エンドブレイカーの戦い⑧〜腹が減っては戦はできぬ
「皆々がた、此度はよくぞお集まり下さった」
白く輝く忍犬を胸に抱き、頭巾を被った忍び服の少年がぺこりと頭を下げる。そして周囲を見渡して、は、と青い瞳を見開いた。
「こうして人前に出るのは初めてでござったかな。拙者、霊峰天舞アマツカグラの忍びにて、エンドブレイカーのコゲンタと申す者。遅ればせながら猟兵として、三十六の世界のため尽力する所存にござる」
さて、と仕切り直して、コゲンタ・ロウゲツ(狐花・f39068)は続けた。
「既に知っての通り、拙者達エンドブレイカーの世界を狙って、『怪物』どもが動き出してござる。11の怪物の一柱『ばしゅむ』によって注がれた毒は、この世界を蝕み、やがて終焉に導くでござろう」
だがしかし、それはあくまで彼らが抗わなければのこと。悲劇の終焉を砕くエンドブレイカー、そして第六の猟兵達がいる限り、そう易々と『怪物』達の思い通りには運ばせない。
して、と語気を強め、コゲンタは続けた。
「世界をみすみす終わらせぬためにも、今拙者達がすべきことは――」
「すべきことは
……!?」
居合わせた猟兵達が、一様に息を詰める。その一人一人に視線を合わせて、忍びは言った。
「腹拵えでござる」
「「「腹拵え」」」
思わず、その場の全員が復唱した。いや、呑気なことを言っている場合かと誰かが言えば、とんでもないと大真面目に忍びは首を横に振る。
「古くより、腹が減っては戦はできぬと申すでござろう。ほら、アマツカグラの名物も沢山用意したでござるよ。麦飴に、きんつば、団子、おはぎに、ちょこれいともこれ、この通り」
外の世界の猟兵達にはチョコレートがアマツカグラという都市国家の名物なのかどうかはまったく判断がつかないが、まあそれはいい。
とにかく、と山のように用意された食べ物を指し示して、コゲンタは言った。
「怪物どもを相手取るこの戦い、長丁場となることは必至でござろう。ここでしっかりと英気を養い、そして、我らの世界を守るための力を貸してくだされ」
お頼み申すと頭を下げて、そして、少年は大粒の『ちょこれいと』を手に取った。
月夜野サクラ
お世話になります月夜野です。
ひゃっはーエンブレ戦争だ捨て身で書きます。
というわけで、一ヶ月間どうぞよろしくお願いいたします!
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●概要
・戦争シナリオにつき、1章で完結となります。
・個別リプレイを想定しておりますが、組み合わせた方が面白くなりそうだな、という場合はまとめてリプレイにする可能性があります。指定の同行者の方以外との連携がNGの場合は、その旨をプレイング内でお知らせください(ソロ描写希望、など)。
・受付状況等をお知らせする場合がございますので、マスターページとシナリオ上部のタグも合わせて御確認を頂けますと幸いです。
●プレイングボーナス
宴会に参加し、盛り上がる。
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会場は霊峰天舞アマツカグラのどこかにある宴会場。
川の上に床を使ったいわゆる『川床』で、涼みつつ英気を養ってください。
この戦いにかける意気込みを語っていただいても構いませんし、普通に飲み食いしていただいてもOK。
アマツカグラっぽいものは一通り用意されており、それに加えてコゲンタが持ち込んだチョコレートが大量にあります。
その他のものを作ったり、持ち込んだりして頂いても構いません。
当方のグリモア猟兵に御用の際はお声がけいただければ誰でも顔を出しますのでお気軽にどうぞ。
それでは、ご参加を心よりお待ちしております!
第1章 日常
『奈落大宴会』
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POW : 豪勢な宴会料理を楽しむ
SPD : 宴会芸や話芸で場を盛り上げる
WIZ : 自慢の料理や飲み物を持ち込み、給仕する
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マウザー・ハイネン
ロズヴィータ様(f38918)と
三勇者決戦前の戦勝祈願祭を思い出しますね。
宴会に参加し盛り上げる…私からは程遠い感覚なのでロズヴィータ様に頼みましょう。
色々話していれば盛り上がってくる気がしません?
宴会芸が必要なら早彫りでも、と星霊クリンを召喚して川の水を一部凍らせてそれらしい氷彫刻を披露しましょうか。
演武が必要なら頑張りますが…必要ないならアマツカグラの美味しい料理を味わいつつ、この後の戦いに備えるとしましょう。
意気ごみ…ですか。
世界を滅ぼす、即ち私達が救った人々もいなくなる。
…許せる訳、ありません。あの11の怪物は徹底的に滅ぼします。
…ロズヴィータ様も頑張りましょう?
※アドリブ絡み等お任せ
「三勇者決戦前の戦勝祈願祭を思い出しますね……」
賑う川床の様子を遠巻きに見つめて、マウザー・ハイネンは呟くように言った。
山斬烈槍ランスブルグでの戦いを前に行われた戦勝祈願祭は、蘇ったアマツカグラの旧き風習であった。そして今、再びの大きな戦いを前にして多くのエンドブレイカー、そして『外』の世界より訪れた多くの猟兵達がこの地に集っている。その光景を、あの時と重ね合わせるなという方が土台無理というものだ。
「しかし、宴会に参加して盛り上げる……ですか。私からは程遠い感覚ですね」
うーん、としばし首を捻り、マウザーは徐に傍らの友人を振り返った。
「私には少々荷が勝ちますので、ロズヴィータ様にお願いしましょうか」
「アンタ、人を何だと思ってんだい」
宴会芸なんざできねーぞ、とジト目で睨む女に努めて無表情に首を振り、『そうではなく』と言い置いてマウザーは続けた。
「色々話していれば、それだけで盛り上がってくる気がしませんか?」
「そりゃ、話が弾めば自然とそうなるだろうがよ」
「ですから、お話しましょうということです。……宴会芸が必須ということであれば、早彫りでもご覧に入れますが」
「いい、いい、クリンはしまっとけ」
折角ですのでと丁重に辞して、マウザーはアイスレイピアを一振りするや流れる川の水を一部凍らせ、やたらと美しいチッタニアンの像を彫り上げる。その背中は意外に楽しそうで、ロズヴィータは呆れと感心の入り混じった息を吐いた。
「なんだかんだアンタだって盛り上がってんじゃないかい」
「演武が必要なら頑張りますが……?」
「いいから座りな。チョコはともかく、腹が減ってちゃ戦えないってのは事実だ。……おい、まさか甘いモンしかないんじゃないだろうね?」
酒はねーのかと女は言ったが、戦いに赴く前にわざわざ酒を飲むこともあるまい。供されたアマツカグラ料理の膳に澄まし顔で箸をつけつつ、お預けですねとマウザーは言った。
「……世界を滅ぼす、ということは」
「おい、なんだこの棒。どうやって使うんだ?」
「必然的に、私達が救った人々もいなくなる……ということです」
続く言葉にぴくりと眉をひそめ、ロズヴィータは使い慣れない箸を置く。じろりと見返す紫の瞳に真っ直ぐに視線を合わせて、マウザーは続けた。
「許せる訳、ありません。あの十一の怪物は徹底的に滅ぼします。ロズヴィータ様も頑張りましょう? まずは、お箸の使い方からでも」
「……前から思ってたが、アンタの冗談は分かりにくいんだよ」
「冗談を言ったつもりはないのですが」
そう言って、マウザーは冷やした夏野菜の煮物を口へ運んだ。この食事を終えたら、次に向かう先は戦場だ――世界の滅亡という巨大な
終焉を砕くためにも、ここはしっかりと腹拵えをして臨もうではないか。
大成功
🔵🔵🔵
クレープ・シュゼット
コゲンタくんは、チョコ好きなんだっけ?
宴に甘味! と聞いて色々持ってきたよー
まだ残暑厳しいしチョコアイス!
ケーキもガトーショコラとか、オペラにタルト
ザッハトルテにチョコモンブランにー……あとこれ自信作!
シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ!
シルバーレイン出身の知り合いが作り方教えてくれたんだよー
それからチョコエクレアとか、チョコシュークリームとかもあるよ
会えるか解らないけど、フレデリカちゃんにオランジェットも作ったよ
(ユーベルコード製の保存容器からぽいぽい取り出し)
俺は俺でアマツカグラのお菓子貰おうかな!
色々貰って、涼みながら食べよう!
霊峰天舞アマツカグラ。
流れる川面に板張りの床を組んだ川床の宴会場は、戦いに赴く各世界の猟兵達で大いに賑わっていた。そこへ人混みをすり抜けて、一人のエンドブレイカーがやってくる。
「おお、やってるやってる。すごい人だなあ……あ」
きょろきょろと辺りを見回して川床の一角に見知った忍びの姿を見つけ、クレープ・シュゼットは朗らかな声を上げた。おういと呼び掛ければ覆面の隙間に覗く青い瞳をぱちぱちと瞬かせて、忍びの少年――コゲンタが振り返る。
「おや、クレープ殿もおいででござったか」
「やあコゲンタくん! 宴に甘味! と聞いてきたよー」
宴の準備、それも甘いものとくれば、マギラントでパティスリーを営むクレープの本領発揮だ。山ほど抱えたお菓子入りのケースを足元に積み上げて、意気揚々と荷を解きながら青年は言った。
「コゲンタくん、チョコ好きなんだっけ?」
「……別に、そういうわけではないでござるよ」
拙者修行中の身ゆえ、と、見え透いた強がりを言いながら、少年はすうと視線を逸らす。そっかあ、とわざとらしく残念そうな声を作って、クレープは言った。
「色々持ってきたんだけどなあ。ほら、まずはチョコアイス! まだ残暑厳しいからきっとおいしいよ。それからガトーショコラでしょ、オペラでしょ、あとチョコレートのタルトにモンブラン……」
ぴく、ぴく。
流れるように紡がれる魅惑の響きの数々に、紅い襟巻の肩口が逐一跳ねる。聞くだに美味しそうなチョコレート菓子の名にあからさまに反応する後姿をちらりと見て、極めつけとばかりにクレープは続けた。
「あとねー、これは自信作! シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ!」
「しゅ、しゅばるつ、ヴぇ
……!?」
いっそ必殺技かなと思うようないかつい名前はもはや何のことかも分からずに、コゲンタはすっとぼけるのも忘れて復唱する(できてない)。思わずこちらを向いた少年を見逃がすことなく、クレープはその肩を抱え込んだ。
「見てほらこれ! チョコのスポンジにクリームと、削ったチョコがのってるんだ。シルバーレイン出身の知り合いが教えてくれたんだよー。それからほら、チョコエクレアとか、チョコシュークリームもあるよ! ほらほら遠慮せずにほらほら」
「あっあっ、やめてくだされ! やめてくだされ! 拙者、修行中の身ゆえ暴食は……ああああ」
目と鼻の先まで大好物のチョコレートを突きつけられては、もはや我慢もへったくれもない。身体が勝手に、とよく分からないことを言いながら与えられたチョコレート菓子を貪り始めたコゲンタを背に、クレープはもう一つ、保存容器を取り出した。
「それからフレデリカちゃん用にオランジェットも作ったんだけど――」
「それってミカンですか!?」
ざば、と水を跳ね上げて、川の中からこれまた見知ったエンドブレイカーの少女が顔を出す。どっから来るんだとか突っ込むのはもう時間の無駄である。
ミカンじゃないけど、と手渡せば喜び勇んで跳ねていく少女の姿を微笑ましく見送って、クレープはご馳走の山へ向き直った。
「さて、それじゃあ俺は俺でアマツカグラのお菓子貰おうかな!」
麦の匂いが香ばしい素朴な飴も、醤油の匂いのするみたらし団子も、すべてはこの地ならではの味わいだ。腰を下ろせば周囲を浸す川面の涼気は心地良く、クレープはどこまでも上機嫌に、見慣れぬ菓子を頬張った。
大成功
🔵🔵🔵
マシュマローネ・アラモード
◎
モワ!アマツカグラは初めて訪れましたわ!
なんとなくですが、サクラミラージュのような雰囲気で良い都市国家ですわね?
腹拵えなら、私の領分。
UC
権能豊かなる変革。
この地に根ざす食材をここに。
豊穣の力と火山の霊気が宿るお餅の米。
やはり、お腹に力の入るのは主食という事でしょう。
手早くチョコレートでガナッシュを作って、お餅を求肥にして、ひんやり冷やして、そこにガナッシュを包んでココアをふらせば完成ですわ!
ひんやり食感と甘い口溶け、そして川床の涼しさもあって、鋭気を養うには十分!
モワ、いざ戦場へ!
この世界も救いましょう!
皇女として、誉れある戦いを!
「モワ! アマツカグラは初めて訪れましたわ! サクラミラージュのようなところですのね?」
見知らぬ土地の見慣れぬ景色はいつか訪れた別世界にも似ている気がして、マシュマローネ・アラモードはきょろきょろと辺りを見回した。しかし街の造りや雰囲気は似通っていても、遠く聳えるアマツ富士の頂に架かる二本の大太刀はここが明らかな別世界であることを教えてくれる。
「でも、良い都市国家ですわね」
この街の、世界の過去をマシュマローネは知らない。けれどそれでも、今目の前にある街と人々の暮らしが、守られるべき大切なものであることは一目で分かる。そして、決して負けられない戦いであればこそ、備えは十全であるべきであって。
「腹拵えなら、私の領分です。ここにあるものみんな、もっともっと美味しくして差し上げますわ!」
振るう権能は、彼女の目に映るありとあらゆるものを『食材化』する。ポン、と軽やかな音と共に煙に包まれた河原の岩は、次の瞬間、大きな俵に姿を変えていた。中には、糯米がみっしりと詰まっている。
「なるほど、この地に根ざす食材はお米のようですね」
戦いを前にして腹に力を入れるためには、やはり主食が肝要ということなのか。であればそれを活用しつつ、甘くておいしい夢のようなデザートを作ってみせようではないか?
「ラモード星第十二皇女、マシュマローネ・アラモード! とっておきのスイーツを作ってご覧に入れますわ!」
普通ならば時間のかかる工程も、彼女のユーベルコードならばお手の物。糯米を挽いて求肥に加工し、ひんやりするまでしっかり冷やし。溶かしたチョコレートを生クリームと混ぜ合わせて作ったガナッシュを包んでココアパウダーを振れば、マシュマローネお手製のチョコレート大福の出来上がりだ。
「さあさ、ひんやり食感と甘い口溶けをたんと味わってくださいませ。そして――モワ! 英気を養ったなら、いざ戦場へ! ですわ!」
一国の誇りある皇女として、異界の地にあっても誉れある戦いを。世界を救う大戦に臨むべく、少女は作り立てのチョコ大福に齧りついた。
大成功
🔵🔵🔵

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼
アドリブ歓迎
和風の世界にちょこれいと、よろしいではありませんか
世界を渡り歩くわたくし達にとってはお国の違いなど些細なこと
腹が減っては戦は出来ぬ。まして甘いものは心と体を幸せにしてくれます。
でも甘味ばかりでは飽きてしまうというのもごもっとも
ではこういうのはどうかしら
UDCアースやサクラミラージュには「珈琲善哉」なるすいーつがあると聞きました。甘く煮たつぶあんの上から熱いコーヒーを注いだ新食感
ぜんざいの甘さがほろ苦いコーヒーで程よく抑えられますの
お好みでアイスやクリームを乗せたり、お餅や白玉団子を淹れるのも一興
きっとヴォルフも気に入るわ
喜んでくれて嬉しいわ
この調子でこれからも頑張りましょうね
ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼
アドリブ歓迎
確かに「腹が減っては戦は出来ぬ」
戦の前に英気を養うのは理にかなっている
川床というのも風流だ
清涼な風とせせらぎが心を落ち着けてくれる
しかし……少々甘味が多すぎはしないか。特にこの大量のちょこれいと
いや、俺も別にチョコは嫌いではない……むしろアリスラビリンスでも、グリードオーシャンでも、封神武侠界でも、戦の最中お前と共にチョコを食べる一時は無上の幸せだった
しかしこうも多いと舌が甘味で染まってしまいそうで……
「珈琲善哉」そういうものがあるのか
どんな味になるのか想像もつかないが……
うむ、確かにこれは美味い
珈琲のほろ苦さと小豆の甘さのバランスが絶妙だ
ああ、勿論だとも
この調子で頑張ろう
「川床というのも風流だな……」
さらさらと清らかな音色を奏で行き過ぎる水を見送って、ヴォルフガング・エアレーザーは口を開いた。
霊峰天舞アマツカグラを流れるとある川の畔に設けられた川床の宴席は、早くも多くの猟兵達で賑わっていた。風の運ぶ涼気とせせらぎは肌に心地良く、戦いの熱に浮かされた心を落ち着けてくれるかのようだ。
「確かに『腹が減っては戦は出来ぬ』。戦の前に英気を養うのは、理にかなっている……と思うが」
しかし、と言い淀んで、男は宴席の一角を見やった。団子におはぎ、饅頭、くず餅、わらび餅――そこにはありとあらゆる和菓子に加え、なぜか大量のチョコレートが山と積み上げられている。勿論ちゃんとした食事も用意されてはいるのだが、何分菓子の山が大きいものでほとんど目立たない有様である。
「少々甘味が多すぎはしないか。特にこの大量のちょこれいと……」
「ふふ、和風の世界にちょこれいと。よろしいではありませんか」
穏やかに微笑して、ヘルガ・リープフラウは伴侶の傍らに並び、そして続けた。
「世界を渡り歩くわたくし達にとっては、お国の違いなど些細なこと。おっしゃるとおり、腹が減っては戦は出来ませんし、まして甘いものは心と体を幸せにしてくれます」
「それは、俺とて別にチョコは嫌いではないが……」
困惑気味に眉を下げて、ヴォルフガングは語尾を濁した。勿論、嫌いでないというのは嘘でもなんでもない――アリスラビリンス、グリードオーシャン、果ては封神武侠界まで、いつどんな世界にあっても、傍らの彼女と共に嗜むチョコレートは無上の歓びをくれた。だがこうも量が多いと、舌が甘味でどうにかなってしまいそうだ。
なるほど、と頷いて、ヘルガは言った。
「では、こういうのはどうかしら?」
甘味ばかりでは飽きてしまう、というのはごもっとも。ならばただ甘いだけではない物をこの手で創り出せばいい。
「UDCアースやサクラミラージュには、『珈琲善哉』なるすいーつがあると聞きました。甘く煮たつぶあんの上から、熱いコーヒーを注いだ新食感……ぜんざいの甘さがほろ苦いコーヒーで、程よく抑えられますの」
「こーひーぜんざい……?」
苦いコーヒーと、小豆を煮詰めた甘い餡。これらが組み合わさってどういう味になるのか、ヴォルフガングには想像がつかない。素直にそれを口にすれば、そうですねと頷いてヘルガは応じた。
「アイスやクリームを乗せたり、お餅や白玉団子を入れてもいいの。きっとヴォルフも気に入るわ……案ずるより産むが易し、申しますし」
やってみましょうと微笑んで、ヘルガは用意された甘味の中から使えそうな材料を選び取り、持ち込んでおいたコーヒーと合わせて即席の珈琲善哉を作り上げる。甘さとほろ苦さが程よく釣り合った控えめな味わいは、ヴォルフガングの口にも合うことだろう。
「この戦い、頑張りましょうね」
「ああ、勿論だとも」
捨て置けば終わりゆく世界と知っていて、ただ見送るわけにはいかないから。
決意を胸に英気を養って、猟兵達は来たる戦いに備えるのだった。
大成功
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ローカスタ・マイグラトリア
お初にお目にかかる
拙者ローカスタ・マイグラトリアと申す者
出身世界の危機と言う事で推参した次第で御座る
差し支えなければ拙者も宴に加えて頂きたい
いやーアレでござるな
腹が減っては戦は出来ぬとは実に尤も!
出陣前に湯漬けで腹を満たすのはこうした場面のお約束でござろう?
まあ拙者は折角なのでチョコレイトを頂こうと思うでござるが…
栄養価の高さと適度な興奮を齎すチョコレイトは携行食としても良さそうでござるな
幾つか都合して頂けぬものか…ちと聞いてみるでござる
……戯言はさておき
其処に如何な大義が在ろうとも、世間を動乱の巷に貶めんとする輩は許しては置けぬで御座る
某は万民の為に尽力する所存
天下泰平こそが某達の大義にて候
降り注ぐ太陽の光を遮って、瓦葺の屋根から屋根を駆ける細身の影が一つ。
しゅた、と川辺の宴会場へ降り立って、ローカスタ・マイグラトリアは高らかに名乗りを上げた。
「お初にお目にかかる。拙者ローカスタ・マイグラトリアと申す者――出身世界の危機ということで推参した次第で御座る! 差し支えなければ拙者も宴に加えていただけぬか?」
川岸に設営された宴会場は、既に多くのエンドブレイカーや『外』の世界の猟兵達で賑わっていた。どうぞどうぞと手を引く給仕達に連れられて、インセクテアの青年は川床の畳の上に透き通った翅を休める。絶えず動き続ける二本の触覚は、賑いの中に潜む戦いの前の張り詰めた空気を鋭敏に感じ取っているようだ。
「いやーアレでござるな。腹が減っては戦は出来ぬとは実に尤も! 出陣前に湯漬けで腹を満たすのは、こうした場面のお約束でござろう?」
ではお持ちしましょうか、と給仕の娘が尋ねると、否と緑に艶めく顔を横に振って、忍びは言った。
「拙者は折角なので、チョコレイトを頂こうと思うでござる。いくつか都合していただけぬか?」
チョコレートは栄養価の高さも然ることながら、適度な興奮をもたらすという点で戦場の携行食にはうってつけの食べ物だ。素面で死線は潜り抜けられまいと嘯いて、ローカスタは給仕達が懐紙に包んでくれたチョコレートを黒光りする忍び服の懐にしまい込む。そして遥か山頂の二本太刀を振り仰いで、言った。
「さて……戯言はさておき」
『十一の怪物』なるものが、何を思い、この世界を破壊しようとしているのか。その思惑は、ローカスタには分からない。或いは、そこには何者にも想像のつかないような理由が横たわっているのやもしれぬ。けれど――仮にそうだとしてもだ。
「其処に如何な大義が在ろうとも、世間を動乱の巷に貶めんとする輩は許しては置けぬで御座る」
懐に入れたチョコレートが零れぬことを確かめて、忍びは蟲の翼を羽ばたかせる。そして舞い上がった空の只中で、誰にともなく彼は謳った。
「某は万民の為に尽力する所存。天下泰平こそが、某達の大義にて候!」
何者にも、この世界を脅かさせはしない。確かな決意を胸に抱き、忍びは戦場へと翔けていく。
大成功
🔵🔵🔵
サツキ・ウカガミ
よし。みたらし団子も確保したし……
友達を探して、一緒に食べようかな。
いたいた。やっほー、コゲンタ。川床は、気持ちいいね。
皆も盛り上がってるし。アマツカグラの夏は、最高だね。
これは、きっと良い戦勝祈願になりそうだね。
ふふふ、ちょこれいと好きは、変わらずだね?
戦いが一息ついたら、ラッドの美味しいちょこれいとのお店、教えてね。
今度、そっちにも遊びにいくからさ。約束だよ!
よし、じゃあボクはもう少し、皆の顔を見てこようかな。
フレデリカにも会いたいしね。どこかにいるかな?
じゃあ、また今度ね、コゲンタ!
(グータッチのポーズをして)お互い頑張っていこうね!
「みたらし団子、よし」
竹皮の器に二本並べたみたらし団子をまじまじと見つめて、サツキ・ウカガミは確かめるように言った。霊峰天舞アマツカグラの一角、川辺に設営された宴会場は既に多くのエンドブレイカーや猟兵達で大賑いで、少しの移動も一苦労だ。
抱えた団子を潰してしまわないように庇いながら、サツキは人混みをすり抜けていく。そして川床の片隅に見知った姿を見つけると、黒手袋の手を振り上げた。
「いたいた――やっほー、コゲンタ!」
探し人は涼やかな川床の上で、山積みになったチョコレート菓子をせっせと頬張っていた。ふな、と言葉とも鳴き声ともつかぬ声を発してしばし口の中のものを咀嚼し、コゲンタはサツキへと向き直る。
「これはサツキ殿。ここでお会いできるとは、心強い限りにござるな」
「ふふ、ちょこれいと好きは、変わらずだね? 川床はやっぱり、気持ちいいね」
流れる川面から立ち昇る涼気は、夏と戦の両方に浮かされたような身体を少なからず冷ましてくれる。やはりアマツカグラの夏は、良い――よく似た世界は数あれど、この胸の透くような心地よさは、何にも代えられるものではないだろう。
少年の傍らに並んでみたらし団子を一本手渡し、サツキは自らも一粒を口に含んだ。艶々としたみたらし餡は甘じょっぱく、醤油と焼き目の香ばしい匂いがする。
「皆、盛り上がってるね」
「左様にござるな」
「アマツカグラの夏は、最高だよね」
「然り」
「…………」
世界の危機に等しい戦いは、これが初めてではないのだ――怖いとは思わないけれど、何も感じないと言えば嘘になる。そしてそれはきっと、傍らの少年も同じなのだろう。けれど――。
緊張からかどこかぎこちない会話の合間に黙々とみたらし団子を食みながら、サツキは言った。
「……これは、良い戦勝祈願になるね」
ここに集った仲間達の顔を見ていると、不思議と勇気が湧いてくる。『大丈夫』だと、『きっと勝てる』と、そんな風に思えてくる。ただ単に腹を満たすだけではない、それ以上の意味と価値が、この宴にはあるのだろう。
串に残った団子の最後の一粒を飲み下して、サツキは続けた。
「戦いが一息ついたら、ラッドシティの美味しいちょこれいとのお店、教えてね。今度、そっちにも遊びにいくからさ」
「勿論。その日のためにも――必ず、乗り越えねばでござるな」
「――ふふっ。それじゃお互い、頑張っていこうね!」
そう笑って、サツキは右の拳を差し出した。ほらと促せばおずおずとそれを真似るコゲンタの拳をこつんと突き、そして少女は後を継ぐ。
「よし、じゃあボクはもう少し、皆の顔を見てこようかな。フレデリカにも会いたいんだけど……どこかで見なかった?」
「フレデリカ殿ならさっき、川から飛び出しておらんじぇっとを食しておられたでござるが……」
「えっ?」
何気なく行方を尋ねた友人の想定外の奇行については、一旦、聞かなかったことにするサツキであった。
大成功
🔵🔵🔵

栗花落・澪
食べたり飲んだりも好きだけど
たまには給仕する側になるのもいいよね
即席だから大量に、とはいかないけど
得意の薔薇のアップルパイをいくつかと
フルーツとナイフを持ち込んで
切り分けたアップルパイは配布しつつ
別途フルーツとナイフでフルーツアート作り
メロンの中身をくりぬいて作ったお洒落なバスケットの中に
メロンの実とサクランボ、マスカット、苺等を盛り付けたり
苺やリンゴ等を花の形に切ったり
動物も作れますよ
やっぱり目でも楽しんでもらいたいしね
あとは目よりお腹を満たしたい人用に
持ってきたフルーツとUCを組み合わせてデザート量産しようかなって
お代わり必要な方いらっしゃいますか?
お呼びいただければお持ちしますからね!
「はいどうぞ、しっかり食べてくださいね! あ、よかったらこちらもどうぞ!」
満開の桜が咲いた振袖を襷掛けにして、栗花落・澪は宴に興じる人々の間を忙しなく行き来する。両手に持ったトレイの上には、薄切りの林檎を薔薇の花のようにあしらったアップルパイが載っている。
(「食べるのも飲むのも好きだけど、たまには給仕する側になるのもいいよね!」)
美味しい、と言ってくれる人の顔を間近に見られるのだ。作り手として、こんなに嬉しいことはない。急なことであまり数は作ってこられなかったものの、手作りのアップルパイは異世界の仲間達にも好評で、用意してきた数ホール分は瞬く間に売り切れてしまった。が――勿論、それで終わりの澪ではない。
「よーし、それじゃあ後はこのフルーツで……!」
持ち込んだのは、アップルパイだけではなかった。お菓子の形に仕上げてくる時間はなかったものの、色とりどりのフルーツとて宴会に華を添える主役級の食材だ。大きなメロンを一玉取り上げると、澪は果物ナイフを握り締め、即席の調理台に据えたそれを慣れた手つきでくりぬいていく。
「これをこうして……こっちはこうで……できた!」
多彩な果物を剥いて、切って、盛り付けて、できあがったのはメロンの皮を器にした煌びやかなフルーツバスケットだ。中には一口大に切り分けたメロンの他に、サクランボやマスカットの粒、飾り切りにしたイチゴやリンゴがこれでもかと載せられている。鮮やかなその手際に近くで見ていた人々から歓声が上がれば、澪は赤みがかった琥珀色の瞳をぱっと輝かせた。
「動物も作れますよ! お花だって、ほら!」
舌も目も、同時に楽しませてこその料理だ。寄せられるリクエストに応じながら、澪は見事な飾り切りを披露していく。勿論、目よりも腹を満たしたいという情緒のない――もとい、食欲に忠実な客層のために、お代わりの準備もばっちりだ。
「お代わり必要な方いらっしゃいますか? お呼びいただければお持ちしますからね!」
魔法のようなユーベルコードを使えば、フルーツをふんだんに使ったデザートだってお手の物。戦いに赴く仲間達を胃袋から支援するべく、澪は川床の宴会場を駆け回る。
大成功
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