エンドブレイカーの戦い③〜涙のラ・シレーヌ
万能の魔神エリクシルを創造した、『11の怪物』。
眠れる大地母神の殺害を目論む彼らが動き出したことにより、エンドブレイカー達の住まう世界では各地に怪物達の軍勢が押し寄せ、さまざまな異変が引き起こされつつある。それはここ――巨大な戦斧をその頂に掲げる都市国家、戦神海峡アクスヘイムも例外ではない。
「あ、いたいた! 皆さーん! こっちです! こっちこっち!」
訪れた猟兵達の姿を目敏く見つけると、フレデリカ・イェナ(竜愛ずる鉄砲玉・f38924)はぴょんぴょんと跳ねながら両手を振って呼び掛ける。何事かと近付いていくと、少女の肩越しに開けた青い海上には、まるで岩山のように巨大な構造物が聳えているのが見えた。
なんだあれ、と誰かが問えば、よくぞ聞いてくれましたとばかりに身を乗り出してフレデリカは言った。
「あれはですね、アックスヘイムです!」
「アクスヘイム、ではなく?」
「はい、エリクシルに浮上させられちゃったア
ックスヘイムです! 本当はずっと昔に水に沈んだ、ふるーい都市国家なんですよ!」
いまいち要領を得ない説明を噛み砕くと、こうである。
かつて七勇者の一人『ガンダッタ・アックス』によって建国され、軍事と交易の要衝として発展してきた戦神海峡アクスヘイムには、その前身となった都市国家があった。それが『アックスヘイム』だ。アックスヘイムは故あって遠い昔に海峡の水底に沈んだのだが、万能の魔神エリクシルが『願いの力』でこの遺跡を兵器に造り変え、浮上させてしまった――ということらしい。
放っておけばこの巨大な兵器はいずれ動き出し、アクスヘイムの街を襲い始めるだろう。それを阻止するためには、遺跡の内部に入り込み、動力を断ち切らねばならない。だが、ただ破壊すればいいのかと言えばそういうわけでもないようで。
「遺跡の中には、戦神海峡の人魚さん達が捕まっています。その上その人魚さん達の生命力が、遺跡の動力として使われてるみたいなんです。どういう仕掛けなのか分かりませんけど、そんなの絶対に放っておけないですよね! というわけで――」
たん、と岸辺の土を蹴り、お供の恐竜にひらりと飛び乗って、フレデリカは言った。
「リカは人魚さん達を助けに行ってきます! 皆さんもよかったら、お手伝い宜しくお願いしますね!」
それでは、と手を振って、少女は恐竜ごと海に向かってダイブした。
捨て置けばアクスヘイムに大災害をもたらし、罪なき人魚達を食い潰すだろう遺跡兵器が起動するのを黙って見ているわけにはいかない――猟兵達は急ぎ準備を整えて、浮上した水没都市へと向かうのであった。
……なお、ディノスピリットが泳げるのかどうかは定かでない。
月夜野サクラ
お世話になります月夜野です。
以下、シナリオの補足となります。
==================
●概要
・戦争シナリオにつき、1章で完結となります。
・個別リプレイを想定しておりますが、組み合わせた方が面白くなりそうだな、という場合はまとめてリプレイにする可能性があります。指定の同行者の方以外との連携がNGの場合は、その旨をプレイング内でお知らせください(ソロ描写希望、など)。
・受付状況等をお知らせする場合がございますので、マスターページとシナリオ上部のタグも合わせて御確認を頂けますと幸いです。
●プレイングボーナス
遺跡内部に囚われた人魚を救出する。
==================
アックスヘイムの遺跡内には、海水に満たされたままの区画も残っていますので、水着でいらして頂いても構いません。
また人魚を閉じ込めている罠を解除するためには、水で満ちた区画の底に潜って解除装置を探したりする必要があるかもしれません(その他それっぽい罠や仕掛けをご自身で演出していただいても構いません)。
それでは、ご参加を心よりお待ちしております!
第1章 冒険
『人魚救出』
|
POW : 遺跡をくまなく歩き回り、要救助者を探す
SPD : 遺跡の罠を見つけて解除する
WIZ : 囚われて衰弱した人魚達を治療する
|

マウザー・ハイネン
アックスヘイムの人魚はかつて人魚の祝福くれた方々ですね。
恩に報いる、ではありませんが囚われの彼女達を救出しましょうか。
水着で。泳ぎの速度に任せて海水の区画を探索。
星霊ジェナスを召喚し共に泳ぎ水中の罠を破壊、或いは無力化しつつ進みます。
帰りに救出した人魚を連れて通る場合を考えるとその方が安全でしょうし。
人魚の方を発見したら周囲をよく確認、怪しげな装置がありましたら色々調べてからボタンをぽちっとな、します。
動力にしているなら直接危害加える機構はない筈…
なおうんともすんとも言わないなら捕えてる装置叩き壊しましょう。
UCでスピカ召喚して彼女達を治療、救出に来たと説明も忘れずに。
※アドリブ絡み等お任せ

アンゼリカ・レンブラント
人魚達に平穏な生活を、だ
海水で満たされたままの区画もあるってことで
水着着用で向かおうかな
罠も内部にあるかもしれないが、
やっぱり頼みになるのは自慢の肉体ということで
《クラッシュ成功!》と無敵の肉体で受け止め
何事もなかったように先へ進もう
仲間と手分けして探せば人魚が閉じ込められているところを
見つけることが出来るかな
水で満ちた区画に潜って装置を探すよ
何、泳ぎにはそれなりに心得がある
肺活量を生かし素潜りして装置を発見、解除を…
力が必要なら怪力で押し込んでやる!
仮に水中で敵がいたとしても格闘での水中戦で仕留めるともさ
よし罠も解除できたかな
もう大丈夫と囚われていた人魚に安心させる笑みを送り
助け出していくよ
ルシエラ・アクアリンド
どの様な形でも人魚達を動力源とするのだろうねエリクシルは
昔も色々とあったけど
ここは私の故郷でもあり大切な人たちが住む場所だから
護らないとね
…フレデリカとリュビも少々心配だし見つけたら一緒に行動しようか
人魚の捉えられた場所は海水に満たされた場所の方が確立が高そう
気配察知と第六感に頼りつつ遺跡の痕跡を良く見其方へ
結界術使用し何かが歩いた様な跡が無いか見落とさない様にすると同時に人魚の気配を探りたい
水中起動で水中も同様に探し、装置を発見したら予め持ってきた解除用の工具で解除に当たる
罠の扱いなら狩猟者の領域だから
人魚が負傷していた場合は風を抑え水流考慮した上でUCで回復を
安心させる様に声掛けも行いたい
潜り込んだ『アックスヘイム』の遺跡内部は、湿った空気に満ちていた。
「フレデリカとリュビ、大丈夫かな……こっちには来てないみたいだけど……」
颯爽と海に落ちていった友人とその騎竜のことを思い浮かべながら、ルシエラ・アクアリンドは濡れた服を絞る。まあきっと大丈夫でしょうと顔に似合わず雑なことを言いながら、マウザー・ハイネンは周囲に目を配った。長らく水中に沈んでいた街は苔むし、フジツボなどの海棲生物が張り付いているが、浮上した今は空気も十分確保されており、探索に支障はなさそうに見える。だが捕らわれた罪のない人魚達のことを思うと、じわじわと足下から炙るような焦燥感に駆られてしまうのは致し方ないところだ。
「結局、どんな形でも人魚達を動力源とするのだろうね……エリクシルは」
俄かに表情を翳らせて、ルシエラは言った。アクスヘイムを取り巻く事件は十五年前にも様々あったが、その度にエンドブレイカー達は災厄を跳ね返し、傷ついた街の復興に心を砕いてきた。勿論今も、その想いに変わりはない――アクスヘイムを故郷とする彼女にとっては尚更のことだ。
(「大切な人たちが住む場所だもの。……必ず、護らないとね」)
行く手には、湿気た蒼鼠色の石の通路が続いている。アイスブルーの長い髪を水着の背中でひとまとめに結い上げ、マウザーは言った。
「アックスヘイムの人魚といえば、かつて人魚の祝福をくれた方々です。恩に報いる、ではありませんが……遺跡の起動を阻止するためにも、必ず救出しましょう」
「そうそう、人魚達に平穏な生活を、だ。さあ、進もう!」
ここまで辿り着けば、後はもう前進あるのみ。意気軒高に拳を掲げるアンゼリカ・レンブラントを先頭に、エンドブレイカー達は遺跡の中を進んでいく。光の差さない暗い石室のような空間はかつての街ではどんな場所だったのか――思い巡らせながら歩くことしばらく行くと、道はやがて行き止まりに到達する。分かれ道のない通路の先には、青々とした水を湛える水路が続いていた。
水際にしゃがみ込み、満ちる水がただの海水であることを確かめてから、ルシエラが言った。
「人魚を捉えているのなら、海水に満たされた場所の方が確率が高そうだね。この先に進んでみるしかないかなあ」
「そうだね。内部に罠もあるかもしれない……気をつけて進もう」
そう言って、アンゼリカは白い外套を脱ぎ捨てる。みんな水着なんだね、と呟くルシエラをちらり見て、マウザーは星霊ジェナスを呼び寄せた。
「乗って行かれますか? アンゼリカ様も、もし宜しければ」
「お構いなく。何、肺活量には自信があるし、泳ぎにはそれなりに心得があるからね」
「私はじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな?」
どんと胸を叩いてアンゼリカが応じ、ルシエラはいそいそと鮫の背びれにしがみつく。いざ、と大きく息を吸い込んだ次の瞬間には、エンドブレイカー達はもう水の中だ。
天井に微かに残るドロースピカの影響か、視界は一面の蒼だった。見える範囲には取り立てて変わったものは見当たらず、石壁と水の世界が延々と続いているかのように思われる――が。
ボン、と何かの爆ぜるような音がしたのはその時だった。
「!?」
ごぼりと大きな気泡が、アンゼリカの唇から零れた。何事かと目を瞠り、エンドブレイカー達は一斉に浮上する。ぷは、と大きく息を吐いて、ルシエラは言った。
「大丈夫!?」
「いや、どうってことないよ。クラッシュ成功! ってやつさ」
自慢の腹筋をさらりと撫でて、アンゼリカは苦笑した。だが、水の震動はこの瞬間にも続いている――どうやらどこからか、空気弾のようなものが水路に撃ち込まれているようだ。
「ここで壊しておかないと、帰り道でも躓きそうですね……それに帰りは、人魚を連れているでしょうし」
すうと大きく息を吸い、マウザーは再び水中へ潜る。何かあるはずと目を光らせて見付けたのは、石壁の中に紛れるように口を開けた孔だった。
(「これですね」)
罠と見るやすかさずアイスレイピアを突き立てて、マウザーは周囲の石壁を大きく削り取った。孔の口径を広げてしまえば、空気は散乱する。案の定、空気の塊は襲ってこなくなり、エンドブレイカー達はほっと胸を撫でおろした。
「それにしても、結構深いわね……」
人魚はどこにいるのかしらと呟いて、ルシエラは五感を研ぎ澄ませる。何かの痕跡はないか、助けを求める声が聞こえはしないか――しかしこれといった手掛かりは見当たらない。
だが、転機は程なくして訪れた。
「こっちに道が続いているよ!」
先行したアンゼリカが浮上して、仲間達へ呼び掛けた。死角になっていた水路の先から細い道を駆け抜けると、再び空気のある広い空間に辿り着く。そしてそこには、石の檻に閉じ込められた人魚達の姿があった。
「無事でよかった……!」
ほっと安堵の表情を浮かべて、ルシエラは檻に駆け寄り、衰弱した人魚達のために癒しの風を呼び寄せる。水中で使うのは少々気が引けるが、この場所でならば特に悪影響もないだろう。
周囲を素早く観察して、マウザーが言った。
「檻を開ける装置が、見当たりませんね……人魚の命を動力にしているのなら、直接危害加えるような機構はないはずですが……」
やはりそれもまた、水の中だろうか。ならばと水路の縁に立ち、アンゼリカは人魚達を振り返った。
「ルシエラは彼女達についていて。おねーさんがひと泳ぎ、確認してくるからね!」
「私も同行します」
ざぶんと水を跳ね上げて、アンゼリカとマウザーは再び水の中に潜る。石室側を振り返ればその石壁には、あからさまに怪しげな出っ張りが見て取れたが――。
(「ぽちっと……とは、行きませんか」)
水に張り出した石は固く、ちょっとやそっとでは押し込めそうにない。壊すしかないか、とマウザーは氷剣に手を掛けたが、アンゼリカはふるふると首を振り、その手を押しとどめた。それはまるで『任せておいて』、と言うように。
(「一点集中で、押し込む――せいや!」)
気合十分、力ずくで押し込んだ石は壁の中にぴたりと収まり、遠くで重い物の動く音がする。
「開いた!」
さすがね、と仲間達を労って、ルシエラは開いた檻の中へ飛び込んでいく。そして人魚達を助け起こすと、努めて穏やかな笑みを浮かべた。
「さあ、もう大丈夫よ。あなた達の家まで、送っていくわ」
アリガトウ、と片言で紡がれる言葉は、何にも代えがたい報酬だ。長居は無用と人魚を檻から連れ出して、エンドブレイカー達はその場を後にした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヒース・サーレクラウ
母の生まれ故郷に、そんな前身があったなんてな
叔母さんや叔父さんがそれでどうにかなるとも思わないけど
攻撃なんてされたら、住民たちは無事では済まない
それに――囚われた人魚たちも気がかりだ
必ず止めてみせる
ディオス、お前泳げ……泳げるよな
一緒に人魚たちを助けに行こう
遺跡の中では罠や仕掛けに注意して進む
ミイラ取りがミイラに……なんてなったら目も当てられない
大丈夫ですか、助けに来ました
今罠を解除します、もう少しの辛抱ですから
海中の捜索ならそれこそ、ディオスの手を大いに借りられそうだ
お互いの目で隅々まで捜索しよう
……それにしても、こんな巨大な都市国家を動かすなんて
魔神エリクシルというのも末恐ろしいな
「母さんの生まれ故郷に、こんな前身があったなんて……」
知らなかったと呟いて、ヒース・サーレクラウは天井を仰いだ。かつては講堂か何かであったのだろうか? 広々とした石室の天井は高く、真上からは陽の光も注いでいる。
(「この遺跡を、兵器に……か」)
アクスヘイムに暮らす叔母や叔父が、その程度のことでどうこうなるとは思わない。だが一般の住民達は、当然無事では済まないだろう。囚われた人魚達といい、無辜の人々が傷つくことを黙って見過ごすわけにはいかない――ぎゅっと拳を握り締めて、誰にともなく少年は呟く。
「必ず止めてみせる」
そんな決意に応えるように、足下のペンギン――もとい、星霊ディオスがくわっと鳴いた。行く手に続く通路の先は崩落し、青々とした豊かな水が揺れている。ここから先へ進むには、水に潜って行くしかなさそうだ。
「ディオス、お前泳げ……泳げるよな?」
一瞬心配になる体型をしているが、こう見えてれっきとした水の星霊だ。勿論というように鳴き返すディオスを肩に乗せ、ヒースは頼もしげな笑みを浮かべた。
「一緒に、人魚たちを助けに行こう」
ざぶんと水柱が上がった。浮き上がるような感覚とは裏腹に、身体は水に沈み込んでいく。思ったよりも深いこの水路が、どこにどうつながっているのかは分からないが――。
(「ミイラ取りがミイラに……なんてなったら目も当てられないからな」)
隠れた罠や仕掛けを警戒しつつ、ヒースは注意深く進んでゆく。すると、星霊ディオスがくるりと此方を振り返った。
「?」
何か見つけたのかと首を傾げれば、ディオスはピュッとスピードを上げて泳ぎ出す。見失わないようついていくと、やがて水路は行き止まりに達し、少年は一度浮上した。すると――。
「タスケテ……」
蚊の鳴くような細い声が、確かに聞こえた。素早く辺りを見回して、ヒースは手近な石床の上に這い上がる。すると狭い石壁の空間に、一人の人魚が倒れているのが見えた。
「大丈夫ですか!」
幸い物理的に閉じ込められてはいないものの、水から揚げられているせいか、それとも命を吸い上げられているせいなのか。ぐったりとして動かない人魚を助け起こして、ヒースは言った。
「助けに来ました。もう少しの辛抱ですから、頑張って」
もう大丈夫と微笑みを向ければ、人魚は弱々しくも笑み返した。しかし深い安堵と同時に、言い知れぬ不気味な感覚が胸の裡から沸き起こる。
(「それにしても、こんな巨大な都市国家を動かすなんて……」)
人の願いの力というものは、一体どれだけの力を秘めているのか。そう考えるとこの先の戦いも、楽観視はできそうにない――そんなことを考えながらも、ヒースは弱った人魚を連れ、水の中へと飛び込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
臥待・月紬
アクスヘイム?アックスヘイム?
ここの名前、どっちだっけ?
現地についたけど、さっきからそれでモヤモヤするッス……!
余計なこと考えるのは止めて、早いとこ仕事にかかるッス!
正直泳ぎは得意じゃないから、水没区画に入るときは溺れない姿に化けておくッス。
【化術】でサメに変化!
UCで周りにある瓦礫なんかに式神を憑依させて脚を生やし、未探索の場所に送り込む。
進路上の罠を先んじて起動させていくッス。
人魚を捕えている罠を見つけたら、サメの体で嚙みついたり体当たりして破壊し、救出!
ところで人魚さん、ひとつ質問なんスけど。
ここ、アクスヘイム?アックスヘイム?
どっちッスか?
「う~ん……どっちだっけ……」
戦神海峡は海中より浮上した古代遺跡内部にて。
左右二手に別れた通路を前に、臥待・月紬は唸っていた。
「アクスヘイム? アックスヘイム? ……ここの名前、どっちだっけ?」
あ、そっち?
そうなんすよ、と誰にともなく天井を仰いで、狸娘はくしゃくしゃと焦げ茶色の髪を掻いた。
「現地についたはいいッスけど、さっきからそれでずーっとモヤモヤしてるッス……! いくらなんでも似た名前をつけすぎじゃないッスか?」
気持ちは分かるが、如何ともしがたし。
いかんいかんと首を振り、月紬は拳を握り締めた。
「余計なこと考えるのは止めて、早いとこ仕事にかかるッス! こうしてる間にも人魚さんの命が危ないッスからね!」
いざ、と眉を吊り上げて、狸は遺跡の濡れた床を走り出す。複雑に入り組んだ遺跡の内部はところどころ海水が滞留しており、場所によっては水に潜らなければ通れない場所もあるようだ。はっきり言って、泳ぎは得意な方ではないのだが――。
「こんなこともあろうかと! ッス!」
由緒正しき『どろんバケラー』の月紬は、水棲生物への変化だってお手の物。文字通りどろんと煙に巻かれた娘の身体は、あっと言う間に一匹の鮫に変化する。こうなればもう、水溜まりなどなんの障害にもなりはしない。さらに近くの瓦礫や石ころに式神を憑依させれば、即席の捜索隊の完成だ。
「さあ、人魚さん捜索隊、出発進行ッス!」
式神達を敢えて先行させることで、月紬は巧みに水中の罠や仕掛けを回避しながら遺跡の奥へと突き進んでいく。そして辿り着いた水路の奥の奥――蒼い水中に沈んだ檻の中に人影を見つけて、月紬は(鮫なりに)叫んだ。
「人魚さんッスね!」
流線型の尾を左右に大きく振って、月紬は猛スピードで沈んだ檻に泳ぎ寄る。そして錆びた格子戸の錠をバキバキに噛み砕くと、鮫は(鮫なりに)にこやかに人魚達に話しかけた。
「驚かせちゃってごめんなさいッス。助けにきたッスよ!」
どうぞと外へと促せば、囚われた人魚達はアリガトウと片言の礼を述べ、次々に檻の外へ飛び出してくる。全員が檻の外へ脱出したのを確かめて、そうだと月紬はヒレを打った。
「ところで人魚さん、ひとつ質問なんスけど――ここ、アクスヘイム? アックスヘイム? どっちッスか?」
見慣れぬ鮫の大真面目な質問に、人魚達は首を傾げるばかりであった。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
生命力を動力にする……よくある話だが、気分が良いものではないよな
それが無理矢理なら尚更だ。まあ、だからこそ解放するのを躊躇わずに済むんだが
念の為、利剣を抜いて探索だ
まずは音や気配で人魚や他の生物がいないかを確認した上で、怪しい所を実際に確認する
全体的に罠が仕掛けられている可能性もあるので、床や壁などの様子もきちんと確かめる
自身の確認用と、一応の情報共有も兼ねて調べた所には目印を残すことにしよう。刀で壁に印をつけるとかだな。……遺跡に傷をつけると怒られそうだが、状況的にそうも言ってはいられまい
解放した人魚が自力で逃げられるようならそれでよし、厳しそうならどこかしら安全な場所まで運んでやるとしよう
アルクス・ストレンジ
古代の遺跡を兵器に?
エリクシルには浪漫もクソもないな
おまけに命を動力にして、別の命を奪おうってか
やり方があまりにも気に食わない
思惑、ぶっ潰してやる
まずは遺跡内の空気のある区画に出よう
耳を澄まし『集中力』を駆使して
人魚が捕らわれているであろう位置を特定
人魚が悲鳴を上げていたり
水の流れる音が異常だったり
何かしら手掛かりはあるはずだ
人魚の下へ辿り着いたら、罠の解除装置を探すが…ああ、アレか
オレと装置を隔てる水
水の中には巨大な謎の魚影
うかつに飛び込もうものなら食われちまうかもしれないな
なら、足場を作って渡るか
【螺旋氷縛波】で水を凍らせ
その上を『ダッシュ』で通過
罠解除後も同じ要領で戻って人魚を連れ出すぞ

栗花落・澪
※今年の水着着用
最悪な兵器だね
人魚さん達は、何もしてないのに…
水中に潜るならUCと切り替えながら進むのも有りかな
陸上活動可能な場所では翼で軽く浮遊し
水中行動が必要な時は指定UCで下半身を魚に変化させ
水中呼吸を確保しながら人魚として行動
機械には詳しくないけど
解除スイッチって結構わかりやすいと思うんだよね…
人魚さん達の生命力がいつまで続くかも心配だから
出来る限り速度優先で救助
少なくとも水中だと、電気とか広範囲巻き込む罠は無いと思うんだよね…
大事な機械があったらその罠で一緒に壊れちゃうし
だから考えられるのは単純な物理罠
自分にオーラ防御を纏い聞き耳で罠の発動音を確認
盾と切断武器を兼ねた鎌である程度対処
夏の終わりの太陽に炙られた海中遺跡の内部には、むっとするような湿気がこもっていた。ぱたぱたと手で風を送りながら、栗花落・澪が口を開く。
「本当に最悪な兵器ですよね。人魚さん達は、何もしてないのに……」
「だいたい、古代の遺跡を兵器にするなんてのがまずセンスねえんだよ。浪漫もクソもないだろ」
首の後ろに手を組み歩きながら、アルクス・ストレンジが重ねた。命を使い潰して得た力でまた別の命を奪うなど、エリクシルの悪辣には限りと言うものがない。
気に食わねえと顔をしかめて、竜はスニーカーの爪先で足元の小石を蹴り飛ばした。
「奴らの思惑、絶対にぶっ潰してやる」
「そうだな。生命力を動力に……というのはよくある話だが、気分が良いものではないし」
わずかに眉間に溝を穿って、夜刀神・鏡介も同意した。その上動力にされているのは無理矢理攫ってきた人魚達だというのだから、実に性質が悪い。まあ、と、無造作な言葉にエリクシルへの静かな嫌悪を滲ませて、青年は続けた。
「だからこそ、解放をためらわずに済むんだが」
遺跡の内部に囚われた人魚達を解放すれば、遺跡は再び海中へと沈み、エリクシルの目論見は潰えるだろう。やってやろうじゃねーかと息まくアルクスを先頭に、猟兵達は湿った遺跡の中を進んでいく。かつては街路であったのだろう道は青ずんだ灰色に変色し、今や藻と貝類に覆われて海底都市のような雰囲気を醸し出している。
「それにしても、なんも聞こえねえな……」
ひとしきり耳を澄ませてみて、アルクスは言った。囚われている人魚達の位置を特定するためにも何らかの音が拾えればと思ったのだが、細く長い通路に反響するものは自分達の声と足音だけだ。
「まだ遠いのかもしれないな……もう少し先に進んでみよう。……ここは左、と」
そう言って、鏡介は手にした破魔の鉄刀で曲がり角に目印代わりの傷を付けた。遺跡を傷つけたりなどすると考古学の筋からなどは怒られるかもしれないが、今は一刻を争う事態だ。
観察を怠らず本質を見極めれば、進むべき道は自ずと見えてくる。罠や仕掛けの類がないか細心の注意を払いながら、粛々と遺跡の奥へ分け入っていくと――。
『タスケテ……』
「……あ」
「どうかしました?」
ふと足を止めたアルクスを振り返り、澪が尋ねる。ぐるりと周囲に視線を廻らせて、極彩色の竜は言った。
「何か聞こえる。……この壁の裏側からだ」
タスケテ、と繰り返す女の声。石壁に阻まれて幽かな声ではあるけれど、確かに聞こえた――だが行く道の先は行き止まりで、側方に回り込めるような通路もない。ただ彼らの足元には、天井から落ちるわずかな光を受けて煌めく水面があった。
「もしかすると、潜って進まないといけないのかも……よし!」
だったら任せてと得意気に告げて、澪は聖なる杖を掲げるや下半身を魚に変えた。その名も『マジカルつゆりん☆アクアフォーム』――この姿であれば、水中の移動も呼吸も自由自在だ。
「ちょっと先を見てきますね!」
ざぶんと大きな飛沫を上げ、琥珀の髪を靡かせて、澪は揺らめく水の世界へ身を投じる。いざ中へ潜ってみると、水路は外から見て考えていたよりもずっと広く、左右に分かれて続いていた。
(「声はあっちの壁の向こうから聞こえたんだから――」)
右、と尾びれで水を打ち、澪は二手に割れた通路の一方へ滑り込む。囚われの人魚達の体力がいつまで保つかも分からない以上、できる限り先を急ぎたいところだ。
(「人魚さんが動力なら、その人魚さん達を傷つけるような罠はないだろうけど
……!」)
『タスケテ!』
今度はよりはっきりと、助けを求める声がした。ぐんと加速して辿り着いた水路の突き当りで、澪は水面に顔を出す。すると、複数の水路に区切られた区画の最奥に人魚が一人、ぽつんと座り込んでいるのが見えた。
「あれ……もしかして、拘束されてない?」
なのにどうしてと首を傾げて、少年ははっと息を詰めた。部屋を区切る幅広の水路の中には、それは大きな――不気味な魚影が揺れている。
「どうした?」
「見つかったか?」
後方で、水の弾ける音がした。戻ってこない澪を案じて、鏡介とアルクスが追って来たのだ。見つけはしたけどと口籠って、澪は足元の水路を指し示す。その先を見やって、なるほど、とアルクスは言った。
「……そういうことかよ」
悠然と泳ぐ魚影が何者なのかは知る由もなく、知りたくもないが、友好的な存在でないことは確かだ。これではいくら身体が自由でも、人魚は水路を渡れない。
「うかつに飛び込んだら、食われちまうかもしれないな…………だったら、」
だったらこうだと呟いて、アルクスは顔の前で印を結んだ。一つ、二つ、身体の周りに渦を巻いた氷輪は螺旋忍者の技が一つ、『螺旋氷縛波』。次々に飛来する螺旋は水路の表面をたちまち凍らせて、冷たい氷の橋を架ける。その上を猛然と駆け抜けると、アルクスは石床にへたり込んだ人魚を担ぎ上げ、そして素早く取って返した。が――。
(「間に合うか!?」)
踏み込んだ最後の一歩が、解けた氷を踏み抜いて水に沈む。しかし寸でのところでその身体は、澪と鏡介の手で引っ張り上げられた。勿論、助けた人魚にも怪我はなさそうだ。
やったなと相好を崩して人魚の傍らへ屈み込み、鏡介は言った。
「自力で動くのはまだ難しそうだな……どこか、安全な場所まで付き添っていこう」
「ですね。また捕まっちゃったら大変ですから!」
さあ、行きましょう――髪に咲く金蓮花を綻ばせ、澪は白い手を差し伸べる。重ねた人魚の細い指は人より冷えているはずなのに、なぜかほのかに温かかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵