新ジャンル!お化け屋敷……女子会?
●お分かり頂けるだろうか
幽霊の正体見たり枯れ尾花――さりとて、此処はそうであろうか。古い卒塔婆・灯篭・墓場の森に揺れる柳の隙間からにょろにょろ動くろくろ首。ひゅるぅりどろろ揺れる鬼火と透ける女が戯れて。他にも数多、数多にぞろぞろと集う集うは魑魅魍魎。まさにそのさま百鬼夜行。かぁごめかごめとぐぅるり囲う輪の中に二人の少女が、居て。
「まずは楽しいことで賑やかすのが良いと思いますですの!」
「そうでありまするな!世にはコンセプト居酒屋などもありまする故、ここは新しくお化け屋敷喫茶店など如何でありまするか?」
「あらまぁ、それは楽しそうやんなぁ」
歓談してた。なんでや。此処は見てお分かりの通り、正真正銘ただのお化け屋敷である。コンセプト喫茶店とかではないのだが、然し!残念ながら!この場にはツッコミを入れる人材は居なかった。とにかくも事の経緯を順番に語らせて頂こう。
登場するはエミーリアとサイゾーという二人の少女。二人は今年初めてコンクールに備えて水着を誂えた。片や花の如く華やかなエミーリアの水着、片や和風アレンジが超・クールなサイゾーの水着。それぞれに相応しい装いだ。お年頃の少女達だし、折角のお洒落はお披露目したくもなろう。そこまではよかった。どうしてかそこで閃いた。
「そうですの、サイゾーさん!お化け屋敷にご一緒しましょうですの。お化け屋敷なら人がたくさんいますから、水着もお披露目できると思いますの」
「それはよい思い付きにて!それならば早速、明日、行くでありまするよ」
お化け屋敷ってトンチキを!でもその場で既にツッコミ人材は不在だったので、その閃きは喫茶店を楽しむ少女達のガールズトークを盛り上がるだけだったという。そしてトレーの上では水滴で萎びた遊園地のチラシがそっと存在を主張していた。犯人はお前か。
翌日、二人は某ウォーターガーデンのお化け屋敷に向かった。なんでも【かつて園内に実在した本物が出るお化け屋敷】を期間限定で再現しているようで、燃え尽きかけた和風建築な外観からもうそれっぽい雰囲気に、二人は。
「なんでもキャストさん方が積極的に怖がらせに来る、というお話ですが……二人で入れば大丈夫ですの!」
「そうでありまするね。さあ、リア殿、足元に気を付けるでありまするよ!」
全く臆した素振りなく意気揚々と入ってく。
ひたり、ひたり。響く足音は二人分。中は昏く、暗く。入口で手渡された提灯の灯りも石畳の通路の端には届かない。払えぬ暗闇が視界の端に踊るように生きる。肌に纏わりつくような冷たく重苦しい空気。水着ではすこぅしばかり肌寒い。震える身体は果たして。
「雰囲気たっぷりですの!」
「これは期待できそうでありまするね!」
恐怖からの訳なかった。二人はお化け屋敷を楽しむにしては足取り軽やかに、此方に何かありそうですの!と自らボロボロの障子の奥を覗いて逆にキャストを驚かせたり、サイゾーを呼んだでありまするか?とハローハロー手招く手に突撃して握手とかしてみたり。首に冷却材など物理的な脅かしは少しだけ驚いたものの、次の瞬間には、あ、彼方も面白そうですの!と怖がる素振りなく突破していくもんだから。
「ふふふ、お嬢さん達楽しいなぁ。なあ、少しお話していかへん?」
思わず声をかけてしまったのが、くねくね踊る長いお首とケロイドの特殊メイクが臨場感たっぷりのろくろ首のお姉さんだったのである。明らかキャストさんに声かけられて何かしたのかと心配した二人だったが、どうやらそうではなくて。お姉さん曰く、此処のお化け屋敷は一度火事で焼失して被害が出て以降、再建後もすっかり閑古鳥が鳴いてばかりの寂しい日々。そんな中、久方ぶりのお客さん。二人があまりにも楽しそうに遊んでくれるから嬉しくなってつい、ということらしい。で、そうなるとどうしたら人が来てくれるのかって話題になるのは当然で――の、冒頭である。
お化け屋敷としてのコンセプトは崩さず、恐怖ではなく新しい驚きを提供する。サイゾーの提案はそれはそれは歓迎された。お化け屋敷もきちんと攻略しての帰り際、またお越しやす、とゆるり手を振る魑魅魍魎に扮したキャストさん達に見送られ、夕焼け小焼け閉園BGMを背に受けて園を去る二人。道中、別のキャストさん達に何やら物凄く驚かれたりしたのが気にはなったが些細なことだ。
「サイゾーさん、来年もまた来ましょうですの」
「勿論でありまする、リア殿!」
お化け屋敷がかえってくるのは夏の時期だけ、らしいので。ひと夏の思い出に指切りげんまん、また来年の約束を交わしたりして。その裏で――
「あの子達さ、今【本物】の方から来なかった?」
「……え、でもあっち、立入禁止にしてたよね?」
語られぬ真実もまた、ひとつ。さて、死者にくちなしとは言えど人の口には戸が立てられないもので。ならば人恋しくて還りくる霊などもまた然り、然り。
成功
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