2

エンドブレイカーの戦い⑩〜無音の境地

作者：椿油

---

●砂月楼閣シャルムーン
　広大な砂漠にそびえ立ち、外界との交流の難しさゆえに独自の文化を発展させてきた都市国家シャルムーン。ここには、11の怪物に改造されたと思わしきボアヘッドが立っていた。

『……』
　無音で何かを伝えようとしている。「戦場内の『声を発する者』全てを無差別に殺す」という効果の自動発動型ユーベルコードを埋め込まれた彼、『太陽砂漠の王者』ボアサーンは、ボディ肉体ランゲージ言語で会話を試みようとしているのだ。そう、彼もまた自動発動型ユーベルコードで発声出来なくなった者なのである。

『……、……。……？』
　なおジェスチャーではなく、マッスルなポージングで伝えてくるので何と言っているかは不明である。

『……！』
　ムキッと腕を捻って魅せた、『太陽砂漠の王者』ボアサーンであった。

●グリモアベース
「皆様、エンドブレイカーの戦いは慣れてきましたでしょうか。わたくしもエンドブレイカーの予知に少しずつ慣れてきている所です」
　グリモア猟兵、スリー・サクセス（猟兵サポート型AIプログラム・f34842）はどうやら今までエンドブレイカーに馴染みが無かったようだ。そんな猟兵、多いのではなかろうか。

「さて、この戦場では一切音を出してはいけません。自動発動の、音を出した瞬間に殺されるユーベルコードを別に獲得しているようです。ジェスチャーで伝達してもいいと思いますが、協力の際は事前にハンドサイン等を決めておくべきかもしれませんね。マッスルポーズで伝達出来る方はボアサーンと会話できる可能性『は』あります」

　不確定だが、筋肉で会話出来る者どうしなら或いは――出来なくはないだろう。
　あらかたの説明を終えて、グリモアでの転移を開始する、サクセスだった。

第1章 ボス戦 『『太陽砂漠の王者』ボアサーン』

POW   :    ボアサーン伝説 【自身の言葉に出来ない思いを込めた拳の一撃】で触れた敵に、【燃え上がり熱すぎる思いが伝わること】による内部破壊ダメージを与える。 SPD   :    紅蓮百烈衝 【太陽の如き燃え盛る炎のオーラ】のチャージ時間に応じ、無限に攻撃対象数が増加する【連続突き】を放つ。 WIZ   :    身振り手振りの肉体言語 自身の【言葉を禁じる制約】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　『疾き者』として現れた、義透。
「(なるほど、喋るな、と。ならば、私向きでありますねー。専門とした暗殺も、そうだったんですし)」
　潜入暗殺の鬼だった『疾き者』だが、暑苦しさで言ったら『侵す者』向きなのだろうか。
「(しかし……何といいますか。雰囲気だけでも暑苦しい気がします)」
『……！』
　マッスルポージングをしている『太陽砂漠の王者』ボアサーンの伝えたい事は、義透には分からない。

「(こ……これが、絶対に声を出してはいけない二十四時！　笑い声をあげると死ぬ。……ならば私も声を出さぬよう注意しながら戦いましょう！)」
　レティは人生がOUTにならないように、ハンドサインで飛ぶという意思を示してからバルキュリアの翼で飛翔した。
「(シャルムーンは守って見せますっ。皆さんと頑張りましょう！)」
　地上では『太陽砂漠の王者』ボアサーンがマッスルポージングで威嚇していた。

　そして、太陽の如き燃え盛る炎のオーラをチャージし始める前に義透は動く。UC《四更・風》を発動し、143分の1秒で棒手裏剣の【漆黒風】を飛ばし、チャージの時間を作らせない。
『……！』
　鏢【四天流星】も投げて、両方とも生命力吸収でチャージをさせずに生命力を刈り取っていく。

　そして、レティは【アームドフォート】と【シュトラルの剣】を構え、UC《閃光の嵐》を上空から発動して雷撃の光線を『太陽砂漠の王者』ボアサーンに撃っていく。
『……!!』
「(……な、なんですって?!)」
　ポージングで会話してくる彼の意図は読み取れない。
「(……って、会話中は隙だらけでは？)」
『……!?』
「(斬りこみますね。台詞の途中で失礼します！)」
　ズパリと良い音がして筋肉を斬られた『太陽砂漠の王者』ボアサーン。
『!!』
「(敵さんは悲鳴を上げてもいいですよ！)」

　『太陽砂漠の王者』ボアサーンは荒い呼吸を整えて、生命力が減った肉体を維持すべく――ポージングをする。ムキィッ！

「(……あれは、意味があるんですかねー？)」
「(……さ、さあ？)」

　その後、結局疲れて手をTタイムの字にした『太陽砂漠の王者』ボアサーンだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「(にゃはは、筋肉とは程遠いにゃけど、四肢を武器にならレフティだって)」
　レフティがUC《肉球で語る》を使って変身するのは、髭感知で動きを見切り、肉球が足音を消すとても愛くるしき狩人――子猫である。

『……❤』
　『太陽砂漠の王者』ボアサーンが思わずうっとりしていた。
『……！』
　いかんいかんと首を振り、可愛い子猫になったレフティへと拳をふるう――それと同時に、レフティも肉球をぶつける。

　『太陽砂漠の王者』ボアサーンの内部破壊ダメージとレフティの精神爆破ダメージが拮抗しようとしている一瞬の間に、時が止まったかのような思いをした両者。このUCは一瞬の内に1分間相当の念話が出来るのである。

『(こ、これはどういう事だ!?)』
「(レフティの呪われた肉球は『一瞬で一分間相当の会話念話』ができるのにゃ)」
『(ほう！　それは良い拳肉球を持っているな！　これでようやく会話が出来るぞ)』
「(どっちの破壊ダメージが先に上回るか勝負にゃん！)」
『(ブハハ、それなら俺に決まっているだろう！　俺の破壊力を舐めん方が身の為だぞ！　喋らない為に何年間特訓をしてきたと思っているんだ)』
「(あ、そろそろ1分経つにゃよ)」
『(何ィ!?　まだ語りたい事が……)』

　約1分経った後、精神破壊ダメージで頭を抱えながら無言でうずくまったのは『太陽砂漠の王者』ボアサーンであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「(ハッ、ガン垂れながらポージングするったァ面白ぇ相手じゃねぇか)」
　適当にポージングして返す桔華。『太陽砂漠の王者』ボアサーンは何やら憤慨している。

「(筋肉ブタだるまが何を語ってるかは知ったこっちゃねぇ)」
　更に適当にポージングし返す。更に憤慨する『太陽砂漠の王者』ボアサーン。
『……!!　……!!』
　足をダムダムして怒っている。
「(何となくだが武勇伝のひとつやふたつでも言ってるとは思うがな、そういうモンは自然と無意識に話を盛るってモンだ)」

　UC《閻魔断罪撃》を発動し、【鬼棍棒】を勢いよくブチ当てる桔華。
『!!』
「(なら、それが本当か『閻魔断罪撃』の肉体言語シバキで直に聞いてやるぜ)」
　『太陽砂漠の王者』ボアサーンの舌から棘が生え――物凄く悶え始めた。思った通り、多少どころか、かなり話を盛っていたらしい。
『――ッ!!　――ッッ!!』

「(まぁ、声を奪われてれば叫び声ひとつも出ねェだろうが……苦しがってるだけでも解るぜ？)」

『……』
　バタンと倒れてしまった『太陽砂漠の王者』ボアサーン。無言だからと言って嘘を伝えてはいけないという模範的な例であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2023年09月06日