親密度ゲージは割と重要だから、ちゃんとカンストさせろ
アルマ・アルカレイトと東・慶喜は任務完遂直後のグリモアベースにて、蛇塚姉妹に声を掛けた。
「ふたりとも! 一緒にお祭り行くよ!」
「アルマが2人と親睦を深めたいっちゅーて聞かへんねん。疲れてるやろが、わがまま聞いてくれへんか?」
この申し出に、蛇塚姉妹は即答した。
「え、嫌だけどっ?」
「この後も予定が詰まってますの。ごめんあそばせ?」
「ちょ、ちょちょ、えー!?」
アルマは二人の行く手に先回りして説得を開始。
「なんで? お祭りよ? 楽しいよわ? ワイワイ楽しまないの?」
「レモン、ライム……それはさすがにご無体が過ぎるでホンマ……? アルマのわがまま聞いたってぇや?」
懇願するアルマと慶喜。
しかしライムはきっぱりと突き付けた。
「お誘いは大変光栄ですわ。ですが、依頼以外で顔を突き付けたこともないのに、いきなり距離を詰めるのは無作法じゃありませんか?」
ライムグリーンの爬虫類の瞳孔が二人を睨み付ける。
「おふたりが姉さんと
私と親睦を深めたいという想いは汲み取りましょう。だとしても、まずは姉さんの旅団に足を運ぶなり、手紙でその旨の了承を得るなり、事前に手を回す配慮が欠けてますわ」
「ごめんね、アルマさん、慶喜さん……あたいもふたりとは依頼以外で面識ないから、急にぐいぐい来られると身構えちゃうっていうか……ねぇっ?」
それ以上は言わずとも判るだろ、という圧をレモンが放つ。顔は笑みを浮かべているのに、その背後に彼女を護る白亜の蛇神の霊体が浮かび上がっていた。コワイ。
人並以上にコミュ力があるレモンでも、流石にダイレクトに迫られるのは尻込みしてしまっていた。
「要するに、あたいとアルマさん達との親密度ゲージがまだ十分に上がり切ってないから、お祭りイベントのフラグがまだ立ってないってことだよっ?」
「姉さん、トドメ刺してるわ……」
ここまで難色を示されたら、アルマも慶喜も無理強いは出来ない……と言うはずがない。この二人は自重しない。自重できない。空気が読めない。空気が読めな過ぎて、任務で鉢合わせた猟兵の一部からは敬遠されてるくらいだ。マジで好感度という周囲への親密度ゲージは疎かにしてはいけないのだ。ほら、通常シナリオ参加時のプレイングって公開されるじゃん? そういうことよ。
「それでも! 一緒にレモンさんとライムさんと一緒にお祭り行きたいわ! 今、予知でお祭りが襲われてたりしない?」
「そんな都合のいい話がるわけないやろ、アルマ。せやけど何とかならんやろか?」
食い下がるアルマと慶喜。
すると、ライムが深い溜息を吐きながら、二人へ告げた。
「……はぁ。たった今、エンドブレイカー世界で小規模の事件を予知しましたわ」
「えっ? このタイミングでっ?」
訝しがるレモンにライムは首肯する。
「ええ。マスカレイドがアマツカグラという都市国家のお祭りを襲撃するそうですの。本当に小規模の襲撃ですので、腕の立つ猟兵が2~3人いればすぐ解決できる見立てなのですけど……」
「「それ行く
!!!」」
アルマと慶喜はすぐに食いついたので、蛇塚姉妹も任務への転送役として同行せざるを得なくなった。
「う~ん、予知なら仕方がないね~っ。その後のお祭りも、折角だからあたいも参加してみよっかなっ?」
「姉さんが行くなら私も。この後の予定は、緊急任務だからと先方へ連絡して後日にスライドさせますわね」
「やった! ありがとう、レモンさん、ライムさん!」
「よかったな、アルマ! ホンマおおきにやで!」
喜ぶアルマと慶喜。
と、ここでレモンが首を傾げた。
「あ、そうそう。前から気になってたんだけどねっ? 二人ってなんで真の姿が常の姿みたいな扱いなの? 普通、違くない?」
猟兵の真の姿は特殊な状況でのみ曝け出すことが出来るため、なんで目の前の二人が真の姿のままなのかが不思議だったのだ。てか真の姿と通常時の姿が一緒だとしても、通常時の姿イラストの有無で表現が変わってくるのでね?
――と、言うことで。
エンドブレイカー世界・アマツカグラでマスカレイドを軽く捻り潰したアルマと慶喜は、念願の蛇塚姉妹とのお祭りを堪能し始めた。
「アスリートアースでの反省を活かして、今日は10万の軍資金を持ってきたわ! レモンさんとライムさんの飲食分は奢るわよ! 何でも食べたい物や、やってみたい遊びを言ってちょうだい!」
アルマは張り切って宣言すると、連れてきたホストの責務からか本当に蛇塚姉妹へたこ焼きや焼きそば、かき氷にりんご飴などを買い与えていった。
「親密度は大事って言ってたし、これは私なりの誠意よ! これから仲良くしてほしいわ!」
「……なんか無理させてもうてすまんわ、二人とも。でも、ホンマにアルマの奴、楽しみにしとったんやで?」
そう言う慶喜もこっそり10万の軍資金を蛇塚姉妹へチラつかせる。
「二人は本日のゲストや。俺らがバッチリもてなすから、楽しんでってな?」
さすがに此処までされたら、蛇塚姉妹も今さら嫌とは言えなくなってしまった。
なので、アルマと慶喜の好意をありがたく受け取ることにした。
「レモンさん! 金魚すくいで勝負よ! 数多くゲットできた方が勝ちだわ!」
「あー、金魚すくい、ちょっと苦手なんだよね~」
顔を曇らせるレモン。
これにライムと慶喜も出張ってくる。
「ではチーム対抗戦ということで如何でしょう? 私と姉さん、アルマさんと慶喜さんでペアを組み、獲得合計数を競いましょう」
この提案に乗ったアルマと慶喜は、意気込んでポイを水面に突っ込んで金魚を追い立て始めた。
そして結果は……。
「何の成果もォ! 得られませんでしたァ!」
アルマがまさかのゼロ匹。涙を堪えて頭を抱えていた。
慶喜は健闘して8匹。レモンは苦手と言っていたが3匹獲得。
そして栄えある1位は、ライムの9匹だった。
「まぁ、この程度、造作もありませんわね」
「ライム、すごいやん……」
しかも唯一ポイが破れていないという匠の技の持ち主に、慶喜は思わず舌を巻いた。
続いて型抜き勝負へもつれこんだのだが……。
「私は
敗北者じゃけんのぅ……」
アルマは初手から型抜き全体を粉砕するという珍事をぶっ込んだせいで、またしてもダントツの最下位であった。
その後も輪投げやくじ引き等で4人の中での優劣を決める勝負を続けてゆくが、全てアルマが最下位という悲惨な結果が待ち受けていた。
「うへ、うへへへ、私はゴミカスよ……子供でもできる縁日の遊びすらまともにこなせない私なんて、生ゴミ未満のウンコだわ……ブルブリブリュブリュブチブチビチビチピィィーー!」
「あかん……アルマの自尊心がバッキバキに砕けてもうたわ……」
よもや相棒が此処までカスだとは思ってもいなかった慶喜は途方に暮れてしまっている。
「えっと、なんかごめんねっ?」
「もう少し、手心を加えるべきでしたわ……」
蛇塚姉妹もおもてなしするホスト側が意気消沈しては気まずくて仕方がない。
故に、レモンは目に付いた屋台を指差しながら提案した。
「あのねっ? アルマさんって依頼で射撃を得意としてたよねっ? 射的ならあたい達に勝てるんじゃないかなっ?」
「それやでレモン! アルマ! ここで自慢の射的の腕をバシーッて見せつけてやるんや!」
「ブリュブリュウンコ!」
もはや言語もクソに侵されてるアルマは早速、射的用の鉄砲の銃口にコルクを詰めて標的を定める。
狙うは、特等賞の大きなマッスルバニーぬいぐるみ!
「刹那の無限回転、発動……ッ! コルク弾だろうが、私にかかれば戦車榴弾レベルの威力に早変わりよ!」
引き金を絞ったアルマが微笑む。
すると、コルク銃特有のパチンと鳴る発射音の代わりに、何故か大砲めいた大轟音と共に超回転するコルク弾が空気を斬り裂いてゆく!
そして周囲の空気を巻き込み、空間を歪ませ、マッスルバニーぬいぐるみはおろか他の景品や店主のカツラまで巻き込んで遥か彼方へ吹き飛ばしてしまったのだ……!
もはや戦艦の主砲かと錯覚するほどの衝撃波は屋台を襲い、その一角がすべて野ざらしになってしまっていた。
ついでに屋台のオヤジのハゲも衆人環視の前に暴かれてしまっていた。
ハゲに写り込むアマツカグラの月の光は、なんとも物悲しい輝きを放っていた。
「よし! これで私の景品総取りだわ! 私の勝ちよ! 思い知ったか!」
ドヤるアルマが喜びを爆発させる。
しかし、この結果にレモンとライムはおろか、慶喜も他人行儀にアルマと目を合わせない。
「ささ、二人とも? あっちで盆踊り観に行こか? 後ろは振り向いたらあかんで?」
「えっ? あ、うん……っ!」
「ええ……私達は無関係ですので……」
「え、ちょっと! 慶喜! レモンさん、ライムさん! いくら私が勝ったからって、すねないでほしいわ!」
アルマが膨れっ面で三人の後を追い掛けようとした、その時だった。
屈強なサムライめいた男3人にアルマの腕が掴まれた。
「ちょっと君、いいかね?」
「我々はアマツカグラ警備団のものだ。この騒ぎの主は君だな?」
「詰所で詳しく話を聞かせてくれないか? 寝泊まりできる場所もあるぞ。鉄格子付きだがな」
屋台を吹っ飛ばしたアルマに手錠をかける警備団達。
そのまま強引に詰所へ連行されてゆく。
「え、そんな、ちょっとっ! あ~そんな! 三人の親密度ゲージが足りなかったのね! チクショーッ!」
こうして、アルマはお祭りが終わるまで詰所でお説教を喰らう羽目になった。
ちなみに後ほど、身柄は慶喜が引き受けにきてくてたので無事にアルマは釈放されたのであった。
涙と鼻水混じりの謝罪。
「だっで!
がぢだがっだんだぼんっ!」
「ホンマ、アルマと一緒やと退屈せぇへんわ……」
慶喜はアルマの脳天にゲンコツを全力で振り下ろしてみせるのだった。
成功
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