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食物文化研究同好会~すれ違い、そして?

#UDCアース #ノベル

一ノ瀬・帝



源・全





 とある休日。
 源・全は姉と一緒に都内の某所を訪れていた。
「うーん、大漁大漁!」
 ほくほく顔の姉は大量の本が入った袋を抱え込んでいる。
「相変わらずすごい荷物だなあ……」
「だって商業誌と違って同人誌との出逢いは一期一会なのよ? この機会を逃したら、こんなに素敵な〇〇くんと××くんの本が二度と手に入らないかもしれないのよ?」
 その中身は全てBL同人誌である。全の姉はいわゆる腐女子であり、今は某ジャンルの同人誌即売会に行ってきたところなのであった。
「全だってゲームの期間限定イベント逃したらショックでしょ?」
「俺はコンシューマーばっかりだからそういうのはあんまり……あ、でも確かにそうかも」
 家庭用ゲームでも最近は完全な買い切り型とは言い難い。オンラインのアップデートやイベントも増えてきた。しかもソシャゲのように気軽に復刻してくれるとも限らない。そう云われれば少しは理解できる気もした。
「わかってくれればいいのよ。でも買い物手伝わせちゃってごめんね。一人で並んでたら絶対間に合わないし、誘いやすい腐仲間はジャンル違うしでさー」
「別にいいよ」
 全は別に姉と同じジャンルを推しているわけでも、まして腐男子というわけでもないのだが、どうにも昔から姉に頼みごとをされると断れないのだ。
 それに。
「……正直、真夏のコ〇ケに比べたら全然マシだったし」
「あはは、あれは油断したら死ぬからね」
「冗談抜きで死ぬかと思ったよ」
 時に戦場と称されるあの場所にも全は駆り出されたのだった。
 貧弱でコミュ障な半引きこもりには、正直本当に恐ろしい場所だった。姉が半ば強引に持たせてくれた重装備飲み物と冷却グッズの数々がなければ今の全はいなかったかもしれない。そもそもの元凶も姉であるので感謝をするべきなのかは謎だが。
 そんな姉がじいっと全を見つめてきた。
「どうしたの姉さん」
「ねぇねぇ、全くん。男子校ってやっぱり男の子同士で付き合ってる子いるの?」
 お目目キラキラでそんなことを訊いてきたので、あやうく吹き出しそうになる。
「なにその男子校に対するイメージ??」
「違うの??」
 そういえば、と思い出す。
(「一ノ瀬先輩が知花先輩のこと好きってカミングアウトしてたなぁ……でもそれを姉さんに言ったら延々と質問責めしてきそうだし……」)
 好きな人に関する事だけやたら饒舌になるクール系男子。多分腐女子が黙っていないやつだ。世の腐女子に詳しいわけではないが、少なくとも姉の食いつきはむちゃくちゃよさそうだ。
(「うん、黙っておこう!」)
「俺の周りではそういう話は聞かないかも」
「えー残念」
 ぶーぶーと口をとがらせる姉は、別にいかにもオタクといった風貌ではない。人見知りの陰キャぶりが外見にも滲み出ている(と自己分析している)全とは違い、それなりに明るくそれなりに人当たりがよく、まあまあ身なりに気を使い、オタ非オタ問わずそれなりに友人のいる、実に普通の女性だ――と思う。
「なのにどうして喋るとこうなんだろ」
「聞こえてるわよー全くん」
 身内にはうっかり心の外に出てしまう容赦ないツッコミ。
 やいのやいのと道を歩く二人に、声をかける者があった。
「見覚えある顔だと思ったら源じゃないか」
「わっ、一ノ瀬先輩!?」
 同好会の先輩、一ノ瀬・帝に全は驚く。まさかこんなところで出逢うなんて。
 しかも、先程まさに帝の事を思い出していた矢先に、である。
「ぐ、偶然ですね……」
「この辺大きな本屋があるっていうから、少し覗いてみようと思って」
 それなら全も知っている。BLコーナーも充実していると姉が云っていた。
 そして当の姉は。
「えっ、全くんこのイケメン誰??」
 小声でゆさゆさと全を揺さぶって来るのだった。
(「姉さんも二次元の男性に興味あるんだ。確かに一ノ瀬先輩ってイケメンだし」)
 一瞬そう思った。秒で考え直した。
(「……いや、一ノ瀬先輩って姉さんの好きな攻めキャラにちょっと似てるな」)
 そういう事か。先輩の話を姉にしなくて良かったと心から思う全であった。
「えーと、同じ部活の先輩。先輩、こっちは俺の姉です」
「はっ、はじめまして!」
「はじめまして」
 冷静に答える帝とは違い、姉の声は素っ頓狂な上擦り方をしている。
(「身内が慌ててるとこって、なんかこっちまで恥ずかしくなるな……」)
 今度は辛辣を心の裡に留めつつ、なんとなくいたたまれなくて全はスマホを覗き込んだ。そして表示された時間にぎょっと目を剥く。気づけばすっかり遅くなってしまっていた。この後には遅刻できない用事があるのに。
「こんなところで立ち話もなんだし、ファーストフード店でも寄っていくか? 今なら空いてそうだし」
「あ、すみません、俺そろそろ用事があって」
「そうだったのか。引き止めて悪かったな」
「いえ、こちらこそ」
 そそくさと鞄を背負い直しつつ、姉に声をかける。
「じゃあ俺、もう行くけど……姉さん、すごい荷物量だけど本当に大丈夫??」
「大丈夫だよ~これくらい! 付き合ってくれてありがとね!」
「そっか。じゃあ」
「じゃあな」
「気を付けてね~!」
 足早に全が去って行って、姉と帝だけがその場に残される。
(「〇〇くん似のイケメン君と二人。気まず……!」)
 これは恋のドキドキ的なあれではなく、どちらかというと腐女子的申し訳なさである。全の予想はズバリ的中していたのだった。
「あ、じゃあ、私もそろそろ」
「あの」
 そそくさと踵を返そうとした姉を帝が呼び止める。
「……荷物、良ければ少し持ちましょうか?」
「ふぇっ!? い、いやいや、そんないいですよ!」
 申し訳ないし、何よりうっかり中身がチラ見えしようものなら社会的に死ぬ。弟の先輩ならまた逢う可能性がないとも云い切れないし。
「何だか持つの大変そうに見えたんで。お節介ならすいません」
 そうはいっても確かに重い。とても重い。なにせ会場中の推しカプ同人誌を全部買ってきた。その中でも好きな作家のものは保存用と布教用と観賞用を買った。バイトが解禁された大学生の財力は恐ろしい。
「うっ……じゃあ、駅前の宅配センターまでお願いしていいですか?」
 本当は家に帰ってすぐに読みたかったんだけど、やっぱ無理せず宅配してもらおう……などと心の中で呟く姉だった。
 荷物を半分持った帝は、その重さに少し驚く。
(「こんなに大量の本を。源のお姉さんは勤勉なんだな」)
 そして当の本人は。
(「どうしよ。クール系イケメンな上優しいって完璧すぎない? 本当に三次元の人?? これは間違いなくスパダリね……こういうタイプはやっぱり××くんみたいな子が傍にいて欲しいな。明るくて友達が多くて、でもちょっと抜けてたり弱点があってスパダリに面倒みられちゃうような……はっ! 流石に弟の知り合いで妄想するなんて申し訳ないわよね、沈まれ沈まれ私!」)
 推しカプの片割れにちょっと似てる帝に、うっかり飛躍しそうな妄想を堪え――きれずに顔を赤らめているのであった。
 そんな二人組を、偶然目にした帝の「知人」が一人。
 彼の目には、二人はこう映っていた。
 何やら親密そうな二人。帝が声を掛けて女性の荷物を持ってあげる。女性は顔を真っ赤にして満更でもなさそうな様子だ。そうして二人は肩を並べ、同じ方向に歩いていく――。
 はっと息を呑んだその人は、狼狽を隠せない様子でその場を去ったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年10月02日


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