うばたまの黒髪流れ夏香る
日下部・香
【宿題】【月隠・新月(f41111)と】
(新月とは同背後です)
▼行動
いやあ新月、毎度この時期は弟妹が世話になるな! ささ、どうぞよく冷えたスイカでも……
……いや、な。私今年は頑張ったんだよ。その証拠に1つ以外は宿題は終わってるんだ。快挙だろ?
あと終わってないの? 読書感想文。
……読書感想文だ!! 手伝ってくれ!!!
とりあえず本読んで、感想を……何を書けばいいんだ……。思ったことをすべてといわれてもな……ああ、そうだ。この話、なんだかうちの家族と重なるんだよな。家族のことなら、ちょっとは書きやすいかも。
しかし、妙に宿題慣れしている新月を見ると改めて申し訳なくなってきたな……。今度イチゴ大福買ってくるか……
▼補足:香について
高校2年生。両親と数人の弟妹+居ついているオルトロス(新月)の家族で暮らしている。香は長子。
宿題はちゃんとやろうと思ってはいるけど、ケルベロスの活動に一生懸命になって後回しにしがち。
読書感想文はちゃんと本を最後まで読んで書くタイプ。真面目に取り組んではいるが、いつも文字数を増やせず四苦八苦している。
▼蛇足:夏休み開始前日の会話
長い休みだから時間はたくさんあると思って、デウスエクス倒しに行ったり、鍛練したりしてたらどんどん時間が過ぎて、結局宿題は後回しにしちゃうんだよな。毎年そうだ。新月に迷惑かけて悪いとは思ってる。
じゃあ、今年は毎日2時間は宿題に使うよ。私がまた宿題後回しにしたら、私の分のおやつは新月が食べていいからさ。
月隠・新月
【宿題】【日下部・香(f40865)と】
▼状況
夏休みの終わり頃、早めに夏休みの宿題を終わらせた……ようでいて終わってなかった香と、オルトロスの新月が読書感想文を書きあげるべく頑張る
(香とは同背後なので、登場文量等はお気遣いいただかなくともOKです)
▼行動
確かに香はほぼ毎日宿題に取り組んでいた。昨年までと比べれば、遥かに状況は改善している。
だが終わっていないものは終わっていない。なぜ読書感想文を最後に残したんだ?
つべこべ言っても仕方がない。やらなければ宿題は終わらない。
本が決まっていないのなら、もうお前の弟の課題図書と同じでいいだろう。数時間で読めるそう分厚くない本だ。……俺はもう読んだ。
いつものようにパソコンで書いてから、原稿用紙に清書する形で進めよう。本を読んだらとりあえず感想を書くんだ。お前の場合とにかく文字数を増やせば何とかなる、思ったことをすべて書けばいい。体裁は俺が整えよう。文字数も少しなら増やしてやる。
▼補足:新月について
香の家に居ついているオルトロスです。学校には行っていません。
ここ数日は香の弟妹に宿題を手伝わされています。
日下部家の人たちが新月に頼みごとをする際には、何かお菓子を渡すのが習慣になっています。新月一番の気に入りはイチゴ大福(白あん)。
香の両親には、子供たちの夏休みの宿題をどうにかする手伝いを頼まれています(イチゴ大福ももらいました)
▼蛇足:夏休み開始前日の会話
香、落ち着いて聞いてもらいたい。
お前は明日から夏休みに入るわけだが、今年も宿題があるだろう。毎年8月の終わりに俺が手伝ってやっているあれだ。お前の弟も妹も皆同じ状況だから手に負えない……いや、話が逸れた。
お前ももう高校2年生だ、いい加減「宿題を早めに終わらせる」ということができてもいいのではないか? せめて、毎日少しずつ手を付けるとか……
●
夏の終わり、蝉の声。
日下部家の縁側で、オルトロスの新月はのんびりと空を見ていた。
入道雲の具合からするに、秋も少しずつ近付いてきている――そのはずだが。
こう暑くては敵わないと姿勢を変えた新月の前に、どん、と四半分に切られたスイカが置かれた。
「よく冷えているぞ! いやあ、今年もありがとうな。新月」
スイカを運んできた娘、香はからからと笑って、宿題と格闘している弟妹達の様子を見に行った。
どうやら年少組は、まだ宿題を残しているらしい。
とはいえ、新月はここ数日の間に皆をだいぶ手伝った。
ここで出て行かずとも、後は自分達の力でどうにかするだろう。
(「皆、成長しているな」)
感慨深げに目を細め、新月はスイカに口を付ける。
しゃくしゃくと音を立てる果実は、甘い。
日下部家の者に力を貸す対価としての甘味であるが、こう味わい深いものを渡されると不思議と遣り甲斐を感じてしまう。
(「特に、香の成長は著しい。去年までは毎年、八月の終わりは酷いことになっていたが」)
彼女ももう高二だ。今年は毎日のように宿題に取り組んでいる姿も見た。
子供はいつまでも子供ではないということか。
新月がスイカを平らげた頃、香は機嫌良さげに戻って来た。
「皆、最終日までに片付けられそうだ。うん、めでたしめでたしだな!」
「そうか。香、お前も今年は焦らずに済みそうだな」
ぺろりと口元を舐める新月に、香は何も答えない。
ちらり、と横目で香を見る――明らかに顔がこわばっている。
「……まさか、お前」
「いや、な。私、今年は頑張ったんだよ。その証拠に、一つ以外は宿題は終わってるんだ。快挙だろ?」
快挙という表現に誇張はない。
しかし、大事なのはそこではない。
そう。香の宿題はあと一つ、終わっていないのだ!
「頼む、新月。読書感想文! 手伝ってくれ!!」
華麗な身のこなしでジャンピング土下座。
差し出されたスイカはこの為だったか。
ぺしりと前脚で香の頭をはたき、新月は深い溜息をついた。
「……イチゴ大福追加。白あんのやつだぞ。それで手を打とう」
読書感想文。
本を読み、抱いた感想をしたためる、夏休みの宿題の定番だ。
読み書きが速く、書くべき内容を纏める能力が高い者ならそれほど苦にならないはずだが。
「まったく、よりにもよって……なぜ最後に残したんだ?」
新月が零さずにはいられぬ程に、香は読書感想文の類が苦手であった。
「いや、その、長い休みだから時間はたくさんあると思って……デウスエクス倒しに行ったり、鍛練したりしてたらどんどん時間が過ぎて……」
「御託はいい。やらなければ宿題は終わらない。ほら、机に向かえ」
後ろからぐいぐいと香を押して連行していく新月。
傍から見ればその様子は、飼い主に散歩を強請る大型犬。
しかしてその実態は、やんちゃな弟の世話を焼く姉。
まあ二人とも女性(雌)なのだが、それはさておいて。
「とりあえず本、本を……」
「何を読むかは決まっているのか?」
「……」
「……プリントを見せろ。宿題の概要が書いてあるアレだ」
香の取り出したプリントに記された読書感想文の概要はこうだ。
>選んだ一冊の感想を原稿用紙に、既定の枚数以上纏めよ。
>課題図書と自由図書、どちらの部門を選択するかは生徒に一任する。
「そして、これが課題図書の一覧……いずれも内容が複雑そうだな。お前が今から読むとなると、かなり時間を食ってしまうだろう」
「そうなると、自由図書一択だな! うん、希望が見えてきたぞ!」
香は本をきっちり最後まで読んだ上で感想文に取り掛かるタイプだ。
一度の通読である程度の内容を掴む為には、込み入った内容の本は避けたい。
「もうお前の弟が感想文を書いた本と同じでいいだろう。あれはそう分厚くもないし、数時間で読めるはずだ」
「そうなのか? なら、早速借りて来よう! しかし、新月。詳しいな!」
「……俺はもう読んだからな」
宿題慣れしたオルトロスの有様、流石に香も申し訳なく思う。
毎年、迷惑をかけてしまっている。
自分だけでなく、弟妹達のこともだ。
今回の報酬とは別にイチゴ大福を用意しよう。そう、娘は密かに心に誓った。
そして、数時間後。
「うん、いい話だった!」
一気に一冊読み終えて、充実感に満ちた笑顔を浮かべる香に。
「ふむ。いい話以外の感想は?」
新月が問いかければ、あら不思議。充実感があっという間に絶望感に!
「感想……感想?」
「いや、深く考えるな。何でもいい。とりあえず、思ったことをすべて打ち出してみろ」
下書き用にと開いたパソコンを前に、香はうーんと唸るばかり。
「いい話、だけじゃ駄目として……思ったことをすべてと言われてもな」
「ならば、そうだな。その本、家族の話だったろう? どこか日下部家と重なる部分はないか?」
「あ! そういうことならある! あるぞ! 両親に、きょうだいがいて……」
そして、支えてくれる存在――香の場合は新月が該当する。
思い付くまま箇条書きの形で打って、新月に見せてみれば。
「どうだろうか?」
「よし。これなら体裁を整えて、字数を膨らませれば何とかなるな。俺も少し手伝ってやる」
オルトロスは頷き、画面を覗き込んでアドバイスしてくれる。
指摘された箇所にカーソルを運び、手を動かす。
映し出された感想がだんだんと、文章として形作られてゆく――。
きりの良いところまで作業を進めて時計を見れば、既に夕飯時近くになっていた。
「あとは原稿用紙に清書するだけだな」
「どうにか、なった……新月、ありがとう。本当にありがとう……」
最後の強敵を倒せる目処が立ち、香は新月を拝むばかりだ。
「礼は清書を終えてから言え。それから、香」
「何だ?」
「今年は毎日、二時間程は宿題に使っていたな? 休みの前日にお前が言った通りに」
「ああ、私に二言は無い!」
「よく頑張ったと思うぞ。……さて、当然その続きも覚えているな?」
得意げな香に、新月は淡々と告げる。
「『私がまた宿題後回しにしたら、私の分のおやつは新月が食べていいからさ』 香、確かにお前はそう言った」
「アッハイ」
ぶるりと身体を振るわせてのち、オルトロスは娘に笑んだ。
「明日のおやつは俺が貰った」
代償――払わねばならぬもの。
手の中から零れ落ちていくのは、いつだって自分にとって大きなもの。
香はこの夏の終わりに、ひとつの学びを得たのであった。
成功
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