アルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)と桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)は盟友であり飯友である。正確に言えば、アルフレッドはかなり異性として意識しているのだが奥手な部分や現状の関係に色恋を持ち込む事に抵抗があり、一歩進んで三歩下がるみたいな状態だ。
そんな彼らが本日向かう先は二人が行った事のない所で、できれば海がある場所がいいと決めたUDCのとある港町。黒とシルバーのフルカウルを駆るのは白シャツに黒革のツナギを纏った鳥獣戯画で、隣を走るアルフレッドは黒の革ジャンにジーンズ姿で攻撃的な装備を外しタウンカスタマイズした改造宇宙バイクを駆っていた。
「港町というと魚介だが、奇をてらって町中華も良いし、いっそファストフードもいいかもしれんな!」
「姉御はなんでも美味そうに食べるもんなー! そういや港が近い回転寿司はチェーン店でも味がいいらしいぜ!」
「それは町中華でもエビチリや海鮮中華丼に期待が持てるな! って結局魚介だな、ううむ魚介の気分になってきたぞ!」
そして腹が減ってきた、と鳥獣戯画が言うとアルフレッドが俺もだと笑う。そんな風に、バイク用の通信デバイスを使いながら思い付くままに話をしていれば、いつの間にか山道へと差し掛かっていた。
「ここを抜ければ到着だぞ、姉御!」
「うむ、海に山、これぞ港町だな……ん?」
急に暗くなった空にどうしたのかと顔を上げれば、メットにぽつりと雨粒が当たる。ぽつぽつと当たったかと思えば、ザーッと雨が降り出して二人はバイクのスピードを徐々に下げていく。
「にわか雨というやつだな、どこかで雨宿りできればいいんだが」
「姉御、もう少し先に小さな休憩所みたいなところがあるっぽい」
改造宇宙バイクの機能をフルに使い、アルフレッドが先導する先に屋根のある停留所のようなものが見え、二人が車体を寄せて止まった。
「これはまた、風情のある停留所だな!」
今はもう使われていないのだろう、時刻表は剥がされているし木製のベンチも所々塗装が剥げている。けれど雨宿りには充分だと鳥獣戯画が木製ベンチへと座った。
「どうした、座らんのか?」
「座る、座るよ!」
鳥獣戯画から一人分の距離を空けてアルフレッドが座ると、鳥獣戯画がふっと笑う。その笑みにドキッとして、アルフレッドがしどろもどろにどうしたのかと問うた。
「いや、ここにな」
ここ、と彼女が指先で二人の間をトンッと叩く。視線を向ければ、薄くなってはいるが相合傘の落書きが見えてアルフレッドが覗き込む。
「相合傘かー、なんか可愛いな」
「だろう? だから思わず笑ってしまってな!」
筆跡から見るに、恐らく年若い学生のもの。もしかしたら同じように雨宿りをした学生なのかもな、と鳥獣戯画が笑った。
「……ごめんな、姉御」
「なんだ? どうした? トイレか? お前眉毛面白いな」
「眉毛関係あった?? いや、そうじゃなくて……俺じつは所謂『雨男』ってやつでさ……いつも『ここぞ』って時に土砂降ってくるんだよなあ……」
申し訳なさそうにするアルフレッドに一瞬だけきょとんとした後、鳥獣戯画がその雰囲気を吹き飛ばすかのように笑いだす。
「ははは、そうか! ワハハ!」
「えっ、笑うとこあった!?」
「いや、だってお前、そう言うってことは今日も『ここぞ』なのだろう?」
違うのか? と、鳥獣戯画がアルフレッドを見遣る。
「いや、違わないけど……」
滅茶苦茶に『ここぞ』であったが?? とアルフレッドが思ってから、その意味に気が付いて慌てたように身振り手振りで鳥獣戯画に説明する。
「ほら、せっかくの港町だし! 姉御とのでっ」
デート、と言い掛けて踏みとどまる、セーフ、セーフだと咳払いして言い直す。
「姉御との出掛ける約束だしな!」
「そうだな、何を隠そう隠さんが、私も楽しみにしていた! お前さんと出掛けるのはいつも楽しみにしているのだ、新しい食にも出会えるしな!」
「だ、だよな!」
良かった誤魔化せた、と思いながら激しさを増す雨に視線を移し、頬を掻きながら口を開く。
「俺が故郷も出た日も、こんな風に突然大雨が降ったんだ」
「ほう」
続きを促す様に相槌を打ち、鳥獣戯画も視線を雨へと移す。
「修理したワンダレイで飛び立つ大事な日だからさ、快晴を狙ったのに……突然雨雲が広がって、どしゃーっと。なんか、懐かしいな」
「門出に雨か、雨降って地固まると言うではないか。縁起が悪いばかりでもあるまい」
「……それもそうだな」
言われてみればそうかもしれないと、アルフレッドがふっと表情を崩して笑う。
「うむ、雨など誰のせいでもないのだ、気にするな! それにこんな風情のある場所で雨宿りというのも中々ない体験だぞ?」
雨が降ったからこそだろうと、鳥獣戯画が言う。彼女がそう言えば、なんだかそんな気になるから不思議なものだとアルフレッドは感心にも似た気持ちで頷いた。
「姉御はなんかないのか? 雨にまつわる様な話」
「私か? そうだな……うん、ネタがない!」
記憶がないからというのもあるが、持ちネタがないと真顔で鳥獣戯画が呟く。
「そうだ、最近壁の皆と……いやまあ、今は旅団の話はよいか」
「別に構わないのに」
「いや、これはまた今度にしておこう。そうだな……そういえば最近金魚と同棲し始めたぞ!」
「金魚か、金魚かわいいよなー! うちにも居るぞ、金太郎っていうんだけど……って同棲っていうのか?」
「ん? 違ったか? 同居?」
「同居……間違ってはない……?」
「立派な水槽をポチってしまってな、すごいぞ。そのうち仲間も増やそうと思っている」
「一匹じゃ寂しいもんな」
「だろう、棲みたいか?」
「棲みたいって!? 誰がどこに!?」
「ははは、すまん冗談だ! さすがにアルフレッドが入れる水槽ではないからな!」
笑い声と共に、雨足が弱くなっていくのを感じてアルフレッドがふっと立ち上がり空を見上げる。
「姉御、青空が見え……あっ虹が出てるぞ!」
「何!? 虹だと!」
どこだ、と鳥獣戯画も立ち上がり空を見上げた。
「ほら、あっちあっち!」
指さす先、木の葉の向こうに青空と虹が見えて、鳥獣戯画が雨男も悪いものではないな! と笑った。
すっかり雨が止むと、鳥獣戯画がUCを解除してバイクを消す。
「姉御?」
「うむ、折角だ! 後ろに乗せてくれ!」
「い、いいけど! じゃあ姉御、これ着ておいてくれよ。冷えるだろ」
差し出されたのはアルフレッドの革ジャンで、受け取りつつもお前は寒くないのかと問い掛ける。
「ん? 俺は大丈夫だよ、魚類だから!」
「そうか、ならありがたく借り受けよう!」
袖を通し、アルフレッドがバイクに乗るとその後ろに乗り込む。
「よし、港町まで出発だアルフレッド!」
「おう!」
エンジンをふかし、それでいて後ろに鳥獣戯画が乗っているのだからと安全運転でアルフレッドが出発する。背中に当たる彼女の身体が温かいなとか、柔らかいな、とか、色々な事を考えつつアルフレッドはひたすらに港町を目指す。
片や後ろに乗った鳥獣戯画はといえば、こやつよく鍛えてるな、とかやっぱ眉毛面白いよな……感情豊かで、とか、なんとなく安心するな、とか考えていた。
港町のお寿司も町中華もご当地ハンバーガーも何もかも美味しかったのは別の話になるが――噛み合わないようで噛み合う二人の夏は、こうして幕を閉じたのであった。
成功
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