エンドブレイカーの戦い⑨〜天槍の御許に
山斬烈槍ランスブルグ。
天に突き立つ巨大な槍をシンボルとする華やかな都市国家は、混乱の只中にあった。押し寄せるエリクシルや魔物達の軍勢と、これに抗うべく出陣した女王ジョナ一世直属の『天槍騎士団』――二つの勢力が、市街各地でぶつかり合っているのである。
そんな混迷の市街地に女が一人、年季の入ったナイフを片手に立っている。見つめる視線に気がつくや猟兵達を振り返って、彼女は言った。
「アンタ達、お仲間だね。それとも『猟兵』かい? ま、どっちでもいいが……丁度いい、手を貸しな」
ロズヴィータ・リューゲン(花酔・f38918)と名乗った女は、どうやらエンドブレイカーであるらしい。何の騒ぎだと誰かが尋ねれば、さあねと肩を竦めて女は応じた。
「アタシが聞きたいくらいさ。どっかの都市国家で造られた、『超生物エリクシル』とかなんとかいうバケモンが、この街に解き放たれちまった……って話だが、これも例の『怪物』の仕業の内なのかね」
エンドブレイカー達の暮らす世界を狙う、『11の怪物』達。遂に動き出した彼らが何を考えているのかは知る由もないが、目の前の街と世界が危機に晒されていることは確かだ。天槍騎士団の手引きで街の人々も避難を始めているようだが、捨て置けば敵の手が戦う力のない者達にまで届くのも時間の問題だ。
まあいいさ、と言い捨てて、ロズヴィータは目元の傷を弾いた。
「奴らが何を考えてようと、そんなこたどうだっていいのさ。アタシらがやるべきことは、今も昔も変わっちゃいない――この街の
終焉を、ブチ壊すだけだ」
迫り来る悲劇の終焉を、ハッピーエンドに塗り替えるため。
たとえその功績が日の目を見ることはなくとも、たった一つそれだけのために、エンドブレイカー達は戦ってきた。それはこれからも変わらない。そしてそこに猟兵達の力が加わったのなら、負ける気もしないというものだ。
「手伝ってくれんだろ? 期待してるぜ――外の世界の『猟兵』さんよ」
名も知らぬ猟兵達に期待と信頼の眼差しを手向け、女は街の中へと姿を消した。天槍の都の命運は、彼らの手に委ねられている。
月夜野サクラ
お世話になります月夜野です。
以下、シナリオの補足となります。
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●概要
・戦争シナリオにつき、1章で完結となります。
・個別リプレイを想定しておりますが、組み合わせた方が面白くなりそうだな、という場合はまとめてリプレイにする可能性があります。指定の同行者の方以外との連携がNGの場合は、その旨をプレイング内でお知らせください(ソロ描写希望、など)。
・受付状況等をお知らせする場合がございますので、マスターページとシナリオ上部のタグも合わせて御確認を頂けますと幸いです。
●プレイングボーナス
天槍騎士団と連携して戦う。
※避難・救助活動などを行ってもOKです。
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敵となるのは、滅びの大地の都市国家『実験都市オペレッタグラン』で創造された危険な『超生物エリクシル』を始めとするモンスターの軍勢です。
ランスブルグの天槍騎士団と連携し、これらを蹴散らしてください。
それでは、ご参加を心よりお待ちしております!
第1章 集団戦
『ワスプポッド』
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POW : 蜂毒刺し
【赤い爪】が命中した部位に【強化蜂毒】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD : ワスプスウォーム
【体に出来た殺人蜂の巣】から、戦場全体に「敵味方を識別する【殺人蜂】」を放ち、ダメージと【猛毒】の状態異常を与える。
WIZ : ワスプハニー
【蜂蜜】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【空腹】を誘発する効果」を付与する。
👑11
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ヘーゼル・ナイチンゲール
ああ、明解な仕事だ。
なれど油断せず、尽力しよう。
天槍騎士団の面々が戦いやすいよう、積極的に仕掛ける。
戦場の俘虜にて、ワスプポッドおよび殺人蜂の動きを見つつ、地道に削っていく。
大ぶりに武器を振るい、此方に攻撃が向くように誘う。
近寄るならば、叩き割る。ただそれだけだ。
いくらでも仕切り直せる私が猛毒を喰らうのは構わぬが、現地で戦い続けねばならぬ騎士団の者をなるべく庇うように立ち回る。
攻撃の機会があるならば、構わず仕掛けよ、と声かけ。
このモンスター侵攻における、彼らの精神的なことは気にせぬ。
私もこの世界に生きる者のひとり。
皆がどれほど強敵と渡り合い、国を守ってきたかを知っている。
信頼し、背中を任せる。
ルシエラ・アクアリンド
お願いの仕方がロズウィータらしいな
お陰で少し心が軽くなったみたい
ありがとうね
目的
騎士団と連携をとり避難路確保とその為の敵の足止め
初手結界術と精神攻撃を織り込んだUC使用
一瞬でも敵の動きを止める事が出来たら
弓で追い打ちを仕掛け矢弾の雨降らせ人々が逃げる援護を
同時に騎士団への援護となれば良いのだけど
不意打ちや2回攻撃の一度目を囮に使用する等でより効率よい行動を
自身への攻撃は身軽さを生かし連携が生かしつつ避けるけど
第六感等で十分留意して行きたい。多少の怪我は風の回復に任せる
もし同じような行動をする人が居たら上手く連携を取りたいけど優先は騎士団で
あの頃と思いは変わらず
ううん、年月を重ねた分深まったかな
ヒース・サーレクラウ
この世界は、父と母が出会った世界
おれが生まれ育った世界
守るべき大切なものだ
頼んだよ、星霊フェニックス
一緒にランスブルグを救おう
力を貸してくれ
巻き起こした聖なる炎で敵を焼き払っていく
生物そのものの性質は持たないかもしれないが
火は余り得意ではなさそうだろう
身体に付着したその蜜ごと焼き払ってやる
天槍騎士団の方々へも可能ならば不滅の炎の加護を
隊伍を崩さず、敵の勢いを削いでいただけますか
足を止めたところを突き崩しましょう
おれとフェニックスも加勢します
力を合わせて立ち向かいましょう
おれがエンドブレイカーとして生まれたのも
猟兵という存在になったのも
今、この時のためなのだろう
絶対にやつらの目論みなんて通さない
クロービス・ノイシュタット
この感じ…
何だか、懐かしいね
最も安全な階層と、最も魔物が多い方
その間を塞ぐ様に己の戦さ場を定め
天槍騎士団も人を配置してそうだし…
――落とさせないよ
彼らも、この背の向こうも…ランスブルグ、全て
何であろうと、何度だろうと
悲劇の終焉なら、俺らが
終焉させるまで
市街での戦闘なら、建物やら柱や箱やら…障害物も多いだろうし
羽音や足音、蜜の香や影の動き
そんな周囲の状況変化に注意、察知して
不意打ちなど受けぬ様
UCの標的は、範囲内の怪物も配下も、尽く
近隣の怪物の接近、腕の振り上げ動作など
爪の攻撃は特に受けぬ様気を付けて
僕らしかトドメを刺せぬなら…
騎士達には援護と自衛に努めて貰えれば
山斬烈槍ランスブルグ・鉄壁街の一角――。
「この感じ……なんだか、懐かしいね」
聳える天槍を仰ぎ見て、クロービス・ノイシュタットは呟くように口にした。
棘が咲き、数多の敵と刃を交えた戦いの記憶は、決して喜ばしいものではない。だがそれでも今ここにある絆は、あの戦いの日々なくして得られなかったものだとクロービスは思う。ふふ、と微かに笑み零す気配に視線を流して、男は言った。
「どうかした?」
「ううん、別に。ただ、お願いの仕方がロズヴィータらしいなと思って」
『お願い』と称するのも烏滸がましいような横柄な台詞を言うだけ言って去っていった顔馴染みの情報屋を思い出し、ルシエラ・アクアリンドはくすくすと笑う。だが戦いを前に不思議と肩の力が抜けたのは、彼女の功績でもあるのだろう。
「お陰で少し、心が軽くなったみたい」
ありがとうねと呟いて、娘は喧騒の街並へと目を移した。敵の軍勢は既に石壁の街を抜け、この鉄壁街にまで入り込んでいるようだ。
白く艶やかな長髪を黒衣の背に流して、ヘーゼル・ナイチンゲールは淡々と言った。
「明解な仕事だ。なれど油断せず、尽力しよう」
彼らがここへ来た目的は一つ。女王騎士直属にしてランスブルグ最強の天槍騎士団と連携し、一般人の避難を支援すると共に、押し寄せる敵勢力を刈り取ること。素早く周囲の様子に目を配って、クロービスは言った。
「戦う力のない人達を避難させても、避難先に入り込まれたら元も子もない。安全な場所と、敵の間に入って戦いたいな」
もっとも市内に展開する天槍騎士団も、その点は考慮に入れているであろう。とかく急ごうと声を掛け合って、エンドブレイカー達は小走りに石畳の道を駆けてゆく。そんな中――先達とも呼べる仲間達の背を見つめて、ヒース・サーレクラウは形容しがたい感慨を抱いていた。
(「おれがここに立ってるのは、少し不思議な気がするな」)
エンドブレイカーだった父と母。二人と肩を並べ戦った仲間達と今は自分が肩を並べているのだから、その感覚も不自然なものではないだろう。世界の危機という常ならざる状況と相俟って、まるで物語の中にでも迷い込んだような気分になるのだが、これは確かな現実だ。
伸ばした腕の先に羽を休める炎の星霊を見やり、少年は言った。
「頼んだよ、フェニックス。……一緒に、ランスブルグを救おう」
父と母が出会い、自身が生まれ育った掛け替えのない世界。その未来を守るためならば、力を惜しむつもりはない。
「いたぞ」
先頭を行くヘーゼルが短く告げて足を止めた。見れば街区と街区を仕切る関を挟んで、天槍騎士の一団と魔物の群れが対峙している――無数の蜂を従え騎士団に迫るのは、アンデッドの一種『ワスプポッド』だ。
唸りを上げて飛び回る蜂の群が天槍騎士達の最前線に迫るのを見て、ルシエラは胸元に手を組んだ。
「お願い――力を貸して」
静かな祈りは、戦場に蒼い風を呼び寄せる。騎士団と蜂の群れを隔てるように風の檻を編み上げて、狩猟者は素早く弓を引いた。そして足下に突き刺さる矢の雨に屍人が一瞬怯んだ隙を突き、エンドブレイカー達は騎士団の前に割って入る。
「助太刀しよう」
手短に告げて、ヘーゼルは長柄の斧を一閃、敵の最前列に立つワスプポッドを斬り倒す。流れるようなその手際に騎士達の間からは歓声が上がり、誰かの問う声がした。
「あなた方はもしや、エンドブレイカーの方でいらっしゃいますか!」
「ご明察。お節介かもしれないけど、ちょっと厄介な相手みたいだからね」
へらりと柔和な笑顔を作って、しかし次の瞬間には一転、クロービスは真剣な表情で敵の群に向き直る。そう――天槍騎士はランスブルグの最強戦力だが、そんな彼らの力を以てしても、この魔物達は殺せない。押し寄せる敵の軍勢を真に退けられるのは、エンドブレイカー、そして猟兵の力を持つ者達だけなのだ。
「あれにとどめを刺せるのは、僕達だけだ。騎士団の皆は、援護と自衛に努めてもらえるかな?」
「しかし、我々とて何もせずにいるわけには……!」
「勿論、力は貸してもらいます。皆さんは隊伍を崩さず、敵の勢いを削いでいただけますか?」
足を止めたところを突き崩しましょう――そう言って、ヒースは腕を一振り、星霊フェニックスを空へ放つ。そして輝く炎の軌跡を視線で追いながら、力強く少年は言った。
「力を合わせて、立ち向かいましょう」
羽ばたく星霊の翼が巻き起こす聖なる炎は、蜂蜜と飛び交う蜂とをひとまとめに焼き払い、共闘する仲間達に炎の加護を分け与える。どよめく騎士達を背に振り返って、ヘーゼルは言った。
「攻撃の機会があるならば、構わず仕掛けよ。とどめは、我々が引き受ける」
それ以上の言葉は、きっと彼らには必要ないだろう――弱肉強食のこの世界で、数多の強敵と渡り合い、この国を守ってきた騎士達だ。背中を預ける仲間として、これ以上の信頼がおける者達もそうはない。ただそれだけに、死に損ないの毒蜂風情に喰らわせてやる気もないけれど。
「近寄るならば、叩き割る」
ふ、と鋭く息を吐き、美貌の騎士は斧を振るう。この場に留まり戦い続けなければならない天槍騎士達が毒を受ければ、都市全体の防衛にも支障が出よう。できるだけ派手に立ち回り、蜂達の注意をこちらに引きつけることができれば僥倖だ。
仲間達に足並みを揃え一歩前に進み出て、クロービスが言った。
「落とさせないよ」
誠実なる騎士団も、この背に守る街並も。何もかも、奪わせはしない。
悲劇の終焉がこの都を襲うなら、何であろうと、何度だろうと、彼らはそれを覆す。
「終焉なら、俺らが
終焉させるまで!」
振り上げる紅い爪に狙いを定め、放つ電撃は飛び交う蜂ごとワスプポッドを粉砕した。次第に崩れてゆく敵の戦列に追い打ちを掛けるように、ルシエラもまた繰り返し矢を射掛けていく。何本目とも知れぬ矢を弓に番えて引き絞り、そしてふと、女は口にした。
「あの頃と、想いはおなじ――……ううん」
きっと同じようで、同じではない。
唇の端を無意識に上向けて、ルシエラは続けた。
「年月を重ねた分、深まったかな」
解き放たれた矢は真っ直ぐに宙を裂き、蜂の巣と化した屍人の額を撃ち抜いた。しかし敵の数もなお多く、空いた穴を埋めるようにすぐさま別の個体が迫り出してくる。
(「おれがエンドブレイカーとして生まれたのも――『猟兵』という存在になったのも」)
すべては今、この時のためなのだろう。
一進一退の攻防を見つめながら、ヒースはこの世界と自身の在り方に因縁めいたものを感じていた。『怪物』どもの目論みを挫くこと、そこに彼の生まれてきた意味があると云うのなら――。
(「負けるわけには、いかない」)
この関は決して、通さない。
それぞれの決意を胸に秘め、エンドブレイカー達は天槍の下、途切れることのない敵の波に挑み続ける。
大成功
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涼風・あず菜
敵の軍勢から大体半径110m位の位置に潜伏し、予め選定したスナイプポジションから、味方や天槍騎士団への援護射撃を行っていくよっ!
基本はアサルトウェポンやレールガンを使って射撃して。
もし敵に接近された際の逃走&ポジションチェンジ時には護身用ピストルやフック付きワイヤー、プラズマグレネードなんかを使って他にも用意した射撃地点へと移動っ。
密集している敵にはロケットランチャーやグレネードを使って。
ものすんごく遠い敵には、M200LRRSで決まりだねっ☆
「あーしの射撃センス、なめんなってのっ☆」
味方との連携重視。
援護射撃に徹して、味方の損害は少なく、敵の損害は大きく!をモットーに、元気に頑張りまっす♪
アルクス・ストレンジ
手を貸せ?いいぞ、上等だ
押し寄せる侵略者との戦いは日常なもんでな
…どうやら、住まう世界と被って見える状況を見過ごせる程
オレは冷血じゃないらしいな
天槍騎士団に遭遇したら、避難誘導に注力するよう頼む
オレが敵を引き付けてる間に住民を逃がせ
皆が逃げ切れた状態の方が、アンタらも戦い易いだろ?
つーことで、一曲行くぞ
戦場に響け【殲剣の理】
見ろ、聴け、オレは此処だ!
引き付けるだけ引き付けて
やられちまうつもりもないが
万一に備えて『オーラ防御』は展開しておく
最悪『毒耐性』で気合で立ち続けてやる
敵の注目を集めたら、爆破スイッチを連打
殺人蜂ごと本体を爆発に巻き込んで消し飛ばす
せっかくのステージだ、派手にやらないとな?
マシュマローネ・アラモード
◎
天槍騎士団の皆様、加勢にあがりました!
権能斥力(吹き飛ばし)、敵を分断します、強化された個体はおまかせを!
UC
攻性解呪!強化を施した個体にはこれが一番!
吹き飛ばしで戦線を崩して、体勢を崩した相手にトドメのキネティックリパルサーの振り下ろしで撃破数を増やしていきましょう。
斥力の力で敵陣を割りながら、空中の敵は推力移動で肉薄して撃墜、お味方の得意な領域に送りましょう。
(飛翔しながら、この美しい街もきっと戦火の中でなければ、雄大な山岳都市なのでしょう……必ずや、勝利し平和を勝ち取りましょう!)
リヴィ・ローランザルツ
ここも見分広めに滞在させて貰ったな
大分お世話になったし、改めて恩返しはきっちりとしないとな。なんて懐の小鳥に話しかけ
さあ、行こう
多分敵の排除を第一目的と考える人が多いかもな
俺は騎士団と連携とりつつ人々の避難の手伝いとその為の足止めをしようか
アイスレイピア使用
先ずUCを発動。敵の動きを鈍らせると同時に騎士団と人々の援護を属性攻撃と結界術を上乗せで。
四重双撃で分身と敵を挟む様に身を置き互いに死角を作る
動きに隙を作れたら騎士団と人々の動きに合わせ
2回攻撃、衝撃波、継続ダメージを利用し畳みかける
斃せるものならそうしたいが優先は援護
敵の攻撃は見切り、軽業、空中機動で避けをメインで
出来れば他の人とも連携を
一方その頃、ランスブルグ第三層『石壁の街』。
山斬烈槍ランスブルグの中で最も広いこの階層には、多くの人々が暮らしている。だがそれだけに生活圏は広く、天槍騎士団による避難誘導の行き届いていない地域も多いようだ。
ひとけの薄れた街角へと足早に走り込んで、アルクス・ストレンジははたと足を止めた。
「手を貸せ? ……上等だ」
エンドブレイカーを名乗った不遜な女の言葉を思い出しながら、竜は菫色の瞳を巡らせた。侵略者との戦いは、彼にとっては然程珍しいものではない――彼の住まう『地球』は常に侵略者の脅威に晒されており、宇宙との攻防は日常の一部だ。ただそれだけに、
そうではない世界で突如として侵略の危機に瀕した人々の心境は察するに余りある。生まれた世界は違えども、同じ境遇の人々を見過ごせるほどこの血は冷えていないらしい。
さあてと白いコートの肩を鳴らして、リヴィ・ローランザルツは細身の竜の傍らに歩み寄った。世界を渡る猟兵であると同時にこの世界のエンドブレイカーでもある彼にとっては、ランスブルグも思い出深い街の一つだ。
「見聞を広めに、なんて言って、ここにも結構滞在させてもらったな。大分お世話にもなったし、恩返しはきっちりとしないとだ」
なあと覗き込んだコートの懐には、頭頂部に桃の花を咲かせた白い小鳥が隠れている。が――感慨に耽るのは、このくらいにしておこう。
「さあ、行こうか」
出身は違えど、志は同じ。共に戦う仲間達に呼び掛けて、リヴィは石畳に踏み出した。天槍騎士団を援護するにせよ、救助活動を行うにせよ、まずは対象を探すところからだ。
「……あっちの方から、音がする」
風の運ぶ剣戟に耳を澄ませて、アルクスが呟く。駆ける足を速めていくと、幅広の道を塞ぐように展開した天槍騎士団の背中が見えてきた。その更に向こう側には、毒蜂をまとう世にも醜いアンデッド――ワスプポッドの集団も覗いている。
ひゅるり風を切り、前を行く仲間達を追い越して、マシュマローネ・アラモードは高らかに声を上げた。
「目標発見! さあ、参りますわよ!」
白い戦槌を大きく振り被り、兎の皇女は騎士団とアンデッド達の間に割り入った。遠心力に任せて力いっぱい薙ぎ払うと、複数のワスプポッドと蜂達が吹き飛ばされて後退する。大きな槌を重たげもなく掌の中で取り回し、マシュマローネは爽やかに、どよめく騎士達へと言った。
「天槍騎士団の皆様! 加勢に上がりましたわ!」
エンドブレイカーか、それとも噂の『猟兵』か――いずれにせよ、彼女達が頼もしい味方であることには変わりない。ようこそランスブルグへ、と畏まる騎士達を片手で制して、アルクスは言った。
「堅苦しいのはなしでいい。それより、オレらが敵を引き付けてる間に住民を逃がせ……その方が、アンタらも戦い易くなるだろ?」
逃げ遅れているかもしれない人々の安否を気にかけていては、存分に力を振るうこともできるまい。とはいえこの場を放棄することにも抵抗があるのだろう、騎士団の一人はためらうように口を開く。
「ですが、あなた方ばかりに戦わせるわけには……」
騎士が言葉を終えるか終えないかの刹那、パンと乾いた音がした。火薬のないこの世界の人々がそれと認識するのは難しいだろうが、『外』の世界を知る彼らには分かる――銃声だった。
パン、パン――立て続けに音が弾け、突き刺さる銃弾が屍体の群れをじりじりと押し返していく。一体どこからと騎士達が周囲に目を配れば、少し離れた民家の切妻屋根の上で、一人の少女が手を振っているのが見えた。涼風・あず菜である。
「だーいじょうぶ! ここはあたし達が引き受けるから、安心して行って!」
ほら早くと促され、天槍騎士達は顔を見合わせる。どの道、彼ら自身ではエリクシルの配下である魔物達にとどめを刺すことは叶わない。であれば、彼女達の言う通りにするのが最善であるのだろう。
「分かりました。それでは、ご武運を!」
きびきびと猟兵達に敬礼し、騎士団は後退していく。これで街の人々の避難も、より円滑に行うことができるはずだ。
さてと蜂達の群に向き直って、リヴィは言った。
「それじゃあこっちは、足止めと行こうか」
人々の命を救うべく、奔走する騎士達の後は追わせない。抜き放つ氷の細剣は季節外れの雪風を呼び込んで、飛び回る蜂達ごと戦場を囲い込む風の檻を作り出す。
今にも動き出さんとする敵の戦列を見つめて、アルクスは背にした屋根の上に問うた。
「行けるか」
「勿論! 味方の損害は少なく、敵の損害は大きく! をモットーに、元気に頑張りまっす♪」
いえい、とピースを作ったあず菜の姿は屋根の下の仲間達には見えないが、その答えがあればもう十分。背負ったギターを胸に抱え直して、アルクスは無造作にその弦を掻き鳴らした。
「よし――一曲行くぞ!」
ギュンと唸る六弦が、奏でる歌は『殲剣の理』。オレは此処だと血を吐くように叫ぶ歌声は怒りに燃え、飛び交う蜂達とその『巣』の注意をアルクス自身に引きつける。迫り来る蜂達を数歩の距離まで呼び込んでから、竜は小さなスイッチを取り出した。
「せっかくのステージだ、派手にやらないとな?」
カチリと小さな音がして、殺人蜂達を中心に小規模な爆発が連鎖した。やるね、と柔らかな笑みを手向けて、リヴィはアイスレイピアを胸に構える。極限まで研ぎ澄ませた魔力で編み上げるのは、まるで鏡に映したような自らの分身だ。
「……行くよ!」
挑むように敵へ呼び掛けると、リヴィは三体の分身と共に散開し、前後左右から畳み掛けるように蜂達へ連撃を加えていく。するとこのままではまずいと屍人なりに考えたのか、一体のワスプポッドが蜂達を上空へと向かわせた。そして狙うのは、屋根の上のあず菜だ。
「おっと――こっち来る? 来ちゃう?」
だったら彼女にも、考えがある。眼前にまで迫った殺人蜂ににまりと悪戯な笑みを向けて、あず菜は腰のベルトについたスイッチを押し込んだ。すると予め張っておいたワイヤーがぐんぐんと巻き取られ、少女の身体は瞬きの間に、離れた民家の屋根上へと運ばれていく。抱えた武器をロケットランチャーに持ち替えてスコープを覗き込み、自信たっぷりにあず菜は言った。
「あーしの射撃センス、なめんなってのっ☆」
一斉に放たれたロケット弾は蜂達の群に突き刺さり、命なき魔物の身体を黒い塵へと返していく。お見事とその鮮やかな手際を労って、マシュマローネは輝く槌を握り直した。
「これは負けてはいられませんわね!」
立ち並ぶ民家の外壁を正に兎の如く飛び跳ねて、少女は蜂達の群に肉薄する。そして道ですれ違うかのような気軽さで、その手の槌を振り抜いた。
「ごめんあそばせ?」
風圧に薙ぎ払われた無数の蜂達が、夏の終わりの青い空へと融けていく。その残滓を突き抜けるまま上空へと翔け上がり、マシュマローネは眼下に広がるランスブルグの街を見た。
(「きっと戦火の中でなければ、雄大な山岳都市なのでしょうね――」)
だからこそ必ず、守り抜かねばならない。
次に彼女がこの場所を訪れる時、街はきっともっと美しく、もっと活気のある姿を見せてくれるはずだ。
大成功
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紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
歌うのでっす!
人々の恐怖を拭い去る歌を!
騎士の皆様を鼓舞する歌を!
思いがけず共に歌ってしまいたくなる歌を!
勇気の歌を!
皆々様との魂の歌の前に、殺人蜂など敵ではないのでっす!
ダメージも猛毒も吹き飛ばしちゃうのでっす!
蜂さんだってお目々ぐるぐるぽとぽと落ちて行っちゃうこと間違いなしでっすよー!
キュン死というやつなのでっす!
騎士団の皆様方を癒やしつつ、街の人々を守り抜くのでっす!
藍ちゃんくんと騎士の皆様方の姿もまた人々に勇気と安堵をもたらすことかと!
蜂さんの数はとんでもなく多いとのことでっすが!
全世界の藍ちゃんくんのファンの方がもっともっと多いのでっす!
ロージー・ラットフォード
非戦闘員の保護と避難を中心に動くよ
もちろんエリクシルの排除もね
先に安全地帯、避難所の位置を天槍騎士団さんに聞いておく
UCであたしを増やして、3人ずつくらいの班を組んで散開
逃げ遅れた市民を探して救助
泣き声とか、匂いとかで、補足できるよう感覚を研ぎ澄ませる【気配察知】
見つけたら、迫る殺人蜂をすぐ撃ち落とせるようあたしたちで警戒しながら、一緒に避難所に移動する【道案内】【護衛】
こんな凶悪な毒蜂は一般人には文字通り毒だよ
数が多くてあたしたちだけじゃ手を焼きそうだったら近くの騎士団さんたちに声をかけて手助けしてもらう
数には数で対抗だ
同時刻、『石壁の街』某所。
「逃げ遅れている者がいないか、民家の中も確認せよ!」
「稼いでもらった時間を無駄にするな!」
猟兵達に後を任せて住民達の救助活動に舵を切った天槍騎士団は、周辺区域の捜索に当たっていた。互いに叱咤激励して取り組むその姿を遠目に見付けて、ロージー・ラットフォードは一人の騎士の元へと走り寄る。
「こっちが安全地帯でいいの?」
ネズミとヒトの中間のような彼女の姿に騎士は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに猟兵と気付いたのか、背筋を正して応じた。
「この通りの向こうに避難所があり、我々天槍騎士団が守りを固めております」
「ってことはそこに人を集めればいいんだね。分かったよ」
そうと分かれば、やるべきことはシンプルだ。むん、と目を閉じて念じると、ロージーを中心に数十体の
分身体が現れる。分身の術という奴ですか、と心なしか声を弾ませる騎士への説明は、『そんなところ』と述べるにとどめ、ロージーは市街地へと向き直った。
「おまえたち、いくよ」
これぞネズミの本領発揮。本体であるロージーを含めて三人一組、およそ十班の捜索隊の結成だ。逃げ遅れた市民を探して、ロージー『たち』は次々と街中へ散っていく。悲鳴に泣き声、わずかな物音も聞き逃すまいと大きな耳をそばだてて、ロージーは石畳の道を駆け抜ける。そして、建物の影に隠れるように蹲る若い女の姿を見付けた。
「だいじょうぶ?」
聞けば彼女はこの地域の住民であり、逃げる途中で足を挫いて動けなくなってしまったらしい。
もう大丈夫と小柄な身体に見合わぬ力で女を背負い込み、ロージーは一路、先程教えられた避難所をめざす。が――その道中でのことである。
「……来たか……」
ブウンと耳障りな羽音がする。まだ少し遠いけれど、間違いない――ワスプポッドと殺人蜂が、彼女達に迫っていた。
「走るよ。揺れるけどちょっと、我慢して」
歩幅を広げて跳ねるように、ロージーは怪我人を連れ遁走する。そして辿り着いた避難所に女を押し込むと、礼を述べる天槍騎士達に向かいふるりと首を振った。
「ごめん。連れてきちゃった」
責任はとるよと短く告げて、少女は来た道を振り返る。その先には、夥しい数の毒蜂達が黒い風のように渦を巻いていた。数には数で対抗、と行きたいところだが――。
「それにしても凄い数ですね……」
騎士槍を手に身構えながら、天槍騎士達が息を詰める。終りの見えない攻防に滲む疲労は、いかに屈強な騎士達とても隠し切れるものではない。さて、どうするかとロージーが考えていると。
「天槍騎士団のみなさん、お待たせしました! 藍ちゃんくんでっすよー!」
近くの民家の屋根の上から、底抜けに明るい声がした。何事かと見上げる多数の視線の中心に立つのは、紫・藍――変革を歌い終焉に笑う、歌い手である。
「藍ちゃんくんは、ここへ歌いにきたのでっす!」
人々の恐怖を拭い去る歌を。騎士達の心を鼓舞する歌を。思わず声を揃えて歌いたくなるような、勇気の歌を。
高らかに宣って、藍は大きく息を吸い込み、喉を開いた。魂を震わす歌の前に、殺人蜂など敵ではない――そこに天槍騎士団と猟兵達の力が加わったのなら、怖いものなどあるものか。
猛毒も、痛みすらも吹き飛ばす歌の力に当てられて、蜂達が目を回し、ぽとぽとと地に落ちていく。これが俗に言う『キュン死』――というものなのかどうかは定かでないけれど、未知の敵に立ち向かう猟兵達と騎士団の姿は人々に勇気と安堵をもたらし、嘆きと哀しみを溢れんばかりの歓声に変えていく。
耳に心地良いその音色に満足げに口角を上げて、自信たっぷりに藍は言った。
「蜂さんの数はとんでもなく多いようでっすが――全世界の藍ちゃんくんのファンの方がもっともっと多いのでっす!」
敵がどんなに多くとも、諦めはしない。そして諦めさえしなければ、道は必ず開けるのだ。
大成功
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