「あーあー。マイクチェック、マイクチェック……」
マイクに向けて声を発する。ラジオブースの中から、副調整室にいるディレクターへ視線を投げた。
轟くは混ざった雑音。
駆け抜けるは透き通ったクリアボイス。
NOW ON AIR――ラジオブースのランプが赤く点灯。
今日も、私のラジオが始まる。
「☆Midnight Sun ch☆START☆」
たどたどしい発音。だけど不快感は与えずに、むしろ愛嬌にする。それがプロだから。
第一声の後、放送開始を知らせるジングルが鳴り響いた。
音量が下がるのを待って、白夜・雪乃(白を継げし者・f38722)は軽快に喋り出す。
「さぁ始まりました『☆Midnight Sun ch☆』、今週もMCの白夜・雪乃がお送りいたします。あ、そういえば昨日ですね――」
オープニングは近況を交え、のんびりと。
飛ばしてもしょうがない。まずはスロースタートでいいだろう。
「では早速、今日もこれから始めましょう! 皆様からのお便りコーナー」
ゆったりした空気のまま、番組は最初のコーナーへ。
テーブルに積まれた手紙の山から1枚を抜き取り、封筒を開く。手紙に軽く目を通し、白夜は眉をひそめた。それでも声色は変えず、内容を読み上げる。
「アポカリプスヘルからですね~、某所在住匿名希望さんから。『白夜さんこんばんは』はいこんばんはー。『僕の住む地域では物資が不足していてとても辛いです、どうにか冬を過ごせるようなアイデアはありませんでしょうか?』ほほう、なるほど」
呑気な口調で白夜は話を引き継いだ。
「たしかに寒くなってきましたね~。部屋で過ごしてると寒さを通り越して寂しくも感じるかなぁ。本当に限界ってときは人と喋って笑ったら、身体も熱を取り戻すかもしれませんよ?」
くすっと、マイクに笑いが混じる。「とは言っても」と白夜は続けた。
「そんな方法じゃ限度があるというもの。匿名希望さんには身体も心もポッカポカ、毛布30枚送っておきますね~。お便りありがとうございました~。では次の――」
――ガッ、ザザッ。
割り込むように、放送に雑音が走る。機材の問題ではないと白夜は察した。
電波ジャックだ。
「……おや? 今度はVC有りですかね?」
数秒して、男の声が流れる。電波状況は悪く、声もかなり疲弊しているようだった。
『……聞こえるか、この声が届くなら……援軍を……俺たちはもう持たない……だが、愛する家族に……』
男の声はそこで途切れた。
不測の事態にも関わらず、白夜は平静を保って口を動かす。
「ふむ、ディレクターさん? 発信源は分かりますかね?」
ディレクターが頷きを返す。この数十秒の間に逆探知を済ませたらしい。
発信場所を聞くと、白夜は目を瞬かせた。
「……あー……はいはい、わっかりました~」
少し考え、白夜は携帯電話を手に取った。
何をするか感づき、ディレクターも用意を整える。
視線を交わした後、マイクに向けて白夜が一言。
「それでは、ここで一旦CMです!」
放送がCMに切り替わる。
すかさず白夜は端末を耳に添えた。
「こんばんはー、どうもです先輩、夜遅くにすみません。どうやら先輩の近くで紛争が行われてるみたいで……」
発信場所に聞き覚えがあった。偶然にも、頼れる人が住んでいる。
「報酬は倍払うので……はい、はい……あ、いいですか! ありがとうございます。お礼は必ず!」
深々とお辞儀して、白夜は電話を切った。
合わせてくれたディレクターにサムズアップ。CM明けカウントへ。
3、2、1――放送再開。
「はーい、次のコーナー行きましょうかね。続いてのコーナーは――」
淡々と、白夜は番組を進行させる。
関係のないリスナーを不安にはさせない。それがプロだから。
「今日はここまで! また来週この時間で! ☆good-bye☆」
提供が流れ、放送が終わる。
キューが出てから、白夜はぐぐっと伸びをした。
「はぁ~……疲れた~。今日もいい仕事でした」
スタッフにお辞儀をしてスタジオを出る。
帰路についた白夜は、今日の出来事をぼんやりと思い出していた。
「先輩の援軍……間に合うといいなぁ」
ふっと息を吐いて、徐々に白くなろうとする空を白夜は見上げた。
翌日。白夜の携帯に一本の連絡が入った。
「え、お礼のお手紙がたくさん!?」
番組宛てに大量の手紙が届いたのだという。
ほっ、白夜は胸を撫で下ろす。間に合ってよかった。
「そのお手紙、私のところに届けてもらえませんか? ……はい、全部ですけど」
電話の向こうでスタッフが驚いている。かなりたくさんあるらしい。それでも構わず、白夜は明るい声を発する。
「リスナーの声はしっかり聞きたいので! ちゃんと届いたぞ、って言いたいんですよ」
今週も『☆Midnight Sun ch☆』は絶賛放送中。
声を届け、声を拾う。聞いている誰かのために、ランプは点灯する。
成功
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