エンドブレイカーの戦い⑩〜灼け砂の向こうに
広大な砂漠の只中に、まるで地の底から突き出したかのような巨大な『手』が聳えていた。その手を中心に重なり合う都市群が形づくる褐色の街を、世界の人々はこう呼称する――砂月楼閣シャルムーン、と。
「あ、いたいた! 皆さーん! おつかれさまでーす!」
どすどすと荒々しい足音を響かせて、一頭の竜が駆けてくる。立ち尽くす猟兵達の真横をそのまま勢いよく通り過ぎたかと思うと、竜はテシテシと数歩バックして、その背から一人のエンドブレイカーを下ろした。フレデリカ・イェナ(竜愛ずる鉄砲玉・f38924)である。
「皆さん、シャルムーンのエリクシルを倒しに行くんですよね! その前にお伝えしたいことがあったので、追いかけてきちゃいました!」
砂月楼閣シャルムーンは、エンドブレイカー達の世界に点在する都市国家の中でも一風変わった存在だ。砂に閉ざされたその立地から外界との交流が困難である故に――もっともエンドブレイカーや猟兵であれば、『世界の瞳』を通じた往来は容易であるのだが――シャルムーンは今日まで、独自の文化を発展させてきた。だがそんな隔絶の都にも、『11の怪物』とエリクシルの魔の手は迫りつつある。
「シャルムーンは今、たくさんのエリクシルに襲われています。でも、そのエリクシルがなんだか特殊な……ゆーべるこーど? を使ってるみたいで、エリクシルの周りの地面が流砂になっちゃって、普通には近づくことができないんですよ!」
大変ですよね、と、いまいち緊張感に乏しい顔で、けれど至って大真面目にフレデリカは言った。なお、エリクシル自体はごく普通のエリクシルであり、特別に強化などを施されているわけではないようだ。
なるほど、と少女の話に頷きながら、猟兵の一人がふと問うた。
「ちなみに普通に近づくとどうなるんだ?」
「地底へ沈み続ける無限の流砂に引きずり込まれて二度と上がって来られません」
さらっと空恐ろしいことを口にして、フレデリカは『多分!』と元気よく付け加えた。多分、のノリでそういうことを言わないでほしい。
「とにかく、シャルムーンのエリクシルと戦うには、流砂を踏まないように戦う工夫が必要です。リカとリュビは空は飛べないので、ここで応援していますね!」
頑張って下さい、と柘榴色の瞳を溢れんばかりの期待と信頼で輝かせ、少女は猟兵達を送り出す。
――いや、『応援はいいから他の戦場へいけ』という言葉は寸でのところで呑み込んで、猟兵達は渦巻く流砂を目指し踏み出した。
月夜野サクラ
お世話になります月夜野です。
以下、シナリオの補足となります。
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●概要
・戦争シナリオにつき、1章で完結となります。
・多対一のボス戦につき、ある程度「まとめてリプレイ」になる可能性が高いです(したがって、受付も途中で締め切る可能性がございます)。指定の同行者の方以外との連携がNGの場合は、その旨をプレイング内でお知らせください(ソロ描写希望、など)。
・受付状況等をお知らせする場合がございますので、マスターページとシナリオ上部のタグも合わせて御確認を頂けますと幸いです。
●プレイングボーナス
流砂を踏まない工夫を行う。
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それでは、ご参加を心よりお待ちしております!
第1章 ボス戦
『戦女神ラーディス』
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POW : 願望実現武装
自身の装備武器を【願望実現武装】に変え、【必中】能力と【防御貫通】能力を追加する。ただし強すぎる追加能力は寿命を削る。
SPD : エリクシルウェポン
【願望宝石エリクシル】から、対象の【戦いに勝ちたい】という願いを叶える【エリクシルウェポン】を創造する。[エリクシルウェポン]をうまく使わないと願いは叶わない。
WIZ : 戦女神の武器
レベル×1個の【願望宝石エリクシル】を召喚する。各々、「投擲武器、時限爆弾、自身の立体映像」のどれかに変形できる。
👑11
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ルシエラ・アクアリンド
応援かあ…相変わらず潔いというか、天真爛漫というか
応えられるよう頑張らないとね
流砂への対応は移動を軽業や空中機動を駆使して
岩等を足場にしつつ移動する事を試みよう
万一流れそうな仲間がいれば手を貸す
戦女神のエリクシルウェポンに対しては…そもそも私は「勝ちたい」訳ではなくて
結果的に「護りたい」が根底なのだけどそう甘くはないかな
UCを使用
相手の行動を阻害、攻撃すると同時に味方全体への回復を施せる様にする
不意打ちの二回攻撃や矢弾の雨で敵を足止めし仲間の支援をすると同時にダメ―ジも与えていく
周りを良く見適切な行動を常に取れるように動く
自分の攻撃力より勝ると思える仲間の攻撃が繰り出される様なら即座に支援を
クレープ・シュゼット
まー、流砂に対してはそのくらいの考えでいた方がいいよってことだね
地底に沈み続けるってのは事実みたいだし?
じゃ、俺はサポートに徹しようかな
その方が元々性には合ってるし
指定UCで流砂に呑み込まれない程度に低空飛行
万が一、他の皆が落ちるリスクを減らすように足場を作っていこうか
味方にバフもかけられるし、敵には撹乱にもなるだろうし?
あ、勿論他の人の邪魔にはならないようにね!
勿論そういうことをするからには攻撃もしてくるだろうし
防御や回避はちゃんとしようね
エリクシルウェポンは上手いこといいタイミングで
鍔迫り合いとかに持ち込んだり、弾き返したり受け流したりとか出来たら
味方が攻撃する為の隙を作れたりしないかな?

マウザー・ハイネン
流砂ですか。
…地下の遺跡に出られる、等という都合のいい事はないでしょうし注意せねばなりませんね。
基本は遠距離からちくちくと。
まずUC起動、ほぼ滑らぬ氷で地面を覆います。
流砂を氷で覆えて呑み込まれず済むようになれば楽ですが…駄目でも覆えている場所が流砂化していない位置と判断できる筈。
そこを足場に走り飛び移ってエリクシルウェポンの間合いから離れつつ銃撃や星霊クリン召喚で氷塊攻撃で剤っていきましょう。
その自慢の武器も当てられず上手く使えないなら願いを叶える事もできないでしょう。
体勢を崩したら安全な足場位置を確認しつつ跳躍、空中から氷細剣で叩き切るように一撃を喰らわせましょう。
※アドリブ絡み等お任せ
夏の終わりの強い日差しに照らされて、広がる砂地は痛いほどの熱を帯びている。
蒼空へと突き出した巨大な『手』を背景に立つのは、エリクシル――甲冑状に成長した紅い結晶体をまとった、多腕の戦神である。
「なるほど……周囲を流砂に変えているというのは、本当のようですね」
額に手を翳して真紅のエリクシルを眺め、マウザー・ハイネンが言った。『引きずり込まれたら二度と上がって来られません!』などと恐ろしいことをやたらハキハキ言ってのけた情報屋の言葉を手繰りつつ、女は細い顎に手を添える。
「地下の遺跡に出られる、などという都合のいいことはないでしょうし……注意せねばなりませんね」
「……ふふっ」
傍らの仲間が何を考えていたのか想像し、ルシエラ・アクアリンドは吹き出すように笑み零した。
「何か?」
「ううん、ちょっと。応援かあ……相変わらず、潔いなあ」
あんなに堂々とした応援宣言で危険な場所に送り出されて、こちとらどう反応すればよかったのか。けれどそういうところがあの娘らしいと、肩の力が抜けた気分でルシエラは言った。
「応援してもらえるなら、頑張らないとね。二度と帰って来られなく、なんてならないように」
「まー、実際のとこはどうか分からないけどね! 流砂に対してはそのくらいの考えでいた方がいいよってことだよきっと。地底に沈み続けるってのは事実みたいだし?」
要は落ちなきゃ大丈夫だよ――と、クレープ・シュゼットは気さくに笑う。解決ですねと真顔で相槌を打って、マウザーは
氷の細剣を手に構えた。
「まずは、状況把握と行きましょう」
トンと砂地に突き刺したレイピアは、灼熱の砂漠に不釣り合いな冰気を呼び寄せる。氷の星霊クリンの力を帯びた不融氷は砂地を這い、滑らぬ氷で地面を覆う――はずであったのだが。
「……これはまた随分と」
流砂という地形は言うなれば、足元の地面が崩壊し続けているようなものだ。そこに『溜まる』場所がなければ、水も氷もその表面に留まってはいられない。一瞬、砂地を覆った氷が儚くも崩れ落ちていくのを確かめて、マウザーは唸った。どうやら敵の周辺は広範囲にわたって全面的に流砂と化しており、小さな足場一つありはしないようだ。
素早く周囲に目を配り、しかし頼りになりそうな木や岩がないことを確かめると、ルシエラも同調した。
「困ったわね。岩場か何かを足にできればよかったのだけれど……」
「ええ。残念ながら一面砂の海のようですね」
どうしたものかと首を捻って、マウザーは呟く。すると――つんつんと肩を叩く手があった。振り返ればクレープが、にまりと口角を上げて此方を見つめている。
「ここは俺に任せておいて」
表舞台に立つよりも、縁の下で支える方がいい。元々そういう性分なのだ。
黒いコートの背に白い襟巻と綿菓子の翼を引いて、クレープは灼けた砂を蹴った。直接触れぬぎりぎりの高さで流砂の上を翔け抜ければ、後には雲状の足場が残る。なるほど、と頷いて、マウザーとルシエラは次々に綿雲の足場へ飛び乗った。
「いい技です」
「さすがね!」
「へへ、いいでしょこれ! こうしておけば皆のリスクも減らせるし――って、おわ!?」
一瞬余所見をしたその隙に、敵もまた動いていた。宙を裂く刃が起こす風に気付いてクレープが咄嗟に身体を捻ると、その鼻先を真紅の槍が素早く通り抜けていく。危ない危ないと弾む胸を押さえながら、青年は言った。
「そう簡単にやらせちゃくれないか」
くるりともう一度反転して体勢を整えると、クレープは一段スピードを上げた。そして次々と飛来する紅い宝石をオレンジ色のキャンディ・ケインで弾きながら、足場作りに翔け回る。その軌跡を軽やかに踏んで、マウザーは紅き戦神に肉薄した。
敵の意識がクレープ本人に集中している今、気取られぬようその後背に回り込むことはそれほど難しいことではない。無防備な女神の背を目がけて、マウザーは純白の銃を構えた。
「その自慢の武器も、当てられなければ願いを叶えることはできないでしょう」
奇妙な発砲音に続いて、飛び出した弾丸が結晶を穿つ硬質な音がした。気付いた敵がこちらを振り返れば、その手の槍が自身を突くよりも早く飛び退いて、マウザーは白い足場の上で体勢を立て直す。そして右手の武器をアイスレイピアに持ち替えると、再び大きく跳躍したが――。
「ッ」
三対の腕が左右六本の槍を操り、畳み掛けるように斬りつける。女はそのすべてをかわし切ったものの、均衡を崩した足元はぶれて、白い足場を踏み外した。しかしその爪先が流砂に触れるか、否かの刹那。
「危ない!」
銀の手甲の上から、ぐいと掴む手があった。そのままマウザーの身体を足場の上に引っ張り上げて、ルシエラはエリクシルをじろりと見やる。真紅の槍は勝利への渇望、その具現だ――だが、誰もが必ずしもそれを望むとは限らない。
「私は『勝ちたい』わけではないの」
彼女にとって、否。多くのエンドブレイカー達にとって、勝利はただの通過点に過ぎない。戦いに勝って、『護りたい』――それこそが、彼女達の願いの本質なのだ。それを読み違える時点で、『願いを叶える』魔神だなんて烏滸がましい。
伸べる腕の先に蒼い風をまとわせて、ルシエラは言った。
「もう少し、人の心が理解できたらよかったのにね?」
蒼く閉ざされた空間の檻が、紅い魔神を封じ込める。捻じ曲げた願いをいくら叶えたところで、人は彼らの思い通りにはならないのだ。
大成功
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イノン・リドティ
流砂を踏んではいけない
ええ、今ほど自分がヴァルキリーとして覚醒したことを感謝した事はありません
UCを使用、一対の白翼で空へ
この翼が皆さんの助けにもなるなんて、これ以上を望んでは罰が当たってしまうでしょうか?
けれど私はエリクシルに勝ちたいのです
だからエリクシルが誂えた武具であろうと、遠慮なく手を伸ばします
どんな形状で、どんな作用を持つものでも、必ず捻じ伏せ使いこなす
あなた、私の『勝ちたい』気持ちを叶えてくれるのでしょう?
なら応えなさい、私はお前達の歪みになんて負けないわ
内心は苛烈に、行動は粛々と
心に在るのは打倒の二文字
必要あれば流砂に飲まれそうな人の手助けを
魔獣戦士ですから力には自信があるんです
アルクス・ストレンジ
流砂のUC持ちエリクシルもそれなりの数が確認されているな
奴らも『11の怪物』から力を得たのか…?
まあ、真相はわからずともいい
倒す。ただ、それだけだ
普段は邪魔だからしまっているが
今は四の五の言ってる場合じゃないな
種族特徴の翼を出して、戦闘中は常に上空を飛んで移動
敵の攻撃は『集中力』で軌道を読んで躱す
『オーラ防御』も展開しておけば
直撃は避けられるはずだ
さて、オレ自身が攻撃してもいいが
味方が複数人いる状態なら、こっちの方がいいか
一曲いくぞ
戦場に響け【グラディウス】!
バイオガスを散布し、敵の視界を奪って妨害かつ
その一方で味方を鼓舞して、攻撃力を増加させる
これが、ミュージックファイターとしての戦い方だ
リィンティア・アシャンティ
砂が水のように流れていく様子は不思議。紋ができています……流れを見ている場合ではないですね
この流れが大変危険なものだという事は分かります
ルノの力を借りて飛んでいくことにしましょう
戦闘中も落ちてしまわないように気を付けていくのです
召喚された願望宝石エリクシルはどの形になっていても強力そうですけど
こちらも素早く飛ぶことができるのだから、落ち着いて対処します
避けたり、ソードハープを演奏して音で攻撃
隙をついて近づいて切りつけるのです
一緒に戦う方達がいるのならば、願望宝石を攻撃するのに専念しようと思います
皆さんが戦女神に近づき攻撃できるよう、ハープで攻撃を続けましょう
砂月楼閣シャルムーン、護ってみせます
砂漠の中心に動きを止めた紅い魔神を見下ろして、二つの影が砂地を過る。降り注ぐ陽射しに妖精の青い翅を輝かせ、エンドブレイカーの妖精騎士、リィンティア・アシャンティは言った。
「砂が、水のように流れていきます……」
それはまるで、海に逆巻く渦を見るかのようだった。底なしの奈落へと滑り落ちていく赤い砂は同心円状の紋を描いて、皮肉にも美しい光景を描き出している。
はっと我に返って、リィンティアは淡い金髪をふるふると振った。
「のんびり見ている場合ではないですね……」
それが自然の創り出す景色であればまだしも、足元の流砂はエリクシルが創り出した悪意の産物、危険極まりない蟻地獄だ。
だな、と短く頷いて、アルクス・ストレンジは言った。その背には、彼が普段はしまっている竜の翼が広がっている。
「流砂のユーベルコードを使うエリクシル……奴らも『11の怪物』から力を得たのか……?」
実際のところ、彼らがどうつながっていて、どんな力関係で動いているのかは分からない。だが疑問には思えど、取り立てて知りたいとは思わなかった。真相がどうあれ彼らの成すべきことは、目の前の敵を討伐すること、ただそれだけであるからだ。
「エリクシル、こんなところにまで現れるなんて……」
上空に留まる二人の仲間達と紅の魔神を遠巻きに見つめて、イノン・リドティはぽつりと零した。吹きつける砂交じりの風に、後ろ頭で一つに結った長い銀糸が舞い上がる。その向こう――広がる空に手が届く日が来るなどとは、かつては思いもしなかったけれど。
「私がヴァルキリーとして目覚めたことに、こんな意味があったのですね」
いつか視た青い空は、彼女に終焉視の力をくれた。そして界渡る猟兵となり、あの日の空は今、こんなにも近い。瞼を伏せて、ただそうあれかしと願うだけ――それだけでもう、この背には白い翼が在る。
「――行きましょう」
輝くばかりの希望の翼を羽ばたかせ、イノンは砂地を飛び立った。共に行かんというように仲間達の元へ翔け上がれば、頼もしげな笑みを手向けてリィンティアもまた、異形のエリクシルへ向き直る。
「ルノ、力を貸してね」
姿の見えない
妖精は、今は彼女の翅の中にいる。その献身に応えるためにも、必ずや勝利を掴むのだ。
どちらからとなく呼吸を合わせて、リィンティアとイノンが動き出す。魔神の元へと急降下する二人の背中を視線で追いながら、アルクスは竜の翼を一打ち、エリクシルの真上に移動した。そして輝く太陽を背に、肩にかけたギターの弦に指を添える。
(「オレが自分で攻撃してもいいが、味方がいるんならこっちの方がいいよな?」)
じゃらんと一つ掻き鳴らせば、耳に馴染んだ弦の響きが高揚を誘う。一曲いくぞと高らかに告げ、アルクスは叫ぶようにその歌の名を口にした。
「戦場に響け、『グラディウス』!」
これぞミュージックファイターの真髄――力強く奏でるギターに合わせる歌声は、敵の視界を奪う煙を呼び、共に戦う仲間達の勇気と力を何倍にも増幅させる。
「砂月楼閣シャルムーン、護ってみせます!」
どこの国の、どんな街も、掛け替えのないこの世界の一部であることに変わりはない。全身に気力が満ちていくのを感じながら、リィンティアは碧く輝くソードハープを片手にエリクシルの懐を目掛け猛進する。するとその気配に気づいたか、魔神の生み出す無数の紅い宝石は一斉に彼女を狙い飛来したが、それで怖気づくくらいなら
最初からここへは来ていない。
(「速さは、こちらの方が上です……それなら!」)
ぴ、と頬を掠めた紅い欠片をやり過ごして、リィンティアはソードハープを一閃した。碧の剣閃が縦横無尽に奔ったかと思うと、無数の宝石はぴしりと罅割れ、砕け散る。そのまま紅い輝きを突き抜けて、振るう琴剣は見事、魔神の腕の一本をもぎ取った。
「グギ……!」
呻きとも、唸りともつかない音を洩らして、エリクシルは激昂する。力の限り投げつけた真紅の槍は、上空に舞うイノンの胸を捉えたかにも思えたが――。
「……私は」
槍の穂先は、娘の白い掌の中で止まっていた。勝利への渇望より生まれ、ただその望みを満たすための刃だ。受け止めたのとは反対の手でその柄をしっかりと捉えて、イノンは言った。
「私は、あなた方に勝ちたいのです」
だから、手を伸ばす。たとえそれがエリクシルの誂えた武具であろうと、使える物はなんだって使う――そして、勝ちに行く。掴んだ柄から掌を通して流れ込む『願い』の力がいかに醜く歪でも、調伏し、使いこなして見せる!
罅が入るほどにきつく固く握った槍を魔神の眼前に突きつけて、イノンは言った。
「あなた、私の『勝ちたい』気持ちを叶えてくれるのでしょう?」
ならば――応えなさい。
冷然と告げるその手の中で、槍の穂が紅い弧を描いた。金色に輝く瞳を獣じみた熱情に染め、イノンは紅い魔神に挑み掛かる。突くというより叩きつけるような痛撃は、見事、エリクシルの白い胸に風穴を穿った。
ぽろぽろと、さらさらと。真っ赤な欠片を零しながら、エリクシルが朽ちていく。崩れゆく槍を無雑作に投げ捨てて、娘は凛然と告げた。
「私は、お前達の歪みになんて負けないわ」
限りなく流れ落ちていた砂漠の砂は、いつの間にか元の姿を取り戻していた。この世界に害成す者は、すべてを打倒し、すべてを除く――たおやかな娘の横顔には、苛烈な決意が秘められている。
大成功
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