つまり焼肉食べながら始末する感じ
●金網の上で躍る旨み
陽光を浴び、てらてらと輝く肉から脂が一滴、七輪の中に落ちる。
じゅう、と食欲を刺激する音がなり、香ばしい匂いが立ち昇った。
炎が肉を舐める七輪を、数人の大男が取り囲んでいた。
右は怪人アルパカマッスル。左は怪人アルパカマッスル。中央も怪人アルパカマッスルで、その奥にいるのも怪人アルパカマッスルだった。
そう、彼らは量産怪人アルパカマッスルブラザーズ。
人類の遺産である電光都市にキマイラたちが日々の暮らしを謳歌する世界にある、バーベキュー風野外焼肉店。そこにいる怪人たちなのだ。
三脚で安定させた定点カメラの前で、鍛え上げた肉体をレンズに見せつけながら、熱によって仕上げられた肉を箸で摘まみ、それもまたレンズに見せつけてから、口へ運ぶ。
すると怪人の舌の上で、肉の旨味が凝縮した味わいが咲いた。
「うんめェ~~」
「幸福の味~~」
「ああ~沁みる~」
舌鼓を打ち、感涙に咽ぶ怪人たちの様子はカメラからリアルタイムで配信されている。その画面の奥にいるキマイラたちはごくりとつばを飲み込みながら。
『ああうまそう~』
『飯テロ』
『人の金で焼肉食べたい』
などとコメントといいねを乱打していた。
●むしろそっちがメイン
「皆さん、集まってくれてありがとうございます」
白い軍服に包んだ少女のグリモア猟兵。ヴィル・ロヒカルメ(ヴィーヴル・f00200)が焼肉店のチラシを持って立っていた。
「ええと、キマイラフューチャーで活動する怪人を見つけました」
ですので、彼らへの対処をお願いしますねとヴィルは言う。
「なんと彼らはですね…」
予知の内容を説明し始めた彼女は事件という単語を使わなかった。大変という表現も用いなかった。
「キマイラの経営するお店で、焼き肉を食べているんです!」
なぜなら事件性が全くないのだ!
「その様子を配信してるんです!!」
恐るべきことに被害皆無!!
「しかもコメントといいねが続々と増えています!!」
平和な世界!!
ひとしきり叫んだグリモア猟兵はこほんと咳払いをした。それでも、と言葉を続ける。
彼らが店主のキマイラにきちんと代金を払っていて誰にも迷惑をかけていないとしてもオブリビオンだ。オブリビオンは世界に破滅をもたらす存在である。
「怪人はオブリビオンですから、倒さないと世界が危ないんですよね」
敵は公園のように広い土地にあるバーベキュー風野外焼肉店にいた。そこに行けば間違いなく会える。店には他のキマイラの利用客がいるが、その人たちも鍛えられたキマフュ住民なので猟兵と怪人の戦いが始まれば一糸乱れぬ動きで安全地帯を確保し野次馬になるだろう。戦闘による周辺への被害は心配しなくていい。
「確実な討伐をお願いします」
そう。
「……焼肉を食べながら!」
鍼々
鍼々です。今回もよろしくお願いします。
今回は焼き肉店(野外)で怪人と戦うシナリオとなります。このシナリオにおいては全章通して食事ムーブが推奨されます。三章構成ですが三章とも好きなように食べていいです。
なお戦場は広い・屋根がない・野次馬がたくましい、と三拍子揃っているので好きなように戦って大丈夫です。でも毒物散布とかは許して。
以下、各章の補足になります。
第一章…七輪があります。肉が焼かれています。肉を食べながら戦うと楽しいと思います。敵も肉を食べながら戦います。敵の皿からスタイリッシュに肉を奪って食べてもいいです。プレイングの戦闘部分と食事部分の配分はどうぞご自由に。
第二章…一章同様に肉を焼いて食べながらのボス戦になりますが、会計伝票をうまいことボスに押し付ければボスが代金を(強制的に)全額負担します。
第三章…焼き肉が食べられます。それ以外も食べられます。店の周囲にはこんこんマシンがあり色々な食べ物が出てくるので好きなようにしてください。サルミアッキまでは出ますがシュールストレミングは出ません。
最後に注意事項があります。
終始食事をする雰囲気になるので、食品を著しく損なうようなプレイングは採用できない可能性があります。この一点のみお気を付けください。
第1章 集団戦
『量産怪人アルパカマッスルブラザーズ』
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POW : ポージング
自身の【逞しい肉体の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : ポージング
自身の【躍動する肉体の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
WIZ : ポージング
自身の【洗練された肉体の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
👑11
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在連寺・十未
やった……!
それじゃ遠慮なくお肉を食べるよ。僕は何を隠そう大の焼き肉好き。試したいこともあるのだ
キマイラフューチャーの技術なら稀少なお肉だって対応してポンポン出してくれるにちがいない、渡りに船だね
もし欲しいというなら分け与えるのもやぶさかではない……たとえオブリビオンだろうとね。焼き肉は万民に与えられるべき幸福だ……さて、なにから食べる? 鹿とかワニとかウサギとかアルパカとかあるよ。アルパカとかあるよ。喰えよ。旨いんだぞ
食事途中で攻撃されるようなことがあればユーベルコードで受けるよ。あんましつこいようなら『ロープワーク』でハムのように縛り付けて外に転がす。今はドリップ以外の血は見たくないのでね
零落・一六八
焼肉だー!肉だー!
ボク最近完全に肉に釣られてる人になってるような……まいっか。肉美味いですし!
とりあえずカルビ…
この盛り合わせセットもいいですね
攻撃されない限りは和やかに会話しつつ怪人と焼肉してます。
うんうん、いい筋肉ですね。こっちの肉もいい感じに……
怪人の育てた肉をちゃっかりもらいつつ、まぁ倒すの誰かやってくれますよね?
UCでひょいひょい周りの戦いの攻撃を避けながら肉を食しましょう
ただ邪魔されたら
「落ち着いて肉が食えないでしょうが!」
って逆ギレして蹴飛ばします
ここ結構サイドメニューも充実してますね……?
キムチの盛り合わせとユッケおねがいします!
※他との絡みとアドリブ大歓迎
大食いかつお肉大好き
仁科・恭介
「アルパカが肉を食う」と言うギャップに苛まれますが、仕事と割りきります。
【礼儀作法】は親方からみっちり仕込まれているため、レンズに焼いた肉を見せながら食べる姿に腹が立っています。
なお、時折口元から流れ出る涎も許せません。
顔には出しませんが。
【大食い】とユーベルコードで全身を活性化しつつ、絶妙な焼け具合の肉を【目立たない】ようにアルパカ達に食べさせていきます。
「もっと食べないと大きくなれないよ!」
体育会系の先輩方が後輩に食べさせるときのノリです。
残すのは許しません。
逃げようとしたら【残像】を残しつつ、口に肉を詰め込みます。
もちろん、自分自身も沢山美味しいお肉をいただきます。
「肉はやはりレアだね」
●
キマイラフューチャー、旧人類の遺した都市の一角にその店はある。
精確に整理された区画で敷き詰められた芝生。完全にコントロールされた天候により、一年を通して晴れの天気が続くその土地では悪天候による営業中止を知らない。
公園程度の敷地を持つバーベキュー風野外焼肉店。そこで多数設置された七輪を複数の人影が囲んでいた。
三脚に立てられる定点カメラへ向けて焼肉を翳しながらポーズをとるアルパカ怪人複数。
焼きあがった肉を口に運んで舌鼓をうつ男女複数。
怪人を討伐するべくやってきた猟兵たちは、同じ焼肉を楽しむ客として完全に馴染んでいた。本来であればオブリビオンである怪人は、猟兵を目にした時点で敵だと察知し警戒行動をとるべきだろうが、店に来た猟兵たちが肉を注文しはじめると、同じ焼肉を楽しむ同志であると理解して快く迎え入れたのである。
年の頃十代の若い娘が網からトングで肉をよそった。すると束ねられた長い髪が揺れる。生え際は白く、先端へ向かうにつれ黒色へとグラデーションの掛かる特徴的な髪をした娘だった。
在連寺・十未(アパレシオン・f01512)は口元を緩めながら、湯気の立つ肉を頬張る。途端、じわりと口内で熱が弾けた。
「んんっ」
熱くて漏れた声ではない。旨味だ。綿菓子のように脂身がとろけて、その中に混じった赤身の味が染みだす。熱量とともに広がる濃厚な旨味から漏れた声なのだ。肉は驚くほどに柔らかく、噛めばたちまち消えてしまいそうなのに、その一方で弾力を残して歯応えを保ってくれる。どこまでも味わい深く、そして柔らかい肉だった。
「む、それは!」
するとひとりのアルパカ怪人が腰を上げて凝視する。十未がよそった皿の上の肉を見てつばを飲み込んだ。
「その肉は、ヒウチか…?」
ヒウチ? ヒウチってなんだ。他のアルパカ怪人同士で、そして定点カメラから配信する向こう側でどよめきが起きる。すかさずヒウチという単語を検索してきたキマイラのコメントが流れた。
ヒウチとは、牛の後足の内モモにある場所の、牛一頭につき僅かしか取れない希少部位だという。味わい深く柔らかい赤身と、きめ細かく入った霜降りのサシが織りなす甘い肉。
思わぬ高級品の登場にざわめくコメントへ向きもせず、アルパカ怪人の目は十未の口元に釘付けだ。
「ほしいかい?」
その色白の肌に浮いた、桜色の唇が言葉を紡ぐ。
すると高級肉の引力に抗えずアルパカ怪人は頷いた。二度、三度。そして何度も。十未は鷹揚に頷いて己の肉を分け与えるのだった。
漆黒の瞳で猟兵とオブリビオンのやり取りをじっと眺めるのは成人した男性、仁科・恭介(明日を届けるフードファイター・f14065)である。
アルパカは草食動物ではなかったのかと問いたげな視線だったが、その瞼は静かに閉じられた。
それはいい。アルパカとアルパカ怪人の食性は違うのだろう、だからそれはいい。
しかし許せないことがある。それは肉を箸で持ちながら席から立ち上がり、ポーズをとりながらカメラレンズの前でこれ見よがしに頬張り咀嚼する彼らの所業にある。
あまりにも、行儀が悪い!
ああ口元から涎が垂れているではないか、みっともない!
箸を握る手に力が入りそうになるが、礼儀作法を丁寧に仕込まれた恭介が怒りを表情や態度に出すことなど決してない。
七輪で焼けた肉を皿に移し、それを頬張る。両面に焼き目が付いたそれは、肉の中心部に程よく生に近い部分を残した焼き加減である。つまりレアだ。噛めばコリコリした食感とともに、厚い旨味が舌の上にゆっくりと広がった。脂が少ないものの食感が楽しく、食べるときの満足感が大きい。ハツである。心臓部分だ。バラと交互に食べると味わいと食感にメリハリがついて心が豊かになりそうだ。
背筋を伸ばした姿勢で食べる恭介を、カメラ越しのキマイラたちは『レア(生のほう)』『食事のお手本みたい』等といったコメントを流す。
それを知ってか知らずか、彼が汗かいたグラスを口に付け傾ければ、冷たい水が口内の脂を洗い流し、清涼感をもたらしてくれた。
山盛りになった盛り合わせセットから、せっせと零落・一六八(水槽の中の夢・f00429)が肉を網の上に並べる。彼の目当てはカルビだった。紅色の肉が網の上で炎に舐められてゆく。
「いい具合だな」
むきっとポーズをとりながらアルパカ怪人のひとりが話しかけてきた。サイドチェストは胸筋をアピールするポーズである。段を刻む腹筋が逞しい。
「いい具合ですね」
顔を上げた一六八は胴の筋肉の迫力に目を細めた。ちなみにカルビはアバラ骨にある肉である。他意はない。
脂の焼ける音を楽しみながら一六八はトングを操り皿へ肉を移してゆく。そのなかには怪人の焼いていた肉もあったが気にしない。
肉をふたつみっつ、箸で纏めて摘まんで頬張れば頬いっぱいに満ちる熱い旨みの塊。噛めば肉汁が溢れ出て、肉と脂肪の味わいが幸福感に変換されてゆくのだ。噛み応えを一通り楽しんでから嚥下し、余韻が残ってるうちに白飯を掻き込む。肉の食感のあとからやってくるぱらぱらした白米の感触もまた楽しい。ついつい箸がまたカルビへ伸びてしまう。
「牛タンもいいぞ」
「あ、じゃあそれいただきます」
塩で軽く味を調えられたタンを頬張り、歯応えとさっぱりした風味を楽しんだ。
一六八はふと思う。
――最近完全に肉に釣られてる人になってるような気がする。
今回の仕事場が焼肉店で本当によかった。
肉が美味い、これ以上の喜びがあるだろうか。
――怪人を倒すのは誰かやってくれますよね。
他人任せと誰かが文句を言うかもしれない。しかししょうがないことなのである。だって肉が美味いのだから。事件が解決するまでこのまま食べていようと一六八は思った。
だが、和やかな食事はいつまでも続かなかった。
そのきっかけとなったのは些細なことだった。
十未が珍しい肉と言って高級肉のほかに鹿肉やワニ肉、ウサギ肉などを進めたのである。
いやそこまではいい。アルパカ怪人たちも喜びながら食べていたし、配信のコメントも賑わっていた。
一変したのは十未がアルパカ肉を勧めた瞬間だ。
空気が凍った。
「喰えよ。旨いんだぞ」
アルパカ怪人たちが驚き立ち上がる。そして顔を見合わせた。これ食べたら共食いにならないかと不安げだった。
次に固まった空気をひとつの声が切り裂く。
「もっと食べないと大きくなれないよ!」
恭介だった。アルパカ怪人たちの食べ方に我慢の限界が来た男だった。丁寧に未使用の箸を取り出しいつの間にか焼かれていたアルパカ肉を摘まんで、あたかもハイスクールの運動部の先輩が有無を言わさず後輩へ食べさせるように強引な勢いで詰め寄った。
アルパカ怪人、これを拒否する。口を強く閉じたまま顔を逸らして突き出された肉を回避。
だが恭介は諦めない。顔を逸らされたならば回り込んで箸を突きつける。
「や、やめろ!!」
すると今度は怪人が走り出した。鬼ごっこの始まりである。
一挙に騒がしくなる店内に、周囲の一般客だったキマイラたちが皿を手に離れて観戦し始めた。負けるなだの共食いだの野次が飛ぶ。
十未はというと焼肉の摂取に戻り、一六八は我関せずと言った様子でキムチの盛り合わせとユッケを注文していた。
追いかけられた怪人は反転、攻勢に出る。恭介の手のアルパカ肉と箸を奪えばいいと判断したのだ。
だが、怪人が手を伸ばしたそれは残像だった。本物は既に回り込み、呼吸のため開いた口へと横から箸を突き込んでいる。
「モガァ!? な、なぜそこまで執拗にアルパカ肉を食べさせようとする…!」
肉を無理やり口に入れられた怪人はそれを吐き出すか飲み込むか迷い、結局飲み込んだ。飲み込んだが両手を大きく振って抗議した。
それがいけなかった。
怪人の鍛え上げられた、丸太のような腕が意図せず一六八を襲う。
肉を口に入れようとしていた一六八は寸でのところで上体を逸らして回避する。だが、怪人へ振り向いた顔には怒りが宿っていた。
「落ち着いて肉が食えないでしょうが!」
一六八、参戦。
恐るべき勢いで皿の肉をすべて食べ尽くし、勢い良く飛び上がって蹴りかかる。
それを両手で防ぐも、どこからか伸びてきたロープが腕を縛り上げた。瞬く間に胴にも脚にも巻きつく。十未の仕業だった。
「ああっやめ、やめ、ああああ!!」
かくしてアルパカ怪人は皿を片手に焼肉食べる十未から縛られた状態で横たわり、これまた皿を片手に焼肉食べる一六八から何度も脛を蹴られて、そして執拗にアルパカ肉を詰め込んでくる恭介によって放心するのだった。
ひと仕事したといった風に恭介は汗を拭う。
「肉はやはりレアだね」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
カル・フラック
ふむ、これはつまり自分の拠点(皿)を守りつつ
相手の陣地(皿)を攻めていく。
高度な戦略性を持ったゲームと見たっすよ!
てことで共闘モードで2Pと二人になるっす。
ほら、相手いっぱいいるしズルくないズルくない。
んでもって俺は攻撃、2Pは防衛に努めるっすね。
こういうのは役割分担が大切っすから。
俺が筋肉モリモリアルパカと激闘を繰り広げる間に、
2Pは七輪で温もりを得つつ旨そうな肉をジュージュー焼いて。
タレを付けた肉を葉っぱや米をお供にむしゃむしゃりと。
…ヘイト管理も大切なんで。
なんかあそこに旨そうな肉食ってるケットシーがいるんすけどー、
とか言って注意が向いた隙にかっさらってくっす。
決して私怨ではないっすよ。
城石・恵助
(ひたすら焼き肉を食べています)
(戦闘とか始まってるかもしれませんが、無心で食べ続けます)
(だってお肉おいしいから)
(無言です。喋っている暇があればお肉を味わいたいのです)
(お肉を注文したい時は、どこから用意したのかフリップボードを掲げます)
『高いやつじゃんじゃん持ってきて』
(会計は後で全てボスに押し付ける気でいます)
(だってタダで高いお肉食べ放題って最高だから)
(でも隙を見て量産怪人アルパカマッスルブラザーズに【喰らいつく】します)
(やっぱり恵助も猟兵だから。オブリビオンとか放っておけないから)
(あとたまにはアルパカ肉もいいかなって思ったから)
(大食い、気合いを使います)
(アドリブ歓迎です)
●
騒がしくなった店内に全く気にせず、食事に没頭する者がいた。普段は顔の下側を覆っていたであろうマフラーは食事のためだらりと垂れ、大きな傷の入った口を覗かせる。
城石・恵助(口裂けグラトニー・f13038)だった。彼は七輪からトングで移すのがもどかしいとばかりに、網の肉を直接箸で摘まんで口に運んでいた。熱い、熱いが止まらない。決してペースを落とさない。
先端へ僅かにの焦げめのついたホルモンを箸で拾い上げる。焼けた脂がなんとも香ばしい。裂けた口を大きく開けて頬張る。一度に一つしか食べないなんてもどかしい。箸で3つほどまとめて摘まんで、さらに頬張った。
脂を滲ませながら、咀嚼のたびに柔らかく形を変えるホルモンの食感は楽しい。ぷるぷると歯を押し返す抵抗は他の肉にはない特徴だ。噛みしめるとタレと肉の味が混じり合って均一になってゆく。風味と食感が織りなすのは幸福感に違いない。
おいしい。もっと食べていたい。
恵助はフリップボードを掲げて店員へ見せた。そこに書かれているものは『高いやつじゃんじゃん持ってきて』という注文。
彼は言葉を発さなかった。口とは食べ物を摂取する器官である。それ以外の用途に使うのはあまりにも時間が勿体ない。フリップボードの裏を返せば一般に高額な肉の名前が羅列してある。
お肉食べ放題って最高だ。支払いはオブリビオンに押し付けてしまえばいい。
そう思いながら新しく焼けたホルモンを頬張る。まるで蒸気機関へ石炭をくべるように。腹の奥へ燃料をくべてもくべてもまだ足りない。
次は赤身を口に運んだ。ひとくち噛めば厚みのある肉が柔らかく沈んで、甘い脂をじゅわっと溢れさせた。元々の柔らかい肉質に加え、豊富な脂が舌の上で溶けだし、とろけるという表現のよく似合う肉だ。あっさりとしていてなお濃厚な赤身の味わいがある。そういえば店員が醤油ダレを勧めていたのを思い出した。試してみると脂の甘い味わいがきりっと引き締まり、遅れてくる赤身の味が引き立った。この部位は放射状に広がる細やかなサシの美しい、ミスジという肉だった。主に刺身やタタキで使用される部位だが焼肉として食べても美味しい高級部位である。
これを複数まとめてひとくちで食べるのは勿体ないと、ひとつずつ丁寧に味わって食べてゆく。だが、相変わらず空腹感は満たされない。だからひとつひとつを高速で食べることによって解決する。
続々と届くレバーや特上ロース、ツラミ。恵助は大きく裂けた口を笑みに歪め、金網に並べてゆくのだった。
カル・フラック(ゲーマー猫・f05913)は思う。何かがおかしいと。
目の前には筋肉隆々のアルパカマッスル怪人が焼肉の皿を片手に持っている。相対するカルも同様に焼肉の皿を持ち、お互いに箸で激しい攻防を繰り広げていた。肉の焼けてゆく音の最中に、プラスチック製の箸が打ち合う硬質な音が混じる。
カルの皿を狙って怪人の伸ばした箸を弾き、返す刃でカルは怪人の皿を狙う。焼きたてほやほやのカルビがそこにあった。口へ運べば舌の上に広がる肉の味。旨味に富んだ赤身が焼肉のタレと合わさり、心を掴んで離さない。焼肉とは幸福なのだ。肉を噛みしめるたび熱い肉汁がじゅわっと溢れ出し味覚に彩りを与えてくれた。
対する怪人は素早く皿へ七輪から肉を補充する。そう、自分の肉が減ったなら七輪から補充すればいい。なお肉を食うためには相手の皿から奪わなければならない。これはそういう戦いだ。
カルは思う。何かがおかしい。
彼は前衛だった。後方では白い髪に寒色系の服を着込んだケットシーがいる。それは彼がユーベルコードで呼び出したもうひとりの自分である。前衛と後衛に分かれて怪人を攻略するつもりだった。
だが、見れば後衛の白猫カルは先ほどから別所の七輪の前から動かない。自分があれだけ苦労して獲得したカルビを、その白猫は当たり前のように七輪で焼いてタレを付けて白飯の上に乗せて頬張っている。米のぱらぱらした食感を肉の柔らかさとともに堪能して、白い尾が揺れた。
これなんかおかしくない?
「なんでそっち普通に焼肉食ってるんすか!」
カルが抗議すれば白猫が顔を上げた。だが、返事はせずそのまま焼肉の摂取に戻る。
無視。
「前衛と後衛に分かれる手はずだったっすよ! 交代! ポジション交代っす!」
隙をついてアルパカ怪人が箸を伸ばしてきた。咄嗟に箸を翻したが防御は間に合わない。ハラミを持っていかれた。
白猫はというと今度はハラミを味わい足を揺らしている。完全なる無視であった。
「く…!」
カルは顔を歪める。熱くなりそうな思考を何とか静め、有効な手はないかと巡らせる。
これはゲームだ。お互いの拠点、すなわち皿から肉という名の資源を奪い合うゲームだ。奪われた資源は七輪から補充できる。
だが、ひとつ考えてみよう。もし資源を奪われたまま補充しないでいたら?
敵はこちらの拠点を狙う理由がなくなる。
アルパカ怪人の箸が止まる。カルの皿に肉がなくなったからだ。彼は抵抗をやめていた。そこに肉がなければ奪いようがない。
怪人の目が周囲へ向くのを確認して彼は声を張り上げた。
「あー! あそこに皿へたんまり肉を蓄えたケットシーがいるっすよー!」
「えっ」
指差された白猫はきょとんとして振り返る。そしてアルパカ怪人の姿を認めると慌てふためいた。
「ちょ、ちょっ!? なんでこっち来るんすか!?」
こうして第二ラウンドが始まる。アルパカ怪人と白猫カルの戦いだ。
カルが七輪を独占し肉を食べ始めてしばらくしたときである。
一つの影が宙を舞った。
マフラーを靡かせた猟兵の青年、恵助である。
彼は白猫カルと激しい攻防を繰り広げるアルパカ怪人へ狙いを定めていた。
「あっ」
「あっ」
二人のカルはただ声を漏らすことしかできない。
「えっ」
怪人が影に気付いて顔を向けると、そこには大きく裂けた口を開けて飛び掛かってくる食欲の化身があった。
がぶり。丸太のような上腕二頭筋が齧られる。
「あいだだだだ! 食う肉違う! それ食う肉違う!!」
アルパカ怪人の叫びが恵助に届くことはない。ワニのようにホオジロザメのように、ボリュームのある筋肉に食らいついて放さない。
二人のカルは見た。怪人をアルパカ肉と捉える食欲の化身の目を。そして思い出した。そういえば怪人を倒す必要があったなと。
やがて二人は焼肉を頬張り、動かなくなってゆく怪人に合掌するのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
未魚月・恋詠
アドリブ歓迎
まあ美味しそうなお肉……過剰なカロリーは乙女の大敵とは言え、質の良い食事は身も心も美しくするものにございます。
ヒナゲシ、ナデシコ、あるぱか様方への対応は任せましたよ。
恋詠めはこちらの強敵(焼肉)へ挑まねばなりません
UCを発動し、人形姉妹が連携し恋詠の食事を守る
油ハネによる着物へのダメージを傘で防ぎ、襲い来るアルパカにはわさび盛り盛りのカルビをお見舞い
援護射撃でアルパカの狙う肉を的確に奪い取り、
親切にタレを注いであげると見せかけたフェイントから勝手にタン塩にレモン汁を掛ける騙し討ち、
更にはアルパカのプロテインを奪い筋肉へのタンパク質摂取を妨害するなど情け容赦なく攻める
ご馳走様でした。
都築・藍火
以下に平和であろうともに(お肉食べたい)、怪人の行い(お肉食べたい!)。であれば、対処せぬわけにはお肉食べたい!!!
拙者は此度は鎖鎌を使うでござる。鎖鎌の鎌部分であれば、肉を突き刺しながら食うには十分でござろう、更に! 鎖分銅で怪人の腕を束縛し、【ダッシュ】で一気に接近し、【早業】で皿ごと肉を奪い、鎖鎌で切り裂いてくれようでござる。肉は拙者のもの!!
当然七輪の肉も忘れてはならぬでござる。【第六感】でいい具合の焼き具合の肉を見つけ、怪人の胃に収まる前に食らうのでござる!
……コイツラは食えそうに無いでござるな
今回は砕天號は使わないでござる。食うに邪魔でござるし。
●
涼し気な青色の着物を着る楚々とした少女が、皿を前に手を合わせた。呟かれるのは一言、いただきます。
背筋を伸ばして箸を持つ未魚月・恋詠(詠み人知らず・f10959)である。
皿には七輪から移されたばかりの鶏肉がある。この焼き肉屋ではモモカルビというらしい、網の上で炙られて薄いピンク色に染まり湯気をたてる。肉をそっと箸で持ちあげ、濃い褐色の液体に浸ける。液体の正体は生姜醤油だ。
箸のあいだでふるふると震える肉を控えめに開けた口へ運べば、生姜のぴりりとした刺激とともに熟成された醤油の風味が広がり、遅れて熱量と旨みの塊が舌の上にやってきた。
じわりと味覚をノックする、鶏の脂。それは牛肉や豚肉と違って淡泊でありながら味わい深く、肉にも独特の柔らかさと弾力がある。恋詠は次に白飯を頬張った。焼いた鶏肉と生姜醤油と米、合わないわけがない。
青空を映したような群青色の目が喜びに細められた。美味。質の良い食事は身も心も美しくするものである。
彼女は新しく届いた皿から肉を七輪に移す。こちらも鶏肉であったが、前もって味噌ダレが掛けられていた。七輪の火が鶏肉を舐めると、香ばしい味噌の香りが広がって、甘辛い味噌ダレがさらに食欲を刺激する。あらかじめひと口大に切り分けられた鶏肉は随分と食べやすくて、気付かぬうちにみるみるうちに皿の肉が減ってゆく。
肉を嚥下したあと、恋詠は目を瞑りながら白飯を頬張り米をよく噛んで、余韻を味わうのだった。
その隣に、何か悩んだように目ををすぼめる少女がいる。出身が同じなのだろう、着ている服はこちらも着物だ。だがこちらは長く艶やかな黒髪を結んで背に垂らしていた。
武芸百般、あらゆる武器を使う都築・藍火(サムライガール・f00336)の本日の得物はプレスチック製の箸である。彼女の眼前には肉の乗った皿と、赤く焼けた炭を蓄えた七輪があった。
食欲を煽る光景を前にして、しかし藍火は考え込んだ様子でいる。表情には葛藤がありありと浮かんでいた。
「いかに平和であろうとも…」
呟く。思うのは今回倒すべしと指定された怪人の所業。誰も被害を受けておらず平和そのものと言ってもいい。
藍火が肉を口に入れて噛む。すると厚みのあるそれが奥歯を押し返し、脂と肉汁がじゅわっと溢れ出た。タレとよく混じった味わいはどこまでも旨味が凝縮していて、うまい。
「これは怪人の行い…」
冷えた水を喉へ流し込む。こってりと味覚に纏わりついていた脂を流し、清涼感を生んだ。再び新鮮な気分で焼肉を食べるためである。
「であれば」
再び肉を頬張り、噛む。隣の席の猟兵がこいつ食べるのか話すのかどちらかにしろと言いたげ目を向けていた。
咀嚼、そして、嚥下。
喉元を通り過ぎてゆく満足感に一息ついて、藍火は厳しい表情を作る。口元についたタレはおしぼりで拭った。
「対処せぬわけにはいかない」
お肉も食べたい。
なら。
「つまり食べながら戦うでござる!」
藍火は箸を放り捨て、懐から鎖鎌を取り出した!
湯気ののぼる肉をアルパカ怪人が口に運ぼうとしたとき、突如鎖がその腕に巻きついた。
「むっ!?」
ぎしり。怪人が鍛え上げられ丸太のように膨らんだ腕を引く。鎖の先には鎌で突き刺した焼肉を食いちぎる猟兵がいた。藍火である。
「この肉は俺のものだぞ!」
怪人は己こそがこの肉の正当な消費者であると抗議するが、そんなもの藍火には関係ない。なぜなら彼女は猟兵だから。怪人を倒しに来た存在だから。だから、怪人がいかなる抵抗をしようと必ず倒さなければいけない。
だが。
「焼肉は…」
藍火は。
「弱肉強食でござるよ…!」
それとは全く別の理論を振りかざした。弱きものの焼いた肉を強きものが食うという、自然の摂理である。赤い瞳は爛々と輝き、肉は自分のものであると食欲の炎に燃えていた。
「いいだろう。そこまで言うなら相手してやる」
怪人もさるもの。片腕を鎖に繋がれながらも相手に背を向け、背筋を強調するポーズをとった。
「自分の肉が奪われる覚悟はできているんだろうな…!」
「笑止!」
やがて鎖に繋がれながら両者が駆け、激突した。鎌の刃が肉を突き刺すべく怪人の皿に伸び、箸もまた鋭い軌道を描いて猟兵の皿へと伸びる。
結果はクロスカウンター、痛み分け。互いに相手の肉を奪いながらも自身の肉を奪われるという結果になった。赤い目と黒い目が交差し、互いを強敵手と認める。肉を咥える口元が笑みに歪んだ。
攻防はさらにボルテージを上げる。鎖鎌の白刃が閃き、プラスチックの箸も翻る。ときに肉を奪い、ときに切り結びながら互いに肉を摂取していった。
だが、そのときである。
「む…!」
肉を箸から食いちぎったアルパカ怪人の表情が歪む。
「こ、これは…!」
怪人は苦悶の表情を浮かべて膝をついた。口から鼻までを電撃めいた刺激が駆け巡り、目に涙が浮かぶ。藍火の仕業ではない。彼女は突然の怪人の反応に驚いていた。
慌てて箸に残った肉を見れば、べっとりとわさびが塗りたくられているではないか。
怪人は急いで周囲を見回す。わさびの下手人は藍火ではない。全力でせめぎ合っていた彼女にわさびの罠を仕掛ける余裕などなかった。では、一体誰の仕業なのか。
その正体は人形であった。
身長およそ人間の六分の一、フェアリーと同程度の背丈を持つ和人形である。雛芥子と撫子の花飾りを付けた人形姉妹が宙に浮かんでいた。姉の雛芥子が傘を構えて、藍火と怪人の戦いで跳ねる脂から主人の召し物を守っていて、そして妹の撫子はわさびのたっぷり乗った匙を手に敵を威嚇する。
彼女たちを操る主人はというと、それは恋詠であり、しかし彼女は相変わらず肉を食べていた。今度はハラミを食べているらしい。
肉を食べ続けていようと、猟兵は猟兵である。恋詠の操る人形姉妹が参戦したことにより、怪人は二人の猟兵との戦いを強いられた。
「ぐ、むおおおッ!」
アルパカ怪人は苦悶の声をあげながら力任せに腕に巻きついた鎖を引こうとするが、鎖に引かれるまま藍火は接近し、擦れ違う瞬間に敵の皿から肉を奪う。そして、藍火の皿はというと人形がわさびのついた匙で箸を受け止めている。
無論それだけではない。わさびによる直接攻撃のほかに、怪人の奪えた肉へレモン汁掛ける、あるいは塩と砂糖をすり替えるなど悪魔的発想を高い精度で繰り出し集中力をそいでゆくのだ。
やがて恋詠がごちそうさまと手を合わせる頃には、目当ての肉をすべて奪われて意気消沈して横たわる怪人と、椅子に足を掛け勝鬨をあげる藍火がいた。
大成功
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第2章 ボス戦
『怪人アルパカマッスル』
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POW : ポージング
自身の【肉体美の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : 鋼の筋肉
全身を【力ませて筋肉を鋼の如き硬度】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
WIZ : つぶらな瞳
【つぶらな瞳で見つめること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【瞳から放たれるビーム】で攻撃する。
👑11
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●
腹に心地よい満足感を抱きながら怪人どもを下すと、いつの間にやら店員がそばに立っていた。
散々注文して食い尽くしたあとだ、支払いの額は恐ろしいことになってるに違いない。
ひとりの猟兵が代表して、店員の差し出す伝票を見てみると、そこにはなんとキマイラフューチャー通貨において★140くらいの金額が記されていた。
「……」
「……」
猟兵たちの視線が交差する。これを一体誰が払うのか。★140という数字は決して軽いものではない。
自然と、猟兵たちの視線は最後に残った怪人へ集中するだろう。
そこにいるのは焼き鳥の串を七輪で焼き、並行してバーベキューを楽しむキマイラマッスル怪人の長兄がいた。
「…えっ。 なんで兄弟たち倒れてるんだ?」
怪人は状況を把握できていないらしい。いまのいままで食事に集中していたのだろう。
やがてぽつりと、猟兵の誰かが言った。
あれを倒して支払いさせればいいのでは?
聡明な猟兵ならすぐに気づくだろう。
店の支払いを怪人に押し付けてしまえば、肉の注文を再開してもいいのだということを!
サイドメニューもたっぷり充実しているぞ!
焼き鳥もビビンバもある、あるのだ!
零落・一六八
絶対誰かに会計してもらお。
人の金で食べる焼肉って最高ですよね!
はー、よかった。人の会計なら安心して焼肉食べられますね。
そんなわけでこの10人前の肉盛り合わせお願いします。
全部ボクが食べますから
戦闘ポジは肉を食べるの担当で
ボクは皆のことを信じているので肉を食べるのに徹します
きっと皆がボス倒して会計を押し付けてくれるはず
恐ろしい集団心理であるにはならないと信じたい
皆の代わりに肉は食べておきますから
そういえば思い出したようにこんなUCがありましたね
イイネ!の数だけ肉追加しまーす(ピースピース)
お、早速来てるじゃないですか。追加お願いしまーす!
面白ければなんでもいいのでアドリブ他との絡み大歓迎
仁科・恭介
※アドリブ、共闘歓迎
UC:共鳴対象はボス
「どうも、アルパカマッスルさん。仁科です。貴方のカーフはカモシカが飛び跳ねているようですね」
とある事から筋肉には一通りの造詣を持っているので【礼儀作法】で挨拶します。
「その無駄のない筋肉。それの源はこの焼肉なんでしょうか」
と煽てながら丁度良い焼き具合の肉をどんどん食べさせていきます。
偶には湯葉も。
煽ててテンションが上がっていったら、それに呼応するように自分の筋肉も。
「ところで、こんなに素敵な筋肉ならきっと鋼のようにいろんな物を跳ね返すんでしょうね」
と煽てていき、【鋼の筋肉】を使ったらパンツの部分に会計伝票を挟んで退散。
「今日はほんと良い勉強になりました」
●
猟兵の座るテーブルがどん、と大きな音を立てた。
多種多数の肉を盛られた大皿が10枚、一気に乗せられたからだ。
注文した者は他ならぬ零落・一六八だった。この場の猟兵たちが注文した肉の会計を怪人に押し付けると決めたとき、真っ先に追加の肉を注文していたのである。怪人はきっと誰かが倒してくれるに違いない。
そして、いつの間にか彼の周囲をドローンが飛び回っていた。ユーベルコードで呼び出した動画撮影のものである。
脂が溶けててらてら光る肉を金網から掬い上げ、箸で食べるとじゅわりと肉と脂の旨みが花のように咲く。こればっかりはどれだけ食べても飽きない。幸福感を噛みしめながらさらに次の肉を食べてゆく。
ドローンはその一部始終を撮影していた。時には俯瞰視点で。時には至近距離から。レンズが曇るのはご愛敬。
配信先は言うまでもなく、当初怪人たちが行っていたものと同じだ。
『ダイナミック飯テロ』
『スナック感覚で注文される大皿×10』
配信を視聴するキマイラからコメントが投下される。キマイラフューチャーという世界における猟兵の人気と相まって、元々配信していた怪人たちのものよりもコメントが集まってくる。
「ピースピース」
反響に気をよくした一六八がカメラに向けてピースサインを作る。
「ピースピース」
いつの間にか隣で怪人アルパカマッスルもピースサインを作る。
ナチュラルに馴染んでいた。
倒れた兄弟たちのことは満腹になったらよくあることだと済まされていた。
「あ、そういえば」
テーブルに向かい合った二人が皿に移された焼肉を取り合う。プラスチック製の箸がカチカチとぶつかり合った。一六八、怪人の箸を抑えながら手首をくるりと一回転させて逸らす、その隙に焼けたハラミを頂いた。端に僅かな焦げ目のついた肉だったが、それがまた香ばしい。
「なんだ?」
怪人もさるもの。箸の二刀流で対抗する。片手で一六八の箸を抑え付け、もう片手で肉を奪った。ロースが怪人の皿へ放り込まれてゆく。
「あれやってみますか」
猟兵の箸は怪人の皿を直接狙う。ぎょっとした怪人が慌てて両手の箸を交差させて防御すると、それはフェイントだとばかりに翻り、金網の焼き上がったカルビを頂いた。
「あれというと?」
対して怪人の攻めは堅実である。両手の箸で防御と攻撃をを両立させ、着実に肉を回収してゆく。
一六八はそれに腹を立てるでもなく、人差し指をぴんと立てた。それからおもむろにカメラへ向いて。
「イイネ!の数だけ肉追加しまーす!」
「おお!」
当然ながら動画を視聴するキマイラたちにも反響があった。それなら肉の山に埋めてやるといいねボタンが乱打される。
「お、早速来てるじゃないですか!」
「追加お願いしまーす!」
こういうの、一度やってみたかったんですよねと一六八が言えば、強く同意するように怪人が頷く。公開中の画面を見ればいいねの数が目まぐるしい勢いで増えてゆく。すっかり調子づいて猟兵が牛タンを注文。そして怪人は餃子を注文した。
一六八は届いたタンをトングで金網に並べながら、人の金で食べる焼肉って最高ですよねと笑顔を浮かべた。口には出さなかった。
そのとき、同じテーブルで食べていた仁科・恭介の元へ店員から皿が運ばれる。
肉ではない。脂とは違う光沢を放つ、象牙色の平たく薄いもの。薄く伸ばされた皮と思うかもしれない。
「それは?」
怪人アルパカマッスルが問いかける。一六八も珍し気に覗き込んでいた。
恭介はそれを箸で挟み掬い上げる。金網の上に置くと、じゅうと音がした。
「湯葉です」
「ゆば?」
豆腐の材料から作れるものですよと説明すると、怪人の黒い瞳に好奇の色が宿った。湯葉から滴が落ちると、たちまち蒸発してふわりと出汁の香りが広がる。
全体に焼き目が付いたことを確認して、恭介が金網から拾い上げて口に運べば、出汁の風味から遅れてまろやかで濃厚な大豆の味がやってくる。ふるふると震える柔らかな口当たりが心地よく、それでいて焼き目のついた部分はぱりっとしていた。いままで焼肉ばかり食べてきたが、たまにはこういうのもいいだろう。
ごくり。喉を鳴らしながらじっと見ていた怪人はたまらず立ち上がり湯葉を注文する。
咀嚼し飲み込んだ恭介の視線は怪人の足元に注がれていた。
「どうも、アルパカマッスルさん。仁科です」
恭介の目は次に怪人の顔へと向いた。
「貴方のカーフはカモシカが飛び跳ねているようですね」
カーフ。それは筋トレなどにおいてふくらはぎを差す言葉だ。撮影用ドローンのひとつが怪人の足元を映した。
「ありがとう。ここはなかなか苦労した」
怪人の鍛え上げられた片足が椅子に乗る。力がこもると、ふくらはぎが引き締められた。
カーフ、つまりふくらはぎは鍛えにくいと言われることがある。それは下半身は上半身に比べて筋肉が発達しにくいなどの理由があり、それゆえに恭介は注目した。褐色の皮膚の向こう側で存在を主張する下腿三頭筋に。
「その無駄のない筋肉。源はこの焼肉なんでしょうか」
言って、恭介は七輪の上で新たに焼き上がった肉を皿に置いた。怪人は目礼してその肉をいただく。草食動物の発達した奥歯が筋線維を磨り潰す。
皿に焼き湯葉が置かれるとさらに喜び、怪人は返礼とばかりにバックダブルバイセップスを披露した。
それを見せられては恭介も立ち上がるしかない。サイドチェストを披露する。
怪人と違って彼は肌を露出しない服を着ているが、その下から摂取した肉とユーベルコードによって活性化した筋肉を主張する。
『突然のポージング合戦』
『キレてるキレてる』
『肩にちっちゃいテレビウムのせてんのかい』
ドローンが送る配信も焼肉と筋肉のアピールに沸き立つ。それは奇しくも、アルパカ怪人たちが行っていた活動と同じものであった。
「ところで」
ポーズを解いて着席する恭介は新しい箸を取り出す。
「こんなに素敵な筋肉ならきっと鋼のようにいろんな物を跳ね返すんでしょうね」
許可を取って箸の反対側で筋肉を突いてみると、硬さと弾力の両立した感触が伝わる。
「すばらしい」
共にポージングをした相手から素直に褒められては怪人だってすっかり気をよくしてしまう。こんなこともできるぞと力を入れれば、すかさず効果を発揮するユーベルコード、すなわち『鋼の筋肉』。
全身の鍛え上げられた筋肉が鎧となって身を守る無敵のユーベルコードである。しかしそれには動けなくなる代償があった。
恭介はそれを見逃さなかった。狙い通りとばかりにすかさず怪人の黒いパンツへ会計伝票を挟んだ。
「へ?」
「今日はほんと良い勉強になりました」
挟んだ伝票は猟兵たちが散々注文した皿の代金に違いない。
「おまえー!!」
このようにして猟兵と怪人による、焼肉と会計伝票を巡る戦いの火蓋が切って落とされたのだ。
大成功
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小烏・安芸
さーてどさくさに紛れて来てみたけど、なんや大変なことになっとるな。
……よし、これならもーちょい支払いが増えても誰も気にせんやろ。
鉈型にしたバラックスクラップで正面からバッサリ、と見せかけてここは知恵比べといこか。
手向けるは麗しの弔花。問いかけは……『キミのそのごっつい肉体、弱点はどーこ?』
正直に吐くならそこを突くし、鋼の肉体で耐えきるんやったら動けんのをええことにうちらの分込みの伝票突きつけたろ。反論するために防御を解いたらそこをどついたる。
それでも我慢? ……じゃ、焼き鳥追加。ねぎまとレバー3本ずつよろしくな。もちろん支払いはこのマッチョ持ちで。
ついでやし、隙見て焼き鳥何本か注文しとこ。
●
金網の上で肉が焼かれる。
だが、これまでと違うのはその肉に竹串が通されていることにある。
牛肉の鮮やかな紅色とは違う、薄いピンク色の肉は鶏のものに違いない。つまり、焼き鳥だ。
タレのついた鶏肉と輪切りにされた太ネギが交互についたその串は、ねぎまという。
墨を流したような黒髪の女性、小烏・安芸(迷子の迷子のくろいとり・f03050)は串を七輪から浚って、かぶりついた。まずは舌の上にタレの風味が広がり、火の通った肉の熱量がやってくる。その熱量とは旨味に等しい。噛めば淡泊な鶏肉の味わいが弾けて、次に太ネギが存在感を主張してきた。
よく熱されたネギは、甘い。独特の辛みと共にまろやかな甘みが来て、鶏肉の味と混ざってゆく。噛めば噛むほど多様な風味が混じり合い、舌を楽しませてくれるのだ。
続いて新たな串を金網から降ろす。未だ熱の残る肉を頬張れば口いっぱいに広がるのはタレと、独特な風味。レバーである。肉の持つ弾力のある歯ごたえとは違い、しっとりとゆるやかに溶けてゆくようなレバーを噛んでほぐしていった。
満足感に細めた目を安芸は開く。
視線の先には激昂する怪人がいた。誰が払うかこんなものと、上腕二頭筋を怒りに震わせ、押し付けられた伝票を投げる姿だった。
座席から立ち上がり、レバー串を咥えながら安芸はバラックスクラップを取り出した。鉈の形状を取るその先端に、ひらひらと舞う伝票が縫い留められる。
怪人の黒い目が真っ直ぐ安芸に向いた。彼女は涼しい顔でそれを受け止める。
「じゃ、焼き鳥追加。ねぎまとレバー…あと雛皮と鶏モモも3本ずつよろしくな」
怪人の敵意などどこ吹く風、店員のほうを見やり次々と注文を飛ばして。
「もちろん支払いは……」
やがて漆黒の瞳が怪人を射抜く。
「このマッチョ持ちで」
アルパカの瞳が怒りに燃えた。
「自分で払え!」
安芸が一気に踏み込みながら距離を詰め、バラックスクラップを振りかぶる。描く軌道は水平。大胸筋を切り裂くコース。
だが、怪人はそれを真正面から受ける。胸筋を強調するポーズのモストマキュラー。同時に発動されたユーベルコード、鋼の筋肉が迎え撃つ!
弾かれる鉈の切っ先。突き返される伝票。浮かぶアルパカのドヤ顔。
だが、安芸に動揺の色はない。突如彼女の手のバラックスクラップが花束へと変身した。
「花!?」
「教えてもらおか」
その花束が弔いの花であるなどいかにして知れよう。幻覚によって編まれた花々は怪人を捉え、肉体の向こう側、精神へと根を張る。
「キミのそのごっつい肉体、弱点はどーこ?」
恐るべき質問だった。ユーベルコードの効果により偽証をすれば即座に不可視の茨が牙を剥く。かといって真実を口にすれば己が弱点を明かしてしまう。アルパカ怪人の防御は安芸の狙い通りだった。
だが。
「ない!」
怪人は啖呵を切る。
「俺の筋肉は無敵!」
「あ、そう」
無敵の防御を体現した怪人へ短い言葉が浴びせられる。振りかぶった安芸の手には練り芥子。
「じゃあ弱点は筋肉以外なんやね」
それを容赦なく。怪人の口へ捻じ込んだ。
「グワーーーッ!!」
慌てて防御を解き、口を押えながら地面の上で転がり悶える怪人を見ながら、満足げに安芸は伝票を飛ばした。
成功
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都築・藍火
拙者がこの世で最も好きなものの一つ。そう、タダで食える肉!!!
なんとしても絶対にお会計を押し付け、そして焼き鳥も腹いっぱい食べるのでござる!!
拙者はまずとある物を利用し、敵の目からビームを防ぐでござる。そう、牛タン用のレモン汁!! コレを相手の目にぶっかければビームなんて撃てないでござろう!!
鋼の筋肉を使ったら砕天號で巨大になった鎖鎌の鎖でがんじがらめにして、解除にした瞬間鎌の一撃を打ち込んでやるのでござる。
鎖鎌で縛っぶん投げるとかはやらないでござる。会計押し付けなければならぬでござる故。ついでに怪人が焼いていた焼き鳥も合間合間を見て頂戴するでござる。
未魚月・恋詠
お肉はたくさんいただきましたし、お野菜などもバランス良く食べなくては……あるぱか様はご親切そうな瞳と筋肉をしていらっしゃいますし、快く御馳走して下さることにございましょう。
鋼の筋肉で動けないのであれば、恋詠めが食べさせてあげますね。
こちらのわさび大盛りの紅生姜などきっと刺激的なお味でございますよ。
敢えて受ける不利な行動で身体機能が強化されるのでしょう?
なら当然味覚嗅覚も鋭く敏感に……うふふ♪
ああ、いくら美味しいからといってそんなつぶらな瞳で見つめられるのは照れてしまいます……こんな無防備な状態でビームなど受けたら、うっかり人形達からお返しのビームが溢れ出てしまいますわ、お恥ずかしい……
城石・恵助
(怪人アルパカマッスルを【ミートハンマー】でしこたま殴ります)
(無言です。これから支払いを押し付ける相手と、何を語らうというのでしょう)
(あとお肉を咀嚼しているので喋れないのです)
(多分他の人も攻撃していると思うので、イイ感じにタイミングを読んで、合間にお肉を食べながら殴ります)
(本当は食べるのに専念したい気持ちもありますが、世界の平和と★140はあまりにも大きなものです)
(何より、会計後にアルパカマッスルをおいしくいただくために、肉を叩いて柔らかくしておく必要があります)
(鍛えられたアルパカマッスルブラザーズの肉は、やっぱりちょっと固かったのです)
(怪力、料理を使います)
(アドリブ歓迎です)
●
キマイラフューチャー。天候を完全に管理された土地の野外風焼肉店で、猟兵と怪人が対峙する。
怪人とはオブリビオンだ。オブリビオンとは骸の海から蘇った、失われた過去の化身であり、必ず世界を滅亡に導く存在である。
そして猟兵とは、オブリビオンと戦う為、世界に選ばれた者達である。過去を退けるための防衛機構と言っていい。
その、戦いを宿命付けられた両者のあいだで、まず都築・藍火が啖呵を切る。
一歩踏み出し、指先を突きつけ口を開いた。
「拙者がこの世で最も好きなものの一つ」
その様子をドローンが撮影する。焼肉と筋肉を映して人気を集めていた配信だったが、ここにきて猟兵と怪人の激突というエッセンスを加えて大いに盛り上がった。画面の向こうのキマイラたちが色めいて、侍ガールの次の言葉を待った。
「そう……それは」
片手にあった鎖鎌を七輪の肉に突き刺し、かぶりつき、咀嚼し嚥下した。
「タダで食える肉!!!」
『いきなり何言ってんだコイツ』
『×タダで食える肉 〇人に会計を押し付ける肉』
『わかる、俺も好き』
途端に配信のコメントが沸き立ち、ツッコミが投下される。
それを受けて、腕を組み仁王立ちした怪人アルパカマッスルは鷹揚に口を開く。
「自分で払え!」
『残当』
『怪人必死すぎる』
『破産の危機だもんな』
怪人が突きつける伝票の、★140くらいの数字は決して軽いものではない。それどころか、度重なる追加注文により総計は★250くらいにまで膨れ上がっていた。
「焼き鳥も腹いっぱい食べるのでござる!!」
「まだ食う気か!」
『追撃を重ねていくスタイル』
藍火の宣言に激昂した怪人が、両手を大きく広げながら踏み出したとき、ひとつの影が躍り出た。
それは城石・恵助だった。食欲に憑りつかれた魔人でもあった。
頬まで大きく裂けた口で焼肉を咀嚼しながら、怪人へと虎のように飛び掛かり、そして握った拳を叩きつける。その破壊力は鉄槌の如く、同じく鋼と例えられるアルパカマッスルの筋肉を打ち、大きな波紋を作った。
「む、ぐぅ…!」
交差させた腕で受けながら、しかし衝撃により地面を滑り大きく後退した怪人は苦悶の声を漏らす。途中、空の七輪が巨躯とぶつかり倒れる。なかの赤熱した炭が撒かれた。
それを二人が気にすることはない。恵助はさらに飛び上がる。
拳による、単純明快な暴力が再び怪人の筋肉へと叩きつけられた。
怪人を後退させながら続けて一発。さらに一発。追撃はやまない。
なぜここまで苛烈に攻撃をするのか。それにはオブリビオンを打倒すべきという猟兵の義務ではなく、彼の原始的な欲求に基づいた理由があった。
そう。
アルパカマッスルブラザーズの肉は硬かったのである。
『すげぇ…』
『インファイトガチバトル』
『飯テロ配信だと思ってたらストリートファイトだった』
鋼の筋肉が織りなす要塞の如き防御と、それを突き崩すべく振るわれる破城槌の拳打。そのようにキマイラたちが見ているだろう。
だが実態は違う。
肉は、叩くと柔らかくなるのである。
アルパカ肉を美味しく食べるためにいま、ここで筋肉を叩いて柔らかくしておく必要があったのだ!
だが、怪人とてやられっぱなしというわけにはいかない。全身の筋肉に力を入れさらなる硬度を生み出せば、あらゆる攻撃に対して無敵の防御力を生み出すのだ。
いや、生み出すはずだった。
さらなる猟兵が介入するまでは。
空を飛ぶ一組の人形があった。名はヒゲナシとナデシコ。人形遣いである未魚月・恋詠の操る人形姉妹である。
それが二人で箸を持ち、絶対防御によって動きを止めた怪人めがけて飛翔する。
怪人の黒い目が丸くなる。だが、彼は自身の筋肉に絶対の自信を持っていた。いかなる攻撃が来ようと防御が破られることはないと確信していたのだ。
しかし敵は猟兵。その操る箸を持った人形のほうが一枚上手であった。
ヒゲナシの箸が、その先端にある食物が怪人の口へと付き込まれる。
「ふごぉ!?」
ぶわっと味覚から鼻へと駆け抜ける鮮烈な刺激。わさび大盛りの紅生姜という、殺意の塊のようなものが刺激の正体だ。
たまらず防御を解除し咳き込む怪人に言葉が掛けられる。鈴を転がすような、若い娘の声が。
「鋼の筋肉で動けないのであれば、恋詠めが食べさせてあげますね」
人形の主、恋詠は七輪の火で飴色になった玉ねぎを頬張った。独特の辛みが熱によって拭いとられ、優しい甘みだけを残した玉ねぎは柔らかく、美味しい。ひとくち噛めば甘みと旨みの詰まった汁が溢れて味覚を楽しませてくれる。これにポン酢を付けてもいい。風味付けされた塩気が玉ねぎの甘さと噛み合い、頬が落ちるような味わいへと彩ってゆくのだ。
「く…っ!」
怪人はたまらず人形を撃退するべく肉体美を誇示するポーズをとる。全身から力を抜きリラックスしたポーズは、防御を意識しないものだが、猟兵に襲われながらもあえてそうすることによって身体能力の増大を実現するのだ。
怪人が人形を蹴り砕こうと足を振り上げる。
「あら」
しかし。恋詠は容赦がなかった。
「それは悪手でございますわ」
身体機能の強化は、感覚の鋭敏化にも繋がる。
そうと判断した恋詠は人形へと指示を飛ばし、小さじいっぱいに盛られた柚子胡椒をアルパカの鼻先に叩き込んだ。
『鬼畜』
『鬼畜…』
『うわ…』
あまりに情けない悲鳴でのた打ち回る怪人がカメラに捉えられ、画面越しのキマイラたちは静かに同情するのだった。
度重なる刺激物投与によって潤ませた怪人アルパカマッスルの瞳から、ビームが放たれる。
焼けた大根を箸で齧る恋詠と目が合う。ビームは彼女を狙ったものだった。
だがその間に人形が割り込んだ。人形姉妹の妹、ナデシコである。
研ぎ澄まされた光線は無慈悲に人形を貫く。戦いの生放送を見守るキマイラたちが一斉に悲鳴を上げる。
だが、否である。ビームは人形を貫けなかった。
「なに!?」
アルパカ怪人が驚くのも無理はない。ビームは妹人形の小さな体に吸い込まれたのだ。
では消えたビームはどこへ行くのか。それはうっすら笑みを浮かべる恋詠の眼前、姉のヒゲナシに違いない。
怪人が瞳から放ったビームと全く同質、同量のものがヒゲナシから放たれ、怪人を襲う。
「ぐおお!!」
苦し紛れにアブドミナルアンドサイをとり鋼の筋肉のポーズによって反撃を弾くが、それはすなわち怪人が致命的な隙を生むことになる。
二人の猟兵が駆けた。恵助と藍火だ。
青年は近場の七輪からカルビを素早く浚い口に入れ、咀嚼しながら怪人へと仕掛ける。
果たして肉は柔らかくなってきただろうか。これまで拳で散々に打ちのめしてきたことを思い出しながら、裂けた口元を笑みの形にする。拳が怪人の大胸筋を捉え、上体を大きく仰け反らせた。
その隙に焼き鳥を補充するのが少女であった。砂肝のコリコリした食感を味わいながら鎖鎌の分銅を投げ、反撃しようとした怪人の腕に巻き付ける。そして叫んだ。
「砕天號!」
それは彼女の切り札の名だ。長い黒髪を揺らした少女の背に大柄の鎧武者が出現する。背の丈は十尺、手にした得物も藍火の鎖鎌を拡大版だ。
藍火が振りかぶる動作を取れば、寸分の狂いなく鎧武者も追従する。投射されるのはもちろん、巨大鎖鎌に違いない。
全身に鎖を巻きつけられ拘束された怪人の最後に取れる手段と言えば、もはや目から放つビームしかない。
だが、藍火それすら封じる。
「奢りの礼に拙者からお裾分けでござるよ!」
肉薄した少女が突き出す右手。その中にあるのは牛タン用のレモンである。
『あっ』
『あっ』
その場の誰もが予想した。怪人の目とレモンを見れば用途は明白だ。
果たしてレモンは絞られ、目に飛び込む汁が激痛をもたらしビームを差し止めた。
そして。
あらゆる手段を奪われ拘束された怪人の前に立つのは恵助。
『あ、このひと終始無言だと思ってたらずっと肉食ってたんだ』
暢気なコメントが挿入される。
彼は焼き鳥の串を三本ばかりまとめて横に咥え、串だけを引き抜く。大きく裂けた口の傷が、このときは便利だった。
ごろごろと口内を満たす鶏肉を噛みしめながら串を放り捨て、歩きだす。
まだだ。
まだ満たされない。
空の皿をいくつも積み重ね、裸の串をどれだけ捨てようと、一向に飢えは収まらない。
その身に棲む暴食の怪物は微塵も満足していない。
「く、やめろ…なんで、なんで!」
拘束された怪人は近づいてくる猟兵に恐怖しかない。なんで近づいてくる。何をする気だ。恐怖と疑問が唯一自由な口からとめどなく溢れる。
「なぜ口が大きいのかって?」
果たしてそれが、怪人の聞いた口裂けグラトニーの。
「もちろんキミを食べるためさ」
最初で最後の言葉となった。
大きく開かれた口から覗く白い歯が、やがて怪人の皮膚へと沈み込む。
空色の着物の少女が店員から一枚の紙を受け取る。散々に追加注文をして代金を更新された伝票だ。
紙面にある数字を見て微笑み、折りたたみ紙飛行機を作って。
そして倒れたアルパカ怪人へと飛ばすのだった。
大成功
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第3章 日常
『他人の金で肉が旨い!』
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POW : 相手が居なくなればお肉は全部私のもの。物理で相手をお肉を奪い取る。
SPD : 私の食事スピードについてこれるか?高速で焼けたお肉を取って食べる。
WIZ : 我々は賢いのです。あらゆる手段でお肉を守りながらマイペースに食べる。
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果たして、オブリビオンは滅びた、★300くらいの金額が記された伝票と共に。
猟兵たちが散々に注文した品々はすべて怪人の懐から支払われたのだ。
となればもう焼肉店に留まる必要はない。
猟兵たちは望むならば注文を続けて肉を堪能してもいいし、店を出てもいい。
ここはキマイラフューチャー。決まった場所を叩けば食べ物の出てくる不思議な都市。
巷でコンコン横丁などと呼ばれるこの区画は、寿司からパフェまで、様々な種類の食べ物が手に入る場所であった。
小烏・安芸
【アドリブ歓迎】
怪人は倒れたし支払いはあちらさん持ち。これにて一件落着……なわけないわな。平和に美味しく食べてるとこを周りの皆や動画見とる視聴者にアピールしつつお肉いただこ。騒ぎ起こした分の詫びにお店の宣伝ってとこや。
肉を巡って奪い合いとか早食い対決とかそういうことはせんよ? ウチ、見ての通りか弱い乙女やし。こっからは自腹やし。
せやからあくまでマイペースにお目当てのもんを確保しとこ。
まずは奪い合いにならないであろう丼物、ビビンバいっとこうか。んでもってやっぱ焼き鳥やな、鶏皮と鶏モモ。ウチこういうの好きなんよ。
あらかじめ一本多く注文して、もし横取り狙いがいたらそれを譲って注意を逸らす手でいこ。
仁科・恭介
※アドリブ、絡み歓迎
もっと肉を食べるような方がいたら、焼き奉行希望。
「☆300か。ずいぶんいったね。考えるだけでも怖いね」
と、事件も解決したことだし、デザートでも食べようと別会計でデザートを頼みます。
頼むのはパイナップル、温州ミカンそしてかき氷。
フルーツはどちらも七輪で焼くことで甘みが増す。
「焼いたパイナップルなど邪道」と言われそうですが、そこは気にしない。
【礼儀作法】に則り、静かに果物を食べて、かき氷へ。
薄く薄く削ったかき氷にほうじ茶の蜜をかけたもの。
だが、薄く削った氷は口の中でさっと溶け、口の中をさっぱりさせる。
「やはり最後は締めのかき氷ですね」
と笑いながら。
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七輪で串の通った肉がじゅう、と音を立てる。仁科・恭介はそれをトングで素早く転がし、よく焼けているものは金網の隅へ、まだ熱の必要なものは金網の中央へ配置してゆく。脂と肉汁の焼ける香ばしい匂いを昇らせながら熟成していくのは、焼き鳥だ。
「いやぁ、ほんまありがとな」
礼を述べるのは小烏・安芸だ。金網で焼かれるのは彼女の注文した肉であり、それを恭介が厚意で管理しているのだった。安芸は独特のイントネーションでありがとうと言い、手にある丼から鉄のスプーンを持ちあげ、口に運ぶ。始めに味覚を刺激するのはコチュジャンのピリリとした味わいだ。ほうれん草やもやしなどのナムルに方向性を与えて味を引き締めてくれるのはこのコチュジャンの功績である。ゆっくり噛みしめるように咀嚼すればよく漬け込まれた野菜が歯応えで見せる。どこか滑らかでまろやかな口当たりもするのは、掻き混ぜた卵のおかげだろうか。
続けてスプーンを頬張れば、やや硬めの米が舌の上で躍る。冷えて固まったのではない。よく焼けた器に触れてできる、所謂おこげであった。噛めば噛むほどこの香りをはなつ米が、コチュジャンによって味付けされた様々なナムルと混じり合い、食べる者を決して飽きさせないのだ。
「焼き上がりましたよ」
恭介が安芸の前の皿に焼けた肉を置いてゆく。鶏皮と鶏モモ、安芸が好んで注文したものだ。湯気を放ちながら脂を浮かべ、てらてらと光を反射する鶏の皮が、どうにも食欲をそそる。
「ウチな」
焼いてくれた者に感謝しながら箸を伸ばす。食事処を浮遊するドローンは未だに配信を続けていて、よく焼けた肉をズームしていた。
「こういうの好きなんよ」
「美味しそうに食べるところを見てるとわかります」
鶏皮にかぶりつき、串から剥がす。柔らかな弾力から旨味の乗った脂が弾けて、熱い熱い幸福感を訴えてくるのだ。
いま安芸の抱く多幸感が、動画を見ている者たちにも伝わればいいと思う。そしてそれが、迷惑をかけた店の宣伝になればとも。
そこで一旦串を置き、再びビビンバをひとくち食べれば。肉の余韻が様々な具と絡んで、安芸は何度も頷きながら目を細めるのだった。
さて。
恭介が肉の管理をひと段落させてから、デザートを注文する。
「☆300か。ずいぶんいったね。考えるだけでも怖いね」
すると傍で頷く気配があった。きっとドローンのカメラの向こう側でも多くのキマイラたちが頷いてることだろう。ここから先の注文は、すべて自分たちで支払わなければならないため、猟兵たちの注文は自然と自分たちの拘りに基づいたものになっていった。
そこで、恭介の元に届くのはパイナップルと温州ミカンである。
それを彼は淀みない動作で新しい金網の上に置いた。
『ミカン!?』
『なんでミカン焼くの?』
『????』
金網の上で焼くパイナップルとミカン。特に注目が集まったのは後者のほうか。
「なんでミカン焼くん?」
これには安芸も興味を持ったようで、代表して質問をしてみると、恭介は頬を緩ませながら振り向く。
「どちらも、七輪で焼くと甘みが増すんですよ」
カメラに乗る視線が、だんだんと焦げてゆくミカンの皮を見守る。
『これ中身は大丈夫なの?』
そうと心配するコメントが流れれば、ややあって恭介はミカンを金網から降ろした。皿の上に置き、指先でミカンを抑えながら箸を使って丁寧に皮を剥いてゆく。
すると中から僅かに褐色に色づいた実が現れて、湯気と共に芋焼酎に似たさわやかな香りを咲かせる。甘く焦げたその香りは焼いた芋にも似ているかもしれない。視聴するキマイラたちはすっかりミカンの食べ方に興味津々だ。
箸を使って頬張るミカンの果肉は、焼かれたものであっても変わらず瑞々しい。溢れる果汁は蜜のように甘く、そして熱い。焼いた肉とは違った魅力の幸福感がそこにある。続いてパイナップルも噛みしめれば、缶詰のように柔らかくなった果肉が舌の上で躍る。濃厚な甘みは食事の最後を飾るに相応しいだろう。
だが、彼の注文したものはこれで最後ではない。
「ああ、来ましたか」
店員によってテーブルに置かれる白い山。薄く削った氷が幾重にも積み重なったもの。焼肉屋にあって冷気を放つその正体は。
『かき氷か!』
『何味なんだろ』
『薄いけど茶色っぽい』
ほんのり褐色に色づいた白山。ほうじ茶のシロップを掛けられたものである。
ひと匙掬い取って口に運べば目の覚めるような冷たさがやってくる。だがそれは口内で静かに溶けて、喉元へするりと流れていった。甘さを控えめに作られたシロップは、肉の脂の味も、焼いた果実の濃厚な甘みも、すべて洗い流して、最後に清涼感をもたらしてくれるのだ。
「やはり」
恭介は空になった硝子の器へ小匙を置く。からん、と澄んだ高い音が鳴った。
「最後は締めのかき氷ですね」
手を合わせて。
ごちそうさまでした。
大成功
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零落・一六八
あらら、結構食べましたね。
ごちになりまーす!あざーっす!
さて、イイネ分の肉も食べ終わりましたし、そろそろデザート欲しくなってきましたね。
(輸血パックちゅーちゅーしつつ)
その辺こんこんしてデザートでも食べましょうか。
パフェもいいけどケーキもいいですね。どっちも食べますか。甘いものはベツバラってやつです。
その辺のキマイラと馴れ馴れしく絡みながら、寿司やらデザートやら食べる
この間パチ屋ですっちゃったんで助かりました。
いやー、金なくても食えるからキマイラフューチャーって最高ですよね!
そんなわけでご馳走様でした!
※他との絡み、アドリブ歓迎
都築・藍火
後顧の憂いも綺麗に片付いたでござる。さて、では肉の続きと行こうではござらぬか!
さぁ、ロヒカルメ殿も一緒に食おうでござる!!
拙者はとにかく肉を喰うでござる、肉!!! お肉
!!!!!
牛肉豚肉鶏肉なんでもござれでござるよ!!
アドリブ歓迎お好きに
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七輪の熱を受けて溶けた脂が肉に沁みこみ、蒸発する水によって泡を作り、弾ける。
飛び散った僅かな脂は火へと落ち、じゅうと音を立てて香りを昇らせる。
そして出来上がるよく焼けた肉がトングで皿に移された。
お気づきになっただろうか。まだ肉は残っているのである。
『まだ焼いてる!』
『まだ残ってんの!?』
『エンドレス肉』
果たしてイイネの数だけ注文するという無茶苦茶をした零落・一六八の顔は、大量の肉をまるで苦にも思わずペースを保ったまま消費してゆく。
その横でもまたひとりの猟兵が恐るべきペースで肉を摂取していた。都築・藍火である。その顔には、牛肉豚肉鶏肉なんでもござれでござるよ! と書いてあり、実際彼女はそのように店員へ注文していた。
さて届いた肉をトングで配置してゆくのはヴィルだった。まだ焼けていないものは金網の中央へ。焼けているものは外側へ。よく焼けたものは皿に移す。その皿は藍火の前にあり、彼女は箸で豚肉の塊を頬張った。柔らかな弾力が歯の上で躍る。豚肉は脂肪部分に旨味がよく詰まっているものだ。甘さの感じる脂身を塩ダレと共に味わう。ネギと塩の風味が豚肉をよく引き立ててくれる。あっさりした後味が、箸を進める。これまでずいぶん食べてきた藍火だが、まだまだ食べられそうだった。
「さあ、ロヒカルメ殿も一緒に食おうでござる!」
肉の供給役に徹していた白いグリモア猟兵に呼びかければ、驚きの表情が返ってくる。
「後顧の憂いは綺麗に片付いたでござるからな」
後顧の憂いを具体的に言うと、オブリビオンと会計になるが。
それではと遠慮なく箸を持ったヴィルを交え、肉を食べ始める。その様子を変わらずドローンが映していた。
「後顧の憂いと言えば」
咀嚼した肉を飲み込み、新たに箸で摘まみながら一六八が呟きを零す。
「結局いくらになったんでしたっけ?」
「★300くらいでござるな」
キマイラフューチャー通貨において、という注釈が付くが、飲食代として見るにはとても大きな数字だ。
「あらら、結構食べましたね…」
コメントしつつ、懐から取り出した赤い武骨なパックを口に付けて中身を吸う。
金額が跳ね上がった原因は主にイイネの数だけ注文するという試みによるものだったが、それは怪人も共犯だったので気にしないことにしよう。
「ごちになりまーす! あざーっす!」
「ご馳走様でしたでござる!」
一六八と藍火は箸を持ったまま、いまは亡き怪人に合掌した。
「ところで何を飲んでるんでござるか?」
「ああ、これはですね。輸血パックです。興味ありますか?」
「ないです」
そして会計を済ませて店から出たときのことだった。
腹の中の幸福感に満足しながら、帰途に就こうかというとき、藍火はふと道端を叩き始める一六八に気付く。
「一六八どの?」
小刻みに位置を変えながらノックしてゆく様子は、あるいはキマイラフューチャーではありふれた光景かもしれない。
「デザートとか出ないかなと思いまして」
「まだ食べるんですか!?」
驚きをよそに、道路の曲がり角を叩くとこれまでとは違った手応え。ぽん、と軽い音を立てて皿に乗ったショートケーキが飛び出し、一六八は淀みない動作でそれを受け止めた。
「甘いものはベツバラってやつですよ」
するとたちまち興味を持つのが藍火という娘だ。
「面白い仕組みでござるな。拙者も失礼して…」
一六八に倣って同じ位置をノックすれば、軽い音を立ててデザートが飛び出す。ガラスの器に入った果物と、生クリームとフレーク、チョコレートソースが織りなす層。
「これは?」
「チョコバナナパフェってところですかね。この機械結構カバー範囲広いですね」
ショートケーキを持ったまま再び叩けば、次に出てくるのは赤いパフェである。赤く瑞々しい果実と生クリームにジャムが乗っている。いちごパフェだ。ご丁寧にスプーンまでついていて、こんこんマシンのサービスが嬉しい。口元を緩ませながら、ケーキとパフェをどっちから食べるか悩んでしまいそうになる。片方だけ食べるという選択肢はなかった。
藍火がパフェを食べ始めているのが視界に入り、一六八もパフェから食べることにした。
器にスプーンを差し込めば、ガラス越しにイチゴジャムの層とヨーグルトの層が混ざるのが見える。そのまま掬い取るようにスプーンを引き抜けば、上方にあるフレークがスプーンに絡みついた。様々なものが贅沢に乗ったスプーンを、彼はひとおもいに頬張る。
まず舌に触れるのは生クリームの柔らかく滑らかな、上品な甘み。遅れてイチゴの香りがやってきて、味覚はイチゴの甘酸っぱさとヨーグルトに彩られる。ときどきアクセントのように甘さを訴えてくるのはジャムだろうか。よく噛みながら味わえば甘さと爽やかな酸味が比率を変えながら混じり合い、フレークの歯応えが存在感を主張する。
次に最上段、カットされたイチゴを掬い取る。噛めば繊維質な食感から一拍置いて、甘酸っぱい果汁が飛び出し口内をイチゴ色に彩った。イチゴの爽やかな味わいに紛れて濃厚な甘さを主張するのは練乳だろうか。よく定番とされる組み合わせが、一六八のスプーンをさらに進ませる。
「いやー、金なくても食えるからキマイラフューチャーって最高ですよね!」
他の世界では間違いなくそれなりの代金を請求されるところだ。パチンコ台に財布の中身を吸われたばかりの一六八には、実に助かる話である。
やがて瞬く間にパフェとショートケーキを消費した彼は、次に道端で寿司を食べるキマイラを見つけた。
「あ、すいません! この近くに寿司の出るところがあると見受けしました!」
場所どこですか、と陽気に問い、案内してもらう。礼とばかりに押し付けるのはついいま新しく呼び出したケーキの皿だ。
藍火に連れられてヴィルも追随する。
食い道楽はまだまだ帰らない。
キマイラフューチャーの平和を守るという仕事は果たされたのだから、楽しまなくては損なのである。
大成功
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