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弟に贈るボナペティ

#UDCアース #ノベル

水鳥川・大地



知花・飛鳥




「9月に入ったのに、まだまだ暑いなぁ」
 高校生にとっての長い夏休みが終わり、いつも通りの日常が始まる。
 放課後、学校を出た知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)は、残暑というには厳しすぎる熱を放つ太陽を恨めしそうに見上げた。
「今年はほんとに暑かったッスね」
 飛鳥と共に連れ立って歩いていた水鳥川・大地(ギャップ系ヤンキー男子・f40237)もこの夏の暑さを思い返していた。
「せやんな、絶対去年より暑かったよなぁ」
「この暑さなのに家のクーラーがつかなくなって熱中症になるかと思いました」
「え、マジで!? それめっちゃヤバいやん!」
「あ、ちゃんと避難したッス。それに実はリモコンの電池が切れてただけで、新しいの入れたら大丈夫でした」
 そんなひと夏の騒動を思い返す大地に、飛鳥は心底安心したような表情を見せる。
「それならよかったわ。まあ、でも暑いからアイスも美味しかったしなぁ。この夏もいっぱい遊んで楽しかったわ」
 幼馴染の帝と一緒に夏祭りや遊園地に行ったり、最後にはもちろん宿題に追われたけれども、飛鳥には楽しい夏の思い出がいっぱいだ。
「暑い時に食べるアイスは格別ッスもんね……あっ」
 そう言って最寄りのスーパーへの道を歩きながら話している途中に、野良猫の姿を見つけた大地は思わず声を上げてしまう。
「ん、大地どしたん?」
 視線の先を追おうとする飛鳥に気づいた大地はなんでもないと慌てて首を振る。
 猫を見ていたと気づかれたら猫好きがバレてしまうかもしれない。せっかく一ノ瀬先輩には、メッセージの誤送信で明らかになった自分の猫好きを黙ってもらっているのに、ここでもう一人の先輩にまでバレるわけにはいかない。
「いや、こんなに暑くても秋だし、そういう商品が出てるのかなって……」
 なんとも苦しい言い訳だが、飛鳥は怪しむことなく、いつもの朗らかなオーラも全開に、満面の笑みを返してくれる。
「そうやな、今日は秋を感じるお菓子を買うていこか!」
 部活のお菓子の買い出しにやってきた飛鳥と大地は、そんな会話をしながらスーパーへと向かう。
 二人が所属する食研――『食物文化研究同好会』は、真面目そうな名前だが、その実態は部室でお菓子を食べたり、帰りに食べ歩きしたりという、ゆるりとした部活。
 部活用のお菓子が切れると、「お菓子買い出しじゃんけん」という公平な勝負のもと、誰が買い出しに行くかを決めるのだ。食べるお菓子を選べるのだから役得にも思えるが、今日みたいに暑い日や雨の日なんかは、やっぱりちょっと面倒くさくもあるのだ。
「あー、スーパーは涼しいなぁ」
 辿り着いたスーパーで涼を得ると、飛鳥はふうと息を吐き出した。
「アイスも買っていきます?」
「ええな、それ」
 大地の提案にサムズアップで応える飛鳥はそう言いながらもまずはお菓子コーナーをチェック。大地の言い訳から飛び出した秋らしいお菓子のコーナーはちゃんとあって、その中から栗やさつまいもを使ったお菓子をチョイスする。パッケージも秋らしく、こんなに暑くても季節だけは進んでいるのだと感じる二人だった。
 最後にアイスを買おうと思ったが、その前にと飛鳥が大地へと声をかける。
「ちょっと個人的な買い物もしてええ? 弟たちに頼まれてるものがあんねん」
 弟二人に妹一人ときょうだいがたくさんいる飛鳥は普段から弟妹達の面倒をよく見ているのだ。
「いいッスよ。先輩も弟いるんスね」
「おっ。『も』ってことは大地もおるんか?」
 何気ない言葉のひとつも聞き流さない飛鳥の根っからのコミュ力の強さに、大地は内心驚きながらも、自然とこくりと頷いていた。
「はい、今中1の弟が一人」
「マジか、俺の弟の片方と同い年やん!」
 思わぬ共通点に飛鳥は目を輝かせる。
「片方ってことは、先輩は他にも弟いるんスか」
「他に小4の弟と小3の妹がおってな。そうかー大地にも弟がいたんやなぁ」
 今度は大地が飛鳥の言葉に反応し、飛鳥に三人も弟妹がいることを知る。
(「はー、だから面倒見がいいのか……」)
 初対面の時から、金髪にピアスといったどう見てもヤンキー風の自分に全く動じることなく話しかけてくれた飛鳥には大地も驚いたものだ。ただ、きょうだいがたくさんいるから、だけでは説明できない生来のコミュ力があるとも感じるのだった。
「お、これこれ。コスレンのソーセージ。おまけのシールつきやねん」
 目的のものを手にし、飛鳥はにかっと笑う。コスレンことコスモレンジャーは日曜朝に放送している戦隊ヒーローもの。知花家の男兄弟は皆大好きなのだ。
「あー、それ人気あるッスよね」
 子供から大人まで絶大な人気を誇っているシリーズである。大地にとっては断然猫の方が好きだが、その人気ぶりは知っている。
「これはそのまま食べても炒飯とかに入れてもいいしなぁ。ガムとかよりは集めがいがあるわ」
「え、先輩料理したりするんスか?」
 ちょっと意外に思えて大地が訊ねれば、飛鳥はもちろんと頷いて見せた。
「おかんの代わりに弟たちに飯作ることもよくあるねん。大地も何か作ったりするん?」
 なるほど、やはり面倒見がいいと思いながら、母子家庭であり、母親が仕事で忙しくて帰ってこられないこともある環境で育った大地も同じように頷いた。
「あー、あります。インスタントラーメンとか」
「ラーメンも美味しいよな。ラーメンの他には何作るん?」
 そういえば初めて大地が部室に来てくれた時もラーメンの話をしたことを思い出す。
「いや、ほとんどラーメンッスね」
「えっ」
 大地は本当にラーメンが好きやねんなと微笑ましく思っていた飛鳥だが、その言葉に思わず固まってしまう。
「いや、ラーメンは美味いけど、育ち盛りの男子がラーメンばっかは良くないやろ! もっとバリエーション無いんか?」
「塩とかとんこつとか、あとたまに担々麺とか」
「そういう意味ちゃーう!」
 ラーメンのバリエーションではなく、料理のバリエーションの話なのだが、大地はもちろんボケたつもりはないのだろう。いつも通り眼光は鋭いが、きょとんとした顔をしている。
「俺も弟もラーメン大好きなんで」
 だから別に何も仕方なく食べているわけではないと訴えたかったのだが、飛鳥は納得していない様子。
「ラーメンの美味しさは否定せんけど、他にも美味しいもんたくさんあるで? ……せや! 今度俺んちで一緒に料理しようで! 色々教えたる!」
 きっとラーメンが好きすぎて他に何かをしようと思い至らないのかもしれないと、飛鳥はそう言って大地に料理を促す。
「え……!? や、それは流石になんか悪ぃッス……」
 飛鳥の家で料理を教えてもらう。部活の先輩後輩という間柄でしかないのに、そこまでしてもらっていいのだろうかと大地はさすがに気が引けたのだが。
「ええからええから! それにもっと色々作れるようになったらな~とか考えたことないん?」
 さすがの飛鳥はそんな大地の気後れをものともせず、親身になって考えてくれている。
 その様子に、大地もちょっと考えてみる。
(「確かに、母さん居ない日も多いし、外食ばっかだと金かかるし……大河に色々作ってやれたらなって」)
 弟の大河は大地が作ったラーメンを美味しいと言って食べてはくれるが、確かに他にも作ってあげたらもっと喜んでくれるかもしれない。
「無いことは無いッスけど……」
「よっしゃ、決まりやな!」
(「早っ!!」)
 ノーとは言っていないが、イエスとも言っていない。だが飛鳥はそれを肯定と受け止め、邪気のない笑顔で大地の背中をぽんぽんと叩く。
「え、その……家まで行って迷惑じゃないッスか?」
「迷惑なわけないやん。それに、大地の弟にいろいろ食べてもらえるようになるなら俺も嬉しいし!」
(「さすが知花先輩……マジでコミュ力すげぇ……」)
 出会った時にも感じた飛鳥のコミュ力おばけぶりを目の当たりにして、大地は恐れ入る心地だった。
 飛鳥が純粋に育ち盛りの弟の栄養バランスを心配してくれたのだろうことにも感謝するし、大地もいろいろと考えるきっかけになったのだ。
「……それじゃあ、また今度よろしくお願いします」
「おう、任せてや。日はまた決めるとして、一緒に美味しいもん作って弟驚かそうな!」
 意外なところから共通点が見つかって、こうして一緒に料理をする約束まで話が進んでしまうとは。
「よし、大地。最後にアイス買うて帰るで。二人が待ってるからな!」
 毎日あの部室に通ってしまうのは、やはりこの居心地のいい空気があるからだろう。
 飛鳥の言葉に、大地はふっと口元を緩めては大きく頷いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年09月25日


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