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死の臥所

#ケルベロスディバイド #黄道神ゾディアック


 医療の現場として数多の命と関わったであろう建物も、その存在を忘れ去られてしまった今となっては墓標とすら呼べない只の残骸でしかない。
 すっかり煤けた白い壁は時折、涙を流すようにぽろぽろと零れ落ちて、ガラスが粉々に砕けてしまった窓から入り込む風は、虚しい嘆きと化して暗闇の中を彷徨う。
 床の抜けた待合室。寝具に赤錆色のシミが残る病室。器具が散乱した手術室。
 それらを通り抜けて階段を降ると、また一つ冷ややかな空気が死を想起させた。
 ……いや、其処に漂うのは雰囲気などという生半なものではない。
 廃病院の最深。およそ治療という言葉からは遠く思えるコンクリート剥き出しの部屋。
 頑丈な鉄扉以外には何一つ存在しない、まるで牢獄のような室内で、それは静かに、静かに、全てが自らと同じところに堕ちる日を待ち望んでいる。

●従者の語るところによれば
「山奥に打ち捨てられた廃病院を、敵性存在が基地化しているようです」
 ルーリィ・アルバローズ(従者・f35033)は語り、丁寧に地図を示しながら続ける。
「施設の方は老朽化が進んでいますが、とかく人が寄り付かないので侵略者が橋頭堡とするには都合がよいのでしょう。いずれ態勢が整えば、近隣の決戦都市に必ずや被害をもたらすものと思われます」
 ならば相手が事を起こす前に、此方から仕掛けて潰そう、という話だ。

「廃病院の周囲には、あらゆるものを拒絶する結界が張られているようです」
 単純な実力行使での突破も不可能ではないと見られるが、これは場所柄か“死”を根源としたものであるらしく、何らかの強烈な“生”で対抗するのが最善だと思われる。
「御主人様自身でも、何かしらの物品でも、或いは生命を礼賛する叫びなどでもよいでしょう。漲る生を何らかの形でぶつければ、必ずや打ち破れるはずです」
 結界を突破した後は、頭目たる敵が待つであろう病院の地下へと降りていく事になるが……その道中では、空を魚のように泳ぐ頭骨の群れが襲い来る。
「此方は生命の存在を感知する能力を備えているようです。……ええ、結界を破るような者がいれば必ず反応して牙を剥く、という訳ですね」
 よく出来た警備機構セキュリティだ――と、冷笑気味に述べたルーリィの表情が俄に引き締まる。
御主人様ケルベロスであれば骨如きに遅れを取るはずもないでしょうが……事の元凶である最深部の敵は、十二分に警戒していただきたく存じます」
 予知によれば、それは“死”そのものであるかのような存在らしい。
「恐らくは“病魔”と呼ばれる存在の一種なのでしょうが、それ以外の情報は殆ど掴めず……しかし、ユーベルコードによって撃破する事が可能なのは確かです」
 ルーリィは激励するように訴えて、ケルベロスディバイドへの道を開く。
 それから恭しく頭を下げて言った。

「――では、いってらしゃいませ」


天枷由良
 あまかせです。よろしくお願いします。

●1章:冒険『防御魔術を破れ』
 廃病院を覆う結界を突破します。

●2章:集団戦『竜牙魚兵』
 廃病院内の至る所に漂う竜牙魚兵を退けつつ、最深部を目指します。
 生命感知能力に長ける敵が腐肉に群がる蝿のように襲ってくるでしょう。

●3章:ボス戦『???』
 詳細不明です。

決戦配備ポジションについて
 必ず使う必要はありませんが、決戦都市から離れた屋内での戦闘、という点を考慮した要請であればプレイングにボーナスが得られます。
 詳しくはケルベロスディバイドの世界説明を参照してください。
(https://tw6.jp/html/world/441_world25.htm)

 プレイングの受付状況などはタグまたはマスターページでご確認ください。
 ご参加お待ちしております。
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第1章 冒険 『防御魔術を破れ』

POW   :    魔術を維持する魔法陣や魔導設備を破壊する

SPD   :    僅かな隙を見つけ出し、突破口を作る

WIZ   :    敵の魔術に魔力で干渉を仕掛ける

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 夜。月と星が静かな光を注ぐ中、山の奥深くを征く。
 聞こえてくるのは、湿り気を帯びた土や枯れ葉を自らが踏みしめる微かな音だけ。
 動物はおろか、虫の一匹すらも見当たらない。
 その事に気付くと、途端に背筋を冷たいものが走った。
 それでも、猟兵ケルベロスなら此処で踵を返す訳にはいかない。
 先へ、先へ……そうして進むこと暫く、薄ぼんやりと建物の輪郭らしきものが見えてきた頃、猟兵たちは何か強烈な違和感に歩みを止めた。
 恐る恐る眼前に手を差し出してみると、それは雷でも受けたかのように凄まじい衝撃で跳ね返される。
 どうやら、件の“結界”に接触したようだが――しかし、周囲に怪しげなものは見受けられない。この結界は機械的な装置や、魔術的な置物などで生成されている訳ではないらしい。
 だが、此処から先へと進むには、何らかの手段で突破しなければならない。
 その最たる手段は、やはり予知された通り、生命の力を叩きつける事だろう。

(POW/SPD/WIZの行動は参考程度として、それに縛られず自由に挑戦してください)
シルヴィ・フォーアンサー
……漲る生って何?どうすれば良いの?
『うむ……君がいつもいってる事を叩きつければ良いんじゃないか』
ふーん……ヨルがいうならやってみる。

痛いの嫌い、怖いの嫌い、皆消しちゃえっ。
(物騒極まりないですが情操教育何それ美味しいのな環境で育った子の行動指針なので、保護者代わりがまともに育ててないせいでもある)

コードでミドガルズと武装を纏った姿に変身して結界めがけてガトリング砲とミサイルとハイペリオンランチャーを一斉発射するね。

結界が壊れたら『片付ける怖いものが飛んでくるから準備したまえ』ってなる。



 月明かりの下、立ち尽くす少女が一人。
 金の髪に赤い瞳、白い肌。何処か頼りなげな気配。そんな少女は微かに震える指先で眼前を突いて、静電気が爆ぜたような小さい衝撃に目を潤ませた。
『それはまあ、そうなるだろう』
 止める間もなかった愚行にサポートAIの“ヨルムンガンド”が呟けば、件の少女であるシルヴィ・フォーアンサー(自由を求めた脱走者・f41427)は、ふるふると首を振って嘆く。
「……漲る生って何? どうすれば良いの?」
『うむ……』
 自然の生命倫理から逸脱したところで生まれ、情操教育などとは縁遠い環境で育まれたシルヴィが抱く疑問は尤もだったが、改めて聞くと些か哲学的な問いだ。然しものAIだって唸り声の一つくらいは漏らす。
『……君がいつもいってる事を叩きつければ良いんじゃないか』
「ふーん……」
 答える方も何とか絞り出したという感じであれば、訪ねた方も完全に理解できたという雰囲気ではない。
 それでもシルヴィにとって、サポートAIの助言は唯一無二の拠り所。
「ヨルがいうならやってみる」
 呟き、呼吸を整え、目の前を見据えて思い起こすのは――拒絶。
 今しがた受けた小さな衝撃を種として、芽生えたそれは瞬く間に肥大化していく。
(「痛いの嫌い、怖いの嫌い、皆消しちゃえっ」)
 刹那、シルヴィはクロムキャバリア《ミドガルズ》を纏い、それが備える銃砲の全てを先の空間へと差し向けた。
 両肩部ミサイルポッド、大型ガトリング砲2門、超巨大荷電粒子ビーム砲“ハイペリオンランチャー”2門――凄まじい勢いで放たれるそれらの一つ一つに込められた苦痛や恐怖への拒絶、自らを脅かす全てに対する排斥の意志は、翻せば生への執着と等しい。
 夜闇に沈んでいた山林を爆炎や閃光が煌々と照らして、耳を劈くような轟音が鳴り響く。
 そうして再び静寂が戻ってきた時、ヨルムンガンドは行く手を阻む壁の消滅を感知した。
『壊せたみたいだな』
「……うん」
『じゃあ怖い連中ものにも感づかれただろう。飛んでくる前に準備したまえ』
「うん……え?」
 何だそれは、と首を傾げるようなシルヴィにサポートAIは事前の説明を追想させる。
 即ち、結界を突破した後は(中略)空を魚のように泳ぐ頭骨の群れが襲い来る。

 山中には再び、シルヴィの拒絶の声が木霊した。

成功 🔵​🔵​🔴​

木霊・ウタ
心情
決戦都市を
そこに住む命を守る

デウスエクスを倒すぜ

決戦配備
キャスター
廃病院近くにライブステージを建ててもらう
時間とか資材とかで無理っぽいならなしで

行動
ステージに立って
掌に炎を出して
その炎が呼ぶ風からワイルドウィンドを具現化

生の叫びってんなら歌と曲が一番だぜ
ギターをかき鳴らして歌う

🎵
血潮が沸る 心が燃える
炎の中 夢を見る
闘いの中 輝き続ける
燃え尽きる その日まで

紅蓮の情熱 胸に燃えて
夢へ駆ける 真っ直ぐに
友と共に 笑い泣いて
ただ今この時に いのち輝く
🎵

永遠不滅とやらのデウスエクスには
到底理解出来ない歌かもな

歌曲と共に迸った生命エネルギーが
炎となって結界を燃やし灰に

よしっ
じゃあ行くか



 資材を満載した数台の建機が山道を上がっていく。
 決戦配備ポジション『キャスター』の要請を受けて、近隣の決戦都市から派遣された支援部隊だ。
 異常な程に急速発達した戦闘技術などの流用だろうか、殆どが無人の機械で構成されているそれは目標地点にまで無事到達すると、大急ぎで作業に移った。
 程なく出来上がったのは、パイプと板を組み合わせただけの舞台。
 簡素な作りだが、しかし侮るなかれ、照明や音響設備もきっちりと備えている。
 それらの配線などはさすがに手作業なのか、数人の人影が機敏に動いている様が窺えた。

 そうして作り上げられた一夜城に、感謝の意を込めながら一歩ずつ上がって。
 掌に炎を起こせば、吹き荒ぶ瓢風は六弦を形作る。
 準備万端。朧に霞む敵の拠点を見据えながら、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は一つ深い呼吸をした後に弦を弾く。
 即席のライブステージを鮮やかなライトが煌々と照らして、確りと組み上げられた幾つものスピーカーから鳴り響く爆音に負けじとインカムに声を放てば、熱く猛るように紡がれるのは生命の賛歌。

 血潮が沸る 心が燃える
 炎の中 夢を見る
 闘いの中 輝き続ける
 燃え尽きる その日まで

 紅蓮の情熱 胸に燃えて
 夢へ駆ける 真っ直ぐに
 友と共に 笑い泣いて
 ただ今この時に いのち輝く

「――いのち輝く!!」
 永遠不滅の神々の如きデウスエクスには、恐らく理解できないであろう、魂の叫び。
 夜風すらも熱狂させるほどに吼えて、それでも出し足りない激情を“ワイルドウィンド”で掻き鳴らすと、行く手を阻む不可視の障壁は端の方から轟々と燃え上がり、瞬く間に灰と化していく。
 それを確かめながら、ウタは尚も溢れる生命エネルギー、高ぶる想いを彼方の邪悪へと訴えかけるように、たっぷりと余韻を響かせた。

 やがて、再びの静寂が満ちてきた頃。
 額の汗を拭ったウタは舞台を降りて、傍らに控えていた支援部隊へと手を振った。
 彼らの帰るべき場所と、其処に住まう数多の生命を守るには、先で待つ敵を倒さなければならない。
「よしっ、じゃあ行くか」
 決意を改めるように拳を握り締め、ウタは歩を進める。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アーデルハイド・ルナアーラ
エメちゃんと
【pow】
魔術による結界か。魔女である私の出番ね。知恵比べなら負けないわよ!
というわけでまずは廃病院周辺のロケーションをチェック。電話ボックスと電信柱が使えそうね。
というわけで【物質強化】発動。そのへんにある手頃なものを掴んで投げつけ、廃病院を砲撃するわ! これが魔術師の基本魔術・ウィザード・ミサイルよ!
(ポンポンと手当たり次第に色んなものを投げているうちに、いつの間にか隣にいたエメを投げ飛ばしてしまったことに気づく)
あー! しまったぁあああ! エメちゃんまで投げちゃったー!


エメ・パラディール
【アーデルハイド・ルナアーラさんと参加】

なんだかこわーい感じがする場所だ。でも私たち二人の道を阻めるものなどありはしないぞ!

エーデルさんのクールな作戦に乗っかって、投げれそうなものをエーデルさんのもとに運んでいくぞ!
いけいけー!

順調にバンバン投げ込んでいたけど急にエーデルさんになんだか掴まれた?
そしてそのまま投げられた?

はっ!このままだと結界に正面衝突してしまう!
でもこれは逆にチャンス!
投げられた勢いそのままで結界に突撃して、私自らの生命力で結界を突破する!

「無敵城塞、体当たり!」



「なんだかこわーい感じがする場所だな」
 頻りに周囲を見回しながら言ったエメ・パラディール(キマイラのパラディン・f06803)だが、その声色にも表情にも恐怖は滲んでいない。
 元より快活で自信に溢れた顔を見せている事が多い性分のようだが、今はアーデルハイド・ルナアーラ(獣の魔女・f12623)が居ることも、少なからず影響しているのだろう。
「結界か……」
 アーデルハイドは興味と警戒を綯い交ぜにしながら手を伸ばす。
 それは宙空で突如として壁にぶち当たり、電撃が迸るような凄まじい拒絶反応で跳ね返される。
 思わずエメも目を丸くしたが、獣の魔女たるアーデルハイドはまるで何事もなかったと言わんばかりに、弾かれた腕をひらひらと振ってから不敵に笑う。
「ここは魔女である私の出番ね。知恵比べなら負けないわよ!」
「おおー!」
 さすがはエーデルさん、と感嘆に湧くエメにアーデルハイドは胸を張った。ふふん。
 それから徐に道端へと歩み寄ると……そこにひっそりと佇んでいた古の遺物、電話ボックスを片手で持ち上げる・・・・・・・・
「あ、これも使えそうね」
 ついでにと、反対の手で電信柱も引っこ抜く。もはや繋がれる線も繋ぐべき相手も失って、只の置物と化していたそれらを何に使うのか――とは、きっとこの場面を見せられた十人が十人とも想像して、いやいやまさかと否定するだろう。何故なら彼女は“知恵比べ”と言っていたはずなのだから。
 けれども、しかし。

「――いっけぇー!!!」

 夜の山林に響き渡る絶叫。
 僅か一歩ばかり踏み出したアーデルハイドは、自身の腕力と同じく“物質強化”を施した電話ボックスを力の限りに投擲する。
 続けて電信柱に、ガードレール、洗濯機、冷蔵庫、大型テレビ、古タイヤ……。
「いけいけー!」
 ボールを拾ってくる犬か、或いは仕留めた獲物を誇る猫か。
 ともかくそのような雰囲気で、エメは其処彼処から拾ってきた“弾”をアーデルハイドへと供給する。それらの殆どは紛うことなき不法投棄の産物だったが、何処ぞの不埒な輩によって哀れな最期を迎えていた品々に、もう一花咲かせる機会が巡ってきたのだと考えれば悪いことではあるまい。
「それそれー! ほれほれー!」
「うりゃあー!! おりゃあー!!」
 どうやら彼女たちにとって、知恵とは力で捻り出すものらしい。
 ともかくアーデルハイドは興奮気味に何某かを投げ続け、エメは弾となるものを掻き集め、二人の共同作業の成果は死の結界に悉く阻まれて砂のように崩れ去る。
 夜の山中を舞台にした根比べちえくらべはいつ終わるとも知れぬまま続いて――。
 エメの襟元に伸びた手が“それ”をむんずと掴んだ。
「やれやれー! い――お、あっ?」
「いっけぇえええええええってえええええええええ!?」
 気合の絶叫が失態の悲鳴に変わる。
「しまったぁあああ! エメちゃんまで投げちゃったー!!」
 だが、今更どうにもならない。アーデルハイドの見やる先で、きょとんとした顔のエメが人間砲弾もといキマイラ砲弾として飛んでいく。
 そのまま行けば結界に弾かれるのは必至。
 ただそれだけで済めばよいが、何せ待ち受けるそれは“死”が形作ったもの。如何に生命体の埒外にある猟兵といえど、まともにぶつかればエメの身も危ういかもしれない。
「エメちゃぁぁぁん!!」
 すっかり涙声になってしまったアーデルハイドの叫び。
 それを受けて、エメも「はっ!」と気付く。
(「このままだと結界に正面衝突してしまう!」)
 ようやく現状に理解が追いついてきたようだ。
 そして理解が及ぶと、エメはこれを好機と捉えた。
 そうだ。数多の物品が弾になれて、己がなれない理由がない。無念に散った無機物たちよりも遥かに生命力に満ち溢れた己自身を砲弾として、結界を打ち破るのだ――!
「無敵城塞、体当たり!」
 自由を失う代わりに万難から身を守るユーベルコードの発動。
 咄嗟の判断を下した直後、結界と衝突したエメの身体には凄まじい衝撃が走り、稲光の如き閃光が炸裂して視界を奪う。
 轟音は叫声すらも掻き消して――その中にガラスの割れるような微かな音が混じった後、再び闇と静寂が舞い戻ってきた。
「エメちゃん!?」
 残響を振り払うようにアーデルハイドが駆け寄れば、エメは誰かの真似をするように腕をひらひらと振ってから笑い、そのまま立ち上がって彼方を指し示す。
 それを目で追ってから、アーデルハイドも「あっ」と小さな声を漏らした。
 先程まで自身が立っていた場所。そして今の自分とエメが居る場所。
 間を隔てるべきものに阻まれた感触がない。つまり、結界を破壊したのだ。
「やったわね、エメちゃん!」
「エーデルさんのクールな作戦のおかげだな!」
「ぐっ……」
 悪意のない敬慕に胸が痛む。
 せめてもの罪滅ぼしにと服についた土やら枯れ葉やらを払ってやると、エメは自由を取り戻した両腕を突き上げて、満面の笑みで言った。
「私たち二人の道を阻めるものなどありはしないぞ!」
 その力強い言葉を、アーデルハイドは苦笑と自戒で受け止めながら頷くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルドラ・カリオストロ
“死”を力の根源とする結界ね

面白いわ
まさか私の得意とする死の魔術と、同じ力で、この私の歩みを阻もうだなんてね

永遠にも等しい生命を持つ私自身の“生”の力で結界に対抗しても良いのだけれども
折角ですし、私も“死”の力をもって結界に対抗してみましょうか

“死”を力の根源とするもの同士の衝突
それにより導きだされる解は、至極単純なものよ

つまり、より強いものが勝利するの
そして、私は、自分の力に絶対の自信をもっているわ

臆することも、隠れることもなく、堂々と、正面から結界に立ち向かいましょう



 内なる確信に微笑を浮かべて、アルドラ・カリオストロ(死棘の薔薇・f41057)は行く手を阻む結界へと近づいていく。
 その足取りは臆することなく堂々と。その眼差しは妖しくも力強く。
 およそ“死”に対する恐怖など感じられないのは、彼女こそがそれを支配すべき夜の女王であるからか。
「まさか、この私の歩みを“死”で阻もうだなんて、ね」
 気品に溢れた笑みを嘲りが歪めていく。
 既に物語の結末は決まっているのだ。彼女が僅か思索に耽ったのは、どのようにして終幕へと向かうか。ただそれだけ。
(「永遠にも等しい生命を持つ私自身の“生”の力で対抗しても良いのだけれども……」)
 時には相手の舞台に上がってやるのも一興か。
 そう思えば決断は早く、赤い瞳で眼前を見つめたアルドラが響かせるのは“生命の終楽章”――即ち“死”である。
 障壁となる“死”に同じ力を根源とするものを衝突させるのだ。
(「それにより導きだされる解は、至極単純なものよ」)
 拒絶と拒絶。終焉と終焉。それらがぶつかりあった果てにあるのは、どちらか一方の消滅――即ち“死”である。
 そして、己が力に絶対の自信を持つアルドラは、自身の繰り出す“死”が“死”を殺すという結末に、一片の疑いも抱いていない。
 傲岸不遜とさえ言えるその姿勢は、しかしすぐさま誤りでないと示される。
 アルドラの“死”の魔術に触れた結界は、瞬く間に“死”を迎えた。音もなく、まるで最初から其処には何もなかったかのように消え去ってしまった。
「この程度で“死”を冠するなんて、自惚れすぎね」
 金の髪を軽くかき上げながら言って、アルドラは歩みを進める。
 その立ち居振る舞いには、木々でさえ思うだろう。
 を統べるに相応しいのは、気高き吸血姫ヴァンパイアであるのだと。

成功 🔵​🔵​🔴​

レナータ・バルダーヌ
病魔……この世界の敵はオブリビオンさんではないんでしたね。
いずれにせよ、平和を脅かす者が相手なら同じです。

跳ね返されるということは、生命の力といっても単純に生きているというだけではダメなようですね。
しかし、これといって突破できそうな手段も思いつきません。
念動力や地獄の炎をぶつけて結界の様態を確認しつつ、破壊できないか試みてみます。
それでも無理な場合、他に使えそうなモノは……。
こういうことに使うのは不本意ですけど、残るはこのゴボウだけです。
一か八か、やるしかありません……えいっ。

使い終わったゴボウは、まだ食べられそうなら美味しくいただきます。
食べられそうにない場合は、帰ってから供養しましょう。



 そっと指先で突いた空間は、レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)に拒絶を示す。
「跳ね返されるということは、生命の力といっても単純に生きているというだけではダメなようですね」
 やはり先へと進むには何某かの方策を考えなければならない――が、しかし。
「これという手段は……思いつかないんですよね」
 生命の力。実にそれらしい言葉だが、改めて問われると抽象的すぎる。
 現在いまを生きている者以上に相応しい何かがあるのだろうか。
 そもそも“死の結界”とやらを実力で破るのはそこまで困難な話なのだろうか。
 レナータはうんうんと唸りながら、まずは念動力をぶつけてみる。これは成果なし。
 では、ブレイズキャリバーの証たる地獄の炎で焼き払うのはどうか。これも成果なし。
 ぐにゃりと捻れたり、炎に煽られた空間で僅かに結界を視認する事は出来たが……。
「うーん……?」
 参った。手詰まりかもしれない。
 顎に手を添え、視線を落とし、そのまま暫く思案に耽るレナータ。
 木々を凪いだ夜の風が身体を撫でていく。立ち止まってしまったからか、少々肌寒い。
「……他に使えそうなモノは……」
 兎にも角にも頭と身体を動かすべしと、自らを検めて思い至るのは一つ。
 それを、それを死の結界などという相手に向けるのは極めて不本意だが――。
「わたしに残されているのは、もうあなただけなんです」
 レナータは矢庭に取り出した“ゴボウ”へと語り掛ける
 自家製のそれは流通経路に乗せるのを些か躊躇う形。所謂“ふぞろい”だの“わけあり”だのと呼ばれてしまうもの。
 それでも丹精込めて育てたゴボウには変わりない。
「あなたの先端がちょーっと曲がりすぎてるからとか、決してそういう訳ではないんです」
 これからしようとしている事への後ろめたさが拭えないのか、レナータは宥めるように声掛けたゴボウを一度撫で、確りと両手で握り締める。
 それから刀剣の構えというよりか、鈍器を携える荒くれ者の如き姿勢でじりじりと結界に近づき――。
「……えいっ」
 勢いよく振り下ろしたゴボウの先端が宙空で引っ掛かる。
 そのまま思い切り引っ張ると、窓掛けがビリビリと破れていくかのような手応えがあった。
 どうやら結界を破れたらしい。一か八かであったが――きっと健康に良いとされるゴボウがそれとなく死を遠ざけたに違いない。すごいぜ、ゴボウ!
「さすがはゴボウ……あっ……」
 褒め称えようと思ったのも束の間。
 レナータの持っているそれはびっくりするほど萎びていた。
 死んでしまったのだろうか。……いや、しなしなのゴボウも水に暫くつけておくと幾らか生気を取り戻すと聞く。頂くか供養するかは、その後で決めても遅くあるまい。
「ちょっとだけ辛抱してくださいね」
 今は齧っても美味しくはなさそうなそれに感謝を捧げてから、レナータは懐へと収めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

オリヴィア・ローゼンタール
廃病院……
命を救うための場所を、命を奪う場所にしているとは
看過できませんね

身に纏うのはピンクのナース服
この場において、これと白衣に勝る相応しい衣装はないでしょう
メディックの決戦配備で要請した医薬品を簡易救急セットに詰め込む

手を伸ばし、衝撃に跳ね返されても踏みとどまる
自身の手に【医術】と【癒天使の治療】による回復を施しながら、さらに手を伸ばす
衝撃を捻じ伏せるは、生きることを諦めない強い意志――すなわち【気合い】と【根性】
そして理不尽な死を齎す者への赫怒の念
一歩、また一歩と地を踏み締めて、結界を引き千切る
道をぉおおお! 開けろぉおおおおおおッ!!



 力強い足取りで進み、確たる決意を宿した金瞳で彼方を見やる。
(「命を救うために在った場所を、命を奪う場所にしているとは……」)
 見過ごせない。看過できない。許してはおけない。
 奮い立つオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は、死の結界へと辿り着く。
 その姿は、一見して山道を行くには似つかわしくないピンクのナース服。
 キャップには赤いハートをあしらっている一方、白に近い淡桃のストッキングとガーターの間に覗く肌色は、些か扇情的でありながらも満ち溢れる“生”を感じさせた。
(「この場において、これと白衣に勝る相応しい衣装はないでしょう」)
 オリヴィアはそう断じて憚らない。
 その姿が今日の己に全力を発揮させるから、というだけでなく。
 彼女の目は既に先を見据えているのだ。確かに、其処が廃れて久しい病院といえども、居るべきは邪悪な敵などでなく、医師と看護師に違いない。
 そして“救護”に向かう己を阻むものがあるなら、それは悉く打ち砕かれなければならない。
 オリヴィアは白に十字がデザインされたショルダーバッグを開く。
 中に収められているのは、近隣の決戦都市に要請した決戦配備ポジション『メディック』で用意された医薬品の数々。
 ケルベロスディバイドの人々の惜しみない協力の証と呼べるそれらから、幾つかを選んで包帯と共に取り出す。
 準備は出来た。覚悟は――疾うに出来ている。

「――――ッ!!」
 殴りかかるように結界へと伸ばした手を焼けるような痛みが襲う。
 否、本当に“焼けている”と言って過言ではなかった。凄まじい拒絶反応に抗って突き出し続けるオリヴィアの腕は、指先から明らかに“死”へと近づきつつあった――が、しかし。
(「天来せよ、癒しを司る大天使。我が手に汝の権能を宿し賜え――ッ!」)
 歯を食いしばって祈り、結界に差し出した方と逆の腕で治療を施す。
 片手で行われていると思えないほど器用なそれは、常軌を逸した速度で傷を癒やしてオリヴィアを踏み止まらせる。
 先に待ち受ける敵、理不尽な死を齎す者に赫怒の念を叩きつけてやろうとするなら、たかが結界如きに敗北する訳にはいかない。
 オリヴィアは目を見開き、さらに腕を押し込む。
 刹那、耳元に嫌な音が響いた。肩の辺りからだ。折れた、いや外れたか。
 どちらでもいい。所詮、その程度だ・・・・・
 包帯の端を噛んだまま手早く巻き、腕を真白の槍の如く固定して、尚も地を踏みしめる。
 そして死を捻じ伏せるのだ。強靭な生への意志――即ち、気合いと根性で。

「道をぉおおお! 開けろぉおおおおおおッ!!」

 絶叫と共にもう一歩踏み出せば、指先が臓腑の奥にずるりと滑り込むような感覚があった。
 瞬間、オリヴィアはそれを掴んで引き千切るように身体を捻る。
 そのまま地面へと倒れ込んでいく最中、手には確かな感触が返り、視界には透明な幕のようなものが崩れていく様が映った。
 結界を破ったのだ。すぐさま立ち上がったオリヴィアには甚大な疲労感が襲いかかるが、両眼はそんな事を感じさえないほどに爛々と、獲物を見定めた獣の如く輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『竜牙魚兵』

POW   :    死を齎す牙
【噛みつき】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【生命反応】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD   :    死を齎す火
【口】から、物質を透過し敵に【ダメージ回復不能】の状態異常を与える【青い火の玉】を放つ。
WIZ   :    死を齎す骸
【身体をすり抜ける青い炎をまとった髑髏】が命中した敵を一定確率で即死させる。即死率は、負傷や射程等で自身が不利な状況にある程上昇する。
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 死の結界を突破した猟兵たちは廃病院へと突入した。
 崩れかけの正面玄関を慎重に通り抜けると、暗がりから幽燭の如く青い光が湧き出る。
 それこそが生者を求めて漂うデウスエクス、竜牙魚兵。
 水を得た魚のように宙空を縦横無尽に泳ぎ回るそれらを退け、先へと進むのだ。
 瓦礫を越え、階段を下り、向かうべきは廃病院の最下最奥――。

(前章で使用したか否かに関わらず、決戦配備ポジションは使用可能です)
シルヴィ・フォーアンサー
決戦配備のスナイパーを要請:長距離ミサイルの着弾に合わせて自分の攻撃で吹っ飛ばします

怖い気持ち悪いっ、皆消えちゃえっ。

竜牙魚兵が群れで向かってくるのに見た目と纏う死の雰囲気に嫌悪感から決戦配備を要請して合わせてシルエット・ミラージュからのギガント・プレッシャーで目の前の群れを壊滅させる。
識別する必要ないので巨大化した武装の一斉発射で三回攻撃するよ。

目の前が綺麗に何もいなくなったら増援が来るまえに廃病院に向かってスラスター吹かして突入するね。

『君、ムシュフシュは平気だったのにアレは駄目なのか』
……アレはまだ人の形してたし。

とか呟きながら。



 暗がりから湧き出た青い炎が一斉に火球を撃ち放った瞬間。
 シルヴィは《ミドガルズ》の背面に取り付けられたスラスターを吹かして後退した・・・・
 サポートAIのヨルこと“ヨルムンガンド”は――何を言う訳でもなく沈黙を保つ。そして目の前の敵に意識を注ぐシルヴィも助言を請うことなく、機体を左右に振りながら自らの感情だけを吐露し続ける。
「怖いの嫌い、気持ち悪いの嫌い……っ」
 夜の山間に取り残された廃病院。その中から次々に飛んでくる幽燭の如き髑髏しゃれこうべ
 シルヴィでなくとも、恐ろしく逃げ出したい場面であることは確か。
 それを理解しているから、ヨルは咎めようともしないのか?
 ……否、そうではない。
 後進する《ミドガルズ》を追って飛び出してくる竜牙魚兵の群れ。
 其処に落ちてくる数多の流星――もとい、決戦都市から放たれた長距離ミサイル。
 決戦配備ポジション『スナイパー』の要請による援護射撃だ。
 廃病院への突入に合わせて送信された座標をもとに降り注ぐ破壊の火矢は、大地を抉りながら次々と爆ぜて炎の海を作り出す。
 その内に封じ込められた数多の髑髏たちは喘ぐように口を開き、死を齎す火を浴びせるべき相手の姿を探し求めて――刹那、陽炎揺らめく中に幾つもの《ミドガルズ》を視た。

「焼けちゃえ、潰れちゃえ、粉々になって皆消えちゃえっ」

 四方から重なり響く声に続いて放たれる、巨大化した火砲からの一斉射。
 精密さをかなぐり捨てた暴力の嵐は、しかし己以外の全てが敵である戦場に在って最大限の効果を発揮する。
 交錯する射線は羽虫一匹逃す隙間すら与えず、元より炎に囚われていた竜牙魚兵たちは為す術もないまま粉砕されていった。
 やがて大型ガトリング砲2門の回転音も収まると、シルヴィは炎だけが僅かに残る戦場を眺めて胸を撫で下ろす。
『君、ムシュフシュは平気だったのにアレは駄目なのか』
 事態の収束を検知したヨルムンガンドがおもむろに口を開いた。
 先頃、過去と化した“11の怪物”の1柱。それも確かに骸骨の姿の化物であったが。
「……アレはまだ人の形してたし」
『今のも人の頭だったじゃないか』
「違うのっ」
 幼子が愚図るかのように言い捨てたきり、口を噤むシルヴィ。
 そのまま《ミドガルズ》が廃病院に向かってスラスターを吹かす中、ヨルムンガンドは『そんなに違うものかね』と呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルドラ・カリオストロ
今度の相手は雑兵の群れね
先程の結界といい、どうやら、ここの主人は、私のことを侮っている様子だわ

死をもたらす青い炎を纏った髑髏……火炎にも、呪詛にも、耐性を有する私には通用しないわね
まして死をもたらす力など、私がもっとも得意とする術なのだから

すべてを受け止めて実力の違いを教えて差し上げてもいいのだけれども、お気に入りのドレスを汚されてしまうのは嫌だわ

私が直接、手を下すほどの相手でもないし、貴方たちの相手は、地獄の責め苦に喘ぐ死霊たちにさせましょう

地獄の門を開き、罪人たちの魂を現世に解き放つわ
死霊の群れに飲み込まれなさい



「随分と侮られたものね」
 取り巻く髑髏――竜牙魚兵を一瞥して、アルドラは溜息交じりに呟く。
 それらが齎すという死。纏う鬼火の如き青炎。戦場そのものに揺蕩う怨嗟の気配。
 どれもこれもが貴き吸血鬼を脅かすには程遠い。
「私には火炎も呪詛も通用しないわよ。まして“死”の力だなんて――」
 己が最も得意とする術なのだから、と態々声に出して告げたのは、すっかり退屈を感じてしまっていたからだろう。もはやアルドラの思考は雑兵の群れが何を為出かすかより、彼らによってお気に入りの黒いドレスが汚されないかどうかを案じている。
 そんな余裕が伝播したか、漂う髑髏たちは身を包む炎を強めた。
 彼らなりの威嚇か。けれど、その三下じみた振る舞いは益々アルドラを白けさせる。
 雑魚共に実力の違いというものを教えてやるべきだろうか。
「……いいえ、私が相手をするまでもないわね。貴方たちは“彼ら”と遊んでなさいな」
 言うが早いか、廃病院の奥へと歩み出したアルドラのヒールが床を叩く。
 瞬間、暗がりから現れたのは竜牙魚兵と異なる死霊の群れ。
 苦痛に喘ぐような呻きを伴って次々に湧き出るそれは、まるで助けを乞う貧者の如く、或いは掠奪を働く暴徒の如く、夥しい数で以て宙空の髑髏へと殺到していく。
 大した表情を作れない竜牙魚兵たちも面食らったに違いない。また一際強くなった青炎と共に死霊へと体当たりを仕掛けるが――地獄の門の向こうから喚び出された者たちを再び彼方へとおくり返すのは、生者を殺すよりも遥かに難しい。
 対処に苦慮する竜牙魚兵たちは、程なく死霊の群れに飲み込まれていく。そうして骨と死霊が方々で奏でる音に耳を傾けながら、アルドラは廃病院を悠々と進み始める。
 彼女の歩みを止められるものはない。
 ドレスには血の一滴、砂礫の一粒すらも降りかからない。
 赤い絨毯の上を優雅に過ぎゆくように、残骸だらけの部屋を幾つも渡り、血痕の残る階段を下り、一挙に冷たさを増した空気の中に交じる殊更強い“死”の気配を追っていけば――やがて辿り着いた其処には、錆びた鉄の扉があった。
 アルドラを軽んじた死の臥所の主は、その先に居るはずだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナータ・バルダーヌ
わたしを食べても美味しくありませんよ!
結界も自分の力だけでは突破できませんでしたし。
……ということは、敵の狙いは懐のゴボウという可能性も?
このゴボウは最後までわたしが責任を持つんです。
あなた方には差し上げられません!

数も多いみたいですし、いちいち相手にするのは得策ではなさそうですね。
両翼の痕からロケットのように炎を噴出し、【C:J.ディストラクション】で突破します。
構造をよく知らない建物内なので本来の速度は出せないでしょうけど、接近する敵は歪曲力場で破砕するのでそれほど問題にはならないはずです。
力場に耐えて敵の牙が届くようなことがあったとしても、多少の負傷には耐える覚悟も出来ています。



「わたしを食べても美味しくありませんよ!」
 叫ぶレナータの耳元を髑髏が泳いで過ぎる。
 間一髪、紙一重だ。カチカチと歯の打ち当たる音が、これ以上なく間近で聞こえた。
 それから遠ざかるべく、前進と回避を兼ねて廃病院の奥へと駆けていく。
 打ち捨てられてからどれほど経っているのだろうか。とにかく廃墟と呼ばれるに相応しい崩壊具合で、部屋の入口だと思って飛び込んだところは病室の壁に空いた穴だったらしいが――今は通れるなら何でも構わない。
 さらに進むべき道を探して、レナータは顔を左右に振る。
 ……ふと、主を失って久しい大きなクマのぬいぐるみが目に入った。
 これも形を留めているのが不思議なくらいにボロボロだ。身体に巻かれていたであろう包帯はすっかり緩みきっていて、其処にあるべきはずの生地と綿は食い千切られたように欠けていた。
 執拗に追いかけてくる『竜牙魚兵』に噛みつかれたら、自らもあのクマと同じようになってしまうだろうか――と、考えているうちにそれは来る。
「もうっ! 美味しくありませんってば!」
 自分がそこまで生気に溢れているとも思えないのだが。
 結界だって自力ではどうにもならず、ゴボウに頼って突破したくらいなのに――。

「……はっ!」
 もしや、敵の狙いは懐に収めたゴボウなのだろうか?
 死の結界すらも破る、食物繊維たっぷりのゴボウ。
 それを齧って毟って腹に収めようと、そういうつもりなのか?
「あなた方には差し上げられません!」
 揺り籠から墓場までが製造者責任。懐の萎びたそれを今ここで失う訳にはいかない。
 とはいえ、其処彼処から湧き出る敵の全てを相手取るのも現実的ではない。
 況してや真なる目標は廃病院最奥。竜牙魚兵の群れは、突破できればそれで良いのだ。
 ならば行使すべき力は――噴射、突撃。
「粉々になりたくなかったら近寄らないでくださいね!」
 言うが早いか、レナータの両翼の痕から地獄の炎が噴き上がる。
 そのまま滑るように翔けていけば、喰らいつこうとする竜牙魚兵は悉く念動力場によって歪み、砕け散った。
 言わんこっちゃない、とは言わない。それよりも考えるべきは自らの進路。
 内部構造の詳細が不明な廃病院をフルパワーで突き進んでは、遠からず壁を突き破って明後日の方向にバイバイだ。
 敵を振り切るには足らない事を承知で、速度を抑えて慎重に。
 そして向かうべきは最下階なのだから、何処か降りられそうな階段を――。
「……っ!」
 見つけた、と思った瞬間に走る激痛。
 ふと目をやれば横腹に噛み付く髑髏が一つと、そのお仲間の名残らしき骨片が幾つか。
 数に物を言わせて力場を押し通った、というところか。骨だけの割に中々の根性を見せてくれるものだが、しかし。
 覚悟なら此方とて負けていない。幾らか齧られた程度で止まるものかと勇めば、より強さを増した念動力場が傍らに残る竜牙魚兵のみならず、周囲一帯の敵を纏めて擦り潰す。
「だから言ったでしょう、近寄らないでくださいって」
 今度は口を衝いて出た。行くべき道が定まったからだ。
 レナータは地獄の炎を揺らめかせながら、階段を下りていく。
 懐のゴボウは――大丈夫だ。そこまでは齧られていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
宙を舞う髑髏、分かり易いほどの死の兆しですね

メディックの決戦配備で補充していた医薬品を使って手を治療(薬品調合・医術)
水を得た魚……廃棄されたとはいえ、病院での地の利はナース服の自身にこそあり
放置されているストレッチャーに駆け寄り(ダッシュ)、飛び乗って廊下を突っ切る(地形の利用・軽業)
ストレッチャーを破壊されたら【ジャンプ】で高く跳び上がり、【天崩脚】で頭蓋骨を叩き割る
【怪力】を以って顎を引き剥がし、撓る背骨を鞭のように振り回して別の敵を打ち据える(功夫)
付近の敵を【なぎ払えば】、もちろん背骨をへし折ってトドメを刺す



 決戦配備ポジション『メディック』の潤沢な支援が傷に沁みた。
 消毒、縫合、薬品の塗布と包帯の交換、痛み止めの注射……結界と激戦繰り広げた手の治療を終えて、オリヴィアは軽く息を整える。
 いよいよ敵の拠点、廃病院への突入だ。相応の廃墟と化している事以外には大した情報もないが、目指す先が最下階の最奥であると分かっているなら問題はない。
 僅かな躊躇いもなく扉の残骸をブチ破り、ガラスや壁材の破片を踏み砕きながら進んでいく。
 その最中にも視線は休みなく周囲を浚って――ふと、暗がりに湧く青い炎を捉えた。
 一つ確かめれば瞬く間に増殖していく、それこそが宙を舞う髑髏、生者を喰らう“竜牙魚兵”の群れ。明々白々な“死の兆し”だ。
「分かり易くて助かりますね」
 嘲笑するように独言したオリヴィアは一度立ち止まり、辺りを見回し、また忽然と駆け出す。
 狙いは敵――でなく、廊下の片隅に放置されていたストレッチャー。
 もはや誰を運ぶこともないはずだったそれに勢いよく飛び乗れば、猛然と回り出した四つの車輪がオリヴィアを廃病院の奥へ奥へと向かわせる。
 すっかり出し抜かれた竜牙魚兵たちは暫し呆然としたように揺蕩って、それから侵入者を猛追すべく宙を跳ねるように泳ぎ始めた。
(「……水を得た魚、ですか」)
 成程その通りだ、と感じて口元を歪める。
 敵がそうであるならば、ナース服を纏う己もまた病院という舞台に相応しい。
 存分に力を発揮してやろうではないか。
「――――ッ!」
 勇んで間もなく、オリヴィアに喰らいつこうとした竜牙魚兵が力余ってストレッチャーに齧りつく。
 四本脚の一つを折られた器具は自重と搭乗者を支えきれずに崩壊。けれどナース服は其処に留まっておらず、その位置を天井スレスレにまで移して吼えた。
「叩き割る――!!」
 繰り出す技はシンプルだが強烈な踵落とし。
 落下の勢いも合わせれば骨一つ砕くなど造作もない。叩き割られたそれは床に落ちる――間際でオリヴィアに掴み取られて、上顎と下顎に離別を迫られる。
 そのうち頭蓋の大半を構成する上側は、文字通り塵芥ゴミとして放り捨てられた。
 求めたのは下顎、それから垂れ下がるように伸びる魚の背骨の部分。
「硬く強く、それでいて靭やか。いい骨ですね」
 恐ろしい光景を作りながらも、そこはかとなく看護師めいた言葉を吐いて、オリヴィアはまだ青い炎が微かに揺らぐそれを鞭の如く振り回す。
 軽々に近寄っていた竜牙魚兵たちが纏めて薙ぎ払われた。その後には砕けて散る頭蓋もあれば、どうにか宙に留まっている背骨もある。
 ……勿論、全てを完膚なきまでに叩きのめす以外にない。
 ピンクのナース服が思い切り背骨を振りかぶって、同類へと叩きつける。
 凄まじい一撃は竜牙魚兵を悉く圧し折って骨片に変え、元より傷み放題だった廃病院の床にまで長い長い亀裂を走らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アーデルハイド・ルナアーラ
【エメちゃんと】
数が多いわね! こういう時は一カ所に集めると効率的! エメちゃん、お願い!
襲いかかってきた一体の尻尾を掴んで武器代わりに! 同じオブリビオンだもの、硬さは同じのはず! バット代わりにブンブン振り回して敵を粉砕していくわ! 武器代わりの個体が死んだら新しいのに交換。エメちゃんの悲鳴が聞こえたらそっちに突撃!
エメちゃーん! 今行くわ!
エメちゃんの声がする方に飛び込んで、エメちゃんの方に集まってる敵を一網打尽にするわ!


エメ・パラディール
【アーデルハイド・ルナアーラさんと参加】

エーデルさん、今度は私に任せて!
敵をまとめて退治しちゃうぞ!

まずカゲブンシン・フェノメノンで分身しまくる!
そして分身でばらばらに散って、たくさんの敵の気を引いて誘導するぞ!
誘導す先は一網打尽にできそうな、小さいお部屋!
行くぞ私たち!

部屋に誘導できた分身は、戦う邪魔になるから随時消していくぞ!

そして敵を集め終わったら、最後に本体のわたしが部屋に入り、私の剣で一刀……。
あれ、思ったより多いかも?
エーデルさん、助けてー!



 二人分の鼓動が敵を呼び寄せる。
「数が多いわね!」
 周囲を牽制しながら嘆いたアーデルハイドに、エメが胸を軽く叩いて答える。
「エーデルさん、今度は私に任せて!」
 荷運びばかりが得意技でないところを見せてやろう。
 そんな自信たっぷりな表情で宣うなら、頷かない理由はない。
「エメちゃん、お願い!」
「よーし、まとめて退治しちゃうぞ!」
 いざ託された事でますます気合も高まって、肩を回したエメは己の分身をわんさかと生み出すと四方八方へと走らせる。それらは幻影でなく実体を持つ――即ち本体と同様に“生命”であるから、忽然と増えた“餌”に宙空泳ぐ髑髏こと竜牙魚兵たちも色めき立ち、我先にと競うような勢いでエメ’sを追い始めた。

(「これで一箇所に集めて叩こうってことね!」)
 実に効率的クールな作戦だ。
 ならば自らも時間を稼いで貢献するべしと、アーデルハイドは襲いかかってきた敵を一匹、尻尾の辺りで掴んでから、まず頭骨を地面に叩きつけてやった。
 女性の細腕からは想像もつかない怪力と実に単純な暴力行為に、竜牙魚兵は力を失くしてだらりと垂れ下がる。
 一撃KOだ。とはいえ、これで終われば安息も齎されよう。
 けれど、アーデルハイドは死の尖兵にまだ眠ることを許さない。堅固な頭蓋と靭やかな背骨からなるそれをバットに見立てて、軽い素振りで何度か風切り音を鳴らすと、目についた竜牙魚兵を片っ端から殴りつけていく。
 押し込み強盗も吃驚の超脳筋攻撃。武器代わりのそれが数度の衝突で脆くなったと見れば廃棄と始末を兼ねて粉砕、また新たな亡魚を鮭取る熊の如く大胆に掴み取って攻勢を維持する。
 そのワイルド野蛮な戦いぶりから溢れる生命力に引き寄らせられた敵をまた打ち砕いては棄て、打ち砕いては棄て、気づけば骨片の小山が出来ようかという頃合いで、アーデルハイドの耳には少し前に意気揚々と飛び出していった元気印の悲鳴が届いた。

 何があったかといえば、それはまあ概ね想像の通りである。
「行くぞ、私たち!」
 数多の分身に呼びかけたエメは廃病院の中を駆けずり回り、囮と斥候に二役を器用にこなした。
 その中で見つけた少し手狭で風化の緩い部屋に狙いをつけて、まずは十分に敵を引きつけた分身たちを次々に飛び込ませていく。
 袋小路で大ピンチ、と思いきや務めを果たした影は霧散。獲物を見失った竜牙魚兵たちは僅かな逡巡の後に別の生命反応へ向かおうとして、同じように雪崩込んできた同胞に追いやられる。
 川魚を捕らえる仕掛けのような具合だ。生命力の共有=一撃が致命傷となりかねない分身の弱点も上手く補ったエメの作戦は、見事に敵を一所へと集めてみせた。
 完璧。大成功。パーフェクト。
 疑いようもなくそう思えたのだ。此処までは。
「そして最後に現れた私が、この剣で一刀……両……あ、あれ?」
 もしかして思ってたよりもめちゃくちゃ多い?
 最後の最後で重大な見落としに気付いたエメの笑顔は乾き気味の苦笑へと変わっていく。
 そして見るも悍ましい程に蠢く大量の竜牙魚兵たちが一斉に火の玉を作り出した瞬間、廃病院には助けを求める叫びが轟いたのだ。
「エーデルさん、助けてー!」

「エメちゃーん!!」
 ヒーローは期待を裏切らない。
 颯爽と駆けつけたアーデルハイドの骨バットが唸りを上げ、みっちりと詰まった敵を部屋ごと圧し潰す勢いで叩きのめす。
 逃げ場のない衝撃は武器にもなる強度の骨々を容赦なく折り砕き磨り潰し、そこから辛うじて逃れた髑髏にエメの片手半剣が絶命を齎せば――果たして当初の想定通り、廃病院に巣食う亡魚の群れを一網打尽にしてみせた二人は、軽く手を打ち合わせて互いを労った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈
◆心情
千の睦言に勝る一合の刃を重ねる『逢瀬闘争
其れに勝る生の実感も無いでしょう
故にこそ我々は、生命を讃歌するのですよ

◆行動
ジャマー決戦配備を要請
ガス類を私が直接持ち込む事で、屋内でも効力を発揮させます
ガスに紛れる様に【罠使い】の技を活かし、「魔法で敵を識別するサーメート」を複数設置しつつ移動
此処は既に貴方方にとって死地です

更に『獣の爪牙』を使用し進攻
【集団戦術】を駆使した【範囲攻撃】で敵を鏖殺

生命無き屍の兵団と獣の群です
貴方方のユーベルコードは相性が悪い様ですね?

私自身も【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】

負傷は【各種耐性】と【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復



 夜半、山に霧が立ち込めるのは珍しくもない。
 けれども廃病院に流れ漂うそれは自然の気まぐれでなく、人が恣意的に起こしたもの。
 決戦配備ポジション『ジャマー』の要請により近隣の決戦都市が用意し、霧島・絶奈(暗き獣・f20096)が持ち込んだガスの類である。
 廃墟と化した建造物の其処彼処から漏れ出る量を上回る勢いで散布されるそれに紛れて、絶奈は密やかに、しかし躊躇なく進んでいく。
 その最中に散りばめるもう一つの土産は、魔法で敵を識別するサーメート。
(「貴方方は獲物を呼び込んだつもりかもしれませんが……」)
 猟兵の侵入を許した瞬間から、此処は髑髏たちにとっての死地へと変わりつつある。
 それを危ぶむくらいの慎重さがあれば、また話は異なる流れになっていたのだろう。だが、脊髄反射的な動きで生命へと襲い掛かる竜牙魚兵に、罠や策を警戒する程の知性はなかった。
 靄の向こうに絶奈の気配を察知するや否や、死の尖兵たちは大口開いて迫り来る。
 絶奈は払い除けるように刃を振った。鈍い輝きの円が描かれた直後、起きた二つの波濤は宙泳ぐ髑髏の群れを悉く追いやって焼夷弾の元へと運び、煌々とした炎が敵を焼き滅ぼす。
 刹那、感じ得た生はさらなる竜牙魚兵の呼び水となるが――闇から出づるのは彼らだけの特権ではない。
 沼地から這い上がるようにして顕れる無数の影。屍者の兵団と屍獣の群れ。
 命無きものであるが故に亡魚たちの感覚器では捉え難い絶奈の軍勢が、砲による一斉射で、槍衾での突撃で、屍獣の爪牙で、敵を磨り潰しにかかる。
 当然ながら黙ってやられる理由はなく、竜牙魚兵の群れも反撃した。しかし、相手が屍では生命を脅かす牙も持ち味を発揮できず、ならばと絶奈に向かっても捻じ伏せられるだけ。
 やがて戦いが闘争でなく蹂躙の様相を呈するようになると、其処に睦むべき相手を喪失した絶奈は、数多の屍を轍としながらより深い闇へと下りていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
気色悪いデウスだな
群がってくんなら丁度良い
まとめて倒してやるぜ

決戦配備
ジャマー
他の生命を囮に…ってのは
流石に気が引けるから
「生命体と近しい生体波動を放つ小型ドローン隊」
で援護してもらう
多少でも気を引けて牽制出来れば
それで十分だ

戦闘
こっそり行く必要がないから楽だぜ
ワイルドウィンドを弾きながら
奥へ進む

心躍らせる音色は生命の輝きそのものだ
いい餌だろ

群がってくる魚共は
WWの音色が響き渡る範囲内に入った途端
火達磨だ

破魔や浄化の力を孕んだ紅蓮の炎が
踏み込んだ敵を焼き魚に変える
そのまま焼き尽くして灰も残さないぜ

遺跡に潜む魚を全部倒しててやる

因みに勿論
対象からドローンを外して燃やさないようにする
まあその前に魚にやられちまってるかもだけど

もし噛みつかれたら
傷口から吹き出す地獄の炎で
やっぱり火達磨にしてやるぜ
で傷は獄炎で修復

こんな感じで悠々と
決して歩みを止めずに最深部へ向かう



 不気味な雰囲気漂う廃病院へと正面から乗り込む。
 密やかにしたところで、死の結界を破った猟兵ケルベロスの存在は疾うに感知されているはずなのだ。
 どうせバレているなら堂々と行け――と、進むウタの両腕には再びの瓢風。
 インカムとセットのギター“ワイルドウィンド”が、弾むような音色を響かせる。
 自然と足取りも軽くなって、笑みさえ浮かべるウタからは生命の輝きがありありと感じられるだろう。
 そんな彼の周りに揺蕩う幾つかの小型ドローンは、絶えずデウスエクスによる侵略を受けているケルベロスディバイドの科学/魔術技術の結晶の一つ。
 一見して少し高価な玩具と見紛うかもしれないが、それは“生命体と近しい生体波動”を放つ。
(「流石に他の生命を囮に……ってのは、気が引けるからな」)
 先の即席舞台と同様、決戦配備ポジション『ジャマー』での要請に見事応じてくれた決戦都市の技術者エンジニアたちには頭が下がる思いだ。
 彼らの献身に応えるには、猟兵としての務めを果たす以外にない。
「頼んだぜ、お前たち」
 ウタは一時の僚友たるドローン隊に呼びかける。
 無機物たるそれらは何を返す事もない。けれど不思議と頷いたようにさえ見えた無人機たちは、与えられた仕事を果たすべく時を待つ。
 そして、それはすぐに訪れた。幾つもの生体反応に釣られた“竜牙魚兵”たちが暗がりから湧き出るようにして現れ、生者の肉を喰らわんと牙を剥く。
 ウタへと猛進する髑髏たちは――刹那、散り散りに逃走を図ろうとするようなドローンの動きと、それらが放つ生命の波動に逡巡した。
 幾つかの竜牙魚兵がドローンへと狙いを変えて喰らいつく。しかし、全てに死を齎さんとするその強欲は、奇しくも彼ら自身の命取りへと繋がる。
「紅蓮に抱かれて――眠れ」
 呟くウタの手元、ワイルドウィンドが俄に音色を変えた。
 瞬間、竜牙魚兵が纏う青い炎を紅い焔が塗り潰す。亡魚のみを狙って轟々と燃え上がるそれは魔を破り、浄め、灰すらも残さぬほどに焼き尽くしていく。
「まとめて火達磨にしてやるぜ……!」
 尚もヒートアップするウタのギタープレイ。伴って輝きを増す生命の力。
 同胞が消失していく様を目の当たりにしながらも、抗えぬ欲求に竜牙魚兵たちはウタへの無謀な攻撃を止めようとしない。飛んで火に入る夏の虫とは正しくこの事だ。
(「群がってくるんなら丁度いいぜ」)
 六弦の響く全方位がウタの間合い。寄るだけで亡魚たちは冥府へと還り、漂う死の気配も雪がれていく。
 未だ健在なドローンも不規則な軌道で敵を翻弄すれば――どうにか一矢報いようとしたのか、はたまた圧倒的な劣勢に狂ってしまったのか、幾つかで一塊となった竜牙魚兵が身を擦り減らしながらも音の波を乗り越え、ウタの肩へと歯を当てた。
 僅かに皮膚が裂け、血が滲む。けれど肉を食い千切る前に噴出した地獄の炎が、蛮行成した竜牙魚兵をやはり火達磨にして消し去り、些細な傷まで癒やしてしまう。
「お前たち如きで止められるほど柔な生命じゃないぜ、俺は」
 それでもまだ挑んでくるというなら、全て葬り去ってやるまで。
 ウタは絶対の自信で以て竜牙魚兵を圧倒しながらも、気負わずに悠々と、廃病院の最奥へ向かっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『竜墜症候群』

POW   :    極めて緩やかな打撃
【拳】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    優しく撫でるような蹴り
【緩やかな歩み】で敵の間合いに踏み込み、【恐るべき「死の気配」】を放ちながら4回攻撃する。全て命中すると敵は死ぬ。
WIZ   :    ゆっくりと歩み寄る
【ただ歩いてくるだけの姿】を披露した指定の全対象に【根源的な「死への恐怖」の】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

 竜牙魚兵の群れを退けた猟兵たちは、廃病院の最奥へと辿り着いた。

 錆びついた鉄扉。灰色の壁。赤黒い染み。朽ちた鎖。異臭漂う穴。
 牢獄の如き部屋に残された僅かな痕跡を眺め、首魁の姿を探す。

 刹那、首筋に音もなく近づく――“死”。

 生命体の埒外にあるものたちが、ともすれば忘れて失って久しい感覚。
 振り返り、身を捩り、散り散りに間合いを取った猟兵たちの前で、それは佇む。

 意識を逸らしてはならない。目を背けてはならない。逃れようとしてはならない。
 “死”は常に寄り添っている。傍らで笑っている。
 その恐怖にこそ打ち勝たねば、たとえ猟兵であろうとも、同じ場所に堕とされるだろう。

(引き続き、前章で使用したか否かに関わらず、決戦配備ポジションは使用可能です)
シルヴィ・フォーアンサー
……見るからにヤバそうだね。
『だが恐れることはない、それ(死)が隣にいるのは慣れっこだろう』
……慣れてても怖いものは怖いけどね。

するっと間合いに入って攻撃してくるのを殺気感知してなんとか回避。
するっと寄ってきても攻撃の方がバレバレ。

距離をとって建て直そうとロケットパンチでカウンターの吹き飛ばし。
そのまま誘導弾として持ってるガトリング砲で弾幕張って制圧射撃。

ハイペリオンランチャー使っても問題なければハイペリオンランチャーで追い討ち。
建物崩れそうなら両肘からのビームサーベル二刀流でぶった切るね。



 あらゆる感覚器が沈黙する中、直感だけが警報を発していた。
「……見るからにヤバそうだね」
 思わず口を衝いて出た言葉に、ヨルムンガンドサポートAIは答える。
『だが恐れることはない、それが隣にいるのは慣れっこだろう』
 その音は勇気づけて励ますようでもあり、常識を説いて窘めるようでもある。
 果たしてヨルはどちらのつもりで言ったのだろうか。
 そんな事を考えられるだけの感性があったとしても、状況がそれを許さない。
「……慣れてても怖いものは怖いけどね」
 ポツリと呟いた刹那――視覚で捉えていたはずの敵の姿が消えた。
 会話と呼ぶのも大袈裟な程の僅かなやり取り。
 その合間に闇へ溶けた“死”は、音もなく迫り、シルヴィの生命を狙う。

「――バレバレだよ」
 余裕ぶった台詞とは裏腹に、冷たいものが頬から首筋へと伝う。
 鼓動は暴れ狂うように跳ねて、それでも確かにシルヴィはそれを躱してみせた。
 機器の類はやはり何も教えてくれない。ただ殺気を感じる己の肌だけが《ミドガルズ》を動かしたのだ。
 そのまま反射的に腕部を分離ロケットパンチして、その一打を目印にガトリング砲から誘導弾を雨あられと振らせつつ、間合いを離していく。
「……ヨル」
『うん?』
「この建物、どのくらい保ちそう?」
『……ああ』
 砲火の最中、サポートAIは機械的かつ瞬時に察して返す。 
『上はボロボロだったけれど、この辺りは大丈夫だろう。何に使っていたのかは知らないが、随分と頑丈な作りのようだからね』
 ヨルムンガンドがそう言うならば何も心配はあるまい。
 シルヴィはトドメとばかりにハイペリオンランチャー超巨大荷電粒子ビーム砲を撃ち放つ。
 闇を払うように駆け抜けた光跡は――“死”の気配を打ち払った。
 たとえ機器が証明しなくとも、シルヴィは自身の感覚でそれを確信していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

エメ・パラディール
【アーデルハイド・ルナアーラさんと参加】

うぉ、これが鳥肌が立つっていうやつ!
だが私は友であるエーデルさんと一緒!
二人ならどんな恐怖だろうと粉砕できる!
行こう、エーデルさん!

というわけで敵に対して真っ向勝負!
正面から近づいていくぞ!
どんどんぞわぞわ来るけど、怯みはしない!
前進あるのみで、敵の攻撃は剣で弾いていくぞ!

肉薄できたら、ガチキマイラを使用して腕とか足とかいろんなところをライオンの頭部に変形。
エーデルさんと一緒にとにかく殴る蹴る殴る殴る蹴る!
「ガチキマイラ・パンチ!ガチキマイラ・キック!」


アーデルハイド・ルナアーラ
エメちゃんと
真の姿は銀色の人狼
いよいよ親玉登場ね。二人一緒なら怖いものなんて何もないわ。エメちゃん、行くわよ!
『蒼雷鎧装』(ライトニング・ドレス)を解放! 電撃を身に纏い、体内の電気信号を活性化させ、敏捷性アップ! さらに纏った電撃で攻撃力もアップ! 勝負よ! 電速の高速移動でエメちゃんの反対側に常に回るように移動。つまり、挟み撃ちね。あとは殴る蹴るの暴行を加える!
敵の拳は腕を蹴り上げたり、避けたりして拳そのものには触れないように注意するわ。



 うぉ、と小さな声が出た。
 恐怖に慄いたのではない。いや、自覚できない本能的部分ではそうであったのかもしれないが、とにかくエメとしては驚いたのだ。“鳥肌が立つ”という感覚そのものに。
 反射的に自らを抱き竦めるようにして両腕を擦る。それに気付いたであろうアーデルハイドから「エメちゃん」と声を掛けられて首を動かし、そこでまたエメは「うぉ」と漏らした。
 頼もしき友の髪、夜闇に微かな光を受けて煌めいていた金色が、いつの間にか妖しげな銀色に変わっている。
 そればかりではない。鋭い爪の伸びる手、ふんわりと毛に覆われた腕や足、ピンと立つ尾。
 ――人狼だ。其処には銀の人狼が立っていた。そして凛々しくも勇ましい雰囲気のそれは、先程までと変わらない顔で語りかけてくる。
「二人一緒なら怖いものなんて何もないわ。エメちゃん、行くわよ!」
「……よぉし! 行こう、エーデルさん!」
 心は一つ。この場において、それ以上の武器などない。
 エメは静止していた両腕を解いて剣を構える。
 見据えるは暗がりに佇む敵。形を得た“死”そのもの。
 一歩ずつ近づく度に総毛立つけれども足は止めない。捻じ伏せるという強い意志で己を保たなければ――ひた、ひたと緩やかに間合いを詰めてくるそれから、無意識に顔を背けてしまいそうになる。
 そうして目を離したが最期だ。
 エメの口から三度漏れる驚嘆の囁き。気づけば互いに届く距離まで接近していた相手から、黒い靄のようなものが伸びてくるのに合わせて刃を振るった時、これまでに味わった事もないような……とかく名状し難い感覚に心の臓を掴まれた気がした。
 どっと汗が吹き出す。剣を握る手が震える。
 けれど、負けるはずなどないと確信していればこそ、エメは笑みを浮かべる。
 その淡い色の瞳に過るのは、蒼雷の閃き。

「背中ががら空きね!」
 意気軒昂な声と共に唸る人狼の拳。
 爪が空を裂く鋭い音の合間に雷鳴の如き響きが轟けば、迸る蒼光は“死”の形貌を詳らかにしながら削り取る。
 確かな手応えにアーデルハイドは口元を緩めた。真の姿を解き放ち、体内の電気信号を活性化させ、身に纏う電撃のように素早く背後を取ってからの一撃――敵は不気味で悍ましく恐ろしい気配を放っているが、しかし決して敵わない相手ではない。むしろ断言しよう。デウスエクスだか病魔だか知らないが、これも数多のオブリビオンと同様、猟兵の力で退けられる。それさえ理解れば。
「徹底的に殴る、蹴るよ!」
「おー!」
 対面からの心強い応答を受けて蹴りを打つ。ライオンの頭部と化したエメの足も挟み込むようにして敵に食らいつけば、稲光に照らされた姿が大きく揺らいだ。
「――おっ、と」
 ぬるりと伸びてきた腕がアーデルハイドの脇を抜けていく。
 拳打と呼ぶには動きが緩慢すぎるが、その極めて緩やかな打撃も“死”の形の一つ、当たればひとたまりもないだろう。……当たれば、だ。
「私を捕まえるにはちょーっと遅すぎるんじゃないかしら、ね!」
 再び迫る腕を人狼の靭やかな足で蹴り上げる。
 拳にさえ触れなければいいのだ。勢いのまま身体を捻って跳べば、軸足だった方の足底が美しい後ろ蹴りの軌道で敵の首を刈る。
「こっちもいくぞ! ガチキマイラ・キーック! からのガチキマイラ・パーンチ!!」
 微笑ましさすら覚える程の気合を顕にしたエメが続くと、双頭の獅子が“死”を力強く咥え込んだ。
 瞬間、アーデルハイドも叩き込めるだけの拳と蹴りを叩き込む。
 その最後の一打に全身全霊を込めて放てば、一際強烈な雷光が敵を貫いて抜けた。
 鮮烈な輝きに、牢獄のような部屋が隅々まで映し出される。そして再び闇が戻ってきた時、アーデルハイドとエメを脅かしていた“死”の気配は、何処かに消え失せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レナータ・バルダーヌ
何の病かは計りかねますけど、齎すものが死というなら却ってわかりやすいです。
全く怖くないといえば嘘になります。
それでも、これまでもっと恐ろしい敵とも戦ってきましたから、今さらこのくらいで臆することはありません!

迂闊に触れ合ってただで済むとは思えないので、炎の翼を形成して飛行し、距離を取って戦います。
勿論サイキックオーラで防御もできるようにしておき、しかし使うのは緊急時にとっておきたいです。
こちらは【C:L.ナパーム】を着弾時に炸裂する榴弾として放ち、威力重視で攻撃します。
敵の動きは速くなさそうなので当たると思いますけど、目論見が外れた場合は、発射時に炸裂する散弾に切り替えて確実に命中させます。



 病魔であるらしきそれの正体は判然とせず。
 けれど、齎すものが“死”である事は間違いなく。
 微かに震えていた腕を鎮めるように懐へと添えて、レナータは敵を睨めつける。
 見るだけで恐ろしくはある。しかし、これまでにも恐ろしいものは目の当たりにしてきた。
 それらと戦い、敵に、そして恐怖に打ち勝ってきた。
「――今さら、臆することはありません!」
 意志を言葉とすれば、背には炎の翼が噴き上がる。
 闇に沈む灰色の部屋を煌々と照らしたそれは、羽撃き一つでレナータを“死”から遠ざける。
(「迂闊に触れ合ってただで済むとは思えませんからね……」)
 ある程度の間合いは取っておくべきだろう――と、尚も宙を打つ炎翼の影より滲む気配。
 異様な感覚にハッとして身を翻せば、撫でるように緩やかな拳打が肌を掠めていく。
(「いつの間に……!」)
 意識は逸らしていない。目を離したつもりもない。
 それでも“死”は迫っていた。逃れたはずが、手繰り寄せられていた。
 身の毛がよだつ感覚に息を呑む。万が一にと展げていたサイキックオーラがなければどうなっていたか。想像するまでもないのは、そのオーラの一部が砕けて消失した事で理解る。
 やはり危険な相手だ。だが、感じられたのは恐ろしさばかりではない。
 不意を突かれこそしたが、敵の動きは決して速くない……いや、はっきり遅いと断じていい程に緩慢。
(「捉えられれば……当たる!」)
 悍ましい気配が再び色濃くなった刹那、打ち出される拳を今度は軽快に避けて一気に距離を取る。
 敵はまだ視界の中心。そこから逃すまいと撃ち放つのは、掌に集めた地獄の炎。
「これで……!」
 焼き滅ぼせ。念動力を込めて、威力のみをひたすらに強化された火球が宙を滑る。
 戦場に佇む“死”はそれをじっと見つめ、逃れる間もなく飲み込まれる。
 目標を捉えた炎は膨れ上がり、やがて爆ぜた。
 熱風が翼を煽る。それはレナータを脅かしていた異様な感覚も祓っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
死を想え、死を忘れるな……
忘れるものか、この身は骸と血の汚泥に塗れた死の世界ダークセイヴァーに生れ落ちたのだから

メディックで用意した医薬品もこれが最後……栄養ドリンク?
まぁ、【気合い】は入りますか

死を恐れず直視する(勇気)
それは単なる【視力】にあらず、極限の【集中力】を以って開かれる【天眼通】
迫り来る死の攻撃を予知めいた直感で【見切り】、鍛え上げた身のこなし(功夫・軽業)で巧みに躱す
恐怖に身を竦ませなければ、こんな攻撃に当たる道理もなし
【カウンター】に放つ【怪力】の鉄拳
生命力が充溢(覇気・根性・オーラ防御)した拳は、死の闇を打ち砕く



 鞄に詰めたはずの医薬品を漁る。
 幾度か手が空を浚って、ようやく掴んだ小さな筒は少しひんやりとしていた。
 栄養ドリンクだ。それ以外の薬やら包帯やらは悉く使い切っていたらしい。
「まぁ、気合いは入りますか」
 蓋を開けて一気に飲み干す。空になった小瓶をまた鞄に収めて――身を捩る。
 頭が在った空間に黒い影が過ぎった。それが蹴りだと理解するより先に、凡人は恐るべき“死の気配”を受けて卒倒するだろうが、しかし。
「死を想え、死を忘れるな……」
 囁くオリヴィアは数歩の足捌きで再びの蹴撃を躱す。
 身ごなしに迷いはない。あと僅かで腹の辺りを掻っ攫われていたであろうに、その表情にも瞳にも恐れなど一切揺らいでいない。
 何故か、と問われればオリヴィアは泰然と答えるだろう。
 この身が生まれ落ちたのは骸と血の汚泥に塗れた死の世界ダークセイヴァーなのだ、と。
(「……忘れるものか。一時も忘れた事などありはしない」)
 夜と闇に覆われた世界。暴力と圧政に虐げられた世界。
 死と絶望に満ちていた世界。
 その中に在って、ただ一振りの槍を手に生き延びてきた。
「否が応でも見せつけられたものから、今さら目を背けるか――!」
 三度襲い掛かる足技を掻い潜り、包帯に覆われた腕を振り抜く。
 強烈な反撃に“死の気配”は彼方まで吹き飛ばされて、そのまま闇に溶けた。
 倒したか。いや、まだだ。そこまで軟弱な相手ではあるまい。
 オリヴィアはじっと暗がりを見つめる。
 真っ向から死と向き合うその眼差しは、両の眼に映らない世界でさえも捉える。
「――そこかッ!」
 体を捻って背後を打つ。ひっそりと首筋に迫っていた敵の足、一応は人の形をしたそれの脛の辺りを拳が叩けば、揺らいだ影に向かって正拳をもう一つ。
 其処に湛えるのは、身の内から湧いて尽きる事のない生命力。
「私はそれを忘れも、恐れも、しないッ!」
 下から上へと鞭のように撓る蹴りを半身で躱して、鼻先触れ合う程の距離で放つ鉄拳。
 オリヴィアの魂の一撃を受けた“死の気配”は、鳩尾の辺りから打ち砕かれて霧散した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルドラ・カリオストロ
これが貴方の“死”かしら

駄目ね
貴方は“死”の一面しか見ていないようだわ
その程度で“死”だなどと、よくも、私の前で驕ることが出来たわね

それに恐怖を与えたいのであれば、姿を見せては駄目ではないの
正体が判らないからこそ恐怖する、この程度は初歩の初歩でしょう

私の創造した死神の鎌で、速やかに貴方の存在を刈り取ってさしあげるわ

ふふ、どうしたの
私が“死”を恐怖していないように見えるのが不思議なのかしら

別に怖くないわけではないわよ
けれども、恐怖も、愛おしむべきもののひとつではないの
永遠を生きる私にとっては、恐怖すら、退屈な日々を彩る素敵な香辛料に過ぎないわ

貴方の恐怖は、お粗末なものだけれどもね



「……駄目ね」
 アルドラは今日で何度目になるかも判らない小さな溜息を吐いた。
 僅かにでも高揚を覚えていたのは玩具の如き“死の結界”とやらに挑むくらいの頃で、其処が気持ちの頂点、最盛期だったような気がしてならない。
「本当、よくもその程度で“死”だなんて宣えたものね。まして、私の前で」
 顎に手を添えて微笑む。
 瞬間、人の形を成した“死”は緩やかに一歩、進み出た。
 ひた、ひた、ひた……と、静かに迫り来るそれを、アルドラはじっと眺める。
「……恐怖を与えたいのであれば、軽率に姿を見せてはいけないわ。正体が判らないからこそ恐怖する、この程度は初歩の初歩でしょう」
 よもやのダメ出し。
 近づく“死”が歩みを止めた。まさか指摘に面食らった訳でもあるまいが。
「ふふ、どうしたの?」
 アルドラも殆ど理解していながら――いや、理解るからこそ誂うように笑う。
 並の生命であれば、既に根源を揺さぶる死の恐怖に気が狂れているだろう。
 つまりは異質なのだ。死で満ち満ちた異様な空間にあって、泰然自若として語るばかりのアルドラは、この戦場であるべきものの姿から外れている。それがどれほど奇異に映るか。
「別に、怖くないわけではないわよ」
 釈明じみた言葉を発して、その可笑しさにまた笑いながら続ける。
「けれども、恐怖も、愛おしむべきもののひとつではないの」
 永遠の中で少しずつ褪せていく世界を色付け、退屈な日々を彩る素敵な香辛料アクセントの一つ。 
 なればこそ、アルドラは逃れず、逸らさず、確りと受け止めて味わう。
「貴方の恐怖それは、お粗末なものだけれどもね」
 嘲笑に応じて再び進み出す“死の気配”。
 それが幾らか間合いを詰めたところで――アルドラは僅かに腕を振った。
 集中していなければ気にも留めないくらいの、その小さな動きで引き寄せられたのは死神の鎌。
 敵の御株を奪うような密やかさで現れたそれは“死の気配”を背から両断して刈り取る。
「……恐怖とは、死とは、こういうものよ」
 貴女にも理解できたかしら、と。黒い靄が残る刃を撫でたアルドラの前で、“死の気配”は音もなく崩れて散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
皆の生命と未来を守るため
つまり死を討ち払う為に来たんだ
ビビって堪るか
正面からブチのめすぜ

決戦配備
ジャマー
設置したデバイスを起動させると
エリアを物理的&魔術的に消毒や浄化し
敵を弱体化

戦闘
体から吹き出す炎を大剣として具現化

獄炎纏う焔摩天を手に
背部や下肢を獄炎に変え
爆炎の勢いで一気に間合を詰める

そっちが詰めてくるのを
チンタラと待っていられるか

爆炎加速による踏み込みと
更に刀身から爆炎が噴き出して剣速が増す

敵が蹴りを放つ前に
そうでなくても遅れをとるコトなく
大剣を振えるはずだ

死の気配を紅蓮がかき消す
炎は光を放ち闇を遠ざける
死の圧力を振り払うのは熱い血潮
未来へと進む意思だ

そして焔摩天を振り切る

蹴りを喰らった瞬間
その部位を即座に地獄の炎へと変えて
ダメージを最小限に抑えるから
蹴りを剣で受けることを捨て刃を振るうぜ

病魔の一種ってコトだったから
何かしらのウィルスっぽいものが
死への恐怖や死そのものを運ぶのだとしても
炎が焼却浄化して無効化だ

両断した敵を炎で灰に還す

あばよ
海へと送ってやれないのが残念だぜ



 凡百が恐れ慄く存在を前にしても一切怯む事はない。
 己が守るは生命、背負うは未来。
 使命に燃えるウタは炎滾らせながら“仕掛け”を起動させた。
 物理現象としての科学的消毒に、超常現象としての魔術的浄化。充満する負の気配を一層すべく決戦配備ポジションによる徹底的な処置が施される中、自身から吹き出す炎が具現化する大剣を構えたウタは、背や下肢をも獄炎として、正しく爆ぜるようにとの間合いを詰める。
 相手の緩慢とした調子に合わせる意味も義理もない。戦場ステージで如何なるリズムを刻むか、決めるべきは己であると言わんばかりの突撃。
 進みながらも更に噴出する炎で勢いを増して、一気に肉薄したウタが刃を振るえば――黒い影が揺らぐ。
 ひっそりと、緩やかに、纏わりつくようなそれは泰然として佇む敵からの死の誘い。
 けれど、機先を制したウタにとっては単に刃を受け止めただけの蹴脚。
 煌々たる紅蓮は闇を遠ざけ、真実を詳らかに照らし出す。ウタの目の前に在るものは死を象っていても、抗い討ち払う事すら叶わぬ敵ではない。
 それをより強固に確信させるのは、皮肉にも相手が繰り出した新たな一撃。
 凄まじいプレッシャーと共に放たれる逆足がウタの身体を打つ。強烈な衝撃に自然と息が溢れたが、被弾の苦しみは十分に耐えきれる程度。
 大したものではないと不敵に顔を歪めれば、攻めを受けた瞬間に地獄の炎と化した肉体の一部も言外に健在を訴えるかの如く燃え上がって揺らぐ。
 刹那、振り直した剣の一撃は守りをかなぐり捨てての猛襲。
 全霊を込めて大上段に構えた刃は、まるで太陽が落ちるように凄烈な輝きを伴って、黒い影を真っ二つに裂いた。
「――あばよ」
 分かたれたは瞬く間に炎へと飲まれていく。
 病原菌であろうが現象であろうが情報であろうが、全てを灰に還すそれは究極の浄化。
「“海”に送ってやれないのが残念だぜ」
 一つ成し遂げたように呟くウタの前で、やがて灰すらも散り散りとなって失せていく。
 かくして、闇の中にはそれを遠ざけるだけが残った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈
◆心情
死は常に寄り添い、傍らで笑う…
ええ、其の通りでしょうね
我が同胞はそうなって尚、私と共に在るのですから…

◆行動
ジャマー決戦配備を要請しガス類を私が直接持ち込みます
【罠使い】の技を活かし、ガスに紛れる様に「魔法で敵を識別するサーメート」を複数設置
罠を隠すだけでなく、敵の姿が見えにくくなれば披露も何もありません

『暗キ獣』を使用
【集団戦術】を駆使した【範囲攻撃】で敵を鏖殺
姿が見なくとも、徹底的面制圧で捉えるまでです
其れに、死の恐怖を超えて此処に立つ我が同胞達とは相性が悪いのでは?

「苦悩と死があってこそ、人間という存在は完全なものになる」
『夜と霧』の一節です

其れを喪った故に、私達は神に成り果てたのでしょう
死と苦悩を思い出させてくれた貴方に感謝しましょう
其れを忘れない限り私達はまだ『ヒト』で在れる

<真の姿を開放>

けれど私達は、喪った故に手にしたモノと共にこれからも歩み続けるのです

【範囲攻撃】する【マヒ攻撃】の【衝撃波】で【二回攻撃】

負傷は【各種耐性】と【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復



 暗く冷たい廃病院の終着点行き止まりで相対する二つの存在もの
 人の姿を模倣した“静謐なる死”と、静寂に佇む“神の座を得た人”。
 時間すらも流れ行く事を躊躇うほどの、いつ終わるとも知れぬ重苦しい二者の逢瀬は、忽然と立ち込めてきた靄に遮られて一先ず区切りを迎えたが、しかし。
(「死は常に寄り添い、傍らで笑う……」)
 見えずとも、それは其処にる。
 紛う事なき事実をじっくりと噛み締めながら、絶奈は一歩踏み出す。
 粛々と、けれども軽やかに。霊屋の其処彼処に“火種”を仕込みながら進む姿は、苦しみに足掻くようでもあり、喜びに打ち震えているようでもあった。
 もっとも、たとえその様子が見えていたところで、相手方に揺らぐ何かが在るわけではないだろう。
 それが齎すべきは死。全てに等しく、ただそれ一つ。

 で、あるならば。
 それは“既に死した者たち”へと何を齎すのだろうか。
 戦場をすっかり覆ってしまった靄の中から、そろり、そろりと湧き出る屍の群れ。
 疾うに輝きを失った牙と槍。数多の敵意に囲まれて、それでも尚、漫然と歩み寄るばかりのそれは何を――否、何を与えられるはずもないのだ。決戦配備ポジションの要請で持ち込まれ、絶奈が撒いた極めて現代的で現実的な、即ち科学技術の部類であるガスが双方の視界を奪った今、もはや死が己の存在を見せつけて、恐怖を煽り立てる事は難しい。

 それでも、絶奈は一度だけ己の身を抱き竦めるように撫でた。
(「苦悩と死があってこそ、人間という存在は完全なものになる」)
 何処で得たか、名著の一節が過る。
 其れを喪ったが故に神へと成り果てたが――しかし其れを忘れずにいる限りは未だ『ヒト』で在れる。
 そう思い出す契機となった死の具現化には、感謝を捧げねばなるまい。
 刹那に解き放った真の姿と、同胞たる軍勢による全力。
 徹底的な蹂躙と制圧。
 其れによって齎されるべき、死で。

 憤怒するが如く刃が唸り、牙剥く獣の群れが雪崩のように押し寄せる。
 それらの行き着く先で衝撃が波打ち、異端の神は人の似姿の死を尽く滅ぼす。
(「私達は、喪った故に手にしたモノと共にこれからも歩み続けるのです」)
 方々で沸き起こる爆熱が靄を払う中、絶奈は自らが得た感覚を反芻した。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年12月15日


タグの編集

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 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ケルベロスディバイド
🔒
#黄道神ゾディアック


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト