●焔
パチッ。パチッ。
燃えていた。村が燃えていた。畑が燃えていた。
男は足元へ散った跳ね火を眺めていた。
パチッ。パチッ。
燃えていた。家が燃えていた。人が燃えていた。
男は足元へ散った跳ね火を眺めていた。
パチッ。パチッ。――ジリッ。
燃えていた。けれど。燃える以外の音が交じった。
男は足元の床を跳ねる火諸共踏み砕いた。
「ひッ――」
床下で息を潜めていた母子。そのままでは火に巻かれて死んでいたかもしれないが、それでも今は外へと顔を出したくなかったのだろう。しかし、男の手によって引き摺り出される。燃え立つ炎で異様に明るい、闇夜の下へ。
「あ、あ、どうか、この子だけは……この子だけは、どうか、どうか
……!!」
「お前ら、生きているよな?」
じゃあ見せてくれ。
それだけ告げられて、子を背に庇った母へと刀が迫り。
何の抵抗もなく、過ぎ去った。
「お、おかあ、ちゃ――」
――ずるり。べちゃ。
ただ一振りで、上下半々に分かたれた肉塊が、四つ。
「………………」
物言わぬ母子の残骸を蹴飛ばして、断面を見る。絞り出すように、踏む。血が、肉が、臓腑が、零れ落ちた。
「……なんにもねェ」
踏んで、踏んで、踏んで、踏んで――ぐしゃり。
肉塊全てを踏み抜いたら、諦めたようにまとめてそこらの火の中に放り込む。見たいものではなかったらしい。
「ここにもねェ。どこにもねェ。誰を斬りゃ分かるんだよ。誰を斬っても汚らしいモンしか詰まってねェ。気持ち悪ィ、気持ち悪ィ……」
呟く、呟く。どこへ向けるでもない言葉。
「斬り方が悪ィのか? 斬り方が下手なのか? ああ、クソ、上等だ。んじゃあ次はもっと綺麗に斬ってやる。だから、なァ――」
叫ぶ、叫ぶ。どこへなりとも飛んでく言葉。
「――教えてくれよ。見せてくれよ。命って、なんだ?」
●グリモアベースにて
「予知先はサムライエンパイア。既に被害も出た後になります」
深夜。呼び掛けに応じ集まってくれた猟兵たちへ、アルコーン・アフェシス(ロトゥンフラット・f00510)が詳細を語り始めた。急なことで資料は用意できていないのだと、謝罪の後に。
「現れたオブリビオンは『鬼銃葬者』と呼ばれる存在が一体のみ。配下も従えてはいないようですね。策を弄するタイプでもなく、伏兵等もいないかと」
これに対処するだけなので、最終目標は非常に単純だ。
しかし。
「単独行動ゆえか、随分とフットワークが軽く……つい先ほどまで村ひとつを滅ぼしていたと思ったら、早々に立ち去ってしまったようで。行方探しから始める必要があります」
まずはその村に向かい、行き先の手掛かりを得なければならない。体力や脚力に任せて移動の痕跡がないか探し回っても良いし、周辺の地理から推測してみるも可能だろう。他にも、何か思い付いたことがあれば試す価値はあるかもしれない。
そこまで説明したところで、「村に生き残りはいないのか」という趣旨の質問が飛んだ。
「いない……とも、限りませんね。まだ隠れているか、あるいは気を失っているか。上手いこと探し出して、落ち着かせて、話を聞けば。何かしら得られる情報もあるでしょう」
尤も、全滅している可能性もある。そのあたりも考慮の上で、どう動くか決めてほしいと話をまとめた。
「ブリーフィングは以上です。それでは、皆さんよろしくお願いいたします」
アルコーンは転移を行うべく用意を始めて。ふと、「ああ、そうでした」と話を付け足す。
「件の鬼銃葬者については、どうも呪物と化した銃と刀が諸悪の根源であるようなのですが。今回の場合、使い手の男も元より人斬りである様子」
詰まるところ――情け容赦は、無用。
最後にそれだけ伝えられたと同時、猟兵たちを転移の兆候が包み込んだ。
黒蜜
黒蜜と申します。
此度はサムライエンパイアでの事件となります。
第1章で敵の向かった方向を調査し、第2章で捜索を行い、第3章で戦闘。という流れを想定しております。
深夜ということもあって道々を歩く人も比較的少なく。スムーズに追い付けば、これ以上の被害は防げるかもしれません。
第1章については、村の生存者を探すも可能ですが、他の行動よりも若干難易度は高くなります。(不可能ではありません)
見付からなかった場合は、既に全滅していたものとして話を進行いたします。
それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 冒険
『妖孽』
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POW : 現場を力尽くで調査し、情報の収集を行います。
SPD : 付近の人物に聞き込み、情報の収集を行います。
WIZ : 残された文献などから、情報の収集を行います。
👑11
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八坂・操
【SPD】
辻斬り、斬捨て、ばーらばら♪ ヒヒヒッ、ここまで酷いと逆に清々しいね☆ 悪趣味なB級映画でも見せられてる気分だ♪
……女子供にまで手を出す畜生だ。償いは絶対にして貰う。
っと、操ちゃんびーくーる♪
とりあえず、まずは堅実に【情報収集】と行こう♪
……遺体は焼けてはいるものの、バラバラな上損傷が激しい。暴行の末斬捨てたのなら、もう少し見れる状態のハズ……となると、斬ってぐちゃぐちゃにした後、火に放り込んだってトコかなー? まるでハンバーグみたいだね☆
刃物で細切れにしたにしては酷過ぎるし、足で踏み潰したのかな? なら、血がべったり付いた足跡を【追跡】すれば、向かった方角位は分かるんじゃないかな?
●一斬
「辻斬り、斬捨て、ばーらばら♪」
余燼燻る村の中。焦げか炭かと散るものの傍。明るく響く人の声。
「ヒヒヒッ、ここまで酷いと逆に清々しいね☆ 悪趣味なB級映画でも見せられてる気分だ♪」
ついつい笑えてきてしまうなぁ。八坂・操(怪異・f04936)のテンションも、これまたいい感じに上昇しているように見える。
見えるだけじゃないかって? 腹の内はどうかって? ははは。
「……女子供にまで手を出す畜生だ。償いは絶対にして貰う」
ははははははは。
「っと、操ちゃんびーくーる♪」
びーくーる。びーくーる。彼女は冷静だ。ええ、とても。
なにせホラーやらスプラッターやらは操の好みの内で。だからほら、そこらに散らばっているものだって、じっくり観察して情報をもぎ取ってしまえる。
「んー、良く分からないくらい焦げたのも多いけど……お、これは生焼け♪ どれどれー?」
人の色が残る肉。その周りを探せば、ちょうど一人分ほどがここに。
しかしこれ、斬られただけでは説明付かないほどに損傷が激しい。ここまでくると、生きている内に嬲られたわけでもなさそうだ。
「……となると、斬ってぐちゃぐちゃにした後、火に放り込んだってトコかなー? まるでハンバーグみたいだね☆」
彼女は、冷静だ。ええ、ええ、とても。
胸いっぱいに吸おうじゃないか。この清々しい空気を。この名作映画の観客として。
味わってもらおうじゃないか。この感覚を。この駄作映画を作り出した監督にも。
「にしてもー……」
遺体の損傷具合。特に切り口の部分が見るからに荒いし、酷い。まるでそう、斬り捨ててから何度も何度も踏み潰したかのように。
執拗で、なのに憎悪があるでもない。どちらかというと作業的な雰囲気。でも目的はありそうで、うーん?
……ああいや、今大事なのは踏み潰した事実の方か。
「血がべったりな足跡、残っちゃってないかなー?」
きょろり、きょろり。
長い髪をゆらゆら揺らして。操が踏み出す足取りは、とってもとっても軽かった。
――そんな風に、見えた。
「……見ーつっけた☆」
火の中へポイ捨てするために歩き回った跡もあって、行き先を示す証拠まではなかなか辿り付けなかったけれど。ようやくそれらしきものを発見できた。
若干擦り落ちかけているが、操の足元の小石に付着している朱殷は、間違いなく。
「こっちとそっちにあるからー……あっちかな? 街道からはちょっと離れてるのかな?」
道沿いに進んでいるのかと思えば、存外そういうわけでもないらしい。
一応しばらく行けば街道に合流はできる方向なのだが、それを狙ったというのも変な感じがする。行き当たりばったり気の向くままに。が、一番しっくりきそうだ。厄介なこと極まりない。
ともあれ、情報は得た。急ぎ追いたいところだが、他の猟兵と擦り合わせてからでも遅くはないだろう。何か間違いがあってはいけないし。
「――操ちゃんが行くまで待っててねー♪」
彼方にいるであろう者へ、その声が届いたかどうか。
はてさて、それは――。
成功
🔵🔵🔴
アテナ・カナメ
【POW】
アテナマスク、最初の依頼ね!頑張るわよ宛那(中の人)!
【作戦】被害に遭った村を探索、そして生存者がいれば少しでも助けるわ!「安心して!私はあなた達を助けにきたの!もう心配ないわ!」「私はスーパーヒロイン、アテナマスク!だからもう安心して!」(ふざけているわけではなく少しでも生存者を安心させるための動作)そして、生存者の証言や、村に残った証拠などから武者を探索してみせるわ!【アドリブ・絡みOK】
御剣・刀也
POW行動
皆殺しか
胸糞悪い。こんな子供まで殺すとは
現場百回とよく言うが、歩き回って何か見つかるといいがな
現場となった村を隅々まで練り歩く
特徴的な足跡が残っていないか
瓦礫に埋もれた生き残りがいないか
第六感を駆使して探す
怪しいと感じたり、おかしいと感じたらそこを重点的に調べる
生き残りを見つけたら瓦礫をどかして助ける
死体を弔ってやりたいがそんな時間はないので遺体を見つけたらせめて安らかに逝ける様に。と冥福を祈る
「おい、大丈夫か?しっかりしろ。助けに来たぞ」
●二斬
「皆殺しか」
御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)の視線の先で。未だ煙の残る一部の焼け跡から、助けを求めるように突き出ている黒い腕。大きさやらなにやらバラバラだ。男女どころか老若まで一緒くたにされたのだろう。だから、これほど小さなものまで交ざっている。
「胸糞悪い。こんな子供まで殺すとは」
灰を退ければ恐らく苦悶に恐怖に歪んだ顔も出て……来るとは限らない、か。なにせパーツもバラバラだ。頭がここにあるかどうかも分からない。
「現場百回とよく言うが、歩き回って何か見つかるといいがな」
本当ならば、彼らをきちんと集めて弔ってやりたいが。今はそれより優先すべきことがある。
今生が斯様に無惨と終われども、せめて死後が安らかであれと冥福を祈りながら。刀也は下手人の痕跡を、その魔手から逃れた生き残りを、探し求めて村中を歩く。
「――む?」
武人としての感覚に従い、人の気配を辿ってみれば。そこには中々に目立つ格好をした少女の姿があった。燃えるような炎のコスチューム。なにやら力を感じるマスクも身に着けて。当然、村人ではあるまい。
「アテナマスク、最初の依頼ね!頑張るわよ宛那!」
己が心を通わせた相手へと、発破掛けるように鼓舞をするアテナ・カナメ(アテナマスク・f14759)。下の人、要・宛那の心情を思えばこそ、その声は明るく、溌剌と。
宛那は元来気弱な少女だ。その上、両親をオブリビオンに殺されているときている。彼女からしてみれば、このような光景が。――親も子もなく鏖殺された光景が、どう目に映ることか。
「大丈夫よ、宛那。あなたには私がいる! そして、私にはあなたがいるの!」
宛那は願っていた。己が悲劇の中に在って尚、己のように悲しむ人を出したくないと。
だからこの子に力を貸すと決めて。私は、私たちは『アテナマスク』となったのだ。優しい望みに戦うための力を添えんと。
ならば、今こそ活動の時――。
「……あら、あなたも探索に?」
ふと感じるものあって、アテナマスクが背後を見やれば。やや険しい顔をした刀也と目が合った。――いや、目線は自分より後ろの方へ伸びているか?
「ああ、人の気配を頼りにな。てっきりあんたのものかと思ったが……」
違うな、それにしては弱々しい。これはたぶん。
彼女がいるより幾らか先、斬り落ち倒壊した家屋の残骸。その、下。
「……あそこか。まだ死んではいないようだが、危ういな。瓦礫の除去を手伝ってくれるか」
「ッ! ええ、任せて!」
斬られていたなら既に事切れていたはず。となれば、隠れていた家屋が斬り倒されたことで下敷きとなり、動けぬままでいたのだろう。……わざわざここが狙われた理由も、見回せば散らばっていた。
――とにかくこれ以上の痛みを与えぬようと、二人で掘り返してみれば。気配だけでなく、か細い呼吸の音も届き始めて。
「いたわ! あとは足の上の柱を退かせば……!」
「よし、他が崩れて来ないよう慎重にいくぞ」
ずずず、と最後の重石を外して。現れた女性を刀也がそっと抱え出し――救出は、成功だ。
憔悴はしているが、肉体の方は骨までは潰れていないようで。これなら、障害が残ることもないだろう。
ただ、まだ理解が追い付いていないのか。目が、虚ろなまま。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ。助けに来たぞ」
「……ぁ。……助、け……?」
「そう、助けよ! 安心して、もう心配ないわ!」
二人の声で、徐々にその目には色が戻り――。
「あ……お、夫は!? あの人は――――あ」
捉えて、しまった。辺りに散らばる肉片を。この家を、妻を、守らんと。鍬を手に果敢に挑んだのであろう、それを。
「…………あはっ」
耐えられるはずも、なかった。ただでさえ、心身ともぎりぎりまで追い詰められていたというのに。
「あは、嘘、嘘。みんなしてからかわないで。夫はどこ? 明日は一緒に町の方まで出かけようかって言ってたじゃない。ねぇ、夫は」
――壊れかけた声に、体に、被さるように。温かな抱擁が彼女を包んだ。
炎の熱ではない。けれど、炎のように燃える心の内で、照らさんと。
「私はスーパーヒロイン、アテナマスク!」
今必要なのは、宥めることでも、励ますことでもなくて。寄り掛かる先を作ることだと、そう示してやることだと。
アテナマスクは高らか叫ぶのだ。如何なる苦しみに苛まれようとも、ここには自分がいる。
だから、頼っていい。任せていい。――安心して、いいのだ。
「…………夫、は……う、ぁッ……」
静かな、夜だった。
言葉にならない嗚咽と、流れ落ちる涙の音だけが響く。痛々しいほどに、静かな――。
「……覚えて、いるのは。夫が、『顔を出すな』って、わたしを奥の部屋に押し込んで。それ、で……ッ」
「まだ傷も癒えていないのだろう。無理をせず、ゆっくりでいい」
アテナマスクに背を優しく撫でられながら、どうにかぽつぽつと語り始める女性。
刀也としては、今話をすることで体も……心も、傷を抉ることにならないかと気掛かりではあったが。女性が「役に立ちたい」と強い意志を見せたため、こうして証言を聞くことにしていた。
「確か、目の前が真っ暗になる前に、声が……声が、聞こえたの。『汚らしい血を落とさねェとな』、って」
その血が誰のものか、など。
ぎゅっと握られた女性の手は、込めた力の余り震え、白くなって。
「足音も、少しだけ。それが向かった方に、浅いけど川が流れているから。きっとそこで」
「……そうか、分かった。調べる価値はありそうだ」
村が襲われてから、そう時間も経っていない。水を浴びていったのならば、まだその跡が残っているだろう。
「わたしは、役に立てたかな」
「もちろんよ、ありがとう! あとは私たちに任せて!」
それなら、良かった。そう一息ついた様子の女性。
その根底にあるのが、自分たちへの信頼か、それとも下手人への復讐か。それは、刀也にも定かではなかったが。
「……あいつを。お願い、します」
「ああ。……報いは、くれてやる」
何れにしても、彼奴を討つための後押しになるだろう。
――そう、思えた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
鵜飼・章
これは酷いな…
けれど生存者がいる可能性があるなら探そう
まずはUC【相対性理論】で村全体を上空から見る
血の跡から敵の通ったルートを推察すると共に
焼け残っている地区を把握
井戸や水路、水車小屋等の水回りも気にする
農村ならたぶん水源がある筈
人が隠れているなら焼け残る場所だと思う
助けに来ました、誰かいませんか?
【優しさ/コミュ力】で怖がらせないように呼びかけながら
鴉達にも手伝わせ重点的に捜索
瓦礫は魔導書から力の強い動物を出してどける
象とか
見つかったら【医術】で応急処置をし
天下自在符で身元を証明
もう大丈夫です
話を聞いていいかな?
仲間とも適宜協力
決定打がない時は最終手段
UC【閉じた~】で遺体を蘇生し話を聞く
花盛・乙女
■POW
酷い有様だ。だが…なにゆえこのような。
村の損壊、遺体のありようを見れば快楽とは思えぬ。求道…のような。
何故だろう。道行きを誤れば私も同じ道にあったかのような感覚だ。
…下らん事に心を砕く場合ではないな。
倒壊した家屋を刀と「怪力」で除去し【黒椿・乱形果】の鼻と耳で生存者を探そう。
彼の者は元人斬りと聞く。生者の匂いに敏感なのだろう。
…ならば井戸はどうだ?人の営みに必ずある深い縦穴。
己自身、あるいは父母の手によって井戸へ逃がされたとすれば、匂いも薄まる。
探す価値はあるな。
井戸の中へ大声で呼びかける。
そして黒椿を使い、生者の匂いと音を探らせる。
見つかれば、紐を用いて「怪力」でもって掬い上げるぞ。
●三斬
重き悪刀を鬼の膂力で振り抜けば、崩れた家屋の屋根の部分が綺麗さっぱり飛び消えた。そのまま柱やらなにやら飛ばすも可能なものの、仮に埋もれていた人まで斬っては意味もない。力で掘り返しても良いが……その前に。
「仕事だ、働け」
花盛・乙女(誇り咲き舞う乙女花・f00399)が悪刀の刃に軽く舌を這わせれば、見る間にそれは煙と化して、されど吹く風構わず留まっている。
「ヒヒ、相変ワラズ色気ノナイ――」
「無駄口を叩くな」
口を利いたは煙にあって煙にあらず。姿形はそれなれど、【黒椿・乱形果(クロツバキニヤドルアシキオニ)】。その本質は化生の者であれば、対話のひとつも可能であって、何が不可思議であろうか。
「コリャマタ随分ナ状況ダガ、此処ニハ音モ匂イモネェナ」
「……そうか。では他を探す、付いて来い」
刀使イガ荒イだのなんだのと。ぼやく化生の声は聞き流しつつ、乙女は村の様子を見て回る。
足を進めれば進めるほどに――酷い有様だと、そうありありと伝わって。
(だが……なにゆえこのような)
快楽のため、にしては愉しんだ気配すらも見えない。どちらかと言えば。
「求道……のような。何故だろう。道行きを誤れば私も同じ道にあったかのような――」
「ハン。考エタトコロデワカリャシネェヨ」
いつしか文句を止めていた化生が、呟きの中にずいと割り入る。
「己ガ進ンダ以外ノ道ナンザ、理解ガ及ブハズモネェ」
乙女の道は乙女の道で、彼奴の道は彼奴の道。たらればの先を見通すには、それこそ人ならざる視点が必要になると。
化生なりの気付けの言葉。ああ、そうだ。そうなのだろう。
「……下らん事に心を砕く場合ではないな」
「ヒヒ、ソウイウコッタ」
瓦礫に塗れた道の中、一人と一振りが進み行く――。
「これは酷いな……」
地上から見ても死に溢れ、斯くも陰惨なものかと思えたが。上空から見下ろしてみれば尚一層に、悲痛な叫びを頭に叩き込まれているかのような感覚に襲われて。鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)の口から、思わず心情が漏れた。
(血の跡は……人を探し回ったせいか、火に放り込もうとしたせいか、あちらこちら行ったり来たりしているね。遺体を引き摺ったような形跡も混ざって分かりにくいけれど)
それでもしばらくそうして見ていると、おぼろげながらも大体のルートは掴めてきた。特に血が濃い一角、そこから薄く薄く伸びた足跡。途中でほとんど消えてしまっているが、あの先は……浅いけれど、川か。
(よく見れば、ぐりぐりと地に足裏を擦り付けたような跡まで残っている……血が嫌いなのかな?)
ゆえに落とそうとした、ということだろうか。これだけの惨劇を作り出した割りに、血に酔う人物像でもない……と。
ではどういう理由があったのやら。知りたいような聞きたくもないような――章が思い巡らせていると、村中央あたりに井戸が見えた。先に見えた川と併せて、この辺りの生活用水を担っていた可能性は高い。
(付近に血は……見えないか。なら、少なくともあそこで斬られた人もいないはず)
「――行ってみようか」
頼むよ、と己を乗せて空ゆく翼に一声かければ。同じように一声で、了承の意が返ってきた。
「匂イハ薄ラアルナ。『アル』ッテヨリハ『アッタ』ノ方ガ近イガ」
人斬りから逃れるために、あるいは父母の手で逃がされて、生き延びた者がいないかと。乙女が目を付けた先は井戸。人の営みの中にある、縦穴の中だ。
「微カニダガ、音モ聞コエタ。多分中デ生キテハイルナ。ドウスンダ?」
「無論、掬い上げるしかあるまい」
しかし、まずは近場から飛んで降りかかったのであろう瓦礫を取り除かねば。斬り飛ばしても良いが、万一破片が中へと落ちたら事だ。手間だが、ひとつひとつ除去を――。
「アン? ナンカ近付イテ来テルゾ」
化生の声で上空へ目を向ければ、そこには鳥と――人が。
「きみ達も、ここを調べに来たんだね。人の痕跡はあったかな?」
「………………ああ」
遅れた返答に、「おや?」と首を傾げる。章が猟兵なのは見て分かるだろうし、自分が乗っている大きな子……【相対性理論(ソウタイセイリロン)】にて呼び出した、黒いハヤブサが気になるのだろうか。
「ええと、この子のことなら心配しなくても」
「イヤ、ソウジャネェンダ」
漂っていた煙の塊が答えたことに少々驚いたが、それこそハヤブサと同じく呼び出された存在なのだろうと納得できた。しかし、それなら何が。
「チョットナ、男ニ慣レテ――」
「余計なことを言うな。いきなり頭上から現れたから、警戒しただけだ」
そんなことよりも、と話を進める乙女に。章は、これは深入りしない方がいい話だなと悟った。
上手にくるんと掴んで、まとめて外へ放り投げる。
再び掴んで、投げる。掴んで、投げる。
「ホー、器用ナモンダナ」
化生から見てもなかなか面白い光景だったのだろう。象が鼻で瓦礫を退けるところなど、そうそうお目にかかれるものではない。例えそれが、魔力で拵えた存在であろうとも。
「もういいかな。戻っておいで」
指示を出せば、象はすぅっと章の手の図鑑の中へと帰ってゆく。
井戸を塞いでいたものは、鼻が届く限りは取り除けた。あとは内部調査あるのみ、だ。
「紐ならばある。掴む力が残っているなら、話は早いが……」
「衰弱しているかもしれない、と。なら、僕の鴉達に手伝ってもらおうか」
彼らに頼めば、ぐるぐると巻き付けて来てくれるだろう。怖がらせてはいけないと、先に二人で井戸中へ向かって呼びかけてから、改めて紐を送り出す。
「――――よし、無事に括りつけられたみたいだよ」
鴉が出て来るを待って、乙女がぐいと紐を引けば――存外に、軽い。
この重さは。
「子供、か。……このままでは、不味いな」
顔を見せたのは、全身を濡らし、カタカタと震える年の頃十かそこらの少年だった。
恐怖、だけではない。明らかに低体温症を引き起こしている。
「毛布は――さすがに、誰も持っていないかな。じゃあ、こうしようか」
再度開かれた章の図鑑から、大きな犬やら兎やら……もふもふとした動物たちが飛び出して、少年にぴたりと寄り添った。
生き物の体温がじんわりと染み込んで。ついでに、毛が水分も吸い取ってくれているらしい。少しずつだが、少年の顔色も良くなってきている。
「……だ、れ……?」
「僕たちは、こういうものだよ。……話は、まだ難しいかな。今は休んで――」
天下自在符を示した章の腕を、少年がしっかと。か細い力で、掴む。
符の意味をきちんと理解したらしい。聡明な子だ。
「『お前ら』含めて全員斬ったら、次は町の方で斬るって……言って……言って……ッ!」
本当に、聡明な子だ。自分を逃がした父母がどうなったのか。……探すまでもなく、気付いてしまうほど。
「良く、教えてくれた」
叫んだことで体力を使い果たしたか。気絶するように眠りに落ちた少年へ、乙女は礼をひとつ送って。
刃と戻った悪刀を、握り締めた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
海月・びいどろ
……血の、におい
焼け焦げた、空気
…早く、生きてるヒト、探そう
海月たちを喚び出して、情報収集するよ
炎は、機械やデータのボクたちにも、危ないもの
水辺が近くにあるなら
そこに逃げてくれてない、かな
ふわふわ、漂って、上から人影を探したり
物陰や、崩れた建物の隙間を覗いたり
家の中なら、蔵とか、地下とか
隠れられそうなところを
だれか、いない…?
いたら、返事をして
折り重なった、ヒトの中に
埋もれている子は、いない?
鬼の足跡が付いてないところに
上手く、隠れているヒトは…?
…可能性は、いくつもあるから、捨てないよ
血の、新しいところを辿ったら
それが一番、最近に通った場所じゃない、かな
行く先ならそちら、だけど
神酒坂・恭二郎
【POW】
「やれやれ。いやな話だねえ」
飄々と語りながらも気分は悪い。酒が不味くなるやり口だ。
無駄足を踏むかもしれないが、生存者も探してみよう。何か話が聞ければ捜査も進むだろう。
しばらく犠牲者の痕跡を調べ、念動を用いてトンネル掘りで埋葬する。
その後に目を閉じて【力を溜め】て【失せ物探し】。静かに瞑想し不意に剣を抜いて地面に刺せば、青いフォースの【衝撃波】が【誘導弾】になって、緩やかな速度で導いてくれる。
「手掛かりが無さすぎる。精度は三割あれば上等か」
光について周囲を探って情報収集。もし、生存者が発見できれば【礼儀作法】で聞き取りをしたい。
【アドリブ、連携歓迎】
●四斬
息を、吸い込めば。
それだけで鼻の奥へと粘着質に纏わり付き、それだけで肺は燃えるような熱を感じた。
(……血の、におい。焼け焦げた、空気)
不快、と一言で括るにはどろどろとし過ぎていて。
気持ち悪い、と一言で捨てるには生々し過ぎていて。
(……早く、生きてるヒト、探そう)
表すには難しいけれど。この場所は――良くない場所に、なってしまったから。人でない熱が充満している中で、いるかもしれない誰かを探し出して。早く、離れたかった。離して、あげたかった。
「手伝って」
海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)がお願いすれば、ぶわり空に広がる小さなナニか。ふわふわふわふわ漂いながら、四方へ散りゆく、それは。いっぱいにまで呼び出した、【エレクトロレギオン】の海月たち。
上から見える人影は? 崩れた家屋の物陰は?
家の中にも隠れられるところがあるかもしれない。どこか、どこかにいてくれないだろうか。
他にも例えば、折り重なった――重ねられた――ヒトの中、とか。
そこかしこで燻り続ける炎は、機械やデータの自分たちにとっても危ないものだけれど。可能性など、こうして考えるだけでいくらでもある。だから……捨てないと、決めた。
願わくば、燃える赤の届かない、水辺にでも逃げてくれていれば――。
「……なにか、見つけた?」
ふよふよふよふよ近付いてきた、海月の触手が示した先をびいどろが見やれば。
――なにやら青々とした輝きが、地を緩やかに照らし出していた。
少々遡って。
「やれやれ。いやな話だねえ」
どこまで見ても、目に映り込むは悲劇ばかりで。いかに死生に執着のない在り方であっても、これでは気が滅入るというものだと。神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)は独りごちる。
口に出すのは飄々と。されど内側は沸々と。全くこれでは、酒が不味くなるじゃあないか。
「生存者生存者、と……ここらにはいないか」
溜息の先には、斬り飛ばされた臓腑やら肉片やらと、それに集る蝿。焼くなら焼くで、きっちり行えばいいものを。見たくもないものを見せ付けてくれるとは、彼奴の雑な対応が嫌になる。
「この辺りの葬儀にゃ詳しくはないが、放置するよかマシだよな」
ここで得られる手がかりも特になさそうだ。それなら、せめて。
意識を高め、なおかつ集中。犠牲者の下の土をがさっと周りに動かしてから、今度は上に被せてやれば。念動力、【サイコキネシス】を用いての、埋葬の完了だ。
「安らかに眠ってもらいたいもんだが。そのためにも」
残された誰かがいるなら見つけてやらなくては、と。恭二郎は高めた意識をそのままに、更に深く。更に遠く、あるいは近くへと。
集中して、落ち着けて、沈ませて、浮かび上がらせて――。
「――――――」
不意に、どす、と己の得物を地に突き刺した。
「……手掛かりが無さすぎる。精度は三割あれば上等か」
すれば、実体のない光の剣から、茫と溢れる青の色。
流れ出したそれは地をゆったり確かめるような速度で走り、まるで恭二郎を導くかのように行く先を照らしてみせた。
精度からして賭けと言えば、賭けではあるが。不安定であっても指針はあるに越したこともない。我武者羅でしか得られぬ結果というものもあるが、その逆もまた然り、なのだから。
「……それは、探知の魔術?」
「ん? 今の役割は近いが、魔術とは別物だな」
光を見て何があったかと確かめに来たびいどろは、返答を受けてとりあえず恭二郎と同じように光を追ってみることにした。どの道しらみつぶしに探すつもりでいたのだから、探知の手段があるのなら、そちらに手を回さない理由もない。
しばし、そのまま歩みを続けていると。
「ここで止まった……ってことは、示されたのは」
奇しくもそれは、びいどろの予感にもあった――放られ作られた人垣の中、だった。
「だれか、いない……? いたら、返事をして」
「俺たちは人斬りじゃあない、助けの手だ。隠れているお前さんには、引っ張り出されるための手は残ってるか?」
なら、ここは一丁高く突き出してくれよ。
二人共に呼びかけながら、びいどろは呼び出した海月で、恭二郎は念動力で。積まれた人を崩さぬように――壊さぬように。少しずつ慎重に、遺体を運び出していると。
もぞり動いた中の方から、おずおずと。手……までは、いかないが。指がいくらか、外へと出てきた。
「…………あ、あいつの仲間じゃない、のか……? 本当に……?」
「仲間だとしたら……たぶんもう、キミを斬ってる、かな」
「そ、外に出た途端にばっさりやるつもり、とか……」
「いやあ、こうして見えているんなら、出るまで待つ必要もないんじゃないか」
それもそうかと、ようやっと納得したのだろう。今度こそ伸ばされた腕を恭二郎が引いてやれば、青年がひとり中から抜け出た。
やや火傷は負っているが、大事には至っていないようだ。
「あ、ありがとう……いつ斬られるか、いつ焼かれるかと、気が気じゃなかったんだ……」
「命あったなら幸いだ。……何があったか、聞き取りをしても構わないか?」
助け出されたとはいえ、未だ怯えに絡み付かれている青年。刺激してはいけないと、恭二郎はあくまで強制はせず、様子を窺う。
「……辛いなら。場所を移してから、でも」
「俺は……大丈夫だ、話せるよ。……こんな無様な真似をしてまで拾った命なんだ。ここで自分を優先したら、それこそ皆に、顔向けできない」
心配してくれてありがとう、と顔を向ける青年。
びいどろには、生き残るためにもがくことが無様だとは思えなかったけれど。きっと、彼はその言葉を望んでいないような気がしたから。口に出すでもなく、胸に秘めるでもなく、ただ――頷いて、返した。
「……あいつは、突然現れて――――」
彼は語った。悲鳴と家が燃える音や匂いに、寝ていたところを叩き起こされて。外に出てみれば、そこは既に阿鼻叫喚の図であったと。
大半の村人は眠っている間に殺されたのだろう。僅かに残った者も、次々追われて斬られ、焼かれていったと。
「俺の家も、飛び火で見事に焼けちまった。直感でここに隠れなきゃ死んでただろうな。……なんか、悪い。言い出したものの、使える情報なんて……あ、いや、そういえば」
なにやら悩んでいるようだが、些細なものでもありがたい、と恭二郎が後押しすれば、ぽつりぽつりと口を開く。
「気のせいかもしれないけど、あいつ……刀ばっかり使っていたんだ、銃も持っていたのに。全く使わないわけじゃないんだが、『止めを刺そうとする時は必ず刀だった』……と、思う」
癖か、流儀か。その辺りは不明だが、ここに現れた個体の特徴なのかもしれない。それを踏まえて挑めば、有利に戦える場面も、恐らくは――。
「少しは、助けになれたか……?」
不安げな様子の彼に渦巻くもの、それは恨みや憎悪でなくて。痛みや悲しみでもなくて。
……『贖罪』。そんな言葉が、浮かんで来たけれど。これも、きっと。
だからびいどろは、ただ、それを受け止めるように――頷いて、返した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
宇迦野・兵十
花の盛りも近かろうに、何が楽しくてこんな事すんだか。
だが辻斬りにしちゃ派手だ、鏖殺しにしちゃやりかたが雑。
何かを探してる、か。
いやだいやだ。人の体を斬り捨てて、見つかるもんざななかろうに。
【POW】
生き残りがいるとすれば…土蔵か。
多少壊れてても中に生き残りがいるかもしれない。
[折紙呪法]で作った鶴や蛙などの折り紙を放ち、
土蔵に生存者がいないか探そう。
もし土蔵の中に埋まってようであれば、鈍刀の出番だ。
[鎧砕き]で壁や扉を叩き斬る。まぁ、邪道な使い道だが勘弁してくれ。
生存者がいれば、よくも悪くも興奮状態になってるかもしれない。
その時は[誘惑]して、気を落ち着かせようかね。
落ち着きな、僕は味方だよ。
●五斬
「花の盛りも近かろうに、何が楽しくてこんな事すんだか」
風に乗って飛んで来たものをぱっぱと払い落して。宇迦野・兵十(きつねさん・f13898)は憂いを見せる。
ひらりひらりと舞い散るが花びらであれば良かった。しかし実際は炭だか焦げだか、だ。光景として、なんとも味の悪いこと。
「だが……」
それにしてもと、改めて村の中を見回せば。情けも区別も知らんとばかりに、ざっくりばっさり斬られて焼べられて。
斬るが目的か? いいや、にしては作りが派手に過ぎる。
殺すが目的か? いいや、にしてはやり方が雑に過ぎる。
「何かを探してる、か」
斬るもついで、殺すもついでとなれば。自然、他に求めるものがあるのだろう。兵十には、それが何かは分からなかったが。
「いやだいやだ。人の体を斬り捨てて、見つかるもんなんざなかろうに」
斬ったところで人は人。ひっくり返して見てみたとして、映るものなど知れている。それが見たいでもないのに、斬る意義など、どこに。
どうにも胸奥をいがいがと突かれているような、気持ちの悪い感覚を覚えて。さっさと用事を済ませてしまおうと、兵十は土踏みゆく足を早めた。
生き残りが居るならこのあたりだろうか。兵十が訪れたそれは、土蔵。食料やら酒やらを保管するための建物であれば、それなりに隠れるスペースもあるし、ある程度火にも強く作られているはず。
「それでも少ぉし焦げてはいるが。なに、多少壊された程度なら希望もあるさね」
がらり開いて中を見やれば。大量の空樽や崩れた蔵の一部なども降り落ちて、外見以上に散々だ。試しに呼び掛けを送ってみるも、反応はない。となればここは。
霊験感じる紙を取り出し、慣れた手つきで折り成されるは、小さな鶴やら蛙やら。ばさり飛び立ち、あるいはぴょんと飛び跳ねて。人はどこだと蔵の中を確かめて回る。
「さてさて、塩梅は」
……と、待つというほどの時間も経たぬうちに、蛙が一匹戻って来た。
付いてゆけば――なるほど。溢れ返った諸々の下部で、もぞりもぞりと樽が揺れている。中に隠れたは良いものの、落ちたその他で埋もれて出られなくなった様子。
「……押さえ付けている上を叩き斬るか。刀としては邪道な使い道だが。まぁ、勘弁してくれ」
兵十にて、かちゃり引き抜かれた鈍き刀。潰れた刃は鋭く斬るには不向きなれど。砕くがごとく斬るならば。
――ごどん。
頑丈な洋剣を打ち当てたかのような音が響くと同時。樽の蓋が、数時間振りに開かれた――。
「もう、落ち着いたかい?」
「…………はぃ」
樽から出てきたこの少女。当初は状況への混乱興奮で、刀持つ兵十を見るなり、蔵が震えるかと思うほどの勢いで叫ぶは喚くは。
敵じゃないよ、味方だよ、と。幼子をあやすように優しく優しく根気よく声をかけ続けて、やっとこさ話ができるまでになってくれた。
「……えと。お父さんが呼んで来てくれた人、じゃ、ないですよね」
「お父さん?」
「助けを呼んでくるから、蔵に隠れていなさいって言われて……」
今、村の惨状を知っているのは、猟兵たちのみ。つまりは――助け求める声も、斬り捨てられたのだろう。
「……そっか。うん、大丈夫です。分かってました」
父のことを知らぬのならば、やはりそういうことなのかと。
言うも野暮かと兵十も指摘するを避けたが、樽から出る以前よりあったであろう、泣き腫らした跡に。少女の諦念が、見て取れた。
「あの。少し壁とかが斬られている通り、あいつ一回ここに来ていて。でもあたしは見つけられなかったから、たぶん『気配とかにはそんなに鋭くない』と、思うんです」
ずっと隠れていたから、それくらいしか分からないけれど。そう、申し訳なさげに項垂れる少女へ。
「ありがとう、十分に値千金の情報だ。……それより」
大丈夫なんて言葉。無理に使わなくて、良い。
そっと頭を撫でてやれば――無理矢理に押し留めていた感情は、もう。溢れ出して、止められなくて。
もう一度、蔵を震わせた。
成功
🔵🔵🔴
第2章 冒険
『真夜中の辻斬り』
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POW : とりあえず怪しそうな人物を引っ捕らえる
SPD : 何か情報を知っている人がいないか聞き込みする
WIZ : 罠や囮などを使って辻斬りを誘い出す
👑11
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●斬り斬りと
敵の向かった方角は絞り込めた。道からは外れて進んでいるようだが、町を目指しているのなら、やはり最終的には街道へ抜けようとしているらしい。追って、探し出さねば。
最短距離として、直接敵の通った道なき道を強引に突き進むも良いし。急ぎ街道との合流地点付近へ先回りして、探し出すも良いだろう。
道中に人がいるなら、人斬りへの警告ついでに、それらしき人物を遠目にでも見かけていないか尋ねてみることもできる。
あるいは敵を誘い出してみたり、進行を遅らせるような策を考える手もあるかもしれない。
他、追うに有用そうなことならば、何でも試してみるべきだろう。
何れにしても、街道へと抜けられる前に戦闘にまで漕ぎ着けられたなら――もう、誰も斬られずに済むはずだ。
○補足
第2章のプレイングについては、「こんな道を通った」「こんな人と会った」等、自由にご設定ください。反映して問題なければ反映いたします。
判定そのものはあくまでダイスに従いますので、プレイング内で障害を設定したとしても、マイナスの影響はありません。プレイングボーナスによるプラスの影響はあり得ます。
設定例:酷いデコボコ道だった。/夜中から走る飛脚に会った。
そのあたり、まるっと投げていただくのもOKです。
それでは、よろしくお願いいたします。
アテナ・カナメ
なんとか生存者がいてくれてよかった…
【行動】敵の通った道を辿って周囲の人達に話を聞くわね。「すみません、ちょっとお聞きしたいんですけど…」「ここは辻斬りが出るらしいので用心してくださいね。」
【出会った人】岡っ引きらしき男性。子供連れの母親。
花盛・乙女
■POW
最短距離は奴の跡を追うのが一番だろう。
【黒椿・乱形果】を使い、耳と鼻とで「追跡」すればより確実だ。
とはいえ、こいつにばかり頼るのは面白くない。
私自身も「聞き耳」と「ジャンプ」を駆使して獣道を進もう。
この真夜中の獣道、道中に人あるとすればそれはまつろわぬ民。
私の里に同じく、この太平の世にあって一族の誇りを失わぬ民だ。
無事ならば良い、通った奴の話を聞くだけだ。
怪我をしていれば…「戦闘知識」程度の治療を施そう。
亡骸ならば、足を止め、墓を作り弔おう。
彼奴めの求めるものは一体なんだ。
あれ程の所業を目にしてなお、私は悪意を感じられていない。
…未熟ということか、それとも…私もまた…鬼ということか。
●一足
草を掻き分け葉を掻き分けて。
獣が踏んだ跡はあれど、それだけでは人が通るには心許無くもあったが。それでもこれが最も短く手っ取り早いと判断し、人斬りが去ったであろう道を直接辿る。
「トリアエズハコノママ正面ノ道ダナ」
「奴の匂いが絞り込めたか?」
追跡とあらば役に立つはずだと、花盛・乙女(誇り咲き舞う乙女花・f00399)は引き続いて化生を呼び出していた。
「アア、仄カニ血ガ香ッテ来テヤガル……マタドッカデ動キ回ッテネェトイイガ」
化生の耳と鼻は確かなもので。【黒椿・乱形果(クロツバキニヤドルアシキオニ)】、予想に違わず良い働きをしてくれる。まだ音を捉えるには至っていないものの、鼻で追える範囲ならば、苦労はしても取り逃す心配はなさそうだ。
が、それだけに頼るというのも乙女としては面白くない話で。
「……待て、人の声だ」
「ン? ……言ワレテミレバ確カニ聞コエルガ、向カウノカ?」
耳を澄ませば微かに拾えた、誰ぞやの声。進む道から外れるならば捨て置いたかもしれないが、どうせ通りすがる近くならば少々話をしても損はあるまい。
折角自分が先に気付いたのだから、という意識もまぁ、全くないではないが。当然優先すべきの分別はついている。実りなければ早々切り上げるだけのこと。
「情報ひとつでも得られたならば御の字だ。行って来る」
「ナラ、ソコラノ草ニデモ紛レテ潜ンデオクカ」
自分が出ては話がややこしくなるかもしれないからと、自然とほぼ同化した煙を背に。乙女は耳に従って歩みを進め始めた。
「ここは……たぶん、こっちね」
アテナ・カナメ(アテナマスク・f14759)もまた、人斬りの道を直接辿ることとした内の一人であったが。猟兵たちは一塊で進むでなく、ある程度散開して捜索を行っていたため、乙女とは別のルートで進んでいた。
というのも。彼奴はどうも道中で何か見付けたのか、そして追ったのか、真っ直ぐでなくふらふら彷徨うような動きをしていたようで。匂いから痕跡からばらばら散らばってしまい、手分けせざるを得なかったのだ。
連絡手段が用意できた、というのも理由の内ではあるが。その話は後の機会にするとして、今はアテナ……アテナマスクの、行動に戻る。
「踏まれた草から汁が滲んでる。すぐ前に誰かが通ったのは間違いなさそう」
幾度となく踏み固められてできた獣道、とも違うようだ。自分と同じ、強引に掻き分けて進んだ痕跡。
さて、鬼が出るか蛇が出るかと辿って、辿って――。
――がさり。
「……あら」
やや視界の開けた場所に出たと同時、目に映るのは人の姿。
見た目からして彼奴ではない、それは分かるのだが……。
「あんた……どちらさんで?」
こちらへと突き付けるように構えられた十手。この男性は御用聞き、というやつだろうか。更にその後ろには、怯えた様子の少年を庇うように立つ、女性。子供が「父ちゃん」と零したのを聞くに、家族に見える。
なぜこんなところに? アテナマスクとしても質問をしたくはあるものの、尋ねられたならば先に答えなければなるまい。
「私はスーパーヒロイン、アテナマスク!」
「すぅぱぁ……?」
意味合いは伝わらなかったようだが、その立ち振る舞いから悪人ではなさそうだと思ったか。男性は十手を懐へと戻しつつ、息を吐いた。
「変わった格好だが、妖(あやかし)やらの類じゃあなさそうだ」
「ええ、もちろん。それで、すみません、ちょっとお聞きしたいんですけど……」
ひとまず、この辺りで刀やら携えた怪しい人物を見なかったかと。協力してもらえるよう丁寧に聞いてみたところ、やや顔を険しくしながら「知らねぇな」と一言で返された。これは、何かありそうだ。
「危険な辻斬りなんです。些細な情報でも良いので、教えてもらえませんか?」
「……俺らはここに迷い込んだだけなんでね。帰り道探すのにいっぱいいっぱいで、人なんて気にしてる余裕は――」
「――確かに、余裕は持っていないようだ」
不意に投げられた声に、ぎょっとした男性が目を向ければ。茂みひとつをひょいと跳び越え、乙女が姿を現した。
「身の熟しからして忍びの者、あるいはそれに連なる者であろうに。声掛けるまで私の気配に気付かないとは、な」
密かに見ていただけでなく、それまでの話も聞いていたようだが。はてさて、忍びとは。
「あんたいきなり出てきて、なにを……」
「その衣服」
言い逃れるを阻止するように、言葉を前へ。
「まるで着替えたばかりのように、葉の一枚はおろか土の跡さえ付いていない」
変装術そのものの出来は悪くないが、状況に合っていないのだ。そう続けられて、男性は――女性と少年含む三人は、各々取り出した短刀やら苦無やらを手に――。
「ま、待って! あなた達と争うつもりなんてないわ!」
「…………そちらさんは?」
「私も、ない。しかし、煙に巻かれるわけにもいかないのだ。ゆえに指摘させてもらった」
そうですかい、と男性が十手を下ろせば、後に二人もそれに続いた。先ほどから受け答えをしている彼がこの中のリーダーであるのだろう。
「まぁ、さすがにこの格好じゃあ誤魔化すにも限度がある。……分かってはいたんですがね。他の服は、辻斬りとやらから逃げるための囮に使っちまったんでさぁ」
「……やっぱり会っていたのね」
白を切るつもりだったが、こうまで追い詰められては逃れることも叶わない。ただでさえ疲労が溜まっているのだ。もう一度逃走劇へと舵を切ったところで。
願わくば、本当に力に訴えるような人物でなければ――。
「生き残ってくれてよかった……」
「……え?」
嘘を責められるか、最悪拷問でもされるかと思いきや。アテナマスクから発されたのは、自分たちの身を案じる言葉。声色からも、分かる。彼女の気持ちに偽りなど、欠片も。
そうなると、万一を疑っていたのが馬鹿馬鹿しくなって。……そして、どうにも申し訳なくも、なって。
「なんか……済まねぇな。こっちも崖っぷちだったもんで……」
詫び代わりに、なんでも訊いてくれ。
そう話す顔には、もう。敵意も、警戒も、見当たらなかった。
「なるほど、やはり彼奴は気配の類には疎いのか」
「勘は多少働くようですが、俺らの拙い隠密術も幾らか通用する程度で……大したこたぁねぇですね」
聞くに、彼らはこの付近にある忍びの里から、家族で(そこは偽装でなかった)薬草やらを採取しにやって来たとのこと。尤も忍びと言っても傍流の一派で、三人中一番技術に優れたこの男性も手練れというほどではなく。如何に気配に疎い相手だろうと、死に物狂いで逃げざるを得なかったようだが。
「どっちへ向かったかは分かる?」
「ここからですと……ああ、この道を進めば奴さんの行き先に繋がるはずでさぁ」
諦めて去るまではそこらをうろうろとし続けていたらしく、そのまま真っ直ぐ進んでいたら再び道の判別に悩まされたかもしれない。話を聞きに来たのは正解だったようだ。
「助かった、礼を言う」
「それじゃあ、私達は行くわ。念のため、帰り道も用心してね」
情報を得たなら長居は無用と、急ぎ向かおうとした背中へ。
「奴さん、見た目は人なんですが……ありゃあ、悪鬼だ。……あんたさん方もお気を付けて」
激励のような、憂慮のような――畏れのような、ものが。届いた。
(悪鬼、か)
あれが悪鬼だと言うのならば、己は、いったい何なのだろうか。
彼奴の求めるものも解せず、かといって、その所業に悪意を見出すこともできていない。そんな、己は。
(……未熟ということか、それとも……私もまた……)
鬼。
その一文字が、果たして答えであるのか。この先でそれが分かるという保証も、なかったが。
道をゆく乙女の足取りは素早く、軽やかで――地へ沈むように、重かった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
神酒坂・恭二郎
「頼むぜ相棒」
スペース絵馬ホルダーより星白鮫を召喚し、背の鞍に立ち乗りして手綱を引く。
大気圏内で長時間の活動は出来ないが、反重力泳法で一山二山越える位は余裕なので空から先回りをしたい。
二人位なら希望者も乗せて行こう。
一足先に街につけば、天下自在符と【礼儀作法】で責任者に人斬りの脅威を説明。街道の利用制限を依頼する。良く響く笛があれば仕入れておきたい。
その後は街道を遡りながら、出会った人間に警告と笛を渡し、もし遭遇したら派手に鳴らして助けを呼ぶ様に指示する。
「こんな準備。無駄になるのが一番なんだがね」
気になる場所は幾つもあるが身は一つだ。自分は街道筋の安全を確保しよう。
【アドリブ、連携歓迎】
鵜飼・章
男の子に腕を掴まれた時の感覚がまだ残る
あの子を遺して逝った両親も無念だったろう
仇を討てば何が帰ってくるわけでもないけれど…
【相対性理論】の隼で街道付近に先回りして
待ち伏せが向いている気がするけど
単独で交戦するのは避けたいな
その辺りは仲間と相談したい
別行動する人には鴉をお供させてもらい
情報の相互伝達に活用できれば
僕含め誰かが敵と遭遇したら鳴き声で合図してほしいな
捜索のお手伝いも宜しくね
通行人には自在符を見せて警告し迂回してもらうね
【コミュ力】を活用し情報も聞く
出会う人はMS様にお任せ
生きたいものを生かす
救えないものは殺す
僕はそういうもの
躊躇う心はない
血の冷たさで救える命があるなら
どこにでも行こう
宇迦野・兵十
やっこさんどうやら気配探って人を斬るって訳じゃないな
そこに村があると解ったから
道を抜けた先に畑があり
家があり
人がいたから
だから襲った
随分解り易いね
いやな気分になるくらいに
――だがそれなら手の打ちようもある
【WIZ】
予測できる合流地点に急行する
やっこさん血は嫌いらしい
血を落としてから移動してるなら時間はまだあるはずさ
気配でなく
見て聞いて判断しているのであれば
そうやって見つけたものを襲うのであれば
獲物の居場所を解り易くしてやればいい
街道近くで広くなってる場所を見つけ
周りの木々にユーベルコードで火をつける
もし周りに人がいるようなら町まで戻るように言付けるよ
目印の篝火代わりだ
お前さんの獲物はここにいる
●二足
「頼むぜ相棒」
神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)の手の中で、小さな額が震えて跳ねた。『鮫印のスペース絵馬ホルダー』、描かれたイラストは可愛らしいとも形容できる代物だが。次には見る間に大きさ増して、星々を渡り泳ぐ強靭にして頼もしき姿へと早変わり。
「良く来てくれた。調子は……よろしくないか? 悪いな、そう時間はかからないから力を貸してくれ」
呼び出したのはスペースシャーク、【口寄せ:星白鮫(ホシジロザメ)】。本来なら宇宙空間で真価を発揮するゆえに、大気圏内での活動には少々辛いものがあるようだ。
とはいえ、その程度の障害ならばなんとかしてみせるのが恭二郎の相棒たる所以。己に働く重力を調整し、ほんの数センチと浮かび上がる。機能に問題なし。力を出せば、山のひとつふたつ跳び越えてゆくに不足はあるまい。
「空を飛ぶ鮫とはまた、珍しいね」
己が携えた図鑑の中には、そのような生物の記載はあっただろうか。軽く思い出そうとしてみた鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)だったが、今はそれより移動が優先と、すぐに意識を切り替えた。
それに、他の生き物にばかり目を向けていると。
「嫉妬、してしまうかな?」
ぽふ、と翼を撫でながら、傍に立つ大きな隼へと声をかける。【相対性理論(ソウタイセイリロン)】にて呼び出された、夜闇に紛れる黒の翼。
ちらり隼が章へと流した目線には、別段嫉妬の色は見られないが。それはそれとして、章に構われるが嫌というわけでもないのだろう。撫でられるとは別の翼を、「気にするな」とでも言うように軽く広げて見せて。機嫌はなかなか悪くないらしい。
「どちらもまさにひとっ飛び、ってな具合に速そうだねぇ。やっこさんを追い抜けるかどうかと心配する必要はなさそうだ」
ただでさえ、じゃばじゃばとわざわざ血を洗い落としてから移動しているようなのだから。彼奴が街道まで出るには、時間はまだ十分に。
宇迦野・兵十(きつねさん・f13898)が、さて、と一匹の方に近付けば、恭二郎が星白鮫の背に乗せた鞍を示してくれた。
「向こうまで、お願いできるかい?」
「ああ、乗せるのが一人増えるくらい訳ない話だ」
街道への先回りを選んだ三人。兵十も急ぎそちらへと向かうつもりだったが、星白鮫は複数人でも運べると聞いて、己の足でなく相乗り願うを選んでいた。時間は潤沢、とはいえ行いたい細工もあれば、人払いだって気にしなければならない。より移動時間を短縮できるなら、それに越したこともない。
恭二郎は一旦町まで進むようなので、その途中、彼奴が合流しそうな辺りで降ろしてもらうことにしよう。
「準備も大丈夫そうだね。それじゃあ、行こうか」
ばさり飛びあがった隼。続いて、ふわり浮き上がる星白鮫。
更に後から空に出たのは、章の頼みを聞いて情報伝達役を買って出てくれた鴉たち。彼らはこの場だけでなく、他のルートをゆく猟兵たちにもお供してくれている。各々の邪魔をしないよう空から追って、敵と遭遇したなら鳴き声で合図を出す手筈だ。
「そちらの子には窮屈な思いをさせて申し訳ないけれど、鴉たちは宇宙まで付いて行けないからね……」
「なぁに、元よりこの距離なら星を出るまでもないし、それで音を上げるほどやわな相棒じゃないさ」
なあ? と恭二郎が聞けば。星白鮫は、ぎらん、と輝く牙を剥いて応じてくれた。肯定の意であるらしい。
「はは、頼もしいね。……とと、乗り心地は不思議だが、なるほどなぁ。これは少し癖になりそうだよ」
ふんわりふわり、飛ぶではなくて泳ぐという感覚は独特のもので。されど、隣をゆく隼だって空走る優雅さでは負けていない。良い経験だ。景色を楽しみながら遊泳するには、最適な瞬間なのだろう。
――このような時でなければ、本当に。
そんな兵十の思いは、きっと。この場の誰しもが――。
「お疲れさん、だ。ゆっくり休んでいてくれ」
街道で一度二人と別れ、町まで進んだ恭二郎。いきなり町中に着陸しては、夜中と言えど混乱が広がりそうで。ひとまず入口辺りに降り、星白鮫は絵馬に戻して休憩してもらうことにした。
さて、ここで探すべきは。
「街道の利用を制限できるだけの、責任者……だな」
もしくは、そこへ情報を届けられる者でも良いだろうか。一刻を争う事態ゆえ、盥回しだけは避けたい。テキトーな相手では駄目だ、適当な相手を探さねばと。天下自在符を手に握り、夜に静まる町をゆく。
……すると。
「――その手の紋所。そんなものを握っているとなれば、どうもただ事じゃあないようだが。何かあったのかね」
たまたま何か外出の用事でもあったのか、がらり開けられた家の戸から、老人がひとり顔を出した。
「火急の要件、だな。この町の要職者に会いたいんだが、どこへ向かえばいいか教えてもらえるか?」
「では……儂が聞こう。一応はここの町名主だ、多少は各所に顔も利く」
出会ったが町名主とは、幸いであった。符のおかげで軽んじられることもないだろうが、恭二郎は失礼のないよう礼儀も意識し、近くの村で起きた出来事と、迫る脅威を――説明、し始める。
語れば語るだけ気が悪くなる。……いっそこれが騙りであってくれればと、詮無きことさえ頭に過りそうになった頃、話を把握し終えた老人が重々しく頷きを見せた。
「……子や若者の数名を残して皆殺しか。承知した、町から街道へ出る者がないよう、見張りは手配しておこう。あとは良く響く笛、だったな?」
「ああ。……こんな準備。無駄になるのが一番なんだがね」
既に街道をゆく人々へ、警告と共に渡したいのだと言えば。「鳥の鳴き声がする玩具にはなるが、そこの店で取り扱っていたはずだ」、とのこと。
「何から何まで済まないな、助かる」
「良い。……助かったのは儂らの方ゆえな。頼り切りにはなってしまうが……人斬りのことは、頼む」
あの符を持つ者が警戒を促す相手とは、つまり自分たちで解決できる範疇にはないのだと。そう正しく理解して、頭を下げる老人から。――ぎり。不意に聞こえた歯の軋む音に、恭二郎は何か滲み出すような悔しさを感じて。なんとなく、分かった。
きっとあの村に、誰か。縁者か、見知り合いが。
「――任せてくれ」
それごと、背負っていってやる。
……そうして走り去る背へと。老人はもう一度、深く頭を下げた。
「人影は……ちらほら、と表すよりは少ないか。いや、夜中の割には多いのかね?」
「………………」
滞った返事に。兵十が、おや? と章を見やれば。なにやら自分の腕に手を置いて、考え込んでいる様子。
「……おっと、ごめんね。少しぼうっとしていて」
構わないさ、と返した兵十も。なんとなく、察しは付いているのかもしれない。
章の腕に残る感覚。あの村の生き残りである少年に、掴まれた時の。感覚。
遺されたあの子の悲痛も。あの子を遺した両親の無念も。思えば思うだけ、伝わってくるように感じてしまって。
(仇を討てば何が帰ってくるわけでもないけれど……)
それは、それだ。
自分は利のために討つを選んできたのか? ――いいや、まさか。
「……とりあえずは、人払いから、かな。これくらいの人数なら、僕ひとりでもなんとかなりそうだ」
「ああ、それなら頼らせてもらってもいいかい? やっこさんのために目印を作ってやりたくてね」
まだ彼奴の姿は見えない。分担する、といっても互いに目の届く範囲のことだ。万一の事態もないだろうと、すぐにそれぞれ行動を開始した。
「ちょっと、いいかな?」
「うおっ……なんだ兄さん、何か用か……?」
章へ向けられた警戒の目。夜中に声をかけられては無理もあるまいが、そのあたりはやはり天下自在符で解決されるものだ。
「僕は、こういう――」
「へ? ……な、こりゃあ、あんた……!」
慌てて平伏しかけた青年を、それでは話が進め難いと諭して、どうにかこちらへと向き直らせる。あとは人斬りについて伝えて、この街道を通らないよう警告して……それで、完了だ。難しいことじゃない。
「この道に人斬り、ですかい。それは……参ったな、この先の村まで行きたかったんですがね……」
「……村まで?」
あそこ以外の村があっただろうか?
……そんな思考は、ただの無駄だと。分かってはいるが。
「ええ、ちょいとね……へへ、幼馴染ってやつに会いに行こうかと。朝から顔を出して驚かせてやりたかったんですが、そういうことなら日を改めますよ」
ご忠告どうも! と町へ退き返す青年へ。章は、ただ……「気を付けてお帰り」の一言だけを、送る。
幼馴染と口に出した彼は、随分と、嬉しそうな顔をしていて。あれは、異性への好意だろう。そんな気がした。
けれど生き残った中に。彼と同年代の女性は。
「………………」
彼は、救えるものだった。生きられるものだった。ゆえに救われた、生かされた。
では、救えないものは。
(殺す。僕はそういうもの)
躊躇い抱く心など、己が内には。
ああ、だから。ゆえに。血の冷たさで、救える命があるというのなら。
どこにでも行こう。どこにでも行ける。
仇を討てど、帰るものはないが。――誰かの気は、僅かばかりでも晴れるかもしれない。それで、十分だ。
街道近く。彼奴が来るであろう方角へと少しだけ進んだ地点。
目印にはここが良いだろう。多少石が転がっているが、戦うに支障ない程度の広さもあるし、周りの木々には上手い具合に枯木がいくつか交じっている。乾いているなら、『燃やす』のも容易い。
というのも、彼奴が気配でなく見て聞いたままに動くのであれば。単純に、見てすぐ分かるよう目立たせれば良いのだろうと考えたからだ。
そしてそれは、恐らく正しい。
「――これでよし、と。……ああ、いい灯りだね」
まるで誘蛾灯のように鮮やかだと、兵十は思った。尤も、寄ってくるのは蛾なんてものよりも、尚質の悪いモノだが。
ふよふよ浮かぶ【フォックスファイア】。火付けに使ったそれの余りを、手持無沙汰にくるくると周りに走らせて。兵十はこれから来るであろう存在を思う。……想う。
そこに村があった。畑があった。家があった。人がいた。
だから、襲った。
(随分解り易いね。いやな気分になるくらいに)
おかげでこうして対策は取れたが、それだけで胸がすくはずもなく。
むしろ彼奴を待つこの時間の中で、ますます重苦しく焦がすように纏わり付いてきて。……まるで、粘つく熱泥のようだ。
「お前さんの獲物はここにいる」
何処となく、何処へでも。呟きが風と熱に乗って届けばよい。
せっかく篝火代わりの目印まで置いたのだ。あんまり長くは待たせてくれるなと、今兵十が願うはそれだけのこと。
枯木が爆ぜた音がして。跳ね火が足元へと散り続けて。
だから、ああ――――早く、来い。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御剣・刀也
POW行動
たく、獣道を突っ走ってきたが、あいつはどこに嫌がる?
痕跡をたどってきてみたが………まだそう遠くには行ってないだろう
とにかく、街道に出る前にとっ捕まえねぇとな
大量の人を斬ってるので血の匂いがする刀を持った人物を探す
どんなに水で洗っても血の匂いはそう簡単には落ちないもの。まして大量に斬ったのであればなおのこと。洗えば刀の錆の原因にもなる
なので、錆び、もしくは血の匂いがする刀を持った人物を見つけたら声をかけてみる
「よー、あんた、血と錆の匂いがするけど、どうしたんだい?」
当たりなら
「てめぇに報いを届けに来たんだよ」
外れなら
「そうかい。邪魔して悪かったな。良い旅を」
と別れる
八坂・操
【SPD】
理不尽な暴力! 過度なゴア描写! 唯一のキャラクター性! こりゃB級映画の要点が揃った名役者だね、きっと☆ 今から会うのが楽しみだ♪
……そう、全てはフィクションの中だからこそ映えるもの。スクリーンの外に持ち出すものじゃあないんだ。
「るーるるー るるる るーるるー るるる るーるーるーるーるるー♪」
【追跡】した方向を見るに、件のオブリビオンは町を目指してるみたいだね♪ 道なき道を行くなんて、まるで獣みたーい☆
ま、操ちゃんは怪糸で飛んでくけどね♪ 【逃げ足】の応用で、ワイヤーアクションもビックリな位びゅんびゅんびゅーんってさ☆
……そう、人様が畜生の足に合わせてやる必要なんてないんだ。
守田・緋姫子
wizで行動
辻斬りのオブリビオンか。やはりあいつらはロクな奴がいないな。見つけ出して始末してやる。
見つける方法だが、ここは罠を張ろう。幻の民家を作り出しておびき出してやる。
建物はユーベルコードでなんとかするとして、住民役は浮遊霊をエキストラにスカウトしよう。わざと灯りをつけておけば目立つだろう。
罠を張る場所も、件の辻斬りを見たことがある辺りの霊を探して、通りそうな場所を聞こう。辻斬りの犠牲者の霊が近くにいればベストなんだがな。
●三足
辻斬り人斬り人で無し。
オブリビオンなど、どいつもこいつも押し並べてロクな奴がいやしない。
考えるだけ業腹だ。知った傍から鬱積だ。
「見つけ出して始末してやる」
ゆえに辿り着くシンプルな結論。守田・緋姫子(電子の海より彷徨い出でし怨霊・f15154)は己自身もまた、彼奴等と同じく腹立たしい存在であると認識しているのだが。だからこそ、尚更に見るに堪えなく感じてならない。
終わった存在が今へと滲む? 終わっている癖に未来を圧迫すると?
「気に入らない。ああ、全く、気に入らない」
だから、ならば、そうだ。突き付けてやろうじゃないか。
――化け物を殺す化け物も、いるのだと。
「そのために、力を貸してもらうぞ。お前ら、何かここを通るものを見たか?」
緋姫子の放った声の先。もし誰かが目を凝らしたところで、見えるものなど木か草程度のものだが。見えないものならば、そして、緋姫子には見えるものならば。ほら。
『トオッタ。トオッタ』
『ヒトノカラダ。オニノカオ』
世に留まり続ける人の成り果て。肉を失ったその先の。
要は、霊魂と呼ばれる、それ。
「そうか、ならやはりこっちだな」
緋姫子が扱うは死霊術。命の軛から解かれた彼らは、その全てが確りとした情報を持つわけではなかったが。尋ねた内のひとりでも有用なものを持っているなら、それだけで彼奴を追うには事足りる。
欲を言えば、直接の犠牲者がいてくれればと思わないでもなかったが……。
(あの村以前は良く分からんが、少なくとも以降は斬っていないか。斬れていない、の方が正しいのだろうが)
所詮は獣道。ほとんど誰とも会わずに進んだから、人は斬っていないだけのことだろう。
ともあれ追跡は順調。この分なら、直接追い付くこともできないでもなさそうだが。こちらの狙いは罠、誘き出し。となれば、追い抜いて待ち構えるくらいがちょうど良いか。
……もう、ここまで来れば概ね方角も絞れた。辺りを漂う霊ならば、適切な抜け道に詳しいものもいるはずだ。
(せいぜいあり得ないはずの『今』を楽しんでいろ。すぐに、終わりを見せてやる)
霊に尋ねて、道を切り替え。茂みを踏み越え、駆けてゆく――。
「るーるるー。るるる。るーるるー♪」
ハッピーご機嫌! エンジョイ追跡!
空ゆく姿はアクション俳優だってスタントマンだってワイヤーアクションだってビックリさ!
「びゅんびゅんびゅーん☆ 操ちゃんのあとに付いて来られるかなー?」
あ、違う違う、操ちゃんがあとを追ってるんだった! ふふふ。うふふふ。楽しいなあ。ほんとほんと。
ひゅるり木々に巻き付いた糸を繰り、器用に自分の体を引き飛ばす。頑丈な特殊合金製の『怪糸』ゆえにできること。
「いやーそれにしても! 理不尽な暴力! 過度なゴア描写! 唯一のキャラクター性!」
思い出す、村の光景。思い出す、村の残骸。
村だったものが重なり落ちた、人だったものの廃棄場。
「こりゃB級映画の要点が揃った名役者だね、きっと☆ 今から会うのが楽しみだ♪」
八坂・操(怪異・f04936)はとても映画が好きだ。玉石混交の中から玉を見つけた時といったら、もう。石だったとしても、それはそれで。
フィクションというものは良いものだ。あり得ないことがあり得る。何その矛盾、すごくない? スクリーンにそれが表現されるなんて、すごくない?
そう、本当にそうだ。
「……外に持ち出すものじゃあない」
全てが虚の中であるからこそ、だと言うのに。
何を仕出かしてくれているのだろう。
「…………るーるーるーるーるるー♪」
ハッピーご機嫌。エンジョイ追跡。
ブレーキかけるはもう少し先だ。色々と。
「――おっとぉ! びゅんびゅんし過ぎちゃった☆」
ちょっと気を取られた隙に、いつの間にやら道をぽーんと抜けていたらしい。ブレーキは意識から外していたので、そのまま惰性で少しばかり飛び続けている。
見れば他の猟兵も目に映った。つまり、この辺りにいればそれでOKであるのかな? なら、飛び続けたのはむしろ幸運だったか?
にしても。
「操ちゃんが飛んで来た道、まさに獣道だったね☆」
びゅーんと飛びつつ、またもや器用に振り返ってみる。道なき道。人が歩くには適さない、そこ。
「……そう、人様が畜生の足に合わせてやる必要なんてないんだ」
もうそろそろ着地の時だから。
ブレーキかけるも、同じく。そろそろだろうか。
そんな道なき道の中。歩くとしたら、やはり理由もあるもので。
「たく、獣道を突っ走ってきたが、あいつはどこに居やがる?」
彼奴がうろつき続けたせいで、雑多に富んだ痕跡をどうにかこうにか読み取りながら、御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)は確かな足取りで進み続けていた。
痕跡を隠す、という思考が彼奴になかったおかげで道を辿るに苦労はないのだが、辿れる道そのものが多すぎる。撹乱のための作戦であるなら、なるほど、良い手ではあるだろう。考え無しであるのは一目瞭然だが。
「やれやれ……とにかく、街道に出る前にとっ捕まえねぇとな」
とはいえ、痕跡そのものはまだ新しいものばかりだ。そう遠くはあるまいと思えば、刀也は自然と鼻で匂いを探していた。
水で洗った程度で、血の匂い全てが落ちるわけもない。錆の原因にさえなる。ましてや、あれだけ斬っているのなら――。
「――随分と、濃いな。しかしこれは……」
捉えた匂い。間違いなく、血だ。血、なのだが。
当たりか、外れか。全く以て判断が付かない。なにせ。
「……いや。行くだけ行ってみるか」
がりがりがり、と。道標として木々に軽く傷を刻みながらゆけば。
すぐ、そこへは辿り着いた。
「よー、あんた、血と錆の匂いがするけど、どうしたんだい?」
「あん? なんだぁこんなとこに人とは……いやな、見てくれよこれ」
迎えてくれた男は、旅人だろうか。刀は刀でも、手に持つは短刀。錆もまぁ、あるが……単に、そこまで丁寧に手入れをしていないだけに見える。
それよりも――。
「猪か。胴から真っ二つとはまた……」
「そうなんだよ、処理するでもなく捨て置かれていてなぁ。どうにも哀れなんで、使えるところだけ解体して、あとは埋めてやろうかと思ったのよ」
お前さんも要るかい? 男のその言葉には遠慮を示しつつも、刀也は猪の亡骸をざっくりとだが観察してみた。彼奴の仕業には違いないだろうが、何故。
(苛立ち紛れ、にしては丁寧だが……斬りたくて斬った、にしては雑だ。……どういうことだ?)
なんというか、そう。「最良ではないものを、妥協して斬った」かのような――。
――そうか。
(人の方が良いが、最悪人じゃなくても良い、か。……獣も人も見境なしとは)
ただの人斬りとどっちがましか、など。比べるのも億劫になるが。……彼奴の行動理念をひとつ辿れたのは、収穫であっただろうか。
さりとて、これ以上は見込めなさそうだと。刀也は早々に追跡へと戻ることにして――そういえば、とこの場にもう一度目をやれば。ああ、これは。
「それじゃ、俺はもう行くとするか。邪魔して悪かったな。良い旅を」
「おお、お前さんも良い旅を。猪斬るような何かがいるんだ、気を付けてな」
こちらの方が最大の収穫であろう、先よりも真新しい彼奴の痕跡を踏み越えて。
刀也は再び、道をゆく。
「これなら、近くに置いておくだけでも十分だな。こちらにも灯りを点ければ尚良いか」
緋姫子が街道近くへ来ると、何やら煌々と燃え立つ木々が周りを照らしていた。あれも相当に目立つだろうが、自身の用意する罠もまた同様に目立つ。相乗効果を狙うも悪くない。
霊の目撃証言を総合してみても、彼奴はここらを通るはず。それなら。
「一夜限りの嘘ではあるが」
燃え立つそれが照らし出す、その一角へと『嘘』が集う。
形は何に見えるだろう。そんなものは、言ったもの勝ち。
「――私の嘘は世界をも騙せる」
つまりは、これは【嘘か真か(ゴースト・イン・ザ・シェル)】。付けた名前は、『民家』、だ。
そう明示すれば、この通り。ここに見えるこれは、そういうことになったのだ。一夜限りの儚いものだが。
「それで、そうだな。お前とお前。あとは、お前も良いな。俳優……だと、伝わらないか。役者をやってみないか?」
『ヤクシャ?』
『タノシソウ』
ふよりふより。軽く指示しただけで、彼らは一夜の民家へ漂っていった。
すると、民家より仄かに漏れ出す灯り。微かに響き出す談笑の声。――上出来だ。
と、そこへ。
「操ちゃん着地ー!」
すとーん! そんな音が似合う感じで、操が空から落ちて来た。
たまたまだと思うが、もしかしたら好みのホラーっぽい雰囲気に引き寄せられたのかもしれない。
「んんー、あの家ちょっと不思議な感じだね☆ 中にいる人は誰かなー?」
「……私が用意した役者だが?」
「ほほーぅ」
役者、役者かー。
なにやら考え込む様子の操。
「スクリーンからは飛び出てるけどー……うん、役者ならフィクションかな? おっけーおっけー♪」
でーもー?
――ぎゅるん。操の首が、彼方へと向いた。
道を抜けてきたモノがいる。ここに引き寄せられるモノがいる。まんまと近付くモノがいる。
あれは、ダメだ。
「……やあ、畜生。ご機嫌いかが?」
操ちゃんは私はお陰様で最高に最高で最悪だ。
「――――――」
それはただ、佇んでいた。理由? どれから斬ろうか、とか。そのあたりだろうか。
そうして刀を抜き放って。そこでようやく、後ろからの足音にも気付いたらしい。
「……よー、あんた、血と錆の匂いがするけど、どうしたんだい?」
刀也は既に答えの分かった問いを投げかける。
返事なんて、当然期待しちゃあいない。
「ああ、俺か? 俺はだな」
今交わす言葉。そんなものは、これだけだ。
「――てめぇに報いを届けに来たんだよ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『鬼銃葬者』
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POW : 鉄刀鉄火(てっとうてつび)
【呪いの炎を纏った刀による斬撃】が命中した対象を燃やす。放たれた【呪いの】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 銃王無刃(じゅうおうむじん)
自身が装備する【銃から放たれた呪いの銃弾を】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 渇殺自罪(かっさつじざい)
【刀と銃】から【悪鬼羅刹の闘気】を放ち、【恐怖】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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●なかみ
斬った。
人を斬った。獣を斬った。分からなかった。
「気持ち悪ィ……」
斬った。
縦に斬った。横に斬った。分からなかった。
「どいつもこいつも、生きているくせによォ……」
斬った。
斬って燃やした。分からなかった。
斬って潰した。分からなかった。
斬って捨てた。分からなかった。
「――なァ、おい」
斬った。
斬った。斬った。斬った。斬った。
斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。
分からなかった。
「お前らは、見せてくれるのか?」
斬る。
御剣・刀也
見せてくれる?
何が見たい?俺たちに斬り捨てられるお前か?
生憎だがここにはお前に斬られてやるような優しい奴はいねぇよ
鉄刀鉄火はサムライブレイドで受け止めるか、そのまま受け流して反撃の一撃を打ち込む
銃王無刃で銃弾をばらまかれたらサムライブレイドで弾くか避けるかしながら突っ込んで一撃を入れる
渇殺自罪で恐怖を植え付けようとしてきたら笑ってその恐怖を闘志にすり替える。恐怖はセンサーなので感じる事は恥ではなく、それを闘志に変えれるだけの場数を踏んでいるはず
「てめぇはくだらねぇ目的のために人を斬った。人を斬るってのは気持ちいい事じゃねぇんだ。気持ち悪くて当然なんだよ!!」
神酒坂・恭二郎
「迷っているねぇ。なるほど、合点がいった」
斬る事に拘る理由を了承する。
こいつは『なかみ』を見たいのだ。
剣の道で言えば魔境に堕ちた者であろう。
「哀れだが、因果の報いは受けてもらわないとな」
静かに脱力して【力を溜め】、両手を両袖に入れて腕組みする。
闘気を【覚悟】で受け流し、ゆるやかに前へ。
銃王無刃の弾丸を引き付け【見切り、早業、クイックドロウ、カウンター、衝撃波、範囲攻撃、破魔】で両手を抜き、合掌。
パァン
と魔を祓う柏手を放てば、念動で飛ぶ呪いの銃弾は力を失うだろう。
「成れり」
正解なら、すかさず刀を地面に刺し、風祓の守護明神を召喚する。
「3分だ。その間に報いをくれてやりな」
【アドリブ、連携歓迎】
アテナ・カナメ
【心情】なるほど、確かに鬼だわ…。あの旦那様を殺された奥様…あなたに斬られ、殺された人々のためにも、ここであなたを倒して被害を食い止めてみせる!!そうでしょ!宛那!
【作戦】仲間と連携!私は【2回行動】のフレイムショットを主に使用していくわ!そして敵の動きを止めて仲間の攻撃の隙も作るわ!敵には【目潰し】も使用して敵の視界を防いだ後に総攻撃よ!!
●一縁
「お前らは、見せてくれるのか?」
「見せてくれる?」
問いには答えを返すべきものだが、全てが全てそうというわけでもなかろう。
それにどの道、彼奴もどうせ返答など期待していない。
「何が見たい? 俺たちに斬り捨てられるお前か?」
ゆえに御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)のこれは、返答ではない。問い返しでもない。ましてや、会話がしたいはずも。
「生憎だがここにはお前に斬られてやるような優しい奴はいねぇよ」
ものはどこまでも優美であれど、鋭き様は獅子もかくやと。抜き放たれたそれを、日本刀を、突き付けて。
――これは、ただの宣言なのだ。
「ええ、その通りよ!」
ずしゃり、ずしゃり。聞いているのかいないのか、こちらへと歩み来る鬼を見る。
そうすれば……ああ、なるほどと。アテナ・カナメ(アテナマスク・f14759)は納得を覚えた。これは確かに『鬼』だ。種族がどうとか、生まれがどうとか、ではない。在り方、ただそれが、人から外れた存在。
被害者の恨みが募るはずだ。憎しみが嵩むはずだ。これは、この在り方そのままに、人を斬り続けてきたのだろう。
「あの旦那様を殺された奥様……あなたに斬られ、殺された人々のためにも……」
この身が主張するはスーパーヒロイン。この心が渇求するは正義を成すこと。
なればこその、この名は『アテナマスク』。であれば。
「ここであなたを倒して被害を食い止めてみせる!!」
――そうでしょ! 宛那!
マスクが齎す力の下で。優しき少女の身心も、また。
燃えるように、熱を増した。
呪炎が迸る。
それを纏う刀身で、ぱちりと爆ぜるはなんだろうか。薪でもあるまいし、刀から弾けるものとは何がある?
「……ああ、そういうことか」
さてさてどのような輩かと、その剣筋を見に回った神酒坂・恭二郎(スペース剣豪・f09970)。ひょいと後ろへ飛び退けば、眼前擦れ擦れを通り抜ける斬撃から、残り火の如く匂いが漂って来て。
つい先ほど、嫌というほど嗅いだものだ。
「血か脂か……染み付き過ぎて、洗った程度じゃ落ちなかったか? あれだけ好きに斬って回れば然もありなん、ってなところだが」
「……気持ち悪ィ……どこまでもどこまでもどこまでもよォ……」
よほど恭二郎の指摘が忌々しかったか。それとも、染み付くそれが煩わしかったか。鬼銃葬者は血脂もろとも吹き飛ばすように、悪鬼と化した気を周囲へ――ばら撒いた。
圧し殺すような重圧。絞め殺すような執着。そしてそれらさえ霞む、混じり気がありありと見て取れる斬意。
ああ、何れも正しく恐ろしきものだ。この気を受けてしまっては、例え身が竦んでも誰にも責められまい。
されど。
「いい贈り物だ。有難く受け取らせてもらうぜ」
刀也は全身に浴びて尚、足取り緩まず笑みさえ浮かべて見せた。
恐怖とは、それ即ち危機察知のためのセンサーだ。感じ覚えるに恥などあろうはずもなく、むしろ活用の術さえ。相手がわざわざ「俺は危険だ」と教えてくれているのだから、武人としては却って闘志に繋がるというもの。
場数を踏んだ自負もある。場数に溺れぬ意志もある。そして何より、動き続ける五体がそれを示している。
「迷っているねぇ。なるほど、合点がいった」
斬意から意を汲み取れば。恭二郎もまた、恐れに沈むことなく頷く。これは戦だ。斬る斬られるの覚悟など、疾うにできている。それよりも、どうして彼奴が人を斬るのか。その一端を、あるいは最奥を、垣間見たように感じて。
彼奴はただ、見たいのだ。『なかみ』を。納得がいくまで。理解できるまで。求める景色が広がるまで。
求めるが何なのかさえ、分からぬままに。
「臆さないわ! その程度の気合が通じると思わないで!」
如何に身が竦むほどのものであろうとも。それが気であるならば、同じ気で対抗できない道理はないと。アテナマスクの纏う闘気は、まるで陽炎のように。熱持ち燃え立ち揺らめいて、悪鬼が放つを呑み込み焼べる。
だから、そう。届かない。及ばない。
熱増す心が凝ることなど有りはしない。
「……クソ。鬱陶しい、散れ。黙って、散れ」
この三人には己が意通じぬと解して。呪炎纏うをだらりと下げ、舌打ち零しながら鬼銃葬者が構え直すは、銃。
されど彼奴の目的には生きている内に斬るが必要だからか。銃という武具、銃を撃つという動作そのものは、殺すに洗練されていながらも。弾に籠めるは呪いばかりで、肝心要の使い手の殺意が追い付いていない。
ゆえに――そこが、畳み掛ける好機だ。
「斬るに縛られたか、囚われたか……。哀れだが、因果の報いは受けてもらわないとな」
剣の道を進んでいたつもりが、いつしか道に進むを強要されて。その上行き着くが、堕ちるが、魔境とは。救われぬ話もあったものだ。
静かに両手を両袖へ。組んだ腕も、踏み出す足も、全身遍く力を抜いて。恭二郎は、見る。
撃ち放たれた弾。その中を。籠められた呪い。その中を。
見て、見て、見て、見て。
――見えた。
「成れり」
パァンと響く、音の波。
それは早撃ちか、居合か。いつしか袖より抜かれていた、恭二郎の手。打ち鳴らされた、手。
「……あァ?」
果たして彼奴は理解できたのだろうか。
呪いの念で以て乱れ飛んでいた凶弾が、今となってはただ惰性にて進むだけの玩具と成り果てた。その理由を。
知ってみれば、それは単純な話。恭二郎が打ち鳴らしたは、拍手(かしわで)。魔を退け、邪気を払う音なれば。それしか頼りのないものが、力失うは当然のことで。
――而して、ここに実証は為された。【達人の智慧】、その本領は。
「制限時間は、3分だ」
地へと差し込まれた刀。通常の三倍もの風桜子(ふぉーす)を伝える、大業物『銀河一文字』。
呼ばれ出でるは守護明神。風の祓いがこの場を満たせば、鬼ひとり分の呪いなど、霧散と掻き消せぬわけもなし。
「ちィ――」
「させない!」
とにもかくにも手は止めぬと、刀を持ち上げかけた鬼銃葬者へ。割り込み両手を突きだす、アテナマスク。
せっかく作り出された隙だ。これをより大きく、より確かで、より盛大に。さながら燎原の火の如く。手遅れとまで言わしめるほどに、育んでやるが連携というもの。
「炎よ敵を焼き払え!」
掌より来たる熱の渦。業火の奔流。荒々しくも勇ましき姿は、アテナマスクの――二人分の、滾る内側を表しているようで。ならばそれに応えんと、炎もまた轟々と吠えながら突き進む――【フレイムショット】。
「てめェ……!」
熱さもあろう。焦がされる苦しみもあろう。遮られた視線もあろう。だが、何より。
呪炎振り撒く己が身に、別なる炎が降りかかる。その事実にこそ、彼奴の動きは鈍りを帯びて。
ぎりと歯噛みしこちらを見やった――そこが、次の狙い目。
「そう。私も、私の炎も、良く目に『焼き付け』なさい!!」
「がッ
……!?」
爆ぜる。爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる。
暴れ火たちが一斉爆ぜて、彼奴の顔へと降り注ぐ。
「ははぁ、なるほど。鬼であろうがなんであろうが、確かにそこは脆いものだ」
火の粉に炙られた両目を押さえ、重く呻くを見やり。刀也は刀を上段と構えた。
戦場で目が利かぬとは。気配に疎い彼奴にはもはや、この刀を避ける術もあるまい。
ならばそうだ。薄く軽い一撃を積む時ではない。皮を裂くような傷を刻む時ではない。――肉斬り骨断つ一撃こそが、ここで繰り出すに相応しい。
「てめぇはくだらねぇ目的のために人を斬った」
見たい見たいと大の大人が駄々捏ねて。見せろ見せろと刀持つ身で癇癪起こして。
挙句の果てに、それだけしておいて出てきた感想が「気持ち悪い」?
「人を斬るってのは……」
猟兵たる刀也は知っている。
オブリビオンとは言え、元は人である残滓も数多い。それを斬った刀也は、知っている。
武人たる刀也は知っている。
強者との戦いを望み、激戦に歓喜し。されど斬る愉悦に堕ちなかった刀也は、知っている。
斬るは、殺すは、そうではない。そうではないのだ。
「――報いをくれてやりな」
鬼銃葬者は誰も近付かせんと我武者羅に銃を乱射するも。
守護明神がますます風を吹き荒ませれば、恭二郎の拍手も流れ回りて。呪いにて得た推進力も、忽ち無と消え落ちてゆく。――制限時間まで、あと僅か。
「宛那! もっと、もっとよ! 私たちの炎は、正義は、もっと――!!」
荒ぶ風に煽られれば、炎は見る間に勢い増して。それを象徴するかのような『フレイムガントレット』が覆い、重ね生じた掌よりの追い火。アテナマスクの熱の嵐が、彼奴を取り込み離さない。
そうして。
「人を斬るってのは気持ちいい事じゃねぇんだ。気持ち悪くて当然なんだよ!!」
ついに刀也が踏み込む真正面。
振り下ろされる、かの獅子は、かの煌めきは、『獅子吼』。刹那の剣撃。瞬時の斬閃。その技は稲妻の速さを示すものなれば――【雲耀の太刀(ウンヨウノタチ)】。
「――――ッ」
鬼と猟兵。斬り合いの中。
先に血を撒き散らしたは――鬼であった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
守田・緋姫子
wizで行動
「死後の世界が見たいなら私が連れて行ってやる。報いを受けろ、過去から這い出た醜い化け物共。」
おぞましい化け物の相手はおぞましい化け物こそがふさわしい。私がお前達を地獄に送ってやる。
ユーベルコードでこの辺りの地形を私の領域に書き換える。
現実世界を浸食し、顕現する亡者達の跋扈する死の城だ(建物は小学校だが)。
私の死霊術を強化する為の技だが、もし悪霊・怪異を扱う猟兵が他にいればそいつにも影響があるかもな。
その後は悪霊達の仕事だ。亡者達に引き裂かれてはらわたをぶちまけるがいい。
接近戦は苦手なんでね。私は奴には近づかず、悪霊の召喚・使役に徹するさ。
海月・びいどろ
――なかみ、を?
ボクの中は、どうなっているんだろう
分からないのは、知りたいのは、なに?
目立たないように、纏うのは迷彩
海月の子といっしょに、静かに揺れて
ボクたち半分にされないように、しないと
気付かれたなら、攻撃には焦らず
鬼さん、こちら。手の鳴る方へ
誘き寄せたら海月のキミに任せて
のみこんでしまえば、お返しするよ
他のヒトは、ものは、斬ったけど
斬ってないもの、他にもあるよね
……あなたのなかみは、見ないの?
攻撃を跳ね返せたら、海月の毒もいっしょにあげる
身体が痺れるとっておき
動きを封じられるようにしておこうね
鬼さん、あなたの知りたいことは、分かった?
ボクのなかみ? ……それはね、
八坂・操
【WIZ】
やあ、畜生♪ ご機嫌いかが? 操ちゃんはとってもヘドが出そうな気分☆
斬って開いて命を問う……まさしく愚問の体現だな。見る前に斬って捨てては、命の意味など分かる筈もない。
薪を焚けば灰となり、物を壊せば瓦礫となり、人を殺せば血肉となる。さて。
「命はどこにあったかな?」
問いかけながら、惑わしながら、その目を潰して『恐怖を与える』。
見ようとしないのなら、その双眸は不要だろう。然れどその本心は命を求める。見れぬ見れぬと苦悩して、何度も何度も刀を振るい、斬って斬ってのその果てに、【怪異】に包まれ、もう命は見れぬのだと気付いた時の恐怖は如何程か。
「畜生か、餓鬼か、地獄か。六道最下で命を知るんだな」
●二縁
びちゃり、びちゃり。彼奴の深々斬られた内より血が落ちる。
人ならば、死までは秒読みといったところだろうが。お構いなしに刀を振り上げているあたり、生命力も鬼の範疇か。
良いことだ。人間離れしていて。
良いことだ。正にこれこそ人でなし。
「やあ、畜生♪ ご機嫌いかが?」
そういえば、先は返事がなかったなと。八坂・操(怪異・f04936)は改めて問う。
いや、別になくても良いのだけれど。でもほら、せっかくいい感じにざっくり斬られたみたいだし。逆撫でしてあげたくなるじゃないか、ねぇ?
「操ちゃんはとってもヘドが出そうな気分☆」
「……うるせェ」
ほらほら、聞いてる効いてる利いてる♪
馬鹿に付ける薬はないが、馬鹿を進行させる病ならばあるのだ。
病名は憤怒。促進剤は煽動。もしくは挑発。
「とっとと斬られろ。見せろ。なかを、なかみを……俺に、俺に……」
「――なかみ、を?」
ぶつぶつ零れる呟きが、ほんの僅かなれど耳まで届いて。海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)は、首を傾げた。
斬って、見て、なにが不満なのだろう。なにが分からなくて、なにが知りたいのだろう。
そして――ボクの『なかみ』って、どうなっているんだろう。
(自分を見て分からないものが、人を見て分かることもない。と、思うけど)
だから、そう。知るために、見るために、斬るならば――。
……投げかけるのは、後にしようか。今はふわふわ、ゆらゆら。静かに揺れて、漂って。
やるべきことが他にある。半分こにされるのも、嫌だから。
迷彩纏って見ていよう、どう動くのか。海月と一緒に見ていよう、どうしたいのか。
鬼ごっこに誘うのは、それからでも。
「見せろ、気持ち悪ィ……クソ、糞袋なんざ見たくもねェ。そうじゃねェ……」
「そうか、では代わりに死後の世界でも見せてやろう。私が連れて行ってやる」
ああ、聞くだに悍ましい存在であったが、こうして直に見ると一入だ。
地を踏む音も紡ぐ言葉も漏れ出す吐息まで全て全て全て全て。
「報いを受けろ、過去から這い出た醜い化け物共」
悍ましい、悍ましい。なればこその、己だ。守田・緋姫子(電子の海より彷徨い出でし怨霊・f15154)は、この時にこそ。
化け物に立ち塞がるは、同じ悍ましき化け物こそが相応しい。過去は過去、在るべき場所へと還らねばならぬのだ。引き摺ってでも、引き裂いてでも。
まぁ、しかし、骸の海に沈める前に。一ヶ所、寄り道はしてもらおうか。
「私がお前達を地獄に送ってやる」
だから精々。退治されるまで、退治されてからも、苦しめ。
さぁてさて。地獄へ送り届けるためには、それ相応の運び人が必要だ。もちろん緋姫子自身でも構いはしないが、彼奴の得意距離に踏み込んでやる義理もない。
どうしたものかと考えて――命を斬るに拘るというのなら、そうか。適任がいるじゃあないか。
「聞こえるか? こいつらの声が」
――ォォ。――ォォ、ォ。
これは成り果てだ。終えた者どもだ。つまりどういうことか、彼奴には分かるだろうか。
死に絶えながらも尚彷徨い続けるもの。光も無い。命も亡い。お前と同じで。私と同じで。
されど、違いも明確で。
「ここはあらゆる命を妬む悪霊と死体達の宴の地」
いつしか生じた揺れる青い人魂が、鬼銃葬者を嘲るようにぐるぐる回り。振り抜かれた刀にスパンと斬られ、地に落ちた。……途端吹き上がる青。変わりゆく景色。その中で、微かな怨嗟が聞こえたのは気のせいだろうか。
「――ようこそ、私の領域へ」
「……これは、なんだ」
おや、聞いていなかったのか?
言っただろうに。楽しい楽しい『宴の地』だと。
言わなかっただろうか。悪霊が素敵に跋扈する『死の城』だと。
「あっ! なんだか操ちゃんパワーアップの予感☆」
見る間にそこは真夜中の小学校となっていて。どこか澱んだその空気を胸いっぱいに吸い込めば。やっぱりとても調子が良い。今にも操ちゃんが私が私が私が私が飛び出てきそうな気分だ。
あ、出てきそうと言うか、もう。
「……いいや、なんでもいい。どこでもいい。斬られろ」
「――斬って開いて命を問う……まさしく愚問の体現だな」
やはりどうにも馬鹿らしい。その見たいものを斬って捨てておきながら、見せろとは。命の意味など分かるはずもない。そもそも、捨てた先に命はないのだ。
「薪を焚けば灰となり、物を壊せば瓦礫となり――」
問答無用とでも言うつもりか。辺り漂う人魂やら諸共弾き飛ばすように、斬意にて押し込まんと彼奴は発するが。
恐怖。縮こまらせるために選択したが、よりにもよって恐怖とは。真夜中の小学校。悪霊と怪異が手を取り合って生を貪るここで、たかが斬意による恐怖とは。通用するとでも?
笑えばいいのか、呆れればいいのか。
「――人を殺せば血肉となる。……さて」
気圧されもせず前を見やれば、愚かな鬼と、目が合った。
返事はあるか。答えは成るか。これこそ、他愛もない問いだけれど。
「命はどこにあったかな?」
……ああ、言葉は出まい。それへ返す言葉など、彼奴の内には。
ゆえに操へと送られるは、銃弾。喧しい発砲音に頼るのだ。問い掻き消すを頼るのだ。情けなきことに。
そこまで見たなら……うん、十分だ。
「鬼さん、こちら」
不意に耳朶打つ声で、引き金に掛けた彼奴の指が、ぴくり。銃身も思わず、声の出処を探して彷徨う。
かくれんぼはこちらの勝ち。では鬼ごっこはどうだろう。
「手の鳴る方へ」
ぱち、ぱち、ぱち。鳴る度に増す、苛立ちが見えて。
鬼ごっこなのだから。そんな、まるで、本物の鬼のように怒らなくても良いのに。
「うるせェ……うるせェ、うるせェ、うるせェ……!」
がぁん。がぁん。がぁん。
ああ、なんて喧しくて弱々しい音だろう。ここに至っても撃ち殺す気だけはないようで。迷彩の中、姿の薄いびいどろ目掛けて飛ぶ弾は。
(……よく見えないから、数で?)
念力で操作しているからこその芸当。行ったり来たりと一面覆うように迫る弾たち。
速度はそこまででもないが、どれか一発でも浅くびいどろを捉えたなら、即座に本人が斬りかかってくるのだろう。つまり、これは炙り出し用。
割合良く考えたものだ。でも、残念。
「そこか」
こつりと当たった弾の方目掛け、刀振り翳し呪いが走る。
断ち切るように一閃。そとみを焦がすように業炎。現れた切り口は――。
「――なんッ……」
刃が、のみこまれていた。
不思議そうに鬼銃葬者を見上げる海月。ゼリーみたいにぷるぷるな『ももいろ』。その中へ。すぅと吸い込まれるように。
海月は少し悩んだけれど、ああそうかとお口をぱかり。
「他のヒトは、ものは、斬ったけど。斬ってないもの、他にもあるよね」
……あなたのなかみは、見ないの?
断ち切るように一閃。そとみを焦がすように業炎。現れた切り口は――彼奴、自身に。
もらったものの、要らなかったから。丁重に丁重に、【オペラツィオン・マカブル】。……せっかくだし、海月からおまけも渡してあげようか。
燻り崩れる彼奴へと触手を伸ばして、刺胞でちょんとつついてみれば。
「……何、何だ、何、を」
海月の毒は麻痺の毒。痺れて固まるとっておき。
あとは煮るなり焼くなりと。さぁさ、どうぞご自由に。
「ふん、随分な有様だ。身動きひとつ取れないとは、よもや悪霊が怖くなったか? 怪異に恐れをなしたか?」
――化け物の分際で、滑稽な話だ。
人魂の内より這い出るものが。彼奴を羨み妬むものが。
それらは鬼銃葬者とも緋姫子とも、同じで。なのに、違いというのは。妬みというのは。
「引き裂け」
ずるり突き出された、手。骨と皮とまで薄っぺらく。にも関わらず、どこから湧いたか分からぬほどの膂力で以て、体を裂く。命を、裂く。
「ぎッ……ぎッ…………ぁッ……」
抉り入る。掻き回す。握り潰す。
ああ羨ましい妬ましい。どうしてこれには肉がある。どうしてこれには血が流れる。
自分たちは疾うに落としたというのに。お前も疾うに失くしたというのに。どうして、どうして――。
「それを見ても、まだ分からないのか」
何に襲われているかも解せぬ様子の鬼銃葬者。ならばもう、救いはない。元からなかったと言えば、それまでだが。
何れにしても――見たい見たいと言いながら、何も見ないのであれば。
「その双眸は不要だろう」
足音静かにひたひたと。血肉を散らすそれへと近付き、操は面の穴へと指を差し入れた。
存外硬い手応え。けれどひとたび潜り込ませてみれば、生あたたかな感触へ。
苦悶の声が響くが。それは悪霊に裂かれるがゆえか、眼(まなこ)をぐずり潰されたゆえか。それとも。
「………………」
ならば、黒が重なる。黒が包み込む。
操から私から真黒な『自分』が滲み出て、滲み出て、彼奴を囲んで塗り潰す。
見れぬ、見たい、見せろ、と。散々っぱら斬った果てに、ついにはそれは叶わぬと突き付けられて。今の気持ちはどうだ。アンタがばら撒いてきた、その味はどうだ。
「畜生か、餓鬼か、地獄か。六道最下で命を知るんだな」
尚も滲み続ける、【怪異(ワタシノナカノワタシ)】。尚も湧き続ける、悪霊。ここは死の城。ここは宴の地。【悪霊の饗宴(コープス・パーティー)】。
「地獄の足音は聞こえるか? では楽しみにしていろ、今生よりもよほど熱くて冷たいところだ」
生者を喰らえ。外道を啜れ。贄の髄まで噛み砕け。
送り届けよ一本道へ。帰り道無き一方通行。
「……鬼さん、あなたの知りたいことは、分かった?」
痺れが抜けても崩れたままの鬼銃葬者へ、びいどろは問う。
自分自身のなかみは見れただろうか。それは見たいものだっただろうか。
――いいや。違うのは分かっているけれど。
「……見せ、ろ」
言われて、目をぱちりと瞬いた。
それでもまだ求めるのか。でも、きっと、適任ではない。だって。
「ボクのなかみ? ……それはね――」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
鵜飼・章
大切な事を教えてあげよう
人を殺すのはよくない
鴉の声を頼りに隼に乗って現場へ
急降下で一撃加えたら相対性理論は解除し
素早く距離をとる
隼の降下速度は新幹線より速い
命中すればただでは済まないだろう
闇に紛れ攻撃・回避する事を意識
【投擲/スナイパー/串刺し】の技術でUC【悪魔の証明】を当て
【傷口をえぐる】で鴉に敵の内臓を抉り出させる
まだ食べちゃだめだよ
穢いのはきみも同じ
感想はどう?
痛い?
少しは命の尊さが解ったかな
はい、食べていいよ
人は簡単に死ぬよ
きみみたいなもののせいでね
命がなんなのか
僕らも時々わからなくなる
それでも生まれた喜びを感じる為に
皆必死で生きてるんだ
さよなら
…僕も一歩間違えたら
こうなってたかもな
花盛・乙女
貴様が人斬りの鬼か。
なにを欲している。
なにを求めている。
なにゆえ命を斬る。
…答えずとも良い。
私は私の正義を信じ鞘走り、貴様と打ち合うだけのことだ。
「怪力」「ジャンプ」「グラップル」「第六感」「武器受け」「残像」「鎧無視攻撃」
私の持てる剣技の全て、花盛乙女の魂をかけて戦おう。
打ち合ってなお、貴様に悪意を感じられない。
恐らくだが…私と貴様は同じ鬼だ。
私が求めたものは強さ。
何者にも負けず、引かず、正義を…ワガママを通す強さだ。
貴様が求めるものとは、真逆にあるものだろう。
剣戟の果て、我が拳を持って貴様を砕く。
猟兵の、花盛乙女の…命の煌めきだ。
心して受け取れ、道を違えし同胞よ。
【共闘・アドリブ歓迎】
宇迦野・兵十
ぷかりぷかりと煙管を燻らせる。
使命でも狂気でも求道でも無く斬り、
大事なものを落とした時のように探すか。
ああなるほど、そうかい。
お前さんの探しもの漸く検討がついたよ。
でもな、そいつは人斬りには見つからん。
ましてや外道にはな。
こちらが追い込まれる振りをしながら、相手の行動を見切る。
斬撃であれあれば武器受けも組み合わせて、回避しよう。
それでも受けてしまうものには呪いには破魔を、痛みは…我慢でもするか。
話を聞く限り、あれは最後に必ず鉄刀鉄火を繰り出してくる。
その剣を鈍刀で受け、『水月鏡』で斬る。
命はどこにでもあるもの、お前はそれが見えなかった。
お前は命を知らぬ哀れな外道のまま、ここで消えていけ。
●三縁
鬼。
只人よりも遥かに頑強で。強靭で。
ゆえにこそ――この様は、もはや。
「……貴様が人斬りの鬼か」
常なら致命であろう傷が、数え切れぬほどに。
それでも諦めを許さず、刀を手放さず。その姿勢は。
「なにを欲している」
届かぬ手を伸ばしてまで。
「なにを求めている」
開かぬ視界で歩んでまで。
「なにゆえ命を斬る」
そうして辿り付きたい場所とは。
「お前、ら、は……」
「……答えずとも良い」
彼奴が発しかけたそれは、返答でもないただの一方的な言葉の羅列だろう。
いや、あるいは、だからこそ返答足り得るのかもしれないが。それでも……もう、良いのだ。
花盛・乙女(誇り咲き舞う乙女花・f00399)は、乙女自身の正義を信じている。
すれば自然と、刀も鞘から抜けていた。彼奴と打ち合え、そう刀が呼びかけるように。魂をかけて戦え、そう己が内より轟くように。
「しかし、随分とまぁ斬ったものだ」
かつて誰かの、今や使い手の、血を浴び続けた刀を眺め。宇迦野・兵十(きつねさん・f13898)が、ゆるり片手に乗せた燻る銀の煙管から。ぷかりぷかりと煙が流れる。
遂げねばならぬ使命でもなく。理由を持たぬ狂気でもなく。斬るが先目指す求道でもない。
かと言って、乱雑に暴れたいわけでもなく。まるで、大事なものを落とした時のようで。
「なん、で……生きて、いる……」
「――ああなるほど、そうかい」
探しものはそういうことか。そうかい、そうかい。それはまた……難儀なことで。
ここにきて兵十にも見当が付いた。けれど。
「そいつは人斬りには見つからん。ましてや外道にはな」
いくらでも見えているくせに、見えていないと思い込んでいる。それじゃあ駄目だ、どれだけ斬ろうが無駄なこと。
「教えろ……見せ、ろ。なァ――」
「いいよ。それなら、大切な事を教えてあげよう」
空に満ちていた鴉の声の中。紛れるようにして降り落ちるは、また別の。
次には――。
「――人を殺すのはよくない」
「ぃぎッ
…………!」
ぐしゃり。と表現するのは、些か優しきに過ぎるだろうか。上空高くよりの急降下。それも人だけでなく、巨大な隼の重みまで加わって。
ましてや、その速さたるや。新幹線を、時速において数十キロも突き放すと言うのだから。
「……聞こえていなかったかな? それなら、もう一度教えてあげてもよいけれど」
鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)のその声も、今や届いているかどうか。
骨の二、三は。いや、臓腑の二、三は潰れただろう。彼奴はのたうつことさえできぬようで、ただただ苦痛に喘いでいる。
虫の息……だが。
刀は、まだ――その手の内に、あった。
手負いの獣こそ、危うきものである。
では、手負いの鬼は。死を前にした、鬼は。
「――斬れば――ある、はず」
目は癒えておらず、視界は無きに等しい。
振るに技術も見当たらず。力ばかりで圧し切るのみ。
(私には……打ち合ってなお、貴様に悪意を感じられない)
膂力――こちらに、分がある。技術――言わずもがな、だ。
だと言うのに、この気迫ときたら。それまでのどの瞬間よりも、苛烈で、容赦なく――純粋では、ないか。
(恐らくだが……)
乙女の振るう悪刀と、彼奴の振るう呪炎が。共に、共へ、叩き付けられて。火花と呼ぶには巨大に過ぎる熱が吹き荒れた。
じり。一歩間合いを取る音か。髪の先でも焦がれた音か。
「……私と貴様は同じ鬼だ」
「ある、はず――ないわけが、ねェ――」
袈裟に落とされた斬撃の軌道を、乙女は下から搗ち上げるようにずらしていなすと。振り上げた勢いは円を描いて、逆にこちらから袈裟と斬る。
もう、どれだけ流れたかも分からぬ血が。また。
「ないと、ないと――あァ、気持ちが――」
気で紡がれる言葉は止まらなくとも、体は既に熱を失うばかりで。銃などどこかへ置いてきた。
だが、だが。そうだ。気は、まだ。なら。
「――――――ッッ!!」
悲しみではない。されど、慟哭。
形すら無き遠吠えのように。大気は振るえど、声にはならぬ。
「……痛いね、それは」
兵十は、強かに打ち据えられた。齎されるが恐怖ならば、どうとでも。しかしこれは、それだけではないようで。
「それほどまでに望むのかい。もう意識さえまともに残っているか、怪しいものだというのに」
痛い、痛い。……ああ、痛々しい。
刀から溢れる呪炎も、どうやら衰えを見せているように感じる。されど。
彼奴から滴った赤が炎に落ちて、ジュウと小さな血霧と揺れた。それを一息に吸い込んだかと思うと。
「――――アアアァッ!!」
踏み込み一断。横より来たる、猟兵すらも胴から二つと成り得るほどの剛の剣。命すら燃料としたかのようだ。
呪炎も刃も良く見えている。体ひとつ分だけ身を引けば、躱せただろう。そのままであれば。
「力技、か。……それはまた」
踏み込み振るうその途中に、更に一歩を踏み込んでくるか。それも技術の枠でなく、姿勢崩れるも無視した強引さで。
ならば。受けるしか、あるまい。
「お――もい、ねぇ。どうにも……っ」
彼奴の剣筋へと合わせた鈍刀が、圧され焼かれてぎりぎりぎりと苦しみを鳴らす。
……いや、それは己の体も同じか。腕と言わず、肩と言わず、骨の軋みを押して全身で耐えねば、忽ち後ろへ斬り抜かれよう。
耐えて、耐えて、耐えて――彼奴の渾身が途切れた一瞬、弾き返すように押し払った。
踏鞴踏む姿。今の手応えは……この斬り合いの行く末も、すぐそこか。
「う、ぶッ――は、ぁ」
腹の内より、わたが覗いて。鬼銃葬者の足元に、行けども行けども血溜まりが付いて回る。元よりあれだけの傷だ。広がり続ければこうもなろう。
いつしか燃え立つ木を背後に、熱をじわりと浴びながら。ああ、ああ、次は、どうする?
どうあれ、そこで足を止めたのは失策であった。
「例えばきみのいない明日」
闇夜の中で声が舞ったかと思うと。彼奴の右肩をどこぞから飛んだ大針が貫き、そのまま彼奴ごと木へと突き刺さった。
針は抜けず、折れず。もがく力も見られぬとあっては、それは。
「そんな日々は人々にとってどうだろう。幸福だろうか」
それはまるで、標本とされた昆虫のようで。
「――予測は簡単だけれど、それだけで確証には至れない。実際にいなくなってもらわないと、ね」
だからこれは、章の唱えた【悪魔の証明(アクマノショウメイ)】。ばさりばさりと彼奴の周囲を覆う鴉の群れは、標本を啄む悪戯者たち。
覗いていたわたを一羽が咥えて。まとめて、どちゃり、外へと落としたなら。群がる、群がる、次々と。
「まだ食べちゃだめだよ」
悪戯者だが、いい子たち。お預けの言葉はきちんと聞いた。
今か今かとそわそわしているけれど、もう少しだけ待っていておくれ。
「ほら、もうその目でも少しは見えるよね? 穢いのはきみも同じ。感想はどう?」
「――あァ」
己の『なかみ』。木の火に照らされ、ぬらぬらと。
「痛い?」
「――気持ち、悪ィ――誰も、彼も」
人も、己も。開いてみれば、同じだなんて。
そうじゃないと信じていた。そうじゃないと。まだ、信じたいのだ。
「少しは命の尊さが解ったかな。――はい、食べていいよ」
だって、命だ。命だぞ? 持て囃される代物だろうが。あって当然でありながら、誰もが望む代物だろうが。それが、こんな、こんな――。
「人は簡単に死ぬよ。きみみたいなもののせいでね」
今も死がここに、ひとつ。
貪られる者の、すぐ傍に、ひとつ。
「命がなんなのか、僕らも時々わからなくなる。……それでも」
生まれた喜びを感じる為に、皆必死で生きてるんだ。
「生き、て――」
「……私が求めたものは強さ」
何者にも負けず、引かず。
誰に屈することもない、我(が)の力。
「正義を……ワガママを通す強さだ。貴様が求めるものとは、真逆にあるものだろう」
手にした悪刀の刃の先へ。目線を向ければ、臓腑喰らわれる姿が見える。
彼奴にとっての強さとは、目的へと近付くための手段で。
乙女にとっての強さとは、それそのものが目的と同義で。
……全く、別物だ。別物だが。
「それゆえの強さもまた。……確かに、見せてもらった」
死に瀕して尚、刀を振るうは見事であった。
なればこその餞よ。遠く過去へと、近く先へと、逝くのであれば。
迷いなく進むがための、しるべとして。乙女の刃は彼奴を映す。
「命はどこにでもあるもの、お前はそれが見えなかった。そして」
そうして映すは兵十も、また。
尤も、こちらは照らし返すも兼ねているが。
「人を呪わば、だ。……分からないかい?」
だから、そうなる。だから、こうなる。
兵十の手の鈍刀は、燃えている。――帰る場所を求めて、呪炎が、燃えている。
あれだけ災を撒いたのだ。あれだけ害を落としたのだ。呪のひとつ程度、引き取ってもらわねば困る。
「この剣、水面に映る月の如くに。――お前は命を知らぬ哀れな外道のまま、ここで消えていけ」
水面の月は風流なれど。覗き込む者は、さてどうか。【三狐新陰流・水月鏡(サンコシンカゲリュウ・スイゲツノカガミ)】。返す刃は『鈍刀・眠狸』。なまくらに乗せた彼奴の炎を、斬るには斬れぬはずの剛の剣を。繋ぎ止められ防ぐが叶わぬ、あの胴断たんと横薙ぎに。
「我が拳を持って貴様を砕く」
一撃避けねば、その言の通りとなろうが。動かぬのなら……動けぬのなら。そこまでだ。
首元目掛けて振り抜かれるは、花盛家が悪刀『黒椿』。
「――結局、よォ」
二閃。
胴から抜けた鈍刀に、彼奴は己が業を見ただろうか。己がなかみを更に篤と見ただろうか。
首から抜けた悪刀に、彼奴は己が命を見ただろうか。それが潰えるその時を見ただろうか。
「俺、には――見え、な――――」
跳ね飛んだ首を捉えるは、乙女の拳。
一撃で斬り、二撃で打つ。終演としよう、【雀蜂(スズメバチ)】。
「猟兵の、花盛乙女の……命の煌めきだ。心して受け取れ」
――道を違えし同胞よ。
首を伴い地へと落ちゆく拳の先で、転がる石諸共に。
鬼銃葬者の面が。その、なかみが。――砕け散った。
結局のところ。
あの村以前は不明なままだけれど、以降はやはり、ひとりも斬れていなかったらしい。それを幸いと見るか。……見ることができるかは、それぞれだろうが。
――章は何の気なしに、彼奴の果てたその場所へと、再び訪れていた。
砕けた石。こびり付いた暗い赤。墓標を立てる相手でもなく、祈りを捧げる相手でもなし。ただそのまま去る以外、何をするでもないけれど。
「――さよなら」
あり得たかもしれない自身の姿。踏み違えた先に見たかもしれない光景へ。
一言供え、踵を返した。
成功
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