚どもが!」
「刻器身撃――――!!!」
刃に変形させた腕で敵に切り込み斬り捨てる

「ふんっ……まぁいいさ、どうせ俺に比べりゃナマクラだ」
「さっさと親玉連れてこいや!俺の糧になれ!」

「あ”?んだ鬱陶しいなぁおい!!!」
腕や体に付いた血が燃えたらその部位を変形させ、血振りの要領で血を払い落とす
「くっそ髪が焦げる……」

アダムルスに忠告され
「そう呼ぶなつったよなぁアダムルスゥ……?」
睨みながら刃となった腕を向ける

「チッ……」
苛立ちを敵にぶつけるように刃を振るう
「あっ、俺にもよこせよババア!」


セレナリーゼ・レギンレイヴ
【結社】◎
隠れた人を暴いて、狼藉を働く
そんな蛮行を見過ごすわけには、行かない理由があるんです
奪われるものの苦しみを知りなさい

え、あっ、あの!?
皆さん待ってくださいっ!?
ラグ様、灰炭様、もう突っ込んで……
ペル様もお気をつけてくださいね
刀の間合いは怖いですから

朗々と響く詠唱は祈りの言葉
巨大な武器を振るったり、素早い斬撃を放ったりはできません
けれど
ミトロンの書の一撃は、ちょびっと痛いかもしれませんよ
味方を巻き込まないように気を付けながら、広域を薙ぎ払います

はい、ビリウット様
お気遣いをありがとうございます
近づく敵は私が迎え撃ちますので、どうか存分に

武器は相棒
数をそろえればいいというものではないんです



●刻の神の話をしよう
 大の男が数十人と足並み揃え、太い山道を走れば地が揺れる。
 血気盛んなむくつけき益荒男共である。いずれ劣らぬ腕っ節と、各々武勇を引っ提げた、荒くれ共の集まりだ。まさに、神をも恐れぬ男達である。
 ――恐れぬことと、能うことは、全く別個の概念だが。
「武器の争奪はどこに行っても世の常か。実に傲慢、実に愚鈍。自分が武器を選んだ気になるなど――烏滸がましいとは思わぬのか」
 長身の――長針の男であった。名をアダムルス・アダマンティン(“Ⅰ”の忘却・f16418)。彼以下、七名ほどの猟兵が、最早怒濤の如き勢いで攻め寄せる敵勢の前に立っている。目の前の一群との単純比較でさえ、数の上での彼我戦力比はほぼ一〇:一。まともな感性で考えるのなら、絶望的な状況だ。
 しかし生憎。
“ナンバーズ”に、まともな者など一人としてない。
「教育せねばなるまい。人が武器を選ぶのではない、武器が人を選ぶのだ。数を頼みに蹂躙せんというその増上慢、言語道断、度し難い。このアダムルス、容赦せん」
 消えぬ灯火の如く炎に燃え続けるウォー・ハンマー――クロノスウェポン・ナンバーワン、『ソールの大鎚』で正面を指すと、彼は――長針の“Ⅰ”は命じた。
「行くぞ貴様ら。なまくら使いどもにクロックウェポンの威力を教えてやれ」
 アダムルスは指令を下す。それは鏖の序曲だ。
「あーい! したらさぁ、皆いるってことは、あーし、突っ込んでもいいよね、フォローしてもらえるし! いいよね! 決まり!」
 声が聞こえた。
 斧が飛んでいる。
 三メートルを超える、赤い斧だった。宝石で出来てでもいるのか、月明かりを通して赤く、赤く赤く光る。銘を『ニャメの重斧』。クロノスウエポン・ナンバーツー。
「構わんが、距離を空けろ、炎火。俺と貴様がいると味方にまで被害が出る」
「だっからあーしが先にいくんやん! おっちゃんこそ傍にきいへんでな!」
 アダムルスは斧と会話しているのか。否。
 ――その重斧を持つ、『フェアリー』と会話しているのだ。

 “Ⅱ”の闘争。長針のⅡ、その名は灰炭・炎火(Ⅱの“破壊”・f16481)。

 宝石斧を抱えたまま、炎火は一番槍に翔けた。
 それを目の当たりにした浪人数名が響めきの声を上げる。それもそうだろう。夜闇の中、宝石の塊が飛んでくるかに見えるのだから、それも無理はない。炎火の声が響く。
「……あーしねぇ、平和も良いことだと思うんよね。わざわざ乱そうとするなら、そんなに戦うのが好きなら、あーしが相手でもええやんね?」
「面妖な!」
「何奴か、姿を現せ!」
「その目に嵌まってるのはガラス玉かってぇの! よーく目ぇ開けてあーしを見んと――」
 風を捲く音。ニャメの重斧が翻る。数人が息を呑んだ。――その質量が動くとき巻き起こると風と音は――対せば死ぬと、確信を抱かせるものだった。
「みぃんな、死んじまうよお!!」
 振るわれた斧が地を捲った。土塊と三人分の肉塊が混ざってびしゃびしゃと赤黒い土礫が散る。
「あは、っはっははは!」
 炎火はフェアリーにあるまじき剛力でニャメの重斧を振り回し、その刃のみならず柄尻より伸びた鎖に繋がる鉄球を振り回し、周囲の敵を薙ぎ倒し続ける。
「なんたる……何たる怪異よ!」
「あやかしの術か――ええい止めよ、あの羽虫を止めよ!!」
 ようやく炎火を視認したか。
 しかし、蹴散らされているのは浪人の方。羽虫と呼んだ炎火に薙ぎ倒される皮肉な構図。派手に暴れて土礫を散らしつつ、炎火は笑ってニャメの重斧を構え直す。
「なーな、あーしの攻撃、わかりやすい? でも、後ろに注意したほうがええよ。あーしと違って他の皆は、賢くてガンガン来よるから!」
「なんだと……?!」
「そこは黙っていても良いところだ。わざわざ教えてやることもあるまい――油断は禁物だぞ、炎火」
 クロックウェポン・バロウズ、オン。
 涼しい声と金属音が重なった。
「なんだ、あれは」
「……石の……短筒……?」
「火縄程度は見たことがあるか。これは、その最新鋭の進化形さ」
 月下、輝くライトマシンガンのボルトを操作し、銃弾を装填するのは長針のⅣ。ビリウット・ヒューテンリヒ(Ⅳ番目のレコード・キーパー・f16513)である。
 アカシック・レコード
「この世界 の 骸 の 海より生じるオブリビオン共。過去がみっともなく現在を侵しにくるなど、あってはならないことだ。よって討たせて貰うが――悪いね。馬鹿正直な斬り合いに参加する義理も無い」
 ビリウットは炎火の後方より、魔銃の筒先を敵軍へと向ける。
 魔銃――バロウズは、喰った無機物を媒体とし、即席で任意の銃火器を構築する追蹤魔術強化増幅器だ。
 追蹤魔術とは、この世万物の記憶、言うなれば世界そのものの記録――アカシックレコードから読み出した過去、現象を再現する魔術だ。ビリウッドが得意とする魔術にして、ただそれによってのみ長針のⅣの座に納まった、異質なる魔術。
 追蹤魔術により、バロウズの弾倉内に『カートリッジが存在する状態』を再現し続けることで、彼女の銃は文字通り無限の弾雨を実現する。
「さぁ、終わりのない雨を見せてあげよう、諸君」
「……散れ、散れィ! あれは――」
 叫びを上げた男が、先ず撃たれた。七・六二×五一ミリメートルNATO弾が次々と激発し、闇夜にマズルフラッシュを撒き散らした。耳を聾する射撃音、蜂の巣になった男が吹き飛び、数名が射線に巻き込まれて瞬く間に落命する。距離を詰められなければ、焔血も刀も届かない。実に簡単な対処法だ。
 ビリウットが構築した弾幕を縫うよう、更に白兵戦を行うべく数名が駆けた。
「チッ、ナガミだかなんだか知らねーけど、どんなすげー武器かって拝みに来てやったってのによォ――」
 灰色の髪に金の瞳。抜けるように白い膚の、ドールめいた少女が、男性的な口調で唸る。
「どこにもありゃしねぇじゃねえかよ、見えるのは雑魚、雑魚、雑魚、雑魚、雑魚ばっか!! 邪魔すんじゃねえよ、クソどもが!!」
 吠え声を発したその両手が、月光に濡れてぬるりと刃物へと変わる。反りのある刀めいた形状の両手を翼の如く広げて駆けるのは短針のⅦ。ラグ・ガーベッジ(褪せたⅦ色・f16465)だ。
「うおオッ、」
 ラグの身体は少女のもの。しかし放たれる殺気、眼光、共に常人の物に非ず。
 竦む如く足を止めた浪人に、ラグは一切の躊躇なく、その本質を顕すように襲いかかった。即ち――そう。『武器』としてだ。
 コッキシンゲキ
「刻 器 身 撃――ッ!!!」
「ぎ、」
 悲鳴はすぐに止まった。ラグの腕の刃が樹状に分岐し振り抜かれ、浪人はその一瞬で賽子状に斬り散らされる。
「ば、化物め!」
「ハッ、常套句か? 聞き飽きたぜ! さっさと親玉を連れてきやがれ、雑魚共! 俺がその刀も全部斬り喰らって糧にして、俺の方がよく斬れるってことをよ、証明すんだよぉ!」
 ラグが振り下ろす一撃を、辛うじて受け太刀する次の浪人。しかし悲しいかなその手にはただ一刀。両腕を刃としたラグの対手が、鋭く突き出され土手っ腹を抉る。
「がおばっ……」
 腹から血が溢れ、臓腑より溢れる血を喀する浪人。しかし目をぎらつかせ、浪人はラグを睨んだ。怨嗟の籠もる血が発火し、只では死なぬと熱でラグを苛む。
「あ”? んだッ、鬱陶しいなぁおい!!! クソッ、髪が焦げる……」
 無情にも浪人を蹴り飛ばし、身体部位を変形させて血を払うラグ。横合いから二人ばかりの浪人がそこに打ち掛かるが、ラグが向き直る前にその身体が拉げて飛んだ。
 アダムルスである。ソールの大鎚の権能を、その剛力で縦横無尽に振るう彼もまた、炎火と並ぶパワーファイターだ。二人の浪人はその打撃力の前に為す術もない。おかしな方向に四肢を向け、頭から茂みに突き刺さる。
「油断が過ぎるぞ、ラグ。貴様とてまたぞろクラッククロックなどと嘲笑されたくはないだろう」
 豪快な攻撃に反し、アダムルスの言葉はうっそりと重たい。
 クラッククロック――対応する『長針』を持たぬ『短針』に対する蔑称だ。アダムルスの忠告に、ラグはぎろりと目を尖らせる。
「そう呼ぶなつったよなぁアダムルスゥ……?」
 睨みながら刃となった腕を向けるが――アダムルスは慣れたものだと言わんばかり、敵軍を顎で示す。
「ならば役目を果たし、価値を保証しろ。短針のⅦ」
「……チッ」
 アダムルスの言葉は重い。己の存在価値は戦果で担保せよと言う。実力主義の言葉だ。従う他ない。舌打ち紛れに刃を引くラグの横を、また一つ飄風が駆け抜ける。
「まったく、どいつもこいつも攻め気に逸って困るったらないね! ウチの奴らは昔っからずっと変わりゃしない! ほうらクソガキ、血の気はアダムルスの坊やじゃなく、向こうのやんちゃ坊主ともに向けるんだね! でないとアタシがあんたの分まで獲っちまうよ!」
「あっ、俺にもよこせよババア! クソッ!」
 ラグが慌てて風を追う。
 駆け抜けた風の名は――短針のⅢ。伴場・戈子(Ⅲつめは“愛”・f16647)。
「ガキども。あんた達は、刀鍛冶がどんな思いで刀を打つか、考えたこたないのかい」
「何だと――」
「いくさばで何を弄すか!」
 銃弾飛び交い、今もそこかしこで斬風、打撃舞い踊る戦場で言う戈子の言葉に、浪人らは怒鳴るように噛みつく。
「アンタらにとっちゃどうでもよかったかも知れないけどね。刀鍛冶ってのは刀の母親みたいなモンさ。無理に親と引き離された子が、幸せになれる道理はないだろうよ。この上まだ、親から子を引き剥がそうッてなら、アタシ達がアンタ達を、最後の一兵まで叩き潰してやる」
「吼えたな、貴様……!」
「者共! 恐るるな! 血を燃やせ、刀を振るい駆けよ! 飛び舞う斧に構わず火兵より叩くのだ!」
 指示が飛ぶ。思ったよりは的確だ。暴れ出した炎火に犠牲を払うよりは賢明と言える。戈子の前にいた三兵が眦を尖らせ、先ずは目の前を突破せんと打ち掛かる。
 戈子は飛び退き、『アンチノミーの矛』で太刀を受ける。不自然なほどに、軽く。
「?!」
 手に返る反動のあまりの軽さに浪人が眉を上げた。数合、打ちかかり、驚愕は疑念に変わる。
「貴様、一体何をしている……!」
「それを聞けるような関係じゃあるまいさ、アンタとアタシはね」
 片目を閉じて戈子は言った。彼女はその高速での白兵戦を展開しつつ、受け太刀した撃力を魔力に変換し蓄積しているのだ。
 ――そしてそれは、撃力のみに留まらない。痺れを切らしたように自傷した浪人が、焔血を投げつけても同じこと。手に持った大戈で斬り払い、その呪力さえ自らの魔力に転換する。
「ビリウットの所まで行こうったってね、ここにはアタシ達がいる。避けていけると思うのかい? ――さあ、さあ、ケツは持ってやるから好きにやりな、若造ども!」
 戈子は大戈をぐうんと頭上で回旋し、溜め込んだ魔力をその穂先に絡め、勢い任せに振り抜いた。そこから放たれるのはアダルムスや炎火のような無双の打撃でも、ビリウットやラグのような峻烈な乱撃でもない。
 それは、網。魔力の網であった。
 殺傷力はない。だがその分、攻撃範囲は広い。他者と連携する前提においては、非常に強力な行動阻害手段である。
「なんと……っ!?」
 魔力の網が絡みつき、動きが鈍る、または封ぜられる敵勢を、ラグとアダルムスが叩き潰し、切り裂き、ビリウットの放つ弾幕が幾人もを凪ぐ。そして、
「んふー! ばば様! いつも頼りになるマス! お仕事シヤスいデスネ! マリィも今から、皆と一緒にうーんと頑張るデス!」
 後方、ビリウットと並ぶ位置からたどたどしい声が届く。
 戈子はクスリと笑うと、肩を竦めた。
「マリアはいい子だねえ。あとで煎餅をやろうね。クソガキどもももう少し可愛げがありゃいいのにさ」
「聞こえてんぞババァ!」
 噛みつくラグをいなす戈子。じゃれ合いを見ながら、マリアと呼ばれた少女はにこりと笑う。短針のⅩ、マリア・マリーゴールド(Ⅹの"断罪"・f00723)である。
 びし、と指を遠くから浪人らに向け、断罪するように紡ぐ言葉は、しかしこの鉄火場に不似合いなほど牧歌的だ。
「せかく、オジさん達つくた剣ぬすむ人いるデスか! ドロボー! 悪いの、めっ! デスヨ! マリィとマリィの、もなか……違うマス?
「仲間、だ。マリア」
 銃身の熱と摩耗を巻き戻しながら、ビリウットが補足する。
「はい、エトえと、ソウ! なかま! みんなでめっ! てしマス!」
 マリアは元気よく答え、自身の腕に視線を注いだ。敵前衛はほぼ半壊状態。後方から来る新手に狙いを絞る。あまり近づき、血を浴びてはラグのように炎でダメージを被る可能性があると判断。
「ンん、では、では、刻器身撃、ばってんの時間デス!」
 ず――
 音がして、少女の華奢な腕が、白くのっぺりとしたギロチンの刃に変わった。
 サムライエンパイアには断頭台などあるまい。首切り役人が今も仕事をしているだろう。だから、それが何なのかは解らなかったはずだ。
 けれども、幾人か、刃を見て脚を半歩退いた男がいる。本能が訴えるのだ。『アレに近づいてはならない』と。
 じゃらり――
 マリアと、腕だった部位――ギロチンの刃を繋ぐのは、純白の鎖。
「サムラーイはめってされる時こーする聞きマス!」
 無邪気な声を発しながらマリアは二本のギロチンの刃を放った。鎖を撓らせれば、空中で生きているかのように軌道を変え、空気を裂いて敵へ襲いかかる。
「ぬぅっ!? 面妖、な」
 受け太刀せんと刀を構える者がいた。鎖が張り、ギロチンの刃がうねるように軌道を変えて刀を潜る。叫びは尾を引かず、首が一つ飛ぶ。
 正確無比なかつ効率的な斬首刑。ギロチンという器物が作られた、その理由を体現するかのような一撃。
「――この刻こそ神罰の時と知りなさい、愚かな仔らよ。Amen.」
 その一節のみが流暢に、死を悼むでもなく――ただ罪を悔いよと命ずるかのように響く。

 一言で言うのなら蹂躙。四方八方で刃が、鎚が、斧が、怨嗟の血炎を上げる浪人達を屠っていくのを俯瞰する視線がある。
「はぁ、結社の皆さんは自由すぎるのです。どこからお手伝いしたものだか、ペルも迷ってしまうのです!」
 猛禽の翼持つハーピィ、ペル・エンフィールド(長針のⅨ・f16250)である。少女は下肢に纏う鋼の鉤爪たるクロックウェポン「ストラスの大爪」の噴出口より、圧縮された地獄の大火を放ち、その反作用に依り空を飛ぶ。
 嘗て喪った両脚を地獄の炎で補った彼女が得た、炎の爪。凄絶な過去を今はおくびにも出さず、ペルは月下に光る敵の刀に眼を細めた。
「キラキラしててとっても綺麗なのですよう、キラキラは大好きなのです! 良いですねぇ……欲しいですねぇ、妖剣は取っちゃ駄目でしょうけど、この浪人さん達のは別に貰っても良いですね? ですね?」
 誰に確認するわけでもなく一人でこくこくと頷き、いいことにする。猛禽類としてのサガか、彼女は光り物が大好きだ。
「まぁペルやアダムルスの炎に耐えれる刀があるのなら、ですけど! なければ全部溶かしちゃうのです!」
 自分の熱で壊れてしまう、柔な玩具は飾り物にしかならない。側に置いておくのは不安だ。
 ――確かめてみよう、とばかりにペルは急降下した。ストラスの大爪の収束率を変更、より炎を高密度でバーナーの如く収斂。
「そおれ!」
 羽撃き、高速移動しながら、ペルは地を駆ける敵を引っかき回すように、手当たり次第に薙ぎ斬るような蹴りを引っ掛けて回る。
「うおっ!?」
「鳥か?! 否、」
「大きい、鳥ではあるまい!」
「ぬあっ!?!」
「な、何――まさか、天狗か?!」
 反射的に、宙から襲う敵手を刀で射落とさんとする浪人らであったが、すぐに色を失い目を瞠ることとなった。手応えがないばかりか――刀の中程から、先がない。
 ペルの炎の爪が、一刹那に満たぬ交錯で、刀を中程から溶断したのだ。
「ああ、キラキラ勿体ないのです……でもでも、この程度で折れてしまうようだと、物の役にも立たないので仕方ないですね!」
 開いた口が塞がらないと言わんばかりの浪人一人の胸を反対の炎の爪で打ち抜き、ペルは翼を羽撃いて空中で一転、くるりと回る。折った刀の数を数えた。
「七本伐ってこれじゃ、期待出来なさそうですねえ……」
「――ペル様! お気をつけください、後ろです!」
 叫び声。心配性の少女のものだ。ペルはへらっと笑って、
「セレナリーゼは心配性ですね、そんな、ペルについてこられるような敵が……ってわわわぁ!」
 背を振り向くなり投擲された刀を泡を食って避ける羽目となった。
「っはあ、はあ、……油断は、禁物です、ペル様!」
「ううっ、返す言葉もないです」
 ペルは反省した様子で再び高空に舞い上がり、再びの突撃の機を伺い出す。
 それを見て一つ頷き、呼吸を整えるのは――プラチナブロンドに碧眼のオラトリオ。
「いやまったく、血気盛んな仲間たちだな。……セレナ、遅かったね。大勢は決しつつある。無理はしないように」
「はい、ビリウット様……、お気遣いをありがとうございます」
 迎えるビリウットに、遅参の女は一つ頷いて応える。確かに――仲間達が暴れ続ければ、遠からずこの局面は集束するだろう。しかし、彼女――長針のⅥ、セレナリーゼ・レギンレイヴ(Ⅵ度目の星月夜・f16525)にもまた、その業を振るうべき理由がある。
 他のナンバーズが、それこそ烈火の如く敵を駆逐する様を見ても。
 彼らの双肩のみに、この業を背負わせたくはない。
 そして、隠棲した人々を暴き、墓に祀られた宝を奪うような者共を、彼女とて許してはおけぬのだ。
「死者と、それを悼む人々に、私利私欲のために狼藉を働く――そんな蛮行を見過ごすわけには参りません。奪われる物の苦しみを知りなさい」
 セレナリーゼの攻撃はアダムルスや炎火のように、無双の巨大武器による迫撃というわけではなく、ラグやペルのように格別に疾いわけではない。
 しかし、彼女のクロックウェポンには、他のナンバーズが及ばぬ特色がある。
「ミトロンの書の一撃は、少しばかり痛いかもしれませんよ――」
 それは、攻撃範囲だ。
 天から光の雨が降った。
 一本一本は細く、地に突き立つような光の雨が、その範囲にいた浪人らの身体を貫き、その場に縫い止める。
「ぐあっ!?」
「ぬっ、」
「なんの、これ、……しっ、」
 最初の光だけならば、身体をいちど穿たれた程度で済んだろう。しかし、それと軌道を同じくして、更に光が降る。今度は光量も、熱も比べものにならぬ。
 最初は耐えるようだった呻き声が、直ぐに絶叫に代わり、光に焦がされるように消え入った。最初の光条は差し詰めロックオン・マーカーと言ったところか。広域に渡り、無差別に注ぐ光の柱は、セレナリーゼの気性とは真反対のものに見えたが――
 慈愛と苛烈さが裏返るのみで。全てに平等に世話を焼く所に関しては変わっていないのが、或いは彼女らしいのかも知れなかった。
「――眠りなさい。せめてその先で、罪を濯げますように」
 祈るように手を組む巫女を見ながら、傍らのビリウットはようやくバロウズの銃口を下ろす。
 戦闘音は僅少になりつつあった。これ以上、野山を銃声で騒がすこともあるまい。
 蓋を開けてみれば、予想できた結果だ。
「──そうとも、我々に敗北はありえないのさ」
 視線の先。
 誇るでもなくソールの大鎚を掲げる結社の長の背中を見て、ビリウットは拳銃に戻したバロウズを収めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
【アドリブ連携歓迎】

弘法筆を選ばず。良き得物を求める気持ちは共感するけれども、飽くまでそれを生かすも殺すも使い手次第。
どれ、腕前の程をみてやろうじゃないか。

黒鉄機人を前面に出し、【グラップル、フェイント、カウンター】による格闘戦を展開。もし仲間が囲まれていたり押されていたら【かばう、捨て身の一撃】で救い出そう。
ボク自身は『観月』を使用して【援護射撃、スナイパー】で支援しよう。
相手は刀使いだからね、繰り糸を切られぬように注意しよう。
そうなった場合、攻撃は【激痛耐性、覚悟】で耐えつつ、「叛逆せよ〜」を使用。また、押し込めると判断した際も同様。一気呵成に畳みかけよう。
刀の前にまず心技体を鍛えようか?


パーム・アンテルシオ


ここでお侍さんなら、いざ尋常に…って、斬り合うんだろうけど。
生憎、私は、そういうのじゃないんだ。
相手の得意を潰してこそ、戦い。そうだよね?


近づけなければ。触れなければ。どんな刀も、なまくら以下。
距離を取って、狙い撃ちで仕留めていくよ。

ユーベルコード…崑崙火。
正面から、百。防がれたって構わない。
横から、五十。避けられても大丈夫。
下から。上から。後ろから。残りの、五。

防御も、回避も、相殺も。その事象に集中してこそ出来る事。
飛び込んだ着地点から。足を止めた空から。刀を構えた、その後ろから。
虚を突いて、確実に仕留める。その為の、五本。


少しばかり、他人事じゃない気がするから。
世を厭う者たちに、平穏を。



●炎剣照らす、黒鉄の機人
 進む浪人ら、十数人からなる部隊を、距離を置いて茂みより観察する少女が二名。
 相対距離五十メートル。仕掛ける間合いまであと僅か。
「ま、良き得物を求める気持ちには共感するけれど、振るう刀を生かすも殺すも、飽くまで使い手の腕次第。――その腕前の程、見てやろうじゃないか」
 白髪の少女が無表情に言った。ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)である。ユエインは五指を合わせ、傍らにいる相棒――『黒鉄機人』を操る絹糸に、魔力を送る。鍛造されてより常に共にあったユエインの無二の相棒だ。機人は滑らかに関節を動かし、まるで生きているように歩き出す。
「話しておいたとおり、ボクの『黒鉄機人』が前衛を張る。後はボクら二人で後ろから支援攻撃をしよう。操り糸を切られると良くないから、背面を重点的に護れるといいと思う」
「わかった。……ここでお侍さんなら、いざ尋常に…って、斬り合うんだろうけど。私たちはそうじゃないもんね。相手の得意を潰してこそ、戦い」
 そうだよね、という風に妖狐の少女が微笑む。パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)である。彼女もまた、遠間からの戦いを得意とする猟兵だ。近接格闘は不得手である代わりに、種々の搦め手を扱う支援型の猟兵である。
「近づけなければ、触れなければ。どんな刀もなまくら以下。――始めよっか」
 パームは片目を閉じて装束の裾を打ち振った。パームの意志に従うように、虚空が燃えて炎の剣を形出する。炎の剣が茂みの中を赤々と照らし、敵にこちらの所在を告げると同時に、ユエインが黒鉄機人を前方に放った。
「ぬうッ、曲者!」
「駆け来る輩のみではないぞ、油断せず当たれ!」
 ユエインは敵の声を聞きながら、宙に放った絹糸十糸に魔力を注いで踊らせる。機人は暫時駆けると、ユエインの意図を酌んだように身体を撓め、宙に跳躍して浪人らへ襲いかかった。一足飛びで十五メートル、その機動力に浪人達が目を剥き仰天する。
「ぬああ?!」
 空中から流星のような跳び蹴り。一人の胸部を痛打、胸骨を砕いて戦闘不能にして着地。左右から振り下ろされる浪人の刃を、黒鉄機人は両腕を上げ前腕部でガード。金属製の籠手が火花を散らして刀を防ぐ。
 ユエインは五指をばらばらに動かし、黒鉄機人に蓄積した戦闘機動――コンバット・マニューバを連携させた。
 一。右腕を傾け、刀を装甲表面に滑らせるように流す。
 二。受け流せば敵が体勢を崩す。半歩踏み込ませ、重量の全てを肩に集中。
 三。胴に、肩部装甲を叩き込む。
 骨の砕ける濡れた破砕音がして、白目を剥いて浪人が一名、吹き飛ぶ。
 ユエインの指は止まらない。肩当てで一人葬った機人を、旋返しに反転させ、その脚で左手側から来ていた男の顔面を破砕。
「くっ、こやつは任せる、今暫し持ちこたえよ!」
「我らはあの茂みの敵勢を――」
 機人に更に三人ほどが群がり、残り八名は機人を避け、茂みの方に駆け来る。
「そうするだろうね。知ってた」
 応ずるのはパームだ。桃の瞳の瞳孔ががきゅい、と窄まり、敵に焦点を絞る。手を差し向けると同時に、空中に滞空する炎剣――『崑崙火』が射出された。一瞬にしてその数百。
「なんとッ!?」
「者共! 火怨を張れ!」
 かえん。浪人達の内に眠る血の炎か。刃傷を腕に刻めば血が溢れ、燃えた。燃え上がる炎が刀に這い上り、浪人らの刀を覆う。正面からの崑崙火の斉射を、それにより弾き、打ち落としながら浪人達は駆け来る。
 練度の高い部隊だ。只やられるだけではないという事か。
「でもね」
 パームは眼を細める。そんなことは、端から織り込み済みだ。
 走る男達の横合いから続けて五十、炎の剣の嵐が吹く。
「な、何たる手数ッ……!」
「ぎゃあっ!?」
「グッ、うう……!」
「怯むな、突っ込め! 戻れば御館様の刃が待つのみぞ!! それに火矢の影ももう見えぬ、打ち止めじゃ!」
 三人ばかりが首を、胴を貫かれて倒れるが、それでも未だ五人。
 走る敵の目と、パームの視線がかち合う。パームとユエインの姿――幼気な二名の少女――を前に、勝利を確信した風に浪人が凶暴に笑った。
「幽霊の正体見たりとはこのことよォ! 御命、頂戴ィー!!」
 五人の男達が肩を構え、藪を一跨ぎに跳び越えようとした刹那のことだ。
 真下。
 斜め上。
 後方。
 頭上。
 横手。
 音もなく飛んだ五本の炎剣――崑崙火、最後の二本が男達の顎を、胸を、背を、頭を、こめかみを射貫いた。
「――か」
 防御も、回避も、相殺も。その事象に集中してこそ出来る事だ。なればこそ派手に見せつけ、尽きたと見せかけ警戒を解き――確実に、仕留める。
 どう、と男達の斃れる音を聞きながら、パームはユエインに視線を投げた。
「こっちはおしまい。そっちは?」
「すぐ済む」
 パームの問いにユエインは事も無げに応えた。
 機人の圧倒的な格闘能力の前には、浪人達も為す術がない。三名中二名を拳打と蹴撃で沈めると、更に一名に低姿勢から伸び上がるように襲いかかる。右手で顔面を掴めば、そのまま圧倒的な膂力で持ち上げ――超高熱発振機構を起動。
 それは絶対昇華の鉄拳、『サブリメンテーション・インパクト』――!
「があああああっ!!!?」
 白熱するほどの熱量が機人の掌に集まり、掴んだ男を灼き尽くす。
「終わり。……新しい刀の前に、まず心技体を鍛えないと駄目じゃない?」
 ひょいと肩を竦めるユエイン。
 パームは男達の骸に視線を投げた後、装束の裾埃を叩き、呟くように言った。
「どんな理由があっても、世を厭う人の平穏を妨げるのは許されないことだよ。……行こう」
 促し歩き出すパームに、ユエインもまた機人を呼び戻し並び歩く。
 遠くに未だ胴間声。合戦の夜は終わらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛


戦乱の世は遠い過去。
ひっそりと暮らす方々の生活を脅かすとは
随分と勝手なお話ですね。

刀とはそれ程に人を惹きつけるものなのでしょうか。
命を絶つ道具。美しい刀身には魔力が宿るものなのかもしれませんね。

とはいえ、
暴虐を許す理由にはなり得ません。

noctis、藍色の竜を夜星の槍へと変えて。
参りましょう。
剣戟は得意ではありませんが、
見切り、いなす事へ集中を。
乱戦となれば範囲攻撃で同時に相手取り、
連携の取れぬ相手の隙を縫って突き穿ちましょう。

刀を絡めとれれば懐へと飛び込んで、
怪力籠めた拳を叩き込みます。

私、こちらの方が得意なんですよ?



●撃拳金剛、岩をも穿つ
 樹上より見下ろすは、七人からなる斥候の小班。目を爛々と輝かせ、我先にと村への路を駆ける浪人らが見える。
 三咲・織愛(綾綴・f01585)は刀使いではない。故、ただの刀にそれほどまでに焦がれ、人の命さえも脅かす者達の心の内側など、推し量りようもなかったが――人の命を絶つために作り出され、洗練された道具の有り様は、魔的な美を帯びるのやも知れぬ、とも思う。
「――とはいえ。暴虐を許す理由にはなり得ません」
 織愛は肩に止まった藍色の竜、ノクティスの顎をあやすように撫でた。主の命を受けてノクティスは夜星の槍へと形を変じ、織愛の手の内に収まる。
 間髪入れず木の枝を蹴り、眼下に迫る浪人の一群の前に降り立った。
「何奴!?」
「お答えするほどの名はありません」
 ゆるりといらえる声は柔らかいが、凜として響く。新たな敵手の登場に踏み止まり、刀を構え直す敵勢に、織愛は低姿勢から身を撓めて襲いかかる。
 男達もまた即応する。二人が前に進み出て上段より振り下ろしが来た。
 刀の軌道を見切り、織愛は竜槍をその軌道に割り込ませて斬撃をいなす。
「ぬうっ!?」
「ぐっ、相済まぬ!」
 片方の斬撃を、もう片方の刀と絡めるように払う。一対多数の戦闘に於いての個の有利とは一点のみ。誤射の心配がない、ということのみだ。それを最大限に活かしながら、織愛は槍の石突を遠心力を乗せて回し、先頭の二人組の脇腹を薙ぎ、吹き飛ばす。
「どうやら命が要らんと見えるな、娘ェ!」
 更に三名進み出、織愛を囲む男達。二人が織愛の前方、一人が後方を固める形だ。残り二名は戦線に加わらず隙を伺う。
「まさか。私だって、命は大事です。ですから、」
 ひゅひゅん、と槍を取り回し、構えを改めつつ、織愛は桃色の瞳を真っ直ぐに向けた。
「あなた達を全員倒して、進みます」
「吼えたものだ! 掛かれィ!」
 三方より繰り出される突き、袈裟斬り、振り下ろし。織愛は踊るように身を翻して背後からの突きを避け、槍の穂先で脚を刈り、つんのめったところを蹴り飛ばして袈裟斬りの男にぶつけた。袈裟斬りの刀が止まるべくもなく突きの浪人の頭を割るのを横目にしながら、踏み込んでくる男の振り降ろしを、両手で張ったnoctisの柄で受け止め――軋り合う。
「このまま真っ二つにしてくれる!!」
「出来ませんよ」
 織愛は、息の掛かるような距離で決然と言った。右手を槍から手放し、身体を左に捌く。傾いた槍の表面を刀が滑り、刀が流される。目を瞠る男の懐に潜り込み、織愛はコンパクトに振りかぶった右の拳を、闘志を纏わせて突き出した。
 肉を撃つ重い音がして、大の男が数メートルも吹き飛ぶ。瞳に光は既になく、胸にはくっきりと拳の痕――
 どう、と地面に落ちる浪人。即死であった。生き残ったもの達は息を呑み、瞠目する他ない。少女の拳の、その異常なまでの威力に。
「私、こちらの方が得意なんですよ?」
 可憐に笑う少女は、顔の横で固めた拳を見せるように振り、構えを新たにする!

成功 🔵​🔵​🔴​

ギド・スプートニク

シゥレカエレカ(f04551)と

サムライソード…
あぁ、刀の事か
斬れ味という観点で言えば優れた武器だな
流石に分野が違うのではないか、とも思ったが口には出さない
それこそ自分は門外漢
物作りにかけては私の口出す事ではないだろう

私も妖刀は使う
しかし私は剣士ではない
刀を扱う技術に関しては、そこらの浪人にすら劣るであろう

扱う得物は剣杖
敢えて抜かず、何度か斬り結んだ後に斬リ捨てられ

外道の成れ果てとは言え、人生を賭した剣技か
と称賛を
身体はそのまま霧に溶け、浪人の背後に具現化

剣の仕合いであれば貴様の勝利であったのだがな

刀を抜いて、ただ振り下ろす
相手の受けの太刀すらものともせず大地ごと両断
その総てを凍てつかせる


シゥレカエレカ・スプートニク
夫のギド/f00088と!



ついてきてくれてありがとう、ギド
わたし、一度サムライソードの造りって勉強したかったの!

(まあもちろんあなたにいいものを作ってあげたいからなんだけど、そんなこと素直に言ったら更に重い女と思われるかもだし…あくまでもインスピレーションを得て偶然、偶然思いついたていでいくのよ…理論は完璧なの、あと必要なのは技術、そして秀逸なサンプル…)

…あっいやっ、何でもないわ
そう、鍛冶師さんたちの里!ちゃんと守り切らなくちゃ!

喚んだUCは雷の精霊さん
ほら、みなさんいいしるべを持ってらっしゃるから
わたしの指揮も合わされば、的確に落ち葉を巻き上げる旋風みたいに
刀、ビリビリにしちゃうんだから!



●その刃を見て、生くるものなし
「ふふ、ついてきてくれてありがとう、ギド! わたし、一度サムライソードの作りを勉強したかったの!」
 華やいだ声がした。夜闇に鮮やかな、透ける蝶の翅持つ小妖精が宙を舞い、男の方を振り返る。可憐な容貌は未だ少女のようにも見えた。
 左右色の違う宝石のような瞳を笑みで縁取り、彼女は――シゥレカエレカ・スプートニク(愛の表明・f04551)は、くるりと後ろを振り向いた。
 対するは、黒髪を無造作に撫でつけた怜悧な容貌の男――ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)だ。秀麗な眉目、鋭い眦には強い意志が宿る。
 男は言葉の意味を図りかねるように二度瞬き、
「サムライソード……あぁ、刀のことか」
 意味を解したという風に、和語に言い換える。
「そうそう、カタナ!」
「確かに、切れ味という観点では優れた武器だが」
 ギドは、意気揚々と山道を飛ぶ妻を――そう、なんとこの二名、夫婦である――顎を撫でながら眺める。学問優秀容姿端麗、料理が美味く気立ても良い。非の打ち所がない女だったが、向学心が高すぎるのも考え物である。
 物作りを得手とする彼女のアトリエには彼女が作った種々の物品が転がっているが、今後そこに刀も加わることになるのだろうか……
(まぁ、門外漢が口を出すことでもあるまい)
 結局の所、妻が妻らしく、楽しげに生きていれば口を挟む所ではないのである。仰々しく愛を囁くことはなけれど、二人の左の薬指には、確かに光る愛の形がある。
「……そう……だから……完璧……理論は……」
「?」
 幅広い見識と学識を持つ彼の妻は、時折その思考を飛躍させたまま思索に沈むことがある。
 ギドは足を早め、妻のすぐ後ろで耳を澄ませた。

 もちろんそうよ、それもこれもあれもあなたにいいものを作ってあげたいからなんだけど、そう、そこよ、ただでさえ重いと思われてるかもなのにそんなこと素直に言ったら更に重い女と思われるかもだし……あくまでもこれはインスピレーション……刀の里で閃いて偶然、偶然作りたくなって出来たものをあげるわギド! 素敵に出来たの! って差し出すのが最高よね……さりげなく……飽くまであなたのために作ったというオーラは出さずに……今のわたしに必要なのは技術、そして秀逸なサンプル……
「シゥレカエレカ」
「あっえっ何?! 何かしらギド!」
「敵が来る。構えろ」
 ギドは耳に捉えた敵勢の足音を聞き咎め、シゥレカエレカの前に出た。駆け来る浪人、おおよそ二〇名。
「あっ、はあい! そうね、鍛冶師さん達の里! ちゃんと守り切らなくちゃ!」
 眼鏡の位置を直す妻。顔を伺えば、良かった、聞かれてない、と書いてあった。丸聞こえであった。
「ああ。――先駆けをする。後詰めを頼む」
 言わぬが華というものだ。ギドは山道下方より迫る敵勢へその身を躍らせた。
「む――貴様! そこを退け、退かねば斬る!」
「騒がしいな。これでは夜の血族でなくとも、おちおち寝てもいられない――やってみせるがいい、外道共」
 挑発めいた言葉を発し、柄に宝石を抱えた剣杖『玲瓏』をタクトのように振って、ギドは敵の攻撃を招く。
「よくぞ言った。ならば首を打って晒してくれる!」
 先頭を走る男が峻烈な斬り下ろしを放った。ギドは剣杖を抜かぬまま敵の刀と斬り結ぶ。二合、三合、打ち合う度、小柄なギドは剣圧に押され、踵で地面をじりりと削る。
「はン! 口ほどにもない! 斬られるためだけに出てきたならば、疾く我が手柄になれィ!」
 崖を落ちる滝水のような、強圧を伴う打ち下ろし。重く、そして速い。防戦一方となるギドは、しかして瞳の色を変えず言った。
「――外道の成れ果てとは言え、人生を賭した剣技か」
 研鑽を讃えるような言葉。それにも構わず、浪人が脇差を抜き、ギドの剣杖を払う。
「今さらの命乞いなど聞かぬわ、死ねェい!」
 逸れた剣杖の隙を狙い、片手での剛剣斬り下ろし。ギドの額から入った刃が、そのまま彼の股下までを一挙に両断し――

 しかし。
 血は飛沫かず、声もまた止まぬ。

“剣の仕合いであれば貴様の勝利であったのだがな”
 両断されたギドの身体が、蜃気楼のように揺らめき、ほどけるように霧となった。
「な……?!」
「莫迦な、確かに斬ったはず!」
 ギド・スプートニクは妖刀使いではあれど剣士ではない。刀の技では剣の鬼に及ぶまい。
        ノーブルレッド
 しかして彼は『高 貴 な る 赤』の血族たるダンピールである。
 故に、男に彼を殺すことは侭ならず。
「斬ったさ。誇るがいい。この私に一太刀くれたことをな」
 男の背後に霧が集まり像を結んだ。――ギドである。他の浪人が声を上げる前に、ギドは剣杖を抜剣。
 封ぜらし氷狼の魔力が迸る。殺気に男が振り向く前に、ギドは無造作に一刀を振り下ろした。
 一刀両断、――絶氷、荒れる。余波で周囲の草木が氷結した。
 男は即死。確かめるまでもない。ギドは落ち着き払って剣杖を納刀する。
「う、うおおッ! 化生、何するものぞ!」
 ギドの攻撃のあまりの威力に瞠目していた他の浪人らが、次々と怨念籠もる血を刀身になすり付け、火焔を纏った刀としてギド目掛け打ち掛からんとするが――
「高く高く掲げなさって――ほうら、精霊さん。みなさんいいしるべをお持ちだから。迷わず飛べるわね」
 鈴を転がすような女の声。シゥレカエレカだ。肌を震わすほどに空気が帯電し、宙にぱちり走った紫電を皮切りに、宙を無数の雷が走り、浪人達の刃を伝った。
「「「「「ぐああああああっ?!」」」」」
 空気を裂き走る雷が、文字通り万雷めいて鳴り響き、浪人らの悲鳴と重なる。
 シゥレカエレカの的確な支援を背に、ギドは再び剣杖の鯉口を切った。
 そして、謳う。
「――全て凍てつけ。私とシゥレカエレカが、貴様らの死出を飾ってやろう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレクシス・アルトマイア
さあ、さあ。
戦の時間ですね。
手早く仕留めてまいりましょう。

刃と刃の鍔迫り合いがお好みでしょうか
でしたら申し訳ありませんが…
その期待には応えられません

【時間短縮術】でその四肢を撃ち抜いてしまいましょう

援護射撃に二回攻撃。
容赦なく、正々堂々と。前から横から後ろから、
仲間のサポートをしつつ、効率よく戦いを進めていきましょう。

永海の妖刀がすごいということは分かりました
どきどきわくわくしてしまいますね

でも、貴方達はつまらない

飽和攻撃で返り血やアクションごと、反撃や相殺を封じ込めてしまうのも良いですし、
背後からずばずばっと暗殺していくのも良いでしょう

村の人々へのレッスンが待ってますので、手早く始末致します



●刃風、舞う
 踊るように、舞うように、銀髪の女がステップを踏む。後れ毛が翻り、月光を孕んで輝いた。彼女を取り巻くむくつけき男達に、彼女の両手が『恐怖』を『叫ぶ』――トゥー・ハンド、『フィア&スクリーム』。
 銃声、銃声、銃声、銃声、銃声、銃声。悪魔の舌のようなマズルファイアが闇を引き裂き、放たれたフル・メタル・ジャケットの銃弾が浪人達の四肢を食い破り穿つ。
「グウウッ!?」
「卑怯な!! 刀を相手に火縄を使うとは!」
「数を頼みにいらしているのに、卑怯というのはまた不思議ですね? 刃と刃の鍔迫り合いがお好みでしょうか――でしたら申し訳ありませんが、その期待には応えられません」
 アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)は常の笑みを消さぬまま言った。戦に卑怯も何もあるものか。制圧するために使う手段など、些末だ。手早く仕留められればそれで良い。彼女は鋼糸を使う、銃を使う、飛刀もナイフも使う。
 それらは全て。
 救いを求める誰かを、己に出来る最大効率で救ける為に。
「そんなに血相を変えて探されるくらいです。永海の妖刀がすごいということは分かりました。どきどきわくわくしてしまいますね――」
 撃ち尽くしたフィア&スクリームをホルスターへ噛ませると、アレクシスは両手に黒塗りのナイフを抜く。
「ですが、貴方達はつまらない。我欲のまま誰かを害して、欲しいものを手に入れようとするなんて――野山の獣でも、もっと節操があります」
 生きるために殺し、喰う。獣にさえその大義名分がある。アレクシスは男達を断罪するように言った。
「おのれ、我らを愚弄するか――!!」
 怒声すら意に介さず、アレクシスは状況を確認。自分を囲む敵一五名は、既に四肢のいずれかに銃弾を叩き込んだ。十全には動けまい。そう断じ、膝を撓めて駆ける。
       レイド
 ――まさに、侵 攻。
 黒の投げナイフを放ち、敵四人の喉、額を打ち抜く。頽れるその横を駆け抜ける。何とか捉えんと振り下ろされる刀を、新たに抜いたナイフで流しながら避け、そのまま一挙動で斬りかかってきた相手の首にナイフを叩き込み、殺す。
 後ろに回った敵が腰を水平に薙ぐように放った斬り薙ぎを、高々と背面跳びで回避。アレクシスはグローブの五指より鋼糸を放ち、倒れ伏す死体にめり込んだままのナイフを絡め取り、巻き上げて引き抜く。
 ――腕を一閃。
 巻き上げる動きと撓らせた糸が、ナイフを生きた刃風と化す。前から横から後ろから、容赦も慈悲も一切なく、刃風は男達に牙を剥き――
 アレクシスが再び地に降り立ったとき、そこにはもう、生きている者はいなかった。
「――それでは、村の人々へのレッスンが待っていますので」
 戦闘服の裾をつまみ、脚を交差して、聞くもののない礼一つ。
 従者は行く。この不条理を砕くために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

星鏡・べりる

よしっ、かかってこい浪人達!
私はこの里を助けて、良い包丁を作ってもらうんだ!
そしたら、料理も上手くなるよね?

んん~、これはあれだ。
銃を使うのは無粋ってやつだね。
それじゃ、久しぶりに我が愛刀……愛鋸?スクナちゃんの出番だね。
いざ尋常に勝負ぅ!

私の拷問鋸は!(しゅるりとリボンを解いて呪具解放)

1度斬り引けば、泣き喚き
2度斬り引けば、許しを乞い
3度斬り引けば、世を呪い
4度斬り引けば、死に至る

掠るだけでも巻き起こる、耐え難き呪いの激痛に身を捩れ!

などと、勢いよく言ったものの、私は別に剣の達人などでは無いので~
普通にやりあうと不利なので~
スカイステッパーで月夜を駆けて、敵を雑に呪い斬っていきま~す!



●呪い傷
 浪人達が寄せど寄せど、永海の隠れ里は静寂を保つ。
 攻める彼らは、この段になってようやく謎の敵の介入を悟った。
 ――何かが、我々の邪魔をしている!
 主から「警戒せよ」との伝令を受けた一部隊が、その命に従って慎重に進む先――

「よーし! かかってこい浪人達! 私はこの里を助けていい包丁を作ってもらうんだ! あとキッチン便利グッズとか! キャベツの芯とるやつとかピーラーとかね! ……そしたらきっと料理も上手くなるよね?」
 浪人達は眼前に立ち塞がった、緑柱石の瞳の少女を見た。余談だが料理の腕に関しては、多分包丁とか便利グッズより、レシピを見て、ちゃんとレシピ通り行動できる脳が重要だと思う。
「……何者だ? いや、……娘。そこを退けい。我々はこの先の村に用があるのだ」
「心なしか呆れられてる?! いやテンション上げてよ! 強敵の登場だよ!」
 栗毛を揺らしながら必死に訴える少女。名を、星鏡・べりる(Astrograph・f12817)という。
「おじさん達の得物に合わせて今日は久しぶりにスクナちゃんを使うんだから、感謝してよね。――さぁ、いざ尋常に勝負!」
 赤茶に錆びた鋸を持ち上げて、べりるは無造作にその呪いを封ずるリボンを解いた。
「――私の拷問鋸、スクナは。
 一度斬り引けば、泣き喚き、
 二度斬り引けば、許しを乞い、
 三度斬り引けば、世を呪い、
 四度斬り引けば、死に至る」
 軽やかに取り回される鋸が空を裂く。少女が語る鋸の業は、真に迫って山間に響いた。寒気がするほど生々しい、呪われた鋸のその効果。
「掠るだけでも巻き起こる、耐え難き呪いの激痛に身を捩れ!」
 べりるは軽やかに駆け、浪人達目掛けて突っ込んだ。
「やるというのならば娘とは言え容赦はすまい!」
「斬れ、斬れェい!」
 浪人達の剣術は実戦慣れした熟れた戦場剣術だ。それに対するべりるは――
「うわわわっ! そんな一気に来られたら困るんだけど!!」
 特に剣の達人という訳でもない。仕方ないのでユーベルコードを真っ向使う。
「困ったのでー、避けます!」
 地面を踏み切り、次の歩みで空中を踏む。跳躍。敵の目の前で、空気を踏んで突如斜め前に飛ぶ。
「なっ……!?」
『スカイステッパー』による撹乱。べりるは空中すら足場とし、銀月の光を孕んで宙を飛ぶ。擦れ違い様にスクナによって斬り付ければ、
「ぎっ……?!」
「あ、あああ、がああああっ!?」
「な、何、いいいいい、何をしたぁあッ……!」
 呪詛が襲う。傷こそ浅けれど、そこを襲う痛みはこの世ならざるものだ。蹲る男達に、べりるはくるりと宙返り、地に降り立って鋸刃の血を払う。
「さっき教えたじゃん、二回は言わないよ」
 肩に鋸の背を負って、ふふんと笑って言紡ぐ。

「さあ、おじさん達は何回まで耐えられるかな? 楽しみだね!」

成功 🔵​🔵​🔴​

花剣・耀子

戦場を求める心は良いけれど。
その戦端を、己の剣では開かない根性が気に食わないわ。
――掛かってきなさい、有象無象。
あたしの屍を越えられたなら、終刃に見える資格くらいは認めてあげる。

易く越えられると思って貰っても困るけれど。
この一角は任せて貰いましょうか。

見える限りの敵を斬り果たすわ。
立っていられたら、返して御覧なさいな。
あたしも首を落とされるまでは止まらないわよ。

なるべく猟兵は巻き込まないよう。
駄目だったら御免なさいね。避けて頂戴。

刀は道具よ。
遣い手の性質の善し悪しなど、道具には関係ないでしょうけれど。
それでも、相応しくあろうとするたましいは必要だわ。

……余所の話だけれど、他人事でもないのよ。



●花嵐荒れ、神守る
 駆ける浪人らの前に、ちいさな影が立ち塞がる。
 青い瞳に黒い髪。平均的な背丈の少女。
 太平のこの世、嫁入りを済ませていようかいまいかと言った年頃の少女は、しかし剣呑な武器を抜いた。
 浪人らに、それを称する語彙はなかった。ただ、はっきりと解ったのは、――それがおそろしいうなり声を上げたことだけだった。
 
「戦場を求める心は良いけれど。その戦端を、己の剣では開かない根性が気に食わないわ。尖兵を発して、しかも、襲う先は戦える者もいない山間のむらですって? ――剣の鬼が聞いて呆れる」
 花剣・耀子(Tempest・f12822)は右手に握った機械剣《クサナギ》のトリガーを引く。耳を聾する駆動音と共に、クサナギの刃が高速で回転し始める。
「掛かってきなさい、有象無象。あたしの屍を越えられたなら、終刃に見える資格くらいは認めてあげるわ」
「何をやいのやいのと――死にたくなければ退いていろ、娘!」
 敵は一団、九名ばかり。
 耀子は敵が発した言葉を無視するように地を蹴って踏み込んだ。先頭を走る男と、真っ向から斬り結ぶ。
 クサナギがエンジン音を、まるで楽しんでいるかのような調子で跳ねさせた。火花が弾け、刀にクサナギの刀身が食い込む。
「は――?」
「一人目」
 耀子は躊躇なく腕に力を込めた。クサナギの刃が高速回転による摩擦剪断力で浪人の刀を圧し斬り、身体をも袈裟懸け、真っ二つに斬る。その血が溢れて燃える前に耀子は男の横を抜けた。
 少女は『花剣』――Tempestの名を持つ。嵐に吹く風の如く、次の敵に襲いかかる。
「速い……?!」
「あなたたちが遅いのよ」
 まさに、嵐だ。
 窓壁を揺らす、荒れる風の如き音を立ててクサナギが翻り、浪人らの首を身体を斬り裂いて血を撒き散らす。ごうと燃え上がる浪人の血を、踏み込む速度で弾き、身体の周りに炎を捲きながら耀子は駆ける。
 彼女の行動原理はただ一つ。『見える限りの敵を斬り果たすこと』。
 その動きに迷いはなく、ただただ、一本の鋼の如く鋭い。

 ――刀とは、ただの道具だ。意思持つわけもない。
 それこそ遣い手の性質の善し悪しなど、道具が考えることもあるまい。
 ……しかし、それでも。
 技を尽くして編まれた、稀代の名品に対して。
 相応しくあろうとするたましいは必要であろう。耀子は思う。

「――薙神は、あなたたちには相応しくない」

 地面を削り飛ばしながら耀子は着地。ほぼ一瞬で六名を斬った。
 なおも襲い来る三名、そしてその後ろに迫る次の一団目掛け、彼女は眦を尖らせ――

「花嵐、最大戦速。《ヤクモ》起動」

 クサナギの背の推進器を解放し、今一度。
 鏖殺の風となるべく、少女は得物の引金を引く!

成功 🔵​🔵​🔴​

四辻・鏡
妖刀専門の刀鍛冶……他人事じゃねぇ、謂わば私らの親みてえなもんじゃねぇか
それらが襲われるってんなら、黙っちゃいられねェな?
ちょいと、人が語る鬼とやらを拝みにいくか

ヒトなんざ、身勝手さ
勝手に噂して尾鰭をつけやがって、勝手に敬い畏れる
…ま、それが元で戦えるなら歓迎だがな

【錬成カミヤドリ】で匕首を周囲に浮かべる陣形を組み
複製一本を握り、得物として斬り込むぜ
間合いは少々物足りないが、斬れ味はお墨付きだ

刺して抜く時間なんざ惜しいね、そんな暇あったら次の複製で斬りかかるさ
念力で後で元の陣形に戻せんだろ
敵の攻撃も同じく周囲に浮かべた匕首で受け止め

それこそ刃尽きるまで、ってな?
精々楽しませろよ、人の鬼とやら



●妖刀に曰く
「妖刀専門の刀鍛冶、ねえ。――謂わば私らの親みてえなもんじゃねぇか」
 女は、ぽつりと呟いた。
 各所、次々と投入される浪人の群と、猟兵との激戦が行われる中。細道を一人守る彼女の前にも、やがて数人の浪人が駆け来る。
 遠目に、既に血を流し、身体にほむらを纏う男達を見て、四辻・鏡(ウツセミ・f15406)は着物の裾を振り捌き直した。
「親殺しは見過ごせねぇよ。さて、あれが『鬼』かい」
 駆け来る敵。その瞳にはぎらぎらとした殺意だけがある。或いは既に猟兵と交戦したのか、その全身は血に塗れていた。彼らの血は怨念の血。その呪詛に従い、炎が迸らす呪いの血だ。
 男達の手のうちで呪怨の炎に炙られる刀を、鏡は見つめる。
「ヒトってのは勝手なもんだ。そうやって道具を使い潰して、使い捨てるくせ、一方では勝手に噂して尾鰭をつけやがって、勝手に敬い畏れる。ま、それが元で戦えるなら歓迎だがね」
 焼ける鋼を哀れとは思うまい。道具は、使い手を選べない。
 ――ただ、同じ道具として、全力で打ち合うてやろうと思うのみだ。
『錬成カミヤドリ』。頬に手に龍鱗持つ女は、自身の周りに十本の匕首を召喚。その内の一本を手に取り、駆けた。間合いこそ足りないが――これらの匕首は、鏡自身の複製である。
 四辻・鏡は匕首のヤドリガミ。嘗て鬼を斬ったとも、龍を斬ったとも噂される鋭い刃である。
「オオオオオオオオオオオオッ!!」
 男達は、最早『退け』とすら発さぬ。ただ前へ。里にある刀を手にし、主君へ渡そうと。その思いだけが先走り、進路の全てを薙いで走らんとする。
 そこに鏡が割り込んだ。真正面から突っ込み、振り下ろされる炎刀を真っ向から匕首で受け止め、受け流す。
 流しながら、もう片手で宙より掴み取った匕首を心臓に突き立てる。
「が……!」
 呻き声、膝から崩れる男にそれ以上かかずらうことなく振り捨て、鏡はすぐさま次の敵に襲いかかる。新たな刃を宙より手に取り、右、左と一本ずつ投擲、更に二人の男の喉に突き立てて裂く。
 叫びが血の泡になって、弾け散る。
 まだ、敵は尽きぬ。見えるだけで五人、その後ろからも声が聞こえてくる。
 これよりあとも幾人もが鬨の声を重ね、村を目指して殺到してくるだろう。――しかし鏡が恐れることはない。死体から念動力で刃を引き抜きながら、女は不敵に笑う。
「そっちが兵が尽きるまでってなら、こっちも刃尽きるまでってな。――さぁ、精々楽しませろよ、人の鬼とやら!」

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『乱世の名将』

POW   :    八重垣
全身を【超カウンターモード】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    八岐連撃
【一刀目】が命中した対象に対し、高威力高命中の【七連撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    永劫乱世
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【復活させ味方】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●魍魎征伐『八束百鬼夜行』
 ――最早、幾人を斃したか。それすら曖昧となった頃。
 不意に、山の中腹、最も大きなぶつかり合いがあった地を、ずうんと重たく濃密な殺気が包んだ。
 中天に座す月の光を浴び、一人の男が姿を現す。
 背は高く、笑う赤き鬼面。八本の刀を背に腰に佩き、自信に満ちた足取りで進み出る。
 それに粛々と、声もなく続くのは、焔に燃える浪人達。あるものは全身から血を流し――あるものは骨を残すのみと、とても生きているとは思えない有様ものもいた。目と流す血ばかりが赤々と燃え、剣鬼の後ろに従い、歩く。
 男が踏み出すたび……戦場に散らばった死者が、ゆらりゆらりと立ち上がり、鬼面の列に参ずる。

 それは葬列に似ていた。
 戦果て、死して尚、剣舞に参ずる死者の列。

「なるほど、猛きもののふらが居たと見える」
 先頭に立つ男は、それまでの浪人らのものとは、桁違いの威圧感を放っていた。今までの浪人ならば、精鋭の猟兵達ならば鎧袖一触で蹴散らせたことだろうが、今度は違う。
「刀を奪って終わりのつもりだったが、これは思わぬ興があった。――もののふらよ、名を聞こう。某には名乗るほどの名も残ってはおらぬが、呼ばわるならば八束(ヤツカ)とでも呼ぶがいい。我こそが、八本刀を束ねる将器よ」
 ずらり、と男は刀を二本抜いた。一の太刀、斬丸。二の太刀、風刎。
「よくぞ、よくぞ、我が軍をここまで留め戦ったもの。敬意を表して某と、七代永海・筆頭太刀がお相手仕る」
 浪人が振るった数打ちか、あるいはろくに手入れの成されていない刀の輝きとは根本から異なる。冴え冴えと輝く二本の刀は、なるほど妖刀と呼ぶに相応しい俊麗な煌めきを帯びていた。
「怖じければ背を向けても止めんぞ。ならばこのまま進み、すべて鏖殺して薙神をこの手にするまで。――こうまで戦い、抗ったとあれば、貴公らにはそうするだけの価値があったと言うことであろう。或いは、某と同じく薙神を手にせんと求むるか」
 それを疑ってもいない調子で、『八束』は言う。二本の刀を構え、低く、腰を落とした。
「いずれにせよ某は進みたい。貴公らは阻みたい。ならば最早、打ち合い太刀合う他あるまいて! さあ剣を抜かれよ、各々方! 此処がこれより乱世ぞ!!」
 進み出し、剣鬼『八束』が謳い吼え。
 怜悧に光る銀月の下、死したる軍が鯨波の声を上げた。
 怨念劫火に烟る行軍、ごうごうと火を上げて夜空を焦がし、青々とした夜の森を戦の地獄へ変えてゆく!

 ――業禍剣乱刃傷絵巻、終幕!
 魍魎征伐、『八束百鬼夜行』!

 いざや、いざいざ!
 魔穿鐵剣、尋常に!



 ――――――勝負!



≫≫≫≫≫MISSION UPDATED.≪≪≪≪≪
【Summary】
◆作戦達成目標
 八刀流の剣鬼『八束』の撃破

◆敵対象
『八束』×1
 屍浪人×多数

◆敵詳細
 八刀流の剣鬼『八束』
 七代永海・筆頭八本刀を収集する乱世の名将。
 斬丸、風刎、嶽掻、妖斬、穿鬼、煉獄、玉塵の七本を蒐集し、志半ばで戦に斃れた過去の残滓。
 剣の冴え、技共に超一流の剣豪である。
 剣と武に生き、それにより身を立てて、
 剣と武に尽し、それにより身を滅した。
 嘗て集めること叶わなかった、八本目の永海の刀を求め、隠れ里を襲撃しようとした張本人。謀りごとは得意でなく、ただの力の権化として動く怪物。
 力あるものに敬意を払い、抗わぬ弱き者はただ殺す。
 力が全てであり、それを否定する者は己が力で断つのみ。

◆戦場詳細
 山間の開けた広場。平坦であり、足場に不安はない。
 屍浪人は怨念の炎を纏うが、森に延焼することなどはひとまず考えずに良さそうである。範囲攻撃も気兼ねなく使えるだろう。
 ただし木の類は疎らなため、鋼糸に類する武器で空間戦闘を行う場合、工夫が必要そうだ。
 
◆プレイング受付開始日時
2019/04/09 08:30:00
現夜・氷兎

こうした戦に身を置くと、どうしても己が角持つものであることを思い知らされる。
知の楽しみと異なる、血の愉しみ。変わらない、変われないとはこの事だ。今きっと、僕は心底愉しげに笑んでいるのだろう。全く、嫌になるね。嫌いではないのが、また。

振るう力は『千々の夢跡』。
死した軍勢を氷の【属性攻撃】で【なぎ払い】斬り断ち、幾度でも道を拓く。二度も死んだ者が、邪魔をしないでおくれ。
【怪力】【鎧無視攻撃】【見切り】【第六感】【戦闘知識】、持てる力の全てを以て、剣の鬼と相対しよう。彼は人気者だろうから、少しでも打ち合えたら幸い、かな。
けれど、もし此の刃が届くのなら。
愉しませて貰うよ。さいごまで。


草間・半蔵
アドリブ歓迎

八束と戦う人が戦いやすいように
浪人の数を減らす
邪魔させない
低く吠えて『恫喝』同時に自分に気合いをいれて
『ダッシュ』で距離を詰める
誰かの邪魔をしようとしてるヤツがいたらそいつから
「廻れ!」
【獄炎転臨鍵・心法】で自身強化して
大剣をぶんまわし刀を弾く
続けて回して『二回』
今度は『鎧を砕く』ように叩きつけて
遠くの敵にはダガーを『投げて』牽制
狙いは手首

アイツらの血は燃える
オレの血も燃える
戦いながら
同じものなんじゃないかと自問自答
答えがわからないなら斬って確かめよう
幾つ斬ればわかるかわからないけど
邪魔するヤツらはそれなりに
代償は痛いけれど
お前らを全部倒して
オレはオレ知る…!


セレナリーゼ・レギンレイヴ

【結社Ⅵ-Ⅸ】
あれが敵の首魁ですか
かつては高潔な武人だったのならば、あんな無様な姿をさらし続けるのは酷でしょう止めて、差し上げねば

しかしながら、周りに見える人影
嗚呼、ペル様
私も同感です
死んだものを起こして戦わせるなど、かつて誰かが見たカタチをそのまま動かすなど
あってはいけないこと、なんです
時間を、どうか私にください
信じていますよ

ミトロンの書を開き、【祈る】のは死後の安寧
自然の摂理に反した者をあるべき場所に還す術式
安らかに、と祈る資格はないのかもしれませんが、それでも

確かに私ではかの剣鬼を止められないかもしれません
けれども、私には信じる仲間たちがいますから

雑兵は一人たりとも割り込ませはしません


シズル・ゴッズフォート
【POW】
力を求めるのも結構。ですが、平穏を望む者も居るのも事実
……此処が乱世と言うならば、私より後ろは乱世に非ず
止めてみせましょう。我が名にかけて!

戦術は同じく剣と大盾での「武器/盾受け」を駆使した、防戦を中心としたもの
剣で斬り、いなし、時に盾での殴打や体術も交えつつ防ぎ、どうしても防げない攻撃は【無敵城塞】で受け止める
正道・基本に忠実な動きですから、彼程の剛の者であれば読みやすいでしょう。ですが、こちらも大凡どの動きが隙として狙われやすいかは承知の上
故に「野生の勘」で周辺のアンデッド含む、それらの攻撃を察知し確実に受け止め、他の猟兵の為に道を作り出してみせましょうとも

アドリブ、共闘歓迎


ペル・エンフィールド
◎【結社Ⅵ-Ⅸ】セレナリーゼちゃんと共闘
あれが妖刀……んーキラキラですけど冷たいキラキラですね
あれは要らないのです

それよりも周りのアレです!!
何で屍なのに動いてるですか!オブリビオン云々もですけど自然の理から外れてるですよ!
駄目、駄目なのです
屍は死んでなきゃ駄目なのです動いちゃ駄目なのです
悪い死体はペルがまた地獄に送り返すです!!
行くですよセレナリーゼ!
貴女の光と私の獄炎で屍浪人達を殲滅するです!

セレナリーゼの準備が出来るまで屍浪人達を引き付けるです
空中から引っ掻いて、ストラス大爪から炎を振り撒いて注意を引くですよ
セレナリーゼの準備が出来たようなら最大火力の炎を合わせて火葬するです!



●戦端、斬り拓く五矢
「征けい、征けい! 走り蹂躙し、指さえ動かぬようになるその時まで! 戦ぞ!」
 煽るように八束が叫ぶ。既に死したる浪人達は、何をも恐れず。己が血で燃え上がる刀を翳し、真正面から走り来る。
「あれが、敵の首魁ですか」
 セレナリーゼ・レギンレイヴ(Ⅵ度目の星月夜・f16525)が呟く。その過去など知る由もないが、かつては高潔な武人だったのやも知れぬ。骸の海に染め抜かれ、無様を晒し続けるのは続けるのは酷であろう。『ミトロンの書』を開きながら、青い瞳を痛ましげに細める。
「あれが妖刀……んーキラキラですけど冷たいキラキラですねー、あれは要らないのです……っていうか、セレナリーゼ! それより何より周りのアレです!!」
 隣でセレナリーゼに応じて喚くのはペル・エンフィールド(長針のⅨ・f16250)。呪炎の瀑布となって押し寄せる屍浪人達を示し、ペルは憤然と言った。
「何で屍なのに動いてるですか!オブリビオン云々もですけど自然の理から外れてるですよ! 駄目、駄目なのです、屍は死んでなきゃ駄目なのです動いちゃ駄目なのです!」
 屍浪人は最早自分で考えることも、言葉を発することもない。威嚇の意味しか無い咆哮と、我武者羅な剣を振るう腕、前に進むという単純な意思と共に駆動する脚……その集合体だ。死に対する冒涜と言ってもよい。
「嗚呼、ペル様……私も、同感です。死んだものを起こして戦わせるなど、かつて誰かが見たカタチをそのまま動かすなど。あってはいけないこと、なんです」
 セレナリーゼは形のいい眉を下げ、ペルの言葉に苦しげに応えた。
「どうか、私に時間をください。……ミトロンの書で、私の祈りを増幅して届けます」
「もちろんですよ、セレナリーゼ! 貴女の光、私の獄炎があれば、亡者の群なんて一網打尽です!」
「その話、オレも乗った」
 鉄塊剣をぐん、と振り、横合いで構えを取るのは羅刹の少年、草間・半蔵(ブレイズ・ハート・f07711)。彼もまた、八束との白兵戦を指向する者達の為、端から周りの浪人の数を減らすべく戦うことを決めていた。
「人手は、多い方がいいだろ。皆の邪魔は、させない」
「そういうことならご一緒しようか。この数だ、彼の言うとおり、幾人いても困るものではないだろう」
 現夜・氷兎(白昼夢・f15801)もまた抜刀。月を映す怜悧なる蒼刃『薄氷』をだらりと下げて、ゆらり、進み出る。
「力を求めるのも結構、ですが、平穏を望むものがいるのも事実。――守りましょう。この大盾でお力添えします。時間を稼げ、というのは得意です――此処が乱世と彼奴が言うなら、私より後ろは乱世に非ず」
 最後の一人。バスタードソードを抜剣し、シズル・ゴッズフォート(キマイラのパラディン・f05505)が名乗りを上げる。五人の猟兵らは頷き合い、互いの容姿を目に刻み込む。
「――信じます、皆様。どうか、ご武運を」
 セレナリーゼは目を閉じて囁くなり、ミトロンの書より手を離す。ひとりでに浮いた魔導書のページが手すら触れぬままにパラパラと捲れ、力あることばが宙に曳光する。
「始めましょう」
 手を組み、祈りを捧ぎだすセレナリーゼを背に、四人の猟兵が弾けるように前進する。

「ゥオオオッ!!」
 獣の如く低く吼え、先ず飛び込むのは半蔵だ。彼は真っ先に突っ込みながら、心の裡の鍵を回す。
「骨肉の枷、呪血の転輪、心炎の火車! オレは人だ――けれど、奮う力は鬼のもの! 廻り廻れ、獄炎転臨鍵!!」
 琥珀の瞳が炎めいて燃え上がる。羅刹の血が、身を流るる地獄の炎が、半蔵の身体を沸騰させる。心音は早まり、身体の熱は上がり、無双の剛力が溢れ出る。ともすれば理性を失いかねぬ力を律し諫めるは彼の『人としての心』。それが欠ければ彼は制御不能の鬼に堕すであろう。
 劇薬にも似た力であった。それは毒めいて身を苛むが、半蔵は構うことなく得た剛力にて鉄塊剣を振るう。
 ぶおうっ、と音。鉄柱めいた黒き剣が戦風を裂き、敵勢先頭の数体を一気に薙ぎ払う。ばらばらになった肉と骨片が、まるで大砲に撃たれたあとのように飛び散った。さながら半蔵は、砲弾と言ったところか。
 すぐに後続が襲い来る。半蔵は己の体重と常人離れした膂力の双方を用い、鉄塊剣を木の枝のように振るい扱う。殺到する刃を先ず一閃、鉄塊剣の剣身で折り潰し弾き飛ばし、力の限りにもう一閃。またも数人が砕け吹き飛ぶ。
 屍浪人達は怨念の血を流し、己が身体を蝋燭のように燃やしながら進み来る。半蔵を取り囲み、一度で足りぬとあれば何度でも押し寄せ、屍浪人達は刀を振るった。
 斬撃が、はたまた剣が纏った怨みの炎が、半蔵の身体を傷つける。滴り落ちる血、躰を襲う激痛。しかしその何れも、半蔵の脚と手を止めること叶わぬ。
「祓え獄炎!」
 身体から溢れる血を鉄塊剣に纏い付かせ、力の限りに振り回してなおも寄せる浪人らを焼き砕く半蔵。砕け飛び散る屍、宙に飛んだ頸のうつろな目と半蔵の視線がかち合う。
 己の血は地獄を映したかのように燃える。浪人達の血もまた同様だ。そこに如何ほどの違いがあるだろう、と半蔵は内心呟くも、それは答えの出る問いではない。
 今はただ、斬るしかない。目の前に押し寄せる敵を斬って斬って屍山血河を築き上げよう。如何ほど斬れば答えを得られるかも解らない、或いは全て斬っても解らないかも知れない。
 それでも、今こうして刀を振るうことで、誰かが救われるのならば、半蔵が立ち止まることはない。己の中で荒ぶる鬼を、人の心で律して縛り、彼は駆ける!
「お前らを全部倒して……オレはオレを知る!」

「無茶をする――荒々しい戦い方だ。ああ、解らなくはないけれどね。大合戦だ。脚が弾まぬわけもない」
 小型の竜巻の如く暴れ回る半蔵の脇を固めるのは氷兎。半蔵と同じく羅刹の身である男は、こうして戦に身を置く度、どうしても己が角の事を思い出す。
「全く、嫌になるね。嫌いではないのが、また」
 ちらり、走らす視界の隅。薄氷に映る顔は、心底楽しげな笑みに歪んでいた。
 知の楽しみと異なる、血の愉しみ。変わらない、変われないとはこの事だ。鬼であるが故、戦に沸き躍るその心を留め置くことなどできはしない。如何にひととして生きようとしても。かれは、『鬼』だ。
「二度も死んだ者が、生者の邪魔をしないでおくれ」
 氷兎は半蔵が振るう刀、その大振りの一撃と一撃の間を繋ぐように駆けた。
 斬撃は夢空を破る目覚ましの音に似て飄、飄と鳴り、銀閃一陣吹けば首が一つ飛ぶ。敵がどっと数を増して押し寄せたならば、すぐさま距離を取って指揮するように刀を振った。中空の水分を軋ませて析出する、畳針の如き氷の飛針。その数一瞬で百を超え、
「眠らせてあげよう。もう、炎を掲げることもない。既にキミ達は死んでいるのだから」
 氷兎の号令一下、天空から注ぐ雹のような音を立てて氷針が宙を穿った。一瞬の面的制圧に怯んだ先頭の敵目掛け、半蔵が即座に反応してダガーを投擲し、その手首を刈り飛ばしながら突っ込む。屍浪人達が押し寄せる怒濤だとするのならば、彼ら二人は荒駆ける消波の礎だ。
 屍浪人らは名の通りの死骸。それも、過去の残滓がもう一度死んだだけのもの。世界の輪廻から外れた三千世界の染みに過ぎぬ。
 あるべき姿に戻してやるだけだ。死者が行軍するなどと――悪夢もそろそろ、見納め時だろう。
 氷兎は半蔵に続いて最前衛に駆け、薄氷の刃で屍浪人の粗末な甲冑の間を縫った。頸が腕が脚が飛び、吹き出た血が噎ぶように怨嗟の炎となって吹き荒れる。それを些かも浴びることなく氷兎は刀を振るう。
 振り下ろされた刀を飛葉の如き歩法で舞い避けては、身を廻すその回転に沿い刀を振るい、膂力と技で一息に四人の首を刎ねる。ただの薙ぎ払いかに見え、そこには歩法と体重移動、常人ならざる膂力、全てが詰まっていた。まさに絶技の域である。
「将には見えられずとも、道を拓くことくらいは出来るだろう。――愉しませて貰うよ。さいごまで」
 薄く笑い、氷兎は焔血纏う薄氷を血振りした。

「まさに戦鬼といったところですか」
 後ろからシズルは、その様を俯瞰している。
 彼女の役割はペルと共に、半蔵と氷兎が討ち漏らした浪人達を水際で止め、セレナリーゼに攻撃を至らせないための、最後の水際の守りだ。
 その戦法はいかにもシンプル。炎も氷も、魔法も魔術も、超技術もない。
 彼女が持つのは大盾と剣。そして冴えに冴え渡る勘働きと、その類い稀なる防御技術だ。基礎にして盤石。正道にして王道。
 前方、三人の浪人が駆け来るのを見て、シズルは前進する。彼岸蝶の大盾の切っ先は刺突に適するよう尖り、研がれている。その全長は刀のリーチを上回るほどだ。籠手纏う左手による盾の刺突、真っ向から顔面を穿たれ一人がひっくり返る。
 残りの二人がそれに立ち止まる訳もない。彼らも既に骸だ。何を恐れようか。振りかぶって振り下ろす、ただそれだけの単調な攻撃を、シズルはバスタードソードを掲げて剣先を軋り合わせながら受け流す。
 至近まで距離を詰めて、引いた盾で一人の顔面を殴り飛ばした。
 剣先を有効部位に当てるには、いかな達人とて一定の距離を要する。盲に刺すというならともかく、拳で殴り合うような近距離では盾による格闘戦が優位に立つことをシズルは知っていた。一体を殴り飛ばしてもう一体にぶち当て、動きを封じつつに突撃、バスタードソードで二体纏めて貫殺する。
 串刺しになった骸を蹴り飛ばすように剣を抜くなり、前方に敵十体弱が徒党を組んで駆け来る。構えを改めるシズルの前で、屍浪人は思わぬ行動に出た。
 味方一体の身体を、各々の得物でズタズタに裂いたのだ。
「な――」
 息を呑み、驚愕に目を開くのも一瞬。シズルは冴え渡る勘働きにてすぐにその意図を察した。噴き出す血が炎となるのならば、それを用いた攻撃が来るのは自明。
「――抜かせません。我が盾は何者をも通さない!!」
          アイギス
 今一度、彼女は青き神 の 盾となる。
 浪人達が一人を生贄に、赤々と憎悪の炎を燃やし、刀を振るい、血風荒れさせ作り上げるは壁とすら見紛う焔の嵐。
 後ろで祈りと詠唱を重ねるセレナリーゼの前に立ち塞がるように仁王立ち、シズルは彼岸蝶の盾を地面に突き立て、完全防御の構えを取った。
 ――止めてみせる、我が、ゴッズフォートの名に懸けて!
 シズルは決意に満ちた声で吼えた。全てを灼き尽くすように押し寄せる炎嵐が、シズルの絶対不可侵の構えの前に、呪うように唸り鳴き、左右へ分かたれ吹き荒れる――!

「止まった……!」
 ペルもまた空に舞い上がり、当に猛禽の如く急降下と攪乱攻撃を繰り返して、前方から襲いくる屍浪人らを迎撃している。彼女は鷲と木菟、そして人との混ざり物。かつて喪われた下肢を灼熱の炎で補い、それを義骸――『ストラスの大爪』で覆うハーピィである。
 ストラスの大爪は『圧』を操作するクロックウェポン。地獄の炎と化した彼女の下肢の出力を調整し、ともすればかつて脚が存在した頃よりも自由な空を彼女に与えたもうたもの。
 多数の敵が徒党を成して繰り出した渾身の一撃をシズルが防いだ、その瞬間の隙を見逃さずにペルはその一団目掛け飛んだ。
「悪い死体はペルがまた地獄に送り返すです!!」
 急降下の速度は最早音速を超えている。空気の壁を突き破り、ストラスの大爪より紅いヴェイパートレイルを曳いてペルは墜ちた。ストラスの大爪から発される炎は白熱し、その温度の高さを告げている。
 急降下からの蹴撃が槍の如く一体の頭を穿った。翼を羽撃き姿勢を制御、迎撃に繰り出される刀を大爪の装甲で火花を散らしつつ受け、片足の大爪より瞬発的に炎を噴出、スラスターの如く用いて廻転。
 もう片足の大爪の出力を上げ、炎の刃の如く伸ばし、襲い来る周囲三体をまとめて焼断する。着地。
「セレナリーゼ! あとどれくらいですか!」
「あと十秒、ください!」
 返る答えに決然と頷き、ペルは敵に向き直る。
 正面から今ひとたび、刀に怨炎を纏わせ襲い来る四体。蹴りと共にストラスの大爪から炎を拡散させ目眩まし。地面を蹴り低空を翔け、ペルは畳みかけるように炎爪での連続格闘攻撃を放つ。
 一打、打ち合う刀を焼き切り、二打、開脚しての双脚蹴りで二体の顎を貫き。翼を打って宙で前転、踵落としめいて振り下ろす炎爪にて一体を両断、地面に足をつけるなり跳躍、身体を捻って、揃えた両足をもう一体に、ドロップキックめいて叩き付ける。炎を瞬発的に噴出。爆圧で上半身を千々にされ、吹き飛ぶ屍浪人。
 瞬く間に四体を解体し、セレナリーゼのカウントに合わせ、再び地を蹴り空へと舞い上がる!

 ――祈りは死後の安寧のため。
 セレナリーゼは幼い頃より、祈祷を捧ぐことを宿業として育てられた巫女であった。猟兵として行動する前、育ての親であった部族に庇護されていた頃より、彼女にとって祈るとは日常的な行為だった。
 そのためか。『結社』という異常者集団のただ中にあって、セレナリーゼはミトロンの書に選ばれた。祈りを捧げ、契約することで奇跡を成す身トロンの書とセレナリーゼは、当に誂えたような相性であった。
 得た力で、今日まで戦い続けてきた。たった一人の姉を守るため、セレナリーゼは脅威を滅ぼし続ける。
 時には生者を殺めることもある。或いは他の構成員――ナンバーズが、手を血に染めるその助けをすることも。幾度も殺した自分に、死後の安息と安寧を祈る資格があるのだろうか。セレナリーゼは一瞬だけ自問する。
「セレナリーゼ! あとどれくらいですか!」
 自らを呼ばわる声に、女は目を開いた。
 ペルが、敵の群れと戦いながら自分を伺っている。敵の大技から自分をかばってくれたシズルもまた、気遣わしげな目を走らせてきていた。
 前線では半蔵と氷兎が、今この瞬間も大立ち回りを演じている。無数とも言える死者の群れを、暫時とは言えこのたった五人で相手取り、先端を開こうという。

 ――資格が喩えなかったところで。
 祈ることを、やめられようものか。

「あと十秒、ください!」
 ひとりでにページが手繰られ、流れていくミトロンの書の文字列。
 セレナリーゼ一人の力では、あの八本刀の剣鬼を相手取り、止めることは出来ないかも知れない。
 けれどもここにはペルが、前で戦う仲間達が。そして、後詰めに控えた結社の短針と長針が、各々の武器を構える他の猟兵が数幾多といる。
「もう、迷わずお逝きなさい。導いて差し上げます。――行きます、ペルさん!」
 セレナリーゼは両手を天に掲げ、最後の聖句を諳んじた。
「了解ですよ!」
 詠唱はここに相成る。天から降り注ぐのは無数の光。自然の摂理に反した者をあるべき場所に還す術式である。墜ち来る光に貫かれた屍浪人が、次々と光に分解され、引き攣れた絶叫をあげながら大気へと還っていく。
 降り注ぐ光は生者へは何ら影響をもたらさず、半蔵や氷兎へダメージを与えることもない。
 光降り注ぐ中を、空を羽ばたくペルが高速で翔け、出力を全開にしたスラトスの大爪で、光が捉えきれなかった屍浪人らを焼き祓っていく。
 一人たりとも、これより先の争いに迷い込ませることはない。セレナリーゼの決然とした眦は、言外にそう語るかのようだ。

 ――次々と屠られていく屍浪人。道が開ける。
 八刀流の剣鬼の顔が、他の猟兵からもはっきりと見えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ラグ・ガーベッジ
◎【結社:ⅦーⅣ】

「やぁっとだ、やっと親玉をブチのめせるって訳だぁ!」
「ビリウットォ!トリガー引きっぱなしにしとけよ!」
刻器転身により喰らい尽くす者アポリオンへ変化
ビリウットに装備され黙示録の蝗の如く銃弾を吐き出し続ける
「穴だらけにしてやルァアアア!!!」

「刀だもんなぁ、近づくしかねぇよなぁ!?」
敵が接近し八岐連撃を仕掛けるのに合わせ、ビリウットに無断で己の姿を素早く再変身
枝分かれする木の様に銃身から刃を伸ばし、一撃目を己が受け止め続く連撃の全てを捌く

「ハッハァ!そうだこんな事俺にしか出来ねぇ!」
「テメェがどこに居たって、俺が喰らいついてやる!」

敵の位置や状況に適した武器へと独断で変身する早業


伴場・戈子
【結社Ⅰ―Ⅲ】◎
やれやれだねぇ。生憎こちとら、アンタたちみたいな刀の握り方もしらないような餓鬼どもの相手は何度やってきたかしらないよ!

任せときな、アダム!こちとら山と手はあるんでね!
真の姿の一端を解放して「アンチノミーの矛」の姿になるよ。
相手の刀がいくら名刀だろうと、アタシに受けきれないワケはないさ。
基本は守りに集中するけど、そうさね。相手が隙を見せたなら、相手のユーベルコードを真似て攻撃しようか。ババアからのささやかな意趣返しさ。うけとっとくれ。

誰に言ってんだい、“ぼうや”?アタシの心配なんて一万年早いんだよ!
刻器転身!


アダムルス・アダマンティン
【結社Ⅰ-Ⅲ】◎
まるで女を侍らすが如く武器を扱うとは、どこまで彼らを愚弄すれば気が済む気か
戈子、やるぞ。一つ、ナンバーズとして奴らに武器の扱い方というものを実演してやろう

アンチノミーの矛を手に、我らが担うは敵との対面、即ち陽動
押し切れそうで押し切れない、ギリギリの戦いを演出することでこちらに意識を傾注させ、それをもって敵に致命的な隙を作り出す
囮と気付かれようとも、意識を逸らせば鎧を砕かんばかりの刺突を繰り出してやろう

さて、この手の武器頼みの敵を戈子と共に相手にしたのはいつ以来だったか
久方ぶりとはいえ、しくじるなよ
行くぞ戈子、刻器神撃――ッ!


灰炭・炎火
◎【結社】……だけど別行動でもダイジョブ!

他の皆が連携するなら、あーしの役目は切り込み役!
皆が攻撃する、その隙を作るよ!

――――刻器神撃!
えーっと、ゾンビさん達さ。
もう一回死ぬことは無いと思うんよ
せやけ、あーしの前にだけはでちゃ駄目よ
バラバラになってしまったら、お墓も作ってあげられへん!
なるべくね、退いててね。

ニャメの重斧を持って、正面から突撃!
カウンター上等、あーしの力とあんたの頑丈さ
どっちが強いか、勝負やんね!


ビリウット・ヒューテンリヒ

【結社:ⅦーⅣ】

さて、心踊る強者の登場だね。
ちょうどいい。短針が経験を積む善い機会だ。
ラグ、私が使おう
君とバロウズ、どちらが強いか味比べをしようじゃないか(なんて、焚き付けてみたりしてね)

バロウズ、たらふく食べなよ
ラグとの二丁拳銃の為、大口径マグナムに変える
ラグを牽制、バロウズをメインのダメージソースにして射撃だ

おっとと、ラグ?防ぐなら防ぐといってくれたまえ
まあでも、助かった
防御は君に任せる。畳み掛けるよ?

追蹤魔術、起動
参照記憶はエンパイア
再現対象、大飢饉
渇きと飢えの苦しみを弾丸に込めて、ファイア!
さぁ、いくらでも身を固め、防御に徹するといいよ
狂おしいほどの飢餓に耐えられるのな、ね?



●刻器進撃
 セレナリーゼ達が光を降らせ、第一陣の屍浪人達を散らしたその瞬間、空いた戦線を五人の猟兵が走り抜けた。
 先陣を切るのは灰炭・炎火(“Ⅱの闘争”・f16481)。刻器“ニャメの重斧”――宝石で出来た巨斧――を携え、空を飛ぶフェアリー。
「えーっと、ゾンビさん達さ、もう一回死ぬ事はないと思うんよ。骸の海に沈んで一回、骸の海から出てもう一回、これからもう一回なんて、三回目やん」
 巨斧を片手で取り回し、肩に負いながら、快活な調子で言う。
「せやけ、あーしの前にだけはでちゃ駄目よ。バラバラになってしまったら、お墓も作ってあげられへん!」
 真っ向から八束を目指し飛ぶ炎火の前に、それでも忠告など無視して現れる浪人達がいる。
 彼女の役割は切り込み役。続く四人の血路を開くための先駆けだ。
「ちゃんと、あーし、言ったかんね……!」
 ニャメの重斧は、質量を増す斧。形状・体積はそのままに、密度だけを無制限に増加させる事が可能な、『質量増加』の特性を持つ。過去の使い手がこぞって能力を行使し、無制限に能力を行使した結果、今やニャメの重斧は、保管場所を考慮せねば置いただけで地面に沈み続けるほどの総重量を持つ、欠陥兵器となってしまった。

 誰も振るえなかった。持って歩くことすら出来ない、質量という概念を形にしたかのような斧。
 それに選ばれたのは、身長たった二〇センチあまりの炎火だった。
     コッキシンゲキ
「――――刻 器 神 撃!」
 炎火は背の翅から吹き出た炎をブースターの如く用いて、文字通り弾丸の如く飛んだ。筋肉が軋み、ニャメの重斧を支える。
 質量×速度。その答えがそこにあった。
 振るった斧が進路上にいた敵数体を、文字通り億の砕片にして吹き飛ばした。もっと密集していたならば、或いはその暴力を止めるに至ったかも知れぬ。しかしそうする前にセレナリーゼ達が手を打っている。炎火の斧を止められるものは、もはやこの戦場には――『それ』しかなかった。
「これはまた奇ッ怪な! その斧、如何ほど重いか試して進ぜよう!」
 八束だ。抜刀するは三の太刀、嶽掻。彗星の如く襲い来る炎火の斧を、真正面から受け止める。山を揺るがすような大音がして、激突した二人の周囲の草いきれが余波で千切れて吹き飛んだ。幾体も、周囲にいた屍浪人が煽られて転けまろぶ。
「かははは、何たる重さ! 笑いしか出ぬ!」
 突き返しの一撃を出せぬ。後の先を取るつもりが、先ず一打、受けきるだけで精一杯。してやられたという風に笑う八束。
「そりゃ当然、あーしはかぁーいくて、そいで、めっちゃめっちゃ強いんよ?」
 炎火も笑った。軋り合うニャメの重斧と嶽掻。競り合いになれば炎火の力が勝る。じわじわ推されるのを嫌ってか飛び下がる八束を、続いて前線に至った二人が狙った。

「やぁっとだ、やっと親玉をブチのめせるって訳だぁ!」
 灰色の瞳を煌めかせ、ラグ・ガーベッジ(褪せたⅦ色・f16465)が唸るように言う。
「心踊る強者の登場、だね。炎火と打ち合って原形を残してるなんてさ。――ちょうどいい。短針が経験を積む善い機会だ」
 冷静に戦況を見て、眼を細めるのはビリウット・ヒューテンリヒ(Ⅳ番目のレコード・キーパー・f16513)。
「おいで、ラグ。私が使おう。君とバロウズ、どちらが強いか味比べをしようじゃないか」
「吐いた唾ァ飲むんじゃねえぞ、ビリウットォ! 俺の方が強えに決まってんだろうが!!」
 焚きつけるようなビリウットの言葉に、噛みつくように発奮してラグはその姿を変ずる。――そう、彼ら『結社』の構成員は『長針』と『短針』に類別される。
 ラグは『短針』。『短針』は皆、己の身体を武器に変ずる事を可能とする。これぞ、刻器転身。風がラグの金髪を嬲り、衣服を翻した次の瞬間、彼女の姿は捻れて縮み、ただ一挺のオートマチック・ハンドガンへと変ずる。
 それは喰らい尽くすもの。心の震えを弾丸と化す魔銃。形態名、『アポリオン』。
「期待しているよ」
 片目を閉じてビリウットが、宙に浮くラグ――アポリオンを手に取った。
「炎火! 待たせた、追撃をかける!」
「あいあーい!」
 射線上を外れるように上昇する炎火を確認してから、ビリウットは左手にアポリオンを、右手に『バロウズ』を握る。バロウズはビリウットが持つ刻器。その場その場で性能を変化する魔銃だ。此度は手数で圧倒するアポリオンの性能の穴を埋めるべく、〇・五インチ口径の大口径マグナムリボルバーとしてビルドする。
「バロウズ、たらふく食べなよ」
“俺にも食わせろってンだよ! トリガー引きっぱなしにしとけ、穴だらけにしてやルァアアア!!!”
 己が武器に呼びかけるビリウットの優しげな声をよそに、アポリオンと化したラグが吼える。やれやれ、という風にビリウットは左手を跳ね上げ、身構える八束目掛けて引き金を引いた。
 ――それはまさに、黙示録にあった蝗の大群の如き銃弾の連射。
“ハーーーッハッハッハハハハハハァ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ねェ!!”
 唸りを上げて吹き荒れる銃弾の嵐。一丁の拳銃から吐き出されているとは思えぬ。
「ぬうっ、鉄砲隊に勝る手数よ!」
 しかし八束も流石の猛者だ。横っ飛びに転がりながら風刎を右手に抜刀したかと思えば、ジグザグに走りつつ宙にまるで指揮棒の如く翻し、火花を咲かせて弾きながら距離を詰めてくる!
「化物か。伊達に軍を率いていないということかな」
“構わねぇ、圧し潰してやる!”
 アポリオンから銃弾を吐き出しながらも、ビリウットはステップして後退。右手のバロウズから、アポリオンで作った隙を穿つべく発砲。ハンド・キャノンと称して差し支えない銃声が戦場を引き裂いた。しかしてそれももう片手、斬丸が閃き弾頭を斜めに弾いて防ぐ。ビリウットは思わず片眉を跳ね上げた。
「二種、違う鉄砲を用いるか……いや惜しいな、それがあればあのいくさも、我が軍が制していたろうに」
 悔いるような八束の声。進み来る。如何に刀で防ごうと、これだけの弾幕を張れば数発は命中しているはずだ。しかしそれすら痛痒と思わず進み来るというのか。飛び下がるよりも、相手の接近の方が速い!
「……否、そうであった。里より薙神を得て、今一度始めるのだ! いくさを、乱世を!」
 低姿勢を取り、身を縮め、八束は一挙に距離を詰めた。胴丸で、肩当てで、アポリオンの連射が滑り弾けて火花を散らす。振るわれる刀がまさにビリウットの身体を捉えようとする刹那、
“そうだよなぁ。刀だもんなぁ、近づくしかねぇよなぁ!?”
 ラグである。振るわれる刀に合わせ、アポリオンの形態を変化。使い手であるビリウットの意に反する挙動だったが、しかしそれが命を繋いだ。
 アポリオンの銃身から刃が枝分かれするように発生し、八束の斬撃を押し留める。一本一本は急造の刃だ、剛力と共に押し込まれれば轢断されるも、ラグが生み出す刃は一つ二つではない。よしんば断たれてもビリウットが身体を捌き、直撃を避ける!
「莫迦な、鉄砲が……?!」
「ラグ、防ぐなら防ぐと言ってくれたまえ。……まあ、助かったが」
 八束の驚愕と対照的な、ビリウットの涼しげな表情。
「このような鉄砲など見たことも聞いたこともない!」
“ハッハァ! そうだ!こんな事ァ俺にしか出来ねぇ! テメェがどこに居たって、俺が喰らいついてやる――ビリウット!! 防いでる間に、叩き込め!”
「いいだろう、ならば防御は君に任せる――畳みかけるよ」
 ビリウットは追蹤魔術を起動。バロウズに銃弾を再装填し、その弾頭に概念をロードする。世界の記憶を紐解いて、此度呼び出すはこの世界、嘗て干魃といくさが襲って飢えた人々の記憶。銃弾に書き込まれるのは、その飢えと渇きと苦しみだ。
「さあ、いくらでも身を固め、防いでみるといい。狂おしいほどの飢餓に耐えられるのなら、ね」
 ラグが二刀を刃で封じる間に、ビリウットは地を蹴り飛び退きながらバロウズの銃口を跳ね上げた。一挙に六発の銃弾を放った。弾丸は過たず、胴丸を射貫き、臓腑を掻き回して抜ける!
「ごっ……お、ぐううううううううウッ!」
 苦悶の声が響き渡る。
 弾丸を再装填し、ビリウットが更に飢餓の銃弾を叩き込もうとする前に、八束は嶽掻を抜いて地面を打った。巨大な土柱が上がり、ビリウットとラグの視界を遮る。
 追撃は――来ない。
「なるほど、視界を塞ぐか」
“落ち着いてんじゃねえ! 追っかけてブッ殺すんだよ、ビリウット!”

 背後に、言い合うような声を聞いた。屍兵を差し向け、八束は右方へ逃れる。
 身体が熱い。燃えるかのようだ。叩き込まれた火縄の痛みだけではない、身体を支配するのは渇望と渇仰だ。
 襲う飢え、干魃の記憶。干上がった村、そこに重なるいくさ。
 兵も飢えて死んだ。己も死にかけた。おお、二度とは見ることもあるまいと思った、飢えの記憶……!
 身体を苛むそれに精神統一の呼吸と、骸の海で得るに至った常人にあらざる精神力、耐久力で抗いながら、八束は集中力と気力を練り直す。いかにも強敵、難敵だ。一人一人の練度が尋常ではない。
 ビリウットとラグから一時後退し、呼吸を繰り返し、態勢を整える八束の前に、更に二つの影が立ち塞がる。見上げるほどに背の高い男と、いやに矍鑠とした老婆だった。

「やれやれだねぇ、こちとら、アンタたちみたいな刀の握り方も知らないような餓鬼どもの相手を何度やってきたことか。アンタみたいなのが起こす面倒の始末を付けるのは、ババアにゃちょっと骨が折れるもんでさ、大人しくしといて欲しいんだけどね」
 老婆が肩を竦め、八束に視線を注ぐ。伴場・戈子(Ⅲつめは“愛”・f16647)だ。
 それに続くように、男――アダムルス・アダマンティン(“Ⅰ”の忘却・f16418)が、八束を見つめて口を開いた。
「貴様は、振るわれる刃の事を考えたことがあるか。貴様一人が、まるで女を侍らすが如く武器を扱うとは、どこまで彼らを愚弄すれば気が済む気か」
「……呵々、使われず、しまい込まれ、箱入り娘のように閉じ込めておかれるのと。仮に多くの内の一本になろうと、振るわれ数多の命を断つ、刃としての本懐を遂げるのと。どちらが幸せであろうな?」
 返す八束の言葉もまた流暢なものだ。互いに、武器に対する信念がある。アダムルスは人格持つ武器を振るうが故に。そして八束は、恐らくは宝刀として仕舞い込まれた七代永海を集めた蒐集家と、それを扱う武人として。
「愛の形など、このいくさばで論ずることでもあるまいて。気に入らなくば剣を振れ。貴公も武人なのであろ」
 それに関しては、アダムルスも全く同意見であった。ひゅ、と手を右手にいる戈子に伸ばす。
「――戈子、やるぞ。一つ、ナンバーズとして奴らに武器の扱い方というものを実演してやろう」
「任せときな、アダム。こちとら手は山のようにある。見せてやろうじゃないか、色男にね。――刻器転身!」
 八本の太刀を従える八束を揶揄するように言うと、戈子はその姿をゆらりと変じ、一本の大戈――『アンチノミーの矛』へと姿を変える。アダムルスは戈を手に取り、ゆらりと構えを取った。
「おお、ひとが戈に――なるほど、なるほど。それで刀を女に喩えるか」
 僅か驚くような気配を零したあとに、すぐに得心のいった風に八束は笑う。アダムルスは間合いを計り、それ以上の会話を拒むように言った。 
「行くぞ」
「参られい」
 二者は同時に地を蹴り、弾けるように前に出た。
 アンチノミーの矛を手にしたアダムルスの攻撃スタイルはいかにもシンプル。突きと薙ぎ払いを組み合わせた、基本的だが完成された槍術である。対する八束は八本の異なる刀の性能を活かし、トリッキーな攻撃を織り交ぜる戦場剣術。
 先手を取るのはリーチの差によりアダムルスだ。正面から、両手を使っての真っ直ぐな突き。狙いは胴。八束は左、逆手に抜いた六の太刀『煉獄』の鍔近くで矛の刃先を叩き、右方に逸らしながら左前に駆ける。
「しゃアッ!」
 八束が右手に抜くのは七の太刀『玉塵』。そのまま一挙動に頸狙いの斬撃を繰り出すが、読んでいたアダムルスは身を沈めそれを回避。突き出した矛を引き戻さずに、後ろ足を捌いて薙ぎ払いに変化、八束を横殴りの矛の一撃で攻撃する。
 しかし八束もましらのごとく素早い。薙ぎ払いを跳躍で跳び越え、逆手構えの煉獄を手のスナップで順手に持ち変えると、大上段から唐竹割りの一撃を振り下ろす。煉獄の峰で炎が爆ぜ、斬撃が加速!
「……む!」
 アダムルスはアンチノミーの矛を跳ね上げ、振り下ろされる煉獄の一撃を受けた。
「煉獄の炎は熱かろう、大男!」
「煉獄だと? ――生温い。こちとら、身体に地獄が流れる身だ」
 アダムルスの手から炎が噴き上がり、アンチノミーの矛を覆う。煉獄の刃を両手を突っ張るようにして押し返し、宙に浮いた八束目掛け回旋した矛先で薙ぎ払いを放つ!
 ばおうッ! 炎が煽られる苛烈な音! 宙を舞う八束は右手の玉塵を一閃、宙を凍てつかせて炎を防ぎ止めつつ、矛先を刀身で払って逃れる。
「地獄の炎か、なるほど熱い」
 着地と同時に八束は二刀を収め、斬丸と風刎に得物を切り替える。――来るか、八連の太刀。
 予感があった。アダムルスは八束の方向へ燃える矛を構え直しながら呟く。
「さて、この手の敵を共に相手にしたのはいつ以来だったか――久方ぶりとはいえ、しくじるなよ、戈子」
“誰に言ってんだい、『ぼうや』?アタシの心配なんて一万年早いんだよ!”
 帰る返事は力強いものだ。アダムルスは笑顔を作ることはなかったが、アンチノミーの矛を強く握り応える。
 空気がピリリと張り詰め、
「八刀八束、推して参る」
 八束が地を爆ぜさせ、飛び込んだ。
 斬丸、風刎、嶽掻、妖斬、穿鬼、煉獄、玉塵、無銘――立て続けに打ち込まれる圧倒的な速度の斬撃。それをアダムルスは辛うじて、紙一重で受ける。戈子――アンチノミーの戈がもたらす守りの加護が、剣鬼の超常の斬撃を防ぐ助けとなる。
 八合打つまでに一秒とない。無呼吸、圧縮された時間での乱撃をを辛うじて受けきるアダムルスの耳に、ひゅうううっ、切り裂くような呼吸が届く。
 無銘の斬閃を放った直後の八束が、まだ終わらぬとばかりに右手に斬丸を抜刀する……!
「オオオオッ!」
 八束が再び、八連の太刀を放たんとするその刹那!
 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ――Ⅷ! 剣戟、火花、そして、
“いくら名刀だろうとね、アタシに受けきれないワケはない。そして――アタシに一度そいつを見せたのが運の尽きさね。ババアからのささやかな意趣返しだよ”
 老婆の声が聞こえた。アダムルスは、戈より伝わる意思に従って身体を捌いただけ。振るわれる戈が、八束が振るう八連斬撃と全く同様の軌道を描き、鏡に映すように八つの斬閃を全て防いで見せたのだ。
「……なんと」
“そうら、ボケッとしてると――痛い目を見るよ”
 流石の八束も一瞬呆け、斬丸を取る手が一瞬遅れ――
 そこに、長針のⅠが踏み込んだ。何よりも速く。風よりも迅疾に。

 コッキシンゲキ
「刻 器 神 撃――ッ!」
「ぐ、ッおおおおおお!?」

 アダムルスの全力。鎧すら砕く、地獄の炎を纏った刺突。
 無双の剛力を以て放たれた一撃が、八束の胴丸を打ち抜く――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ


…すごい数だったね。
なんて、終わった風に言ってちゃダメだよね。また、あんなにたくさん連れ立って。
…大物は、つよーい猟兵さんにお任せ。
私は、その道を拓く為の、お手伝い。

ユーベルコード…火王。
気を解放して…力に変える。炎に変える。
この技を選んだ理由は…範囲攻撃だけど、敵だけを正確に狙えるから。
たとえ仲間が走る道に吹き付けても。仲間が戦う戦場に撃ち込んでも。
敵だけを狙い、纏わせ、焼き尽くす。

王手をかける勇士の道に、舞い踊るは桜吹雪。
戦場を彩るは、無数の剣戟。
あるいはそれは、春の夢の描く舞台。

死者の打ち合う戦場に、踊り転がるは燃える骸。
戦場を彩るは、灼ける叫声。
あるいはそれは、報いを浴びる地獄絵図。



●桜花散命
 なおも屍浪人達は森の奥より沸き、山の中腹は最早合戦場の様相だ。そこかしこで激突が起きる。怨念の炎を己が武器と信念で打ち砕き、文字通り屍を千々と散らす猟兵達。
「すごい数だったけど――まだ、終わりじゃないんだね。また、あんなに沢山連れ立って」
 小高く露出した岩の上より戦場を俯瞰するのはパーム・アンテルシオ(写し世・f06758)。先行した猟兵が一撃加えたか、吹き飛んで飛び退き、今一度多数の屍浪人を森から進軍させる八束の姿が見える。
「大物はつよーいひとにお任せして――お手伝い、するね」
 パームは落ち着いた呼吸を一つ。いくさの匂いが肺腑を満たす。九尾より解き放つは氣、自分の周りに揺蕩う氣を練り上げ、力を経て、炎へと変える。
 彼女の周囲に無数の炎の花弁が現れる。桜のものに見える花弁は、その何れもが桃色の火焔で包まれており、その灯りがごう、戦場を桃色に照らしあげた。近い屍浪人など、思わずそちらを見上げたほどだ。
 ユーベルコード『火王』。火焔は彼女が狙ったものだけを焼く花弁の炎嵐だ。喩え仲間が走る路に吹き付けたとて、仲間が戦う戦場に舞わせたとて、その熱が仲間を焼くことは決してない。討ち果たすべき魔のみを狙い、纏わせ、灼き尽くすものだ。
 とおん、とパームは岩肌を蹴り、ひらりと花弁のように着地しては、花散らす春一番のように駆けだした。火王の有効射程は三一メートル、押し寄せる屍浪人をその範囲に捉えては花弁で包んで焼尽する。
「さあ――皆、走って。前へ、この戦いを終わらせよう」
 パームは歌い、目の前に飛び出した浪人の振り下ろす刃を、身を翻して躱し、軽く跳んで額に手をつき跳び越えた。羽の落ちるほどにも音を立てずに着地するパームの背で、花弁に取り巻かれた浪人が声なき声を上げ火柱と化す。

 王手をかける勇士の道に、燃えて踊るは花吹雪。
 裂裂帛帛、吼え声上げて、いくさば彩る無数の剣戟。
 あるいはそれは、春の酔夢が描く舞台。

 パームは走る、桃色の、夢幻の国から降りたかのよな、淡くも燃える烈火の花弁を従えて。狐の往く道だけが、この無間地獄めいた戦場の中にあって、ただ美しく桜に燃ゆる。

 死者の打ち合う戦場に、踊り転げる燃え付く骸。
 狐が撒いた桃の灯火が、灼けた叫びを煽り響かす。
 あるいはそれは、報いを浴びる地獄絵図。
 
 パームは月を背にして跳んだ。
 真円描き注ぐ銀月、孕んで尚も鮮やかに、桜に光る傾国九尾。
 今一度、腕を打ち振り呼び出すは、燃ゆる桜の花吹雪。
「道を、開けてもらうね」
 狐の命に従いて、桜舞い散り、屍の、仮の命を抱いて燃ゆ。
 次々に死者の叫びが炎に焦げて、無間地獄を揺るがした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン

(あれが、病の源か)

(【ダッシュ・ジャンプ】高く跳ね、有象無象を跳び越して。八束に流星の如く肉薄。
生憎と、ひとに交らず生きてきた森番だ。
戦作法は解さぬけれど)

……病に、名乗る名は。
『烙』。 

(咎を炙り焼く刑の一字を、鑢の声音で吐き捨てて
燃える色の鬣と長い尾。真の姿を解き放つ)
【野生の勘】で太刀筋を読みながら躱し【鎧砕き・傷口を抉る】。
手出しする屍どもが居るなら【2回攻撃・早業】の「烙禍」にて跡形も無く焼き潰す。
骸が炭と灰に変じて仕舞えば、蘇りようもないだろう)

……刀が欲しい訳じゃない。
おれは。
命の理から外れた病を、みとめないだけだ。
森に、還れ。



●業炎、燃ゆる
 桃色の炎が作った路を、一人の猟兵が奔っていた。
 剣戟と怒号飛び交う、まさにこの世の地獄と化したそこを――炎、刃、銃火と魔術が煌めいて、夜闇に乱れ舞う中を駆け抜ける。走る足取りに迷いなどない。赤い髪が風に踊り、青い瞳が射貫くように彼方を睨む。
 ああ、その様ときたら流星のようだ。敵を斬り、避け、数体が殺到すれば高く高く跳躍し、屍浪人が届かぬ空を駆け越して。
 流星めいて尾を引く赫奕の髪。燃える色は、罪人を裁く森番のもの。
 ロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)が、まるで飛鳥の如くに八束目掛けて狂奔す。
 ――見えた。あれが、病の源か。
 八束の姿を捉えるなり、ロクは速力を上げた。
 立ち塞がった屍二体を山刀で鎧袖一触、頸を刎ね飛ばして飛び越えれば、八束の姿はもう間近。三肢を縮め山猫の如くしなやかに着地し、青い瞳で八束を穿つ。彼女の背後で、二体の屍がぼう、と燃え上がって炭化し、崩れ落ちた。
 八束が首を廻らせて、ロクを視界に収めた。
「おお、これはまた猛き炎よ! 参られよ! 八刀八束が推して参る!」
「――『烙』」
 ロクはただ一文字の字を名乗る。吐き捨てる声音は鑢のそれだ、ざらざらと、魂を削り焦がすような声。戦作法など知らぬ。故に告げるはこれから敵が、処される刑の名一つきり。
 ロクの姿が、周囲の炎に中てられたように変じる。赤々と燃える鬣と、山猫めいた長い尾がするりと伸びてゆらり、揺れる。
「猫の化生か。面白い!」
 打ちかかる、先手は八束が取った。僅かに右腕が動いたと見えた瞬間、ひうっ、と空が裂ける。ロクは思考せず、ほぼ勘働きのままに膝を縮めた。髪の一房が斬れ飛び舞う。――凄まじい速さ。妖刀・風刎の一閃である。勘がなければ頸を薙がれたやも知れぬ。
「よくぞ避けた! ならばこれはどうだ!」
 続いて打ち下ろされる二合目は斬丸によるもの。ロクは真正面から山刀で打ち下ろしを受け止め、『烙禍』の炎を燃やした。
 山刀より炎爆ぜ、断たれる前に斬丸を弾き返す!
「ク――ククク! 好い! 好い太刀筋ぞ!」
 が、が、が、がががが、ッきいん!
 七合立て続けの太刀合せ、双方一歩も退かぬ!
「やはり手練れ。貴公も薙神を求めてか!」
「……刀が欲しい訳じゃない。おれは」
 ロクの青い目は、端から妖刀など見ていない。――ただ。命の理より外れ、病となった者を見過ごせぬだけだ。
 守人は罪を怨み認めず、燃える山刀にて裁きを下す。
「お前を、ここで摘む」
 青い瞳が煌めいた。ロクの手の山刀、その印より咎殺しの炎が溢れ出す。燃え盛る火勢は、周囲の炎獄を上塗りせんばかりだ。
「ぬうッ」
 翻り、衝き穿つ如く繰り出される風刎の刃先。ロクは頬傷残して辛うじて回避。飛び込むように間合いの内側へ。
「これを躱すか……!」
「森に、還れ。おれが、お前を呑み込んでやる」
 受け太刀に回る八束に、ロクは全力の一刀を振り下ろした。
「っくう……ッ!」
 ――烈火、溢るる! 焼尽せんばかりの業炎が、八束の身体を包み込む――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

狭間・悠弥
大将首はどの程度かと思うたが…どうやら腕前は一級品のようやな
逢魔転身、出し惜しみは無しや

一撃離脱で刃の打ち合い
幾合か繰り返し間合い、動きのクセ、刀の力を見極め、
不意に両目狙って投げた紅苦無を受けられる寸前に血に戻し目潰し
【残像】を残して一気に背後を取りケリを付けに行く

この身、既に人と鬼と機の狭間よ
皮一枚繋がってりゃどうとでもなる
一二三四と六七八、致命傷だけは【見切り】避け、受けた傷は紅苦無の要領で血を固め塞ぐ
…が、五の刀だけは受けるなと鬼共が騒ぐ
こいつは烈風盾で弾き飛ばす

…元より斬り合いだけで勝つつもりなんぞ無い
俺の左腕が届くこの範囲まで潜り込むんが目的よ
爆轟鉄拳最大威力…叩っ込む!



●剣鬼、対するは機鬼
 ロクが放った地獄の業火を、ばひゅ、と音を立てて刀が裂いた。四の太刀、妖斬が咎殺しの炎を斬り払ったのだ。途中で断ったとて浅からぬ傷のはず。しかし八束の動きは衰えない。
「なるほど、どうやら腕前は一級品のようやな、大将首」
 踏み出すのは狭間・悠弥(流浪の半人半機・f04267)。骸を幾体も斬り捨て、彼もまた八束の元へと攻め上がってきたのだ。
「逢魔転身――出し惜しみはなしや」
 鬼と神の力を身に宿し、戦闘力を爆発的に増大する。過ぎたる力は毒のように彼の身体を蝕み、身体の各所より噴血させるが、それでも悠弥の口から笑みが消えることはない。
『逢魔転身』による自己強化。覚悟のほどが伝わるか、八束もまた刀を構え直す。
「面白い。己の傷すら厭わぬか」
「今に面白がっていられんようになるわ。――参る」
 地面が削れ飛び、悠弥は弾けるように接近。無銘の刀が、永海の妖刀と斬り結ぶ。一撃離脱を繰り返し間合いを計る悠弥に対し、八束は腰を落とし、八本の刃を切り替えつつ応じた。
 六の太刀・煉獄による火炎斬撃。刀の峰で炎を爆ぜさせることによる加速は、他の太刀より重く――受ければ、その隙に風刎による迅疾の斬撃が来る。逢魔転身による強化を経た悠弥ですら完全には躱しかねる速度。
 肩から、腕から、血が飛沫く。
「この程度か! 楽しめねばこのまま微塵と斬ってしまうぞ!」
「急かすもんやない。真打ちは遅れて来るもんやろ?」
 風刎を弾くと同時に、身体に宿す鬼の警告を聴いて全力で身を捌く。五の太刀・穿鬼での、胸を貫く正中への突き。鬼を身に宿す悠弥には致命の太刀だ。或いは当たれば死んでいたやも知れぬ。
 ――しかし、死中に活あり。
「幽鬼よ!」
 悠弥は鬼の力を振るい、『烈風盾』を巻き起こす。旋捲く風が穿鬼の切っ先を逸らし、ごく一瞬のみ八束の体勢を崩す。
 ――まだだ!
 悠弥は間髪入れず、出血を固めて『紅苦無』を構築。腕を薙ぐようにして投擲。目を狙う。
「味な小技を!」
 風刎を翻し、紅苦無を受けようとする八束に――悠弥が笑う。
「『味』なんは、ここからや」
 ……剣先が紅苦無を捉える当にその瞬間、紅苦無がただの血に戻る!
「なんと!?」
 いかな妖刀とて、飛ぶ水を千々には断てぬ。八束の鬼面に血がぶちまけられ、その視界を一瞬断つ。悠弥はその機を逃さず、残像を伴い前進した。再びの穿鬼の斬撃をくぐるように低姿勢で躱し、脇を駆け抜け、地面に右足で杭を打ち――反射するように敵の背へ襲いかかる。
 左腕の安全装置を解除。小指から握り込む。
「これが俺の真打ちや――喰らえ!」
 悠弥は刀の間合いよりもさらに近く――超至近距離まで潜り込んで、左腕を繰り出した。
 彼の左腕は絡繰り仕掛け、『機械腕・毘羯羅』。その代表兵装、前腕内蔵式多薬室ナックル・バンカー――『爆轟鉄拳』が火を噴いた。
「ぐううああああああっ?!」
 胴丸に拳の痕が刻まれる。過たず直撃した爆轟鉄拳が、八束の身体を紙切れのように吹き飛ばす……!

成功 🔵​🔵​🔴​

ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

もののふ、か
やはり理解に苦しむな
勇猛を誇り力を敬う癖に、生前の叶わぬ思いには執着する
己の見苦しさには気付かないものなのか
その在り方に疑問が湧きますね

援護します
七本の刀に妙技を合わせようと
彼女の一槍が冴えた一筋を辿れるように

蠢闇黒から凝縮させた闇を這わす
広さは要らない、細くとも確実に刀を打ち祓えるよう
一刀目。軌跡を視る

蠢く混沌でその身を縫い付けよう
邪魔をする屍には黒炎を以って最期を与える

彼女が風を纏えるよう、動こう

俺は刀なんぞに興味はないが
斃れてなお欲する執着は、見苦しくとも嫌いではないよ

八束
空しい名だったな
七刀ですら持ち腐れだ


オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

刀こそ力の象徴だった
だからこそ執着するんじゃないかな
……まぁ、見苦しいのは同感だけどね
力が全てと言うのなら力を示すまでだよ!

ヨハンのサポートが本当に心強いな
君の闇こそ、私の追い風
必ず活かしてみせるから

纏った風の勢いに乗って【早業】で【鎧砕き】の一突き
敵の連撃は初撃さえ躱せれば……!
動きを予測して【見切り】を狙おう

屍浪人がちょっと邪魔だけど
私の出る幕はなさそうかな
ヨハンがあいつらを焼き払ってくれているうちに
八束に【2回攻撃】

武器に縋りたくなる気持ちはわからないでもないよ
でも、一番の『武器』は刀でも槍でもない
それを持たない君には到底わからないと思うけどね



●闇を背に、少女は正しき槍を執る
「もののふ、か。やはり理解に苦しむな」
 剣を持つでもない身をそう称されたからではない。ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)が納得できぬという風に呟く。
「ただ、勇猛を誇り力を敬う癖、生前の叶わぬ思いには執着する、その狭小さが」
 志半ばであろうが、抗えぬ天命が来たのならば、生涯ここまでと、さぱっと死すればいいものを。こうして過去の残滓と成り果ててまで、願いと想いに縋り付く……ヨハンは目を細め、屍浪人の狭間、他の猟兵と打ち合う八束を見た。
「刀こそ力の象徴だった――だからこそ、執着するんじゃないかな。武に生き、剣に生きた。きっとただ、そのためだけに。もう一度生きる今この瞬間さえも」
 ぽつり、応じるように答えるのはオルハ・オランシュ(アトリア・f00497)であった。槍持つ少女は理解こそ示さなけれど、考えを推測する程度は出来るとばかり呟いた。
「その在り方に疑問が湧きますよ。こうも、己の見苦しさには気付かないものなのか」
 わからない、とばかりにかぶりを振るヨハンに、オルハは明るく笑って見せた。きっと、わかる必要はない。剣に生きた、それのみを良しとした修羅の頭の中身など。
「……まぁ、見苦しいのは私も同感だけどね。力が全てと言うのなら力を示すまでだよ、行こう、ヨハン!」
「はい。お供しましょう」
 促し駆け出すオルハに、半歩譲ってヨハンが続く。左手の銀指輪、その紅石『焔喚紅』より、黒炎を広げて前方へ投射。地を走り押しよせる炎の壁のように、有象無象の屍どもを灼いて祓う。
「背を預かります。どうぞ、前へ」
「ありがとう! 心強いよ――私の追い風!」
 ヨハンの援護と補助が、オルハの足を軽くする。彼自身は昏い、業めいたものと思うかも知れないが、自分にしてみれば追い風に他ならない。
 快活に礼を言い、オルハは走る。尚もヨハンの黒炎が行く手を阻む敵を薙ぎ、血路を開く。道の先、頸を押さえて血止めをしたと思しき八束の姿が目に映る。
 ――闇風を背に孕み、若草色の瞳が、玉石めいて光を曳いた。羚羊の如き俊足で、オルハは一直線に八束目掛けて突っ込んだ
「はあっ!」
「ぬう、またも新手! これほどまでの修羅を擁する軍が未だあるか!」
 オルハの最初の一突きは、風を裂く二の太刀――風刎により切っ先を逸らされた。数多傷を負っているはずなのに、いまだ八束の動きには鈍り、陰りない。
 八束は身を捌き回避しながら、指の股に挟むようにして複数太刀を抜き、空中へ放つ。
 宙に舞う八本太刀。
「これは某も、少しばかり命を張らねばならぬなァ!!」
「……!」
 びり、と空気が張り詰めた。オルハの槍使いとしての勘が、次の瞬間に来る大技を見切り、予見する。
 しかし、どこから来るか。宙に広げられた八本の刀、どれを取って振るう気か。いっそ振りかぶって、すべて槍で薙ぎ払うか。しかし全剣払う前に、残ったものを取り斬りかかってくる敵の姿が脳裏に映る。一瞬の硬直。迷い。怖れはなくとも、過てば死に繋がる判断――

 ――大丈夫。

 背に、手が触れた気がした。オルハははっとしたように息を吸う。
「りぃいぃィィイやァッ!」
 立木すら二つに裂きそうな気合の声と共に、八束の手が一閃。手に取った刃は三の太刀、嶽掻――オルハを一刀両断、叩き潰すように振るわれる刀。
 しかし、突如。斬閃は押され、その勢いを一瞬減じる。
「ぬうッ?!」
 オルハはその隙を縫うように、撃剣を潜り抜けた。――錯覚ではなかった。一閃を遅らせたのは、交わるほどに近いオルハと八束の影から生じ、伸びた黒闇。ヨハンの業だ。一刀目、最初の一撃の軌跡を妨害する、針穴を通すような援護であった。
 敵は確かに強大。七本の妖刀に絶技を併せ持つ名将。
 しかし、とオルハは翠緑の瞳に強い意志の光を点す。自分の一槍が冴えた一筋を辿れるように、後ろで業を振るい、追い風をくれる少年がいる。
 ――必ず活かしてみせる!
「小細工を弄すか!」
「小細工なんかじゃない。これが、私たちの『力』だよ!」
 最初の一閃を避けたその勢いで、二刀、三刀、次々振るわれる斬閃驟雨を潜り抜け、舞い避けること蝶の如く。隙を縫い、三叉槍で腕を胴丸を穿つこと蜂の如し!
「ぐううッ!」
「――武器に縋りたくなる気持ちはわからないでもないよ。でもね、八束。一番の『武器』は刀でも槍でもない」
「刃持たずして、何に頼れという。……某の生きたその刻に!」
 吼え、煉獄を宙よりかっ攫い、爆炎にて剣を加速。八束は踏み込みながらオルハへ刀を振り下ろした。
「あの優しい闇を、小細工と笑うような君には、到底わからないことだよ」
 オルハは、凜と。
 鈴の鳴るような声で告げた。

 ――振り下ろされる煉獄。刀身に、集中させた『蠢闇黒』の闇を絡め、一瞬だけ速度を遅らせる。生まれた隙を掴み取り、オルハが刀を掻い潜る。
 また一つやり過ごした。ヨハンは脂汗を流して敵の刀と戦う。遠距離、集中し、あの手練れの刀の速度を遅らせ、白刃より少女を守る。
 汗を滲ませながらもヨハンは無表情を崩すことなく、ただ、淡々と成すべき事を成した。
「俺は刀なんぞに興味はないが。斃れてなお欲する執着は、見苦しくとも嫌いではなかったよ」
 呟く。
 それほどまでに、執着することがあること自体はヨハンとて認めぬものではない。
 ただその欲求が、他者の屍の上に立つならば立つ他ないと思うのみだ。
「――八束、か。空しい名だな。お前では、七刀ですら持ち腐れだ」
 攻撃の間隙を見計らい、ヨハンは影から伸ばした闇により、八束の攻撃に先んじて四肢を縛る。
 視線の先で、ウェイカトリアイナの穂先が月光を跳ね返して煌めいた。
 闇風纏う槍が、八本刀を今ひとたび穿つ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡

◆ヴィクティムと

相手の動きを注視しながら
前に出るヴィクティムを射撃で援護
但し気を引きすぎない程度に加減するぜ
致命打にならないよう攻撃を逸らすくらいか
どうもアイツ、策があるみたいだし

え、それ丸投げって言わない?
俺だって打ち合い向きじゃねーよ
……まあいいけど

それまで蓄積した相手の動きの情報から
行動を予測し回避・攻撃に活かす
相手の最適射程を外して立ち回りたいが
ずっとその距離を許しちゃくれないだろうな

でも、悪いけど――
連撃の走り、一刀目はさっきヴィクティムにも打ったな
刀が何であろうと扱う者が変わらないなら
それはさっき“視た”ものだ
二度目は通じないぜ

――じゃ、今度はこっちからだな
遠慮なく持っていきなよ


ヴィクティム・ウィンターミュート

【鳴宮・匡と】

──面白ェ。肌がビリビリしやがる。目が眩むほどの強者だ。端役なんかが未来永劫及ばないような、圧倒的な強者だ。あぁ、嫌だ嫌だ。こんな奴の相手、俺に務まると思うか?チューマ。

務まるわけがねぇよな。だから…
「一合だけだ」
一合で、お前を出し抜く。あとは主役の仕事だ。

さぁ、端役による大立ち回りの始まりだ。
【挑発】で奴の気を引き、ユーベルコードを誘う。
一刀目だ。そこに俺の集中の全てを注ぐ。
緻密な予測計算から予備動作を【見切り】、【早業】でユーベルコード展開。電影化してすり抜け、力を転化。味方を強化する。

今ここに、我が名刀は成った。受け取れ強者ども。
匡、こいつはお前専用だ。上手く使えよ?



●刃銘『寂冬』
 数名の猟兵の攻撃を受けつつもそれに反撃とカウンターを返し、一歩とて退かぬ八本刀の剣鬼。その様子を伺いながら、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は一度ぶるりと身を震わせる。
「面白ェ。肌がビリビリしやがる」
 胴丸が砕け、血を流しているはずなのに――ダメージを受けていないはずがないのに。猟兵らが幾度攻撃を入れても鈍らぬ動きとその太刀筋。
「ああ、おっかねェ――端役なんかが未来永劫及ばないような、圧倒的な強者だ。あぁ、嫌だ嫌だ。こんな奴の相手、俺に務まると思うか? チューマ」
「無理だろうな」
 慣れた調子で応答するのは隣の男、鳴宮・匡(凪の海・f01612)。
 一見投げやりな相槌は、その実呼吸を知ってのもの。無理難題に立ち向かうウィザードの逆転劇は、は、いつも『不可能との対面』から始まるのだ。
「そうさ。務まるわけがねぇ。だから、……いや、だからこそか。一合だけだ。一合きっかりでやつを出し抜く。あとは主役の仕事ってな」
 楽しげに応じるヴィクティムに横目を向けながら、匡は眉を寄せて応える。
「嫌な予感がするんだけどな。主役ってのは誰のことだ?」
「お前以外にいるかよ、チューマ! さぁ、端役による主役のための大立ち回りの始まりだ!」
 厭うような匡の声を笑い飛ばすヴィクティム。猟兵をまた一人剣圧で押し返す剣鬼『八束』目掛け、少年は生体ナイフを抜いて走った。
「お次は俺だ、掛かって来いよ、サムライ・アーティスト! このArseneを捉えられるかァ!」
「速さ自慢か。飛燕とどちらが素早いものか、比べて進ぜよう!」
 八束は直ぐに嶽掻を腰に戻し、風刎を抜刀。居合い一太刀、抜きざまに切りつける。――が、
「むッ……!!」
 ほぼ第六感的な察知。ヴィクティムを切りつけに行くはずの刃が翻る。
 散発的な銃声が響いた。同時に八束は後退、彼の周りで火花が咲く。
「火縄、火兵か!」
「弾くかよ」
 ぼやくように匡が言う。銃口初速にして秒速一〇〇〇メートル近い銃弾を野球ボールでも打つように弾かれれば悪態も出よう。
          バックドア
「大丈夫だ、匡。俺が抜 け 道を作るってんだぜ。そのまま続けろ!」
「了解」
 ヴィクティムが策を持つことを示せば、それに否やはなかった。匡はヘイトを惹きすぎない程度に、八束の斬撃を邪魔しつつ、常に位置を変えながら援護射撃を放つ。
「ぬうッ……良かろう、まずは貴様を断ち、あの火縄の男を斬り伏せる!」
 力量を測るような小競り合いに飽いたか、斬丸を右手に抜刀、八束はそれまでとは一線を画す速度で踏み込む。
「我が天下無双の八鬼連撃、刮目して見よ!」
 稲妻よりも尚速く、斬丸が振り下ろされる――その瞬間。ヴィクティムは笑った。
 待っていたのだ。その一太刀を。
 思考速度および身体能力を最大加速。振り下ろされる刀の情報、斬道、速度、敵の動き、癖を一つ一つ読み取る。紙一重で身体を捌き、回避。
 二撃目に風刎が翻る。生体ナイフの刃を変形操作、手の動きは最小限に籠手打ちを弾き止め、続く嶽掻の振り下ろしを半歩身を捌いて回避。地を割るその衝撃に乗ってステップ、妖斬による斬撃を避ける。
「なんと……!?」
 続く刀をもさらに回避、回避回避! 最後に残った無銘の太刀が、防御用サイバーデッキにより電影化したヴィクティムの影を擦り抜けた瞬間、解析は完了する。
「今ここに、我が名刀は成った」
 幻影の如くヴィクティムは揺らめき、ニイと笑って飛び下がった。ヴォン、と空気を震わす音一つ、掻き消えた電影体は、空気から滲み出すように匡の隣で再構成される。
「――コイツはお前専用だ、匡。上手く使えよ?」
 ヴィクティムは右腕のサイバーデッキを展開。匡が抜いたナイフにテクスチャが追加され、その刃渡りを増す。手にした匡の処理能力を助ける、高次情報素子で構築されたインテリジェンス・エンハンスド・エッジ。蒼白く光る刃は全長六〇センチ、片手で容易に振るえる程の重量を保つ。

 銘打つならば、名を借りて、『寂冬』。

「そういうのを丸投げってんだぞ、お前。俺だって打ち合い向きじゃないのに」
 悪態をつきながら匡は拡張されたナイフを振った。アサルトライフルを放棄、ナイフと拳銃を構え、ヴィクティムを追って踏み込んでくる八束と対する。
「また面妖な刀を持ったものだ、火縄が得手ではなかったのか?」
「その筈だったよ。舞台に引っ張り出されたんじゃ、得物は選べないからな」
 退避するヴィクティムと入れ替わりに、今度は匡が八束と斬り結んだ。匡の持つ白兵戦の知識が、寂冬から流れ込む敵の戦闘スタイル、戦力評価とシームレスに結合する。
 瞬撃、三合。斬丸と風刎による、神速の連撃を、匡の刃が打ち払う。
「ぐぬッ……!?」
(軽い。リーチもある。それに――奴の動きが、解る)
 今この瞬間もヴィクティムの情報支援が続いているのだ。匡は鋭く踏み込んだ。八束の攻撃を捌くどころか、突き、斬り払い、はたまた刀を払っての至近からの発砲によって攻勢に出る。
 ――確定予測。十五手先。右手、踏み込みから斬丸での一太刀。
 その場にある全ての情報を認識し、峻別、予測する。ヴィクティムの力と匡の演算能力が合わされば、それは予測の域を超えた『予知』となる。
「ぬうおッ!」
 寂冬と永海の妖刀が剣戟奏で、火花散らして十五合。果たして八束は右腕を振り上げつつ、雷光の如く踏み込んだ。
「悪いな。そいつは、さっきも“視た”」
 如何に速く、如何に鋭かったとて、当たらぬならばそれはないのと同じ事だ。
 匡は眦を決し、鋭く息を吐いた。蒼白い軌跡を引き、寂冬を逆手にくるりと持ち替える。寂冬は匡の意図を酌んだようにナイフほどの長さに瞬時に収縮。匡は振るわれる刀をすれすれで回避しながら、敵の前腕を刃で掻き裂き、そのまま二の腕の太い血管を裂く。
「ぐうおっ……?!」
 飛沫を上げる血すら浴びず、そのまま匡は八束の横を抜け、飛び込むように前宙。天地逆さに移る視界の中で、左手のハンドガンの銃口を八束の背に向けた。
「――こいつは俺からだ。遠慮なく持って行きなよ」

 立て続けに迸るマズルファイアは悪魔の叫びめいて。
 八束の背から血が迸り、獣めいた凄絶な声が銃声と交わった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

白斑・物九郎
●POW
相手が悪かったとしか言いようがありませんわな
俺めの左腕は他者の血と、そんでもって魂を喰らう(吸血&生命力吸収)
いわんや、魂剥き出しでフラフラしてるような亡者狩り用達特攻ユーベルコード――

デッドリーナイン、ナンバーワン
ザ・レフトハンド――グールドライブ!


・弧を描くように駆け込み(ダッシュ)、まず屍浪人共の列を照準
・我が“魔鍵(まけん)”「心を抉る鍵(大)」で以って刺突または殴打、者共の魂を喰らいながら八束へ攻め上る
・斯様に強化を見た己で以って八束へ仕掛ける
・野生の勘を「超カウンターモードの射程と出端」の察知に傾注、得物の鍵の先端形状に敵の剣の物打を受け・絡め取り、味方の攻勢の一助たらん


プリンセラ・プリンセス
「誰ぞ来よ。――剣戟の時間です」

応えた人格は14番目の兄姉、アスカ。
服装が羽織袴に、武器が打刀と脇差に。髪型もポニテになり、雰囲気も侍、いや剣士然たるものになる。
「剣鬼と呼ばれるほどの相手と立ち会う。まったくありがたい!」
ニヤリと狂気を秘めた笑みを漏らす。

他は無視して八束に向かう。
剣戟。
十数合打ち合って実力を知る。
「ならば出し惜しみは無用!」
「覚悟」して「二回攻撃」で一度目に【鏡像召喚】を使用。
己こそが敵と定義することで自分の分身を呼び出す。
鏡像に打刀を持たせてリアリティを。
「第六感」「見切り」で連撃の一刀目を鏡像で躱して
「鎧無視攻撃」「捨て身の一撃」「だまし討ち」で【隠し剣・穿ち隼】を放つ。



●撃剣、九魂と共に
「相手が悪かったとしか言いようがありませんわな」
 白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)は、顎を撫でながら呟いた。
 なぜか。――何をか言わんや。
 彼は血を、そして魂を喰らうグールドライバーだ。往く道に、呆れるほどに溢れかえる敵勢。今や燃える血と、憎悪と怨念だけで動いている、歩く死体たち。
 物九郎の左腕は、そう――自我もなく、魂を守ろうとする『心の壁』すらないアンデッド共を、狩り殺し、喰い殺し、簒奪して、二度とは戻れぬ闇へ突き落として再殺するためのユーベルコードを宿している。

 猫に九生あるように、物九郎は九つの生(ドライブ)を持つ。
 これはその一。デッドリーナイン、ナンバーワン。

「ザ・レフトハンド……グールドライブ!」
 ぎちい、と音を立てて物九郎の左腕の気配が尖る。左腕を取り巻く虎縞模様の刻印――『ザ・レフトハンド』の性質を最大限に発揮することで生み出される、簒奪と暴食の左腕。
 物九郎は真っ直ぐに八束には向かわず、弧を描くように駆け抜け、まずは屍浪人達を狙った。慟哭めいて叫びながら、持ち上げた太刀を峻烈に振り下ろすも、飛燕の如く駆け抜ける物九郎の影すら捉えられない。
 物九郎の左拳が唸りを上げ、屍浪人の顎をフック気味に打ち抜く。首が二七〇度回転して頸骨粉砕、踏鞴を踏んで斃れる骸から魂を吸い上げ、右腕を打ち振る。手の先に展開されるモザイク模様から、魔鍵――『心を抉る鍵』を呼び出し、引き抜いて構える。
「お前さん方じゃあ、俺めの脚は止められねえ」
 宣言するなり、物九郎は鏖殺の旋風となった。鍵を振り回しながら敵の群に躍り込み、遠心力を乗せた鍵で撲殺、或いは突き出して貫殺、その向こうにいたもう一体の喉を切っ先突き刺し砕いて刺殺! 一殺ごとに膨れ上がる物九郎の力。
 十体あまりを瞬く間に薙ぎ倒し、進路にいる屍浪人を行き掛けの駄賃と薙ぎ倒しながら、今度こそ物九郎は八束の元へ攻め上がる――!

 一方、その八束の元へ攻め寄せる猟兵がもう一名。
 この戦場に似つかわしくない白いドレスを翻し、彼女は――プリンセラ・プリンセス(Fly Baby Fly・f01272)は、駆ける。
「新手か。全く、息つく間もない、心が震える夜よ!」
 八束は最早傷ついていない場所がないほどだった。だが、何が彼を衝き動かすのか。動きは衰えず、声から生気が失せることも、意気軒昂とした態度が崩れることもない。
 プリンセラは、それに応えるように言う。
「誰ぞ来よ。――剣戟の時間です」
 プリンセラ・プリンセスは亡国の貴子、その末妹である。彼女の身体には死したる兄姉の人格が宿る。
 ヴン、と音を立て、人格変貌対応装備がその姿を変じる。白いドレスは羽織袴に、極星があしらわれた杖は打刀と脇差へその姿を変えた。髪型は自然、高く結ったポニーテールに変じ、決然とした姫の表情は、狂気を秘めた修羅のそれへと変貌する。
 それはプリンセラの十四番目の兄姉、倭刀を扱う孤高の剣士。
「剣鬼と呼ばれるほどの相手と立ち会えるとは、まったくありがたい! ――我が名はアスカ。名乗られよ、剣鬼!」
「最早名など、死んだあの地に置いてきた。呼ばわるならば八束と呼べ、アスカよ」
「応。ならば、八束。いざ、尋常に」
 抜刀し、間合いを計るプリンセラ――否、アスカ。
 ざり、と八束の足が土を躙り、
「「――勝負!」」
 声がするなり、正に雷光の如く八束は踏み込んだ。振るうは神速の刃、風刎。翻る剣先は同じ鉄で出来ているとは思えぬほどに疾く鋭い。
 しかしてアスカも一流の剣士だ。
 響き渡る剣戟、瞬く間に十合あまりの受け太刀。傷こそ負わずとも、やはり圧される。
 間合いは掴めた。しかし剣先が読めぬ。風刎の速度はとても、同じ日本刀のものとは思えない。嘗て他の兄姉と立ち会った際に見たレイピアのそれと同じか、更に上の速さか。
「……ならば! 出し惜しみは不要!」
 アスカは弾けるように前進。その姿が、不意に二重になり、ぶれる。
「む――?!」
 唸る八束の前で、アスカは完全に二人に別れた。
 克己の心持ち、敵は己なりと定義しての『鏡像召喚』! 打刀を持つアスカと、脇差しを腰に徒手にて走るアスカに別れ、二方より襲いかかる!
「いかなる芸かも知れぬが、双方断つのみ! 我が八鬼連撃、受けるがよい!」
 一の太刀、斬丸を引き抜いて八束は打刀を持つアスカ目掛け斬りかかる。がきん――太刀にて受け止めるアスカに、続けざまの風刎の峻烈な斬撃を叩き込み――血が舞い散る! その隙を獲るように傍らからもう一人のアスカが飛び込み――
 ・・・・
「まだ早え、プリンセラ!」
「……!」
「なんとッ……!?」
 びたり、と脇差しに駆けたアスカの手が止まる。アスカの鏡像が血霧と共に消え失せる。八束は――動かぬ。……否、動けぬ!
 何が起きたか。八束は、最初の一刀を八鬼連撃と偽り繰り出していた。八鬼連撃は一刀放てば八撃目まで連打する彼の必殺の型。中途で止められぬものを多数相手に振るうわけには行かぬ。
 八束は打ちかかり、まずは打刀を持つ側を攻めた。受け太刀一合にて力量を測り、それが『本物ではない』と看破した八束は、攻撃を誘うべく風刎で『偽物』を切り刻み、即座に『八重垣』の構えを取って――
 それを、走り来た物九郎の嗅覚が見抜いたのだ。
「図星みてぇですわな!」
「ク、クク、見事という他ない――天晴れ!」
 八重垣の構えを解き、八束は打ち掛からず立ち止まった物九郎へ飛び込んだ。右手、斬丸の斬撃を、しかし物九郎は真っ向から膂力と、喰った魂の力を使い、心抉る魔鍵にて受け止め、戦端の凹凸形状で刃先を絡め取って受け流す。
 身体が開き、胴が空く。その一瞬でいい。
「ザ・レフトハンド……バニシングドライブッ!!」
 残像を残し、物九郎はもう一歩踏み込んだ。ただ速く動く――高速機動を可能とするデッドリーナイン、バニシングドライブ。八極拳の靠撃めいて、肩を胴丸に叩き込み、八束の身体を宙に浮かせ――
「今でさァ!」
「忝い――ならば御覧に入れる、目に留まるならばとくと見よ、我が撃剣!」
 アスカが、その名の――飛鳥の如く、地を踏み切って跳んだ。
 それは隼の嘴に似た、閃くような一閃であった。脇差しが月光すら裂き、闇空を縫って八束の腹を穿つ。
「が……ッふ、」
 呻きを啄むその撃剣こそ、――『隠し剣・穿ち隼』!
 血を吐きながら、八束の身体が地に叩きつけられる!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 突きを受けて地面に打ち付けられた八束だが、その後の復位は電瞬である。叩きつけられ弾んだかと思えば足を蹴り上げるように振り上げ、そのまま後方に一転。着地と同時に膝を撓めて、六の太刀・煉獄を抜刀ざまに一閃。
 炎を撒き散らし、反動で跳ぶ。
 猟兵らの凄まじいばかりの構成により最初よりも薄くなったとはいえ、屍浪人の壁は未だ絶えぬ。八束は態勢を立て直す度、屍浪人を壁として使ってその体力を最低限にまで回復させているのだ。
 この長期戦闘をしつつ、未だ動きを緩めぬ理由がそれである。
 しかし、思惑通りに行くわけでもない。八束の予想を上回るような猟兵も、また戦場には存在する。
ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
相手にとって不足なし、此処で散るのも悪かァ無いッ!!
だがくたばってやるつもりも無ェ!大将首を馬鹿正直に真っ直ぐ狙うのもいいが
こういう手合いは隠し球(魔術)に弱そうじゃァねェか?
【犯罪王の代理人】発動だ
俺様に傷ひとつでもつけてくれりゃァ大惨事だぜ
だが構える武器はフォン・ヘルダーのままだ!手前ェは斬り捨てる!
そうだよな、カタナじゃなきゃ死に切れねェよなァサムライッ!
手前ェが八連撃なら俺様は上を行くまでよォ、あァそうさ!「いかれ」だ俺ァ!!
だが――それこそ、「俺様」なんだよ
力が全てみてェに語りやがって、ジジイが。勝つために必要なのは――限界突破に限るだろォがッッ!!!
推して参るッ!!



●狼牙、限りを穿つ
「相手にとって不足ァねえ、此処で散るのも悪かァ無いッ!! だがタダでくたばってやるつもりも無ェ! 俺様の命と手前ェの剣、いっぺん台に並べてよォ――」
 嗚呼、吼える、吼える。血で彩られていびつに歪んだ黒の双剣を携えて、屍浪人の壁を斬り突き破り――
   ヴェアウルフ
 黒い狼  人  間が走り来る!
「釣りが来るかどうかァ、試してみようぜ、サムライ!!」
 ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)――否、それは彼女の戦闘人格。ヘイゼル・モリアーティ! 発動したユーベルコードにより、彼女をUDCが覆い、そのシルエットをヴェアウルフのそれと成している。
「くく、次から次へと、化生と人外の寄せ市よ!」
 八束は即座に敵に合わせ、太刀を抜いた。紅色の鍔と刃紋が光る刀『妖斬』と、鬼を穿つ金色の地金を持つ『穿鬼』である。対するヘイゼルは逆手に握った双剣『フォン・ヘルダー』で挑みかかる。
 剣速、剣圧、共に一合打ち合うだけでヘイゼルには解る。背中をビリビリとヒリつかせるような威力。豪速と剛力がフォン・ヘルダーを軋ませる。

 ――ああ、刃の上にいるようだ。
 背筋をゾクゾクと快感が這い上る。
 力を誇示するため、楽しむために殺し合う。
 ヘイゼルはただそのために生まれた。
 八束が振るう刀は一つ一つが謎かけのようだ。こうすればどうだ。こうならばどうか。
 いいね。でも、俺はこうやって潜り抜けるンだ――

「オオッ!!」
 妖斬による連続斬撃に次いで、穿鬼の突きが来る。音の壁を突き破る突きをヘイゼルは腹に受け、込み上げる血を口から吐くが――
「待ってたぜ」
 その瞬間、身体を取り巻く狼を模したUDCがヘイゼルの内側に潜り込む。与えられた苦痛を、負傷を、自らの力に変換する――『犯罪王の代理人』が起動したのだ!
 一撃で身体を分かたれては即死。心臓、首、頭を穿たれても即死。ならば突きを、死なない位置で受け止める。それがヘイゼルの出した結論であった。
 筋肉が増強され軋む。血に濡れた牙で鮫のように笑う!
「かはは――」
 虎の尾を踏んだとは正にこのこと。悟った八束はしかし楽しそうに笑った。
「いかれめ」
「あァそうさ! 『いかれ』だ俺ァ! 打って来いよ、手前ェが八連撃なら俺様はその上を行くまでよォ!」
「応! ならば間近で御覧じろ、八刀八束の八鬼連撃!」
 諸手納刀より、両手に斬丸と風刎を抜刀、八束が縮地からの斬撃を繰り出す。フォン・ヘルダーが翻り、八束の斬撃を真っ向受け止めた。斬撃の余波が露わとなったヘイゼルの頬を削り、或いは受けきれぬ嶽掻の剛刃が肩にめり込み、穿鬼が再び肩を穿って、煉獄の炎が身を灼いて――
 しかしそれでも、犯罪王は笑うのだ。
 玉塵を回避、最後に振られた無銘の刃を、交差したフォン・ヘルダーで受け止め、
「これが、『俺様』だ。力が全てだあ? 力はもっと強え力に負けるもんだ、ジジイ。――勝つために必要なのは、限界突破ァ!! 手前ェの力を、越える力だろォがァッ!!」
『犯罪王の代理人』によって得た力の全てを刃に注ぎ、無銘の刃を押し返し!
 ヘイゼルは、踏鞴を踏んだ八束の横を、斬風吹かせ駆け抜けるッ……!
「かッ……は!」
 ヘイゼルが振るった二本の牙が八束の身体を穿ち断ち、その身体より血を飛沫かせる!

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子

べりるちゃん(f12817)と

珍しいわね。どういう風の吹き回しなの。
……帰ったら何か作りましょうか。

ええ、負けないわ。
援護をお願い。

ずっと。ずっと、考えていたのよ。
八方すべて敵の領域だった時、あたしに何ができるのか。
昔と同じ轍は踏まないわ。

ひとつは『死ぬまでは止まらない』
あたしが斃れても託せるように。
ひとつは『目の前の総てを斬り果たす』
存在しているなら、いつかは終わる。

機械剣《クサナギ》、全機能制限解除。
目標:八束、――征くわ。

袈裟懸け、逆薙ぎ、払い、弾き飛ばし、鋼糸で絡め、引いて受け、零距離で撃発、鎧を砕き、

最後のひとつ。大切なこと。
『あたしは独りじゃない』

――開けたわよ、べりるちゃん!


星鏡・べりる

【よーこ(f12822)と】
やっぱり居たね、よーこ

料理を覚えようかと思いまして
ここ救ったら、良い包丁とかもらえるかなって

わっ、強そうだねぇ
どう、一対一なら勝てそう?

分かった、任せて
よーこ、死んじゃダメだよ

よーこと八束の剣撃の応酬
そこが好機と狙う魍魎を払うのが私の仕事

機械鏡《ヤタ》、コード・ツクヨミ起動。
数多の幻鏡、このひとときに実体を持ちて満ちなさい。

吼えるように放たれる銃弾は変幻自在の鉄嵐
死して止まらぬ怨念業火を鉄狂風にて撃ち掃う
【雲蒸竜変】、防げるモノなら防いでみせろ!

あいよ、任された!
屍浪人を足蹴に跳ね
よーこが開いた"隙"に、九撃目の剛脚一閃

これはチームワークです~
卑怯じゃありません~



●蜘蛛糸、剣を絡め取る
 機械剣《クサナギ》を振るえば、その度にいくつも首が飛んだ。ぞろぞろと湧く屍浪人を狩り続け、怨念血風を炎と散らし。花剣・耀子(Tempest・f12822)はその視界の彼方に、今なお猟兵らを相手に全く退かぬ八束の姿を捉える。
「やっぱり居たね、よーこ」
 ふと、声がした。青い瞳をそちらに向ければ、そこには知己の顔がある。コードネーム『Astrograph』――対UDC組織『土蜘蛛』の突起戦力の一人。星鏡・べりる(Astrograph・f12817)の姿がそこにある。
「珍しいわね。どういう風の吹き回しなの」
「そんな人がいつもサボってるみたいに。そのね、料理を覚えようかと思いまして~、ここ救ったら、良い包丁とかもらえるかなって~」
 あと素敵な台所グッズとか~と身体をくねらせるべりるに片目を閉じつつ、口の端だけで耀子は笑った。
「……帰ったら一緒に何か作りましょうか」
「えーやった、じゃあじゃあ、ハンバーグとかがいいなぁ」
 べりるはきゃらきゃらと笑って戦闘後の楽しみに小さく跳ねながら、彼方、未だ戦い続ける荒武者の姿を眺める。
「強そうだねぇ。どう、よーこ? 一対一なら勝てそう?」
「負けないわ」
 即答。どれだけ強大な敵であろうとも、肩を並べる仲間がいるのなら――
「援護をお願い、べりるちゃん」
 きっと負けはしない。
「オッケー! 任せて! ――よーこ、」
「?」
「死んじゃダメだよ。終わったら、一緒にハンバーグだからね」
「……ええ」
 微かな笑み。答えるなり、耀子は吹く風すら追い越して駆けだした。

 ――ずっと考えていた。八方全てが敵の領域だったとき。剣を振るだけの自分に何が出来るのか。二の轍は踏まない。
 耀子は過去にした失敗から三つの教訓を得た。
 ――教訓ひとつ、『死ぬまでは止まらない』。あたしが斃れても託せるように。
「機械剣《クサナギ》、全機能制限解除。目標:八束」
《クサナギ》が唸りを上げ、刃を超高速で回転させ始める。駆け、自分の足で出せる最高速に乗ったら間髪入れずにウェポンブースター《ヤクモ》を起動。《クサナギ》の背面より炎が爆ぜ、凄まじい推進力で耀子の身体を前に飛ばす。

 矢の如く飛ぶ耀子の進路を阻むべく複数の敵が集まるが、その勢いを殺させまいとべりるが後ろで吼える。
「機械鏡《ヤタ》、コード・ツクヨミ起動。数多の幻鏡、このひとときに現し身持ちて満ちよ!」
 きらり輝きくるりと廻り、機械鏡《ヤタ》が宙に自らの写し身を映し出す。虚像の筈の無数の鏡は、コード・ツクヨミにより現実となる。写し身は、現し身へ。
 敵の群の狭間にミラーハウスのように展開される無数の鏡目掛け、べりるは二挺の銃を抜く。機宝銃《ベリル》。彼女と同じ銘を持つ、二挺一対のオートマチック・ハンドガン。
「さあさあ、全部当てたら拍手喝采! 行くよ、見ててね!」
 ウィンク一つ、装填するはフルメタルジャケットの拳銃弾。べりるはセフティを解除、正面切って銃弾を連射した。
 激発音が連続し、鉄風雷火と吹き荒れる銃弾は、無数に展開された鏡の間を跳ね、正に稲妻の如くその軌道を変じて敵へと襲いかかる。
 吼える銃火は変幻自在の鉄嵐。敵を貫通した銃弾が、鏡に当たればまた速力をいや増し、何度も敵を食い千切る牙となる。
 耀子を阻もうとした屍浪人が、一人、また一人、次々と! 怨念劫火をぶつける前に、鉄狂風に吹かれて果てる!
「見たか、『雲蒸竜変』……! 防げるモノなら防いでみせろ!」
 無数の鏡の守りある限り、耀子の道を阻めるものはない――!

 背後に頼もしい声を聞きながら、耀子は真っ直ぐに飛ぶ。
 ――教訓ふたつ、『目の前の総てを斬り果たす』。敵が『存在』しているなら、そうする限りいつかは終わる。
 八束が爆音を認識して耀子を見る。耀子は構わずに突っ込み、袈裟懸けに一撃! 八束が翻すは一の太刀、斬丸! 《クサナギ》の刃と斬丸が軋り合い、火花を散らして弾ける! 互いに二メートルほどを踵で滑り、構えを改めて対する。
「何と凶悪な剣か!」
「壊すつもりで打ったけれど、流石は妖刀という所かしら」
 耀子は動きを止めない。間近より、再び《ヤクモ》を起動。神速で踏み込み、八束の刀を外に弾く!
「うぬッ、重く、速い……!」
 態勢を崩す八束に、耀子は返す刀の逆薙ぎ。八束は風刎を地に刺すなり新たに刀を電瞬の抜刀、六の太刀“煉獄”の峰より爆炎散らし、重く速い耀子の斬撃に応じて打ち合う! 唸り上げる剣と永海の妖刀が軋り合う!更に六合打ち合い再び渾身の一打、互いに後ろへ下がったその瞬間に耀子は《クサナギ》のサブトリガーを引く。
 ワイヤー射出機構《ヤエガキ》が作動、不意を打って八束の身体にワイヤーを打ちこみ、それを巻き上げることで刹那の前進!
「なんとォ?!」
 バランスを崩しつつ踏み止まる八束の間合いの内側に潜り込み、耀子はすかさずサブトリガーを切り替える。
「まともな剣士でなくて、ごめんなさいね」
 放つは――呪詛加工五寸杭打機、《ヤシオリ》! 激発音と同時にクサナギの仕込み銃身から五寸釘が射出され、八束の胴丸に次々と突き立つ!
「ぐうあアーーッ!?」
 ――教訓みっつ。
 あたしは、独りじゃない。
「開けたわよ、べりるちゃん!」
 仰け反る八束が復位する前に、ラスト一発の《ヤクモ》を作動。耀子はワイヤーを繋いだままの八束を引き摺り振り回し、べりる目掛けてワイヤーをカット、投げ飛ばす!
「あいよ、任された!」
 応じたべりるは既に駆けだしていた。耀子が『負けない』と言ったのだから、彼女の動きに迷いはない。行き会う敵の顔を踏み、空を『スカイステッパー』で軽やかに駆け上る。
 必殺八合、八鬼連撃。それを耀子が凌駕し、空を駆け下りるべりるが『九撃目』となって打破する――!
「卑怯だなんて言わないでよね。このチームワークが、私たちの『力』だっ!! 落ちろーーーーーーッ!!!」
 正に星が如く流れ落ちる龍の脚、――龍星脚!
 宙で八束が身構える間もなく、その背に無双の蹴りが叩き込まれた。
 空気を同心円状に割りながら八束は落ち――最早苦鳴すらなく、凄まじい土柱が上がる!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレクシス・アルトマイア

さて、本命さんのお越しですね。
【星に祈りを、夜に終りを】で技能を高めて敵の連撃を打ち払いましょう。
速度でも、センスでも。諸々使って邪魔を致しましょう。
そう簡単には抜かせませんよ
あと割と、勘もいいんですよ。私。

開けた場所ならば好都合。私の視界は戦場すべてを見通しましょう。
いえ、開けてなくても大丈夫ですけれども。
援護射撃、二回攻撃でサポートは万全に。
蘇った方たちは【破魔】で二度と目覚めないように浄化して、【祈り】を込めてとどめを刺さすサポートを行いましょう。

隙があれば【閨への囁き】でずばーっと暗殺してしまいたいところですね。



●飛刀、鉄華の如く
 土柱が上がり、もうもうと立ちこめる土埃。それを突き破り八束が飛び出す。ひゅうう、と音を立てて息を吸い、身体に再び氣を廻らす男の横を、併走する白い影一つ。
「本命さんのお越しですね。今度は私と踊って頂けます?」
 アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)だ。ベルトから黒いダガーを両手に抜き、逆手に構えて八束と対する。
「くく、不調法者故、舞いの相手が務まるかどうか。――剣舞ならば、一手指南致そうとも!」
「結構ですよ。ご披露下さいな」
 アレクシスが笑って言う。八束もまた呵々と声を上げた。
 二人はほぼ同時に制動し、示し合わせたかのようにぶつかり合う。
 アレクシスの得物は刃渡り三〇センチメートル足らずのダガー。対する八束は大小あれどどれもおよそ二尺八寸の打刀。リーチの差は歴然だったが、アレクシスは全く気後れせず飛び込んだ。
 袈裟懸けに振るわれる斬丸の一閃を身を捌いて回避。踊る髪が断たれ、月下、銀砂の如く月を孕んで舞う。続けざまの風刎による連続突きを左のダガーで受け流しつつ、右手のダガーに鋼糸を絡めて、飛び退き様に投げ放つ。
「むッ!」
 八束は斬丸にて飛刀を弾くが、アレクシスは巧みに糸を操り、弾かれた力を遠心力に転化。身体を回して勢いを乗せ振り回し、八束の頸を狙う!
「曲芸めいた刀術よ、しかしこの八束にはただの曲芸では通じぬぞ!」
 風刎が翻り、風を捲くダガーを弾いた。アレクシスが振り回す刃の手数は生半ではないが、その挙動を剣先で撫でて逸らし、致傷を避ける八束の技も最早尋常の域にあらず。
「左様ですか。なら――」
 アレクシスは左手のダガーを続けざまに投げ放つ。八束がすぐさま弾いたダガーが、もう一本同様宙で軌道を変える!
「私も二つでお相手しましょう。――そう簡単には抜かせません。私、強いんですよ?」
「――疑うまいて!」
 互いの間合い数メートル。絶えず変わる距離。対象は一体。互いに攻撃に即応できるよう、一対一の集中した状態。
 その状態で、繋ぎ飛刀を両手同時に敵に投げ、格闘する事は如何に困難であろう。手に持った刃とは違う。絡む危険もあるというのに。
 振り回されるダガーと八束が打ち合う。中空に爆ぜる火花、明るく散る刃金の打ち合いが互いの表情を照らす。二人の戦いに巻き込まれた屍浪人が刃に宿る破魔の力により塵と化す中、アレクシスは一瞬の虚を突き飛び下がり、刃を掴む鋼糸を緩めた。
「何ッ?!」
 ダガーがすっぽ抜ける――否、それは狙った『投擲』!
 虚を突いて襲う刃を斬丸を振り抜いて弾く八束だが、その目に次に飛び込むのは――更に七本の黒刃!
「うおおおッ!?」
 虚を突く飛刀二本から、立て続けの七本。火花を散らして受けきる八束だが、一瞬――たった一呼吸。彼は攻撃を受けることに全リソースを使った。
 目を戻せば、アレクシスの姿は眼前になく、
「――!!」
 背後に生じた殺気に振り向く前に、八束の背中をダガーが抉った。――『閨への囁き』。アレクシスは正面戦闘で気を引き、最大火力によって敵の注意を引きつけ、二重三重に視線を誘導して――その上で、最大戦速。背に回り込んでダガーでの一撃を見舞ったのだ。
「不覚ッ……狐に抓まれたか」
「正面きっての力尽くは、あまり得意でないもので。御免遊ばせ」
 気取った風に顎を聳やかし、アレクシスはダガーの血を払った。

成功 🔵​🔵​🔴​

三咲・織愛


己の欲望のため、他に害を為す
私にはあなたの行動に矜持も何も感じられません

欲するものを力づくで奪うことを暴虐と呼ばずなんと呼びましょう
刀に魅せられたというのなら、
その刀に見合うほどの誇りあるもののふであって欲しかったですね
残念ながら、薙神はあなたの手には余るでしょう

夜星の槍を構え、いざ尋常に

見切り、いなし、敵の攻撃を誘いながら隙を狙います
刀を捉えれば槍を竜へと変じて、躱し、拳に力を籠めて
打ち砕く拳を鎧ごとその身に

八重垣など、動けぬのならただの的
幾度も叩き込み、敵が崩れぬのなら一度退き

無敵を解いた瞬間を狙います
今一度一槍、穿ってみせましょう



●拳、穿ち貫く
 アレクシスが更に投げ放つナイフを転がり避けて、屍兵を差し向けて駆ける八束。その真っ向、月下に槍の穂先を煌めかせ、立ち塞がる少女が一人。
「――己の欲望のため、他に害を為す。私にはあなたの行動に矜持も何も感じられません」
 三咲・織愛(綾綴・f01585)であった。槍の石突きを地より上げ、低く構える。
「矜持、矜持か――ならば問う。矜持があれば、刃は手に入るか。矜持があれば勝てるか、生きられるのか。……矜持があれば飯は食めるのか」
 剣鬼は足を止め、深い呼吸をしながら問う。
 織愛は真っ向見つめ返し、突き返すように言った。
「プライドじゃおなかは膨れません。けれど、ご飯よりプライドを大事にする人々を、武士と呼ぶのではないのですか。欲するものを力づくで奪うことを暴虐と呼ばずなんと呼びましょう。――刀に魅せられたというのなら、その刀に見合うほどの誇りあるもののふであろうとは、思わなかったのですか」
 く、と八束が声を漏らして笑った。
 食い詰めれば、ひとはいかほどにでも醜くなる。……そう知っていたが――ああ、或いは、違うのだろうか。
 彼女はその矜持を抱いたまま、進む事が出来る人間なのだろうか。
 眩しげに仮面の奥の眼を細め、八束は刃を構え直した。
「人斬り包丁に見合うならば、人を斬って然りであろう。武士道を説くのが本懐ではあるまい」
 二刀を構え無双の構えを取る八束に、すうと一つ息を吸って織愛は槍の穂先を上げた。
「――残念ながら、薙神はあなたの手には余るでしょう」
「それを決めるのは、振るった某自身でよい」
 言葉は最早不要だ。最後の言葉の応酬を交わすなり、二者は撓めた膝の撥条を弾けさせ、獣の如く前進した。
 織愛の槍が閃き、宙に月の光を曳いて嵐の如き突きを打つ。八束はそれに応じて二刀を翻し、貫かれぬように身体を捌く。突きを前に進みながら避け、雷の如く打ち下ろしの一撃を放った。槍を軋らせ受ける織愛。
「ノクティス!」
 槍の銘を織愛が謳うと同時に、槍は藍色の竜へと変じる。――受け止める一瞬を探していたのだ。
「なんと!?」
 ノクティスが牙で刀――斬丸を食み、羽撃く事で八束の体勢を崩す!
「く――!」
「遅いっ……!」
 崩れた態勢からの苦し紛れの風刎の斬撃を、かすり傷一つ残して回避しながら、織愛は歩幅も大きく零距離へと踏み込んだ。
 拳に纏い付く拳気、オーラ。その拳に名などない。
 ――事実を示すならば、それは撃拳。『打ち砕く拳』である!
「はああああああああっ!!!」
「ぐ、っうおおおおおおお?!」
 烈火の如く燃える闘志が拳を覆い、金剛石よりも硬く固める。裂帛の気勢と共に数多打ち込まれる拳は正に穿殺する勢い、胴丸を拉がせ砕き、八束の身体を吹き飛ばす――!

成功 🔵​🔵​🔴​

シゥレカエレカ・スプートニク
◎ギド/f00088と



ギド、ギド、怪我は大丈夫?
後でちゃんと手当てをするわ、…逃げちゃだめだからね?

さあ、そのためにもお顔の怖いショーグンさんをどかさなくっちゃ
独り占めをするひとは、どの世界でも嫌われるものね!

わたしはショーグンさんの動きを封じるわ
少し時間の掛かる精霊術だけど――ギド!宜しくね!

それにしても、
やっぱりギドってばあの刀を使ってる姿って格好いいのよね…
どうしよう、わたしもギド独り占め禁止って怒られたら…

…あっ、お待たせしました旦那さま!
ではではご披露、闇の精霊たちによる演目は成長の現象

此処は影が多そうね
そのひとつひとつが苗になって、あなたを縛る蔓になる
芽吹きの時間よ、ショーグンさん


ギド・スプートニク

シゥレカエレカ(f04551)と

別にこの程度の相手に怪我などしておらぬさ

きゃあきゃあ騒ぐ姿は静かに聞き流し
きみを独占してしまっているのはこちらの方だと胸中

この手合いに遊びは不要
中・遠距離の間合いを保ちながら魔法や拷問具
処刑具の類で応戦

ひとつ正しておこう
私は貴様にも刀にも興味はない
刀を渡したくないだけならば
そんなもの折ってしまえば良い

本命はただの一太刀
すべての魔力をその一太刀に込め
刀は軋み悲鳴を上げる

剣士としては御法度
刀を使い捨てるかの如き行為

道具は道具
それが私の魔術師としての在り方だ

ヤドリガミの知人の顔が浮かび苦笑

付け上がるなよ
貴様は敗者、既に終わった存在だ

有象無象の亡霊よ
塵芥へと還るが良い



●闇に凍てつけ、黒点よ
「ギド、ギド、怪我は大丈夫?」
「別にあの程度の相手に怪我などしておらぬさ」 伴侶を案ずるのはシゥレカエレカ・スプートニク(愛の表明・f04551)。ぶっきらぼうに応じるのはギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)。浪人達をいとも容易く屠り攻め上げながらも、シゥレカエレカはギドの体調を気遣って止まない。
「でもさっき、ずばー! って斬られていたわ、本当に大丈夫? ねえ、後でちゃんと手当てをするわ、……逃げちゃだめだからね?」
「大丈夫だというのに。この身に太刀を受けてはいない、きみは本当に心配性だな」
 額を押さえながら言うギドに、まあ、と頬に手を添えるシゥレカエレカ。
「本当かしら? わたしが心配性ならあなたは無茶しいだわ、ギド。きちんとあとで確かめますからね、旦那さま?」
 釘を刺すように言うと、シゥレカエレカはひゅ、と息を吸って精霊に声なき声で呼びかける。
 彼女の視線の先には獅子奮迅と猟兵達を迎撃する八束がいた。
「そのためにもまずは――あのお顔の怖いショーグンさんをどかさなくちゃね。何をそうするにしても、独り占めをするひとはどの世界でも嫌われてしまうものね!」
 ――言って二秒の間。
「あっ……そうしたらわたしもギド独り占め禁止って怒られてしまうかしら?! どうしましょう!」
 ギドは押さえた額の皺を濃くした。言葉に応えず前に出る。
 ……きみを独占してしまっているのはこちらの方だ、という胸中は、今際の際まで晒すまい。
「先に行く。時を稼げばいいのだろう」
「あっ、ええ、少し時間の掛かる精霊術を使うわ。ギド、よろしくね! 」
「任された」
 ギドは飛び駆け、一人の猟兵が斬撃を喰らい飛び下がるのと入れ替わりに前に出た。
 掌に爪で一条朱を引き、血液を『引き摺りだし』、『形作る』。
 ――それは古き刑具。咎人の頸を断つための弧を描く刃。
「往け」
 遊びは不要だ。ギドは血液から生み出した旧い断頭台の刃――その数四を一挙に投擲。刃はギドの手と血液で繋がり、まるで意思持つように首をもたげて唸り飛ぶ。
 四刃を迎え撃つは煉獄と玉塵。炎舞い散り、過熱した断頭台の刃を玉塵が零下にまで冷やして破断する。刃が砕け散るたびギドは血液から拷問具を再生成、距離を詰めすぎず中距離での遅滞戦闘に徹する。
「面妖な武器よ。そのような外法を使ってまで、我が薙神への夢を阻むか」
 唸るような八束の声に、ギドは片眉を聳やかして応じた。
「ひとつ正しておこう。私は貴様にも刀にも興味はない。刀を渡したくないだけならば、そんなものは折ってしまえば良いのだから。――私がここに来た理由はただ一つ」
 ギドの血が、鎖となって幾筋も放たれる。それは罪人を縛る刺付きの連鎖。八束が受け、斬り払うのをギドは零下の瞳で見つめている。
 青く光るその眦は、まるで澄んだ湖氷のよう。
「終わった『過去』を再殺する為だ」
「お待たせしました、旦那さま! 今から『封じる』わ!」
 ギドの宣言と共に、シゥレカエレカが術の成立を告げた。
 シゥレカエレカは宙に舞い、タクトを振る。それは文字通りの、当に指揮棒。闇の精霊を従えて、彼女が操るのは『闇』の『成長』。
「むうっ……!?」
 炎に煽られて生まれる影から、月光を遮る身体によって生まれる影から、闇が『芽吹』く。まるで生きた植物の成長を早回しで見るかのように、芽は苗となり、苗は蔓となり、瞬く間に伸びて八束の四肢へ四方八方より絡みつく!
「この程度……!」
 八束は剣を限りに振るい、煉獄の爆炎を散らして闇の蔓を断つが、周囲四方より張り巡らされた闇の蔓の物量は、すでに森に等しい。いかな剣鬼とて、一瞬ですべてを断てはせぬ。そう、彼が爆炎で生んだ光、そこからさえ闇の蔓が生まれるのだから。
「芽吹きの時間よ、ショーグンさん。そして――きっとあなたの枯れ落ちるときだわ」
 シゥレカエレカは宙で謳う。
 それを背に、ギドが駆けた。
 手の中の仕込み杖にすべての魔力を集中させる。刃は軋み、悲鳴を上げた。
「貴様、その刃――此処で砕けても構わないと申すか!」
「そうだとも。目的を果たせるのならばな。――貴様を此処で断つ」
 道具に対する愛? 剣は剣士の魂? 不要の概念だ。剣士としてはその扱いは不調法と言われようが、そもそも、ギド・スプートニクは剣士ではない。魔術師である。
 道具は道具。使い捨てても構うまい。
 ――ふと、とあるランタンのことを思い出し苦笑が混ざるが、直ぐに引き締めた。許して欲しい、きみにまでそう思っている訳ではないから。
 ギドは声を尖らせる。
「付け上がるなよ、オブリビオン。貴様は敗者、既に終わった存在だ」
 玲瓏抜剣。
 封ぜられた氷狼の魔力がギドの膨大な魔力によって御され、その支配下に入る。闇の蔓に囚われ藻掻く剣鬼、八束目掛け――
「有象無象の亡霊よ――塵芥へと還るが良い」
 飛んだギドは中天から全力の一撃を振り下ろした。振り下ろす軌道が瞬く間に凍り付き、虚空より、山を捲く龍にさえ似た氷の怒濤が析出した。
 墜ちる、墜ちる。その圧倒的な質量と、すべてを凍えさせる絶対零度の氷温が、悲鳴一つさえ許さずに、八束の姿を呑み込んでいく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

四辻・鏡

いいね、シンプルなヤツ、嫌いじゃねぇよ
只、こちらにも譲れないものがある
今更道理を説くなんざ無粋
刃を交えて勝った方が正しい、だろ?

匕首を構え、真っ向から名乗り上げ
我は鏡刀、銘は影姫
刃たる我が身なれど、武を極める修羅がひとつ
妄執の剣鬼よ、いざお相手仕る!

片手に【名無】、片手に【錬成カミヤドリ】で作り出した匕首の二刀流での打ち合いを仕掛け

カウンターで返されてもさらに踏み込み
生憎、写して返すは私も得意なんだぜ?
どうせ仮初めの身体だ、手足の一本や二本はくれてやる
我慢比べといこうじゃねぇか

一太刀、一突でいい。狙うは必殺の一撃を放つ隙だ
決まれば『私』が触れた先から【剣刃一閃】を
その鉄壁、叩き斬ってくれる!



●八重垣穿つは鏡刀影姫
 巨大な氷柱が天からの鉄槌の如く叩き込まれ、為す術なく呑まれたかに見える八束は、全力を賭して内部で煉獄を振るい、炎を発して死を免れていた。凍り付く身体を炎で融かし、氷柱の横腹を突き破って練気の呼吸をとる八束の前に進み出る、刃の気配がまた一つ。
 銀髪の、龍鱗めいた膚持つ妙齢の女だ。ゆらり進み出、右手に無銘の刀、左手に宙より抜きたる匕首を提げる。
「よう。取り込み中かい」
「……カハハ。何の。太刀合いの申し出あらば、何を措いても承る。それが某の数少ない誇りにて」
「いいね。いくさのことで頭ン中が全部埋まってる感じだ。シンプルなヤツは嫌いじゃねぇよ――」
 女は数歩進み出る。相対距離七メートル。超常の力持つ彼らの脚力を考えるならば、そこはすでに一歩の間合いと言ってよい。
「だがなぁ、こちらにも譲れないものがある。――今更道理を説くなんざ無粋。刃を交えて勝った方が正しい、だろ?」
 説得など無用。刀を求めて武を振るう敵ならば、守るこちらも武を振りかざすのみ。どちらが正かは強さが決める。戦国の根底と言ってもよい価値観。
 八束は思わず声を上げて笑い、
「然り。――なンとも気っ風の良い。ならば、いざ。我が仮の名、八刀八束。名乗られよ、白刃の君よ」
 八束は斬丸と風刎を構え、上中段を守るよう刃を前に出す。
 鏡写しの構えを取り、女もまた名乗りを紡ぐ。
「我は鏡刀、銘は影姫。刃たる我が身なれど、武を極める修羅がひとつ」
 ――吼えるは、“鏡刀影姫”――四辻・鏡(ウツセミ・f15406)!
「妄執の剣鬼よ、いざお相手仕る!」
「応、推して参る!」
 二者は一直線に引き合うように間を詰め、力を尽くして打ち合った。鏡の無銘刀と八束の斬丸が火花を上げた。二者同様に横駆けしつつ、驚嘆すべき体幹と平衡感覚で、一歩も譲らず刃音散らす。
 匕首は射程で劣るが、そのぶん軽い。リーチの差を気迫と運動量で補い、鏡は踏み込んで突きを放つ。必殺の刺突に合わせ、八束は斬丸の剣先で一刺を逸らして風刎による電瞬の突き返し。しかしそれを無銘の刃にてまたも弾き、鏡はさらに距離を寄せて突きを打つ!
「クハハッ! 食い下がる、食い下がるのう!」
「生憎、写して返すは私も得意でね? ――我慢比べと行こうじゃねぇか!」
 後の先の、後の先の、後の先の、後の先の、後の先!
 互いが刃を繰り出しては、それを読み切っていたかのように弾いて返しの一撃を入れる。時は後に進むのに、この二人だけが双方、相手の時を遡るような――そう、それほどまでに刻を削る、無呼吸の打ち合い、化かし合い!
 十七合を合わせ重ねて一際強く、八束の刀、斬丸が唸った。匕首がぎん、と悲鳴をあげて鋭断される。鏡は間髪、右手の名無で斬丸を止めるが、次の瞬間風刎が旋風捲いて、鏡の右腕を斬り飛ばす。
 迸る血、見開かれる目、
 と
「殺ったァ!」
 斬丸による突きが鏡の胸を突き穿つ。
 完膚なきまでに心の臓を穿つ一撃――そう、終焉の一撃であった。
 
 ――相手が、ただの人間だったのならば!

「こいつが、最後のカウンターだな」
 鏡は唇を込み上げる血で紅の如く濡らしながら、笑った。鏡は匕首のヤドリガミ、仮初めの身など壊れようとも構わない!
「――貴公、四方や妖か!?」
 驚愕の声、退こうとする八束の胸に飛び込むように鏡は前進。刃が胸を抉るのにも構わず、後ろ腰に差したる自身――“鏡刀影姫”を抜刀! 至近の八束の胸に、力を限りに突き立てる!
「っぐ、うぅああああああ!?」
 獣の如き叫びが、場を席巻する――!

成功 🔵​🔵​🔴​

ユエイン・リュンコイス
見るからに強敵だね。侮らず、気を抜かず、さりとて臆せず。この世に力は必要だけど、力がこの世の全てでないと教えてやろう。

基本戦術は浪人戦と同様、黒鉄機人を前衛に格闘戦を行いつつ、ボクは後方から『観月』で支援を。容易く圧せるとは思えない、可能な限り耐えつつカウンターを狙うよ。
『叡月の欠片』による戦闘予測を行いつつ、糸を切られぬよう立ち回りも慎重に。


そして状況的に攻め時であると判断し、かつ万が一使っても周囲に問題なさそうであれば【黒鐡の機械神】を使用。からの【絶対昇華の鉄拳】で畳み掛ける。
人を斬る修羅よ、神の模造品が相手だ。
太刀合いに無粋とは思うけれどね、強さこそ至上と謳うのならば文句は無いだろう?



●機神、立つ
 胸より血を散らし、地を蹴り飛び退く。
 穿つ匕首より遮二無二離脱する剣鬼。息は荒く、尋常ではない量の血を垂れ流し、黒き鎧は血で濡れて月光に光る。
 しかして尚も、その刀を下ろさぬ。
 満身創痍と言ってよい。しかして、機と見て前進したユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)の目には、その男、八束は未だ脅威と映る。
 ――侮らず、気を抜かず、さりとて臆せず。
 冷静に冷徹に戦力評価を下し、ユエインは十糸で繋がった相棒――黒鉄機人を駆る。
「この世に力は必要だけど――力がこの世の全てではない。教えてあげるよ」
「くは、ははは、力のことを某に説くか。それは釈迦に説法と言うものぞ、娘!」
 ユエインは前進する八束目掛け、油断ない操作で黒鉄機人を差し向けた。死に瀕した重傷である筈、なのに八束の動きは事ここに及んで尚も冴え渡る。
 浪人をいとも容易くあしらった黒鉄機人ですら、八束が振り下ろす重き三の太刀『嶽掻』の剣気に圧される。厚い腕の装甲で受けて尚、踵で地面を削りながらの後退を余儀なくされるのだ。
 ユエインは黒鉄機人を絶えず操作しながら、嶽掻による斬撃に蹴りを重ねさせ撃力を相殺。カウンター気味にもう一発の飛び回し蹴りを繰り出させる。二刀にて敵が受けるなり、手元のマルチツールガジェット『観月』をスチーム・バルカンモードに変形。圧縮蒸気圧で整備用リベットを連射し、その身を捉えようとする。
 しかしそれすら八束は飛び下がり、六の太刀『煉獄』を振るって轟炎で鋲を焼き払いながら、ダメージを最小限に留めてみせた。
 ――死に瀕して尚あの力。最早、悪戯に戦闘を引き延ばすことに利なし。
 ユエインは『叡月の欠片』による戦闘予測の結果を見て臍を固める。
 周囲、無機物の必要量はクリア。背後、村までは遠く、作物を周辺で栽培している気配も無し。
 ならば、見せよう。
      デウス・エクス・マキナ
 これなるは神  の  模  造  品。
「――人を斬る修羅よ、ボクの黒鐵の機械神が相手だ。太刀合いに無粋とは思うけれどね、強さこそ至上と謳うのならば文句は無いだろう?」
「神! ――これはいい、神を謳うか!」
 八束は、仮面の奥の目を光らせ、そう。
 仮面の浮く動きでそれと解るほどに、笑った。
     ナガミ
「この身が薙 神に相応しい身か、試金石には丁度良い――!」
「よく言ったね。なら――出番だ、デウス・エクス・マキナ! 叛逆の祈りよ、昇華の鉄拳よ、塔の頂より眺むる者よ。破神の剣は我が手に在り――機神召喚!」
 ユエインが叫ぶと共に、その足下で偽りの神が目を覚ます。土石が寄り集まり、引き合うように固まって、即座に構築されるのは上背、優に五十メートルはあろうかという巨大な『黒鐵の機械神』!
 ユエインは構築された機械神の頭頂から操縦席に該当する部分へ飛び移り、機械神と自らの感覚をリンク。煉獄の切っ先を上に持ち上げ、真っ向こちらを睨み返す八束目掛け、右手を一度握り、開く。
「吼えろ、機械神!」
 土石で構築された機械神の右掌が高熱を発し、その表面がガラス化する! これぞ、黒鉄機人が操ったのと同じ――『絶対昇華の鉄拳』!
「欠片も残さず、無に還れ――っ!!」
 地上五十メートル弱の高みより、灼熱の掌が八束目掛けて落ち!
 それに比ぶれば遥か矮小なる八束の右手、煉獄の剣先より十メートルに至る炎剣が迸る!
 二者は吸い寄せられるようにぶつかり合い――閃光、炸裂!!

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ

つまりこの死合い。
八本抜かせて尽く平らげれば、此方の勝ちと云う事で?

なんて嘯いてはみますが。
己の得手不得手くらい承知済。
暗器と剣鬼じゃ勝機は危うく、
…相手が剣士なら、そうと気付く。
剣豪とは、そういう手合い。

故に。服の内に隠し持つ二振り、

敢えて抜きますまい。

UC起動、風の魔力を防御力に。
何れの刀も受けて流すには厄介と判断、
極力見切り、避け得ぬ時のみワイヤーに付くフックで軌道逸らし。
鋼糸と短矢で狙うは、刀持つ手、踏みしめる足、見据える目。

抜かずに勝てはしないでしょう。
――そう、独りであったなら。
最善手へと繋ぐ事こそ己の役割。
将器とか自分で仰ってしまう方にご理解頂けるかは…
まぁ、どうでも良いですが



●将器を量る
 黒鐵の機械神の右掌、そして八束全力の焦天炎剣がぶつかり合い、爆裂の余波が辺りの木々を薙いで傾ける。爆風の余波著しい地より空を見上げれば――月を背に、跳んだ八束の姿があった。
 灼かれながらも機械神の掌と煉獄の一撃にて相撃ち、衝突の爆圧を踏み、その身を高々と躍らせたのだ。
 全身より血の蒸気を上げ。既に肩当ても、腕甲も、脛当ても剥がれ落ち、罅の入った鬼面の隙間から喀血を溢れさせながらも、動きを止めぬ。
「……かはは、盤石に断てたとは言えぬな……、しかし、未だ終わってはおらぬ」
 機械神の腕の速度、技の形は覚えた。もう一度来れば、今度は避ける策が打てる。先程の一撃には追撃がなかった。二の打ちがなければ、まだ勝負が出来る――

「――負けず嫌いなことで。八本尽く平らげれば、此方の勝ちと認めて頂けます?」
 
 不意に、声が響いた。
 八束が弾けるように声の方向を見る。地上、二〇間足らずの位置、高空である。
 空に立つ男がいた。風を纏い、足下には月に輝く鋼糸。彼はユエインを援護すべく、機械神を足場の如くに、地上より駆け上ってきた猟兵。
「思い通りにはさせませんよ」
 機械神の突起に鋼糸を張り、それを足場に八束を迎えるのは、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)である!
「くく、才気の巡りが良いと見える」
 八束は驚愕もそこそこに刃を構え直す。静寂は落下軌道に入るまでの僅か一コンマ数秒。
「シャアッ!!」
 右手の煉獄で、八束は宙を打った。炎が荒れ爆ぜ、それを推進力として宙を泳ぎ、クロトへと襲いかかる!
「最早何でもありですね……!」
 ――この剣鬼相手に、接近戦は分が悪い。暗器と剣鬼じゃ勝機は危うく、相手ほどの手練れならばすぐに悟られること。
 クロトがここで奮戦する、その目的は――ユエインを助け、そして敵を再び、猟兵らが構えを取る大地へ叩き返すことに他ならない!
 懐に擁す隠し刃二刀は――敢えて抜かぬ。
 抜かずには独りで勝てはしないだろう――そう。独りであったならば。
 最善手へと繋ぐ事こそ己の役割だと、クロトは自任する。
 腕を振るった。月を照り返し、夜闇に銀光を引く鋼糸が八束に伸びるが、八束は左手に抜いた二の太刀『風刎』を飛燕の舞う如く踊らせ、走る光を尽く断つ!
 クロトと八束は片や鋼糸を巻き上げることによる高速移動、片や煉獄の爆炎を推進力とした力任せの空中機動で交錯しては遠ざかり、糸と刃を交え続ける。徐々に戦場は上方へ移ろい――やがてクロトが鋼糸を掛けるべき突起がなくなる瞬間が来た。
 機械神の頂点に着地し、万事休すのクロト。
「ここが天辺よの――鬼事も仕舞いよ、貰った!!」
 勝利を確信したように、再び煉獄を爆ぜさせ、八束が迫る――しかし!
 刹那、斬撃を放とうとした右手が、宙に縫われたかの如く止まる!
「何……!?」
「見える糸だけで足りないならば、見えない糸を交ぜればいいだけのこと」
 グローブより放たれる糸の内、銀色纏わぬ黒の糸が一本。それを下にある機械神の突起に回り込ませ、阻む如く敵の腕に巻き付けていたのだ!
「小細工もここまで来れば見上げたものよ……!」
「それはどうも」
 クロトは飄々と笑い――八束が左手の風刎を突き出す前に、右手を突き出した。
「舞台へお戻りを。将器を自認するのなら――私が舞台を繋ぐ意味くらい、ご理解頂けますでしょう?」
 皮肉を織り交ぜ言うなり、籠手から短矢が斉射された。ヒビ割れた胴丸に短矢が連続して突き刺さり、集中を欠いた右手の煉獄より炎が失せ――
 八束の身体は、地面へ逆しまに落ちていく。

成功 🔵​🔵​🔴​


 
 
 ――土柱。土埃。
 
 
 おお。
 見仰いでみれば、何と見事な真銀の月よ。
 見ておらなんだ、永いこと……もう、ずっと。
 酔うたか。否。未だ未だ呑み足りぬ。
 動くか。応さ。
 なれば、立とう。
 
矢来・夕立
◎【絶刀】ヒバリさん(f15821)
正真正銘、真打ち登場。
オレは外します。存分にどうぞ。

…【忍び足】で行動。式紙で【援護射撃】。
この人、八束のことしか考えてませんね。
しかも倒れるまで止まれないタチと見た。
オレは隠れて浪人を牽制します、が…いつまで保つかな。

ま、倒れますよね。交代しましょう。
ヒバリさんから「鸙野」本体を借り受ける。
代わりに「雷花」を預けます。
イイ女でしょう。あげませんよ。

真っ向勝負ってガラじゃないですけど。
誰かの心を預かるうちは、裏切らないことに決めてるんです。
行きましょうか、“鸙野”。

“神宿る刃の切れ味、御覧じろ”──【神業・絶刀】。

おまえはここで終わる。
刀の神が、そう決めた。


鸙野・灰二
◎【絶刀】矢来(f14904)と

永海の八本刀と、八束。他の猟兵に折られちゃいまいな。
お前らと切り結ぶ為に取ッておいた、この「鸙野」と仕合って呉れよ。

佩いた鸙野で《先制攻撃》
【錬成カミヤドリ】複製した刃を十九振り
《早業》《2回攻撃》兎に角手数だ
《激痛耐性》も使ッて限界まで八本全てと切り結ぶ。

楽しいなア。己を振るう腕を得て、思う儘戦えるのは
終わッて欲しく無いが、そろそろ仮初の身体が限界か
ぶッ倒れる直前に本体を矢来へ。代わりに「雷花」を預かる。

見ろ雷花。イイ女の使い手はイイ男じゃないか。
永海の八本刀に名将八束、「使われた」鸙野の切れ味、珍しい真ッ向勝負の矢来
焼き付けておこう、全く最高の日だ。



●月光に 鈨桜の 煌めいて
「……は、は、ははははは!! 愉快、痛快ぞ!」
 八束は地に落ちて作った陥没の中心、仰臥の姿勢より、大笑をあげてゆらりと立ち上がった。既にあちらこちらと具足が欠けて、最初の勇姿は見る影もない。しかし、この段に至って尚、その剣気峻烈にして煥発である。
 めきりと身体を軋ませる。筋力で血管の断裂を埋め、これ以上の出血を防ぐ。常識外れの止血を成し、刀を構え直した。全身くまなくを苛む熱傷、裂傷、なぜ立っているのかが不思議なほどの負傷を押して尚、八束は斃れない。
 この期に及んで彼の鬼は、今一度強者相手に立ち会えるこの瞬間を楽しんでいるかに見えた。
「おう、おう、遅参で済まねえな。七代永海の筆頭八本刀、内七本。ひの、ふの……他の連中に折られちゃあいまいな?」
 その八束の前にひょいと、風に吹かれるが如くに進み出た男がいた。鸙野・灰二(宿り我身・f15821)だ。その後ろには矢来・夕立(影・f14904)の姿もある。
「応さ、七代永海はその英名、三国に響くあやかしの太刀。これしきのことで折れはすまいて」
「そうか、そいつは佳かッた。――ならば一つ、」
 灰二は応えに目を和ませて、愛おしそうに一本の刀を抜いた。桜の模様が鈨に光る。
「『お前ら』と切り結ぶ為に取ッておいた、この『鸙野』と仕合ッて呉れよ」
 七代永海・筆頭八本刀、そして八刀を繰る八束。灰二が見つめるのは、その全て。
「美事な太刀よ。佳きかな、参られい!」
 まるで旧友同士かのように、灰二と八束は笑った。
「全く、この人は」
 夕立は人差し指で米神を掻く。何せ灰二は、屍浪人がうようよと刀を提げて闊歩する山道を、戦う八束を空に見るなり、一目散と駆けだしたのだ。七代永海・筆頭八本刀と、その主のことしか考えていない。露払いは全部夕立の仕事だ。骨が折れると言ったらない。
 ――まあ、でも。ここまで付き合ったのなら、最後までだ。
「オレは外します。存分にどうぞ」
「応」
 灰二の返事を聴きながら、夕立はその気配を断ち、追い上げてくる雑兵共を、抜いた紙製の手裏剣――それは、夕立の『紙技』を以てすれば、鋼鉄の刃と何ら変わらぬ――により撃ち抜き出す。
 ひゅう、どっ。ひゅう、どっ。ひゅう、ひゅう、どどん。
 手裏剣が宙を裂き、調子取るように命中の音が続き――二者はほぼ同時、全く自然に踏み出した。
 先手を取るのは灰二。袈裟懸けに打ち掛かる。八束は斬丸にて初手を受け、踏み込みながら風刎を突き出す。平突き、速い。身体と顎を逸らし避ける。が、即座に外への斬り払いとなって攻撃が継目なしに連携する。
 灰二はすんでの所で宙に自らの写し身――『錬成カミヤドリ』による鸙野の複製――を喚び、刃を一瞬阻んで身を沈め、危ういところで回避しながら胴薙ぎに一閃。危なげなく避ける八束に、宙に一瞬で構築した複製、先のも合わせて一九本をいちどきに斉射する。八束は弾く、弾く、弾いて飛び下がる、
「ふははッ! 軽い、軽いなあ『鸙野』! このようなものでは永海の太刀は断てぬぞ、せめてその真打ちでなくば!」
 だろうとも。灰二は歯を剥いて笑い、突撃した。
 ――あア――楽しいなア、己を振るう腕を得て、思う儘戦えるのは!
 カミヤドリの複製を従え、灰二は白兵戦を挑んだ。
 斬丸は文字の如く鋭く、複製が数本斬られた。風刎は速く鋭いが、しかし重さがない。まともに打ち合うには向くまい。嶽掻は重く、連撃には向かないが一度打てば凄まじい。妖斬は妖の身で喰らうこと罷り成らず、穿鬼の突きは風刎のそれよりも迅疾だ。煉獄は炎による攻撃だけではなく、その爆裂により剣圧を上げるなどにも用い、玉塵は打ち合う刀を低温脆性にて脆くしてくる。斬られれば身も凍るだろう――
「くハッ、はは」
 一際高い音を立てて、斬丸と鸙野が打ち合わされ、互いの身体を後ろに押した。距離が開く。
 灰二は打ち合った。俊英、七代永海・筆頭八本刀。その内七本と、よもや折れずに。しかしその代償に、彼の身体は刃傷と火傷、凍傷刺傷でズタズタだ。息をすることも忘れ、剣鬼と太刀合ったのだ。
「その傷、さぞや辛かろう。終わりにしてくれる」
 八束もまた手傷を負っている。しかし、骸の海が織りし身体は常世の生命の枠から外れている。持久戦を仕掛ければ尽きるのは灰二が先だ。自明であったが――
 灰二は笑う。
「まだだ、八束。このよるはまだ終わらねえ」
 灰二は無造作に、手にした刀を放った。風を捲いて落ちる刀を、一直線に挙がった黒手袋の手が執った。
 影より進み出でた影が、歩きくる。夕立である。
「ま、頃合いかと思ってました。いいでしょう。交代です」
「おうさ」
 蹌踉めきながら、灰二はバトンを取るように夕立から『雷花』を受け取る。振るわれなくて不服だろうが、今日は男の一夜だ。此処で並んで見ていて呉れ。
「イイ女でしょう。あげませんよ」
「寝取らんうちに帰ッてきて呉れ」
 軽口の応酬をひとつ、ふたつ。進み出る夕立。構え直す八束。
「――姓は矢来、名は夕立。見ての通りの忍です」
「応さ。横目に見たが、見事な紙技であった」
「そりゃどうも。――真っ向勝負なんてガラじゃないんですけど――」
 夕立は刀を正眼に構える。流れ込む、刀の記憶。咬み合った七本太刀の威力、性能、その仔細。夕立が手に取ったのは男の命。彼の心。『鸙野』。
「誰かの心を預かるうちは、裏切らないことに決めてるんです」
 月光に、鈨桜の煌めいて。
 見開く夕立の目が光る。真ッ赤に燃え付く朱は、血か炎か。
「行きましょうか、“鸙野”」
 夕立の姿が消えた。灰二の目にはそう見えた。
 否、踏み込んだのだ。灰二が振るった剣舞を叢雨とするなら、夕立の剣は流星。
「迅い……!」
 八束は風刎を翻し受ける。しかし夕立は知っている。風刎ではこの撃力を受けきれぬ。故に推す。草いきれを爪先で抉り飛ばしてもう一歩。切り裂く!
 血が散る、八束の苦悶の声と閃く次なる刃! 抜かれた嶽掻の振り降ろしを潜り抜けて胴打ち、またも胴丸が裂ける!
 いつしか灰二の――宿り我身の視界は、夕立のそれと同調する。
 間近、名将八束。七代永海・筆頭八本刀。
 そして神たる自分を手に取るのは、神業の繰り手。

 ――見ろ雷花。イイ女の使い手は、イイ男じゃないか。惚れ直すだろう?

「神宿る刃の切れ味、御覧じろ」
 夕立は或いは刃そのものほどに鋭い声で吐き、閃光めいて駆けた。煉獄の大振りの一撃を掻い潜り、炎を外套で弾きながらの絶刀一閃――
 鸙野の刀身を赤い血が滑り、八束の頸から血が飛沫く。
 堪らず刀を落としかけ、それでも崩れぬ名将に、血振りに刃を一つ振り。夕立は、裁きを詠んで振り向いた。

「おまえはここで終わる。
 ――刀の神が、そう決めた」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 
 
            しるべ
●血の華が 果てる刃の 墓 標にて
「おお――おお」
 剣鬼は、首を押さえ、蹌踉めくように後退る。
 最早、周囲には屍浪人の姿もない。月下、月を映したかの如く。敵勢の光る目が、戦場の各所より自分に注がれている。

 恐れはなかった。
 ただ。この狂奔の夜が、もう終わることが惜しいだけ。

 敵勢は、実に様々なもののふの集まりであった。自分を侮るものも、自分を蔑むものも。理解を示すものも、許せぬと向き合うものもいた。
 しかし、皆等しく強かった。――嗚呼、ただそれだけでよい。
 それでいいのだ。ひとは対せば競うもの。強きものを八束は敬う。
「――ふはは、はは、嗚呼、燃やし尽くそう。我が命、此処で」
 ただ意気昂揚と声を上げる八束。
 
「薙神を見られず死ぬ定めなら。貴公らの、最後のやいばを見て逝こう」

 二本の刀を抜き、無双の構えを取る八束。
 応ずるように、月下、一人の猟兵が進み出る。
 月光孕む銀の髪、妖しく光る紫水晶の瞳。穿つような、剣気に満ちた目で、竦めるように八束を射貫く。
真守・有栖
真守・有栖。……参る。

言葉は不要。語るは刃にて。

初撃。抜き打ち。
互いに刃を重ねて太刀合い。

八刃を一刀にて、喰らい尽くす……!

続く七度の連撃。

今生。この限り、と。
涯てを定めた銘も無き刀に別れを告げ、渾身を以て太刀振る舞う。

後先入らず。
刹那を生きて、瞬く間に散る。
それが己と刃の生き様ならば。

弐撃。軋み。
参撃。罅。
肆撃。亀裂。

伍撃。散る鉄火。舞う血華。
陸撃。一合ごとに鍛えられ、壊れていく刃。
漆撃。そして、刀は折れ……

否。
まだ止まれぬ。終わらせぬ、と。

八束の将を。月天を見据え、咆哮。

折れた刃を咥え。
刃狼たる牙と為し。

終の一撃ごと、敵を断つ……!

鐵牙。

尽き果て、砕け散る刃。


刃の涯ては此処に在り、と。



「真守・有栖」
 名乗る声は、刃が如く凜と。
「八刀・八束」
 声音に何を感じたか。八束もまた、ただ一言、己の仮の名だけを名乗り、少女に対した。
 死と血と炎と灰の匂いで満ちた、この地獄のようないくさばで、
「参る」
「応」
 修羅と、修羅が、ただ一言を交わした。
 それ以上の言葉は不要。剣に生きる者たちには、もっと似合いの相互確認手段がある。
 有栖は縮地めいた踏み込みから無銘の刀を抜刀した。抜き打ち一閃、太刀と太刀が重なり刃鳴り音。八束が振るうのは一刀、斬丸だ。
「……!!」
「ぬうオッ!!」
 剣戟。無呼吸での乱撃、一合二合ではない。一瞬で九、十、十一。互いの太刀の間合いを計るかの如く打ち合う。刃の間の火花は或いは、互いの命が削れて咲くか。
 その間に、割って入れる猟兵はなかった。二人の間はまるで嵐、致死の斬風が吹き荒ぶ。
 八束は斬丸による斬撃を受けられるなり、風刎を逆手抜刀。そのままに斬り付け、それを受けた有栖を更に斬丸による胴薙ぎで打つ。有栖は半歩下がり、刃を軋らせながら止めてのける。

 ――無銘の刃の中程。斬丸に咬まれ、刃毀れ一つ。

 有栖は口元を引き締めた。纏う空気の質が変わる。息を吸い、有栖は力任せに、八束の二刀を圧し払った。
 呼吸を止める。息など、今吸った分のみでよい。

 今生、この限り! 
 この月下にのみ生きよ、
 あの月とともに涯てよ、
 銘無き刃よ!

 後も、先もない。懸けるは只、今、この一瞬、この一刀のみ。
 刹那を生きて、瞬く間に散る。
 ――それが己と刃の生き様ならば!
「むうっ……!」
 踏み込んでの打ち込み、大音が響く。斬丸で受けた八束が踏鞴を踏む程の撃力。有栖の動きは止まらない。弐撃、刀に軋み。参撃、鈨に罅。肆撃、張り詰めた音、刃に亀裂……!
 斬丸が外へ払われ、胴が空く!
「おお――御、美事なり」
 八束は斬丸を引き戻すよりも風刎を振るった。有栖の肩を、脇腹を、風刎が切り裂く。しかし有栖は受けるよりも前へ。今はただ、斬ることのみしか頭にない。
 伍撃。折れかけの刃が八束の胴丸を裂いた。鉄火散り、徒花の如く舞う血の華。
 陸撃。八束が再び斬丸で受ける。一合ごとに鍛えられ、壊れていく刃。
 漆撃。跳ねるように浮いた刀同士を、二者同時に引いて、渾身とばかり打ち合わせ――
 悲鳴を上げて折れる無銘の刃。反動で押され下がる二者。討ち獲ったりと快哉し、追撃の構えを取る八束。
 しかし有栖の目から輝きは消えぬ。
 まだ止まれぬ。終わらせぬ。
 月に血に狂い、有栖は吼えた。折れてくるり舞う無銘の刃へ食らいつき、咥え込む。
 口元に銀刃咬んだその貌は、称するならば刃狼か。あまりのことに八束すら迎撃の機を逸した。刀の間合いの内側へ、四足を以て駆け――交錯。

 その一撃。
 正に、魔穿鐵牙の一刺也。

「お、お……!」

 八束の腹から血が飛沫く。
 それを皮切りに、崩れるように、全身より血が噴き出た。最早血止めも侭ならぬ。
 
 有栖の口元で無銘の刃が、今度こそ砕け散る。
 ――此処が涯て。然らば、然らば。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
 
 ああ――
 ここで終いか。
 
 そう云って、八刀・八束は刀を納めた。
 辞世もなく、恨み節もなく。
 男は崩れるように、地へと、呆気ないほどに軽い音を立てて斃れた。

 その身体は銀の月に誘われるように崩れ……
 ざらり、戦場を撫でる冷めた夜風に攫われて、晴れた山間に消えていく。

 後に残るは七代永海、筆頭刀が内七本。
 残したそれは未練の現れか。
 八本の内ただ一本、消えた無銘の太刀のみが――
 八束という男が、そこにいたことを告げていた。

 業禍剣乱刃傷絵巻、剣風止みてこれにて閉幕。


第3章 日常 『修練』

POW   :    滝に打たれる、巨大な岩を持ち上げる、素手で岩山を登る、湖で泳ぎまくる、訓練用木人を殴りまくる、など。

SPD   :    馬と競争する、隠密行動の練習、素早い鳥や動物を狩る、訓練用木人に次々素早く攻撃しまくる、など。

WIZ   :    戦いのイメージトレーニング、瞑想、ユーベルコードの研究、訓練用木人に魔法をぶつけまくる、など。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一夜明け
 猟兵らが繰り広げた地形を変えんばかりの激戦は、里の民の耳にも届いていた。
 天下自在符を見せれば疑いも無く、猟兵らは永海の隠れ里へと進み入ることが出来た。――或いはその符すら不要だったやも知れぬ。猟兵らは、八束が残した七本の刀を運び、里へ届けたのだ。

 ところは当主の家。広い表座敷に迎えられた猟兵らは、七本の太刀を当主の前に並べた。
 斬丸、風刎、嶽掻、妖斬、穿鬼、煉獄、玉塵。
 永海の隠れ里の長は、細い目を更に細め、刀の刃の仔細を改めて、打たれた銘を何度も拡大鏡でつぶさに見つめて後、目尻に浮いた涙を擦り、失礼、と咳払い一つ。
「――紛れもなく七代永海の作。嘗てのいくさにて、全て逸失したと思うておりましたが。……真逆、生きているうちにもう一度見ることが出来るとは」
 七代永海・筆頭八本刀は、里長の祖父に当たる第七代の当主が打った、最強無双の八本の太刀。それを手に、八本目――今や里の神刀として祀られる薙神を求めた剣鬼がいたこと。それを阻み、倒し、こうして取り返してきたことを、猟兵達は告げる。
 短い話ではなかった。その仔細を、とっくりと、一つ一つ頷きながら里長は聞き――七本の刀を前に、猟兵らに深く深く頭を下げた。
「この大恩、何として報いたものか……我らは歯牙ない刀鍛冶に過ぎませぬ。この身で能うことがあるのならば、何としてでも御礼をさせて頂きとうございます。差し当たっては」
 里長――否、九代永海は、斬丸を手に取り抜刀。その刃紋を目に焼き付けるように見つめた後、
「薙神は最早我らが柱、抜くわけには参りませぬが……ここに座します七代永海。若しも刀が入り用ならば、皆様のような方々にこそお使い頂きたく。無論、研ぎ直して後、お渡し致します。将又、我らが腕を振るわせて頂くのでも構いませぬ。皆様のこれよりのいくさに、何か私どもを役立てては頂けませぬか」
 つまりは、九代永海はこう言ったのだ。
 七代永海・筆頭八本刀。斬丸より玉塵までを、猟兵に渡す、と。或いは、注文を付けてもらえれば、好みの品を打つと。一部の猟兵らが妖刀に目を落とす中、
「はいはいー! 質問!」
 猟兵の一人がばかに明るい声を上げ、手を挙げる。
「ほ、なんで御座いましょう」
「包丁とかって打って貰えますか?!」
 虚を突かれた風に九代永海は目を瞬くと、好々爺めいて笑い、「勿論です」と返した。
「金物ならば、如何様にでも。我ら永海、隠棲したとてそのわざに衰えは在りませぬ」
 微かに覗いた目の光は、刃のそれ。職人の誇りは滅びてはいないようであった。
「私は刃物は不要だが」
 また、一人の猟兵が言う。
「今回の様なことがあったのだ。あなた方にも自衛の術があっていいだろう。刀はあるのだから、それを振るう術を……僅かでいい、伝えていきたいのだが。里の外れを借りてもいいか? 設営に、人も借りたい」
「重ねてのご厚意、誠に痛み入ります。……そうですな、我々も隠れるだけではならぬのかも知れませぬ」
 九代永海は、頷いて傍らにいた若衆に申しつけ、切り出した猟兵に従わせる。
「この里は、皆様の尽力あって救われたもの。過ごすに当たって必要なものがあれば、何なりとお申し付け下さい。……本当に、有り難うございました」
 九代永海はもう一度、深く深く頭を下げた。


≫≫≫≫≫MISSION UPDATED.≪≪≪≪≪
【Summary】
◆作戦達成目標
 1.村人に、刀の振り方、或いは戦闘術を教える
 2.【模擬戦】村人への戦法例訓示
 3.永海製の武具を受け取る
 4.その他(自由行動)


◆作戦詳細
0.作戦参加時は、以下ナンバーのいずれかを明記のこと。

1.村人に、刀の振り方、或いは戦闘術を教える
 若衆を中心に、自分の里は自分で守るという気風が生まれつつあるようだ。
 これに乗じて村人を訓練する。教えられる戦闘方法があれば説明してあげる。
 村人達の士気は高い。
 訓練の仕方を教えてやれば、いずれ大成する者も出るだろう。

2.【模擬戦】村人への戦法例訓示
 鍛えればこのようになれるという希望を示すためだと、ある猟兵が言った。
 それが何処まで本意だったかは置いておいて……
 希望した二名の猟兵が、里外れの特設会場で己が技を用い立ち会う催し。
 現場は賭けなども行われており、健全かどうかはともかく……
 とても活気があって、楽しそうだ。
 【Notice.】
 ・二人一組にての参加が前提となりますので、
  お相手様を必ずご指定下さい。
  マスタリング時に任意で組み合わせることはしません。
 ・勝敗の指定がプレイングに明記されている場合、
  ご指定に従います。
 ・勝敗お任せの場合、使用するユーベルコードを問わず、
  『プレイング送信時』の『素の能力値』を参照の上、
  ダイス判定で決します。
  使用する能力値をプレ内でご指定下さい。
  (指定なき場合は最も高い能力値を使用します)
  演出のため、ユーベルコードを指定されるのは大歓迎です。

3.永海製の武具を受け取る
 好みの金物の武具などを誂えて貰う事が出来るそうだ。
 または、あの八束が振るった七代永海を所望しても構わないという。
 遠慮することはない。猟兵稼業の時にある幸運として、受け取って構わないだろう。
 試し振りなどは、里外れのスペースで行うことが出来るはずだ。
 【Notice.】
 ・七代永海を所望の方の所望の刀が重複した場合、
  『プレイング送信時』の『素の能力値』を参照し、
  最も高い能力値を使用して、ダイスにて優先順を判定します。
  (重複自体、滅多にないとは思いますが)
 ・第二希望を書いておくなど、特記についてはご自由にお願いします。
  極力配慮致します。
 ・注文打ちの武具の銘、形などがお決まりの場合はご明記下さい。
  なき場合、永海の工房にて相応しいと思われる銘と形が与えられます。
  形お任せ、銘お任せ、など、注文がある場合はプレイングにてどうぞ。
 ・システム的なアイテム作成は伴いません。
  装備品として取得する場合、適宜、ガレージより
  アイテム作成をして頂く必要がございます。ご注意ください。
  【ガレージ】
   →https://tw6.jp/html/world/441_itemall.htm

4.その他(自由行動)
 村を見て回りたい、むしろ自分で刀が打ちたい、製法を学びたい……など。
 仕事も終わったし、自由に歩いて構うまい。
 関係ないが、永海の隠れ里の名物は山菜うどんである。


◆プレイング受付開始日時
 2019/04/18 08:30:00


◆プレイング受付終了日時
 2019/04/21 00:00:00
ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
(3.)
あー、楽しかった楽しかったァ!これにて一件落着ってか
……強かったなァ、サムライ。……力のゴリ押しは俺様の圧倒的な勝利だが、――技術面においちゃァ向こうのが上だった
俺様も技術っつゥ面で、強くなる時なンかもしンねェ
ンだァーーーっ……悩むのは向いてねェ!!だァめだ!!思い立ったら即行動よッッ!!
おうおう、頼もう!!俺様に合うサムライソード!?ニホントウ!?カタナ!作ってくれやァ
お下がりなんかじゃ気に入らねぇ!一から頼むわ
ただ、剣じゃ無ェ、次はカタナだ
スパッと、一撃で白と黒決めれるような、誰よりも殺しに向いてるカタナを。
パワーと技術でこれからは殺りてェんだ
――俺様みたいな、カタナな!



●写し身の刃
「あー、楽しかった楽しかったァ! これにて一件落着ってなァ!」
 里長の家を出て開口一番に呟くのはヘンリエッタ……否、ヘイゼル・モリアーティ(獣の夢・f07026)だ。昨夜の闘争は未だ『彼』の心を高揚させてならない。
 ――強かったなァ、あのサムライ。
 刃を合わせ重ね、気迫と力だけで押し切った。しかし暫時の手合わせ、その短時間を力任せに乗り切っただけに過ぎないのではないか、とも思わされる。八刀の技の冴え、全く見事なものであった。
「俺様も技術っつゥ面で、強くなる時なンかもしンねェなァ……」
 何が足りないだろう。あの八束にあって自分になかったもの。技術、武器を扱う能力。七代永海。妖刀。考えが巡る。あれでもない、これでもない。
「ンだァーーーッ、悩むのは向いてねェ!! だァめだ」
 ヘイゼルは頭をぐしゃぐしゃと掻き毟り、ボサボサになった髪もそのままに地面を蹴った。
「思い立ったら即行動よッッ!」
 それがヘイゼル・モリアーティのやり方だ。
 ――ちょっとヘイゼル、せめて髪くらい直しなさいよ!
 心の内側の声も無視して、ヘイゼルは里の大路を走っていく。

「おうおう、頼もう! 俺様に合うサムライソード?! ニホントウ!? そう、カタナ! 作ってくれやァ!」
 ばーん、と鍛冶工房の戸口を開け、のしのしと分け入るヘイゼルに目を丸くする職人が数名。その中でも落ち着いた様子の、細い目の男が応じた。
「……話は聞いてる。おれが打とう」
「おう! お下がりなんかじゃ気に入らねェからよ、一から――そう、折れなくて、よく斬れて、スパッと、一撃で白と黒決めれるような、誰よりも殺しに向いてるカタナをくれ!」
「難しい注文だな。……あんたは、」
「ア?」
 細い目の男は、わずかに目を開けた。鋼色の瞳が見えた。
「何のために、刀を執る?」
 それは抽象的な問いかけだった。この里を守ったと言われる猟兵達。彼らが戦うというのなら、それはきっと誰かを守るための戦いだろう。それは疑うべくもないはずだったが、男はそれでもヘイゼルに訊いたのだ。
 そしてヘイゼルは、何ら逡巡せず応えた。
「楽しむためさ。戦うときが――一番、生きてるって感じがするんだよ。俺様はな!」
 ヘイゼルは鮫のように笑う。鋼の瞳をした男は、そうか、といらえて再び瞼を絞った。
「刃そのもののような答えだ。敵を断つことが存在理由と云うのならば」
「アー、そりゃいいな! 俺様みたいな刀をくれよ、ブンシンってヤツか! パワーと技術で、何もかも薙ぎ倒してやンぜ!」
 手を叩くヘイゼルに、男は笑った。
「……一直線に敵を断つならば、身幅はやや広く。頑健に鍛造る。身の丈との兼ね合いも考えて、刃長は二尺余りとしよう。あんた、名前は?」
「ヘイゼル。ヘイゼル・モリアーティ」
「へいぜる……舶来言葉か。――わかった。おれは斬魔鉄打ちの、永海・鋭春(えいしゅん)。出来上がったら、宿場に渡しにいく。しばらく時間をくれ」
 さて、眼鏡にかなう刀が打てるものか。
 鋭春はそれ以上は語らず、工房へ取って返すのだった。



 三日の刻を置き、ヘイゼルの手元に届いたのは――


 
【打刀『嘴喰』】
 刃銘『はしばみ』。
 永海・鋭春作、刃渡り二尺三寸の打刀。実用本位の漆黒の拵え。
 数多物の怪を斬ったとされる古霊刀の欠片を玉鋼と共に用い、焼き入れに妖魔の血を使用することで完成する妖刀地金『斬魔鉄』で作刀されている。
 よく詰んだ柾目肌が美しい。特殊な能力は持たないが、斬魔鉄の特徴である強靱さ・軽量さ・鋭利さがすべて傑出した刀。
 やや短めだが身幅があり、強靱かつ取り回しやすく軽い。鋭春がヘイゼルの身の丈に合わせ見繕った長さとなっている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
◎【3】
…作ってくれるのか。刀。

森で使い易いのがいい。おれは森番だから。
形も。名前も。任せる。
(ざらざらと鑢の様な声を不器用に溢し。
しかし、目は好奇心に瞬く)
作るところ、見ててもいいか。

(烙印刀。自前の山刀は、自我が目覚めた時からともにあった。
今、鋼と炎から新しいものが生まれるのを見るのは、物珍しくて、なんだか嬉しい)

それと。
……手入れの仕方を教えてほしい。
(山刀はマメに手こそかけているものの、
そもそも扱いが荒いわよく焼け焦げているわ研ぎが我流だわで
なかなか、味のあることになっているのだ)
貰ったのは……ちゃんと、するから……



●森番の新たな友
「森で使い易いのがいい。おれは森番だから。形も、名前も、任せる」
 ざらり、ざらり、と割れた鑢のような声で、ぽつぽつとこぼすのはロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)。
 注文に応じたのは、彼女よりもまだ背の低い壮年の小男だった。しかしその腕ときたら屈強で、下手をすればロクの細い腰ほどにあるのではないか、という太さ。岩の塊のような男だ。
「とくりゃア、剣鉈がよかろうな。任せいよ、剣鉈ならそれこそ一日で……」
「作るところ、見ててもいいか」
「ほう? お嬢ちゃん、物好きだな。 鉄を鍛えるところが見たいなんてめのこは、そうそう滅多に見ねえもんだが」
「……鋼と炎から、新しい刃物が生まれるのを見るのは、新鮮だ。……それに、手入れの仕方もわかりそうだ、し」
「手入れ?」
 男はロクの身体を見て、腰についた鞘に目を留めた。
「良けりゃあ見せちゃくれんかね」
「……まめに、手はかけている。……つもり」
 若干ロクの視線が揺れるのは、あくまで我流の手入れだという自覚があるからだ。抜いた烙印刀を素直に男へ差し出す。
 男は刃の仔細を見た。焼け焦げた痕、細かな刃毀れ、研ぎ傷。……良く使われた刃。
「刃物を炙るなんてこっちゃあ、あっちゃいけねえはずなんだがな。でも、コイツはそういう刃物らしい。刃を炙るとな、普通はなまるンだ。柔らかくなる。だから、何か堅いものに中てると、欠けないで歪む。しかし、コイツは刃が毀れてる。堅さがそのままだって証座だ」
 早口で語ったあと、目を瞬かせるロクに、男はがははと笑って彼女の肩を叩いた。
「ようく使われた山刀だな。手入れを頑張っているのもわかる。研ぎ痕が見える刃ってのは、愛された刃だ。……一度刃先が鈍っても、もう一度、もう一度と使われた刃の証だ。一緒に研いでみるか、お嬢ちゃん。その後に儂と一緒に、新しい剣鉈を作るとしよう」
「……ん。感謝、する。貰ったのは、ちゃんと、教えて貰った通りに、するから」
「礼には及ばんよ。なんせ、お嬢ちゃん達は儂らの命の恩人だって話だしな。これくらいで恩が返せるなら、安いものよ。どれ、研師のところに案内してやろう。まずは手入れから、だろう?」
「うん」
 その後ロクは、その男――永海・頑鉄(がんてつ)に連れられ、研師からみっちりと刃の研ぎ方を教わった。荒砥石によって刃の形を整え、中砥石で切れ味を出し、仕上砥石で刃の肌理を整える。刀身の傷を消したいならば割れた砥石を用い、全体を磨いていく。最後には仕上砥石の砥泥を染ませた布によって磨き、鏡面の地肌を作る。
「たまに化粧をしてやると、美人になるもんだろう」
 美しく研ぎ上がった山刀の姿を見て、頑鉄が顔をしわくちゃにして笑うので、ロクもあえかに笑い、研ぎ上がった烙印刀を腰の鞘に戻した。
「ありがとう、二人とも」
「がはは、礼には及ばんと言うに! それに、これからだぞお嬢ちゃん。鍛造るとしようか、新しい一振りをな!」



 ……作刀の過程を最後まで見届けたロクに手渡されたのは、手入れ用の砥石一式と、剣鉈の収まった桐箱であった。開ければ、彼女のために打たれた刃がそこにある。



【剣鉈『閃煌』】
 刃銘『せんこう』。
 永海・頑鉄作、刃渡り一尺一寸の剣鉈。刀身下部に銘が打ってある。
 炎の化生の胆を鋳込む事で性質を変化させた妖刀地金『緋迅鉄』を用いて作刀された。朱金の刀身が非常に鮮やかである。
 持ち主の意思と精神力を熱に変換することで白熱し、敵を灼断する。いかなる熱においても、その刃が鈍ることはない。
 持ち主に対する配慮か、烙印刀に似た持ち手が配されている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

草間・半蔵
3
アドリブ歓迎
剣の見た目、刀種、銘お任せ

剣なんて斬れればいいと思ってた
否、斬れなくてもいい
相手を砕けるならそれでもいいと
でも違うのか…?
あんなに執着するほどのものがあるのか
気になって工房を覗く

…オレにも、打ってもらえるか
刀とか剣とか、正直何がいいものなのかもよく分からない
敵を殺せればそれでいい
そんなヤツが持ってもいいのか
じっとみてポツポツとたずねる
もしいいなら、頼む

…できれば大きくて、炎に耐えれるヤツがいい



●燃え立つ心に、刃添え
「剣なんて、斬れればいいと思ってた」
「ふむ」
「否、そもそも斬れなくてもいい。相手を砕けるなら、殺せるのなら、それで充分だと思ってた」
「なるほど」
「あんなに――刀に執着するヤツを見たのは初めてだった」
「そりゃあね、先々代様の刀は大人気だったからねえ。……それで、気になっちゃった、と?」
 こくり、と少年――草間・半蔵(ブレイズ・ハート・f07711)は頷く。
 鍛冶場に訪れた少年を迎えたのは、年の頃二〇になるか否か、という妙齢の女であった。髪は短めに揃えてあり、化粧気がないが怜悧な黒瞳が印象的な、当に太刀のような印象の女だ。
「……オレにも、打ってもらえるか」
「当然。何だって打つよ、アタシらは永海。妖刀鍛冶の永海一派だ。どんなのが好みなんだい、坊主」
「……正直、何がいいものなのかもよくわからない。オレは今までそういうの、意識したことがなかったから」
 いいながら、半蔵は背中の鉄塊剣を抜き、足下の土に立てた。重い――刃などないも同然の、当に鉄の塊だ。武器として考えるのならば刀という類別よりも、金棒として数える方が妥当だろう。
「……こりゃ、また。そんな小せえなりでよくもまあ。いつも、こんなものを振り回してんのかい?」
「ああ。……敵を殺せれば、それでよかった。だからこれで充分だった。けど、新しい刀を使えばもっと倒せるなら、オレはそっちを使う。そんなヤツが、ここの刀を持っていいなら。お願いしたい」
 半蔵はじっと女に視線を注いで、ポツポツと、包み隠さず内心を零す。正直だが、それは『もっと斬れる刃があればそちらを使う』『出来た刀はより多くを誅殺する為だけに用いる』との言葉だ。刀鍛冶にとっては無体な言葉だったやも知れぬ。
 しかし、女は目を細めて軽く答えた。
「実利主義だねぇ。まあ、いいよ。……一緒に考えようか」
「いいのか?」
 返事に半蔵は瞠目する。女は煙管に刻み葉を詰めると、火を点してひと吸い。かん、と灰皿に灰を落として、ふう、と煙を宙に浮かべる
「いいさ。あんたならきっと、誰かを守るために振るだろう。殺しには二つある。殺すための殺しと、守るための殺し。……こんな辺鄙な隠れ里、助けるために来てくれたんだろ」
 穏やかに笑う女は半蔵の鉄塊剣の寸法を改めてから、半蔵をゆるりと顧みた。
「ならきっと、あんたは殺すための殺しなんか、しないはずだからね。人斬り包丁を鍛造ってる身だ、道理を説ける立場じゃないが……それでも、鍛造るなら、あんた達みたいのに鍛造ってあげたい。アタシは、そう思うよ」
「……ありがとう」
「アタシは永海・鏤花(るか)。この永海の里で、当代独りの女鍛冶さ。じゃあ……これからしばらくよろしく頼むね、小さな猟兵様」
 鏤花は名乗ると、カラッとした笑みを見せ、女にしては大きな掌で半蔵の肩を叩くのだった。



「……できれば大きくて、炎に耐えれるヤツがいい」
「ついでに頑丈で、その剛力でもびくともしない。そんな刀がいいんだろう?」
「うん」
「なんだい、よく分からないことなんて、ないじゃあないか」



【大太刀『轟焔』】
 刃銘『ごうえん』。
 永海・頑鉄(がんてつ)が一子、永海・鏤花作。
 刃渡り四尺八寸。革巻柄、重ね重く分厚い刀身に蛤刃、ふくら枯れる。乱れ刃、大丁字。
 朱金をした刀身。沸が見る角度により金から赤へと色彩を変え、鮮やかである。
 芯鉄、皮鉄共に、硬度を変えつつ、炎の化生の胆を用いて性質を変化させた妖刀地金『緋迅鉄』を用いた大太刀。いかなる熱においてもその刃鈍ることなく、半蔵の意思の力を喰い、炎を纏う性能を持つ。
 地獄の焔纏いて振るえば、轟く焔の音猛々しく。
 即ち、字して『轟焔』。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
3◎

刀匠の隠里があると。
有明の光に照らされた痕跡に、想像を巡らせる。今はもう、大丈夫の様だ。


「ーーー刀を一振り、打って頂きたいのです」

取り回しのきく、小さめの。刃渡りは一尺もあれば十分です。短刀になるのでしょうか、そちらをお願い致します。
拵の類はお任せしたく、恥ずかしながら余り詳しくはないもので。銘も付けていただいて構いません。

それともう一つ、お願いがございます。
こちらの、【空切】を研いで頂けないでしょうか。日々の手入れは己でも出来ますが、研ぎとなるとどうしても。
いずれは、お返しせねばならない大切な預かり物。どうか、よろしくお願い致します。

そう告げると、人形は深く頭を垂れた。



●その道に幸多からんことを
 一時は慌ただしく猟兵達がグリモアベースを駆け、騒ぎとなった案件だったが、今となってはもう静かなもの。気を付けて、と彼を送るグリモア猟兵の目からも、険はとうに失せていた。
 ヨシュカ・グナイゼナウ(渡鳥・f10678)が永海の隠れ里へ降り立ったのは、昼を回った頃だった。里人を捕まえ、工房の位置を聞き、尋ね、通されて挨拶を済ませ、早速に切り出した。
「――刀を一振り、打って頂きたいのです」
「どんな刀がいい。……ゆっくり話してくれ。いくらでも聞こう」
 手拭いを頭に巻いた、背の高く、細い目の男――永海・鋭春(えいしゅん)と名乗った――が、ヨシュカの応対相手であった。
 ヨシュカは希望する性能を、一つ一つ諳んじていく。
「取り回しの効く、小さめのものをお願いしたいです」
「となると、脇指か短刀になる。刃渡りは?」
「一尺もあれば充分です。……短刀になるでしょうか」
「詳しいな。ならば平造り、反りはなく鍛造る。朱色漆塗鞘、革片手巻柄で拵えとしよう……銘は、此方で打って構わないか」
「はい。……それと、もう一つお願いが」
「聞こう」
「……こちらの刀を研いで頂けないでしょうか」
「見てもいいか?」
 はい、と呟くなり、ヨシュカはゆるりと刀を抜き、柄頭を鋭春に向けた。拝見する、と相も変わらず言葉少なな応答。
「日々の手入れは己でも出来ますが、研ぎとなるとどうしても」
「おれたち、鍛冶でも、刀の研ぎには難儀するものだ。研師がいる、彼らに任せよう。……しかし、これは、面白い造りだな。おれたち永海の打ち方ではない。だが、良い刀だ。銘は?」
「空を切ると書いて……からきり、と。いずれは、お返しせねばならない大切な預かり物。どうか、よろしくお願い致します」
「承った。……しかし、何れ返さなければならないとは。立ち入ったことを聞くようだが――一体、誰に?」
 鋭春の問いに、ヨシュカは少しだけ困ったように笑った。
「……分からないのです。形見の願い、とでも申しましょうか」
「形見の願い?」
 ヨシュカはやわらかな敬語を崩さぬまま語る。嘗て共に過ごした、自分の主がいたこと。
 空切は、主――老婦人が、終ぞ返すことができなかったと言い遺した、形見の刀であること。遺志を継ぎ、返さねばならぬ、と思ったこと。手がかりは少なく。けれど、今日も猫と一緒に、当て所なく旅をしていること。
 んなぁお。足下で、恰幅のいい雄猫が鳴く。
「無駄話をしてしまったでしょうか」
 少しだけ首を傾げたヨシュカに、黙って言葉を聞いていた鋭春は首を横に振った。
「――否。身が引き締まる。おれはただ、よく切れて、折れず、曲がらず、軽く、強い刃を鍛造ることしかできないが……あんたの旅路を守るものを、鍛造ろう。いつか空切を返せたならば、その時は、また立ち寄るといい。その時は、代わる刀を用立てる」
 ぶっきらぼうだが、芯に熱のある声で鋭春は言った。細い目の奥、刃金のいろした瞳が光る。
「……ありがとうございます。その時には、是非」
「ああ」
 ヨシュカが微笑み、鋭春も少しだけ、笑った。



 数日して、宿で雄猫――ヴィルヘルムと共に緩い時の流れを過ごしていたヨシュカの元に、桐箱が届く。送り主には、ただ一筆、鋭春とあった。



【短刀『開闢』】
 刃銘『かいびゃく』。
 永海・鋭春作、刃渡り一尺の短刀。朱色漆塗鞘、革片手巻柄、直刃、平造り。反りなし。
 古霊刀の欠片を玉鋼を熱し叩き、焼き入れに妖魔の血を使用することで完成する妖刀地金『斬魔鉄』での作刀。
 よく詰んだ板目肌。特殊な能力は持たないが、斬魔鉄を専門にする随一の鍛冶である鋭春が作刀することにより、斬魔鉄の特徴である強靱さ・軽量さ・鋭利さの全てが高次元で実現されている。
 開闢とは、これからの道を彼が切り拓いていけるようにとの鋭春の願いからの銘。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◎【3.】


刀がひとつ欲しいんだ
……あ、使うのは俺じゃないんだけど
人に贈るんだ
えーと、本命の刀はもうあるみたいだから
脇差っての? ああいうやつがいいんだけど

どういう相手……説明すんの難しいな
人を見捨てられないバカなやつ
向こう見ずで、簡単に自分の身を差し出して人を守っちまう
情に厚くて、暑苦しいくらい真っ直ぐで、
……どうしようもなく諦めが悪くて、
そのくせ、どこかで自分のことだけは諦めてるような
そういう、変なやつなんだ

俺のこと、相棒とか呼ぶしさ
そういうのどうでもいいって言ってるのに、
……いや、なんでもない

そうだな、
きっと、例えるなら
潰えない炎とか、……太陽とか
そういう感じなんだと思う

◆銘お任せ



●友へ贈る刃
「刀がひとつ欲しいんだ。……あ、使うのは俺じゃないんだけどさ」
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は工房に立ち寄り、対した刀鍛冶に相談を持ちかけた。穏やかな語調で話す、垂れ目の、ばさばさの髪の男だった。
「人に贈る、と。手前で打てるか分かりやせんが……お聞きしやしょう、どのような方で、どのような刀が欲しいので?」
「ああ、えーと……じゃあ、形からいいかな。本命の刀はもうあるっぽいから、脇差っての? ああいうやつがいいんだけど」
「長さとしては脇指ほどがよいと。承知致しました。本命の刀と使い勝手を合わせた方がよろしいかと思いますな。ちなみにそれはどのような?」
「え? あーうーん、なんだったかな……幻影すらも切り裂く、だったか。そんな触れ込みの刀だった、と思う。鞘に桜の花びらが散った感じになってて」
 匡は記憶を辿り、思い出した情報を並べる。それを聞くなり、垂れ目の男はのんびりとした調子で笑った。
「ははあ。ならば手前の得手ですな。……して、続けましょう、どのようなお人で?」
「どういうやつ……説明すんの難しいな、ええっと」
 痒いでもない頬にカリカリと爪を立てながら、匡は考える。半人半機、銀髪のスターライダー。スペース・バイクを駆り、失った記憶に懊悩しながら今日も駆ける男。
 ……いや、そういうことじゃない。あいつの、本質。
「……人を、見捨てられない、バカなやつ」
 そうだ。匡ならば見限り、彼我損害比を冷徹に勘案し、救うのをやめるような事物を、あいつは自分を削ってまで助けに行こうとする。
「向こう見ずで、簡単に自分の身を差し出して人を守っちまう。情に厚くて、暑苦しいくらい真っ直ぐで、……どうしようもなく諦めが悪くて、そのくせ、どこかで自分のことだけは諦めてるような」
 ああ――あいつと一緒にいたからか、少しばかり俺も甘くなったのかもしれない。
 それは戦闘機械としては機能損失だろう。はっきり自分でもそう思う。……けれど、
「そういう、変なやつなんだ」
 その『変』なやつのことを、否定したくはない。
 俺は、そうなれないかも知れないけど、あいつを助けてやりたいとは思うのだ。
「それは果たして変でしょうか。自己犠牲の精神に溢れた、出来た人のような気がいたしやすがねえ」
「そんなことないだろ。だってあいつ、俺のことを相棒とか呼ぶんだぜ。そんなのどうでもいいって言ってるのに……」
 変なところを並べるつもりでいの一番に話した内容のまずさに匡が思い当たったのは、男がそれまでに増して花の咲いたような笑みで自分を見ていることに気付いたときだった。
「おい」
「なンで御座いましょ」
「からかうんなら、他を当たるぞ」
「滅相もない。最後に一言、何かに喩えるなら、その人をなンに喩えやす?」
 謎かけめいた声に――
 しかし匡は、不思議とその問いにだけは、迷わずに応えたのだ。
「……そうだな。きっと、例えるなら……潰えない炎とか。太陽とか。そういう感じだと思う。あいつはきっと――誰だって照らしてみせる。そういうやつだ」
「心得ました。不肖、手前、永海・寂鐸(じゃくたく)が引き受けやす。暫時お待ちの程」
 鍛冶の男は、揺らめくように笑って、頷いた。




 時間がないとは告げてあったが、翌朝、宿の部屋の前に桐箱が届けてあった。
 ただ一筆、銘だけを書して。



【脇指『春陽』】
 刃銘『しゅんよう』。
 永海・寂鐸作、刃渡り一尺五寸の直刃の脇指。黒漆拵えに、まるで花そのものを焼き付けたような桜模様が浮く。
 拵えの漆黒に花弁混ざり、纏った金箔が正に春陽を表す。その刃は、霊験確かな数々の触媒を燃やして得られる霊炎にて精錬された妖刀地金『屠霊鉄』にて構築されている。
 断ちたいと願うならば、実体のない心霊すら断つ刃。無論、実体とて良く斬れる――とは寂鐸の弁。
「――お気に召すといいですやね。猟兵様の、佳き友が」

大成功 🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
みんなの戦いも、見て回りたいけど…
今は、こっち。こんな機会、もう無いかもしれないしね。

●3
小さい刀をひとつ、作って貰いたいな。
武器として振るような物じゃなくて、
お侍さんが、切腹する時に使うような…あんな小刀。

ふふ、切腹するのに使うんじゃないよ。
護身用っていうか、お守りに。
不思議な力も無くていいし、鋭い切れ味も無くていい。
…あっても、私じゃ持て余しそうだし。
ただ…あなた達を思い出して、いつかの私の力に出来るような。
そんな時のための、一本が欲しいんだ。

デザインは…お任せで。
餅は餅屋、って言うしね。私に似合いそうな一本をお願い…なんて、無茶振りかな?
ふふふ、素敵なものを期待してるね。

【アドリブ歓迎】



●咲け、その手の内で
 里はずれの即席訓練場からは、里の若衆と訓練を共にする猟兵とで賑わう声が絶えない。同輩の戦い振りを見て回るのも楽しそうだけれど――彼女が向かうのは工房だ。
 打ってほしいものがある。
 ゆらゆらともふもふの尻尾を揺らしながら、パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)はゆるりと工房の戸口に立ち、こんにちは、と控えめに声をかけた。
「嬉しいねえ、今日は千客万来だ」
 応じたのは、年の頃二〇半ばというところの、ひょろりと背の高い男だった。愛嬌のある顔立ちで、伸ばした髪を一本に纏めて頸辺りでくくっている。
「そんなに沢山の猟兵が来てるの?」
「応さ、注文打ちがあんな数になるのは久方ぶりだ」
 親指で示した先には、作刀の予定表がある。木板に札を掛け、炉や設備の使用予定を管理しているのだろう。パームが一見しただけでは、何がどうなっているのかよく分からない数の札が掛かっている。
「そもそも、俺達はこの里に隠れ住んでるわけでね、普段は数打ちをこなして信頼できる筋に卸してるんだが……皆、里の銘を切れるってんで大はしゃぎなのさ」
「忙しくさせちゃったかな、ごめんね」
「構わねえよ。やっぱり俺達は刀を打つのが好きでね。それも、自分らを助けてくれた英雄に捧げる刃とくれば、気合も入るってなものさ。……んでお嬢ちゃんも、一本注文を入れていくかい」
「いいの? ……いいなら、頼みたかったんだ。よかった」
 ――こんな機会、もうないかも知れないしね。
 パームは言葉を呑む。サムライエンパイアは広大だ。もう、この里を訪れることもないかも知れない。いや、ない方がいいだろう。もしまた来るとするのなら、それはこの隠れ里にまた何かの異変が起きたときだから。
「小さい刀をひとつ、作って貰いたいな。武器として振るような物じゃなくて、お侍さんが、切腹する時に使うような……あんな小刀」
「物騒な。嬢ちゃん、腹を掻っ捌く予定でもあんのかい」
 ゾッとしねぇや、と男が唇をひん曲げるのを見て、パームは笑って手を振った。
「ふふ、切腹するのに使うんじゃないよ。護身用っていうか、お守りにしたくて。……不思議な力も無くていいし、鋭い切れ味も無くていい。あっても、私じゃ持て余しそうだし」
「欲がねえなあ。大抵の使い手は、『折れない』『良く斬れる』『研がなくても切れ味が保つ』『燃える、冷える、斬撃が飛ぶ』だのと、クソやかましいんだが」
「あはは。そういう性能があっても、私じゃ持て余しそうだしね。ただ……」
 パームは言葉を切る。工房の奥からは鎚音がガキンガキンと響き、焼き入れの音か、水が沸き爆ぜる音も聞こえる。汗を流し時に怒鳴りながら、懸命に刀を鍛えるひとびと。光景を目に焼き付けながら、少女は続けた。
「あなた達を思い出して、いつかの私の力に出来るような。そんな時のための、一本が欲しいんだ」
「……猟兵様にも色々いるもんだなあ。承知した、拝命するよ。専門は飄嵐鉄なんだが、ま、たまには普通の刀を打つのも、悪かあるまい。永海・銀翔(ぎんしょう)が承る。拵えや打ち方に注文は?」
 銀翔は飄々とした風にパームに応え、希望を問う。返すパームの調子は、少しだけ悪戯っぽく。
「お任せで。餅は餅屋、って言うしね。私に似合いそうな一本をお願い……なんて、無茶振りかな?」
「俺の鍛冶人生でも有数の難題の気がするぜ」
 冗談めかした渋面造り、銀翔は応えたものであった。乗っかるようにきゃらきゃら笑って、
「ふふふ、素敵なものを期待してるね。銀翔さん」
 パームはぱちりと片目を閉じてみせるのだった。



 打ち上がりに三日を要した。小さな桐箱だったが、パームの手にはずしりと重く感ぜられたかも知れない。
 似合うといいが――と、律儀にしたためられた文が、一葉同封されていた。



【短刀『桜重』】
 刃銘『さくらえ』。
 永海・銀翔作、刃渡り一尺あまりの反りのない短刀。朱漆塗鞘、朱糸巻柄常組。鞘には桜花模様の螺鈿が施され美しい。また、鈨にも桜花が彫金されている。
 刀身の原料は永海の里で一般的に用いられる玉鋼のみ。妖刀地金は使用されておらず、故に特殊な力は持たない。ごく一般的な短刀だが、細部まで磨き上げられ良く鍛え上げられた刃であることが、良く詰んだ肌から見て取れる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
3

愛刀を携えて、永海を訪ねるわ。

ごめんください。
剣の修理って、お願いできるかしら。
(巨大な出刃包丁のような見た目の大剣「零式・改二」を出して見せる。所々刃が欠け、酷い所は罅が入っている)
少々酷使し過ぎてしまって。

修理できるなら、その様子を見ながら剣についての思い出を語るわ。

この剣、私の母様が現役の頃から使っていたものなんです。
これまでに二回、大きく壊してしまったらしくて。
それで銘に「改二」って付いてるんです。
(よく見ると「零式」「改」「ニ」で筆跡が違う)

※新たな銘はお任せ、形状は大きな変化無し(改良・改造レベルはOK)でお願いします

(出来上がりを見て)
ありがとう。大事に使わせてもらうわ。



●再び、共に
「ごめんください。剣の修理って、お願いできるかしら」
 荒谷・つかさ(風剣と炎拳の羅刹巫女・f02032)が訪れたのは、刀の修繕を主に受け持つ工房だった。研ぎ直し、装具の調整交換などを行う刀工が数名ほど詰めている。
「修理ですか。どの程度の修繕かにもよりますが……お見せ下さいますか」
 つかさの声に応えたのは重たげな眼鏡をした小男だった。未だ少年の面影を残す面差しだ。年の頃はつかさよりもやや上といったところで、まだ若いが、受け答えは堂に入ったものだ。
「これなんですけれど……少々酷使しすぎてしまって」
 巨大な、出刃包丁めいた見た目の大剣であった。銘は『零式・改二』と読める。台に置けば台が軋むほどの刃に、刀工らも思わず一瞬息を呑む。眼鏡の少年は、じっと大剣に視線を注いだ。
 刃欠け一二箇所、亀裂二箇所。
「どうかしら、出来そうですか?」
 通常、一度完成した剣は、再び熱に晒してはならない。鋼が変質し、柔らかくなり、用をなさなくなるからだ。これを、『焼きが戻る』という。
 つまり熱をかけ、溶けた金属で刀身を接ぐ様な乱暴なことは許されない。
 従って、亀裂の入った剣を修理することは不可能に近いのだ。新しいものを用立てる方が遥かに早い。普通の鍛冶なら匙を投げるだろう。
 しかし、少年は事もなげに応えた。
「可能です。絶雹鉄で接ぎましょう。少量ならば、この刀に影響も出ず癒着するはずです」
「ぜっひょうてつ……?」
 つかさが不思議そうに言うと、男は眼鏡を上げ、すらすらと応えた。
「我らの里に伝わる『妖刀地金』、その八種のうちの一つです。玉鋼を雪の化生の血と共に、専用の氷炉で溶融させて固め、鍛えて作るものです。――誰か、絶雹鉄の準備を。行程は接ぎ刃、叩きと研ぎ直し。接ぎ刃を終えたら叩きを入れて、研ぎ師に回して下さい」
 奥に彼が呼びかけると、応、とこたえる声がいくつか連なり、数名の職人が零式・改二を運んでいく。
 矢継ぎ早の説明につかさは額に指をやって暫く考えた後、難しい顔をして問う。
「……よく分からないけど、直るって事でいいのかしら?」
「はい。問題なく」
 返事を聴いてつかさはぱあ、と顔を明るくした。
「よかった! ――あの剣は、私の母様が現役の頃から使っていたものなんです。これまでに二回、大きく壊してしまったらしくて。それで銘に『改二』って付いてるんです」
 つかさの、零式改二の思い出話を聞き得心した風に少年が顎を撫でる。
「なるほど。銘の切り方が微妙に異なるのはそのためでしたか」
「そう! 職人さんが違ったから、そうなったみたいで。……よく見てくれてるんですね」
 つかさが嬉しげに言うと、男は飾ることなく笑って応えた。
「手前も、刀剣が好きなもので。どんな刃にも、最善の姿勢で向き合っていたいのです。……手前どもで出来る最善を尽くします。暫時お時間頂きますが、よろしゅう御座いますか」
「構わないです、よろしくお願いしますね」
 つかさの笑いに男は頷き、最後にこう括ったものだった。
「承知致しました。補修工房総代、永海・靱鉢(じんぱち)が承ります。……それでは暫し、宿でゆるりとお待ち下さい」



 四日の日を置き、宿の戸が叩かれる。
 再び向き合った相棒は、傷も、刃毀れもなく。
 ただ冴え冴えと、つかさの顔を映して輝いていた。
「――ありがとう。大事に使わせてもらうわ」



【大剣『零式・改三』】
 破損箇所を、極低温と特定素材の添加によってのみ熔解する妖刀地金『絶雹鉄』で継ぎ、凝固ののちに再度冷間鍛造と研磨を行って、今まで以上の強靱さを出すことに成功した大剣『零式』の三度の修理後の姿。
 鏨で、『改二』に一画を足したのみの控えめな銘切りが行われているが、補修前の状態とは最早比べ物にならない耐久性と切れ味が保証されている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
4.
戦い様も有り様も、僕のそれは人に示すには聊か不相応で。
大体、教えるとか苦手ですし!
それに僕は、剣士でもありませんので。
(――今は、もう。)
だから九代殿に請うのは物ではなく、薙神の話。
謂れや、祀られた経緯…
ナガミの名を付す程の永海の刃、そのこころなど。

矜持でも意地でも祈りでも、刀をどう見ていたのかも…
きっとどんな理由でも良いのです。
重要なのは、今を生きる永海たちの幸いだから。
言葉遊びではなく刀語りを、ナガミの方から聴いてみたかった。
(…いやまぁ八本刀、とっても気にはなるんですけどねっ。穿鬼とか、相性的に!)

この後?
勿論、山菜うどんですよ!
幾つか味の違いなどもあるんですかねぇ。
楽しみですねぇ♪



●神を薙ぐ刃とは
「貴方様は行かれないので?」
 九代永海――永海・鍛座(たんざ)は去っていく猟兵達の背中を見つつ、一人表座敷に残ってにこにこと笑う猟兵と視線を交わす。
「ええ――戦いも戦士としての有り様も、僕が教えずとも皆が教えるでしょう。そもそも僕、教えるのが苦手ですし、剣士でもありませんので」
 ――今は、もう。
 薄く口元に笑みを湛えて語るのは、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)。最後の一言は発さぬままに鍛座と相対する。広い表座敷、出された茶と茶菓子の盆を挟んで、胡座を掻いて向き合う。
「左様ですか。では、この老骨に出来る御礼など、御座いますかな」
 ず、と茶を啜る鍛座に、クロトはおもむろに切り出す。
「……そうですね。もし、良ければですが、里の柱と言われた薙神の話を聞かせて頂きたいです。その謂われ、祀られた経緯、冠されたナガミの名、そのこころについて」
 薙神。その名に秘されたものが、何かを知りたかった。矜持でも意地でも祈りでも、鍛造った刀工が刀をどう見ていたのかも。
「どんな理由でも構わない。言葉遊びではなく刀語りを、ナガミの方から聴いてみたかった……というのが、僕の求める報酬です。どうでしょう?」
「ほ――潰えるばかりと思っておりましたが、この里について猟兵様に覚えておいて戴けるとは。よう御座います、ではお聞かせしましょう。七代永海・筆頭八本刀、最後の一本について」
 鍛座は思い出すように目を閉じ、語り出す。

 烈光鉄。八種の妖刀地金の内、最後の一つ。他の七種に使用する特殊な素材を全て使用し、その全ての勘所を捉えた者のみが打つことが出来る地金。つまり烈光鉄打ちは、他の全ての妖刀地金の扱いを極めた者である。
 極めるまでの労苦並ならず、烈光鉄により作刀を成した者のみが里長、即ちその代の『永海』と称される。
「薙神は、その烈光鉄による作にして、七代永海――我が王父、『永海・鐵剣』の最高傑作で御座いました。七日七晩をかけ、命を削って生み出されたと言われます。烈光鉄による刀は、持ち手の心の強さを『光閃』に換え、遥か軌道の彼方を斬裂するのです。薙神が完成し、お披露目の場、剣士による試し振りの際――彼方の雲が裂けました。或いはその剣士が、猟兵様達のような無双の戦士だったのやも知れませぬが」
「雲を――とは、また凄まじい話ですね」
「はい。『この刃は神にすら届く』としたその剣士の言葉に感銘し、王父は『薙神』の銘を打ち、最高傑作としたのです。……この評判を聞いた時の城主から、刀を供出せよ、とご下命がありました。当初は金子も頂けたのですが、いくさばが荒れる度、対価は乏しくなっていき……やがて食い詰める頃、王父は最高傑作である筆頭八本刀の内七本を軍に供出し、最後の一本……薙神を里の皆に託して、言ったのです」
 言葉を切り、鍛座は茶を啜る。
「『おれは殿の元で、死ぬまで刀を打つ。おまえたちは、永海を絶やすな』と。――往時の職人が幾人も王父に殉じ、城主のため、死ぬまで刀を打ったといいます。……そして、斬丸より玉塵も、そのいくさの中で散り散りになったと、後になって聞きました」
 長い話を、ゆっくりとした口調で語り終え、鍛座は湯吞を置いて言葉を結んだ。
「我々は薙神を持ち、逃げて走り、この深山に隠れ住みました。――今でも、この里は王父と薙神に救われたことを忘れていない。故に柱――我らが支えなのです」
「……ありがとうございます。それが由来、ですか」
 薙神は、今でも永海の人々の支えなのだ。打った本人が死しても、幸いを支える『柱』なのだろう。感銘した風に、クロトは息を吐く。
「はい。年寄りになると話が長くなっていけませんな。退屈なさいませんでしたか、猟兵様」
「とんでもない。有意義なお話でした。ありがとうございます。……ところで」
「なんでございましょう?」
「もう少しだけ、訊きたいことがあるのです。他の八本刀の由来ですとか……穿鬼が特に気になりますが、どうでしょう、昼ももう回ったことですし、一緒に山菜うどんを食べながらでも、聞かせて戴けませんか?」
 クロトは笑い、興味を尽くさず話を続ける。
 否やはなかった。鍛座は笑い、では、と膝を立てて立ち上がる。
「良い店に案内致しましょう。この老骨が知る限りのこと――全てお伝えしましょうとも。猟兵様」

 うどん屋で膝をつき合わせ、クロトと鍛座はその後も、永海の刃について沢山の話をしたという。それこそ、日がとっぷりと暮れてしまうほどまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


さってと…チューマとは別行動だし、どうしようかね
模擬戦も趣味ってわけじゃねーし、エンパイアの武具を貰うほど武装に困窮してねえし、そもそも俺に合わないだろうし…

そーいや…そうか、そろそろだったか。
どれ、七代永海とやらを打った連中だ。摩訶不思議な刃を打つために使った素材…それを持ってたり、あるいは採取できる場所を知ってたりしないかね

ちょいとその素材を使いたいのさ。あるものを作る為にな。
あぁ?別に俺用のじゃねーよ。ま、出来てのお楽しみってことで

霊的なものに作用し、焔を纏わせ、凍り付かせる。これだけの効果を出すんだから、素材だって曰くがあるはずだ。
それを元にアレを作れば…それなりの品にはなるだろ



●天才の悪巧み
「さってと……チューマとは別行動だし、どうしようかね。模擬戦も趣味ってわけじゃねーしなあ」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、かしかしと頭を掻きながら里を歩く。オフタイムに誰かと殴り合うほど喧嘩が好きなわけでもなく、特に武器を打ってもらうほど、自分の武器に納得がいっていないわけでもない。
「ん……ああ、そーいや、そうか、そろそろだったか」
 ダラダラとスマートフォンの中の情報をザッピングして、知己に土産でも見繕うかと思っていた矢先、ふと思い出すのは一人の友人の顔だ。
 あいつの誕生日がそろそろ近かった筈。
「はァん、だから刀打つって話か……なるほどな」
 先の戦いでツーマンセルを組んでいた男が、自分じゃ使いもしないだろうに刀を用立てに行ったことを思いだして、今さら得心がいった。ヴィクティムは工房の方向を見て、鎚音に惹かれるようにその方向へと歩き出した。

「へえ、御座いやすね、確かに。手前どもの刀は、八種の『妖刀地金』を使って打ちやす」
 ヴィクティムの直截な問い――『刀を打つのに特殊な素材を使っていたりしないか』――に、垂れ目の男は隠し立てをすることもなく応えた。
「だよな。霊を斬り、焔を纏わせ、凍り付かせる……これだけの効果を出すんだから、素材にだって曰くがあるとは思ってた。で、そのヨートージガネってのはどうやって作るものなんだ?」
「そりゃあ、秘奥中の秘奥で御座いやすよ、猟兵様。……よしんば、作り方をお伝えしたとて、現実にそれを成すのは、熟練した刀工の仕事に御座いやす」
 男が言うには、『妖刀地金』とは、あやかしの血や胆、臓物、器官などを特定の手順で玉鋼と合わせ、本来ならば混ざり合うことのないそれらを、鍛冶という行動を一つの儀式に見立て、調和させる事によって完成するのだという。
「我ら永海の民が、まともに打てるようになるまで、見て五年。打って五年、円熟するまで更に十余年。才あるものならば縮められやしょうが、手前も妖刀地金が四、『屠霊鉄』を真面に扱えるようになるまで、二十四年を要しやした。一朝一夕にとはいきますまい」
「そういうモンなのか……ン、じゃあ、聞き方を変えてみるかな。板の形になったヨートージガネはねーかな?」
「板の形、で御座いやすか?」
「ああ、板の形。そいつを削って、ちょいと作りたいモンがあってね」
「……板……ふむ。とすると、焼き入れに妖魔の血が必要になる斬魔鉄は不向きやもですな。氷炉が要る絶雹鉄も向かんでしょう。手前どもの屠霊鉄も、霊炎で精錬し、焼きを入れる必要が御座いやすし、烈光鉄は問題外……この時点で残り四つ。その内扱いやすいと言えば、刹鬼鉄か飄嵐鉄ではないかと思いやす。手前の方から、掛け合ってみましょう」
「そりゃ助かるぜ。ひとまず頼むとして、その素材の専門家とかっているのかい?」
「ええ。ご案内いたしやしょう――」
 男は屠霊鉄打ちの永海・寂鐸(じゃくたく)と名乗った。
 ヴィクティムは男の後ろについて、他の鍛冶のもとへ向かう――



【利器材『刹鬼鉄』、『飄嵐鉄』】
 りきざい『せっきてつ』、『ひょうらんてつ』。
 五×五〇センチメートル、三ミリ厚の、『妖刀地金』による、熱処理前の鉄板。
 刹鬼鉄は鬼の爪牙に性質を反転する呪術をかけ、それを玉鋼と共に打ち、精錬した鋼。金色の肌を持つ。七代永海・筆頭八本刀が五『穿鬼』がこれにより打たれているとのこと。刹鬼鉄により作られた刀は、『鬼』という概念を殺すことに特化し、また、元となった鬼の由来を色濃く残した性能を示す。この地金には、剛力を持った鬼の爪牙が使われているらしい。
 飄嵐鉄は風の化生の胆を鋳込み、性質を変化させた妖刀地金。緑がかった銀の肌を持ち、煌めいて美しい。七代永海・筆頭八本刀が二『風刎』がこれにより打たれているとのこと。飄嵐鉄により作られた刀は羽のように軽い上、持った剣士の身体までも軽くし、鋭く動くことを可能とするという。八束もまた、風刎により多数の銃弾を弾いて見せていた。
 何れも、必要な形状にしたのち、熱処理をすることで実用硬度に達するとのこと。
 これでヴィクティムがなにを作るかは、彼だけが知っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ


ヨハン(f05367)
【4】

隠れ里って響きがたまらないよ
秘密の場所って感じ
素朴で居心地のいい村だね

私の槍、鍛え直してもらおうかなぁ
でもまだ時間はあるし後で大丈夫
ね、とりあえず一回りしてみようよ!

お腹が空いてきたからかな、つい飲食店を探しちゃう……
山菜うどん!?
食べよう、食べるしかないよっ

お箸を見るのは初めてじゃないんだけど
持ち方すらよくわからないよ……
行儀悪くないかな、ちょっと恥ずかしい

ふと隣を見遣れば、暫く外せなくなる視線
ヨハンが眼鏡を外した姿も今初めてみるわけじゃないのに
やっぱり新鮮だな……

箸に悪戦苦闘しつつも美味しく完食
頬に跳ねたつゆを拭って
美味しかったね、ご馳走様!

次はどこに行こうか


ヨハン・グレイン


オルハさん/f00497 と【4】

刀鍛冶の隠れ里
なかなか珍しいところに来れましたね

せっかくですし、何か打ってもらいますか?
俺は特に何もないですけど、あなたの槍とか
鍛え直すなど出来るんでしょうか

特に何をするでもなくふらりと歩いて
やはりこの世界の空気は悪くないな、と思いながら

腹が減っては戦は出来ぬと言うそうですが
戦の後は腹が減るものですよね
山菜うどんが名物だそうですよ
食していきませんか

箸はあまり使った事がないですけど
まぁ使えないこともなく
……眼鏡が曇る。置いておくか

視線に気付けば首を傾げて
頬、ついてますよ
ハンカチを手渡し

さて、どこに行きましょうか
偶にはこんな日もいいものだ



●闇と共に、今は晴れの下
「刀鍛冶の隠れ里、ですか。なかなか珍しいところに来られましたね」
「ほんとだね! まず、隠れ里って響きがたまらないよ。秘密の場所って感じ、わくわくする! 素朴で居心地のいい村だね」
 里の大路を行くのはヨハン・グレイン(闇揺・f05367)とオルハ・オランシュ(アトリア・f00497)だ。先の戦いでも、通して共に駆け、あの八束に対しても一歩も譲らなかった猛者二人。しかし、優しい日の下に来てみれば全く普通の年頃の少年と少女である。
 一夜明けてみれば、村は平穏そのもの。守った平和がそこにあると思えば、歩く二人の足取りは軽い。
「せっかくですし、何か打ってもらいますか? 俺は特に何もないですけど、あなたの槍とか――門外漢なので詳しくはないですが、鍛え直して貰うことなども出来るのでは?」
 少女が携える特注の三叉槍を見やりながらヨハンが言えば、オルハも槍の穂先を上目に見上げて、そうだねえ、と漏らす
「それもいいかも。……ううん、でも、ヨハンがそっちに用がないなら、後でいいよ。まだ時間は沢山あるし。ね、とりあえず一回りしてみようよ!」
 ヨハンに先んじてオルハは跳ねるように大路を歩いて行く。「早く早く!」と見返っては急かす可愛らしいその姿に、ヨハンは口元で笑い、脚を少しだけ早めて続いた。

 ヨハンは歩幅を合わせ歩く。特に何をするでもなく、細工屋の可愛いかんざしを冷やかしたり、甘味屋に視線を奪われるオルハに合わせて足を止めたり、飯処で食事を取る猟兵をつい眺めるオルハに合わせ足を止めたり。
 ぐー。
「……聞こえた?」
「……いえ。いい天気ですね」
 ヨハンは空に目をやる。晴れ空、いい空気だ。サムライエンパイアには排気ガスを出す機械類がないからかも知れない。心なしか、空気が清涼な気がした。
「……うう、絶対気を遣われた気がする。仕方ないよう、昨日の夜からなにも食べてないし」
 眉を下げて腹をさするオルハ。
「よく、サムライエンパイアでは『腹が減っては戦は出来ぬ』などと言うそうですが。……戦の後は腹が減るものですよね」
 視線の先ののれんを目に留め、ヨハンは空腹の少女に続ける。
「この里は山菜うどんが名物だそうですよ。……昼時ですし、我慢することもない。食していきませんか」
 一も二もない。オルハは耳をピンと立て、
「山菜うどん!? 食べよう、食べるしかないよっ」
 のれんの方へ足取り軽く走り出す少女の後ろを追いかけ、ヨハンもまた歩いて行く。

「おばさん! 山菜うどん二つお願い!」
「あいよっ」
 オルハの注文に歯切れ良く応じる中年の女性。
「席はそこの長椅子を使っとくれ。店の中はちょっと一杯でねぇ」
「はーい!」
 外に置かれた長椅子が二人の席となった。並んで座ることとなる。他愛ない話をする間に、すぐに山菜うどんが運ばれてくる。
「はい、お二人さん、お待ちどう! 今日はいい筍が入ってたからね、筍天もつけておいたよ」
「わあ、ありがとう! いい匂い!」
「これは……すごいな」
 素うどんの上に山菜の競演。ワラビ、ゼンマイと油揚げを甘辛く煮たもの、そこにタラの芽とコゴミ、筍が天ぷらになって添えられている。
 鰹と昆布の合わせ出汁に濃口の醤油の香り。甘めのつゆが天ぷらの衣に染み、油の香ばしい香りと相まって芳しい。
 どうやら天ぷらの揚げ油にはごま油も含まれているようだった。香ばしさの一因はそこにもあるのだろう。
「早速戴きましょうか」
「うん! ……えーと、ヨハン」
「なんです?」
 割り箸をぱちん、と割るヨハン。割り箸とにらめっこするオルハ。
「……あ、これそうやって割るとお箸になるんだね。見るのは初めてじゃないんだけど、持ち方がよくわからなくて」
「俺もあまり使ったことがあるわけじゃないですけど、こういう風に――下側は親指の付け根で挟んで。人差し指と中指までの三本で、上側だけ動かすように使うといいようですよ」
 あまり使ったことがない、という割に無難に箸を使いこなすヨハン。見様見真似で箸を動かすオルハ。
「こ、こう、かな。うーん、行儀悪くないかな、ちょっと恥ずかしい……」
 気後れするように箸先をまごつかせるオルハに、落ち着いた声が投げかけられる。
「大丈夫です。他の誰が見ている訳でもなし、堂々としていたらいいですよ、オルハさん。……」
 オルハを励ますヨハンの目元、うどんの湯気で曇る眼鏡。煩わしくなったのか、ヨハンはすいと眼鏡を片手で外して傍らに置いた。
「……うん、ありがと」
 横目で見る少年の顔は、闇の下にある時の怜悧さからは少し離れているように見えた。深い藍色の瞳が、眼鏡越しではなく今は直に見える。
 少しだけ、その藍に囚われたように見つめ続けた。
 今初めて見た訳でもないのに、なんだか目が離せなくなる。
(やっぱり、新鮮だな)
「……どうしました? オルハさん」
「……、ううん、なんでもないよ!」
 視線に気づいたヨハンが向き直れば、今度は丼の水面に目を落として、オルハはうどんとの格闘を再開した。箸の扱いに悪戦苦闘しつつも平らげ、満足げな息を吐く。
 その前に、すい、とハンカチが差し出された。
「頬、ついてますよ」
「あ、ありがとう」
 頬に跳ねたつゆを借り受けたハンカチで拭いつつ、戦闘だけではなくオフタイムでも支えられている自分に気づき、オルハは少しだけ笑った。
「優しいね、ヨハンは。……んー、美味しかったね、ご馳走様! ハンカチ、後で洗って返すねっ」
 空の丼を置いて立ち上がり、オルハは伸びを一つ。
「お気遣い戴かなくても良かったんですが。……優しい訳じゃないですよ。さて、どこに行きましょうか。もうしばらく当て所なく歩く、というのも悪くないかも知れませんが」
「うん! そうだね、この里のこと、全然知らないし。まだ沢山面白いものがあるかもしれないし。見て回ってみよう!」
 勘定をきちんと済ませて、二人は陽光の下を再び歩き出した。未知の土地を歩く旅心が、二人の脚を前へ前へと運んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰炭・炎火
3◎
はーいはーい! あのねあのね、あーしの武器、斧なんやけど、これ、鎖と鉄球、そろそろ切れそうなん
……そう、ニャメの重斧はすっごく頑丈だけど、これ後付やから、使ってるとどんどん劣化していっちゃうんよ。
せやから、ここは一つ、永海さん家で、すごーい鎖鉄球をつけてほしいん!
あーしが投げても壊れないぐらい、頑丈なやつ!
……あ、できなかったら無理でも大丈夫なんやけど。
でも、せっかくだから、欲しいなぁーって、駄目かな?

代わりに、重たいもんあったら、あーしが運ぶから! 



●選ばれ(なかっ)た者のための鎖
 風を捲いて鎖鉄球が唸り――
 どっっっっっごん。

 土柱が上がり、岩肌が抉れた。着弾の衝撃が風となり、永海の職人、数名の髪を嬲って吹き抜ける。
 沈黙。さすがに、間近にそれを見ては一同、等しく言葉を失う。
 里外れの露天掘り鉱床で、鎖鉄球を投げたのは灰炭・炎火(“Ⅱの闘争”・f16481)。
「って感じで、この鎖鉄球をぶんぶーん! ってするやんか、そしたらねえ、これ、鎖と鉄球、そろそろ切れそうなん」
 せやろな。
 永海の職人達、神妙な顔で炎火の言に頷く。
「あーしの武器はねえ、この『ニャメの重斧』なんやけど、これだけやと届くところまでしか叩けへんやんな。そんときのためにこの鎖鉄球使って、斧をぶんぶんしたり、鉄球ぶんぶんしたりするん。……ニャメの重斧はすっごく頑丈だけど、鎖鉄球はこれ、後付やから、使ってるとどんどん劣化していっちゃうんよ」
「ちなみに」
 頭に頭巾のように手拭いを巻いた職人が一人、ぱ、と手を上げる。
「あい?」
「その……おのでいいのか、その宝石の塊は。それの重さは何貫ほどになるのか」
「なんかん。……えーと。ちょっとすぐに出てこんけど、」
 ぱ、と炎火はニャメの重斧を手放した。刃先上部より地面に落ちた重斧が地面を揺るがし、そのまま流砂に呑まれるように、ゆっくりと地面に沈み出す。
「こんっくらい!」
 そら切れるやろな。
 永海の職人達、神妙な顔を続ける。
「せやからここは一つ、永海さん家で、すごーい鎖鉄球をつけてほしいん! あーしが投げても壊れないぐらい、頑丈なやつ!」
 いや、無理やん?
 職人らが顔を見合わせ、沈黙するのを見て、炎火は眉を下げる。
「……あ、できなかったら無理でも大丈夫なんやけど。ちょーっと、あーしも無理言ってるって思うん。でもでも、せっかくだから、欲しいなぁーって……駄目かな?」
 前髪をつまつまといじりながら、首をかしげる炎火を前に、職人らの間から一人の男が進み出た。筋骨隆々の大男だ。その身の丈、七尺に迫るほど。鬼と言っても疑うまい巨躯である。
「オレは、地鳴鉄打ちの、永海・荒金(あらがね)。剛力無双の猟兵殿。おめえさんのその斧を、いつまで支えられるかはわからないが……オレが、ひとつ、その斧を支えるものを鍛造ってみよう」
「いいん? やったー!」
 刃が完全に埋没した重斧を取って地面から引っこ抜きつつ炎火は喜びに宙を舞う。その様子を見つつ、荒金は「ただし、」と言葉を継ぐ。
「それだけの業物を支えるものだ。ちいとばかり、重くはなるが……覚悟はいいかね?」
「平気よ! それに、あーしに振り回せない鎖なんて、おっちゃんにも持てないし!」
「何とも剛毅なことよ! なれば、早速工房で丈の相談だの! 往こうか!」
「おー!」
 他の職人らが唖然とするのを置き去りに、炎火と荒金は大笑しながら工房へ足を向けた。その身長比、おおよそ一:九。
「……荒金どの、生き生きしておったなあ」
 ぽつり、と職人らのうち一人が呟き、それを見送る。手拭いの職人がそれに応えて、口元を緩めた。
「……荒金どのの剣は、ひとを選ぶ剣よ。あの剛力を見ては血も滾ろう。さて、我らも工房に戻って仕事だ。注文打ちをこなすぞ!」
「「「応!!」」」
 先を歩く二人を追って、職人達もまた歩き出すのだった。



 数日後。
 四頭の馬に引かれて、宿に堅固な木組の箱が届いたとか。



【鎖鉄球『ガルレグレル』】
 永海・荒金作。総重量、里の設備では計測不能の鎖鉄球。
 炎火より他の装備の銘を訊いた荒金がしばし考えた後でこの銘を打った。
 永海の妖刀地金『地鳴鉄』により作られた武骨極まりない鎖。良く磨いた岩の色――これの場合、銀灰――をした、従来よりもやや太い鎖と、一回り大きい鉄球で構成される。
 地鳴鉄は岩に由来する化生……夜泣石だの、塗壁だの……の核を高熱で溶かし、玉鋼に鋳込み精錬した鋼である。地鳴鉄で造られた妖刀は単純な重量が重くなり、かつ強度が増す他、籠めた意思力に従いある程度重量を軽くしたり、反対に大幅に重くしたりといった質量制御の能力を持つ。
 よく鍛えられた地鳴鉄ほど、この重量の可変幅が大きいとされ――また、素の重量も増すという。七代永海・筆頭八本刀が三『嶽掻』がこの金属で打たれている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
◎【3】
べりるちゃん(f12817)の付き添い

本当に包丁を打って貰うの?
いえ、日用の糧になるのは良い事だと思うけれども。
作りたてのごはんが出てくるなら歓迎よ。がんばって。

あたしは良いわ。
これ以上に銘を負うのは重すぎる。
……ああ、でも。
お邪魔はしないから、打つところを見ていても良いかしら。
メカニックだもの。畑が違っても、製法には興味があるのよ。

ところでべりるちゃん。
山菜うどん。山菜うどんよ。
……ねえ、試し切りしたいと思わない? 山菜。試し切りしたいわよね?
出来た後で切らせて貰えば良いじゃない。練習するのでも良いけれど。

そうね、折角だから教わりましょうか。
お料理は普通程度に出来るから安心して頂戴。


星鏡・べりる
◎【3】
よーこ(f12822)と

ほんとに包丁を打って貰うんだよ~
女の子としては料理ぐらいは、やっぱりね?
ということで、どういう包丁がオススメですか?
ナイフの扱いなら自信ありますけど、包丁使った事はありません!

それで、よーこは名刀でも打ってもらうの?
使いにくい刀ばっかりだから素直なやつを貰ったら?

ふーん、私は武器なら何でも使うタイプだから
その感覚は分からないな~

よーこ、山菜うどん食べたいだけでしょ……
さすがに包丁ができるまでは少しかかるんじゃない?
あっ、でも他の包丁借りてみて使ってみるのはいいかもね!

じゃ、一緒に山菜うどんを作るところから教えてもらいにいこ
お腹が空いてるのですぐがいいです!



●土蜘蛛's キッチン
「こーんにーちはー! たのもー!」
 ガキンガキンと引っ切りなしに槌音の響く工房に、華やいだ元気な声が響いた。職人らの耳目がそちらに集まる。
 戸口には二人の少女。茶の髪に緑柱石の瞳の星鏡・べりる(Astrograph・f12817)、黒髪に青海のような瞳をした花剣・耀子(Tempest・f12822)の二人組だ。
「……物凄く真剣に刀を打ってる最中のようだけれど。本当に包丁を打って貰うの?」
「ほんとに包丁を打って貰うんだよ~。女の子としては料理ぐらいは、やっぱりね?」
 ふふふ、と唇を笑みに曲げ、ふんすと鼻を鳴らし得意げなべりる。
「……まあ、日用の糧になるのは良い事だと思うけれども。作りたてのごはんが出てくるなら歓迎よ。がんばってね、べりるちゃん」
「ふっふっふ、任せといて! 泥舟に! 乗ったつもりで!」
「沈まないでね……」
 べりるの元気のいい声を聞きつけ、手の空いている様子の鍛冶のひとりが歩いてくる。「ようこそ、永海の鍛冶場へ。貴女方は……ああ、猟兵様ですね。お初に目に掛かります。私、永海・鋒竜(ほうりゅう)と申します。ここで鍛冶のひとりを務めています」
 愛想良く笑う男は、中肉中背。年の頃三十がらみ、綺麗に剃った髭に禿頭、仏のような穏やかな顔立ちが特徴的だった。
「こんにちは! 私は星鏡・べりる! そしてこっちが」
「花剣・耀子です」
「こんにちは、星鏡様、花剣様。長より話は聞いております、武具がご所望とか。なにがご入り用でしょう?」
「えーとですね! おすすめの包丁を!」
「包丁」
 ナイフ
「短 刀の扱いには自信ありますけど、包丁使ったことはありません!」
 びぎなあ
「初 級 者」
「べりるちゃん。あたしにも解ることがあるんだけど、多分今物凄くぽかーんとされてるわ」
「いえ滅相もない、……その、少々驚いただけです、はい、ええ。そうですね……ふふふ、何でしょう、私にも娘が一人いるのですが、先頃、行く行くの嫁入り道具にと一丁、こさえてやったばかりでして。丁度良かった、勘を忘れぬうちでようございました」
 鋒竜は呆気に取られた様子からすぐに優しげな笑みに戻り、続けた。
「初めの一丁でしたら、五~六寸の包丁がよいでしょう。包丁と言えば出刃、薄刃、菜切、柳刃……多種多様な専用包丁が御座いますが、私どもの里で鍛造る包丁には、それらを纏めて引き受けられる形の物が御座います。少々お待ち下さい、現物をお持ちしましょう」
 刃物の話となると刀でなくとも楽しいのか、にこにこしながら鋒竜は工房の奥へと歩いて行く。
 おねがいしまーす、と手をふりふりべりるは見送りながら、ちらりと横に視線を投げる。黙して動かぬ耀子の顔に横目を這わせ、
「……私は包丁でいいんだけどさ、ホントに欲しいから。よーこはそれこそ名刀でも打ってもらえば? 使いにくい刀ばっかりだから素直なやつを貰ったらいいと思うけど」
 花剣・耀子が持つ刀ときたら、刀っていうかチェーンソーだったり、布で封じられていたり、鞘でガッチガチに固められていたりと、異質際物の見本市である。それを知るべりるが慮っての進言だったが、耀子はふるりと首を二度左右に振った。
「あたしは良いわ。これ以上に銘を負うのは重すぎる」
 一人の剣士に既に銘が三つ。腕は二本、三つでも重い。耀子は謙虚に否定した。或いは、それは手持ちの三本に向ける愛だったのやも知れない。いずれにしても、べりるには解らない感覚だった。
「ふーん。私は武器なら何でも使うタイプだから、その感覚は分からないな~」
 理解出来ないけど、無理に強いる話でもない。べりるはさっぱりと、それならそれでいいか、という顔をする。そのあっさりとした空気を好むように耀子は眼を細める。
「……ああ、でも、そうね。打つところは少しだけ見てみたいわ」
「え、包丁を?」
「包丁も、刀も。――だってあたし、メカニックだもの。畑が違っても、製法には興味があるのよ」
 細い顎をすっと前に向け直す耀子に誘われるように、べりるもまた前を見た。
 うきうきとした調子で包丁の見本を持ってくる鋒竜を見ながら、「じゃ、頼んでみよっか」とべりるは楽しげに笑うのだった。

 ――そして、暫時の後。
 ほう、ほう、と梟が鳴く中、二人はふらふらと帰り道を歩く。
「……すごかったね、作刀と包丁造り」
「……ええ」
「……すごかったね、鋒竜さん」
「……そうね」
 鋒竜に快く迎えられ、作業場で見学を始めたのが十二時頃。べりるはぷかぷかと自分の傍に浮く機械鏡《ヤタ》に命じて現在時刻を表示した。十九時二三分。七時間半弱もあの場にいたのだ。
 熱心なのはいい、話も内容も興味深かった。しかし熱心すぎた。次から次へと情報が出てきて、秘伝の『刹鬼鉄』の製法の極意、勘所までついつい教えてくれそうになる辺りで弟子達に止められて、ようやく鋒竜は停止したのであった。まるで暴走機関車であった。
 結果、あっちゅう間に完成した包丁の桐箱を提げ、二人は帰路を歩いているのだが。
「う、うおお、おなかが空いて力が出ない……」
「流石のあたしもこれは堪えるわね……」
 二人でおぼつかぬ足取りの侭歩く途中に見えるのは、『うどん』と記された暖簾。
「べりるちゃん」
「なに、よーこ」
「山菜うどん」
「名物の話?」
「山菜うどんよ」
「……そだね、ここの名物だって話だね」
「……おなか満たしついでに、試し切りをしたくないかしら。山菜を。試し切りしたいわよね」
「よーこ、目が怖い。斬りたいのかうどん食べたいのかどっちかにしようよ」
「どっちもよ」
「これだよぉ」
 実際に使っている様子を見たいのと、一刻も早く食事をしたいのとが鬩ぎ合う耀子の目は、なるほど常ならぬ爛々とした光を帯びていた。何なら一帯の山菜を斬り果たしそうな勢いである。
「もう、わかったってば。じゃあ、あのうどん屋さんに作るところから教えてもらいに行こーよ。私もお腹は空いてるしね」
「ええ、そうしましょう。……もう、閉めかけてる。善は急げよ」
 月明かりに影法師を引き摺って、二人はのれんを下げにかかったうどん屋に向けて駆け出すのであった。

 ――歓迎された台所で、えいやと振った包丁が、まな板ごとタラの芽をぶった切り、悲鳴が幾つか上がったのは、また別の話。



【片刃文化包丁『星鏡』】
 刃銘『ほしがみ』。銘と言うより、持ち主の名前を単純に入れただけであろう。
 永海・鋒竜作、刃渡り六寸足らずの片刃文化包丁。金色の刃はよりにもよって妖刀地金『刹鬼鉄』で出来ている。
 刹鬼鉄は鬼の爪牙に性質を反転する呪術をかけ、それを玉鋼と共に打ち、精錬した鋼であり、『鬼』という概念を殺すことに特化している。また、元となった鬼の由来を色濃く残した性能を示す。
 剛力を持った鬼の爪牙が使われているらしく、普通に力を入れて斬ると、持ち手の筋力が増幅され、まな板ごと素材を両断する。危険極まりない。
 刃先は鋭く、刺すのにも使える。……肉のパックとか開けるのに便利。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四辻・鏡
4.
新しい刀ね…興味ねぇな
いや、永海の腕がどうのって話じゃねぇ

ただ…私は所詮刃だ
自分の為って理由で同胞を生み出すのはなんか、な?
人は身勝手で、私達は武器だから
願いや畏れは、時として呪いになる
人の噂に、逸話に踊らされて怪物になるヤツは…もう十分だ

辛気臭ぇこと言っちまったな
別に何も求めないなんざ言ってねぇ
刀鍛冶も一流なら、研ぎが一流なヤツだっているだろ?
せっかくの機会だ。【名無】と『私』の研ぎを依頼したい
名無も先の戦いで酷使しちまったからな、たまには労ってやりたいんだよ
銘も、逸話も、伝説も要らねぇ
ただ一緒に戦場を走ってくれる強い刀があれば、私は十分なんだ
ああ、『私』はついでな?
美し刀だろ、なんてな



●今ひとたび、鋭く
 永海の鍛冶職人の腕を疑う訳ではないが、新しい刀など必要ない――という者もいた。四辻・鏡(ウツセミ・f15406)もその一人だ。
 ご用命ではありませんか、と里長が尋ねた際、鏡が言ったのは次のような言葉だった。
「私も所詮、刃だ。自分のためって理由で同胞を生み出すのはなんか、な?」
 それは或いはヤドリガミ以外には理解しにくい理由であったかも知れない。
 人間は身勝手だ。自分勝手な理由で影姫たち――武器を生み出し、勝手な願いや呪いを武器に託して込めて、噂や逸話を纏わせて……そうして怪物を作り出す。
 影姫――鏡は溜息をつく。そう。当に自分のような、だ。そんな風に怪物になる連中を増やすのは本意ではない、と彼女は思う。
 眉を下げる九代永海に、彼女はからっと笑って言った。
「悪い、辛気臭ぇこと言っちまったな。あんた達の技を否定する訳じゃないんだ。……そうだ、刀鍛冶が一流なら、研ぎだって一流だろ。研師のところに案内してもらえねえかな」

 そうして案内を受け、鏡が足を向けたのは、永海の補修工房。
 鎚打つ音こそ鍛刀工房より控えめだったが、作業する職人達の顔は真剣そのものだ。刃を研ぐ鋭い音と静謐な空気の満ちる場所である。
 正面の受付に立つのは、年若い男だった。眼鏡をかけた小男で、背丈は五尺四寸といったところか。穏やかな面差しで、歩く鏡を見つめている。
「補修工房ってのはここでいいのかい。刃を研いで欲しいって言ったら案内されたんだが」
「はい。ようこそ猟兵様、永海の補修工房へ。手前、補修工房総代、永海・靱鉢(じんぱち)と申します」
 男は丁寧に一礼した後、して、と言葉を継いだ。
「研ぎが必要なのは、どちらの刀ですか」
「ああ、こいつと……これ、かな」
 鏡が台の上に載せるのは、無名の太刀『名無』と彼女の本体たる鏡刀『影姫』である。
「刀身を拝見しても?」
 鏡が頷くと、靱鉢はまず名無より刃の状態を改めた。
「……いい刀ですね。打ち合ったにもかかわらず、目立つ欠けもない。多少の毀れはありますが、研ぎでなんとかなる範囲です。……この刀、銘などは?」
「知らねぇんだ。……戦場で拾ってからこっち、使い続けてるだけの太刀だからな。大した手入れもしないでここまで使ってきてるし、たまには労ってやりたい」
 銘も、逸話も、伝説も不要だ。
 鏡に必要なのは、折れず、曲がらず、ただ戦場を共に走ってくれる強い刀のみ。
「心得ました」
 靱鉢は差し出がましい口を利くこともなく、鏡の願いに沿うように頷くと、では、ともう一振りの匕首――鏡刀『影姫』の刃を抜いた。
「……これは、これは」
 思わず感嘆の声を上げ、靱鉢は刃に見入る。湖水の如き輝きを湛え、刀身の輝き美事。煌めく沸の具合といい、実戦刀として使い込まれた名無とはまた別種の優美な刃である。
「美しい刀だろ」
「はい――とても。こちらには、銘が?」
「鏡刀『影姫』。……憶えておいてくれ。昨晩、あんた達を救う為に走り回った『匕首』の銘さ」
 胸の孔も腕の負傷も、仲間の処置によりもうないが。
 鏡はどこか誇らしげに、『右手』を、昨晩穿たれた胸に置いて、靱鉢に微笑みかけるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸リル(f10762

3 形お任せ、銘お任せ

あの永海の里でこんな名刀が見られるなんて!感激しちゃう
どれもとってもよく斬れるのよ、リィ

流石、七代永海!
惚れ惚れする美しさで振るってみたい気持ちもあるけれど
あたしには屠桜があるからね
今日はリル用の刀を作って貰いにきたの!
男なら1本くらい刀を持ってないとね!

リィに試しに色んな刀を握らせて
うーん
七代永海はおろか打刀も振るうのは難しそうね
嬉しげにしてる姿は微笑ましいけれど

人魚の持てる刀
やはり、短刀かしら
泡になる前に
どんな王子も一突きに仕留め殺せる刃
守りの短刀を贈るわ

あたしがちゃんと訓練するから大丈夫!


(それでいつか
あたしが道を外れたその時は
殺しにきて頂戴


リル・ルリ
■櫻宵(f02768
アドリブ歓迎
3

僕、こんなたくさんの刀をみるの初めてだ
どれも綺麗だけれど触れればたちまち斬れてしまいそう
尾鰭が触れないように気をつけながら游ぐ

櫻宵には「屠桜」があるけれど
七代永海を貰いに来たの?
君なら見事に使いこなせるだろう
なんて
えっ、僕の?!
刀なんて握った事も無い

櫻宵に言われるまま色んな刀を持ってみる
けれど
ゆらゆらふらふら
足があればもっと違っただろうか
刀をあんな自由自在に振るえるなんてすごい

でも刀を握るのは
君に少しは近づけた気がして嬉しい

短刀なら僕にも使える?
爪も牙もない僕の初めての刃
櫻宵が教えてくれるなら
悪辣を一突きに出来るようになれるかな
少しは君を守れるかな

僕、頑張るよ



●人魚の刃
「わあ――」
 壮観である。
 永海の鍛冶場は、その壁に多数の習作や、模範としての筆頭鍛冶謹製の業物が掛かり、その数も数十では効かぬほど。
 一人の少年――美麗なる細面は少女と見紛う程――が、あちらにもこちらにもと視線を投げながらゆらゆらと宙を游ぐ。優美に鰭をはためかせ揺らめかせ、観賞魚に似た気品を感じさせる動き。しかし、舵取りはやや慎重だ。尾鰭が万が一にも刃に触れてしまわないよう、気を遣っているかのようだった。
 それに伴い、ゆるりと続くのは一人の青年。身体の線から男と知れるが、どこか艶めいた雰囲気を纏った細面の男だ。
 男ばかりの鍛冶場にあって、彼らの美しさはその場の耳目を否応なく惹く。
 先を行くはリル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)、続くのは誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)である。
「すごいね、櫻宵。僕、こんなたくさんの刀をみるの初めてだ」
「ええ、そうね――」
 壁の刀からは何れも並ならぬ剣気を感じる。鞘の中にあってさえ刃から匂い立つような鋭い気配に、櫻宵は嬉しげに笑った。
「永海の里でこんなに沢山の刀を見られるなんて、私も感激しちゃうわ。どれもとってもよく斬れそうよ、リィ。特に――」
 櫻宵は視線をずらす。作業台、数人の見張りを付けて、刀台に収まる七本刀。――あれなるは雷名も名高い『七代永海・筆頭八本刀』がうち七本。柄、鞘の拵えを見るだけでも溜息の出る佇まい、抜いて振ってみたいという欲も出ようというものだ。
「櫻宵、あの刀が気になるの?」
 舞い戻り、隣に揺蕩うリルに問いかけられ、櫻宵は僅かに逡巡するも、すぐに首を横に振った。
「ううん、いいのよ」
「確か、くれると言ったんだったよね、ええと……七代永海。君なら見事に使いこなせると思うけれど、あれを貰いに来たの?」
「ああ、そういえば言ってなかったわね、今日の目当て。あたしはいいわ、名のある刀なら、あたしには『屠桜』があるし――本命は別にあるもの」
 櫻宵はリルの手を取り、にっこりと笑うと、なんと、と前置き一つ、
「今日はリィ用の刀を作って貰いにきたの! 男なら一本くらい刀を持ってないとね!」
「えっ、僕の?!」
 まさかそうとは思わなかったか、リルは瞠目して壁の刀と櫻宵と自分の手をくるくると見比べる。
「僕、歌うくらいしか出来ないし……刀なんて、握ったことも無いよ?」
 目に見え隠れする不安そうな色。勇気づけるように櫻宵は笑みを深め、きゅっとリルの手を握った。
「大丈夫、任せて。あたしがちゃーんと訓練するし、これから選ぶのだって一緒にするんだから!」
「……ん、櫻宵がそう言うなら……興味は、あるし」
 こくん、と頷き、リルは櫻宵の手を握り返す。
「あのね、櫻宵。言ってなかったけど、刀を握るのはね、君に少しだけ近づけた気がして嬉しいんだ」
「そうなの?」
 目を丸くする櫻宵の手を解き、ゆら、と中空を游ぎ、リルは笑った。
「そうだよ」
 人魚は宙を揺蕩い、少し照れたように囁くのだった。

 そして職人らに許可を取り、二人の刀探しの旅が始まる。

「で、まず、これが大太刀ね。うーん、ちょっと重いかしら。持ってみる? リィ」
「軽々と持ってるけど、そんなに軽いの?」
「んー、そうね、持った感じ大体二キロ半くらいかしら。はい」
「んっ……」
 正眼に構え――刃先がふるふる、ふるふる。身体はゆらゆら。
「……リィ、やめましょ。あたしが悪かったわ」

「で、これが打刀。二尺八寸……は一般的だけどちょっと長いかしらね。こっちの一振りはどうかしら? 二尺三寸だそうよ」
「にしゃくさんすんってどのくらい?」
「だいたい六九センチ。このくらいまで行くと脇指寄りね。どう?」
「……」
 ゆらゆら、ふわふわ。
「振るにはちょっと不安かしらね……うーん、じゃあ、思い切って短刀かしら」

「あ……これなら、簡単に持てるかも」
「刃渡りは……書いてあるわね。一尺丁度、三〇センチぐらいかしら。――どんな王子もそれならイチコロよ。一突きに仕留めてしまえるわ」
 ――泡になってしまう前に。
 目の前の少年が、泡になって消えてしまうことなんてきっと無いと思うけれど――もしその危機に瀕したなら、いつでも振るえる刃。守りの短刀。
「刀って、沢山種類があるんだね。『たち』も『うちがたな』も、すごく重くてびっくりした。脚があったなら、もっと違うのかな?」
「いいのよ、振るえる物を振るえばね。そのくらいの長さでいいなら、職人さんにお願いしちゃうわ」
「え、この刀を持って帰るんじゃないの?」
「そいつは、注文打ちじゃない」
 後ろから、二人の会話に割り入る声がある。
 二人が振り向けば、頭に手拭いをした、細い目の――その奥に、鋼色の瞳を覗かせる――作業着の鍛冶が立っている。
「拵えと刃が気に入ったならば、そのように鍛造る。……徒弟が打ったものだ、それは。初に目に掛かる、猟兵どの。斬魔鉄筆頭鍛冶、永海・鋭春(えいしゅん)という」
「あ、……リル・ルリ、です」
「誘名・櫻宵よ」
 名乗り頭を下げる男に、リルはそっと、櫻宵は物怖じせず返す。櫻宵はリルの手の中にある短刀を示し、滑らかに注文を付ける。
「このくらいの丈でいいわ。折れず、やたらに振っても耐える強さがあり――あと、出来れば少しでも軽くなるように。非力でも扱えるようにして貰えるかしら」
「強く、軽く、曲がらず、折れぬ。斬魔鉄の得意分野だ、心得た。他には?」
 櫻宵は鋭春と名乗った鍛冶に、仕様を掻い摘まんで伝え――程なく、軽い握手を交わした。鋭春はひらりとリルに手を一つ振り、工房の奥に消えていく。
「……?」
「任せとけ、ってことよ、きっとね。……んーっ、注文も終わったし、お兄さんの話だと多分三日中ぐらいには出来るらしいわ。行きましょ、リィ」
「あっ、うん、ありがと、櫻宵。……あのねっ、」
「なーに?」
 ゆっくり歩き出す櫻宵に並び、リルはふわりと宙を游ぎ渡りながら、
「僕には爪も牙もないけど……出来た刀を持ったら、僕、頑張るよ。櫻宵が教えてくれるなら、僕も君みたいに悪辣を一突きに出来るようになれると、思うから。……少しは君を守れるかな。守れるといいな」
 リルは無邪気に笑って、願いを口にする。
 櫻宵は嬉しげに笑い――
「ふふ、ありがと、リィ」
 そっと優しい声音で、宙の人魚に礼を紡ぐのだった。

 ――嗚呼、
 そうよ。あたしの教えるその術で。
 それでいつか――あたしが道を外れたその時は、
 あたしを、殺しにきて頂戴。



 三日を置き、小さな桐箱が、二人の泊まる部屋に届いた。



【短刀『揺桜』】
 刃銘「ゆれざくら」。
 永海・鋭春作、刃渡り一尺の短刀。黒漆塗鞘、片手糸巻柄、乱れ刃丁字、平造り。反りなし。
 古霊刀の欠片を玉鋼を熱し叩き、焼き入れに妖魔の血を使用することで完成する妖刀地金『斬魔鉄』での作刀。揺らめくような美貌の、華やかな男が注文を残していった事に因むのか、刀身はやわらかな桜色の沸を帯びる。――それは、妖魔の血の赤を微かながらに残したことに所以する、神憑り的な加減での遊びであった。切れ味、強度、全く注文の通り。正面から鉄馬に刺しても歪むまい。
 揺れ桜腰にして、留めるは貴方次第。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリシア・マクリントック
4.その他
刀の作り方に興味があります。
私が普段使う剣は刀とは違うものですが、それでも刀の成り立ちを知ることも剣を扱うことの足しになるでしょう。
できることならば自分で作ったりもしたいですね。もちろん一朝一夕に身につく技術ではないですから、難しいでしょうけれど……

もし自分で魂のこもった刀を打つことができれば……出来の如何にかかわらず、「最高の剣」足りえるでしょう。「コトダマ」という考え方もあると聞きます。名前も大事ですね。どんな名前を付けるのがいいでしょうか……

この機に刀を扱う剣技を教わるのもいいですね。
マンゴーシュの代わりに刀を使う細剣と刀の二刀流……そんなことができたら面白そうです。



●双翼、成るか
 永海の作刀技術に興味を示す猟兵は少なくなかったが、自ら打つことを試みようとしたのはアリシア・マクリントック(旅するお嬢様・f01607)くらいのものだった。
「また物好きなお嬢ちゃんが来たなあ。まあ、儂は嬉しいがね。仕事にハリが出るってなものよ」
 アリシアを快く迎えたのは永海・頑鉄(がんてつ)を名乗る鍛冶であった。小柄ながらに筋骨隆々として、豊かな髭を蓄えている。絵本のドワーフを思い起こすと、そういえばこんな様相だった、と思わされるような矍鑠とした老爺だ。
「一通りの作り方は以前、ある鍛冶の村で学んだことがあるんです。……梶本村というところで」
「ほう、あの梶本で! 女だてらにやるもんだのう。儂にも跳ねっ返りの娘がひとりおってな、好きが高じていよいよ鍛冶にまでなってしもうたが」
 その細腕でなあ、と頑鉄はアリシアの腕を伺うも、少女はふふ、と笑って軽々、鎚を持ち上げた。
「ご心配なく。これでも剣を振るのには慣れているんです。……その、刀についてはまだまだ勉強中ですが。今回も、自分の刀を自分で作ってみたくて」
「はあ、猟兵様は本当に杓子定規では測れんな……よかろ、一日儂が横につく。よい刀を作るとしようかね」
「はい!」
 花が咲いたように笑うアリシアに、頑鉄もまた皺くちゃの顔を笑みに緩めるのであった。

 妖刀地金を用いる永海謹製の妖刀は作刀の難度高しということで、玉鋼のみを用いて打つ、一般的な二尺五寸の打刀を鍛造る、ということで二人は合意した。
「妖刀である、妖刀でない、とは色々あるがね、この歳まで打って分かったことが一つある。刀の善し悪しに妖刀も何もない。現に、お嬢ちゃんが見てきた梶本の刀は最高だったろう」
「ええ、作刀の過程も拝見しました。老いも若いも皆、一生懸命に鎚を打って、鉄を叩いて……」
「そう。刀には、魂が宿る」
 頑鉄は充分に沸かした素材を炉より出し、アリシアを促す。表情を引き締め、アリシアは金鎚を手に取った。
「一打ち、一打ちに込めた想いが、其の侭、刀の出来に跳ねる。それは自分の魂を分け与えることそのものと言ってもいい」
「魂を、分け与える……」
 鎚打つ音。アリシアが打ち、頑鉄が指示をする。充分に叩き伸ばした、赤々と燃える鉄を二つに畳み、再び鍛錬。
 繰り返す。幾度も。金属音と、土と素材の間で散る銑鉄の火花。
「私に出来るでしょうか」
「出来るとも。今、この刀がどうなって欲しいか……固く、折れず、よく斬る、そんな漠たるものでいい。『そうであれ』とお嬢ちゃんが祈りながら心を込めて叩けば、きっと刀は応えてくれる。多少の誤りなど気にせず叩けィ、『緋迅鉄』筆頭鍛冶のこの頑鉄が最後まで共にあるからの!」
「……はい!」
 疑いを吹き飛ばすような頑鉄の声に押されるように、アリシアは素材を叩き続ける。
 もしも、もしも。自分で魂のこもった刀を打つことができれば……それは、出来の如何にかかわらず、『最高の剣』足りえるだろう。
 ふと、浮かんだ疑問に、アリシアは手を止めぬまま頑鉄に問う。
「そういえば、この国には『コトダマ』という考え方があると聞きます。言葉には力が宿る、とか。……この刀には、どんな名前をつけるのがいいでしょうか」
「そうさな……」
 頑鉄は皮鉄を折り返しながら、言葉を吟味するように一度切り、続けた。
「この刀が出来たところを夢見るのよ」
「夢……ですか?」
「応。嬢ちゃんは、出来たこの刀をどんな姿で、どのように振っているか。それは嬢ちゃんにしか想像できないもんさ。まだ刀とは到底云えぬ形、想像も難しいだろうが――形が出来てくるにつれ、きっとその夢は、嬢ちゃんの内側で形になるだろうよ」
 頑鉄の語り口に、アリシアは鎚打ちを再開しつつ想像を巡らせる。細剣と刀の二刀流で駆け抜ける、天衣無縫たる己の姿――
 想像の中の自分は、活き活きと楽しそうに笑っている。
 そうなれるだろうか。羽撃く双翼の片割れに、何と名を与えよう。
 アリシアは考えながらも、今ひとたび鎚先を持ち上げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仁科・恭介

3.永海製の武具を受け取る
狭い室内戦やスニーキング、獲物の解体用に一本欲しいと思っていたため刀工に注文する
拘る点は二つ
骨に当たっても刃先が欠けない硬度と切れ味
長期間使い続けても根本から折れない耐久性

「本職は食材探しだからどんな相手が来るのかわからないのだよ。しかも良い職人に会える機会は少なくて。頼めるかい?」
出来上がった物は【携帯食料】を食み細胞を活性化させて試し切り
折れた時は「こんな物?」と煽る
左右どちらでも使いやすいことを試す
「どうしても納得いくものが欲しくてね。煽ってしまい申し訳ない」
「これなら使い易そうだ。ありがとう」

形状:ハンティングナイフまたは小刀(刀工と話して決める)
銘:お任せ



●喰らい殺すは
 永海の鍛刀工房、その中庭で試し振りが行われていた。
 ばきん、と音を立てて、刃が折れる。もう幾本目か……折れた刃が骸のように、刃を振る男の足下に山積していた。
「あぁーっ、そいつでも駄目か……!」
「剛力にもほどがある! 数打ちではお眼鏡に叶わんのではないか?」
 職人らがざわめく中、男は、木人を前に折れた刃をひらひらと振った。また一つ、携帯食料を噛み砕き、飲み下す。
 絶え間なく、活性した筋力と持久力での打ち込みを続けるその男もまた、猟兵である。
「こんな物かい? 永海の刀というのは。妖刀と聞いていたけど見込み違いかな」
 仁科・恭介(観察する人・f14065)だ。数打ちから眼鏡にかなうものを捜すが、手に取る刀は片端から、いずれも彼の力の前に、定めの如く折れていく。
「む、むむ……!」
 煽るような言葉に歯噛みする職人達。自分たちの刀が剛力に負けることを不甲斐なく思いながらも、職人とは腕で語るもの。言葉では言い返せず黙る他ない。
「徒弟が迷惑をかけたか、猟兵どの」
 ふいと、凜とした声が職人らの間を抜けた。恭介が顔を向けると、そこには手拭いを頭に巻いた、背の高い――細い目の男がいた。
「いいや? 握りやすさはいい。刃の硬度もいいね。ただ、少しばかり折れやすいとね、そう話をしていただけさ」
「ふむ」
 男は屈み込み、折れた刃の断面を観察し、幾本かそれを繰り返す。刃の小割れを拾い集め、腰の革袋に納めると、立ち上がり一礼。
「これを永海の技の粋と思われては、父祖に申し訳が立たん。最も使いでの良かった拵えを教えて貰えるか。徒弟の不出来を詫びて、不肖、この永海・鋭春(えいしゅん)、一振り献上仕る」
 細い目が僅か開き、覗く鋼色の瞳が、挑みかかるように恭介を見た。
「へえ……それは、助かるな。じゃあ、ついでに注文をつけてもいいかい?」
「何なりと」
 打てば響くような返事に、恭介は笑みを浮かべて続ける。
「本職は食材探しだから、どんな相手が来るのかわからない。熊かも知れない、鹿かも知れない。解体用、屠殺用、戦闘用……どんな相手にでも、局面でも使えるといいね。かつ、狭い空間でも振るえるようにコンパクトな方が嬉しい」
「成る程」
 顎をさすり、鋭春は、恭介の言葉を胸に刻みつけるように頷く。
「最も拘るのは骨に当たっても欠けないような靱性と、しかもよく切れる切れ味。硬度と靱性の均整をよく取ってほしい。かつ、さっきみたいにラフに使っても折れない耐久性も欲しい。――出来るかい?」
「仰せの通りに」
 鋭春は当然のように頷き、手拭いを巻き直した。目の光鋭く、意欲に燃えている。
「良い職人に会える機会は少なくてね。期待しているよ」
 恭介は直感した。
「――ああ。三日後の正午、またここに来てくれ。斬魔鉄の精髄をお見せする」
 これは、望む刃物に出会えるのではないかと。

 ――というのが、三日前の出来事。里長の話があって、暫時後のことだった。
 今、恭介は渡された短刀――否、狩猟刀を握っていた。言うなれば和式のハンティングナイフだ。刃渡り一尺丁度、分厚い刀身だが、鎬筋より以降はしっかりと研ぎ下ろされており、鋭利な先端が光る。平は黒染めにされている。柄は緻密に組紐が巻かれたのみの造りだ。一般的な刀剣で言えば茎に該当する部分が太く、直に紐を巻くことでそのまま柄となっている。紐の巻き方で、グリップ感を調整することが出来るのだろう。
「振ってみてくれ」
 鋭春が言う。その弟子らが固唾を呑んで見守る中、恭介は携帯食料を食み、堅い木人と相対。手に収まった剣鉈を構え、一歩踏み込んだ。
 真新しい木人を、刃が通り抜けた。
 恭介も僅かに目を瞠る。そのまま、二、三、四連撃。左右を持ち替えさらに三連、無呼吸で七打。打ち込む音すらせぬ。
 木人が、刃を止めた恭介の前でばらばらになり、崩れ落ちた。狩猟刀には欠けの一つもない。
 ――恭介が、瞠目を和ませ、素晴らしい、と手を打った。
「煽ってしまい申し訳なかったが、どうしても納得いくものが欲しくてね。これなら使い易そうだ。ありがとう」
「眼鏡に叶ったなら、何よりだ」
 鋭春が目を閉じ応えるのと共に、彼の弟子らが快哉を挙げる。
 青天の下、声は音高く連なるのであった。



【狩猟刀『牙咬』】
 刃銘『きばがみ』。
 永海・鋭春作、刃渡り一尺丁度、平黒染めの狩猟刀。
 古霊刀の欠片を玉鋼を熱し叩き、焼き入れに妖魔の血を使用することで完成する妖刀地金『斬魔鉄』での作刀。
 仔細は、握った恭介が誰よりよく識っていよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

新堂・ゆき
3
形お任せ、銘お任せ
すごい業物なのは分かりますが、私には相応しいとは思えませんので、
私が振るうのに相応しいものを工房でお願いします。
人形繰りで戦う事がほとんどではあるのですが、最低限の護身の術は
心得として身につけておりますゆえ。
本当に本当の最後の切り札ですね、抜刀は。
お礼と言っては何ですが、後で里の方々、特に女性に怪我の応急処置
の方法等、お伝えしたいです。
人形繰りは、私のような泥にまみれたものだけで十分です。
ふんわり笑って。



●時移ろいて、秋に雪混じり
 新堂・ゆき(洗朱・f06077)は戦の後、まずはと町外れの即席訓練場に足を運んだ。
 そこには案の定、猟兵らと激しい訓練を積む若い男衆、そしてそれをはらはらと見守る年若い女性らの姿が多数見られる。
「あたたたた……」
「え、えっと、ちょっと待ってね、今包帯を巻くから……」
 そこかしこで軽いけが人の手当をする女性の姿が見えるも、その手際はお世辞にもいいとは言えない。長く、戦もなかったのであろう。若い女性らしかいないとなれば、尚更だ。親世代より、充分な手当の仕方を承継していないと見える。
「包帯の前に――擦り傷を流水で流して、薬草を当てましょう。患部は清潔にしないといけません」
「えっ……あ、そうなのですか?」
「ええ、そうでないと後になって雑菌が繁殖して、傷口が膿んでしまいます。こんなごく軽い怪我でも重篤になってしまうことがありますから、まずは清潔第一、ですよ」
 ゆきは指示し、清水を満たした薬缶を用意させ、怪我を負った青年らの傷口を丹念に洗い、そこに軟膏を塗って布を当て、包帯を綺麗に巻く。動きは淀みなく手早い。
「きちんと見ていて下さいね。……私がするよりも、きっと皆さんもお喜びになると思いますから」
 ゆきは冗談めかしながら言う。巻き終わりを結び留め、周りの女性らにやり方を示していく。
 訓練をする男衆に懸想している娘もいたのだろう。数人が、図星を衝かれたように頬を染めるのが分かった。
(可愛いこと)
 ゆきはふわりと笑う。綺麗で無垢な娘達の手は、やはりそうして、男の傷を癒やし、食事を作るのに使われるのが似合う。人形繰り、刀繰り、悪鬼羅刹と殺し合うのは、自分のような泥にまみれたものだけで十分だ。

 指導が行き届き、娘達が怪我人に正しい処置を出来るようになる頃には、日が傾きつつあった。
 礼の声を背に受けつつ、手をふりふり場を辞したゆきが足を向けるのは鍛刀工房。助力ののち、手に合う刀を誂えて貰うつもりでいたのだ。
「ごめんください」
 引き戸を開ける。日が傾こうという頃合いなのに、工房は活気をいや増すようだ。多数の人間が織りなす活気が満ちている。
「いらっしゃい、お嬢さん。作刀かい?」
 入口近くで作刀の予定表を眺めていた一人の鍛冶が、ゆきの方を振り向いた。ひょろりと背が高く、長い髪を馬の尻尾のように一つに結った男である。愛嬌のある顔立ちをしていた。
「はい。普段は別の方法で戦いますが。……いざという時、最後の手段としての寄る辺を持っておきたいな、と」
 答えるゆきに応じて向き直り、
「そりゃいい心がけだ。……で、七代永海のどれかでも持っていくのかい? さっきからそうするってぇ猟兵様がもう何人か来てるンだが」
「いいえ。七代永海、確かに高名な刀なのでしょうけど――私に相応しいとはどうしても思えなかったので。私が振るうのに相応しい物を、誂えて貰いたく思っていました」
「へえ……」
 鍛冶は、どこか嬉しそうに笑う。何か変なことを言っただろうか、とゆきが首を傾げると、男は、いやなに、と手を振った。
「そりゃ、七代永海。俺達の偉大なる父祖さ。それが褒めそやされて持って行かれる、大変結構、嬉しいことだ。……けど、俺達だってその技を継いでここで刀を打ってきた。その自負がある。あんたが、どういうつもりで、この里で作るつもりになったのか……そこまでは言わなくていいし、聞きもしないよ。けど、選んでくれたのがただ嬉しいッてだけなんだ」
 鼻の下を擦りながら、「ちょっとした自己顕示欲さ」と男は笑った。
「俺は、妖刀地金『飄嵐鉄』筆頭鍛冶、永海・銀翔(ぎんしょう)。お嬢さん、良かったらあんたの刀を俺に打たせて貰えねえかな。飄嵐鉄の刀は羽のように軽く、持ち主の身まで軽くする。非力な女にも、速度を頼みとする剣士にも、よく向いた刃だ。――どうだい?」
 ゆきは売り込むような台詞にくすりと笑い、では、と礼を一つ。
「私に合うような刃を、あなたが誂えて下さるのでしたら。……私は新堂・ゆき。よろしくお願いしますね、銀翔さん」
「参ったな」
 銀翔は頭を掻いて、
「本日二度目の難題だ。……だがまあ、ゆきさん、きっと後悔はさせないぜ。きっとね」
 なんせ、今度は俺の本領だ――と、銀翔は不敵に笑ってみせるのだった。



 四日して、ゆきが滞在する宿に桐箱が届けられた。
『冬の風のよう、凜としてあられるよう』と、祈り言葉の書かれた文と共に。



【打刀『雪風』】
 刃銘『ゆきかぜ』。
 永海・銀翔作、刃渡り二尺八寸、黒地に花散る螺鈿細工鞘に、白糸巻柄常組。刃紋は乱刃、瓦の目。風の化生の胆を鋳込み、性質を変化させた妖刀地金『飄嵐鉄』による作刀。萌黄がかった銀の沸と匂を持ち、煌めいて美しい。
 その刀身は羽のように軽く、秘めた風の化生の力が、ゆきの動きまでも軽くするだろう。
 秋桜終われば雪風吹く。咲く彼女だけが、移ろう時の中にあって確かに美しい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
◎【絶刀】
鸙野、確と見澄ましました。
ヤドリガミでさえなければな…ブン取ってそのまま使ってたのに。
まともに“使う”方だったでしょう、オレも。
王道を知らなければ邪道を通ることはできない。もう通行止ですけどね。王道。
…。…気が向いたら。検討します。

3.
ヒマなんでヒバリさんに付き合います。
刀鍛冶を訪ねるんでしたら、オレは「雷花」の様子を見てもらおうかな。
由来、何にも知らないんですよね。テキトーに掠め取っ…ひとから、譲り受けたものなので。

いつ、どこで、誰が打ったのか。
少しだけでも知るのは悪くない。…と、ヒバリさんを見ていて思ったんです。
オレが生きてるうちは、ヤドリガミになってくれはしないでしょうしね。


鸙野・灰二
七代永海の一、鋭刃「斬丸」を貰い受けたい。
斬丸と縁が無ければ銘等刀匠任せに短刀を一振り所望

◎【絶刀】
良い刃だと自負しちゃいる、けれどもやはり褒め言葉は嬉しいモンだ。
自我持つ刀の与太話だが、その言葉、百年前に聞いてたらなア。
喜んでこの身お前に差し出しただろうよ。
邪道に飽いたら王道に戻ッて来ると良い。進めずとも引き返す事は出来るだろ。

3.
刀鍛冶を訪ねる。貰い受けるか新たに迎えるか、分からんが。
お前は「雷花」の由来を知りに行くのか。随分殊勝な事を云う。

ヤドリガミは百年使われた器物に魂が宿ッて人の身を得るンだと。
前の持ち主が使ッた時間も足し合わせれば案外、会えるかも知れんぞ。今際の際にでもな。



●斬魔鉄、往時の極み
 高い日の下を、影と宿り我身が往く。二人の語り口は戦場にいたときと変わりなく、軽やかでいかにもさっぱりとしていた。
「『鸙野』、確と見澄ましました。いかにも――雷花が嫉妬しかねない刃でしたね」
「良い刃だと自負しちゃいる、けれどもやはり褒め言葉は嬉しいモンだ」
 矢来・夕立(影・f14904)の言葉に応じるのは鸙野・灰二(宿り我身・f15821)。二人が向かうのは永海の工房、他大勢の猟兵の脚の向く先と同じである。
「いや、しかし惜しい――ヤドリガミでさえなければな……ブン取ってそのまま使ってたのに。案外まともに“使う”方だったでしょう、オレも?」
「自我持つ刀の与太話だが、その言葉、百年前に聞いてたらなア。喜んでこの身お前に差し出しただろうよ。――いい剣筋だった、八束と斬丸相手に一歩として退かなンだからな」
 平素と変わらぬ調子でぼやく夕立の声は何処まで本気か。いずれにせよ、からからと笑う灰二は満更でもなさそうに答える。
「いい剣、王道の剣だった。邪道に飽いたら王道に戻ッて来ると良い。進めずとも引き返す事は出来るだろ、夕立よ」
「忍にそれ言いますか。……王道を知らなければ邪道を通ることはできないですからね。そりゃちょっとばかりは振れます。もう通行止ですけどね。王道」
 べた褒めされるので居心地の悪げな顔をして、夕立は米神を掻いた。灰二の緩い笑みが、期待するような目が、斜め上から夕立の頭に刺さる。
 口元を結んで暫くモゴモゴと動かしてから、夕立はようやく、一言だけ絞り出した。
「……。……気が向いたら。検討します」
「応。それでいいとも。さて――見えてきたな。工房が」
 春の陽気、高い空の下。
 鎚打つ音が、近づいてきていた。

「頼もう」
 灰二が先に工房の中へ入った。夕立は文字通りその影のように続く。
 頭に手拭いを巻いた、身の丈六尺ほどの男が二人の元へ進み出る。細い目の奥に、鋼色の瞳が見えた。
「猟兵どのか。作刀か?」
「否、里長には話を通したが――七代永海の一、鋭刃『斬丸』を貰い受ける事になった、鸙野・灰二という。その挨拶に来たンだ」
「おお、斬丸を。……そうか。おれは当代筆頭斬魔鉄鍛冶、永海・鋭春(えいしゅん)。斬丸の状態の診断と、修正指示をさせてもらうことになっている。今暫く待ってくれ。わざわざ済まんな、猟兵どの」
 男――鋭春の言葉に、灰二は片眉を跳ね上げる。
「斬魔鉄鍛冶?」
「斬魔鉄というのは、永海の『妖刀地金』の一つ――でしたか」
 夕立がすらりと応える。それに驚いた様子を見せたのは鋼の瞳の男だった。
「いかにも。霊刀の小割れと玉鋼を鍛え、妖魔の血で焼き入れをした鉄。折れず、曲がらず、永切れし、軽く、強く、鋼すら断つ。これをして斬魔鉄と称する。……しかし猟兵どの、良く知っていたな、その名を」
「少しばかり耳に挟んだことがありましてね。ま、名前を知ってるってだけです。それより、オレからもひとついいですか」
「何なりと」
 夕立は一本の脇指を腰からとり、鞘ごと鋭春に差し出した。
「分かるなら、この刀の由来とかを教えて貰いたいのと。調子を見て欲しいのと。ここに出すのでいいですかね」
「構わない。出自に関しては知れるかどうか、微妙な所だが」
 鋭春は脇指を受け取り、拵えの仔細を改める。
「由来、何にも知らないんですよね。……いや、ひとから、譲り受けたものなので」
 四方やそのへんでテキトーに掠め取ったなどとも言えず、言葉を濁す夕立の前で、刃を改めるため半ば抜いて――鋭春は、細い目を刮目するように開けた。
「な、何か?」
 あまりのタイミングに肝を冷やす夕立の前で、鋭春は幾度か目を瞬き、「いや」と首を振った。
「……未だ確証は無いが、調べがつくかもしれん。暫時、宿で待ってくれ」

 幾つかの書類を書き、灰二と夕立は宿へ歩く。
「雷花の由来を知りたい、か。随分殊勝な事を云う」
「気紛れですよ。いつ、どこで、誰が打ったのか。少しだけでも知るのは悪くない。……と、ヒバリさんを見ていて思ったんです。流石にオレが生きてるうちは、ヤドリガミになってくれはしないでしょうしね」
 雷花を預けてきたせいで、腰が軽い。落ち着かない心地を覚えて、夕立は肩を竦めた。
「いやあ、まだ、解らンぞ」
 口端を上げ、笑いながら灰二がいらえた。
「ヤドリガミは百年使われた器物に魂が宿ッて人の身を得るンだと。……前の持ち主が使ッた時間も足し合わせれば案外、今際の際に会えるかも知れん。――それに」
「それに?」
「結果無理でも、喋る刀ならここにいる。存分に頼ッて呉れ」
「……はいはい」
 夕立は脚を早めた。そんな、あんまりにもサラッと、小っ恥ずかしいことを笑って言われるものだから。帽子があったなら鍔を下ろしていたところだ。
 後ろに鷹揚な灰二の足音を聞きながら、あまり引き離してしまわぬように。二人、付かず離れずの距離で、宿場へ向けて歩いて行く。



 三日を置いて、宿場に二つの桐箱が届いた。
 大きい方の箱を灰二が開け、中身を手に取ったとき、声が聞こえた気がした。
 ――よう。今度はお前がおれを振ってくれるんだって?
 ――何だって斬ってやる。だからおれを、仕舞い込んだりはしないでくれよ。
 ――なあ。振られねえのは、かなしいんだ。わかるだろう?
「応」
 黒革巻の柄を握り、灰二はそれを抜いた。冴えて詰んだ肌が、灰二の緑の目を映し込んで光った。
「解るさ。……いつかお前が俺のようになるまでは、俺の手を貸してやる」
 ――ありがてえ。頼むぜ、“鸙野”。

「ヒバリさん、誰と喋ってるんです?」
「当ててみて呉れ。――さて、征こうか。早くこいつを振るッてやらねえとな」
「なんですかそれ。ちょっと待って下さいよ、オレまだ箱開けてないんですから……って、」
「どうした?」
「当ててみて下さいよ。全く、事実は小説より奇なりって事で」
「なんだァ、そりゃ」



【鋭刃『斬丸』】
 刃銘『きりまる』。
『七代永海』永海・鐵剣作、筆頭八本刀が一。
 刀身長二尺八寸の打刀。黒漆鞘、黒革巻柄。乱刃、小丁字。
 古霊刀の欠片を玉鋼と共に用い、嘗て七つのむらを滅ぼしたあやかしの生き血を焼き入れに使い、幸運なくては望めなかった最高の斬魔鉄で作刀された、と言われる。
 巻き藁では童が振っても切れるというので、試し斬りの相手に凡作の刀が用立てられ――束ねた七本刀を『折る』のではなく『斬った』逸話を持つ。
 八束が最も頼りとし、最も多くの敵を斬った妖刀である。



【脇指『雷花』】
 刃銘『かみなりばな』。
 七代斬魔鉄筆頭鍛冶、永海・鉄観(てっかん)作、斬魔鉄製の脇指。朱革巻柄、朱漆塗鞘。匂に朱が混じるのは、焼き入れの際染み入り絡んだあやかしの血が、鉄と結びついた為である。斬魔鉄の扱いに長けた鉄観が、性質をそのままに美観に遊びを加えたものであったということだ。
 茎に刻まれた銘と作刀者の名で出自が確かとなった。予感こそあったが、師の師が打った作と識り、鋭春は落涙しながら往時を偲び、その整備に全力を費やしたという。
 刀齢は――六三とのことだ。
 案外、神が宿るも遠くないことなのかも知れない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス

・武具を所望
これまで、ボクも機人も格闘戦がメイン。『月墜』や『観月』で遠距離戦は補ってきたけど、白兵戦用の装備は無かったからね。剣道三倍段と言うように、得物の差は大きい。ここらで一つ調達をお願いしてみようか。

可能であれば、七代永海が焔刃“煉獄”を希望してみよう。
……機人が振るうは昇華の炎。戦術の幅を広げるなら、属性は違うものを望んだ方が賢いのは分かっているけれど……ああも渡り合う姿を魅せられたら、ね?

もし、他の希望者の手に渡るようであれば、新たに太刀を鍛えて貰いたいな。機人用の大太刀とボク用の小太刀。月の意匠を取り入れた大小一対の刀を。銘や拵えはお任せするよ。腕前の程は身に染みて確認済みだ。



●その刀、赤く燃え
 剣道三倍段、という言葉がある。
 
 剣道の段位を持つ者と徒手に於ける格闘技の段位を持つ者が相争うならば、後者が勝つには前者の三倍の段位が必要であるという俗説である。ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)はこれまで、愛用の戦闘用機甲人形『黒鉄機人』を用いた格闘戦、他の射撃戦闘用装備を用いた有射程戦で戦闘を賄ってきたが、ユエイン本人が戦うケースがあるとするなら、徒手よりも得物があった方がいいのは自明のことだ。
 歩きつつも、此度対した相手が刀を持ち替え、数々の戦局に対応したことを思い出す。昨夜のことだ、ありありと思い出せた。
「お邪魔するよ」
 鍛刀工房の扉を開く。中は男達の胴間声と、鎚音、水の爆ぜる音――鉄と、炎の匂いで満ちていた。
 他の猟兵とは異なり、彼女が求める刀は最初から決まっている。新たに作るのではなく、既にある刀を貰い受けに来たのである。
(――ああも渡り合う姿を魅せられたら、ね)
 ユエインは僅か目を閉じた。先の戦闘、その終盤の事が瞼の裏に蘇る。
 乱世の名将――八刀・八束を葬るべく、ユエインは黒鐵の機械神――デウス・エクス・マキナを召喚した。全高五〇メートル級の、質量だけで絶殺に値する機械神。
 その右掌を絶対昇華の炎に燃やし、敵に叩きつける権能――「絶対昇華の鉄拳」を行使、叩き潰そうと全力を籠めたその結果。
 八束は右手の刀を十メートル級の、天を衝くような炎剣に換え、一瞬とは言え、機械神の掌を押し返したのだ。交錯、激突して尚彼は死することなく、辛うじて命を繋ぎ、尚も他の猟兵と渡り合った。
 あの手にあった刀を思い出す。夜闇、赤く燃え、最後には空を焦がすような威容さえ見せた七代永海・筆頭八本刀が六。
 焔刃、『煉獄』のことを。

「ああ――話は届いておるよ。お嬢ちゃんかい、煉獄が欲しいっていうのは」
 手近な鍛冶を捕まえて話をすると、すぐに奥に通され、ユエインは一人の男と対した。背が低い。ユエインより少し上背がある程度だ。しかし、筋肉で覆われたずんぐりむっくりとした体付き。体重で釣り合わせるならばユエインが四人は必要だろう。まるで幻想記のドワーフのような見た目をした男は、永海・頑鉄(がんてつ)と名乗った。
「うん。――先の戦いで、煉獄と打ち合ったんだ」
「ほほう。して、その感想は?」
「明るく、眩かったね。思わず魅入るほどに。冗談みたいだったよ。空を穿つ炎の柱みたいに、煉獄は燃え上がった」
「そうだろうて、そうだろうて」
 頑鉄は、我が子を褒められたように笑って、いや失礼、と咳払いを一つ。
「……その敵が我らを滅ぼそうとしていたというのに、悠長なことを言うてしまったな。相済まぬ。しかし、そうなのだ。焔刃『煉獄』は、七代永海・筆頭八本刀の六番にして、史上最強の緋迅鉄の作。意念込めれば焔天を衝き、打ち下ろした先全てを焼尽し爆ぜさせる、と伝えられておった。召し上げられ、戦いの涯てに喪われたと聞き、どれだけ儂らが無念がったことか」
「……それをまた貰っていくんだけど、なんだか悪いね」
「いや、いや。もう一度見られただけで望外の幸福よ。越える目標の形を思い出せたわ、礼を言う。それに、儂らとて煉獄を棚の肥やしにしたいわけではないのだ。……お嬢ちゃん、刀鍛冶はな、自分の作が誰かに使われることを何より喜ぶ。七代……鐵剣さまの作が、誰かの役に立つのなら、それが一番よ」
「……感謝するよ」
 さあ、仕立て直しだ、と頑鉄はユエインの手や足の長さを採寸、柄の寸法の割り出しを始める。ユエインはそれに従いつつ、視界の隅に安置された煉獄に目をやるのだった。

 これから、よろしく。



【焔刃『煉獄』】
 刃銘『れんごく』。
『七代永海』永海・鐵剣作、筆頭八本刀が六。
 刀身長二尺八寸の打刀。朱漆塗鞘、黒革巻柄。朱金の刀身、刃紋は乱刃、のたれ。猿手に赤い刀緒。
 刀緒には新たな主を象徴してか、小さな月の飾りがついている。
『緋迅鉄』による作刀。持つ剣士の意思力を熱量――焔に変換し、刀身に纏う能力を持つ。煉獄は極めてその変換効率が高く、ひとたび抜けば天を焦がすと謳われた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

現夜・氷兎
◎3(+4)
遠く噂に聞いていた七代永海、その筆頭八本刀を手にできるとなれば、ね。
僕が望むのは玉塵。今持つ薄氷は僕の魔力が沁みた氷だ、初めから氷への親和が高い刀ならば、扱う魔術はどう変わるだろう?

他に希望者がいたら譲るよ。
その際は一振打って貰いに行こう。やっぱり永海の刀は欲しくて。遠い憧れのようなものだったからさ。
僕の力で扱える、丈夫な刀を望みたい。太刀のみでは狭い空間での手段に乏しくてね、小柄なものが良いな。

それと…出来れば、作刀の様子を見てみたいのだけれど、良いかな?
手順なんかを知識として持っていても、実際に見たことは無いんだ。もし許可が貰えるなら、邪魔にならないよう心がけつつ見逃さぬよう。



●絶雹の刃
 工房を訪れた現夜・氷兎(白昼夢・f15801)は、事前に長に話を通し、受け取る刀を決めていた。彼の目当ては筆頭八本刀が七、氷刃『玉塵』である。
 名に含む氷の通り、彼は氷の魔力を持ち、それによる術式行使を得手とする羅刹である。腰に佩いた太刀は彼の魔力の染みた刀、『薄氷』。先の戦いでは薄氷を用いて、彼は多数の敵に氷の飛針を飛ばし、はたまた寄せる敵勢を次から次へと斬り捨て、一騎当千獅子奮迅の活躍を見せた。
 初めから氷との親和性が高い刀を持てばどうなるものか。氷兎の興味はそこにある。
 並んだ筆頭八本刀から、ちょうど玉塵を手に取った様子の鍛冶らしき男に声をかけた。
「失礼。玉塵を受け取ることになっている、現夜・氷兎というんだけど――その前に一度試し振りがしたいんだ。今のままで構わないから、少々貸してもらえないかな」
「……」
 男はうっそりと振り向く。白い膚で、青みがかった白髪――否、まるで夜雪のような青銀の髪。身長は氷兎よりもやや低い程度――六尺足らず。死装束に見紛うような白い着物を青い帯で止めた、不健康そうな男だ。年の頃は二〇後半と言うところだろう。
「……お前が、そうか」
 不躾な物言いだが、認識はしているようだ。
「ついてこい」
 玉塵を取った男は、鞘のままに玉塵をだらりと持って歩き出す。突然の事に面食らうも、氷兎はひとまず男に従い歩き出した。

 辿り着いた先は里外れの露天掘りの鉱床。周囲に壊れるようなものもなく、露出した岩肌が寒々しくとげとげと光るそこで、男はくるりと氷兎を見返り、玉塵を放って寄越した。
「っと」
「『玉塵』は」
 受け止める氷兎に、矢継ぎ早に言葉が降る。
「心の強さを極低温の冷気へ換える、『絶雹鉄』の最高傑作。敵の刃を脆く凍えさせ、はたまた、大気から氷河を作り出し敵を圧し潰す。強力だが、使い方を誤れば己が身を裂く」
「それはそれは。また、随分な」
「脅しではない。故、こうして場所を選んで振る機を作った。……俺は、当代絶雹鉄筆頭鍛冶、永海・冷鑠(れいじゃく)。客人、お前が玉塵に相応しいか、勝手ながらここで見極める。心のままに振るがいい」
 それきり一言も発さず、男は一挙手一投足も見逃すまいと視線を向けてくる。
(……心の強さを冷気に換える、か)
 氷兎は玉塵の柄に触れる。すらりと抜いた。冴え冴えとした、冬の湖水の色をした刀身が露わとなる。青く輝く刃には些かの綻びもない。
 眦を決し、ひゅ、ひゅん!
 宙を裂く二閃。薙いだ中空で空気が凍え、玉塵の名の如く凍えた水蒸気がキラキラと落ちる。氷兎が軽く念じれば、光り落ちる氷粒は瞬く間に伸長して氷の針となり、一拍遅れて滑るように前方へ飛んだ。鉱床の肌に刺さり、土塊を散らす。
「――はっ!」
 氷兎は気合一閃、魔力を注ぎながら踏み込み、大上段からの打ち下ろし一閃。
 魔力を籠め、氷よ奔れと念じれば、振り下ろした刀の延長線上、まるで稲妻のように空気から、バキバキと氷の蔦が析出した。進路上にあった積み石が氷の雷に打たれ、瞬く間に凍りつき氷柱と化す。
 ――考えずに振るだけで、攻撃となる。氷の術理に長けた氷兎が意念を込めれば、その威力は想像を絶するだろう。手の中で凜、と絶雹の刃が鳴る。
 ぱら、ぱら、とゆっくりとした調子の拍手が鳴った。
「お美事……扱いを誤る愚か者ではなさそうだ。試すような真似をしたな。相済まぬ」
 冷鑠である。
「抜き打ち試験を受けた気分だよ。……いい刀だ。七代永海八本刀が七、玉塵……拝領しても?」
「応。俺が責任を持ち、あんたに合うように調整をしよう」
 快い返事に、氷兎は薄く笑って刃を収め、玉塵を冷鑠に手渡した。
「ありがとう。……あ、」
「どうした?」
「ついでといっては何だけど。作刀の現場を見学したりはできるかな?」
「……我ら永海の鍛刀は、普通の刀とは異なる部分も多いが。足しになるのならば好きにするがいい」
 変わった男だ――
 言いながら、冷鑠は来た道を再び戻り出す。
 その口元は、少しだけ――楽しげに笑っていたのだった。



【氷刃『玉塵』】
 刃銘『ぎょくじん』。
『七代永海』永海・鐵剣作、筆頭八本刀が七。
 刀身長二尺九寸の打刀。黒漆塗鞘、青紐巻柄。直刃。柄頭の猿手に青い刀緒。
 玉鋼を雪の化生の血と共に、専用の氷炉で溶融させて鍛え固めた妖刀地金『絶雹鉄』での作刀。氷兎が振るわば、その威力は見ての通りである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

田抜・ユウナ
*アドリブ歓迎
【製法を学ぶ】

特に妖力の制御について興味がある。
先の戦闘でも見たけど、あれほどの力を暴走させずに利用するなんて、どうやってるのか。

鍛冶師や装飾の職人に話を聞いて
「……なるほど、ね。効果は下げずに、だけど極限まで無駄を省いてる。過去に大量生産を強いられてた名残かしら……っと、失礼」
不謹慎な発言を詫びて、本題に。

厄介な妖刀に憑かれてる身なんで、妖力封じについて相談。
現状でも呪帯やら護符やらでゴテゴテになんだけど、ちょっとでも封印がゆるむと喰い殺されそうになるのよねぇ。

外付けの封具とか、暴発させずに封具の調整を行える工房とかあったら教えてもらいたいかな。
詳細はおまかせ、で。



●戒めるは鎖
 田抜・ユウナ(狸っていうな・f05049)は妖刀持つ娘。抜かずの一刀、封じられし妖刀を扱うエルフの少女だ。手に提げた刀こそまさにその妖刀、様々な呪具で雁字搦めとなり、とてもではないが抜刀出来ない状態となっている。
 この刀こそ正に彼女の旅をする目的といってもいい。嘗てこの刀はユウナを見初めた。それに端を発し、彼女は今や天涯孤独。
 ユウナは養父の元で今日も武の道を修めつつ、この妖刀を完全に封ずるか――或いは、破壊するか。その道を探す宿業を負っている。
「あれだけ巨大な力を暴走させずに制御してるというんだから、きっとなにかしら仕組みがあるはずよね……」
 天を衝くばかりに燃え上がった六の刀『煉獄』、八束自身の速度すらいや増し、銃弾の嵐をも容易く防ぎきった二の刀『風刎』。一度打てば地を揺るがし土柱を上げる三の刀『嶽掻』。枚挙に暇が無い。
 きっと、この扉の向こうにその奥能が広がっているのだ。
 鍛刀工房の前に立ち、ユウナはいざとばかりに扉を開けて踏み込むのだった。

 ――永海の妖刀は、妖力をどのように制御しているのか。
 数人に軽い指示を飛ばしていた鍛冶の一人に直截な問いをぶつけると、男は「その話は少しばっかり長くなりやす」と笑い、彼女に椅子と茶を勧めた。
 押し戴き、指先を湯飲みで温めるユウナに説明をぶるのは、垂れ目、ばさばさの髪の刀鍛冶――永海・寂鐸(じゃくたく)と名乗った――だ。
「妖刀を鍛造る、と一口に言うも、化生の類を刃にそのまま宿らせては、扱いに難儀するんですな。はたまた、刃を化生に化けさせても同じこと。永海の妖刀は人が扱える妖刀として洗練されたものでして」
「……それは、一体どうやって実現するの? 昨日、七代永海を遠目に見たわ。普通の妖刀の力をあれほど解放したら、すぐにでも暴走してしまいそうなのに」
「御されたあやかしは御されたなりの力しか出せませんからなあ。猟兵様からのご意見もごもっとも、刀に憑いたあやかしが、或いはあやかしとなった刀が全力を出す、それすなわちあやかしの意念が現出することに他なりませぬ。……なれば、あやかしが、手前どもの事情に口を利けぬように刀に取り込めてしまえばいい。我らの父祖はそう考えやした。そうして生まれたのが、『妖刀地金』で御座いやす」
「『妖刀地金』?」
 古今東西の妖刀について文献を漁ってきたユウナの眉に皺が寄る。
 寂鐸は、つ、とぬるい茶を啜り続けた。
「左様です。手前どもの刀は、その多くに『妖刀地金』を用いやす。妖刀地金というのは……鍛冶そのものを、一つの『儀式』として、あやかしの血、臓物、器官を、叩く鉄の中に鋳込めて固めることにより完成する鋼で御座いやす。あやかしの『意思』は消え、その『力』のみが残る」
「……それってつまり、永海の妖刀は自分では考えたり動いたり人を呪ったりしないっていうこと?」
「飲み込みが早い。左様に御座いやす。……まあ、消えた『意思』の分は人の『意思』を喰うわけでやすが。例えば焔を発する妖刀地金が六、『緋迅鉄』。あれも『燃えろ』と意念を込めることで初めて熱を発しやす。猟兵様がどえらい力を見たというのならば、それは使い手の意念が強かった、ということと思って構いやせん」
「そっか……なるほどね。実現される効果は下げずに、極限まで無駄を省き、実用性に重きを置いているのね。過去に大量生産を強いられてた名残かしら……っと、失礼」
 永海の来歴を思い出しながらの発言。際どい辺りかと思い当たり、軽く詫びるユウナ。
「構いやせん。事実ですからな。制御でき、製法が確立されている……これは武器には重要なことで御座いやす。……ところで猟兵殿、手前の見立てによれば、あまりこの回答にご満足いただけていない様子。その曰くのありそうな刀と関係がおありで?」
 寂鐸は気にしていないという風に手を振り、ユウナの手元にある刀に目をやる。
「……鋭いのね。そう、妖力を封じる方法があったら、教えてほしかったのよ。こいつは私に憑いてるから。行儀のいい永海の刀とは違ってね。ちょっとでも封印が緩む度、食い殺そうとしてくるわ」
「ははあ、こりゃまた大量の霊具で囲っておられる……ふむ、負担が軽くなれば、程度の話ではありやすが、手前が一つ、腕を振るいやしょうか?」
「え――あなた、鍛冶じゃないの?」
「鍛冶で御座いやすよ。ただ、多少の細工も心得て御座いやす。手前の専門は、形無きを斬る『屠霊鉄』。斬れるのならば縛れるも道理。もし良ければ、でやすが」
 飄々とした物腰で言う寂鐸。その瞳の奥に、強い意志の光を見て――ユウナは、軽く頷いた。
「……じゃあ、お願いしてもいいかしら」
「承知致しやした。――では、暫時、宿場でお待ち下せえ」
 またふうわりとした垂れ目の笑みに戻って、寂鐸は軽く胸元を叩いてみせるのだった。


 羽のように軽い桐の小箱。
 中に収まるは……



【刀緒『斬鎖』】
『ざんざ』。
 形無き霊の類すらも断つ刀を生むという妖刀地金『屠霊鉄』を鋼糸として縒り、高名な僧の僧服より取った糸と緻密に編み合わせることで作られた刀緒。妖刀の暴走に反応し、戒めるように伸びて鞘に巻き付き、その妖力を分解して発散、暴走を防ぐ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラグ・ガーベッジ
◎【結社】
村人に戦い方を教えるという口実で
武器としての自分を使いこなせる”使い手”探しに勤しむ

しかし可変武器故の難易度と、それに拍車をかけるラグ自身の判断による勝手な変形で
ただの村人に扱いきれるわけがなく誰も使いこなせず文字通り武器に振り回されている

「あ”あ”あ”あ”あ”!!!!だぁからそこは槍の間合いだってわかんだろが!」
「思いっきりブン回せよ!?何のために俺が鎖鎌になったと思ってんだ!?あ”!?今から草刈りでもすると思ったのかテメェ!」

「アダムルスゥ!だぁめだコイツら!倒せて山賊程度が関の山だぞ!」
「あ”あ”っ!?じゃあタダのボランティアじゃねえか!チッ……わぁったよ!オラ続きだ!立て!」


アダムルス・アダマンティン
【結社】
ソールの大槌は示さぬが、万に一つこの中から選ばれし者が現れるやもしれぬ
村人たちに戦い方を教える

武器を手にした村人たちに取り囲まれ、打ち込ませながら指導するのが結社流
武器を握る力は振り回せる程度に。当たる直前、当たった瞬間に注力しろ
機を伺うのは良いが迷うな。迷うほど死は近付く。叫べ。そうすれば奮起できるだろう

あまり怒鳴り散らすな、ラグ。彼らが萎縮する
剣の代わりに鋤を握ってきた彼らに貴様を使いこなせるわけがなかろう。精々、彼らの武器の適性を貴様で見るのが関の山だ



●結社流鍛錬術 ~激ヤバ短針添え~
「来い」
 大男である。身の丈六尺三寸ばかりか。
 木製の矛を携え、ひゅひゅん、と振り回し、腰を落としてゆっくりと構えを取る。
「う、うおおっ!」
 二人ばかりの若衆が木剣を振りかざし突撃するが、構えには無駄が多い。まず大振りだ。振りかぶる動作が大袈裟すぎるし、徹頭徹尾力が入りすぎており動きが鈍い。
「武器を握る力はすっぽ抜けず、振り回せる程度に。当たる直前、当たった瞬間に注力しろ。基本は脱力、力を入れるのは要所のみ」
 一人目の刃を体捌きのみですかし、脚を引っかけて転ばせ、その頭を木矛の石突きで小突く。
 もう一人は飲み込みがいい。言葉をかける前より動きが良くなっている。だが、一言のアドバイスだけで達人になれる訳もない。大男があしらうように木矛で数度打ち込むと、すぐに力む癖が再発する。そこに虚を突いて背を見せるよう一転、死角から襲う石突きでの横薙ぎ。寸止め。
「ま、参りました」
 刃を振り上げていた青年がへたり込む。
「脱力しようとしていたのはいい。しかし打つごとに力みが戻っていった。力みは一朝一夕に抜けるものではない。武器を持つのを日常とし、絶えず力まぬよう鍛錬を続けろ」
「はい、ありがとうございます、あだむるす殿!」
 元気のいい礼の言葉に、大きく頷く大男――アダムルス・アダマンティン(“Ⅰ”の忘却・f16418)。彼は結社の仲間と共に、里外れで村の青年達の育成に当たっていた。
「次」
 思い切りの良かった前二名と異なり、或いは瞬く間に倒されたその二名を見たからか、次の二人はじりじりと間合いを計るばかりで打ちかかってこようとしない。叱責するでもなく口を開きつつ、アダムルスは自ら踏み込む。
「機を伺うのは良いが、迷うな。迷うほど死は近付く。叫べ。そうすれば奮起できるだろう」
「う、うおおおおおおおおっ!!」
 発破をかければ、元々血気盛んな年頃の若者だ。火の点いたように踏み込んでくる。勢いよく振り下ろされた木剣を矛で受け止め、かみ合った部分を支点に身体を捌いて回す。身を沈めつつ大きく回した矛で二名の脚を攫って転ばせる。
「ぎゃっ?!」「うおっ」
「気勢はいい。後は、よく考えることだ。迷うのと考えるのは別だ。難しいことだが」
 足払いのつもりで払えば脚が折れていたであろう。ひっくり返った村人らに手を貸し、引っ張り立たせる。
「あ、ありがとうございま――」
“あ"あ"あ"あ"あ"!!!! だぁからそこは槍の間合いだってわかんだろが! 槍だよォ!! やァりィ!!!”
「えええええだって剣だったでしょ今!? 今この瞬間まで!!」
“バカじゃねェのかテメェはァ!! 剣じゃ届かねェから槍になったんだよ分かれよそんなん言わなくてもォ!! 突き出しゃ当たる感じだったろ今ァ!! ほら逃げられてんじゃねえかァ!!”
 横合いがやかましい。
 アダムルスは若衆と共に横を伺う。
 そこでは村人同士の立ち会いが行われていた。片や、ただの木剣を手にした青年。もう片方は……槍、否、ぐにゃりと変形し……
“チッ、おい、次ァしくじるんじゃねえぞ!! 思いっきりブン回せよ!?”
「あのこれ何? 何の武器ですか?」
 鎖。分銅。片手鎌。三つが連携した形に変形する謎の『武器』。その『武器』からまたも声が響く。耳を聾するような少女の怒声だ。
“ハァーーーーーーー?!!?!! 鎖鎌だよ鎖鎌ふざけてんじゃねえぞテメェ!! 振り回して!! 投げて!! ブッ千切るンだよ!!”
「ラグ」
 アダムルスのたしなめるような声も届かない。
「え、えーっと、こうですかねぇ!」
『武器』を手に取る鎖を持って鎌を振り回すも、投擲するには勢いがまるで足りず、それがまたその『武器』の逆鱗をヤスリにかけたようにゴリゴリと逆撫でる。
“しょっぺえんだよバカ!!! 何のために俺が鎖鎌になったと思ってんだ!? あ"!? 届かねえだろそんなんじゃぁよォ!! 今から草刈りするとでも思ったのかテメェあァコラァ!?”
「ひいいいいいい!!」
「ラグ。あまり怒鳴り散らすな。彼らが萎縮する」
 叫ぶ『武器』に、今度こそ強くアダムルスが言う。
『武器』――ラグ・ガーベッジ(褪せたⅦ色・f16465)は付き合っていられない、とばかりぐにゃりと蠢き、人間の少女の姿へとかたちを変えて地に降り立った。
「あぁダメだ! アダムルスゥ! だぁめだコイツら! 倒せて山賊程度が関の山だぞ!」
「あだむるす殿ォー! 無茶苦茶です、剣かと思えば槍になる、槍かと思えば扱いのよくわからないものに!」
「テッメェ俺の変形に文句があるってのかァ!?」
 ……武器が可変する、ということだけでも非常に難しいのに、その武器が意思を持っている、というところにさらに大きな問題がある。
 ラグのことだ、勝手に自分自身が思う最適な形状に都度変形するのに、村人がそれについて来れないことに憤っているのだろう。結社の『長針』――アダムルスをはじめとして、武器へと変身する『短針』を振るう定めにあるもの達――ですら、ラグを操るのは時として困難を伴う。
 ただの村人に、しかも何の訓練もなしに、うまく扱える訳がない。アダムルスには状況が手に取るように分かった。
 火のついたようなラグの様子にアダムルスは額を押さえる。ラグを初めとして『結社』にはトラブルメーカーが多いが、その後始末は大体『結社』の長であるアダムルスに掛かってくる。
「ラグ。剣の代わりに鋤や鎚を握ってきた彼らに、すぐに貴様を使いこなせるわけがなかろう」
「あァ?! じゃあ何だ、農具になってやりゃあまともに戦えるとでも!? そんなもんじゃ敵は殺せねぇだろうが!!」
 怒りのあまり目を尖らせつつ、ラグは先ほどまで自分を振っていた村人を片手で突き倒す。
「のわっ」という呻きに目もくれず、アダムルスに突っかかるラグ。
「そうは言っていない。ただ、勝手をするなと言っているのだ。こんなところでまで忌名で呼ばれたくはあるまい、短針のⅦ。此度は精々、彼らの武器の適性を貴様で見るのが関の山だ」
 背丈には二倍に迫るほどの差がある。ずうん、とラグを見下ろしながら言うアダムルス。ぐ、と唇を咬みながらラグは踏み止まる。
「そんなモンタダのボランティアじゃねえか! チッ……わぁったよ! やれってんだろ、やりゃいいんだろ!! オラ続きだ! 立て!」
「ええぇええまだやるんですか?! ちょっ、次別のヤツでも」
「甘ったれてんじゃねェーーーー!!!」
「ぎゃあああああああ?! あ、あだむるす殿ォーー!!!」
 阿鼻叫喚である。
 アダムルスは三分後にまた様子を見ることにして、ひとまず所在なさげに立ち尽くしていた次の若衆二人に向き直った。
「次」
「……あの。いいのですか、あちらは」
「……駄目なときは止めに入ろう。私が」
 駄目じゃないとは言いきれないのが辛いところであった。本当に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シズル・ゴッズフォート
1.戦闘術を教える

……実は、私の故郷で懇意にしている武具工房では、刀の製法が失伝しておりまして。叶うなら製法を何らかの形で記録に残して、頂ければと
無論助けた礼として……などとは申しません。此方では大分異質とは思いますが、私の戦闘術をお教えします。それで如何でしょうか

「最初に伝えます」
「派手さはありません。むしろ地味で泥臭いでしょう。ゴッズフォートの戦い方は、『負けぬ』ことで最終的に勝利を掴むことを重視しておりますから」
「ですが。『大切な何かを守りたい』と願うならば、私はこの楯の扱いを教えることに躊躇はありません」

剣の振り方は別の方が教授するでしょうから。私はただ、楯の扱い方を教え込むのみです



●守るための術
 シズル・ゴッズフォート(蒼の楯・f05505)がまず求めたのは刀の製法であった。
「……実は、私の故郷で懇意にしている武具工房では、刀の製法が失伝しておりまして。叶うなら製法を何らかの形で記録に残して、頂ければと」
 九代永海――永海・鍛座(たんざ)が答えて曰く、
「里の秘奥たる妖刀地金の製法と勘所についてはお伝え致しかねますが、一般的な刀の製法や原料についてならば書した教本が御座います。……しかし刀の製法が喪われているとは、我らとしては想像もつかぬ地ですな」
 鍛座は座敷の隅、書棚から一冊の本を手に取って運んだ。そこにはシズルにも読める言葉で、玉鋼の精錬、折りたたみ鍛錬、焼き入れ、研ぎ、刀装具の組立などの具体的な手順が記されている。これがあれば、勘所のいい職人ならばすぐに試作に取りかかれるだろう。
 受け取った本の内容の充実ぶりに、シズルは思わず目を瞬く。
「……あの、いいので? こちらはまだ何の対価も提示していませんのに」
「一夜、我が里をお守り戴いただけで十二分です、猟兵様。……それに、鍛刀の秘奥は、書にて得るにものにあらず。この手の書は世に溢れかえっております。真なる刀とは、充分な知恵を得た魂が鍛造るもの。……郷里の職人殿が、よい刀を打てますよう、我ら永海一同、心よりお祈りしております」
 微笑みながら答える鍛座に、シズルは頬を掻いた。
「助けた礼に……と申すつもりでもなかったのですが、後出しになってしまいましたね。……聴けば、村の方々が教練の相手をご所望とのこと。この地では異質かとは思いますが、私の戦闘術を教示して参りましょう。……僅かばかりでも、御礼になればいいですが」
「それは願ってもない! ありがとう御座います、猟兵様!」
 鍛座は、顔をくしゃくしゃの笑みに染めて頭を下げて応ずる。
 
「最初に伝えます」
 里外れ、即席の訓練場。
 すでに猟兵らが若衆に教練をする中、シズルは数名の男達に向き合い、木楯を持ち上げてみせる。工房の木工上手が仕立ててくれた、練習用の楯だ。
「この戦闘術に派手さはありません。むしろ地味で泥臭いでしょう。私の――ゴッズフォートの戦い方は、『負けぬ』ことで最終的に勝利を掴むことを重視しておりますから」
「負けないこと、ですか」
 手にした楯を見ながら、男達はしげしげと、楯とシズルを見比べる。
「そうです。死なず、食い下がり、食らいつき。敵より長く立てばそれすなわち勝利。……あなたたちが、『大切な何かを守りたい』と願うならば、この楯の扱いを教えることに躊躇はありません」
「……守りたいです」
「この里が好きですからね、俺達も」
「どんな敵が来ても阻んで……」
「皆が笑って迎える明日のために」
 男衆が口々に答えるのを見て、シズルは口端を上げて笑った。
「いいでしょう。では、ゴッズフォートの楯術、基礎より応用まで。みっちりとご教授しましょう。いいですか、楯とは、ただ守るだけのものではありません。接近戦ではよい打突武器にもなります――」
 片手に木剣、片手に楯。貪欲に扱い方を教わろうとする男達と、時に楯を打ち合わせ、模擬戦を行いながら、シズルはその戦闘術を伝えていった。
 ――充実した数日間であった。
 短い時間だ、ゴッズフォートの戦闘術のすべてを伝えるとは罷り成らなかったが、別れる間際の男衆は、皆口々にシズルを讃え、涙ながらに別れと、礼の言葉を告げたという。

 ――後年、永海の民は幾度も隠れ里に攻め入られ、その妖刀の作刀術を盗まんとする不埒の輩と対することとなる。
 その際、一番槍に敵と対し、その進撃を『地鳴鉄』で出来た凧型楯を構えて押し留めた部隊があったという。
 その名も、『神楯衆』(かんだてしゅう)。
 彼らは皆、彼岸花と蝶の紋章が刻まれた鉄楯を構えていたということだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三千院・操
【3】◎×10,000
『名工』に鍛刀してもらえるって聞いたんだけどー……あ! あの人がそうかな?
はじめまして! おれは三千院操! あなたが『永海』?
おれに合う刀を作って欲しいんだ! 鎌も糸も槍もいいけど、やっぱり日本人なら刀だよね~、なんつって。
嘘も真も、有るも無しも、まとめて全部断てるような刀がいいな!
刀の様相や銘はあなたにまかせる! かっこいいのを頼むよ?

なんでって……決まってるでしょ。
――『地獄』を見るためだよ。
おれはね、他人の頭の中に広がる地獄を視たいんだ。そうして、その先に至りたい。そのためには必要なものが多すぎる。
だから、求めるんだ。あなたの刀を。

それじゃあ、よろしく!



●緋色の狂気
 永海の里の大路に、陽気な調子の鼻唄一つ。
 毛先につれ朱が掛かる灰色の髪、鼻から目元にかけてを這う一筋の刀傷。
 ジャケットの裾を風に靡かせながら、青年が向かうのは永海の鍛刀工房である。彼もまた猟兵、名を三千院・操(ヨルムンガンド・f12510)という。
 鎚音響く工房の引き戸を開き、青年は軽い調子で声を張った。
「こんっちは~、ここで鍛刀してもらえるって聞いたんだけど、合ってる?」
 近くにいた一人の男がそれに気付いた様子で、操の方に歩いてきた。ばさばさの髪に垂れ目、背はそれなりに高く、どこか油断ならない雰囲気の男であった。
「これはこれは、猟兵様。ようこそ、永海の鍛刀工房へ。いかにも、こちらで手前らが腕を振るっておりやす」
「あっ、よかった、合ってた! はじめまして! おれは猟兵の三千院・操。あなたが『永海』でいいのかな?」
「ふふふ、『永海』というのは、村長が襲名する称号にして、手前ども一派の名。広い意味では手前も『永海』に御座いやす。お初にお目に掛かります、手前、永海・寂鐸(じゃくたく)と申しやす」
 ゆるりと頭を下げて笑みを作る鍛冶――寂鐸。
「へぇ、そういうものなんだ。……てことはあなたも刀を打てるってことだよね。『永海』の刀が評判だって言うからさ、おれに合う刀も一本作って欲しいんだ。鎌も糸も槍もいいけど、日本人だってならやっぱり刀だよね~、なんつって」
「ほほ、合戦の主力、徒戦と来れば刀で御座いやすからな。数ある我ら永海の刀の中には、きっと三千院殿のご期待に添えるような物もあることでしょう。して、どのような刀をご所望ですか?」
「そうだね――嘘も真も、有るも無しも、まとめて全部断てるような刀がいいな。こんな注文でいいのかな?」
「虚実まとめて断つ刃ときますか。ふふふ、それは手前の得意に御座いやすな。兎角この世は見えぬものが多い。虚ろの呪い、しがらみの類を斬るのは、手前の専門である『屠霊鉄』の本領にて」
「とれいてつ? ……なんだか知らないけど面白そうだね! 刀の様相や銘はあなたに任せる! かっこいいのを頼むよ?」
「へえ、拝命致しやした。……時に、三千院殿」
 垂れ目をすいと細めて、寂鐸は推し量るように問う言葉を漏らす。
「……手前も、長いこと屠霊鉄を打ってきやした。屠霊鉄とは、目に見えぬあやかし、術、そしてまやかしと呪いの類を切り裂く鉄に御座いやす。こんなものを長く扱っていると、おそろしいものが時に目に映り、見えるようになってくるんで御座いやす」
 寂鐸は操を見つめた。その目には、操と悪魔とを繋ぐ契約が、糸のカタチになって見えている。その悪魔が佳いものとは、寂鐸には到底思えなかった。大恩有る猟兵様とのこと、決して非道は成すまいと思うが、それにつけてもこの胸騒ぎは何事か。
「……なぜ、刀を求めやす?」
 事ここに至るまで、どの猟兵にも聞かなかった理由を問う。
「なんでって……決まってるでしょ」
 操は眼を大きく開き、ずい、と身を乗り出し、首を伸ばすようにして、寂鐸の目を覗き込む。赤い瞳には狂気の影。
「――『地獄』を見るためだよ。おれはね、他人の頭の中に広がる地獄を視たいんだ。そうして、その先に至りたい。そのためには必要なものが多すぎる」
 寂鐸はその目を見返すので精一杯であった。幸いにして操に敵意は無く、狂気の瞳はすぐに笑みと共に引っ込む。
「その中の一つだったんだよ、刀もね。だから求めるんだ、あなたの刀を。それじゃあ、よろしく!」
 くるり、と身を翻してひらひら手を振りながら去っていく操の姿が視界から消えるまで――寂鐸は、その場に立ち尽くしていた。その額には、常に飄々とした彼らしくない汗が浮いていたという。



 五日ほどの時を経て、操の泊まる宿に桐箱が届いた。



【打刀『仇斬』】
 刃銘「あだきり」。
 永海・寂鐸作、刀身長二尺五寸の打刀。直刃、反り強くふくら付く。敵を効率よく斬ることに適した形。
 霊験確かな数々の触媒を燃やして得られる霊炎にて精錬された妖刀地金『屠霊鉄』により作刀されている。屠霊鉄は通常の刀と同様に鋭く敵を裂く他、見えぬあやかしに触れ、断つことを可能とする。
 表からはそれと見えぬが、その茎には銘を避け、魔を祓う経文がびっしりと刻みつけられている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・アルトマイア

3.
武具を打って頂けるならお願いしたく思います。
今の装備は、自身で揃えたもので
気に入ってはいるのですが…
やはり餅は餅屋、と申します。
どうぞ、よろしくお願いいたします。

こちらの……【慈悲の一差し】のような
暗器として使いやすい、急所を穿つ刃を。
銘や形は、お任せいたします。

もし時間があるようでしたら、
従者として、他者をサポートする戦い方についてお伝え致しましょう。
最初から一撃で決めることなど、考えてはいけません
一人で戦うなど、英雄志願はポイッとします。

短剣や飛び道具で手足を削り、穿ち、体力を、機敏さを、気力を減らしていきましょう。
そうして、隙が出来たなら、見逃さずにどすっと刺すのですよっ。



●従者の流儀
「武具を打って頂けるということで――私も、お願いしてもいいですか?」
「否があるわけもない。承ろう」
 いよいよ盛況を極める鍛刀工房に来た次なる猟兵は、銀の髪が美しい女。その瞳はレースの目隠しで覆われて、決して見ることは叶わない。
 アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)である。
「今の装備は一式自身で揃えたもので、気に入ってはいるのですが……やはり餅は餅屋、と申しますし」
「任された。して、どのようなものを?」
 アレクシスに対するのは背の高い、手拭いを頭に巻いた男だ。細い眼の下に覗く瞳は鋼色、鉄を叩き、見つめるために生まれてきたような眼の男である。永海・鋭春(えいしゅん)と名乗った。
 アレクシスは一つ頷くと、腰元から短剣を抜き、ヒルトを持って柄側を鋭春に差し出す。
「これは『慈悲の一差し』というのですが、このような、暗器として使いやすい、急所を穿つための刃を頂きたくて」
「暗器……か。おれは刀ばかり打ってきたからな、果たして眼鏡にかなう物かどうか、と思うが。少しの間、借り受けてもいいか?」
「ええ、問題ないですよ」
 アレクシスは腰からシースを外し、鋭春に手渡す。
「ではお借りする。……おそらく短刀ほどの打ち刃物となる。拵えは……成る可くこちらの短剣に合わせるとしよう。如何か?」
 問いかけに少女は一つ頷く。
「銘も含めてお任せします。いつ頃に出来上がりますか?」
「そうだな――注文打ちが多い、五日ほどを見てもらえるか。早く完成させるように努力はする」
「承知しました。無理はしなくて大丈夫ですよ、私、別の仕事もありますので!」
「……別の仕事?」
 鋭春が不思議そうに眉を上げるのに、アレクシスはふふふと笑ってみせるのだった。

「最初から一人で、一撃で戦いを決める――などとは、考えてはいけません。確かに皆さんには永海の妖刀があるかも知れませんが、英雄志願は死にたがりと紙一重です」
 アレクシスは集まった若衆に直截な言葉を述べる。数人が図星を突かれたように肩を跳ねさせるのを見て、腰に手を当て、言い含めるように続けた。
「私からはきちんと協力して、他者をサポートしつつ戦う、その戦い方についてお伝え致します。きちんと覚えて帰って下さいね。敵を倒すのは、自分でなくてもいいのです。最後に皆で生きて帰れたら、それが一番ですよね? 皆さんは、武士ではないのですから」
 首級をあげることに躍起になる戦士とは違う。永海の民はあくまで平民、禄を食む身でもない。故にアレクシスの言葉が浸透するのは早かった。
「使う武器は色々です。火縄銃とかはあるんでしょうか」
「流石に我ら、鉄砲鍛冶では無い故、火縄はありませぬなあ」
「や、でも待て、あれがあるぞ」
 言葉を交わし合う若衆の反応に眉を上げ、アレクシスは首を傾げる。
「あれ、とは?」
「火縄ではないですが――頑鉄(がんてつ)様が、飛鉄(とびがね)なるものを作っておられました」
「とびがね?」
「はい。妖刀地金『緋迅鉄』を使用するもので……短筒の形をしているのですが、緋迅鉄に爆炎を生ませ、薬室の中の圧力を上げて、詰めた弾体を撃ち出す、という実験武器です。まだ実用化は出来ていないようですが」
 ほう、とアレクシスは息を吐いた。そんなものが完成したとするなら、この里は堅固な防御力を発揮するようになるだろう。
「……面白い武器があるんですね。ではそうですね、それが完成したらそれを使っても構わないですし、飛刀を使ってもいいです。とにかく、敵の手脚を削り穿ち、体力を、機敏さを、気力を削ぎ落としましょう。どんなに強力な相手でも――傷と痛みと疲れから、いつまでも逃れることは出来ません」
 アレクシスは笑ったまま、続けた。
「そうして、隙が出来たなら、見逃さずにどすっと刺すのですよっ」
 ――心得ましたと返事をしながら、「この女性は美しくも、いかにもおそろしいな」などと、若衆が考えていたのはまた別の話である。



 日々村人らに戦いを教え過ごすアレクシスのもとに、宣言通りの五日で桐箱が届いた。


【飛鉄短剣『煌蜂』】
 刃銘『きらばち』。
 永海・鋭春、頑鉄の連作。刀身長八寸、細身だが頑健な諸刃の短剣。熱を遮断する革巻きの柄。装飾、造りは可能な限り『慈悲の一差し』に近づけてある。
 数多物の怪を斬ったとされる古霊刀の欠片を玉鋼と共に用い、焼き入れに妖魔の血を使用することで完成する妖刀地金『斬魔鉄』での作刀。
 柄に新鋭兵器『飛鉄』の原理が応用されており、アレクシスが『飛べ』と念じる引き金を引くと、柄に仕込まれた『緋迅鉄』が爆炎を産み、燃焼ガスで刀身を射出する。
 煌めき刺すこと蜂の如く。字して、『煌蜂』。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
◎◎◎◎◎

3.
業物を打ってもらえると聞いたので、是非に
きちんと男着物で訪問する

鎧通し短刀をお願いしたい
刃渡りは七寸一~二分、重ね四分
彫物に自信があるなら棒樋を搔き流すかしても構わないけど、
鎧通しだからあくまで強度重視で

地金は明るくよく約んだものがいいな
小板目肌か梨地肌、刃文は小乱れか直刃調の静かなもの

いい白銀師がいたらハバキに彫金を頼みたいんだ、心当たりはあるだろうか
希望は銅の銀着せに七つ割り隅立て四つ目紋
うちの家紋ではないし家紋があるかどうかも知らないんだけど…
まあ、いい、かな? たぶん。

拵は一式お任せで
あまり飾ることを好まない人だと思うから
華美にはならないように、とだけ伝えよう



●職人気質
 鉄打つ音。焼けた玉鋼より、不純物が焼き切られ、焼けた鉄の匂いになって空気に満ちる。ここは永海の鍛刀工房。里を救った猟兵達が押しかけ、一時は蜂の巣を突いたような騒ぎとなっていたが、ようやく注文も落ち着きだし、職人達が腕を振るうのに専念しだした頃だ。
「御免、業物を打ってもらえると聞いた。ここで合っているかな」
 此度訪れたのは凜々しい青年であった。年の頃は二十歳に掛かる頃か、華美にはならぬがしかし目を惹く赤い男着物を纏った男である。青い瞳は空を固めて玉にしたようだ。名を、水衛・巽(鬼祓・f01428)という。
「応。鍛刀工房はここだ。斬魔鉄筆頭鍛冶、永海・鋭春(えいしゅん)が注文を承る」
 鋭春と名乗った男は頭巾のように巻き締めた手拭いを締め直すと、巽を迎えて立ち机に案内した。炭と筆が備えられている。注文を聞く時にはここで聞くのだろう。
「丁寧にどうも。私は水衛・巽。……早速だけれど、注文をいい?」
「どうぞ。……その腰に佩いた太刀、業物とお見受けする。細かい注文でも、何なりと付けてくれ」
 そのための記帳机であったか。筆を執ると、鋭春は巽を促すように見た。
 巽は顔をほころばせ、立ち机に肘をつく。
「目が高いね。家伝の刀さ。……頼みたいのは、鎧通し短刀。刃渡りは七寸一から二分、重ね四分。彫り物に自信は?」
「無論ある。重さの心配は、おれの斬魔鉄で打つならば不要だが――美観を求むなら如何様にでも彫ろう」
「斬魔鉄?」
 片眉を上げる巽に、鋭春はすらすらと答えた。
「永海に伝わる『妖刀地金』が一。折れず、曲がらず、軽く、硬く、強く、鋭く、永切れし、錆びぬ。……まあ、錆びぬのは妖刀地金、共通の性能ではあるが」
「なるほど――そう。なら、棒樋を掻き流すかしても構わない。ただ、鎧通しだもの。強度を最優先にね」
「それも、斬魔鉄には無用の心配よ。お任せあれ。腰二本樋を通すとしよう」
「地金は明るくよく約んだものがいいな。小板目肌か梨地肌――刃紋は小乱れか直刃調の静かなものを」
「ふむ。……ふ、一度で出来るといいが。これは久々に、影打ちを鍛造る事になるやもしれんな」
 鋭春は筆を走らせつつ、冗談めかした調子で言う。巽は目を瞬き、
「影打ちを作らないの?」
「普段、ここまでの注文がつくことは無くてな。何分、我らの主な客は戦のために急を要するもの達ばかりだ。妖刀地金の性能を最大に発揮し、実用に耐える物を作ればそれで良しとされる。我らも最低限、美観には気を遣うが、ただそれだけだ」
 だから、と鋭春は、細い眼をやや大きく開いた。鋼色の瞳が覗く。
「――このように細かく注文を付けると言うことは、我らの仕事の細部を見てくれる、ということとおれは解釈している。故、久しぶりにとびきりの美しい作を、と思うのよ」
 職人魂に火がついたか、鋼の眼は爛々と燃えて見えた。
「……なるほどね。じゃあ、私が見よう。必ず。出来上がりが俄然楽しみになってきた。……ああ、そうだ、いい白銀師はいないかな。鈨に彫金を頼みたい」
「補修工房に何人も心当たりがある。鈨の材は?」
「銅の銀着せ。そこに七つ割り隅立て四つ目紋を刻んでほしい。……うちの家紋ってわけじゃないし、家紋があるかも知らないんだけど……まあ、いいよね」
「心得た。鈨のことは白銀師に伝えておこう。拵えに希望は?」
「そこは一式、お任せするよ。……ああ、あまり華美な物は好まないだろうから……派手になりすぎない程度に、ということで」
「誰かに贈る刀ということか?」
「ま、そんなところ。……うん、注文は以上。なにか気になるところは?」
「無い。永海・鋭春が承った、水衛どの。打上がりには五日ばかり掛けると思う。暫時、宿で待ってくれ」
「期待してるよ」
 巽は右手を出す。それに、鋭春は滑らかに、宝とも言える利き手で応じた。
 軽く――だが固く、手を結び、二人は微笑うのだった。



 五日して届く、短刀の桐箱。
 開ければそこには、注文通りの品がある。



【短刀『咎討』】
 刃銘『とがうち』。
 永海・鋭春作、刃渡り七寸一分、良く詰んだ明るい梨地肌に直刃の短刀。腰二本樋が通り眼に楽しい。藍漆塗鞘、金目貫鋲頭、藍糸巻柄常組。
 鈨は銅の銀着せ、七つ割り隅立て四つ目紋が施され光る。
 妖刀地金『斬魔鉄』により作刀されており、猟兵の膂力で突き立てようと曲がらず欠けず敵を貫くだろう。
 凜とした彼は、咎人に曲がらぬ裁きを下すであろう。鋭春が思う、巽の形を示した銘である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セレナリーゼ・レギンレイヴ
◎◎
【結社】ですけど、別行動でも可能です
戦闘の技術は適任の方がいっぱいいらっしゃますから、
そちらの方々にお任せを
本業の方のほうがきっと、教えるのも上手でしょうしね

ええと、申し訳ないのですが一振り、刀を打っていただきたくて
いえ、振るのは私ではないのです
私にはミトロンの書がいますので、今回はお姉ちゃんに、と思いまして……
お姉ちゃんは盾を持たぬ騎士で、前で戦うものですから
命を預けられるような業物を一本お願いしたいなと
野太刀でも、打刀でも構いません
どうかよろしくお願いいたしますね

さて、と私もできることをしませんと
模擬戦や指導をしてる皆様のお手伝いを
怪我の手当てや飲み物の準備はおまかせくださいね



●月を穿つ
 里外れの即席訓練場からは、わいわいと多数の若衆が猟兵らの戦闘技術を学ぶ声が聞こえる。その声を背に、一人の女が鍛刀工房へと歩いていた。
 セレナリーゼ・レギンレイヴ(Ⅵ度目の星月夜・f16525)である。暫時、彼女は訓練を行う里の若衆や、模擬戦で傷ついた猟兵らの手当などをしていたが、里の少女らが徐々に効率の良い手当などを覚える段となって時間が空き始めるのを見計らって現場を離れた。
 彼女が扱う刻器は『ミトロンの書』。扱いに関して村人らに教えられる事はない。武器を使った単純な戦闘の技術であれば、教えるのに適任な猟兵は他に多数いるはずと見て、教練は他に任せている。
「お邪魔します」
 辿り着いた鍛刀工房の扉を開ければ、中からは鎚打つ音と火鉄の匂い。頭に手拭いをした、細い眼の職人が振り返る。
「猟兵どのか。作刀か?」
「あ、はい。その、私にはこれがあるので、……私が、というわけではないのですが、お姉ちゃん……姉に、一振りと思いまして。大丈夫でしょうか」
『ミトロンの書』を示しながら言うセレナリーゼに、職人は一つ頷く。手にして調整していた刀を置き、セレナリーゼに歩み寄りながら問うた。
「心得た。姉君はどのような刀をお求めか、お教え願えるか」
 歩き来る鍛冶職人は、セレナリーゼより随分背が高い。セレナリーゼはやや上に目を向け、視線を合わせる。
「姉は……盾を持たぬ騎士です。前に出て、白兵戦をします。頑丈で、敵を何体でも倒せるような……命を預けられるような、業物をお願いしたいな、と思っています。出来ますか?」
「無論。永海の妖刀の中でも随一の切れ味、軽さ、頑健さを誇る、我が斬魔鉄ならきっと眼鏡に叶うものができよう。して、長さの希望などは?」
「ううんと……姉は武器を選びません。短剣も、大剣も持っていますし、どちらも器用に振るいます。ですので、野太刀でも打刀でも構わないです」
「ふむ――では、今、持ち合わせがない丈のものを埋めるのがいいか。大剣と短剣は既にあると?」
「はい。身の丈ほどの大剣と……腕の長さほどの短剣ですね」
「成る程。ならば、打刀としよう。姉君の身の丈は?」
「たしか、一六八センチ程だったはずです」
 答えるセレナリーゼの声に男は頭を掻き、手元の紙に筆でさらさらと書き付け、何事かを計算した。
「……五尺六寸。その身の丈とは、また出鱈目な剣を振るうものだ。膂力は問題なし、短剣があるならば取り回しの良さはそちらで賄うとして、背丈に対してやや長めの造りの打刀を鍛造る。それで問題ないか、猟兵どの?」
「はい、構いません。――お姉ちゃんが、傷つくのを見るのは辛いですから。お姉ちゃんを守ってくれるような一振りを、お願いしますね」
 セレナリーゼは手を重ね、あえかに笑って一礼をした。
 それに、職人は真面目くさって一礼を返す。
「心得た。では、九代斬魔鉄筆頭鍛冶、永海・鋭春(えいしゅん)がこの仕事を拝命する。……して、もう少しばかり尋ねたいことがあるが、まだ時間はあるか?」
「セレナリーゼ・レギンレイヴです。よろしくお願いします、鋭春さん。ええ、構いませんけれど。どんなお話ですか?」
 鋭春は鋭く細い眦を、僅かに和ませ。
「――どのようなひとか佳くお聞かせ頂きたい。姉君のことを」
 これから刀を作るのだ。人となりをよく知りたいと――鍛冶はそう、セレナリーゼにせがむのだった。



 やや長く、一週間とすこしの時を経て、白木の箱がセレナリーゼの泊まる部屋へと届いた。
 ずしりと重く、それは命を預けるに足る重さだと――
 刀を振るわぬセレナリーゼにも、はっきりと感じさせる何かがあった。



【打刀『穿月』】
 刃銘『うがつき』。
 永海・鋭春作、二尺四寸の打刀。
 板目の地肌良く詰み明るく、刃紋は数珠刃、ふくら枯れる。黒漆鞘に黒革巻柄。
 古霊刀の欠片を玉鋼と共に用い、焼き入れにあやかしの血を使うことで完成する妖刀地金『斬魔鉄』での作刀。
 折れず、曲がらず、良く斬れ、軽く、強健である。炎、冷気などを発することはないが、宿った霊刀の霊力、あやかしの血の力、魔力伝導性を良くしている。
 月の瞳の貴女が、何もかもを穿ち断てるようとの願いを込めた銘。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三咲・織愛
活気づいているようでなにより、ですね。
刀鍛冶の里……せっかくですし、何か私も誂えていただこうかしら。

懐刀と言えばいいのでしょうか。
接近された時にふっと胸元から取り出せるような物が欲しくて。
近付かれても拳で戦えますけれど、
刃物相手では分が悪いのですよね。
護身用、といったところです。

どこかに星の意匠など施していただけますでしょうか?
飾りなどでも構わないのですけれど。
あっ、そういうのは別に自分で用意するのがいいのかしら?

むむ。もう少し調べてからくればよかったですね。
お願いできましたら、ぜひ。



●綺羅星の剣
 里外れを見れば模擬戦、教練。里の中を歩けば、訪れた猟兵らに振る舞われる当地の名物。里全体が浮き立つような空気さえあった。その中を一人、栗毛の少女が歩いていく。
「活気づいているようでなにより、ですね」
 猟兵達がいなければ、滅んでいたはずの里。それが高く上がった太陽の下で確かに息づいていることを思うと、三咲・織愛(綾綴・f01585)の脚も自然軽くなる。
「私も何か一振り、誂えていただこうかしら」
 弾む脚のまま、里を散歩がてら、彼女もまた鍛刀工房へ足を向ける。

「こんにちは。工房はこちらですか?」
 火の匂い、鎚打つ音。間違いなかろうと当たりを付けたその戸を開ければ、すぐに一人の男が応じた。
「ああ。ようこそ、永海の鍛刀工房へ。作刀の依頼か?」
 手拭いを頭巾のようにして結んだ、背の高い男が織愛に応じた。がっしりとした体付きに作業着、鎚打つための節くれ立った手。いかにも、熟練の鍛冶といった雰囲気の男である。
「ああ、良かった。私も一振り誂えていただきたくて。お願いできますか?」
「無論のこと。おれは、斬魔鉄筆頭鍛冶、永海・鋭春(えいしゅん)。猟兵どの、どのような刀をご所望か」
「初めまして。三咲・織愛といいます」
 穏やかだが強い声で言う鋭春なる男の声に、織愛は挨拶を一つ。その後、考えるように顎に指を当て、
「懐刀……というのでしょうか。接近された時に、ふっと胸元から取り出せるような物が欲しくて」
「ふむ。ならばやや丈は絞った方がいいな。七寸……いや六寸五分ほどか」
「詳しくないので、その辺りはお任せしますけれど。近づかれれば拳で戦うことも考えるのですが、刃物を出されるとやはり分が悪いので。護身用、といったところです」
「その細腕で拳を使われるか。……なんとも、猟兵どのというのは我らの想像の埒外にいるものよな」
 鋭春は流石に驚いたと言いたげに、織愛の身体を爪先から項まで一度見た。どこからどう見ても線は細く、嫋やかな指先と言い、戦に向いたからだとは思えぬながら、然りとて昨夜の鉄火場をその身一つで走り抜けた歴戦の猟兵であった。
「承った。特殊な希望はあるか? 例えば、火が出るだとか、氷が出る、だとか」
 荒唐無稽な問いだったが、それが出来るのが永海の刀である。望めば大抵の希望を満たす刀が手に入ろう。問いに、織愛は思い出したようにぽんと両手を打ち合わせ、
「そう、忘れるところでした。作って頂く刀のどこかに、星の意匠など施していただけますでしょうか?」
「……星の意匠?」
 鋭春は一瞬、ぽかんとした顔で織愛を見つめ返した。その表情があまりに呆けていたもので、織愛は慌てて手を振る。
「え、えっと、飾りなどでも構わないのですがっ」
「飾り、……星の?」
 呆けた顔が続くのでおかしなことを言っていたのかと不安になる。織愛は困り顔で頬に手を当て、
「あ、そういうのは別に、自分で用意した方がいいのかしら……あの、ごめんなさい、もう少し調べてから来ればよかったですね」
「いや、いや! 相済まない、少々面食らっただけだ」
 慌てたように鋭春は手を振り、咳払いを一つ。
「希望の程、確かに承った。よい白銀師……ああ、刀身や鈨、鍔に彫金をするもののことだが……がいる、彼らに希望を伝えておこう。刃はおれが打つ。火や氷を出す、超常のすべとは無縁の刃となるが、構わないか?」
 再度の念押しだったが、織愛は手を重ねて笑って言った。
「まあ、では誂えて頂けるんですね。ありがとうございます!」
「応。刀のことならば何でも任せてくれ。……それではそうだな、注文が込んでいるので、七日ほど。暫時時間を頂くが、その間、宿で待ってくれ。食事処も方々で猟兵どのを待っているはず、三咲どのも一度、足を向けてみて欲しい」
 きっと皆喜ぶ、と笑う鋭春に、織愛もまた柔和な笑みを浮かべた。
「はい、ありがとうごさいます、鋭春さん。……出来上がり、楽しみにしていますね」



 やがて一週間が経ち、一つの桐箱が、宿の織愛の手元に届いた。



【短刀『燦星』】
 刃銘『きらぼし』。
 永海・鋭春作、刀身長六寸五分の短刀。直刃、ふくら枯れる。沸がきらきらと光り、星屑を散らしたよう。鈨には星海を模した美しい彫金が成されている。夜空を思わせる黒漆塗鞘、黒糸巻柄常組。目釘頭が金の、星を思わせる鋲頭となっている。
 霊刀の小割れと玉鋼を精錬し、鍛錬後に妖魔の血で焼き入れを行うことで完成する妖刀地金『斬魔鉄』による作刀。音もなく鎧を貫くほど鋭く、刺突に使えど決して曲がらず、折れぬ。
 美しい外見ながら、彼女を害する一切を貫いて見せるであろう、星の刃である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真守・有栖


3.

…………とっっっても寝過ごした気がするわ!?(がばっ)

すっっっごい頑張って太刀合った反動からか、そのまま倒れて三日三晩ぐっすり夢の中だったそうな。

……あだだだだだっ!?
傷は傷む。全身は筋肉痛。わぅう……と涙目で起き上がり。

……既にお別れは済ませたわ。
次なる愛刀を求め、いざ……!

だって、妖刀よ?
もっと危うくてやっっっばくて厄い刀がきっとあるはず……!

呪われし刃を振るう、美狼の剣士。これだわ!

里の長に直談判よ!

神刀として、柱として。
薙神を祀らねばならぬほど、とびっっっきりなやっばいのがあるんでしょう?……たぶん。
それを貰っていくわ!
えぇ、任せなさい!この私が存分に振るい尽くしてあげる……!



●月を喰らう、美狼の剣士
 八刀・八束との戦いから、既に三日が経っていた。
 訓練場の盛況は相変わらずだったが、刀を待っていた猟兵の中には、既に完成した刀を受け取り次の仕事に向かった者もいる。
 そんな中、ところは里長の家、奥座敷の一室。
 昏々と眠り続ける一人の猟兵の姿があった。
 彼女の名は、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)。先の八刀・八束との戦いで、最後に彼と立ち会い、彼の身体を穿ち、止めを刺した猟兵である。蒲団に散らばる銀糸さらり、月夜に輝いた紫水晶の瞳は、今は閉ざされ光を映すこともなく。
 時に訪れる使用人が、その容態を心配して久しかった、あれより三日の昼下がり……
 その目が出し抜けにカッと開かれた。
「……とっっっても寝過ごした気がするわ!?」
 布団を蹴り飛ばして起き上がる姿は、あの夜の凜とした姿とは若干異なるぽんこつ振り……というか、こちらが素か。
「ってあだだだだだだっ!? 痛い痛い痛いっ……わうぅう……」
 思わず激痛に身を縮めた。筋肉痛と刃傷の痛みは三日程度では消えぬようだ。
 八束相手に真っ向打ち合い、刀が砕けるほどに戦った反動が彼女の身体を苛む。涙目になりつつ、有栖は恐る恐ると縮めた身を弛緩させ、枕元にある己の服に手を伸ばした。身につけ、着せて貰っていた寝間着を綺麗に畳み、布団を整える。
 刀を腰に差そうとして――ああ、あの一刀は、あの月の丘に置いてきたのだと思い至る。さよならは済ませた。別れたのだ。
「ありがとう。さよなら」
 有栖は呟き、あとは、振り返らずに部屋を出た。
 次なる愛刀を求め、いざ、目指すは里長の許である。

「ほ、猟兵様、気が付かれましたようで。何よりに御座います――」
「おはよう看病どうもありがとう! 早速だけど里長さん、私、訊きたいことがあるのよ!」
 九代永海、永海・鍛座(たんざ)、喰い気味の返答に若干仰け反る。
 そして勢いよく前のめりに来た有栖、勢い余って変なところに力が入り蹲る。
「なんで御座いましょう、私は逃げも何処に行きもしません故、その、ゆっくりお話をされては。怪我もまだ、治る半ばというところで御座いましょうし」
「わうぅ……」
 小さく頷きながら何とか復位する有栖。鍛座は再び有栖が声を紡ぐまで待つ。
 有栖は咳払いを一つして、続けた。
「永海の刀は、妖刀だって聞いてるわ。もっと危うくてやっっっばくて、厄い刀がきっとあると思ったのよ、私鋭いから! 呪われし刃を振るう美狼の剣士! これしかないと思ったわ!」
「……なるほど?」
「というわけで里長さん! 神刀、柱として薙神を祀らねばならないほどとびっっっきりなやっばいのが――隠された呪いの刃があるんでしょう!?」
「御座いませんが」
「それを貰って――って、え?」
「御座いませんな」
「……うそだぁ」
「本当に御座います」
 鍛座は三日前、一人の猟兵にした話を復唱する。七代永海の最高傑作。これを規範とし、永海を絶やさず継承せよと、一族に持たせ逃がした刀。それが薙神。
 身代わりとして、七代永海は他数名の職人と共に、時の領主の許で死ぬまで刀を打ったということ。
 一族を救い、心の支えとなった一本。そうである故に、薙神は『柱』と呼ばれるのだということ。
「えっ……じゃあ私が思う存分振るい尽くす予定だった血塗られた呪いの妖刀は」
「……御座いません」
 へにょぁ。有栖の耳が垂れる。しゅんとして項垂れる様子に居たたまれなくなったか、鍛座は取りなすように言葉を継いだ。
「し、しかし! この里の粋を尽くした一本を打ち、猟兵様にお渡し致します。ご所望のような呪いは無く――血を呑むような事も無い刃ではありますが、きっと猟兵様の力となるはず。この『九代永海』鍛座、自ら腕を振るいましょうぞ」
 ぴく。耳がちょっと動く。
「永海の妖刀地金、その全ての扱いに精通せねば打つこと叶わぬ、八つ目の妖刀地金『烈光鉄』にて作刀致します」
 ぴくぴく。
「なにを隠そう薙神も、この地金で打たれているのです。それではご満足頂けませぬか」
 ぴん。
「……予定変更よ、烈光の刃振るう美狼の剣士! こっちで行くわ!」
「この老骨もそれが良き肩書きと存じます! ではいざ、いざ! 細かな点を詰めましょうぞ!」
「ええ!」
 二人は鍛刀工房へ意気揚々と足を向け――
 走り出そうとしたら有栖がまた蹲ったので、鍛冶場までは暫くの時間を要したという。


 七日七晩。烈光鉄の鍛錬には、煩雑な行程と精神力を要する。
 生まれた刀の銘は――



【光刃『月喰』】
 刃銘『つきばみ』。
『九代永海』永海・鍛座作、藍漆塗散雲蒔絵鞘、藍糸巻柄常組。
 刀身二尺二寸五分、有栖の体躯に合わせ小振りな造り。鞘から抜いた刃を見れば、沸が自ら光を放つ。妖刀地金『烈光鉄』での作刀。
 猟兵の膂力を以てすれば、もっと長い刀でも良かろう――という思想で他の刀は打たれているが、月喰はその必要が無いため身長に合わせた最適な丈で打たれている。

 意念を込め、断つと念じて振ることで、刀身から迸る光により斬撃が『延びる』。
 これを『光閃』と称し、完全な射程外より致死の斬撃を送り込むことを可能としている。
 美狼の剣士よ、月に呑まれず月を喰らえ。
 これなるは九代永海、その技の粋なり。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ビリウット・ヒューテンリヒ
【伴場・戈子と模擬戦】◎

勝敗お任せ

戈子殿。長針と短針ではあるけれど、一つ手合わせをどうだろうか?
銃を使っていると、近距離戦闘を鍛える機会が無くてね。経験豊富な先達である戈子殿に指南頂ければ、善き糧になると思うんだ
無論、私と教えられるばかりではないよ
油断をしているとガブリといくから、そのつもりで

バロウズ、非殺傷弾セット
銃剣装着
ツイン

オートマチックハンドガン(銃剣付き)を2丁持ちで挑むよ

っとっと…さすが、キレが違うね
攻めても攻めても道が拓けない気分になる…!これが我らの中でも最高峰の防御力ということか!
なるほど、攻めるばかりでなく、守り、弾き、隙を突く!
これが後の先の真髄
しっかり盗ませてもらうよ!


伴場・戈子
【ビリウット・ヒューテンリヒと模擬戦】◎
勝敗お任せ。

おやビリウット、殊勝なことを言うじゃないか。戦闘も終わったのに、まだババアに無理させる気かい?
……なんて言いたい所だけど、かまやしないよ。その代わり、訓練だと思って気を抜かないことさね。少しでも気を抜いたらガツンといくからね。

真の姿でもある大戈、アンチノミーの矛を召喚して自分で振るって戦うよ。

ふん、嘯くわりにはずいぶん苛烈に攻め立てるじゃないか。
捌くのにも一苦労だよ、全く。
だが、そうさね――ウチにいるからって、武器に囚われすぎないことだね。
アンタ、その手札がウリだろう?使えるものはなんでも使いな。銃剣格闘も、魔導も。――勿論、弾丸もね。



●3:30
 ここ、里外れでは連日、猟兵達による訓練とデモンストレーションが行われている。
 組み合わせの発表が行われては賭け好きの職人や博徒が色めき立ち、その勝敗を一喜一憂して眺める様相だ。
 ――木と縄で囲われた闘技場は、新たな猟兵の到来を待っていた。
「戈子殿。長針と短針ではあるけれど、一つ手合わせをどうだろうか?」
 提案をしたのは、ビリウット・ヒューテンリヒ(Ⅳ番目のレコード・キーパー・f16513)。神出鬼没の戦闘集団『結社』の、Ⅵ番目の『長針』である。
 対するのは身の丈五尺あまり、年を感じさせぬピンと伸びた背筋の老婆。伴場・戈子(Ⅲつめは“愛”・f16647)である。片眉を聳やかして見返す視線。ビリウットは応えるように言葉を継ぐ。
「銃を使っていると、近距離戦闘を鍛える機会が無くてね。経験豊富な先達である戈子殿に指南頂ければ、善き糧になると思うんだ」
「なかなか殊勝なことを言うじゃないか。戦闘も終わったのに、まだババアに無理させる気かい、ビリウット?」
「短針のⅢはこの程度で草臥れやしないと思っていたけど、見込み違いかい?」
 片目を閉じて挑発交じりに言ってのけるビリウットに、戈子はからからと笑って、腕をヒュンと打ち振った。止まった手の中にはいつの間にか、刻器『アンチノミーの矛』が現れている。
「……いいだろう、かまやしないよ。その代わり、訓練だと思って気を抜かないことさね。少しでも気を抜いたらガツンと行くからね、覚悟を決めてリングに上がりな」
 ダン、と地面を蹴れば、太陽を背にアクロバティックに宙を舞い、宙返りを打って戈子はリングに降り立った。観客が沸き立ち、俄な盛り上がりを見せる。
「煽るじゃないか。――こちらの台詞さ、戈子殿。私と教えられるばかりではないよ。油断をしているとガブリといくから、そのつもりで」
 リング周辺に殺到するギャラリーを飛び越え、ビリウットもまた、リングを囲む木の柱に脚を揃えて着地!
 ひゅ、ひゅん! 指揮棒のように振った両手に現れるのはオートマチック・ハンドガン形態の刻器『バロウズ』。二挺拳銃、トゥーハンドスタイルだ。さらに、
 ベイオネッツ・オン
「 銃 剣 装 着 」
 ビリウットが命ずると同時にバロウズのフレーム下部に銃剣が構築され、刃先がすらりと伸びる。格闘戦を念頭に置いた形態だ。弾頭は非殺傷用の銃弾。かつ有効射程はリング内のみに設定し、リング外に弾丸が出れば、『弾丸が存在しない空気の記憶』を参照の上、自壊するよう設定する。
「準備はいいみたいだね、ビリウット。一丁揉んでやろう。どこからでも掛かってきな」
 戈子は矛を構え、すっと腰を落とす。その構えときたら城塞のようだ。対すれば、攻め落とせるビジョンが湧かぬ。
「ならお言葉に甘えて、遠慮なく!」
 ビリウットは木の柱を蹴り、空中から撃ち下ろしの弾幕を張る。
 対する戈子は地面を蹴り、照準から逃れて数発を回避。照準修正しながら追って放たれる弾丸をアンチノミーの矛により鈍い音を立てながら弾く。非殺傷性のゴム弾は、しかし一発とて戈子を捉えることはない。
(……銃口初速の問題もあるが、さすがにキレが違う!)
 恐らくはこれが実弾だったとて、戈子は弾いてみせるだろう。着地と同時にビリウットは跳ねるように前進。
 戈子は応じて、矛のリーチを活かし、中距離からの薙ぎ払い。ビリウットは跳躍空中側転回避、倒立姿勢から最早間近の戈子の胸、顔面の致命部位に銃弾を連射するが、すぐに屈まれ空振りに終わる。
 屈みながらも戈子は止まらず、ビリウットの着地際を狙って石突きでの足払いを繰り出した。回避と攻撃が同居する。
 ビリウットは重心をずらし脚をたたむことで回転数を稼ぎ滞空時間を増やし、すかす。シビアに回避しながら飛び退き、再び銃弾を連射するも、戈子は矛を一度大きく回旋し風圧込みの面的防御、弾丸を弾き散らす!
「攻めても攻めても道が拓けない気分になるね。……これが我らの中でも最高峰の防御力ということか!」
「ふん、嘯くわりにはずいぶん苛烈に攻め立てるじゃないか。捌くのにも一苦労だよ、全く。ババアにゃ優しくするモンだって習わなかったのかい?」
「生憎、常識の類には疎くてね」
 さらに数発を固め撃つビリウットだが、今度は戈子が前に出た。弾きながら前進し、稲妻の如き突きを繰り出す。辛うじて避けるビリウット、髪が数本斬れ飛ぶ。
「くっ……!」
「だが、そうさね。――ウチにいるからって、武器、そして攻めに囚われすぎないことだよ」
「それは、どういう、」
 突きが唸る。反撃の銃弾を間にねじ込むが、放ったときには戈子は弾道上から身を捌き、次の一打を放ってくる。速い!
「アンタ、その手札がウリだろう。 使えるものはなんでも使いな。今出したその銃剣での格闘も、魔導も。――勿論、弾丸もね。何か一つに拘ることはない。拘っちゃならない。攻めも、守りも戦いだ。わかるかい?」
 戦いながらの言葉。噛み含めるような戈子の声から、ビリウットは息を弾ませながら、インストラクションを読み取る。
「……なるほど、……戦いは攻めだけじゃない。守り、弾き、隙を突くのも攻撃! それが後の先の真髄――しっかり盗ませてもらうよ!」
 ビリウットは繰り出された戈子の一撃に銃剣を打ち合わせた。一打、二打、真っ向から打ち合うたびに観客の歓声が高まる。
 渾身の銃剣の打撃。追撃を這々の体でしのぐ状態からは脱した。しかして戈子の体勢を崩すには至らず――
「このままじゃあ千日手だよ、ビリウット」
「いや――これでいいんだ、戈子殿!!」
 ビリウットは両手の銃剣で戈子に力の限り打ちかかり、動きを止める!
「ッ!」
 同時に追蹤魔術を起動!
 参照記憶――『ここで撃った銃弾』の記憶! 再現と同時に、戈子の周りで無数の銃火が咲き、複数方向より銃弾が一斉に襲いかかる!
「考えたもんだね――だけどねビリウット、アタシの矛は矛盾の担い手。アンタが激しく動くほどに」
 ・・・・・
 複数の斬閃が日光を照り返す。ゴム弾が宙で塵くずほどに弾け飛んだ。
「アタシの矛もまた、速くなるのさ」
 アンチノミーの矛が担うは矛盾の許容、因果の逆転。一つしかないはずの矛で、まったく同時に銃剣を受け払い、複数の火線を払って退ける。
 頸に突きつけられた刃を前に、ビリウットは大きく息を吐く。両手を挙げ、払われたバロウズの銃口で天を指した。降参の意思表示である。
「……なかなかいい手と思ったんだけどな。私もまだまだ、か」
「年の功ってヤツさ。生きたぶんだけ引き出しが増えるもんだ。――でもま、いい線行ってたんじゃないのかい。少なくとも、アタシはそう思うねえ」
 戈子は笑って矛を引き、ビリウットの肩を労るように叩くのだった。
 ビリウットも応じて笑い、礼をした。
 ――これにて対局、終幕である。
 勝者、伴場・戈子!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルノルト・クラヴリー
ザハ(f01401)と【2】

賑わってるな、ここは
様子を覗き、何戦かを鑑賞して
はは、楽しそうだ
ザハ、お前、刀は使えるか?

郷に入っては郷に従えと言うだろう
前に出て、職人気質な心へと呼び掛ける

腕誇る職人達!
これぞ魂という刀があれば、俺達に貸しては貰えないか!

力示せと言われるならばそれも道理
ではこの勝負見届けたのち、
刀手にするに不足ないと認めたならば、
認めた力に相応しい、腕の良い鍛冶を紹介してくれ!

さぁ、場は温めた
実力差は無い、互いに全力
愛剣vifは繁栄願って作られた、民の心と歴史の剣だ
これから前へ進まんとするこの里にもきっと良い

準備はいいか?ザハ
嬉しいよ、一度お前と打ち合いたかった
いざ、尋常に勝負!


ザハ・ブリッツ
アルノー(f12400)と【2】へ

活気があるね
職人達の集落っていうとこんな感じなのかな
ああでも、どうやらアルノーが好みそうな催しだね

刀を?
剣ならともかく、刀は使ったことはないけれど
ええと、包丁は含まれる?

あっという間に前へ出て、煽る様なアルノーの声に、
里人や観衆達の中に生まれる熱が伝わってくる
まったく、何処にいても君は君らしいね
…少し俺もあてられたのかな?
「後悔はさせないよ。全力の仕合、心して見ているといい」

俺の得物は斧、絶
雪と氷の世界に生まれた、頼りになる相棒だよ
君はフィーじゃなくていいのかい?嫉妬していそうに思うけれど

憂いはなく、全力勝負は望む所
さあ、刀鍛冶達を唸らせる、楽しい勝負といこう



●刃重ね、友と舞う
「賑わってるな、ここは」
「そうだね、活気がある。職人達の集落っていうとどこもこんな感じなのかな」
「先に来た猟兵達が何か催し事をしているんだろう。いや……しかし、逞しく生きる人の強さと言うのは、何処でも変わらないものだ」
 二人の男が行く。アルノルト・クラヴリー(華烈・f12400)とザハ・ブリッツ(氷淵・f01401)である。二名とも上背があり、一目で渡来のものと知れる秀麗な容貌に、村娘らが口許をそっと隠すのもむべなるかな。
 二人が歩く町並みは、どこか浮き立った雰囲気で満ちていた。グリモアベースで話を聞くと、おおよその仕事――村の防衛戦――は終わっており、あとは村人達に教練を付ける仕事が残っているのみ、という。
 教練は里外れで行われているらしい。アルノルトとザハが現場へ向かってみれば――
「ああ――なるほど。どうやらアルノーが好みそうな催しだね」
「……否定できんな」
 現場では、村人達への直接的な教練の他、猟兵同士の一騎打ちが催されていた。

 数戦、二人で観戦をする。
 中には打ち終えたばかりの永海の妖刀を持ち出し、その性能を競い合うもの達もいた。それを打ったらしき永海の職人達もこぞって観戦し、やいのやいのとヤジを飛ばし合っている。
「はは、楽しそうだ。ザハ。お前、刀は使えるか?」
「ええ、刀を? 剣ならともかく、刀は使ったことはないけれど。……ええと、包丁は含まれる?」
「含まれると思うか? さぞや見事に振ってくれるんだろうな」
 皮肉笑い交じりで、半眼の問い返し。
「ごめんってば」
 肩を竦めるザハにニッと笑い、アルノルトは促すようにリングを顎で示した。
 一つ前の組の模擬戦に決着がつき、賭けに勝ったらしきもの達が快哉を叫ぶ。
「なら今から覚えろ。郷に入っては郷に従えと言うだろう」
 前の二人がリングを辞するのと同時に、アルノルトは目の前の人垣を一飛びに跳び越え、外套を翻して地に降り立った。
 おお、と響めく職人達の眼の次は耳を奪うように、アルノルトは良く響く声で言う。
「腕誇る職人達よ! これぞ魂という刀があれば、俺達に貸しては貰えないか! 力示せと言われるならばそれもまた道理、この一番を見届けた後、刀手にすると不足無いと認めたならば、我らが力に相応しい、腕のいい鍛冶を紹介してくれ!」
 最初の響めきとは異なる、熱狂の声。それはアルノルトの言葉を肯定するものに相違ない。
「まったく、何処にいても君は君らしいね、アルノー」
 アルノルトに続いてザハが、木と縄で囲まれた即席のリングの内側に降り立つ。
 煽るようなアルノルトの声は、その場の人々の心を掴んで止まない。職人や観衆らの間で生まれ、うねるような熱が、リングの内側にまで伝わってくる。
 熱は、伝染る。
 ――どうやら、少し俺もあてられたらしい。
「後悔はさせないよ。全力の試合、心して見ているといい」
 ザハも流し目をくれ、観衆に煽りを一つ。巨大な戦斧――『絶』を軽々と持ち上げ構えを取る。絶は、氷雪の世界に生まれた凍気の大斧。斬り断った全てを、その内側より凍えさせる絶氷の戦斧である。
 永海の職人が数名、その装備を見て目の色を変えるのを横目にしつつ、対したアルノルトもまた抜剣。彼が手にするのは繁栄を願って鍛造られた、民の心と歴史の剣『vif』。これから前へ進まんとするこの里の先行きを祈る剣戟を鳴らす意味もある。
「さぁ、場は温めた。実力差は無い、互いに全力。ザハ、準備はいいか?」
「憂いなく。――君はフィーじゃなくていいのかい? こんな大一番に君が振るその剣に、嫉妬していそうに思うけれど」
 からかうようなザハの言葉に、アルノルトは一笑。
「それではお前との一騎打ちじゃなく、二対一の戦いになるだろう?」
「――違いない」
 一本取られたとばかり、ザハもまた笑い、スッと姿勢を低めた。
 互いの間合いを計る。心地よい緊張感が場を席巻する。
「嬉しいよ。一度、お前と本気で打ち合いたかった」
 アルノルトの言葉に、ザハも微笑んで応じる。
「同じ気持ちさ。全力勝負は望む所。さあ、刀鍛冶達を唸らせる、楽しい勝負といこう」
 互いに剣気発しながらも、二人は涼やかに言葉を発した。
 観客もまた静まり、最初の激突を待ち望むように口を慎む。
「ならば、いざ、尋常に」
 ざり、アルノルトが左脚を前に出し、土を捻る。その様、弦引いた弓のよう。
 ザハが応じて、絶のグリップを握り直し――
「「勝負!!」」
 二名は同時に前に向けて爆ぜた。得物の重さによる速度差か、一歩先に出たのはアルノルト。上段からの打ち込みをザハは絶を振りかざし、斧刃の根で受け、横に払う。払いながら、踵で地に杭を打ち身体を翻して逆脚の蹴りを繰り出す。
 アルノルトは踊るようにそれを避け、群れた雀蜂の如き連続での刺突を繰り出す。受けるザハの技量もまた非常に高い。重さ、取り回しで劣る絶にて、その強靱な刃を盾とし受け流ししのぎ、かすり傷程度で収めて飛び下がる。
 ザハはバックフリップを打ち、絶を地面に叩き込む。追撃に向かおうとしたアルノルトが目を瞠り、咄嗟に足を止めた。
 判断は正解。地に打ち込まれた絶の刃を呼び水としたかのように、地が割れた。ジャックナイフめいて飛び出すのは巨大な氷の腕!
 アイスタイタン
「氷 塊 の 巨 人! 部分召喚か!」
 アルノルトは反射的に炎の魔力を剣へ走らせる。巨腕、飛び出し様の一撃は足を止めることで回避。続いて、叩き潰すように振り下ろされる一撃を焔と化した剣で斬り払い、ザハへ迫らんと前進する。が、
「……!」
 腕を退けた先に既にザハはいない。横合いに、ヒリつくような剣気。アルノルトは反射的に身を低める。
 前髪を数本千切り飛ばされた。小型の竜巻の如く、斧の重量を活かし、勢いを止めぬままの連続攻撃を繰り出すザハ。その質量、ただのロングソードでは真っ向からは受けきれぬ!
 剣戟、火花。焔の剣と氷の斧がぶつかり合い、氷花と火花を咲かせ散らす!
「やるね、アルノー」
「こちらの台詞だ!」
 ともすれば死と隣り合わせの戦舞、しかし二人の表情には憂い無く。
 互いに、受け切るだろう、という固い信頼の許に打ち合いは続く。

 高まる歓声、尽くす互いの技。
 アルノルトとザハのいくさ舞いはその後も一刻ばかり続き――
 敬服した職人達は、我先にと彼らの許に欲しい刀を聞きに走ったという。



 永海の里はこうして救われた。
 これからも、彼ら永海の民は妖刀を打ち、様々な苦難に直面しながらも生きていくことだろう。猟兵達が教えた力と、与えた活気が、きっと彼らの救いとなるはずだ。
 手にした刃を、装備を、もしじっと見て迷う瞬間があったら――時代の狭間に埋もれながらも、今なお懸命に刀を打ち生きるもの達がいたことを思い出してみてほしい。
 君達が救った、『永海』という刀匠らの隠里のことを。

 遠く高い空で鳶が鳴く。
 折れた刀の刺さった丘を、ひゅうと風吹き草揺れた。

 それでは、これにて今度こそ。
 魔穿鐵剣、業禍剣乱刃傷絵巻。
 堂々閉幕、お然らば、然らば。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月28日


挿絵イラスト